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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05B
管理番号 1390614
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-22 
確定日 2022-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第7007272号発明「有機EL表示素子用封止剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7007272号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7007272号の請求項1〜6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2018−530922号)は、2018年(平成30年)6月5日(先の出願に基づく優先権主張 2017年6月15日)を国際出願日とする出願であって、令和4年1月11日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和4年7月22日に、特許異議申立人 特許業務法人藤央特許事務所から、請求項1〜請求項6に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
特許異議申立人 特許業務法人藤央特許事務所は、令和4年8月16日提出の氏名(名称)変更届において、特許業務法人藤央特許事務所から、藤央弁理士法人に名称変更を行った(以下、異議申立人 藤央弁理士法人を「特許異議申立人」という。)。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明6」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

「【請求項1】
重合性化合物を含有する有機EL表示素子用封止剤であって、
前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、
前記低沸点重合性化合物は、環状エーテル化合物、(メタ)アクリル化合物、及び、ヒドロシリル化反応性化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり、
25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であり、
溶剤の含有量が0.05重量%以下であり、
厚さ10μmの硬化物のヘイズが1.0%以下である
ことを特徴とする有機EL表示素子用封止剤。
【請求項2】
重合性化合物を含有する有機EL表示素子用封止剤であって、
前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、
前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり、
25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であり、
溶剤の含有量が0.05重量%以下であり、
予め厚さ10μmで塗布した後に395nmの紫外線を1000mJ/cm2照射して得られた硬化物のアウトガス発生量が1000ppm未満であり、
厚さ10μmの硬化物のヘイズが1.0%以下である
ことを特徴とする有機EL表示素子用封止剤。
【請求項3】
低沸点重合性化合物は、沸点が150℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機EL表示素子用封止剤。
【請求項4】
低沸点重合性化合物は、1,7−オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、イソボルニルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、及び、3−エチル−3−オキセタンメタノールからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の有機EL表示素子用封止剤。
【請求項5】
25℃における表面張力が15mN/m以上35mN/m以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の有機EL表示素子用封止剤。
【請求項6】
インクジェット法による塗布に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の有機EL表示素子用封止剤。」

第3 特許異議申立ての概要
1 証拠
特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
(1)甲第1号証:特開2014−196387号公報
(2)甲第2号証:Home Sunshine Pharma," 1-アダマンチルメタクリレートCAS16887-36-8",[online],[2022年7月11日検索]、インターネット<URL:http://m.ja.hspchem.com/apis-and-intermediates/1-adamantyl-methacrylate-cas-16887-36-8.html>
(3)甲第3号証:日本化薬株式会社,"製品カタログ「KAYARAD KAYAMER KAYACURE Radiation Curable Products 第2版」"
(4)甲第4号証:ChemSrc," CAS No. 42594-17-2",[online],[2022年7月11日検索]、インターネット<URL:https://www.chemsrc.com/en/baike/752151.html>
(5)甲第5号証:ChemSrc," CAS#87320-05-6",[online],[2022年7月11日検索]、インターネット<URL:https://www.chemsrc.com/en/cas/87320-05-6_626329.html>
(6)甲第6号証:特開2018−143638号公報
(7)甲第7号証:特開2014−225380号公報
(8)甲第8号証:特開2016−27124号公報

なお、甲第1号証は主引用文献、甲第2〜6号証は技術常識を示す文献、甲第7〜8は副引用文献である(以下、「甲第1号証」〜「甲第8号証」をそれぞれ、「甲1」〜「甲8」という。)。

2 申立て理由の概要
特許異議申立人が主張する取消しの理由は、概略、以下のとおりである(特許異議申立書の第28頁)。

(1)特許法29条1項3号(同法113条2号
本件特許発明1、並びに請求項1を引用する本件特許発明3、4、及び6に係る発明は、甲1に記載された発明である。

(2)特許法29条2項(同法113条2号
本件特許発明1〜6は、甲7〜8の記載を参酌して、甲1に記載された発明に基づいて、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。

(3)特許法36条6項1号(同法113条4号
本件出願の請求項1〜6に係る特許は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法36条6項1号の規定を満たしていない。

(4)特許法36条6項2号(同法113条4号
本件出願の請求項1〜6の記載は明確でないから、特許法36条6項2号の規定を満たしていない。

(5)特許法36条4項1号(同法113条4号
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件出願の請求項2に係る特許、及び請求項2を引用する請求項3〜6に係る特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法36条4項1号の規定を満たしていない。

第4 当合議体の判断(新規性進歩性
1 甲1、甲7〜8の記載及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す。以下同様である。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物(A)、下記環状(メタ)アクリレート化合物(B)及び重合開始剤(C)を含有する樹脂組成物。
環状(メタ)アクリレート化合物(B):前記化合物(A)とは異なる(メタ)アクリレート化合物である脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物、ヘテロ環骨格を有する(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の(メタ)アクリレート化合物。
・・・中略・・・
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物における脂環式炭化水素骨格が、ジシクロデカン骨格、トリシクロデカン骨格またはアダマンタン骨格であることを特徴とする樹脂組成物。
・・・中略・・・
【請求項9】
OLED用途に用いられる請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」

イ 「【技術分野】
【0001】
エネルギー線硬化樹脂は、一般的に無溶剤で加工ができる為、作業性に優れる。また、硬化速度が早く、エネルギー必要量が低いことからエネルギー線硬化技術はディスプレイ周辺材料を始め、種々の産業において重要な技術である。近年、ディスプレイはフラットパネルディスプレイ(FPD)と称される薄型のディスプレイ、特にプラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)が市場投入され広く普及している。また、次世代の自発光型薄膜ディスプレイとして有機ELディスプレイ(OLED)が期待されており、一部製商品では既に実用化されている。有機ELディスプレイの有機EL素子は、TFT等の駆動回路が形成されたガラス等の基板上に、陰極および陽極によって挟持された発光層を含む薄膜積層体からなる素子部本体が形成された構造を有している。素子部の発光層または電極といった層は、水分または酸素により劣化し易く、劣化によって輝度やライフの低下、変色が発生する。その為、有機EL素子は、外部からの水分または不純物の浸入を遮断するように封止されている。高品質で高信頼性の有機EL素子の実現に向けて、より高性能な封止材料が望まれており、従来から種々封止技術が検討されている。
・・・中略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、有機EL素子の封止材に適した樹脂組成物と、硬化性に優れ、可視光透過率、硬化収縮率、水蒸気透過度の低い硬化物を提供するものである。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物(A)と、環状(メタ)アクリレート化合物(B)、重合開始剤(C)を含有することを特徴とする。
上記の構成により、2種類の異なる骨格の(メタ)アクリレート化合物が硬化時に相互に硬化系に導入されることとなり、低収縮率を実現しつつ、環状骨格を有する化合物を1種類含有させるだけでは達成できなかった極めて優れた低水蒸気透過率の効果を達成することが可能となる。
尚、本発明において記載されている骨格は、置換基を有していても、有していなくてもよく、置換基を有する場合には、当該置換基は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルケニル基とする。
【0013】
本発明において用いることができる、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物(A)としては、公知のものを特に限定することなく使用することができ、脂環式炭化水素骨格は飽和炭化水素骨格であることが好ましい。このような環式骨格においては、鎖状構造のもの等の他の骨格と比較して、水蒸気の透過を防ぐ効果があり、環状(メタ)アクリレート化合物と併せて硬化系に配置されることによって、相乗効果によって顕著に水蒸気の透過を防ぐことが可能となる。
脂環式炭化水素骨格としては、具体的に使用できる骨格としては、シクロペンタン骨格、シクロヘキサン骨格、シクロヘプタン骨格、ジシクロデカン骨格、トリシクロデカン骨格、アダマンタン骨格、イソボルニル骨格等を挙げることができる。
中でも、トリシクロデカン骨格、アダマンタン骨格等といった橋かけ環炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物が好ましい。このような化合物においては、脂環式炭化水素骨格に橋かけがなされているため、立体的な構造をとって環状構造の空間に炭素原子が配置されているため、水蒸気の透過をより有効に防ぐことができる。そして、上記相乗効果は、このような橋かけ環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物との混合によって、より高いものとなる。
ここで、(メタ)アクリロイル基は、環式炭化水素骨格に直接または炭化水素基によって連結されていることが好ましい。そして、具体的な連結としては、上記環式炭化水素骨格に、(メタ)アクリロイル基が直接ないし炭化水素基により連結されており、炭化水素基によって連結されている場合の炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキレン基または、エーテル結合を有する炭素数1〜10のアルキレン基が挙げられる。
【0014】
このような、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、下記の単官能(メタ)アクリレート化合物や2官能以上の(メタ)アクリレート化合物がある。
単官能(メタ)アクリレート化合物としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−1−アダマンチル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。 2官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
このような環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物としては、好適には下記式(1)で表される構造を有する(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。
【化5】

(上記式中、R1はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、ハロゲン原子または下記式(2)
【化6】

(式中、R2は直接結合または炭素数1〜10の(ポリ)アルキレンオキシ基を表し、*は環状骨格へ結合する。)
を表し、R1において少なくともいずれか一方は上記式(2)である。)
ここで、好ましくは下記式(3)
【化7】

(前記式中、R3、R4は、直接結合、炭素数1〜6のアルキレン基またはアルキレンオキシ基を表す。)
で表される(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。ここで、このような(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物の樹脂組成物中の含有量は、樹脂組成物100重量部に対して、通常5〜95重量部であり、10〜80重量部が好ましく、20〜70重量部が特に好ましい。
【0017】
本発明において用いられる、環状(メタ)アクリレート化合物(B)としては、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート、ヘテロ環骨格を有する(メタ)アクリレートを使用することができる。
ここで、環状(メタ)アクリレート化合物として、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を使用した場合とは、樹脂組成物中に異なる2種類の構造を有する脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を含有する樹脂組成物を意味する。そして、環状(メタ)アクリレート化合物として使用できる脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレートは、上記と同じ(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。
このように2種類の脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を使用した場合においては、鎖状構造のもの等の他の骨格と比較して、水蒸気の透過を防ぐ効果があり、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物と併せて硬化系に配置されることによって、相乗効果によって顕著に水蒸気の透過を防ぐことが可能となる。
・・・中略・・・
【0019】
このような、ヘテロ環骨格を有する(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、下記の(メタ)アクリレート化合物がある。
即ち、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アルコキシ化テトラヒドロフルフリルアクリレートカプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EEO変性ジアクリレート(M−215)、ε−カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート(M−327)、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート(M−313またはM−315)、ヒドロキシピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジアクリレート(R−604)、ペンタメチルピペリジニルメタクリレート(FA−711)、テトラメチルピペリジニルメタクリレート(FA−712HM)、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(SR531)が挙げられる。
【0020】
このようなヘテロ環骨格を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ヘテロ環の例としてモルホリン骨格、テトラヒドロフラン骨格、オキサン骨格、ジオキサン骨格、トリアジン骨格、カルバゾール骨格、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格が挙げられ、好適には下記式(5)で表される構造を有する(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。
【化8】

(上記式中、R5は直接結合、炭素数1〜6のアルキレン基またはアルキレンオキシ基を、R6は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、アルケニル基を、Xは窒素原子、酸素原子またはメチレン基を、Yはメチレン基またはカルボニル基を表し、mは1〜4の整数を示す。但し、Xが全てメチレン基となることはない。)
ここで、好ましくは下記式の化合物を使用することができる。
【化9】

(前記式中、R5は、直接結合、炭素数1〜6のアルキレン基またはアルキレンオキシ基を表す。R6は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基を表す。Zはメチレン基、酸素原子、窒素原子を表す。但し、全てのZがメチレン基となることはない。)
・・・中略・・・
【0024】
本発明において、樹脂組成物中に含有する脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物と環状(メタ)アクリレート化合物の割合は重量比で9:1〜1:9が好ましく、7:3〜9:1がより好ましく、5:5〜9:1が特に好ましい。
上記好ましい範囲とすることで、水蒸気透過率に極めて優れた樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0025】
本発明に使用する重合開始剤(C)としては、光重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤等様々な重合開始剤を使用することができる。
【0026】
また、光重合開始剤として、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]等のアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ジフェニル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド等のホスフィンオキサイド類等を挙げることができる。好ましくは、アセトフェノン類であり、さらに好ましくは2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンを挙げることができる。なお、本発明の樹脂組成物においては、光重合開始剤は単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
・・・中略・・・
【0035】
また本発明の樹脂組成物には、得られる本発明の樹脂組成物の粘度、屈折率、密着性などを考慮して、成分(A)、成分(B)、成分(D)以外の(メタ)アクリレート化合物を使用しても良い。具体的には、(メタ)アクリレートモノマーが挙げられ、該(メタ)アクリレートモノマーとしては、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等を使用することができる。
・・・中略・・・
【0037】
2つの官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジアクリル化イソシアヌレート等のイソシアネートのアクリル化物、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の直鎖メチレン構造を有する(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
・・・中略・・・
【0041】
本発明には、樹脂組成物中に適宜微粒子を含有させることができる。微粒子としては有機微粒子、無機微粒子が挙げられる。また、微粒子(D)は、必要とされる光線透過率、硬度、耐擦傷性、硬化収縮率、屈折率を考慮し単独、または複数種を混合して用いることができる。
尚、透過率(特に、380nm〜780nmでの透過率)を向上させる観点からは、微粒子を含有させないことが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物においては、ガラス転移温度が70℃以上であることが好ましく、100℃以上が特に好ましい。
・・・中略・・・
【0055】
反応性基を有しない有機化合物成分については、相溶性の点から重量平均分子量が10,000g/mol以下であることが好ましく、5,000g/mol以下が特に好ましい。本発明においては、反応性基を有しない有機化合物の樹脂組成物中の含有量は、樹脂組成物に対して1.5重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることが特に好ましい。1.5重量%以下とすることで、反応性基を有しない成分が相溶せずに、固形状またはゲル状等の不溶成分として残存していることを防ぐことが可能となるため、硬化物性として透明性、耐熱性に劣るものとなることを防ぐことができることから好ましい。また、水蒸気透過度を低下させるためにアルキルアルミニウム等の有機金属化合物を加えることもできる。溶剤を加えることもできるが、溶剤を添加しないものが好ましい。
【0056】
本発明の樹脂組成物においては、透過率に関しても優れた特性が好まれ、具体的には波長380〜780nmにおける各波長の光線透過率が90%以上であることが好ましい。光線透過率は、(株)日立ハイテクノロジーズ製分光光度計U−3900H等の測定機器により測定ができる。」
・・・中略・・・
【0058】
本発明の樹脂組成物の粘度は、作業性に適した粘度として、E型粘度計(TV−200:東機産業社製)を用いて測定した粘度が25℃で1000mPa・s以下である組成物が好ましく、500mPa・s以下が特に好ましい。」

エ 「【実施例】
【0065】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、数値の単位「部」は質量部を示す。
【0066】
下表の実施例1〜6、比較例1〜2に示す組成(数値は「部」)にて本発明及び比較用の紫外線硬化型樹脂組成物及び硬化物を得た。又、樹脂組成物及び硬化膜についての評価方法及び評価基準は以下の通り行った。なお、有機溶媒を含有する実施例については、エバポレーターで十分に有機溶媒を揮発させた後に評価を行った。
・・・中略・・・
【0070】
(4)透過率:紫外線硬化型樹脂をガラス基板で挟み、60μmのスペーサーを使用し膜厚を調整し、高圧水銀灯(120W/cm、オゾンレス)で3000mJ/cm2で硬化させ試験片を作製した。得られた試験片を分光光度計U−3900((株)日立ハイテクノロジーズ製)、測定範囲:780〜380nm、光源:C、視野角:2°にて測定し、400nmでの透過率を記載した。
【0071】
【表1】

【0072】
ADAMANTATE M−104:アダマンチルメタクリレート、出光興産(株)社製
R−684:トリシクロデカンジメチロールアクリレート、日本化薬(株)社製
R−604:ヒドロキシピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジアクリレート、日本化薬(株)社製
UR203:液状ポリイソプレン、クラレ社製
ニカノールY−50:メタキシレンとホルムアルデヒドとの反応物(数平均分子量250)、フドー(株)社製
イルガキュア184D:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF(株)社製
【0073】
また、測定した結果、実施例1〜6全てにおいて、脆性試験においてはクラックの発生はなく、透過率は全て90%以上であった。
【0074】
実施例1〜3及び比較例1〜2の評価結果から明らかなように、特定の組成を有する本発明の樹脂組成物はTgが高く硬化収縮率、水蒸気透過度が低い。そのため例えば各種封止材、特に有機EL素子の封止材に適している」

(2)甲1に記載された発明
甲1の【0065】〜【0066】及び【0071】【表1】を参照すると、甲1には、実施例1として、【表1】に示す組成(数値は質量部)である紫外線硬化型樹脂組成物が記載されている。また、当該【表1】で用いた商品名は、甲1の【0072】に記載されている。
甲1の「イルガキュア184D(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF(株)社製)」は、甲1の【0026】を参照すると「光重合開始剤」である。
甲1の【0070】及び【0073】を参照すると、甲1の実施例の紫外線硬化型樹脂組成物は、60μmの膜厚にして硬化させた試験片の400nmの透過率が90%以上である。
甲1の【0074】を参照すると、甲1の実施例1の紫外線硬化型樹脂組成物は、有機EL素子の封止剤に適している。
そうしてみると、甲1には、実施例1に係る紫外線硬化型樹脂組成物として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「ADAMANTATE M−104(アダマンチルメタクリレート、出光興産(株)社製)を1.0質量部、
R−684(トリシクロデカンジメチロールアクリレート、日本化薬(株)社製)を9.0質量部、
イルガキュア184D(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF(株)社製)を0.3質量部、
合計10.30質量部からなる紫外線硬化型樹脂組成物であって、
当該イルガキュア184D(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF(株)社製)は光重合開始剤であり、
当該紫外線硬化型樹脂組成物は、ガラス基板で挟み、60μmのスペーサーを使用し膜厚を調整し、高圧水銀灯(120W/cm、オゾンレス)で3000mJ/cm2で硬化させて作成した試験片の400nmでの透過率が90%以上であり、
有機EL素子の封止剤に適している、紫外線硬化型樹脂組成物。」

(3)甲7の記載
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲7には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法により容易に塗布することができ、硬化性、硬化物の透明性及びバリア性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤に関する。また、本発明は、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を用いた有機エレクトロルミネッセンス表示素子の製造方法に関する。
・・・中略・・・
【0005】
樹脂膜を形成する方法として、インクジェット法を用いて基材上に液状の硬化性樹脂組成物を塗布した後、該硬化性樹脂組成物を硬化させる方法がある。このようなインクジェット法による塗布方法を用いれば、高速かつ均一に樹脂膜を形成することができる。インクジェット法により有機EL表示素子用封止剤を基材に塗布する場合、ノズルから安定して吐出するために封止剤の粘度を低粘度とする必要がある。封止剤をインクジェット法に適した粘度にする方法としては、封止剤に有機溶剤を配合する方法が考えられるが、このような有機溶剤を用いて製造された樹脂膜では、残存した有機溶剤により有機発光材料層が劣化したり、プラズマによってアウトガスを発生したりする等の問題があった。
・・・中略・・・
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、環状エーテル化合物と、カチオン重合開始剤と、多官能ビニルエーテル化合物とを含有し、上記多官能ビニルエーテル化合物の含有量が、上記環状エーテル化合物100重量部に対して5〜50重量部である有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤である。
以下に本発明を詳述する。」

イ 「【0053】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、E型粘度計を用いて、25℃、100rpmの条件で測定した粘度の好ましい下限が2cps、好ましい上限が12cpsである。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度が2cps未満であると、塗工した有機EL表示素子用封止剤が硬化させる前に流れることがある。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度が12cpsを超えると、インクジェットによる塗布が困難となることがある。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度のより好ましい下限は5cps、より好ましい上限は10cpsである。
・・・中略・・・
【0055】
本発明の有機EL表示素子用封止剤の硬化物の波長380〜800nmにおける光の全光線透過率の好ましい下限は80%である。上記全光線透過率が80%未満であると、得られる有機EL表示素子に充分な光学特性が得られないことがある。上記全光線透過率のより好ましい下限は85%である。
上記全光線透過率は、例えば、AUTOMATIC HAZE MATER MODEL TC=III DPK(東京電色社製)等の分光計を用いて測定することができる。
【0056】
本発明の有機EL表示素子封止剤は、硬化物に紫外線を100時間照射した後の400nmにおける透過率が20μmの光路長にて85%以上であることが好ましい。上記紫外線を100時間照射した後の透過率が85%未満であると、透明性が低く、発光の損失が大きくなり、かつ、色再現性が悪くなることがある。上記紫外線を100時間照射した後の透過率のより好ましい下限は90%、更に好ましい下限は95%である。
上記紫外線を照射する方法としては、例えば、キセノンランプ、カーボンアークランプ等、従来公知の光源を用いることができる。」

ウ 「【0088】
<評価>
各実施例及び各比較例で得られた有機EL表示素子用封止剤について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
・・・中略・・・
【0099】
【表1】



(4)甲8の記載
甲8は、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマー組成物及びそれを含む硬化性組成物に関する。前記硬化性組成物は紫外線硬化型インクジェット用インクに好適に使用される。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記環状エーテル骨格を有するビニルエーテル化合物を上記の通り多量に含有するカチオン硬化型インクは、前記環状エーテル骨格を有するビニルエーテル化合物が水分を吸収しやすいため、水分による硬化阻害を受け易く、湿度が高い時期に使用した場合や、保存過程で空気中の水分を取り込んだ場合に硬化不良が生じるため実用に適さないことがわかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、速硬化性を有し、酸素や水分の存在下でも速やかに硬化して、幅広い基材に対して優れた密着性を有する硬化物を形成することができるモノマー組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記モノマー組成物と光酸発生剤を含む硬化性組成物を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、前記硬化性組成物と顔料を含む紫外線硬化型インクジェット用インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、環状エーテル骨格を有するビニルエーテル化合物に代えて、特定のオキセタン化合物を特定量含有するモノマー組成物を含む硬化性組成物は、紫外線を照射することにより、酸素や水分の存在下でも速やかに硬化して、幅広い基材に対して優れた密着性を有する(すなわち、幅広い基材選択性を有する)硬化物を形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、カチオン硬化性モノマーを含むモノマー組成物であって、カチオン硬化性モノマーとして3−アリルオキシオキセタン及び/又は3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタンを含み、3−アリルオキシオキセタン及び/又は3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタンの合計含有量がモノマー組成物全量の5重量%以上であるモノマー組成物を提供する。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0020】
上記構成を有する本発明のモノマー組成物と光酸発生剤を含有する硬化性組成物は、紫外線を照射する前は低粘度で吐出性に優れ、紫外線を照射することにより、酸素や水分の存在下でも速やかに硬化して、幅広い基材に対して優れた密着性を有する硬化物を形成することができる。また、保存過程で空気中の水分を取り込んでも硬化性が損なわれることがない。すなわち、保存安定性に優れる。更に、本発明の硬化性組成物は硬化性に優れるため、未反応モノマーの残留を抑制することができ、未反応モノマーが原因の臭気の発生を著しく低減することができる。そのため、本発明の硬化性組成物は、紫外線硬化型インクジェット用インクに好適に使用することができる。」

イ 「【0082】
本発明の硬化性組成物は無溶剤系であること、即ち溶剤を含有しないことが、乾燥性を向上することができる点、溶剤により劣化し易い基材にも適用可能となる点、及び溶剤の揮発による臭気の発生を防止することができる点で好ましく、溶剤の含有量は硬化性組成物全量(100重量%)の10重量%以下、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
・・・中略・・・
【0084】
本発明の硬化性組成物の表面張力(25℃、1気圧下における)は、例えば10〜50mN/m程度、好ましくは15〜40mN/mである。また、本発明の硬化性組成物の粘度[25℃、せん断速度10(1/s)における]は、例えば1〜1000mPa・s程度、好ましくは3〜500mPa・s、特に好ましくは5〜100mPa・s、最も好ましくは5〜50mPa・s、更に好ましくは5〜20mPa・sである。そのため、本発明の硬化性組成物は吐出性若しくは充填性に優れる。」

ウ 「【0101】
実施例1
ALOX 50重量部、セロキサイド2021P 20重量部、TEGDVE 30重量部、及び光酸発生剤 5重量部を混合して、硬化性組成物(1)(表面張力(25℃、1気圧下における):20.7mN/m、粘度[25℃、せん断速度10(1/s)における]:11mPa・s)を得た。
・・・中略・・・
【0105】
実施例2〜13、比較例1〜3
モノマー組成物を下記表に記載の処方に変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を下記表にまとめて示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
実施例及び比較例で使用した化合物は下記の通りである。
<オキセタン化合物>
ALOX:下記式で表される3−アリルオキシオキセタン
【化12】

EHOX:下記式で表される3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタン
【化13】

OXT−212:3−エチル−3−[(2−エチルヘキシルオキシ)メチル]オキセタン、商品名「アロンオキセタン OXT−212」、東亞合成(株)製
<エポキシ化合物>
セロキサイド2021P:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、商品名「セロキサイド2021P」、(株)ダイセル製
X−22−163:両末端エポキシ変性シリコーン、エポキシ基当量:200g/mol、商品名「X−22−163」、信越化学工業(株)製
EP0419:エポキシ基(=グリシジルオキシプロピル基)とイソオクチル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン、分子量1324.37、商品名「EP0419」、豊通ケミプラス(株)製
<ビニルエーテル化合物>
TEGDVE:トリエチレングリコールジビニルエーテル、商品名「TEGDVE」、日本カーバイド工業(株)製
4CHDVE:シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、商品名「4CH−DVE」、(株)ダイセル製
CHDMDVE:シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、商品名「CHDMDVE」、日本カーバイド工業(株)製
<光酸発生剤>
商品名「CPI−110P」、サンアプロ(株)製、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファートおよびチオジ−p−フェニレンビス(ジフェニルスルホニウム)ビス(ヘキサフルオロホスファート)の混合物(99.5/0.5)」

2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりである。

ア 重合性化合物、有機EL表示素子用封止剤
甲1発明の「アダマンチルメタクリレート」と「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」は、その化学構造からみて、いずれも、本件特許発明1の「重合性化合物」に相当する。

また、甲1発明の「有機EL素子の封止剤に適している、紫外線硬化型樹脂組成物」は、本件特許発明1の「有機EL素子用封止剤」といえる。
そうしてみると、甲1発明の「有機EL素子の封止剤に適している、紫外線硬化型樹脂組成物」は、本件特許発明1の「重合性化合物を含有する有機EL表示素子用封止剤」に相当する。

イ 高沸点化合物、低沸点化合物
甲1発明の「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」は、甲4を参照すると、その沸点は、1気圧(760mmHg)において「396.5℃」である。そうしてみると、甲1発明の「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」は、本件特許発明1の「沸点が300℃以上の高沸点化合物」に相当する。

また、甲1発明の「アダマンチルメタクリレート」が有するメタクリロイル基は、技術的にみて、甲1発明の「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」と反応し得る反応性官能基である。
さらに、甲1発明の「アダマンチルメタクリレート」は、甲2を参照すると、その沸点は、1気圧(760mmHg)において「289.26℃」である。
そうしてみると、甲1発明の「アダマンチルメタクリレート」は、本件特許発明1の「前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物」に相当する。
したがって、甲1発明の「紫外線硬化型樹脂組成物」は、本件特許発明1の「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し」という要件を満たす。

ウ 低沸点化合物の化学構造
甲1発明の「アダマンチルメタクリレート」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(メタ)アクリル化合物」に相当する。
したがって、甲1発明の「紫外線硬化型樹脂組成物」は、本件特許発明1の「前記低沸点化合物は、」「(メタ)アクリル化合物」「であり」という要件を満たす。

エ 重合性化合物の含有量
甲1発明は、「重合性化合物」として、「アダマンチルメタクリレート」を「1.0質量部」、「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」を「9.0質量部」含む。
そうしてみると、甲1発明の「紫外線硬化型樹脂組成物」は、本件特許発明1の「前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり」という要件を満たす。

オ 粘度
甲1の【0058】には、「本発明の樹脂組成物の粘度は、作業性に適した粘度として、・・・中略・・・25℃で1000mPa・s以下である組成物が好ましく、500mPa・s以下が特に好ましい。」と記載されている。
上記【0058】の記載を踏まえると、甲1発明の粘度は、「25℃で1000mPa・s以下又は500mPa・s以下」である蓋然性が存在するものの、当該記載のみでは、甲1発明が、「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下」を満たすか否かは不明である。

そこで、甲1発明が、「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下」を満たすか否か、その組成から検討する。

甲1発明は、「アダマンチルメタクリレート」を「1.0質量部」含んでいるところ、その「アダマンチルメタクリレート」は、甲2を参照すると、「白い粉」であるので、液体ではなく、固体である。甲2には、何度で「白い粉」であるかは記載がないが、温度の記載がなければ、通常、その物性値は室温での特性と解するのが自然である。
甲1発明は、「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」を「9.0質量部」含んでいるところ、その「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」は、甲3を参照すると、25℃における粘度は「100〜250」mPa・sである。
また、甲1発明は、「1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン」を「0.3質量部」含んでいるところ、その「1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン」は、参考文献としての国際公開第2016/092597の[0120]を参照すると、「25℃で固体」である。
そうしてみると、甲1発明は、「白い粉」を1.0質量部、25℃における粘度が「100〜250」mPa・sである液体を9.0質量部、「25℃で固体」の物質を0.3質量部含んでいる。
ここで、25℃における粘度が「100〜250」mPa・sである液体に固体を混ぜて得られる組成物の25℃における粘度が「3mPa・s以上20mPa・s以下」であるといえないことは、技術的にみて明らかである。
したがって、甲1発明は、「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下」であるといえない。

カ 溶剤
甲1発明の「紫外線硬化型樹脂組成物」は、「アダマンチルメタクリレート」と「トリシクロデカンジメチロールアクリレート」、「1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン」からなる「紫外線硬化樹脂組成物」である。上記組成からみて、甲1発明の「紫外線硬化型樹脂組成物」は、「溶剤」を含有しない。
そうしてみると、甲1発明の「紫外線硬化型樹脂組成物」は、本件特許発明1の「溶剤の含有量が0.05重量%以下であり」という要件を満たす。

(2)一致点
本件特許発明1と甲1発明は、次の点で一致する。

「重合性化合物を含有する有機EL表示素子用封止剤であって、
前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、
前記低沸点重合性化合物は、(メタ)アクリル化合物であり、
前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり、
溶剤の含有量が0.05重量%以下である、
有機EL表示素子用封止剤。」

(3)相違点
他方、本件特許発明1と甲1発明は、次の点で相違する。

ア 相違点1
「有機EL表示素子用封止剤」が、本件特許発明1は、「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、前記低沸点重合性化合物は、(メタ)アクリル化合物であり、前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であ」る「有機EL表示素子用封止剤」において、「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であり」という要件を満たすのに対して、甲1発明は、「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、前記低沸点重合性化合物は、(メタ)アクリル化合物であり、前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であ」る「有機EL表示素子用封止剤」であるものの、「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下」ではない点。

イ 相違点2
「有機EL表示素子用封止剤」が、本件特許発明1は、「厚さ10μmの硬化物のヘイズが1.0%以下である」という要件を満たすのに対して、甲1発明は、これが不明である点。

(4)判断
事案に鑑み、相違点1に係る構成の容易想到性について検討する。
甲1発明は、「有機EL素子の封止剤に適している、紫外線硬化型樹脂組成物」であるところ、甲1の【0001】によれば、「無溶剤で加工ができる為、作業性に優れる」という利点を有している。そして、甲1発明と同様に、無溶剤の紫外線硬化型樹脂組成物である有機EL用封止剤に関して、甲7、甲8には、以下の記載がある。

すなわち、甲7には、その【0005】にて有機EL表示素子用封止剤の製造において有機溶剤を用いると、アウトガスを発生する問題が従来から知られていた旨が記載されている。また、同【0053】には有機EL表示素子用封止剤として好ましい粘度が、25℃で2〜12cps、すなわち2〜12mPa・sの範囲である旨が記載されている。
また、甲8には、その【0001】にて、紫外線硬化型インクジェットインクに関するものであると記載され、同【0082】に、無溶剤系が好ましいことが記載されている。同【0084】には、組成物の粘度として5〜20mPa・sの範囲が特に好ましいことが記載されている。

そうすると、甲7の上記記載に接した当業者は、甲1発明の「封止剤」の25℃における粘度を、甲7において好ましいとされる「2〜12mPa・s」の範囲内に調整しようと動機付けられるかもしれない。
しかしながら、甲7には、甲1発明の組成において、上記(2)に示した一致点を維持した場合において、具体的にどのように変更すれば25℃における粘度を上記数値範囲に調整することができるのかについての手がかりが何ら記載されていない。
したがって、甲1発明において、甲7に記載された事項に接した当業者が、相違点1に係る構成に容易に想到し得たということはできない。また、甲8についてみても同様である。

(5)特許異議申立人の主張について
新規性
特許異議申立人は、特許異議申立書の第9頁で「構成要件E」を「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であり、」としたうえで、「甲1発明において、粘度は25℃において500mPa・s以下が好ましいことが記載されている。」「したがって構成要件Eは甲1発明に記載されている。」(特許異議申立書第21頁)と主張する。
しかし、上記(1)オに記載のとおり、甲1に、粘度は25℃において500mPa・s以下が好ましいことが記載されていたとしても、25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であることは甲1に記載されていない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

進歩性
特許異議申立人は、「甲第7号証又は甲第8号証の記載を参酌して、甲1発明に係る封止剤の粘度を最適化するため、構成要件Eに係る3mPa・s以上20mPa・s以下の範囲にし、甲1発明の課題解決に資することは、当業者が容易になしうる設計事項である。」(特許異議申立書第22〜23頁)と主張する。
しかし、上記(4)に記載のとおり、甲1発明に甲7又は甲8に記載された事項を適用すると、重合性化合物の組成が変わり、上記(2)の一致点が一致点でなくなるため、本件特許発明1の構成には至らない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(6)甲1の他の実施例について
上記(1)〜(5)は、甲1の実施例1に基づいて主引用発明を認定した場合について述べたが、甲1の実施例2に基づいて主引用発明を認定したとしても同様である。

(7)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1と甲7〜8に記載された技術的事項、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、」と、「前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり、」と、「25℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であり、」という構成を具備するものである。
そうしてみると、前記2(7)と同様に、本件特許発明2も、甲1に記載された発明、甲1と甲7〜8に記載された技術的事項、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4 本件特許発明3〜6について
本件特許の特許請求の範囲の請求項3〜6は、いずれも、請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明3〜13は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備するものである。
そうしてみると、前記2(7)と同様に、本件特許発明3、4、6も、甲1に記載された発明でない。
また、前記2(7)及び前記3と同様に、本件特許発明3〜6も、甲1に記載された発明、甲1と甲7〜8に記載された技術的事項、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第5 当合議体の判断(記載要件)
1 化学構造(サポート要件)
(1)発明の課題
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0007】に記載のとおり、「インクジェット法により容易に塗布することができ、低アウトガス性に優れ、かつ、信頼性に優れる有機EL表示素子を得ることができる有機EL表示素子用封止剤を提供すること」であると認められる。

(2)課題を解決するための手段及び作用機序
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】には、「本発明者らは、揮発によりインクジェット吐出性や吐出安定性を悪化させたり、アウトガスを発生させたりすることから、重合性化合物として沸点の低い重合性化合物を用いずに有機EL表示素子用封止剤を作製することを検討した。しかしながら、沸点の低い重合性化合物を用いずに作製した有機EL表示素子用封止剤は、濡れ広がり性に劣るものとなるという問題があった。そこで本発明者らは、特定の高沸点重合性化合物と特定の低沸点重合性化合物とを含有割合が特定の範囲となるように配合することを検討した。その結果、インクジェット法により容易に塗布することができ、低アウトガス性に優れ、かつ、信頼性に優れる有機EL表示素子の製造に用いることができる有機EL表示素子用封止剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」と記載されている。
また、同【0010】には、「上記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物(以下、単に「高沸点重合性化合物」ともいう)と、上記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物(以下、単に「低沸点重合性化合物」ともいう)とを含有する。上記高沸点重合性化合物と上記低沸点重合性化合物とを後述する含有量となるように組み合わせて用いることにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、インクジェット吐出性、吐出安定性、及び、濡れ広がり性に優れるものとなる。」と記載されている。
さらに、同【0020】には、「上記重合性化合物100重量部中における上記低沸点重合性化合物の含有量の下限は1重量部、上限は20重量部である。上記低沸点重合性化合物の含有量がこの範囲であることにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、インクジェット吐出性、吐出安定性、及び、濡れ広がり性に優れるものとなる。上記低沸点重合性化合物の含有量の好ましい下限は5重量部、好ましい上限は10重量部である。」と記載されている。

(3)判断
上記(2)の記載によれば、本件特許発明は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物との含有割合を特定の範囲となるように配合したことで、濡れ広がり性と低アウトガス性の両立を図ったことに技術的意義を有する発明である。
そして、上記特性の両立を具体的に確認したのが、本件特許明細書に記載された実施例1〜8の実験結果である。
そうしてみると、本件特許明細書の【0009】、【0010】及び【0020】の記載及び上記実施例1〜8の実験結果についての記載は、上記下線部の技術的意義(技術思想)に照らせば、本件特許発明の「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、」「前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり、」という構成を備える「有機EL表示素子用封止剤」が、上記(1)の課題を解決できることを当業者が認識し得るに足りる十分なものといえる。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「本件特許発明1及び本件特許発明2の構成要件Cでは、低沸点重合性化合物が、「環状エーテル化合物、(メタ)アクリル化合物、及び、ヒドロシリル化反応性化合物からなる群より選択される少なくとも1種」であることを特定している。」と述べたうえで、「本件特許明細書等に低沸点重合性化合物として具体的に記載され効果が確認されているのは、二例の環状エーテル化合物(1,7−オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルクリゴールジグリシジルエーテル)と、一例の(メタ)アクリル化合物(イソボルニルアクリレート)と、一例のヒドロシリル化反応性化合物(メチルハイドロジェンポリシロキサン)のみである。」「化学構造に共通点のないこれらの三種類の化合物に包含されるすべての化合物が、その沸点だけを以って本件発明の効果を奏することの裏付けは本件特許明細書に記載されていない。そして化合物の性質はその分子量や置換基、立体異性等により大きく左右されるものであり、それらすべてをこれら化学構造がそれぞれ異なっている四例の化合物が代表できているとは考えにくい。」(特許異議申立書第26頁)と主張する。

しかしながら、上記(3)の下線部で示される技術的意義に照らせば、本件明細書の四例の低沸点重合性化合物を用いた実験結果に係る記載は、本件特許発明が、「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、」「前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり」という構成を備えることで、上記(1)の課題を解決できると当業者が認識するには十分なものといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

2 溶剤(サポート要件・明確性
(1)サポート要件
ア 判断
上記1(3)に記載のとおり、本件特許発明は、「前記重合性化合物は、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物と、前記高沸点重合性化合物と反応し得る反応性官能基を有し、かつ、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物とを含有し、」「前記重合性化合物100重量部中における前記低沸点重合性化合物の含有量が1重量部以上20重量部以下であり、」という構成を備えることで、上記1(1)の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
また、本件特許明細書の【0052】に記載されているように、本件特許発明は、溶剤を含有しないことを前提に溶剤の含有量の上限を定めたものであるから、溶剤の物性を規定しなくても、上記1(1)の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
さらに、仮に「溶剤」を用いた場合、樹脂膜を形成する際は、その「溶剤」を加熱により蒸発させることは通常行われることである。そうしてみると、本件特許発明は、「沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物」を用いているのだから、仮に「溶剤」を用いたとしても、その「溶剤」を蒸発させて樹脂膜を形成する際に、「沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物」が蒸発しないような物性を有する「溶剤」を選択することは、当業者が容易に着想し得たことである。
したがって、溶剤の物性を限定せずとも、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。

イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、「本件特許明細書には溶剤の定義は記載されていない。ここで当該技術分野における溶剤とは、「他の物質を均一に溶かす媒質の総称」として知られているところ、その沸点については自明とは言えない。このため特許発明1、2においては、いかなる沸点の溶剤でも0.05重量%以下であれば含まれうることになり、溶剤の沸点が300℃超であったとしても含まれうることになる。しかしその場合であっても本件発明が効果を奏するかは明確とは言えない。」(特許異議申立書26頁)と主張する。
しかし、上記アのとおり、本件特許発明は、溶剤を含有しないことを前提に溶剤の含有量の上限を定めたものであるから、溶剤の物性を規定しなくても、上記1(1)の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
また、例えば、沸点が300℃超であって、その「溶剤」を蒸発させて樹脂膜を形成する際に、「沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物」も蒸発してしまうような物性を有する「溶剤」を選択することは、当業者が通常想起することではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)明確性
ア 判断
本件特許発明の「溶剤」は、本件特許明細書において、「高沸点重合性化合物」とは別の概念として記載されており、「高沸点重合性化合物」が「溶剤」と区別される点は、当業者にとって明確である。
根拠の一例を挙げると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0052】には、「本発明の有機EL表示素子用封止剤は、粘度調整等を目的として溶剤を含有してもよいが、残存した溶剤により、有機発光材料層が劣化したりアウトガスが発生したりする等の問題が生じるおそれがあるため、溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下であることが好ましい。」と記載されているところ、同実施例において、「高沸点重合性化合物」の含有量は0.05重量%を大きく超えている。そうしてみると、本件特許明細書においては、「溶剤」と「高沸点化合物」とは別の概念として記載されていることが理解できる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でないということはできない。

イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、「本件特許明細書において溶剤の定義がされていないところ、300℃未満の環境においては、沸点が300℃以上の高沸点重合性化合物は、沸点が300℃未満の低沸点重合性化合物を均一に溶かす媒質、すなわち溶剤として機能している蓋然性が高い。つまり本件特許発明1、2において、本件特許明細書の記載と技術常識を参酌しても、重合性化合物(特に高沸点重合性化合物)と溶剤の区別が明確であるとは言えない。」(特許異議申立書第26〜27頁)と主張する。
しかし、上記アのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「溶剤」と「高沸点化合物」の区別は明確である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

3 アウトガス量(実施可能要件明確性
(1)実施可能要件
ア 判断
本件特許発明2は、「予め厚さ10μmで塗布した後に395nmの紫外線を1000mJ/cm2照射して得られた硬化物のアウトガス発生量が1000ppm未満であり、」という構成を有する「有機EL表示素子用封止剤」である。
アウトガスの発生量について、どのように検量線を作成して測定したのかは本件特許明細書に記載がない。
しかしながら、アウトガスは、「有機EL表示素子用封止剤」の未硬化時に含まれる化合物と、硬化時に含まれる化合物の総和であることは、当業者であれば把握できると解される。
そうしてみると、アウトガスの検量線は、これらの化合物に基づいて作成すればよいことが分かる。アウトガスの検量線が作成できれば、その総量を1000ppm未満に調整することは、本件特許明細書を参照した当業者であれば、過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明2について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
本件特許発明3〜6のうち、請求項2を引用する部分についても同様である。

イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「技術常識として、ガスクロマトグラフ質量分析計で定量を行うにはどのような成分がアウトガスとして生じるかを予め見積り、検量線を作成しておく必要がある。しかし本件特許の実施例では単に「アウトガス発生量」として一括りにされており、いかなる物質をアウトガスとして扱い、定量したのかが不明である。」「そして本件特許請求項2ではアウトガスの種類が特定されていないのであるから、不明な種類のアウトガスをどのように見積り、検量線を作成してガスクロマトグラフ質量分析計で定量し、その総量を1000ppm未満に調整すればよいのかについては、本件特許明細書の記載と技術常識を参酌してもなお、当業者には過度の試行錯誤を要するものと言える。」(特許異議申立書第27頁)と主張する。
しかし、特許異議申立人が「ここで当該技術分野においてアウトガスとは、組成物中の残留溶剤、未硬化状態で残留する重合性化合物、硬化時に分解した開始剤残渣の総和であると考えられる。」(特許異議申立書第27頁)と述べているとおり、当業者であれば、アウトガスの成分の種類は理解できると解される。
アウトガスの成分の種類が理解できれば、検量線を作成できることは、上記アで述べたとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)明確性
ア 判断
本件特許発明2は、「予め厚さ10μmで塗布した後に395nmの紫外線を1000mJ/cm2照射して得られた硬化物のアウトガス発生量が1000ppm未満であり、」という構成を有する「有機EL表示素子用封止剤」である。
この記載のみでは、一見すると、アウトガスの発生量が、硬化物から発生するアウトガスの総量なのか、それとも、硬化物から発生するアウトガスの一部の種類の量なのか、直ちには把握できないかもしれない。
しかしながら、本件特許発明2の課題は、上記1(1)に記載したとおり、「低アウトガス性に優れ」という点を挙げている。そして、「低アウトガス性」に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発生するアウトガスについて、化合物の種類を限定する記載は特段されていない。
そうしてみると、「低アウトガス性」を達成するという本件特許発明2において、「予め厚さ10μmで塗布した後に395nmの紫外線を1000mJ/cm2照射して得られた硬化物のアウトガス発生量が1000ppm未満であり、」との構成の「アウトガス発生量」については、定量すべきガスの種類を任意に選定した「アウトガス発生量」ではなく、発生するアウトガスの総量であるといえる。
そうしてみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、本件特許発明2の「アウトガス発生量」については、発生するガスの総量を基準にしたものであることが明確である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でないということはできない。

イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「またもし仮に、発生するアウトガスのうちから、定量すべきガスの種類を任意に選定して検量線を作成し、その総量だけを定量してよいということなのだとすれば、アウトガスの種類を特定していない本件特許請求項2の記載は明確ではない。」(特許異議申立書第27頁)と主張する。
しかし、上記アのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「アウトガス発生量」は、定量すべきガスの種類を任意に選定するのではなく、発生するアウトガスの総量であることが明確である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

4 小括
本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でないということはできない。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明2〜6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

第6 むすび
請求項1〜6に係る特許は、いずれも、特許異議の申立ての理由及び証拠によって取り消すことはできない。また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-21 
出願番号 P2018-530922
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H05B)
P 1 651・ 121- Y (H05B)
P 1 651・ 113- Y (H05B)
P 1 651・ 537- Y (H05B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 石附 直弥
井口 猶二
登録日 2022-01-11 
登録番号 7007272
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 有機EL表示素子用封止剤  
代理人 弁理士法人WisePlus  

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