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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1389442
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-20 
確定日 2022-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7002196号発明「六方晶窒化ホウ素粉末及び化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7002196号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7002196号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成29年1月5日に出願され、令和4年1月4日にその特許権の設定登録がされ、同年1月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月20日に特許異議申立人 安藤 宏(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第7002196号の請求項1〜4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
アスペクト比(長径/厚さ)が20を超え、かつ平均粒子径が3〜20μm、比表面積が1〜10m2/g、一次粒子の粉末X線回折法による黒鉛化指数(Graphitization Index)が2.0以下、タップ密度が0.5g/cm3以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記黒鉛化指数が1.3以下であり、前記平均粒子径が6〜18.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素が20mg/L以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料。」
(以下、請求項1〜4に係る発明を、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)

第3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2〜10号証を提出し、本件発明1〜4は、甲第1号証を主として、甲第1号証〜甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張する。

甲第1号証:特開2015−140337号公報
甲第2号証:特開2015−101555号公報
甲第3号証:特開2013−209346号公報
甲第4号証:特開2014−5264号公報
甲第5号証:特開平10−102083号公報
甲第6号証:特開2010−37123号公報
甲第7号証:特開2015−212217号公報
甲第8号証:特開平9−12307号公報
甲第9号証:特開2000−7310号公報
甲第10号証:『化学装置』2月号, 株式会社工業通信, 2012年2月28日, 第54巻, 第2号, p.68-72
(以下、各甲号証を、それぞれ番号順に「甲1」等という。)

第4 甲号証の記載
1 甲1の記載
(1a) 「【請求項1】
平均長径が4〜15μm、厚みが0.2〜0.7μmで、かつアスペクト比が20超の鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、比表面積が2〜8m2/gで、さらに可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする化粧料用の窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
粉末全体における粒径:0.8μm以下の微粉末の割合が0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用の窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
光透過率が75%超であることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧料用の窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
金属不純物量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の化粧料用の窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。
【請求項6】
前記化粧料における前記六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が0.1〜70質量%であることを特徴とする請求項5に記載の化粧料。
【請求項7】
化粧料がメイクアップ用であることを特徴とする請求項5または6に記載の化粧料。」

(1b) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末に関し、特に該粉体の潤滑性と透明性の向上を図り、もって化粧料使用時における塗擦動作においてスムーズな伸びの実現を図ろうとするものである。
また、本発明は、上記した六方晶窒化ホウ素粉末を用いた化粧料に関し、特に肌への展延性および付着性を向上させて、仕上がりのツヤ感と透明感を向上させ、さらにはテカリの抑制も併せて達成しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(以下、単に窒化ホウ素またはBNと略記する)は、他の素材に比べて潤滑性に優れているため、化粧料(化粧品ともいう)の顔料として広く用いられてきた。特に最近では、窒化ホウ素粉末の潤滑性に優れる点に注目して、化粧品用体質顔料としての使用が増大している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。」

(1c) 「【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の窒化ホウ素粉末において、形状等を前記の範囲に限定した理由について説明する。
【0021】
平均長径が4〜15μm、厚みが0.2〜0.7μmで、かつアスペクト比が20超の鱗片状をなす一次粒子
一次粒子の形状のうち、本発明において特に重要なのはアスペクト比であり、このアスペクト比を20超とすることが肝要である。というのは、アスペクト比が20を超えて大きくなると、表面がより平滑になり、光の透過度が増大する結果、テカリの発生が抑制されるからである。より好ましいアスペクト比は25超である。なお、アスペクト比の上限については特に制限はないが、あまりに大きくなると一次粒子の折れ曲がり、割れ等の弊害が生じるので、アスペクト比の上限は70程度とするのが好適である。
次に、一次粒子の平均長径が4μmに満たないと、粒子同士の結合が強くなり潤滑性が低下する問題があるほか、微粉の量が増えて透明性が低下する。一方15μmを超えると配向性が出て、テカリが出やすくなるほか、凝集体の密度が低下する(空隙率が増加する)ので、一次粒子の平均長径は4〜15μmの範囲に限定した。好ましくは4〜8μmの範囲である。
また、一次粒子の厚みが、0.7μmを超えると、肌に延ばして塗布した場合に透明感が低下する。一方、一次粒子の厚みが0.2μmを下回ると、微粉(特に粒径が0.8μm以下の微粉)の量が増大して透明性が低下するので、一次粒子の厚みは0.2〜0.7μmの範囲に限定した。なお、より透明性を増すためには、一次粒子の厚みは0.3〜0.6μmとすることが好ましい。
ここに「一次粒子」とは、鱗片状を形成する単一粒子と定義する。
【0022】
比表面積は2〜8m2/gの範囲である。
比表面積が2m2/gに満たないと、粗粒を形成して潤滑性が低下して伸びがなくなり、一方8m2/gを超えると、粒子同士の凝集力が強くなって平板状に伸びにくくなり、透明性が低下する他、球状になってザラツキ感が強くなるので、比表面積は2〜8m2/gの範囲に限定した。
【0023】
また、本発明において、粒径:0.8μm以下の微粉末の割合は、粉末全体に対する割合で0.2質量%以下とすることが好ましい。
というのは、粒径が0.8μm以下の微粉末は、その端部で光の散乱が生じ、しかもこれらの微粉末が凝集した場合には凝集粒での光の散乱、吸収が大きくなって透過度の低下を招く。従って、かような微粉末の割合が0.2質量%を超えると、透明性の劣化が懸念されるからである。
【0024】 可溶性ホウ素の含有量が100ppm以下
また、本発明において、窒化ホウ素粉末中における可溶性ホウ素量は100ppm以下とする必要がある。
というのは、可溶性ホウ素量が100ppmを超えると、肌へのダメージが大きくなるからである。好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。」

(1d) 「【0027】
次に、本発明の好適製造条件について説明する。
まず、素材として、高純度で乱層構造の窒化ホウ素粉末を準備する。
かかる窒化ホウ素粉末は、ホウ酸及び/又はその脱水物と尿素及び/又はその化合物(ジシアンジアミド、メラミン等)を均一に混合し、不活性ガス雰囲気中にて800℃から1200℃まで加熱することによって得ることができる。
【0028】
上記の混合に際しては、窒素(N)/ホウ素(B)がモル比で1〜5の割合となるようにする必要がある。
というのは、N/Bがモル比で1に満たないと不純物の量が増加して一次粒子の過度な粒成長を招き、一方5を超えるとN量が多くなりすぎて十分な粒成長が望めないからである。
【0029】
上記の加熱処理により、適正な酸素と炭素を含有する乱層構造の窒化ホウ素粉末を得ることができる。
ここに、適正量の酸素と炭素とは、酸素(O)量が10〜25質量%で、炭素(C)量が0.1〜10質量%で、かつ酸素(O)/炭素(C)比がモル比で2.0以上の範囲を満足することである。
また、本発明において乱層構造とは、X線回折によりシャープな6方晶系のピークを取らず、ブロードで完全に結晶化していない構造をとるBNを意味する。
【0030】
なお、上記した乱層構造になる窒化ホウ素粉末の素材中における割合は全量であることが好ましい。というのは、上記乱層構造の微粉末中に結晶化したBNが含まれると異常粒成長を生じるからであるが、少なくとも90質量%以上の比率であれば、かようなおそれはない。
【0031】
ついで、上記のようにして得た窒化ホウ素粉末に対し、不活性ガス雰囲気中にて常圧または加圧下で、昇温速度:100〜500℃/hの速度で最高温度:1500〜2300℃まで昇温する加熱処理を施す。この加熱処理の過程で、昇温速度を100℃/h以上〜500℃/h以下とすることにより、一次粒子の厚みが薄く、アスペクト比が大きく、しかも粒径が揃い、かつ粒子表面の平滑な窒化ホウ素粒子が得られる。常圧、より好ましくは0.1〜0.9MPaの不活性ガス雰囲気下で100℃/h以上で比較的ゆっくり加熱することにより上記の特徴を有する窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0032】
ここに、処理雰囲気を不活性ガス雰囲気としたのは、生成したBNは容易に酸素と結びつくため、酸化性雰囲気で高温焼成すると所望のBNを生成できないためである。
また、加熱温度を1500〜2300℃としたのは、処理温度が1500℃に満たないと十分に結晶が成長した粉末が得られず、一方2300℃を超えると欠陥を生じ易くなって透明感が低下するからである。好ましくは1800〜2100℃の範囲である。
さらに、昇温速度を100℃/h〜500℃/hとしたのは、100℃/h未満では昇温過程で長径方向の粒成長は十分起こるものの鱗片厚み方向の成長は比較的起こりにくい。このため、従来例のように鱗片厚みが過度に薄くなって粉砕・分級工程等で鱗片状粒子が破砕され微粉末の割合が多くなる。他方、500℃/hを超える速度で昇温した場合にも長径方向の粒成長は十分起こるが、同時に鱗片厚み方向にも成長するので、鱗片状粒子の厚みが過度に大きくなる。これに対し、昇温速度が100〜500℃/hの範囲では、長径方向に適度に粒成長する一方、鱗片厚み方向の成長は抑制され、加えて鱗片粒子の表面も平滑になることが突き止められた。このため、アスペクト比が大きく、微粉割合も小さく、結果として光透過度が大きく、ヘーズ値、摩擦係数の低い、本発明の目的とするBN粉末が得られるのである。
【0033】
ついで、得られた窒化ホウ素塊を、粉砕・分級後、洗浄によって不純物を除去することによって、高純化する。
この高純化処理に際しては、少なくとも可溶性ホウ素についてはその含有量を窒化ホウ素粉末全体に対する割合で100ppm以下まで低減する必要がある。好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。また、その他の不純物については、金属不純物の量も100ppm以下まで低減することが好ましい。好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。
【0034】
かくして、極薄扁平形状をなす一次粒子径の揃った、アスペクト比の大きい高純度の化粧料用窒化ホウ素粉末を得ることができる。」

(1e) 「【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
ホウ酸とメラミンを1:1の割合で混合し、蓋付きの黒鉛ルツボで窒素下で1000℃で5時間の処理を施して、酸素:15質量%、炭素:1.8質量%で金属不純物量が40ppmの乱層構造になる窒化ホウ素粉末を得た。ついで、この窒化ホウ素粉末:20kgを、窒化ホウ素被覆黒鉛製ルツボに種々の厚みで充填し、窒素雰囲気中にて表1に示す種々の昇温速度で2000℃まで加熱し、この温度に10h保持したのち、同じく窒素雰囲気下で室温まで冷却した。
得られた生成物をX線回折装置で同定したところ、高結晶の窒化ホウ素であることが確認された。
ついで、この窒化ホウ素を、ジェットミルで所定の粒径になるように粉砕したのち、20倍の純水で洗浄し、ついで脱水後、真空中で乾燥したのち、0.3mmのスクリーンを通すようにパワーミルで解砕して窒化ホウ素粉末とした。」

(1f) 「【0040】
また、可溶性ホウ素量は、「医薬部外品原料規格2006」に基づき、次のようにして測定した。
試料:2.5gをテフロン(登録商標)製ビーカーにとり、エタノール:10mlを加えてよくかき混ぜ、さらに水:40mlを加えてよくかき混ぜたのち、テフロン製時計皿にのせ、50℃で1時間加温する。冷却後、ろ過し、残留物を少量の水で洗い、洗液をろ液に合わせる。この液をさらにメンブランフィルター(0.22μm)でろ過する。ろ液全量をテフロン製ビーカーにとり、硫酸:1mlを加え、ホットプレート上で10分間煮沸する。冷却後、この液をポリエチレン製メスフラスコに入れ、テフロン製ビーカーを少量の水で洗い、ポリエチレン製メスフラスコに合わせたのち、水を加えて正確に50mlとし、これを試料溶液とする。別にホウ素標準液:1mlを正確にとり、水を加えて正確に100mlとし、標準溶液とする。試料溶液および標準溶液各1mlをポリエチレン製ビンに正確にとり、硫酸および酢酸の等容量混液:6mlを加えて、振り混ぜる。ついで、クルクミン・酢酸試液:6mlを加えて振り混ぜたのち、80分間放置する。これを酢酸・酢酸アンモニウム緩衝液:30mlを加えて振り混ぜ、5分間放置したのち、水を対照とし、吸光度特定法により、溶出ホウ素量を求める。この試験を行うとき、波長:543nm付近の吸収の最大波長における試料溶液の吸光度は、標準溶液の吸光度以下である。ただし、試料溶液の吸光度は、前処理法を含め、同様に操作して得た空試験液の吸光度で補正する。
【0041】
【表1】



2 甲2の記載
(2a) 「【請求項1】
次の成分(a)〜(e);
(a)シリコーン処理粉末 30質量%以上
(b)窒化ホウ素 1〜20質量%
(c)球状粉末 1〜20質量%
(d)25℃において固形のロウ 0.05〜5質量%
(e)フェニル変性シリコーン 1〜15質量%
を含有することを特徴とする固形粉末化粧料。
【請求項2】
(a)シリコーン処理粉末 40質量%以上
(b)窒化ホウ素 3〜15質量%
(c)球状粉末 3〜15質量%
(d)25℃において固形のロウ 0.1〜4質量%
(e)フェニル変性シリコーン 2〜10質量%
を含有することを特徴とする固形粉末化粧料。
【請求項3】
前記成分(b)の平均粒子径が2〜15μmである請求項1または2記載の固形粉末化粧料。」

(2b) 「【0013】
本願発明に用いられる(b)窒化ホウ素は、通常の化粧料に用いられるものであれば特に制限されずに使用することができる。窒化ホウ素の形態としては、六方晶、ウルツ鉱型構造、立方晶、菱面体晶、乱層構造などいずれでも良く、使用性の面から六方晶のものが好ましい。
窒化ホウ素は、塗布時のなめらかさ、適度な光沢感の付与の点から、平均粒子径が2〜15μmのものが好ましい。例えば、SHP−3、SHP−4、SHP−7(水島合金鉄株式会社製)等が挙げられる。」

3 甲3の記載
(3a) 「【請求項1】
次の成分(A)〜(E):
(A)合成金雲母及び/又は鉄含有合成金雲母 2〜30質量%、
(B)有機板状粉体 1〜12質量%、
(C)窒化ホウ素 1〜20質量%、
(D)平均粒子径0.2〜10μmの球状粉体 5〜20質量%、
(E)25℃で液体の油剤 2〜15質量%
を含有し、成分(A)及び(C)の質量割合が、(A)/(C)=0.2〜2であり、成分(A)、(B)及び(C)の質量割合が、(A)/((B)+(C))=0.1〜1.5である固形粉末化粧料。」

(3b) 「【0017】
本発明で用いる成分(C)の窒化ホウ素は、通常の化粧料に用いられるものであれば特に制限されずに使用することができる。窒化ホウ素の形態としては、六方晶、ウルツ鉱型構造、立方晶、菱面体晶、乱層構造などのいずれでも良く、使用性の点から、六方晶のものが好ましい。
窒化ホウ素は、塗布時のすべりの良さ、適度な光沢感の付与の点から、平均粒子径が2〜15μmのものが好ましく、4〜10μmのものがより好ましい。
市販品としては、SHP−3、SHP−6(以上、水島合金鉄社製)等を用いることができる。」

4 甲4の記載
(4a) 「【請求項1】
次の成分(a)及び成分(b);
(a)アミノ変性シリコーンで処理した粉体
(b)窒化ホウ素粉体
を含有することを特徴とする粉体化粧料。
【請求項2】
成分(a)のアミノ変性シリコーンで処理した粉体を全粉体中0.1〜80質量%含有する請求項1記載の粉体化粧料。
【請求項3】
成分(a)のアミノ変性シリコーンで処理した粉体が、粉体100質量部に対し、0.1〜10質量部のアミノ変性シリコーンで処理したものである請求項1または2に記載の粉体化粧料。
【請求項4】
成分(b)の窒化ホウ素粉体の平均粒径が3〜20μmである請求項1〜3のいずれかに記載の粉体化粧料。」

(4b) 「【0036】
成分(b)である窒化ホウ素粉体は、通常化粧料に用いられるものであればいずれのものも使用できるが、その形状が板状型等であるものが好ましい。窒化ホウ素粉体(成分(b))の平均粒径は、3〜20μmであることが好ましい。この粒度範囲であると、白さが目立たず、平滑さもより良好となるため、特に好ましい。」

5 甲5の記載
(5a) 「【0014】六方晶の窒化硼素は、滑り形成能の面から、結晶が発達したものが望ましい。六方晶の窒化硼素の結晶の発達程度を知る指数として、化1式で表される黒鉛化指数が公知である。
【0015】
【化1】黒鉛化指数=(Ia+Ib)/Ic
ここで、Iaは(100)、Ibは(101)、Icは(102)のX線回折におけるピーク面積を示し、黒鉛化指数が小さいほど結晶性は良好である。」

6 甲6の記載
(6a) 「【請求項1】
ホウ素含有物質と窒素含有物質とを1300℃以下で反応させて得られる粗製六方晶窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた後に、不活性ガス雰囲気中にて1600〜2200℃で再加熱処理し結晶成長させることを特徴とする、高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項2】
大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた後再加熱する前の状態における、粗製六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が2.5以上かつ数平均粒子径が9μm以下であり、不活性ガス雰囲気中にて1600〜2200℃で再加熱処理した後の高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.9以下かつ数平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項3】
粗製六方晶窒化ホウ素粉末の再加熱前に、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100重量部に対し、アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質、から選ばれる1種以上の物質を50重量部以下添加することを特徴とする、請求項1または2に記載の高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」

(6b) 「【0019】
こうして得られた粗製h−BN粉末を、再度不活性ガス雰囲気下にて1600〜2200℃で再加熱処理し結晶成長させることで、粒径が大きくかつ高結晶性のh−BN粉末を生産することができる。再加熱時の雰囲気は窒素、アルゴン、等の不活性ガス雰囲気下で実施する必要がある。再加熱時の最高温度は1600〜2200℃の範囲であるが、より高結晶性のh−BN粉末を得るためには最高温度が高いほうが好ましく、炉の管理コストや維持費を低減させるためには最高温度が低いほうが好ましい。最高温度は好ましくは1650〜2180℃、より好ましくは1700〜2160℃、さらに好ましくは1750〜2140℃、最も好ましくはより好ましくは1800〜2120℃である。より高結晶性のh−BN粉末を得るためには最高温度での処理時間は長いほうが好ましく、生産性やユーティリティー費用を低減させるためには最高温度での処理時間は短いほうが好ましい。好ましい最高温度での処理時間は、10分〜10時間であり、より好ましくは30分〜6時間である。
【0020】
h−BN粉末の結晶性の評価については、粉末X 線回折法による黒鉛化指数(G I=Graphitization Index)が用いられる。GIは、X線回折図の(100)、(101)及び(102)線の積分強度比すなわち面積比を次式によって算出することによって求めることができ、この値が小さいほど結晶性が高い。
GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕
上記のように、GIはh−BN粉末の結晶性の指標であり、結晶性が高いほどこの値が小さくなり完全に結晶化(黒鉛化)したものではGI=1.60になるとされている。しかし、高結晶性でかつ粒子が十分に成長したh−BN粉末の場合、粉末が配向しやすいためGIは更に小さくなる。」

(6c) 「【0023】
本発明においては、第二工程の1600〜2200℃で再加熱処理し結晶成長させる際に、結晶成長を助けるための添加剤を添加することが好ましい。添加剤としては、アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質、から選ばれる1種以上の物質が好ましい。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、等が、アルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、等が好ましく用いられる。これらの金属を含有する炭酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、金属、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、アセチルアセトナート化合物等の有機金属化合物が好適に用いられる。アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質は特に高純度である必要はなく、通常市販の工業用の品質のものが好適に使用される。」

(6d) 「【0028】
本発明により得られる、粒径が大きくかつ高結晶性のh−BN粉末は、大粒径であるため化粧品に混合したときの隠蔽効果に優れることから、化粧品用途に好ましく用いることが可能である。」

(6e) 「【実施例】
・・・
【0030】
黒鉛化指数(GI)測定:スペクトリス(株)製PANalytical X’Pert Pro XRD測定装置を用い、Cu・KαのX線にて、広角X線回折測定を行った。得られた測定値から、2θ=41°付近、44°付近、50°付近に見られる(100)(101)(102)の面積を測定し、下記式に基づいて黒鉛化指数(GI)を算出した。
GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕
数平均粒子径:100mlビーカーにヘキサメタリン酸ナトリウム20重量%水溶液15mlを入れ、この水溶液にh−BN粉末60mgを投入し、超音波分散器で40分間分散処理した。得られた分散液にて、(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定器LA−950を用い、数平均粒子径を測定した。
【0031】
実施例1
オルトホウ酸55重量部、メラミン45重量部をヘンシェルミキサーで混合した後、窒素フロー下で管状電気炉にて1000℃に加熱し2時間処理後冷却することで、粗製h−BN粉末を得た。この粗製h−BN粉末を23℃50%RH条件にて10日間静置し、養生した。次いで、粗製h−BN粉末80重量部、重質炭酸カルシウム12重量部、オルトホウ酸8重量部、をヘンシェルミキサーで混合した後、窒化ホウ素製ルツボに仕込み、高温加熱が可能な電気雰囲気炉に仕込んだ。内部を窒素置換した後、2050℃にて2時間加熱し、冷却し、硝酸水溶液にて洗浄、乾燥することにより、高結晶性h−BN粉末を得た。
得られたh-BN粉末の特性は下記の通りである。
粗製h−BN粉末:黒鉛化指数5.22、数平均粒子径1.2μm。
高結晶性h−BN粉末:黒鉛化指数1.19、数平均粒子径17.5μm。」(「・・・」は、記載の省略を表す。)

7 甲7の記載
(7a) 「【0032】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、含酸素カルシウム化合物の使用により、高い結晶性を以て得られ、結晶性を示す黒鉛化指数(GI値)が1.7以下という良好な値を示す。GI値は、六方晶窒化ホウ素粉末の結晶性の指標であり、結晶性が高いほどこの値が小さくなる。完全に結晶化(黒鉛化)した六方晶窒化ホウ素粉末ではGI値が1.6になるが、高結晶性でかつ粒子が充分に成長した六方晶窒化ホウ素粉末の場合、粉末の配向によりGI値はさらに小さくなる。」

8 甲8の記載
(8a) 「【0002】
【従来の技術】六方晶窒化ホウ素(以下BNと記する)は優れた熱伝導性、電気絶縁性、潤滑性を有することから、その粉末は各種電子部品の充填剤、摺動部材摩擦部の潤滑剤等に使用されている。また近年になってその潤滑性、カバー力、純白色であることに着目されて化粧品原料としても使用されつつある。しかし、そのBN粉末を化粧品原料として使用した場合、汗や雨水により化粧崩れが生じたり、入浴や水泳を行う場合にはその都度化粧直しが必要となる等の、実用上の不利が生じる。」

(8b) 「【0008】・・・またシリル化処理の対象となるBN粉末は、その平均粒子径が0.5〜30μm、特に3〜13μmであることが好ましい。0.5μm未満の場合は凝集粒が多く粒子表面へのシリル化処理が均一に行えない場合がある。一方30μmを超えると化粧品原料として使用した場合にザラツキを感じる場合がある。またBN粉末は高純度であることが好ましく、特に化粧品原料としての充分な特性を発現させるためには98wt%以上であることが好ましい。更にBN粉末は結晶化が発達していることが好ましく、学振炭素材料117委員会法により測定したLC 値が500Å以上、特に1000Å以上であることが好ましい。500Å未満の場合はBNの結晶構造が非晶質となり、潤滑性・カバー力、伸び等の特性が不十分となる場合がある。」(「・・・」は、記載の省略を表す。)

9 甲9の記載
(9a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂やゴムへの充填性に優れた六方晶窒化ホウ素粉末に関する。
【0002】
【従来の技術】六方晶窒化ホウ素(BN)粉末は、白色粉末で黒鉛と同じ六方晶系の層状構造を有し、高熱伝導性、潤滑性、摺動性、耐食性、電気絶縁性、耐熱性、機械加工の容易さなどに優れた特性を有することから様々な用途に使用されている。」

(9b) 「【0021】これに対し、本発明の条件を満たすBN粉末の製造方法は、ホウ素源と、窒素源と、結晶化触媒(xCaO・B2O3、但しx=1〜2)の前駆物質であるホウ酸カルシウム源とを、焼成物中の結晶化触媒の割合が25〜45重量%となるように混合し、それを非酸化性雰囲気ガス下、温度1900〜2200℃で焼成後、酸処理によって結晶化触媒を除去し、温度100〜150℃で乾燥することによって製造することができる。ここで、非酸化性雰囲気ガスとしては、窒素ガスが最適である。」

(9c) 「【0025】結晶化触媒量が25重量%未満では、BN粉末中の成長した一次粒子の割合が減少してタップ密度が低くなる。逆に、45重量%をこえても凝集粒子の割合が多くなり、しかもBN粉末の収率が悪く、また溶融した結晶化触媒により炉材を破損させる恐れがある。」

10 甲10の記載
(10a) 「3.カードハウス構造と嵩密度
トランプのカードを積み木のように組立ててつくる家のような形状を,カードハウス構造と呼ぶ(図2)。化粧品に用いる体質顔料の多くは,アスペクト比が50を超える扁平薄片粒子であるため,カードと同様に充填ケーキ中でカードハウス構造を形成し空隙を保持する。空隙率が高いカードハウス構造ほど空気を充填ケーキ中に多く取り込み,体積が増すため見かけの密度が低下する。この見かけの密度を嵩密度と呼ぶ。
嵩密度は粉体を充填したときの体積と重量から求める。化粧品用粉体原料の嵩密度の測定にはタップ法が用いられる。タップ法は一定の重量の粉体を秤量した後,メスシリンダや目盛り付き試験管に入れ,図3に示すようにトントンとタップを数百回繰り返し,充填粉体の体積が一定になった時点の値を計測し,密度〔g/ml〕を計算する。充填後の粉体層には空隙が含まれており,空隙率が高いほど嵩密度が低くなる。嵩密度の逆数は比容積〔ml/g〕と呼ばれ,粉体層が含む空隙層の全体積に依存した値を示す。
粒子径と真比重が同じで厚みが異なる薄片状粉体を比較すると,アスペクト比が大きいほど充填層中に空隙を保持しやすく,嵩密度が小さくなる。図4に示すように薄片粉体がカードハウス構造を形成し,粉体間に空隙を保持する場合には,粉体が薄いほど大きな空隙を保持しやすい。対照的に肉厚でアスペクト比が小さな粉体は,空隙が小さくなり粉体層が緊密に集合して固まった充填層を形成するため,嵩密度が大きい。」(第69頁右欄第12行〜第70頁左欄第11行)

(10b) 「

」(第70頁)

(10c) 「

」(第70頁)

第5 特許異議申立理由についての当審合議体の判断
1 甲1に記載された発明について
摘記(1a)によると、甲1には、「平均長径が4〜15μm、厚みが0.2〜0.7μmで、かつアスペクト比が20超の鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、比表面積が2〜8m2/gで、さらに可溶性ホウ素量が100ppm以下である化粧料用の窒化ホウ素粉末」が記載されており、摘記(1b)によると、六方晶窒化ホウ素は、単に窒化ホウ素またはBNと略記されているから、甲1には以下の発明が記載されている。

「アスペクト比が20超の鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、
比表面積が2〜8m2/gである、化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末。」(以下「甲1発明」という。)

2 対比・判断
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「アスペクト比」は、摘記(1c)の記載と摘記(1f)の表1における「アスペクト比」に対する「平均長径」及び「平均厚み」の関係から、「平均長径/平均厚み」によって算出されるものであり、当該アスペクト比の定義は、本件発明のアスペクト比(長径/厚さ)と同義であるもの認められる。

イ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「アスペクト比(長径/厚さ)が20を超え、比表面積が1〜10m2/gである六方晶窒化ホウ素粉末。」の点で一致し、以下の相違点1〜3で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒子径が3〜20μmであるのに対して、甲1発明は、六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒子径が特定されていない点

<相違点2>
本件発明1は、六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子の粉末X線回折法による黒鉛化指数(Graphitization Index)が2.0以下であるのに対して、甲1発明は、六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子の粉末X線回折法による黒鉛化指数が特定されていない点

<相違点3>
本件発明1は、六方晶窒化ホウ素粉末のタップ密度が0.5g/cm3以下であるのに対して、甲1発明は、六方晶窒化ホウ素粉末のタップ密度が特定されていない点

ウ 相違点についての検討
(ア) 相違点1について
摘記(2a)及び(2b)によると、甲2には、化粧料用の窒化ホウ素について、「形態としては、六方晶、ウルツ鉱型構造、立方晶、菱面体晶、乱層構造などいずれでも良く、使用性の面から六方晶のものが好ましい。・・・平均粒子径が2〜15μmのものが好ましい。」と記載され、摘記(3a)及び(3b)によると、甲3にも同様に、化粧料用の窒化ホウ素について、「形態としては、六方晶、ウルツ鉱型構造、立方晶、菱面体晶、乱層構造などのいずれでも良く、使用性の点から、六方晶のものが好ましい。・・・平均粒子径が2〜15μmのものが好ましく、4〜10μmのものがより好ましい。」と記載されている。
さらに、摘記(4a)及び(4b)によると、甲4には、化粧料の窒化ホウ素粉体について、「その形状が板状型等であるものが好ましい。窒化ホウ素粉体(成分(b))の平均粒径は、3〜20μmであることが好ましい。」と記載されている。
そうすると、3〜20μm程度のものは、化粧料用の六方晶窒化ホウ素の平均粒子径として一般的に使用されているサイズ感であるものといえる。
したがって、甲1発明において、化粧料用の六方晶窒化ホウ素の平均粒子径として一般的な3〜20μm程度のものとすることには、当業者にとって一応の動機づけがあるものといえる。

(イ) 相違点2について
摘記(1d)及び(1e)によると、甲1には、「また、加熱温度を1500〜2300℃としたのは、処理温度が1500℃に満たないと十分に結晶が成長した粉末が得られず、一方2300℃を超えると欠陥を生じ易くなって透明感が低下するからである。」と記載され、実施例では「得られた生成物をX線回折装置で同定したところ、高結晶の窒化ホウ素であることが確認された。」と記載されていることから、ある程度結晶性を有する六方晶窒化ホウ素粉末であることが、甲1発明の好ましい態様といえる。
ところで、摘記(5a)、(6b)及び(7a)によると、甲5〜7には、窒化ホウ素粉末の技術分野において、窒化ホウ素の結晶性の指標として黒鉛化指数を用いること、及び黒鉛化指数が低いほど結晶性が高いことが理解され、摘記(8a)及び(8b)によると、甲8には、化粧品原料としての六方晶窒化ホウ素粉末は、結晶化が発達していることが好ましい旨が記載されている(なお、摘記(6a)、(6c)〜(6e)には、単に高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法自体に関する記載があるにすぎない。)。
しかしながら、甲1には、どの程度の高結晶のものが得られたのか記載されていない。また、甲8には、化粧品原料としての六方晶窒化ホウ素粉末について、どの程度の黒鉛化指数が好ましい値であるのか記載も示唆もなく、仮に、結晶性の高さと黒鉛化指数とが関連するものであったとしても、甲1発明において、黒鉛化指数を2.0以下とするとする動機付けは見いだせない。なお、本件特許明細書に記載の焼結助剤を使用せずに製造した比較例7では、黒鉛化指数が3.0であることから、鱗片状の六方晶窒化ホウ素粉末であれば当然に黒鉛化指数が2.0以下になる根拠はなく、本件発明1の相違点2に係る構成は、当業者にとって単なる設計的事項の変更といえる事項でもない。
そうすると、甲1発明において、黒鉛化指数が2.0以下となるように制御することは、当業者が容易に想到することとはいえない。

(ウ) 相違点3について
摘記(1e)によると、甲1には焼結助剤を使用せずに窒化ホウ素粉末を製造する具体的な例が記載されているが、このような場合、他の製造条件に関係なく必ず窒化ホウ素粉末のタップ密度が0.5g/cm3以下となる根拠はないし、更に甲1発明の発明特定事項を満たすだけで、タップ密度が当然に0.5g/cm3以下となる根拠はないから、甲1発明のタップ密度は0.5g/cm3以下である蓋然性が高いとし、相違点3が実質的な相違点ではないとすることはできない。
ここで、摘記(9a)〜(9c)によると、甲9には、樹脂やゴムへの充填性に優れた六方晶窒化ホウ素(BN)粉末の製造に関し、「結晶化触媒量が25重量%未満では、BN粉末中の成長した一次粒子の割合が減少してタップ密度が低くなる。」と記載されている。
また、摘記(10a)〜(10c)によると、甲10には、「化粧品に用いる体質顔料の多くは,アスペクト比が50を超える扁平薄片粒子であるため,カードと同様に充填ケーキ中でカードハウス構造を形成し空隙を保持」し、「アスペクト比が大きいほど充填層中に空隙を保持しやすく,嵩密度が小さくなる。」と記載されている。
すなわち、甲9及び10には、具体的なタップ密度に関する記載はなく、甲9には化粧料用途ではなく樹脂やゴムへの充填を用途とする事項が記載され、甲10にはアスペクト比が50を超える扁平薄片粒子を用いることを前提とした事項が記載されているにすぎない。
そうすると、甲1発明は、化粧料を用途とし、アスペクト比は20超であるものの、摘記(1f)によると、甲1にはアスペクト比30未満の具体例のみが記載されていることを考慮すると、甲1発明において、甲9及び10に記載のタップ密度に関する技術的事項を参照することは、そもそも当業者にとって動機付けがあるとはいえない。なお、本件特許明細書に記載の比較例6では、アスペクト比が23であっても、タップ密度は0.5g/cm3以下ではなく、アスペクト比が20超であれば充填性又は嵩高さの点から、タップ密度が0.5g/cm3以下になるわけではなく、本件発明1の相違点3に係る構成は、当業者にとって単なる設計的事項の変更といえる事項でもない。
よって、甲1発明において、タップ密度を0.5g/cm3以下とすることは、当業者が容易に想到することとはいえない。

(エ) 相違点1〜3についてのまとめ
上記(イ)及び(ウ)によると、相違点1についての判断に関わらず、本件発明1は、甲1発明及び甲1〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到するものではない。そして、本件発明1の「溶出ホウ素量の抑制」、「塗り伸び」、「隠ぺい力」及び「ぎらつき抑制」に優れるという効果が、「アスペクト比(長径/厚さ)」、「平均粒子径」、「比表面積」、「黒鉛化指数」及び「タップ密度」に関する要件を総合的に満たすことで奏していることから、本件発明1の効果は、甲1発明の効果及び甲1〜10の記載事項から、当業者が予測できるものでもない。

(2) 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、本件発明2は、黒鉛化指数と平均粒子径を更に減縮し、本件発明3は、溶出ホウ素に関する限定を更に付加し、本件発明4は、六方晶窒化ホウ素粉末の用途を限定したものであるから、本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものである。
そうすると、上記(1)で述べた理由と同様に、本件発明2〜4についても、甲1発明及び甲1〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1の平均粒子径は一般的であり、結晶を十分に成長させるという意図があれば、黒鉛化指数を2.0以上とすることは当業者が容易になし得ることであり、結晶化触媒を使用しない甲1発明の場合、0.5g/cm3以下のタップ密度となる蓋然性が高いし、仮に相違するとしても、0.5g/cm3以下のタップ密度とすることは当業者が容易に想到し得るものである旨の主張をしている。
しかしながら、黒鉛化指数については、上記(1)ウ(イ)で述べたとおり、具体的に2.0以上とすることが当業者にとって設計的事項の変更とはいえないし、タップ密度については、上記(1)ウ(ウ)で述べたとおり、甲1発明が該当する蓋然性が高いとする根拠が十分ではなく、甲1に記載の実施例の追試等といった具体的根拠に基づくものでもないから、実質的な相違点ではないといえず、かつ、タップ密度を0.5g/cm3以下とすることは、当業者にとって単なる設計的事項の変更とはいえない。また、平均粒子径についても、上記(1)ウ(ア)で述べたとおり、一応の動機付けがあるにとどまり、本件発明1の効果が、総合的に予測できるものでもない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-09-26 
出願番号 P2017-000584
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 野田 定文
阪野 誠司
登録日 2022-01-04 
登録番号 7002196
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 六方晶窒化ホウ素粉末及び化粧料  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  

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