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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01J 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01J 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01J 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J |
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管理番号 | 1391629 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-11-05 |
確定日 | 2022-11-15 |
事件の表示 | 特願2017− 3524「X線管及びX線管の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月19日出願公開、特開2018−113185、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年1月12日の出願であって、その手続の主な経緯は次のとおりである。 令和 2年12月21日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 3月 3日 :意見書 令和 3年 9月14日付け:拒絶査定(原査定) 令和 3年11月 5日 :審判請求書・手続補正書 令和 4年 9月 2日付け:拒絶理由通知書 令和 4年 9月12日 :意見書・手続補正書 第2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1〜13に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開平2−260353号公報 2.特開2003−317640号公報 3.特開2008−166074号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1 (新規事項追加)令和3年11月5日に提出された手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、次の点で、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (1)請求項1及び【0036】に記載された「凸部」が「前記角部に圧着」されている点。 (2)請求項11に記載された「前記第3表面と前記第4表面とを前記角部に圧着」する点。 2 (明確性要件違反)この出願は、特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (1)請求項5の「第1表面」及び「第2表面」等の記載は、その意味するところが明確でない点。請求項6〜8及び11〜13の「第3表面」等の記載についても同様である。 (2)請求項11の「圧力を加えながら電流を供給」することと、「・・・に押し当て」ることと、「・・・に圧着又は溶接」することとの関係が、当該請求項の記載では不明である点。 (3)請求項11の記載では、支持端子が角部に対してどのような構造になっているのかが不明である点。 3 (実施可能要件違反)この出願は、発明の詳細な説明の記載が次の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項4の「前記第1凸部と前記第2凸部とは、圧着」されている状態を製造することができるとはいえない点。 第4 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明13」という。)は、令和4年9月12日に提出された手続補正書でした補正後の特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される発明であるところ、そのうち、独立項に係る本願発明1及び本願発明11は、次のとおりである。 [本願発明1] 「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長し、前記先端部に角部を有する脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている陰極カップとを備える陰極を備え、 前記支持端子は、前記隙間内で突出し、前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し、前記脚部の前記角部に接合されている凸部を備える、X線管。」 [本願発明11] 「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長し、前記先端部に角部を有する脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている容器とを備える陰極を備えるX線管に適用される製造方法であって、 前記脚部の前記先端部を前記支持端子の前記隙間に挿入し、 前記先端部を前記隙間に挿入した後、一対の電極によって、前記支持端子の外面の第1外面部分と、前記脚部の前記角部を間に挟んで前記第1外面部分の反対側に位置する前記支持端子の前記外面の第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給し、 前記一対の電極によって、前記第1外面部分と前記第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給することで、前記隙間内で前記支持端子の内面の第1内面部分と該第1内面部分と対向する前記内面の第2内面部分とを前記角部に押し当て、前記支持端子に、前記隙間内で突出し前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し前記脚部の前記角部に接合された凸部を形成する、X線管の製造方法。」 なお、本願発明2〜10は、本願発明1を減縮した発明である。また、本願発明12及び13は、本願発明11を減縮した発明である。 第5 当審拒絶理由について 1 新規事項追加について 上記第3の1(1)及び(2)のとおり、当審が、「凸部」等が「前記角部に圧着」されていることを記載する補正が新規事項を追加するものである旨指摘したところ、本件補正により、「凸部」等が「前記角部に接合」されていることに補正された。そして、当該補正に係る技術的事項は、本願当初明細書等の請求項1等に記載されている。よって、当該拒絶理由は解消した。 2 明確性要件違反について 上記第3の2(1)のとおり、当審が、「第1表面」〜「第8表面」の文言が明確でない旨指摘したところ、本件補正により、これらの文言を用いずに、「第1外面部分」〜「第4外面部分」及び「第1内面部分」〜「第4内面部分」の文言を用いるように補正されたので、当該拒絶理由は解消した。 上記第3の2(2)のとおり、当審が、請求項11の「圧力を加えながら電流を供給」することと、「押し当て」ることと、「圧着又は溶接」することとの関係が、当該請求項の記載では不明であることを指摘したところ、本件補正により、請求項11に「前記一対の電極によって、前記第1外面部分と前記第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給すること」で「押し当て」、「前記角部に接合された凸部を形成する」ことが特定されたので、当該拒絶理由は解消した。 上記第3の2(3)のとおり、当審が、請求項11の記載では、支持端子が角部に対してどのような構造になっているのかが不明であることを指摘したところ、本件補正により、請求項11に「前記支持端子に、前記隙間内で突出し前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し前記脚部の前記角部に接合された凸部を形成する」ことが特定されたので、当該拒絶理由は解消した。 3 実施可能要件違反について 上記第3の3のとおり、当審が、本願の発明の詳細な説明の記載では、請求項4の「前記第1凸部と前記第2凸部とは、圧着」されている状態を製造することができるとはいえないことを指摘したところ、本件補正により、その点が削除されたので、当該拒絶理由は解消した。 第6 引用文献、引用発明等 1 引用文献1(特開平2−260353号公報)について (1)原査定が引用した引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同じ。)。 ア 「2.特許請求の範囲 (1)両端に平行状の脚部を有するフィラメントと、このフィラメントの一対の脚部を端部に支持する一対のターミナルと、この一対のターミナルを挿通して溶接する一対のスリーブと、この一対のスリーブを固定するタイトと、このタイトに固定され上記フィラメントに対する開口部を有するカップとを具備するX線管の陰極の組立方法において、 フィラメントの一対の脚部を一対のターミナルの端部に支持するフィラメント組立工程と、 一対のスリーブをタイトに固定するとともに、このタイトにカップを固定するカップ組立工程と、 上記フィラメント組立工程を経た一対のターミナルを上記カップ組立工程を経た一対のスリーブに挿通し、カップの表面からカップの開口部内のフィラメントまでの寸法(以下FD寸法と呼ぶ)をほぼ必要な寸法にするとともに、スリーブに対して軸方向に摺動できるようにターミナルをスリーブに仮固定する仮FD出し工程と、 光学系の深度測定器及びレーザ溶接機を用い、FD寸法を満足する位置に光学系の焦点を合わせ、ターミナルをスリーブに対して摺動して、フィラメントを光学系の焦点位置に合わせ、ターミナルをスリーブにレーザ溶接する本FD出し工程とを有する ことを特徴とするX線管の陰極の組立方法。」(第1頁左下欄第3行〜右下欄第10行) イ 「(産業上の利用分野) 本発明は、X線管の陰極の組立方法に関するものである。」(第1頁右下欄第13行〜第15行) ウ 「(従来の技術) X線管は、その構造上から固定陽極X線管と回転陽極X線管とに大別できるが、そのいずれにおいても、陰極の構造は同じで、たとえば、第6図に示す固定陽極X線管の陰極1のように、熱電子を放出するフィラメント2と、静電界により電子ビームを収束するカップ3等で構成されている。」(第1頁右下欄第16行〜第2頁左上欄第2行)、 「このため、一般的には、フィラメント2にタングステン直熱コイルを用い、フィラメント電流で電子流を制御するとともに、フィラメント2とカップ3の相対位置を調整して、電子ビームをターゲット5上に集束させ、焦点6を結ばせるようにしている。」(第2頁左上欄第7行〜第12行) エ 「(発明が解決しようとする課題) 上述したX線管の陰極1の組立において、FD寸法を例えば±10μm程度の微少な公差内に調整する作業は、作業者がニッパ等を用いて熟練と勘によって行なっており、その調整結果の確認も、FDチェッカ40のランプ38の点滅だけで、どれだけ動かしたのかという調整量が作業者にわからないため、動かし過ぎや、動かし足りないといった作業ミスが発生し、調整とその結果の確認の繰返し作業が必要となり、組立に要する時間がばらついたり、熟練した作業者でないと調整ができないという問題があった。 また、ターミナル23とスリープ13を抵抗溶接によって固定する際に、せっかく調整したFD寸法が狂ったりするため、検査や再調整の必要もあった。 本発明は、このような点に鑑みなされたもので、FD寸法のずれ量を目視で判断できるようにして、FD寸法の調整を容易かつ確実に行えるようにし、繰返しの調整作業を不要にすることを目的とするものである。」(第3頁右上欄第6行〜左下欄第6行) オ 「(実施例) 本発明のX線管の陰極の組立方法の一実施例を第1図ないし第5図を参照して説明する。 第2図はフィラメント組立工程で使用する装置の説明図である。」(第4頁左上欄第9行〜第13行)、 「51は一対のターミナル23を所定の間隔で所定の位置に位置決めする一対のV溝52を設けた一方のターミナル押え、53はこのターミナル押え51に対して水平にスライドして一対のターミナル23を上記一対のV溝52に押えて固定する他方のターミナル押えである。なお、一対のターミナル23はそのスリット24が一直線の状態に位置決め固定される。 54と55は、上記一対のターミナル押え51,53によって、一対のターミナル23を位置決め固定した後、ターミナル23の中心軸上で突合わされ、この状態で、一対の漏斗状のガイド孔56を所定の間隔で所定の位置に形成するフィラメントガイドで、ガイド孔56にフィラメント21が位置決めされ、フィラメント21の脚部22がターミナル23のスリット24の中心に入るようになっている。 57と58は、上記一対のフィラメントガイド54,55によってフィラメント21を位置決めした後、一対のターミナル23のスリット24部分の中心に向かって両側から対称的に同一速度でスライドするとともに、ターミナル23のスリット24部分を両側から同一の圧力で加圧し、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極である。 このような装置により、フィラメント組立工程では、第3図に示すように、ターミナル23の中心軸にフィラメント21の脚部22が一致したフィラメント組立体25を作ることができる。」(第4頁左上欄第14行〜左下欄第3行)(当審注:第4頁右上欄第14行〜第15行の「中心に向かってに両側から」は、「中心に向かって両側から」の明らかな誤記であるため、誤記を正して摘記した。)、 「第4図は仮FD出し工程で使用する装置の説明図である。」(第4頁左下欄第4行〜第5行)、 「17は従来と同様のタイトかしめ工程及びカップかしめ工程から成るカップ組立工程を経て組立てられたタイト11、スリーブ13及びカップ16から成るカップ組立体である。」(第4頁左下欄第9行)、 「そして、この仮FD出し工程におけるプレスヘッド61,62の加圧力はたとえば数百g程度で、次の本FD出し工程において、スリーブ13に対してターミナル23を軸方向に摺動することができるようになっている。 第1図は本FD出し工程で使用する装置の説明図で、光学系の深度測定器71と、ターミナル上下機構72と、レーザ溶接機73とで構成されている。」(第5頁左上欄第8行〜第15行)、 カ 第2図及び第3図からは、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58は、フィラメント21の脚部22の下端を加圧しないことが見て取れる。 (2)上記(1)によれば、引用文献1には、第2図に係るフィラメント組立工程によって製造されたフィラメント組立体(第3図)を備え、仮FD出し工程(第4図)及び本FD出し工程(第1図)を経て製造されたX線管について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているととともに、当該X線管の製造方法について、次の発明(以下「引用製法発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明と引用製法発明とは、「X線管」を「X線管の製造方法」に変更した点でのみ異なる。また、参考までに引用発明等の認定に関連する記載箇所を括弧内に示してある(以下同じ)。 [引用発明] 「両端に平行状の脚部を有するフィラメントと、このフィラメントの一対の脚部を端部に支持する一対のターミナルと、この一対のターミナルを挿通して溶接する一対のスリーブと、この一対のスリーブを固定するタイトと、このタイトに固定され上記フィラメントに対する開口部を有するカップとを具備するX線管の陰極を備えたX線管であって、(上記(1)ア) 熱電子を放出するフィラメントにタングステン直熱コイルを用いており、 カップは、静電界により電子ビームを収束するものであり、(上記(1)ウ) フィラメントの一対の脚部を一対のターミナルの端部に支持するフィラメント組立工程において、(上記(1)ア) 一対のターミナル23はそのスリット24が一直線の状態に位置決め固定され、 フィラメントガイド54,55のガイド孔56にフィラメント21が位置決めされ、フィラメント21の脚部22がターミナル23のスリット24の中心に入るようになっており、 電極57,58が、上記一対のフィラメントガイド54,55によってフィラメント21を位置決めした後、一対のターミナル23のスリット24部分の中心に向かって両側から対称的に同一速度でスライドするとともに、ターミナル23のスリット24部分を両側から同一の圧力で加圧し、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接し、(上記(1)オ) ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58は、フィラメント21の脚部22の下端を加圧しない、(上記(1)カ) X線管。(上記(1)ア)」 [引用製法発明] 「両端に平行状の脚部を有するフィラメントと、このフィラメントの一対の脚部を端部に支持する一対のターミナルと、この一対のターミナルを挿通して溶接する一対のスリーブと、この一対のスリーブを固定するタイトと、このタイトに固定され上記フィラメントに対する開口部を有するカップとを具備するX線管の陰極を備えたX線管の製造方法であって、(上記(1)ア) 熱電子を放出するフィラメントにタングステン直熱コイルを用いており、 カップは、静電界により電子ビームを収束するものであり、(上記(1)ウ) フィラメントの一対の脚部を一対のターミナルの端部に支持するフィラメント組立工程において、(上記(1)ア) 一対のターミナル23はそのスリット24が一直線の状態に位置決め固定され、 フィラメントガイド54,55のガイド孔56にフィラメント21が位置決めされ、フィラメント21の脚部22がターミナル23のスリット24の中心に入るようになっており、 電極57,58が、上記一対のフィラメントガイド54,55によってフィラメント21を位置決めした後、一対のターミナル23のスリット24部分の中心に向かって両側から対称的に同一速度でスライドするとともに、ターミナル23のスリット24部分を両側から同一の圧力で加圧し、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接し、(上記(1)オ) ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58は、フィラメント21の脚部22の下端を加圧しない、(上記(1)カ) X線管の製造方法。(上記(1)ア)」 2 引用文献2(特開2003−317640号公報)について (1)原査定が引用した引用文献2には、次の事項が記載されている。 ア 「【発明の属する技術分野】この発明は、例えばイオン注入装置、イオンドーピング装置等に用いられるものであって、原料ガスが導入されるプラズマ生成容器内に熱電子放出用のフィラメントを有するイオン源に関し、より具体的には、原料ガスを構成する元素によるフィラメントの劣化を抑制してフィラメントの寿命を延ばす手段に関する。」(【0001】) イ 「図2に、図1中の鞘22付近のより具体例を拡大して示す。この例では、電流導入端子8の先端部には、フィラメント12の脚部12bをつかんで保持するチャック部9が形成されており、その外周部は雄ねじになっている。9aはスリット(割り)である。このチャック部9に螺合させてフィラメント12を固定するナット部24と、円筒状の前記鞘22とを一体で形成している。」(【0023】)、 「電流導入端子8(チャック部9を含む)の材質はモリブデン、鞘22およびナット部24の材質はタンタル、フィラメント12の材質はタングステンである。チャック部9とナット部24とを異種金属にして、焼き付きを防止している。使用する原料ガス4は、例えばB2H6、BF3等のホウ化物を含むガスである。」(【0024】) (2)上記(1)によれば、引用文献2には、 「原料ガスが導入されるプラズマ生成容器内に熱電子放出用のフィラメントを有するイオン源において、(【0001】) 電流導入端子8の先端部には、フィラメント12の脚部12bをつかんで保持するチャック部9が形成されており、その外周部は雄ねじになっており、 チャック部9にはスリット(割り)9aが形成されており、 このチャック部9に螺合させてフィラメント12を固定するナット部24が設けられている(【0023】)」という技術的事項が記載されていると認められる。 3 引用文献3(特開2008−166074号公報)について (1)原査定が引用した引用文献3には、次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】」、 「本発明は、二本のリード線に接続されたフィラメントコイルから成る電極構造に関する。」(【0001】) イ 「その際、上記パイプ連結部14,15内に挿入されたフィラメントコイル13の接続部13b,13cは、それぞれパイプ連結部14,15内にて、リード線11,12の先端に当接しないように、図3に示すように、適宜の間隔を画成するように、挿入される。 これにより、電極構造10におけるフィラメントコイル13とリード端子11,12がそれぞれパイプ連結部14,15を介して互いに固定保持されることになる。」(【0044】) ウ 「[実施例2]、 「図5は、本発明による電極構造の第二の実施形態の要部の構成を示している。図5(A)において、電極構造20は、図1に示した電極構造10とほぼ同様の構成であるので、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。」(【0051】)、 「上記電極構造20は、図1に示した車両用灯具10とは、以下の点で異なる構成になっている。 即ち、上記電極構造20においては、パイプ連結部14,15が、下端14a,15aと上端14b,15bとの間の中間領域にて、少なくとも内径が小さくなっている絞り部14c,15cを有している。なお、この絞り部は図5(B)に示すように閉塞して接触していても良い。」(【0052】)、 「このような構成の電極構造20によれば、上記パイプ連結部14,15の下端14a,15aまたは上端14b,15bに対して、リード線11,12の先端またはフィラメントコイル13の接続部13b,13cを挿入する際に、この絞り部14c,15cがストッパとして機能する。これにより、上記パイプ連結部14,15内で、リード線11,12の先端とフィラメントコイル13の接続部13b,13cとの直接接触が確実に回避され得ることになる。」(【0053】) (2)上記(1)によれば、引用文献3には、 「二本のリード線に接続されたフィラメントコイルから成る電極構造であって、(【0001】) 電極構造におけるフィラメントコイル13とリード端子11,12がそれぞれパイプ連結部14,15を介して互いに固定保持されるものであり、(【0044】) パイプ連結部14,15が、下端14a,15aと上端14b,15bとの間の中間領域にて、少なくとも内径が小さくなっている絞り部14c,15cを有している(【0052】)」という技術的事項が記載されていると認められる。 第7 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 本願発明1の「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長し、前記先端部に角部を有する脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている陰極カップとを備える陰極を備え」る「X線管」という特定事項について (ア)本願発明1の「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長し、前記先端部に角部を有する脚部とを備えるフィラメント」について 引用発明の「フィラメント」は、「両端に平行状の脚部を有する」とともに「熱電子を放出するフィラメントにタングステン直熱コイルを用いて」いるものである。 そこで検討すると、引用発明の当該「フィラメント」は、本願発明1の「フィラメント」に相当する。そして、引用発明では、当該「フィラメント」は「熱電子を放出する」ものであり、その「フィラメント」に「タングステン直熱コイル」を用いているから、当該「フィラメント」は、本願発明1でいう「電子を放出するコイル」を備えるといえる。さらに、当該「フィラメント」は「両端に平行状の脚部を有」しているところ、引用発明の「脚部」は、本願発明1の「脚部」に相当し、引用発明の「フィラメント」は、本願発明1でいう「前記コイルから先端部まで延長」する「脚部」を備えるといえる。 このように、引用発明の「フィラメント」は、本願発明1の「フィラメント」に相当するとともに、本願発明1でいう「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長」する「脚部とを備える」ものといえるが、引用発明では、当該「脚部」が「前記先端部に角部を有する」のかは不明である。 (イ)本願発明1の「隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子」について 引用発明の「ターミナル」は、「フィラメント組立工程」において「一対のターミナル23はそのスリット24が一直線の状態に位置決め固定され」るものである。 そこで検討すると、引用発明の当該「ターミナル」(「ターミナル23」)及びその「スリット24」は、それぞれ、本願発明1の「支持端子」及び「隙間」に相当する。そして、引用発明の「ターミナル」は「スリット24」を備える以上、当該「ターミナル」が、本願発明1でいう「前記隙間が開口する開口部と前記開口部の反対側の前記隙間の端部に位置する底部」を備えることは明らかである。 このように、引用発明の「支持端子」は、本願発明1の「支持端子」に相当するとともに、本願発明1でいう「隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する」ものといえる。 (ウ)本願発明1の「前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている陰極カップ」について 引用発明の「カップ」は、「X線管の陰極」に具備されるものであって、「静電界により電子ビームを収束する」ものである。そして、引用発明では、「X線管」について、「・・・フィラメントと、このフィラメントの一対の脚部を端部に支持する一対のターミナルと、この一対のターミナルを挿通して溶接する一対のスリーブと、この一対のスリーブを固定するタイトと、このタイトに固定され上記フィラメントに対する開口部を有するカップとを具備する」と特定されている。 そこで検討すると、引用発明の当該「カップ」は、本願発明1の「陰極カップ」に相当する。 そして、引用発明の当該「カップ」は、「タイトに固定され」るとともに「上記フィラメントに対する開口部を有する」ものであるところ、当該「タイト」は「一対のスリーブを固定する」ものであり、当該「一対のスリーブ」は「一対のターミナルを挿通して溶接する」ものであり、当該「一対のターミナル」は「フィラメントの一対の脚部を端部に支持する」ものであるから、当該「カップ」は、「タイト」及び「一対のスリーブ」を介して、「一対のターミナル」(本願発明1の「支持端子」に相当。)及び「フィラメント」(本願発明1の「フィラメント」に相当。)を固定していることになる。このことに、当該「カップ」が、「静電界により電子ビームを収束するものであ」ることをも考慮すれば、当該「カップ」は、本願発明1でいう「前記フィラメントと前記支持端子とを収容」するとともに、「支持端子が接続されている」ものといえる。 このように、引用発明の「カップ」は、本願発明1の「陰極カップ」に相当するとともに、本願発明1でいう「前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている」ものといえる。 (エ)本願発明1の「陰極」が上記(ア)の「フィラメント」と上記(イ)の「支持端子」と上記(ウ)の「陰極カップ」とを備えることについて 引用発明の「X線管の陰極」は、本願発明1の「陰極」に相当する。そして、当該「X線管の陰極」は、「フィラメント」と「一対のターミナル」と「カップ」とを具備するから、本願発明1でいう「コイル」と「フィラメント」と「支持端子」と「陰極カップ」とを備えるといえる。 (オ)引用発明の「X線管」は、本願発明1の「X線管」に相当する。 そして、引用発明の「X線管」は、「X線管の陰極」を備えているから、本願発明1の「陰極」を備えるといえる。 (カ)以上によれば、本願発明1と引用発明とは、「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長」する「脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている陰極カップとを備える陰極を備え」た「X線管」である点で一致するが、引用発明は、当該「脚部」が「前記先端部に角部を有する」のかが不明である。 イ 本願発明1の「前記支持端子は、前記隙間内で突出し、前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し、前記脚部の前記角部に接合されている凸部を備える」との特定事項について 引用発明は、本願発明1の上記特定事項を満たしていない。 (2)一致点及び相違点の認定 上記(1)によれば、本願発明1と引用発明とは、 「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長する脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている陰極カップとを備える陰極を備える、X線管。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 「前記コイルから先端部まで延長する脚部」について、本願発明1は、その「先端部」に「角部」を有するのに対し、引用発明は、そうであるか不明である点。 [相違点2] 本願発明1は、前記支持端子は、「前記隙間内で突出し、前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し、前記脚部の前記角部に接合されている凸部」を備えるのに対し、引用発明は、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58が、フィラメント21の下端を加圧しない点。 (3)相違点についての判断 ア 事案に鑑み、相違点2から検討する。 引用発明において相違点2に係る構成に至るためには、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58が、フィラメント21の脚部22の下端を加圧するように変更する必要が少なくともあると解される。 しかしながら、引用発明は、当該電極57,58が、フィラメント21の脚部22の下端を加圧しない構成であるところ、引用文献1には、上記のような当該下端を加圧する変更を行うこと、例えば、フィラメント21の脚部22を上方に移動させることや、電極57,58の位置を下方に移動させることについて記載も示唆もない。この点、引用発明が当該下端を加圧しない構成を採用している理由は、「ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する」ものであることに照らせば、スリット24部分がフィラメント21の脚部22に接触する面積を大きくすることにあると考えられるところ、上記のような変更を行うと、一般に、当該面積が小さくなることから、当業者にそのような変更をする動機があるとは言い難い。 そして、引用文献1の他の記載並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項をみても、上記の説示を左右しない。 イ なお、原査定は、引用文献1にフィラメントの端部の支持構造が詳述されていないことを前提として、当該支持構造として引用文献2及び3に記載された構造を採用して相違点2に係る構成に至ることに格別の困難性がない旨説示する。 しかしながら、引用文献1には、上記第6の1(1)カのとおり、電極57,58がフィラメント21の脚部22の下端を加圧しないことが記載されているというべきである。そして、引用文献2に記載された技術的事項は、上記第6の2(2)のとおり、チャック部9にフィラメント12を固定する際にナット部24による螺合を用いるものであり、また、引用文献3に記載された技術的事項は、上記第6の3(2)のとおり、フィラメントコイル13とリード端子11,12との固定保持をそれぞれパイプ連結部14,15により行うものであるが、引用発明は、このような螺合やパイプ連結部を用いるものではない。そうすると、引用発明から出発した当業者がこれらの構成を採用する動機があるとはいえない。 ウ よって、当業者が、引用発明及び引用文献1〜3に記載された技術的事項に基づいて、相違点2に係る構成に至ることはなく、そのように構成することにより、本願発明1は、陰極のフィラメントのずれを防止できるX線管を提供できる(【0005】)という格別の効果を奏するものといえる。 (4)本願発明1についての小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献1〜3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2〜10について 本願発明2〜10は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献1〜3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明11について (1)対比 本願発明11と引用製法発明とを対比する。 ア 本願発明11の「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長し、前記先端部に角部を有する脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている容器とを備える陰極を備えるX線管に適用される製造方法」という特定事項について 上記特定事項は、上記1(1)アに係る本願発明1の特定事項において、「陰極カップ」が「容器」に変更されるとともに、「X線管」が「X線管に適用される製造方法」に変更されている点で異なるものである。 そのため、本願発明1と引用製法発明とは、上記特定事項に関して、「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長」する「脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている容器とを備える陰極を備えるX線管に適用される製造方法」である点で一致するが、引用製法発明は、当該「脚部」が「前記先端部に角部を有する」のかが不明であるといえる。 イ 本願発明11の「前記脚部の前記先端部を前記支持端子の前記隙間に挿入し、」という特定事項について 引用製法発明は、「一対のターミナル23はそのスリット24が一直線の状態に位置決め固定され、フィラメントガイド54,55のガイド孔56にフィラメント21が位置決めされ、フィラメント21の脚部22がターミナル23のスリット24の中心に入るようになって」いるものであるから、引用製法発明は、「フィラメント21の脚部22」(本願発明11の「フィラメント」の「脚部」に相当。)の先端部を「一対のターミナル23」(本願発明11の「支持端子」に相当。)の「スリット24」(本願発明11の「隙間」に相当。)に挿入する工程を備えているということができ、よって、引用製法発明は、本願発明11の上記特定事項を満たしているといえる。 ウ 本願発明11の「前記先端部を前記隙間に挿入した後、一対の電極によって、前記支持端子の外面の第1外面部分と、前記脚部の前記角部を間に挟んで前記第1外面部分の反対側に位置する前記支持端子の前記外面の第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給し、」という特定事項について 引用製法発明は、「電極57,58が、上記一対のフィラメントガイド54,55によってフィラメント21を位置決めした後、一対のターミナル23のスリット24部分の中心に向かって両側から対称的に同一速度でスライドするとともに、ターミナル23のスリット24部分を両側から同一の圧力で加圧し、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接」するものであり、「ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58は、フィラメント21の脚部22の下端を加圧しない」ものである。そして、引用製法発明では、「フィラメントガイド54,55のガイド孔56にフィラメント21が位置決めされ、フィラメント21の脚部22がターミナル23のスリット24の中心に入るようになって」いる。 そこで検討すると、引用製法発明の「電極57,58」は、本願発明11の「一対の電極」に相当する。そして、引用製法発明は、「フィラメントガイド54,55のガイド孔56にフィラメント21が位置決めされ」たときに「フィラメント21の脚部22がターミナル23のスリット24の中心に入るようになって」おり、その状態で、「電極57,58」が「ターミナル23のスリット24部分を両側から同一の圧力で加圧し、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接」するものであるから、引用製法発明は、「フィラメント21の脚部22」の先端部を「スリット24」に挿入した後、「電極57,58」によって、「フィラメント21の脚部22」を「両側から同一の圧力で加圧」し、「抵抗溶接」するものといえる。 そうすると、本願発明11と引用製法発明とは、本願発明11の「前記先端部を前記隙間に挿入した後、一対の電極によって、前記支持端子の外面の第1外面部分と、前記脚部」「を間に挟んで前記第1外面部分の反対側に位置する前記支持端子の前記外面の第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給」する点で一致するといえる。 しかしながら、引用製法発明は、「電極57,58は、フィラメント21の脚部22の下端を加圧しない」から、「フィラメント21の脚部22」における(本願発明11でいう)「第1外面部分」及び「第2外面部分」が「間に挟ん」でいる「前記脚部」が、「前記脚部の前記角部」ではない。 エ 本願発明11の「前記一対の電極によって、前記第1外面部分と前記第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給することで、前記隙間内で前記支持端子の内面の第1内面部分と該第1内面部分と対向する前記内面の第2内面部分とを前記角部に押し当て、前記支持端子に、前記隙間内で突出し前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し前記脚部の前記角部に接合された凸部を形成する」との特定事項について 引用製法発明は、本願発明11の上記特定事項を備えない。 オ 本願発明11の「X線管の製造方法」という特定事項について 引用製法発明は、本願発明11の上記特定事項を満たしている。 (2)一致点及び相違点の認定 上記(1)によれば、本願発明11と引用製法発明とは、「電子を放出するコイルと、前記コイルから先端部まで延長する脚部とを備えるフィラメントと、隙間を有し、前記隙間が開口する開口部と前記開口部と反対側の前記隙間の端部に位置する底部とを有する支持端子と、前記フィラメントと前記支持端子とを収容し、前記支持端子が接続されている容器とを備える陰極を備えるX線管に適用される製造方法であって、 前記脚部の前記先端部を前記支持端子の前記隙間に挿入し、 前記先端部を前記隙間に挿入した後、一対の電極によって、前記支持端子の外面の第1外面部分と、前記脚部を間に挟んで前記第1外面部分の反対側に位置する前記支持端子の前記外面の第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給する、 X線管の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点3] 「前記コイルから先端部まで延長する脚部」について、本願発明11はその「先端部」に「角部」を有するのに対し、引用製法発明はそうであるか不明である点。 [相違点4] 「一対の電極」が「圧力を加えながら電流を供給する」対象が、本願発明11は、「前記支持端子の外面の第1外面部分と、前記脚部の前記角部を間に挟んで前記第1外面部分の反対側に位置する前記支持端子の前記外面の第2外面部分」であるのに対し、引用製法発明は、「フィラメント21の脚部22の下端」ではない点。 [相違点5] 本願発明11は、「前記一対の電極によって、前記第1外面部分と前記第2外面部分とに圧力を加えながら電流を供給することで、前記隙間内で前記支持端子の内面の第1内面部分と該第1内面部分と対向する前記内面の第2内面部分とを前記角部に押し当て、前記支持端子に、前記隙間内で突出し前記脚部の前記先端部より前記底部側に位置し前記脚部の前記角部に接合された凸部を形成する」のに対し、引用製法発明は、そうではない点。 (3)相違点の判断 事案に鑑み、相違点4及び5から検討すると、引用製法発明においてこれらの相違点に係る構成に至るためには、上記1(3)アの相違点2に係る判断で説示したことと同様に、ターミナル23のスリット24部分をフィラメント21の脚部22に潰して抵抗溶接する電極57,58が、フィラメント21の脚部22の下端を加圧するように変更する必要が少なくともあると解される。よって、相違点2に係る判断と同様の理由で、引用製法発明から出発した当業者が、これらの構成を採用する動機があるとはいえないし、この判断は、引用文献2及び3に記載された技術的事項を考慮しても左右されないということになる。 (4)本願発明11についての小括 したがって、相違点3について検討するまでもなく、本願発明11は、引用製法発明及び引用文献1〜3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 4 本願発明12及び13について 本願発明12及び13は、本願発明11を減縮した発明であるから、本願発明11と同様の理由により、引用製法発明及び引用文献1〜3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明1〜13は、当業者が引用発明及び引用文献1〜3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-10-31 |
出願番号 | P2017-003524 |
審決分類 |
P
1
8・
55-
WY
(H01J)
P 1 8・ 121- WY (H01J) P 1 8・ 536- WY (H01J) P 1 8・ 537- WY (H01J) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
加々美 一恵 |
特許庁審判官 |
山村 浩 吉野 三寛 |
発明の名称 | X線管及びX線管の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人スズエ国際特許事務所 |