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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1390603
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-08 
確定日 2022-10-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第7001056号発明「蓄電デバイス用外装材、及び蓄電デバイス用外装材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7001056号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第7001056号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2017年8月2日(優先権主張 2016年8月5日)を国際出願日として特許出願され、令和3年12月28日にその特許権の設定登録がなされ、令和4年1月19日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし6に係る特許に対して、同年7月8日に特許異議申立人 田中 俊子により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明

特許第7001056号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材保護層、基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及びシーラント層をこの順に備え、
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物であり、
前記基材保護層のガラス転移温度(Tg)が100〜140℃であり、
前記基材保護層の厚さが1〜5μmであり、
前記基材層の厚さに対する前記基材保護層の厚さの割合が35%以下である、
蓄電デバイス用外装材。
【請求項2】
前記金属箔層の一方又は両方の面に腐食防止処理層をさらに備える、請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項3】
前記基材層の厚さに対する前記基材保護層の厚さの割合が3.5%以上である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項4】
前記原料がさらにフィラーを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項5】
前記基材層がポリアミドフィルムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項6】
金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程、
前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程、及び
前記金属箔層の前記接着層とは反対側の面に、シーラント接着層を介してシーラント層を形成する工程、を備え、
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物であり、
前記基材保護層のガラス転移温度(Tg)が100〜140℃であり、
前記基材保護層の厚さが1〜5μmであり、
前記基材層の厚さに対する前記基材保護層の厚さの割合が35%以下である、
蓄電デバイス用外装材の製造方法。」

第3 申立理由の概要

1.申立理由1(進歩性
請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2.申立理由2(進歩性
請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.申立理由3(明確性要件)
請求項1ないし6に係る発明は不明確であり、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4.申立理由4(サポート要件)
請求項1ないし6に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

5.申立理由5(実施可能要件
本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1ないし6に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


甲第1号証:特開2013−101764号公報
甲第2号証:特開2015−176764号公報
甲第3号証:特開2009−181802号公報
甲第4号証:特開2000−129203号公報
甲第5号証:特開2002−160454号公報
甲第6号証:国際公開第2011/030439号

第4 甲第1号証ないし甲第6号証の記載事項

1.甲第1号証
甲第1号証(特開2013−101764号公報)には、「二次電池用外装材」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
外側から、少なくとも基材層、第1接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層、及び最内面に滑剤が付与されたシーラント層が順次積層された二次電池用外装材において、
JIS B0601−1982に準拠して測定された最内面の輪郭曲線最大高さ(Rz)が100nm〜2000nmで、輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)が100μm〜1500μmであり、かつ最外面の輪郭曲線最大高さ(Rz)が500nm〜2000nmで、輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)が100μm〜1500μmであることを特徴とする二次電池用外装材。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項3】
前記基材層の外側に、前記基材層を保護する基材保護層が積層されている、請求項1又は2に記載の二次電池用外装材。
【請求項4】
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂、又は、ポリエステルポリオール及びアクリルポリオールからなる群から選ばれる1種以上と脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂を含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の二次電池用外装材。」

(2)「【0014】
<二次電池用外装材>
以下、本発明の二次電池用外装材の一例を示して詳細に説明する。図1は、本発明の二次電池用外装材の一例である二次電池用外装材1(以下、「外装材1」という。)を示した断面図である。
外装材1は、図1に示すように、外側から、基材保護層17、基材層11、第1接着層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、第2接着層15及びシーラント層16が順次積層されている。外装材1は、基材保護層17を最外層、シーラント層16を最内層として使用される。
・・・・(中 略)・・・・
【0016】
基材保護層17を形成する材料としては、ポリエステル樹脂、又は、ポリエステルポリオール及びアクリルポリオール(以下、これらをまとめて「ポリオール」ということがある。)からなる群から選ばれる1種以上と脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂が好ましく、耐ピンホール性が向上する点から、ポリエステル樹脂がより好ましい。
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。ポリエステル樹脂を用いて基材保護層17を形成する場合、ポリエステルフィルムを用いることがより好ましい。」

(3)「【0022】
基材保護層17の厚さは、加工性を考慮すると、1〜30μmが好ましく、1〜12μmがより好ましい。
【0023】
[基材層]
基材層11は、加工や流通の際に起こりえるピンホール対策に加え、冷間成型時の金属箔層13の破断防止の目的で設ける層である。また、基材層を最外層とする場合には、金属箔層13と二次電池内の他の金属との絶縁性、及び電池製造時における外装材の熱封緘時の耐熱性が求められる。
基材層11としては、成型性の点から、ポリアミドフィルムが好ましい。ポリアミドフィルムは、延伸フィルムであっても未延伸フィルムであってもよい。なかでも、成型性が向上する点から、延伸ポリアミドフィルムがより好ましい。 ポリアミドフィルムを形成するポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612などが挙げられる。なかでも、成型性向上の観点から、ナイロン6が好ましい。
基材層11の厚さは、耐ピンホール性、加工性を考慮すると、6〜40μmが好ましく、10〜25μmがより好ましい。」

(4)「【0053】[製造方法] 以下、外装材1の製造方法について説明する。ただし、外装材1の製造方法は以下に記載する方法に限定されない。外装材1の製造方法としては、例えば、下記工程(1)〜(3)を有する方法が挙げられる。(1)金属箔層13上に腐食防止処理層14を形成する工程。(2)金属箔層13における腐食防止処理層14を形成した側と反対側に、第1接着層12を介して基材層11を積層し、さらに基材層11上に基材保護層17を形成する工程。(3)金属箔層13における腐食防止処理層14側に、第2接着層15を介してシーラント層16を積層する工程。」

(5)「【0063】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
<使用材料>
本実施例で使用した材料を以下に示す。
[基材保護層]
基材保護剤A−1:アクリルポリオール(東レファインケミカル社製)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤(日本ポリウレタン社製)とを、モル比(NCO/OH)が10となるようにトルエンに溶解し、アクリル系樹脂の微粒子(平均粒子径1.0μm、積水化成品工業社製)を添加した塗布液。前記微粒子の含有量は、所望の輪郭曲線高さ(Rz)及び輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)を得るために、前記アクリルポリオール、脂肪族系イソシアネート硬化剤及び前記微粒子の合計質量に対して、0.1〜50質量%の範囲で調整した。
【0064】
[基材層]
基材フィルムB−1:ナイロン6フィルム(厚さ25μm)。
・・・・(中 略)・・・・
【0070】
<外装材の作製>
金属箔D−1の両面に処理剤E−1を塗布、乾燥して、金属箔層の両面に腐食防止処理層を形成した。ついで、前記腐食防止処理層の一方の表面側に、ドライラミネート法によって、接着剤C−1を用いて基材フィルムB−1を貼り合わせ、第1接着層(厚さ3μm)を介して基材層を積層した。その後、前記基材層上に、ドライラミネート法によって基材保護剤A−1を塗布し、乾燥させることにより基材保護層(厚さ3μm)を形成させた。・・・・(以下、略。)」

(6)「【図1】



上記(1)ないし(3)、(5)、(6)から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「二次電池用外装材」は、上記(1)の【請求項1】、【請求項3】、(2)の記載、及び(6)(図1)によれば、外側から、基材保護層17、基材層11、第1接着層12、金属箔層13、第2接着層15及びシーラント層16が順次積層されてなるものである。
・上記(1)の【請求項4】、(2)の記載によれば、基材保護層17としては、ポリエステルポリオール及びアクリルポリオールから選ばれる1種以上と脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂が好ましいものである。
・上記(3)、(5)の記載によれば、基材保護層17の厚さは、1〜12μmがより好ましく(実施例では3μm)、基材層11の厚さは、10〜25μmがより好ましい(実施例では25μm)ものである。

以上のことから、特に基材保護層17を形成する材料の一つであるポリオールとして「ポリエステルポリオール」を選択した場合に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「外側から、基材保護層、基材層、第1接着層、金属箔層、第2接着層及びシーラント層が順次積層され、
前記基材保護層は、ポリエステルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂からなり、
前記基材保護層の厚さはより好ましくは1〜12μmであり、前記基材層の厚さはより好ましくは10〜25μmである、二次電池用外装材。」

さらに、上記(4)の記載によれば、二次電池用外装材の製造方法として、金属箔層13における一方側(腐食防止処理層14を形成した側と反対側)に、第1接着層12を介して基材層11を積層し、さらに基材層11上に基材保護層17を形成する工程と、金属箔層13における反対側(腐食防止処理層14側)に、第2接着層15を介してシーラント層16を積層する工程を有することを踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1’発明」という。)も記載されている。
「金属箔層における一方側に、第1接着層を介して基材層を積層し、さらに前記基材層上に基材保護層を形成する工程と、
前記金属箔層における反対側に、第2接着層を介してシーラント層を積層する工程を有し、
前記基材保護層は、ポリエステルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂からなり、
前記基材保護層の厚さはより好ましくは1〜12μmであり、前記基材層の厚さはより好ましくは10〜25μmである、二次電池用外装材の製造方法。」

2.甲第2号証
甲第2号証(特開2015−176764号公報)には、「蓄電デバイス用外装材」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
第1の接着層と接触する第1の面と、該第1の面の反対側に配置された第2の面と、を有し、前記第1の接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2の接着層、及びシーラント層が順次積層された基材層と、
前記基材層の前記第2の面に配置された易接着処理層と、
前記易接着処理層を介して、前記基材層と接着することで、該基材層を保護する基材保護層と、
を有することを蓄電デバイス用外装材。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項3】
前記基材保護層は、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及びアクリルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の主剤と、
イソシアネート系硬化剤と、
を含むことを特徴とする請求項1または2記載の蓄電デバイス用外装材。」

(2)「【0034】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電デバイス用外装材の概略構成を示す断面図である。
図1を参照するに、本実施の形態の蓄電デバイス用外装材10は、基材層11と、第1の接着層12と、金属箔層13と、腐食防止処理層14と、第2の接着層15と、シーラント層16と、易接着処理層18と、基材保護層19と、を有する。」

(3)「【0038】
基材層11の厚さは、例えば、6〜40μmの範囲内の厚さが好ましく、10〜30μmの範囲内の厚さがより好ましい。基材層11の厚さが6μmよりも薄い場合には、蓄電デバイス用外装材10の耐ピンホール性及び絶縁性が低下してしまう。また、基材層11の厚さが40μmよりも厚い場合には、蓄電デバイス用外装材10の成型性が低下してしまう。
したがって、基材層11の厚さを6〜40μmの範囲内で設定することで、デバイス用外装材10の耐ピンホール性、絶縁性、及び成型性を向上させることができる。
このとき、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。」

(4)「【0098】
基材保護層19は、基材層11を保護する層であり、易接着処理層18を介して、基材層11の第2の面11bに接着されている。
基材保護層19は、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及びアクリルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の主剤と、イソシアネート系硬化剤(例えば、イソシアネートのビューレット体やイソシアヌレート体等)と、を含んだ構成とされている。」

(5)「【0122】
基材保護層19の厚さは、例えば、1〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。基材保護層19の厚さが1μmよりも薄いと、優れた電解液耐性を得ることが困難となってしまう。また、基材保護層19の厚さが10μmよりも厚いと、蓄電デバイス用外装材10の薄型化が困難となってしまう。
したがって、基材保護層19の厚さを1〜10μmの範囲内とすることで、優れた電解液耐性を得ることができると共に、蓄電デバイス用外装材10を薄型化して、省スペース性を向上させることができる。」

(6)「【0133】
次に、図1を参照して、本実施の形態の蓄電デバイス用外装材10の製造方法について説明する。但し、本実施の形態の蓄電デバイス用外装材10の製造方法は、下記に説明する製造方法に限定されない。
【0134】
始めに、基材11の第2の面11bに、易接着処理層18を形成する。ここでは、易接着処理層18の形成方法の一例として、インラインコート法について説明する。
始めに、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムに、易接着処理層18の主成分となる上記樹脂を分散剤で分散させた分散体を含有する水性塗布液を準備する。
次いで、基材層11の第2の面11bに、上記水性塗布液を塗布する。次いで、塗布された上記水性塗布液を乾燥させ、その後、少なくとも一軸方向に延伸させる。
【0135】
次いで、熱処理により、熱可塑性樹脂フィルムの配向を完了させることで、基材層11の第2の面11bに易接着処理層18が形成される。
このようなインラインコート法を用いて、易接着処理層18を形成することで、基材層11と易接着処理層18との密着性が向上するため、基材層11と易接着処理層18との間のアルコール耐性を向上させることができる。
なお、易接着処理層18の形成方法は、上記方法に限定されることなく、いかなる方法を用いてもよい。
また、易接着処理層18を形成するタイミングは、本実施の形態に限定されない。
【0136】
次いで、金属箔層13上に、腐食防止処理層14を形成する。具体的には、金属箔層13の一方の面に、腐食防止処理剤(腐食防止処理層14の母材)を塗布し、その後、乾燥、硬化、焼付けを順次行うことで、腐食防止処理層14を形成する。
上記腐食防止処理剤としては、例えば、塗布型クロメート処理用の腐食防止処理剤等を用いることができる。腐食防止処理剤の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、バーコート法、キスコート法、コンマコート法等の方法を用いることができる。
なお、金属箔層13として、未処理の金属箔層を用いてもよいし、ウェットタイプの脱脂処理又はドライタイプの脱脂処理により、脱脂処理を施した金属箔層を用いてもよい。
【0137】
次いで、金属箔層13の他方の面(腐食防止処理層14が形成された面の反対側に位置する面)に、第1の接着層12を介して、基材層11の第1の面11aを接着させる。
金属箔層13と基材層11とを接着させる方法としては、例えば、ドライラミネーション法、ノンソルベントラミネーション法、ウェットラミネーション法等の方法を用いることができる。
なお、金属箔層13と基材層11とを接着させる際に、接着性の促進のため、室温〜100℃の範囲内の温度でエージング(養生)処理を行ってもよい。
【0138】
次いで、金属箔層13と接触する面とは反対側に位置する腐食防止処理層14の面に、第2の接着層15を介して、シーラント層16を接着させる。
第2の接着層15がドライラミネート方式の場合、前述した接着剤を用いて、金属箔層13と接触する面とは反対側に位置する腐食防止処理層14の面に、ドライラミネーション法、ノンソルベントラミネーション法、ウェットラミネーション法等の方法でシーラント層16を接着させる。
・・・・(中 略)・・・・
【0143】
次いで、易接着処理層18を介して、外面19aが蓄電デバイス用外装材10の最外面となるように、基材層11と基材保護層19とを接着させることで、図1に示す蓄電デバイス用外装材10が製造される。
基材保護層19は、前記ウレタン樹脂を溶融させて押出す押出成型等で形成してもよい。また、基材保護層19の外面19aには、マット処理等の加工を施してもよい。」

(7)「【0149】
(実施例1)
実施例1では、以下の手法により、蓄電デバイス用外装材S1を作製した。始めに、金属箔層13として、厚さ40μmとされた軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製)を準備した。
・・・・(中 略)・・・・
【0151】
次いで、基材層11の第2の面11bに易接着処理層18が形成され、かつ第1の面11aがコロナ処理された積層体(基材層11と易接着処理層18とが積層された積層体。以下、「積層体P1」という。)を準備した。
基材層11としては、厚さ15μmのナイロンフィルムを用いた。
易接着処理層18は、インラインコート法を用いて、基材層11の第2の面11bに易接着処理層18の母材となる塗工剤Cを固形分で0.1g/m2となるように塗工し、乾燥させることで、厚さ約0.1μmの易接着処理層18を形成した。
・・・・(中 略)・・・・
【0154】
次いで、易接着処理層18を介して、基材11の第2の面11bに対して、基材保護層19を接着した。これにより、実施例1の蓄電デバイス用外装材S1を作製した。基材保護層19としては、アクリルポリオールに1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体及びイソシアヌレート体をモル比(=NCO/OH)が2となるようにトルエンに溶解させた塗布液を母材として形成されたものを用いた。
このとき、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体と1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体との比率は、1:1とした。
また、基材保護層19の厚さは、約4μmとした。」

(8)「【図1】



上記(1)ないし(5)、(7)、(8)から以下のことがいえる。
・甲第2号証に記載の「蓄電デバイス用外装材」は、上記(1)の【請求項1】、(2)の記載、及び(8)(図1)によれば、基材保護層19、易接着処理層18、基材層11、第1の接着層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、第2の接着層15及びシーラント層16が順次積層されてなるものである。
・上記(1)の【請求項3】、(4)の記載によれば、基材保護層19は、ポリエステルポリオール及びアクリルポリオールから選ばれる少なくとも1種の主剤とイソシアネート系硬化剤とを含んだ構成とされてなるものである。
・上記(3)、(5)、(7)の記載によれば、基材層11の厚さは、10〜30μmの範囲内の厚さがより好ましく(実施例1では15μm)、基材保護層19の厚さは、1〜5μmがより好ましい(実施例1では約4μm)ものである。

以上のことから、特に基材保護層19を形成する材料の一つである主剤として「ポリエステルポリオール」を選択した場合に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「基材保護層、易接着処理層、基材層、第1の接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2の接着層及びシーラント層が順次積層され、
前記基材保護層は、ポリエステルポリオールよりなる主剤とイソシアネート系硬化剤とを含んだ構成とされ、
前記基材保護層の厚さはより好ましくは1〜5μmであり、前記基材層の厚さはより好ましくは10〜30μmである、蓄電デバイス用外装材。」

さらに、上記(6)の記載によれば、蓄電デバイス用外装材の製造方法について、金属箔層13上に腐食防止処理層14を形成し、金属箔層13の他方の面(腐食防止処理層14が形成された面の反対側に位置する面)に第1の接着層12を介して基材層11を接着させ、次いで、金属箔層13と接触する面とは反対側に位置する腐食防止処理層14の面に、第2の接着層15を介してシーラント層16を接着させ、次いで、易接着処理層18を介して、外面が最外面となるように、基材層11と基材保護層19とを接着させるようにしてなることを踏まえると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2’発明」という。)も記載されている。
「金属箔層上に腐食防止処理層を形成し、前記金属箔層の前記腐食防止処理層が形成された面の反対側に位置する面に第1の接着層を介して基材層を接着させ、
次いで、前記金属箔層と接触する面とは反対側に位置する前記腐食防止処理層の面に、第2の接着層を介してシーラント層を接着させ、
次いで、易接着処理層を介して、外面が最外面となるように、前記基材層と基材保護層とを接着させるようにしてなり、
前記基材保護層は、ポリエステルポリオールよりなる主剤とイソシアネート系硬化剤とを含んだ構成とされ、
前記基材保護層の厚さはより好ましくは1〜5μmであり、前記基材層の厚さはより好ましくは10〜30μmである、蓄電デバイス用外装材の製造方法。」

3.甲第3号証
甲第3号証(特開2009−181802号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
正極と負極とをセパレータを介して巻回又は積層して成る電池素子を包装体で包装した電池と、上記電池の保護回路基板と、上記電池及び保護回路基板を一体的に被覆する外装材を備え、
上記外装材が形状維持ポリマーを含み、該形状維持ポリマーが、ポリオール及びポリイソシアネートを含む絶縁性の硬化性ポリウレタン樹脂を含有するものであることを特徴とする電池パック。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項6】
上記ポリオールが、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール及び主鎖が炭素−炭素結合から成るポリオールから成る群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電池パック。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項16】
上記外装材は、示差走査熱量測定(DSC)によるガラス転移点(Tg)が45〜130℃であることを特徴とする請求項1記載の電池パック。」

(2)「【0013】
本発明の電池パックは、正極と負極とをセパレータを介して巻回又は積層して成る電池素子を包装体で包装した電池と、上記電池の保護基板を外装材で一体的に被覆して成るものであり、この外装材が形状維持ポリマーを含み、該形状維持ポリマーが、ポリオール及びポリイソシアネートを含む絶縁性の硬化性ポリウレタン樹脂を含有するものである。」

(3)「【0022】
上記絶縁性の硬化性ポリウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール又は主鎖が炭素−炭素結合から成るポリオール、及びこれらの混合物を使用することが好ましい。」

(4)「【0046】
上記絶縁性の形状維持ポリマーである硬化性ポリウレタン樹脂を含有する外装材は、示差走査熱量測定(DSC;Differential Scanning Calorimetry)で測定されるガラス転移点(Tg)が、好ましくは45〜130℃、より好ましくは65〜120℃、更に好ましくは75〜110℃である。
外装材は、平常時には、優れた耐衝撃性及び機械的強度を有するものであり、一方、異常時には、電池から発生するガスを容易に外部に放出できるように、壊れ易くなるものであることが好ましく、このような外装材を構成する形状維持ポリマーとして硬化性ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
この条件を満たすために、形状維持ポリマーを含む外装材は、ガラス転移点が、電池パックを平常使用する温度以上であり、且つ、異常時における温度以下のものであることが好ましい。
上記ガラス転移点が45℃未満であると、形状維持ポリマーを含む外装材のガラス転移点が平常時の温度を下回る場合があり、平常時において形状維持ポリマーを構成する高分子の熱運動が抑制されにくくなって、硬化性が保持されにくくなり、優れた機械的強度が発現され難くなるため好ましくない。
一方、ガラス転移点が130℃を超えると、形状維持ポリマーを含む外装材のガラス転移点が異常時における温度を上回る場合があり、異常時に形状維持ポリマーを構成する高分子の熱運動が抑制されて、外装材が破壊され難く、異常時に発生したガスを早期に外部へ逃がすことが難しくなるため好ましくない。」

(5)「【0051】
次に、上記外装材を用いた本発明の電池パックについて、図面を参照にして説明する。
図1は、本発明の電池パックの一実施形態において、電池を外装材でパックする前の非水電解質二次電池を示す分解斜視図である。
同図において、この電池20は、電池素子10が包装体の一例である金属ラミネートフィルム17に外装されて作製されるものであり、電池素子10はラミネートフィルム17に形成された凹部17a(空所17a)に電池素子10を収容して、その周辺部を封止される。本実施の形態において、空所17aは、矩形板状を成す電池素子10の形状に対応した矩形板状の空間を有している。」

(6)「【0082】
次に、本発明の電池パックの製造方法の一実施形態について説明する。
本発明の電池パックの製造方法では、上記のように作製した非水電解質二次電池を該電池の電圧及び電流を制御可能な保護回路基板及びスペーサとともに、成形用金型のキャビティ(成形空間)に収容し、スペーサによって上記電池及び保護回路基板をキャビティ内の所定位置にセットした後、上記形状維持ポリマーとフィラー材とを含有する外装用材料を上記キャビティに充填して硬化させ、これにより、外装材を装着した電池パックを得る。」

上記(1)ないし(6)の記載を総合勘案すると、甲第3号証には、以下の技術事項が記載されている。
「電池素子をラミネートフィルムからなる包装体に形成された凹部に収容して封止した電池と、前記電池の保護回路基板と、前記電池及び保護回路基板を成形用金型のキャビティ内にセットした後、外装用材料を前記キャビティに充填して硬化させて前記電池及び保護回路基板を一体的に被覆する外装材を備えた電池パックにおいて、
前記外装材は、形状維持ポリマーを含み、該形状維持ポリマーが、ポリオール及びポリイソシアネートを含む絶縁性の硬化性ポリウレタン樹脂を含有し、ガラス転移点(Tg)を好ましくは45〜130℃とすること。」

4.甲第4号証
甲第4号証(特開2000−129203号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】 (A)水酸基含有ポリエステル樹脂5〜90重量部、
(B)ノボラック型エポキシ樹脂5〜70重量部及び
(C)アミノ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種の硬化剤5〜40重量部、の合計100重量部に基づいて、
(D)吸油量が30〜200ml/100gの範囲内であり且つ細孔容積が0.05〜1.2ml/gの範囲内であるシリカ微粒子を8〜130重量部含有する塗料であって、かつ該塗料から形成される硬化塗膜のガラス転移温度が40〜125℃の範囲内であることを特徴とする塗料組成物。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐食性、加工性、密着性及び耐沸騰水性に優れた非クロム系塗料組成物、及び該塗料組成物の塗膜が形成されてなる塗装金属板に関する。」

上記(1)及び(2)の記載を総合勘案すると、甲第4号証には、以下の技術事項が記載されている。
「塗装金属板の塗膜を形成するための、水酸基含有ポリエステル樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アミノ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種の硬化剤、シリカ微粒子を含有する塗料組成物であって、
当該塗料から形成される硬化塗膜のガラス転移温度を40〜125℃の範囲内とすること。」

5.甲第5号証
甲第5号証(特開2002−160454号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】 支持体上に、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物を用い、加熱温度及び/又は加熱後の冷却速度の違いにより相対的に発色した状態を形成しうる可逆性感熱組成物を含有する可逆性感熱記録層と、該可逆性感熱記録層上に保護層を設けて成る可逆性感熱記録媒体において、該保護層表面の動摩擦係数が0.2以下であり、かつ表面光沢度が40%以下であり、かつ剛体振り子自動減衰振動法より測定される粘弾性対数減衰率のピーク温度が100℃以上、かつピーク温度における対数減衰率が0.3以下であることを特徴とする可逆性感熱記録媒体。」

(2)「【0017】次に、本発明における剛体振り子自動減衰振動法によって測定される対数減衰率は、塗膜の硬さや柔軟性の度合いを表わし、値が小さいほど架橋密度が緻密で塗膜の剛直性を表わしている。また、対数減衰率のピーク温度はガラス転移温度Tgを表わし、Tg点が高いほどポリマー主鎖が剛直で、かつ、ガラス状態からゴム状態へ転移する時の温度が高いことを表わしている。以上のことより、繰り返し耐久性を維持し、更に消去残りの発生を少なくするには、塗膜が柔らかくてもガラス転移温度が高いか、ガラス転移温度が低くても塗膜に剛直性があればよい。すなわち、可逆性感熱記録層側の対数減衰率のピーク温度が100℃以上、かつピーク温度における対数減衰率が0.3以下、または対数減衰率のピーク温度が150℃以上、かつピーク温度における対数減衰率が0.6以下の粘弾性物性値の関係を満たすことが重要である。」

(3)「【0034】本発明に用いられる保護層は、前記記載の溶媒、バインダー樹脂とともに、有機/無機フィラー、紫外線吸収剤、滑剤、着色顔料などを用いることができる。ここで、保護層に用いられる樹脂は、従来公知の樹脂を1種または2種以上混合して用いられる。なかでも、繰り返し時の耐久性を向上させるため、熱や紫外線、電子線などによって硬化可能な樹脂が好ましく用いられ、とくにイソシアネート系化合物などを架橋剤として用いた熱硬化型の樹脂、例えばアクリルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリウレタンポリオール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど架橋剤と反応する基を持つ樹脂、または架橋剤と反応する基を持つモノマーとそれ以外のモノマーを共重合した樹脂などが特に好ましく用いられる。また、前記記載の分散装置、塗工方法を用いて塗膜を作製することができる。」

上記(1)ないし(3)の記載を総合勘案すると、甲第5号証には、以下の技術事項が記載されている。
「支持体上に、可逆性感熱記録層と、該可逆性感熱記録層上に保護層を設けて成る可逆性感熱記録媒体において、
前記保護層に用いられる樹脂として、イソシアネート系化合物などを架橋剤として用いた熱硬化型の樹脂、例えばポリエステルポリオール樹脂が用いられ、剛体振り子自動減衰振動法より測定される粘弾性対数減衰率のピーク温度(ガラス転移温度Tgを表わす)を100℃以上とすること。」

6.甲第6号証
甲第6号証(国際公開第2011/030439号)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「[請求項1] 鋼板の少なくとも片方の表面に接着層(S)を形成し、該接着層(S)上に意匠性を有し且つ防錆顔料及び/又は着色顔料を含有する上層及び/又は中間層(T)を形成した複層表面処理鋼板を得るために用いる接着層形成用組成物であって、
前記接着層形成用組成物(X)が、水性媒体に、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、下記一般式(I)に示されるケイ素化合物(B)とを含有し、かつ、
前記カチオン性ウレタン樹脂(A)と前記ケイ素化合物(B)との混合物(C)の剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Tc)と、前記カチオン性ウレタン樹脂(A)単独の剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Ta)との比(Tc/Ta)が、1.2〜3.0であることを特徴とする接着層形成用組成物。
[化1]

(式(I)中、R1〜R3は互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R1〜R3の少なくとも二つは前記アルコキシ基であり、R4は炭素数2〜6のアルキル基を表し、R5は3−アミノ基又はN−2(アミノエチル)3−アミノ基を表す。)」

(2)「[0001] 本発明は、複層表面処理鋼板に用いる接着層形成用組成物に関する。さらに詳しくは、建材、家電製品又は自動車部品などに使用され、意匠性を必要とする塗膜が接着層を介して設けられる複層表面処理鋼板の分野において、鋼板表面に、極めて優れた塗膜密着性を付与でき、傷又は加工負荷などがある塗膜が腐食環境へ曝露されても密着性を損なわない接着層を形成するための、接着層形成用組成物に関する。」

(3)「[0084] 1 接着層形成用組成物
1.1 実施例1〜70及び比較例1〜12
表1〜表3に示す原料及び親水基含有モノマーとして、S1:モノメチルジエタノールアミンを用い、表4及び表5に示した組合せ及び割合にてカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を合成し、試験に供した。また、用いたケイ素化合物(B)を表7に示した。
[0085] 1.1.1 カチオン性ウレタン樹脂(A)及び比較例用カチオン性ウレタン樹脂
A1(実施例用):テトラメチレングリコール及びアジピン酸から得たポリエステルポリオール150質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート45.4質量部及びモノメチルジエタノールアミン20質量部をN−メチル−2−ピロリドン100質量部中で反応させることによりプレポリマーを得て、そのプレポリマーを蟻酸を用いて中和し、脱イオン水に分散させることにより、水性ポリウレタン樹脂を得た。
[0086] A2〜A8、A10〜A15、A18〜A26、A28〜A32、A34〜A36、A38〜A44、A46〜A52(実施例用)、及びA9、A16〜17、A27、A33、A37、A45(比較例用)も同様にして製造した。A1〜A52のカチオン性ウレタン樹脂(A)を表4及び表5に示し、下記の測定方法により測定した物性を表6に示した。」

(4)「[表6]



上記(1)ないし(4)の記載を総合勘案すると、甲第6号証には、以下の技術事項が記載されている。
「複層表面処理鋼板に用いる接着層形成用組成物であって、
前記接着層形成用組成物が、水性媒体に、カチオン性ウレタン樹脂と、ケイ素化合物とを含有し、
前記カチオン性ウレタン樹脂が、テトラメチレングリコール及びポリエステルポリオール、ヘキサメチレンジイソシアネート及びモノメチルジエタノールアミンを反応させて得たプレポリマーから得られ、該カチオン性ウレタン樹脂単独の剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Ta)が、59.6〜128.5℃であること。」

第5 当審の判断

1.申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における外側から順次積層された「基材保護層」、「基材層」、「第1接着層」、「金属箔層」、「第2接着層」、「シーラント層」は、それぞれ本件発明1でいう「基材保護層」、「基材層」、「接着層」、「金属箔層」、「シーラント接着層」、「シーラント層」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「少なくとも基材保護層、基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及びシーラント層をこの順に備え」るものである点で一致する。

(イ)甲1発明における「基材保護層」は、ポリエステルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂からなるものであるところ、当該「ポリエステルポリオール」、「脂肪族系イソシアネート硬化剤」、これらから形成された「ポリウレタン樹脂」は、それぞれ本件発明1でいう「ポリエステル樹脂」、「ポリイソシアネート化合物」、これらの原料の「硬化物」に相当するといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物」である点で一致する。

(ウ)本件発明1では基材保護層のガラス転移温度(Tg)が「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点で相違している。

(エ)本件発明1では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲1発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜12μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜25μmである点で相違しているといえる。

(オ)そして、甲1発明における「二次電池用外装材」は、本件発明1でいう「蓄電デバイス用外装材」に相当するものである。

よって、上記(ア)ないし(オ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「少なくとも基材保護層、基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及びシーラント層をこの順に備え、
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物である、
蓄電デバイス用外装材。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
基材保護層のガラス転移温度(Tg)について、本件発明1では「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
本件発明1では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲1発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜12μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜25μmである点。

イ.判断
まず相違点1について検討する。
本件発明1において、機材保護層のガラス転移温度を「100〜140℃」の範囲に特定するのは、本件特許明細書の段落【0046】の記載によれば、より高い深絞り成型性を得るためである。
これに対して、甲第3号証には、電池素子をラミネートフィルムからなる包装体に形成された凹部に収容して封止した電池と、前記電池の保護回路基板と、前記電池及び保護回路基板を成形用金型のキャビティ内にセットした後、外装用材料を前記キャビティに充填して硬化させて前記電池及び保護回路基板を一体的に被覆する外装材を備えた電池パックにおいて、前記外装材は、形状維持ポリマーを含み、該形状維持ポリマーが、ポリオール及びポリイソシアネートを含む絶縁性の硬化性ポリウレタン樹脂を含有し、ガラス転移点(Tg)を好ましくは45〜130℃とする技術事項が記載されている(上記「第4 3.」を参照)。しかしながら、そもそもガラス転移点(Tg)を好ましくは45〜130℃とされる「外装材」は、外装用材料を前記キャビティに充填して硬化させて前記電池及び保護回路基板を一体的に被覆するためのものであり、深絞り成型がなされることのないものである。甲第3号証において、本件発明1の「蓄電デバイス用外装材」や甲1発明の「二次電池用外装材」に相当するのは、電池素子を凹部に収容して封止する「ラミネートフィルムからなる包装体」であるが、かかる包装体における基材保護層のガラス転移温度をどのような値とするかについては記載も示唆もない。
また、甲第4号証には、塗装金属板の塗膜を形成するための、水酸基含有ポリエステル樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アミノ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種の硬化剤、シリカ微粒子を含有する塗料組成物であって、当該塗料から形成される硬化塗膜のガラス転移温度を40〜125℃の範囲内とする技術事項が記載されている(上記「第4 4.」を参照)。しかしながら、ガラス転移温度を40〜125℃の範囲内とされる「硬化塗膜」は、塗装金属板に形成される塗膜であって、深絞り成型がなされることを想定していないものであり、そもそも甲第4号証には、本件発明1の「蓄電デバイス用外装材」や甲1発明の「二次電池用外装材」に関する記載も示唆もない。
甲第5号証には、支持体上に、可逆性感熱記録層と、該可逆性感熱記録層上に保護層を設けて成る可逆性感熱記録媒体において、前記保護層に用いられる樹脂として、イソシアネート系化合物などを架橋剤として用いた熱硬化型の樹脂、例えばポリエステルポリオール樹脂が用いられ、剛体振り子自動減衰振動法より測定される粘弾性対数減衰率のピーク温度(ガラス転移温度Tgを表わす)を100℃以上とする技術事項が記載されている(上記「第4 5.」を参照)。しかしながら、ガラス転移温度を100℃以上とされる「保護層」は、可逆性感熱記録媒体における可逆性感熱記録層を保護するための層であって、深絞り成型がなされることのないものであり、そもそも甲第5号証には、本件発明1の「蓄電デバイス用外装材」や甲1発明の「二次電池用外装材」に関する記載も示唆もない。
そして、甲第6号証には、複層表面処理鋼板に用いる接着層形成用組成物であって、前記接着層形成用組成物が、水性媒体に、カチオン性ウレタン樹脂と、ケイ素化合物とを含有し、前記カチオン性ウレタン樹脂が、テトラメチレングリコール及びポリエステルポリオール、ヘキサメチレンジイソシアネート及びモノメチルジエタノールアミンを反応させて得たプレポリマーから得られ、該カチオン性ウレタン樹脂単独の剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Ta)が、59.6〜128.5℃である技術事項が記載されている(上記「第4 6.」を参照)。しかしながら、剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Ta)が59.6〜128.5℃とされる「カチオン性ウレタン樹脂」は、複層表面処理鋼板に用いる接着層形成用組成物に含まれるものであって、深絞り成型がなされることを想定していないものであり、そもそも甲第6号証には、本件発明1の「蓄電デバイス用外装材」や甲1発明の「二次電池用外装材」に関する記載も示唆もない。
してみると、甲第3号証ないし甲第6号証のいずれにも、蓄電デバイス(二次電池)用外装材における「基材保護層」のガラス転移温度を100〜140℃の範囲の値とすることについては記載も示唆もなく、単に、ポリエステル樹脂(ポリエステルポリオール)等を原料として含む層のガラス転移温度が本件発明1で特定する「100〜140℃」の範囲に含まれる値とされることが記載されているにすぎず、甲1発明における二次電池用外装材における「基材保護層」について、本件発明1で特定する「100〜140℃」の範囲内の値とすべき動機を見出すことはできない。

よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはではない。

(2)本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲1号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6について
ア.対比
本件発明6と甲1’発明とを対比する。
(ア)甲1’発明における「金属箔層」、「第1接着層」、「基材層」は、それぞれ本件発明6でいう「金属箔層」、「接着層」、「基材層」に相当し、甲1’発明における「金属箔層における一方側に、第1接着層を介して基材層を積層」することは、本件発明6でいう「金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程」に相当する。
したがって、本件発明6と甲1’発明とは、「金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程」を備えるものである点で一致する。

(イ)甲1’発明における「基材保護層」は、本件発明6でいう「基材保護層」に相当し、甲1’発明における「さらに前記基材層上に基材保護層を形成する工程」は、本件発明6でいう「前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程」に相当するといえる。
したがって、本件発明6と甲1’発明とは、「前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程」を備えるものである点で一致する。

(ウ)甲1’発明における「第2接着層」、「シーライント層」は、それぞれ本件発明6でいう「シーラント接着層」、「シーラント層」に相当し、甲1’発明における「前記金属箔層における反対側に、第2接着層を介してシーラント層を積層する工程」は、本件発明6でいう「前記金属箔層における反対側に、第2接着層を介してシーラント層を積層する工程」に相当する。
したがって、本件発明6と甲1’発明とは、「前記金属箔層における反対側に、第2接着層を介してシーラント層を積層する工程」を備えるものである点で一致する。

(エ)甲1’発明における「基材保護層」は、ポリエステルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤とから形成されたポリウレタン樹脂からなるものであるところ、当該「ポリエステルポリオール」、「脂肪族系イソシアネート硬化剤」、これらから形成された「ポリウレタン樹脂」は、それぞれ本件発明6でいう「ポリエステル樹脂」、「ポリイソシアネート化合物」、これらの原料の「硬化物」に相当するといえる。
したがって、本件発明6と甲1’発明とは、「前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物」である点で一致する。

(オ)本件発明6では基材保護層のガラス転移温度(Tg)が「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲1’発明ではそのような特定がない点で相違している。

(カ)本件発明6では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲1’発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜12μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜25μmである点で相違しているといえる。

(キ)そして、甲1’発明における「二次電池用外装材」の製造方法は、本件発明6でいう「蓄電デバイス用外装材」の製造方法に相当するものである。

よって、上記(ア)ないし(キ)によれば、本件発明6と甲1’発明とは、
「金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程、
前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程、及び
前記金属箔層の前記接着層とは反対側の面に、シーラント接着層を介してシーラント層を形成する工程、を備え、
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物である、
蓄電デバイス用外装材の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点3]
基材保護層のガラス転移温度(Tg)について、本件発明6では「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲1’発明ではそのような特定がない点。

[相違点4]
本件発明6では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲1’発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜12μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜25μmである点。

判断
上記相違点3は、上記「(1)本件発明1について」において検討した相違点1と同じである。
よって、上記相違点1についての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲1号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、本件の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

2.申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における順次積層された層のうちの「基材保護層」、「基材層」、「第1の接着層」、「金属箔層」、「第2の接着層」、「シーラント層」は、それぞれ本件発明1でいう「基材保護層」、「基材層」、「接着層」、「金属箔層」、「シーラント接着層」、「シーラント層」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「少なくとも基材保護層、基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及びシーラント層をこの順に備え」るものである点で一致する。

(イ)甲2発明における「基材保護層」は、ポリエステルポリオールよりなる主剤とイソシアネート系硬化剤とを含んだ構成とされるものであるところ、当該主剤である「ポリエステルポリオール」、「イソシアネート系硬化剤」は、それぞれ本件発明1でいう「ポリエステル樹脂」、「ポリイソシアネート化合物」に相当し、甲2発明における「基材保護層」にあっても、ポリエステルポリオールよりなる主剤とイソシアネート系硬化剤を原料とする硬化物であることは自明なことである。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物」である点で一致する。

(ウ)本件発明1では基材保護層のガラス転移温度(Tg)が「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点で相違している。

(エ)本件発明1では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲2発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜5μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜30μmである点で相違しているといえる。

(オ)そして、甲2発明における「蓄電デバイス用外装材」は、本件発明1でいう「蓄電デバイス用外装材」に相当する。

よって、上記(ア)ないし(オ)によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「少なくとも基材保護層、基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及びシーラント層をこの順に備え、
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物である、
蓄電デバイス用外装材。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点5]
基材保護層のガラス転移温度(Tg)について、本件発明1では「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点。

[相違点6]
本件発明1では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲2発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜5μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜30μmである点。

イ.判断
まず相違点5について検討する。
本件発明1において、機材保護層のガラス転移温度を「100〜140℃」の範囲に特定するのは、本件特許明細書の段落【0046】の記載によれば、より高い深絞り成型性を得るためである。
これに対して、甲第3号証には、電池素子をラミネートフィルムからなる包装体に形成された凹部に収容して封止した電池と、前記電池の保護回路基板と、前記電池及び保護回路基板を成形用金型のキャビティ内にセットした後、外装用材料を前記キャビティに充填して硬化させて前記電池及び保護回路基板を一体的に被覆する外装材を備えた電池パックにおいて、前記外装材は、形状維持ポリマーを含み、該形状維持ポリマーが、ポリオール及びポリイソシアネートを含む絶縁性の硬化性ポリウレタン樹脂を含有し、ガラス転移点(Tg)を好ましくは45〜130℃とする技術事項が記載されている(上記「第4 3.」を参照)。しかしながら、そもそもガラス転移点(Tg)を好ましくは45〜130℃とされる「外装材」は、外装用材料を前記キャビティに充填して硬化させて前記電池及び保護回路基板を一体的に被覆するためのものであり、深絞り成型がなされることのないものである。甲第3号証において、本件発明1や甲2発明の「蓄電デバイス用外装材」に相当するのは、電池素子を凹部に収容して封止する「ラミネートフィルムからなる包装体」であるが、かかる包装体における基材保護層のガラス転移温度をどのような値とするかについては記載も示唆もない。
また、甲第4号証には、塗装金属板の塗膜を形成するための、水酸基含有ポリエステル樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アミノ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種の硬化剤、シリカ微粒子を含有する塗料組成物であって、当該塗料から形成される硬化塗膜のガラス転移温度を40〜125℃の範囲内とする技術事項が記載されている(上記「第4 4.」を参照)。しかしながら、ガラス転移温度を40〜125℃の範囲内とされる「硬化塗膜」は、塗装金属板に形成される塗膜であって、深絞り成型がなされることを想定していないものであり、そもそも甲第4号証には、本件発明1や甲2発明の「蓄電デバイス用外装材」に関する記載も示唆もない。
甲第5号証には、支持体上に、可逆性感熱記録層と、該可逆性感熱記録層上に保護層を設けて成る可逆性感熱記録媒体において、前記保護層に用いられる樹脂として、イソシアネート系化合物などを架橋剤として用いた熱硬化型の樹脂、例えばポリエステルポリオール樹脂が用いられ、剛体振り子自動減衰振動法より測定される粘弾性対数減衰率のピーク温度(ガラス転移温度Tgを表わす)を100℃以上とする技術事項が記載されている(上記「第4 5.」を参照)。しかしながら、ガラス転移温度を100℃以上とされる「保護層」は、可逆性感熱記録媒体における可逆性感熱記録層を保護するための層であって、深絞り成型がなされることのないものであり、そもそも甲第5号証には、本件発明1や甲2発明の「蓄電デバイス用外装材」に関する記載も示唆もない。
そして、甲第6号証には、複層表面処理鋼板に用いる接着層形成用組成物であって、前記接着層形成用組成物が、水性媒体に、カチオン性ウレタン樹脂と、ケイ素化合物とを含有し、前記カチオン性ウレタン樹脂が、テトラメチレングリコール及びポリエステルポリオール、ヘキサメチレンジイソシアネート及びモノメチルジエタノールアミンを反応させて得たプレポリマーから得られ、該カチオン性ウレタン樹脂単独の剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Ta)が、59.6〜128.5℃である技術事項が記載されている(上記「第4 6.」を参照)。しかしながら、剛体振り子型自由減衰振動法における対数減衰率が最大値を示す温度(Ta)が59.6〜128.5℃とされる「カチオン性ウレタン樹脂」は、複層表面処理鋼板に用いる接着層形成用組成物に含まれるものであって、深絞り成型がなされることを想定していないものであり、そもそも甲第6号証には、本件発明1や甲2発明の「蓄電デバイス用外装材」」に関する記載も示唆もない。
してみると、甲第3号証ないし甲第6号証のいずれにも、蓄電デバイス用外装材における「基材保護層」のガラス転移温度を100〜140℃の範囲の値とすることについては記載も示唆もなく、単に、ポリエステル樹脂(ポリエステルポリオール)等を原料として含む層のガラス転移温度が本件発明1で特定する「100〜140℃」の範囲に含まれる値とされることが記載されているにすぎず、甲2発明における蓄電デバイス用外装材における「基材保護層」について、本件発明1で特定する「100〜140℃」の範囲内の値とすべき動機を見出すことはできない。

よって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはではない。

(2)本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6について
ア.対比
本件発明6と甲2’発明とを対比する。
(ア)甲2’発明における「金属箔層」、「第1の接着層」、「基材層」は、それぞれ本件発明6でいう「金属箔層」、「接着層」、「基材層」に相当し、甲2’発明における「前記金属箔層の前記腐食防止処理層が形成された面の反対側に位置する面に第1の接着層を介して基材層を接着させ」ることは、本件発明6でいう「金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程」に相当する。
したがって、本件発明6と甲2’発明とは、「金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程」を備えるものである点で一致する。

(イ)甲2’発明における「基材保護層」は、本件発明6でいう「基材保護層」に相当し、甲2’発明における「易接着処理層を介して、外面が最外面となるように、前記基材層と基材保護層とを接着させる」ことは、本件発明6でいう「前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程」に相当するといえる。
したがって、本件発明6と甲2’発明とは、「前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程」を備えるものである点で一致する。

(ウ)甲2’発明における「第2の接着層」、「シーライント層」は、それぞれ本件発明6でいう「シーラント接着層」、「シーラント層」に相当し、甲2’発明における「前記金属箔層と接触する面とは反対側に位置する前記腐食防止処理層の面に、第2の接着層を介してシーラント層を接着させ」ることは、本件発明6でいう「前記金属箔層における反対側に、第2接着層を介してシーラント層を積層する工程」に相当する。
したがって、本件発明6と甲2’発明とは、「前記金属箔層における反対側に、第2接着層を介してシーラント層を積層する工程」を備えるものである点で一致する。

(エ)甲2’発明における「基材保護層」は、ポリエステルポリオールよりなる主剤とイソシアネート系硬化剤とを含んだ構成とされるものであるところ、当該主剤である「ポリエステルポリオール」、「イソシアネート系硬化剤」は、それぞれ本件発明6でいう「ポリエステル樹脂」、「ポリイソシアネート化合物」に相当し、甲2’発明における「基材保護層」にあっても、ポリエステルポリオールよりなる主剤とイソシアネート系硬化剤を原料とする硬化物であることは自明なことである。
したがって、本件発明6と甲2’発明とは、「前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物」である点で一致する。

(オ)本件発明6では基材保護層のガラス転移温度(Tg)が「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲2’発明ではそのような特定がない点で相違している。

(カ)本件発明6では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲2’発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜5μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜30μmである点で相違しているといえる。

(キ)そして、甲2’発明における「蓄電デバイス用外装材」の製造方法は、本件発明6でいう「蓄電デバイス用外装材」の製造方法に相当する。

よって、上記(ア)ないし(キ)によれば、本件発明6と甲2’発明とは、
「金属箔層の一方の面に、接着層を介して基材層を貼り合わせる工程、
前記基材層の前記接着層とは反対側の面に基材保護層を形成する工程、及び
前記金属箔層の前記接着層とは反対側の面に、シーラント接着層を介してシーラント層を形成する工程、を備え、
前記基材保護層が、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む原料の硬化物である、
蓄電デバイス用外装材の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点7]
基材保護層のガラス転移温度(Tg)について、本件発明6では「100〜140℃」であることを特定するのに対し、甲2’発明ではそのような特定がない点。

[相違点8]
本件発明6では基材保護層の厚さが「1〜5μm」であり、記基材層の厚さに対する基材保護層の厚さの割合が「35%以下」であることを特定するのに対し、甲2’発明では基材保護層の厚さはより好ましくは1〜5μmであり、基材層の厚さはより好ましくは10〜30μmである点。

イ.判断
上記相違点7は、上記「(1)本件発明1について」において検討した相違点5と同じである。
よって、上記相違点5についての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし6は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、本件の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

3.申立理由3(明確性要件)について
(1)特許異議申立人は、次のような明確性要件についての申立理由を主張している。
本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層の厚さが1〜5μmであり、前記基材層の厚さに対する前記基材保護層の厚さの割合が35%以下である」ことが特定されている。ここで、本件請求項1を引用する請求項4に「前記原料がさらにフィラーを含む」と記載されているように、本件発明1、6は、基材保護層にフィラーが含まれ得るものであるところ、厚さが1〜5μmという薄い基材保護層を形成する場合、フィラーが含まれていると均一な厚みの基材保護層は得られず、凹凸が形成されることになる。例えば本件明細書の【0041】に「原料にフィラーが含まれていることにより、基材保護層12の外表面にマット処理を施すことができる。」と記載されているように、基材保護層のマット処理は、フィラーによって形成された凹凸形状によるものである。そうすると、基材保護層の厚みを測定する位置によって、基材保護層の厚みの値は大きく変化し、本件発明1、6に規定された基材保護層の厚さの割合が一義的に定まらず、技術的範囲が不明確である。
したがって、本件発明1ないし6は不明確である。

(2)そこで、上記主張について検討する。
本件特許明細書の段落【0041】〜【0043】にも記載されているように、基材保護層にフィラーが含まれていることによる外表面に施されるマット処理の表面粗さ(凹凸)は、フィラーの平均粒子径や配合量などにより調整することができるものであるところ、μmオーダーの厚さの測定に大きく影響がでるような表面粗さ(凹凸)とはしないのが普通であるといえるし、仮に測定する位置によって厚みの値が変化してしまう場合にあっては平均値が用いられるのが技術常識であるといえ、これらのことを踏まえると、本件発明1、6に記載された「基材保護層の厚さ」、「基材層に退位する基材保護層の厚さの割合」が一義的に定まらず技術的範囲が不明確であるとはいえない。

(3)よって、特許異議申立人の明確性要件についての申立理由に関する上記主張を採用することはできず、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

4.申立理由4(サポート要件)について
(1)特許異議申立人は、次のようなサポート要件についての申立理由を主張している。
ア.本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層のガラス転移温度(Tg)が100〜140℃」であることが特定されている。これに対して、本件明細書の実施例7と比較例9、10との比較から、基材保護層のガラス転移温度(Tg)が5℃異なるだけで成型深度の評価が大きく異なり得るものであるところ、実施例において、基材保護層の最も低いガラス転移温度(Tg)は実施例1の「115℃」である。そうすと、本件発明1、6において特定される基材保護層のガラス転移温度(Tg)の「100〜140℃」の範囲のうち100〜115℃の全範囲においては、本件発明の課題が解決されるとは理解できない。
したがって、本件発明1ないし6は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

イ.本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層の厚さが1〜5μm」であることが特定されている。一方、本件明細書の比較例1、2では、基材保護層の厚さが0.5μmであるから、四捨五入すると「1μm」であるが、この比較例1、2は本件発明の課題が解決されない発明である。
そうすると、本件発明1,6には、本件発明の課題を解決し得ない発明が包含されており、本件発明1ないし6は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

ウ.本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層の厚さが1〜5μm」であることが特定されている。ここで、本件請求項1を引用する請求項4に「前記原料がさらにフィラーを含む」と記載されているように、本件発明1、6は、基材保護層にフィラーが含まれ得るものであるところ、申立理由3で述べたとおり、厚さが1〜5μmという薄い基材保護層を形成する場合、フィラーが含まれていると均一な厚みの基材保護層は得られず、凹凸が形成されることになる。例えば本件明細書の【0041】に「原料にフィラーが含まれていることにより、基材保護層12の外表面にマット処理を施すことができる。」と記載されているように、基材保護層のマット処理は、フィラーによって形成された凹凸形状によるものである。つまり、フィラーを配合した基材保護層には1μmを下回る凹凸が多数形成されることが明らかであり、本件発明の課題が解決されない。
そうすると、本件発明1,6には、本件発明の課題を解決し得ない発明が包含されており、本件発明1ないし6は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

(2)そこで、上記主張について検討する。
「ア.」の主張について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、基材保護層のガラス転移温度(Tg)が100℃以上115℃未満の実施例は記載されていない。しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0046】には「・・基材保護層12のガラス転移温度(Tg)が100℃以上、好ましくは120℃以上であれば、深絞り成型時の延伸により耐え得る十分な“柔らかさ”と、延伸された際に基材保護層12にかかるずり応力により耐え得る十分な“硬さ”と、を基材保護層12が有するため、より高い深絞り成型性を得ることができる。このような観点から、Tgは100〜140℃であることが好ましく・・」と記載されており、かかる記載によれば、基材保護層のガラス転移温度(Tg)の下限が100℃以上であれば、より高い成型性を得ることができ、課題を解決し得ることが認識できるといえることを踏まえると、100℃以上115℃未満の実施例は記載されていないからといって、本件発明1ないし6が、本件特許明細書の発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

「イ.」の主張について
本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1ないし3では基材保護層の厚さは「1μm」とされ、比較例1、2の「0.5μm」とは明確に区別して記載されていることから、実施例1ないし3における基材保護層の厚さは正確には「1,0μm」と解するべきであって、比較例1、2の「0.5μm」を四捨五入して「1μm」と解するのは曲解であると言わざるを得ず、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

「ウ.」の主張について
上記申立理由3における主張についての検討においても述べたように、そもそも基材保護層におけるμmオーダーの厚さに大きく影響がでるような表面粗さ(凹凸)とはしないのが普通であるといえるし、本件特許明細書の段落【0041】に記載されているように基材保護層にフィラーが含まれることによってその外表面にマット処理が施され、多数の凹凸が形成されたとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、基材保護層にフィラーが含まれる場合の実施例8ないし11が記載され、これら実施例は課題を解決できるものであることを踏まえると、本件発明1ないし6が、本件特許明細書の発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)よって、特許異議申立人のサポート要件についての申立理由に関する上記主張はいずれも採用することはできず、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

5.申立理由5(実施可能要件)について
(1)特許異議申立人は、次のような実施可能要件についての申立理由を主張している。
ア.本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層のガラス転移温度(Tg)が100〜140℃」であることが特定されている。これに対して、本件明細書の実施例7と比較例9、10との比較から、基材保護層のガラス転移温度(Tg)が5℃異なるだけで成型深度の評価が大きく異なり得るものであるところ、実施例において、基材保護層の最も低いガラス転移温度(Tg)は実施例1の「115℃」である。そうすと、本件発明1、6において特定される基材保護層のガラス転移温度(Tg)の「100〜140℃」の範囲のうち100〜115℃の全範囲においては成型深度の評価が「△」又は「〇」になるか否か不明であり、実施例1、7の結果を踏まえれば、むしろ実施例1の「△」よりも劣る「×」と評価される範囲が包含されると考えることが自然である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、6において特定される基材保護層のガラス転移温度(Tg)の「100〜140℃」の範囲のうち100〜115℃の全範囲について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

イ.本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層の厚さが1〜5μm」であることが特定されている。一方、本件明細書の比較例1、2では、基材保護層の厚さが0.5μmであるから、四捨五入すると「1μm」であるが、この比較例1、2は本件発明の課題が解決されない発明である。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

ウ.本件発明1、6にはそれぞれ「前記基材保護層の厚さが1〜5μm」であることが特定されている。ここで、本件請求項1を引用する請求項4に「前記原料がさらにフィラーを含む」と記載されているように、本件発明1、6は、基材保護層にフィラーが含まれ得るものであるところ、申立理由3で述べたとおり、厚さが1〜5μmという薄い基材保護層を形成する場合、フィラーが含まれていると均一な厚みの基材保護層は得られず、凹凸が形成されることになる。例えば本件明細書の【0041】に「原料にフィラーが含まれていることにより、基材保護層12の外表面にマット処理を施すことができる。」と記載されているように、基材保護層のマット処理は、フィラーによって形成された凹凸形状によるものである。つまり、フィラーを配合した基材保護層には1μmを下回る凹凸が多数形成されることが明らかである。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)そこで、上記主張について検討する。
「ア.」の主張について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1ないし7、8ないし11として、基材保護層のガラス転移温度(Tg)が115〜140℃の場合の実施例がその製造方法を含めて詳細に記載されており(本件特許明細書の段落【0099】〜【0106】を参照)、特に段落【0105】に「比較例7及び8以外は、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの混合割合を変えてTgを調整した。」と記載されているように、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの混合割合を変えることによって、基材保護層のガラス転移温度(Tg)が100℃以上115℃未満の範囲のものも当業者であれば適宜製造することができるものと解される。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者であれば本件発明1ないし6についてその実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。

「イ.」の主張について
本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1ないし3では基材保護層の厚さは「1μm」とされ、比較例1、2の「0.5μm」とは明確に区別して記載されていることから、実施例1ないし3における基材保護層の厚さは正確には「1,0μm」と解するべきであって、比較例1、2の「0.5μm」を四捨五入して「1μm」と解するのは曲解であると言わざるを得ないことに加えて、そもそも本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1ないし7、8ないし11として、基材保護層の厚さが1μm、3μm、5μmの場合の実施例がその製造方法を含めて詳細に記載されており(本件特許明細書の段落【0099】〜【0106】を参照)、当業者であれば本件発明1ないし6についてその実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。

「ウ.」の主張について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、基材保護層にフィラーが含まれる場合の実施例8ないし11がその製造方法を含めて詳細に記載されているといえ(本件特許明細書の段落【0099】〜【0106】を参照)、当業者であれば本件発明1ないし6についてその実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)よって、特許異議申立人の実施可能要件についての申立理由に関する上記主張はいずれも採用することはできず、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本件発明1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-20 
出願番号 P2018-531957
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 井上 信一
須原 宏光
登録日 2021-12-28 
登録番号 7001056
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 蓄電デバイス用外装材、及び蓄電デバイス用外装材の製造方法  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 黒木 義樹  

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