• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E02B
管理番号 1390590
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-07 
確定日 2022-10-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6978275号発明「水路」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6978275号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6978275号の請求項1ないし10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年10月25日に出願され、令和3年11月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年12月8日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年6月7日付けで特許異議申立人日鉄建材株式会社(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし10に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである(特許異議申立書について、以下「申立書」という。)。

第2 本件発明
特許第6978275号の請求項1ないし10の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、請求項1ないし10の特許に係る発明を総称して「本件発明」、各請求項の特許に係る発明をそれぞれ「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられた波形鋼板からなる水路本体と、前記水路本体の上縁部に、前記水路本体の長手方向に沿って取り付けられた腹起し材と、前記腹起し材間に取り付けられた切梁とから構成される水路において、
前記水路本体は、一枚の波形鋼板をU字状に折り曲げた水路セクションを、複数個、前記水路本体の長手方向に沿って連結したものからなり、前記腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられていることを特徴とする水路。
【請求項2】
前記波形鋼板は、コルゲート鋼板からなることを特徴とする、請求項1に記載の水路。
【請求項3】
前記腹起し材の水平方向に対する断面二次モーメントは、前記水路本体の水平方向に対する断面二次モーメントより大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載の水路。
【請求項4】
前記腹起し材は、H形鋼からなることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の水路。
【請求項5】
前記地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材は、前記水路本体と前記腹起し材とにボルト・ナットにより取り付けられていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の水路。
【請求項6】
前記地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材は、前記水路本体と前記腹起し材とにボルト・ナットにより取り付けられ、前記水路本体および前記腹起し材に形成されたボルト孔は、前記ボルトの径より大きいことを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の水路。
【請求項7】
前記地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材は、前記水路本体と前記腹起し材とにボルト・ナットにより取り付けられ、前記地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材に形成されたボルト孔は、前記ボルトの径より大きいことを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の水路。
【請求項8】
前記地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材は、L字状鋼板からなることを特徴とする、請求項1から7の何れか1つに記載の水路。
【請求項9】
前記水路本体は、ステンレス鋼板からなっていることを特徴とする、請求項1から8の何れか1つに記載の水路。
【請求項10】
前記水路本体と前記地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材とは、絶縁板を介して取り付けられていることを特徴する、請求項9に記載の水路。」

第3 申立理由の概要
申立人が主張する申立理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)(以下「申立理由1」という。)
申立人は、本件発明における「地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材」を設けることに関連して、概ね以下のとおり主張している。

本件発明の課題は、「水路として支障を来さない水路断面を維持することができ、しかも、水路本体の破損や漏水を防止することができる」ことであり(段落【0015】)、その課題を解決する手段として、「地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材」を設けることとあるが、地盤変動等生じると水路本体の上縁部のみならず、側面や底面付近を含む水路本体全体を変形させるような荷重が作用すると思われる。当該状況において、上述のような部材を採用して腹起し材の変形を小さくする部材を採用してしまっては、逆に当該部材の影響により水路本体の変形が大きくなり、課題を解決することができない。
従って、発明の詳細な説明には、発明の課題を解決するための解決手段としての請求項に係る発明によって、どのように課題が解決されたかについて記載されていない。従って、委任省令要件違反に該当し、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。(申立書7頁下から3行〜8頁13行)

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)(以下「申立理由2」という。)
申立人は、本件発明の発明特定事項「前記腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられていること」(以下「発明特定事項1」という。)に関連して、概ね以下のとおり主張している。

(1)発明特定事項1は、腹起し材と「部材」との具体的な構造上の特徴を何ら特定していないため、あらゆる形状を含みうる記載となっている。
一方、本件特許明細書には、腹起し材として、断面性能が高められたH形鋼が開示されており、当該H形鋼が、当該H形鋼よりも変形し易い鋼材であるL字状鋼板を介して水路本体に取り付けられていることの記載のみがある。しかし、明細書の全体を見渡しても、腹起し材としてH形鋼以外の形状の部材を採用している記載はなく、「部材」としてL字状鋼板以外の形状の部材を採用している記載はなく、また、それらの形状以外にどのようなものを採用できるかについて当業者が理解できる程度の記載もない。
例えば、腹起し材として、H形鋼のように断面性能が高くないL字状鋼板を採用した場合は、腹起し材と「部材」が両方ともL字状鋼板となり、変形のし易さの点においてどちらも差が出ない構成となり課題を解決できないと思われるが、このような形状の組み合わせを採用してよいかについて、発明の詳細な説明には何らの記載もない。また、「部材」としてL字状鋼板以外の形状を採用してもよいかについて、発明の詳細な説明には何らの記載もない。従って、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書8頁14行〜9頁6行)

(2)発明特定事項1について、何故、「水路として支障を来さない水路断面を維持することができ、しかも、水路本体の破損や漏水を防止することができる」という効果が果たせるか不明である。図7にあるように腹起し材をH形鋼にすることにより腹起し材が強化され水路本体の変形は抑えられるが、それが「部材」による効果とは判断できない。また、確かに、「部材」により腹起し材の変形を小さくすることが可能と思われるが、申立理由1で説明したように、逆に「部材」の存在により水路本体の変形は大きくなり、効果を果たすことが出来なくなる。このように、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書9頁7〜19行)

(3)以上より、本件発明1及びそれらを引用する本件発明2ないし10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。(申立書11頁22〜24行)

3 特許法第36条第6項第2号明確性)(以下「申立理由3」という。)
申立人は、発明特定事項1に関連して、概ね以下のとおり主張している。

(1)発明特定事項1について、「地盤変動等による荷重」とは具体的にどのような荷重を意味するかが明確ではない。すなわち、地盤変動を受けて変形しようとする水路本体から伝達されてくる荷重を意味するのか、あるいは、地盤変動によって周囲の土の動きによって「部材」が直接受ける荷重を意味するのか、明確ではない。「部材」を容易に変形できるようにするには、荷重がどのような方向から作用するものであるかが明確である必要があるが、この点が不明確である結果、「部材」がどのような構成を有するものであるかが不明確である。更に、「地盤変動等による荷重」が、どの程度の荷重であるかも明確ではないため、「部材」の具体的な構成を特定することができない。この点、発明の詳細な説明にも「地盤変動等による荷重」がどのような荷重であり、且つ、どの程度の荷重であるかについての記載がなく、明細書の記載や技術常識を考慮しても、明確ではない。(申立書11頁最下行〜12頁14行)

(2)また、「容易に変形する」は、比較対象が明確にされておらず、どの程度変形し易いものであれば「容易に変形する」と言えるのかが明確ではない。また、「腹起し材の変形を小さくする」についても、比較対象が明確にされておらず、どの程度変形を小さくできるものであれば「変形を小さくする」と言えるのかが明確ではない。この点、発明の詳細な説明にも「容易に変形する」がどの程度の変形を意味しており、「変形を小さくする」がどの程度小さいかについての記載がなく、明細書の記載や技術常識を考慮しても、明確ではない。(申立書12頁15〜21行)

(3)また、「地盤変動等による荷重」という荷重も、どの程度の荷重であるのか明確ではない。従って、地盤変動等による荷重で変形する部材がどのような部材であるかが不明確である。
まず、「地盤変動」についても、地盤変動を一般的に特定するのは難しく、それによる荷重を明確に定めることが出来ない。例えば、明細書の段落【0011】には、「大規模地震等による地盤の液状化や不当沈下が発生した場合、地盤の変動に伴い水路本体も変形する。」と記載されていることにより、大規模地震等の地盤の変動による荷重と解釈されるが、具体的にそれがどの程度の荷重であるのか明確ではない。また、地盤変動を特定したとしても、それによる荷重の大きさは、相当のばらつきが想定されるため、明確に定めることが出来ない。(申立書12頁22行〜14頁下から4行)

(4)以上より、本件発明1及びそれらを引用する本件発明2ないし10は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。(申立書14頁下から3行〜最下行)

4 特許法第29条第1項第3号新規性)及び第2項(進歩性)(以下「申立理由4」及び「申立理由5」という。)
申立人は、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び2についての特許は取り消されるべきものであり、
また、本件発明1、2、4及び8は、当業者が、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、4及び8についての特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、よって取り消されるべきものである旨主張し、
その理由として概ね以下のとおり主張している。

(1)本件発明1について
ア 本件発明1の分節について
「【請求項1】
1A 波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられた波形鋼板からなる水路本体と、
1B 前記水路本体の上縁部に、前記水路本体の長手方向に沿って取り付けられた腹起し材と、
1C 前記腹起し材間に取り付けられた切梁とから構成される水路において、
1D 前記水路本体は、一枚の波形鋼板をU字状に折り曲げた水路セクションを、複数個、前記水路本体の長手方向に沿って連結したものからなり、
1E 前記腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられている
1F ことを特徴とする水路。」(申立書15頁6〜17行)(以下、各発明特定事項を「1D」などという。)

進歩性について(申立理由5)
(ア)本件発明1と甲第1号証記載発明との相違点
1Eの構成が極めて不明確ではあるものの、少なくとも発明の詳細な説明に記載された構成、すなわち「腹起し材」をH形鋼とし、「部材」をL字状鋼板とする構成は含まれるので、当該構成まで限定して解釈すると、本件発明1と甲第1号証記載発明との相違点1は次の点である。
また、1Dの構成が甲第1号証に記載されていないと解釈される場合、本件発明1と甲第1号証記載発明との相違点2は次の点である。

[相違点1](1E関連) 本件発明1においては、腹起し材として断面性能が高いH形鋼を採用し、当該H形鋼よりも相対的に変形し易いL字状鋼板を介して水路本体に腹起し材を取り付けているのに対し、甲第1号証記載発明には、そのような腹起し材及びL字状鋼板が含まれていない点。
[相違点2](1D関連) 本件発明1においては、水路本体が、一枚の波形鋼板をU字状に折り曲げた水路セクションを、複数個、水路本体の長手方向に沿って連結したものからなるのに対し、甲第1号証記載発明には、そのような水路本体が含まれていない点。
(申立書20頁9〜26行)

(イ)各相違点についての検討
a 相違点1について
H形鋼について、甲第2、3号証から、水路の側壁の波形鋼板の上縁部にH形鋼が設けられることは周知技術である。甲第2、3号証記載発明と本件発明1とは、水路である点で共通している。従って、甲第1号証の腹起し材として、上記周知技術を適用してH形鋼とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
L字状鋼板について、甲第4、5、6、7号証から、H形鋼に対して、L字状鋼板を介して板状部材を取り付けることは周知技術である。ここで、甲第1号証記載発明の腹起し材としてH形鋼を採用した場合、水路本体の上縁部をH形鋼のウェブ部の中途位置(重心位置付近)に取り付ける必要性が生じるが、このような必要性に対して、H形鋼のウェブ部の中途位置に対して、L字状鋼板を介してパネルの縁部を取り付けることは上述のように周知技術であるため、当業者であれば、腹起し材のH形鋼のウェブ部に対して、L字状鋼板を介して水路本体の上縁部を取り付けることに何らの困難性もない。従って、甲第1号証に上記周知技術を適用して、L字状鋼板を介してH形鋼の腹起し材を水路本体に取り付けることは、当業者が容易に想到し得たことである。(申立書20頁最下行〜22頁1行)

b 相違点2について
甲第8号証から、水路本体が、一枚の波形鋼板をU字状に折り曲げた水路セクションを、複数個、水路本体の長手方向に沿って連結したことは周知技術である。甲第8号記載発明と本件特許発明1とは、水路である点で共通している。従って、甲第1号証の水路本体を、上記周知技術を適用して相違点2の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。(申立書22頁2〜7行)

新規性について(申立理由4)
1Dに関し、甲第1号証の「コルゲートフリューム本体1」には途中に継ぎ目などがなく、一枚の波形鋼板をU字に折り曲げたものであり、また、所定の長さを有する水路本体においては、むしろ長手方向に沿って水路セッションを複数個、連結することが通常であるため、当業者にとって、自明な範囲内の事項である。
1Eに関し、1Eは具体的な構造を何ら特定しておらず、すると、1Eの「部材」は、甲第1号証において、「コルゲートフリューム本体1」と「腹起こし材2、2’」とを連結するボルトも含み得るように解釈できる。地盤変動が発生すれば、その荷重によってボルトが曲がることがあり得る。つまり、ボルトは「地盤変動等による荷重によって容易に変形する」部材であるといえる。また、例えば「コルゲートフリューム本体1」を広範囲にわたって「腹起こし材2、2’」に溶接して一体化したような構成では、水路本体の荷重が伝達されやすいので「腹起こし材2、2’」の変形が大きくなると思われるが、そのような構成に比べれば、ボルトは「腹起し材の変形を小さくすることができる部材」といえる。(申立書19頁11行〜20頁8行)

(2)本件発明2について
甲第1号証には本件発明2の「前記波形鋼板は、コルゲート鋼板からなる」水路が記載されている。従って、本件発明2は新規性又は進歩性を有しない。(申立書22頁13〜17行)

(3)本件発明4について
本件発明1について説明したように、甲第1号証記載発明に甲第2ないし8号証記載発明を組み合わせることでH形鋼の腹起し材をL字状鋼板を介して水路本体に取り付ける構成に容易に想到できるため、本件特許発明4は、進歩性を有しない。(申立書22頁18〜21行)

(4)本件発明8について
本件発明1について説明したように、甲第1号証記載発明に甲第2ないし8号証記載発明を組み合わせることでH形鋼の腹起し材をL字状鋼板を介して水路本体に取り付ける構成に容易に想到できるため、本件特許発明8は、進歩性を有しない。(申立書22頁22行〜23頁1行)

[証拠方法]
甲第1号証:実願昭63−62090号(実開平1−167487号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開2014−88753号公報
甲第3号証:特開2014−101745号公報
甲第4号証:特許第4427456号公報
甲第5号証:特許第5325858号公報
甲第6号証:特許第5639827号公報
甲第7号証:特開2011−122352号公報
甲第8号証:「日鐵U字フリューム」、日鐵建材工業株式會社、1992.1.04

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア 「<従来の技術>
かんがい用水路や地すべり地区の集排水路などに使用するコルゲートフリュームは、従来第5、6図に示すように、コルゲート鋼板製のコルゲートフリューム本体1の上縁部に腹起こし材2、2’が取付けられており、この腹起こし材2、2’に亜鉛メッキを施したアングル材を切梁3として、ボルト4、4’により取付ける構造を有していた。」(明細書1頁下から7行〜2頁2行。なお文中の「従来第5、6図に示すように」という記載は、下記イないしエの「図面の簡単な説明」及び第6,7図を参照して、「従来第6、7図に示すように」の誤記と認められる。)

イ 「4.図面の簡単な説明
・・・(中略)・・・
第6、7図は従来のコルゲートフリュームを示し、第6図は正面図、第7図は側面図である。」(明細書4頁13行〜最下行)

ウ 第6図は次のものである。


エ 第7図は次のものである。

オ 上記ア、イの記載を踏まえ、上記ウ、エの第6、7図より、以下のことが看取できる。
(ア)コルゲートフリューム本体1は、コルゲートの波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられたコルゲート鋼板からなる。
(イ)腹起こし材2、2’は、コルゲートフリューム本体1の長手方向に沿って取り付けられている。
(ウ)アングル材である切梁3は、腹起し材2、2’間にボルト4、4’により取り付けられている。

カ 上記アないしオより、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

[甲1発明]
コルゲートの波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられたコルゲート鋼板からなるコルゲートフリューム本体1と、コルゲートフリューム本体1の長手方向に沿ってコルゲートフリューム本体1の上縁部に取り付けられた腹起し材2、2’と、腹起し材2、2’間にボルト4、4’により取り付けられたアングル材である切梁3、という構造を有するコルゲートフリュームを使用する、水路。

(2)甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、矢板鋼板で擁壁を形成した既存用水路の補修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
矢板鋼板を両岸に打ち込んで擁壁とし、矢板鋼板の上端に笠木コンクリートを打設して形成した構造の用水路が知られている。これらの用水路は特に経年変化によって矢板鋼板部分が腐食して補修が必要となる。」

イ 「図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明工法の第一実施形態(第一実施例)の作業工程説明図(作業開始前:既存用水路の説明図)。
・・・(中略)・・・
【図11】同第一実施形態のパネル取付部の別例図(第二実施例)で、(イ)は分離状態(ロ)は連結状態を示す。」

ウ 「【0026】
次に本発明工法の実施形態をその工程順に説明する。補修対象の用水路は、矢板鋼鈑01を地盤(用水路底面)02に打ち込んで両岸からの背圧を受け止めて水路03を確保し、前記矢板鋼板01の上縁に笠木部04を設けて用水路を構築している。また笠木部04は、矢板鋼板01に被冠したH型鋼041と、H型鋼041の上部に打設した笠木コンクリート042で構成されているものである。」

エ 図1は次のものである


オ 図11は次のものである。


カ 上記アないしオより、甲第2号証には、次の技術的事項(以下「甲2記載技術事項」という。)が記載されていると認める。

[甲2記載技術事項]
矢板鋼板を両岸に打ち込んで擁壁とし、矢板鋼板の上端に笠木コンクリートを打設して形成した構造の用水路であって、
矢板鋼鈑01を地盤(用水路底面)02に打ち込んで両岸からの背圧を受け止めて水路03を確保し、前記矢板鋼板01の上縁に笠木部04を設けて構築し、笠木部04は、矢板鋼板01に被冠したH型鋼041と、H型鋼041の上部に打設した笠木コンクリート042で構成されている、用水路。

(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、主として矢板鋼板によって側壁形成された農業用水路の補修に使用する梁部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
矢板鋼板を両岸に打ち込み、矢板鋼板の上端に笠木コンクリート打設して形成した構造の用水路が知られている・・・。
【0003】
これらの用水路は経年変化によって補修が必要であり、補修手段としてコンクリート矢板で被覆する手段・・・、補修対象範囲を新たな鋼板で被覆する手段・・・などが知られている。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明部材の第一実施例の全体斜視図。
【図2】同装着作業の説明図(平面図)。
【図3】同図(断面図)。
【図4】同図(要部斜視図)。
【図5】同装着後の斜視図。」

ウ 「【0018】
次に本発明の実施形態を、三実施例に基づいて説明する。本発明に係る用水路補修用切梁部材を使用する対象は、笠木部01を備えた水路03であれば良い。例えば矢板鋼板02を使用の農業用水路は、矢板鋼鈑02を土中に打ち込んで両岸からの背圧を受け止めて、水路03を確保し、更に前記矢板鋼板02の上縁に笠木部01を設けて用水路上縁を地面と仕切っているものである。この笠木部01は、矢板鋼板02に被冠したH型鋼04とH型鋼04の上部に打設した笠木コンクリート05で構成されているものである。」

エ 図3は次のものである


オ 図5は次のものである。


カ 上記アないしオより、甲第3号証には、次の技術的事項(以下「甲3記載技術事項という。)が記載されていると認める。

[甲3記載技術事項]
矢板鋼板を両岸に打ち込み、矢板鋼板の上端に笠木コンクリート打設して形成した構造の用水路であって、
矢板鋼鈑02を土中に打ち込んで両岸からの背圧を受け止めて、水路03を確保し、更に前記矢板鋼板02の上縁に笠木部01を設けて用水路上縁を地面と仕切っているものであり、笠木部01は、矢板鋼板02に被冠したH型鋼04とH型鋼04の上部に打設した笠木コンクリート05で構成されている用水路。

(4)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、連続壁を有する既存の建物を新しく建て直す場合に、既存の外壁を止水壁として利用して、親杭横矢板工法を実現する山留め先建て親杭工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の建物を解体して、そこへ新たに建物を構築する場合に、前記既存建物の一部を残し、例えば、既存建物の壁体を残してその内側に地中連続壁を構築し、地下部分の不要部分を解体して新たに建物を構築する工法・・・、又は、地下外壁や地中梁などを残して作業空間を確保しそこから新しい建物用の土留め壁を構築する工法・・・、などが知られている・・・。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0017】
・・・(中略)・・・。
【図3】同本発明の山留め先建て親杭工法における、一部を平面視した説明図である。」

ウ 図3は次のものである。


(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、型鋼よりなる支柱フレームの側面に形成された凹溝内で外壁パネルの側端部を固定するようにした外壁パネルの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
立体駐車場、工場等の建物において外壁や仕切壁の立設構造として、支柱フレームとして立設させたH型鋼あるいは溝型鋼の凹溝に外壁パネルの側端部を嵌め入れて種々の部材で固定する構造が知られている・・・。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0024】
・・・(中略)・・・
【図7】(a)、(b)は従来の外壁パネルの取付構造を示す平面図である。」

ウ 図7(a)は次のものである。


(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、型鋼よりなる支柱フレームの側面に形成された凹溝内で外壁パネルの側端部を固定するようにした外壁パネルの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
立体駐車場、工場等の建物において外壁や仕切壁の立設構造として、支柱フレームとして立設させたH型鋼あるいは溝型鋼の凹溝に外壁パネルの側端部を嵌め入れて種々の部材で固定する構造が知られている・・・。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0024】
・・・(中略)・・・
【図7】(a)、(b)は従来の外壁パネルの取付構造を示す平面図である。」

ウ 図7(a)は次のものである。


(7)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、梁床部材接合構造、該梁床部材接合構造を有する構造物、及び床部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プレキャストコンクリート(以下、「PCa」という)製の床板を用いて床構造を構築するプレキャスト工法が知られている。このプレキャスト工法は、工場で予め製作されたPCa床板を現場へ搬送し、これらのPCa床板を鉄骨梁の上に敷設して床構造を構築する。従って、型枠工事、コンクリート打設工事等がないため、現場打ち工法と比較して工期の短縮化、施工の簡略化を図ることができる。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る梁床部材接合構造が適用された床部材及び鉄骨梁を示す、斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る梁床部材接合構造が適用された床部材及び鉄骨梁を示す、平面図である。
【図3】図2の2−2線断面図である。
【図4】(A)及び(B)は、本発明の実施形態に係る梁床部材接合構造の変形例が適用された床部材及び鉄骨梁を示す、図2の2−2線に断面図に相当する図である。」

ウ 図3は次のものである。


エ 図4は次のものである。


(8)甲第8号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の記載がある。

ア 図−2は次のものである。(2頁)(なお、枠線は申立人が付したものである。下記イの図−10も同様。)


イ 図−10は次のものである。(6頁)


2 申立理由2(サポート要件)について
まず特許請求の範囲の記載(申立理由2(サポート要件)、申立理由3(明確性要件))について検討し、次いで発明の詳細な説明の記載(申立理由1(委任省令要件))について検討することとする。

(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
一般に「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」とされている。(平成17年(行ケ)10042号判決参照。)
以下、この観点に立って検討する。

(2)検討
上記第3の2に記載した申立理由2の内容に従い、発明特定事項1(「腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられていること」)について、以下検討する。

ア 本件発明の課題について
発明特定事項1に関連しての本件発明の課題は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載から、
「水路本体21を構成する波形鋼板は、薄肉軽量で比較的容易に地盤の変動に対応する。そのため、土圧等の外圧がバランスよく分担されるので、水路本体21は、薄肉材であっても大きな荷重に耐えることができるたわみ性の構造物である。」(段落【0010】)
「このように、波形鋼板製水路は、田園地帯等の軟弱地盤に構築する際の有効な水路構造物であるが、大規模地震等による地盤の液状化や不当沈下が発生した場合、地盤の変動に伴い水路本体も変形する。」(段落【0011】)
「この結果・・・、腹起し材22部分の水路本体21が上下左右に変形して、水路断面が狭まったり、水路本体の破損や漏水が生じて、水路としての機能が損なわれるおそれがあった。」(段落【0012】)
ことに対し、
「・・・地盤変動による腹起し材部分の水路本体の変形量を最小限に止めることができる結果、水路として支障を来さない水路断面を維持することができ・・・る水路を提供する・・・。」(段落【0015】)
という、課題であることが認識できる。

イ 課題の解決について
上記アの、要約すると、比較的容易に地盤の変動に対応するたわみ性の構造物である水路本体の地盤の変動に伴う変形に対し、腹起し材部分の変形量を最小限に止めることにより、水路として支障を来さない水路断面を維持する、という課題を解決することについて、本件特許の明細書の発明の詳細な説明では、
「地盤変動等により腹起し材3と水路本体1との取付け部分に作用する荷重によって、容易に変形可能な・・・」(段落【0041】)
「緩衝部材4を介して腹起し材3を水路本体1に取り付けることによって、」「地盤変動による腹起し材3部分の水路本体1の変形量を最小限に止めることができる。」(段落【0042】)
「この結果、水路として支障を来さない水路断面を維持することができ、しかも、水路本体1の破損や漏水を防止することができる。」(段落【0043】)
と記載されている。すなわち、「荷重によって、容易に変形可能な」部材である「緩衝部材4」が「地盤変動等により腹起し材3と水路本体1との取付け部分に作用する荷重によって」変形し、その緩衝効果により、水路本体の地盤の変動に伴う変形に対し、「地盤変動による腹起し材3部分の水路本体1の変形量を最小限に止めることができ」、「この結果、水路として支障を来さない水路断面を維持することができ」ることが説明されており、この説明の記載から、当業者であれば、発明特定事項1が上記アの課題を解決できるものであることを認識することができる。

ウ 申立人の主張について
(ア)上記第3の2(1)記載の主張について
上記第3の2(1)に記載したように、申立人は申立書において、概略、発明特定事項1は、「部材」があらゆる形状を含みうる記載となっており、これに対し本件特許明細書には、腹起し材としてH形鋼以外、「部材」としてL字状鋼板以外の形状の部材を採用している記載はなく、それらの形状以外にどのようなものを採用できるかの記載もない旨、主張している。

しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、部材に「容易に変形可能なL字状鋼板等を使用する」(段落【0055】)のみならず、「容易に変形可能な材質あるいは板厚」(段落【0041】)とすること等が例示されており、発明特定事項1の「部材」の有する、荷重によって容易に変形するという特性と、「部材」の構造との関係を理解することは当業者にとり格別困難なことではなく、よって、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて拡張ないし一般化されているものとは認められない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(イ)上記第3の2(2)記載の主張について
上記第3の2(2)に記載したように、申立人は申立書において、概略、発明特定事項1が、何故、「水路として支障を来さない水路断面を維持することができ、しかも、水路本体の破損や漏水を防止することができる」という効果が果たせるか不明で、腹起し材をH形鋼にすることにより腹起し材が強化され水路本体の変形は抑えられるが、それが「部材」による効果とは判断できず、また確かに「部材」により腹起し材の変形を小さくすることが可能と思われるが、逆に「部材」の存在により水路本体の変形は大きくなり、効果を果たすことが出来なくなる旨、主張している。

しかしながら、発明特定事項1は、上記イで述べたとおり、発明の詳細な説明で、「地盤変動等」による「荷重によって、容易に変形可能な」部材である「緩衝部材4」が「地盤変動等により腹起し材3と水路本体1との取付け部分に作用する荷重によって」変形し、その緩衝効果により、水路本体の地盤の変動に伴う変形に対し、「地盤変動による腹起し材3部分の水路本体1の変形量を最小限に止めることができる。」と説明されているものであり、腹起し材自体を強化(H形鋼)することにより腹起し材の変形を小さくするというものでも、(腹起し材部分側ではなく)水路本体側の変形を部材の緩衝効果で最小限に止めるというものでもない。
よって、申立人の主張は失当である。

(3)小括
上記(2)で検討したように、特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとの主張には理由がない。
よって、申立理由2により本件発明1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(明確性)について
(1)特許法第36条第6項第2号の考え方について
一般に「特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない」とされている。(平成21年(行ケ)第10434号判決参照。)
以下、この観点に従って検討する。

(2)検討
上記第3の3に記載した申立理由3の内容に沿って、発明特定事項1(「腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられていること」)の記載について、以下検討する。

ア 「地盤変動等による荷重」に関して
上記第3の3(1)、(3)に記載したように、申立人は申立書において、概略、発明特定事項1中の「地盤変動等による荷重」とは具体的にどのような、またどの程度の荷重を意味するかが明確ではなく、さらに「地盤変動」を一般的に特定するのは難しく、それによる荷重を明確に定めることが出来ない旨主張している。

しかしながら、発明特定事項1は、上記2(2)イで述べたように、「地盤変動等」による「荷重によって、容易に変形可能な」部材である「緩衝部材4」が「地盤変動等により腹起し材3と水路本体1との取付け部分に作用する荷重によって」変形し、その緩衝効果により、水路本体の地盤の変動に伴う変形に対し、「地盤変動による腹起し材3部分の水路本体1の変形量を最小限に止めることができる。」という機序に関わるものであり、その機序において、地盤変動等の種別あるいはその荷重が具体的にどのような、またどの程度のものかの特定が求められるものではなく、「地盤変動等による荷重」が明確に定められないことによって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確になるものというものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

イ 「容易に変形する」ことに関して
上記第3の3(2)に記載したように、申立人は申立書において、概略、発明特定事項1中の「容易に変形する」は、比較対象が明確にされておらず、どの程度変形し易いものであれば「容易に変形する」と言えるのかが明確ではなく、また、「腹起し材の変形を小さくする」についても、比較対象が明確にされておらず、どの程度変形を小さくできるものであれば「変形を小さくする」と言えるのかが明確ではない旨主張している。
しかしながら、上記2(2)イで述べたように、発明特定事項1における「容易に変形」とは、「腹起し材の変形を小さくすることができる」緩衝効果を奏するよう「部材」が「容易に変形」するというものであり、その機能、作用に特段不明確な点はなく、その変形度合いまで具体的に特定されないと第三者の利益が不当に害されるほどに不明確になるものというものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)小括
上記(2)で検討したように、特許請求の範囲の請求項1ないし10記載は特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとの主張には理由がない。
よって、申立理由3により本件発明1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由1(委任省令要件)について
上記第3の1に記載したように、申立人は申立書において、概略、以下の旨を主張している。

本件発明1ないし10の課題は、「水路として支障を来さない水路断面を維持することができ、しかも、水路本体の破損や漏水を防止することができる」ことであり、その課題を解決する手段として、「地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材」部材を設けることとあるが、地盤変動等生じると水路本体の上縁部のみならず、側面や底面付近を含む水路本体全体を変形させるような荷重が作用すると思われる。当該状況において、上述のような部材を採用して腹起し材の変形を小さくする部材を採用してしまっては、逆に当該部材の影響により水路本体の変形が大きくなり、課題を解決することができない。従って、発明の詳細な説明には、発明の課題を解決するための解決手段としての請求項に係る発明によって、どのように課題が解決されたかについて記載されていない。

しかしながら、上記2(2)で検討したとおり、本件発明は「腹起し材部分の水路本体の変形量を最小限に止め」、「水路として支障を来さない水路断面を維持する」という課題を解決するものであり、そして本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、その課題がどのように解決されたか理解できるものである。
よって、申立人の主張は採用できない。

(2)小括
上記(1)で検討したように、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の要件(委任省令要件)を満たさないとの主張には理由がない。
よって、申立理由1により本件発明1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由4(新規性)及び申立理由5(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。

(ア)甲1発明の「コルゲートの波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられたコルゲート鋼板からなるコルゲートフリューム本体1」は、本件発明1の「波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられた波形鋼板からなる水路本体」に相当する。
次に、甲1発明の「コルゲートフリューム本体1の長手方向に沿ってコルゲートフリューム本体1の上縁部に取り付けられた腹起し材2、2’」は、本件発明1の「前記水路本体の上縁部に、前記水路本体の長手方向に沿って取り付けられた腹起し材」に相当する。
次に、甲1発明の「腹起し材2、2’間にボルト4、4’により取り付けられたアングル材である切梁3」は、本件発明1の「前記腹起し材間に取り付けられた切梁」に相当する。

(イ)よって、前記(ア)から、本件発明1と甲1発明とは、

[一致点]
「波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられた波形鋼板からなる水路本体と、前記水路本体の上縁部に、前記水路本体の長手方向に沿って取り付けられた腹起し材と、前記腹起し材間に取り付けられた切梁とから構成される水路」

である点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点1] 本件発明1においては「水路本体は、一枚の波形鋼板をU字状に折り曲げた水路セクションを、複数個、前記水路本体の長手方向に沿って連結したものから」なるのに対して、甲1発明においては「コルゲートの波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられたコルゲート鋼板からなるコルゲートフリューム本体1」が、複数個、水路の長手方向に沿って連結したものであるかどうか特定されていない点。

[相違点2] 本件発明1においては「腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられている」のに対して、甲1発明における「腹起し材2、2’」の「コルゲートフリューム本体1」への「ボルト4、4’」による取り付けではそのような特定はされていない点。

イ 判断
(ア)検討
事案に鑑み、相違点2から検討する。
まず新規性について、本件発明1と甲1発明とは、実質的な相違点が存在するから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
次に進歩性について、甲第2号証ないし甲第8号証をみても、いずれにも、腹起し材が「地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して」水路本体に取り付けられていることの記載あるいは示唆はなく、すなわち相違点2に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。よって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。

(イ)申立人の主張について
進歩性(申立理由5)に関して
上記第3の4(1)イに記載したように、申立人は申立書において、相違点2に関連して、本願の発明の詳細な説明に記載された、「腹起し材」をH形鋼とし、「部材」をL字状鋼板とする構成を念頭に、進歩性の観点から、概略、以下の旨主張している。

甲第2、3号証から、水路の側壁の波形鋼板の上縁部にH形鋼が設けられることは周知技術であり、L字状鋼板について、甲第4、5、6、7号証から、H形鋼に対して、L字状鋼板を介して板状部材を取り付けることは周知技術であり、従って、甲第1号証に上記周知技術を適用して、L字状鋼板を介してH形鋼の腹起し材を水路本体に取り付けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

この主張について検討する。
甲第2号証あるいは甲第3号証に記載のH形鋼は、上記1(2)カ、(3)カの甲2記載技術事項、甲3記載技術事項のとおり、矢板鋼板を両岸に打ち込み、矢板鋼板の上端に笠木コンクリートを打設して形成した構造の用水路において、笠木コンクリートとともに笠木部を構成するものである。
そのような構造の用水路の笠木部からH形鋼のみを抽出し、甲1発明の「波付け方向と直交する方向にU字状に折り曲げられた波形鋼板からなる水路本体」に、L字状鋼板を介して取り付けるという設計変更をさらに加え、適用するという動機は見いだせない
よって申立人の主張を採用することはできない。

新規性(申立理由4)に関して
上記第3の4(1)ウに記載したように、申立人は申立書において、相違点2に関連して、新規性の観点から、概略、以下の旨主張している。

甲第1号証のボルト4、4’は、地盤変動が発生すればその荷重によって曲がることがあり得る、つまり、「地盤変動等による荷重によって容易に変形する」部材である。そして例えばコルゲートフリューム本体1を広範囲にわたって腹起こし材2、2’に溶接して一体化したような構成に比べれば、ボルト4、4’は「腹起し材の変形を小さくすることができる」。相違点2に係る本件発明1の構成は、具体的な構造を何ら特定するものではないから、その「部材」は、甲第1号証のボルト4、4’も含み得るように解釈できる。

この主張について検討する。
まず、相違点2に係る本件発明1の構成は「腹起し材は、地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材を介して前記水路本体に取り付けられている」というものであるのに対し、甲第1号証にはボルト4、4’の変形と腹起こし材2、2’の変形との関係は記載も示唆もされておらず、仮に甲第1号証のボルト4、4’が荷重によって変形することがあり得たとしても、そのことにより直ちに当該ボルト4,4’が「地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる部材」であるとはならない。
この点、申立人は、例えばコルゲートフリューム本体1を広範囲にわたって腹起こし材2、2’に溶接して一体化したような構成に比べれば、甲第1号証のボルト4、4’は「腹起し材の変形を小さくすることができる。」と主張する。
しかしながら、コルゲートフリューム本体を広範囲にわたって腹起こし材に溶接して一体化した構成なる水路は、各甲号証に記載が無く、また当業者にとり技術常識とも示されておらず、そのような構成との比較により、甲第1号証のボルト4,4’が甲第1号証のボルト4、4’が「地盤変動等による荷重によって容易に変形することで前記腹起し材の変形を小さくすることができる」というのは、論拠を欠いているというべきである。
よって申立人の主張を採用することはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件発明2,4及び8について
本件発明2,4及び8は、それぞれ、本件発明1の構成をすべて含み、更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

(3)小括
したがって、本件発明1、2、4及び8は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件発明1、2、4及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由4及び5によっては取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-14 
出願番号 P2017-206073
審決分類 P 1 651・ 113- Y (E02B)
P 1 651・ 537- Y (E02B)
P 1 651・ 536- Y (E02B)
P 1 651・ 121- Y (E02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 藤脇 昌也
前川 慎喜
登録日 2021-11-15 
登録番号 6978275
権利者 JFE建材株式会社
発明の名称 水路  
代理人 阿部 寛  
代理人 特許業務法人 インテクト国際特許事務所  
代理人 石橋 良規  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ