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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1390621
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-03 
確定日 2022-10-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第7015888号発明「球状シリカ粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7015888号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7015888号の請求項1〜3に係る特許についての出願は、令和2年9月30日(優先権主張 令和2年4月24日)に出願され、令和4年1月26日にその特許権の設定登録がされ、同年2月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年8月3日に特許異議申立人 田中 都子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第7015888号の請求項1〜3の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃〜1000℃における脱離する水分子数が0.010mmol/g以下であり、比表面積が1〜30m2/gであり、
表面処理する前の球状シリカ粉末において、拡散反射FT−IR法にて測定したシリカ粉末の波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度をA、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下であり、
平均円形度が0.85以上であることを特徴とする球状シリカ粉末。
【請求項2】
表面処理剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の球状シリカ粉末。
【請求項3】
樹脂中に配合して使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の球状シリカ粉末。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第7号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性
本件発明1〜3は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であって、若しくは、本件発明1、3は、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 申立理由2(進歩性
本件発明1〜3は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2003−277531号公報
甲第2号証:特開2007−302876号公報
甲第3号証:特開2013−10848号公報
甲第4号証:特開2014−80582号公報
甲第5号証:特開2007−269965号公報
甲第6号証:サンプル送付案内書、株式会社 アドマテックス、令和4年3月25日
甲第7号証:実験成績証明書、田中 都子、令和4年7月29日

第4 甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明等
1 甲第1号証(特開2003−277531号公報)
(1)本件特許出願の優先権主張の日前に公知となった甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0019】(実施例1)
1.樹脂ワニス(I)の調製
フェノ−ルノボラックシアネ−ト樹脂(ロンザ社製PT−60、軟化点60℃)20重量部、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(エポキシ当量285、日本化薬社製NC−3000SH)40重量部、ビフェニルアラルキル樹脂(水酸基当量225、明和化成社製MEH7851−3H)30重量部、トリフェニルホスフィンオキサイド10重量部にメチルセルソルブを加え、不揮発分濃度が55重量%になるように樹脂ワニス(I)を調製した。
【0020】2.樹脂ワニス(II)の調製
調製した樹脂ワニス(I)の樹脂組成物の固形分に対して平均粒径1.0μmの球状溶融シリカ((株)アドマテックス製 SO−25R)50重量%を加え、攪拌混合して樹脂ワニス(II)を調製した。
【0021】3.プリプレグの作製
樹脂ワニス(I)をガラス織布(厚さ0.1mm、日東紡績(株)製)100重量部にワニス固形分で80重量部含浸させて、150℃の乾燥炉で10分乾燥させ、樹脂組成物の含有量が最終のプリプレグの40重量%となるa層を作成した。次いで、その両側に樹脂ワニス(II)を塗工し、150℃の乾燥炉で2分乾燥させ、樹脂組成物の含有量がプリプレグの50重量%であるa層とb層からなるプリプレグを作製した。」

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)の【0020】の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「平均粒径1.0μmの(株)アドマテックス製 SO−25Rである球状溶融シリカ。」

2 甲第2号証(特開2007−302876号公報)
(1)本件特許出願の優先権主張の日前に公知となった甲第2号証には、以下の記載がある。
「【0104】
調製例10
調整例3と同様にして作製した樹脂ワニス(ポリフェニレンエーテル変性ブタジエンプレポリマー溶液中のBMI−5100の転化率は,24%)に、予めメチルエチルケトン(MEK)中においてビニルシランカップリング剤(KBM−1003、信越化学工業社製)で表面処理した(G)成分の球形シリカ(SO−25R、平均粒径:0.5μm、アドマテックス社製)のスラリー(固形分濃度:70重量%、カップリング剤処理濃度:2重量%)50重量部(固形分:35重量部)を配合したこと以外は、調整例3と同様にして調製例10の樹脂ワニス(固形分濃度約46重量%)を調製した。」

(2)甲第2号証に記載された発明
上記(1)の記載によれば、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「平均粒径が0.5μmのアドマテックス社製SO−25Rである球形シリカ。」

3 甲第3号証(特開2013−10848号公報)
(1)本件特許出願の優先権主張の日前に公知となった甲第3号証には、以下の記載がある。
「【0100】
実施例2
表面処理シリカ(B)として、平均粒径0.5μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカに代えて、平均粒径2.2μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカを使用した以外には、実施例1と同様にして、樹脂組成物のワニス、フィルム成形体及び多層プリント配線板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例2では、平均粒径2.2μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカとして、シリカ(「アドマファイン SO−C6」、アドマテックス社製、平均粒径2.2μm、「アドマファイン」は登録商標)を、アミノ基含有シランカップリング剤で処理したものを使用した。」

(2)甲第3号証に記載された発明
上記(1)の記載によれば、甲第3号証には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「平均粒径2.2μmのアドマテックス社製「アドマファイン SO−C6」であるシリカ。」

4 甲第4号証(特開2014−80582号公報)
(1)本件特許出願の優先権主張の日前に公知となった甲第4号証には、以下の記載がある。
「【0035】
(実施例1)
熱硬化性樹脂として、多官能エポキシ樹脂である日本化薬株式会社製「EPPN502H」を用いた。
【0036】
また無機充填材として、球状シリカである株式会社アドマテックス製「SO−C6」(平均粒径2μm)を用いた。
【0037】
また硬化剤として、フェノール系硬化剤である明和化成株式会社製「MEH7600」を用いた。
【0038】
また硬化促進剤として、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製)を用いた。
【0039】
また織布基材として、ガラスクロスである旭化成株式会社製「1037クロス」(厚み30μm)を用いた。
【0040】
そして、上記の熱硬化性樹脂、無機充填材、硬化剤、硬化促進剤を表1に示す配合量で配合し、さらに溶剤(メチルエチルケトン)で希釈することによって樹脂組成物のワニスを調製した。」

(2)甲第4号証に記載された発明
上記(1)の【0036】の記載によれば、甲第4号証には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「平均粒径2μmの株式会社アドマテックス製「SO−C6」である球状シリカ。」

5 甲第5号証(特開2007−269965号公報)
(1)本件特許出願の優先権主張の日前に公知となった甲第5号証には、以下の記載がある。
「【0038】
前記平均粒径2μm以下の球状シリカは、予め表面処理をされていても良い。予め表面処理を施すことで、シリカの凝集を抑制することができる。従って、付加型ノルボルネン系樹脂での分散性に優れる。また、付加型ノルボルネン系樹脂とシリカ表面の密着性を向上するため、機械強度に優れる。」

(2)甲第5号証に記載された発明
上記(1)の記載によれば、甲第5号証には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリカの凝集を抑制するために、予め表面処理を施した球状シリカ。」

6 甲第6号証(サンプル送付案内書、株式会社 アドマテックス、令和4年3月25日)
甲第6号証には、以下の記載がある。





7 甲第7号証(実験成績証明書、田中 都子、令和4年7月29日)
甲第7号証には、以下の記載がある。














第5 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
1 甲1発明を主引用発明とする新規性進歩性について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「球状溶融シリカ」は、「平均粒径1.0μm」であるから粉末であるといえる。
したがって、甲1発明の「球状溶融シリカ」は、本件発明1の「球状シリカ粉末」に相当する。

(イ)以上から、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「球状シリカ粉末。」

<相違点>
相違点1−1:本件発明1は、「25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃〜1000℃における脱離する水分子数が0.010mmol/g以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点1−2:本件発明1は、「比表面積が1〜30m2/g」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点1−3:本件発明1は、「表面処理する前の球状シリカ粉末において、拡散反射FT−IR法にて測定したシリカ粉末の波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度をA、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点1−4:本件発明1は、「平均円形度が0.85以上」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点1−3から検討する。
甲第1号証には、相違点1−3に係る本件発明1の構成である「表面処理する前の球状シリカ粉末において、拡散反射FT−IR法にて測定したシリカ粉末の波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度をA、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下」であることについて、何ら記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証〜甲第7号証のいずれにも、相違点1−3に係る本件発明1の構成は、何ら記載も示唆もされていない。
さらに、甲1発明において、相違点1−3に係る本件発明1の構成を備えることが技術常識であるともいえない。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書6ページ18行〜下から4行において、相違点1−3に係る本件発明1の構成である構成要件Cについて、「構成要件Cに規定する値を算出するために拡散反射FT−IR法にてIRスペクトルを測定し、得られたスペクトルから波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度(A)と、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度(B)とを算出しB/Aを算出した。
その結果、波数3735cm−1〜3755cm−1中においてはピーク位置が3745.25cm−1、ピーク強度(A)が0.984、波数3660cm−1〜3680cm−1中においてはピーク位置が3663.65cm−1、ピーク強度(B)が0.976となり、B/Aは1.0であった。従って、構成要件Cにおける3.0以下との要件を充足することが分かった。」と主張している。
しかし、上記主張を立証する実験成績証明書等の証拠は提出されていないから、甲1発明が構成要件Cにおける3.0以下との要件を充足するとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではない。
また、本件発明1は、甲1発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲1発明ではないし、また、甲1発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

2 甲2発明を主引用発明とする新規性進歩性について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「球形シリカ」は、「平均粒径が0.5μm」であるから粉末であるといえる。
したがって、甲2発明の「球形シリカ」は、本件発明1の「球状シリカ粉末」に相当する。

(イ)以上から、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「球状シリカ粉末。」

<相違点>
相違点2−1:本件発明1は、「25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃〜1000℃における脱離する水分子数が0.010mmol/g以下」であるのに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点2−2:本件発明1は、「比表面積が1〜30m2/g」であるのに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点2−3:本件発明1は、「表面処理する前の球状シリカ粉末において、拡散反射FT−IR法にて測定したシリカ粉末の波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度をA、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下」であるのに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点2−4:本件発明1は、「平均円形度が0.85以上」であるのに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点2−3から検討する。
相違点2−3は、上記相違点1−3と同じ内容であるから、上記1(1)イで検討したのと同様に、甲第1号証〜甲第7号証のいずれにも、相違点2−3に係る本件発明1の構成は、何ら記載も示唆もされていない。
さらに、甲2発明において、相違点2−3に係る本件発明1の構成を備えることが技術常識であるともいえない。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえないし、また、甲2発明、甲1発明及び甲3発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書8ページ15〜16行において、相違点2−3に係る本件発明1の構成である構成要件Cについて、「甲2発明に係るSO−25Rが本件特許発明1の範囲に含まれることは上述の通りである。」と主張している。
しかし、上記1(1)ウで検討したとおり、上記主張を立証する実験成績証明書等の証拠は提出されていないから、甲2発明に係るSO−25Rが本件発明1の範囲に含まれるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明ではない。
また、本件発明1は、甲2発明、甲1発明及び甲3発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲2発明ではないし、また、甲2発明、甲1発明及び甲3発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

3 甲3発明を主引用発明とする新規性進歩性について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「シリカ」は、「平均粒径2.2μm」であるから球状シリカ粉末であるといえる。
したがって、甲3発明の「球形シリカ」は、本件発明1の「球状シリカ粉末」に相当する。

(イ)以上から、本件発明1と甲3発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「球状シリカ粉末。」

<相違点>
相違点3−1:本件発明1は、「25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃〜1000℃における脱離する水分子数が0.010mmol/g以下」であるのに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点3−2:本件発明1は、「比表面積が1〜30m2/g」であるのに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点3−3:本件発明1は、「表面処理する前の球状シリカ粉末において、拡散反射FT−IR法にて測定したシリカ粉末の波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度をA、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下」であるのに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点3−4:本件発明1は、「平均円形度が0.85以上」であるのに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点3−3から検討する。
相違点3−3は、上記相違点1−3と同じ内容であるから、上記1(1)イで検討したのと同様に、甲第1号証〜甲第7号証のいずれにも、相違点3−3に係る本件発明1の構成は、何ら記載も示唆もされていない。
さらに、甲3発明において、相違点3−3に係る本件発明1の構成を備えることが技術常識であるともいえない。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明、甲1発明、甲2発明、甲4発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書10ページ15〜23行において、相違点3−3に係る本件発明1の構成である構成要件Cについて、「構成要件Cに規定する値を算出するために拡散反射FT−IR法にてIRスペクトルを測定し、得られたスペクトルから波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度(A)と、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度(B)とを算出しB/Aを算出した。
その結果、波数3735cm−1〜3755cm−1中においてはピーク位置が3745.53cm−1、ピーク強度(A)が0.760、波数3660cm−1〜3680cm−1中においてはピーク位置が3664.28cm−1、ピーク強度(B)が0.808となり、B/Aは1.1であった。従って、構成要件Cにおける3.0以下との要件を充足することが分かった。」と主張している。
しかし、上記主張を立証する実験成績証明書等の証拠は提出されていないから、甲3発明が構成要件Cにおける3.0以下との要件を充足するとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明ではない。
また、本件発明1は、甲3発明、甲1発明、甲2発明、甲4発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲3発明ではないし、また、甲3発明、甲1発明、甲2発明、甲4発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

4 甲4発明を主引用発明とする新規性進歩性について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「球状シリカ」は、「平均粒径2μm」であるから球状シリカ粉末であるといえる。
したがって、甲4発明の「球形シリカ」は、本件発明1の「球状シリカ粉末」に相当する。

(イ)以上から、以上から、本件発明1と甲4発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「球状シリカ粉末。」

<相違点>
相違点4−1:本件発明1は、「25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃〜1000℃における脱離する水分子数が0.010mmol/g以下」であるのに対し、甲4発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点4−2:本件発明1は、「比表面積が1〜30m2/g」であるのに対し、甲4発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点4−3:本件発明1は、「表面処理する前の球状シリカ粉末において、拡散反射FT−IR法にて測定したシリカ粉末の波数3735cm−1〜3755cm−1のピーク強度をA、波数3660cm−1〜3680cm−1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下」であるのに対し、甲4発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点4−4:本件発明1は、「平均円形度が0.85以上」であるのに対し、甲4発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点4−3から検討する。
相違点4−3は、上記相違点1−3と同じ内容であるから、上記1(1)イで検討したのと同様に、甲第1号証〜甲第7号証のいずれにも、相違点4−3に係る本件発明1の構成は、何ら記載も示唆もされていない。
さらに、甲4発明において、相違点4−3に係る本件発明1の構成を備えることが技術常識であるともいえない。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲4発明であるとはいえないし、また、甲4発明、甲1発明〜甲3発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書11ページ21、22行において、相違点4−3に係る本件発明1の構成である構成要件Cについて、「甲4発明に係るSO−C6が本件特許発明1の範囲に含まれることは上述の通りである。」と主張している。
しかし、上記3(1)ウで検討したとおり、上記主張を立証する実験成績証明書等の証拠は提出されていないから、甲4発明に係るSO−C6が本件発明1の範囲に含まれるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4発明ではない。
また、本件発明1は、甲4発明、甲1発明〜甲3発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2は、甲4発明、甲1発明〜甲3発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の全ての構成を有するものであるから、上記(1)及び(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明3は、甲4発明ではないし、また、甲4発明、甲1発明〜甲3発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

5 まとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲1発明、甲2発明又は甲3発明ではなく、若しくは、本件発明1、3は、甲4発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由1には理由がない。
また、本件発明1〜3は、甲1発明〜甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由2には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-10-04 
出願番号 P2020-164696
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 113- Y (C01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 河本 充雄
後藤 政博
登録日 2022-01-26 
登録番号 7015888
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 球状シリカ粉末  
代理人 田口 昌浩  

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