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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  A01B
審判 全部無効 1項1号公知  A01B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01B
審判 全部無効 発明同一  A01B
審判 全部無効 2項進歩性  A01B
管理番号 1391199
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-04-13 
確定日 2022-09-08 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第5976246号「作業機」の特許無効審判事件についてされた令和2年3月23日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和2年(行ケ)第10049号、令和3年2月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5976246号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5976246号(以下「本件特許」という。平成28年3月10日出願(原出願の優先日:平成27年8月12日、原出願日:平成27年9月4日)、平成28年7月29日設定登録、請求項の数は1である。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(異議2016−700979号の審理において、平成29年6月26日付け訂正請求により訂正がなされた。)の特許を無効とすることを求める事案であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 4月13日 審判請求書・検証申出書提出
平成30年 6月22日 答弁書提出
平成30年 8月29日 審理事項通知(起案日)
平成30年 9月25日 請求人より口頭審理陳述要領書、
検証物指示説明書提出
平成30年10月 9日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成30年10月30日 第1回口頭審理・証拠調べ(検証)
平成30年12月25日 審理事項通知(起案日)
平成31年 2月 6日 被請求人より口頭審理陳述要領書(2)差出
平成31年 2月 7日 請求人より口頭審理陳述要領書(2)、
上申書提出
平成31年 2月20日 被請求人より口頭審理陳述要領書(3)差出
平成31年 2月21日 請求人より口頭審理陳述要領書(3)提出
平成31年 3月 1日 請求人より口頭審理陳述要領書(4)提出
平成31年 3月 1日 被請求人より上申書差出
平成31年 3月 7日 第2回口頭審理
平成31年 3月25日 被請求人より上申書(2)提出
平成31年 4月 5日 請求人より上申書(2)提出
令和 1年 6月27日 審決の予告(起案日)
令和 1年 8月30日 被請求人より訂正請求書、上申書(3)提出
令和 1年11月14日 請求人より審判事件弁駁書提出
令和 2年 3月 3日 審理終結通知(起案日)
令和 2年 3月23日 審決(以下「一次審決」という。)
令和 2年 4月21日 一次審決に対する訴えの提起
(令和2年(行ケ)第10049号)
令和 3年 2月24日 一次審決取消の判決の言渡
(主文「1 特許庁が無効2018−8000
39号事件について令和2年3月23日にし
た審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負
担とする。)
令和 3年 4月 2日 請求人より上申書(3)提出
令和 3年 4月22日 審理再開通知・審尋(起案日)
令和 3年 5月20日 被請求人より回答書提出(差出日)
令和 3年 5月25日 請求人より回答書提出
令和 3年 9月 6日 補正許否の決定(起案日)
令和 3年 9月17日 審理終結通知(起案日)

以下、請求人が提出した平成30年9月25日付け口頭審理陳述要領書、平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2)、平成31年2月21日付け口頭審理陳述要領書(3)、平成31年3月1日付け口頭審理陳述要領書(4)、平成31年2月7日付け上申書、平成31年4月5日付け上申書(2)、令和1年11月14日付け審判事件弁駁書、令和3年4月2日付け上申書(3)、及び令和3年5月25日付け回答書を、それぞれ、請求人要領書(1)、請求人要領書(2)、請求人要領書(3)、請求人要領書(4)、請求人上申書(1)、請求人上申書(2)、弁駁書、請求人上申書(3)、及び請求人回答書という。
また、被請求人が提出した平成30年6月22日付け答弁書、平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書、平成31年2月6日差出の口頭審理陳述要領書(2)、平成31年2月20日差出の口頭審理陳述要領書(3)、平成30年3月1日差出の上申書、平成31年3月25日付け上申書(2)令和1年8月30日付け上申書(3)、及び令和3年5月20日差出の回答書を、それぞれ、答弁書、被請求人要領書(1)、被請求人要領書(2)、被請求人要領書(3)、被請求人上申書(1)、被請求人上申書(2)、被請求人上申書(3)、及び被請求人回答書という。


第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件無効審判事件の被請求人より令和1年8月30日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、次の事項を訂正内容とするものである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、前記アシスト機構は、さらに、」とあるのを、「ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、前記アシスト機構は、さらに、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1の筒状部材には前記第2の支点と前記ガススプリングの一端とが接続され」とあるのを、「前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接続され」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記第2の筒状部材には前記ガススプリングの他端が接続され」とあるのを、「前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの先端が接続され」に訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ガススプリング」について、その具体的な構造をさらに特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と合わせて「本件明細書等」という。)に、「【0023】[ガススプリングの構成]ガススプリング250は、内側に空間を包摂する円筒形のシリンダー251と、シリンダー251の内部に挿入されたピストン256と、このピストン256から延長されるピストンロッド252と、フリーピストン257とから構成されている。」と記載されていることからみて、訂正事項1は、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更について
訂正事項1は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第1の筒状部材」に接続される「第2の支点」及び「ガススプリングの一端」について、それぞれ「第1の筒状部材」のどこに接続されるか、及び、上記「ガススプリングの一端」が具体的に「ガススプリング」のどこであるかを特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書に、
「【0017】[作業機100の構成]図1は、本発明の実施例に係る作業機の背面図である。図2は、本発明の実施例に係る作業機の耕うん時の側面図である。図3は、本発明の実施例に係る作業機のエプロン跳ね上げ時の側面図である。実施例に係る作業機100は、フレーム(主フレーム110とシールドカバー120とを含む)、耕うんロータ102、エプロン130等から構成されている。」、
「【0023】[ガススプリングの構成]ガススプリング250は、内側に空間を包摂する円筒形のシリンダー251と、シリンダー251の内部に挿入されたピストン256と、このピストン256から延長されるピストンロッド252と、フリーピストン257とから構成されている。ピストンロッド252の先端にはブラケット253が、シリンダー251の先端にはブラケット254が設けられている。ピストンロッド252とシリンダー251の他端近傍には、ピストンロッド252を安定させるためのロッドガイド258が設けられている。」、
「【0024】[内側及び外側筒状部材の組み合わせの構成]跳ね上げアシスト機構141は、ガススプリング250の伸長方向の力を圧縮方向の力に変換するため、内側筒状部材210と外側筒状部材220とを組み合わせている。・・・ガススプリング250のブラケット254は外側筒状部材220とピン271によって接続されている。ピン271は内側筒状部材210に設けられた長形穴内部において前後に動く。ガススプリング250のブラケット253は内側筒状部材210とピン270によって接続されている。支点151は内側筒状部材の一端に設けられ、支点152は外側筒状部材に設けられている。この結果、ガススプリング250が伸長する方向に力を作用させると、これとは逆に、アシスト機構は支点151と支点152の間隔が圧縮する方向に力を作用させる。この結果、エプロン130を跳ね上げる方向に回動させる。」と記載されている。
上記記載における「内側筒状部材210」、「支点151」、「ブラケット253」は、それぞれ、訂正事項2に係る「第1の筒状部材」、「第2の支点」、「ピストンロッドの先端」に相当し、そして、それらの関係については、【図2】、【図3】、【図5】及び【図6】を参照すると、「内側筒状部材210」の「フレーム」側の一端に「支点151」が接続され、「筒状部材212」の「エプロン」側の他端に「ブラケット253」が接続されていることが看て取れる。
よって、訂正事項2は、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更について
訂正事項2は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第2の筒状部材」に接続される「ガススプリングの他端」について、「第2の筒状部材」のどこに接続されるか、及び、上記「ガススプリングの他端」が具体的に「ガススプリング」のどこであるかを特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書には、上記(2)イで摘記した段落【0017】、【0023】、【0024】の記載があるところ、上記記載における「外側筒状部材220」、「ブラケット254」は、それぞれ、訂正事項3に係る「第2の筒状部材」、「シリンダーの先端」に相当し、そして、それらの関係については、【図2】、【図3】、【図5】及び【図6】を参照すると、「外側筒状部材220」の「フレーム」側の一端に「ブラケット254」が接続されていることが看て取れる。
よって、訂正事項3は、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更について
訂正事項3は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 訂正請求のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(なお、A〜Jの分説は、請求人の主張(弁駁書3〜4頁)に基づいて当審において付与した。)

A 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
B 前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
C 前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
D 前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
J 前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
E 前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
F 前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの先端が接続され、
G 前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化することにより、前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し、
H 前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成される
I ことを特徴とする作業機。」


第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、検証申出書、請求人要領書(1)ないし(4)、請求人上申書(1)ないし(3)、弁駁書、及び請求人回答書参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第52号証(枝番含む。以下、甲各号証を「甲1」などと略すことがある。)を提出している。

〔無効理由1〕
本件発明は、本件特許の出願前に公然知られた又は公然実施された検甲第1号証に係る発明であるから、特許法第29条第1項第1号・第2号に該当し、特許を受けることができないものである。
仮に、同一でないとしても、本件発明1は、検甲第1号証に係る発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由2〕
本件発明は、甲第14号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由3〕
本件発明は、本件特許の出願の日前の他の特許出願であって本件特許の出願後に出願公開された甲第18号証の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願に係る発明の発明者が当該他の特許出願に係る発明の発明者と同一ではなく、また本件特許の出願時の出願人が当該他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由4〕
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

なお、第2回口頭審理において、請求人の請求人要領書(2)ないし(4)による請求の理由の補正について、特許法第131条の2第2項に基づき、下記のとおり許可しない旨の決定を行った。
「請求人の平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2)67頁12〜16行、平成31年2月21日付け口頭審理陳述要領書(3)41頁8行〜44頁6行、平成31年3月1日付け口頭審理陳述要領書(4)25頁2行〜26頁5行による、特許法第123条第1項6号に規定された理由の主張は、請求の要旨の変更であって、審判請求時の請求書に記載しなかったことに合理的な理由はないので、当該理由の主張の追加は許可しない。」

また、令和3年9月6日(起案日)の「補正許否の決定」において、請求人の上申書(3)、請求人回答書による請求の理由の補正について、特許法第131条の2第1項及び第2項に基づき、下記のとおり許可しない旨の決定を行った。
「請求人による令和3年4月2日提出の上申書(3)の21頁19行〜最終行、26頁23行〜最終行、46頁1行〜最終行、47頁1行〜48頁最終行、49頁1行〜50頁最終行、及び、請求人による令和3年5月25日提出の回答書の5頁1行〜11頁13行による特許法第123条第1項6号のいわゆる冒認の理由の主張は、上記上申書(3)の48頁における「請求人は、審判請求当初から冒認の無効理由を主張している」との記載からみて、請求の要旨を変更するものでないことを前提としているものと解されるが、審判請求書の「3 無効審判請求の根拠」(4頁1行〜5頁9行)に記載の無効理由1〜4には冒認の理由は含まれていないし、平成30年9月25日付け口頭審理陳述要領書においても、審判請求書において主張する無効理由について「審判請求書の第4頁及び第5頁に無効理由1〜4として記載されたとおりであるから、何ら異存はない。」と述べている。そして、冒認の無効理由を追加する請求書の補正は、審理対象を変動させるもので請求の要旨を変更するものであることは明らかであるから、特許法第131条の2第1項の規定に基づき、これを許可しない。
また、特許法第36条第6項第1号及び第2号に基づく理由の追加、並びに、第123条第1項6号に基づく理由の追加に係る主張のうち要旨を変更するものであることを前提に主張している部分については、請求の要旨を変更するものであることは明らかであるところ、審判請求時の請求書に記載しなかったことに合理的な理由は認められないし、被請求人は上記理由を追加する補正に同意しないから(令和3年5月20日差出の被請求人回答書3頁8〜11行)、特許法第36条第6項第1号及び第2号、並びに、第123条第1項6号に基づく無効理由の追加は、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、これを許可しない。」

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:夏季展示会開催日程の御案内と御協力のお願い、株式会社
関東甲信クボタ北関東事業所、2015年4月27日
甲第2号証:夏季展示会参加申込書、松山株式会社
甲第3号証:展示会についてのご連絡の件、株式会社関東甲信クボタ、
2015年6月23日
甲第4号証:農機新聞、平成27年7月21日、1頁、12頁
甲第5号証:「元氣農業応援フェア2015inつくば」チラシ
甲第6号証:2015年元氣農業応援フェアレイアウト
甲第7号証:請求人の展示ブースを撮影した写真
甲第8号証の1:報告書、松山株式会社内田、2015年7月13日
甲第8号証の2:報告書、松山株式会社渡辺、2015年7月13日
甲第8号証の3:報告書、松山株式会社荻原、2015年7月13日
甲第8号証の4:報告書、松山株式会社廣世、2015年7月13日
甲第8号証の5:報告書、松山株式会社荻原、2015年7月13日
甲第8号証の6:報告書、松山株式会社荻原、2015年7月22日
甲第8号証の7:報告書、松山株式会社牛山、2015年7月19日
甲第9号証:納品書(品名:SKS2000−0S ♯1007)、
松山株式会社関東営業所、平成27年7月10日
甲第10号証:納品書(品名:SKS2000−4SD ♯1007)、
松山株式会社関東営業所、平成28年3月9日
甲第11号証:受領書(SKS2000−4SD ♯1007)、
松山株式会社関東営業所、平成28年3月9日
甲第12号証:証明書、山口美一、平成29年12月15日
甲第13号証:報告書、松山株式会社小林茂喜、平成30年1月31日
甲第14号証:「ニプログランドロータリーSKSシリーズ」カタログ、
松山株式会社、2015年6月作成
甲第15号証:納品書(品名:グランドロータリーSKSシリーズ
(新版)、カシヨ株式会社、2015年6月16日
甲第16号証:請求書(品面:グランドロータリーSKSシリーズ
(新版)、カシヨ株式会社、2015年6月30日
甲第17号証:農機新聞、平成27年7月7日、16頁
甲第18号証:特開2016−28566号公報
甲第19号証:「ニプログランドロータリーSKS1800/2000
1800D/2000D」取扱説明書、松山株式会社、
2015年7月
甲第20号証:ニプロのグランドロータリーその他「元氣農業応援フェア
」、[online]、2015年9月29日、水戸市大場町・
島地区農地・水・環境保全会、2018年9月6日、
インターネット:<URL:http://oba-shima.mito-city.com/
2015/09/29/niplo/>
甲第21号証:売掛台帳(山口美一宛)、有限会社小野瀬農機店、
平成29年1月16日印刷
甲第22号証:「徐徐」の欄、広辞苑第六版、2008年1月11日、
1412頁
甲第23号証:特開2006−325526号
甲第24号証:特開2013−215185号公報
甲第25号証:特開2014−97042号公報
甲第26号証:特開平8−232283号公報
甲第27号証:特開2004−230068号公報
甲第28号証:特開平5−253223号公報
甲第29号証:特開2011−153427号公報
甲第30号証:特開平9−169285号公報
甲第31号証:「コバシツーウェイローター(FTF)」パーツリスト、
小橋工業株式会社、2019年、20頁
甲第32号証の1:「インナーパイプ」設計図、松山株式会社、
2014年11月21日
甲第32号証の2:「アウターパイプ」設計図、松山株式会社、
2014年11月25日
甲第32号証の3:「タンブラ」設計図、松山株式会社、
2015年1月8日
甲第32号証の4:「レバー」設計図、松山株式会社、
2014年11月25日
甲第32号証の5:「レバー板」設計図、松山株式会社、
2014年11月21日
甲第32号証の6:「GS−S150−1100」(ガススプリング)
設計図、松山株式会社、2013年6月25日
甲第33号証:特開2016−73205号公報
甲第34号証:「コバシツーウェイローター(FTE)」パーツリスト、
小橋工業株式会社、2019年、8頁
甲第35号証:「ガススプリングGS−22(押出し式)」カタログ、
[online]、エースコントロールスジャパンエルエルシー、
インターネット:<URL:http://www.acecontrols.co.jp/
products/catalog/GS.pdf>
甲第36号証の1:報告書、松山株式会社荻原、2015年7月15日
甲第36号証の2:報告書、松山株式会社小林、2015年7月21日
甲第36号証の3:報告書、松山株式会社廣世、2015年7月21日
甲第36号証の4:報告書、松山株式会社福井、2015年7月21日
甲第36号証の5:報告書、松山株式会社福留、2015年7月21日
甲第37号証:特開2001−8502号公報
甲第38号証:特開2008−148574号公報
甲第39号証:特開2002−305902号公報
甲第40号証:特開2008−263836号公報
甲第41号証:回答書、KYBエンジニアリングアンドサービス
株式会社上井遼、2019年4月2日
甲第42号証:報告書、松山株式会社小林茂喜、平成31年4月2日
甲第43号証:特開平6−74335号公報
甲第44号証:特開2006−115711号公報
甲第45号証:特開2009−254326号公報
甲第46号証:特開2015−39920号公報
甲第47号証:令和2年(行ケ)第10049号判決
甲第48号証:特開2010−63367号公報
甲第49号証:特開2006−325526号公報
甲第50号証:「コバシツーウェイローター」(FTFシリーズ FTE
シリーズ FTVシリーズ)のカタログ、小橋工業株式会
社、2014年6月
甲第51号証:審判便覧51−18、特許庁、令和1年6月
甲第52号証:特願2016−141321号の面接記録、平成29年8
月17日作成
検甲第1号証説明書:ニプログランドロータリーSK2000
(製造番号1007)

3 請求人の具体的な主張
請求人の具体的な主張は、以下のとおりである。

(1)無効理由1
ア 検甲第1号証の公知公用について
(ア)展示会について
<夏季展示会>
(1)展示日:2015年(平成27年)7月11日、12日、18日、19日
(2)展示会名:元氣農業応援フェア 2015 in つくば
(3)開催場所:株式会社クボタの筑波工場
(茨城県つくばみらい市坂野新田10)
松山株式会社製の「ニプログランドロータリーSKS2000(製造番号1007)」である検甲第1号証は、甲第1号証ないし甲第12号証からみて明らかなとおり、上記の夏季展示会(以下、単に「展示会」という。)で展示され、その後、有限会社小野瀬農機店を介して山口美一氏に販売されたものである。
したがって、検甲第1号証は、本件特許の出願前(原出願日の平成27年8月12日よりも前)に展示会に展示されることによって公然実施されたものであり、かつ、その際に不特定人によって公然知られたものである。
そして、請求人の展示ブースを撮影した写真(甲第7号証)からも明かなように、請求人の展示ブースを訪れた人は、自分自身で検甲第1号証のエプロンを持ち上げてアシスト機構の作用を確認できる状況であった。
それゆえ、実際に、被請求人の社員を含む多くの不特定人が、検甲第1号証のエプロンを持ち上げてアシスト機構の作用を確認していた。
(審判請求書8頁4〜下から4行)

(イ)展示会の実演について
甲第20号証のブログ記事の内容や請求人社員作成の報告書(甲第8号証の1〜7)の内容からみて、見学者がエプロンを持ち上げて実演することができる状態にあり、かつ、実際にエプロンを持ち上げて実演した見学者がいたという事実は明らかである。
また、甲第20号証のコメント(「Nさんに連れて行ってもらった」、「このレバーを持上げると・・・」、「バネがキツくて持ち上がらない均平板がラクに持ち上がるようになる・・・みたいです。」等)を踏まえて、写真をみれば、エプロンを持ち上げるためにレバーを操作しようとする「Nさんの手」をブログの管理人が撮影したものであると考えるのが普通である。
さらに、被請求人が提出した乙第5号証の陳述書には、「・・・請求人の新製品の写真撮影をすることや、新製品を触れることはNGであると、請求人の従業員から事前に申し出があった・・・」と記載されている。
確かに、請求人の従業員は、被請求人の従業員に対しては事前に「新製品の写真撮影をすることはNGである」旨の申し出は行ったが(甲第8号証の3、5)、「新製品を触れることはNGである」旨の申し出は誰に対しても一切行っていないし、甲第20号証のブログ記事の上記写真からも明らかなとおり見学者は自由に新製品の写真撮影を行っていた。
また、この陳述書には「・・・請求人の従業員が、他の見学者に説明している内容を聞くと、アシスト機構を新たに採用したこと、製品重量が軽くなったこと、耕耘性能が向上したことをPRされていました・・・」とあり、この新たに採用したアシスト機構(従来の約半分の力で均平板を持ち上げ可能とするもの)のPRの際に、そのアシスト機構の効果を実際に見学者に触れて実感してもらうことは当然であり、そのための展示会である。
(請求人要領書(2)5頁下から4行〜6頁末行)

(ウ)展示会の作業機と検証物との関係について
a 型式末尾について
(1)検証物の銘板:「型式SKS2000」「製造番号1007」
(2)甲第2号証 :「SKS2000−4S」
(3)甲第9号証 :「SKS2000−0S ♯1007」
(4)甲第10号証:「SKS2000−4SD ♯1007」
(5)甲第11号証:「SKS2000−4SD ♯1007」
上記(1)〜(5)の関係について、説明する。
甲第14号証(カタログ)の主要諸元には「区分4SD/3SDは強化型ジョイントが標準装備となります。」と記載され、甲第19号証(取扱説明書)の第20頁には、型式末尾に関する説明がある。
それゆえ、「−4S」はカプラ及び通常のジョイントが標準装備されたものであり、「−4SD」はカプラ及び強化型のジョイントが標準装備されたものであり、「−0S」はカプラ及びジョイントが標準装備されていないものである。
そして、甲第2号証の型式末尾「−4S」と甲第9号証の型式末尾「−0S」とが不一致であるのは、展示会2ヶ月前の参加申込み時には「−4S」の製品を予定していたが、展示会の開催場所への発送時において、「−4S」の製品を確保できず、実演機ではなくカプラ及びジョイントも不要であることから、「−4S」の製品に代えて「−0S」の製品を発送したためである。
また、甲第10、11号証の型式末尾が「−4SD」となっているのは、山口美一氏からの注文がカプラ及び強化型のジョイントを標準装備した「−4SD」の製品であったためである。
さらに、検証物の銘板の型式が「SKS2000」となっているのは、「−○○/−○○○」はカプラやジョイントといった付属品に関する部分であって製品本体の構成とは無関係であるから、製品本体に取り付けられる銘板には、その「−○○/−○○○」の部分を省略した型式が付されるためである。
検証物(製造番号1007の製品である検甲第1号証)は、「元氣農業応援フェア 2015 in つくば」の展示会で展示された装置であって、その装置自体が甲第10〜12号証のとおり販売されたものである。
(請求人要領書(1)3頁11行〜5頁11行)

b 商品の流れについて
甲第9号証は株式会社クボタ筑波工場宛ての納品書(展示会に製品を発送するための配送伝票)であり、甲第10号証は有限会社小野瀬農機店宛ての納品書であり、甲第11号証は有限会社小野瀬農機店宛ての受領書である。
そして、展示会後における検証物(商品)の流れは、以下の(1)→(2)→(3)の流れである。
(1)松山株式会社関東営業所
(2)有限会社小野瀬農機店
(3)山口美一氏
甲第21号証は、有限会社小野瀬農機店の売掛台帳のうち、平成27年12月1日〜平成28年11月30日の山口美一氏宛ての売掛台帳である。
そして、この甲第21号証からみて、検証物(ニプログランドロータリーSKS2000 製造番号1007」)は、平成28年3月4日に有限会社小野瀬農機店から山口美一氏に販売された事実がある。
(請求人要領書(1)9頁2〜末行)

c 主要構成の相違について
検甲第1号証に係るロータリ作業機について、展示会で展示されたものは型式末尾「0S」のものであり、検証の対象となったものも型式末尾「0S」のものであるが、(有)小野瀬農機店を通して山口美一氏に販売されたものは、型式末尾「0S」ではなく、型式末尾「4SD」のものである。
なお、「4SD」のものと、「0S」のものとは、追加装備されたカプラ及びジョイントの有無(付属品の有無)が相違するだけで、それ以外の主要構成、つまり検証結果に係る構成に相違はない。
(請求人要領書(2)5頁12〜18行)

イ 検甲第1号証に係る発明について
展示会において公然知られた又は公然実施された検甲第1号証(検証物)に係る発明は、この検証物の外観等や、甲第14号証のカタログの記載(ガススプリングの使用)、当業者の技術常識等からみて、次のとおりである(以下、その発明を「検甲1発明」という。)。
<検甲1発明>
A 走行機体(トラクタ)の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
B 前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
C 前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にある均平板と、
D 前記フレームに固定された第2の支点と前記均平板に固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記均平板を跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構(「均平板らくらくアシスト」)とを具備し、
E 前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
F 前記第1の筒状部材には前記第2の支点と前記ガススプリングの一端(長手方向一端である後方側の一端)とが接続され、前記第2の筒状部材には前記ガススプリングの他端(長手方向他端である前方側の他端)が前記第1の筒状部材の長手方向に延びる長孔を通して接続され
G’前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が、前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化し、
H 前記ガススプリングは、前記均平板が下降した地点において収縮するように構成される
I 作業機。
(請求人要領書(2)25頁4行〜26頁6行)

ウ 本件発明と検甲1発明との対比
本件発明と検甲1発明とを対比すると、検甲1発明の「均平板」は本件発明の「エプロン」に相当するから、次の点で一応相違し、それ以外の構成は一致する。(当審注;相違点Bは、本件訂正後の本件発明について請求人が弁駁書で主張したものである。)
[相違点A]
本件発明は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」(作業者が知覚することができる程度の減少、言い換えると、図7のグラフに示す少なくとも約250Nの減少)するのに対し、検甲1発明は、そのような構成に特定されていない点。
(請求人要領書(2)26頁8〜16行)
[相違点B]
シリンダー及びピストンロッドを有するガススプリングに関して、
本件発明は、「第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続され」るのに対し、
検甲1発明は、ガススプリングの向きが逆で、「第1の筒状部材のエプロン側の他端にはシリンダーの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはピストンロッドの先端が接続され」る点。
(なお仮に、検甲1発明において、ガススプリングの向きが不明であったとしても、相違点Bの構成が容易想到であることに何ら変わりはない。)
(弁駁書26頁14〜23行)

エ 相違点の検討
(ア)相違点Aについて
a 実質的な相違点でないか、適宜選択し得る事項であることについて
検甲1発明が構成Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を備えることは、各支点(第1の支点、第2の支点及び第3の支点)の位置関係や、甲第13号証の調査結果からみて明らかである。またそもそも、この種の作業機においてエプロン持上用のガススプリングを採用すれば、当然に所定角度範囲内ではアシスト操作力が徐々に減少することになる。

[甲第13号証6頁の調査結果]

また、例えば「だんだんと軽くなる」、或いは、逆に「だんだんと重くなる」等といった、エプロンの持ち上げ時における重さの変化は、アシスト機構において何ら重要なことではなく、当業者が必要に応じて適宜選択し得るものに過ぎない。
相違点Aに係る構成は市販品のガススプリングを単に組み込んで得られるものに過ぎない。
以上のことから、本件発明と検甲1発明との一応の相違点Aは、実質的に同一であり、また、仮に同一でないとしても、検甲1発明において相違点Aに係る本件発明の構成とすることは当業者にとって容易想到である。
(審判請求書10頁6〜11行、甲第13号証6頁、請求人要領書(2)27頁3〜6、14〜15、下から3〜末行)

b スタンド姿勢での測定であれば相違点とならないことについて
検甲第1号証に関する平成30年10月30日の証拠調べ(検証)では、被請求人も同意したため、作業姿勢で測定が行われた。
しかし、その後、被請求人は、作業姿勢ではなく、スタンド姿勢で測定したと主張を翻した。
そこで、平成30年10月30日の検証に近い状態の位置関係及び数値を用いて、検甲第1号証の姿勢別の検証計算を行った。
検証物の姿勢別のアシスト有のFsを計算して求め、その結果を表4及び図1に示す。
検証物(作業機)の姿勢は、検証時の測定姿勢である作業姿勢を0°として、前傾15°、30°、45°の15°毎の値を計算した。

[表4 姿勢別 アシスト有 鉛直方向の持ち上げ力Fs]

[図1 姿勢別 鉛直方向の持ち上げ力Fs]
表4及び図1から分かるように、スタンド姿勢であれば、検甲第1号証における要する力(アシスト有のFs)は、全範囲にわたって大幅に減少している。
それゆえ、スタンド姿勢であれば、検甲第1号証に係る発明は、本件発明の構成Gを備える。
そして、検甲第1号証は、展示会においてスタンド姿勢で展示されていたから(甲第20号証の第1頁の写真を参照)、見学者は、エプロンを持ち上げた際に、要する力の減少変化を知覚していたこととなる。

[甲第20号証の第1頁の写真]
したがって、被請求人がいうスタンド姿勢を前提とすれば、本件発明が検甲第1号証に係る発明と同一であることは明らかであり、本件発明は新規性がない。
また、仮に同一でなくとも、本件発明は、検甲第1号証に係る発明に基づき又は検甲第1号証に係る発明及び周知技術(仮に周知でなくとも公知技術)に基づき進歩性がない。
(請求人上申書(2)28頁2〜7行、30頁2行〜32頁6行)

実施可能要件に関する裁判所の判断に基づく主張
令和2年(行ケ)第10049号の審決取消訴訟の判決(以下、単に「判決」という)において、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成Gについての実施可能要件違反の無効理由4に関し、裁判所は、
○1(当審注;○の中に数字を示す、以下同様) 構成Gの理論的説明は、当業者であれば力学的な技術常識から認識可能である、
○2 構成Gを実施するために、当業者は過度な試行錯誤を要しない、
○3 構成Gを実施する際の作業機の姿勢は、「作業機全体が地上に引き上げられた状態(前傾の傾きが17.41°〜34.8°)」である、
○4 構成Gの要する力の減少程度は、「一般的な作業者が感じることができる程度」である、
○5 本件発明の意義に鑑みれば、構成Gが実現されるにはエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって容易になればよい、
○6 本件発明における第2の支点及び第3の支点の位置は、図2に示された支点位置と同じである必要はない、と判断した。
上記裁判所の判断に従えば、以下のとおり、相違点Aは技術常識の範囲内であるか、少なくとも進歩性欠如の無効理由を有する。
(請求人上申書(3)3頁2行〜5頁2行)

(a)技術常識であることについて
裁判所の判断○1に従うならば、本件発明の構成Gは、当業者が力学的な技術常識から導き出せる事項に過ぎない。
つまり、検甲1発明に係る作業機(検甲第1号証)は、ガススプリングの向きが逆である点を除けば、各支点位置を含めて本件発明に係る作業機と同じ構造である。
それゆえ、本件特許の原出願前の展示会において、検甲1発明に係る作業機の構造(当該構造は本件発明の作業機と同じ)を参照した当業者は、力学的な技術常識から、構成Gの理論的説明を認識できる。
そして、その検甲1発明に係る作業機の構造を参照した当業者は、構成Gの理論的説明における計算式を用いてシミュレーションして、構成Gを導き出すことができる。
(請求人上申書(3)15頁11行〜最終行)

(b)過度の試行錯誤を要さないことについて
裁判所は、判断○2の如く、構成Gを実施するために、当業者は過度な試行錯誤を要しないと判断した。
それゆえ、本件発明に係る作業機と同一構造をした検甲1発明に係る作業機(検甲第1号証)を参照した当業者は、過度な試行錯誤を要することなく、力学的な技術常識から構成Gの理論的説明を認識して計算式を用いてシミュレーションすることにより、何ら困難なく構成Gを導き出すことができる。
また、構成Gを実施するために、当業者が過度な試行錯誤を要しないことから、構成Gが少なくとも当業者にとって容易想到であることはいうまでもない。
(請求人上申書(3)17頁2行〜12行)

(c)作業機の姿勢及び力の減少程度について
裁判所は、判断○3の如く、構成Gを実施する際の作業機の姿勢は、「作業機全体が地上に引き上げられた状態(前傾の傾きが17.41°〜34.8°)」であり、かつ、判断○4の如く、構成Gの要する力の減少程度は、「一般的な作業者が感じることができる程度」であると判断した。
ところで、検証物である検甲第1号証の検証(証拠調べ)は、被請求人も同意したため、「耕うん姿勢(作業姿勢)」で行われたが、その後、被請求人は、突然、「スタンド姿勢」だったと主張を翻した。
そこで、請求人上申書(2)の第28頁ないし第32頁で主張したように、検甲1発明に係る作業機(検甲第1号証)について、検証時の測定姿勢である作業姿勢を0°とし、前傾15°、30°、45°の15°毎の値を計算したところ、請求人上申書(2)の第31頁の図1のグラフ(当審注;上記bに摘記)を得た。
上記グラフからみて明らかなとおり、検甲1発明に係る作業機の姿勢が、「作業機全体が地上に引き上げられた状態(前傾の傾きが17.41°〜34.8°)」であれば、検甲1発明に係る作業機における要する力(Fs)の減少程度(減少の割合)は、作業姿勢のような略一定ではなく、相当に大きくなり、「一般的な作業者が感じることができる程度」といえる。
したがって、検甲1発明は、作業機全体が地上に引き上げられた状態で構成Gを備えるものである。
(請求人上申書(3)17頁16行〜20頁最終行)

(d)「徐々に」に技術的意味はないことについて
裁判所は、構成Gの要する力の減少程度と本件発明の意義に関し、判断○5の如く、本件発明の意義に鑑みれば、構成Gが実現されるにはエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって容易になればよいと判断した。
すなわち、裁判所は、「究極的には、エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であるという問題を解決するものである」という本件発明の意義からみて、構成Gの要する力は、アシスト機構がない場合に比べて、とにかく減少すればよく、よって、エプロン角度の増加に伴って、「徐々に減少するか」、「略一定であるか」、「徐々に増加するか」は、本件発明において重要なことではないと判断したのである。
上記のことから、作業者はエプロンを軽く操作できればよく、「だんだんと軽くなるか」、「略一定であるか」、「だんだんと重くなるか」の違いは、作業者にとって重要なことではなく、構成Gに技術的意義(技術的効果)はない。
また、作業者によるエプロンを跳ね上げる作業(操作)は、ほんの数秒、すなわち「2秒」程度で終わるから、作業者がその違いを感じ取ること自体が困難であり、構成Gに何ら技術的意義はない。
ここで、検甲1発明に係る作業機のカタログ(甲第14号証)をみると、「均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げることが可能になりました。」と明記されている。
それゆえ、検甲1発明に係る作業機における要する力は、アシスト機構がない場合に比べて、約半分まで減少するから、エプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって容易となり、実質的に構成Gが実現される。
したがって、検甲1発明は、構成Gを備えたものであって、本件発明と同様、究極的にはエプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であるという問題を解決したものである。
(請求人上申書(3)12頁17行〜13頁16行、22頁2行〜最終行、25頁1行〜15行)

d 被請求人が自認していることについて
被請求人は、被請求人要領書(2)で、本件発明と同様の支点の位置関係を有する作業機において、エプロン角度が増加するにつれて、アシスト力が徐々に減少する構造も、ほぼ一定の構造も、本件発明のように徐々に増加する構造も、適宜設計することができると主張している。
したがって、被請求人が自認するように、本件発明の構成Gは、当業者が適宜設計できる設計事項であるから、少なくとも当業者にとって容易想到である。
(請求人上申書(3)28頁12〜24行)

e 甲第29号証及び甲第30号証に照らして
検甲1発明と甲第29,30号証に記載された技術事項とは、いずれも開閉体の持ち上げ(跳ね上げ)をアシストするガススプリングを含むアシスト機構に関する同じ技術分野に属する技術であって、開閉体の持ち上げ時に作業者からみてその開閉体がだんだんと軽くなる点で作用機能も共通している。
それゆえ、検甲1発明に対して甲第29,30号証に記載された技術事項を適用する動機付けがあり、その一方、その適用を妨げる阻害要因は存在しない。
したがって、検甲1発明において、甲第29,30号証に記載された技術事項(周知技術又は公知技術)を適用して、相違点Aに係る本件発明の構成にすることは、当業者にとって容易想到である。
(請求人要領書(2)32頁7〜12、15〜17行)

f 甲第48号証及び甲第49号証に照らして
本件明細書の【0005】に記載された先行技術文献である特開2010−63367号公報(甲第48号証)には、エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリング21を備えた作業機が記載されている(甲第48号証の図1等を参照)。
そして、この従来の作業機を前傾(例えば30°)させて、作業機全体が地上に引き上げられた状態である「スタンド姿勢」にした場合には、当該作業機における要する力は、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少することになる。
また、特開2010−63367号公報(甲第48号証)の【0006】に記載された先行技術文献である特開2006−325526号公報(甲第49号証)にも、エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリング27を備えた作業機が記載されている(甲第49号証の図8等を参照)。
そして、この従来の作業機を前傾(例えば30°)させて、作業機全体が地上に引き上げられた状態である「スタンド姿勢」にした場合にも、当該作業機における要する力は、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少することになる。
そして、上記従来の作業機(スタンド姿勢)における要する力が徐々に減少する理由は、重力トルクTw(エプロンの重心のモーメント)が測定姿勢の影響を直に受けるからであり、測定姿勢ごとの重力トルクTwが次のようなグラフ(請求人要領書(4)の第13頁の図2のグラフ)になるからである。

[請求人要領書(4)の第13頁の図2]
上記グラフからみて明らかなとおり、重力トルクTwは、作業機の姿勢によって大きく変化し、徐々に減少したり、徐々に増加したりする。

[請求人要領書(4)の第14頁の図3]
すなわち、上図(請求人要領書(4)の第14頁の図3)に示すように、重力トルクTwは、「Tw=Rw×Wsinα」と表される。
そして、エプロンの重心位置が第1の支点と同じ高さのとき、すなわち「α=90°」のとき、sin90°=1であるから、最大の重力トルクTw=Rw×W×1となる。
その後、エプロンの重心位置が第1の支点を超えると、エプロン角度の増加に伴って、sinαの値が徐々に小さくなるため、重力トルクTwが徐々に減少する。
このような重力トルクTwに関する事項は、当業者とっての力学的な技術常識である。
それゆえ、上記先行技術文献(甲第48号証及び甲第49号証)に接した当業者は、力学に関する技術常識に基づいて、当該文献に記載された従来の作業機を前傾させて「スタンド姿勢」にすれば、エプロンの重心位置と第1の支点との位置関係からみて、従来の作業機における要する力がエプロン角度の増加に伴って徐々に減少することになると認識する。
このことから、構成Gは、技術的意義がないことに加え、本件特許の原出願時(以下では単に「出願時」という)の周知技術(周知事項)に過ぎない。
したがって、本件発明の構成Gは、出願時の周知技術(甲第48号証及び甲第49号証)であるから、少なくとも当業者にとって容易想到である。
(請求人上申書(3)29頁2行〜32頁9行)

(イ)相違点Bについて
甲第43号証ないし甲第45号証には、農作業機に用いたガススプリングに関して、そのガススプリングの向きを逆にしても良いことが記載されているから、農作業機に用いたガススプリングに関し、必要に応じてそのガススプリングの向きを逆にすることは、本件特許の出願前における周知技術である。
そして、検甲1発明と周知技術(甲第43号証ないし甲第45号証)とは、いずれも農作業機に関する技術で共通していることから、検甲1発明に当該周知技術を適用する動機付けがあり、他方、単にガススプリングの向きを逆にするだけであるから、その適用を妨げる阻害要因は存在しない。
しかも、当該相違点Bに係る構成に基づく本件発明の作用効果は、当業者が予測し得る程度のものであって、何ら格別なものではない。
なお、ガススプリングの接続の向きを特定したことに関して、「ガススプリングのピストンロッドが、シリンダーよりも上方に位置する場合と比較して、窒素等のガスがガススプリングから漏れ出す可能性が低くなり、ガススプリング劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。」(本件明細書段落【0036】)という、被請求人が主張する効果は、ガススプリングのタイプ及び作業機の保管姿勢によっては奏し得ないものである。
したがって、上記相違点Bは実質的な相違点ではなく、また少なくとも当業者にとって想到容易である。
(弁駁書26頁下から2行〜30頁13行、請求人上申書(3)33頁1〜21行)

オ 小括
本件発明は、検甲1発明と同一であって新規性がなく、また、仮に同一でないとしても、本件発明は、検甲1発明に基づき又は検甲第1号証に係る発明及び周知技術(仮に周知でなくても公知技術)に基づき進歩性がない。
(請求人要領書(2)32頁下から5〜2行、請求人上申書(3)33頁下から5〜最終行)

(2)無効理由2
ア 甲第14号証(カタログ)の頒布について
甲第14号証は、「ニプログランドロータリーSKSシリーズ」のカタログであり、裏面下端部には「’15.06作成」との記載があり、このカタログは「2015年(平成27年)6月」に作成されたものである。このことは、甲第15号証の納品書や甲第16号証の請求書からも明らかである。
また、甲第14号証のカタログは、平成27年7月の展示会(元氣農業応援フェア)で頒布されていたものであり、請求人の展示ブースを撮影した写真(甲第7号証)にも当該カタログが写っている。
さらに、製品の発売時期に合わせてその製品のカタログが作成頒布されることが一般的であるところ、平成27年7月7日発行の農機新聞(甲第17号証)には「松山(株)・・・は、34〜60馬力適応で作業幅1・8メートルと2メートルのグランドロータリーSKSシリーズ6型式を発売した。」との記載があり、このことからも平成27年7月には甲第14号証のカタログが既に頒布されていたといえる。
したがって、平成27年6月作成の甲第14号証(カタログ)は、本件特許の出願前(原出願日の平成27年8月12日よりも前)に頒布された刊行物に該当する。
(審判請求書13頁4〜末行)

イ 甲第14号証(カタログ)の記載事項
見開き左側下部には、「刃長を長く、大きな曲げRの新開発J500G爪と均平板の支点位置を上方に上げることで生まれた反転スペース(空間)により、大幅な反転率の向上を実現しました。・・・」と記載されている。
見開き右側下部には、「軽量・近接設計で軽快作業 機体質量の軽量化を図りました。SKS1800−0Sで365kgと当社SX1810−0Sと比べても15kg軽量になります。また可能な限りトラクタに近づけた設計です。・・・」と記載されている。
裏面の上部には、「うれしいらくらく装備 均平板らくらくアシスト 洗車や爪交換で均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げることが可能になりました。」と記載されている。
また、カタログ中の写真及び図面からは、耕うんロータ、フレーム、均平板、アシスト機構、第1の筒状部材、第2の筒状部材、ガススプリング接続用のピン、第1の突部及び第2の突部がみてとれる。
さらに、第1の筒状部材には、ガススプリング接続用のピンを案内する長孔が形成されていることがみてとれる。それゆえ、アシスト用のガススプリングは第1の筒状部材及び第2の筒状部材の中に位置してピンで第2の筒状部材に接続され、この接続されたガススプリングはエプロンの上方回動により収縮状態から伸びることが分かる。
(請求人要領書(2)33頁3〜末行)

ウ 甲14発明
甲第14号証には、上記イの記載や、当業者の技術常識等からみて、次の発明(以下、「甲14発明」という。)が記載されている。
<甲14発明>
A トラクタの後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記トラクタの前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
B 前記作業機は前記トラクタと接続されるフレームと、
C 前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点(支点位置)を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にある均平板と、
D 前記フレームに固定された第2の支点と前記均平板に固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記均平板を跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構(「均平板らくらくアシスト」)とを具備し、
E 前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
F’ 前記第1の筒状部材には前記第2の支点が接続され、前記第2の筒状部材には前記ガススプリングがピンによって接続され、
G’ 前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が、前記第3の支点を回動中心とし、前記均平板に台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化し、
H 前記ガススプリングは、前記均平板が下降した地点において収縮するように構成される
I 作業機。」
(請求人要領書(2)35頁2〜末行)

エ 対比
本件発明と甲14発明とを対比すると、両者は、次の2点で一応相違し(以下、その相違を「相違点a」及び「相違点b」という。)、それ以外の構成は一致する。
[相違点a]
ガススプリングの接続に関して、本件発明は、「第1の筒状部材にはガススプリングの一端が接続され、第2の筒状部材にはガススプリングの他端が接続される」のに対し、甲14発明では、ガススプリングのうちどの部分が第1の筒状部材及び第2の筒状部材に接続されているか不明である点。
[相違点b](検甲1発明との相違点Aと同じ。)
本件発明は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」(作業者が知覚することができる程度の減少、言い換えると、図7のグラフに示す少なくとも約250Nの減少)するのに対し、甲14発明は、そのような構成に特定されていない点。
(請求人要領書(2)36頁2〜15行)

オ 判断
(ア)相違点aの検討
甲14発明のアシスト機構(ガススプリングを含む構成のもの)において、ガススプリングを利用してエプロンの持ち上げをアシストするために、そのガススプリングのうち、その一端側を第1の筒状部材に接続しかつその他端側を第2の筒状部材に接続する必要があることは、当業者であれば当然に想起し得る事項である。それゆえ、甲14発明において、ガススプリングの一端を第1の筒状部材に接続しかつガススプリングの他端を第2の筒状部材に接続して、相違点aに係る本件発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。
このことは、甲第23号証〜甲第28号様の記載からみても明らかである。
したがって、相違点aに係る本件発明の構成は、当業者にとって容易想到である。
(請求人要領書(2)36頁下から8行〜37頁4行)

(イ)相違点bの検討
相違点bは、上記(1)ウにおける「相違点A」と同じものであって、上記(1)エで述べた理由と同様の理由から、実質的に同一であり、また、仮に同一でないとしても、甲14発明において相違点bに係る本件発明の構成とすることは、当業者にとって容易想到である。
(請求人要領書(2)37頁6〜9行)

カ 小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲14発明に基づき又は甲第14号証記載の発明及び周知技術(仮に周知でなくとも公知技術)に基づき進歩性がない。
(請求人要領書(2)37頁下から5〜2行)

(3)無効理由3
ア 甲18発明(先願発明)
甲第18号証(先願明細書)には、次の発明(以下、「甲18発明」という。)が記載されている(括弧内は、本件発明の相当する構成である。)。
<甲18発明>
A トラクタ(走行機体)の後部に装着され、耕耘体3(耕うんロータ)を回転させながら前記トラクタの前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする農作業機1(作業機)において、
B 前記農作業機1は前記トラクタと接続される機体2(フレーム)と、
C 前記機体2の後方に設けられ、前記機体2に固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にある整地体4(エプロン)と、
D 前記機体2に固定された第2の支点と前記整地体4に固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記整地体4を跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリング91(ガススプリング)を含む持上アシスト手段8(アシスト機構)とを具備し、
E 前記持上アシスト手段8は、さらに、前記ガススプリング91がその中に位置し、前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸上で移動可能な筒状の長尺体93(第1の筒状部材)と筒状の移動体111(第2の筒状部材)とを有し、
F 前記長尺体93には前記第2の支点と前記ガススプリング91の一端とが接続され、前記移動体111には前記ガススプリング91の他端が接続され、
G 前記移動体111の筒状部112の外周に突設された鍔部118(第1の突部)が、前記第3の支点を回動中心とし、前記整地体4に台座を介して設けられた回動体106(第2の突部)に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化することにより、前記整地体4を跳ね上げるのに要する力は、整地体角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し、
H 前記ガススプリング91は、前記整地体4が下降した地点において収縮するように構成される
I 農作業機1。

なお、甲第18号証には、構成Gの「整地体4を跳ね上げるのに要する力は、整地体角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する旨の明示的な記載はない。
しかし、甲第18号証に記載された各支点(第1の支点、第2の支点及び第3の支点)の位置関係からみて、整地体を跳ね上げるのに要する力が整地体角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少することは、甲第18号証に実質的に記載されている。
(審判請求書27頁1行〜28頁20行)

イ 対比
本件発明と甲18発明とを対比すると、両者は以下の点で一応相違しており、それ以外の点では一致する。
[相違点]
シリンダー及びピストンロッドを有するガススプリングに関して、
本件発明は、「第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続され」るのに対し、
甲18発明は、ガススプリングの向きが逆で、「第1の筒状部材(長尺体)のエプロン側の他端にはシリンダー(ガススプリングの本体部)の先端が接続され、第2の筒状部材(移動体)のフレーム側の一端にはピストンロッド(ガススプリングのロッド部)の先端が接続され」る点。
(弁駁書34頁1〜15行)

ウ 上記相違点について
無効理由1について述べたように、農作業機に用いるガススプリングに関し、必要に応じてその向きを逆にすることは、出願時の周知技術である(甲第43号証ないし甲第45号証)。また、ガススプリングの向きを逆にしても、ガススプリング自体の力は同じであるから、どちらの向きにするかは、当業者が適宜選択する設計事項に過ぎず、何ら新たな作用効果を奏するものでもない。
したがって、構成Fに係る上記相違点は、実質的な相違点ではなく、また少なくとも課題解決のための具体化手段における微差である。
(請求人上申書(3)35頁18行〜最終行)

エ 整地体を跳ね上げるのに要する力について
a 各支点の位置関係と整地体を跳ね上げるのに要する力について
本件特許の図2と、甲第18号証の図24とを見比べれば明らかなとおり、3つの支点の位置関係は同じである。つまり、いずれにおいても同様に、「第1の支点」はシールドカバーの後端部に位置し、「第2の支点」は主フレームに突設された台座に位置し、「第3の支点」はエプロンに突設された台座に位置している。
また、本件特許の明細書の【0028】には、「アシスト機構が作用する場合には、エプロン角度0°近傍から、ほぼ線形に荷重が低減していく。そして、エプロン角度が約60°の点で荷重がゼロになる。つまり、作業者からみれば、だんだんと軽くなっていく。上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される。」と記載されている。
そして、“各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される”というのであれば、本件発明の各支点の位置関係と先願発明(甲第18号証記載の発明)の各支点の位置関係とは同じであるから、先願発明における荷重の傾向は、本件発明のそれと同じになるはずである。
そして、このような意味において、本件発明の構成Gは、甲第18号証の先願明細書に実質的に記載されているといえる。
したがって、本件特許の明細書の【0028】中の「各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される」という記載からみて、本件発明は先願発明と実質的に同一である
(請求人要領書(2)38頁8行〜39頁9行)

b 本件特許の図7のデータについて
本件特許の明細書や図面で開示された構成では本件特許の図7のデータが得られず、意見書(乙第1号証)での説明も理論的に何も意味をなしていない。
そして、本件特許の図7のグラフのデータが、被請求人が製造販売する最新の耕うん作業機のアシスト機構である「クイックアシスト」の試験データと取り違えたものであるならば、当該図7のグラフを根拠とする、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」との構成は、そもそも本件発明の構成ではなく、本件発明の特徴にはなり得ない。
そうすると、本件発明と先願発明とは、すべての構成において何ら差異がなく、実質的に同一である。
(請求人要領書(2)67頁1〜11行)

c 請求人上申書(3)における主張
無効理由1について説明した理由と同様の理由から、構成Gは当業者の技術常識の範囲内の事項である。それゆえ、構成Gは、当業者とって自明の事項であり、また先願明細書に記載されているに等しい事項である。
(請求人上申書(3)34頁3行〜22行)

オ 小括
したがって、本件発明は、甲18発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(審判請求書28頁下から4行、29頁9〜12行、請求人上申書(3)36頁下から2行〜最終行)

(4)無効理由4
ア 本件特許の図7のグラフについて

[本件特許の図7]

(ア)本件発明は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を備えるが、この構成は上記図7のグラフに基づくものである。
そして、その図7をみると、「アシスト無」のグラフは、約5°から約10°まで荷重が急激に上昇して、その後、約10°から約60°までの間、略450[N]の一定荷重となっている。
他方、「アシスト有」のグラフは、約4°から約60°までの間で、荷重が約250[N]から約0[N]まで大きく減少している。
それゆえ、このような図7のグラフの結果になるガススプリングは、エプロン角度の増加に伴う伸び動作に応じて、弾性力(付勢力)が徐々に増大するものでなければならない。
ところが、通常のガススプリングは、広範囲のストロークにわたって略一定の弾性力が得られるものであるから、図7のグラフの結果になるガススプリングは、特殊なものであると考えざるを得ない。
しかし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明をみても、通常のガススプリングの構成の記載しかなく、伸び動作に応じて弾性力が徐々に増大する特殊なガススプリングの構成についての記載はない。
このため、どのような構成のガススプリングを使用すれば、図7のグラフの結果になるのか、当業者であっても全く理解できず、本件発明の実施をすることができない。またそもそも、どのような方法で測定して図7のグラフの結果を得たのか不明である。
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていないものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
なお付言すると、本件特許の明細書の【0028】には、「・・・ガススプリング250は圧縮状態の力のほうが、伸長状態の力よりも大きいが、支点152が支点151に近づくにつれ、所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなるため、「てこの原理」により、逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)を奏する。」との記載があるが、「てこの原理」の支点・力点・作用点がどこであるかや、てこの種類等について何ら具体的に説明されていないため、なぜ、「てこの原理」によってガススプリングが逆の特性を奏することになるのか、当業者であっても理解することができない。
それゆえ、上述のとおり、図7のグラフの結果になるガススプリングは、伸び動作に応じて弾性力が徐々に増大する特殊なものであると考えざるを得ない。
(審判請求書30頁6行〜32頁6行)

イ 本件発明と検甲第1号証・甲第14号証・甲第18号証との違いについて
(ア)本件発明と支点等の位置が特に相違しない検甲第1号証・甲第14号証・甲第18号証のものとの間には「要する力」が減少する要件において実質的に差異はないから、支点の位置関係が同じものにおいて「要する力」が図7のグラフの如く急激に減少することはなく、本件特許の明細書や図面に開示された通常の押出し式のガススプリングを用いたアシスト機構では、本件特許の図7のグラフの結果(約250Nから約ゼロNへの急激な減少)を得られない。
したがって、どのような構成のガススプリング(特殊なガススプリング)を使用すれば、図7のグラフの結果になるのか、当業者であっても全く理解できず、本件発明の実施をすることができないから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない。
(請求人要領書(3)7頁1〜14行)

(イ)被請求人は、「ピストンロッドとシリンダーの径サイズの組み合わせ、及びストローク長、ガススプリングの全長の数値等を適宜選択することにより、ガススプリングの変化率を高く設定し、伸長時と圧縮時の反力の差が大きいガススプリングを用いることは容易である。」と主張している。
しかし、ガススプリングの変化率、つまり「シリンダー内に充填されたガスがピストンで圧縮されることによりガス反力が上昇する程度」は、35%や100%等の値に適宜設計できることは認めるが、シリンダー内に充填されたガスがピストンで圧縮されることによりガス反力が低下することは通常ではあり得ず、通常の押出し式のガススプリングでは不可能である。
すなわち、通常の押出し式のガススプリングは、伸び動作に応じてガス反力が低下するものであり、伸び動作に応じてガス反力が上昇することはない。
したがって、本件特許の図7のグラフのデータを得るためには、伸び動作に応じてガス反力が上昇するガススプリングが必要となるが、通常の押出し式のガススプリングではそれは不可能である。
よって、本件特許の明細書や図面に開示されたガススプリング(通常の押出し式のガススプリング)を含むアシスト機構を具備した作業機では、図7のグラフのデータを得ることができない。
なお、例えば甲第24号証に記載されたアシスト機構(FTE240のクイックアシスト)のように、リンクプレート41を有する構成であれば、通常の押出し式のガススプリングを用いたものであっても、本件特許の図7のグラフのデータを得ることが可能であるが、本件発明と構成を異にする製品において構成要件Gが実施可能であるとしても、本件発明において構成要件Gが実施可能ということにはならない。
(請求人要領書(3)8頁下から3行〜11頁7行)

ウ 乙第14号証の計算に用いたガススプリングについて
被請求人は、乙第14号証の第2頁の反発特性図の性能を有するガススプリングとしては、KYB株式会社の「KPFシリーズ」の品番「KPF130−70」の製品が該当する旨主張する。
「KPF130−70]は、乙第15号証の2(製品カタログ)によれば、Lmaxが「470(mm)」、Lminが「340(mm)」、ストロークが「130(mm)」、Faが「686(N)」、Gbが「926(N)」、重さが「541(g)」である。また、乙第14号証には、「KPF130−70を基にピストンロッドの断面積、充填するガス圧、その他内部オイル量や構成部品の組み合わせによりガス室の内圧変化を調整し、反発力の理論線を上記図のようにすることは容易なことです。」と記載されている。
しかしながら、確かにオリジナル仕様となるように多少の反発力の変更はあり得るが、「KPF130−70」の「Fa=686(N)」及び「Fb=926(N)」を、約2倍程度の「Fa=1275(N)」及び「Fb=1626(N)」に仕様変更することは、容易ではなく、不可能なレベルである。
上記仕様変更が不可能であることは、乙第15号証の1において、「選定上の注意」として「求められた反発力(F×1.1)がガススプリングの公称反発力(Fa)よりも大きい時は2本使用してください。」と記載されていることからも明らかである。
また、この点に関し、KYBエンジニアリングアンドサービス株式会社に確認したところ、「KPF130−70のカスタマイズではFa=1200N、Fb=1600Nは製作不可です。」(甲第41号証)との回答があり、この回答内容からも不可能であることが明らかである。
さらに、乙第15号証の1における「選定上の注意」中には、「KYBガススプリングの最縮長時の反発力(Fb)は公称反発力(Fa)の1.4倍になるように設計されています。」との記載もあり、上記反発特性図ではFb(1626)はFa(1275)の約1.27倍であり、反発力が大きなガススプリングとしては、通常あり得ない低値である。
(請求人上申書(2)12頁下から3行〜13頁末行)

エ 作業姿勢について
(ア)被請求人は、乙第13号証に基づき、構成Gにかかる「要する力」を測定する際の作業機の姿勢(作業機全体の傾き)について説明している。
しかしながら、乙第13号証の検証で使用した作業機は、「小橋工業株式会社製ロータリ作業機FTF201」であり、本件発明の実施品ではない。
そして、乙第13号証におけるFTF201は、乙第7号証におけるFTF181と同様、本件発明のアシスト機構とはその構成が全く異なる「クイックアシスト」を備えるものである。
したがって、本件発明の実施品ではないFTF201を用いた乙第13号証の検証は、本件特許の明細書と関連がなく、そもそも全く意味のないものである。
(請求人上申書(2)14頁14行〜15頁5行)

(イ)被請求人は、本件特許の明細書の【0002】に基づいて、「構成Gにかかる『要する力』は、作業者が、エプロンの耕うんロータ側に付着した土を掻き落としたり、耕うん爪を取り替えたりするためにエプロンを持ち上げた状態に保持する際の作業機の状態において測定するのが合理的である。」と主張する。
しかしながら、作業者が付着土の除去や耕うん爪の交換を行う際の作業機の状態(姿勢)は、例えばトラクタの種類や大きさ、付着土の付着量や土質、耕うん爪の種類や長さ、或いは、作業者の操作に基づく油圧による作業機の持上げ量(各作業者の好みによる任意の持上げ量)等によって大きく異なる。
よって、作業者が付着土の除去や耕うん爪の交換を行う際の作業機の状態(姿勢)は、一定ではなく、「要する力」の測定基準にはなり得ない。
「作業姿勢」は、本件特許の図2や図3に示された特定の1つの姿勢(前傾約3°)であるから、測定基準とすることに何ら問題はなく、平成30年10月30日の証拠調べ(検証)においても、この「作業姿勢」で行われた。
(請求人上申書(2)15頁下から5行〜16頁6行、16頁18〜21行)

(ウ)FTF201を用いた乙第13号証の第13頁には、検証結果として「前傾3.0°(耕うん姿勢)では、アシスト機構のロックを解除することができず、アシスト機構を作用させた状態でエプロンを持ち上げることができず、撮影できませんでした。」との記載がある。
しかし、FTF201の「クイックアシスト」は、本件発明の「アシスト機構」とはその構成が全く異なり、当然ながらロック装置も大きく異なっている。
(請求人上申書(2)16頁下から4行〜17頁3行)

(エ)被請求人は、「そして、乙第13号証について上述したとおり、作業者がエプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする際の作業機の状態は、エプロンを圃場に当接させて整地作業を行っている実際の耕うん作業時の状態ではなく、エプロンの後端部が圃場に当接しない位置まで持ち上げられた状態(前傾姿勢)であるのが通常である。」と主張する。
しかしながら、通常であることを示す証拠は存在せず、前記主張は証拠にも明細書にも基づかない主張であって何ら理由がない。本件特許の明細書の【0037】には、「・・・耕うん状態においてエプロンが下降した状態から、作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり・・・」との記載があり、耕うん状態においてエプロンが下降した状態でエプロンを跳ね上げる場合があることが本件特許の明細書に明記されており、図2にも耕うん状態(作業姿勢)の作業機が図示されている。
これに対し、被請求人が主張するような前傾姿勢の状態でエプロンを跳ね上げる場合があることについては、本件特許の明細書に何ら記載がない。
さらに、被請求人は、「図7のデータを測定した際の作業機の姿勢は、作業機をスタンドに装着した状態であって、前傾33°程度である」と主張しているが、本件特許の明細書に基づかない主張であって明らかに失当である。
(請求人上申書(2)22頁17行〜23頁10行)

オ 「第1の作業機」による検証について
被請求人は、新たな証拠として乙第17号証ないし乙第19号証を提出し、構成Gが実施可能であることを主張する。
しかしながら、乙第17号証ないし乙第19号証は、本件図7のグラフのデータを得た当時の作業機を再現して検証した結果を示すものではない。
今回もまた、被請求人は、自ら発明したアシスト機構であれば再現できるはずの当時の作業機、つまり本件図2の作業機を再現していない。
そして、被請求人は、これまでと同様に、当時の作業機とは支点位置が異なる無意味な「第1の作業機」の検証結果に基づいて、構成Gが実施可能であることを主張しているに過ぎない。
ここで、「第1の作業機」は、本件図2の作業機における第3の支点の位置を第1の支点を中心として「25°」も下方に移動させたものである。
このように支点位置が構成Gの要する力に関して重要な要素であることは、本件明細書の【0028】中の「つまり、作業者からみれば、だんだんと軽くなっていく。上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される。」との記載からも裏付けられる。
なお、本件明細書には開示がない「第1の作業機」なるものを持ち出して検証していることから、本件図2の作業機の各支点の位置関係では構成Gが実施不可能であることを被請求人自らが認めているといえる。
(弁駁書5頁2行〜7頁3行)

カ 図7のグラフを得た作業機の実機について
構成Gの根拠である図7のグラフを得た作業機(本件発明の実施品)が当時存在していたか否かについては、1次審決及び判決で判断されていないところ、図7のグラフを得た作業機が当時存在していたことを示す証拠は皆無であるから、図7のグラフを根拠とする構成Gは、その根拠がない。
よって、根拠がない架空の構成Gは、当業者であっても実施不可能であるから、本件特許は、1次審決とは異なる理由に基づく無効理由4を有する。
なお、被請求人は、請求人が提示した計算式を用いてシミュレーション(計算)しただけで、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたこと、特にその作業機のアシスト機構に設けられて図7のグラフを得ることができたという「フリーピストンタイプ」のガススプリングが当時存在していたことを何ら立証しておらず、実施可能要件の立証責任を放棄している。
(請求人回答書4頁8行〜21行)


第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張し(答弁書、被請求人要領書(1)ないし(3)、被請求人上申書(1)ないし(3)及び被請求人回答書参照。)、証拠方法として乙第1号証ないし乙第19号証(以下、乙各号証を「乙1」などと略すことがある。)を提出している。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:異議2016−700979号の平成29年6月26日
付け意見書、小橋工業株式会社
乙第2号証:異議2016−700979号の異議決定書、平成29年
10月19日、特許庁
乙第3号証:ガススプリングとは、[online]、日立オートモティブシス
テムズ&ナガノ株式会社、[2018年6月19日検索]、
インターネット<URL:http://hitachi-automotive-na.co.
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8月22日
乙第18号証:陳述書、小橋工業株式会社末平直土、令和1年
8月22日
乙第19号証:ガススプリング参考図、KYB株式会社伊藤
平成31年3月19日

3 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1
公然実施・公知の主張について
(ア)請求人は無効理由1として公知(29条1項1号)による新規性欠如及び公然実施29条1項2号)による新規性欠如を主張する。
しかし、審判請求書に記載の無効理由1の具体的な内容を見ると、実質的には、検甲第1号証に示す作業機が平成27年7月11日、12日、18日、19日に行われた展示会で展示されたことによる公然実施29条1項2号)の主張のみであり、その他に公知(29条1項1号)を基礎付ける事実の主張はされていない。
請求人は、上記展示会において、検甲第1号証のエプロンを実際に持ち上げるなどして本件特許発明の内容を認識した人物が存在したことについて具体的に主張立証してない。
請求人の展示ブースを撮影した写真(甲第7号証)を見ると、検甲第1号証と思われる作業機のエプロンの後方には、エプロンの幅と同じくらいの幅を有する大きな広告宣伝用のパネルが配置されているため、見学者が作業機のエプロンの後方に立って実際にエプロンを持ち上げることができない状態である。
また、上記展示会において被請求人の社員数人が請求人の展示ブースを訪れて検甲第1号証に示す作業機を見たことは認めるが、甲第8号証の3、甲第8号証の5に記載されているように、請求人の社員により作業機の写真撮影が禁止されていたため、被請求人の社員は、展示会において検甲第1号証の作業機の外観をその場で見ただけである。したがって、被請求人の社員は、上記展示会において検甲第1号証に示す作業機の写真を撮影したり、検甲第1号証に示す作業機に触ったりしていない。
以上のとおり、審判請求書には、展示会において、いずれかの人を媒体として、本件特許発明が不特定の者に公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況において実施されたことによる公知の主張は記載されていない。
無効理由1について、検甲第1号証に基づく公然実施29条1項2号)による新規性欠如の主張についてのみ反論を行う。
(答弁書4頁4〜11行、5頁8〜14行、5頁下から2行〜6頁9行)

(イ)甲第20号証の2頁には、「このレバーを持上げると・・・」「バネがキツくて持ち上がらない均平板がラクに持ち上がるようになる・・・みたいです。」と伝聞形式で記載されていることから、このレポートを作成した管理人自身は、自らエプロンアシスト機構のレバーを操作したり、自らエプロン(均平板)を持上げたりしていない可能性が高い。
また、甲第20号証の2頁中央の写真に写っている「手」が、誰の手であるか不明である。
同様に、甲第20号証の1頁にエプロンが跳ね上げられた状態の写真が掲載されており、同3頁にエプロンが下降した状態の写真が掲載されているが、これらの写真だけでは、展示会において誰がエプロンを上下に回動させる作業を行ったのかは不明である。
したがって、甲第20号証の写真や記事の内容から、請求人の展示ブースを訪れた者であれば誰でも検証物に触れることができたということはできない。
(被請求人要領書(1)5頁12行〜6頁5行)

(ウ)請求人従業員が、本件展示会において、アシスト機構内部の具体的な構造や、エプロンの持ち上げに要する力がエプロン角度の増加に伴ってどのように変化するかというような具体的な構造や機能について口頭で説明を行っていたことを示す証拠は存在しない。
請求人は「エプロンの持ち上げの実演は行われていた」と主張するが、それを裏付ける証拠は提出されていない。
他方で、検甲第1号証が「展示のみ」を許された展示品であったことは、甲第2号証の「備考」欄にて、展示会に出品する機械が「展示機」と「実演機」に区別されているところ、「グランドロータリ SKS2000−4S」については「展示のみでお願いします。」と明記されていること、請求人要領書4頁下から2行に「実演機ではなく」と明記されていること等から明らかである。
本件展示会における請求人従業員の説明について、例えば、甲第8号証の2には、請求人の従業員が来場者に対して検証物にかかる新製品について「積極的にPR」したこと、「均平板のワンタッチ跳ね上げ」に対する「評価が高」かったことは記載されているが、具体的に請求人の従業員が来場者に対して、どのようなPRを行ったのかは不明である。
(被請求人要領書(1)6頁下から4行〜7頁13行)

(エ)本件展示会に来場した見学者に対して、甲第14号証にかかるカタログが配布されていたとしても、甲第14号証に掲載されているアシスト機構の写真は、展示会で展示されていた製品とは左右方向の取付位置が異なる、試作機のアシスト機構の外観写真である。
さらに甲第14号証には「均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げることが可能になりました。」という文章が掲載されているに過ぎず、「ガススプリングを使用して」いることの他に、アシスト機構の具体的な内部構成や、アシスト機構を利用した場合にエプロン(均平板)の持ち上げに要する力がどのように変化するかについては何ら記載されていない。
したがって、請求人の担当社員が、本件展示会に来場した見学者に対して、何らかの口頭説明を行っていたとしても、その内容は、甲第14号証に記載されている程度の概略説明に過ぎない可能性が高い。
(被請求人要領書(1)8頁6行〜9頁2行)

(オ)一般的な展示会における常識を考慮すると、展示会において、検甲1号証に係るロータリ作業機のカタログである甲第14号証を見学者が入手可能な状態であったことは、一般論としては否定しないが、請求人は「請求人の担当社員は、検証物を積極的にPRすべく、見学者には検証物のカタログ(甲第14号証)を渡し、見学者から説明を求められれば、当該カタログに記載された検証物の特徴構成(例えばガススプリングを利用したアシスト機構の内部構成等を含む)を詳しく説明していた。」(請求人要領書(1)7頁8〜11行)と単に主張するのみで、請求人の担当社員が見学者に対してカタログを配布したことの証拠は何ら提出されていない。
したがって、一般論のみに基づいて、本件展示会において検甲第1号証に係るロータリ作業機のカタログである甲第14号証を見学者が入手可能であったと考えることはできない。
(被請求人要領書(2)6頁4〜13行)

イ 検甲1発明の認定の誤りについて
(ア)甲第2号証に記載されているように、検甲第1号証に示す作業機は、上記展示会において、「実演機」としてではなく、「展示のみ」を許された展示品として出展されたに過ぎない。したがって、上記展示会では、検甲第1号証に示す作業機を用いた耕耘作業などの実演は行われていないはずである。
また、検甲第1号証は「展示のみ」を許された展示品であることから、当然ながら、上記展示会において、請求人の展示ブースを訪れた不特定者が、検甲第1号証の作業機の部品を取り外すなどの分解調査を行い、検甲第1号証の作業機の内部構造を確認することは不可能である。
したがって、上記展示会において、検甲第1号証の作業機という「展示」品を介して、不特定の者に公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況において実施された内容は、検甲第1号証に示す作業機の外観を観察することによって不特定者が知り得た情報に限られる。
仮に、検甲第1号証に示す作業機が、実際に、請求人の主張する構成A〜Iを有していたとしても、請求人の主張する構成A〜Iは、検甲第1号証の作業機の外観からは認識することのできない内部構造や、実際に検甲第1号証の作業機の動作を検証したり機械的に計測したりしなければ認識することのできない構成を含んでいるため、上記展示会において請求人の展示ブースを訪れた不特定者が、展示されている検甲第1号証の作業機の外観を観察するだけで、請求人の主張する構成A〜Iの全てを認識することができたとはいえない。
(答弁書6頁下から4行〜7頁16行)

(イ)構成D、Eについて
検甲第1号証にかかる作業機が、上記展示会において展示されていた当時の状態は、検甲第1号証説明書の写真12のように、第1の筒状部材の端部にゴムキャップが取り付けてある状態であったと推察される。そうであれば、上記展示会において検甲第1号証の作業機が展示された展示ブースを訪れた不特定者が、検甲第1号証に示す作業機の外観を観察しただけでは、「ガススプリング」の存在を確認することはできない。
したがって、検甲1発明は、構成D、Eのうち、少なくとも、アシスト機構がガススプリングを含むという構成を有しない。
(答弁書8頁7〜下から4行)

(ウ)構成Fについて
検甲第1号の作業機が、検甲第1号証説明書の写真13、図1及び図2に記載された内部構造を備えているか否かは、検甲第1号証の作業機からアシスト機構を構成する部品を取り外し、かつ、取り出した部品を分解調査しなければ確認することのできない事項である。
そして、上記展示会において請求人の展示ブースを訪れた不特定者が、検甲第1号証の作業機からアシスト機構を取り外し、分解調査を行うことは不可能である。
また、仮に、当業者であれば、技術常識等を考慮して、検甲第1号証の作業機のアシスト機構の内部にガススプリングが用いられていることを推測することができたとしても、アシスト機構の具体的な内部構造を確認することができない以上、検甲第1号証説明書の写真13、図1及び図2に記載されているような、ガススプリングの具体的な構造や取付方向、第1の筒状部材及び第2の筒状部材とガススプリングとの具体的な接続状態等まで認識することは不可能である。
以上により、検甲第1号証の作業機の外観を観察するだけでは、アシスト機構の内部構造が分からない以上、検甲1発明は構成Fを有しない。
(答弁書9頁下から4行〜10頁9行、10頁下から7〜4行)

(エ)構成Gについて
仮に、当業者であれば、検甲第1号証の外観や技術常識等から、アシスト機構の内部にガススプリングが用いられていることを推測することが可能であったとしても、検甲第1号証の作業機の外観を観察しただけでは、検甲第1号証に示す作業機において、ガススプリングの作用によって、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するように設計されていることまで認識することは不可能である。
(答弁書10頁5〜10行)
平成30年10月30日に行った検証の結果も、少なくとも、「徐々に」減少することを示すものではなく、また、甲第13号証(報告書)における測定結果を再現するために行われた本件検証の結果として、甲第13号証とは異なる測定結果が出ていることから、本件検証の結果は、甲第13号証(報告書)による、「エプロンを跳ね上げるのに要する力がエプロン角度の増加に応じて徐々に減少することを確認することができた。」とする調査結果が正しいことを証明するものでもない。
(被請求人要領書(3)7頁15〜20行)

(オ)構成要件Hについて
仮に、当業者であれば、検甲第1号証の作業機の外観や技術常識等から、アシスト機構の内部にガススプリングが使われていることを推測することが可能であったとしても、アシスト機構の具体的な内部構造が分からない以上、構成Hについてまで認識することは不可能である。
(答弁書18頁下から10〜6行)

(カ)小括
検甲第1号証に示す作業機が、構成A〜Cを有することは、検甲第1号証説明書の写真から認めるが、検甲1発明は、少なくとも、構成D〜Hの全部または一部を有しないため、対応する本件特許発明の構成要件D〜Hの全部または一部を有しない。
したがって、検甲1発明は本件特許発明と同一ではない。
(答弁書22頁下から5〜4行、23頁下から3〜末行)

ウ 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化に係る構成が、実質的な相違点であること
検甲第1号証に係る作業機は、本件特許の原出願前に一般に販売されていた製品ではなく、展示会に展示された製品である。したがって、公然実施された発明としての検甲1発明は、展示品としての「外観」から認識し得る構成に限られるから、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化に係る構成を備えるものではない。
また、スタンド姿勢であれば、検甲第1号証における要する力(アシスト有りのFs)は、全範囲にわたって大幅に減少し」たという請求人の主張は、請求人が行った検証計算を根拠とするものであって、実測結果ではない。
請求人上申書(2)31頁の図1のグラフは、請求人が「機械的損失」として「15(%)」の調整を加えて作成したものであり、「機械的損失」を考慮する必要があるのか、請求人要領書(4)23頁の表4の計算では「10%」、同24頁の表4の計算では「12」%〜「41」%まで変動する数値による調整を加えていたのに、なぜ「15(%)」なのかについて請求人は何の根拠も提示しておらず、上記グラフは、正しい測定結果を示すものではない。
仮に、請求人による上記計算が正しい測定結果を示すものであったとしても、公然実施された発明としての検甲1発明は、展示品としての「外観」から認識し得る構成に限られる。
検甲第1号証に係る作業機が、展示会において、スタンド姿勢で展示されていたとしても、その状態で、アシスト機構を利用して作業機のエプロンを持ち上げた見学者が存在したという事実を示す証拠は提出されていないし、仮に、アシスト機構を利用して持ち上げた見学者が存在したとしても、見学者が自己の五感の作用によって「エプロンを跳ね上げるに要する力」の変化を認識することができたか否か不明である。
(被請求人上申書(3)21頁3〜末行、22頁20行〜23頁7行)

エ 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化に関する構成に関し、本件明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすことに依拠した、請求人の主張について
(ア)請求人は、「本件特許の原出願前の展示会において、検甲1発明に係る作業機の構造・・・を参照した当業者は、力学的な技術常識から、構成Gの理論的説明を認識できる」、「そして、その検甲1発明に係る作業機の構造を参照した当業者は、構成Gの理論的説明における計算式を用いてシミュレーションして、構成Gを導き出すことができる」と主張している(上申書(3)15頁下6行〜末行)。
しかしながら、検甲1発明が構成Gを備えているという請求人の主張(上申書(3)16頁7〜8行)は事実と異なる。また、発明内容が明確に掲げられたうえで明細書の発明の詳細な説明の記載を読むに当たって「技術常識」を参酌して理論的に実施可能であると認識する場合の技術常識」と、相違点を埋めるために用いられる技術常識」とは同じではない。前者はすでに発明が与えられている場面で問題になるのに対して、後者はいまだ発明が与えられていない場面で問題になるからである。
(イ)請求人は、「本件発明に係る作業機と同一構造をした検甲1発明に係る作業機(検甲第1号証)を参照した当業者は、過度な試行錯誤を要することなく、力学的な技術常識から構成Gの理論的説明を認識して計算式を用いてシミュレーションすることにより、何ら困難なく構成Gを導き出すことができる」と主張している(上申書(3)17頁4〜7行)。
しかしながら、構成Gがあらかじめ与えられている前提で、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を読むことで、過度な試行錯誤を要することなく、構成Gを実現できるということと、構成Gが与えられていない前提で、本件明細書の発明の詳細な説明の記載も読むことなく、突如として構成Gに至るということは全く別である。
(ウ)請求人は、「検甲1発明は、作業機全体が地上に引き上げられた状態で構成Gを備える」(上申書(3)18頁下2行〜末行)という。
しかしながら、検甲1発明は、請求人により公然実施発明だと主張されている発明である。そうであれば、検甲1号証に係る作業機そのものとは別であり、夏季展示会で見学者から認識可能であった発明に限られる。
したがって、上記請求人の主張は、検甲1号証に係る作業機と検甲1発明とを混同する主張であり、誤りである。検甲1発明は、作業機全体が地上に引き上げられた状態で構成Gを備えるとまではいえない。
さらに、請求人は、「検甲1発明に係る作業機はスタンド姿勢で展示されていたから、力学的な技術常識を持った当業者であれば、エプロンの重心位置と第1の支点との位置関係を勘案して、検甲1発明がスタンド姿勢で構成Gを備えるものであると認識する」と主張する(上申書(3)19頁1〜5行)。また「裁判所の判断○1に従うと、多くの当業者は構成Gの理論的説明を技術常識から認識可能であったことになるから、前審決がいう「相違点1」は存在し得ない」と主張する(同20頁11〜13行)。
しかしながら、構成Gを備えない検甲1発明のみに接した当業者は、構成Gを備えるという本件発明にはいまだ至っていない。本件特許の公開日以前は本件明細書も参考にすることはできない。このような状況では力学的な技術常識を利用する可能性もなく、重心や支点との位置関係を勘案する可能性もない。
したがって、当業者は検甲1発明がスタンド姿勢で構成Gを備えるものであると認識しない。「相違点1」は厳として存在する。
さらに、請求人は、「甲第20号証のブログの記事内容からみて、展示会で検甲1発明に係る作業機のアシスト機構を体感した見学者が居たことは明らかである」と主張する(上申書(3)20頁4〜6行)。
しかしながら、甲第20号証をいくら精査しても検甲1発明に係る作業機のアシスト機構を体感した見学者の存在は確認されない。むしろ甲第20号証の2/9ページの「バネがキツくて持ち上がらない均平板がラクに持ち上がるようになる・・・みたいです。」という伝聞表現から、見学者が実際に作業機のアシスト機構を体感していないことが認定できる。前掲した「これまで提出された証拠を参照しても、該作業機のアシスト機構が体感可能であったとは認められない。」という前審決の認定は妥当であるし、前審決の後になんら新たな証拠が提出されていない以上、異なった認定に至る可能性はない。
したがって、展示会で検甲1発明に係る作業機のアシスト機構を体感した見学者がいたということはできない。
さらに、請求人は、「裁判所は、・・・構成Gの理論的説明(計算式を含む)は当業者の力学的な技術常識であると判断した」「よって、特許庁は、その判断に拘束されるから、・・・構成Gを・・・「相違点1」であると認定することは許されない」と主張する(20頁17〜21行)。
しかしながら、裁判所が判断したのは本件明細書から構成Gが理論上実現可能であると認識できることである。したがって、審決と判決の事実上の整合性という観点からも「相違点1」を認定することは全く問題がない。
最後に、請求人は、「裁判所の判断○3○4に従えば、構成Gの範囲は広範囲となり、当業者は力学的な技術常識に基づいてごく当然に構成Gに想到し得る」と主張している(上申書(3)21頁15〜16行)。
しかしながら、本件判決が「広範」な要旨認定をしたわけではなく、本件明細書に記載された具体的構造の特定の構成の装置において、前傾の傾きが17.41°〜34.8°の範囲で構成Gが実現されることで「構成要件Gは実施可能であると認められる」(本件判決39頁末行〜40頁1行)と判断しただけである。
(エ)請求人は、裁判所は、「構成Gの要する力は、アシスト機構がない場合に比べて、とにかく減少すればよく、よって、エプロン角度の増加に伴って、「徐々に減少するか」、「略一定であるか」、「徐々に増加するか」は、本件発明において重要なことではないと判断した」などと主張する(上申書(3)22頁7〜10行)。
しかしながら、本件判決はそのようなことは述べておらず、これは請求人の曲解である。請求人は、この曲解を前提にして、「「徐々に減少する」といった構成Gは、何ら技術的意義を有しない」(上申書(3)24頁8行)、「したがって、検甲1発明は、構成Gを備えたものであって、本件発明と同様、究極的にはエプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であるという問題を解決したものである」(上申書(3)25頁12〜14行)というが、全て誤りである。請求人のこのような主張は、構成Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成をことさらに無視するものである。
(オ)請求人は、裁判所が「本件発明における第2の支点及び第3の支点の位置は、図2に示された支点位置と同じである必要はないと判断した」と述べこれを批判し、この判断を前提にすれば、「構成Gの範囲はより一層広範囲となるから、構成Gが当業者にとって容易想到であることはますます明白である」と主張する(上申書(3)26頁下4行〜下2行)。
しかしながら、本件判決はなにも「広範」な要旨認定をしたわけではない。しかも、「本件発明における第2の支点及び第3の支点の位置は、図2に示された支点位置と同じである必要はないと判断した」からといって、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成Gの要旨認定に影響が及ぶはずがない。
(カ)請求人は、被請求人が「エプロン角度が増加するにつれてアシストカが徐々に減少する構造も、ほぼ一定の構造も、本件発明のように徐々に増加する構造も適宜設計することができる」と述べた(本件判決55頁14〜16行)ことをもって、構成Gは「当業者にとって容易想到である」と主張している(上申書(3)28頁下3行〜下2行)。
しかしながら、ここでも、請求人は「適宜設計することができる」という表現の意味が、実施可能要件の判断の枠内の議論と、容易想到性の議論とで異なることを意図的に混同している。
(キ)よって、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化に関する構成について、本件明細書の発明の実施可能要件を満たすとした裁判所の判断に依拠した、請求人主張の主張は、誤りである。
(被請求人回答書8頁8行〜15頁4行)

オ 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化に関する、追加の先行技術文献について
請求人は、甲第48号証や甲第49号証に「エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリング」を備えた作業機が記載されているとして、これら作業機を前傾させれば、「エプロンの重心位置と第1の支点との位置関係からみて、従来の作業機における要する力が、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少することになると認識する」と主張し(上申書(3)32頁3〜5行)、「本件発明の構成Gは、出願時の周知技術・・・である」と主張している(同8〜9行)。
しかしながら、甲第48号証や甲第49号証には「エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリング」は記載されているものの、ガススプリングの力学的特性が明らかではないうえ、エプロンの重心位置も明らかではなく、「要する力は、エプロン角度の増加に従って徐々に減少する」などとは到底いえない。しかも、甲第48号証や甲第49号証に記載されている事項からは導けず、容易に読み取ることもできない事項が、周知技術であるとも考えがたい。
さらに、請求人は「甲第29号証や甲第30号証にも、作業者の操作力が持ち上げによる角度増加に伴って徐々に減少することが開示されている」という(上申書(3)32頁11〜12行)が、甲第29号証や甲第30号証は作業機とは異なった分野(建機のエンジンフードや自動車のドア)の例であるところ、これら技術を検甲1発明に適用すべきであるという動機付けにかかる具体的な説明がなされていないうえ、甲第29号証の図12や甲第30号証の図8には、「作業者の操作力が持ち上げによる角度増加に伴って徐々に減少すること」は開示されていない。
さらに、請求人は「判決の別紙図4中のアシスト無しのグラフも、僅かではあるが、徐々に減少している」と主張する(上申書(3)32頁下2行〜末行)が、アシスト無しでは本件発明とは無関係であるし、この程度の僅かな減少は、構成要件Gの「徐々に減少」とは一般的な作業者が感じることができる程度でなければならないと要旨認定した本件判決からはほとんど意味のない減少である。
したがって、かかる請求人主張は誤りである。
(被請求人回答書15頁7行〜16頁9行)

カ 本件訂正後の構成Fについて
請求人は、構成Fについて、「農作業機に用いるガススプリングに関し、必要に応じてその向きを逆にすることは、出願時の周知技術・・・に過ぎない」と主張する(上申書(3)33頁12〜14行)。
しかしながら、請求人が挙げる甲第43号証にはそもそもアシスト機構に用いられているガススプリングは記載されていない。請求人が挙げる甲第44号証にはエプロンの跳ね上げをアシストするガススプリングは記載されていない。請求人が挙げる甲第45号証はガススプリングで後部カバーを設置方向に付勢するものでありやはり跳ね上げアシストではない。したがって、エプロンの跳ね上げをアシストするガススプリングにおいて向きを逆にすることは周知技術ではない。
加えて、本件明細書の段落【0029】には「ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置することによって内部のオイルがピストン側に移動し、窒素ガスの漏洩を防止する」という、どの引例にも記載されていない、構成Fに伴う顕著な作用が記載されており、さらに、【0036】には「ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する」という、どの引例にも記載されていない、構成Fに伴う顕著な効果が記載されている。
よって、構成Fは容易想到ではない。
(被請求人回答書16頁11行〜17頁5行)

(2)無効理由2
ア 甲14発明の認定の誤りについて
甲第14号証には、「均平板らくらくアシスト」の説明文として、「ガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げることが可能になりました。」と記載されている。
しかし、甲第14号証に記載された「ガススプリング」に関する記載は上記した点のみであり、その他に「ガススプリング」自体の写真や図も記載されていない。
また、請求人は、甲14発明は、構成F’として「前記第1の筒状部材には前記第2の支点が接続され、前記第2の筒状部材には前記ガススプリングがピンによって接続され」という構成を有すると主張する。
しかし、甲第14号証の写真には、「ガススプリング」自体は写っていないため、「ガススプリング」を利用しているとしても、どの部材にどのように「ガススプリング」が接続されているかは不明である。
よって、甲第14号証の写真から、「前記第2の筒状部材には前記ガススプリングがピンによって接続され」という構成を読み取ることはできない。
同様に、甲第14号証には、構成Hについて、均平板が下降した地点においてガススプリングが収縮していることを示すような記載は存在しない。
また、構成Gの「第1の突部」及び「第2の突部」に関する構成についても、甲第14号証の写真だけでは、請求人が「第1の突部」や「第2の突部」であると主張する部分が突出しているか否か、突出しているとしても、どの部材に突設されているかを読み取ることはできない。
さらに、甲第14号証には、「均平板らくらくアシスト」を用いる際に、作業機の各部位の相対的な位置関係がどのように変化するかについて何ら記載されていないため、「第2の支点」と「第3の支点」との距離がどのように変化するかについて記載されていない。したがって、甲第14号証には構成D及び構成Gに関する記載も存在しない。
また、甲第14号証には、「第1の筒状部材」と「第2の筒状部材」は写っているが、「均平板らくらくアシスト」を用いる際に、「第1の筒状部材」と「第2の筒状部材」の相対的な位置関係がどのように変化するかについて何ら記載されていないため、構成Eの「前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸状で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材」という構成についても記載されていない。
したがって、甲第14号証には、少なくとも、構成D、E、F’、G、Hは記載されていない。
(答弁書25頁1行〜26頁12行、26頁下から3〜2行)

イ 相違点について
請求人は、構成F’に関する相違点について、「甲14発明のアシスト機構(ガススプリングを含む構成のもの)において、ガススプリングを利用してエプロンの持ち上げをアシストするために、そのガススプリングのうち、その一端側を第1の筒状部材に接続しかつその他端側を第2の筒状部材に接続する必要があることは、当業者であれば当然に想起し得る事項である」と主張する。
しかし、甲第14号証には、ガススプリングを利用してエプロンの持ち上げをアシストすることは記載されているが、そのための具体的構成や、実際にエプロンの持ち上げをアシストする際の部材の動きなどについては何ら開示されていない。
例えば、甲第14号証に記載された写真から、第1の筒状部材と第2の筒状部材が存在することは認められるが、これらの筒状部材が相互にどのように接続されているか、エプロンの持ち上げアシスト動作を行う際に、各筒状部材の相対的な位置関係がどのように変化するかについては何も記載されていない。
したがって、甲第14号証の記載だけでは、当業者であっても、ガススプリングの具体的な接続状態を読み取ることはできない。
以上により、本件特許発明は甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(答弁書27頁3〜下から7行)

(3)無効理由3
ア 請求人の主張する無効理由3は、本件特許に対する請求人による特許異議申立事件(異議2016−700979)において、請求人が特許異議申立人として主張した「取消理由1」と実質的に同じである(乙第1号証、乙第2号証)。
請求人は、甲第18号証には、構成Gの「整地体4をはね上げるのに要する力は、整地体角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する旨の明示的な記載はないが、甲第18号証に記載された各支点の相対的な位置関係からみて、甲第18号証には上記構成が実質的に記載されていると主張する。
しかし、上記特許異議申立事件に対する異議決定において判断されているとおり、本件発明は「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するのに対し、先願発明である甲18発明はそのような構成が特定されていない点で相違する(乙第2号証13頁(相違点1))。
また、上記相違点1について検討すると、甲第18号証には「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「徐々に減少」するとは明記されておらず、また、甲第18号証の記載から見て、自明の事項あるいは記載されているに等しい事項とまではいえない(乙第2号証13頁 (4)判断 ア)。
また、各支点の位置関係についても、ガススプリングの反発力をどの程度に設定するか、エプロンを跳ね上げる際にガススプリングがどの範囲で伸縮するようにするか、ガススプリングのエプロンに対する取付角度をどの程度にするか、などの他の要因によっても大きな影響を受けるため、検甲第1号証の作業機の支点の相対的な位置関係が近似しているのみでは、検甲1発明において「エプロンを跳ね上げるのに要する力」がエプロン角度の増加に応じて「徐々に減少」するとは限らない(乙第2号証14〜15頁 (4)判断 イ)。
(答弁書27頁下から3行〜29頁1行)

イ 請求人は、本件発明と甲18発明との相違点である構成Gと構成Fについてそれぞれ「自明の事項」(上申書(3)34頁17行)、「実質的な相違点ではな」い(同35頁下2行)と主張する。
しかしながら、構成G及び構成Fにかかる相違点が存在することは前審決の認定・判断するところであり、なんら疑いがない。そして、本件判決の拘束力はこの点とは無関係であるし、事実上の整合性という観点からも本件判決は前審決の認定・判断になんの影響を与えないことは上述したとおりである。
無効理由3にかかる請求人の主張は誤りである。
(被請求人回答書17頁7行〜16行)

(4)無効理由4
ア 本件発明と検甲第1号証・甲第14号証・甲第18号証との違いについて
本件明細書【0028】に記載された「てこの原理」とは、第1の支点(支点140)を「支点」とし、ガススプリングの力が及ぼされる第3の支点を「力点」とし、エプロンの重心位置を「作用点」として、ガススプリングの力によってエプロンの持ち上げをアシストする力(アシスト機構が作用する力、すなわち「アシスト力」)を得るための論理である。
そして、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという論理を、「てこの原理」で言い換えると、エプロン角度が増加するにつれて、「てこの原理」の作用点(エプロンの重心位置)において得られる「アシスト力」が徐々に増加するという論理をいう。
また、本件発明においてエプロン角度が増加するにつれて「アシスト力」が徐々に増加する論理は、被請求人要領書(1)21頁16行〜24行で説明したとおり、「エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力(F)は小さくなる(F1>F2)が、その差は小さいのに対して、エプロン角度が増加するにつれて、sinθの値が増加(sinθ1<sinθ2)する割合のほうが大きい」ので、「てこの原理」の作用点(エプロンの重心位置)において、エプロンを持上げる方向に作用する力(アシスト力)は、エプロン角度が増加するにつれて大きくなる(F1sinθ1<F2sinθ2)という点にある。
このように、「てこの原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力(F)が、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少するにもかかわらず、「てこの原理」における「作用点」において得られるアシスト力は、エプロン角度の増加に伴って徐々に増加するということを、本件明細書では「「てこの原理」により、逆の特定(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)を奏する。」(【0028】)と表現している。
(被請求人要領書(2)6頁下から8行〜10頁13行)

イ エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少するという構成が実現可能であること
(ア)乙第13号証〜乙第15号証に基づく説明
乙第13号証〜乙第15号証に基づき、本件特許発明に係るアシスト機構を備える作業機を前提として、通常のガススプリングを用いた場合、どのような要素を調整すれば構成Gを実現することができるのかについて説明する。
乙第13号証は、作業者がエプロンの耕耘ロータ側に付着した土を掻き落としたり、耕うん爪を取り替えたりするためにエプロンを持ちあげた状態に保持する際の作業機の状態が、どのような姿勢であるかを検証したことを内容とする陳述書である。
乙第14号証は、本件特許発明にかかるアシスト機構を備える作業機を前提として、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少するという構成Gが実現可能であることを検証したことを内容とする陳述書である。
乙第15号証の1は、ガススプリングを販売するKYB株式会社のホームページであり、乙第15号証の2は、乙第15号証の1第2頁「製品詳細のダウンロード」「詳細2」のリンク先のカタログである。
(被請求人上申書(2)9頁8〜下から2行)

(イ)ガススプリングについて
本件特許発明にかかるアシスト機構を用いて構成Gを実現するためには、特殊なガススプリングを使用する必要はなく、「伸び動作に応じてガス反力が上昇する右上がりのグラフを描くガススプリング」を使用する必要はない。
乙第14号証の計算に用いたガススプリングは、市場で入手可能な性能(乙第15号証の1、乙第15号証の2)を有する通常の押出し式のガススプリングである。
市場において入手可能なガススプリングとしては、例えば、KYB株式会社の「KPFシリーズ」の品番「KPF130−70」の製品が該当する。
(被請求人上申書(2)10頁4行〜11頁9行)

(ウ)作業機の姿勢について
乙第13号証に基づき、構成Gに係る「要する力」を測定する際の作業機の姿勢(作業機全体の傾き)について説明する。
本件特許明細書には、「エプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合には、エプロンを跳ね上げた状態に保持する。」(段落【0002】)と記載されている。
したがって、構成Gにかかる「要する力」は、作業者がエプロンの耕耘ロータ側に付着した土を掻き落としたり、耕うん爪を取り替えたりするためにエプロンを持ち上げた状態に保持する際の作業機の状態において測定するのが合理的である。
乙第13号証では、1.前傾3.0°(耕うん姿勢)、2.前傾18.0°(トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢)、3.前傾23.0°(トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢)、4.前傾26.3°(トラクタ油圧機構で作業機を最も上まで持ち上げ調整した姿勢)、5.前傾34.8°(スタンド姿勢)の状態で、エプロンを最も下降した状態(エプロン角度0°)から、エプロンを持ち上げた状態に保持するためのロックが掛かる状態(エプロン角度67.4°)まで、アシスト機構を用いて持ち上げる様子、エプロンを持ち上げた状態に保持して耕うんロータ側に付着した土を掻き落とすために洗車を行う様子、及びエプロンを持ち上げた状態に保持して耕うん爪を取り換える様子を撮影した。
その結果、1.ではエプロンを最下状態にすることができないため、ロック機構を解除してアシスト機構を作用させた状態でエプロンを持ち上げることはできなかった。
他方で、スタンド姿勢を含む2.〜5.の状態では、エプロンを最下げ位置まで押し下げた状態でロック機構を解除し、アシスト機構を用いてエプロンを持ち上げることは可能である。
以上により、前傾18.0°〜前傾34.8°の範囲内であれば、作業者がエプロンの耕うんロータ側に付着した土を掻き落としたり、耕うん爪を取り替えたりするためにエプロンを持ち上げた状態に保持する際の作業機の姿勢(作業機全体の傾き)として無理のない姿勢であるといえる。」
(被請求人上申書(2)11頁下から5行〜12頁下から4行、13頁下から2行〜14頁6行)

(エ)構成Gを備える作業機(第1の作業機)について
乙第14号証では、エプロンを持ち上げる際の作業機の角度として、(1)入力軸が水平より33°前傾した状態(この状態は、圃場で耕うん作業を行う際の作業姿勢(入力軸が水平より3°前傾した状態)から30°前傾した状態であり、作業機をスタンドに装着した状態に相当する。以下、この姿勢を「第1の姿勢」という。)と、(2)作業機をトラクタに接続した状態で、作業機をほ場に当接しないようにやや持ち上げた状態として、入力軸が水平より18°前傾した状態(作業姿勢から15°前傾した状態。以下、この姿勢を「第2の姿勢」という。)において、要する力の変化を計算した。
構成Gを実現することができる作業機の構成は、例えば、本件特許明細書の図2に記載された作業機の第1の支点、第2の支点及び第3の支点の相対的な位置関係を調整することにより実現することができる。
例えば、第1の作業機は、第3の支点152の位置を、第1の支点140を中心として25°下方に移動させたものである。
また、要する力の計算は、請求人が行った計算方法と同じ方法で行った。
第1の作業機は、第1の姿勢においても、第2の姿勢においても、要する力は徐々に減少する。
(被請求人上申書(2)14頁下から7行〜16頁2行)

(オ)構成Gを備えない作業機(第2の作業機)について
比較として、第3の支点152の位置を、第1の支点140を中心として50°上方に移動させ、支点間距離を142.7mm〜130mmに若干短くし、第2の支点151の位置を、フレームパイプを中心に130°下方に移動させた作業機(第2の作業機)についても、エプロンの持ち上げに要する力の変化について、第1の作業機と同様の計算を行った。
第2の作業機では、第1の姿勢においても、第2の姿勢においても、要する力は徐々に増加する。
このように、支点の位置関係を変化させることにより、要する力の変化傾向が構成Gに該当しないように調整することも可能である。
ただし、構成Gを実現する際に調整可能な要素は支点の位置関係のみに限られない。その他にも、例えば、ガススプリングのガス反力の変化率を変更したり、エプロンの重心位置を変更したり、エプロンの重さを変更したり、これらの諸要素のうち複数を組み合わせて変更したりすることによって、要する力の変化を示すグラフの傾きや値を調整することも可能である。
(被請求人上申書(2)16頁4行〜下から7行)

ウ 本件特許明細書に基づく説明
本件発明において、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少するという構成Gを実現するためのしくみについては、明細書【0028】等の記載に基づいて既に説明を行っているが、「てこの原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力(F)が、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少するにもかかわらず、「てこの原理」における「作用点」において得られるアシスト力は、エプロン角度の増加に伴って徐々に増加するということを、本件明細書では「「てこの原理」により、逆の特定(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)を奏する。」(【0028】)と表現している。
(被請求人上申書(2)17頁4行〜18頁5行)
上記のしくみに基づいて、本件発明に係る「要する力が徐々に減少する」という構成を実現するためには、エプロン角度が増加するにつれて、エプロンを持ち上げる方向に作用する力(アシスト力)が大きくなる(F1sinθ1<F2sinθ2)ようにすればよい。
具体的には、(1)エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力(F)は小さくなる(F1>F2)が、その減少量の小さいガススプリングを使用し、かつ、(2)エプロン角度が増加するにつれて、sinθの値は増加(sinθ1<sinθ2)するが、その増加量が大きいため、F1sinθ1<F2sinθ2という関係が成立するように支点の位置関係を設定してガススプリングの取付け角度を調整すればよい。
(被請求人上申書(2)18頁8〜18行)

エ スタンド自立状態で要する力を測定することについて
(ア)本件特許明細書の記載について
本件特許明細書では、要する力の変化を測定する際の作業機の姿勢は特に限定されていない。
本件特許明細書に記載されている「耕うん時」とは、「エプロンが下降した状態」(ロック機構153によりアシスト機構が作用しないようにロックされた状態)をいうと解するのが合理的である。このことは、例えば、段落【0036】の「エプロンが下降した状態(すなわち、耕うん時の状態である。」との記載、段落【0026】の「このロック機構153はエプロン130が下降した状態において、支点151と支点152との距離を縮める方向の力を作用させないようにする。この結果、耕うん時にアシスト機構141が働いてエプロンが跳ね上がらない。」との記載、段落【0021】の「このロック機構153はエプロン130が下降した状態(図2)において、支点151と支点152との距離を縮める方向の力を作用させないようにする。」との記載からである。
また、段落【0002】には、「エプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合には、エプロンを跳ね上げた状態に保持する。」と記載されていることから、本発明におけるエプロンの跳ね上げ動作は、作業者がエプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り換えたりする際の作業機の状態が想定されている。
そして、乙第13号証について上述したとおり、作業者がエプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする際の作業機の状態は、エプロンを圃場に当接させて整地作業を行っている実際の耕うん作業時の状態ではなく、エプロンの後端部が圃場に当接しない位置まで持ち上げられた状態(前傾姿勢)であるのが通常である。
(被請求人上申書(2)24頁2行〜25頁11行)

(イ)甲第13号証に記載された方法で検証を行うことに異議を述べなかった理由
要する力の測定を行う検証の目的は、検甲第1号証にかかる作業機が、本件発明の構成Gを備えているか否かを確認することにあると理解していた。
図7のデータを測定したときと全く同一の測定方法によらなければ、検甲第1号証に係る作業機が「要する力が徐々に減少し」という構成Gを備えているか否かを確認することができないというわけではない。
少なくとも、被請求人が甲第13号証の報告書を読んだ段階では、甲第13号証に記載された測定方法も一応合理的であると思われたため、測定方法について特に異議を述べなかったに過ぎない。
(被請求人上申書(2)26頁3〜12行)

オ 本件特許の図7のデータについて
出願時において本件発明の実施品が存在しなかったという主張であれば、物の発明については、その物が現実に製造されあるいはその物を製造するための最終的な製作図面が作成されていることまでは必ずしも必要でなく、その物の具体的構成が設計図面によって示され、当該技術分野における通常の知識を有する者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しその物を製造することが可能な状態になっていれば、発明としては完成しているというべきである(最高裁判所第二小法廷判決1986年10月3日、昭和61年(オ)第454号「ウォーキングビーム式加熱炉事件」)から、物の発明の完成について現に実施品が存在することは不要である。
また、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成は、ガススプリングの取り付け角度、ガススプリングのガス反力の程度、使用するガスストロークの範囲、ガススプリングの動力をアシスト力としてエプロンに伝達するためのリンク機構の構成などの要件を適宜調整することにより実現可能である。
(被請求人要領書(3)31頁6〜下から3行)

カ 本件特許明細書段落【0028】の記載について
審決予告には、本件特許明細書段落【0028】には、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」することが十分に説明されていないと記載されている。
しかし、段落【0028】に記載された「てこの原理」や「逆の特性」を奏するしくみについて、以下のとおり十分に理解することが可能である。
まず、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(アシスト操作力)は、「エプロン荷重」から、ガススプリングの力によってエプロンの持ち上げをアシストする力(アシスト機構が作用する力、すなわち「アシスト力」)を引いた差分である。
エプロン角度が増加するにつれて「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(アシスト操作力)が「徐々に減少」するということは、エプロン角度が増加するにつれて、「アシスト力」が徐々に増加することを意味する。
「てこの原理」とは、第1の支点(支点140)を「支点」とし、ガススプリングの力が及ぼされる第3の支点を「力点」とし、エプロンの重心位置を「作用点」として、ガススプリングの力によってエプロンの持ち上げをアシストする力(アシスト機構が作用する力、すなわち「アシスト力」)を得るしくみを説明する記載である。
また、「てこの原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力(F)が、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少するにもかかわらず、「てこの原理」の「作用点」において得られるアシスト力は、エプロン角度の増加に伴って徐々に増加するということを、本件特許明細書では、「逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)」(段落【0028】)と表現している。
このような「逆の特性」を奏するしくみについては、段落【0028】には、「上記説明したガススプリング250は圧縮状態の力のほうが、伸長状態の力よりも大きいが、支点152が支点151に近づくにつれ、所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなるため」と記載されている。
段落【0028】の「支点152が支点151に近づくにつれ、所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなる」という記載は、エプロン角度が、第1の支点を中心として回動する第3の支点の軌跡(力点の回転軌跡)と、第2の支点を通る直線との接線位置に近くなるほど、所定のエプロン角度に対する第3の支点の移動量が大きくなることを意味している。
そして、エプロン角度の増加に伴い、θが90°に近づくと、sinθの値が増加する(sinθ1<sinθ2)ため、「てこの原理」によって得られる力(アシスト力)がより大きくなる。すなわち、エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力は小さくなる(F1>F2)が、その差は小さいのに対し、エプロン角度が増加するにつれて、sinθの値が増加する割合の方が大きいため、得られる力(アシスト力)は、エプロン角度が増加するにつれて大きくなる(F1sinθ1<F2sinθ2)という「逆の特性」を奏するのである。
これらの説明は、被請求人が一貫して主張してきたものであり、本件特許明細書の段落【0028】の記載に接した当業者であれば、上記「逆の特性」を奏するしくみを理解することができる。
このように、エプロン角度の増加に伴い、ガススプリング自体の力は減少するが、結果として得られるアシスト力が増加するという力学的な相互関係を理解した当業者が、本件特許明細書の【図7】に記載されている「アシスト操作力」(エプロンを跳ね上げる力)の変化を示すグラフに接することにより、【図7】に記載されているような結果が得られるように、ガススプリングの反力の値、ガススプリングのストローク範囲、ガススプリングのエプロンに対する取付角度、第1〜第3の支点の位置関係等のアシスト力の変化傾向に影響する諸要素を調整して、結果として得られるアシスト力が徐々に増加する(したがってアシスト操作力は徐々に減少する)ように、力学的なシミュレーションを行うなどして、本件特許明細書の【図7】に示すような「エプロンを跳ね上げる力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成を実現することができる。
したがって、本件特許明細書の段落【0028】、【図7】等の記載は、「エプロンを跳ね上げる力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成を十分に説明するものである。
(被請求人上申書(3)12頁5行〜16頁13行)

キ 乙第18号証の検証結果について
乙第18号証の計算に用いた作業機及びガススプリングを含むアシスト機構の構造は、乙第14号証で説明した「第1の作業機」と同じである。
乙第18号証による検証の結果、耕うん姿勢(入力軸が前傾3°)の状態において、アシスト機構を用いてエプロンを持ち上げる場合に、エプロン角度が持ち上げ前の34.9°から60°まで増加するに伴い、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が徐々に減少することが判明した(乙18の6頁中央の図 緑色のグラフ(作業姿勢(前傾3°))。当審注:後記「第6」の「1(17)に掲載)。
また、乙第18号証の計算結果により、同じ緑色のグラフ(作業姿勢(前傾3°))では、エプロン角度0°から60°までのすべての範囲において、エプロン角度が増加するに伴い、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が徐々に減少することが判明した。
以上により、「耕うん作業時の作業機の傾き」のとき、すなわり、入力軸が水平より3°前傾した状態であっても、本件発明の「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するように作用するアシスト機構は実現可能である。
(被請求人上申書(3)6頁末行〜7頁2行、8頁9行〜9頁4行、9頁12〜16行)

ク 一次審決及び判決後の請求人の主張について
請求人は、一次審決の理由とは異なる別の理由から実施可能要件違反があり、根拠がない架空の構成Gはいくら当業者であっても実施不可能である旨を主張する。
しかしながら、本件判決は、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められ」ると認定し、本件発明について発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすと判断しているから、構成Gが実施不可能であるという主張をすることはできず、請求人の主張は失当である。
(被請求人回答書17頁下から8行〜18頁10行)


第6 当審の判断
1 各証拠について
(1)検甲第1号証に係る検証物
ア 平成30年10月30日の証拠調べ(検証)において、検証物(ロータリ作業機「ニプログランドロータリーSKS2000(製造番号1007)」)が以下のとおりの構成を有することを確認した。(証拠調べ調書参照。なお、写真は省略。)

「【1】作業機の全体構成
走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させる作業機であ
って[写真001、写真002、写真003、写真004]、
走行機体と接続される主フレームと[写真005、写真006]、
耕耘ロータの上方を覆うシールドカバーと[写真007]、
シールドカバーの後方に設けられ、シールドカバーの後端に固定さ
れた第1の支点を中心にして上下方向に回動可能であるエプロンと[
写真008、写真009]、
主フレームに設けられた第1の台座に固定された第2の支点と、エ
プロンから上方に突出した第2の台座に固定された第3の支点との間
に設けられた内側の第1の筒状部材と外側の第2の筒状部材と、を具
備し[写真010、写真011]、
エプロンを最下段まで降ろした状態で、第1の筒状部材の長孔が
129mm現れ[写真012]、該長孔を介して第1の筒状部材の内
部に部材が見えており[写真013]、
エプロンを最上段まで上げた状態で、第1の筒状部材の長孔が、
17.77mm現れている[写真014]。

【2】第1の筒状部材と第2の筒状部材の構成
(2−1)
第1の筒状部材と第2の筒状部材を作業機から外して分解し[写真
015、写真016、写真017、写真018、写真019、写真0
20、写真021、写真022]、各筒状部材を測定した数値は、以
下のとおり。
第2の筒状部材の穴と第1の突部との距離:18.2cm[写真0
23、写真024]。
第1の筒状部材の両端の穴間の距離:46.2cm[写真025、
写真026]。
第1の筒状部材の長孔の長さ:15.9cm[写真027]。
第1の筒状部材の長孔の後方側の端部と後方側の穴間の距離:25
.3cm[写真028、写真029]。
自然時のガススプリングの両端の孔間の距離:40.5cm[写真
030、写真031]。
(2−2)
第1の筒状部材と第2の筒状部材、及び作業機との関係は以下のと
おり。
ガススプリングがその中に位置し[写真017、写真018]、
第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能であって[写
真011、写真032]、
第1の筒状部材には、第2の支点とガススプリングの後方側の一端
とが接続され[写真011、写真017、写真018]、
第2の筒状部材には、ガススプリングの前方側の他端が、第1の筒
状部材の長手方向に延びる長孔を通して接続されており[写真017
、写真018]、
第2の支点と第3の支点との距離を変化させる力を作用させること
によってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるものであって、
第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が、第3の支点を回
動中心とし、エプロンに第2の台座を介して設けられた第2の突部に
接触して第3の支点と第2の支点との距離を縮める方向に変化するも
のであり、
ガススプリングは、エプロンが下降した地点において収縮するよう
に構成されている[写真033、写真034]。

【3】エプロンを跳ね上げるのに要する力
甲第13号証(報告書)に記載されたとおりの方法により、エプロ
ンをはね上げるのに要する力を測定した。
すなわち、後記【5】のシール1が貼着されたシールドカバーの上
面が水平になるようにトップリンクを調節することで、作業機を作業
姿勢に設定して、測定を行った。
なお、エプロンを持ち上げる際の角度は10°毎とし[写真035
、写真036、写真037]、当該クレーンはトラックに搭載された
ものを用い[写真038、写真039、写真040、写真041、写
真042]、フォースゲージの数値を読む[写真040]際は、トラ
ックのエンジンを止めて行った。
エプロンの角度、フォースゲージの値、第2の支点と第3の支点間
の距離、測定時の気温は別紙のとおり[写真043、写真044、写
真045、写真046、写真047、写真048、写真049、写真
050、写真051]。

【4】銘板
作業機の側面に取り付けられ、上から順に、「ニプロ グランドロ
ータリー」、「型式 SKS2000」、「区分」、「製造元 松山
株式会社」、「製造番号 1007」と記載されている[写真002
、写真052]。

【5】シール1
シールドカバーの左上面にシール1が貼着され、該シール1の左上
に「作業姿勢の目安」、左中段に「ニギリの下に穴が5個半見える位
置でゲージ輪止ピンがホルダーの上穴で深さ約12cmの耕耘が出来
ます。」、右上に「この面が水平になるようにトップリンクを調節し
て下さい。」と記載され、中央に作業機の図が記載されている[写真
008、写真053]。

【6】シール2
シールドカバーの右上面にシール2が貼着され、該シール2には、
「 らくらくアシストの使い方
均平板のはね上げ
○1 ストッパーピンのレバーを「ロック」にします。
○2 らくらくアシストのレバーを「はね上げ」にします。
○3 ストッパーピンが自動的にロックするまで均平板を持ち上げ
ます。
均平板を下ろすとき
○1 ストッパーピンのレバーを「フリー」にします。
○2 均平板を少し持ち上げると、自動的にストッパーピンが抜け
ます。
○3 均平板を最後まで押し上げて
らくらくアシストのレバーを「耕耘」にします。
○4 均平板を動かしてらくらくアシストが作動していないことを
確認します。 」

と記載され、右側に「らくらくアシスト」と「ストッパーピン」の
図が記載されている[写真054、写真055]。」
(当審注;「○1」等の記載は、○の中に各数値があることを表す。)

(以下、別紙)


イ 検証における力の測定結果
上記アの別紙によれば、2回のアシスト機構オン時の測定結果共に、略10°〜略60°までの10°刻みのエプロンの角度に対して、フォースゲージの値は略一定であるから、検証における力の測定結果として、シールドカバーの上面が水平になるようにトップリンクを調節することで、作業機を作業姿勢とした状態において測定すると、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加しても略一定であるといえる。

ウ 検甲1発明
請求人の主張(上記第3 3(1)ア(ウ))によれば、検甲第1号証に係るロータリ作業機は、カプラ及びジョイントの有無を除けば、展示会に係る作業機と同一のものであるから、展示会に係る作業機であって、かつ、検甲第1号証に係る作業機は、その外観(主に上記ア【1】)、及び本検証におけるエプロンを跳ね上げるのに要する力の測定結果(主に上記ア【3】、別紙及び上記イ)から、次の発明(以下「検甲1発明」という。)を備えるものと認められる。(a〜hの分説は、当審において付与した。)
なお、構成gのエプロンを跳ね上げるのに要する力については、展示による実施を通じて知られ得た構成であるか否かについて当事者間に争いがあるところ、その点については後に判断することとして、ここでは検証による測定結果を構成に含めた。

〔検甲1発明〕
a 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させる作業機であって、
b 走行機体と接続される主フレームと、耕耘ロータの上方を覆うシールドカバーと、
c シールドカバーの後方に設けられ、シールドカバーの後端に固定された第1の支点を中心にして上下方向に回動可能であるエプロンと、
d 主フレームに設けられた第1の台座に固定された第2の支点と、エプロンから上方に突出した第2の台座に固定された第3の支点との間に設けられたらくらくアシスト機構と、を具備し、
e 前記らくらくアシスト機構は、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な、第2の支点側かつ内側に配置され長孔を有する第1の筒状部材と、第3の支点側かつ外側に配置された第2の筒状部材とを有し、
g シールドカバーの上面が水平になるようにトップリンクを調節することで、作業機を作業姿勢とした状態において測定すると、前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加しても略一定であって、
h エプロンを最下段まで降ろした状態で、第1の筒状部材の長孔が129mm現れ、該長孔を介して第1の筒状部材の内部に部材が見えており、エプロンを最上段まで上げた状態で、第1の筒状部材の長孔が、17.77mm現れている、ロータリ作業機。

(2)甲第14号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第14号証には、次の事項が記載されている。
ア 「ニプログランドロータリー
SKS series 34〜60ps用」(1枚目)

イ 「野菜残渣のすき込み、転作田での収穫残渣のすき込み、稲わらや麦稈のすき込み、緑肥のすき込みなどのすき込み力のアップを図ったロータリーです。有機物の圃場への還元も可能となり、圃場のフル活用が求められる、これからの日本農業に欠かせないロータリーです。


(2枚目左頁中段右側)

ウ 「新開発のJ500G爪はたたき破砕部を設け、砕土性能も上げています。また、均平板を長くすることで整地性能も向上しています。


(2枚目右頁2段目右側)

エ 「グランドロータリーへの土の付着を抑えることで省馬力で快適な作業が行えます。耕うん部カバーは耕うんの土塊で絶えず土を振るい落とすフロートラバーを採用しています。また均平板状部はアッパーラバーを採用、下部にはアンダーステンレスカバーを採用し、付着を抑えています。


(2枚目右頁3段目)

オ 2枚目右頁4段目右側の写真は、以下のとおり。


カ 「うれしいらくらく装備
●均平板らくらくアシスト
洗車や爪交換で均平板
を上げる時にガススプリ
ングを利用して従来の約
半分の力で持ち上げるこ
とが可能となりました。


(3枚目中段左側)

キ 3枚目下段の「■主要諸元」の表には、「型式・区分」欄の4段目に「SKS2000−4S3S/0S」と記載され、該表の下欄外には、
「※2.質量はスタンドなしの4S/3Sの質量です。0Sは−25kg。

●SKS1800D/2000Dはサイドディスクが標準装備です。
●区分4SD/3SDは強化型ジョイントが標準装備となります。」と記載されている。

ク 上記エ及びオの写真から、以下の事項が看取できる。
・走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させる作業機である。
・走行機体と接続される主フレームと、耕耘ロータの上方を覆うシールドカバーと、シールドカバーの後方に設けられ、シールドカバーの後端に固定された第1の支点を中心にして上下方向に回動可能であるエプロンを具備している。

ケ 上記カの写真から、以下の事項が看取できる。
・主フレームに設けられた第1の台座に固定された第2の支点と、エプロンから上方に突出した第2の台座に固定された第3の支点との間に設けられ、ガススプリングを含む均平板らくらくアシスト機構を具備している。
・前記均平板らくらくアシスト機構は、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上に存在する2本の筒状部材を有し、一方の筒状部材には、長孔が形成されている。

コ 上記カの記載を参酌して同写真をみると、均平板らくらくアシスト機構には、ガススプリングがその中に位置していることが分かる。

サ 上記アないしコからみて、甲第14号証には以下の発明(以下「甲14発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲14発明>
a 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させる作業機であって、
b 走行機体と接続される主フレームと、耕耘ロータの上方を覆うシールドカバーと、
c シールドカバーの後方に設けられ、シールドカバーの後端に固定された第1の支点を中心にして上下方向に回動可能であるエプロンと、
d 主フレームに設けられた第1の台座に固定された第2の支点と、エプロンから上方に突出した第2の台座に固定された第3の支点との間に設けられ、ガススプリングを含む均平板らくらくアシスト機構と、を具備し、
e 前記均平板らくらくアシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上に存在する2本の筒状部材を有し、一方の筒状部材には、長孔が形成されている、
h ロータリ作業機。

(3)甲第18号証
本件特許の原出願の日前の他の特許出願であって、本件特許の原出願後に出願公開された特願2015−21893号(以下「先願」という。請求人が提出した甲第18号証はその公開公報である。)の願書に最初に添付された明細書(以下「先願明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と合わせて「先願明細書等」という。)、特許請求の範囲又は図面には、次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者の負担を軽減できる農作業機に関するものである。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0018】
・・・
【図24】本発明の第3の実施の形態に係る農作業機のアシストオフ時の側面図である。
【図25】同上農作業機のアシストオフ時の側面図である。
【図26】同上農作業機のアシストオン時の側面図である。
【図27】同上農作業機のアシストオン時の側面図である。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態について図1ないし図12を参照して説明する。
【0020】
図中の1は農作業機で、この農作業機1は、例えば走行車であるトラクタ(図示せず)の後部に連結され、そのトラクタの走行により圃場上を前方(進行方向)に移動しながら耕耘整地作業(農作業)を行うものである。
【0021】
農作業機1は、トラクタの後部の3点リンク部(農作業機昇降部)に脱着可能に連結される機体2と、この機体2に回転可能に設けられ所定方向に回転しながら耕耘作業をする耕耘体(ロータリー)3と、機体2に左右方向の軸(回動支点)5を中心として上下方向に回動可能に設けられ耕耘体3の後方で整地作業する板状の整地体(均平板)4とを備えている。
【0022】
また、農作業機1は、耕耘体3や整地体4等のメンテナンス時に作業者の人力による整地体4の持ち上げ(上方回動)をアシストする持上アシスト手段8を備えている。持上アシスト手段8は、例えば1本で、農作業機1の一方側である左側の位置において機体2と整地体4との間に設けられている。」

ウ 「【0046】
そして、図3に示すように、例えばメンテナンス時等において、整地体4を軸5を中心として上方に回動させることによって最上げ位置(メンテナンス位置)まで持ち上げると、ストッパ装置53のストッパピン54が連結ロッド55のストッパピン用孔部に自動的に挿入され、その結果、整地体4が最上げ位置に位置決め固定される。」

エ 「【0080】
また、農作業機1の持上アシスト手段8は、例えば図24ないし図33に示す第3の実施の形態のように、伸縮可能な付勢体であるガススプリング91の付勢力を利用して整地体4を上方側に付勢することによって、整地体4の持ち上げをアシストするものでもよい。
【0081】
そして、この持上アシスト手段8は、操作部材である操作レバー90の操作(例えば位置変更である回動)により、ガススプリング91が整地体4を上方側に付勢するアシストオン状態およびガススプリング91が整地体4を上方側に付勢しないアシストオフ状態に選択的に切換可能となっている。
【0082】
すなわち例えば、持上アシスト手段8は、操作レバー90の一方向への回動(例えば下方回動)によってアシストオフ状態(ロック状態)となり、操作レバー90の一方向とは反対方向である他方向への回動(例えば上方回動)によってアシストオン状態(ロック解除状態)となる。
【0083】
ここで、持上アシスト手段8は、細長い円筒状に形成された前後方向長手状の長尺体(インナーパイプ)93を有している。
【0084】
長尺体93は、機体2に左右方向の軸37を中心として上下方向に回動可能に設けられている。つまり、機体2の左側のフレームパイプ部18には取付部33が突設され、この取付部33に長尺体93の前端部が軸37を介して回動可能に取り付けられている。
【0085】
長尺体93は、例えば1本の丸パイプのみからなるものであり、この長尺体93の前端部には軸用孔部94が形成され、この軸用孔部94と取付部33の孔部分とに軸37が挿入され、この挿入された軸37を中心として長尺体93が機体2に対して上下方向に回動可能となっている。また、長尺体93の前後方向中間部には、この長尺体93の長手方向に沿った長孔状の案内長孔部95が形成されている。さらに、長尺体93の後端部には、ピン用孔部96が形成されている。
【0086】
そして、長尺体93内にガススプリング91が収納配設されており、その結果、このガススプリング91は、その全体が常に長尺体93によって覆われて保護されている。このガススプリング91は、窒素ガス等の高圧ガスが封入された本体部98と、この本体部98内に対して出入りするロッド部99とにて構成されている。
【0087】
ガススプリング91の本体部98の基端部にはピン用孔部100が形成されており、このピン用孔部100および長尺体93のピン用孔部96に挿入された取付ピン101と抜止めピン102とによって、ガススプリング91の本体部98が長尺体93に取り付けられている。
【0088】
また、持上アシスト手段8は、挿通孔部105を有する短筒状(例えば八角筒状)の回動体(タンブラ)106を有している。この回動体106は、整地体4の突出板28の上部における上方突出部分に回動可能に設けられている。
【0089】
回動体106は、挿通孔部105が形成された八角筒状の筒状部107と、この筒状部107の左右両側に外側方に向かって突設された左右方向の丸軸状の軸状部108とにて構成され、この各軸状部108が突出板28の取付孔部28aに回動可能に取り付けられている。そして、回動体106は、整地体4に対して左右方向の軸状部108を中心として回動可能となっている。
【0090】
さらに、持上アシスト手段8は、回動体106の挿通孔部105に挿通され長尺体93に対して移動可能(例えばスライド移動可能)な移動体(アウターパイプ)111を有している。この移動体111は、長尺体93の外側(外周側)にこの長尺体93の外周面に沿って前後方向(長尺体の長手方向)にスライド移動可能、つまり摺動可能に配設されている。
【0091】
移動体111は、外周側に回動体106がスライド移動可能に配設された前後方向長手状で円筒状の筒状部112を有し、この筒状部112の前端部にはピン用孔部113が形成されている。そして、そのピン用孔部113、ロッド部99のピン用孔部114および長尺体93の案内長孔部95に挿入された取付ピン115と抜止めピン116とによって、ガススプリング91のロッド部99が移動体111に取り付けられている。このため、移動体111を上方側へ向けて付勢するガススプリング91の伸縮に応じて、移動体111が長尺体93の外周面に沿ってスライド移動する(図31参照)。なおこのとき、取付ピン115が長尺体93の案内長孔部95にて案内される。
【0092】
また、筒状部112の前後方向中間部の外周面には、持上アシスト手段8のアシストオン状態時にガススプリング91の付勢力に基づいて回動体106を押し上げる円形環状の回動体当接部である鍔部118が突出状に固設されている。さらに、筒状部112の後端側には、規制板取付部120およびレバー取付部121が固設されている。なお、規制板取付部120は、ねじ孔部122が形成された略L字状のL字板123にて構成されている。レバー取付部121は、互いに離間対向する対をなす対向板124にて構成されている。
【0093】
そして、移動体111の規制板取付部120には、操作レバー90との当接によりこの操作レバー90の必要以上の回動を規制する規制部であるレバー規制板125が取付ねじ126にて取り付けられている。レバー規制板125には、取付孔部127および規制長孔部128が形成されている。
【0094】
また、移動体111のレバー取付部121には、作業者が把持して手動操作する略L字状の操作レバー90がオフ位置(下位置)およびオン位置(上位置)に回動可能に取り付けられている。
【0095】・・・
【0096】・・・
【0097】
また一方、レバー規制板125には、操作レバー90をオフ位置およびオン位置のいずれかの位置に位置決めする弾性変形可能な板状の弾性部材である板バネ136が取付手段137にて脱着可能に取り付けられているなお、取付手段137は、例えばボルト138、ナット139およびスペーサ140にて構成されており、レバー規制板125と板バネ136との間には隙間部135が存在している。
【0098】・・・
【0099】・・・
【0100】
そして、操作レバー90がオフ位置やオン位置に位置すると、板バネ136は弾性復元力により元の平板状に復帰し、この復帰した板バネ136によって操作レバー90がその所望位置(オフ位置およびオン位置のいずれかの位置)に位置決め保持される。
【0101】
また、図30から明らかなように、操作レバー90がオフ位置に位置した状態では、操作レバー90の一部である当接部90aが長尺体93の後端面93aに対向してこの後端面93aと当接しており、その結果、移動体111の長尺体93に対する移動が規制されている。しかし、操作レバー90をオフ位置からオン位置まで上方側へ回動させると、操作レバー90の当接部90aが長尺体93の後端面93aから離れ、この操作レバー90による移動体111の移動規制が解除される。
【0102】
なお、この図24ないし図33に示す第3の実施の形態に係る農作業機1のその他の構成は、前記第1の実施の形態と同じである。
【0103】
そして、この第3の実施の形態に係る農作業機1を用いて耕耘整地作業をする作業時には、作業者は、操作レバー90を操作してオフ位置に位置させることによって、持上アシスト手段8をアシストオフ状態に設定する。
【0104】・・・
【0105】
このとき、操作レバー90の当接部90aが長尺体93の後端面93aと当接することでこの操作レバー90にて長尺体93に対する移動体111の前方移動が規制(つまりガススプリング91の伸びが規制)されているため、回動体106は、整地体4の上下回動に応じて、移動体111に対して前後方向にスライド移動する(図25参照)。つまり、回動体106が移動体111の筒状部112の外周面に沿って前後方向にスライド移動することによって、整地体4が機体2に対して軸5を中心として上下方向に回動する。
【0106】
また一方、例えば耕耘爪24の交換や整地体4の洗浄等のメンテナンス時には、作業者は、操作レバー90を操作してオン位置に位置させることによって、当接部90aを長尺体93の後端面93aから離して、持上アシスト手段8をアシストオン状態に設定する。
【0107】
すると、長尺体93に対する移動体111の前方移動が許容(つまりガススプリング91の伸びが許容)されることとなり、移動体111が鍔部118に当接した回動体106とともに長尺体93に対してガススプリング91の付勢力に基づいて前方へ移動し、その結果、整地体4がガススプリング91の付勢力に基づいて上方へ回動する(図27参照)。
【0108】
そして、作業者が整地体4を最上げ位置まで軽い人力で持ち上げると、ストッパ装置53によって整地体4がその最上げ位置に自動的にロックされる。なお、この例においても、整地体4は、ガススプリング91の付勢力のみによって最上げ位置まで上方回動しないため、作業者が最上げ位置まで人力で少し持ち上げる必要があるが、この際、ガススプリング91は、自由長(最大長さ)にはなっておらず、整地体4を上方側へ付勢しているため、作業者は、軽い人力で整地体4を最上げ位置まで持ち上げることが可能である。
【0109】
このように、第3の実施の形態に係る農作業機1でも、前記第1、2の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0110】
すなわち、例えばメンテナンス時等に操作レバー90の操作により持上アシスト手段8をアシストオン状態に切り換えると、このアシストオン状態の持上アシスト手段8が整地体4の持ち上げをアシストするため、作業者は整地体4を最上げ位置まで容易に持ち上げることができ、作業者の負担を軽減できる。
【0111】・・・
【0112】
さらに、操作レバー90がオフ位置に位置した持上アシスト手段8のアシストオフ状態時には、操作レバー90にて長尺体93に対する移動体111の移動が規制され、この移動が規制された移動体111に対して回動体106が整地体4の動きに応じて移動するため、持上アシスト手段8が整地体4による整地作業に悪影響を及ぼすことがない。
【0113】
また、操作レバー90がオン位置に位置した持上アシスト手段8のアシストオン状態時には、長尺体93に対する移動体111の移動が許容され、この移動が許容された移動体111が長尺体93に対して回動体106とともにガススプリング91の付勢力に基づいて移動するため、そのガススプリング91の付勢力を利用して整地体4の持ち上げを適切にアシストできる。」

オ 図面は以下のとおり。
【図24】


【図25】


【図26】


【図27】


【図32】


【図33】


カ 図24、図25において、軸5は、機体2の後方に設けられ、整地体4の前端部近傍にあることが見て取れる。
図24、図25において、長尺体93及び移動体111は、軸37、軸状部108(取付孔部28a)を通る同一軸上にあることが見て取れる。

キ 図32、図33から、ピン用孔部96は長尺体93の下方に開口していることが見て取れる。

ク 【図面の簡単な説明】によれば、図25は「農作業機のアシストオフ時の側面図」であって、【0103】に「作業者が、操作レバー90を操作してオフ位置に位置させることによって、持上アシスト手段8をアシストオフ状態に設定する。」、【0104】に「トラクタの走行により農作業機1を進行方向に移動させると、耕耘体3が耕耘作業をし、その後方で整地体4が整地作業をする。」、【0105】に「このとき、・・・整地体4の上下回動に応じて、移動体111に対して前後方向にスライド移動する(図25参照)。」と記載されていることから、図25の農作業機の位置及び傾きは、耕耘作業時のものであって、持上アシスト手段はアシストオフ時である。
同じく、図27は「農作業機のアシストオン時の側面図」であって、【0106】に「また一方、例えば耕耘爪24の交換や整地体4の洗浄等のメンテナンス時には、作業者は、操作レバー90を操作してオン位置に位置させることによって、・・・持上アシスト手段8をアシストオン状態に設定する。」、【0107】に「すると、長尺体93に対する移動体111の前方移動が許容(つまりガススプリング91の伸びが許容)されることとなり、・・・その結果、整地体4がガススプリング91の付勢力に基づいて上方へ回動する(図27参照)。」と記載されていることから、図27の農作業機の位置及び傾きは、耕耘爪24の交換や整地体4の洗浄等のメンテナンス時のものであって、持上アシスト手段がアシストオン時である。
また、図25の農作業機の位置と図27の農作業機の位置及び傾きは略同一と看取できるから、メンテナンス時の持上アシスト手段のアシストオン時の作業機の位置及び傾きは、農作業時の農作業機の位置及び傾きと略同じである。

ケ 上記アないしクからみて、甲第18号証には以下の発明(以下「甲18発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲18発明>
トラクタの後部に脱着可能に連結される機体と、この機体に回転可能に設けられ所定方向に回転しながら耕耘作業をする耕耘体(ロータリー)と、機体の後方に設けられた回動支点を中心として上下方向に回動可能に設けられ、耕耘体の後方で整地作業する板状の整地体(均平板)とを備えている農作業機であって、
前記回動支点は整地体の前端部近傍にあり、
作業者の人力による整地体の持ち上げ(上方回動)をアシストする持上アシスト手段を備えており、
持上アシスト手段は、操作レバーの一方向への回動(例えば下方回動)によってアシストオフ状態(ロック状態)となり、操作レバーの一方向とは反対方向である他方向への回動(例えば上方回動)によってアシストオン状態(ロック解除状態)となり、
持上アシスト手段は、細長い円筒状に形成された前後方向長手状の長尺体(インナーパイプ)、及び回動体の挿通孔部に挿通され長尺体に対してスライド移動可能な移動体(アウターパイプ)を有し、
長尺体は、機体に左右方向の軸を中心として上下方向に回動可能に設けられており、長尺体内にガススプリングが収納配設されており、このガススプリングは、窒素ガス等の高圧ガスが封入された本体部と、この本体部内に対して出入りするロッド部とにて構成され、本体部の基端部が長尺体に取り付けられ、
移動体は、外周側に回動体がスライド移動可能に配設された前後方向長手状で円筒状の筒状部を有し、この筒状部の前端部にはガススプリングのロッド部が取り付けられており、このため、移動体を上方側へ向けて付勢するガススプリングの伸縮に応じて、移動体が長尺体の外周面に沿ってスライド移動するようになっており、筒状部の前後方向中間部の外周面には、持上アシスト手段のアシストオン状態時にガススプリングの付勢力に基づいて回動体を押し上げる円形環状の回動体当接部である鍔部が突出状に固設されており、
回動体は、筒状部と、この筒状部の左右両側に外側方に向かって突設された左右方向の丸軸状の軸状部とにて構成され、この各軸状部が整地体の突出板の取付孔部に回動可能に取り付けられており、
長尺体及び移動体は、左右方向の軸、取付孔部を通る同一軸上にあり、
農作業機が耕耘作業時の位置及び傾きにおいて、持上アシスト手段をアシストオン状態に設定することにより、長尺体に対する移動体の前方移動が許容(つまりガススプリングの伸びが許容)されることとなり、移動体が鍔部に当接した回動体とともに長尺体に対してガススプリングの付勢力に基づいて前方へ移動し、その結果、整地体がガススプリングの付勢力に基づいて上方へ回動する、
農作業機。

(4)甲第19号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第19号証には、次の事項が記載されている。
「4 取付ける前に
4.1 トラクタの規格
(a)作業機の3点リンク規格は、日農工統一規格「日
農工標準オートヒッチ」を採用しています。
(b)「日農工標準オートヒッチ」は、さらに4セット、
3セット、0セットの3種類に分かれます。
「4セット」 3点リンクとジョイントが同
時に自動で取付けできます。
「3セット」 3点リンクのみ自動で、ジョイ
ントは手で取付けます。
「0セット」 お手持ちの4セットシリーズ
作業機と共用するため、カプ
ラおよびジョイントは標準
装備していません。
(c)3点リンク規格の判別は、型式の末尾で行って
ください。


(20頁右欄)

(5)甲第20号証
甲第20号証には、次の事項が記載されている。

「紫の耕耘爪と車のウイングのようなステンレスの大きな均平板が特徴です。この状態は中をよく見ることができるように、均平板をあげて見せているようです。

これがその部分。といってもどうなっているのかよくわかりませんが・・・

このレバーを持上げると・・・

バネがキツくて持ち上がらない均平板がラクに持ち上がるようになる・・・みたいです。

POPには
今までにない驚異のすき込み力!
新開発「J500G爪」と均平板空間の変更により生まれた反転スペースですき込み性能が大幅に向上!
土付着が少ないフロートラバー採用!
軽量・近接設計でマッチングバランスUP!
均平板ラクラクアシストで均平板を持ち上げる力が従来の半分に!
適用馬力45〜60馬力 質量415kg

とあります。均平板を持ち上げるシステムは「均平板らくらくアシスト」っていうんですね!」(1枚目下から3行〜3枚目3行)

(6)甲第29号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第29号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0024】
(ガススプリング支持機構30)
ガススプリング支持機構30は、図2、図3および図4に示すように、エンジンフード14の両側に設けられた一対の構造(第1ガススプリング31,32)と、エンジンフード14内の幅方向におけるほぼ中央部に設けられたスプリング機構33と、を有している。
【0025】
ここで、図2、図3において、図左側が、油圧ショベル1の前側であってエンジンフード14の開き側である。また、図右側が、油圧ショベル1の後側であってエンジンフード14の回動中心となるヒンジ22が配置された閉じ側である。
(第1ガススプリング31,32)
第1ガススプリング31,32は、本体内の圧縮ガスによって、エンジンフード14の開操作の第1段階における操作力をアシストする装置である。つまり、第1ガススプリング31,32は、エンジンフード14を開ける方向に力を付与する。第1ガススプリング31,32は、図2、図3および図4に示すように、エンジンフード14の幅方向における両端部付近であって、エンジンフード14が閉じた状態でエンジンフード14の下方でヒンジ22の近傍に配置されている。第1ガススプリング31,32の近傍には、リンク機構34と、支持プレート35,35とが配置されている。第1ガススプリング31,32およびリンク機構34,34は、ヒンジ22よりエンジンフード閉じ側に配置されている。」

イ 「【0054】
ここで、エンジンフード14を開けていく際の作業者の操作力の推移について、図12(a)を用いて説明すれば以下の通りである。
まず、第1ガススプリング31,32が設けられていない場合には、図12(a)に示すように、エンジンフード14を持ち上げる際に約20kgの操作力が必要になる。
これに対して、本実施形態のように、2本の第1ガススプリング31,32を設けたことにより、図12(a)に示すように、約12kgの操作力で済むようにアシストされる。そして、エンジンフード14の開度が大きくなるにつれて、作業者の操作力も小さくなっていき、約40度の開度において0になり、その後、第1ガススプリング31,32によってエンジンフード14は自動的に約60度の開度(第1の開度)まで移行する。
【0055】
次に、約60度の開度(第1の開度)まで達したエンジンフード14をさらに約90度の開度(第2の開度)まで開けていく際には、すでに約60度の開度(第1の開度)において、第1ガススプリング31,32は伸びきっており、エンジンフード14を開けていく力は付与されない。このため、最初の動かし始めの部分では、図12(a)に示すように、約5〜8kgの操作力が必要となる。
その後、作業者は、スプリング機構33の反力にサポートされながら、約8kg程度の操作力によって、エンジンフード14を約90度の開度まで開くことができる。」

(7)甲第30号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第30号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0009】ガススプリングから構成されたステーダンパ3は、図2にも示すように、シリンダ3aと、その内部のガス、例えばエアの圧力によってシリンダ3aから離れる向きに付勢されたロッド3bを有し、そのシリンダ3aと、これに嵌合したロッド3bは、実質的に同一の中心軸線X上に位置している。かかるステーダンパ3の一端側、図示した例ではそのシリンダ3aの基端部が枢着部5においてバックドア1に回動可能に枢着され、ステーダンパ3の他端側、図の例ではそのロッド4bの先端部が、枢着部4において車体10に回動可能に枢着されている。車体10とバックドア1との間にステーダンパ3が介設されているのである。」

イ 「【0035】図8は、バックドア1の開度が変化した場合に、そのバックドアの開閉時における操作力がいかように変化するかを示す操作力変化特性図の一例を示している。この特性図では、ヒンジ2における摩擦力については考慮していない。この図における操作力「0」は、バックドア1に対して与えられるステーダンパ3による開方向のモーメントと、その自重による閉方向のモーメントが釣り合ったときの状態である。
【0036】図8中、破線は従来においてバックドアを開くときの操作力変化特性線であり、実線は本発明例においてバックドアを開くときの操作力変化特性線である。本発明例においては、バックドアを閉鎖位置から開け初めるときの操作力が、従来よりもHだけ軽減している。操作力がH=約2.6kg・f程度、軽減されるのである。
【0037】図8において、B領域は、バックドアの開閉操作者がバックドアに対して開方向に操作力を加える領域であり、この領域では、バックドア1の自重による閉方向のモーメントの方が、ステーダンパによる開方向のモーメントよりも大きくなっている。これに対し、C領域は、バックドア1の強制的な開放操作を不要にする領域であり、この領域ではステーダンパ3による開方向のモーメントの方が、バックドアの自重による閉方向のモーメントよりも大きくなり、バックドア1は自動で開くことになる。いずれにしても、この図においてハッチングで示す領域が、バックドア開放時における操作力の軽減分となるのである。」

ウ 「



エ 「



(8)甲第43号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第43号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ベルト式変速装置に係り、乗用田植機等に利用される。」

イ 「【0014】切換伝動体52,53は、図1(B)で示す如くガススプリング(流体ダンパ)とされており、シリンダ55とこのシリンダ内部にピストンロッド56と一体で摺動するピストン57を備え、該ピストン57で区画される2室58,59を互いに小孔60等により連通自在な圧縮流体61を封入している。ここに、圧縮流体(ガス、油)61の圧力をバネとして利用してダンパとして機能している。」

ウ 「【0017】なお、実施例では、切換伝動体52,53のシリンダ55を切換部材51に、ロッド56をテンションアーム46,47に連結しているが、これは、逆であってもよい。」

(9)甲第44号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第44号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機本体と上下方向に回動可能な延長作業体とを備える農作業機に関するものである。」

イ 「【0016】
農作業機11は、トラクタの3点リンク部に連結される左右方向長手状の作業機本体(中央作業部)12と、この作業機本体12の左右両側の端部に略前後方向の回動中心軸線Xを中心として上下方向に回動可能に設けられた延長作業体(延長作業部)13と、一端部が作業機本体12に回動可能に取り付けられ他端部が延長作業体13に回動可能に取り付けられ延長作業体13の上方向への回動を補助する長手状の伸縮可能な付勢手段であるガススプリング14とを備えている。」

ウ 「【0029】
このとき、ガススプリング14が延長作業体13の上方向への回動を補助するため、作業者は軽く延長作業体13を上方向に回動させることが可能であり、また、ガススプリング14が延長作業体13の下方向への回動速度を減少するため、延長作業体13の回動がスムーズに行われる。」

エ 「【0032】
なお、上記実施の形態では、ガススプリング14のシリンダ本体51の基端部が延長作業体13のスプリング被取付部49に回動可能に取り付けられ、ピストンロッド52の先端部が作業機本体12のスプリング被取付部31に回動可能に取り付けられた構成について説明したが、例えば逆にガススプリング14のシリンダ本体51の基端部が作業機本体12のスプリング被取付部31に回動可能に取り付けられ、ピストンロッド52の先端部が延長作業体13のスプリング被取付部49に回動可能に取り付けられた構成でもよい。」

(10)甲第45号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第45号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、耕耘部の後方を覆う後部カバーをガススプリングによって接地方向に付勢するようにした耕耘装置に関するものである。」

イ 「【0017】
後部カバー20は、その後下端側に、着脱自在な整地カバーを備えたものであってもよい。
本実施形態の耕耘装置1は、後部カバー20で整地する土の均平化を図るべく、後部カバー20を接地方向に付勢する付勢手段として、図1〜図8に示す、弾下装置26とガススプリング27とを有する。
これら弾下装置26とガススプリング27とは、後部カバー20の上方側に配置されていると共に左右方向で近接させて並設されており、それぞれ機枠2の左右方向中央部から左右に振り分け状に配置されている(1つの弾下装置26と1つのガススプリング27とで1組の付勢手段が2組設けられている)。」

ウ 「【0025】
ガススプリング27は、図3に示すように、チューブ46と、該チューブ46内に軸方向移動自在に設けられたピストン47と、該ピストン47と一体的に移動するピストンロッド48とを有し、チューブ46内部はピストン47によってロッド側の室46Aとボトム側の室46Bとに分けられ、チューブ46内のロッド側の室46Aとボトム側の室46Bとはピストン47に形成されたオリフィス49によって連通され、チューブ46内には圧縮ガスが充填されている。
ピストン47のロッド側受圧面はボトム側受圧面に比べて、チューブ46内に封入された圧縮ガスを受ける面積が小さいことから、この受圧面積の差の分だけピストンロッド48は常に伸び方向に反発力をもっている。」

エ 「【0032】
レバー57の基端側には筒部材59が固定されていると共に筒部材59内に連通する挿通孔60が形成され、レバー支持部58にはピン61が左右方向突出状に固定され、該ピン61に前記筒部材59を軸芯回りに回動自在に外嵌すると共にピン61を前記挿通孔60から突出させて該ピン61の先端側に抜け止め部材62を取り付けることにより、レバー57がレバー支持部58に回動自在に支持されている。
なお、前記構成のものにおいて、リンク65を後部カバー側ブラケット31に設けると共に、レバー支持部58及びレバー57を機枠側ブラケット30に設けて、ガススプリング27を前後逆にしてもよい。」

(11)甲第46号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第46号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、運転座席の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農地などで使用されるトラクタが知られている(例えば特許文献1参照)。このようなトラクタは、運転座席を備え、該運転座席にオペレータが座った状態で操縦を行なう。かかるトラクタは、乗用型トラクタと呼ばれる。」

イ 「【0049】
加えて、本支持構造8は、ガススプリング85を運転座席7の後方に立設したという特徴を有する。本支持構造8において、リンク機構9を用いたのは、かかる特徴を実現するためである。こうして、本支持構造8は、運転座席7の下方空間を広く、且つ簡素にしている。これは、肉厚が厚い運転座席7を採用できるように考慮したものである。また、ガススプリング85を上下方向に対して略平行に取り付けたのは、該ガススプリング85の耐久性を向上させるためである。これは、一般的なガススプリングの特性による。即ち、一般的な構造のガススプリングを横向きに取り付けると、ガススプリングに封入されたオイルが偏り、該ガススプリングからガスが漏れる場合がある。そのため、本支持構造8では、ガススプリング85を縦向きに取り付け、耐久性の向上を図ったのである。また、一般的な構造であるガススプリング85を採用することで、コストの低減も図っている。」

(12)甲第48号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第48号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0024】
前記または図1〜3に示されるように、付勢手段21が、作業機本体10の表面とエプロン3の表面との間にコンプレッションロッド18と並列に配置され、伸縮部21aが、コンプレッションロッド18に間接的に接合される。
【0025】
付勢手段21には、常に伸張方向に付勢されているが、伸縮部21aの内部に設けられたプッシュロッド21bの操作(例えば、プッシュロッド21bを押すと伸縮部21aが伸縮可能、離すとロック。この逆でもよい。)により伸縮部21aの伸張を任意の位置で停止可能なプッシュロックタイプのガススプリングが使用される。付勢手段(以下、ガススプリング)21は、支持部材22によりコンプレッションロッド18に並列した状態で支持される。」

イ 「



(13)甲第49号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第49号証には、次の事項が記載されている。
「【0017】
また図8は、前記作業機1の全体側面図を示し、同作業機1は、ロータリカバー25に対し、軸芯P回りに上下揺動自在に枢着して設けたリヤカバー26を持ち上げ方向に付勢可能なガススプリング27によって支持するように構成している。このガススプリング27はリヤカバー26とサイド耕耘伝動ケース4との間に装着支持している。これによって、リヤカバーの持ち上げ力が軽減され、付着した泥土の除去作業が容易に行える。」

(14)乙第3号証
乙第3号証には、次の事項が記載されている。
「自由型は、図1のとおりフリーピストンをチューブ内に設けて、チューブ内をガス室とオイル室に分離した構造です。
この構造のため、ガススプリングの取付姿勢がどの状態であっても圧縮ガスの圧力により、オイル室を常にシール側へ加圧して、シールを常にオイルに浸すため、オイル切れによる潤滑とガス透過を防止できるため、角度制限を気にせずご使用できます。
倒立型は、図2のとおりフリーピストンがない構造です。
ガス室とオイル室が分離していないためガス容積を大きくとることができるためバネ定数を自由型より下げることができます。
ただし、シールのオイル切れを防ぐために、ご使用時および保管時に垂直より60°以内という角度制限が発生いたします。」(2/4頁15〜24行)

(15)乙第14号証
乙第14号証には、次の事項が記載されている。
ア 「5.作業機について
計算に用いた作業機の構造について説明します。
まず、計算に用いた作業機のアシスト機構の構造は、いずれも本件特許明細書の図5、図6に記載のアシスト機構です。
次に、第1の支点、第2の支点、及び第3の支点の位置関係は、本件特許明細書の図2に記載された作業機の位置関係を基準にして、第3の支点152の位置を、第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第1の作業機」と、第3の支点152の位置を、第1の支点140を中心として50°上方に移動させ、支点間距離をやや短くし、第2の支点151の位置をフレームパイプを中心に130°下方に移動させた「第2の作業機」とを用いて、各々後述する「第1の姿勢」と「第2の姿勢」とにおける要する力の変化を計算しました。


(3頁1〜末行)

イ 「6.計算方法について
第1の作業機、第2の作業機各々において、請求人と同じ計算方法で、要する力の変化を計算。


Ta=Ra・Fa
Fa=FG・sinθa
Tw=Rw・Fw
Fw=W・sinα
Tu=Tw−Ta
Fs=Tu/(R・sinβ)
↑※ : Tu=Fs・R・sinβ

∴Fs=(Tw−Ta)/(R・sinβ)
=((Rw・W・sinα)−(Ra・FG・sinθa))
/(R・sinβ)」
(5頁1行〜6頁2行)

(16)乙第17号証
乙第17号証には、次の事項が記載されている。
ア 「3.トラクタに作業機を装着し、耕うん姿勢における入力軸角度とエプロン角度とがいくらになるかを検証しました。また、トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げて、耕うん姿勢から最上げ姿勢までの間で、入力軸角度がそれぞれいくらになるかを、以下の3つの姿勢で検証しました。
(1)−1.耕うん姿勢(前傾3.0°で標準的な耕うん深さ12セン
チメートルでのエプロン傾斜角度)
−2.耕うん姿勢(前傾3.0°でエプロン最下げ状態でのエプ
ロン傾斜角度)
(2)地面接地姿勢(作業機を耕うん前の地面に接地させた位置での入
力軸角度)
(3)最上げ姿勢(トラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた位置で
の入力軸角度)」
(1頁13〜24行)

イ 「4.検証時の条件等
・・・
(3)使用した作業機
小橋工業株式会社製ロータリ作業機 FTF201
製造番号56171340」
(1頁25行〜2頁3行)

ウ 「6.検証の結果
(1)耕うん状態でのエプロン角度は、上記(1)−1及び(1)−2
の結果から、エプロン最下げ状態(エプロン角度0°)から34.
9°上がった位置であること(エプロン角度34.9°)が分か
りました(73.4°−38.5°)。
(2)上記(2)の結果から、作業機を地面に接地させた位置における
入力軸角度は、前傾8.2°であることが分かりました。
(3)上記(3)の結果から、本検証の条件では、トラクタ油圧機構で
作業機を最も持ち上げた位置における入力軸角度は、前傾30.
5°であることが分かりました。」
(5頁下から7行〜6頁3行)

(17)乙第18号証
乙第18号証には、次の事項が記載されている。
ア 「4.作業機について
計算に用いた作業機及びアシスト機構の構造についても、平成31年3月
22日付の陳述書(乙14)で説明した内容と同じですが、作業機につい
ては、第1の支点、第2の支点、及び第3の支点の位置関係において、本
件特許明細書の図2に記載された作業機の位置関係を基準にして、第3の
支点152の位置を、第1の支点140を中心として25°下方に移動さ
せた「第1の作業機」のみ検証を行いました。」
(1頁下から4行〜2頁3行)

イ 「6.作業機の姿勢について
上記計算方法で、乙第17号証で検証した3つの姿勢について、エプロン
角度の増加に伴う「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化を計算し
ました。
(1)耕うん姿勢(入力軸前傾3.0°)
(2)地面接地姿勢(作業機を耕うん前の地面に接地させた位置、入力軸 前傾8.2°)
(3)最上げ姿勢(トラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた位置、入 力軸前傾30.5°)

7.徐々に減少することについて
【第1の作業機】



これをグラフ化すると以下のようになります。


8.検証の結果
トラクタに作業機を装着した状態で、耕うん姿勢、地面接地姿勢、最上げ
姿勢のどの姿勢においても、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプ
ロン角度が増加するにつれて徐々に減少しました。」
(5頁3行〜6頁下から2行)

2 無効理由4
一次審決を取り消した判決で判断が示された無効理由4から検討する。
(1)請求人が主張する無効理由4は、概略、本件発明の構成要件Gに含まれる、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定範囲内において徐々に減少」するとの構成は、本件特許の図7のグラフに基づくものであるが、どのようにすれば図7のグラフの結果を得られるのか、本件明細書の記載を参酌しても全く理解することができず、当業者であっても本件発明の実施をすることができない、というものである(上記第4の3(4)ア)。
特許法第36条第4項第1号に規定される、いわゆる実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の説明が記載されていることを要する。
この点について判断するに、審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。したがって、当審の審理は、一次審決を取り消した判決の下記の判断に拘束され、当審も同様に判断する。

(2)本件発明に係る作業機の構造、及び構成要件Gを裏付ける理論的説明
ア 本件発明に係る作業機の構造
本件訂正後の請求項1、本件明細書及び本件特許の特許出願の願書に添付された図面によれば、本件発明に係る作業機の構造は、次のとおりと認められる。
(ア)作業機の全体構造
本件発明は、「走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする」「作業機」(構成要件A)に関するものであり、「前記走行機体と接続されるフレーム」(構成要件B)と「前記フレームの後方に設けられ」る「エプロン」(構成要件C)、「前記フレームに固定された」「ガススプリングを含むアシスト機構」(構成要件D)を具備するものであるところ、本件明細書の「実施例」(【0016】〜【0021】)には、作業機の全体構造を示す【図1】〜【図3】とともに、フレーム(主フレーム110とシールドカバー120)、耕うんロータ102、エプロン103、エプロン跳ね上げアシスト機構141を具備する「作業機100」の具体的構造が記載されている。
(イ)「ガススプリングを含むアシスト機構」の構造
本件発明の作業機が具備する「アシスト機構」は、「前記フレームに固定された」「第2の支点」と「前記エプロンに固定された」「第3の支点」との間に設けられ、「前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる」ものであるところ(構成要件D)、本件明細書の【0021】には、作業機の側面図である【図2】、【図3】とともに、アシスト機構141を「支点151」(第2の支点)と「支点152」(第3の支点)との間に設ける具体的構造が記載されている。
(ウ)「エプロン」の構造
本件発明の作業機が具備する「エプロン」は、「前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能」であり、「その(エプロンの)重心が前記第1の支点よりも後方にある」ところ(構成要件C)、本件明細書の【0020】には、作業機の側面図である【図2】、【図3】とともに、エプロン130を「支点140」(第1の支点)を中心に回動可能とする具体的構造が記載されている。

イ 構成要件Gを裏付ける理論的説明
力学に関する技術常識を勘案し、前記アの本件発明に係る作業機の構造に照らすと、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を導く理論的説明に関しては、次のとおり認めることができる。
(ア)エプロンを跳ね上げるのに要する力
エプロンを持ち上げるときには、エプロン操作者(作業者)がエプロンの下端に手をかけて力を入れて持ち上げるところ、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」は、その文言からすると、エプロンの手をかける位置に垂直に上向きにかかる力(Fs)を意味するものと認められる。
そして、エプロンを持ち上げるときにエプロンに加えられる力を検討すると、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)の他、エプロンの重心に鉛直方向に働く重力(W)、第3の支点に、第2の支点の方向に働くアシスト力(Fg)が加えられている。
(イ)第1の支点を中心とするモーメント
a エプロンは、第1の支点を中心として回動する構造となっているから、エプロンに加えられる力は、第1の支点を中心とするモーメントとして働く。
b 第1の支点とエプロンを持ち上げる位置(エプロン操作者がエプロンを持ち上げるために手をかける位置)とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をβ、第1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をα、第1の支点と第3の支点とを結ぶ直線と、第2の支点と第3の支点とを結ぶ直線がなす角をθaとし、第1の支点を中心とする円の半径と垂直をなす方向に働く力について、エプロンを持ち上げる位置に働く力をFu、第3の支点に働く力をFa、エプロンの重心に働く力をFwとすると、これらの各点において第1の支点を中心とする円の半径と垂直をなす方向に働く力は、次のとおり表される。
Fu=Fs・sinβ Fa=Fg・sinθa Fw=W・sinα
このうち、FuとFaは上向きの力であり、Fwは下向きの力である。
c 第1の支点からエプロンを持ち上げる位置までの距離をR、第1の支点から第3の支点までの距離をRa、第1の支点からエプロンの重心までの距離をRwとし、第1の支点を中心とするモーメント(第1の支点からの距離と力の積)について、エプロンを持ち上げる位置のモーメントをTu、第3の支点のモーメントをTa、エプロンの重心のモーメントをTwとすると、これらの各点における第1の支点を中心とするモーメント(第1の支点からの距離と力の積)は、次のとおり表される。
Tu=R・Fu Ta=Ra・Fa Tw=Rw・Fw
このうち、TuとTaは上向きのモーメントであり、Twは下向きのモーメントである。
d エプロンを持ち上げる場合には、第1の支点を中心とする上向きのモーメントが下向きのモーメントより大きくなるから、Tu+Ta>Twとなる。これに前記cの各項を当てはめると、次のとおりとなる。
R・Fu+Ra・Fa>Rw・Fw
更にこれに前記bの各項を当てはめると、次のとおりとなる。
R・Fs・sinβ+Ra・Fg・sinθa>Rw・W・sinα
これを、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)について整理すると、次のとおりとなる。
Fs>(Rw・W・sinα−Ra・Fg・sinθa)/(R・sinβ)

(ウ)エプロン角度
エプロンが、第1の支点を通る直線に対してなす角度をθとし、エプロンが最も下降したときにθ=0°とし、そのときの第1の支点とエプロンを持ち上げる位置とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をβ0、第1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をα0とすると、β=θ+β0、α=θ+α0となり、これを前記(イ)dの最後の式に当てはめると、次のとおりとなる。
Fs>(Rw・W・sin(θ+α0)−Ra・Fg・sinθa)
/(R・sin(θ+β0))

(エ)「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成
a 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)は、前記(ウ)の式で表すことができ、エプロンが持ち上げられるにつれて、エプロン角度θが増加するから(角度θaもエプロンが持ち上げられるにつれて増加するが、その増加割合はエプロン角度θとは異なる。)、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成は、前記(ウ)の式において、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成であると認められる。
b 前記(ウ)の式中の各項目のうち、エプロンの重心に鉛直方向に働く重力W(前記(ア))、第1の支点からエプロンの重心までの距離Rw(前記(イ)c)、第1の支点からエプロンを持ち上げる位置までの距離R(前記(イ)c)、第1の支点から第3の支点までの距離Ra(前記(イ)c)、エプロンが最も下降したとき(θ=0°のとき)の第1の支点とエプロンを持ち上げる位置とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度β0(前記(ウ))、第1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度α0(前記(ウ))は、エプロンの重さ、大きさ、形状等により定めることができる。また、第1の支点と第3の支点を結ぶ線と、第3の支点と第2の支点を結ぶ線がなす角度θa(エプロンが持ち上げられるにつれて増加するが、その増加割合はエプロン角度θとは異なる。)について、エプロンが最も下降したとき(θ=0°のとき)の角度θa0も、エプロンの重さ、大きさ、形状等により定めることができる。そして、第3の支点に働くアシスト力(Fg)(前記(ア))は、本件発明の構成要件Dによれば、ガススプリングにより、第2の支点と第3の支点との距離を変化させることによってエプロンを跳ね上げる方向に作用する力であり、ガススプリングの反発力と伸びが適切な特性を有するようなものを選択することにより、設定することができる。
このように、前記(ウ)の式中の各項目のうち、θ以外の項目を適宜設定し、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実現することにより、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成は実現されるものと認められる。

ウ 理論的説明に対する認識
力学に関する技術常識を勘案し、本件発明に係る作業機の構造に照らすと、前記イのとおり、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成は、前記イ(ウ)の式において、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成であると認められる。
もっとも、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)が前記イ(ウ)の式で表すことができることや、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成が、前記イ(ウ)の式において、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成であることは、本件特許の請求項1や本件明細書には直接には記載されていない。
しかし、請求人は、請求人要領書(1)の26頁で参考説明図を示し、請求人要領書(2)の42〜49頁で、力学的検証を行い、48頁6行目で、上向きのモーメントと下向きのモーメントが等しいときに次の式(「式○12」)が成り立つことを示した。
R・Fs・sinβ=Rw・W・sinα−Ra・Fg・sinA (式○12)
(上記の式○12のR、Fs、Rw、Ra、Fg、角度α、角度βは、前記イで述べたものと同じであり、式○12の角度Aは、前記イ(イ)bで述べた角度θaと同じである。上記の式○12に基づいて、上向きのモーメントが下向きのモーメントよりも大きいときのモーメントの関係を示すとR・Fs・sinβ+Ra・Fg・sinθa>Rw・W・sinαとなり、これは、前記イ(イ)dの「R・Fs・sinβ+Ra・Fg・sinθa>Rw・W・sinα」という式と同じである。)
そして、請求人は、請求人要領書(4)の11頁で、上記の式(「式○12」)を変形すると、次の式となることを示した。
Fs=(Rw・W・sinα−Ra・Fg・sinA)/(R・sinβ)
(上記の式のR、Fs、Rw、Ra、Fg、角度α、角度βは、前記イで述べたものと同じであり、上記の式の角度Aは、前記イ(イ)bで述べた角度θaと同じである。上記の式は、等号か不等号かが異なる点を除けば、前記イ(イ)dでFsについて整理した式と同じである。)
被請求人は、被請求人従業員作成の乙14の6頁で、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)の計算方法として請求人が提示した上記の式を採用することを示し、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)と、エプロン角度θとの関係をシミュレーションした。被請求人は、被請求人従業員作成の乙18でも、同様の考え方に基づくシミュレーションを行った。なお、乙14の6頁に書かれた式の示す内容は、請求人が請求人要領書(4)の11頁で示した上記の式と同じである。
そして、角度α、β、θaは、前記イ(ウ)、(エ)のとおり、エプロン角度θとともに変化するものであるから(ただし、角度α及び角度βは、エプロン角度θが増加する分だけ増加するのに対し、角度θaの増加割合は、エプロン角度θの増加割合とは異なる。)、この式により、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)とエプロン角度との関係が示されるものであり、その点について、当事者間に争いがなかった。
このように、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成の理論的説明の具体的内容は、本件無効審判においては、本件発明に係る作業機の構造と力学に関する技術常識に基づいて請求人が提示し、被請求人は、それに基づいて、構成要件Gを実現する具体例をシミュレーションし、構成要件Gが実現できることを具体的に示した。
そうすると、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成の理論的説明は、力学に関する技術常識を勘案し、本件訂正後の請求項1及び本件明細書の記載により把握される本件発明に係る作業機の構造を参照するならば、当業者であれば認識できるものであったと認められる。

エ 本件明細書【0028】の記載
(ア)本件明細書【0028】の記載は、次のとおりである。
「【0028】
[アシスト操作力とエプロン角度との関係]
図7は、アシスト操作力とエプロン角度の関係を示すグラフである(出願人が製造販売する耕うん作業機を用いて実測した結果である。)。アシスト機構が作用しない場合には、エプロン角度(最も下降した状態を0°とし、これから回動するにつれて回動角度をエプロン角度と定義した。)が10°を超えたあたりから、ほぼ一定の荷重がかかることが理解される。他方で、アシスト機構が作用する場合には、エプロン角度0°近傍から、ほぼ線形に荷重が低減していく。そして、エプロン角度が約60°の点で荷重がゼロになる。つまり、作業者からみれば、だんだんと軽くなっていく。上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される。上記説明したガススプリング250は圧縮状態の力のほうが、伸長状態の力よりも大きいが、支点152が支点151に近づくにつれ、所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなるため、「てこの原理」により、逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)を奏する。」
(イ)力学に関する技術常識を勘案し、本件訂正後の請求項1及び本件明細書の記載から認められる本件発明に係る作業機の構造に照らすと、本件明細書の【0028】の記載は、次のとおり理解することができると認められる。
a すなわち、本件明細書の【0028】の記載は、エプロンを持ち上げる力をアシストする力とエプロン角度について述べるものであり、本件発明の作業機において、エプロンは、第1の支点(140)を中心として回転運動するものであり、ガススプリングにより加えられるアシスト力は第3の支点(152)に加えられるものであり、それによって、エプロンを持ち上げる力をアシストする力を得ることからすると、本件明細書の【0028】に記載された「てこの原理」とは、本件発明にかかる作業機の第1の支点(140)を「支点」とし、ガススプリングの力が及ぼされる第3の支点(152)を「力点」とし、エプロンの重心位置を「作用点」として、ガススプリングの力によってエプロンの持ち上げをアシストする力を得る関係を説明するものとして理解することができる。
b また、【0028】に、「上記説明したガススプリング250は圧縮状態の力の方が、伸長状態の力よりも大きい」とした上で、「逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)」と記載されていることからすると、「逆の特性」とは、「てこの原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力が、エプロン角度の増加に伴ってガススプリングが伸長状態となるために徐々に減少するにもかかわらず、「てこの原理」の「作用点」において得られるアシスト力が、エプロン角度の増加に伴って徐々に増加することを述べているものと理解できる。
c さらに、【0028】の「支点152が支点151に近づくにつれ、所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなるため」との記載は、「てこの原理」によって前記bの「逆の特性」を奏する理由を述べたものである。そして、てこの原理によれば、作用点に働く力が同じでも、力点と支点との距離が遠くなれば、力点に加える力は少なくて済むところ、本件発明に係る作業機においては、第1の支点(140)(てこの原理における「支点」)と第3の支点(152)(てこの原理における「力点」)との距離は構造上変わらない。エプロンが持ち上げられエプロン角度が増加するにつれて第1の支点(140)との距離が大きくなるのは、第1の支点(140)と、第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線との間の距離であって、この直線に沿って、ガススプリングによる力が働いている。
そうすると、「てこの原理」により「逆の特性」を奏するのは、エプロンが持ち上げられエプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力は小さくなるが、第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140)(てこの原理における「支点」)との距離が大きくなることから、両者の積で表されるモーメント(アシスト力として働く力)が大きくなることを意味しているものとして理解できる。
d これを図示すると、請求人提出の請求人要領書(1)の26頁の図面のとおりである。

第1の支点(140)と第3の支点(152)との距離をL、エプロンが下に降りている状態で(上図)、第3の支点に、第2支点に向かう方向にガススプリングにより加えられる力をF1、そのときの、第1の支点と第3の支点を結ぶ直線と第3の支点と第2の支点を結ぶ直線がなす角度をθ1とすると、第3の支点に、第1の支点を中心とする円の半径と直角をなす方向に働く力は、F1・sinθ1であり、第1の支点と第3の支点の距離はLであるから、第3の支点に働くモーメント(第1の支点を中心として、第3の支点に、エプロンを上向きに動かすように働くモーメント)は、力と距離の積であるF1・sinθ1・Lである。
他方、エプロンが上に上がっている状態で(下図)、第3の支点に、第2支点に向かう方向にガススプリングにより加えられる力はF2であり、そのときの、第1の支点と第3の支点を結ぶ直線と第3の支点と第2の支点を結ぶ直線のなす角度をθ2とすると、第3の支点に、第1の支点を中心とする円の半径と直角をなす方向に働く力は、F2・sinθ2であり、第1の支点と第3の支点の距離はLであるから、第3の支点に働くモーメント(第1の支点を中心として、第3の支点に、エプロンを上向きに動かすように働くモーメント)は、力と距離の積である、F2・sinθ2・Lである。
上記のとおり、エプロンが下に降りている状態で(上図)第3の支点に働くモーメントはF1・sinθ1・Lであり、エプロンが上に上がっている状態で(下図)第3の支点に働くモーメントはF2・sinθ2・Lであるところ、前記cのとおり、「てこの原理」により「逆の特性」を奏するのは、エプロンが持ち上げられエプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力は小さくなるが、第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140)(てこの原理における「支点」)との距離が大きくなることから、両者の積で表されるモーメント(アシスト力として働く力)が大きくなることを意味しているものとして理解されるから、このような「てこの原理」に従った整理をするならば、エプロンが下に降りている状態で(上図)第3の支点に働くモーメントは、ガススプリング自体の力であるF1と、第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140)との距離であるLsinθ1の積であるF1・Lsinθ1であり、エプロンが上に上がっている状態で(下図)第3の支点に働くモーメントは、ガススプリング自体の力であるF2と、第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140)との距離であるLsinθ2の積であるF2・Lsinθ2であるとして整理される。
エプロンが上に上がっている状態(下図)では、エプロンが下に降りている状態(上図)よりも、上向きのモーメントは大きくなり、作業者がエプロンを持ち上げる力は少なくなるから、F2・Lsinθ2>F1・Lsinθ1となる。
ガススプリングは、圧縮状態の力の方が伸長状態の力よりも大きい(【0028】)から、F2<F1であるが、他方、θ2>θ1であるから、sinθ2>sinθ1であり、エプロンが持ち上げられるにつれて、F1がF2に減少する割合よりも、sinθ1がsinθ2に増加する割合の方が大きいと、F2・Lsinθ2>F1・Lsinθ1となる。このように、エプロンが持ち上げられるにつれてガススプリングにより加えられる力が小さくなり、F2<F1となるが、それとは逆に、エプロンに働くモーメントが大きくなるようにすれば、F2・Lsinθ2>F1・Lsinθ1となる。このようにして、「てこの原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力が、エプロン角度の増加に伴ってガススプリングが伸長状態となるために徐々に減少するにもかかわらず、「てこの原理」の「作用点」において得られるアシスト力が、エプロン角度の増加に伴って徐々に増加し、このことを、【0028】では「逆の特性」と述べているものと理解されるものと認められる。
(ウ)前記イ(エ)のとおり、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成の理論的説明は、前記イ(ウ)の式において、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成であり、前記ウのとおり、技術常識を勘案し、本件訂正後の請求項1及び本件明細書の記載により把握される本件発明に係る作業機の構造を参照するならば、上記の理論的説明は、当業者であれば認識できるものと認められる。そして、請求人が、請求人要領書(1)の25〜26頁で参考説明図を示し、F2・Lsinθ2>F1・Lsinθ1との式が成り立つことを示し、この式が成り立つことについては被請求人も争っていないことを考慮すると、【0028】が前記(イ)a〜dのとおりの意味であることは、当業者であれば認識できたものと認められる。
なお、前記イ(ウ)のエプロン角度は、エプロンが、第1の支点を通る直線に対してなす角度をθとし、エプロンが最も下降したときにθ=0°とするものであり、請求人要領書(1)26頁の参考説明図に示された角度θ1、θ2とは異なるが、エプロンが持ち上げられるに従って前記イ(ウ)のエプロン角度θは大きくなり、他方、エプロンが下降した状態の角度θ1よりもエプロンが上昇した状態の角度θ2の方が大きいから、エプロンが持ち上げられるに従って大きくなる点でこれらは共通する。そして、前記イ(ウ)の式中の各項目のうち、θ以外の項目を適宜設定し、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実現するに当たって、【0028】には「ガススプリング250は圧縮状態の力のほうが、伸長状態の力よりも大きい」と記載されていることから、エプロン角度が増加するに従って第3の支点に働くガススプリング自体のアシスト力(Fg)が弱くなるような設定がされているところ、それにもかかわらず操作者がエプロンを跳ね上げるのに要する力Fsが減少していくことの説明が【0028】において行われているものと認められる。
(エ)請求人は、本件明細書の【0028】の記載及び【図7】は、本件発明と構成を異にする被請求人の「FTE240」という製品に関するものであり、「FTE240」において構成要件Gが実施可能であるとしても、本件発明において構成要件Gは実施できないと主張する。しかし、本件明細書の【0028】の記載は、本件発明に関して前記(イ)、(ウ)のとおり理解できるものと認められるところ、この論理は、特定の製品以外の耕うん機にも適用可能なはずであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。

(3)構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢について
ア 請求人は、本件発明において構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢は、耕うん状態(作業状態)である旨を主張している(上記第4の3(4)エ(イ)及び(エ))。
イ(ア)構成要件Gを実現する際の作業機の傾きについて、本件訂正後の請求項1においては何ら限定は加えられていないが、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【0006】【0007】、【発明の効果】【0013】によれば、本件発明は、エプロンを跳ね上げるためのアシスト機構に従来存した課題を解決し、安定したアシスト動作が可能であり、ガススプリングの劣化も防止した作業機を提供することにあると解されるところ、【0002】には「このようなロータリ作業機は走行機体と接続されるフレームと、フレームの後方に設けられ、フレームに固定された支点(第1の支点)を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能なエプロンを有している。エプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合には、エプロンを跳ね上げた状態に保持する。」と記載されている。そして、エプロンを跳ね上げるためのアシスト動作が必要になるのは、耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりするという作業を行うときであり、これらの作業は、その目的、性質や手順等に照らし、「耕うん爪が圃場に侵入した状態」ではなく、作業機が前傾している「作業機全体(刃を含む)が地上から引き上げられた状態」で行うのが通常であると認められる。以上のような発明の目的等に照らしてみると、作業機が前傾している「作業機全体が地上に引き上げられた状態」で構成要件Gを実現することができるのであれば、構成要件Gは実施可能であると認められる。構成要件Gが実施可能であるというために、作業機が上記以外の姿勢の場合にも構成要件Gが実施可能であることを示さなければならないとする根拠はない。
しかるところ、乙14における「第1の姿勢」(入力軸が水平より33°前傾した状態)及び「第2の姿勢」(入力軸が水平より18°前傾した状態)、乙18における「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた位置、入力軸が水平より30.5°前傾した状態)は、上記の「作業機全体が地上に引き上げられた状態」であるものと認められる。そして、乙14によれば、「第1の作業機」において、「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」で、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したことが認められ、乙18によれば、「第1の作業機」において、「最上姿勢」で、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したことが認められるから、構成要件Gは実施可能であると認められる。
(イ)請求人は、本件明細書の【0037】の「耕うん状態においてエプロンが下降した状態から、作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり、相当程度の力をもって・・・一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば、その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。」との記載における「耕うん状態」は、「耕うん作業時」(【図2】の「耕うん姿勢」)の意味にしか理解できないし、本件明細書に記載されている作業機の姿勢は、【図2】の「耕うん姿勢」が唯一であり、しかも、この「耕うん姿勢」に被請求人も同意して検証が行われたのであるから、「トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢」や「スタンド姿勢」などの本件明細書に記載のない条件下でしか実現できないのであれば、本件発明の構成要件Gは実施可能であるとはいえないと主張する。
しかし、【0037】の記載は、実施例の説明にとどまるし、前記(ア)で指摘した点をも踏まえて検討すると、耕うん状態においては、エプロンを跳ね上る必要が通常ないばかりか、安全等のために不用意にエプロンが跳ね上げられるのを防止する必要があるところ、「耕うん状態」への言及は、耕うん作業中に作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなることに関してなされたと解する余地があり、【0037】の記載から逆に、耕うん状態においてもアシスト機構が適切に機能することが必要であるとして本件発明の内容を限定する根拠はない。また、【図2】も、耕うん機の形状や構成を説明する図であって、アシスト機構の説明をするための図ではないと解する余地もあるから、これによって耕うん状態においてもアシスト機構が働くことが示されていると断定することはできない。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。
なお、請求人従業員作成の平成30年1月31日付け報告書である甲13には、耕うん姿勢でエプロンを跳ね上げるのに要する力を測定することが記載されていたところ、本件無効審判において、検甲1を用いてエプロンを跳ね上げるのに要する力の測定(検証)を行うに当たり、被請求人は、「前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ことを、甲第13号証に記載された方法により測定することに同意し、その結果、エプロンを跳ね上げるのに要する力の測定(検証)は、耕うん姿勢で行われた。しかし、上記の被請求人の対応は、検甲1を用いてエプロンを跳ね上げるのに要する力を測定(検証)する方法に関するものにとどまり、その後の被請求人の主張を制限する根拠となるようなものであったとは認められない。

(4)エプロンを跳ね上げる力の減少の程度について
ア 請求人は、どのようにすれば、本件特許の図7のグラフの如く、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が約250Nから約ゼロNへと急激に減少する結果を得ることができるのか、当業者であっても全く理解できないから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない旨を主張している(上記第4の3(4)イ(ア))。
イ(ア)そこで、エプロンを跳ね上げるのに要する力がどの程度減少すれば、構成要件Gは実施することができると言えるか、検討する。
(イ)構成要件Gの、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成が実施可能であるというためには、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少することが必要であると認められる。その理由は、次のとおりである。
すなわち、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という文言によれば、構成要件Gが実現されているというためには、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少することが必要である。また、本件明細書には、「しかしながら、エプロンはそれなりの重量があり、その重心が支点(第1の支点)よりも後方にあることから、作業者にとってエプロンを跳ね上げる作業は重労働である。」(【背景技術】【0003】)と記載されており、エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であることが背景技術として指摘されている。そして、このような背景技術の問題点を解決するために、先行技術文献に、エプロンを跳ね上げる作業を容易にするために跳ね上げる力を補助するエプロン跳ね上げアシスト機構が記載されていたところ(【0004】)、それらの先行技術が有していた問題点が、本件発明が解決しようとする課題として指摘されている(【発明が解決しようとする課題】【0006】【0007】)。更にそれに続けて本件発明の内容が記載され(【課題を解決するための手段】【0008】〜【0012】)、発明の効果として「本発明の作業機によれば、安定したアシスト動作が可能であり、ガススプリングの劣化も防止した作業機を提供することができる。また、エプロンが下降状態にあるときに、いきなりエプロンが跳ね上がらないようにすることが可能となる。」(【0013】)と記載されている。このような本件明細書の記載によれば、本件発明は、エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であることを解決し、エプロンを跳ね上げる作業を容易にするために設けられるエプロン跳ね上げアシスト機構について、先行技術の問題点を解決することを課題とするものであることが認められ、そのような課題を解決することにより、エプロン跳ね上げアシスト機構の安定したアシスト動作を可能にし、エプロンを跳ね上げる作業を容易にして、究極的には、エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であるという問題を解決するものであると認められる。構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」は、作業者がエプロンを跳ね上げるのに要する力であるところ、上記のような本件発明の意義に鑑みれば、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成が実現されているというためには、エプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって容易になる必要があるというべきであり、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少することが必要であると認められる。【図7】には、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度がおおむね0°から60°に変化する間に、250Nから0Nまで徐々に減少したことが示されているところ、エプロンを跳ね上げるのに要する力の減少の程度が【図7】に示された具体的な数値に限定されると解する根拠はないが、【図7】は、本件発明において、エプロンを跳ね上げるのに要する力が一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少することを裏付けることを意図しているといえる。
(ウ)しかるところ、乙14の7頁のグラフによれば、「第1の作業機」において、「第1の姿勢」の場合(同グラフの青色線)には、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が0°から60°に変化する間に、250Nから0Nになるまで徐々に減少したことが認められ、「第2の姿勢」の場合(同グラフの黄色線)には、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が0°から60°に変化する間に、約230Nから約75Nまで、割合でいうと3分の1以下になるまで徐々に減少したことが認められる。また、乙18の6頁のグラフによれば、「第1の作業機」において、「最上姿勢」の場合(同グラフの青色線)には、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が0°から60°に変化する間に、約230Nから約20Nまで、割合でいうと11分の1以下になるまで徐々に減少したことが認められる。これらの場合には、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロンが上に持ち上げられるまでの間に徐々に減少しており、減少の割合はいずれも相当に大きいから、エプロンを跳ね上げるのに要する力の減少は、一般的な作業者が感じることができる程度のものであったと認められる。そうすると、これらの場合には、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したものと認められ、構成要件Gの実施が可能であることが立証されたものと認められる。したがって、構成要件Gは実施可能であると認められる。
(エ)請求人は、構成要件Gの「前記エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する程度について、本件明細書の【0037】には「・・・相当程度の力をもって・・・一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば、その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。」と記載されており、【図7】のグラフに、アシスト操作力が約250Nから約0Nになることが示されているから、【0037】の「相当程度の力」は約250Nを意味し、「ますます軽い力」は約ゼロに向かう力を意味すると主張する。
しかし、本件発明においては、作業機の大きさや重量は制限されていないから、本件発明に係る作業機としては、種々の大きさ、重量のものが想定され、そのことは、【0030】に「変形例」として「重量のあるエプロンを有する大型の耕うん作業機や代かき機等」と挙げられていることからも裏付けられるものであり、そのことに鑑みれば、本件発明においてエプロンを跳ね上げるのに要する力が具体的な数値に限定されると解することはできない。そして、本件明細書の【0037】は、本件発明の実施例の説明であり、【図7】は、本件発明の実施例に係る作業機の跳ね上げアシスト機構の効果を示す図にとどまり、構成要件Gの「前記エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する程度が【図7】に示された具体的な数値に限定されるとする記載は本件明細書にはないし、そのように解する根拠はない。したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(5)発明の構成の実施に過度な試行錯誤を要するかについて
ア 上記(2)ないし(4)をふまえて、本件明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができる程度に発明の説明が記載されているか否かを、判断する。

イ(ア)構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成は、前記(2)イ(ウ)の式中の各項目のうち、θ以外の項目を適宜設定し、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するようにすることにより、実現されるものと認められるところ、前記2イ(ウ)の式中の各項目のうち、θ以外の項は複数存在することから、それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを検討することが必要となる。
この点に関し、被請求人は、【図2】に記載された各支点の基本的な位置関係に基づき、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし、乙14の7頁のグラフの結果を得た。そして、同グラフによれば、【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして、第3の支点152の位置を、第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第1の作業機」において、「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾した状態)の場合(同グラフの青色線)には、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が0°から60°に変化する間に、250Nから0Nに徐々に減少したことが認められ、「第2の姿勢」(作業機が水平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が0°から60°に変化する間に、約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められる。また、乙18の6頁のグラフによれば、「第1の作業機」において、「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた位置、入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場合、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が0°から60°に変化する間に、約230Nから約20Nまで徐々に減少したことが認められる。そして、これらの場合は、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したものと認められるから、これらのシミュレーションにより、構成要件Gの実施が可能であることが立証されたものと認められる。
これらのシミュレーションは、コンピュータを用いたものと推認されるが、その実施が特に困難であったとは認められず、上記の結果を得るために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。
したがって、前記(2)イ(ウ)の式中の各項目のうち、θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を実施するために、当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認められる。

(イ)a 請求人は、本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており、【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたことが明らかにされているとした上、被請求人が、力学的なシミュレーションにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たとする「第1の作業機」は、【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり、本件明細書、本件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないものであるから、「第1の作業機」を用いて得た乙14の7頁のグラフ及び乙18の6頁のグラフに基づいて、本件発明の構成要件Gが実施可能であるとする被請求人の主張は誤りであると主張する。
しかし、【図2】の作業機は、本件発明の構成を説明するための作業機の一例であるところ(【0016】)、本件発明の特許請求の範囲において、支点の位置に関しては、第2の支点及び第3の支点の位置について、アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能であること(構成要件E)が定められているのみであることからすると、その定めを充たしていれば、本件発明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置は、【図2】に示される具体的な位置と同じである必要はない。そして、特許出願の願書に添付される図面は、設計図のように寸法等が正確なものが求められるものではなく、発明の技術内容を理解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり、【図2】も、本件発明の構成を説明するために示されたものであって、設計図のように厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないから、【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで全体の構成が同じであり、構成要件Eも満たしている「第1の作業機」において、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成が実施可能であることが示されていれば、本件発明の構成要件Gは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されているが、本件発明の構成が特許請求の範囲により特定されていることからしても、上記の【0028】の記載は、本件発明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認められない。したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
b 請求人は、「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(乙19)は、直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のものであり、【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」のものでないところ、【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明らかであると主張する。
しかし、本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングについて、本件訂正後の請求項1には、「ガススプリング」と記載されているのみであり、「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイプ」であるかについての特定がない。また、本件明細書の【0029】には、「上記実施例においては、ガススプリングとして、フリーピストンを有するものを用いたが、フリーピストンを用いない従来型のガススプリングを用いることも可能である。」と記載されており、本件発明のガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨記載されている。そうすると、「オールガスタイプ」のガススプリング(乙19)を計算に用いて、前記(ア)のとおり、「第1の作業機」により構成要件Gが実施可能であることが示されていること(乙14の1〜2頁、乙18の1頁、乙19)からすれば、構成要件Gは実施可能であると認められ、請求人の上記主張は、採用することができない。
c 請求人は、本件発明に係る作業機を自ら開発した被請求人ですら、【図7】のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能であることは明らかであると主張する。
しかし、特許発明が実施可能性であるか否かは、実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは、【図7】のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによって判断されるものではない。そして、前記(ア)のとおり、乙14、乙18によれば、構成要件Gは実施可能であることが認められ、請求人の上記主張は、採用することができない。
そうすると、請求人は、請求人回答書の4頁において、
○1 一次審決は、図7のグラフを得たという作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していないが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能である。
○2 被請求人は、作業機のアシスト機構に設けられて図7のグラフを得ることができたという「フリーピストンタイプ」のガススプリングが当時存在していたことを何ら立証していない。
○3 本件明細書の【0028】の記載中の「出願人が製造販売する耕うん作業機」は、その当時に被請求人が製造販売していた「FTE240」(甲50)を意味するから、構成Gは本件発明の構成ではない。
といった旨を主張しているが、これらの主張をもって、構成要件Gが実施可能であるとの判断が左右されるものでないことは明らかである。

(6)実施可能要件のまとめ
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。

3 無効理由1
(1)対比
本件発明と検甲1発明を対比する。
ア その構成及び機能からみて、検甲1発明の「走行機体」、「耕うんロータ」、「ロータリ作業機」、「主フレーム」、「第1の支点」、「エプロン」、「第2の支点」、「第3の支点」、「ガススプリング」、「第1の筒状部材」、「第2の筒状部材」は、それぞれ、本件発明の「走行機体」、「耕うんロータ」、「作業機」、「フレーム」、「第1の支点」、「エプロン」、「第2の支点」、「第3の支点」、「ガススプリング」、「第1の筒状部材」、「第2の筒状部材」に相当する。

イ 次に、請求人が提出した甲第5ないし7、20号証及び一般的な展示会での常識を考慮すると、展示会において、検甲第1号証に係る作業機のパンフレットである甲第14号証が配布され、そして、同号証の記載内容程度の事項は説明されたと認められるから、甲第14号証の「均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げる」との記載からみて、検甲1発明の「らくらくアシスト機構」は、本件発明の「アシスト機構」に相当し、また、該作業機の外観からは見ることはできないものの、「らくらくアシスト機構」は「ガススプリングを含んで」おり、「第1の筒状部材」と「第2の筒状部材」の内部には、「ガススプリング」が位置していることが分かる。
また、ガススプリングは通常、シリンダーと、シリンダーの内部に挿入されたピストンと、ピストンから延長されるピストンロッドからなっており、そのガススプリングの両端は、一方がシリンダーの先端であって、他方がピストンロッドの先端である。

ウ 検甲1発明において、「エプロンを最下段まで降ろした状態で、第1の筒状部材の長孔が129mm現れ、該長孔を介して第1の筒状部材の内部に部材が見えており、エプロンを最上段まで上げた状態で、第1の筒状部材の長孔が、17.77mm現れている」ことから、技術常識を踏まえれば、「らくらくアシスト機構」の構造について以下の事項が理解できる。
(ア)まず、第1の筒状部材及び第2の筒状部材からなる「らくらくアシスト機構」は、「ガススプリングを含」んでいるから、内部に見えている部材は、ガススプリングであることは明らかである。
(イ)次に、ガススプリングが取り付けられた位置であるが、ガススプリングの両端を、共に同じ筒状部材に取り付けるとガススプリングの伸縮する機能を活用できないから、ガススプリングの両端は、それぞれどちらかの筒状部材に取り付けられる必要がある。
(ウ)そして、該長孔を介して第1の筒状部材の内部に部材(ガススプリング)が見えているが、ガススプリングの第2の支点側(フレーム側)の端部を第1の筒状部材に固定すると、該長孔が意味のないものとなるから、該端部は、第2の筒状部材の第2の支点側(フレーム側)の端部に固定され、逆に、ガススプリングの第3の支点側(エプロン側)の端部は、第1の筒状部材の第3の支点側(エプロン側)に固定されることとなる。
(エ)また、ガススプリングの上記(ウ)の固定点を勘案すると、ガススプリングが伸びることにより、第2の筒状部材は、長孔を隠すように移動するから、現れた長孔の長さからみて、エプロンを最下段まで降ろした状態が、ガススプリングが短い状態であって、エプロンを最上段まで上げた状態が、ガススプリングが長い状態となる。

エ 検甲1発明の「らくらくアシスト機構」の構造は上記ウのとおりに認められることから、技術常識を踏まえれば、該機構の作用について以下の事項が理解できる。
(ア)上記ウ(エ)からみて、「均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げる」ことから、上記ウ(エ)の構造を勘案すると、「らくらくアシスト機構」のガススプリングは、伸長タイプである。
(イ)上記(ア)から、検甲1発明のガススプリングは、第2の支点と第3の支点を変化させる力を作用させることによってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるものである。
(ウ)検甲1発明の「らくらくアシスト機構」は、「均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で持ち上げる」ものであるから、エプロンを持ち上げる力を該機構がアシストする、つまり、該機構がエプロンを押し上げるように働く必要があり、そして、「らくらくアシスト機構」の両筒状部材のうち、エプロンに接続されているのは第2の筒状部材であるから、検甲1発明の「前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して」いることは、「前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化する」ものである。
(エ)上記ウ(エ)からみて、検甲1発明のガススプリングは、エプロンが下降した地点において収縮するように構成される。

オ 以上のことから、本件発明と検甲1発明とは、
「A 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
B 前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
C 前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
D 前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
J 前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
E 前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
F’前記第1の筒状部材のフレーム側の一端には前記第2の支点が、第1の筒状部材のエプロン側の他端には前記ガススプリングの一端とが接続され、前記第2の筒状部材のフレーム側の一端には前記ガススプリングの他端が接続され、
G’前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化し、
H 前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成される
I 作業機。」で一致するものの、以下の2点で相違している。

〔相違点1〕
構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」について、本件発明では、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」すると特定されているのに対し、検甲1発明では、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するとは特定されていない点。
〔相違点2〕
本件発明では、ガススプリングのピストンロッドの先端が、第1の筒状部材のエプロン側の他端に接続され、同じくシリンダーの先端が、第2の筒状部材のフレーム側の一端に接続されているのに対し、検甲1発明では、上記接続において、ガススプリングの両端のうち、ピストンロッドの先端及びシリンダーの先端が、それぞれいずれの側に接続されるかの特定がない点。

(2)相違点の判断
ア 相違点1について
請求人は、検甲1発明は、本件発明の構成要件Gを備えているから、相違点1は、実質的な相違点ではないという旨主張しているので、以下、(ア)検甲第1号証に係る作業機(以下「検甲1作業機」という。)が、エプロンを跳ね上げるのに要する力について、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(以下、単に「エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成」ということがある。)を有していたといえるか、(イ)検甲1作業機がエプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有していたとして、当該構成が、展示会における展示によって、不特定の者によって技術的に理解されるか、又は、そのおそれのある状況で実施されたといえるか(検甲1発明として認定できるか)について、検討する。

(ア)検甲1作業機がエプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有していたといえるかについて検討する。
a 前記「2(2)イ(ウ)」で検討したとおり、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとは、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)について、前記「2(2)イ(ウ)」に示した関係を満たすFsが、エプロンが、本件発明における第1の支点を通る直線に対してなす角度θ(エプロンが最も下降したときをθ=0°とする。)が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成である。
前記「2(2)イ(ウ)」に示した関係中の各パラメータのうち,θ以外の項目を適宜設定し、Fsが、θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実現することにより、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成は実現される。
したがって、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有するか否かには、上記関係式中のFg(第3の支点に,第2の支点の方向に働くアシスト力)が影響し、Fgは、「第2の支点と第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構」(構成要件D)によるものであるから、アシスト機構で採用される「ガススプリング」の特性(ストローク長とガス反力の関係、等)に依存する。
そうすると、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を有しているか否かは、外観のみから認識できる性質のものではなく、上記展示会において展示された検甲1作業機の外観のみから、検甲1作業機が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有しているとすることはできない。
この点、請求人は、検甲1作業機が構成要件Gを備えることは、各支点(第1の支点、第2の支点及び第3の支点)の位置関係からみても明らかであるという旨主張する。
しかし、上記のとおり、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有するか否かは、アシスト機構で採用される「ガススプリング」の特性にも依存し、各支点の位置関係のみで決まるものではなく、実際、甲18に記載された発明は、各支点の位置関係は本件発明に近いといえるが、アシストオン状態において、「エプロン角度」が0°の状態から一定の角度にまで増加する範囲では、整地体を持ち上げるのに要する力はそもそも不要である。
したがって、請求人の当該主張には理由がない。
b 上記展示会で頒布されたと認められる甲14のカタログには「洗車や爪交換で均平板を上げる時にガススプリングを利用して従来の約半分の力で均平板を持ち上げ可能」との記載しかなく、検甲1作業機が採用しているアシスト機構について述べているとしても、当該アシスト機構が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有するとまでは説明するものではなく、その他の証拠をみても、当該アシスト機構が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有するとか、そのような設計思想のもとに設計されていることを窺わせる記載はない。
c 請求人は、甲第13号証の報告書(以下「甲13報告書」という。)を提出し、検甲1作業機について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度の増加に応じて徐々に減少することを確認」する調査を行い、その旨確認できたと主張する。
しかし、平成30年10月30日に行われた検証物(検甲1作業機)の検証において、甲13報告書における調査方法と同様の方法により、請求人も立会いの下、検証物(検甲1作業機)について、アシスト機構がオンの状態でエプロンの角度が20.5°から59.9°まで(1回目)、及び、10.1°から59.9°まで(2回目)の範囲にわたって、また、アシスト機構がオフの状態で10.1°から59.9°までの範囲にわたって、エプロンを跳ね上げるのに要する力を実際に測定したところによれば、アシスト機構がオンの状態については、甲13報告書で示された調査結果とは異なり、エプロンを跳ね上げるのに要する力はエプロン角度の増加にともなって略一定であり、徐々に減少するという結果を得ることができていないし、なぜ異なる結果が得られるのかについて合理的な理由も見いだせない。
したがって、甲13報告書及び上記検証結果によっては、検甲1作業機が、エプロンを跳ね上げるのに要する力について、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を有しているとすることはできない。
d ここで、請求人は、検甲第1号証に係る作業機について、「検証物(作業機の姿勢は、検証時の測定姿勢である作業姿勢を0°とし、前傾15°、30°、45°の15°毎の値を計算した」ところ、「スタンド姿勢であれば、検甲第1号証における要する力(アシスト有りのFs)は、全範囲にわたって大幅に減少し」たことを確認した旨を主張している(上記第4の3(1)エ(ア)b)。
請求人が行った上記計算について、作業姿勢が0°の場合における検証時の実測値と当該計算による値とを比較すると(請求人上申書(2)29頁表2、表3参照)、「アシスト無」の場合、検証時の実測値では、エプロン角度が20°から60°にかけて40N程度も減少しているのに対し、当該計算によれば、18N程度しか減少しておらず、「アシスト有」の場合、検証時の実測値では、エプロン角度が10°から60°にかけて1回目、2回目とも略一定であり、減少傾向であることを示していないのに対し、当該計算によれば、7N程度減少し、減少傾向であることを示しており、当該計算式が検甲1作業機の検証時の状態を十分に再現しているとはいえない。また、当該計算において、機械的損失は15(%)を用いたとされ(請求人上申書(2)29頁)、機械的損失は実測時に測定値に影響を与える摩擦を考慮するためのものとされているところ(請求人要領書(3)32頁)、請求人要領書(4)23頁の[表4]の計算では、「機械損失」としてエプロン角度にかかわらず一律「10%」を用い、同24頁の[表5]の計算では、エプロン角度に応じて12%〜41%の数値を用いているが、検甲1作業機の検証時の実測値と当該計算において機械的損失として15(%)を用いることとの関連性にも根拠が認められない。
したがって、当該計算式が「展示品」たる検甲1作業機の検証時の状態を再現するもの、又は「展示品」たる検甲1作業機が当該計算式にしたがって挙動するものとはいえず、請求人の上記主張をもって、検甲1作業機が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少する構成を有しているということはできない。

(イ)上記(ア)のとおり、検甲1作業機は、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有しているとはいえないが、仮に検甲1作業機が当該構成を有していたとして、当該構成が、展示会における展示によって、不特定の者によって技術的に理解されるか、又は、そのおそれのある状況で実施されたといえるか(検甲1発明として認定することができるか)について予備的に検討する。
請求人は、上記の夏季展示会において、「『新製品を触れることはNGである』旨の申し出は誰に対しても一切行っていないし」(上記第4の3(1)ア(イ))、「新たに採用したアシスト機構(従来の約半分の力で均平板を持ち上げ可能とするもの)のPRの際に、そのアシスト機構の効果を実際に見学者に触れて実感してもらうことは当然であり、そのための展示会である。」(同上)と主張する。
しかし、甲第20号証の写真や記事内容をみても、請求人従業員がアシスト機構を操作し、エプロンを回動させたと理解することに格別違和感はなく、実際に、見学者が検甲1作業機のアシスト機構を体感したと認めるに足りる証拠はない。
請求人は、「展示会での検証物の展示状況は、請求人の展示ブースを訪れた者であれば誰でも、検証物に触れることができ、エプロンの回動角度とその重さを確認できるような状況であった。」、「展示会においては、単に検証物(検甲第1号証)の外観だけを見せていたのではなく、見学者が実際に検証物に触れてエプロンを持ち上げることができ」たなどと主張する(請求人要領書(1)5頁及び12頁)。
しかし、検甲1作業機は当該展示後に商品として販売されることが予定されていたこと(甲9、甲10、甲11)、検甲1作業機は、展示会において「実演機」としてではなく、「展示のみ」を許された展示品として出展されたこと(甲2)、請求人社員により検甲1作業機の写真撮影が禁止されていたこと(甲8の3、甲8の5、乙5)、請求人の展示ブースを撮影した写真(甲7)を見ると、検甲1作業機のエプロンの後方にエプロンの幅と同程度の幅を有するパネルが配置されており、作業者がエプロン後方の幅方向中央に立って、両手でエプロンを持上げる通常の操作方法によりエプロンを持ち上げるには、わざわざバネルを移動させる必要があったことなどを総合考慮すると、見学者が検甲1作業機のエプロンの後方に立ってエプロンを持ち上げる行為は実質的に許容されていなかったと理解する方が自然である。
そうすると、当該展示会において検甲1作業機について公衆が知り得た事項は、外観を観察することによって知り得る構成と、甲第14号証のカタログに記載された内容と、請求人の担当者が展示会において見学者に対して行い得た口頭説明の内容から知り得る構成に限られる。
したがって、仮に検甲1作業機がエプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成を有していたとしても、見学者が検甲1作業機のエプロンを持ち上げることがない以上、当該構成を検甲1発明として認定することはできず、検甲1発明は、上記相違点1に係る本件発明の構成を備えているとはいえない。

(ウ)請求人は、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する構成は、技術的意義(技術的効果)を有さず、単なる設計的事項に過ぎないから、進歩性の判断を左右するものではないという旨主張する(請求人要領書(1)22頁)。
しかし、上記構成の技術的意義について、本件明細書の【0037】の記載によれば、エプロンが下降した状態からエプロンを跳ね上げるためには、最初は相当程度の力をもってエプロンをある程度の角度まで跳ね上げる必要があるため、「作業者が誤ってエプロンを跳ね上げる」という危険を防止することができるとともに、「回転角度が上昇するに従って跳ね上げに要する力が減少していく」ため、「その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる」ことが認められるから、技術的意義を有していないとはいえない。

(エ)裁判所の判断、被請求人の主張に基づく請求人の主張について
a 請求人は、展示会において検甲1発明に係る作業機の構造を参照した当業者は、力学的な技術常識から構成Gの理論的説明を認識でき、構成Gの理論的説明における計算式を用いてシミュレーションして、構成Gを導き出すことができる旨を主張している(上記第4の3(1)エ(ア)c(a))。
しかしながら、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、数式としてどのように表記されるかについて、技術常識から理解することができ、当該力を「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ように調整しようする当業者にとって、数式中に表れる調整可能なパラメータを調整することが、過度の試行錯誤を要することなく実施可能であるからといって、そのことから直ちに、展示会において検甲1発明に係る作業機を参照した当業者が、エプロンを跳ね上げるのに要する力を、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ように調整しようとすることに結びつくものではない。そして、調整可能なパラメータの選択に応じて、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」のエプロン角度に応じた変化の傾向は変わり得るところ、検甲1発明において、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化の傾向を、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ように設定することについて、動機付けや示唆があるということはできない。
したがって、上記相違点1に係る本件発明の構成を実施するうえで、本件発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、その理論的な説明が認識できるものであることは、検甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明の構成を採用することに結びつくものではなく、検甲1発明において何らかの力に注目すれば当該力を数式で表記することが技術常識から可能であるとしても、そのことをもって、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化の傾向について、上記相違点1に係る本件発明の構成とすることが、当業者にとって容易に想到できたものではない。
b 請求人は、検甲1発明においても、本件発明の構成Gに相当する構成は過度の試行錯誤を要するものではなく、検甲1発明が備えているか、少なくとも当業者にとって容易想到な構成である旨を主張している(上記第4の3(1)エ(ア)c(b))。
しかしながら、上記(ア)のとおり、検甲1発明が、相違点1に係る本件発明の構成に相当する構成を有していると言うことはできず、上記aのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、本件発明の構成Gを実施しようとする当業者にとって、過度の試行錯誤を要さないからといって、検甲1発明において、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変化の傾向を、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ように設定することについて、動機付けや示唆があるということはできないから、上記相違点1に係る本件発明の構成に至ることが、当業者にとって容易というものではない。
c 請求人は、エプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって容易になれば構成要件Gが実現されているものであり、アシスト機構を有する検甲1発明において相違点1に係る本件発明の構成は実現されている旨を主張している(上記第4の3(1)エ(ア)c(d))。
しかしながら、請求人が援用する判決の判示は、「本件発明の意義に鑑みれば、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成が実現されているというためには、エプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって容易になる必要があるというべきであり、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少することが必要であると認められる。」というものであるところ、請求人の上記主張は、判決が上記判示の前半部分で強調する必要条件のみに着目し、上記判示の後半部分で言及する「エプロン角度の増加に伴って・・・徐々に減少することが必要である」との記載、及び相違点1に係る本件発明の構成における特定を軽視するもので妥当でない。
d 請求人は、被請求人が、本件発明と同様の支点の位置関係を有する作業機において、エプロン角度が増加するにつれて、アシスト力が徐々に減少する構造も、ほぼ一定の構造も、本件発明のように徐々に増加する構造も、適宜設計することができると主張していることから、本件発明と支点の位置関係が同じ検甲1発明に係る作業機においても同様である旨を主張している(上記第4の3(1)エ(ア)d)。
しかしながら、被請求人の上記主張は、上記相違点1に係る本件発明の構成を含む、本件発明の構成Gについて、本件発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすことを主張するものであり、上記(イ)a及びbに判断したとおり、検甲1発明において、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」を「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ように設定することについて、動機付けや示唆はないから、検甲1発明において上記相違点1に係る本件発明の構成を採用することが設計事項となるものではない。

(オ)甲第29号証及び甲第30号証に照らして
請求人は、「検甲1発明と甲29、30号証に記載された技術事項とは、いずれも開閉体の持ち上げ(跳ね上げ)をアシストするガススプリングを含むアシスト機構に関する同じ技術分野に属する技術であって、開閉体の持ち上げ時に作業者からみてその開閉体がだんだんと軽くなる点で作用機能も共通している。」(上記第4の1(1)エ(イ))、「検甲1発明において、甲第29、30号証に記載された技術事項(周知技術又は公知技術)を適用して、相違点1に係る本件発明の構成にすることは、当業者にとって容易想到である。」(同上)旨主張している。
しかしながら、甲第29号証についての請求人の主張は、エンジンフードを開度0°から開度60°(第1の開度)を経て開度90°(第2の開度)まで開けていく際の作業者による一連の操作力(なお、図12(a)に示される挙動からはモーメント力と解され、前記「2(2)イ」で定義される「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)に相当するものでないことはひとまずおく)のうち開度0゜から約40゜までの操作力にのみ着目するもので妥当でなく、甲第30号証の図8には、バックドアの開放時の操作力の変化も示されているところ、開放位置(開度50度)に到るまでのうち、開度20度に到るまでには操作力がゼロとなり、以降は開放位置まで自動で開くようにして開放操作を不要にするものであるから、本件発明の構成Gにいう「要する力」が「徐々に減少」することが記載されているとはいえない。
しかも、甲第29、30号証は、作業機とは異なった分野(建機のエンジンフードや自動車のドア)の例であり、検甲1発明とは、ガススプリングが用いられている箇所が相違し、ガススプリングの力を作用させる部材に対する接続機構も相違している。
そして、甲第29号証、甲第30号証は、それぞれ2段階で開くエンジンフードの開閉構造における課題(甲29・段落【0005】)、バックドアに対してヒンジのヒンジ中心が固定されている従来の開閉装置における課題(甲30・段落【0027】)を解決しようとするもので、検甲1発明において、ガススプリングの力を作用させる部材との接続構造を変更し、甲第29号証、甲第30号証に記載される構造を採用する動機付けはなく、検甲1発明において、エプロンを跳ね上げるのに要する力を「だんだんと軽くなる」ようにする動機付けもない。
したがって、甲第29、30号証を考慮しても、上記相違点1に係る本件発明の構成は、検甲1発明及び甲第29、30号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(カ)甲第48号証及び甲第49号証に照らして
請求人は、甲第48、49号証には、エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリングを備えた作業機が記載されており、甲第48、49号証に記載される作業機を、例えば30°前傾させて、作業機全体が地上に引き上げられた状態である「スタンド姿勢」にした場合には、重力の影響を受けてエプロンを跳ね上げるのに要する力はエプロン角度の増加に伴って徐々に減少することになると認識できるから、上記相違点1に係る本件発明の構成は、出願時の周知技術(甲第48、49号証)であるから、少なくとも当業者にとって容易想到である旨を主張している(上記第4の3(1)エ(ア)f)。
しかしながら、甲第48、49号証には、エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリングを備えた作業機において、エプロンを跳ね上げるのに要する力について、エプロン角度の増加に伴ってどのように変化するように設定すべきかは、記載されていない。そうすると、検甲1発明において、エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリングを備えるという点で共通する甲第48、49号証を参照しても、エプロンを跳ね上げるのに要する力を、エプロン角度の増加に伴ってどのように変化するよう設定すべきかが示唆されるものではないから、上記相違点1に係る本件発明の構成は、検甲1発明及び甲第48、49号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(キ)相違点1の小括
以上のとおりであるから、相違点1に係る本件発明の構成は、検甲1発明が備えたものではなく、また、検甲1発明及び甲第29、30、48、49号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たことでもない。

イ 相違点2について
上記アで述べたとおり、相違点1に係る本件発明の構成は当業者が容易になし得たものではないから、無効理由1には理由がないが、相違点2についても予備的に判断する。
上記相違点2に関し、請求人は、ガススプリングの向きを逆とすることは甲第43ないし45号証にも示される周知技術であるから、相違点2は想到容易である旨を主張している。
検甲1発明におけるガススプリングの接続の向きが、本件発明とは逆であることについて、請求人及び被請求人の間に争いはないので、検甲1発明におけるガススプリングの接続の向きを逆として、上記相違点2に係る本件発明の構成に至ることが容易であったか否かを判断する。
甲第43号証及び甲第45号証は、変速装置における変速のショックを抑えるもの、及び、後部カバーを接地方向に付勢するものであり、甲第44号証は、耕耘機の延長作業体に関するものであるから、エプロンの跳ね上げをアシストする機構にガススプリングを用いているものではない。そのため、甲第43ないし45号証に、ガススプリングの接続の向きを逆としてもよいことが記載されていても、当該記載はガススプリングを接続すれば足りる場合についての一般論を示すものにとどまり、検甲1発明においてガススプリングの接続の向きを特定の向きとすることを示唆するものとはいえない。
そして、検甲1発明において、ガススプリングの接続の向きを逆とする動機や示唆は見いだせないのに対し、本件発明は、エプロンの跳ね上げアシストに用いるガススプリングについて、上記相違点2に係る接続の向きを選択することにより、明細書の段落【0029】及び段落【0036】に記載される、「ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置することによって内部のオイルがピストン側に移動し、窒素ガスの漏洩を防止する」という効果、及び、「ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する」という効果を奏するものということができる。
この点に関し、請求人は、ガススプリングのタイプあるいは作業機のスタンド姿勢によっては、上記効果を奏さない旨を主張しているが、ガススプリングのタイプ及び作業機のスタンド姿勢によっては上記の劣化防止等の効果を奏するのであり、その点に着目したからこそ相違点2に係る構成を着想したのであり、ガススプリングの好適な選択及び作業機のスタンド姿勢の好適な設計に資するという点でも効果を有するものである。
以上に述べたことは、「第1の筒状部材」(内側筒状部材)及び「第2の筒状部材」(外側筒状部材)に接続される構造を有しないガススプリングしか記載されていない甲第23ないし28号証を考慮しても変わるものではない。
したがって、検甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明の構成に至ることは、甲第23ないし28号証、甲第43ないし45号証を考慮しても、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(3)無効理由1のまとめ
上記(2)で検討したとおりであるから、本件発明は、本件特許の原出願前に公然知られた発明でも公然実施された発明でもなく、かつ、該発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4 無効理由2
(1)対比
本件発明と甲14発明を対比する。
それらの構成及び機能からみて、甲14発明の「走行機体」、「耕うんロータ」、「ロータリ作業機」、「主フレーム」、「シールドカバー」、「第1の支点」、「エプロン」、「第1の台座」、「第2の支点」、「第2の台座」、「第3の支点」、「ガススプリング」、「均平板らくらくアシストと称する機構」は、それぞれ、本件発明の「走行機体」、「耕うんロータ」、「ロータリ作業機」、「フレーム」、「シールドカバー」、「第1の支点」、「エプロン」、「第1の台座」、「第2の支点」、「第2の台座」、「第3の支点」、「ガススプリング」、「アシスト機構」に相当する。
また、ガススプリングは通常、シリンダーと、シリンダーの内部に挿入されたピストンと、ピストンから延長されるピストンロッドからなっており、そのガススプリングの両端は、一方がシリンダーの先端であって、他方がピストンロッドの先端である。
従って、本件発明と甲14発明とは、
「走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられた、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に存在する2つの筒状部材を有し、一方の筒状部材には、長孔が形成されている、
作業機。」で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点ア〕
アシスト機構が、本件発明は、第2の支点と第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるのに対し、甲14発明は、そのような特定がない点。
〔相違点イ〕
アシスト機構が、本件発明は、第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、第1の筒状部材のフレーム側の一端には第2の支点が、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続されているのに対し、甲14発明は、そのような特定がない点。
〔相違点ウ〕
本件発明は、第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が第3の支点を回動中心とし、エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して第3の支点と第2の支点との距離を縮める方向に変化することにより、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するのに対し、甲14発明は、そのような特定がない点。
〔相違点エ〕
ガススプリングが、本件発明は、エプロンが下降した地点において収縮するように構成されるのに対し、甲14発明は、そのような特定がない点。

(2)判断
上記相違点アないしエについてまとめて検討する。
請求人が提出した甲第23ないし30、甲37ないし40、甲43ないし46、及び甲48ないし49号証のいずれをみても、相違点アないしエに相当する構成が記載されていないか、又は、甲14発明に適用する動機付けが存在しない。
とりわけ、ガススプリングの接続の向きに関する上記相違点イ、及び、エプロンを跳ね上げるのに要する力をエプロン角度が増加する所定角度範囲内においてどのように変化させるかに関する上記相違点ウについては、検甲1発明との間の相違点1及び相違点2について判断したのと同様に、甲14発明においてこれらの構成を変更する動機付けがない。

(3)無効理由2のまとめ
以上のとおり、本件発明は、甲14発明及び、甲第23ないし30、甲37ないし40、甲43ないし46、及び甲48ないし49号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 無効理由3
(1)対比
本件発明と甲18発明とを対比する。
ア 甲18発明の「農作業機」、「トラクタ」、「耕耘体(ロータリー)」は、それぞれ本件発明の「作業機」、「走行機体」、「耕うんロータ」に相当する。
甲18発明の「機体」は「トラクタの後部に脱着可能に連結される」ものであると共に、耕耘体を回転可能に設けているものであるから、本件発明の「フレーム」に相当する。
甲18発明の「整地体」は、「耕耘体の後方で」、「機体の後方に設けられた回動支点を中心として、上下方向に回動可能に設けられ」ているから、甲18発明の「回動支点」、「整地体」は、それぞれ本件発明の「第1の支点」、「エプロン」に相当する。
甲18発明の「持上アシスト手段」は、「整地体の持ち上げ(上方回動)をアシストする」ので、本件発明の「アシスト機構」に相当する。

イ 甲18発明の「持上アシスト手段」は、「前後方向長手状の長尺体(インナーパイプ)」及び「長尺体に対してスライド移動可能な移動体(アウターパイプ)」を有していること、及び「長尺体は機体に左右方向の軸を中心として上下方向に回動可能に設けられており、長尺体内にガススプリングが収納配設されており、このガススプリングは、窒素ガス等の高圧ガスが封入された本体部と、この本体部内に対して出入りするロッド部とにて構成され、本体部の基端部が長尺体に取り付けられ」、また、「移動体は」「前後方向長手状で円筒状の筒状部を有し、この筒状部の前端部にはガススプリングのロッド部が取り付けられて」いることから、甲18発明の「長尺体」、「移動体」、「左右方向の軸」、「ガススプリング」、「本体部」、「ロッド部」は、それぞれ本件発明の「第1の筒状部材」、「第2の筒状部材」、「第2の支点」、「ガススプリング」、「シリンダー」、「ピストンロッド」、に相当する。
また、ガススプリングは通常、シリンダー、ピストンロッドに加えて、シリンダーの内部に挿入されたピストンを備えている。

ウ 甲18発明の「回動体」は、「筒状部と、この筒状部の左右両側に外側方に向かって突設された左右方向の丸軸状の軸状部とにて構成され、この各軸状部が整地体の突出板の取付孔部に回動可能に取り付けられて」いること、及び「移動体」の「筒状部の前後方向中間部の外周面には、持上アシスト手段のアシストオン状態時にガススプリングの付勢力に基づいて回動体を押し上げる円形環状の回動体当接部である鍔部が突出状に固設されて」いることから、甲18発明の「(回動体の)筒状部」、「整地体の突出板」、「取付孔部」、「鍔部」は、それぞれ本件発明の「第2の突部」、「台座」、「第3の支点」、「第1の突部」に相当する。

エ 甲18発明において「回動支点は整地体の前端部近傍にあ」ることから、整地体の重心が回動支点よりも後方にあることは明らかであり、甲18発明は、本件発明と同じく、(エプロンの)「重心が前記第1の支点よりも後方にある」との構成を有している。

オ 甲18発明の「長尺体に対する移動体の前方移動が許容(つまりガススプリングの伸びが許容)されることとなり、移動体が鍔部に当接した回動体とともに長尺体に対してガススプリングの付勢力に基づいて前方へ移動し、その結果、整地体がガススプリングの付勢力に基づいて上方へ回動する」との構成から、長尺体が回動可能である「左右方向の軸」と、回動体の軸状部が回動可能である「取付孔部」との距離を変化させる力を作用させることで整地体を跳ね上げる方向に力を作用させていること、及び整地体が下降した場合にはガススプリングは収縮していることは明らかであり、甲18発明は、本件発明と同様に、「前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し」、「前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成される」との構成を有している。

カ 甲18発明の「長尺体は」、「長尺体内にガススプリングが収納配設されており」、「長尺体及び移動体は、左右方向の軸、取付孔部を通る同一軸上にある」ことは、本件発明の「前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し」ていることに相当する。

キ 甲18発明の「長尺体」は「左右方向の軸を中心として上下方向に回動可能に設けられており」、「ガススプリング」の「本体部の基端部が長尺体に取り付けられ」、「移動体」の「筒状部の前端部にはガススプリングのロッド部が取り付けられて」いることと、本件発明の「前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの先端が接続され」ていることとは、「第1の筒状部材のフレーム側の一端には前記第2の支点が、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはガススプリングの一端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはガススプリングの他端が接続され」ていることで共通する。

ク 甲18発明の「移動体を上方側へ向けて付勢するガススプリングの伸縮に応じて、移動体が長尺体の外周面に沿ってスライド移動するようになっており、筒状部の前後方向中間部の外周面には、持上アシスト手段のアシストオン状態時にガススプリングの付勢力に基づいて回動体を押し上げる円形環状の回動体当接部である鍔部が突出状に固設されて」いることは、本件発明の「前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化すること」に相当する。

ケ 上記アないしクからみて、本件発明と甲18発明とは、
「走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ガススプリングの一端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記ガススプリングの他端が接続され、
前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が、前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化するものであって、
前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成される作業機。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点a〕
本件発明では、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続されるのに対し、甲18発明では、上記接続について、ガススプリングの両端のうちの、ピストンロッドの先端かシリンダーの先端かの特定がない点。
〔相違点b〕
構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」について、本件発明では、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するのに対し、甲18発明では、そのような特定がされていない点。

(2)判断
ア 相違点aについて
請求人は、ガススプリングの接続の向きを逆とすることは甲第43ないし45号証にも示される周知技術であるから、相違点aは実質的な相違点ではない旨を主張している。
しかしながら、上記3(2)イで検甲1発明との相違点2に関して指摘したとおり、甲第43ないし45号証に、ガススプリングの接続の向きを逆としてもよいことが記載されていても、当該記載はガススプリングを接続すれば足りる場合についての一般論を示すものにとどまり、甲18発明においてガススプリングの接続の向きを逆とすることを示すものではない。
これに対して、本件発明は、エプロンの跳ね上げアシストに用いるガススプリングについて、上記相違点aに係る接続の向きを選択することにより、本件明細書の段落【0029】及び段落【0036】に記載される、「ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置することによって内部のオイルがピストン側に移動し、窒素ガスの漏洩を防止する」という効果、及び、「ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する」という効果を奏するものということができるから、上記相違点aは実質的な相違点である。

イ 相違点bについて
(ア)先願明細書において「エプロンを跳ね上げるのに要する力」に関連して、「【0107】すると、・・・移動体111が鍔部118に当接した回動体106とともに長尺体93に対してガススプリング91の付勢力に基づいて前方へ移動し、その結果、整地体4がガススプリング91の付勢力に基づいて上方へ回動する(図27参照)。【0108】そして、作業者が整地体4を最上げ位置まで軽い人力で持ち上げると、ストッパ装置53によって整地体4がその最上げ位置に自動的にロックされる。なお、この例においても、整地体4は、ガススプリング91の付勢力のみによって最上げ位置まで上方回動しないため、作業者が最上げ位置まで人力で少し持ち上げる必要があるが、この際、ガススプリング91は、自由長(最大長さ)にはなっておらず、整地体4を上方側へ付勢しているため、作業者は、軽い人力で整地体4を最上げ位置まで持ち上げることが可能である。」(上記1(3)エ参照)と記載されており、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「徐々に減少」するとは明記されていない一方、少なくとも整地体4の最上げ位置での付勢力は、持ち上げ初期の付勢力より小さいといえる。
また、先願明細書のその他の記載からみても、「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が、「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」することは、自明の事項あるいは記載されているに等しい事項とまではいえない。
したがって、甲18発明は、上記相違点bに係る本件発明の構成を備えていない。

(イ)請求人は、「本件特許の図2と、甲第18号証の図24とを見比べれば明らかなとおり、3つの支点の位置関係は同じである。つまり、いずれにおいても同様に、『第1の支点』はシールドカバーの後端部に位置し、『第2の支点』は主フレームに突設された台座に位置し、『第3の支点』はエプロンに突設された台座に位置している。また、本件特許の明細書の【0028】には、『・・・上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される。』と記載されている。そして、“各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される”というのであれば、本件発明の各支点の位置関係と先願発明(甲第18号証記載の発明)の各支点の位置関係とは同じであるから、先願発明における荷重の傾向は、本件発明のそれと同じになるはずである。そして、このような意味において、本件発明の構成Gは、甲第18号証の先願明細書に実質的に記載されているといえる。」(上記第4の3(3)ウ)旨主張している。
しかしながら、願書に添付された図面は、設計図面のような寸法等が正確なものが求められるものではなく、一般的に発明の技術内容が理解できる程度の精度で表現されればよいものであるから、本件特許の図2と甲第18号証の図24とにおいて、3つの各支点の位置関係が近似しているからといって、本件発明と甲18発明とが、それらの3つの各支点の位置関係が同じとはいえない。
しかも、無効理由1で述べたとおり、跳ね上げるのに要する力は、それらの3つの支点の位置関係のみで決まるものでもない。

(3)無効理由3のまとめ
以上のとおり、本件発明は、甲18発明と同一ではないから、甲第18号証に係る先願明細書等に記載された発明ではない。


第6 むすび
以上のとおり、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当せず、かつ、第29条第2項又は第29条の2の規定に違反してなされたものではなく、第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものでもないから、審判請求人の主張する無効理由によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの先端が接続され、
前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が、前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化することにより、前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し、
前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成されることを特徴とする作業機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-09-17 
結審通知日 2021-09-24 
審決日 2021-10-07 
出願番号 P2016-046843
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A01B)
P 1 113・ 161- YAA (A01B)
P 1 113・ 112- YAA (A01B)
P 1 113・ 111- YAA (A01B)
P 1 113・ 536- YAA (A01B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 有家 秀郎
土屋 真理子
登録日 2016-07-29 
登録番号 5976246
発明の名称 作業機  
代理人 北島 志保  
代理人 樺澤 聡  
復代理人 阿部 実佑季  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 林 桂輔  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 林 桂輔  
代理人 福永 健司  
代理人 北島 志保  
代理人 樺澤 襄  
復代理人 阿部 実佑季  
代理人 山田 哲也  
代理人 福永 健司  

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