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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1390553
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-13 
確定日 2022-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6811614号発明「脂溶性ビタミン製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6811614号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜21〕について訂正することを認める。 特許第6811614号の請求項1〜9、11〜21に係る特許を維持する。 特許第6811614号の請求項10に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

本件特許(特許第6811614号)に係る特許出願(特願2016−566638号)は、2015年5月5日(パリ条約に基づく優先権主張 2014年5月5日 EP(欧州特許庁))を国際出願日とするものであり、令和2年12月17日に設定の登録(請求項の数21)がなされ、令和3年1月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年7月13日に、請求項1〜21に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 ディーエスエム ニュートリショナル プロダクツ アーゲー(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
以後の主な経緯は以下のとおりである。
・令和3年11月16日付け:取消理由通知書
・令和4年 2月21日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
・ 同年 5月 2日 :意見書の提出(申立人)

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
令和4年2月21日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1及び13における「ビタミンKl又はビタミンK2」という記載を「ビタミンK2」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項1、9及び13における「マイクロカプセル」という記載を「被覆されたマイクロカプセル」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項1における「を含む組成物」という記載を「を含み、上記活性物質の含有量がマイクロカプセルの総重量の0.01〜15%であり、上記ハイドロコロイドの合有量がマイクロカプセルの重量の15〜80%である、組成物」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項3における「0.01〜15%、例えば0.1〜10%、0.2〜5%又は1〜3%」という記載を「0.1〜10%、0.2〜5%又は1〜3%」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項10を削除する。

(6)訂正事項6
請求項21における「上記少なくとも1種の脂溶性活性物質がビタミンK2化合物であり、」という記載を削除する。

(7)訂正事項7
請求項11、14〜16及び20における「請求項1〜10」という記載を「請求項1〜9」に訂正する。

なお、訂正前の請求項2〜21は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1〜21に対応する訂正後の請求項1〜21は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1及び13における脂溶性活性物質の選択肢からビタミンK1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1、9及び13における「マイクロカプセル」を「被覆されたマイクロカプセル」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、「被覆されたマイクロカプセル」に特定する訂正は、本件明細書等における、「得られた混合液を、場合によってデンプン等の被覆材料の存在下で、最後に分配及び乾燥、例えば噴霧乾燥して、上記マトリクス中に埋め込まれた上記少なくとも1種の活性物質をそれぞれ含有する多数の粒子を調製する」(【0019】)、「続いて、分散液を最終的に噴霧乾燥塔(spray drying tower)に分配し、そこで分散液粒子をデンプンの薄層で被覆し、乾燥した。」(【0075】)及び「続いて、分散液を最終的に噴霧乾燥塔に分配し、そこで分散液粒子をデンプンの薄層で被覆し、乾燥する。」(【0086】)という記載(当審注:下線は当審が付した。以下同様。)に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1における脂溶性活性物質の含有量を「マイクロカプセルの総重量の0.01〜15%」に特定し、かつハイドロコロイドの含有量を「マイクロカプセルの重量の15〜80%」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、上記活性物質の含有量及び上記ハイドロコロイドの含有量を特定する訂正は、本件明細書等における「上記活性物質の含有量は、マイクロカプセルの全重量の0.01〜15%、・・・である。」(【0035】)という記載、及び「本発明に従って使用するマトリクスハイドロコロイドは、・・・である。量は、マイクロカプセルの重量の15〜80%、・・・を構成し得る。」(【0051】)という記載にそれぞれ基づくものである。
したがって、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3に伴い、請求項1又は請求項2を引用する請求項3における活性物質の含有量を示す「0.01〜15%、例えば0.1〜10%、0.2〜5%又は1〜3%」という記載から「0.01〜15%、例えば」を削除することにより、上記含有量を「0.01〜15%」から「0.2〜5%又は1〜3%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1により、請求項1における脂溶性活性物質の選択肢からビタミンK1が削除されてビタミンK2のみになったことに伴い、請求項1を引用する請求項21における「上記少なくとも1種の脂溶性活性物質がビタミンK2化合物であり、」との記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項5により請求項10が削除されたことに伴い、請求項11、14、15、16及び20において、請求項10を引用する記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

(8)独立特許要件について
請求項1〜21は、特許異議申立ての対象とされた請求項であるから、本件訂正請求による訂正事項1〜7に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は適用されない。

(9)小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同様第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜21〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求は認められるので、訂正後の請求項1〜21に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜21に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
以下:
A) ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含有する被覆されたマイクロカプセル、及び
B) 少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩
を含み、上記活性物質の合有量がマイクロカプセルの総重量の0.01〜15%であり、上記ハイドロコロイドの含有量がマイクロカプセルの重量の15〜80%である、組成物。
【請求項2】
上記少なくとも1種の脂溶性活性物質が、MK-6、MK-7若しくはMK-8又はこれらの混合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
上記活性物質の含有量が、マイクロカプセルの総重量の0.1〜10%、0.2〜5%又は1〜3%である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩がLi、Na、Mg、K、Ca、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo又はSeの塩から選択される、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩が、例えばハロゲン化物、酸化物、硝酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、グリセロリン酸塩、炭酸水素塩、ジヒドロリン酸塩若しくは無水リン酸塩等の任意の製薬上許容される塩、例えば炭酸カルシウム等のカルシウム塩、又は酸化マグネシウム等のマグネシウム塩である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
上記マイクロカプセルの含有量が、組成物の総重量の0.001〜15%、例えば0.01〜10%、例えば0.1〜6%である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩の含有量が、組成物の総重量の少なくとも10%、例えば少なくとも20%、例えば少なくとも30%である、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
ビタミンD2若しくはD3、ビタミンE若しくはE-酢酸塩、ビタミンA、一価不飽和若しくは多価不飽和脂肪酸、又はPUFA油、β-カロテン、ゼアキサンチン、リコペン、ルテイン又はQ10から選択される1種以上の更なる活性物質、特にビタミンD2若しくはD3を更に含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
以下:
・上記少なくとも1種の脂溶性活性物質としてMK-7形態のビタミンK2を含有する被覆されたマイクロカプセル、及び
・上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩の1種として炭酸カルシウム又は酸化マグネシウム
を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
上記活性物質の含有量が10〜500μg、例えば25〜250μg、例えば50〜200μgであり、上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩の含有量が投与形態の総重量の少なくとも10%、例えば少なくとも20%、例えば少なくとも30%である、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物を含む単位投与形態。
【請求項12】
一日単位投与形態(daily unit dosage form)である、請求項11記載の単位投与形態。
【請求項13】
以下のステップ:
・ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を10〜500μgの量で含有する被覆されたマイクロカプセルを、投与形態の総重量の少なくとも10重量%の少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩と配合し、
・得られた配合物を圧縮して錠剤を形成する
を含む、錠剤の形態の請求項11又は12記載の単位投与形態の調製方法。
【請求項14】
上記ハイドロコロイドがアカシアガム、タンパク質又はデンプンである、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
上記マトリクスが抗酸化剤及び/又は炭水化物を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜9、14及び15のいずれか1項記載の組成物を含む製品。
【請求項17】
食品、食品添加物(food supplement)、飲料、医薬品又は動物薬、飼料若しくは飼料添加物、パーソナルケア製品又は家庭用品であることを特徴とする、請求項16記載の製品。
【請求項18】
経口投与のための栄養補助食品又は医薬品である、請求項16又は17記載の製品。
【請求項19】
ビタミンK欠乏と関連する症状の治療、例えば骨粗しょう症及び動脈硬化症等の心臓血管系の症状の治療において、あるいは血液凝固の補助において使用するための、請求項16又は17記載の製品。
【請求項20】
上記活性物質を含有する錠剤の製造のための、請求項1〜9、14及び15のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項21】
上記ハイドロコロイドがアカシアガムである、請求項1記載の組成物。」

以下、訂正後の請求項1〜9、11〜21に係る発明をそれぞれ本件発明1〜9、11〜21といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。

第4 取消理由の概要

訂正前の請求項1〜21に係る特許に対して、当審から令和3年11月16日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

[取消理由1]
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するので、下記の請求項に係る本件特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・請求項1、3〜8、10、11、13、14、16〜20
・甲第2号証、及び本件優先日当時の技術常識(以下「技術常識」という。)

[取消理由2]
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるので、下記の請求項に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


(取消理由2−1)
・請求項1〜21
・甲第2号証、本件優先日当時の周知技術(以下「周知技術」という。)及び技術常識

(取消理由2−2)
・請求項1〜21
・甲第7号証、甲第8号証、周知技術及び技術常識

[申立人が提出した甲号証]
・甲第1号証:欧州特許出願公開第1106174号明細書及び抄訳文
・甲第2号証:国際公開第2005/056023号及び抄訳文
・甲第3号証:特表2009−511515号公報
・甲第4号証:特開2004−137278号公報
・甲第5号証:「Dry Vitamin K1 5% SD Manufacturing principle」, F.Hoffmann-La Roche Ltd,1987年9月30日,及び抄訳文
・甲第6号証:「Product Information Dry Vitamin K1 5% SD」,F.Hoffmann-La Roche Ltd,2001年5月30日,及び抄訳文
・甲第7号証:国際公開第2009/095240号及び抄訳文
・甲第8号証:「Kappa Bioscience Delivers New Microencapsulated Vitamin K2」,2013年11月1日(2021年7月12日閲覧),(https://www.nutritioninsight.com/news/kappa-bioscience-de1ivers-new-microencapsulated-vitamin-k2.html),及び抄訳文
・甲第9号証:「CARDIO QlO」,2013年10月3日(2021年7月9日閲覧),
(https://www.keypharm.com/index.php?l=FRA&ct=detail&h=37&s=14&c=&p=261&taalextra=),及び抄訳文
・甲第9号証の1:Googleの提供する検索エンジンを用い、キーワードを「Physalis Cardio QlO」及び「K2 VITAL Delta」と設定して検索した結果(2021年7月9日閲覧),(https://www.google.co.jp/search?q=Physalis+Cardio+Q10+K2VITAL+Delta&source=lnt&tbs=cdr%3Al%2Ccd_min%3A%2Ccd_max%3A5%2F4%2F2 014&tbm=#spf=l625877688928)
・甲第10号証:「PRODUCT DESCRIPTION AND SPECIFICATION SHEET K2VITAL(R) Delta」,Kappa Biosciences AS,及び抄訳文
(当審注:「(R)」はRの丸囲いを意味する。)
・甲第11号証:「Gum arabic」,Prepared at the 49th JECFA,
1997年(2021年年7月12日閲覧),(http://www.fao.org/3/w6355e/w6355e0g.htm#TopOfPage),及び抄訳文
・甲第1 1号証の1:「Compendium of Food Additive Specifications.Addendum 5.(FAO Food and Nutrition Paper-52 Add.5)」,1997年6月26日(2021年7月12日閲覧),(http://www.fao.org/3/w6355e/w6355e00.htm#Contents)
以下、申立人が提出した甲第1号証〜甲第11の1号証をそれぞれ甲1〜甲11の1のように記載する。

[職権探知により追加した、周知技術又は技術常識を示す文献A〜E]
・文献A:「入門講座 マイクロカプセルの化学」,オレオサイエンス,2001,Vol.1,No.9,p.949〜954
・文献B:「総説 ハイドロコロイドの基礎特性解析と食品への応用」,日本食品科学工学会誌,2011,Vol.58,No.4,p.137〜149
・文献C:「総合論文 ビタミンE類およびビタミンKの健康栄養機能」,オレオサイエンス,2007,Vol.7,No.10,p.413〜421
・文献D:特表2011-508591号公報
・文献E:「合成脂質を被覆した二重膜マイクロカプセルの調製とその徐放特性」,化学工学論文集,1996,22巻4号,p.923-926

第5 甲2を主引用例とする、本件発明1、3〜8、11、13、14、16〜20に対する取消理由1(新規性欠如)について、当審の判断

1 甲2に記載された発明
取消理由通知書の「第4 1」で説示したように、甲2における請求項1〜10、p.12の21〜25行、p.21の20〜21行、p.22の17〜18行、p.23〜24の実施例11〜14等の記載、特に実施例11のチュアブル錠剤の組成及び造粒方法等の記載(下記の表を参照。)から、甲2には以下の(1)〜(3)で示す甲2A〜甲2C発明が記載されていると認められる。
なお、甲2の原文では「Vitamin D3」、「Vitamin K2」等のように、ビタミン名称におけるアルファベット直後の数字は下付数字で記載されているが、日本語訳では「ビタミンD3」、「ビタミンK2」等のように通常数字で記載した(以下同様。)。



(当審注:上記表は、甲2のp.23〜24に記載される、実施例11〜14のチュアブル錠剤の組成及び造粒方法等を示す表を、日本語訳で記載したものである。)

(1)甲2A発明
「イヌリンとオリゴフルクトース(Raftilose Synergy 1) 211mg
難消化性デンプン(Actistar 11700) 211mg
炭酸カルシウム(Sturcal M) 1250mg
ビタミンD3(100 CWS) 2.2mg
ビタミンK1 5% SD 10mg
Duraromeピーチ風味 10mg
Duraromeバナナ風味 5mg
リンゴ酸 10mg
アスパルテーム 2mg
ステアリン酸マグネシウム 9mgを含む、
チュアブル錠剤(錠剤重量1720mg)。」

(2)甲2B発明
「チュアブル錠剤(錠剤重量1720mg)の製造のための、
イヌリンとオリゴフルクトース(Raftilose Synergy 1) 211mg
難消化性デンプン(Actistar 11700) 211mg
炭酸カルシウム(Sturcal M) 1250mg
ビタミンD3(100 CWS) 2.2mg
ビタミンK1 5% SD 10mg
Duraromeピーチ風味 10mg
Duraromeバナナ風味 5mg
リンゴ酸 10mg
アスパルテーム 2mg
ステアリン酸マグネシウム 9mgを含む組成物の使用。」

(3)甲2C発明
「イヌリンとオリゴフルクトース(Raftilose Synergy 1) 211mg
難消化性デンプン(Actistar 11700) 211mg
炭酸カルシウム(Sturcal M) 1250mg
ビタミンD3(100 CWS) 2.2mg
ビタミンK1 5% SD 10mg
Duraromeピーチ風味 10mg
Duraromeバナナ風味 5mg
リンゴ酸 10mg
アスパルテーム 2mg
ステアリン酸マグネシウム 9mgを配合するステップ、
及び、得られた配合物を直接圧縮して錠剤を形成するステップを含む、
チュアブル錠剤(錠剤重量1720mg)の調製方法。」

2 本件発明1と甲2A発明(組成物)との対比・判断

(1)本件発明1と甲2A発明(組成物)とを対比する。
甲2A発明の「炭酸カルシウム(Sturcal M)」は、本件発明1の「栄養素ミネラルの塩」に相当する。そして、甲2A発明の「チュアブル錠剤(錠剤重量1720mg)」は「組成物」であるから、本件発明1と甲2A発明(組成物)とは、
「A)ビタミンKから選択される1種の脂溶性活性物質、及び
B)少なくとも1種の栄養素のミネラルの塩
を含む組成物。」の発明である点で一致し、少なくとも下記の点(以下「相違点1」という。)で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、上記「A)成分」が「ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含有する被覆されたマイクロカプセル」であるのに対し、甲2発明Aでは、「ビタミンK1 5% SD」と称される成分である点。

(2)相違点1について検討する。

ア 甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」と称される成分(以下「ビタミンK1 5% SD」という。)について、甲2には、「ビタミンK1は、5%のビタミンK1を含有する乾燥物質であるDry VitaminK1 5% SDとしてRocheから入手可能である」(p.12の23〜24行)と記載されている。
他方、甲5には「Dry Vitamin K1 5% SD」と称される成分について記載されており、甲5の「F.Hoffmann-La Roche Ltd」という記載から、上記「Dry Vitamin K1 5% SD」はビタミンK1を含む、Roche社から入手可能な成分であるといえるので、甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」は、甲5に記載の「Dry Vitamin K1 5% SD」と同一成分であると解される。

イ 続いて、甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」(甲5の「Dry Vitamin K1 5% SD」)の形態について検討する。

(ア)甲5には、「Dry Vitamin K1 5% SD」の製造原理について、「ビタミンK1(フィトメナジオン)を、アカシアとスクロースの水溶液に乳化する。このエマルションを噴霧乾燥し、得られた粉末を容器に充填する。」と記載されている。

(イ)ここで、脂溶性物質と膜物質(マトリクス成分)を含むエマルションを乾燥してマイクロカプセルを製造すること(文献A(全文)及び文献D(【請求項10】及び実施例等)、甲5に記載の「アカシア」はアラビアガムと同義であること(甲11のp.1の1及び5行)、及びアラビアガムがハイドロコロイドの製造に用いられる成分であること(文献Bのp.138左欄第3段落等)は、いずれも技術常識である。

(ウ)また、甲1には、各種の脂溶性ビタミンと、アラビアガム等のマトリクス成分とを含むエマルションを噴霧乾燥して得られた粉末組成物において、上記組成物中の脂溶性ビタミンが、マトリクス成分中に約70〜約200ナノメートル(nm)の平均直径を有する液滴の形態で存在していること(p.2の29〜34行、p.3の56〜67行、p.4の35〜37行及び54〜56行、p.5の5〜7行、22〜25行及び30〜43行、p.6の28〜29行及び51〜54行、p.8の41行〜p.9の1行、p.9の18〜23行、p.11の16〜26行、p.12の1〜4行、10〜45行及び51〜56行等)が記載されているところ、上記「マトリクス成分中に約70〜約200ナノメートル(nm)の平均直径を有する液滴の形態」はマイクロカプセルの形態であるから、脂溶性ビタミンを、アラビアガム等のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたマイクロカプセルの形態にすることは、周知技術である。
さらに、脂溶性ビタミン等の脂溶性活性物質をマイクロカプセルの形態にする際に、スクロース等のマトリクス成分を用いることは、周知技術である(文献Dの【0031】及び【0055】等)。

(エ)上記(ア)〜(ウ)から、当業者は、甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」(甲5の「Dry Vitamin K1 5% SD」)は、ビタミンK1(フィトメナジオン)を、ハイドロコロイドを構成するアカシア(アラビアガム)と、マトリクス成分であるスクロースの水溶液に乳化したエマルジョンを噴霧乾燥して得られた、ハイドロコロイドを構成するアカシア(アラビアガム)及び他のマトリクス成分であるスクロースを含むマトリクス中にビタミンK1が埋め込まれたマイクロカプセルの形態であることを、理解するといえる。

ウ しかし、甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」(甲5の「Dry Vitamin K1 5% SD」)が、脂溶性活性物質として本件発明1の「ビタミンK2」を含まないことは、明らかである。
また、甲2及び甲5には、甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」(甲5の「Dry Vitamin K1 5% SD」)が、本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」であることについて記載も示唆もなく、「被覆されたマイクロカプセル」であることが自明な事項であるともいえない。

(3)上記(2)ウで説示したように、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。

3 本件発明3〜8、14、16〜19と甲2A発明(組成物)との対比・判断
本件発明3〜8、14、16〜19は、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項に係る発明であり、いずれもビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、上記各発明は、甲2A発明とは少なくとも相違点1と同様の点で相違する。
そうすると、上記2で説示した理由により、甲2A発明が本件発明3〜8、14、16〜19と相違することは明らかである。
したがって、本件発明3〜8、14、16〜19は、甲2に記載された発明ではない。

4 本件発明11と甲2A発明(組成物)との対比・判断
本件発明11は、請求項1、あるいは請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜9のいずれか1項に記載の組成物を含む単位投与形態に係る発明である。
そして、甲2の「ビタミンK1は1回の投与で0.05〜5mgのビタミンK1を与えるために含まれる」(p.12の25行)という記載から、甲2A発明のチュアブル錠剤(錠剤重量1720mg)は「単位投与形態」であるといえる。
しかし、本件発明11は、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、本件発明11と甲2A発明とは少なくとも相違点1と同様の点で相違する。
そうすると、上記2で説示した理由により、甲2A発明が本件発明11と相違することは、明らかである。
したがって、本件発明11は、甲2に記載された発明ではない。

5 本件発明13と甲2C発明(調製方法)との対比・判断
本件発明13は、錠剤の形態の請求項11又は12記載の単位投与形態の調整方法に係る発明であり、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを用いるものであるから、本件発明13と甲2C発明とは、少なくとも相違点1と同様の点で相違している。
そうすると、上記2で説示した理由により、甲2C発明が本件発明13と相違することは、明らかである。
したがって、本件発明13は、甲2に記載された発明ではない。

6 本件発明20と甲2B発明(組成物の使用)と対比・判断
本件発明20の「上記活性物質」は、請求項20が引用する「請求項1〜9、14及び15のいずれか1項記載の組成物」が有する「ビタミンK2」であり、本件発明20は、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、本件発明20と甲2B発明とは、少なくとも相違点1と同様の点で相違している。
そうすると、上記2で説示した理由により、甲2B発明が本件発明20と相違することは、明らかである。
したがって、本件発明20は、甲2に記載された発明ではない。

7 まとめ
よって、本件発明1、3〜8、11、13、14、16〜20は、甲2に記載された発明ではない。

第6 甲2を主引用例とする、本件発明1〜9、11〜21に対する取消理由2−1(進歩性欠如)について、当審の判断

1 本件発明1〜9、14〜19、21と甲2A発明(組成物)との対比・判断

(1)本件発明1について
本件発明1と、甲2A発明(組成物)とは、
「A)ビタミンKから選択される1種の脂溶性活性物質、及び
B)少なくとも1種の栄養素のミネラルの塩
を含む組成物。」の発明である点で一致し、少なくとも下記の相違点1で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、上記「A)成分」が「ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含有する被覆されたマイクロカプセル」であるのに対し、甲2発明Aでは、「ビタミンK1 5% SD」である点。
なお、上記相違点1は、上記第5の2(1)で説示した相違点1と同内容である。

そこで、相違点1について検討する。
ア 「ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質」を用いることについて

(ア)甲2には、甲2A発明の「チュアブル錠剤(錠剤重量1720mg)」は、高齢者集団におけるビタミンKの低い摂取レベルに起因する骨密度低下や骨折等の予防/又は治療等に用いることが記載されている(p.12の21〜23行)。

(イ)甲7には、骨粗鬆症等の疾患の予防/又は治療に用いる栄養組成物におけるビタミンK供給源として、7〜13個の(MK-7〜MK-13)イソプロペノイド残基を含むビタミンK2(メナキノン)を用いることが記載されている(p.1の14〜22行、p.5の9〜18行、p.7の31行〜p.8の11行、p.12の23行〜p.13の6行、p.14の10〜25行、p.28の24〜27行等)。

(ウ)甲8(全文)には、ビタミンK2(MK-7)を二重層でコーティングしたマイクロカプセルである「K2VITAL Delta」と称される成分(2013年に発売)、及び上記「K2VITAL Delta」に含まれるビタミンK2(MK-7)の安定性が非常に優れていることが記載されており、そして、さらに甲9(全文)には、上記「K2VITAL Delta」と称される成分は血液凝固に関与する成分であり、栄養補助食品の成分として用いられることが記載されている。

(エ)さらに、骨粗鬆症若しくは動脈硬化等のようにビタミンK欠乏と関連する症状の予防又は治療、及び血液凝固補助等のために、ビタミンK1やビタミンK2(メナキノン-n,MK-n)を摂取することは、技術常識である(文献Cにおける「5 ビタミンK」の項目を参照。)。

イ 「被覆されたマイクロカプセル」にすることについて

(ア)本件発明は、脂溶性活性物質であるビタミンK2が栄養素ミネラル塩(特にカルシウム又はマグネシウム塩)との存在下で分解することを回避するために、ビタミンK2を本件発明で特定される被覆されたマイクロカプセルの形態で含む組成物を提供することを特徴するものである(特に、本件明細書の【0009】〜【0011】)。
他方、甲2A発明の「ビタミンK1 5% SD」(甲5の「Dry Vitamin K1 5% SD」)が、ビタミンK1(フィトメナジオン)を含むマイクロカプセル(ただし、被覆されたマイクロカプセルではない。)の形態であることは、上記第5の2(2)ア及びイで説示したとおりである。
しかし、甲2には、市販されたマイクロカプセルである上記「ビタミンK1 5% SD」を用いる理由について記載も示唆もなく、脂溶性活性物質であるビタミンK1が栄養素ミネラル塩の存在下で分解することについて記載も示唆もない。

(イ)ここで、甲8(全文)には、ビタミンK2(MK-7)を二重層でコーティングしたマイクロカプセルである「K2VITAL Delta」と称される製品(2013年に発売)について、「K2VITAL Delta」を用いることにより、カルシウムやその他のミネラルが含まれる最終消費者製品において、MK-7(ビタミンK2)の95%以上の回収率が達成されたことが記載されている。
しかし、甲8は「K2VITAL Delta」と称される製品のプレスリリースであって、甲8には、「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」の具体的な構成及び製造方法は何ら記載されていないので、上記「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」が、マイクロカプセルを更に二重層でコーティング(被覆)したものであるのか 、あるいは、内容物を二重層でコーティング(被覆)することによりマイクロカプセルとしたものであるのか、明らかではない。
したがって、甲8に記載される「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」が、本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」に相当するとはいえない。

(ウ)そうすると、甲8の記載を参酌しても、栄養素ミネラル塩の存在下で、ビタミンK1又はK2のような脂溶性活性物質が分解することを回避するために、脂溶性活性物質を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることが、周知技術又は技術常識であるとはいえない。

ウ 以上のように、ビタミンK2は周知の脂溶性活性物質であること(上記ア)を参酌しても、甲2には、市販されたマイクロカプセルである上記「ビタミンK1 5% SD」を用いる理由及び脂溶性活性物質であるビタミンK1が栄養素ミネラル塩の存在下で分解することについて記載も示唆もなく(上記イ(ア))、栄養素ミネラル塩の存在下で、ビタミンK1又はK2のような脂溶性活性物質が分解することを回避するために、脂溶性活性物質を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることは周知技術又は技術常識ではない(上記イ(ウ))。
よって、甲2、甲7〜甲9の記載、周知技術及び技術常識を参酌しても、甲2A発明の脂溶性活性物質としてビタミンK1に代えてビタミンK2から選択される少なくとも1種を採用するとともに、栄養素ミネラル塩の存在下でビタミンK2が分解することを回避するために、ビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることにより、甲2A発明を相違点1を含む本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(2)本件発明2〜9、14〜19、21について
本件発明2〜9、14〜19、21は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、MK-7等のビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、上記各発明は、甲2A発明と少なくとも相違点1と同様の点で相違している。
そうすると、上記(1)で説示した理由により、甲2A発明を本件発明2〜9、14〜19、21の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

2 本件発明11、12と甲2A発明(組成物)との対比・判断
本件発明11、12は、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物を引用する単位投与形態である。
そして、本件発明11、12は、MK-7等のビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、上記各発明は、甲2A発明と少なくとも相違点1と同様の点で相違している。
そうすると、上記1(1)で説示した理由により、甲2A発明を本件発明11、12の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

3 本件発明13と甲2C発明(調製方法)との対比・判断
本件発明13は、錠剤の形態の請求項11又は12記載の単位投与形態の調整方法に係る発明であり、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを用いるものであるから、本件発明13は、甲2C発明と少なくとも相違点1と同様の点で相違している。
そうすると、上記1(1)で説示した理由により、甲2C発明を本件発明13の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

4 本件発明20と甲2B発明(組成物の使用)と対比・判断
本件発明20の「上記活性物質」は、請求項20が引用する「請求項1〜9、14及び15のいずれか1項記載の組成物」が有する「ビタミンK2」であり、本件発明20は、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、本件発明20は、甲2B発明と少なくとも相違点1と同様の点で相違している。
そうすると、上記1(1)で説示した理由により、甲2B発明を本件発明20の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

5 本件発明の効果について
本件明細書の実施例1では、「そこで分散液粒子をデンプンの薄層で被覆し」(【0075】)と記載されているように、ビタミンK2(MK-7)をデンプンの薄層により被覆されたマイクロカプセルが調製されている。
また、本件明細書の実施例2では栄養素ミネラル塩(MgO)と上記被覆されたマイクロカプセルとを含む本件発明の組成物が製造され(【0078】)、実施例3では栄養素ミネラル塩(CaCO3)と上記被覆されたマイクロカプセルとを含む本件発明の組成物が製造されている(【0082】)。
さらに、本件明細書には、ビタミンK2をデンプンの薄層で被覆されたマイクロカプセル中に含み、ビタミンK2の含有量やハイドロコロイドの含有量を特定した、栄養素ミネラル塩が共存している実施例2及び3の組成物(本件発明の組成物)では、ビタミンK2を粉末の形態で含み、栄養素ミネラル塩が共存している比較例2及び3の組成物(【0077】、【0079】)よりも、ビタミンK2の安定性が高いという効果(以下「本件発明の効果」という。)が奏されたことが記載されている(【0081】、【0085】、【0096】〜【0103】)。
そして、マイクロカプセル中の脂溶性活性物質の安定性が向上すること(文献Dの【0002】、【0013】及び【0025】等)を考慮しても、栄養素ミネラル塩の存在下で、ビタミンK1又はK2のような脂溶性活性物質が分解することを回避するために、脂溶性活性物質を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることは周知技術又は技術常識ではないのであるから、本件発明の効果を当業者が予測し得たとはいえない。

6 まとめ
したがって、本件発明1〜9、11〜21は、甲2A〜C発明、甲2の記載、周知技術及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 甲7を主引用例とする、本件発明1〜9、11〜21に対する取消理由2−2(進歩性欠如)について、当審の判断

1 甲7に記載された発明
取消理由通知書の「第6 1」で説示したように、 甲7における請求項1及び請求項24、p.1の14〜22行、p.5の32行〜p.6の4行、p.7の10〜17行、p.7の20〜27行、 p.7の31行〜p.8の11行、p.9の18行〜24行、p.10の26行〜p.11の2行、p.12の23行〜p.13の6行、p.14の10〜25行、特に請求項1の記載から、甲7には以下の発明が記載されていると認められる。

「1種又は複数の乳由来の部分及び/又は構成要素、任意選択的に1種又は複数のプレバイオティクス、任意選択的に、1つ以上のカルシウム及び/又はマグネシウム塩、及び7〜13のイソプロペノイド残基(MK-7〜MK-13)を含むビタミンK2(メナキノン)を含有する、栄養組成物。」(以下「甲7発明」という。)

2 本件発明1について

(1)甲7発明における「7〜13のイソプロペノイド残基(MK-7〜MK-13)を含むビタミンK2(メナキノン)」、及び「カルシウム及び/又はマグネシウム塩」は、本件発明1における「脂溶性活性物質」である「ビタミンK2」、及び「栄養素ミネラルの塩」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲7発明とは、「ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質及び少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩を含む組成物。」の発明である点で一致し、少なくとも以下の点(以下「相違点2」という。)で相違する。

(相違点2)
本件発明1において、ビタミンK2は「ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれた」「被覆されたマイクロカプセル」の形態で存在することが特定されているのに対し、甲7発明ではこのような特定がされていない点。

(2)相違点2について検討する。

ア 甲7には、ビタミンK2が栄養素ミネラル塩の存在下で分解すること、及びビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることについて、記載も示唆もない。

イ ここで、脂溶性ビタミンを、ハイドロコロイドを構成するアラビアガム等のマトリクス成分とを含むマトリクス中に埋め込まれたマイクロカプセルの形態にすること、及び脂溶性ビタミン等の脂溶性活性物質をマイクロカプセルの形態にする際に、スクロース等のマトリクス成分を用いることは周知技術であるが(上記第5の2(2)イ)、甲8の記載を参酌しても、栄養素ミネラル塩の存在下で、ビタミンK1又はK2のような脂溶性活性物質が分解することを回避するために、脂溶性活性物質を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることが周知技術又は技術常識ではないことは、上記第6の1(2)イで説示したとおりである。

ウ そうすると、マイクロカプセル中の脂溶性活性物質は安定性が向上すること(文献Dにおける【0002】、【0013】及び【0025】等を参照。)を考慮しても、甲7発明において、栄養素ミネラル塩の存在下で「ビタミンK2」の安定性を向上させるために、「ビタミンK2」を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させて、甲7発明を相違点2を含む本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

3 本件発明2〜9、11〜21について
本件発明2〜9、14〜19、21は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、MK-7等のビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含む被覆されたマイクロカプセルを有するものであるから、上記各発明と甲7発明とは、少なくとも相違点2と同様の点で相違する。
そうすると、上記2で説示した理由により、甲7発明を本件発明2〜9、11〜21の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

4 本件発明の効果について
本件発明の効果が、当業者が予測し得たものであるとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりである。

5 申立人の主張について

(1)申立人は、本件特許に対応する国際公開第2015/169816号における「a coating materials」(p.6の29行)及び「coatings」(p.9の1行)との記載が、本件明細書では「被覆材料」(【0019】)及び「被覆」(【0029】)とそれぞれ訳されていることに鑑みれば、甲8における「double-coated」(本文1行)とは、マイクロカプセルが「二重に被覆された」ことを意味すると理解するのが自然であるから、甲8には「被覆されたマイクロカプセル」が記載されている、という趣旨の主張をしている(令和4年5月2日提出の意見書の「4(1)」)。
そこで、上記主張について検討する。
第6の1(1)イで説示したように、甲8は「K2VITAL Delta」と称される製品のプレスリリースであって、甲8には、「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」の具体的な構成及び製造方法は何ら記載されていないので、上記「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」が、マイクロカプセルを更に二重層でコーティング(被覆)したものであるのか 、あるいは、内容物を二重層でコーティング(被覆)することによりマイクロカプセルとしたものであるのか、明らかではない。
そして、例えば文献E(特にp.924左欄の「2.1 二重膜マイクロカプセルの形態」の項目)に記載される「ナイロン-ポリスチレン二重膜マイクロカプセル」のように、マイクロカプセル自体の膜が二重構造となる場合があることを考慮すると、甲8の「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」が、マイクロカプセルを更に二重層でコーティング(被覆)して得られたものであると、限定解釈することはできない。
したがって、申立人の上記主張を考慮しても、甲8に記載される「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」が、本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」に相当するとはいえない。

(2)申立人は、マイクロカプセルに含まれる活性物質の含有量及びハイドロコロイドの含有量を最適化することに何ら技術的な困難性はなく、また、本件明細書には、活性物質の含有量をマイクロカプセルの総重量の0.01〜15%とし、ハイドロコロイドの含有量をマイクロカプセルの重量の15〜80%としたことによる格別顕著な効果は何ら示されていない、という趣旨の主張をしている(令和4年5月2日提出の意見書の「4(2)」)。
そこで、上記主張について検討する。
ビタミンK2を被覆されたマイクロカプセル中に含み、ビタミンK2の含有量やハイドロコロイドの含有量を特定した、栄養素ミネラル塩が共存している本件発明の組成物において奏された効果を当業者が予測し得たとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりであり、申立人の上記主張を参酌しても、甲7発明、甲7及び甲8の記載、周知技術及び技術常識から、本件発明の効果を当業者が予測し得たとはいえない。

6 まとめ
よって、本件発明1〜9、11〜21は、甲7発明、甲7及び甲8の記載、周知技術及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第8 取消理由通知で採用しなかった、特許異議申立書で主張された特許異議申立理由について

1 甲1を主引用例とする新規性欠如
申立人は、請求項1、3〜5、8、14〜18に係る発明に対する、甲1を主引用例とする新規性欠如の理由を主張しているので、以下に検討する。

(1)甲1に記載された発明
甲1における、請求項1、p.2の29〜34行、p.3の56〜67行、p.4の35〜37行及び54〜56行、p.5の5〜7行、22〜25行及び30〜43行、p.6の28〜29行及び51〜54行、p.8の41行〜p.9の1行、p.9の18〜23行、p.11の16〜26行、p.12の1〜4行、10〜45行及び51〜56行等の記載、特に請求項1の記載から、甲1には、「少なくとも1つの脂溶性ビタミンを含む粉末組成物であって、前記ビタミンは、乳化能を有する天然多糖ガム、乳化能を有する前記ガム及び/又はタンパク質の混合物、あるいは乳化能を有するタンパク質の混合物のマトリックス中に、約70〜約200nmの範囲内の平均直径を有する液滴の状態で分散されている、前記組成物。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1と甲1発明との対比・判断
甲1発明における「乳化能を有する天然多糖ガム、乳化能を有する前記ガム及び/又はタンパク質の混合物、あるいは乳化能を有するタンパク質の混合物のマトリックス」は、本件発明1における「ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス」に相当する。
また、甲1における「液滴の平均直径が約70〜 約200ナノメートル・・・であり、本明細書に定義されるマトリックス中に分散された脂溶性ビタミンの液滴を含む本発明の粉末組成物は・・・直径約70〜約200nmの平均サイズを有する液滴からなるビタミン補充エマルジョンを得る工程、及び(e)工程(d)のエマルジョンを乾燥して、平均粒径が約70〜約200ナノメートルであり、かつマトリックス成分中に分散している脂溶性ビタミンの液滴を含む粉末組成物を得る工程によつて製造することができる。」(p.8の41行〜p.9の1行)という記載、及び甲1の実施例1(p.11の16〜26行)等における液滴の製造工程に関する記載から、甲1発明における「約70〜約200nmの範囲内の平均直径を有する液滴の状態」は、「マイクロカプセル」の形態であると認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれた脂溶性ビタミンを含有するマイクロカプセルを含む、組成物。」の発明である点で一致し、少なくとも下記の点(以下「相違点3」という。)点で、相違する。

(相違点3)
本件発明1は、脂溶性活性物質としてビタミンK2から選択される少なくとも1種を含む被覆されたマイクロカプセル、及び栄養素ミネラル塩を含む組成物であることが特定されているのに対し、甲1発明では、これらの特定がされていない点。

そして、上記相違点3が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

(3)本件発明3〜5、8、14〜18について
本件発明3〜5、8、14〜18と甲1発明とが、少なくとも上記相違点3と同様の点で相違することは明らかである。
したがって、本件発明3〜5、8、14〜18は、甲1に記載された発明ではない。

(4)小括
よって、本件発明1、3〜5、8、14〜18に対する、甲1を主引用例とする新規性欠如の理由はない。

2 甲1を主引用例とする進歩性欠如
申立人は、請求項1〜21に係る発明に対する、甲1を主引用例とする進歩性欠如の理由を主張しているので、以下に検討する。

本件発明1〜9、11〜21の各発明と甲1発明とは、少なくとも上記1(2)で説示した相違点3と同様の点で相違する。
そこで、相違点3について検討する。
甲1には、脂溶性ビタミンの例として、ビタミンK1(フィトメナジオン)は記載されているが(p.4の35〜37行)、ビタミンK2は記載されておらず、クエン酸ナトリウムやリン酸一カリウムのような栄養素ミネラル塩を用いることは記載されているが(p.6の51〜54行)、栄養素ミネラル塩の存在下で脂溶性ビタミンの安定性を向上させるために、脂溶性ビタミンを「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることについて記載も示唆もない。
そして、さらに甲2、甲7〜甲9の記載、周知技術及び技術常識を参酌しても、甲1発明の脂溶性ビタミンとしてビタミンK2から選択される少なくとも1種を採用するとともに、栄養素ミネラル塩の存在下でビタミンK2が分解することを回避するために、ビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることにより、甲1発明を本件発明1〜9、11〜21の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、当業者が本件発明の効果を予測し得たとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりである。
したがって、本件発明1〜9、11〜21は、甲1発明、甲1、甲2、甲7〜甲9の記載、周知技術及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明1〜9、11〜21に対する、甲1を主引用例とする進歩性欠如の理由はない。

3 甲3を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如
申立人は、請求項1〜21に係る発明に対する、甲3を主引用例とする進歩性欠如の理由を主張しているので、以下に検討する。
甲3(特に請求項1を引用する請求項6)には、「鉄ポリマルトース及びカルボニル鉄からなる群から選択される鉄供給源、及び/又は、銅供給源としてのクエン酸銅、少なくとも1種のさらなる無機物及び/又はビタミンを含む、経口用組成物。」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、本件発明1〜9、11〜21の各発明と甲3発明とは、少なくとも上記1(2)で説示した相違点3と同様の点で相違する。
そこで、相違点3について検討する。
甲3には、「ビタミンK1 5% SD」等の各種ビタミンを用いた実施例(【0033】の【表4】等)が記載されているが、ビタミンK2から選択される少なくとも1種を用いること、及び上記鉄供給源及び/又は銅供給源の存在下での分解を回避するために、ビタミンを被覆されたマイクロカプセル中に含むものとして組成物中に存在させることについては記載も示唆もない。
そして、上記第6の1(1)と同様の理由により、甲3発明のビタミンとしてビタミンK1に代えてビタミンK2から選択される少なくとも1種を採用するとともに、栄養素ミネラル塩の存在下でビタミンK2が分解することを回避するために、ビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることにより、甲3発明を本件発明1〜9、11〜21の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、当業者が本件発明の効果を予測し得たとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりである。
よって、本件発明1〜9、11〜21に対する、甲3を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如の理由はない。

4 甲4を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如
申立人は、請求項1〜21に係る発明に対する、甲4を主引用例とする進歩性欠如の理由を主張しているので、以下に検討する。
甲4(特に請求項1)には、
「下記の(a)〜(c)のステップ、
(a)基礎原料成分である、水、脂肪、少なくとも1種類の窒素含有成分及びイソマルトゥロース内包の炭水化物を準備するステップ、及び
(c)基礎原料成分を温度≧135℃で10〜30秒間パストゥール殺菌処理するステップ、
さらに、パストゥール殺菌処理の前か後に置かれる基礎原料成分の均質化のための作業ステップ(b)
を含む方法により製造された、イソマルトゥロース含有腸内栄養物。」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、本件発明1〜9、11〜21の各発明と甲4発明とは、少なくとも上記1(2)で説示した相違点3と同様の点で相違する。
そこで、相違点3について検討する。
甲4には、「ビタミンK1 5% SD」等の各種ビタミンを用いた実施例(【0032】等)が記載されているが、ビタミンK2から選択される少なくとも1種を用いること、及び栄養素ミネラル塩の存在下での分解を回避するために、ビタミンを被覆されたマイクロカプセル中に含むものとして組成物中に存在させることについては記載も示唆もない。
そして、上記第6の1(1)と同様の理由により、甲4発明のビタミンとしてビタミンK1に代えてビタミンK2から選択される少なくとも1種を採用するとともに、栄養素ミネラル塩の存在下でビタミンK2が分解することを回避するために、ビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることにより、甲4発明を本件発明1〜9、11〜21の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、当業者が本件発明の効果を予測し得たとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりである。
よって、本件発明1〜9、11〜21に対する、甲4を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如の理由はない。

5 甲8を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如
申立人は、請求項1〜21に係る発明に対する、甲8を主引用例とする進歩性欠如の理由を主張しているので、以下に検討する。

(1)甲8(全文)には、ビタミンK2(MK-7)を二重層でコーティングしたマイクロカプセルである「K2VITAL Delta」と称される製品(2013年に発売)について、「K2VITAL Delta」を用いることにより、カルシウムやその他のミネラルが含まれる最終消費者製品において、MK-7(ビタミンK2)の95%以上の回収率が達成されたことが記載されている。
そうすると、甲8には、「ビタミンK2、カルシウムやその他のミネラルを含む組成物であって、二重層でコーティングしたマイクロカプセル中にビタミンK2が含まれている、前記組成物。」の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、甲8発明の「カルシウムやその他のミネラル」は本件発明の「栄養素ミネラル塩」に相当するので、本件発明1〜9、11〜21の各発明と甲8発明とは、「ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含有するマイクロカプセル、及び少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩を含む、組成物。」の発明である点で一致し、少なくとも下記の相違点4及び5の点で相違する。

(相違点4)
マイクロカプセルが、上記各発明では「被覆されたマイクロカプセル」であるのに対し、甲8発明では「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」である点。

(相違点5)
上記各発明では、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質の含有量、及びマイクロカプセルに含まれるハイドロコロイドの含有量が特定されているのに対し、甲8発明では、これらの含有量が特定されていない点。

(2)相違点4及び5について検討する。
上記第6の1(1)イ(イ)で説示したように、甲8の「二重層でコーティングしたマイクロカプセル」が、本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」に相当するとはいえない。
そして、甲8の記載を参酌しても、栄養素ミネラル塩の存在下で、ビタミンK1又はK2のような脂溶性活性物質が分解することを回避するために、脂溶性活性物質を本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることが、周知技術又は技術常識であるとはいえない。
さらに、甲8には、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質の含有量、及びマイクロカプセルに含まれるハイドロコロイドの含有量のいずれについても記載されていない。
そうすると、上記第6の1(1)と同様の理由により、甲8発明のビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることを、当業者が容易に想到し得たとはいえないし、甲8発明において相違点4及び5に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
同様の理由により、甲8発明を本件発明2〜9、11〜21の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、当業者が本件発明の効果を予測し得たとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりである。

(3)申立人による、甲8に記載された事項についての主張について
申立人は、甲8に記載される「K2VITAL Delta」は、甲10に記載される「K2VITAL(R) Delta」と称されるビタミンK2(MK-7)を含むマイクロカプセルの製品であり、当該製品はビタミンK2(MK-7)に加えて、糖、デンプン、アカシアガム等を含むことが記載されているので、甲8には「アカシアガム及びデンプン(ハイドロコロイド)並びに糖(他のマトリクス成分)を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2(MK-7)を含有するマイクロカプセル」が記載されているに等しい、という趣旨の主張をしている(特許異議申立書p.90の(オ−1)の2〜3段落)。
そこで、上記主張について検討する。
甲10の記載及び令和3年7月13日提出の証拠説明書の記載を参酌しても、甲10が、日本国内又は外国において頒布された日又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった日(以下「公知日」という。)が不明であるので、甲10の記載を根拠として、甲8に「アカシアガム及びデンプン(ハイドロコロイド)並びに糖(他のマトリクス成分)を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2(MK-7)を含有するマイクロカプセル」が記載されているとはいえない。
そして、仮に、甲10の公知日が本件優先日前であり、甲10の記載を参酌したしても、相違点4に関し、依然として甲8に記載される「K2VITAL Delta」と称されるマイクロカプセルが、ビタミンK2を含有する本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」に相当するとはいえず、また、相違点5に関し、甲10にはマイクロカプセルに含まれるハイドロコロイドの含有量は記載されていない。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(4)よって、本件発明1〜9、11〜21に対する、甲8を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如の理由はない。

6 甲9を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如
申立人は、請求項1〜21に係る発明に対する、甲9を主引用例とする進歩性欠如の理由を主張しているので、以下に検討する。

(1)甲9(全文)には、「ビタミンK2(MK-7)を含む「K2VITAL(R) Delta」と称される製品と、カリウム、マグネシウム等の栄養素ミネラルの塩を含有する「Physalis Cardio Q10(R)」と称される栄養補助食品。」の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、本件発明1〜9、11〜21の各発明と甲9発明とは、少なくとも上記5で説示した相違点4及び5の点で相違する。

(2)相違点4及び5について検討する。
甲9に記載される「K2VITAL(R) Delta」と称される製品は、ビタミンK2(MK-7)を二重コーティングした「K2VITAL Delta」と称されるマイクロカプセル(甲8)であると解されるが、甲8及び甲10の記載を参酌しても、上記「K2VITAL Delta」と称されるマイクロカプセルが、ビタミンK2を含有する本件発明1の「被覆されたマイクロカプセル」に相当するとはいえないことは、上記5(3)及び第6の1(1)イ(イ)で説示したとおりである。
さらに、甲9には、ビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質の含有量、及びマイクロカプセルに含まれるハイドロコロイドの含有量のいずれについても記載されていない。
そうすると、上記第6の1(1)と同様の理由により、甲9発明のビタミンK2を「被覆されたマイクロカプセル」の形態で組成物中に存在させることを、当業者が容易に想到し得たとはいえないし、甲9発明において相違点4及び5に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
同様の理由により、甲9発明を本件発明2〜9、11〜21の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、当業者が本件発明の効果を予測し得たとはいえないことは、上記第6の5で説示したとおりである。
よって、本件発明1〜9、11〜21に対する、甲9を主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如の理由はない。

7 まとめ
上記1〜6のとおり、取消理由通知で採用しなかった上記1〜6の理由によっても、本件発明1〜9、11〜21に係る特許を取り消すことはできない。

第9 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1〜9、11〜21に係る特許を取り消すことはできない。そして、ほかに本件発明1〜9、11〜21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、上記「第2」で説示したとおり、請求項10は訂正により削除された。これにより、請求項10に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
A) ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を含有する被覆されたマイクロカプセル、及び
B) 少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩
を含み、上記活性物質の含有量がマイクロカプセルの総重量の0.01〜15%であり、上記ハイドロコロイドの含有量がマイクロカプセルの重量の15〜80%である、組成物。
【請求項2】
上記少なくとも1種の脂溶性活性物質が、MK−6、MK−7若しくはMK−8又はこれらの混合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
上記活性物質の含有量が、マイクロカプセルの総重量の0.1〜10%、0.2〜5%又は1〜3%である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩がLi、Na、Mg、K、Ca、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo又はSeの塩から選択される、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩が、例えばハロゲン化物、酸化物、硝酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、グリセロリン酸塩、炭酸水素塩、ジヒドロリン酸塩若しくは無水リン酸塩等の任意の製薬上許容される塩、例えば炭酸カルシウム等のカルシウム塩、又は酸化マグネシウム等のマグネシウム塩である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
上記マイクロカプセルの含有量が、組成物の総重量の0.001〜15%、例えば0.01〜10%、例えば0.1〜6%である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩の含有量が、組成物の総重量の少なくとも10%、例えば少なくとも20%、例えば少なくとも30%である、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
ビタミンD2若しくはD3、ビタミンE若しくはE−酢酸塩、ビタミンA、一価不飽和若しくは多価不飽和脂肪酸、又はPUFA油、β−カロテン、ゼアキサンチン、リコペン、ルテイン又はQ10から選択される1種以上の更なる活性物質、特にビタミンD2若しくはD3を更に含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
以下:
・上記少なくとも1種の脂溶性活性物質としてMK−7形態のビタミンK2を含有する被覆されたマイクロカプセル、及び
・上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩の1種として炭酸カルシウム又は酸化マグネシウム
を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
上記活性物質の含有量が10〜500μg、例えば25〜250μg、例えば50〜200μgであり、上記少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩の含有量が投与形態の総重量の少なくとも10%、例えば少なくとも20%、例えば少なくとも30%である、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物を含む単位投与形態。
【請求項12】
一日単位投与形態(daily unit dosage form)である、請求項11記載の単位投与形態。
【請求項13】
以下のステップ:
・ハイドロコロイド及び任意に1種以上の他のマトリクス成分を含むマトリクス中に埋め込まれたビタミンK2から選択される少なくとも1種の脂溶性活性物質を10〜500μgの量で含有する被覆されたマイクロカプセルを、投与形態の総重量の少なくとも10重量%の少なくとも1種の栄養素ミネラルの塩と配合し、
・得られた配合物を圧縮して錠剤を形成する
を含む、錠剤の形態の請求項11又は12記載の単位投与形態の調製方法。
【請求項14】
上記ハイドロコロイドがアカシアガム、タンパク質又はデンプンである、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
上記マトリクスが抗酸化剤及び/又は炭水化物を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜9、14及び15のいずれか1項記載の組成物を含む製品。
【請求項17】
食品、食品添加物(food supplement)、飲料、医薬品又は動物薬、飼料若しくは飼料添加物、パーソナルケア製品又は家庭用品であることを特徴とする、請求項16記載の製品。
【請求項18】
経口投与のための栄養補助食品又は医薬品である、請求項16又は17記載の製品。
【請求項19】
ビタミンK欠乏と関連する症状の治療、例えば骨粗しょう症及び動脈硬化症等の心臓血管系の症状の治療において、あるいは血液凝固の補助において使用するための、請求項16又は17記載の製品。
【請求項20】
上記活性物質を含有する錠剤の製造のための、請求項1〜9、14及び15のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項21】
上記ハイドロコロイドがアカシアガムである、請求項1記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-08-02 
出願番号 P2016-566638
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 渕野 留香
前田 佳与子
登録日 2020-12-17 
登録番号 6811614
権利者 ビーエイエスエフ・ソシエタス・エウロパエア
発明の名称 脂溶性ビタミン製剤  
代理人 清水 義憲  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 江守 英太  
代理人 田村 明照  
代理人 酒巻 順一郎  

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