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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1391733
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-12-27 
確定日 2022-11-04 
事件の表示 特願2017−190521「光学センサおよび光学センサにおける異常検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日出願公開、特開2019− 66259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月29日の特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月23日 :手続補正書の提出
令和 2年 4月 7日 :手続補正書の提出
令和 3年 1月 8日付け:拒絶理由通知書
同年 3月23日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月28日 :原査定の謄本の送達)
同年12月27日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 令和3年12月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年12月27日にされた手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和3年12月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてした補正であり、この補正により、以下の(1)に示す本件補正前の請求項1が、以下の(2)に示す本件補正後の請求項1に補正された。下線は、補正箇所を示す。

(1) 本件補正前の請求項1
「 【請求項1】
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分に基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する処理部とを備える、光学センサ。」

(2) 本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する処理部とを備える、光学センサ。」

2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の処理部における「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分に基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」態様について、「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて(判断する)」ものに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

3 独立特許要件の判断
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2) 引用文献1に記載された事項と引用発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に発行された特開2017−173159号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当審において付したものである。

(ア) 【0001】
「【技術分野】
【0001】
本開示は、白色共焦点方式で計測対象物の表面形状などを計測可能な光学計測装置に関する。」

(イ) 【0020】〜【0024】、【図1】
「【0020】
図1は、白色共焦点方式による距離計測の原理を説明するための図である。図1を参照して、光学計測装置1は、光源10と、導光部20と、センサヘッド30と、受光部40と、処理部50とを含む。センサヘッド30は、色収差ユニット32および対物レンズ34を含み、受光部40は、分光器42および検出器44を含む。
【0021】
光源10で発生した所定の波長広がりをもつ照射光は、導光部20を伝搬してセンサヘッド30に到達する。センサヘッド30において、光源10からの照射光は対物レンズ34により集束されて計測対象物2へ照射される。照射光には、色収差ユニット32を通過することで軸上色収差が生じるため、対物レンズ34から照射される照射光の焦点位置は波長ごとに異なる。計測対象物2の表面で反射される波長のうち、計測対象物2に焦点の合った波長の光のみがセンサヘッド30の導光部20のうち共焦点となるファイバのみに再入射することになる。以下では、説明の便宜上、計測対象物2に焦点の合った波長の光が計測光として検出される状態を「特定の波長のみ反射する」とも表現する。
【0022】
センサヘッド30に再入射した反射光は、導光部20を伝搬して受光部40へ入射する。受光部40では、分光器42にて入射した反射光が各波長成分に分離され、検出器44にて各波長成分の強度が検出される。処理部50は、検出器44での検出結果に基づいて、センサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)を算出する。
(後略)」
「【図1】



(ウ) 【0025】〜【0035】、【図2】
「【0025】
図2に、本実施の形態に従う光学計測装置1の導光部の構成を模式的に示す。図2(A)に示されるように、光学計測装置1は、導光部20として、光源10と光学的に接続される入力側ケーブル21と、受光部40と光学的に接続される出力側ケーブル22と、センサヘッド30と光学的に接続されるヘッド側ケーブル24とを含む。入力側ケーブル21および出力側ケーブル22のそれぞれの端と、ヘッド側ケーブル24の端とは、合波/分波構造をもつカプラ23を介して、光学的に結合される。カプラ23は、Y分岐カプラに相当する2×1スターカプラ(2入力1出力/1入力2出力)であり、入力側ケーブル21から入射した光をヘッド側ケーブル24へ伝達するとともに、ヘッド側ケーブル24から入射した光を分割して入力側ケーブル21および出力側ケーブル22へそれぞれ伝達する。
(後略)」
「【図2】



(エ) 【0036】〜【0038】、【図4】
「【0036】
<C.反射光の問題>
原理的には、光軸AX上において、計測対象物2の表面の位置で焦点を結ぶ波長成分のみが反射されて受光部40に入射する。しかしながら、導光部20(すなわち光源10からセンサヘッドへの照射光の光路)の途中において、照射光の一部が反射して、その反射光が受光部40に入射することが起こり得る。
【0037】
図4は、導光部20の途中における照射光の一部の反射を説明するための模式図である。図4に示されるように、たとえば、合波/分波部23(カプラ231,232)、コネクタ242、コネクタ244、あるいは、センサヘッド30とケーブル245との接続部において照射光の一部が反射し得る。また、光源10のパワーの増減は、戻り光量異常の要因となる。
【0038】
たとえば合波/分波部23が不良である場合、あるいは、コネクタ242,244に傷もしくは汚れがある場合には、照射光の一部が反射して戻される可能性が考えられる。また、ケーブルに含まれる光ファイバの距離が長いことによって、照射光が光ファイバの内部で散乱する可能性がある。さらに、光ファイバの端面の傷あるいは汚れによっても、照射光の一部が反射し得る。」
「【図4】



(オ) 【0039】、【0040】、【図5】
「【0039】
図5は、導光部20の途中において照射光の一部が反射した場合における課題を説明するための図である。図5を参照して、処理部50は、受光波形(受光強度のプロファイル)に基づいて、受光強度のピーク位置を特定する。処理部50は、当該ピーク位置に対応する波長から反射光に含まれている波長の主成分を特定し、特定した主成分波長(たとえば波長λ2)に基づき、センサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)を算出する。
【0040】
光学計測装置1が正常である場合には、ノイズ成分(バックグラウンドノイズ)が十分に小さい。しかし、導光部20において照射光の一部が反射して受光部40に入射する場合には、ノイズ成分、すなわち波長λ2以外の波長成分の受光強度が大きくなる。」
「【図5】



(カ) 【0041】〜【0045】、【図6】
「【0041】
図6は、本実施の形態に係る光学計測装置1における受光信号の処理を説明するための図である。図6(A)は、光学計測装置1の正常時に得られる受光波形を説明した波形図である。図6(B)は、光学計測装置1の異常時に得られる受光波形を説明した波形図である。
【0042】
図6(A)および図6(B)に示されるように、本実施の形態に係る光学計測装置1は、受光波形と、戻り光成分波形との差分によって生成された波形(計測波形)に基づいて、主成分波長を特定する。戻り光成分波形は、たとえば変位の測定に先立って取得され、光学計測装置1の内部に記憶される。
【0043】
光学計測装置1の正常時には、受光波形に含まれる戻り光成分と、予め取得された波形における戻り光成分との間の差は小さい。計測波形では、戻り光成分がほぼ相殺されるので、S/N比が高い。したがって、主成分波長を高い精度で特定することができる。
【0044】
一方、図6(B)に示されるように、受光波形に含まれる戻り光成分が大きい場合、受光波形と、予め記憶された戻り光成分波形との差分を生成しても、受光波形に含まれる戻り光成分を相殺しきれない。このために計測波形のS/N比は低い。S/N比の低下によって、ピーク波長の検出精度が低下するため、変位の計測の精度が低下する。
【0045】
本実施の形態においては、処理部50は、特定の波長の受光量をモニタする。その波長における受光量が正常時の受光量に対して閾値以上変化した場合には、処理部50は、受光波形の異常を検出する。さらに処理部50は、その異常を通知する。ユーザは、たとえばコネクタ242,244のクリーニング、導光部20の交換等によって、異常波形が発生した原因を取り除くことができる。また、戻り光の増加が、光ファイバを延長したことによる場合には、再度、戻り光成分の値を光学計測装置1の内部に記憶させることによって、異常波形が発生した原因を取り除くことができる。したがって、対象物の変位の測定精度を高いままに維持することができる。以下、本実施の形態の詳細を説明する。」
「【図6】



(キ) 【0046】〜【0048】、【図7】
「【0046】
<D.第1の実施の形態>
図7は、第1の実施の形態による、光学計測装置1の異常の判定を説明するための模式的な波形図である。図3および図7を参照して、波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5のそれぞれにおける受光量I1,I2,I3,I4,I5が受光部40によって測定される。処理部50は、各波長における受光量を、その波長に対応した基準値(正常時の受光量)と比較する。たとえば基準値は、工場出荷時に初期設定される。現場でセンサヘッドの挿抜等が行われた場合に、たとえばユーザが光学計測装置1の操作ボタン(図示せず)を操作することにより、基準値を再設定することができる。
【0047】
処理部50は、波長ごとに、受光量と基準値との差が閾値を上回るかどうかを判定する。波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5のすべてにおいて、受光量と基準値との差が閾値を上回る場合には、処理部50は、光学計測装置1において異常が発生したと判定する。基準値および閾値は、波長ごとに設定されるとともに、処理部50の内部に記憶される。
【0048】
受光量と基準値とが比較される波長の数は、変位の測定を要する計測対象物2の表面の数よりも多ければよい。光学計測装置1が複数の面を検出する場合があるが、それは計測対象物2が透明体の場合である。この場合には、透明体である計測対象物2の表面および裏面の数に対応する数の波長において、受光波形のピークが現れる。この受光波形のピークに応じて閾値の数が決定される。変位の測定の対象となる表面の数の最小値は1である。選択された複数の波長のうちの1つが、計測波長と一致した場合であっても、他の波長における受光量に基づいて異常波形を検出することができる。」
「【図7】



(ク) 【0049】〜【0052】、【図8】
「【0049】
第1の実施の形態において5つの波長を用いる理由を以下に説明する。図8は、本実施の形態に係る光学計測装置1による、計測対象物2の複数の表面の変位の測定を説明した図である。
【0050】
図8に示されるように、たとえば計測対象物2は、2枚の透明体(ガラス等)の間にスペーサ等によって空間が設けられた構成を有する。計測対象物2は、変位の異なる4つの表面2a,2b,2c,2dを有するが、それらは、透明体の2つの表面(2a,2c)および透明体の2つの裏面(2b,2d)である。したがって光学計測装置1は、透明体の2つの表面および2つの裏面の変位を測定できる。異常波形の検出のための波長は任意に選ぶことができる。ただし、異常波形の検出のために4つの波長を選んだ場合には、計測対象物2(2つの透明体)の2つの表面および2つの裏面において焦点の合う波長と、その選択された4つの波長とが一致する可能性を考慮する必要がある。そのために、検出される面の数と選択される波長の数とは異なる必要がある。
【0051】
図8に示された例においては、照射光のうちの波長λ5の成分の焦点位置は、表面2a,2b,2c,2dの位置のいずれとも異なる。したがって、受光波形における波長λ5の成分を基準値と比較することによって、光学計測装置1の異常を検出することができる。
【0052】
各波長の設定、および閾値の設定は、ティーチングの結果に基づいてユーザが設定してもよい。光源10の発光スペクトルに応じて、波長および閾値を設定することができる。なお、各波長の設定および閾値は、たとえば工場出荷時に予め設定されていてもよい。」
「【図8】



(ケ) 【0053】、【図9】
「【0053】
図9は、照射光の一部が導光部20の途中で反射して戻る場合における、バックグラウンド成分の受光量の変化を模式的に示した図である。図9を参照して、照射光の一部が導光部20の途中で反射して戻る場合、戻り光成分の変化量は、波長に依存する。たとえば戻り光成分のピークに近い波長では、戻り光成分の変化量は大きくなりやすいため、閾値が相対的に大きく設定する。逆に、戻り光成分のピーク波長よりも短い波長あるいは長い波長においては、戻り光成分の変化量が小さくなりやすいので、その波長における閾値を相対的に小さく設定する。これにより、異常波形をより正確に検出することができる。」
「【図9】



(コ) 【0054】、【図10】
「【0054】
図10は、モニタリング波長と閾値との関係の例を示した図である。図10に示されるように、n個の波長λ1,λ2,・・・,λnのそれぞれに対して、閾値Th1,Th2,・・・,Thnが設定される(nは2以上の整数)。なお、図8は、n=5の例を示す。図10に示された関係は、処理部50の内部に記憶される。」
「【図10】



(サ) 【0055】〜【0057】、【図11】
「【0055】
図11は、第1の実施の形態に係る異常波形の検出処理を説明するためのフローチャートである。図3および図11を参照して、処理が開始されると、ステップS1において、処理部50は、波長λ1,λ2,・・・,λnの各々における受光量(すなわち波長成分)を基準値と比較する。ステップS2において、処理部50は、すべての波長において、受光量の変化量が閾値以上であるかどうかを判定する。
【0056】
すべての波長において、基準値に対する受光量の変化量が閾値以上である場合(ステップS2においてYES)、ステップS3において、処理部50は異常波形を検出する。この場合、ステップS4において、処理部50は異常波形が検出されたことをユーザに通知するための通知処理を実行する。通知の方法は特に限定されず、たとえば音、および光などを用いた周知の方法を採用することができる。
【0057】
一方、少なくとも1つの波長において、基準値に対する受光量の変化量が閾値未満である場合(ステップS2においてNO)、処理部50は、ステップS5において、受光波形に基づいて変位計測処理を実行する。変位計測処理の終了後に、処理はステップS1に戻される。」
「【図11】



引用発明の認定
前記アの記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「光源10と、導光部20と、センサヘッド30と、受光部40と、処理部50を含む光学計測装置1であって、(【0020】)
光源10で発生した所定の波長広がりをもつ照射光は、導光部20を伝搬してセンサヘッド30に到達し、センサヘッド30において、光源10からの照射光は対物レンズ34により集束されて計測対象物2へ照射され、対物レンズ34から照射される照射光の焦点位置は波長ごとに異なり、計測対象物2の表面で反射される波長のうち、計測対象物2に焦点の合った波長の光のみがセンサヘッド30の導光部20のうち共焦点となるファイバのみに再入射し、(【0021】)
センサヘッド30に再入射した反射光は、導光部20を伝搬して受光部40へ入射し、受光部40では、分光器42にて入射した反射光が各波長成分に分離され、検出器44にて各波長成分の強度が検出され、処理部50は、検出器44での検出結果に基づいて、センサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)を算出し、(【0022】)
導光部20として、光源10と光学的に接続される入力側ケーブル21と、受光部40と光学的に接続される出力側ケーブル22と、センサヘッド30と光学的に接続されるヘッド側ケーブル24とを含み、入力側ケーブル21及び出力側ケーブル22のそれぞれの端と、ヘッド側ケーブル24の端とは、合波/分波構造をもつカプラ23を介して、光学的に結合され、(【0025】)、
処理部50は、受光波形(受光強度のプロファイル)に基づいて、受光強度のピーク位置を特定し、当該ピーク位置に対応する波長から反射光に含まれている波長の主成分を特定し、特定した主成分波長に基づき、センサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)を算出するものであり、(【0039】)
受光波形と、戻り光成分波形との差分によって生成された波形(計測波形)に基づいて、主成分波長が特定され、戻り光成分波形は、変位の測定に先立って取得され、光学計測装置1の内部に記憶されるものであり、(【0042】)
波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5のそれぞれにおける受光量I1,I2,I3,I4,I5が受光部40によって測定され、処理部50は、各波長における受光量を、その波長に対応した基準値(正常時の受光量)と比較し、(【0046】)
処理部50は、波長ごとに、受光量と基準値との差が閾値を上回るかどうかを判定し、波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5のすべてにおいて、受光量と基準値との差が閾値を上回る場合には、処理部50は、光学計測装置1において異常が発生したと判定するものであり、基準値および閾値は、波長ごとに設定されるとともに、処理部50の内部に記憶される(【0047】)
光学計測装置。」

(3) しきい値と異常の判定に関する請求項1の解釈について
ア 本件補正により補正された請求項1には、「前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」と記載されている。
イ 合議体は、前記アの記載について、次の(ア)及び(イ)のいずれも含むものであると解釈する。
(ア)前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であること」が満たされる場合に光学センサを「異常あり」と判断するもの。
(イ) 「前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であること」が満たされる場合に光学センサを「異常なし」と判断するもの。
ウ 合議体は、前記イのように解釈することが妥当である根拠として、次の(ア)から(ウ)までを挙げる。
(ア) 「…正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」という文言では、「しきい値以下であること」に「基づいて」さえいればよく、かつ、判断内容が「異常あり」と「異常なし」の二通りのうちのいずれであるか特定していないから、前記イ(ア)の場合に限られると解するのは適当ではなく、前記イ(イ)の場合も含まれるとするのが自然な解釈である。
この点に関し、例えば、「しきい値」についての特定がある請求項5〜請求項9の記載においては、いずれも「…場合に…異常があると判断する」と記載されており、しきい値を基準として判断した結果、「異常があると判断する」と明示していることも考慮すると、そのような記載により特定していない本件補正後の請求項1については、上記イに示した解釈の方がむしろ合理的である。
(イ) 審判請求書において、請求人は、「引用文献1に記載の光学計測装置は、「受光量の変化量が閾値以上」であることを異常の有無の判定条件としており、反射光が増加する異常を検出していることが読み取れます。これは、受光量が減少する故障を検出することができる補正後の請求項1に係る発明とは明らかに異なる構成であると思料致します。」と述べている。
請求人は、補正後の請求項1は、「受光量が減少する故障を検出することができる補正後の請求項1に係る発明」と説明しており、「受光量が減少する故障を検出する補正後の請求項1に係る発明」とは説明していないから、受光量の減少を故障判断の条件とすることができるという可能性の言及にとどまり、受光量の減少が常に故障に該当することを前提としていない。また、「閾値以下」であることを「異常あり」の判定条件としているとも説明していない。
(ウ) 明細書の段落【0063】において、次のように説明していることは、本件補正後の請求項1の記載に基づいて、前記イ(ア)の場合に限られず、前記イ(イ)の場合も含まれると解釈することを支持するものである。
「今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。」

(4) 進歩性要件について
ア 対比
(ア) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
a(a) 引用発明の「計測対象物2」は、本件補正発明の「対象物」に相当するから、引用発明の「センサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)」は、本件補正発明の「前記対象物との距離または前記対象物の変位」に相当する。
(b) 引用発明においては、「計測対象物2の表面で反射される波長のうち、計測対象物2に焦点の合った波長の光」が「センサヘッド30に再入射」し、「各波長成分の強度」を「検出」する「検出器44での検出結果に基づいて、センサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)を算出」しているから、計測対象物2からの反射光に基づいてセンサヘッド30から計測対象物2までの距離(変位)を計測しているといえる。
(c) したがって、本件補正発明と引用発明は、「対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサ」である点で一致する。

b 引用発明の「光源10」は、所定の波長広がりをもつ照射光を発生し、導光部20を伝搬してセンサヘッド30に到達し、センサヘッド30において、光源10からの照射光は対物レンズ34により集束されて計測対象物2へ照射されるから、本件補正発明と引用発明は「前記対象物へ照射する光を発生する光源装置」を備える点で一致する。

c 引用発明における「受光部40」については、「計測対象物2の表面で反射される波長のうち、計測対象物2に焦点の合った波長の光のみがセンサヘッド30の導光部20のうち共焦点となるファイバのみに再入射し」、「センサヘッド30に再入射した反射光は、導光部20を伝搬して受光部40へ入射[する]」から、本件補正発明と引用発明は「前記対象物からの反射光を受光する受光部」を備える点で一致する。

d(a) 引用発明の「光源10と光学的に接続される入力側ケーブル21」は、本件補正発明の「前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバ」に相当する。
(b) 引用発明の「受光部40と光学的に接続される出力側ケーブル22」は、本件補正発明の「前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバ」に相当する。
(c) 引用発明の「センサヘッド30と光学的に接続されるヘッド側ケーブル24」は、本件補正発明の「前記対象物へ向かう第3の光ファイバ」に相当する。また、引用発明の「ヘッド側ケーブル24」の「センサヘッド30」側の端部は、本件補正発明の「第3の光ファイバ」の「他端」に相当し、引用発明の「ヘッド側ケーブル24」の「センサヘッド30」側にない方の端部は、本件補正発明の「第3の光ファイバ」の「一端」に相当する。
(d) 引用発明の「合波/分波構造をもつカプラ23」は、入力側ケーブル21及び出力側ケーブル22のそれぞれの端と、ヘッド側ケーブル24の端を光学的に結合するものであるから、本件補正発明における「分岐部」に相当する。
(e) 前記(a)〜(d)をまとめると、本件補正発明と引用発明は、「前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部」を備える点で一致する。

e(a) 本件補正発明における「受光量」の意味について検討する。
本願明細書の段落【0062】には、「(計測時の異常検出) 次に、受光波形データから共焦点計測装置50の投光部での異常を検知する具体的な方法について説明する。異常を検知する方法としては、例えば、サンプリング値から検知する方法と、受光信号の面積値から検知する方法とがある。」と記載されており、サンプリング値から異常を検知する方法は、段落【0063】〜【0071】、【図13】、【図14】において開示されている。
そして、図14のサンプリング点Rd1、Rd2、…、Rd8の受光値は、本件補正発明における「受光量」に含まれると理解されるから、本件補正発明における「受光量」は、単一の測定量に限られず、複数の測定量からなる測定量の集合体も含まれることとなる。
(b) 引用発明の「受光部40によって測定され」る「波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5のそれぞれにおける受光量I1,I2,I3,I4,I5」は、「計測対象物2の表面で反射される波長のうち、計測対象物2に焦点の合った波長の光のみがセンサヘッド30の導光部20のうち共焦点となるファイバのみに再入射し」、当該再入射した反射光を「受光部40」の「検出器44」にて「検出」したときの「各波長成分の強度」であるから、前記(a)の点も踏まえると、本件補正発明の「第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量」に相当する。
(c) 引用発明における「波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5」「に対応した基準値(正常時の受光量)」と、本件補正発明における「基準検出量」である「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量」は、「基準検出量」である点で共通する。
(d) 引用発明の「処理部50」は、各波長における受光量を、その波長に対応した基準値(正常時の受光量)と比較し、波長ごとに、受光量と基準値との差が閾値を上回るかどうかを判定し、波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5のすべてにおいて、受光量と基準値の差が閾値を上回る場合に、光学計測装置1において異常が発生したと判定するものである(したがって、受光量と基準値の差が閾値(閾値は明らかに正の値である。)以下である波長が少なくても一つある場合には異常が発生していないと判定するものである)から、前記(b)から(d)までの点も踏まえると、引用発明の「処理部50」は、「センサヘッド30と光学的に接続されるヘッド側ケーブル24」の「センサヘッド30」側の端部が「計測対象物2」に対向しているときに「受光部40」において検出される受光量の基準検出量に対する増分に基づいて、かつ、増分が予め定められた正のしきい値以下であることに基づいて、光学計測装置1の異常の有無を判断するものであるといえる。
(e) そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の基準検出量に対する増分に基づいて、かつ、前記増分が予め定められた正のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する処理部」を備える点で共通する。

f 「光学センサ」の発明である本件補正発明と、「光学計測装置」の発明である引用発明は、「光学センサ」の発明である点で一致する。

(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の検討結果を総合すると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。

a 一致点
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の基準検出量に対する増分に基づいて、かつ、前記増分が予め定められた正のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する処理部とを備える、
光学センサ、である点。

b 相違点
(a) 相違点1
基準検出量が、
本件補正発明においては、「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量」であるのに対して、
引用発明においては、「波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5」「に対応した基準値(正常時の受光量)」である点。

(b) 相違点2
しきい値が、
本件補正発明においては、「第1のしきい値」である、すなわち、サンプリング波長に関わらず各波長間で共通の値であるのに対して、
引用発明においては、波長ごとに設定される閾値である点。

イ 当審の判断
(ア) 相違点1について
a 引用発明の「処理部50」は、次の引用文献1の【図7】のλ1からλ5までの点における受光量の、その波長に対応した「基準値(正常時の受光量)」に対する増分に基づいて、光学計測装置1における異常の有無を判断している。
「【図7】



b(a) 引用文献1における【図6】及びそれに対応する明細書の段落【0041】から【0044】までの記載を参照すると、次のとおり記載されている。なお、下線は合議体が付した。
「【図6】


「【0041】
図6は、本実施の形態に係る光学計測装置1における受光信号の処理を説明するための図である。図6(A)は、光学計測装置1の正常時に得られる受光波形を説明した波形図である。図6(B)は、光学計測装置1の異常時に得られる受光波形を説明した波形図である。
【0042】
図6(A)および図6(B)に示されるように、本実施の形態に係る光学計測装置1は、受光波形と、戻り光成分波形との差分によって生成された波形(計測波形)に基づいて、主成分波長を特定する。戻り光成分波形は、たとえば変位の測定に先立って取得され、光学計測装置1の内部に記憶される。
【0043】
光学計測装置1の正常時には、受光波形に含まれる戻り光成分と、予め取得された波形における戻り光成分との間の差は小さい。計測波形では、戻り光成分がほぼ相殺されるので、S/N比が高い。したがって、主成分波長を高い精度で特定することができる。
【0044】
一方、図6(B)に示されるように、受光波形に含まれる戻り光成分が大きい場合、受光波形と、予め記憶された戻り光成分波形との差分を生成しても、受光波形に含まれる戻り光成分を相殺しきれない。このために計測波形のS/N比は低い。S/N比の低下によって、ピーク波長の検出精度が低下するため、変位の計測の精度が低下する。」
(b) 上記(a)において摘記した事項から、光学計測装置1の正常時には、受光波形に含まれる戻り光成分と、変位の測定に先立って予め取得された波形における戻り光成分との間の差が小さく、計測波形では、戻り光成分がほぼ相殺されるとされているから、光学計測装置1の正常時の戻り光成分と、前記変位の測定に先立って予め取得された戻り光成分は、ほぼ等しい関係にあること、そして、光学計測装置1の異常時にはこの関係が成立しないことが理解できる。
(c) そうすると、引用文献1では、受光波形に含まれる戻り光成分と、変位の測定に先立って予め取得された波形における戻り光成分との間に成立する関係の有無が光学計測装置1の異常の有無に関連づけられるといえるから、【図7】のλ1からλ5までの各波長における受光量の比較の基準となる基準検出量として、その基準値(正常時の受光量)に代えて、「前記変位の測定に先立って予め取得された戻り光成分の波形における各波長における受光量」とすることは、当業者が容易に想到できる設計変更である。
(d) ここで、引用発明の「戻り光成分波形」には、「計測光成分」が含まれていないから、「前記変位の測定に先立って予め取得された戻り光成分の波形」は、計測対象物2が存在しない態様での計測により取得されたものであることは明らかである。
さらに、計測対象物2が存在しない態様で計測された受光量は、「ヘッド側ケーブル24」の「センサヘッド30」側の端部から反射がない状態において受光部40により検出された受光量であるといえる。
したがって、前記「変位の測定に先立って予め取得された戻り光成分の波形における各波長における受光量」は、本件補正発明における「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量」である「基準検出量」に相当することは明らかである。
(e) 以上のとおりであるから、相違点1は、格別のものでなく、当業者が容易に行うことのできる設計変更にすぎない。

(イ) 相違点2について
a(a) 前記(3)において示した解釈に従い、本件補正発明の「前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」ということは、「前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であること」が満たされる場合に光学センサを「異常なし」と判断するものも含むことを前提にして、以下検討する。
(b) 引用文献1の、【図6】及びそれに対応する明細書の段落【0042】から【0044】までの記載を参照すると、【図6】(A)の光学計測装置1の正常時においては、「受光波形」と「戻り光成分波形」の差分である「計測波形(差分)」は、計測光成分以外の波長においては、ほぼゼロであり、【図6】(B)の光学計測装置1の異常時においては、正の値であることが理解できるから、「変位の測定に先立って予め取得された戻り光成分の波形における各波長における受光量」を「基準検出量」とする場合、しきい値として、共通の正の値を取ることができることは、当業者にとっては自明である。
(異常時の差分がしきい値を越えるように当該共通の正の値として設定すれば、正常時の差分はほぼゼロであるから、当該しきい値以下であることが当然満たされる。)
b(a) また、仮に、「増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」との記載が、「増分が予め定められた正の第1のしきい値以下である場合に、前記光学センサの異常があると判断する」と記載されていた場合には、前記aの検討が前提とする解釈を採用することはできないものの、結論として、この場合であったとしても、次の(b)に示す理由により、相違点2に係る構成は当業者にとって自明の設計変更にすぎないものである。
(b) すなわち、およそ光学測定装置を含む計測機器において、正常に測定ができたか否かを表示することはあまりにも自明な設計変更であり、引用発明において、例えば、サンプリング点の間隔を計測光成分の半値幅以下に設定して、当該サンプリング点における受光量に基づいて【図6】(A)の最も右側の図のようにピーク検出ができたか否かを判定し、操作者に知らせるようにすることは、当業者が容易に行える設計変更である。
そして、この場合、【図6】(A)の最も右側の図に示すように、「計測波形(差分)」はピーク以外ではほぼゼロの値であり、ピークでは大きな値であるのであるから、適宜正のしきい値を導入して、「増分が予め定められた正のしきい値以下である場合」に、「ピークが検出できない」という意味で、「前記光学センサの異常があると判断する」ようにすることは、当業者にとっては、自明の設計変更にすぎない。

(ウ) 総合検討
前記(ア)及び(イ)において検討したとおり、相違点1及び相違点2は、いずれも格別のものではなく、当業者が容易に行える設計変更にすぎない。
そして、相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明から予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(エ) 請求人の主張について
a 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、次の主張をしている(下線は、請求人による。)。
補正後の請求項1に係る発明は「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する処理部」という構成Aを備える。
補正後の請求項1に係る発明は、構成Aを備えることにより、受光量の基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下となる場合の光学センサの異常を検出し得る。すなわち、補正後の請求項1に係る発明は、構成Aにより、光源装置の劣化、停止、光ファイバがファイバコネクタから抜ける等の受光量が減少する故障を検出し得る。
これに対して、引用文献1の段落[0059]には、「図13は、第2の実施の形態に係る異常波形の検出処理を説明するためのフローチャートである。図11および図13を参照して、第2の実施の形態では、ステップS1,S2に代えてステップS11,S12の処理が実行される。ステップS11において、処理部50は、波長領域60外の波長λoにおける受光量を、基準値と比較する。波長λoは予め設定される。ステップS12において、処理部50は、波長λoにおいて、受光量の変化量が閾値以上であるかどうかを判定する」と記載されている。当該記載から、引用文献1に記載の光学計測装置は、「受光量の変化量が閾値以上」であることを異常の有無の判定条件としており、反射光が増加する異常を検出していることが読み取れる。これは、受光量が減少する故障を検出することができる補正後の請求項1に係る発明とは明らかに異なる構成である。よって、引用文献1は、構成Aに相当する技術的特徴を一切開示しておらず、また、示唆すらない。
また、装置の異常の有無の判定条件として受光量の増分が「閾値以下」であるか否かを判定することは、受光量が「閾値以上」であるか否かを判定することに対して、検出できる異常内容が異なっており、単なる設計事項ではない。装置の異常の有無の判定条件として受光量が「閾値以下」であるか「閾値以上」であるかを判定することは、着目する装置の異常に基づいて決定され得る。

b 請求人の主張についての検討
前記(3)において検討したとおり、本件補正発明は、「予め定められた正の第1のしきい値以下である場合に前記光学センサの「異常あり」と判断する」だけでなく、「予め定められた正の第1のしきい値以下である場合に前記光学センサの「異常なし」と判断する」ものも含まれると解釈するのが妥当である。
また、請求項1において、仮に、「増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」との記載が、「増分が予め定められた正の第1のしきい値以下である場合に、前記光学センサの異常があると判断する」と記載されていたとしても、この点を根拠に進歩性が認められるものでないことは、前記(イ)bにおいて示したとおりである。
したがって、請求人の主張は、前記(ウ)の結論を左右するものではない。

(オ) 小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5) 本件補正の適否についてのまとめ
前記(4)において検討したとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は、前記第2に示したとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和3年3月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(前記第2の1(1)参照)により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明については、次のとおりである。
本願発明は、下記引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1.特開2017−173159号公報


3 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
前記引用文献1に記載された技術事項及び引用発明の認定は、前記第2の3(2)ア及びイにおいて示したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明のうち、「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」ことについて、「予め定められた正の第1のしきい値以下であることに基づいて(判断する)」という限定を省き、「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分に基づいて、前記光学センサの異常の有無を判断する」としたものである(前記第2の2参照)。
そうすると、本願発明と引用発明の相違点は、前記相違点1(前記第2の3(4)ア(イ)b(a)参照)の点のみである。
そして、前記相違点1は、前記第2の3(4)イ(ア)において示したとおり、当業者が容易に想到し得る設計変更にすぎず、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明から予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。




 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-25 
結審通知日 2022-08-30 
審決日 2022-09-15 
出願番号 P2017-190521
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱野 隆
濱本 禎広
発明の名称 光学センサおよび光学センサにおける異常検出方法  
代理人 弁理士法人深見特許事務所  

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