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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) H01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録(定型) H01B
審判 査定不服 その他 取り消して特許、登録(定型) H01B
管理番号 1391668
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-25 
確定日 2022-11-22 
事件の表示 特願2020−111979「金属粉焼結ペースト及びその製造方法、導電性材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月24日出願公開、特開2020−155423、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月4日に出願した特願2016−75314号の一部を令和2年6月29日に新たな特許出願としたものであって、同年同月同日付で手続補正がされ、令和3年1月20日付けで拒絶理由通知がされ、同年3月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年8月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年11月25日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和4年8月24日付けで当審より拒絶理由通知がされ、同年9月9日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明13」という。)は、令和4年9月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
メジアン径が1.0μm〜5μmの銀の粒子を主成分として含み、
前記銀の粒子の全量に対して、粒径が0.3μm未満の銀の粒子の含有量が4質量%以下であり、
アニオン性の界面活性剤を更に含み、
実質的に樹脂を含まない金属粉焼結ペーストであって、
前記界面活性剤の含有量が、前記ペーストに対して2質量%以下であり、
前記界面活性剤が、下記式(I)で表される飽和カルボン酸である金属粉焼結ペースト。

R1O(CH2CH(R2)O)nCH2COOH (I)

[式中、R1は炭素数7以上の直鎖または分岐のある飽和アルキル基であり、
R2は−Hまたは−CH3または−CH2CH3、−CH2CH2CH3のいずれかであり、
nは2〜5の範囲である]。」

なお、本願発明2〜9は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明10は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明11は、請求項1〜9のいずれかに記載の金属粉焼結ペーストを含む導電性材料の製造方法の発明であり、本件発明12〜13は、本願発明11を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2015−004105号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、リン酸エステル系分散剤などのリン酸系分散剤を添加した接合材により被接合物間を接合すると、接合部にボイドが発生し易くなる。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、被接合物に印刷し易く且つ被接合物同士の接合部にボイドが発生するのを抑制することができる、接合材およびそれを用いた接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、平均一次粒子径1〜50nmの銀微粒子と平均一次粒子径0.5〜4μmの銀粒子と溶剤と分散剤を含む銀ペーストからなる接合材において、銀微粒子の含有量を5〜30質量%、銀粒子の含有量を60〜90質量%、銀微粒子と銀粒子の合計の含有量を90質量%以上にすることにより、被接合物に印刷し易く且つ被接合物同士の接合部にボイドが発生するのを抑制することができる、接合材およびそれを用いた接合方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

「【0028】
[実施例1]
ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP−1)9.3質量%と、オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)83.7質量%と、焼成助剤(添加剤)としてのジグリコール酸(DGA)(ジカルボン酸)0.067質量%と、酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA−25NH)(非リン酸エステル系分散剤)1質量%と、リン酸エステル系分散剤(Lubrizol社製のSOLPLUS D540)0.08質量%と、溶剤としての1−デカノール(アルコール)5.353質量%およびトリオール(日本テルペン化学株式会社製のIPTL−A)0.5質量%とを含む銀ペーストからなる接合材を用意した。」

(2)上記(1)の【0028】によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP−1)9.3質量%と、オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)83.7質量%と、焼成助剤(添加剤)としてのジグリコール酸(DGA)(ジカルボン酸)0.067質量%と、酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA−25NH)(非リン酸エステル系分散剤)1質量%と、リン酸エステル系分散剤(Lubrizol社製のSOLPLUS D540)0.08質量%と、溶剤としての1−デカノール(アルコール)5.353質量%およびトリオール(日本テルペン化学株式会社製のIPTL−A)0.5質量%とを含む銀ペースト。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2007−084860号公報)には、次の事項が記載されている
「【背景技術】
【0002】
従来、ダイボンディングやプリント配線板の回路形成等に使用される導電性ペーストの原料の一つとしてフレーク銀粉が使用されている。このフレーク銀粉はフレーク状の銀粒子から構成されている。またフレーク銀粉は、各粒子がフレーク状であるがゆえに比表面積が大きい。したがって、このフレーク銀粉を使用して導電性ペーストを製造すると、導電ペースト中では粒子同士の接触面積が大きくなるため、粒子がフレーク状でない銀粉を使用した導電性ペーストに比べて導電性が高く導体形成に有利である。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)」は、「銀ペースト」中に「83.7質量%」含まれるから、主成分であるといえる。
そうすると、引用発明の「オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)」は、本願発明1の「メジアン径が1.0μm〜5μmの銀の粒子」に対応し、引用発明と本願発明1とは、銀の粒子を主成分として含んでいる点で共通する。

イ 引用発明の「ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP−1)」は、粒径が0.3μm未満であるから、本願発明1とは「粒径が0.3μm未満の銀の粒子」を含む点で共通する。

ウ 本願発明1は、「銀の粒子の全量に対して、粒径が0.3μm未満の銀の粒子の含有量が4質量%以下」であるのに対し、引用発明では、「オレイン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP−1)9.3質量%と、オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)83.7質量%」であり、上記銀微粒子と上記銀粒子の全量に対する上記銀微粒子の含有量は、9.3質量%/(9.3質量%+83.7質量%)=10質量%であるから、両者は相当しない。

エ 引用発明の「銀ペースト」は、「酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA−25NH)(非リン酸エステル系分散剤)」を「1質量%」含んでいる。
一方、本願発明1の「アニオン性の界面活性剤」について、本願明細書の【0066】の実施例2には、「アニオン性液状界面活性剤(三洋化成工業株式会社製、製品名「ビューライトLCA−25NH」、ラウレス−4−カルボン酸、25℃で液状、0.09g」と記載されており、また同【0100】の【表1】には、界面活性剤の主成分示性式が「C12H25O(CH2CH2O)nCOOH(n=2.5)」と記載されている。
そうすると、引用発明の「酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA−25NH)(非リン酸エステル系分散剤)」は、本願発明1の実施例で用いられているアニオン性液状界面活性剤と同じ製品名であるから、両者は同じ組成であるといえる。
したがって、引用発明の「酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA−25NH)(非リン酸エステル系分散剤)」は、本願発明1の「アニオン性の界面活性剤」に相当し、引用発明と本願発明1とは、アニオン性の界面活性剤を更に含み、前記界面活性剤の含有量が、前記ペーストに対して1質量%であり、前記界面活性剤が、下記式(I)で表される飽和カルボン酸である点で共通する。
C12H25O(CH2CH2O)2.5CH2COOH (I)

オ 引用発明は、実質的に樹脂を含んでいないといえるから、本願発明1とは、「実質的に樹脂を含まない」点で共通する。

カ 以上から、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「銀の粒子を主成分として含み、
粒径が0.3μm未満の銀の粒子を含み、
アニオン性の界面活性剤を更に含み、
実質的に樹脂を含まない金属粉焼結ペーストであって、
前記界面活性剤の含有量が、前記ペーストに対して1質量%であり、
前記界面活性剤が、下記式(I)で表される飽和カルボン酸である金属粉焼結ペースト。

C12H25O(CH2CH2O)2.5CH2COOH (I)

<相違点>
相違点1:「主成分として含」まれる「銀の粒子」について、本願発明1は、「メジアン径が1.0μm〜5μm」であるのに対し、引用発明は、「平均一次粒子径0.8μm」である点。
相違点2:「粒径が0.3μm未満の銀の粒子の含有量」について、本願発明1は、「前記銀の粒子の全量に対して」、「4質量%以下」であるのに対し、引用発明は、10質量%である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
引用文献1の【課題を解決するための手段】である【0010】には、「本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、平均一次粒子径1〜50nmの銀微粒子と平均一次粒子径0.5〜4μmの銀粒子と溶剤と分散剤を含む銀ペーストからなる接合材において、銀微粒子の含有量を5〜30質量%、銀粒子の含有量を60〜90質量%、銀微粒子と銀粒子の合計の含有量を90質量%以上にすることにより、被接合物に印刷し易く且つ被接合物同士の接合部にボイドが発生するのを抑制することができる、接合材およびそれを用いた接合方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されていることからすると、引用文献1に記載された発明は、平均一次粒径1〜50nmの銀微粒子の含有量を5〜30質量%にすることが課題を解決するための手段であるといえる。
そして、上記銀微粒子(5〜30質量%)と上記銀粒子(60〜90質量%)との全量に対する、銀微粒子の含有量は最低でも、5質量%/(5質量%+90質量%)=5.3質量%である。
そうすると、引用発明において、「平均一次粒子径20nmの銀微粒子」の含有量を、上記全量に対して4質量%以下にしようとすると、当該銀微粒子の含有量は5質量%を下回ることになり、その結果、上記課題が解決できなくなるため、引用発明において、相違点2に係る本願発明1の構成とすることには阻害要因がある。そして、このことは、引用文献2の記載に左右されるものではない。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された発明を適用し、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(3)小括
よって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

2 本願発明2〜13について
本願発明2〜9は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明10は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明11は、請求項1〜9のいずれかに記載の金属粉焼結ペーストを含む導電性材料の製造方法の発明であり、本件発明12〜13は、本願発明11を減縮した発明であり、いずれも相違点2に係る本願発明1の構成を有しているから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2〜13は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、本願の請求項1〜14に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかし、令和4年9月9日付け手続補正書により補正された本願発明1〜13は、いずれも相違点2に係る本願発明1の構成を有するものとなっており、上記第4で検討したとおり、本願発明1〜13は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないから、原査定の理由を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第39条第2項について
当審では、本願の請求項1を引用する請求項2に係る発明は、同日出願された特願2016−75314号(特許第6920029号)の請求項1を引用する請求項2に係る発明と同一であり、本願の請求項2を引用する請求項4〜10、12〜14に係る発明も、同出願の請求項2を引用する請求項3〜9、11〜13に係る発明と同一であるとの拒絶の理由を通知したが、令和4年9月9日付けの手続補正によって、請求項2は削除された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1には、「前記ペースト」と記載されているが、この記載より前に「ペースト」は記載されていないから、請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求項1を引用する請求項2〜10、12〜14に係る発明も、同様の理由により、明確でないとの拒絶の理由を通知したが、令和4年9月9日付けの手続補正によって、「前記界面活性剤の含有量が、前記ペーストに対して2質量%以下であり」との記載が、「アニオン性の界面活性剤を更に含み」との記載の後ろに入った結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1〜13は、当業者が引用文献1、2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-11-09 
出願番号 P2020-111979
審決分類 P 1 8・ 5- WYF (H01B)
P 1 8・ 537- WYF (H01B)
P 1 8・ 121- WYF (H01B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 松永 稔
河本 充雄
発明の名称 金属粉焼結ペースト及びその製造方法、導電性材料の製造方法  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  

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