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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1391527
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-03 
確定日 2022-11-01 
事件の表示 特願2017−566995「着色スペーサー形成用感光性着色組成物、硬化物、着色スペーサー、画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月17日国際公開、WO2017/138605、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017−566995号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)2月9日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年2月12日及び同年9月2日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成 元年10月29日提出:手続補正書
平成 2年 6月12日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 8月21日提出:意見書
令和 2年 8月21日提出:手続補正書
令和 2年11月 2日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 2月 8日提出:意見書
令和 3年 2月 8日提出:手続補正書
令和 3年 2月26日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 6月18日提出:意見書
令和 3年 6月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 9月 3日提出:審判請求書
令和 3年 9月 3日提出:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項11に係る発明は、令和3年9月3日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項11に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、及び(f)分散剤を含有する、着色スペーサー形成用感光性着色組成物であって、
前記(a)着色剤が、(a−1)有機顔料、及び(a−2)カーボンブラックを含み、
前記(a)着色剤に対する前記(a−2)カーボンブラックの含有割合が20質量%以下であり、
前記(a)着色剤の含有割合が、前記感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上であり、
前記(b)アルカリ可溶性樹脂が、カルボキシル基含有エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含み、かつ、
前記感光性着色組成物の波長300〜370nmにおける最高透過率が0.010%以上0.226%以下であることを特徴とする着色スペーサ形成用感光性着色組成物。」

また、請求項2〜請求項8には、請求項1に記載の「着色スペーサー形成用感光性着色組成物」の発明に対して、さらに他の発明特定事項を付加した「着色スペーサー形成用感光性着色組成物」の発明が記載されている。さらに、請求項9及び10には、請求項1〜8のいずれか1項に記載の「着色スペーサー形成用感光性着色組成物」を硬化して得られる「硬化物」及び「着色スペーサー」の発明が記載されており、請求項11には、請求項10に記載の「着色スペーサー」を備える「画像表示装置」の発明が記載されている。

3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1〜請求項11に係る発明は、優先権主張の基礎とされた最先の出願前(以下「先の出願前」という。)に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2000−314804号公報
引用文献2:特開平7−28236号公報
引用文献4:国際公開第2015/046178号
引用文献5:特表2015−525260号公報
引用文献6:特開2014−146018号公報
引用文献7:特開2015−84086号公報
引用文献8:国際公開第2016/002911号
(当合議体注:主引用例は、引用文献1である。引用文献2は、副引用例であり、引用文献4〜引用文献8は、周知技術を示す文献として引用されたものである。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献に記載された発明及び技術的事項
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開2000−314804号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下、他の引用文献についても同様である。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カラーフィルター及びその製造方法に関し、詳しくは高光学濃度の遮光膜を有し、かつ、スペーサー機能を有するブラックマトッリクスを備えたカラーフィルターと、このカラーフィルターを簡便に、かつ精度よく製造することができるカラーフィルターの製造方法に関する。
・・・中略・・・
【0005】現在,最も一般的な方法は,顔料分散法である。顔料分散法は着色した感光性樹脂液の塗布と露光、現像の繰り返しにより行われるが、この方法で通常作製される着色層の厚みでは、その重ね合わせによっても必要とするスペーサーの高さが得られない。また,着色層の塗布膜厚を厚くしようとすると、基板の中心部と周辺部の面内での厚みのムラが生じやすいこと、また,2色目以降の塗布は、すでに先に形成した色のパターン上に行われるものであるため、その部分での厚みのムラが発生しやすく,厚みの均一な制御が困難である。
【0006】これらの問題点を改善する目的で,特開平9ー43425,特開平10−177109では,樹脂,遮光剤からなる樹脂マトリックス上に3原色からなる着色層を積層する方法、さらにこれに加えてレジスト層を積層する方法等が提案されているが、いずれも4層以上の積層が必要となり,スペーサーとしての精密な高さの制御が難しい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記した問題点を解消し、高光学濃度の遮光膜を有し、かつ、スペーサー機能を有するブラックマトッリクスを備えたカラーフィルターと、このカラーフィルターを簡便に、かつ精度よく製造することができるカラーフィルターの製造方法を提供することにある。

イ 「【0008】
【課題を解決するための手段】・・・中略・・・上記した目的は、(1)透明基板上に、赤、緑、青の画素を有する面が形成された面の全面に、遮光性感光性樹脂組成物層を設ける工程と、(2)透明基板側から露光する工程と、(3)遮光性感光性樹脂組成物層側より選択露光する工程と、(4)選択露光された遮光性感光性樹脂組成物層を現像処理する工程と、を含むことを特徴とするカラーフィルターの製造方法によって達成される。・・・中略・・・本発明において、(1)の工程で得られた遮光性感光性樹脂組成物層に透明基板側から露光すると、各画素の部分が遮光膜として機能し、各画素の周辺部の遮光性感光性樹脂組成物層が硬化する。次に遮光性感光性樹脂組成物層側から選択露光、例えば、スペーサー部を形成されるための領域に相当する部分のみを露光すると、この領域のみが硬化する。その後現像処理すると、各画素の周辺部の遮光性感光性樹脂組成物層及びスペーサー部の遮光性感光性樹脂組成物層を除いた領域は除去され、各画素の周辺部とスペーサー部のみが残存する。したがって、遮光性機能とスペーサー機能を有するブラックマトリックスが簡便に、かつ精度よく製造される。」

ウ 「【0011】次に図1(b)に示すように、透明基板10上の各画素が形成された面の全面に遮光性感光性樹脂組成物層12が設けられる。遮光性感光性樹脂組成物層12を構成する遮光性感光性樹脂組成物としては、アルカリ可溶バインダー、(2)光重合開始剤、(3)エチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性モノマー、(4)遮光剤を含有するものが望ましい。
【0012】アルカリ可溶性バインダーとしては、側鎖にカルボン酸基を有するポリマー、例えば、特開昭59−44615号、特公昭54−34327号、特公昭58−12577号、特公昭54−25957号、特開昭59−53836号、特開昭59−71048号の各明細書に記載されているようなメタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体・・・中略・・・特に好ましくは米国特許第4139391号明細書に記載のベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸の共重合体やベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの多元共重合体を挙げることができる。
・・・中略・・・
【0019】また、遮光性感光性樹脂組成物には、少なくとも一種類以上の着色剤を含有することが望ましい。この着色剤としては、特願平5−110487に記載の種々の着色剤が用いられる。中でも、同明細書記載の紫外線領域で透過性が大きくなるような顔料の混合が特に好ましい。着色剤の遮光性感光性樹脂組成物固形分中の固形分含有量は1〜50重量%であることが好ましい。
(当合議体注:上記「特願平5−110487」号の公開特許公報が、引用文献2である。)
・・・中略・・・
【0021】さらに遮光性感光性樹脂組成物には必要に応じて公知の添加剤、例えば可塑剤、界面活性剤、溶剤等を添加することができる。
・・・中略・・・
【0025】転写材料上の遮光性感光性樹脂層を各画素面上に転写した後、透明基板10側から露光する。この露光に際しては、光源は遮光性感光性樹脂層の感光性に応じて選択され、超高圧水銀灯、キセノン灯、カーボンアーク灯、アルゴンレーザー等の公知の物が使用でき・・・中略・・・このような条件で露光すると、各画素が形成された面上の遮光性感光性樹脂組成物層12は、各画素が遮光膜として機能するため、光により硬化することがない。一方、透明基板10面に直接設けられた遮光性感光性樹脂組成物層12は、透明基板10面に近接した領域のみが光により硬化(鏡面硬化)し、この領域から遮光性感光性樹脂組成物層12の厚み方向の他の領域は硬化することがない。したがって、各画素の厚みと遮光性感光性樹脂組成物層12の光硬化した部分の厚みは、ほぼ同一となる。
【0026】次に図1(c)に示すように、遮光性感光性樹脂組成物層12側からフォトマスク14を介してスペーサー部を形成するための領域の部分をパターン露光すると、スペーサー部を形成するための領域の部分が光硬化する。その後、この状態で遮光性感光性樹脂組成物層12を現像処理すると、遮光性感光性樹脂組成物層12は、図1(d)に示すように各画素の周辺部12a及びスペーサー部12sのみが残存する。したがって、ブラックマトッリクスは各画素の周辺部12aを構成する遮光性機能を発揮する部分と、スペーサー部12sを構成するスペーサー機能を発揮する部分が形成される。」

エ 「【0032】以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】実施例1
(遮光性感光性転写材料の作成)厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム仮支持体の上に下記の処方H1からなる塗布液を塗布、乾燥させ、乾燥膜厚が20μmの熱可塑性樹脂層を設けた。
・・・中略・・・
【0034】次に上記熱可塑性樹脂層上に下記処方B1から成る塗布液を塗布、乾燥させ、乾燥膜厚が1.6μm厚の中間層を設けた。
・・・中略・・・
【0036】上記熱可塑性樹脂層及び中間層を有する仮支持体の上に、以下の処方C1からなる塗布液を塗布、乾燥させ、乾燥膜厚が7μmの遮光性感光性樹脂組成物層を形成した。
【0037】
処方C1:
・ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体
(モル比=70/30、極限粘度=0.12) 11.00重量部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 10.60重量部
・ビス[4−[N−[4−(4,6−ビストリクロルメチル
−S−トリアジン−2−イル)フェニル]カルバモイル]
フェニル]セバケート(光重合開始剤) 0.52重量部
・ピグメントレッド177 4.00重量部
・ピグメントブルー15:6 2.86重量部
・ピグメントイエロー139 2.27重量部
・ピグメントバイオレット23 0.39重量部
・カーボンブラック 1.70重量部
・ハイドロキノンモノメチルエーテル 0.01重量部
・F177P(大日本インキ社製界面活性剤) 0.07重量部
・メチルセロソルブアセテート 40.00重量部
・メチルエチルケトン 80.00重量部
【0038】さらに上記遮光性感光性樹脂層の上にポリプロピレン(厚さ12μm)の被覆シートを圧着し、遮光性感光性転写材料を作製した。
【0039】ホウケイ酸ガラス基板(厚さ1.1mm)上に特願平4−150691に記載の実施例1と同じ2μmの膜厚のR、G、B画素を有するカラーフィルターを作成した。この場合、B画素の400nm以上の光透過率は10%以上あった。上記のR、G、Bカラーフィルター上に遮光性感光性転写材料の被覆シートを剥離し、遮光性感光性樹脂層面をカラーフィルター面にラミネーター(大成ラミネータ(株)製VP−II)を用いて加圧(0.8kg/cm2)、加熱(130℃)して貼り合わせ、続いて仮支持体と熱可塑性樹脂層との界面で剥離し、仮支持体を除去した。
【0040】次にカラーフィルター面とは反対の側(透明基板側)から超高圧水銀灯を用いて露光量100mj/cm2で全面露光を行った。次にカラーフィルター面からスペーサー用マスクを用い露光量50mj/cm2でパターン露光を行った。その後、1%炭酸ナトリウム水溶液で現像して不要部を除去し、さらに220℃、120分の熱処理を行い、R、G、B各画素の周辺部を構成する遮光膜とスペーサー部と形成した。このスペーサー部の高さ(透明基板面からの高さ)は、6.3μmであった。また、遮光膜とRGB層との重なりは無く、CIE表色法のY値が0.2の高光学濃度の遮光膜を有していた。また、遮光膜部分の厚みのバラツキ及びスペーサー部の厚みのバラツキはいずれも±0.1μmと小さいものであった。
【0041】
【発明の効果】本発明のカラーフィルターは、ブラックマトリックスが遮光性機能とスペーサー機能を有する構造であり、スペーサー機能をブラックマトリックスで発揮させるものであるため、着色層が積層されたスペーサーに比較してスペーサー機能部分を均一な高さとすることができ、均一な液晶層の形成が容易で輝度ムラ、色ムラのない表示品質が優れたカラーフィルターを提供することができる。また、本発明のカラーフィルターの製造方法によれば、上記の特性を有するカラーフィルターを簡便に、かつ精度よく製造することができる。」

(2) 引用文献1に記載された発明
引用文献1の【0007】によれば、同文献の「本発明」の目的は、「高光学濃度の遮光膜を有し、かつ、スペーサー機能を有するブラックマトッリクスを備えたカラーフィルターと、このカラーフィルターを簡便に、かつ精度よく製造することができるカラーフィルターの製造方法を提供すること」と認められる。
そして、引用文献1の【0036】〜【0037】には、実施例1として、「処方C1」からなる「遮光性感光性樹脂組成物」が記載され、続く【0038】〜【0040】には、上記遮光性感光性樹脂組成物を用いて、「R、G、Bカラーフィルタ」「各画素の周辺部を構成する遮光膜とスペーサー部と形成」する工程を備えた、カラーフィルターの製造方法が記載されている。
以上総合すると、引用文献1には、次の「遮光性感光性樹脂組成物」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「高光学濃度の遮光膜を有し、かつ、スペーサー機能を有するブラックマトッリクスを備えたカラーフィルターの製造に用いられ、以下の処方C1からなる、遮光性感光性樹脂組成物。
処方C1:
・ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体
(モル比=70/30、極限粘度=0.12) 11.00重量部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 10.60重量部
・ビス[4−[N−[4−(4,6−ビストリクロルメチル
−S−トリアジン−2−イル)フェニル]カルバモイル]
フェニル]セバケート(光重合開始剤) 0.52重量部
・ピグメントレッド177 4.00重量部
・ピグメントブルー15:6 2.86重量部
・ピグメントイエロー139 2.27重量部
・ピグメントバイオレット23 0.39重量部
・カーボンブラック 1.70重量部
・ハイドロキノンモノメチルエーテル 0.01重量部
・F177P(大日本インキ社製界面活性剤) 0.07重量部
・メチルセロソルブアセテート 40.00重量部
・メチルエチルケトン 80.00重量部」

(3) 引用発明の処方C1における各成分の表記
便宜上、引用発明の「処方C1」における上記各成分を以下のとおり表記する。
・ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体 :成分B
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート :成分D
・ビス[4−[N−[4−(4,6−ビストリクロルメチル−S−トリアジン−2−イル)フェニル]カルバモイル]フェニル]セバケート(光重合開始剤) :成分C
・ピグメントレッド177、ピグメントブルー15:6、ピグメントイエロー139、ピグメントバイオレット23 :成分(A−1)
・カーボンブラック :成分(A−2)
・メチルセロソルブアセテート、メチルエチルケトン :成分E
また、成分(A−1)及び成分(A−2)を、まとめて「成分A」という。

(3) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特開平7−28236号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

ア 「【0003】・・・中略・・・遮光性顔料等を分散させた感光性樹脂を用いたセルフアライメント方式でブラックマトリックスを形成する方式がコスト、製造工程の面から注目視されている。・・・中略・・・
【0004】このセルフアライメント方式において、裏面からの露光時に遮光性感光性樹脂層が十分に硬化しない、つまり遮光性感光性樹脂層の感光波長域におけるカーボン等の黒色遮光性顔料の光吸収性が大きいため、裏面からの露光が遮光膜表面まで十分達せず光硬化不足を生じ、結果的には得られた遮光膜の光学濃度が低くなってしまう問題を有していた。」

イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は、低露光量でも膜深部まで光硬化する高光学濃度遮光性感光性樹脂組成物及びそれを用いた転写材料を提供することにある。・・・中略・・・
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、少なくとも(1)アルカリ可溶性バインダー、(2)光重合開始剤、(3)エチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性モノマー、(4)少なくとも2種類の着色剤、を含有する遮光性感光性樹脂組成物において、色相的に黒色に等しいか、あるいは近く、かつ、膜厚1〜3μmの遮光性感光性樹脂層を形成した時に可視光領域の透過性が2以下で、かつ、可視光領域の透過性と紫外光領域の透過性の比が1:1から20:1であることを特徴とする遮光性感光性樹脂組成物・・・中略・・・により達成された。」

ウ 「【0026】好ましい着色剤の組合わせとしては、赤色系と青色系の互いに補色関係にある顔料混合物と黄色系と紫色系の互いに補色関係にある顔料混合物との組合せや上記の混合物に更に黒色の顔料を加えた組み合わせである。
・・・中略・・・
【0027】叉は、黄色と紫色の補色関係の組み合わせに更に、青色の顔料を加えることにより、Y値が2以下で、且つ、Y値と365nm透過率の比が20:1以下の遮光膜を得ることができる。この場合も、黒色顔料を上記のY値と365nm透過率の比が20:1を超えない範囲で添加することによりY値を小さくすることが可能である。
【0028】このように、上記の様に顔料を組合せることにより初めて、遮光膜厚1〜3μm範囲内でY値2以下であり、かつY値と365nm透過率の比が20:1以下の遮光膜が得られる。」

エ 「【0034】
【実施例】
・・・中略・・・
【0037】上記熱可塑性樹脂層及び中間層を有する仮支持体の上に、下記表1の処方からなる塗布液を塗布、乾燥させ、乾燥膜厚が2μmの遮光性感光性樹脂層を形成し、さらに上記遮光性感光性樹脂層の上にポリプロピレン(厚さ12μm)の被覆シートを圧着して、実施例1〜8の遮光性感光性転写材料を作成した。
【0038】
【表1】

(当合議体注:便宜上、上記【表1】は縦横寸法比を変更の上、右90度回転して摘記した。)

(4) 引用文献2に記載された技術的事項
上記(3)の摘記事項によれば、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 遮光性顔料等を分散させた感光性樹脂を用いたセルフアライメント方式でブラックマトリックスを形成する方法においては、遮光性感光性樹脂層の感光波長域における黒色遮光性顔料の光吸収性が大きいため、裏面からの露光が遮光膜表面まで十分達せず光硬化不足を生じ、得られた遮光膜の光学濃度が低くなってしまう問題があったこと(【0004】)。
イ 上記アの問題を解決する手段としての、少なくとも2種類の着色剤を含有する遮光性感光性樹脂組成物において、色相的に黒色に等しいか、あるいは近く、かつ、膜厚1〜3μmの遮光性感光性樹脂層を形成した時に可視光領域の透過性が2以下で、かつ、可視光領域の透過性と紫外光領域の透過性の比が1:1から20:1である、遮光性感光性樹脂組成物(【0010】)。
ウ 上記イの2種類の着色剤について、好ましい着色剤の組合わせは、[A]赤色系と青色系の互いに補色関係にある顔料混合物と黄色系と紫色系の互いに補色関係にある顔料混合物との組合せや上記の混合物に更に黒色の顔料を加えた組み合わせ、又は、[B]黄色と紫色の補色関係の組み合わせに更に、青色の顔料を加える組み合わせであること(【0026】)。
エ 上記[A]の着色剤の組み合わせの具体例が、【表1】の実施例1〜7(365nm透過率:約0.30〜0.57%)に係る遮光性感光性樹脂組成物であり、上記[B]の組み合わせの具体例が、同表の実施例8(365nm透過率が0.035%)に係る遮光性感光性樹脂組成物であること(【0038】)。
(当合議体注:「365nm透過率」の上記値は、【表1】の「Y値」及び「Y値:365nm」の値から算出される値である。)

以下、上記各技術的事項を、「文献2技術的事項ア」、「文献2技術的事項イ」などといい、これらをまとめて「文献2技術的事項」と総称する。

2 対比
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1) 着色スペーサー形成用感光性着色組成物
引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」は、「高光学濃度の遮光膜を有し、かつ、スペーサー機能を有するブラックマトッリクスを備えたカラーフィルターの製造に用いられ」る。
上記用途からみて、引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」は、本願発明1において、「着色スペーサー形成用」とされる、「感光性着色組成物」に相当する。

(2) (a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物及び(e)溶剤
引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」が含有する、「成分A」、「成分B」、「成分C」、「成分D」及び「成分E」は、その化学構造及び機能から、それぞれ本願発明1の「(a)着色剤」、「(b)アルカリ可溶性樹脂」、「(c)光重合開始剤」、「(d)エチレン性不飽和化合物」及び「(e)溶剤」に相当する。

(3) 含有量
ア (a−2)カーボンブラック
引用発明の「成分(A−1)」及び「成分(A−2)」は、本願発明1の「(a−1)有機顔料」及び「(a−2)カーボンブラック」に相当する。そして、「成分(A−1)」及び「成分(A−2)」の合計含有量11.22重量部に対する、「成分(A−2)」の含有量1.70重量部の割合は、約15.2重量%である。
上記計算結果から、引用発明は、本願発明1の「(a)着色剤に対する(a−2)カーボンブラックの含有割合が20質量%以下であり」との要件を満たすといえる。

イ (a)着色剤
引用発明の固形分は「成分(E)」を除く全成分であって、その合計含有量33.42重量部であるところ、「成分(A−1)」及び「成分(A−2)」の合計含有量は11.22重量部であるから、その全固形分量に対する割合は、約33.6重量%となる。
そうしてみると、引用発明は、本願発明1の「前記(a)着色剤が、(a−1)有機顔料、及び(a−2)カーボンブラックを含み」及び「(a)着色剤の含有割合が、前記感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上であり」との要件をそれぞれ満たす。

(4) 感光性着色組成物の全体組成
以上(1)〜(3)によれば、引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」と、本願発明1の「感光性着色組成物」とは、その組成について、「(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤」「を含有する」点で共通する。

3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明1と引用発明は、以下の点で一致する。
「 (a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤を含有する、着色スペーサー形成用感光性着色組成物であって、
前記(a)着色剤が、(a−1)有機顔料、及び(a−2)カーボンブラックを含み、
前記(a)着色剤に対する前記(a−2)カーボンブラックの含有割合が20質量%以下であり、
前記(a)着色剤の含有割合が、前記感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上である、
着色スペーサ形成用感光性着色組成物。」

(2) 相違点
本願発明1と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「感光性着色組成物」が、本願発明1は「(f)分散剤」を含有するのに対し、引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」はこのような成分を含有しない点。
(相違点2)
「(b)アルカリ可溶性樹脂」が、本願発明1では、「カルボキシル基含有エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含」むのに対し、引用発明の「成分B」は「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」からなる点。
(相違点3)
「感光性着色組成物」の「波長300〜370nmにおける最高透過率」が、本願発明1では「0.010%以上0.226%以下である」のに対し、引用発明は、この要件を満たすか明らかでない点。

4 判断
事案に鑑み、相違点3について判断を示す。
(1) 相違点3に係る構成を採用する動機について
引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」の紫外線領域の透過性に関して、引用文献1の【0019】には、「遮光性感光性樹脂組成物には、少なくとも一種類以上の着色剤を含有することが望ましい。この着色剤としては、特願平5−110487に記載の種々の着色剤が用いられる。中でも、同明細書記載の紫外線領域で透過性が大きくなるような顔料の混合が特に好ましい。」と記載されている。
また、上記「特に好ましい」とされる「紫外線領域で透過性が大きくなるような顔料の混合」に関して、上記「特願平5−110487」の公開特許公報である引用文献2には、上記1(4)に示した、文献2技術的事項が記載されている。
ここで、文献2技術的事項アの問題及びその具体的な解決手段である文献2技術的事項ウ及びエに照らせば、引用文献1の上記記載に接した当業者は、引用発明の「遮光性感光性樹脂組成物」における「成分(A−1)」及び「成分(A−2)」(着色剤)の組み合わせを選択するにあたり、可能な限り紫外線領域での透過性が大きくなるような組み合わせを検討するように動機づけられるとはいえても、紫外線領域での透過性を一定の範囲内にとどめる、すなわち、相違点3に係る「波長300〜370nmにおける最高透過率」の範囲に何らかの上限値(0.226%以下)を設定する方向に動機づけられるとはいえない。

また、引用発明において、文献2技術的事項イの「可視光領域の透過性が2以下で、かつ、可視光領域の透過性と紫外光領域の透過性の比が1:1から20:1である」との知見を得た当業者が着色剤の最適化を試みたとしても、相違点3の構成に到ることはない。
すなわち、引用文献1の【0019】の記載に接した当業者であれば、引用文献2に「好ましい着色剤の組み合わせ」の具体例として開示された、文献2技術的事項エの[A]又は[B]の組み合わせの採用を試みるのが自然である。そして、実際、引用発明において採用された着色剤(顔料)の組み合わせは[A]そのものであって、その場合、相違点3を充足しないことは既述のとおりである。また、[B]の組み合わせは、カーボンブラックにつき、本願発明1に係る所定のカーボンブラックの含有量を優に上回る量含有することを前提とした具体例に基づくものであるから、引用発明において、当該[B]に係る組み合わせを採用することはない。
したがって、引用発明において、引用文献1及び2の記載事項に基づいて、相違点3に係る本願発明1の構成に当業者が容易に想到し得たということはできない。

(2)相違点3による効果について
本件出願の明細書の【0300】には、「波長300〜370nmにおける最高透過率」が0.015%〜0.226%の範囲にある実施例1〜5において、完全透過開口部と中間透過開口部を有する露光マスクを通じた一括露光により十分な段差(メインスペーサーとサブスペーサーとの高さの差)が形成されるのに対し、0.0074%の比較例2、0.29%の比較例3、0.00050%の比較例4において、いずれも十分な段差が形成されないことが示されている。上記段差の形成という効果に関し、引用文献1と引用文献2には記載も示唆もされていない。
したがって、本願発明1は、相違点3に係る構成により、当業者において予測できない異質な効果ないし顕著な効果を奏するものである。
そして、上記判断は、原査定の拒絶の理由及び先の拒絶理由通知において引用された、他の引用文献(引用文献3〜引用文献8)の記載を考慮しても、変わらない。

5 本願発明2〜11について
本件出願の請求項2〜請求項11に係る発明(以下「本願発明2」〜「本願発明11」という。)は、本願発明1に対して、さらに他の発明の特定事項を付加したものである。したがって、これらの発明と引用発明1を対比しても、相違点3が抽出されることとなり、その判断は前記4(1)及び(2)と同じものとなる。

6 小括
以上のとおりであるから、本件出願の請求項1〜請求項11に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1〜請求項11に係る発明は、いずれも、引用文献1〜8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-10-19 
出願番号 P2017-566995
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 石附 直弥
里村 利光
発明の名称 着色スペーサー形成用感光性着色組成物、硬化物、着色スペーサー、画像表示装置  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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