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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1391642
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-12 
確定日 2022-11-10 
事件の表示 特願2020−209202「蓄電デバイス及び電気機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 3月15日出願公開,特開2022− 42921〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,令和2年12月17日(優先権主張 令和2年9月3日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 5月20日付け:拒絶理由通知
令和 3年 7月 2日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年 7月30日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 3年 8月 6日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年10月 5日付け:令和3年8月6日の手続補正についての補正の却下の決定,拒絶査定
令和3年11月12日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和4年 1月27日 :上申書の提出

第2 令和3年11月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年11月12日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正により補正された特許請求の範囲の記載
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおり補正することを含むものである。なお,下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
平面視略矩形の蓄電セルと,それを覆う外装部材と,電極端子部品とを備えた蓄電デバイスであって,
前記電極端子部品が,前記外装部材から突出するように前記蓄電セルに接続される板状で金属製の電極端子と,前記電極端子の表裏面及び両側面の所定範囲を取り囲むように形成された樹脂製の被覆帯と,を有して,前記蓄電セルの対向する長辺に接続され,
前記電極端子の先端から前記蓄電セルに対する接続位置への方向を電極長さ方向とし,その電極長さ方向と電極幅方向と電極厚さ方向とを互いに直交する3方向とするとき,電極幅が100〜1000mmであり,電極厚さが0.1mmよりも大きく,
前記電極端子の両側面に,前記電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が0.1mm以上のピッチで複数形成され,前記凹部の内壁が前記電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有し,隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続することを特徴とする蓄電デバイス。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
令和3年8月6日の手続補正は,令和3年10月5日付けで補正却下の決定がなされている。したがって,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,令和3年7月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。
「【請求項1】
平面視略矩形の蓄電セルと,それを覆う外装部材と,電極端子部品とを備えた蓄電デバイスであって,
前記電極端子部品が,前記外装部材から突出するように前記蓄電セルに接続される板状で金属製の電極端子と,前記電極端子の表裏面及び両側面の所定範囲を取り囲むように形成された樹脂製の被覆帯と,を有して,前記蓄電セルの対向する長辺に接続され,
前記電極端子の先端から前記蓄電セルに対する接続位置への方向を電極長さ方向とし,その電極長さ方向と電極幅方向と電極厚さ方向とを互いに直交する3方向とするとき,電極幅が100〜1000mmであり,電極厚さが0.1mmよりも大きいことを特徴とする蓄電デバイス。」

2 補正の適否
請求項1についての本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電極端子」について,「前記電極端子の両側面に,前記電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が0.1mm以上のピッチで複数形成され,前記凹部の内壁が前記電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有し,隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」ことの限定を付加する補正であって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正により補正された請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正により補正された請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,前記「1(1)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献,引用発明
ア 引用文献1,引用発明
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開2013−80586号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(なお,下線は当審で付与した。以下同様)。
「【0027】
【図1】 図1は,本発明の一実施形態に係る端子リードを備えた電気化学デバイスとしてのリチウムイオン二次電池を示す平面図である。
【図2】 図2は,図1中のX−X断面図である。
【図3】 図3は,絶縁用樹脂フィルム付き端子リードの斜視図である。
【図4】 図4は,絶縁用樹脂フィルム付き端子リードの平面図である。
【図5】 図5は,図4中のY1−Y1線断面図である。
【図6】 図6は,図4中のY2−Y2線断面図である。
【図7】 図7は,端子リードの条材(端子リード用素板)の平面図である。
【図8】 図8は,図7中のZ−Z線断面図である。
【図9】 図9は,絶縁用樹脂フィルム付き端子リードの電気抵抗の測定方法についての説明図である。」

「【0029】
本発明の一実施形態に係る端子リード1は,図1及び2に示すように,電気化学デバイスとしてのリチウムイオン二次電池10に正極側端子リード1A及び/又は負極側端子リード1Bとして備えられるものである。本実施形態のリチウムイオン二次電池10では,端子リード1は正極側端子リード1Aと負極側端子リード1Bとにそれぞれ用いられている。
【0030】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10では,図2に示すように,その外装体9内に電気化学デバイスの電気化学要素としての電池要素6が収容されている。」

「【0033】
電池要素6は,板状正極集電体7Aと板状負極集電体7Bとがセパレータ8及び/又は電解質(固体電解質,ゲル電解質)を介して積層されて構成されている。正極集電体7Aの表面には正極材料(LiCoO2等)が,負極集電体7Bの表面には負極材料(LiC6等)がそれぞれ結合している。なお,本実施形態では,電池要素6の正極及び負極集電体7A,7Bが,外装体9の内側にてそれぞれ対応する極側の端子リード1A,1Bの内端部1aと電気的に接続される内側被接続部材に対応している。」

「【0035】
図2に示すように,端子リード1は,外装体9の内側に配置された内端部1aと,外装体9のシール部9xから外装体9の外側へ引き出されて外装体9の外側に配置された外端部1bとを一体に有するものである。端子リード1の内端部1aは端子リード1の長さ方向一端部からなり,端子リード1の外端部1bは端子リード1の長さ方向他端部からなる。
【0036】
さらに,図2〜6に示すように,端子リード1は,基材として,良好な導電性を有する板(箔を含む)状金属基材2を備えている。金属基材2の材質は,限定されるものではなく,様々な金属種の中から適宜選択される。具体的には,端子リード1が正極側端子リード1Aである場合には,その金属基材2の材質はアルミニウム(その合金を含む)等であり,特にアルミニウム合金番号A1000系のアルミニウムであることが望ましい。端子リード1が負極側端子リード1Bである場合には,その金属基材2の材質は無酸素銅(JIS(日本工業規格) H3100:C1020)やタフピッチ銅(JIS H3100:C1100)等である。また,金属基材2の厚さ方向両面と幅方向両側面とには,化成処理(例:クロメート処理,非クロメート処理)又は/及び電解処理(例:陽極酸化処理,めっき処理)が予め施されていることが特に望ましい。なお,めっき処理とは,無電解めっき処理を含む。
【0037】
図3において,端子リード1の金属基材2の長さ寸法L,幅寸法W及び厚さ寸法Tは,リチウムイオン二次電池10の大きさ,容量等に応じて様々に設定されるものであり,限定されるものではなく,例えば,Lは20〜70mm,Wは20〜120mm及びTは0.1〜1.0mmにそれぞれ設定される。」

「【0043】
そして,この端子リード1では,端子リード1における外装体9のシール部9xに対応する部分に,その全周を覆う状態に絶縁用樹脂フィルム4が表面塗布層3を介して固定状態に取り付けられている。本実施形態では,樹脂フィルム4が取り付けられる端子リード1の位置は,端子リード1の長さ方向中間位置である。この取付け状態において,端子リード1と樹脂フィルム4との密着性は,表面塗布層3によって高められている。これにより,外装体9内の電解液の外部への漏出が確実に且つ長期間に亘って防止されている。」



(イ)前記「(ア)」の記載事項から,次のことがいえる。
a 段落【0030】によれば,「リチウムイオン二次電池10」は,「外装体9内に」「電池要素6が収容されている」ものである。ここで段落【0027】によれば,図1は「リチウムイオン二次電池を示す平面図である」ところ,図1を参照すると,「外装体9」が平面図において略矩形であることが見て取れる。
また,段落【0029】によれば,「端子リード1」は,「リチウムイオン二次電池10に」「備えられるものである」。ここで段落【0043】によれば,「端子リード1では,」「全周を覆う状態に絶縁用樹脂フィルム4が」「取り付けられている」ものである。
してみると,引用文献1には,平面図において略矩形である「外装体9内に」「電池要素6が収容され」,「全周を覆う状態に絶縁用樹脂フィルム4が」「取り付けられている」「端子リード1」を備えた「リチウムイオン二次電池10」が記載されているといえる。

b 段落【0035】によれば,「端子リード1は,」「内端部1aと,」「外装体9の外側へ引き出され」た「外端部1bとを一体に有」し,「内端部1aは端子リード1の長さ方向一端部からなり」,「外端部1bは端子リード1の長さ方向他端部からなる」ものである。
そして段落【0033】によれば,「電池要素6」が「端子リード」の「内端部1aと電気的に接続される」ものである。

c 段落【0036】によれば,「端子リード1」は「板」「状」の「金属基材2を備えている」ものである。
そして段落【0037】によれば,「金属基材2」の「幅寸法W」は「20〜120mm」であり,「厚さ寸法T」は「0.1〜1.0mm」である。

(ウ)したがって,前記「(イ)」によれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「平面図において略矩形である外装体内に電池要素が収容され,全周を覆う状態に絶縁用樹脂フィルムが取り付けられている端子リードを備えたリチウムイオン二次電池であって,
端子リードは,内端部と,外装体の外側へ引き出された外端部とを一体に有し,内端部は端子リードの長さ方向一端部からなり,外端部は端子リードの長さ方向他端部からなり,
電池要素は,端子リードの内端部と電気的に接続され,
端子リードは板状の金属基材を備え,金属基材の幅寸法は20〜120mmであり,厚さ寸法は0.1〜1.0mmである,
リチウムイオン二次電池。」

イ 引用文献4
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開2004−362935号公報(以下,「引用文献4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0024】
図1は,本発明の電力貯蔵デバイスの好適な実施形態を示す斜視図であり,電力貯蔵デバイスとしての非水電解質電池を示している。本実施形態の非水電解質電池10は,図1に示すように薄肉形となっており,非水電解質電池10は,非水の溶媒(例えば有機溶媒)に電解質(例えばフッ化リチウム化合物)が溶解された非水電解液(電解質媒体)を含む単一の電気化学セルを,周縁部が熱融着されてヒートシールされる部分12が形成された封入袋14に封入することにより構成されている。この非水電解質電池10においては,正極用リード18a,負極用リード18bの一端が封入袋14の上部から上方に延び,外部との電気的な接続を可能にしている。なお,正極用リード18a,負極用リード18bはそれぞれ,封入袋14の内部から外部までのびるリード導体19を有しており,それらの外周にはそれぞれ絶縁体21が被覆されている。ここで,封入袋14及び絶縁体21が絶縁体付の封入袋114を構成し,絶縁体付の封入袋114が第一袋体に対応する。また,封入袋14が第二袋体に対応する。」

「【0030】
図3は正極用リード18a,負極用リード18bの一部破断斜視図である。本実施形態に係る正極用リード18a,負極用リード18bは,所定長さの矩形板状の電気導電体であるリード導体19と,このリード導体19の長さ方向ほぼ中央部の外周を取り囲むように融着されて被覆する絶縁体21を有している。ここで,リード導体19の長さ方向は,上述の非水電解質電池10においてリード導体19が封入袋14の内部から外部に延びる方向に対応する。
【0031】
そして,本実施形態に係る正極用リード18a,負極用リード18bにおいて,リード導体19における絶縁体21が被覆される部分の表面に,このリード導体19の長さ方向に直交する方向に延びる複数の溝120が形成されている。
【0032】
この溝120は,リード導体19の長さ方向に互いに離間されて形成されている。この溝120の深さは,導体の厚さに対して1〜20%とすることが好ましく,5〜15%とすることがより好ましい。また,この溝120の開口幅は,2〜500μmとすることが好ましく,5〜50μmとすることがより好ましい。さらに,溝120の間隔は,例えば,0.1〜1.0mm程度である。
【0033】
さらに,この溝120は,リード導体19の両方の主表面19a,19bに各々形成されている。そして,溝120は,各々の主表面19aの一方の縁から他方の縁までに亘って連続して形成されている。また,溝120の断面形状は,例えば,矩形である。」

「【0045】
上記非水電解質電池10によれば,リード導体19における絶縁体21に被覆された部分に,リード導体19が内部から外部まで延びる方向に対して直交する方向に延びる溝120が形成されている。このため,リード導体19と絶縁体21との間において,リード導体19が延びる方向に沿う水分やフッ化物等の物質の移動が十分に抑制される。これにより,このリード導体19と絶縁体21との間におけるリード導体19の腐食が十分に防止される。従って,リード導体19からの絶縁体21の剥離を長期間にわたって十分に防止できる。特に,電解質にフッ化物を有する場合には,フッ化物と水との反応によって生成されるフッ酸等の腐食物の生成も低減されて効果が高い。
【0046】
また,絶縁体21の熱可塑層23が溝120内に食い込んでいるので,アンカー効果によって,リード導体から絶縁体21が剥離されにくくなっている。
【0047】
従って,非水電解液の漏出による電池10の性能劣化が十分に防止されると共に,封入袋14の外部に漏出するフッ酸により外部機器が腐食されることが十分に防止される。
【0048】
ここで,溝120の断面形状は,特に限定されず,矩形断面以外に,例えば,V字状,U字状等の断面形状の溝の適用が考えられる。
【0049】
また,溝120は,リード導体19の側面19c,19dに形成されていてもよい。また,溝120は,必ずしもリード導体19の一方の縁から他方の縁まで延在していなくてもよい。」

「【0062】
<実施例>
端子リード1の金属基材2用長帯状金属素板として,幅6cm,厚さ0.2mmの無酸素銅板2の条材2Zを準備した。この条材2Zの厚さ方向両面2p,2pと幅方向両側面2s,2sとには,厚さ約2μmのニッケルめっき処理が全体に亘って予め施されている。次いで,この条材2Zの厚さ方向両面2p,2pと幅方向両側面2s,2sとに,グラビアロールを用いたグラビアコート法によって,キトサン類を主成分として含有するキトサン類水溶液(塗液)を塗布して乾燥温度200℃で乾燥させ,これにより,条材2Zの厚さ方向両面2p,2pと幅方向両側面2s,2sとに表面塗布層としてキトサン層3を全体に亘って略均一な塗布量で形成した。キトサン層3の塗布量は5mg/m2であった。なお,このキトサン層3は,キトサン及びキトサン誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物を含有したものである。こうして端子リード1の条材1Zを製作した。」

(イ)前記「(ア)」の記載事項から,次のことがいえる。
a 段落【0024】によれば,「電力貯蔵デバイスとしての非水電解質電池」は「リード導体19を有して」いるものである。

b 段落【0031】によれば,「リード導体19の長さ方向に直交する方向に延びる複数の溝120が形成されている」ものである。

c 段落【0049】によれば,「溝120は,リード導体19の側面19c,19dに形成されていてもよい」ものである。
ここで,「側面19c,19d」とは,「19c」と「19d」という2つの「側面」を指すものと認められる。
したがって,引用文献4には,「溝120」は「リード導体19」の2つの「側面」に形成されることが記載されているといえる。

d 段落【0032】によれば,「溝120の開口幅は」「2〜500μm」であり,「溝120の間隔は」「0.1〜1.0mm」である。

e 段落【0048】によれば,「溝120の断面形状は」「V字状」である。

(ウ)したがって,前記「(イ)」によれば,引用文献4には次の技術事項が記載されている。
「電力貯蔵デバイスとしての非水電解質電池はリード導体を有し,
リード導体の長さ方向に直交する方向に延びる複数の溝が形成され,
溝はリード導体の2つの側面に形成され,
溝の開口幅は2〜500μmであり,溝120の間隔は0.1〜1.0mmであり,
溝の断面形状はV字状であること。」

ウ 引用文献5
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開2013−65568号公報(以下,「引用文献5」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って,本発明は,従来技術の上記問題点に鑑みてなされたもので,本発明の目的とするところは,電池の抵抗を低減し,それによりエネルギー損失,例えば高出力充電又は放電の際の発熱及び電位低下を減少させるところの,高出力リチウム単電池及び該高出力リチウム単電池を備えた高出力リチウム電池パックを提供することである。」

「【0025】
以下,本発明に従う高出力リチウム単電池及び該高出力リチウム単電池を備えた高出力リチウム電池パックを詳細に説明する。
【0026】
図3は本発明の第1の態様に従う高出力リチウム単電池の分解斜視図であり,及び図4は本発明の第1の態様に従う高出力リチウム単電池の斜視図である。
【0027】
図3及び図4を参照すると,本発明の第1の態様に従う高出力リチウム単電池100は,負極板110−1,...,110−A,正極板120−1,...,120−B,分離膜130−1,...,130−C,負極板連結部111−1,...,111−A,正極板連結部121−1,...,121−B,負極端子140及び正極端子150を含んでなる。本発明の第1の態様に従う高出力リチウム単電池100において,負極板連結部111−1,...,111−A及び正極板連結部121−1,...,121−Bがそれぞれ負極端子140及び正極端子150に直接連結されている。負極端子140及び正極端子150は外部に露出し,そして所定の包装材により取り囲まれている。」

「【0060】
図3及び図4に示された第1の態様に従う高出力リチウム単電池100と,図8に示された第3の態様に従う高出力リチウム単電池400とを比較すると,第1の態様に従う高出力リチウム単電池100は,負極端子140及び正極端子150が長方形の4辺のうち2長辺から反対方向に伸びるように構成されている。」





(イ)前記「(ア)」の記載事項から,次のことがいえる。
a 段落【0027】によれば,「高出力リチウム単電池100は,負極板110−1,...,110−A,正極板120−1,...,120−B,分離膜130−1,...,130−C」,「負極端子140及び正極端子150を含んでなる」ものである。
ここで段落【0016】によれば,「高出力リチウム単電池」は「充電」されるものである。

b 段落【0060】によれば,図3及び図4に示された「高出力リチウム単電池100」は,「負極端子140及び正極端子150が長方形の4辺のうち2長辺から反対方向に伸びる」ものである。
ここで図3を参照すると,「負極板110−1,...,110−A」,「正極板120−1,...,120−B」及び「分離膜130−1,...,130−C」が積層されることが見て取れるところ,図4を参照すると,「負極端子140及び正極端子150」が「負極板110−1,...,110−A」,「正極板120−1,...,120−B」及び「分離膜130−1,...,130−C」を積層方向から見たときの「長方形の4辺のうち2長辺から反対方向に伸びる」ことが見て取れる。

(ウ)したがって,前記「(イ)」によれば,引用文献5には次の技術事項が記載されている。
「充電される高出力リチウム単電池の負極端子及び正極端子が,負極板,正極板及び分離膜を積層方向から見たときの長方形の4辺のうち2長辺から反対方向に伸びること。」

エ 引用文献6
(ア)新たに引用する特開2013−196930号公報(以下,「引用文献6」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,蓄電デバイス及び蓄電デバイスの封止方法に関する。より詳細には,タブ端子の封止構成及び方法に関する。」

「【0036】
図6は,本発明の他の実施形態に係るタブ端子の斜視図である。また,図7は,図6に示す本発明の他の実施形態に係る蓄電デバイスの部分断面図であり,図1のA−A線に沿った部位の断面図である。
【0037】
この実施態様では,タブ端子5の縁部には曲面もテーパ面も形成されていない。しかしながら,タブ端子5の上下の対向面5eに凹凸形状が形成されている。図7は,その一例を示し,断面が三角形である複数の溝が設けられている。上面には溝20が,下面には溝21が設けられている。溝20及び21は,タブ端子5の長手方向と直交する方向であって,封止部8に対応した領域にタブ端子5の全幅に渡って設けられている。
【0038】
本実施態様では,溝20及び21は,それぞれ4本設けられているが,溝の数は必要に応じて任意に設定できる。また,溝の深さ,断面形状なども同様である。図4及び図7に示すように,タブ端子5の溝20を設けた上面とラミネートフィルム2との間にシーラント22が配置されている。図4及び7ではタブ端子5の下面に設けるシーラントとラミネートフィルム3は図示を省略してある。また,対向面5eに設けた溝20,21は,本発明の全ての実施例のタブ端子5に設けることができる。
【0039】
平坦な面を有する公知のヒートツールにより封止部8がシーラント22と共に加圧及び加熱され,タブ端子5がラミネートフィルムで封止される。溝20及び21による凹凸構造により,蓄電デバイス1から電解液が漏れることを防止できる。特に,溝20及び21の凹部にシーラント22や融着性樹脂層12が食い込むことで,シール性が向上する。」



(イ)前記「(ア)」の記載事項から,次のことがいえる。
a 段落【0001】によれば,「蓄電デバイス」の「タブ端子」である。

b 段落【0037】によれば,「タブ端子5」に「断面が三角形である複数の溝が設けられ」,「溝」は「タブ端子5の長手方向と直交する方向」に設けられているものである。
ここで図7を参照すると,隣接する「溝」の三角形の斜辺が連続することが見て取れる。

c 段落【0039】によれば,「溝」により「蓄電デバイス1から電解液が漏れることを防止できる」ものである。

(ウ)したがって,前記「(イ)」によれば,引用文献6には次の技術事項が記載されている。
「蓄電デバイスのタブ端子において,断面が三角形である複数の溝が,タブ端子の長手方向と直交する方向に設けられ,隣接する溝の三角形の斜辺が連続し,溝により蓄電デバイスから電解液が漏れることを防止できること。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「電池要素」は,「リチウムイオン二次電池」の「電池要素」であって,蓄電の機能を発揮することは明らかであるから,本件補正発明の「蓄電セル」に相当する。
但し,「蓄電セル」について,本件補正発明は「平面視矩形状」であるのに対して,引用発明はそのような特定はされていない点で相違する。

(イ)引用発明の「外装体」は,前記「(ア)」によれば,本件補正発明の「蓄電セル」に相当する構成を収容することで覆っているといえるから,本件補正発明の「それを覆う外装部材」に相当する。

(ウ)引用発明の「板状の金属基材」を備える「端子リード」は,「長さ方向他端部からな」る「外端部」が「外装体の外側へ引き出され」,「内端部」が「電池要素」と電気的に接続されるものといえるから,本件補正発明の「前記外装部材から突出するように前記蓄電セルに接続される板状で金属製の電極端子」に相当する。

(エ)引用発明の「絶縁用樹脂フィルム」は,「端子リード」の「全周を覆う状態に」「取り付けられている」から,本件補正発明の「前記電極端子の表裏面及び両側面の所定範囲を取り囲むように形成された樹脂製の被覆帯」に相当する。

(オ)前記「(ウ)」ないし「(エ)」によれば,引用発明の「全周を覆う状態に絶縁用樹脂フィルムが取り付けられている端子リード」は,本件補正発明の「電極端子」及び「被覆帯」に相当する構成を有するといえるから,本件補正発明の「電極端子部品」に相当する。
また,引用発明の「電池要素は,端子リードの内端部と電気的に接続され」ることは,本件補正発明の「電極端子部品が,」「前記蓄電セル」「に接続され」ることに相当する。
但し,「電極端子部品」が「蓄電セル」に接続される箇所について,本件補正発明は,蓄電セルの対向する「長辺」に接続されるのに対して,引用発明はそのような特定はされていない点で相違する。

(カ)前記「(ア)」ないし「(オ)」によれば,引用発明の「リチウムイオン二次電池」は,本件補正発明の「蓄電セル」,「外装部材」及び「電極端子部品」に相当する構成を有するから,本件補正発明の「蓄電デバイス」に相当する。

(キ)引用発明の「金属基材」を備える「端子リード」は,「内端部」が「電池要素」と電気的に接続され,「内端部」は「長さ方向一端部」からなり,「外端部」は「長さ方向他端部」からなるものといえるから,「電池要素」と電気的に接続される方向が「長さ方向」であるといえる。
してみると,「金属基材」の「長さ方向」は,本件補正発明の「前記電極端子の先端から前記蓄電セルに対する接続位置への方向」である「電極長さ方向」に相当する。
そうすると,引用発明の「金属基材」の「幅寸法」及び「厚さ寸法」は,本件補正発明の「前記電極端子の先端から前記蓄電セルに対する接続位置への方向を電極長さ方向とし,その電極長さ方向と電極幅方向と電極厚さ方向とを互いに直交する3方向とするとき」の「電極幅」及び「電極厚さ」に相当する。
但し,「電極厚さ」について,本件補正発明の「0.1mmよりも大き」いのに対して,引用発明は「0.1〜1.0mm」である点で相違する。
また,「電極幅」について,本件補正発明は「100〜1000mm」であるのに対して,引用発明は「20〜120mm」である点で相違する。

(ク)本件補正発明は「前記電極端子の両側面に,前記電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が0.1mm以上のピッチで複数形成され,前記凹部の内壁が前記電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有し,隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」のに対して,引用発明はそのような特定はされていない点で相違する。

イ 一致点・相違点
したがって,本件補正発明と引用発明とは,
「蓄電セルと,それを覆う外装部材と,電極端子部品とを備えた蓄電デバイスであって,
前記電極端子部品が,前記外装部材から突出するように前記蓄電セルに接続される板状で金属製の電極端子と,前記電極端子の表裏面及び両側面の所定範囲を取り囲むように形成された樹脂製の被覆帯と,を有して,前記蓄電セルに接続され,
前記電極端子の先端から前記蓄電セルに対する接続位置への方向を電極長さ方向とし,その電極長さ方向と電極幅方向と電極厚さ方向とを互いに直交する3方向とする蓄電デバイス。」
である点で一致し,以下の点において相違する。

(相違点1)
「蓄電セル」について,本件補正発明は「平面視矩形状」であるのに対して,引用発明はそのような特定はされていない点。

(相違点2)
「電極端子部品」が「蓄電セル」に接続される箇所について,本件補正発明は蓄電セルの対向する「長辺」に接続されるのに対して,引用発明はそのような特定はされていない点。

(相違点3)
「電極厚さ」について,本件補正発明は「0.1mmよりも大き」いのに対して,引用発明は「0.1〜1.0mm」である点。

(相違点4)
「電極幅」について,本件補正発明は「100〜1000mm」であるのに対して,引用発明は「20〜120mm」である点。

(相違点5)
本件補正発明は「前記電極端子の両側面に,前記電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が0.1mm以上のピッチで複数形成され,前記凹部の内壁が前記電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有し,隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」のに対して,引用発明はそのような特定はされていない点。

(4)相違点の判断
ア 相違点1及び相違点2の判断
引用文献5には,充電される高出力リチウム単電池(本件補正発明の「蓄電デバイス」に相当。以下同様)の負極端子及び正極端子(「電極端子部品」)が,負極板,正極板及び分離膜(「蓄電セル」)を積層方向から見たときの長方形(「平面視矩形状」)の4辺のうち2長辺から反対方向に伸びる(「対向する長辺に接続される」)技術事項が記載されている(前記「(2)ウ(ウ)」参照)。
そして,引用発明の「リチウムイオン二次電池」は,充電されるリチウム電池である点で,引用文献5に記載された技術事項と共通の技術分野に属するから,引用文献5に記載された技術事項が解決しようとする課題(段落【0016】を参照)が内在していることは自明である。
また,引用発明は「平面図において略矩形の外装体」を備えるから,「外装体に収容される電池素子」についても,外装体と同様に「平面図において略矩形」とすることに阻害要因は認められない。
したがって,引用発明の「リチウムイオン二次電池」の「電池要素」において,前記課題を解決するために引用文献5に記載された技術事項を適用して相違点1及び相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

イ 相違点3の判断
引用文献1の段落【0037】によれば,「金属基材」の「厚さ寸法」は,「リチウムイオン二次電池10の大きさ,容量等に応じて様々に設定されるものであり,限定されるものではな」いところ,段落【0062】によれば,実施例において「金属基材」として「厚さ0.2mmの無酸素銅板2の条材2Zを準備し」,すなわち「金属基材」を「厚さ0.2mm」に設定しているように,引用発明の「金属基材」において「厚さ寸法が0.1〜1.0mm」という数値範囲内のうち「0.1mmより大きい」範囲を選択して相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

ウ 相違点4の判断
引用文献1の段落【0037】によれば,「金属基材」の「幅寸法」は,「リチウムイオン二次電池10の大きさ,容量等に応じて様々に設定されるものであり,限定されるものではな」い。よって引用発明における「金属基材」の「幅寸法」は,当業者であれば適宜設計し得たものである。
また,本願明細書の段落【0050】によれば,「電極端子1cでは,」「両側面8a,8bには凹凸構造5が形成されている(図7〜図9)」ところ,段落【0048】によれば,図8において「電極幅Dyは0.5〜2000mmとなっており(例えば10〜1000mm),」「電極幅Dyは30〜500mmが好ましく,30〜120mmが更に好ましい」ものであって,本件補正発明の「電極幅が100〜1000mm」という数値範囲外である30〜100mmも「更に好ましい」ものであるから,本件補正発明の「電極幅が100〜1000mm」という数値範囲内のものが,当該数値範囲外のものに比較して格別の効果を奏するものとは認められない。
したがって,引用発明の「金属基材」において,「幅寸法が20〜120mm」という数値範囲内のうち「100〜120mm」の範囲を選択して相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

エ 相違点5の判断
(ア)本件補正発明の「0.1mm以上のピッチ」について,本願明細書の段落【0053】によれば,「凹部5a及び凸部5bが0.1mm以上のピッチp(図9,図12)で複数形成(溝加工)されて」いるところ,図12を参照すると,「ピッチp」は「凸部5b」の頂点同士の間隔を指し,「凹部5a」の頂点同士の間隔も同様であることが見て取れる。
それに対して,引用文献4には,電力貯蔵デバイスとしての非水電解質電池(本件補正発明の「蓄電デバイス」に相当,以下同様)はリード導体(「電極端子」)を有し,リード導体の長さ方向に直交する方向に延びる複数の溝が形成され,溝はリード導体の2つの側面に形成され(「前記電力端子の両側面に,前記電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が」「複数形成され」),溝の開口幅は,2〜500μmであり,溝の間隔は0.1〜1.0mmであり,溝はV字状である(「前記凹部の内壁が前記電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有」する)技術事項が記載されている(前記「(2)イ(ウ)」参照)。
そして,引用文献4に記載された技術事項における「V字状」の「溝」の頂点同士の間隔,すなわちピッチは,「溝の開口幅」と「溝の間隔」の和に等しいことから(下記「参考図」を参照),0.102mm(=2μm+0.1mm)〜1.5mm(=500μm+1mm)であるといえ,本件補正発明の複数形成された凹部及び凸部が「0.1mm以上のピッチ」であることに含まれる。



(イ)また,引用文献6に「蓄電デバイスのタブ端子において,断面が三角形である複数の溝が,タブ端子の長手方向と直交する方向に設けられ,隣接する溝の三角形の斜辺が連続し,溝により蓄電デバイスから電解液が漏れることを防止できる」技術事項が記載されている(前記「(2)エ(ウ)」参照)ように,「溝により蓄電デバイスから電解液が漏れることを防止できる」ようにするための「蓄電デバイスのタブ端子」の「溝」を,「隣接する溝の三角形の斜辺が連続」した構成(本件補正発明の「隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」構成に相当)とすることは,当業者が適宜為し得た設計的事項である。

(ウ)そして,引用発明は,「蓄電デバイス」である点で,引用文献4に記載された技術事項及び前記設計的事項と共通の技術分野に属するから,引用文献4に記載された技術事項及び前記設計的事項が解決しようとする,電解液の漏れを防止するという課題(引用文献4の段落【0047】及び引用文献6の【0039】を参照)を内在していることは,当業者には自明と認められる。
よって,引用発明の「金属基材」において,前記課題を解決するために引用文献4に記載された技術事項及び前記設計的事項を適用して相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

(5)請求人の主張について
ア 令和3年11月12日の審判請求書における主張について
請求人は,令和3年11月12日の審判請求書において,次のとおり主張している。
「引用文献4の図6等にはリード導体が突出する方向と交差する方向に延びる複数の断面矩形の溝が形成されることが述べられます。また,溝の断面形状はV字状でよいこと(段落0048),溝がリード導体の両側面に形成されてもよいこと(段落0049)が述べられます。
しかし,引用文献4の図6の溝をV字状にした場合に,隣接する溝間(凸部の先端)は平坦面になると考えられ,本願の構成である『凹部の傾斜面が連続すること』は述べられていないと思料致します。
このため,凸部の先端において,リード導体とヒートシール部材との隙間が発生しやすくなり,電解液の液漏れが生じやすくなります。
これに対して本願は,隣接する凹部の傾斜面が連続するため,電極端子の側面とヒートシール部材との間の隙間の発生を防止することができ,電解液の漏れを確実に止めることができます。
従って,請求項1において,『電極端子の両側面に,電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が0.1mm以上のピッチで複数形成されていること』,『凹部の内壁が電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有し,隣接する凹部の傾斜面が連続すること』を補正により明確に致しました。これにより,請求項1及びこれに従属する請求項2−8の拒絶理由が解消されると思料致します。」

イ 令和4年1月27日の上申書における主張
また,請求人は,令和4年1月27日の上申書において,次のとおり主張している。
「引用文献4の図6の溝をV字やU字状にした形状は,溝間の凸部の頂点が平面を維持すると思料します。凸部の頂点が平面の場合には,電極端子を取り囲む樹脂の被覆帯と電極端子との間に隙間が生じやすくなり,電解液の液漏れの虞があります。
これに対して溝の断面状をV字状にして凸部相当の箇所を傾斜面が連続した先鋭に形成することで,凸部の頂点には電極端子の長さ方向から樹脂が侵入するためこの部分において隙間の発生を防止することができます。このため,電極端子の周囲に隙間が生じても凸部の頂点で塞がれるため電解液の液漏れを防止することができます。すなわち,凸部相当の箇所をリード長さ方向と平行な面のまま維持すべき特段の事情はないとしても,非平行な形状の中で特に連続した傾斜面とすることで特に優れた効果を奏することができます。
従って,本願発明は各引用文献から当業者が容易に発明をすることができたものではないと思料致します。」

ウ しかしながら,本件補正発明の「隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」構成は設計的事項であって,引用発明において当該構成とすることが容易であることは,前記「(4)ウ」のとおりである。
また,本件補正発明は,凸部相当の箇所を先鋭に形成することまでは特定されておらず,「隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」ことで形成される凸部相当の箇所が鈍角をなすものも含まれるから,「隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」構成が,そのような構成でない「凹部」に比較して,必ずしも請求人が主張する「凸部の頂点には電極端子の長さ方向から樹脂が侵入するためこの部分において隙間の発生を防止する」という「優れた効果」を奏するものとは認められない。
したがって,前記「ア」及び「イ」の主張は,いずれも採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり,本件補正発明は,引用文献1に記載された発明,引用文献4ないし5に記載された技術事項及び設計的事項(引用文献6に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記「第2」のとおり却下され,令和3年8月6日の手続補正についても令和3年10月5日付けで補正の却下の決定がなされているから,本願の請求項1ないし8に係る発明は,令和3年7月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2[理由]1(2)」に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,次のとおりである。
進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由(進歩性)について
・請求項 1−3
・引用文献 1,5

・請求項 4
・引用文献 1−3,5

・請求項 5,6
・引用文献 1−5

・請求項 7,8
・引用文献 1−5

<引用文献等一覧>
1.特開2013−080586号公報
2.特開2002−279967号公報
3.特開2008−277238号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2004−362935号公報
5.特開2013−065568号公報

3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献5はそれぞれ,前記「第2[理由]2(2)」に記載した引用文献1及び引用文献5である。
そして,引用文献1及び引用文献5に記載された事項は,前記「第2[理由]2(2)」の「ア」及び「ウ」にそれぞれ記載したとおりのものである。

4 対比・判断
本願発明は,前記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明から,「前記電極端子の両側面に,前記電極厚さ方向に延びる凹部及び凸部が0.1mm以上のピッチで複数形成され,前記凹部の内壁が前記電極幅方向に対して傾斜した傾斜面を有し,隣接する前記凹部の前記傾斜面が連続する」という限定事項を省いたものである。
そうすると,前記「第2[理由]2(3)ア」と同様の検討より,本願発明と引用発明とは,前記「第2[理由]2(3)イ」で挙げた相違点1ないし4と同様の点で相違し,その余の点で一致する。
しかしながら,当該相違点は,前記「第2」の「2(4)」の「ア」ないし「ウ」と同様の判断より,引用文献1に記載された発明及び引用文献5に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に為し得たことである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献5に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-06 
結審通知日 2022-09-13 
審決日 2022-09-27 
出願番号 P2020-209202
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 木下 直哉
山本 章裕
発明の名称 蓄電デバイス及び電気機器  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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