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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10L
管理番号 1389434
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-22 
確定日 2022-10-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6987128号発明「ディーゼルエンジン用燃料油の浄化の方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6987128号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6987128号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成29年8月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成28年9月6日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、令和3年12月2日にその特許権の設定登録がされ、同月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1〜10に対し、令和4年6月22日(同月23日受付け)に特許異議申立人三菱化工機株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明10」といい、これらを総称して「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
船舶に搭載されるディーゼルエンジン用の燃料油を浄化する方法であって、
浄化すべき燃料油を用意するステップと、
浄化すべき前記燃料油を遠心分離機(2)に供給するステップと、
前記遠心分離機(2)内の前記燃料油を浄化して浄化した油相を供給するステップと、
を含み、
当該方法は、
前記遠心分離機(2)内で浄化する前の浄化すべき燃料油の粘度、または浄化した油相の粘度を測定するステップと、
測定された粘度に基づいて浄化すべき前記燃料油の温度を調整するステップであって、浄化すべき前記燃料油の粘度が特定の最大粘度vmax未満に保たれるように温度を変えることを含む、温度を調整するステップと、
をさらに含み、
前記燃料油の粘度が、前記特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度値vsetに、または前記特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれ、
浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、測定された粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合に温度を上げるステップを含み、
浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップを含み、最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、最高限界温度tmaxが105℃を超えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
浄化すべき前記燃料油の前記粘度は、前記遠心分離機で浄化する前に測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特定の最大粘度vmaxは55mm2/s(cSt)であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記特定の粘度間隔は25〜45mm2/s(cSt)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
浄化すべき前記燃料油の流速を調整するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
浄化すべき前記燃料油の流速を調整するステップが、浄化した油相を用いるエンジンの作業負荷に依存していることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ディーゼルエンジン用の燃料油を浄化するためのシステムであって、
ディーゼルエンジン用の燃料油から不純物を分離するための、かつ浄化した油相を生成するための遠心分離機(2)と、
浄化すべき前記燃料油の粘度または浄化した油相の粘度を測定するための少なくとも1つの機器(5)と、
浄化すべき前記燃料油の温度を調整するための手段(4)と、
粘度を測定するための少なくとも1つの前記機器から粘度の情報を受信するように構成され、さらに受信された前記粘度の情報に基づいて浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記手段(4)への出力信号を生成するように構成された制御ユニットであって、浄化すべき前記燃料油の粘度が特定の最大粘度vmax未満に保たれ、さらに、前記燃料油の前記粘度が、前記特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度値vsetに、或いは前記特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれる、制御ユニットと、
を含んでなるシステムであって、
前記制御ユニットは、測定された前記粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を最低温度tlowに下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合には温度を最高限界温度tmaxに上げるように、浄化すべき前記燃料油の温度を調整する、前記手段(4)への出力信号を生成するように構成され、
前記最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、前記最高限界温度tmaxが105℃を超えていることを特徴とするシステム。
【請求項8】
浄化すべき前記燃料油の流速を調整するためのポンプ(19)をさらに含み、
前記制御ユニットは、浄化すべき前記燃料油の流速を調整するための前記ポンプ(19)に対する出力信号を生成するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
当該システムが、前記遠心分離機(2)の下流に配置されて、浄化した油相の流速を測定するための流速計(23)をさらに含み、
前記制御ユニット(6)が、前記流速計(23)からの情報に基づいて浄化すべき前記燃料油の流速を調整するように構成されていることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
当該システムは、浄化すべき前記燃料油の粘度を測定するための少なくとも1つの機器(5)を含み、
前記機器(5)は、浄化すべき前記燃料油の温度を調整するための前記手段(4)の下流に配置されていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のシステム。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記3の甲第1号証〜甲第16号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲16」ともいう。)を提出し、下記1及び2の理由により、本件発明1〜10に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。
1 理由1(進歩性
(1)本件発明1〜2は、甲1〜甲10により特許法第29条第2項の規定に該当する。
(2)本件発明3〜4は、甲1〜甲14により特許法第29条第2項の規定に該当する。
(3)本件発明5〜6は、甲1〜甲16により特許法第29条第2項の規定に該当する。
(4)本件発明7は、甲1〜甲10により特許法第29条第2項の規定に該当する。
(5)本件発明8〜9は、甲1〜甲16により特許法第29条第2項の規定に該当する。
(6)本件発明10は、甲1〜甲10により特許法第29条第2項の規定に該当する。

2 理由2(明確性要件)
本件発明1、4及び7は、特許法第36条第6甲第2号に規定する要件を満たしていない。

3 証拠方法
甲1:特公平1−33664号公報
甲2:特表2016−509075号公報
甲3:Joseph R. Fonseca, ”Separate Cat Fines More Effectively”, December 9, 2014, MARITIME LOGISTICS PROFESSIONAL
(URL: https://www.maritimeprofessional.com/news/separate-fines-more-effectively-261982)
甲3の1:Maritime Logistics Professional mobile application,
(URL: https://www.maritimeprofessional.com/pages/app)
甲4:(社)日本舶用機関学会燃料潤滑研究委員会編、「燃料潤滑油用語辞典」、株式会社成山堂書店、平成6年1月28日初版発行、第183頁
甲5:野村宏次、「舶用燃料入門講座(その2)−舶用燃料の諸性状の意義と試験法−」、日本舶用機関学会誌、第30巻、第4号、1995年、第312〜318頁
甲6:特開2009−179741号号公報
甲7:特開2014−31788号公報
甲8:今井勇治、「国土交通省認定船員通信教育教科書(高等科) 教科 補助機関 油清浄機の構造と運転」、独立行政法人海技大学校編集発行、平成18年3月17日、第41〜42頁
甲9:特開2016−33368号公報
甲10:原徹、「別冊化学工業 工場操作(遠心分離編)」、株式会社化学工業社、昭和43年5月15日発行、第24頁
甲11:塩出敬二郎、「舶用燃料油規格の動向」、日本舶用機関学会誌、第33巻、第6号、1998年、第385〜389頁
甲12:「内航船の使用燃料油に関する調査研究」、船舶整備公団、平成4年3月、第3頁
甲13:武藤幸夫、「燃料油清浄機の選定と使用方法」、日本舶用機関学会誌、第33巻、第6号、1998年、第413〜419頁
甲14:”ISO8217 Petroleum Products−Fuels (class F)−Specifications of marine fuels”, Fifth edition, 2012-08-15, p.9
甲15:水力機械工学便覧編集委員会編、「改訂 水力機械工学便覧」、株式会社コロナ社、昭和43年9月20日4版(改訂)発行、第213〜214頁
甲16:特許第5965062号公報

第4 甲号証の記載
1 甲1には次の記載がある。
(1)第1頁第1欄第12〜17行
「[産業上の利用分野]
本発明はディーゼル機関用燃料油の前処理装置、特に従来の装置を簡易化し、しかも最近の粗悪な低質重油を効果的に処理し機関の燃焼を改善し得るなどの利点を有するディーゼル機関の燃料油前処理装置に関する。」
(2)第2頁第3欄第40行〜第3頁第5欄第9行
「[実施例]
以下本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。第2図は舶用ディーゼル機関の燃料油前処理装置を示し、第1図と同じ機能を果すものについては同一符号を付して示してある。
二重底タンク1などに貯蔵されているスラッジ(砂等の異物を核として炭化水素、アスファルテン、水分、バナジウムやナトリウム等の金属塩等が重合した化合物)を多量に含む未清浄の低質重油は、燃料油フィードポンプ5aを用いて常時使用の遠心分離機7aに直接おくられる。その際、燃料油は加熱器6によりスラッジの分離に最適な粘度となる所定の温度に加熱され、自動排除方式の遠心分離機7aを用いて清浄される。」
(3)第3頁第5欄第31〜36行
「二重底タンク1等の燃料油タンク内に貯えられたスラッジ等を多量に含有する低質重油等の未清浄の燃料油は、フィードポンプ5a、加熱器6、遠心分離機7aを介してディーゼル機関9に送給する燃料油を貯えるためのサービスタンク8aに直接供給される。」
(4)第3頁第5欄第44行〜第3頁第6欄第7行
「このとき、フィードポンプ5aは二重底タンク1等の燃料油タンク及びサービスタンク8aからの燃料油を一定の油量及び圧力で吐出し、加熱器6はフィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度とし、遠心分離機7aは一定の油量及び圧力で且つ一定粘度の燃料油を効率良く連続的に遠心分離して水分と異物等の不純物を分離し且つスラッジを破壊する。」
(5)第6頁




2 甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
特にディーゼルエンジン用の燃料として利用される重油を船上処理するための方法であって、
(a) 処理用の重油(OIL1)を供給するステップと、
(b) ステップ(a)により供給された前記処理用の重油(OIL1)が遠心分離機(7)に到達する前に、前記処理用の重油(OIL1)を98°Cを超える分離温度(T2)まで少なくとも断続的または継続的に加熱して、前記処理用の重油(OIL1)を少なくとも1つのポンプ(4)を用いて前記遠心分離機(7)の方に前方に送るステップと、
(c) 前記遠心分離機(7)の中でクリーンオイル相(OIL2)から水相(W)およびスラッジ相(S)を分離するステップとを備える
方法。
・・・
【請求項9】
前記分離温度(T2)が、100°Cより高く、特に105°Cより高く、特に好ましくは110°Cより高いことを特徴とする
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
・・・
【0003】
重油は、特にISO8217に準拠するため、ディーゼルエンジンまたは他の装置の中で燃焼する前に、固形物を取り除くための浄化と水相の除去とによって、船上で直接に処理され得ることが知られている。・・・
・・・
【0010】
請求項1に記載の分離温度までの少なくとも断続的または継続的な増加は、分離効率を高める。
このように、クリーンオイルにおいては、低い触媒粒子含有率を達成することができ、また、100°C、105°C、110°C、またはさらに115°Cを超える温度である高温時には、それぞれの場合においてさらに低い触媒粒子含有率が達成され得る。
・・・
【0020】
第1の温度T1まで加熱された重油は、特に第1の熱交換器5Aである第1の加熱デバイスを出ると、導管部分6を通り、好ましくは第2の熱交換器5Bである第2の加熱デバイスの中に流れ込む。
第2の加熱デバイスの中では、重油が、第1の上昇温度T1に比べてさらに高い第2の温度T2まで、少なくとも断続的または継続的に加熱される。
この温度T2は、98°C、好ましくは100°C、とりわけ105°C、好ましくはさらに110°Cより高い。
現在のところでは125°Cまでの分離温度が望ましいと考えられるが、特に好ましいのは、100°Cと115°Cとの間の範囲である。
これは、この範囲内であれば装置の複雑さを依然として効率的に調節することができ、また一方では触媒粒子の除去に関して特に良好な分離結果が得られるためである。
・・・
【0035】
上記の98°Cを上まわる温度までの分離温度の少なくとも断続的な増加によって、分離効率が向上するとともに、極めて低い触媒粒子含有率が得られる。
研磨剤となる触媒粒子の割合は、エンジンメーカーによって定められた制限値未満に簡単に下げることができ、その割合は、20ppm、15ppm、10ppm、またはそれらより低い値を十分に下まわり得る。
分離動作の結果は、装置の需要(apparatus demand)が、115°Cまでの温度において115°Cより高い温度に対する需要より低い場合でも、温度の上昇とともに改善される。」

3 甲3及び甲3の1には、次の記載がある。翻訳は、申立人が提出したものを採用した。
(1)甲3
ア 「The new GEA Westfalia Separator CatFineMaster consists of a separator at its core with an integrated unitrolplus system and an innovative adjustable feed pump. The system is capable of separating dangerous catalyst residues (cat fines) from the fuel more effectively than ever before ? at the touch of a button. Cat fines can significantly damage the engine and, under extreme circumstances, may also result in total engine failure. This makes on-board fuel processing of extreme importance.」
(翻訳)

イ 「To achieve optimum separating behavior with cat fines of varying sizes, the CatFineMaster enables variation of two major process parameters. First, the separating temperature can be altered and increased up to 110°C. This lowers the viscosity of the fuel, enabling very small cat fines to be separated even more effectively. The second process variable is the flow rate. This is regulated by means of a feed pump and provides an additional boost to efficiency and energy savings. The CatFineMaster targets a cat fine concentration of less than 5 ppm and separation of all particles larger than 3 μm.」
(翻訳)

ウ 「The GEA Westfalia Separator unitrolplus is an integrated fully automatic system that continuously monitors the water content and solid filling of the oil in a single stage. Based on the water content of the oil, the separator adjusts automatically to function as a purifier or clarifier. The result is a higher specific degree of separation with optimum separation efficiency. A regulating ring is not required for this automatic monitoring process and the user no longer has to do manual settings.」
(翻訳)

(2)甲3の1
「Maritime Logistics Professional is a unique global business resource, specifically tailored for the growing global network of marine researchers, professionals and executives.」
(翻訳


4 甲4には、次の記載がある。
(1)「燃料油潤滑用語辞典」第183頁「4.ディーゼル機関」の「粘度コントローラ」の欄
「粘度センサーと粘度コントローラ本体および蒸気制御弁または電気ヒーターなどの加熱部から成る。・・・出力信号は粘度コントローラ本体に送られて、設定値と比較され、その偏差に応じた信号を蒸気制御弁または電気ヒーターに送り、加熱により粘度の制御を行う。」

5 甲5には、次の記載がある。
(1)第312頁左欄第1〜14行
「1.粘度の意義と試験法1)、2)、3)
粘度は温度によって大きく変化するため,粘度表示には測定温度を明記する必要がある.図1に温度−粘度関係を示す.ASTM,BS,CIMAC,ISO等によって粘度表示に使用されている温度は異なるが,日本工業規格(JIS)では,重油類は50℃における値で表示される.粘度は船舶用燃料油の重要な特性項目の一つであり,特に燃料油のポンピング可能限界の上で,また燃料噴射時に良好な霧化を得る上で意義を持つ.
粘度が高すぎる燃料をポンプで送ることには困難が伴い,その上限は図1に示すように,1,000cSt(mm2/s)程度とされている.したがって,重質な燃料を取扱う場合には,加熱設備が必要である.」
(2)第312頁左欄第19〜20行
「石油製品の粘度はJIS規格で動粘度を測定し,cSt(mm2/s)で表示される.」
(3)第312頁左欄第28行〜同頁右欄第5行
測定に使用される粘度計の種類は数多くあるが,代表的な例としては,ウベローデ粘度計,キャノン−フェンスケ粘度計,キャノン−フェンスケ不透明液用粘度計等が挙げられる.
かってはレッドウッド粘度計がJISの粘度試験法として採用されていたが,現在は動粘度計による試験法に改正されている.しかし,船内ではレッドウッド粘度計がまだ使用されている場合もある.」
(4)第313頁 図1 粘度−温度関係図表




6 甲6には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、重質油に少なくとも水を混合してエマルジョン燃料化するにあたり、重質燃料分の残渣やスラリーを超微細化することによって、エンジンの損傷や燃料ノズルの目詰まりなどを低減する重質油エマルジョン燃料製造システムに関する。
【0002】
発電設備や舶用のディーゼル機関などに用いられる燃料が、環境問題の観点からNOxや煤の低減対策と、石油製品の需要や発展途上国の燃料消費の拡大から、より多くの軽油やガソリンを精製するため、安く入手し易いC重油など残渣やスラリー(細かい固体粒子を含む濁った油)が多く含まれた高粘度で着火・燃焼性の悪い低品質の重質油への切替えを余儀なくされている。この重質油をディーゼル機関へ適用するためには、ディーゼルエンジンの異常燃焼やシリンダーの過大磨耗、凝着による磨耗、燃料ノズル目詰まり、焼損、腐食などの機関トラブルの影響対策が求められている。
・・・
【0021】
油性状調整部12では、先ず重質油タンク11から送られてきた重質油をヒータ23で加熱することで動粘度を下げ、流動性をよくする。ヒータ23は、重質油タンク11と一体化した構成で、タンク内で加熱してもよい。また、ヒータ23は重質油温度計18の温度から、重質油データを基に現状の動粘度を把握し必要な加熱温度を算定して加熱を行うとともに、加熱後の重質油温度を温度計24で把握し加熱量およびオン/オフを制御する。
・・・
【0024】
第1混合槽26で処理された重質油は、ろ過器28へ送られてさらに微細な残渣をろ過する。ろ過器28は、遠心分離、吸着ろ過、フィルタなどによる各種方法を用いることができる。ろ過器28からのカスはドレンタンク29へ排出される。」

7 甲7には、次の記載がある。
「【0001】
この発明は、小型船舶のディーゼル機関に使用する燃料油の清浄機加熱装置に関する。
・・・
【0025】
小型船舶では、ディーゼル機関の燃料油は出入港時は、A重油を使用して、航海時はC重油を使用しているのが一般的である。燃料油で加熱を必要とするのはC重油を使用時である。
ディーゼル機関に燃料油を供給する過程において、低質油を使用して良好な燃料油噴射、燃焼を得るために燃料噴射時の粘度を適正値とする最適加熱温度と、燃料油処理に使用される遠心分離機入口の粘度が重要で、粘度を維持するための燃料油温度管理が重要である。
・・・
【0027】
この発明の基本となるものは、燃料油澄タンクからの低い温度の燃料油を、加熱された燃料油と混合して急激な温度変化に即応して清浄機に供給する燃料油を適性温度に加熱制御できることにある。」

8 甲8には、次の記載がある。
(1)第41頁



(2)第42頁




9 甲9には、次の記載がある。
「【0001】
この発明は、熱媒排ガスエコノマイザーを使用した燃料油加熱システムにおいて、出港から入港まで全航海C重油運転を可能とする燃料油加熱システムに関する。
・・・
【0003】
ディーゼル機関にC重油を燃料として使用するには、適正な粘度と性状で供給することが必要で、適正性状とするにはC重油を加熱して粘度を低く抑え該遠心分離機に供給し清浄する方法が採用され、良好な燃料噴射、燃焼を得るためには、機関入口にて適正粘度18cStになるように温度(105℃〜110℃)に加熱して供給され、何れの場合もC重油を加熱している。
・・・
【0007】
図1は小型船舶における燃料油温度管理図は、縦軸1はC重油の加熱温度を、横軸2は加熱過程を示し、C重油澄タンク3では65℃、清浄機加熱器4では95℃、C重油常用タンク5では90℃、燃料油加熱器6では113℃で機関入口7では108℃とC重油澄タンク3から始まり機関入口7までと順次加熱され8,9は配管途中の放熱による温度低下を表している。
・・・
【0010】
燃料油清浄系統は、C重油澄タンク10には、熱媒加熱器11が設置され、設定温度65℃まで加熱されたC重油は、管12により清浄機供給ポンプ13に供給され、燃料油清浄機18の処理量は弁20Vにより調整され、清浄処理されないC重油は余剰C重油として該C重油澄タンク10に管17経由して返され、清浄処理するC重油は、該清浄機供給ポンプ13から管14より熱媒加熱器15で95℃まで加熱し、管16を経由して該燃料油清浄機18に供給され、清浄処理したC重油は、管20を経由してC重油常用タンク21に供給する。
・・・
【図1】



10 甲10には、遠心分離機について、次の記載がある。




第5 甲号証に記載された発明
1 甲1に記載された発明
(1)方法の発明
上記第4の1(2)には「第2図は舶用ディーゼル機関の燃料油前処理装置を示」すこと、及び「燃料油は」「自動排除方式の遠心分離機7aを用いて清浄される」ことが記載され、「第2図」は上記第4の1(5)に示したとおりである。よって、甲1には、「舶用ディーゼル機関の燃料油前処理装置にて燃料油を清浄する方法」が記載されている。
上記第4の1(2)には「二重底タンク1などに貯蔵されているスラッジ」「を多量に含む未清浄の低質重油は、燃料油フィードポンプ5aを用いて常時使用の遠心分離機7aに直接おくられる」ことが記載されている。
上記第4の1(2)には「燃料油は」「自動排除方式の遠心分離機7aを用いて清浄される」ことが記載され、上記第4の1(3)には「未清浄の燃料油は、フィードポンプ5a、加熱器6、遠心分離機7aを介してディーゼル機関9に送給する燃料油を貯えるためのサービスタンク8aに直接供給される」ことが記載されており、上記第4の1(5)の第2図も参照すれば、甲1には、「燃料油は自動排除方式の遠心分離機7aで清浄され、サービスタンク8aを介してディーゼル機関9に供給される」ことが記載されている。
上記第4の1(4)には「加熱器6はフィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度と」することが記載されている。
してみると、甲1には次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていることが認められる。
<甲1方法発明>
「舶用ディーゼル機関の燃料油前処理装置にて燃料油を清浄する方法であって、
二重底タンク1などに貯蔵されているスラッジを多量に含む未清浄の低質重油は、燃料油フィードポンプ5aを用いて常時使用の遠心分離機7aに直接おくられ、
燃料油は自動排除方式の遠心分離機7aで清浄され、サービスタンク8aを介してディーゼル機関9に供給され、
加熱器6はフィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度とする方法」

(2)物の発明
上記第4の1(2)には「第2図は舶用ディーゼル機関の燃料油前処理装置を示」すこと、及び「燃料油は」「自動排除方式の遠心分離機7aを用いて清浄される」ことが記載され、前記「第2図」は上記第4の1(5)に示したとおりである。よって、甲1には、「舶用ディーゼル機関の燃料油を清浄する前処理装置」が記載されている。
上記第4の1(2)には「遠心分離機7a」は「一定の油量及び圧力で且つ一定粘度の燃料油を効率良く連続的に遠心分離して水分と異物等の不純物を分離し且つスラッジを破壊する」ことが記載され、同第4の1(2)には「未清浄の燃料油は、フィードポンプ5a、加熱器6、遠心分離機7aを介してディーゼル機関9に送給する燃料油を貯えるためのサービスタンク8aに直接供給される」ことが記載されており、上記第4の1(5)の第2図も参照すれば、甲1には、「未清浄の燃料油を効率良く連続的に遠心分離して水分と異物等の不純物を分離し且つスラッジを破壊し、サービスタンクを介してディーゼル機関9に供給する遠心分離機7a」が記載されている。
上記第4の1(4)には「加熱器6」は「フィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度と」することが記載されているから、甲1には、「フィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度とする加熱器6」が記載されている。
してみると、甲1には次の発明(以下、「甲1物発明」という。)が記載されていることも認められる。
<甲1物発明>
「舶用ディーゼル機関の燃料油を清浄する前処理装置であって、
未清浄の燃料油を効率良く連続的に遠心分離して水分と異物等の不純物を分離し且つスラッジを破壊し、サービスタンクを介してディーゼル機関9に供給する遠心分離機7aと、
フィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度とする加熱器6とを備えた装置」

第6 理由1(進歩性)について
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲1方法発明を対比すると、甲1方法発明の「舶用ディーゼル機関の燃料油前処理装置にて燃料油を清浄する方法」は、本件発明1の「船舶に搭載されるディーゼルエンジン用の燃料油を浄化する方法」に相当する。
甲1方法発明の「未清浄の低質重油」が「二重底タンク1などに貯蔵されている」状態は、本件発明1の「浄化すべき燃料油を用意するステップ」に相当する。
甲1方法発明の「未清浄の低質重油は、燃料油フィードポンプを用いて常時使用の遠心分離機に直接おくられ」は、本件発明1の「浄化すべき燃料油を遠心分離機(2)に供給するステップ」に相当する。
甲1方法発明の「燃料油は自動排除方式の遠心分離機7aで清浄され、サービスタンク8aを介してディーゼル機関9に供給され」は、本件発明1の「遠心分離機(2)内の燃料油を浄化して浄化した油層を供給するステップ」に相当する。
甲1方法発明の「加熱器6はフィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度とする」は、本件発明1の「燃料油の粘度が、特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度に、または特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれ」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「船舶に搭載されるディーゼルエンジン用の燃料油を浄化する方法であって、
浄化すべき燃料油を用意するステップと、
浄化すべき前記燃料油を遠心分離機(2)に供給するステップと、
前記遠心分離機(2)内の前記燃料油を浄化して浄化した油相を供給するステップと、
を含み、
当該方法は、
前記燃料油の粘度が、特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度値vsetに、または特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれる方法」

<相違点1>
本件発明1は「前記遠心分離機(2)内で浄化する前の浄化すべき燃料油の粘度、または浄化した油相の粘度を測定するステップ」を含むのに対し、甲1方法発明は、粘度を測定するステップの明示がない点。

<相違点2>
本件発明1は「測定された粘度に基づいて浄化すべき前記燃料油の温度を調整するステップであって、浄化すべき前記燃料油の粘度が特定の最大粘度vmax未満に保たれるように温度を変えることを含む、温度を調整するステップ」を含むのに対し、甲1方法発明は、測定された粘度に基づいて浄化すべき燃料油の温度を調整するステップの明示がない点。

<相違点3>
本件発明1は「浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、測定された粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合に温度を上げるステップ」を含むのに対し、甲1方法発明は、測定された粘度を設定粘度と比較したり、比較結果により温度を上げ下げするステップの明示がない点。

<相違点4>
本件発明1は「浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップを含み、最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、最高限界温度tmaxが105℃を超えている」のに対し、甲1方法発明は、所定の最低温度と最高限界温度との間で温度を切り変えるステップを備えていない点。

(2)判断1(甲1方法発明と甲2〜甲6記載の事項の組み合わせ)
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
ア 甲2の【請求項1】(上記第4の2参照。)には、ディーゼルエンジン用の燃料として利用される重油を船上処理するための方法において、処理用の重油(OIL1)を98°Cを超える分離温度(T2)まで少なくとも断続的または継続的に加熱して、遠心分離機(7)に送ることが記載され、同【請求項9】には、前記分離温度(T2)が、100°Cより高く、特に105°Cより高く、特に好ましくは110°Cより高いことが記載され、同【0020】には、現在のところでは125°Cまでの分離温度が望ましいと考えられるが、特に好ましいのは、100°Cと115°Cとの間の範囲であることがそれぞれ記載されている。
また、甲3の1(上記第4の3(2)参照。)のとおり、海洋研究者等向けのグローバル情報ビジネス誌である甲3の2段落目(上記第4の3(1)イ参照。)には、エンジンに大きなダメージを与えるキャットファインを燃料から分離するために、分離温度を最大110℃まで上昇させることができることが記載されている。
以上より、甲2〜3には、燃料油の加熱温度を110℃程度まで上昇させることにより、分離が良好に行われるようになるとの趣旨の記載が認められるが、「最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップ」を設けることや「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であ」ることについては、記載されていない。そして、甲2〜甲3に基づいて、特に「最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップ」において、「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲」となるように設定しようという動機付けは見いだせない。

イ 甲4(上記第4の4参照。)には、燃料油潤滑分野において、ディーゼル機関の粘度コントローラは、設定値との偏差に応じた信号を電気ヒータに送り、加熱により粘度の制御を行うことが記載されている。
また、甲5(上記第4の5(1)〜(3)参照。)には、重質な燃料を取扱う場合には加熱設備が必要であることや、燃料油の粘度を粘度計で測定することが記載されている。
さらに、甲6の【0021】(上記第4の6参照。)には、ヒータ23は重質油温度計18の温度から、重質油データを基に現状の動粘度を把握し必要な加熱温度を算定して加熱を行うとともに、加熱後の重質油温度を温度計24で把握し加熱量およびオン/オフを制御することが記載されている。
以上より、甲4〜甲6には、燃料油の粘度を測定し、測定された粘度に基づいて、燃料油が所望の粘度となるように加熱量を制御するとの記載が認められるが、「最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップ」や「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、最高限界温度tmaxが105℃を超えている」ことについては、記載されていない。そして、甲4〜甲6に基づいて、「最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップ」において、「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲」となるように設定しようという動機付けは見いだせない。

ウ 上記ア及びイを組み合わせても、甲1方法発明において、「最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップ」の「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲」となるように設定することが容易とはいえない。
そして、本件発明1は上記構成を備えることにより、本件明細書の段落【0005】に記載された「遠心分離機の摩耗の危険性を低減しながら、98℃を超える温度などの高温で燃料油を分離することを可能にする」技術を提供するものである。

エ してみると、本件発明1は、甲1方法発明及び甲2〜6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)判断2(甲1方法発明と甲2〜甲10記載の事項の組み合わせ)
上記相違点4について、甲号証の別の組み合わせについても検討する。
ア 甲6の【0021】(上記第4の6参照。)には、ヒータ23は重質油温度計18の温度から、重質油データを基に現状の動粘度を把握し必要な加熱温度を算定して加熱を行うとともに、加熱後の重質油温度を温度計24で把握し加熱量およびオン/オフを制御することが記載され、同【0024】には、ろ過器28として、遠心分離を用いることができることが記載されている。

イ 甲2〜3には、上記(2)アのとおり、燃料油の加熱温度を110℃程度まで上昇させることにより、分離が良好に行われるようになるとの趣旨の記載が認められる。

ウ 甲9(上記第4の9参照。)の【0007】及び【図1】には、C重油について、清浄機加熱器4で95℃に加熱して清浄処理を行い、機関入口では108℃で供給されることが記載されている。

エ 甲10(上記第4の10参照。)には、遠心分離機の分離性能を向上させるためには可能なかぎり原液温度を上げることが有効であること、及び、非金属を構造部分に使用している場合には温度上昇に対する伸び、強度の低下について検討を要することが記載されている。

オ ここで、甲1方法発明において、甲6の記載事項(上記ア参照。)に基いて、重質油の現状の動粘度を把握し、必要な加熱温度を算定してヒータによる加熱を行うとともに、加熱後の重質油温度を温度計で把握して加熱量をオン/オフ制御して遠心分離ろ過器に重質油を供給し、甲2〜3の記載事項(上記イ参照。)に基いて、供給する燃料油の加熱温度110℃程度まで上昇させ、甲9の記載事項(上記ウ参照。)に基いて、供給するC重油を95℃に加熱し、甲10の記載事項(上記エ参照。)に基いて、過度な温度上昇への配慮を行ったとしても、甲2〜3の記載事項に基く供給温度を110℃程度まで上昇させることと、甲9の記載事項に基く供給温度を95℃に加熱することを両立させることはできない。また、これらの記載から、当業者が、遠心分離機に供給する燃料油の最低温度を95℃とし、最高限界温度を110℃程度とし、最低温度と最高限界温度との間の値で温度を切り変えることを想到するような動機付けや示唆も存在しない。
そうすると、甲1方法発明に、甲2〜甲3、甲6及び甲9をどのように組み合わせても、本件発明1の「浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップを含み、最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、最高限界温度tmaxが105℃を超えている」という構成を導き出すことはできない。

カ また、甲7(上記第4の7参照。)には、小型船舶のディーゼル機関に使用する燃料油の清浄機加熱装置において、燃料油処理に使用される遠心分離機入口の粘度、及び、粘度を維持するための燃料油温度管理が重要であるから、燃料油澄タンクからの低い温度の燃料油を加熱された燃料油と混合して急激な温度変化に即応して清浄機に供給する燃料油を適性温度に加熱制御することが記載され、甲8(上記第4の8参照。)には、油清浄機の処理油量は粘度により左右されるので処理油を加熱して粘度を下げる必要があること、最適粘度は24mm2/sで、最高加熱温度はC重油で98℃であることが記載されているが、これらをどのように組み合わせても、本件発明1の「浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップを含み、最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、最高限界温度tmaxが105℃を超えている」という構成を導き出すことはできない。

(4)小括
以上を総合すると、本件発明1は、甲1方法発明及び甲1〜甲10に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。

2 本件発明2〜6
本件発明2〜6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して特定するものであり、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。よって、本件発明2〜6は、上記1に示した理由と同様の理由により、甲1方法発明及び甲1〜甲10に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

3 本件発明7
(1)対比
本件発明7と甲1物発明を対比すると、甲1物発明の「舶用ディーゼル機関の燃料油を清浄する前処理装置」は、本件発明7の「ディーゼルエンジン用の燃料油を浄化するためのシステム」に相当する。
甲1物発明の「未清浄の燃料油を効率良く連続的に遠心分離して水分と異物等の不純物を分離し且つスラッジを破壊し、サービスタンクを介してディーゼル機関9に供給する遠心分離機7a」は、本件発明7の「ディーゼルエンジン用の燃料油から不純物を分離するための、かつ浄化した油相を生成するための遠心分離機(2)」に相当する。
甲1物発明の「フィードポンプ7aからの燃料油を所定の温度に加熱して一定粘度とする加熱器6」は、本件発明7の「浄化すべき前記燃料油の温度を調整するための手段(4)」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「ディーゼルエンジン用の燃料油を浄化するためのシステムであって、
ディーゼルエンジン用の燃料油から不純物を分離するための、かつ浄化した油相を生成するための遠心分離機(2)と、
浄化すべき前記燃料油の温度を調整するための手段(4)と、
を含んでなるシステム」

<相違点5>
本件発明7は「浄化すべき前記燃料油の粘度または浄化した油相の粘度を測定するための少なくとも1つの機器(5)」を含むのに対し、甲1物発明は、粘度を測定するための機器の明示がない点。

<相違点6>
本件発明7は「粘度を測定するための少なくとも1つの前記機器から粘度の情報を受信するように構成され、さらに受信された前記粘度の情報に基づいて浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記手段(4)への出力信号を生成するように構成された制御ユニットであって、浄化すべき前記燃料油の粘度が特定の最大粘度vmax未満に保たれ、さらに、前記燃料油の前記粘度が、前記特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度値vsetに、或いは前記特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれる、制御ユニット」を含むのに対し、甲1物発明は、測定された粘度の情報に基づいて浄化すべき燃料油の温度を調整する制御ユニットの明示がない点。

<相違点7>
本件発明7は「前記制御ユニットは、測定された前記粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を最低温度tlowに下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合には温度を最高限界温度tmaxに上げるように、浄化すべき前記燃料油の温度を調整する、前記手段(4)への出力信号を生成するように構成され、前記最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、前記最高限界温度tmaxが105℃を超えている」のに対し、甲1物発明は、所定の最低温度と最高限界温度との間で温度を切り変えるステップを備えていない点。

(2)判断1(甲1発明と甲2〜甲6記載の事項の組み合わせ)
事案に鑑み、上記相違点7について検討する。
ア 上記1(2)アと同様の理由により、甲2〜甲3に基づいて、特に「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲」となるように設定しようという動機付けは見いだせない。

イ 上記1(2)イと同様の理由により、甲4〜甲6に基づいて、「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲」となるように設定しようという動機付けは見いだせない。

ウ 上記1(2)ウと同様の理由により、ア及びイを組み合わせても、甲1物発明において、「最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲」となるように設定することが容易とはいえない。

エ してみると、本件発明7は、甲1物発明及び甲2〜6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)判断2(甲1物発明と甲2〜甲10記載の事項の組み合わせ)
ア 上記1(3)オと同様の理由により、甲1物発明に、甲2〜甲3、甲6及び甲9に記載された事項をどのように組み合わせても、本件発明7の「前記制御ユニットは、測定された前記粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を最低温度tlowに下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合には温度を最高限界温度tmaxに上げるように、浄化すべき前記燃料油の温度を調整する、前記手段(4)への出力信号を生成するように構成され、前記最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、前記最高限界温度tmaxが105℃を超えている」という構成を導き出すことはできない。

イ また、上記1(3)カと同様の理由により、甲1物発明に、甲2〜甲10に記載された事項をどのように組み合わせても、本件発明7の「前記制御ユニットは、測定された前記粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を最低温度tlowに下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合には温度を最高限界温度tmaxに上げるように、浄化すべき前記燃料油の温度を調整する、前記手段(4)への出力信号を生成するように構成され、前記最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、前記最高限界温度tmaxが105℃を超えている」という構成を導き出すことはできない。

(4)小括
以上を総合すると、本件発明7は、甲1方法発明及び甲1〜甲10に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。

4 本件発明8〜10について
本件発明8〜10は、本件発明7を直接的又は間接的に引用して特定するものであり、いずれも本件発明7の特定事項を全て包含するものである。よって、本件発明8〜10は、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲1物発明及び甲1〜10に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

5 請求人の主張
請求人は、特許異議申立書第21頁第7行〜19行において、「本件特許権者は、「浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、最低温度tlowと最高限界温度tmaxとの間の値で温度を切り変えるステップを含み、最低温度tlowが95℃〜98℃の間の範囲であり、最高限界温度tmaxが105℃を超えている」という構成に特徴があることを主張するが、上記のようにそもそも98℃を超えても遠心分離機部品の摩耗と劣化が加速することがない場合も含んでいるから、本件発明1における、95℃〜98℃の間の温度範囲である最低温度tlowと、105℃を超える温度範囲である最高限界温度tmaxとの間で温度を切り変えることは、何ら従来技術に対して貢献していない。すなわち、構成Iは、甲2、3の記載の事実から何ら特徴的な構成とはいえず、甲1との相違点足り得ないと認められる。」と主張する。
しかしながら、この主張は、裏を返せば、少なくとも、98℃を超えると遠心分離機部品の摩耗と劣化が加速するような場合には、本件発明の構成により、遠心分離機部品の摩耗と劣化が抑制されるという効果が期待できるということであるから、請求人の主張は採用できない。

第7 理由2(明確性要件)について
本件特許の請求項1には、「・・・測定された粘度に基づいて浄化すべき前記燃料油の温度を調整するステップであって、浄化すべき前記燃料油の粘度が特定の最大粘度vmax未満に保たれるように温度を変えることを含む、温度を調整するステップと、
をさらに含み、
前記燃料油の粘度が、前記特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度値vsetに、または前記特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれ、
浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップが、測定された粘度を前記設定粘度値vsetと比較し、測定された前記粘度がvsetより低い場合には温度を下げ、測定された前記粘度がvsetより高い場合に温度を上げるステップを含み・・・」と記載されている。
そして、申立人は、上記「浄化すべき前記燃料油の温度を調整する前記ステップ」について、燃料油の粘度が「設定粘度値vset」の場合に対応する温度制御のステップは記載されているのに、「特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内」の場合に対応する温度制御のステップが記載されていない点が不明確である旨主張している。
しかしながら、本件特許の請求項1で特定しているのは、「燃料油の粘度が特定の最大粘度vmax未満に保たれるように温度を変えることを含む、温度を調整するステップ」において、「設定粘度値vset」に基づいた温度制御を行った結果、「燃料油の粘度が、前記特定の最大粘度vmaxを下回る設定粘度値vsetに、または前記特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内に保たれ」るという趣旨のことである。
これは、「設定粘度値vset」に基づいた温度制御を行った結果、燃料油の粘度の目標値は「設定粘度値vset」となるが、きっちりその値にする必要はなく、「特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内」も許容し得ることを特定しているにすぎない。
してみると、「特定の最大粘度vmaxを下回る特定の粘度間隔内」の場合に対応する温度制御のステップを記載する必然性はなく、当該ステップが記載されていなくとも、不明確な点はない。
本件特許の請求項4及び請求項7の「特定の粘度間隔」という記載も、同様の理由により、不明確とはいえない。
したがって、本件特許発明1〜10は明確である。

第8 むすび
以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-10-05 
出願番号 P2019-512671
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C10L)
P 1 651・ 537- Y (C10L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 関根 裕
亀ヶ谷 明久
登録日 2021-12-02 
登録番号 6987128
権利者 アルファ−ラヴァル・コーポレート・アーベー
発明の名称 ディーゼルエンジン用燃料油の浄化の方法  
代理人 丸山 重輝  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 丸山 英一  
代理人 丸山 智貴  
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