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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G01R
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01R
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G01R
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01R
管理番号 1391742
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-07-06 
確定日 2022-11-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第4889183号発明「マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
次の(1)及び(2)を結論とする審決を求める。
(1) 特許第4889183号の請求項1及び請求項21に係る発明についての特許を無効とする。
(2) 審判費用は被請求人の負担とする。

2 答弁の趣旨
次の(1)及び(2)を結論とする審決を求める。
(1) 本件審判の請求は成り立たない。
(2) 審判費用は請求人の負担とする。

第2 手続の経緯
1 特許権の設定の登録までの手続の経緯の概略
本件特許無効審判は、特許第4889183号(請求項の数21。以下「本件特許」という。)の請求項1及び請求項21に係る特許権について請求されたものであるところ、本件特許に係る出願は、2001年(平成13年)6月15日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 2000年(平成12年)6月16日及び2000年(平成12年)10月12日)、本件特許は、平成23年12月22日に特許権の設定の登録がされた。

2 本件特許無効審判の手続きの経緯
本件特許無効審判における手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年 7月 6日 :審判請求書及び証拠説明書の提出
同年 9月16日付け:請求書副本の送達通知(答弁指令)
同年11月19日 :無効審判答弁書及び証拠説明書の提出
同月29日 :上申書(1)(請求人)の提出
令和4年 1月21日付け:審理事項通知書
同月31日 :上申書(2)(請求人)の提出
同年 2月16日 :口頭審理陳述要領書及び証拠説明書の提出
(請求人)
同日 :口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 3月 2日 :口頭審理
同月10日 :上申書(1)の提出(被請求人)
同年 4月 1日 :上申書(3)及び証拠説明書の提出
(請求人)
同日 :上申書(2)の提出(被請求人)
同年 5月10日 :上申書(4)の提出(請求人)
同日 :上申書(3)の提出(被請求人)
同年 6月27日 :上申書(4)の提出(被請求人)

以下、口頭審理陳述要領書や上申書について、提出者を書面名の頭につけて、「請求人陳述要領書」、「被請求人上申書(1)」などという。

第3 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明及び請求項21に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明21」といい、本件発明1と本件発明21を総称して「本件発明」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1及び請求項21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1及び請求項21の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
支持孔が形成された絶縁体と、
前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
前記導電アッセンブリは、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、
前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、
前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され、
前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される
マイクロコンタクタプローブ。」
「【請求項21】
絶縁体に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリであって、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触される、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、
前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、
前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され、
前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される
導電アッセンブリ。」

第4 請求人の主張の概要
1 請求人の主張する無効理由
請求人の主張する無効理由の概要は、次の(1)〜(6)に示したとおりである(証拠方法については、後記2参照。なお、証拠方法については、単に「甲1」などと略記することがある。)。

(1) 無効理由1(新規性欠如)
本件発明1及び本件発明21は、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、本件発明1及び本件発明21に係る特許は、同項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
(審判請求書18、35〜37、45〜46、56頁)

(2) 無効理由2(進歩性欠如その1)
本件発明1及び本件発明21は、甲2に記載された発明及び甲4〜甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書19、37〜41、46〜50、56頁)

(3) 無効理由3(進歩性欠如その2)
本件発明1及び本件発明21は、甲3に記載された発明及び甲4〜甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書19、41〜44、50〜53、56頁)

(4) 無効理由4(サポート要件違反)
本件発明1及び本件発明21については、次に示すア及びイの理由により、出願時の当業者の技術常識を参酌したとしても、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるため、本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書19、53〜55、56頁)

ア コイルばねの材質や表面に施すメッキの厚み等の条件の不足
本件発明が解決しようとする課題は、「インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ等を提供すること」にあるところ、マイクロコンタクタプローブに用いられるコイルばねの材質やコイルばねの表面に施すメッキの厚み等の条件次第では、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、抵抗のばらつきを抑制する効果は得られないから、これらの条件の特定を欠く本件発明は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていない。
(審判請求書53〜54頁)

イ 密巻き部の限定について
請求項1及び請求項21の「密巻き部」については、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、「軸線方向に沿って直線的に電気信号が流れない」構成も含まれ得るから、本件発明の作用効果を有さず、本件発明の課題を解決できない範囲を含み、明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超えており、特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていない。
(審判請求書54〜55頁)

(5) 無効理由5(明確性要件違反)
請求項1及び請求項21の「密巻き部」については、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、本件発明の課題を解決できないものも含まれる記載ぶりとなっている一方で、どのような構成の「密巻き部」であれば、検査対象の検査時に、「密巻き部」を介する導通経路において、インダクタンス及び抵抗の増大を伴わず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のかが不明であり、その技術的範囲が不明確であるから、特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項2号の規定する要件を満たしていない。
(審判請求書19,55、56頁)

(6) 無効理由6(実施可能要件違反)
本件発明の「密巻き部」については、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、明細書の記載からは「密巻き部」をどのような構成とすれば本件発明の課題を解決できるのか不明であり、発明の詳細な説明に「密巻き部」の構成が具体的に記載されているとはいえないから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、出願時の当業者の技術常識を参酌しても、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法36条4項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書19、55、56頁)

2 請求人が提出した証拠
請求人の提出した証拠は、次のとおりである。
(証拠方法)
甲1 :特開平3−17974号公報
甲2 :特開平8−78078号公報
甲3 :特開平4−270967号公報
甲4 :特開2000−46867号公報
甲5 :特開平10−239349号公報
甲6 :特開平7−22103号公報
甲7 :特開平10−92540号公報
甲8 :体積抵抗率表
甲9 :フリー百科事典「ウィキペディア」のウェブサイトの「ピストン」の項目
甲10:特開2013−195282号公報
甲11:特開2020−91115号公報
甲12:特許第4889183号の審査過程における手続補正書(平成23年7月19日付け)
甲13:株式会社精研のウェブサイト
甲14:日本発條株式会社のウェブサイト
甲15:請求人による作成図面
甲16:特許第4889183号の審査過程における意見書(平成23年7月19日付け)
甲17:令和2年(ワ)第12013号特許権侵害差止等請求事件における原告準備書面(10)の19項
甲18:特開平8−29475号公報
甲19:コンタクトプローブの状態を説明する図
甲20:特許技術用語集第3版83頁(日刊工業新聞社)
甲21:密着巻き部を有するコイルばねの適用例を示す図

第5 被請求人の主張の概要
1 被請求人の主張の要旨
(1) 無効理由1(新規性欠如)について
本件発明と甲1発明を対比すると、少なくとも以下の点(以下「被請求人相違点1−1」等という。)において両者は相違するから、本件発明は、甲1に記載された発明ではなく、新規性を有する。
(令和3年11月19日付け答弁書4〜17頁)
<被請求人相違点1−1>
本件発明は、「検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャ」を備えるのに対し、甲1発明は絶縁基板2の孔の「一端から露出可能な」プランジャを備えない点。
<被請求人相違点1−2>
本件発明は、「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」を備えるのに対し、甲1発明は針状体4と圧縮コイルばね9とからなるプローブ本体14をレセプタクル3に組付ける構造であり、絶縁基板2の孔の「他端に臨む」「プランジャ」を備えない点。
<被請求人相違点1−3>
本件発明は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」を備えるのに対し、甲1発明の圧縮コイルばね9は検査対象と反対の側に付勢するものではなく、またそもそも甲1発明は二つのプランジャを備える構造ではないため、いずれにしても甲1発明の圧縮コイルばね9は「2つのプランジャを逆方向に付勢する」ものではない点。
<被請求人相違点1−4>
本件発明の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触する摺動導通部を有する筒状の密巻き部」を有するのに対し、甲1発明では、導電パターン6とリード線25とが、針状体4の胴体部7及びレセプタクル3を介して導通するものであって、圧縮コイルばね9は針状体4の軸部8と「摺動」しないため、「摺動導通部」を有する筒状の密巻き部を備えない点。
<被請求人相違点1−5>
本件発明の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定される固定導通部を有する筒状の密巻き部」を有するのに対し、甲1発明のコイルばね9は「プランジャ」に「固定」されるものではないため、「固定導通部」を有する筒状の密巻き部を備えない点。
<被請求人相違点1−6>
本件発明では、「前記第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対し、甲1発明の導電パターン6とリード線25との間の導通経路は針状体4の胴体部7及びレセプタクル3を介する経路であり、「圧縮コイルばね9」は針状体4の軸部8と「摺動」しないために「摺動導通部」を有する「密巻き部」を有さず、またそもそも甲1発明は二つのプランジャを備える構造ではないため、いずれにしても「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路」を備えず、それゆえ、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路には、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位」も存在せず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制」されない点。

(2) 無効理由2(進歩性欠如その1)について
本件発明と甲2発明とを対比すると、少なくとも以下の点(以下「被請求人相違点2−1」等という。)において両者は相違するところ、甲4及び甲5には、被請求人相違点2−1、2−2、2−4及び2−5に係る各構成が開示されておらず、甲6及び甲7には、被請求人相違点2−1〜2−6に係る各構成(相違点に係る構成の全て)が開示されていないので、甲2発明に甲4〜甲7のいずれかに記載された事項を組合せても本件発明に想到することはできない。
(令和3年11月19日付け答弁書31〜44頁)
<被請求人相違点2−1>
本件発明は、「リード導体に接触する、支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」を備えるのに対し、甲2発明は、設置孔141の開口端から固定側電極11を突設させて固定する構造であり、「リード導体に接触する」、設置孔141の孔の「他端に臨む」「プランジャ」を備えない点。
<被請求人相違点2−2>
本件発明は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」を備えるのに対し、甲2発明の付勢バネ13は、貫通孔142側と反対の側に付勢するものではなく、またそもそも甲2発明は、片側は固定電極であって二つのプランジャを備える構造ではないため、いずれにしても、甲2発明の付勢バネ13は、「2つのプランジャを逆方向に付勢する」ものではなく、また、検査対象に接触されるプランジャを付勢するものではないため「前記第1のプランジャを付勢する」ものではなく、リード導体に接触する、支持孔の他端に臨むプランジャを付勢するものではないため「前記第2のプランジャを付勢する」ものではない点。
<被請求人相違点2−3>
本件発明の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触する摺動導通部を有する筒状の密巻き部」を有するのに対し、甲2発明の付勢バネ13は、プランジャ10を貫通孔142側に押圧させるためのものであって、プランジャ10と「摺動」しないため、「摺動導通部」を有する「筒状の密巻き部」を備えない点。
<被請求人相違点2−4>
本件発明の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び第2のプランジャの他方に固定される固定導通部を有する筒状の密巻き部」を有するのに対し、甲2発明の付勢バネ13は「プランジャ」に「固定」されるものではないため、「固定導通部」を有する筒状の密巻き部を備えない点。
<被請求人相違点2−5>
本件発明では、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路には、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対し、甲2発明は、検査対象に接触される「プランジャ」も支持孔の他端に臨む「プランジャ」も備えないため「第1及び第2のプランジャ」を備えず、甲2発明の付勢バネ13はプランジャ10と「摺動」しないために「摺動導通部」を有する「密巻き部」を有さず、また、そもそも甲2発明において「検査対象の検査時」は存在しないため、いずれにしても「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路」を備えず、それゆえ、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路には、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位」も存在せず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制」されない点。
<被請求人相違点2−6>
本件発明は、「検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャ」を備えるのに対し、甲2発明は「検査対象に接触される」プランジャを備えない点。

(3) 無効理由3(進歩性欠如その2)について
本件発明と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の点(以下「被請求人相違点3−1」等という。)において両者は相違するところ、甲4及び甲5には、被請求人相違点3−2、3−3及び3−5に係る各構成が開示されておらず、甲6及び甲7には、被請求人相違点3−1〜3−5に係る各構成(相違点に係る構成の全て)が開示されていないので、甲3発明に甲4〜甲7のいずれかに記載された事項を組合せても本件発明に想到することはできない。
(令和3年11月19日付け答弁書61〜69頁)
<被請求人相違点3−1>
本件発明の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触する摺動導通部を有する筒状の密巻き部」を有するのに対し、甲3発明では、コイルスプリング70は導通させることを避ける構造にされているため、プランジャと「摺動」する「摺動導通部」を有する「筒状の密巻き部」を備えない点。
<被請求人相違点3−2>
本件発明の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び第2のプランジャの他方に固定される固定導通部を有する筒状の密巻き部」を有するのに対し、甲3発明では、フランジ66、68間に延在されるコイルスプリング70が開示されているのみで、コイルスプリング70はプランジャに「固定」される「固定」導通部を有する「筒状の密巻き部」を備えない点。
<被請求人相違点3−3>
本件発明では、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路には、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対し、甲3発明は検査対象に接触される「プランジャ」を備えず、甲3発明のコイルスプリング70は「密巻き部」を備えず、甲3発明のコイルスプリング70は「摺動導通部」を有さず、また、そもそも「検査対象の検査時」が存在しないため、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路」も「一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位」も存在せず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制」されない点。
<被請求人相違点3−4>
本件発明は、「検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャ」を備えるのに対し、甲3発明は「検査対象に接触される」プランジャを備えない点。
<被請求人相違点3−5>
本件発明は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」を備えるのに対し、甲3発明のコイルスプリング70は、検査対象に接触されるプランジャを付勢するものではないため「前記第1のプランジャを付勢する」ものではなく、また、第2のプランジャを「前記第1のプランジャに対する付勢と逆方向に」付勢するものではない点。

(4) 無効理由4(サポート要件違反)について
(令和3年11月19日付け答弁書85〜87頁)
ア コイルばねの材質や表面に施すメッキの厚み等の条件の不足
本件特許の明細書及び図面において、請求項に記載された「密巻き部」に対応する、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」は、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分であることが説明されており、当該構成を備えることにより「検査時の抵抗のばらつきが最小限に収まる」(【0032】)ことが記載されており、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分と解釈される「密巻き部」を備える本件発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」の発明である。
本件特許の発明の詳細な説明において、上記課題の解決は、請求人が引用する特定の材質やメッキ厚を満たす実施例の場合のみに限定されると記載されているわけではなく、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する「密巻螺旋部15a(筒状部15)」により達成されると記載されているので、本件特許の発明の詳細な説明に接した当業者は、上記課題の解決が実施例に記載された特定の材質やメッキ厚を満たす条件に限定されて達成されるものとは考えない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

イ 密巻き部の限定について
本件発明の「密巻き部」は、「前記第1及び第2のプランジャの一方」と摺動可能に接触し、電気的に導通可能になっている部分(摺動導通部)と、「前記第1及び第2のプランジャの他方」に固定され」、電気的に導通可能になっている部分(固定導通部)とを有することで、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」という作用効果を奏する部材であって、まさに本件発明の作用効果を奏する構成である。
本件特許の発明の詳細な説明において、上記課題の解決は、請求人が引用する特定の現象を満たす実施例の場合のみに限定されると記載されているわけではなく、「前記第1及び第2のプランジャの一方」と摺動可能に接触し、電気的に導通可能になっている部分(摺動導通部)と、「前記第1及び第2のプランジャの他方」に固定され」、電気的に導通可能になっている部分(固定導通部)とを有し、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成し、「前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位」を存在させる「密巻螺旋部15a(筒状部15)」により達成されると記載されているので、本件特許の発明の詳細な説明に接した当業者は、上記課題の解決が実施例に記載された特定の現象に限定されて達成されるものとは考えない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(5) 無効理由5(明確性要件違反)について
(令和3年11月19日付け答弁書87〜88頁)
明確性要件の有無は、請求項の記載がそれ自体明確であるか否かを判断し、
ア 請求項の記載がそれ自体で明確であると認められる場合は、明細書又は図面に請求項に記載された用語についての定義又は説明があるか否かを検討し、その定義又は説明によって、かえって請求項の記載が不明確にならないかを判断し、
イ 請求項の記載がそれ自体で明確でない場合は、明細書又は図面に請求項に記載された用語についての定義又は説明があるか否かを検討し、その定義又は説明を出願時の技術常識をもって考慮して請求項に記載された用語を解釈することにより、請求項の記載が明確といえるか否かを判断し、
その結果、請求項の記載から特許を受けようとする発明が明確に把握できると認められれば明確性要件は満たされるというべきである。
「密巻き部」という請求項の記載は、「密」に「巻」かれた「部」分を意味する用語であることが文言上明らかであるので、上記アの場合に該当するところ、本件特許の明細書及び図面において、請求項に記載された「密巻き部」に対応する、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」は、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分であることが説明されており、「明細書又は図面に請求項に記載された用語についての定義又は説明・・・によって、かえって請求項の記載が不明確に」なることもない。
なお、イの場合として当てはめてみたとしても、本件特許の明細書及び図面において、請求項に記載された「密巻き部」に対応する、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」は、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分であることが説明されているので、「明細書又は図面に請求項に記載された用語についての定義又は説明を出願時の技術常識をもって考慮して請求項に記載された用語を解釈することにより、請求項の記載が明確といえる」場合に該当する。
したがって、本件発明は明確である。

(6) 無効理由6(実施可能要件違反)について
(令和3年11月19日付け答弁書88〜89頁)
本件特許の明細書及び図面において、請求項に記載された「密巻き部」に対応する、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」は、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分であることが説明されており、当該構成を備えることにより「検査時の抵抗のばらつきが最小限に収まる」(【0032】)ことが記載されているので、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分と解釈される「密巻き部」を備える本件発明については、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

2 被請求人が提出した証拠
乙1 :広辞苑第七版(抜粋)「臨む」の記載箇所
乙2 :広辞苑第七版(抜粋)「プランジャー」の記載箇所
乙3 :特許第4889183号公報
乙4 :株式会社喜多製作所のウェブサイト
乙5 :オックスフォード現代英英辞典第10版(抜粋)「plunger」の記載箇所
乙6 :ランダムハウス英和大辞典第2版(抜粋)「receptacle」の記載箇所
乙7 :オックスフォード現代英英辞典第10版(抜粋)「receptacle」の記載箇所
乙8 :特許第2602097号公報

第6 合議体より提示した文献
令和4年1月21日付け審理事項通知書において、合議体より次の文献1及び文献2を請求人及び被請求人に提示した。
1 文献1
「JIS 工業用語大辞典 第5版」、2001年、2012頁
上記文献1は、「プランジャ」という用語について、合議体が、口頭審理を行う前の暫定的見解として、「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」と解釈した根拠として提示したものである。

2 文献2
「小学館ランダムハウス英和辞典、第2版」、1996年、1532頁
上記文献2は、「リード導体」という用語について、合議体が、口頭審理を行う前の暫定的見解として、「電気的接続のための導電体」と解釈した根拠として提示したものである。

第7 当審の判断
1 用語の解釈等について
本件無効審判においては、用語及び語句の解釈が大きな争点となっていることもあり、まず、請求項1及び請求項21に記載された用語のうち、無効理由1〜6に係る判断の前提となる主要な用語の解釈について検討する。

(1) 「プランジャ」という用語の解釈について
ア 合議体の解釈
「プランジャ」という用語について、合議体は、本件発明の技術分野における用語の通常の意味のとおり、「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」を意味すると解釈する。
その根拠としては、文献1(「JIS 工業用語大辞典 第5版、2012頁」)に「プランジャ」について「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」と記載されていること及び本件特許の明細書及び図面を参酌してもこれとは異なる解釈をすべき事情は見当たらないことが挙げられる。なお、合議体の当該解釈に対して、被請求人は異論がない(被請求人陳述要領書の3頁参照)。
請求人は、「プランジャ」という用語の解釈について、合議体と異なる解釈を主張しているところ、次のイにおいて検討するように、請求人の主張はいずれも採用できないものである。

イ 請求人の主張とその検討
(ア) 請求人の主張(「プランジャ」その1)について
a 請求人の主張(「プランジャ」その1)の内容
(a) 相対的な意味で軸方向に動くことを意味すること
(請求人陳述要領書の2〜3頁の(1−2−1a)参照)
合議体の「プランジャ」を「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」と解釈することに異論はないが、ここでいう「軸方向に動く」については、相対的な意味で軸方向に動くことを意味すると解釈する。すなわち、本件特許発明のように「プランジャ」が二つある構成においては、両者がそれぞれ絶対的な意味で動くことが重要ではなく、少なくともいずれか一方が動くことで、両者が相対的な意味で軸方向に動き、コンタクトプローブ全体として、検査対象と接触状態又は非接触状態を取り得ることが重要であるためである。例えば、本件特許公報24項の図9及び図10に示されている実施例においても、二つのプランジャのうち中空の容器型をした上側のプランジャは、上側で固定されており、それ自体が絶対的な意味で軸方向に動くわけではない。

(b) 請求人の主張(「プランジャ」その1)を支持する証拠について
(請求人上申書(3)の1〜2頁の(1−1)参照)
固定され動かない側のプランジャの例として、特開平8−29475(甲18)を示す。
甲18号の図3に示すコンタクトプローブ30は、プランジャ31及びプランジャ35を備えている。甲18に記載されている実装基板検査装置は、一般に「プローバー」、「ウェハプローバー」とも呼ばれ、基板に設けられた多数のコンタクトプローブを用いて通電検査等を行う。このような実装基板検査装置においては、リード線等に接触した状態の各コンタクトプローブが有するプランジャに対し、軸方向に押圧力がかけられるが、その目的は、あくまで各プランジャの接触圧を高め、均一化することにあり、各プランジャは軸方向に動かない。
甲18に記載された実装基板検査装置についても、段落[0015]に記載されているようにプランジャ31は押し付けられて横方向にたわむものの軸方向には動かない。
甲18の【図3】


b 請求人の主張(「プランジャ」その1)に対する合議体の判断
(a) 本件発明における「第1のプランジャ」及び「第2のプランジャ」は、いずれも「プランジャ」と称している以上、それぞれが単独で「プランジャ」としての属性を備えているべきであるから、「第1のプランジャ」の属性を規定するために「第2のプランジャ」の存在を前提する必要はなく、同様に「第2のプランジャ」の属性を規定するために「第1のプランジャ」の存在を前提する必要はない。
すなわち、本件発明の「第2のプランジャ」は、「第1のプランジャ」の存在とは無関係に「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」という属性を備えたものでなければならないから、「第1のプランジャ」から相対的にみて軸方向に動いているような固定部材は、「プランジャ」の「軸方向に動く」という属性を備えたものであるとはいえない。
(b) 固定され動かない側のものを「プランジャ」と称する例として、請求人が示した甲18について検討すると、請求人は、その図3に示されたコンタクトプローブ30のプランジャ31は押し付けられて横方向にたわむものの軸方向には動かない旨主張している。
しかしながら、甲18の「プランジャ31」は、ランド21やリード20に接触すると、横方向にたわみつつ縦方向(軸方向)にも変位していることは、図3をみれば明らかである。したがって、固定され動かない側のものをプランジャと称する例としては、適切なものではなく、甲18は、プランジャについての請求人の主張を支持する根拠とはならない。
(c) 以上検討のとおりであるから、請求人の主張(「プランジャ」その1)は、採用することができない。

(イ) 請求人の主張(「プランジャ」その2)について
a 請求人の主張(「プランジャ」その2)の内容
(請求人陳述要領書の3〜4頁の(1−2−1b)参照)
本件発明1及び本件発明21の「第1のプランジャ」及び「第2のプランジャ」がいわゆる「プランジャ」であることは、本件発明1及び本件発明21の発明の内容として本質的に重要でない。
本件発明は、出願当初の特許請求の範囲においては、「第1のプランジャ」及び「第2のプランジャ」ではなく「第1の導体部」及び「第2の導体部」との語を用いていたが、進歩性等の拒絶理由対応で「第1のプランジャ」及び「第2のプランジャ」に変更する補正を行っている。しかしながら、上記の拒絶理由において審査官が採用した引用文献等にはプランジャを用いたコンタクトプローブの例が開示されていることから「導体部」を「プランジャ」と限定することでは引用文献等との差異は見出されない。本件特許出願が特許査定となったのは、「導通経路に摺動導通部として単に1つの部位が存在」するとの技術的特徴を加える補正を行うことで引用文献等との差異が見出されたためである。
「導体部」とは「電気的接続をするための導体部材」と解され、導体部材であればプランジャでない他の導体部材を用いても本件発明の「抵抗のばらつきが抑制される」との効果を奏することができると考えられる。このように、「第1のプランジャ」及び「第2のプランジャ」がいわゆる「プランジャ」であることは、発明の内容として特段重要性を有していない。

b 請求人の主張(「プランジャ」その2)に対する合議体の判断
(a) 請求人も認めるとおり、「導体部」は「電気的接続をするための導体部材」であるのに対して、「プランジャ」の本件発明の技術分野における通常の用語としての意味は、「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」である。そうすると、後者では、可動部材であること及びその具体的形状についても認識できるから、本件発明の技術分野における通常の用語の意味として、「プランジャ」は「導体部」の下位概念になっている。
(b) 出願当初の請求項1及び請求項2は次のように記載されていた。
「【請求項1】 開端及び閉端を有する支持孔が形成された絶縁体と、
前記支持孔内に前記閉端で露呈するリード導体と、
前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリとを備え、このアッセンブリは、
前記開端で外方へ露出する第1の導体部と、
前記リード導体に接触する第2の導体部と
を備えるマイクロコンタクタプローブであって、
前記第1及び第2の導体部の一方は、
前記第1及び第2の導体部の他方にその一部分が摺動可能に接触する筒状導体部と、
この筒状導体部の別の部分に固定された固定導体部と
を備えて成るマイクロコンタクタプローブ。
【請求項2】 請求の範囲1項に係るマイクロコンタクタプローブであって、
前記第1の導電部は第1のプランジャから成り、前記第2の導電部は第2のプランジャとコイルばねとから成り、前記筒状導体部は前記コイルばねの密巻部から成るマイクロコンタクタプローブ。」
(c) 出願当初の請求項2においては、「前記第1の導電部は第1のプランジャから成り」と記載されているから、出願の時点において被請求人(特許権者)が「プランジャ」は「導体部」という用語を限定するものとして認識していたことは明らかである。
(d) したがって、審査段階の手続の経過を参酌しても、「第1のプランジャ」及び「第2のプランジャ」における「プランジャ」という用語を、通常の意味に解釈することを妨げる事情はなく、「プランジャ」を「導体部」と同義に解釈すべき事情は見当たらない。むしろ、審査経過における被請求人の対応は、「プランジャ」という用語について、「本件発明の技術分野における通常の意味である「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」と解釈することと整合しているというべきである。
(e) 以上のとおりであるから、請求人の主張(「プランジャ」その2)は、採用できない。

(ウ) 請求人の主張(「プランジャ」その3)について
a 請求人の主張(「プランジャ」その3)の内容
(請求人上申書(3)の2〜3頁の(1−2)参照)
本件の特許請求の範囲の記載においては、「前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」という記述があるように、効果を構成要件として含み、必ずしも一般的でない記載である。あえてこのような記載をしていることから、本件発明に係るコンタクトプローブは、上記効果を発揮している状態、又は、上記効果を発揮し得る状態のものに限られると解釈する。
甲19は、本件特許図面に基づいて請求人側で作成したコンタクトプローブ1の取り得る状態の例を示している。甲19に示すように、コンタクトプローブ1は、フリー状態(以下「A状態」という。)、セット状態(以下「B状態」という。)及びコンタクト状態(以下「C状態」という。)の三つの状態を取り得る。
コンタクトプローブは支持孔が形成された絶縁体に組み込まれた段階でA状態、検査開始前にB状態となり、以降、数万−数十万回に渡り、B状態→C状態→B状態→C状態を繰り返す。
本件発明に係るコンタクトプローブは、「前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」との効果を発揮している状態、又は、効果を発揮し得る状態であることから、上側のプランジャ4がリード導体11と接触し、下側のプランジャ3が検査対象12と接触し得る状態、すなわち、B状態又はC状態である。
よって、本件発明に係るコンタクトプローブの解釈としては、B状態又はC状態のものに限られるべきである。これらのB状態とC状態を繰り返しながら取る過程で、上側のプランジャ4(「第2のプランジャ」に対応)は、常にリード導体11に接触して動かない。
したがって、本件特許の請求項1及び請求項21における「プランジャ」の解釈として、固定され動かない側のものも含まれるべきである。
(a) フリー状態(A状態)
上側のプランジャ4及び下側のプランジャ3は、それぞれリード導体11、検査対象12と接触していない状態である。A状態において、各プランジャは、外力が作用した場合、支持孔8、9内を軸方向に動き得る。
(b) セット状態(B状態)
A状態から上側のプランジャ4がリード導体11により支持孔8、9内に押し込まれた状態であり、上側のプランジャ4は、リード導体11に接触し、下側のプランジャ3は、先端が支持孔8から突出しているが、検査対象12とは接触していない。B状態において、上側のプランジャ4は、リード導体11に接触して動かない一方で、下側のプランジャ3は、外力が作用した場合、支持孔8、9内を軸方向に動き得る。
(c) コンタクト状態(C状態)
B状態から検査対象12を上方に移動させ、下側のプランジャ3を上方に検査位置まで押し上げた状態であり、上側のプランジャ4は、リード導体11に接触し、下側のプランジャ3は、検査対象12と接触している。C状態において、上側のプランジャ4は、リード導体11に接触して動かず、下側のプランジャ3は、検査位置にて検査対象12と接触した状態で静止している。そして、コンタクトプローブに通電がされる。

甲19


b 請求人の主張(「プランジャ」その3)に対する合議体の判断
(a) 請求人は、コンタクトプローブ1はフリー状態(A状態)、セット状態(B状態)及びコンタクト状態(C状態)の三つの状態を取り得るところ、本件発明のコンタクタプローブは、「前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」効果を発揮している状態、又は、効果を発揮し得る状態である、B状態又はC状態のものに限られるべきであり、B状態及びC状態を繰り返す過程で、上側のプランジャ4(第2のプランジャ)は、常にリード導体11に接触して動かないから、本件発明の「プランジャ」の解釈として、固定され動かない側のものも含まれるべきである旨主張している。
(b) しかしながら、後記(2)ア(ア)において説示するとおり、本件発明は「リード導体」を構成要素としないと解釈すべきであるから、「第2のプランジャ」が「リード導体」に接触する状態にあるか否かという観点により「第2のプランジャ」の解釈が左右されるべきではない。
(c) すなわち、リード導体に接触していないA状態と、リード導体に接触しているB状態及びC状態を区別して論じることにより、本件発明の「プランジャ」の解釈を行うのは、請求項1及び21の記載に基づいたものではない。むしろ、請求項1及び21の記載に基づけば、「リード導体」を構成要素としないのであるから、A状態、B状態及びC状態のいずれも含むと解釈するのが相当であり、そのように解釈しても、使用時にはC状態となり、請求人の主張する前記効果を発揮できるのであるから、本件発明がB状態及びC状態に限られるとする道理はない。
(d) したがって、請求人の主張(「プランジャ」その3)は、採用することはできない。

(2) 「リード導体に接触する[第2のプランジャ]」という語句の解釈について
ア 合議体の解釈
(ア) 請求項1の記載の末尾は「マイクロコンタクタプローブ」であり、請求項1の記載の中に「リード導体」という語句が現れるところ、次のa及びbの二つの点を考慮すると、「リード導体」は「マイクロコンタクタプローブ」の構成要素ではないと解釈すべきである。なお、この点について、請求人及び被請求人に争いはない(請求人陳述要領書の4頁及び被請求人陳述要領書の3頁参照)。
同様に、請求項21についても、「リード導体」は「導電アッセンブリ」の構成要素ではないと解釈すべきである。
a 審査段階における平成23年7月19日付け意見書において、請求項1の補正について「リード導体」を構成要素から外した旨の主張をしていること。
b 本件特許の請求項1の記載を引用する本件特許の請求項14において、「前記支持孔に露呈する前記リード導体をさらに備え[る]」ことが記載されていること。

(イ) 前記(ア)で検討した、「リード導体」は「マイクロコンタクタプローブ」の構成要素ではないことを考慮すると、本件発明1及び本件発明21の「リード導体に接触する[第2のプランジャ]」における「リード導体に接触する」という語句について、合議体は、物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に該当し、「〜の形状を有するクレーン用フック」という語句を「クレーンに用いるのに特に適したフック」と解釈するのと同様に解釈すべきと考える。
すなわち、「リード導体に接触する[第2のプランジャ]」を「リード導体の接触に用いる[第2のプランジャ]」と同義に解釈し、「リード導体に接触するのに特に適した第2のプランジャ」と解釈すべきと考える。
(物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)については、「特許・実用新案審査基準」の「第III部 特許要件」、「第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」を参照)。
この点に、被請求人は異論がない(被請求人陳述要領書の3頁参照)。
なお、請求項1及び請求項21においては、「リード導体に接触する[第2のプランジャ]」と記載されているのであって、「リード導体に接触している[第2のプランジャ]」と記載されているのではないから、「リード導体に接触する」という語句は「第2のプランジャ」の状態限定でないことは、明らかである。
また、「リード導体に接触する」ということは、どのようなものでも接触することはできることを考えると、「第2のプランジャ」がそれ自体として有している作用、機能、性質又は特性ではないから、機能限定「作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載」であると解釈することにも難がある。
請求人は、「リード導体に接触する」という語句の解釈について、合議体と異なり、状態限定であると主張しているところ、次のイにおいて検討するように、請求人の主張はいずれも採用できないものである。

イ 請求人の主張と検討
(ア) 請求人の主張(「リード導体に接触する」その1)について
a 請求人の主張(「リード導体に接触する」その1)の内容
(請求人上申書(3)の3頁の(2−1)参照)
「リード導体に接触する[第2のプランジャ]」における、「リード導体に接触する」という語句は、状態を限定する意味と解釈する。
請求項1のコンタクトプローブは、「前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」との効果を発揮、あるいは効果を発揮し得る状態(B状態又はC状態)であり、このとき「第2のプランジャ」は「リード導体に接触、又は、接触し得る状態」である。上記点が特許請求の範囲の解釈として含まれるべきであることから「リード導体に接触する」について状態限定解釈とする。

b 請求人の主張(「リード導体に接触する」その1)に対する合議体の判断
状態を限定したものとして表現するのであれば、「リード導体に接触している」と記載すべきであるところ、請求項1には「リード導体に接触する」と記載されているのであるから、上記文言を状態限定と解釈することには難がある。
請求人は、請求項1におけるコンタクトプローブは、「前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」との効果を発揮、又は、効果を発揮し得る状態(B状態又はC状態)であることを、前記状態限定解釈の根拠としているが、本件発明がA状態、B状態及びC状態のいずれも含むものと解釈しても、使用時にはC状態となり、請求人の主張する前記効果を発揮できるのであるから、本件発明がB状態及びC状態に限られるとする道理はない。
よって、請求人の主張は採用することができない。

(イ) 請求人の主張(「リード導体に接触する」その2)について
a 請求人の主張(「リード導体に接触する」その2)の内容
(請求人上申書(3)3頁(2−2)参照)
審査基準の用途限定に関する項目(審査基準第III部第2章第4節3)は、新規性判断の例外的取扱いを述べている。新規性の判断の対象となる発明は、請求項に係る発明である(審査基準第III部第2章第1節2)。本件では新規性の判断の対象となる発明はコンタクトプローブである。
新規性」について、例えば、「特許法(茶園成樹著)有斐閣社発行62頁」には、「発明の新規性とは、発明が客観的に新しいこと、具体的には、公知、公然実施、刊行物記載等に該当しないこと」と規定されている。このことから分かるように「新規性」は、発明の特性の一側面を示す概念であり、発明の構成要件に対しては「新規性」という概念は存在しないと考えられる。具体的には、「A装置を構成するa部材に新規性がある」という表現は通常用いない。
審査基準第III部第2章第4節3は、発明(コンタクトプローブ)の新規性判断の取扱いを述べたものであって、発明の構成要件であるプランジャにまで拡大解釈して適用されるべきではない。

b 請求人の主張(「リード導体に接触する」その2)に対する合議体の判断
審査基準の「3.1.2 用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合の考え方」においては、用途発明((i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明)についての例外的な取扱いについての記述はあるものの、審査基準の「3.1.1 用途限定がある場合の一般的な考え方」は、請求項の記載に「用途限定が付された物」の記載がある場合の、新規性評価の前提となる語句の解釈についての一般的な考え方を示したものであるから、この考え方を本件発明の「プランジャ」という物に適用することは、不適切な拡大解釈では全くなく、請求人の主張には理由がない。
よって、請求人の主張は採用することができない。

(3) 「検査対象に接触される[第1のプランジャ]」という語句の解釈について
前記(2)において説示した理由と同様の理由により、「第2のプランジャ」の修飾語句の解釈と平仄(ひょうそく)を取るべきことも考慮して、合議体は、本件発明1及び本件発明21の「検査対象に接触される[第1のプランジャ]」における「検査対象に接触される」という語句について、物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に該当し、「検査対象への接触に用いられる[第1のプランジャ]」と同義に解釈し、「検査対象に接触されるのに特に適した第1のプランジャ」と解釈する。
なお、合議体の前記解釈に対して、被請求人は異論がない(被請求人陳述要領書の3頁)。
請求人は、合議体と異なる解釈を主張しているところ、その主張内容は、前記(2)の「リード導体に接触する[第2のプランジャ]」の解釈に対する主張と概略同じであるから、詳細な検討は省略する。

(4) 「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」という語句の解釈について
ア 合議体の解釈
(ア) 合議体は、本件発明1及び本件発明21の「前記支持孔の他端に臨む」という語句について、「「リード導体」及び「リード導体」が固定された「配線プレート」にマイクロコンタクタプローブを組合せたとき、「第2のプランジャ」は、支持孔内に押し込まれ、「支持孔の他端」及び「リード導体」と面する」と解釈する。
(イ) 上記解釈の根拠として、次のaからcに示した点が挙げられる。
a 「広辞苑 第7版、2019年、岩波書店」(乙1)において、「臨む」の意味として、「目の前にする。面する。」の意味が挙げられていること。
b 「プランジャ」という用語を「軸方向に動くピストン形の棒状コンタクト」であると解釈する立場から、「第2のプランジャ」は、軸方向にピストンのように動くことにより、支持孔の他端から露出したり、露出しなかったりするものであると解釈するのが妥当であり、「第1のプランジャ」が「支持孔の一端から露出可能」であるのと同様に、「第2のプランジャ」は、「支持孔の他端」から露出可能であること。
c 「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」とは、このような「支持孔の他端」から露出可能な「第2のプランジャ」が、「リード導体」及び「リード導体」が固定された「配線プレート」が存在すると、支持孔内に押し込まれた状態になること。
(ウ) 合議体の前記解釈に対して、被請求人は異論がない(被請求人陳述要領書の4頁)。
請求人は、「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」という語句の解釈について、合議体と異なる解釈を主張しているところ、次のイにおいて検討するように、請求人の主張はいずれも採用できないものである。

イ 「前記支持孔の他端に臨む」についての請求人の主張について
(ア) 請求人の主張内容
(請求人上申書(3)4頁(3)参照)
「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」という語句の解釈について、「臨む」を「付近に存在する」と解釈し、「(第1のプランジャが位置する側と反対側の)支持孔の開口面がなす端面の付近にその一部分が存在する第2のプランジャ」と解釈する。
コンタクトプローブの機能的な観点から考えると、支持孔が形成された絶縁体に嵌装される導電アッセンブリは、導通されると支持孔の一端側から他端側へと電流が流れるよう構成される必要がある。したがって、本件発明のように二つのプランジャを導通経路として用いるコンタクトプローブにあっては、第1のプランジャが支持孔の一端の付近に存在するとしたとき、第2のプランジャは、支持孔の他端の付近に存在していることが、上述の「導通されると支持孔の一端側から他端側へと電流が流れる」という機能を満たすために必要な条件となる。

(イ) 請求人の主張に対する合議体の判断
請求人は、「臨む」という語を「付近に存在する」と解釈するとしているが、これでは、「臨む」という語の本来の意味である、「目の前にする。面する。」の意味を全く無視した解釈をしている。
また、請求人は、「支持孔の他端に臨む」という「第2のプランジャ」の構成を「導通されると支持孔の一端側から他端側へと電流が流れる」という導通機能を満足させるための条件である旨主張しているが、「支持孔の他端に臨む」という構成は「第2のプランジャ」が「リード導体に接触する」ときの配置を規定したものであると解するのが自然であり、導通機能を満足させることとは無関係に解釈すべきものである。
したがって、このような解釈を前提とした請求人の主張は、支持することができない。

(5) 「導通経路」という用語の解釈について
ア 合議体は、「導通経路」という用語については、次のイにおいて検討するように本件発明の目的を考慮して、「目的とする用途に供するのに有効な程度の電流が流れる電流の通り道」と解釈し、例えば、「検査の測定値の測定誤差にほとんど影響を与えない程度の電流が流れる場合の電流の通り道」は、当該「導通経路」の概念には含まれないと解釈することが相当であると判断する。
イ(ア) 本件発明は、特開平10−239349号公報に開示されたマイクロコンタクタプローブ(本件特許明細書の段落[0002]〜[0006]及び図13参照)を従来技術とし、「インダクタンスおよび抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)および電気プローブユニットを提供することを目的とする」ものである(本件特許明細書の段落[0009]参照)。
(イ) 上記目的を達成するために、請求項1及び請求項21においては、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される[こと]」が特定されている。
(ウ) そうすると、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される「導通経路」というからには、検査という目的に供するのに有効な程度の電流が流れる電流の通り道であることが必要であり、単発的あるいは偶発的に微弱な電流が流れてしまうような場合には、検査という目的に有効に寄与するとはいえないから、そのような電流の通り道は「導通経路」としての資格を有するとはいえない。
(エ) ここで、「導通経路」という用語自体には、特定の目的が含意されていないから、検査の目的に限って「導通経路」を観念する必要はなく、いかなる目的であっても、当該目的からみた電流の通り道としての技術的意義に着目すれば足りるものというべきである。
(オ) したがって、「導通経路」とは、「目的とする用途に供するのに有効な程度の電流が流れる電流の通り道」というべきことになる。
(カ) そして、検査の測定値にほとんど影響しない微弱な電流が流れる程度のものは、目的にかなわないのであり、かつ、検査時の抵抗のばらつき(検査精度)に影響を与えないのであるから、「目的となる用途に供するのに有効な程度の電流が流れる電流の通り道」ではなく、「導通経路」というべきものではない。

2 無効理由1(新規性欠如)について
(1) 甲1に記載された事項及び甲1発明の認定
ア 甲1に記載された事項
甲1(特開平3−17974号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲1には、以下の記載がある。
(ア) 1頁右下欄9−15行
「[発明の目的]
<産業上の利用分野>
本発明は、コンタクトプローブの先端として用いるのに適する導電性接触子に関し、特に、プリント配線板や電子素子等の信号を電気的に検査するコンタクトプローブに適する導電性接触子に関する。」

(イ) 3頁左上欄18行−同頁右上欄6行
「<実施例>
以下、本発明の好適実施例を添付の図面について詳しく説明する。
第1図には、本発明に基づく導電性接触子の一実施例が示されている。この接触子1は、図示省略された自動検査装置の一部をなす絶縁基板2に貫通状態にて保持されたホルダとしての円筒状のレセプタクル3と、その内部に軸線方向に出没自在に受容された導電性の針状体4とを有する。」

(ウ) 3頁右上欄7行−同頁左下欄2行
「 針状体4の突出端4aが、例えばプリント配線板5上の導電パターン6からなる検査対象に的確に当接し得るように尖鋭にされていると共に、突出端4aを含みかつ針状体4の外径と同一径をなす胴体部7が、レセプタクル3の内径よりも若干小径に形成されており、レセプタクル3内を摺動自在にされている。針状体4には胴体部7の図に於ける上側に小径の軸部8が同軸的に形成されており、軸部8には圧縮コイルばね9が巻回されている。この圧縮コイルばね9は、突出側抜け止め部としての胴体部7の軸部8側の肩部7aと、軸部8の没入端部に形成された没入端部側抜け止め部としての上方に半球形状をなす拡頭部11との間に、所定量圧縮された状態にて装着されている。即ち、肩部7a及び拡頭部11の両者により圧縮コイルばね9が抜け止めされている。」

(エ) 3頁左下欄3行−同頁右下欄1行
「 針状体4は、胴体部7の一部をレセプタクル3内に没入した状態になるように、圧縮コイルばね9の拡頭部11側端部には数巻分巻回された密着巻部9aが設けられており、レセプタクル3の中間部に全周に亘って内向きに突出するように形成された環状内向突部12に密着巻部9aが当接して、圧縮コイルばね9が、没入方向に対して位置決めされている。また、レセプタクル3の環状内向突部12から突出側に若干離隔した位置には、外周面の一部を押圧することにより内向きに突出する突部13が形成されており、位置決めされた密着巻部9aが、突部13に係合することにより、弾性変形しつつ対向する内壁面に押付けられて固定されている。このようにして、レセプタクル3に圧縮コイルばね9を介して針状体4が出没自在に支持されている。尚、レセプタクル3の図に於ける上端部には、図示されない装置の回路に連結された信号伝送線としてのリード線25に接続されたプラグ26が結合されている。」

(オ) 3頁右下欄2行−同欄11行
「 絶縁基板2を下降して、針状体4の突出端4aを導電パターン6に押付けると、第2図に示されるように圧縮コイルばね9が圧縮され、針状体4が、適度なばね荷重をもって導電パターン6に当接するため、両者間の電気的接触状態が確実になる。尚、導電パターン6とリード線25とが、針状体4の胴体部7及びレセプタクル3を介して導通しており、導通経路中の接触箇所が極めて少ないため、接触子1の内部抵抗が低くかつ安定化する。」

(カ) 3頁右下欄12行−4頁左上欄1行
「 また、導電性接触子に於いて針状体4と圧縮コイルばね9とからなるブローブ本体14をレセプタクル3に組付けるには、第3図に示されるように、プローブ本体14を図の矢印に示されるようにレセプタクル3の突出側開口部から挿入して行い、密着巻部9aが、前記したように環状内向突部12に衝当することにより位置決めされ、突部13に係合して、突部13と対向内壁部との間にて弾性変形状態に保持されることにより、固定される。」

(キ) 第1図




(ク) 第2図




(ケ) 第3図




イ 甲1発明の認定
前記アにおいて摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「 プリント配線板や電子素子等の信号を電気的に検査するコンタクトプローブの先端として用いるのに適する導電性接触子であって、(前記(ア))
導電性接触子1は、自動検査装置の一部をなす絶縁基板2に貫通状態にて保持されたホルダとしての円筒状のレセプタクル3と、その内部に軸線方向に出没自在に受容された導電性の針状体4とを有し、(前記(イ))
針状体4の突出端4aは、例えばプリント配線板5上の導電パターン6からなる検査対象に的確に当接し得るように尖鋭にされていると共に、突出端4aを含みかつ針状体4の外径と同一径をなす胴体部7が、レセプタクル3の内径よりも若干小径に形成されており、レセプタクル3内を摺動自在にされており、(前記(ウ))
針状体4には胴体部7の上側に小径の軸部8が同軸的に形成されており、軸部8には圧縮コイルばね9が巻回されており、(前記(ウ))
この圧縮コイルばね9は、突出側抜け止め部としての胴体部7の軸部8側の肩部7aと、軸部8の没入部に形成された没入端部側抜け止め部としての上方に半球形状をなす拡頭部11との間に、所定量圧縮された状態にて装着され、肩部7a及び拡頭部11の両者により圧縮コイルばね9が抜け止めされており、(前記(ウ))
針状体4は、胴体部7の一部をレセプタクル3内に没入した状態になるように、圧縮コイルばね9の拡頭部11側端部には数巻分巻回された密着巻部9aが設けられており、レセプタクル3の中間部に全周に亘って内向きに突出するように形成された環状内向突部12に密着巻部9aが当接して、圧縮コイルばね9が、没入方向に対して位置決めされており、(前記(エ))
レセプタクル3の環状内向突部12から突出側に若干離隔した位置には、外周面の一部を押圧することにより内向きに突出する突部13が形成されており、位置決めされた密着巻部9aが、突部13に係合することにより、弾性変形しつつ対向する内壁面に押付けられて固定され、レセプタクル3に圧縮コイルばね9を介して針状体4が出没自在に支持されており、(前記(エ))
レセプタクル3の上端部には、装置の回路に連結された信号伝送線としてのリード線25に接続されたプラグ26が結合されており、(前記(エ))
絶縁基板2を下降して、針状体4の突出端4aを導電パターン6に押付けると、圧縮コイルばね9が圧縮され、針状体4が、適度なばね荷重をもって導電パターン6に当接するため、両者間の電気的接触状態が確実になり、導電パターン6とリード線25とが、針状体4の胴体部7及びレセプタクル3を介して導通しており、導通経路中の接触箇所が極めて少ないため、接触子1の内部抵抗が低くかつ安定化し、(前記(オ))
導電性接触子1に於いて針状体4と圧縮コイルばね9とからなるブローブ本体14をレセプタクル3に組付けるには、プローブ本体14をレセプタクル3の突出側開口部から挿入して行い、密着巻部9aが、前記したように環状内向突部12に衝当することにより位置決めされ、突部13に係合して、突部13と対向内壁部との間にて弾性変形状態に保持されることにより、固定される、(前記(カ))
導電性接触子1。」

(2) 甲1発明に基づく本件発明1についての新規性の検討
ア 請求項1の記述に沿った本件発明1と甲1発明の対比
前記1の用語の解釈の検討結果を利用しつつ、請求項1の記述に沿って、本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「絶縁基板2」は、本件発明1の「絶縁体」に相当する。
また、甲1発明の「絶縁基板2」は、「レセプタクル3」を「貫通状態にて保持」しているから貫通孔を有していることは自明であり、この貫通孔は、本件発明1の「支持孔」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「支持孔が形成された絶縁体」を備えている点で一致する。

(イ) 甲1発明の「針状体4と圧縮コイルばね9とからなるブローブ本体14」と「レセプタクル3」の組合せは、本件発明1の「導電アッセンブリ」に相当する。
ここで、甲1発明の「レセプタクル3」は「絶縁基板2に貫通状態にて保持され」ており、このことは、本件発明1の「前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ」ことに相当する。
さらに、甲1発明の「針状体4」が「レセプタクル3に圧縮コイルばね9を介して」「出没自在に支持されて[いる]」ことは、「圧縮コイルばね9」が「針状体4」に作用する弾性力により「針状体4」が「出没自在に」動き、「針状体4と圧縮コイルばね9とからなるブローブ本体14」と「レセプタクル3」の組合せが全体として伸び縮みすることを意味するから、本件発明1において「導電性アッセンブリ」が「弾発性」であることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリ」を備えている点で一致する。

(ウ) 甲1発明の「針状体4」は、「軸線方向に出没自在に受容された導電性の」部材であり、「針状体4の突出端4aは、例えばプリント配線板5上の導電パターン6からなる検査対象に的確に当接し得るように尖鋭にされている」から、甲1発明の「針状体4」は、本件発明1の「検査対象に接触される」「第1のプランジャ」に相当する。
そして、「支持孔の一端から常時露出しているもの」も「支持孔の一端から露出可能なもの」の概念に含まれるから、甲1発明における「針状体4」は、「絶縁基板2」の「貫通孔」の一端から露出可能であるといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明は、導電性アッセンブリは検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャを備えている点で一致する。

(エ) 甲1発明においては、「レセプタクル3の上端部には、装置の回路に連結された信号伝送線としてのリード線25に接続されたプラグ26が結合されており」、「針状体4の突出端4aを導電パターン6に押付けると」、「導電パターン6とリード線25とが、針状体4の胴体部7及びレセプタクル3を介して導通」するから、甲1発明の「レセプタクル3」はリード線25に導通する導電部材であるといえる。
ここで、「リード導体」とは「電気的接続のための導電体」であるところ(文献2(「小学館ランダムハウス英和辞典、第2版」、1996年、1532頁)には、「lead」の意味は、電気の分野で用いられる用語として、「リード線、口出(くちだし)線:電気器具・部品間を接続する導線」の意味であると記載されている。)、「リード線25に接続されたプラグ26」は電気的接続のための導電体であるから、本件発明1における「リード導体」に相当するということができる。
そうすると、本件発明1の「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」と甲1発明の「レセプタクル3」は、「リード導体に接触する導電部材」である点で共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、導電性アッセンブリはリード導体に接触する導電部材を備えている点で共通する。

(オ) 甲1発明においては、「レセプタクル3の中間部」の「環状内向突部12に密着巻部9aが当接して、圧縮コイルばね9が、没入方向に対して位置決めされて」いるから、「圧縮コイルばね9」は「レセプタクル3」に対して弾性力を作用しているといえる。
また、甲1発明においては、「絶縁基板2を下降して、針状体4の突出端4aを導電パターン6に押付けると」「圧縮コイルばね9」は「圧縮され」、「針状体4が、適度なばね荷重をもって導電パターン6に当接する」ところ、「付勢する」とは「可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態にする」という意味であるから、「圧縮コイルばね9」は「針状体4」を付勢するものであるといえる。
そうすると、本件発明1の「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」と甲1発明の「圧縮コイルばね9」は、「前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に前記第1のプランジャを付勢するコイルばね」であるという点で共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、導電性アッセンブリは前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に前記第1のプランジャを付勢するコイルばねを備えている点で共通する。

(カ) 甲1発明の「圧縮コイルばね9の拡頭部11側端部」に設けられた「数巻分巻回された密着巻部9a」は、本件発明1の「筒状の密巻き部」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「前記コイルばねは、筒状の密巻き部を有する」点で共通する。

(キ) 甲1発明においては、「針状体4の突出端4aを導電パターン6に押付けると、圧縮コイルばね9が圧縮され、針状体4が、適度なばね荷重をもって導電パターン6に当接するため、両者間の電気的接触状態が確実になり、導電パターン6とリード線25とが、針状体4の胴体部7及びレセプタクル3を介して導通しており、導通経路中の接触箇所が極めて少ないため、接触子1の内部抵抗が低くかつ安定化[する]」から、針状体4の胴体部7からレセプタクル3を経てリード線25に至るまでには、プリント配線板や電子素子等の信号を電気的に検査するために有効な程度の電流が流れているといえる。
そうすると、甲1発明の針状体4の胴体部7からレセプタクル3を経てリード線25に流れる電流の通り道は、本件発明1の「導通経路」に相当するから、本件発明1と甲1発明は、「前記第1のプランジャ及び前記導電部材により構成される導通経路」を有する点で共通する。

(ク) 甲1発明の「導電性接触子1」は、「プリント配線板や電子素子等の信号を電気的に検査するコンタクトプローブの先端として用いるのに適する」ものであるから、本件発明1の「マイクロコンタクタプローブ」に相当する。したがって、本件発明1と甲1発明は、「マイクロコンタクタプローブ」の発明である点で一致する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アにおいて対比した結果をまとめると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点1Aの点で一致し、以下の相違点1−1〜1−3の点で相違する。
(ア) 一致点
<一致点1A>
「支持孔が形成された絶縁体と、
前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
前記導電アッセンブリは、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触する導電部材と、
前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に前記第1のプランジャを付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、筒状の密巻き部を有し、
前記第1のプランジャ及び前記導電部材により構成される導通経路を有する、
マイクロコンタクタプローブ。」

(イ) 相違点
<相違点1−1>
「リード導体に接触する導電部材」について、本件発明1では、「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」であるのに対して、甲1発明では、「絶縁基板2に貫通状態にて保持されたホルダとして」の「レセプタクル3」であり、可動部材ではないから「プランジャ」であるとはいえず、また、可動部材ではないから、支持孔内に押し込まれて支持孔の他端及びリード導体と面するということは起きないため、「前記支持孔の他端に臨む」導電部材であるともいえない点。

<相違点1−2>
本件発明1においては、「コイルばね」が「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢する」ものであるのに対して、甲1発明では、「圧縮コイルばね9」は「針状体4」を付勢しているものの、「レセプタクル3」は「絶縁基板2」に「保持」されており可動部材ではないため、「圧縮コイルばね9」が「レセプタクル3」を付勢している(可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態となる)とはいえず、「レセプタクル3」(固定部材)に対して弾性力を作用するのみである点。
なお、相違点1−2は本件発明1の「第2のプランジャ」及び甲1発明の「レセプタクル3」に係るものであるため、相違点1−2は、相違点1−1が存在することにより必然的に生じる、相違点1−1に付随する相違点であるということができる。

<相違点1−3>
本件発明1においては、
「筒状の密巻き部」が「摺動導通部と固定導通部とを有する」ものであり、「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され」、
「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対して、
甲1発明においては、
「圧縮コイルばね9」の「密着巻部9a」は、「レセプタクル3」に「圧縮コイルばね9」を「位置決め」「固定」するための部材であって、「密着巻部9a」は「電気的に導通可能」であるか否か不明であり、「摺動導通部」や「固定導通部」を有しているとはいえず、
電気的に導通可能であるとしても、「針状体4」及び「レセプタクル3」と「「圧縮コイルばね9」の「密着巻部9a」」により構成されるものが、「プリント配線板や電子素子等の信号を電気的に検査する」ために有効な程度の電流が流れる電流の通り道であるのか不明であるから、「圧縮コイルばね9」の「密着巻部9a」が導通経路に含まれているとはいえず、「針状体4」が摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制されるとはいえない点。

新規性の判断
本件発明1は、前記の相違点1−1、相違点1−2及び相違点1−3において甲1発明と相違するから、新規性を有すると認められる。

(3) 甲1発明に基づく本件発明21についての新規性の検討
ア 前記(2)アの請求項1の記述に沿った本件発明1と甲1発明の対比の結果を踏まえつつ、本件発明21と甲1発明を対比すると、両者は、次の一致点1Bの点で一致し、前記相違点1−1〜1−3と同一の相違点において相違する。
<一致点1B>
「絶縁体に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリであって、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触する導電部材と、
前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に前記第1のプランジャを付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、筒状の密巻き部を有し、
前記第1プランジャ及び前記導電部材により構成される導通経路を有する、
導電アッセンブリ。」

新規性の判断
本件発明21は、前記の相違点1−1、相違点1−2及び相違点1−3において甲1発明と相違するから、新規性を有すると認められる。

(4) 無効理由1に係る請求人の主張について
ア 相違点1−1についての請求人の主張に対する合議体の判断
請求人は、第1のプランジャに対して相対的に移動する物であれば、固定され動かない物であっても第2のプランジャということができる旨主張しているが(前記1(1)イ(ア)a、(イ)a及び(ウ)a参照)、この解釈を採用できないことは、前記1(1)イ(ア)b、(イ)b及び(ウ)bにおいて判断したとおりである。

イ 相違点1−2についての請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の内容
請求人は、甲1発明においては、圧縮コイルばね9は作用反作用の効果によりバネ両端を付勢する力を発生しており、一方は針状体4をある方向に付勢し、他方はレセプタクルを逆方向に付勢しているとし、レセプタクル3は固定されているので付勢により上下方向に動くことはないが、二つのプランジャを逆方向に付勢することにかわりはないから、相違点1−2は存在しない旨の主張をしている(請求人陳述要領書の14頁の(2−1−3)参照)。
(イ) 請求人の主張に対する合議体の判断
a 請求人の主張について検討すると、甲1発明の「圧縮コイルばね9」は、針状体4を付勢しているものの、レセプタクル3は絶縁基板2に「保持」されており可動部材ではないため、圧縮コイルばね9がレセプタクル3を「付勢している」(可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態となる)とはいえず、レセプタクル3(固定部材)に対して弾性力を作用するのみである。
b 請求人は、「圧縮コイルばね9は作用反作用の効果によりバネ両端を付勢する力を発生している」と主張しているが、圧縮コイルばね9に発生する力は弾性力であって、圧縮コイルばね9に結合された部材が針状体4のような可動部材であれば、当該弾性力は可動部材を移動させて押し付けられた状態にすることができるから「付勢する力」であるということはできるが、圧縮コイルばね9に結合された部材がレセプタクル3のような固定部材である場合には、当該弾性力は固定部材を移動させて押し付けられた状態にすることはないから「付勢する力」であるということはできない。
すなわち、本件発明の「逆方向に付勢するコイルばね」は、コイルばねの両端に結合される物体(第1のプランジャ及び第2のプランジャ)がどちらも可動であることを前提としているところ、甲1発明の「圧縮コイルばね9」の一端に結合された部材はレセプタクル3のような固定部材であるから、かかる前提を欠くものである。
c したがって、相違点1−2が存在しない旨の請求人の主張は採用することはできない。

ウ 相違点1−3についての請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の内容
(請求人陳述要領書の14〜16頁の(2−1−4)及び(2−1−5)並びに請求人上申書(4)の2〜3頁の(2)及び4頁の(6)参照)
請求人は、甲1発明が「摺動導通部」を有することについて、次のa及びbの主張をしている。
a 甲1発明の環状内向突部12に密着巻部9aが当接して、圧縮コイルばね9が、没入方向に対して位置決めされているから、圧縮コイルばね9は加圧されることによりレセプタクルの内部で圧縮する構造になっている。このため、甲1発明の構造上、コイルばねの圧縮により、当該コイルばねの「密着巻部9a」の内側はプランジャ(「針状体4」、「胴体部7」、「軸部8」及び「拡張部11」で構成される)の「軸部8」と摺動する。したがって、圧縮コイルばね9は、「摺動導通部」を有する筒状の密巻き部に対応する構成を備えている。
b 被請求人は、甲1の全記載を参酌しても、甲1発明の圧縮コイルばね9は、単なる圧縮のためのコイルばねと説明されているのみであって、圧縮コイルばね9を甲1発明の接触子1における導通経路に用いるという説明や軸部8と圧縮コイルばね9を摺動させて導通させるという説明が存在しないこと等を理由に、甲1発明の「密着巻部9a」が「摺動導通部」を有しないと主張している。しかしながら、圧縮コイルばね9に電流が流れるという事象は物理現象であって、特許明細書中の説明の有無で決まる事象ではなく、甲1に説明の明記がないことはそのような事実を否定する根拠とはならない。

(イ) 請求人の主張に対する合議体の判断
請求人の主張は、甲1発明の「圧縮コイルばね9」の「密着巻部9a」に電流が流れることを前提にするものであるが、要するに、本件発明の「導通」を単に電流が流れる物理現象と捉えたものであって、どんなに微少な電流であっても、電気的に繋がっていれば「導通部」であり、電気的に繋がっており、電流が流れる経路であれば「導通経路」である旨主張していることに等しいものである。
しかしながら、前記1(5)において検討したとおり、「導通経路」というからには、「目的とする用途に供するのに有効な程度の電流が流れる電流の通り道」でなければならないところ、甲1文献においては、圧縮コイルばね9をこのような導通経路の一部として利用することは、全く記載されておらず、意図されていないものである。
そうすると、仮に圧縮コイルばね9に電流が流れることがあったとしても、それは、検査時の抵抗のばらつきが抑制されることに有効に寄与するものではなく、圧縮コイルばね9に流れる電流の不安定性に由来して、むしろ、検査時の抵抗のばらつきの要因となるものであるといわざるを得ない。
してみれば、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」という構成を甲1発明が有しているとは、到底認められないことである。
したがって、相違点1−3が存在しない旨の請求人の主張は採用することができない。

(5) 無効理由1についての小括
以上検討のとおり、無効理由1に係る請求人の主張を採用することはできず、本件発明1及び本件発明21は、いずれも、前記の相違点1−1、相違点1−2及び相違点1−3において甲1発明と相違する。
したがって、本件発明1及び本件発明21は、甲1号証に記載された発明であるとはいえないから、無効理由1は理由がない。

3 無効理由2(進歩性欠如その1)について
(1) 甲2に記載された事項及び甲2発明の認定
ア 甲2に記載された事項
甲2(特開平8−78078号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲2には、以下の記載がある。

(ア) 【請求項1】
「【請求項1】 固定側電極と可動電極とを備えたコネクタ・ピンであって、固定側電極または可動電極の一方に棒状の接点接触部を突設し、他方に接点接触部が貫通して接触する内部接触子を設けたことを特徴とするコネクタ・ピン。」

(イ) 【0001】〜【0005】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピンに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられるコネクタ・ピンは、軸方向の押圧力を吸収するとともに、確実に通電させる能力を備える一方、携帯電話の小型化促進に伴って外形寸法を小さくすることが要求されている。従来のコネクタ・ピンの構造は、例えば図7に示すように、導電性材料で形成された円筒形のケーシングaと、ケーシングaの一端に突設された棒状の電極bと、先細りに形成されたケーシングaの他端にケーシングaの本体部より小径で開設された開口cと、ケーシングa内に摺動自在に配置されたケーシングaの本体部内径より小径の導電性材料で形成されたスライダdと、スライダdに突設され、開口cから突出した可動接点頭部eと、ケーシングa内に設置され、スライダdを開口c側に押圧する付勢バネfを備えている。この構造により、可動接点頭部eが付勢バネfを圧縮して移動することで、押圧力を吸収し、電流の経路は、電極b、ケーシングaの内周面、スライダdの外周面、可動接点頭部eで形成されるものと、電極b、ケーシングaの内周面、付勢バネf、スライダdの外周面、可動接点頭部eで形成されるものとがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のコネクタ・ピンにおいては、正常状態では上述のとおり、電極b、ケーシングaの内周面、スライダdの外周面、可動接点頭部eで形成される通電経路が存在しているが、スライダdの外周面とケーシングaの内周面との間に僅かな間隙があるために、通常はズレているスライダdの中心軸とケーシングaの中心軸とが一致すると、スライダdの外周面とケーシングaの内周面との間隙が全周にわたって存在することになり、上記通電経路が遮断され、ケーシングaとスライダdとの間に付勢バネfが介在した通電経路のみが存在することになり、非常に抵抗の大きい付勢バネfを介して流れる電流が正常時の略2%程度に低下し、電源オフ状態になる恐れがあった。また、スライダdの移動にブレを生じてスライダdがケーシングaの中心軸に対して傾き、スライダdの外周の上端縁または下端縁のみがケーシングaの内周面に接触して抵抗が増大し、流れる電流が著しく減少して電源オフ状態になる恐れがあるという問題があった。
【0004】本発明の目的は、常時十分な電流の通電を確保しながら、軸方向の押圧力を吸収することを可能にするとともに、外形寸法の小型化を可能とするコネクタ・ピンを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明のコネクタ・ピンは、固定側電極と可動電極とを備えたコネクタ・ピンであって、固定側電極または可動電極の一方に棒状の接点接触部を突設し、他方に接点接触部が貫通して接触する内部接触子を設けたことにより、コネクタ・ピンに軸方向の押圧力が付加された場合、可動電極の軸方向の位置に関係なく、可動接点接触部が内部接触子に常時接触しているから、流れる電流の変動、特に過大な電流の減少を生じることなく、電源オフになる恐れがない。また、固定側電極は、一端が開放した中空のケーシングと、ケーシングの他端に連続する中空の固定電極と、固定電極の内孔内に配設された内部接触子とを備え、可動電極は、ケーシング外に突出する可動接点頭部と、可動接点頭部に連続して設けられ、ケーシング内を摺動するスライダ部と、スライダ部に突設され、固定電極内に延びて内部接触子を貫通する棒状の可動接点接触部とを備えたことにより、可動電極の動きを安定させることができる。さらに、固定側電極は、一端が開放した中空のケーシングと、ケーシングの基部から開口側に突設された棒状の固定接点接触部とを備え、可動電極は、ケーシング外に突出する可動接点頭部と、可動接点頭部に連続して設けられ、ケーシング内を摺動するスライダ部と、可動接点頭部側端が閉塞され、他端がケーシング内孔内に開口する内孔と、該内孔内に設けられた内部接触子とを備えたことにより、可動電極の構造を簡略化することができ、動きを一層安定させることができる。」

(ウ) 【0016】〜【0018】
「【0016】図6において、第3実施例について説明すると、プランジャ10は、可動接点頭部101と、可動接点頭部101に連続して形成され、可動接点頭部101の外径より大きな外径のスライダ部102と、スライダ部102に連続して形成され、スライダ部102の外径より小さな外径のガイド部103と、ガイド部103側端が開口し、可動接点頭部101側端が閉塞されるとともに、可動接点頭部101側の内部に、上記第2実施例と同様の内部接触子12が配設されたプランジャ内孔100とを備えており、固定側電極11は、円盤形の固定電極基部111と、固定電極基部111に突設され、プランジャ10側に延びる棒状の固定接点接触部112と、固定接点接触部112と反対側に突設され、プランジャ内孔100の内径より小さな外径の固定電極113とを備えており、プランジャ10のスライダ部102の外径より固定側電極11の固定電極基部111の外径が大きく形成されている。
【0017】電気機器の機体(例えば、携帯電話機本体)の壁部14を絶縁体または導体で形成し、該壁部14に、一方の壁面に一端141Aが開口し、他端141Bが他方の壁面の手前で終端する固定側電極11の固定電極基部111の外径に等しいまたは僅かに大きい内径の設置孔141と、設置孔141の終端141B及び他方の壁面に両端が開口する固定電極基部111の外径より小さく、プランジャ10の可動接点頭部101の外径よりも大きい貫通孔142が開設されており、設置孔141内にプランジャ10のスライダ部102を摺動自在に収納し、可動接点頭部101を貫通孔142内に貫通させるとともに、設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定し、スライダ部102と固定電極基部111との間に付勢バネ13を設置してプランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させる。
【0018】この構成により、特別のケーシングを必要とすることなく、携帯電話機本体機体の壁部に直接コネクタ・ピンを設置することができ、構造が簡単になり、コストの低減を図ることができる。」

(エ) 【図1】




(オ) 【図6】




イ 甲2発明の認定
前記アにおいて摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピンであって、(【0001】)
固定側電極11と可動電極であるプランジャ10とを備えたコネクタ・ピンであり、(【請求項1】、【0016】)
固定側電極11に棒状の接点接触部である固定接点接触部112を突設し、可動電極であるプランジャ10に接点接触部が貫通して接触する内部接触子12を設けたコネクタ・ピンであり、(【請求項1】、【0016】)
プランジャ10は、可動接点頭部101と、可動接点頭部101に連続して形成され、可動接点頭部101の外径より大きな外径のスライダ部102と、スライダ部102に連続して形成され、スライダ部102の外径より小さな外径のガイド部103と、ガイド部103側端が開口し、可動接点頭部101側端が閉塞されるとともに、可動接点頭部101側の内部に、内部接触子12が配設されたプランジャ内孔100とを備えており、(【0016】)
固定側電極11は、円盤形の固定電極基部111と、固定電極基部111に突設され、プランジャ10側に延びる棒状の固定接点接触部112と、固定接点接触部112と反対側に突設され、プランジャ内孔100の内径より小さな外径の固定電極113とを備えており、プランジャ10のスライダ部102の外径より固定側電極11の固定電極基部111の外径が大きく形成されており、(【0016】)
電気機器の機体(例えば、携帯電話機本体)の壁部14を絶縁体で形成し、該壁部14に、一方の壁面に一端141Aが開口し、他端141Bが他方の壁面の手前で終端する固定側電極11の固定電極基部111の外径に等しいまたは僅かに大きい内径の設置孔141と、設置孔141の終端141B及び他方の壁面に両端が開口する固定電極基部111の外径より小さく、プランジャ10の可動接点頭部101の外径よりも大きい貫通孔142が開設されており、(【0017】)
設置孔141内にプランジャ10のスライダ部102を摺動自在に収納し、可動接点頭部101を貫通孔142内に貫通させるとともに、設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定し、スライダ部102と固定電極基部111との間に付勢バネ13を設置してプランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させた、(【0017】)
コネクタ・ピン。」

(2) 甲4〜甲7に記載された技術事項
ア 甲4
甲4(特開2000−46867号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲4には、以下の記載がある。
「【0008】図1は、本発明が適用された導電性接触子1の模式的縦断面図である。なお、通常は複数の被接触箇所を設けられている検査対象に対して多点同時検査を行うために、図に示されるような導電性接触子1を並列に複数配設して用いる。
【0009】本導電性接触子1にあっては、図における下側にバーンインボードなどからなる基板2が設けられており、基板2の上面側には、その上面と同一面を形成する配線パターン2aが一体的に設けられている。上記基板2の図における上面には、本発明が適用されたホルダとしてのプレート3が載置状態に一体化されている。なお、プレート3と基板2とは図示されないねじなどの結合手段により互いに結合されて使用されるものであって良い。
【0010】本プレート3は、第1のシリコン層4と、シリコン酸化膜5と、第2のシリコン層6とを積層したように形成されている。第1のシリコン層4及びシリコン酸化膜5には両者を厚さ方向に貫通する小径孔部7が形成され、第2のシリコン層6には、小径孔部7と同軸的にかつ厚さ方向に貫通して上記配線パターン2aに臨むようにされた大径孔部8が形成されている。
【0011】上記小径孔部7により、導電性針状体9の頭部9aが同軸的にかつ軸線方向に往復動自在に支持されており、大径孔部8により、導電性針状体9の上記頭部9aよりも拡径されたフランジ部9bが同軸的に受容されている。また、大径孔部8内には、その内径よりも若干小径の圧縮コイルばね10が、フランジ部9bと配線パターン2aとの間にて所定量圧縮された状態で概ね同軸的に受容されており、導電性針状体9が、その頭部9aを外方に突出させる方向に付勢されている。なお、導電性針状体9には、上記フランジ部9bから同軸的に圧縮コイルばね10内に延出するようにされたボス部9cとボス部9cよりも小径の軸部9dとが形成されている。
【0012】このようにして組み付けられた導電性接触子1を接触させて半導体素子などの検査を行うことができるが、そのような被接触体としての被検査体11を検査する際には、導電性針状体9の頭部9aを被検査体11の端子11aに接触させて、基板2(配線パターン2a)との間で電気信号の授受を行う。
【0013】本発明による導電性接触子1にあっては、図1に示されるように、圧縮コイルばね10が圧縮変形により湾曲するため、圧縮コイルばね10の内周部の一部が軸部9dに接触する。また、圧縮コイルばね10にあっては、図1の待機状態(組み付け状態)で軸部9dと接触する部分から配線パターン2aに当接するコイル端に至るまでを密着巻きされている。
【0014】したがって、電気信号は、導電性針状体9の軸部9dから圧縮コイルばね10の密着巻き部10aを軸線方向に流れ、配線パターン2aに達する。また、圧縮コイルばね10の密着巻き部10aでは、電流はコイル状に流れずに、軸線方向に流れ得ることから、高周波の場合に特に低インダクタンス化及び低抵抗化を向上し得る。」
「【図1】


前記摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲4には、次の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲4技術事項>
「複数の被接触箇所を設けた検査対象に対して多点同時検査を行うために並列に複数配設して用いられる導電性接触子1において、(【0008】)
下側にバーンインボードなどからなる基板2が設けられ、基板2の上面側にはその上面と同一面を形成する配線パターン2aが一体的に設けられ、上記基板2の上面にはホルダとしてのプレート3が載置状態に一体化されており、(【0009】)
プレート3の小径孔部7により、導電性針状体9の頭部9aが同軸的にかつ軸線方向に往復動自在に支持されており、プレート3の大径孔部8により、導電性針状体9の上記頭部9aよりも拡径されたフランジ部9bが同軸的に受容されており、(【0010】、【0011】)
大径孔部8内には、その内径よりも若干小径の圧縮コイルばね10が、フランジ部9bと配線パターン2aとの間にて所定量圧縮された状態で概ね同軸的に受容されており、導電性針状体9が、その頭部9aを外方に突出させる方向に付勢されており、(【0011】)
導電性接触子1を接触させて半導体素子などの被検査体11の検査を行う際には、導電性針状体9の頭部9aを被検査体11の端子11aに接触させて、配線パターン2aとの間で電気信号の授受を行い、(【0012】)
圧縮コイルばね10が圧縮変形により湾曲するため、圧縮コイルばね10の内周部の一部が軸部9dに接触し、圧縮コイルばね10は、待機状態(組み付け状態)で軸部9dと接触する部分から配線パターン2aに当接するコイル端に至るまでを密着巻きされており、(【0013】)
電気信号は、導電性針状体9の軸部9dから圧縮コイルばね10の密着巻き部10aを軸線方向に流れ、配線パターン2aに達し、圧縮コイルばね10の密着巻き部10aでは、電流はコイル状に流れずに、軸線方向に流れ得ることから、高周波の場合に特に低インダクタンス化及び低抵抗化を向上し得ること。(【0014】)」

イ 甲5
甲5(特開平10−239349号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲5には、以下の記載がある。

「【0007】図1は、本発明が適用された導電性接触子1の模式的縦断面図であり、通常は複数の被接触箇所を設けられている検査対象に対して多点同時検査を行うことから、導電性接触子1を並列に複数配設して用いる。なお、単独として用いるものに適用しても良い。
【0008】本導電性接触子1は、例えば絶縁性支持基板2にその厚さ方向に貫通する支持孔3を設けてホルダを形成し、その支持孔3内に導電性針状体4を同軸的に受容し、その導電性針状体4を圧縮コイルばね5により支持孔3から外方に突出させる方向に弾発付勢するようにして構成されている。支持基板2の図における上面には、電気信号を伝達するための信号授受手段を構成する中継基板6が積層状態に固着されており、その中継基板6内には、その厚さ方向に電気信号を通すための導電路6aが一体的に設けられている。」
「【0013】また、圧縮コイルばね5には、導電性針状体4の没入方向側である中継基板6側に、自然状態で密着巻きにした密着巻き部5aが設けられている。その密着巻き部5aは、軸部4cの図の上側である延出方向端部に、図1の待機状態で軸線方向について若干重なり合う所まで設けられている。このようにして形成された圧縮コイルばね5は、その一方のコイル端部(図の下側)を導電性針状体4の軸部4cの大径部4b近傍部分に固設され、他方の密着巻き部5aのコイル端(図の上側)を、中継基板6の導電路6aの支持孔3内に臨む部分に設けた凹設部内に没入させてその底面に衝当させている。」
「【0016】このようにして構成された導電性接触子1により検査を行う場合には、支持基板2を被検査体7側に下げて、図2に示されるように、頭部4aの先鋭端をパッド7aに衝当させ、かつ圧縮コイルばね5を圧縮変形させて、パッド7a表面の酸化膜を突き破ることができる程度の荷重をもって導電性針状体4をパッド7aに接触させる。
【0017】検査状態における電気信号は、図2の矢印Iに示されるように、パッド7aから導電性針状体4を通り、圧縮コイルばね5を介して導電路6aに伝達される。このとき、圧縮コイルばね5の内径が軸部4cより若干拡径されていることから、圧縮変形により圧縮コイルばね5は支持孔3内にて湾曲状に変形して蛇行するようになり、密着巻き部5aの内周部が軸部4cの外周面に接触する部分が生じる。
【0018】したがって、導電性針状体4から圧縮コイルばね5に伝達される電気信号は、上記したように密着巻き部5aの接触部になり得ると共に、密着巻き部5aでは図2に示されるように圧縮コイルばね5の軸線方向に沿う直線的に電気信号が流れ得ることから、祖巻き部にコイル状に電気信号が流れることによるインダクタンス及び抵抗の増大が生じない。」
「【0024】この図5の例では、圧縮コイルばね5の一方のコイル端部に前記図示例と同様の形状の導電性針状体4が結合されていると共に、他方のコイル端部にも同軸的に対をなすように同一形状であって良いもう1つの導電性針状体4が結合されている。各導電性針状体4は、各頭部4aを互いに相反する向きに突出させるように設けられている。ホルダとして、圧縮コイルばね5を受容しかつ両導電性針状体4を支持するための支持基板は、2枚の基板要素2aを重ね合わせて形成されている。」
「【0029】また、圧縮コイルばね5は、軸部4cを外囲する部分を粗巻きにされているが、両導電性針状体4の両者間の部分を密着巻きにされている。その密着巻きされてなる中間密着巻き部5bの範囲は、前記図示例と同様に、待機状態(導電性針状体4を検査対象に当接させていない状態)で各導電性針状体4の軸部4cに接触し得る長さである。なお、圧縮コイルばね5が圧縮変形されることにより、全体的には湾曲状態になることから、中間部に設けられている中間密着巻き部5bが軸部4cに接触することになる。
【0030】図5のものでは、図における下側にバーンインボードなどからなる基板8が設けられており、その上面と同一面を形成するように設けられた配線パターン8aに一方の導電性接触子4を当接させた状態が示されているが、検査時には、図における上側に示されている被検査体9を相対的に近付けて、他方(図における上側)の導電性接触子4を被検査体9の検査パッド9aに弾発的に衝当させる。その検査状態では、両導電性接触子4共、図5の下側の導電性接触子4の状態になる。
【0031】したがって、検査時の電気信号の導通経路は、図5の実線Iの矢印に示されるようになり、検査パッド9aから上側の導電性接触子4を通り、その軸部4cから中間密着巻き部5bを介して下側の導電性接触子4の軸部4cに伝達され、下側の導電性接触子4を通って配線パターン8aに至る。この導通経路にあっては、唯一圧縮コイルばね5を通る場合でもその密着巻き部5bを通り、前記図示例と同様に、圧縮コイルばね5の軸線方向に沿う直線的に電気信号が流れ得ることから、祖巻き部にコイル状に高周波信号が流れることによるインダクタンス及び抵抗の増大が生じないため、低インダクタンス化及び低抵抗化を向上し得る。」
「【図1】


「【図2】


「【図5】



前記摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲5には、次の技術事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲5技術事項>
「複数の被接触箇所を設けた検査対象に対して多点同時検査を行うために並列に複数配設して用いられる導電性接触子1において、(【0007】)
導電性接触子1は、例えば絶縁性支持基板2にその厚さ方向に貫通する支持孔3を設けてホルダを形成し、その支持孔3内に導電性針状体4を同軸的に受容し、その導電性針状体4を圧縮コイルばね5により支持孔3から外方に突出させる方向に弾発付勢するようにして構成されており、支持基板2の上面には、電気信号を伝達するための信号授受手段を構成する中継基板6が積層状態に固着されており、その中継基板6内には、その厚さ方向に電気信号を通すための導電路6aが一体的に設けられており、(【0008】)
圧縮コイルばね5には、導電性針状体4の没入方向側である中継基板6側に、自然状態で密着巻きにした密着巻き部5aが設けられており、その密着巻き部5aは、軸部4cの延出方向端部に、待機状態で軸線方向について若干重なり合う所まで設けられており、圧縮コイルばね5は、その一方のコイル端部を導電性針状体4の軸部4cの大径部4b近傍部分に固設され、他方の密着巻き部5aのコイル端を、中継基板6の導電路6aの支持孔3内に臨む部分に設けた凹設部内に没入させてその底面に衝当させており、(【0013】)
導電性接触子1により検査を行う場合には、支持基板2を被検査体7側に下げて、頭部4aの先鋭端をパッド7aに衝当させ、かつ圧縮コイルばね5を圧縮変形させて、パッド7a表面の酸化膜を突き破ることができる程度の荷重をもって導電性針状体4をパッド7aに接触させ、(【0016】)
検査状態における電気信号は、パッド7aから導電性針状体4を通り、圧縮コイルばね5を介して導電路6aに伝達され、圧縮コイルばね5の内径が軸部4cより若干拡径されていることから、圧縮変形により圧縮コイルばね5は支持孔3内にて湾曲状に変形して蛇行するようになり、密着巻き部5aの内周部が軸部4cの外周面に接触する部分が生じ、(【0017】)
密着巻き部5aでは圧縮コイルばね5の軸線方向に沿う直線的に電気信号が流れ得ることから、祖巻き部にコイル状に電気信号が流れることによるインダクタンス及び抵抗の増大が生じないこと。(【0018】)
また、圧縮コイルばね5の一方のコイル端部に導電性針状体4が結合されていると共に、他方のコイル端部にも同軸的に対をなすように同一形状であって良いもう1つの導電性針状体4が結合されている場合には、圧縮コイルばね5は、軸部4cを外囲する部分を粗巻きにされているが、両導電性針状体4の両者間の部分を密着巻きにされており、その密着巻きされてなる中間密着巻き部5bの範囲は、待機状態(導電性針状体4を検査対象に当接させていない状態)で各導電性針状体4の軸部4cに接触し得る長さであり、圧縮コイルばね5が圧縮変形されることにより、全体的には湾曲状態になることから、中間部に設けられている中間密着巻き部5bが軸部4cに接触することになり、(【0024】、【0029】)
検査時の電気信号の導通経路は、検査パッド9aから上側の導電性接触子4を通り、その軸部4cから中間密着巻き部5bを介して下側の導電性接触子4の軸部4cに伝達され、下側の導電性接触子4を通って配線パターン8aに至るものであり、この導通経路にあっては、唯一圧縮コイルばね5を通る場合でもその密着巻き部5bを通り、圧縮コイルばね5の軸線方向に沿う直線的に電気信号が流れ得ることから、祖巻き部にコイル状に高周波信号が流れることによるインダクタンス及び抵抗の増大が生じないため、低インダクタンス化及び低抵抗化を向上し得ること。(【0031】)」

ウ 甲6
甲6(特開平7−22103号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲6には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明はLGAICパッケージやBGAICパッケージ等のリードレス形ICパッケージとの接触に適したコイル形接触子と、この接触子を用いたコネクタに関する。」
「【0018】図2、図3はこの発明に係るコイル形接触子1の一実施例を示しており、図2はその正面図、図3は同側面図を示す。このコイル形接触子1は導電性コイルバネ1Aから成り、各ピッチ輪2をその直径線上の一端が下位に、同他端が上位となるように斜めに配向し、この各ピッチ輪2の傾斜角度を等しくし各ピッチ輪2の中心を通る軸線Xが互いに並行し斜行するようにしている。理想的には軸線Xを相互に平行とする。
【0019】上記コイルバネ1Aの上端と下端を電気部品に対する受圧点P1、P2とし、上記各ピッチ輪2はその一部分が相互に短絡するように密着して配置するか、又は圧縮の初期において短絡するように近接して配置する。6は各ピッチ輪2間における短絡部を示す。
【0020】上記コイル形接触子1を形成する各ピッチ輪2は接触子としての圧縮方向の軸線Z上に上記各ピッチ輪2の中心を有する。即ち各ピッチ輪2はその長さ方向の側面の通り面Z1が互いに一致するように整列されている。従って通り面Z1と軸線Zとは互いに平行である。上記コイル形接触子1は正コイル状接触子を想定し比較した場合、図3に示すようにその斜行した側の巾Wが大巾に狭小にされ、更にその高さ(長さ)Hを大巾に縮小する。
【0021】上記接触子1の製作方法は、例えば銅合金等の線材を正コイル状に密着巻きにしたものを準備し、このコイル状材をその直径線の一端に下方向の押し潰し力を与え相対的に同他端に上方向の押し潰し力を与え永久変形させて上記形状にする。このようにして作った接触子1の各ピッチ輪2はその軸線Xが互いに並行して並び、且つ互いに密着した状態で伸縮する。」
「【0034】
【発明の効果】この発明によればコイルバネの特性である垂直方向への圧縮性が良好であり且つ軽減された力で圧縮できると言う利点を享受しながら、その巾(太さ)を狭小にすることができると共に、その高さ(長さ)を大巾に縮小でき接触子の高密度配置、コネクタの小型化に寄与することができる。
【0035】又この発明に係るコイル形接触子は通常の正コイルバネと異なり各ピッチ輪を密着しつつ(短絡しつつ)圧縮することが可能であり、各ピッチ輪の短絡によりコイルでありながらその実質的な導電路長を極端に短縮でき、これによって正コイルバネの欠点であるインダクタンス(L成分)を殆ど無視できる程度に削減でき、コイルバネの長所を生かし、なお且つその欠点を解消したリードレス形ICパッケージの接触子として適性を富有するものを提供できる。
【0036】又絶縁体により拘束された中で接触子は適性に圧縮され、圧縮すると連続したピッチ輪は相互により強い力でこすれ合って短絡部にワイピング動作を惹起し、上記導電路を健全に形成できる。
【0037】この発明によればコイルバネを使用した平面実装形のコネクタを有効に実用に供することができる。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】


上記摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲6には、次の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲6技術事項>
「LGAICパッケージやBGAICパッケージ等のリードレス形ICパッケージとの接触に適したコイル形接触子を用いたコネクタにおいて、(【0001】)
コイル形接触子1は導電性コイルバネ1Aから成り、各ピッチ輪2をその直径線上の一端が下位に、同他端が上位となるように斜めに配向し、この各ピッチ輪2の傾斜角度を等しくし各ピッチ輪2の中心を通る軸線Xが互いに並行し斜行するようにしており、(【0018】)
コイルバネ1Aの上端と下端を電気部品に対する受圧点P1、P2とし、各ピッチ輪2はその一部分が相互に短絡するように密着して配置されるか、又は圧縮の初期において短絡するように近接して配置され、(【0019】)
接触子1は、例えば銅合金等の線材を正コイル状に密着巻きにしたものを準備し、このコイル状材をその直径線の一端に下方向の押し潰し力を与え相対的に同他端に上方向の押し潰し力を与え永久変形させて上記形状にして作ったものであり、接触子1の各ピッチ輪2はその軸線Xが互いに並行して並び、且つ互いに密着した状態で伸縮し、(【0021】)
各ピッチ輪を密着しつつ(短絡しつつ)圧縮することが可能であり、各ピッチ輪の短絡によりコイルでありながらその実質的な導電路長を極端に短縮でき、これによって正コイルバネの欠点であるインダクタンス(L成分)を殆ど無視できる程度に削減できること。(【0035】)」

エ 甲7
甲7(特開平10−92540号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲7には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はコネクタに関し、特にプリント基板やランドグリッドパッケージ型のLSI等の電子部品相互の電気的接続を行うためのコネクタに関する。」
「【0019】第1の実施形態のコネクタは、図2に示すように、方形のインシュレータ1と、インシュレータ1の貫通孔2に収容されるコンタクトとしてのコイルばね3(図1参照)と、インシュレータ1を支持するフレーム4と、フレーム4の上面側に配置されるカバー5と、フレーム4の下面側に配置される方形のプレート6と、カバー5、フレーム4、プリント基板(電子部品)9及びプレート6を部品接続方向Dに結合するねじ7と、フレーム4、プリント基板9及びプレート6を部品接続方向Dに結合するスプリングピン11とを備えている。
【0020】図1はこの発明の第1の実施形態に係るコネクタのコンタクトと貫通孔との関係を説明するための縦断面図であって、図1(a)は電子部品接続前の状態を示す図、図1(b)は電子部品接続後の状態を示す図である。
【0021】インシュレータ1には、電子部品のランド8b,9bに対応する複数の貫通孔2が形成されている。貫通孔2の中心線C1は電子部品接続方向Dに対して傾斜している。貫通孔2にはコイルばね3が収容され、貫通孔2の内周面にはコイルばね3を支持する2つの支持用突起1aが設けられている。LSI(電子部品)8とプリント基板9とを接続する前、コイルばね3のつる巻線部3a,3a間には、中心線C2方向に微小隙間が存在する。また、インシュレータ1の外周面には突起1b(図4参照)が設けられている。」
「【0026】次に、この第1の実施形態のコネクタの使用方法について説明する。
【0027】組付けの前に、予めインシュレータ1の全ての貫通孔2にコイルばね3を挿入する。貫通孔2内のコイルばね3は2つの支持用突起1aによって支持されるので、コイルばね3は貫通孔2から落下しない。
【0028】始めに、インシュレータ1をフレーム4に組み付ける。このとき貫通孔2の中心線C1とコイルばね3の中心線C2とは一致している(図1(a)参照)。
【0029】次に、図3に示すように、フレーム4、プリント基板9、絶縁フィルム10及びプレート6を、スプリングピン11で結合させる。すなわち、プレート6の上に絶縁フィルム10、プリント基板9、フレーム4を順次重ね、これらの各孔4d,9d,10b,6bを一致させ、スプリングピン11を圧入する。なお、プリント基板9の孔9d及び絶縁フィルム10の孔10bは、スプリングピン11の外径より若干大きめの径とされ、スプリングピン11は、フレーム4とプレート6に圧入される。その結果、フレーム4、プリント基板9、絶縁フィルム10及びプレート6が部品接続方向Dに一体的に結合される。このときフレーム4、プリント基板9及び絶縁フィルム10の各孔4c,9c,10a及びプレート6のねじ孔6aは部品接続方向Dに一致する。
【0030】その後、図5に示すように、フレーム4の内側にLSI8を挿入する。
【0031】最後に、カバー5を被せ、カバー本体5aの溝5cに挿入されたねじ7を、フレーム4、プリント基板9及び絶縁フィルム10の各孔4c,9c,10aを通じてプレート6のねじ孔6aに挿入し、締め込む(図6参照)。
【0032】ねじ7を締め付けると、カバー5のばね部5bがLSI8の上面8aを下方へ押圧する。このとき、コイルばね3に、コイルばね3の中心線C2に対して所定角度(電子部品接続方向Dと貫通孔2の中心線C1とのなす角度)傾いた方向からの力(図1(b)の太い矢印)が作用する。その結果、コイルばね3の中心線C2が図1(b)示すように部品接続方向Dに対する貫通孔2の中心線C1の傾き方向と逆の方向へ傾斜するように、コイルばね3が弾性変形する。この変形の態様は図1(b)に示すもの以外の態様もあり得るが、いずれの変形の態様も、コイルばね3の上端部の外周面とコイルばね3の下端部の外周面とが貫通孔2の内周面にそれぞれ押し付けられるように変形するものである。
【0033】上述の組付けの過程を経て、弾性変形状態のコイルばね3の上端がLSI8のランド8bに接触し、同コイルばね3の下端がプリント基板9のランド9bに接触し、LSI8とプリント基板9とがコイルばね3を通じて電気的に接続される。
【0034】この第1の実施形態に係るコネクタによれば、コンタクトとしてコイルばね3が採用され、貫通孔2の中心線C1が部品接続方向Dに対して傾斜しており、電子部品接続時、コイルばね3の中心線C2が貫通孔2の中心線C1に対して傾き、コイルばね3の弾性力が働いて電子部品の寸法誤差が吸収され、接触安定性が得られるとともに、互いに隣接するつる巻線部3aの中心軸C2方向の隙間がゼロになるので、電気的な導通の経路が直線的で短くなり、インダクタンスが小さくなる。また、電気長が短くなるため、システムの高速化にも貢献することができる。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】


「【図4】


「【図5】


「【図6】



上記摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲7には、次の技術事項(以下「甲7技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲7技術事項>
「プリント基板やランドグリッドパッケージ型のLSI等の電子部品相互の電気的接続を行うためのコネクタにおいて、(【0001】)
コネクタは、方形のインシュレータ1と、インシュレータ1の貫通孔2に収容されるコンタクトとしてのコイルばね3と、インシュレータ1を支持するフレーム4と、フレーム4の上面側に配置されるカバー5と、フレーム4の下面側に配置される方形のプレート6と、カバー5、フレーム4、プリント基板(電子部品)9及びプレート6を部品接続方向Dに結合するねじ7と、フレーム4、プリント基板9及びプレート6を部品接続方向Dに結合するスプリングピン11を備えており、(【0019】)
インシュレータ1には、電子部品のランド8b,9bに対応する複数の貫通孔2が形成されており、貫通孔2の中心線C1は電子部品接続方向Dに対して傾斜しており、貫通孔2にはコイルばね3が収容され、貫通孔2の内周面にはコイルばね3を支持する2つの支持用突起1aが設けられており、LSI(電子部品)8とプリント基板9を接続する前、コイルばね3のつる巻線部3a,3a間には中心線C2方向に微小隙間が存在し、(【0021】)
予めインシュレータ1の全ての貫通孔2にコイルばね3を挿入してインシュレータ1をフレーム4に組み付け、フレーム4、プリント基板9、絶縁フィルム10及びプレート6をスプリングピン11で結合させ、フレーム4の内側にLSI8を挿入して、カバー5を被せ、(【0027】〜【0031】)
ねじ7を締め付けると、カバー5のばね部5bがLSI8の上面8aを下方へ押圧し、コイルばね3に、コイルばね3の中心線C2に対して所定角度(電子部品接続方向Dと貫通孔2の中心線C1とのなす角度)傾いた方向からの力が作用する結果、コイルばね3の中心線C2が部品接続方向Dに対する貫通孔2の中心線C1の傾き方向と逆の方向へ傾斜するように、コイルばね3が弾性変形し、(【0032】)
弾性変形状態のコイルばね3の上端がLSI8のランド8bに接触し、コイルばね3の下端がプリント基板9のランド9bに接触し、LSI8とプリント基板9がコイルばね3を通じて電気的に接続され、(【0033】)
電子部品接続時、コイルばね3の中心線C2が貫通孔2の中心線C1に対して傾き、コイルばね3の弾性力が働いて電子部品の寸法誤差が吸収され、接触安定性が得られるとともに、互いに隣接するつる巻線部3aの中心軸C2方向の隙間がゼロになるので、電気的な導通の経路が直線的で短くなり、インダクタンスが小さくなること。(【0034】)」

(3) 甲2発明に基づく本件発明1についての進歩性の検討
ア 請求項1の記述に沿った本件発明1と甲2発明の対比
前記1の用語の解釈の検討結果を利用しつつ、請求項1の記述に沿って、本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア) 甲2発明の「壁部14」は、「絶縁体で形成」されているから、本件発明1の「絶縁体」に相当する。
また、甲2発明の「壁部14」に「開設され」た「設置孔141」と「貫通孔142」は、本件発明1の「支持孔」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、「支持孔が形成された絶縁体」を備える点で一致する。

(イ)a 甲2発明の「コネクタ・ピン」は、「固定側電極11と可動電極であるプランジャ10とを備えたコネクタ・ピンであって」、「固定側電極11に棒状の接点接触部である固定接点接触部112を突設し、可動電極であるプランジャ10に接点接触部が貫通して接触する内部接触子12を設けた」ものであるから、本件発明1の「導電アッセンブリ」に相当する。
b 甲2発明の「コネクタ・ピン」は、「設置孔141内にプランジャ10のスライダ部102を摺動自在に収納し、可動接点頭部101を貫通孔142内に貫通させるとともに、設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定し、スライダ部102と固定電極基部111との間に付勢バネ13を設置してプランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させた」ものであるから、甲2発明の「コネクタ・ピン」は、本件発明1の「前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性」であることに相当する構成を備えている。
c そうすると、本件発明1と甲2発明は、「前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリ」を備える点で一致する。

(ウ)a 甲2発明の「可動電極であるプランジャ10」は、「可動接点頭部101」を備えており、「携帯電話の本体と電源との接続」において、「電源」側の接点と接触することは明らかであるから、対象に接触されるプランジャであるといえる。
b また、甲2発明の「プランジャ10」は、「設置孔141内にプランジャ10のスライダ部102を摺動自在に収納し、可動接点頭部101を貫通孔142内に貫通させる」から、「壁部14」の「貫通孔142」の一端から露出可能であるといえる。
c そうすると、本件発明1と甲2発明は、「前記導電アッセンブリ」が「対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャ」を備える点で共通する。

(エ)a 甲2発明の「固定側電極11」は、「固定接点接触部112と反対側に突設され」た「固定電極113」を備えており、「携帯電話の本体と電源との接続」において、「携帯電話」の内部導電体と接触することは明らかであるところ、この「携帯電話」の内部導電体は、電気的接続のための導電体であるといえる。
b ここで、「リード導体」の意味は、「電気的接続のための導電体」であるから(前記2(2)ア(エ)参照)、甲2発明において、「携帯電話」の内部導電体もリード導体であるといえる。したがって、甲2発明の「固定側電極11」は、リード導体に接触する導電部材であるといえる。
c よって、本件発明1と甲2発明は、「前記導電アッセンブリ」が「リード導体に接触する導電部材」を備える点で共通する。

(オ)a 甲2発明の「付勢バネ13」は、「プランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させ[る]」から、本件発明1の「第1のプランジャ」を「付勢するコイルばね」に相当する。
b また、甲2発明の「付勢バネ13」は、「スライダ部102と固定電極基部111との間」に「設置」されているから、「固定側電極11」に対して弾性力を作用しているといえる。
c そうすると、本件発明1と甲2発明は、「前記導電アッセンブリは前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に前記第1のプランジャを付勢するコイルばね」を備える点で共通する。

(カ) 甲2発明の「コネクタ・ピン」は「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる」ものであるから、「可動電極であるプランジャ10」、固定側電極11に突設された棒状の接点接触部である固定接点接触部112に接触する「内部接触子12」及び「固定側電極11」は、携帯電話の本体と電源の電気的な接続のために有効な程度の電流が流れる電流の通り道を構成しているといえる。
よって、本件発明1と甲2発明は、「前記第1プランジャと前記導電部材により構成される導通経路」を有する点で共通する。

(キ) 「マイクロコンタクタプローブ」の発明である本件発明1と「コネクタ・ピン」の発明である甲2発明は、「コンタクト部材」の発明である点で共通する。

イ 一致点及び相違点の認定
前記アにおいて対比した結果をまとめると、本件発明1と甲2発明は、次の一致点2Aの点で一致し、以下の相違点2A−1〜2A−4の点で相違する。
(ア) 一致点
<一致点2A>
「支持孔が形成された絶縁体と、
前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
前記導電アッセンブリは、
対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触する導電部材と、
前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に前記第1のプランジャを付勢するコイルばねと、を備え、
前記第1のプランジャ及び前記導電部材により構成される導通経路を有する、
コンタクト部材。」

(イ) 相違点
<相違点2A−1>
本件発明1は「マイクロコンタクタプローブ」の発明であって、「第1のプランジャ」が「検査対象に接触されるプランジャ」である、すなわち、「検査対象に接触されるのに特に適したプランジャ」であるのに対して、甲2発明は「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピン」の発明であって、マイクロコンタクタプローブの発明ではなく、「第1のプランジャ(プランジャ10)」が「検査対象に接触されるプランジャ(検査対象に接触されるのに特に適したプランジャ)」であることの特定はない点。

<相違点2A−2>
「リード導体に接触する導電部材」が、本件発明1では、「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」であるのに対して、甲2発明では、「固定側電極11」であり、「設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定」されたものであるから、プランジャであるとはいえない点。

<相違点2A−3>
本件発明1では、「コイルばね」が「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢する」ものであるのに対して、甲2発明では、「付勢バネ13」が「プランジャ10」を付勢しているものの、「固定側電極11」は「設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定」されたものであり可動部材ではないため、「付勢バネ13」が「固定側電極11」を付勢している(可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態となること)とはいえず、「固定側電極11」(固定部材)に対して弾性力を作用するのみである点。
なお、相違点2A−3は、本件発明1の「第2のプランジャ」及び甲2発明の「固定側電極11」に係るものであるため、相違点2A−2が存在することにより必然的に生じる、相違点2A−2に付随する相違点であるということができる。

<相違点2A−4>
本件発明1では、「コイルばね」が「摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され」、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対して、甲2発明では、「付勢バネ13」がそのような密巻き部を有しておらず、「第1のプランジャ及び導電部材と密巻き部とにより構成される導通経路」を備えていない点。

ウ 判断
(ア) 相違点2A−1について
a 甲2発明は「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピン」の発明であって、「携帯電話の本体」と「電源」の間に、検査装置と検査対象という関係が成立していないから、甲2発明の「コネクタ・ピン」は、プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等の電気的検査を行うための電気プローブであるとはいえない(本件特許の明細書の段落【0001】〜【0002】を参照)。
b そして、「携帯電話の本体」にある「コネクタピン」と「プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等の電気的検査を行うための電気プローブ」は、前者が電源からの電力供給のためのものであるのに対して、後者が電気的な検査のためのものであるから、機能・目的が全く異なるものであり、使い方も全く異なるものであることに鑑みると、甲2発明の「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピン」を、プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等の電気的検査を行うための電気プローブとして用いることは、当業者が通常試みることではないというべきであり、甲4技術事項又は甲5技術事項に「複数の被接触箇所を設けた検査対象に対して多点同時検査を行うために並列に複数配設して用いられる導電性接触子1」に係る技術事項が開示されていても、甲2発明を出発点としてマイクロコンタクタプローブとすることには、契機・動機がそもそも存在しないというべきである。
c また、甲6技術事項は「LGAICパッケージやBGAICパッケージ等のリードレス形ICパッケージとの接触に適したコイル形接触子を用いたコネクタ」に係るものであり、甲7技術事項は「プリント基板やランドグリッドパッケージ型のLSI等の電子部品相互の電気的接続を行うためのコネクタ」に係るものであるから、「コネクタ」に関する技術であるという点で甲2発明と技術分野が共通するといえるものの、甲2発明、甲6技術事項及び甲7技術事項は、いずれも電気電子部品の接続に関するものであって、接続される対象物の間に検査装置と検査対象という関係が成立していないから、甲2発明に甲6技術事項又は甲7技術事項をいかに適用してみても、プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等の電気的検査を行うためのマイクロコンタクタプローブとして用いることを導くことはできない。
d よって、前記相違点2A−1に係る本件発明1の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものであるとはいえない。

(イ) 相違点2A−2について
a 甲2発明では、「固定側電極11」の「固定電極基部111」は、「電気機器の機体(例えば、携帯電話機本体)の壁部14」の「設置孔141の開口端141A側内部に」「嵌合固定」されたものであり、このような構成により、特別のケーシングを必要とすることなく、携帯電話機本体機体の壁部に直接コネクタ・ピンを設置することができ、構造が簡単になり、コストの低減を図ることができるものである(甲2の【0018】参照)。そうすると、当該固定状態を解除して「電極11」を可動なものに変更することは、壁部に直接コネクタ・ピンを設置するという目的に反するものであるから、甲2発明の「固定側電極11」を甲4技術事項又は甲5技術事項に開示された「導電性針状体」(「プランジャ」に相当するもの)に置き換えるようとする契機・動機は見出せない。
b また、甲6技術事項及び甲7技術事項は、いずれもコイルばねに関する技術を開示するのみであって、プランジャに関する技術を何ら開示していないから、甲2発明に甲6技術事項又は甲7技術事項を適用しても、「固定側電極11」をプランジャに置き換えることを導くことはできない。
c よって、上記相違点2A−2に係る本件発明1の構成は、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ) 相違点2A−3について
a 上記(イ)において説示したとおり、甲2発明の「固定側電極11」の固定状態を解除して可動なものに変更することに契機・動機は見出せないから、甲2発明に甲4技術事項又は甲5技術事項を適用して、「付勢バネ13」が「電極11」を付勢する(可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態となること)ように構成しようとする契機・動機は見出せない。
b また、甲6技術事項及び甲7技術事項は、コイルばねに関する技術を開示するものの、プランジャを付勢する技術を何ら開示していないから、甲2発明に甲6技術事項又は甲7技術事項をいかに適用しても、「付勢バネ13」が「固定側電極11」を付勢することを導くことはできない。
c よって、上記相違点2A−3に係る本件発明1の構成は、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。

(エ) 相違点2A−4について
a 甲2の【0002】には、従来技術について、「電流の経路は、電極b、ケーシングaの内周面、スライダdの外周面、可動接点頭部eで形成されるものと、電極b、ケーシングaの内周面、付勢バネf、スライダdの外周面、可動接点頭部eで形成されるものとがある。」と説明され、【0003】において、前者の通電経路が遮断されると、「ケーシングaとスライダdとの間に付勢バネfが介在した通電経路のみが存在することになり、非常に抵抗の大きい付勢バネfを介して流れる電流が正常時の略2%程度に低下し、電源オフ状態になる恐れがあった。」との問題点が指摘され、【0004】において、「発明の目的は、常時十分な電流の通電を確保しながら、軸方向の押圧力を吸収することを可能にするとともに、外形寸法の小型化を可能とするコネクタ・ピンを提供することである。」と記載されているから、甲2発明は上記従来技術を前提としているとも考えられる。
b すなわち、甲2発明においても、従来技術と同様に、「付勢バネ13」も導通経路として利用して、主たる導通経路に対して2%程度の電流が流れることを明確に排除しているとはいえないものの、いずれにしても甲2発明は、「付勢バネ13」の導通経路の導通性を改善することなく、常時十分な電流の通電を確保したとしているのであり、甲2文献に基づいては、「付勢バネ13」を含む導通経路の導通性をより高めるという動機は認識できない。
c(a) 次に、仮に、甲2発明において「付勢バネ13」が構成する導通経路の導通性をより高めるという動機を当業者が持つことができたとした場合について検討する。
(b) 甲4及び甲5に記載された技術は、いずれも電気的な検査を行うものであるのに対して、甲2発明は携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられるものであるから、導通経路にばねが同様に含まれているとしても、導通経路に流れる電流が有効なものであるとする程度(例えば、電流の振幅、パルス幅、周波数等を指標として判断した電流の有効性)は、検査目的であるか接続目的であるかによって異なるものである。
また、甲4及び甲5に記載された技術は、密巻き部と導電性針状体の軸部の「接触」を前提とした密巻き部のコイルの軸方向の導通性を利用しているのに対して、前記c(a)において甲2発明で認識した課題は、コイルの周方向に沿った導通性を向上するというものであり、両者の導通性の電流方向は、異なるものである。
さらに、甲2発明の「コネクタ・ピン」は、「固定側電極11に棒状の接点接触部である固定接点接触部112を突設し、可動電極であるプランジャ10に接点接触部が貫通して接触する内部接触子12を設けた」ものであるから、甲2発明における導通性は、主として「内部接触子12」を介して実現されるものであり、「付勢バネ13」を介した導通は副次的なものにすぎないというべきであって、甲4及び甲5に記載された技術とは、前提が異なるものである。
以上の点を踏まえると、甲2発明における導通経路の導通性と、甲4及び甲5に記載された技術の導通経路の導通性は、そもそも導通の目的、電流の方向、並びに、接触の構成及び導通性の主副という前提が異なるというべきであるから、甲2発明において「付勢バネ13」が構成する導通経路の導通性をより高めるという課題を解決するために、甲4及び甲5に記載された技術を参照しないというべきである。
(c) 甲6及び甲7に記載された技術は、コイル型接触子又はコイルばねだけを用いて導通するものであり、「固定側電極11」と「可動電極であるプランジャ10」と「付勢バネ13」を構成要素とする甲2発明は、それらと前提が異なるのであるから、単純に適用することはできないものである。
(d) 以上のとおりであるから、甲2発明の「付勢バネ13」に甲4〜7技術事項を適用して密巻き部を設け、当該密巻き部が「摺動導通部と固定導通部とを有する」ように構成し、「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定される」ように構成し、「導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在」するように構成することは、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。
d よって、上記相違点2A−4に係る本件発明1の構成は、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。

エ 小括
以上検討のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明及び甲4〜甲7技術事項に基づいては、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4) 甲2発明に基づく本件発明21についての進歩性の検討
ア 一致点及び相違点の認定
本件発明1と甲2発明の対比した結果を踏まえつつ、本件発明21と甲2発明を対比すると、両者は、次の一致点2Bの点で一致し、以下の相違点2B−1〜2B−4の点において相違する。
<一致点2B>
「絶縁体に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリであって、
対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触される導電部材と、
前記導電部材に弾性力を作用し、前記弾性力が作用する方向とは逆方向に第1のプランジャを付勢するコイルばねと、を備え、
前記第1のプランジャ及び前記導電部材により構成される導通経路を有する、
導電アッセンブリ。」

<相違点2B−1>
「第1のプランジャ」が、本件発明21では、「検査対象に接触される」「プランジャ」である、すなわち、「検査対象に接触されるのに特に適したプランジャ」であるのに対して(前記1(2)参照)、甲2発明では、「検査対象に接触されるのに特に適したプランジャ」であることの特定はない点。

<相違点2B−2>
「リード導体に接触される導電部材」が、本件発明21では、「リード導体に接触される、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」であるのに対して、甲2発明では、「固定側電極11」であり、「設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定」されたものであるから、プランジャであるとはいえない点。
相違点2B−2は相違点2A−2と同一である。

<相違点2B−3>
本件発明21では、「コイルばね」が「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢する」ものであるのに対して、甲2発明では、「付勢バネ13」が「プランジャ10」を付勢しているものの、「固定側電極11」は「設置孔141の開口端141A側内部に固定電極基部111を嵌合固定」されたものであり可動部材ではないため、「付勢バネ13」が「固定側電極11」を付勢している(可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態となること)とはいえず、「固定側電極11」(固定部材)に対して弾性力を作用するのみである点。
なお、相違点2B−3は相違点2A−3と同一である。また、相違点2B−3は、本件発明21の「第2のプランジャ」及び甲2発明の「固定側電極11」に係るものであるため、相違点2B−2が存在することにより必然的に生じる、相違点2B−2に付随する相違点であるということができる。

<相違点2B−4>
本件発明21では、「コイルばね」が「摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され」、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対して、甲2発明では、「付勢バネ13」がそのような密巻き部を有しておらず、「第1のプランジャ及び導電部材と密巻き部とにより構成される導通経路」を備えていない点。
なお、相違点2B−4は相違点2A−4と同一である。

イ 判断
上記相違点2B−2〜2B−4については、前記相違点2A−2〜2A−4について検討した内容が同様に当てはまるから(前記(3)ウ参照)、上記相違点2B−2〜2B−4に係る本件発明21の構成は、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明21は、甲2発明及び甲4〜甲7技術事項に基づいては、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(5) 無効理由2に係る請求人の主張について
ア 相違点2A−1に係る請求人の主張について
(ア) 請求人の主張
(請求人陳述要領書20〜21頁の(2−2−6)、請求人上申書(3)の5頁の(5)参照)
甲2発明の「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピン」は本用途の導通用コネクタ・ピンであるとともに検査用でもある。
甲2発明は、明細書段落[0001]に記載されているように、携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピンであり、例えば、携帯電話の電池に充電を行う充電器の接続部である。
ここでいう、充電器は、スマートフォンではなく、一昔前のいわゆるガラパゴス携帯等に用いられる充電スタンドである。
甲2の図6に即していうと、固定側電極11が充電器の電源側であり、プランジャ10は、携帯電話の本体の壁部14に挿入され、その先端が、図示されていない携帯電話の電池に接触し、充電がなされる。
ここで充電器による電池への充電には、充電器が電池の状態をチェックし、過充電を防止することも含まれることから、実質的に電気検査も含まれているといえる。
例えば、甲13に記載されているように、電気検査の一例として電池の充放電があるが、この場合の検査対象は、携帯電話の電池である。
したがって、検査対象である携帯電話の電池にプランジャ10は接触される。

(イ) 請求人の主張に対する合議体の判断
a 請求人は、甲2発明の固定側電極11が充電器の電源側のものであると主張しているが、甲2発明の固定側電極11の固定電極基部111は、携帯電話機本体の壁部14の設置孔141の開口端141A側内部に「嵌合固定」されているのであるから(下記の、甲2の図6参照)、請求人の主張は誤認に基づくものであり、採用できない。
「甲2の【図6】


b また、請求人は、甲2発明の「小型のコネクタ・ピン」は、例えば、携帯電話の電池に充電を行う充電器の接続部であると主張しているが、甲2発明は「携帯電話の本体と電源との接続部等に用いられる小型のコネクタ・ピン」であるから、電源(電池)を除いた携帯電話の本体と、当該本体に接続される電源(電池)との間の接続に用いられるものであって、携帯電話の電源(電池)と、当該電源(電池)に充電を行う充電器との間の接続に用いられるものではない。したがって、請求人の前記主張は、採用できない。
c 甲13には、電気検査の一例として「電池の充放電」が「検査の対象」であることが記載されているが、この場合の「検査の対象」が、携帯電話の電池であり、かつ、携帯電話の電池と、当該電池に充電を行う充電器との間の接続の検査であることまでは記載されていない。
d 以上のとおりであるから、請求人の前記(ア)の主張を採用することはできない。

イ 相違点2A−2及び相違点2B−2に係る請求人の主張について
請求人は、第1のプランジャに対して相対的に移動する物であれば、固定され動かない物であっても第2のプランジャということができる旨主張しているが(前記1(1)イ参照)、この解釈を採用できないことは、前記1(1)ウにおいて検討したとおりである。
さらに、「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」という語句の解釈について、請求人は合議体とは異なる解釈をしているが(前記1(4)イ(ア)参照)、当該解釈も採用できないことは、前記1(4)イ(イ)において検討したとおりである。
相違点2A−2及び相違点2B−2が存在しない旨の請求人の主張は、これら採用できない解釈に基づくものであるから、失当である。

ウ 相違点2A−3及び相違点2B−3に係る請求人の主張について
請求人は、次の主張をしている。
甲2発明において、「第1のプランジャ」に相当する「プランジャ10」が「コイルバネ」に相当する「付勢バネ13」によって検査対象側に付勢されるということは、作用反作用の法則により、「固定電極側基部111と固定接点接触部112からなる固定側電極11」も、「付勢バネ13」により外方へ付勢されていることになる。よって、甲2発明は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」の構成を備えている。
しかしながら、甲2発明の「付勢バネ13」は、プランジャ10を付勢しているものの、固定側電極11の固定電極基部111は、携帯電話機本体の壁部14の設置孔141の開口端141A側内部に「嵌合固定」されており可動部材ではないため、前記2(4)ア(イ)において検討したのと同様の理由により、付勢バネ13が固定側電極11を「付勢している」(可動部材に対して特定方向に力を作用することにより当該方向に可動部材が押し付けられた状態となること)とはいえず、固定側電極11(固定部材)に対して弾性力を作用するのみである。
したがって、請求人の主張は、失当であり、採用することはできない。

エ 相違点2A−4及び相違点2B−4に係る請求人の主張について
(ア) 請求人の主張
(請求人上申書(3)の5〜6頁の(6)参照)
常時十分な電流の通電を確保することは、甲2発明の課題の一つである(甲2の段落[0004])。そして、十分な電流の通電を確保するにあたっては、コネクタピンにおける付勢バネの抵抗が大きいことが問題である点が、甲2の段落[0003]の「・・・非常に抵抗の大きい付勢バネfを介して流れる電流が正常時の略2%程度に低下し、電源オフ状態になる恐れがあった。」という記載より理解できる。
一方で、甲4の段落[0014]の「圧縮コイルばね10の密着巻き部10aでは、電流はコイル状に流れずに、軸線方向に流れ得ることから、高周波の場合に特に低インダクタンス化及び低抵抗化を向上し得る。」という記載より、コイルばねに密着巻き部を設けることでコイルばねの抵抗を低くすることが可能であると理解できる。
甲4に記載された密着巻き部を有するコイルばね10を用いることでばね部分の抵抗を抑えられるので、上記のような(非常に抵抗の大きい付勢バネfを介して電流が流れる)事態を回避し得る。
よって、甲2に接し、付勢バネの抵抗が大きいことが課題であると認識した当業者が、甲4に接した場合、付勢バネに低抵抗化の効果を有する密着巻き部を設けることは容易に想到し得る。
甲21の図は、請求人側で甲2の図6に基づき、付勢バネに代えて、甲4に記載された密着巻き部を有するコイルばねを適用した例を示しており、図中の青丸で記載した部分が密着巻き部である。この図の例では、コイルばねは、プランジャ10側に摺動導通部を有し、固定側電極11側に固定導通部を有している。密着巻き部をどの場所に設けるかを考えた場合、上述の課題を踏まえれば、当業者であれば、抵抗の大きいコイルばねの粗巻き部が導通経路とならないようにし、抵抗の小さい密着巻き部を導通経路となるようにするはずである。
したがって、当業者が、甲21のように密巻き部を適用することについて、十分な動機付けがある。
<甲21の図>


(イ) 請求人の主張に対する合議体の判断
請求人は、当業者が、甲21のように密巻き部を適用することについて、十分な動機付けがあると主張している。
しかしながら、甲21の図において、付勢バネ13の位置に記載されているのは、伸縮しないか、伸縮しないに等しいものであって、弾性部材としての機能を果たす部分の割合が非常に少ないものである。そもそも甲2発明の付勢バネ13はプランジャ10を貫通孔142側に付勢する目的で設けられるものであるから、そのような目的が達成されなくなるような構造に変更することは、通常採用しない設計変更である。
したがって、請求人の主張は、およそ採用することができないものである。
以上より、甲2発明の「付勢バネ13」に甲4〜7技術事項を適用して「密巻き部」を設けるようにすることは、当業者といえども困難性があるというべきであり、請求人の上記(ア)の主張を採用することはできない。

(6) 無効理由2についての小括
以上検討のとおり、無効理由2に係る請求人の主張は、いずれも、前記(3)イ(イ)の相違点の認定及び前記(3)ウ及び(4)イの判断を左右するものではない。したがって、本件発明1及び本件発明21は、甲2に記載された発明及び甲4〜甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、無効理由2は理由がない。

4 無効理由3(進歩性欠如その2)について
(1) 甲3に記載された事項及び甲3発明の認定
ア 甲3に記載された事項
甲3(特開平4−270967号公報)は、本件特許の最先の優先日(2000年(平成12年)6月16日)より前に頒布された刊行物である。甲3には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が付与した。

(ア) 【0001】〜【0002】
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、圧縮コンタクト装置に関する。
【0002】
【従来の技術】最新の高速度、高密度の回路はしばしば0.050インチ以下の中心間隔の非常に近接した間隔のコンタクトを必要としている。そのような非常に近接した間隔はスプリングバイアスされたプローブ圧縮コンタクトによって得ることができ、それにおいては各コンタクトはスプリングでバイアスされたプローブを有し、その先端は回路板上の導電パッドに圧縮される。米国特許第4,200,351号明細書に示された圧縮コンタクトはスプリングバイアスされたプランジャーが誘電体支持体の表面から突出して回路板上の導電パッドに接触している。」

(イ) 【0007】〜【0014】
「【0007】
【実施例】図1は回路装置10を示しており、それはこの発明の1実施例の圧縮コンタクト装置12を含み、この圧縮コンタクト装置12は1対の回路板4,16のような1対の電気回路を相互接続するために使用することができる。第1の回路板14は他方の回路板16上の対応する導電パッド22と接続される端子または導電パッド20を有している。圧縮コンタクト装置12は、対応する導電パッドの対20,22を接続することのできる多数のコンタクト構造体26を有する。各コンタクト構造体26は誘電体フレーム30内にあり、そのフレームの両側の端面36,38から突出する1対のプローブ32,34を有している。
【0008】図2に示されるように誘電体フレーム30は第1および第2の端壁40,42、およびそれら端壁40,42間に延在する側壁44を有している。フレーム30は端壁の間に多数の空洞46を形成されており、各コンタクト構造体26はそれぞれそれら空洞46の1つ中に配置されている。端壁40,42はそれぞれ多数の孔50,52を有し、プローブ30,32は最初の状態では空洞46から端壁40,42の対応する孔50,52を通ってフレーム30の両端面36,38を越えて突出している。
【0009】各コンタクト構造体の第2のプローブ34は下部または外部部分54とそれから上方に延びているピン部分56とを備えている。下、上等は図示された状態に対して述べられているものであって実際の装置の使用状態における方向を限定するものではない。第1のプローブ32は上部または外部部分60を備え、それは他方のプローブ34のピン部分56を滑動するように受けるための孔62を有している。第1のプローブ32の下部または内部部分56は望遠鏡のように互いに滑動するときに2つのプローブ間の電気接触を維持するために他方のプローブ34のピン部分56に弾性的に結合する指部を形成されている。
【0010】各プローブは対応する他方のプローブに固定されたフランジ66,68を有する。この実施例ではコイルスプリングとして示されているスプリング70は2つのプローブのそれらフランジ66,68間に延在する。このスプリングは予め圧縮力を与えられており、したがって常にプローブの先端72,74を互いに遠ざける方向にフレームの対応する表面から外側に向かって圧力を与える。
【0011】2つの回路板14,16がフレーム30の両側の端面36,38に対して押し付けられるとき、それらはフレームの面36,38と実質上接触するまで2つのプローブの先端を内方に押す。プローブの先端は回路板上の導電パッド20,22と接触する。このようにして回路板の導電パッド20,22は相互接続される。プローブが内方に移動するとき、スプリング70は圧縮されて下側のプローブ34のピン部分56は上側のプローブ32の孔62中へ一層深く滑込む。
【0012】圧縮コンタクトの使用はコンタクト構造体を互いに密接して配置することを可能にする。その結果隣接するコンタクト間に漏話を生じる。この漏話を最小にするために各コンタクト構造を囲む別々の側面包囲体76を設けて、各側面包囲体76の外面を導電材料のメッキ層80で被覆する。全てのコンタクト構造を囲むメッキ層80が接地電位のような同じ電位にあるようにそれらは互いに接続される。メッキ層80はコンタクト(図示せず)により一方または双方の回路板の接地端子に接続される。
【0013】コンタクト構造体が高周波或いは短い立上り時間のパルス(電流立上り時間はしばしば32ピコ秒より小さい)を伝送する場合には、各コンタクト構造が最小のインダクタンスを有することが重要であり、それはインダクタンスは高周波をフィルタして除去し、パルスの立上り時間を増加させる傾向があるからである。インダクタンスを大きくする主要な原因はコイルスプリング70である。本発明ではコイルスプリング70によるインダクタンスの導入を避けるためにナイロンのような誘電体材料でスプリングを構成している。コンタクト構造体中に長い大きい直径の導電材料素子が存在しないようにすることによって、小さい等価外側直径のコンタクト構造体を得ることができる。この等価外側直径はプローブピン部分56と外部部分54,60の外側直径との間の値である。
【0014】各コンタクト構造体により対して制御された特性インピーダンスを設定することが望ましい。同軸インピーダンスケーブルは一般に50,70,または93オームのインピーダンスを有し、しばしば回路板上の同軸導体の特性インピーダンスにコンタクト構造体の特性インピーダンスを整合させることが望ましい。コンタクト構造体の特性インピーダンスは所望の値より低い可能性がある。インピーダンスはコンタクト構造体26によって形成された中心導体とそれを囲むメッキ層80によって形成された外部導体との間の距離を増加することによって増加させることができる。導電材料のスプリングを避けることによって小さい等価外側直径のコンタクト構造体で高い特性インピーダンスを生成することが可能である。プローブに取付けられたフランジを誘電体材料で構成することにより、さらに各コンタクト構造体の等価外側直径を減少させることが可能である。」

(ウ) 【図1】


(エ) 【図2】


(オ) 【図3】


イ 甲3発明の認定
上記アにおいて摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
「 回路装置10に含まれる圧縮コンタクト装置12であって、(【0007】)
この圧縮コンタクト装置12は1対の回路板14,16のような1対の電気回路を相互接続するために使用することができ、(【0007】)
第1の回路板14は他方の回路板16上の対応する導電パッド22と接続される端子または導電パッド20を有しており、(【0007】)
圧縮コンタクト装置12は、対応する導電パッドの対20,22を接続することのできる多数のコンタクト構造体26を有するものであり、(【0007】)
各コンタクト構造体26は誘電体フレーム30内にあり、そのフレームの両側の端面36,38から突出する1対のプローブ32,34を有しており、(【0007】)
誘電体フレーム30は第1および第2の端壁40,42、およびそれら端壁40,42間に延在する側壁44を有しており、(【0008】)
フレーム30は端壁の間に多数の空洞46が形成されており、各コンタクト構造体26はそれぞれそれら空洞46の1つ中に配置されており、(【0008】)
端壁40,42はそれぞれ多数の孔50,52を有し、プローブ30,32は最初の状態では空洞46から端壁40,42の対応する孔50,52を通ってフレーム30の両端面36,38を越えて突出しており、(【0008】)
各コンタクト構造体の第2のプローブ34は下部または外部部分54とそれから上方に延びているピン部分56とを備えており、(【0009】)
第1のプローブ32は上部または外部部分60を備え、それは他方のプローブ34のピン部分56を滑動するように受けるための孔62を有しており、第1のプローブ32の下部または内部部分56は望遠鏡のように互いに滑動するときに2つのプローブ間の電気接触を維持するために他方のプローブ34のピン部分56に弾性的に結合する指部を形成されており、(【0009】)
各プローブは対応する他方のプローブに固定されたフランジ66,68を有し、スプリング70は2つのプローブのそれらフランジ66,68間に延在し、このスプリングは予め圧縮力を与えられており、常にプローブの先端72,74を互いに遠ざける方向にフレームの対応する表面から外側に向かって圧力を与えるものであり、(【0010】)
2つの回路板14,16がフレーム30の両側の端面36,38に対して押し付けられるとき、それらはフレームの面36,38と実質上接触するまで2つのプローブの先端を内方に押し、プローブの先端は回路板上の導電パッド20,22と接触して回路板の導電パッド20,22は相互接続され、プローブが内方に移動するとき、スプリング70は圧縮されて下側のプローブ34のピン部分56は上側のプローブ32の孔62中へ一層深く滑込み、(【0011】)
コイルスプリング70によるインダクタンスの導入を避けるためにナイロンのような誘電体材料でスプリングを構成しており、(【0013】)
導電材料のスプリングを避けることによって小さい等価外側直径のコンタクト構造体で高い特性インピーダンスを生成することが可能である、(【0014】)
圧縮コンタクト装置12。」

(2) 甲4〜7号証に記載された技術事項
甲4〜7号証には、前記3(2)において認定したとおりの甲4〜7技術事項が記載されていると認められる。

(3) 甲3発明に基づく本件発明1についての進歩性の検討
ア 請求項1の記述に沿った本件発明1と甲3発明の対比
前記1の用語の解釈の検討結果を利用しつつ、請求項1の記述に沿って、本件発明1と甲3発明を対比する。
(ア) 甲3発明の「誘電体フレーム30」は、本件発明1の「絶縁体」に相当する。
また、甲3発明の「誘電体フレーム30」の「端壁40,42の対応する孔50,52」は、本件発明の「支持孔」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、「支持孔が形成された絶縁体」を備える点で一致する。

(イ) 甲3発明の「第1のプローブ32」及び「第2のプローブ34」は、「最初の状態では空洞46から端壁40,42の対応する孔50,52を通ってフレーム30の両端面36,38を越えて突出しており」、「2つの回路板14,16がフレーム30の両側の端面36,38に対して押し付けられるとき」「2つのプローブの先端」は「内方に押」されるものである。
ここで、甲3発明において、「圧縮コンタクト装置12」と「1対の回路板4,16」の間に検査装置と検査対象という関係が成立していることが明らかとはいえない。
しかしながら、甲3発明の「圧縮コンタクト装置12」においては、対象物に接触する部材を「プローブ」と称しているところ、プローブとは、一般に測定や実験などのために被測定物に接触又は挿入する針状の部材のことをいうから、甲3発明の「第1のプローブ32」は「検査対象に接触されるのに特に適したプランジャ」であるということができる。
したがって、本件発明1の「第1のプランジャ」と甲3発明の「第1のプローブ32」は、「検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャ」である点で一致する。
また、「リード導体」の意味は、「電気的接続のための導電体」であること(前記2(2)ア(エ)参照)も踏まえると、本件発明1の「第2のプランジャ」と甲3発明の「第2のプローブ34」は、「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」である点で一致する。
以上より、本件発明1と甲3発明は、「検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャ」を備える点及び「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」を備える点で一致する。

(ウ) 甲3発明の「コイルスプリング70」は、「常にプローブの先端72,74を互いに遠ざける方向にフレームの対応する表面から外側に向かって圧力を与えるもの」であるから、本件発明1の「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばね」を備える点で一致する。

(エ) 甲3発明では、「プローブ30,32は最初の状態では空洞46から端壁40,42の対応する孔50,52を通ってフレーム30の両端面36,38を越えて突出して」いるから、「第1のプローブ32」、「第2のプローブ34」及び「コイルスプリング70」を含む甲3発明の「コンタクト構造体26」は、本件発明1の「前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリ」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明は、「前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリ」を備える点で一致する。

(オ) 甲3発明では、「2つの回路板14,16がフレーム30の両側の端面36,38に対して押し付けられるとき、それらはフレームの面36,38と実質上接触するまで2つのプローブの先端を内方に押し、プローブの先端は回路板上の導電パッド20,22と接触して回路板の導電パッド20,22は相互接続され、プローブが内方に移動するとき、スプリング70は圧縮されて下側のプローブ34のピン部分56は上側のプローブ32の孔62中へ一層深く滑込」むから、「第1のプローブ32」及び「第2のプローブ34」は、「1対の回路板14,16のような1対の電気回路を相互接続するため」に有効な程度の電流が流れる電流の通り道を構成しているといえる。
よって、本件発明1と甲3発明は、「前記第1及び第2のプランジャにより構成される導通経路」を有する点で共通する。

(カ) 甲3発明の「圧縮コンタクト装置12」は、「1対の回路板4,16のような1対の電気回路を相互接続するために使用することができ」るものであるから、「マイクロコンタクタプローブ」の発明である本件発明1と「圧縮コンタクト装置12」の発明である甲3発明は、「コンタクト部材」の発明である点で共通する。

イ 一致点及び相違点の認定
前記記アにおいて対比した結果をまとめると、本件発明1と甲3発明は、次の一致点3Aの点で一致し、以下の相違点3A−1及び3A−2の点で相違する。
<一致点3A>
「支持孔が形成された絶縁体と、
前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
前記導電アッセンブリは、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記第1及び第2のプランジャにより構成される導通経路を有する、
コンタクト部材。」

<相違点3A−1>
本件発明1は、「マイクロコンタクタプローブ」の発明であるのに対して、
甲3発明は、「1な1対の電気回路を相互接続するために使用することができ[る]」「圧縮コンタクト装置12」の発明であって、マイクロコンタクタプローブの発明であるかどうか明らかではない点。

<相違点3A−2>
本件発明1では、「コイルばね」が「摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定される」ものであり、「導通経路」が「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される」ものであり、「導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対して、
甲3発明では、「コイルスプリング70」がそのような密巻き部を有しておらず、「ナイロンのような誘電体材料」で構成されているから導電部材ではなく導通経路に含まれていない点。

ウ 判断
(ア) 相違点3A−1について
相違点3A−1の想到容易性について
甲3発明の「第1のプローブ32」は「検査対象に接触されるのに特に適したプランジャ」であるということができるところ、「プローブ」と呼ばれることからしても、プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等を検査対象として、その電気的検査を行うためのマイクロコンタクタプローブとすることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

(イ) 相違点3A−2について
a 相違点3A−2の想到容易性について
甲4〜甲7技術事項には、低インダクタンス化及び低抵抗化を図るためにコイルばねに筒状の密巻き部を設けることが開示されている。
しかしながら、甲3発明の「コイルスプリング70」は、「ナイロンのような誘電体材料」で構成されており導電部材ではないから、「1対の回路板14,16のような1対の電気回路を相互接続するため」に有効な程度の電流が流れる電流の通り道(導通経路)でないことは明らかであり、甲3発明の「コイルスプリング70」を誘電体材料(非導電材料)から導電材料に置き換えることによりあえて導通経路として構成することは、単なる材料の選択という設計事項の域を越えたものであり、さらに密巻き部を設けることも含めて、その動機がそもそも見出せない。
さらに、甲3の段落【0013】には、「インダクタンスを大きくする主要な原因はコイルスプリング70である。本発明ではコイルスプリング70によるインダクタンスの導入を避けるためにナイロンのような誘電体材料でスプリングを構成している。」と記載されており、甲3発明において、「ナイロンのような誘電体材料」の「コイルスプリング70」を採用したのは、「コイルスプリング70」が導通経路になることを積極的に回避するためであるから、「コイルスプリング70」を誘電体材料から導電材料に置き換えて構成し、さらに密巻き部を設けることにより、「コイルスプリング70」が導通経路に含まれるようにすることは、甲3発明の技術思想を毀損するものであり、むしろ阻害要因が存在するというべきである。

b 請求人の主張について
(a) 請求人の主張の内容
コンタクトプローブに用いられるコイルばねは、金属等の導電材料が主流である。
理由としては、金属等の導電材料のコイルばねを用いたコンタクトプローブは、ナイロン等の誘電材料のコイルばねを用いたコンタクトプローブと比較して、コイルばねの反発により得られる接触圧力が大きい為、検査対象物及びリード導体とコンタクトプローブ間の接触抵抗が低くなり充分な導通性能を得やすいためである。また、導電材料のコイルばねは、誘電材料のコイルばねと比較すると耐熱性に優れ、高温下においても使用可能である。
このような背景の中で甲3発明は、接触抵抗、耐熱性の要求レベルが厳しくない限定された環境下でコイルばねの材質を金属からナイロンに変更することでコンタクト装置のインダクタンスを小さくすることを実現したものである。
よって、上述のような限定された環境以外の一般的な環境では、コイルばねの材質をナイロン製から金属製とすることは、特殊な材料への変更というよりは、通常の材料に戻すことに該当し、動機付けを議論するまでもなく当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
甲3は、課題の一つとしてインダクタンスを少なくする点を挙げており(明細書段落[0004])、また、インダクタンス導入を避けるためにナイロン製のスプリングを使用している(明細書段落[0013])。
また、甲4には以下の記載がある。
近年、導電性接触子ユニットにあっても、耐熱性及び小さな熱膨張率が要求される(明細書段落[0004])。金属性スプリングに密着巻き部を設けることで低インダクタンス化を図ることができる(明細書段落[0014])。
よって、甲3発明と甲4発明との間においてインダクタンスを低減することは、共通の課題である。
上述した一般的な環境下でコンタクトプローブを使用することを考えた場合、甲3及び甲4に接した当業者は、コンタクトプローブのインダクタンスを低減するという共通の課題を解決するため、甲3に記載された構成に密巻き部を有する金属製バネを適用することを検討すると考えられる。
したがって、当業者であれば、甲3発明のナイロン製のスプリング70を導電材料に換えることについて、動機付けがある。

(b) 請求人の主張に対する合議体の判断
請求人は、甲3発明のナイロン製のスプリング70を導電材料に換えることについて、動機付けがある旨主張している。
しかしながら、前記aにおいて説示したように、甲3発明において、「コイルスプリング70」を誘電体材料から導電材料に置き換えて構成し、さらに密巻き部を設け、「コイルスプリング70」が導通経路に含まれるようにすることには、阻害要因が存在するから、請求人の主張は採用できない。
しかも、請求人は、樹脂製のスプリングが使用できないほどの「高温下」において、甲3発明に係る「圧縮コンタクト装置」を使用する必要性があることを支持する証拠は何も示していないから、請求人の主張は採用できない。

エ 小括
以上検討のとおり、前記相違点3A−2に係る本件発明1の構成は、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえないから、本件発明1は、甲3発明及び甲4〜甲7技術事項に基づいては、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4) 甲3発明に基づく本件発明21についての進歩性の検討
ア 一致点及び相違点の認定
本件発明1と甲3発明の対比した結果を踏まえつつ、本件発明21と甲3発明を対比すると、両者は、次の一致点3Bの点で一致し、以下の相違点3Bの点において相違する。
<一致点3B>
「絶縁体に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリであって、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触される、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記第1及び第2のプランジャにより構成される導通経路を有する、
導電アッセンブリ。」

<相違点3B>
本件発明21では、「コイルばね」が「摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定される」ものであり、「導通経路」が「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される」ものであり、「導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のに対して、
甲3発明では、「コイルスプリング70」がそのような密巻き部を有しておらず、「ナイロンのような誘電体材料」で構成されているから導電部材ではなく導通経路に含まれていない点。
なお、相違点3Bは、相違点3A−2と同一である。

イ 判断
上記相違点3Bについては、前記相違点3A−2について検討した内容が同様に当てはまるから(前記(3)ウ(イ)参照)、上記相違点3Bに係る本件発明21の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明21は、甲3発明及び甲4〜甲7技術事項に基づいては、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(5) 無効理由3についての小括
以上検討のとおり、無効理由3に係る請求人の主張を採用することはできず、本件発明1及び本件発明21は、甲3〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、無効理由3は理由がない。

5 無効理由4(サポート要件違反)について
(1) 本件特許明細書及び図面の記載
本件特許の明細書の段落【0002】〜【0011】、【0024】、【図13】には次の記載がある。下線は合議体が付した。
「【0002】
【従来の技術】
プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等の電気的検査を行う従来の電気プローブユニットには、導電性針状体としてのプランジャと、このプランジャを軸線方向に出没自在に保持するホルダと、プランジャをその突出端がホルダの前端(軸方向端)から突出する向きに弾発付勢するコイルばねとを備えて構成され、プランジャの突出端を被検体の接触対象へ弾発的に接触させることが可能なマイクロコンタクタプローブが用いられる。
【0003】
そうした例として、図13に示すマイクロコンタクタプローブ100が知られている。これは、日本国特開平10−239349号公報に開示されたもので、一対のプランジャ3および4をコイルばね2の両端に結合したプランジャアッシ5を絶縁性ホルダ6および7に形成された支持孔8および9に、一対のプランジャ3および4の往復動を許容して収容した構成を有し、各プランジャ3および4は外方へ突出する力を受けるが脱落阻止されている。
【0004】
この取付状態で、プランジャ3および4は、それぞれの段部を上側ホルダ7および下側ホルダ6に係合させて脱落阻止され、支持孔9および8内に収容される。コイルばね2は中間に密巻螺旋部2aを備え、この中間の密巻螺旋部2aは、待機状態(プランジャ3が検査対象に接触してない状態)にあるプランジャ3および4の軸部3aおよび4aに接触できる長さを有する。
【0005】
このマイクロコンタクタプローブ100は、上側のプランジャ4の突出端を、ホルダ7に積層した配線プレート10に固定したリード導体11に弾接させて電気的に接続し、下側のプランジャ3の突出端を検査対象12へ弾発的に接触させて用いる。この検査時の電気信号の導通経路Lは、図13に実線の矢印で示すように、検査対象12から下側のプランジャ3を通り、その軸部3aから中間密巻螺旋部2aを介して上側のプランジャ4の軸部4aに伝達され、このプランジャ4を通ってリード導体11に至る。これにより、基板13上に形成された検査対象12である印刷回路にショートあるいは断線が無いか検査する。
【0006】
このときの導通経路Lは、唯一のコイルばね2を通ることになるので、その中間密巻螺旋部2aを通り、コイルばね2の軸線方向に沿って直線的に電気信号が流れ得ることから、コイルばね2の粗巻螺旋部に高周波信号が流れることによるインダクタンスおよび抵抗の増大が生じない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このマイクロコンタクタプローブ100は、導通経路Lに、図13に示すように、プランジャ3および4の軸部3aおよび4aと中間密巻螺旋部2aとの摺動導通部AおよびBが存在し、この2つの摺動導通部AおよびBの存在による抵抗の分散が、検査の精度を狭めるという課題がある。
(中略)
【0009】
そこで、本発明は、インダクタンスおよび抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)および電気プローブユニットを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明に係るマイクロコンタクタプローブは、開端及び閉端を有する支持孔が形成された絶縁体と、前記支持孔内に前記閉端で露呈するリード導体と、前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリとを備え、このアッセンブリは、前記開端で外方へ露出する第1の導体部と、前記リード導体に接触する第2の導体部とを備えるマイクロコンタクタプローブであって、前記第1及び第2の導体部の一方は、前記第1及び第2の導体部の他方にその一部分が摺動可能に接触する筒状導体部と、この筒状導体部の別の部分に固定された固定導体部とを備えて成る。
【0011】
この発明によれば、単一の摺動接触となる筒状導体部が、高周波でなおインダクタンスを低減できる。」
「【0024】
下側のプランジャ3は、前記フランジ部3bの上にボス部3dを備え、このボス部3dの上に上方へ延びる軸部3aを備える。上側のプランジャ4は、前記フランジ部4dの下にボス部4dを備える。コイルばね2は、比較的長い筒状部15を構成する上部の密巻の螺旋部15aと、短い筒部を構成する下端の密巻の螺旋部と、その間に延在する粗巻の螺旋部とを有する。上記筒部では、いずれも、ばね2の隣接する螺旋部のAuメッキが広い領域で密着し、電流がかなりの割合で軸方向へ略々ストレートに流れる。長い方の筒状部15は、上側プランジャ4のボス部4dを圧入し、一体的にきつく嵌着して、筒部上端での通電に供する。短い方の筒部も、下側プランジャ3のボス部3dを圧入し、きつく嵌着して通電に供する。粗巻螺旋部は下側プランジャ3の軸部3a周りに遊嵌する。この軸部3aの上端を上記長い筒状部15の下部へ摺動可能に嵌合し、軸部上端での通電に供する。」
「【図13】



(2) サポート要件の充足性についての判断
ア 本件発明が解決しようとする課題
前記(1)において摘記した事項から、本件発明が解決しようとする課題は、次のとおりのものであると認められる。
<本件発明が解決しようとする課題>
図13に示されるような、コイルの中央部分にある密巻き部と当該密巻き部にそれぞれ電気的に接触する二つのプランジャにより構成される導通経路を有するマイクロコンタクタプローブの従来技術では、導通経路に、二つのプランジャのそれぞれの軸部と密巻き部との摺動導通部が存在し、この二つの摺動導通部の存在による抵抗の分散が、検査の精度を狭めるという問題点があるところ、当該従来技術に比較して、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)及び導電アッセンブリを提供すること。

イ 請求項1に特定された課題解決手段
請求項1においては、前記アの本件発明が解決しようとする課題を解決するための手段として、次の技術事項が特定されている。
「【請求項1】
支持孔が形成された絶縁体と、
前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
前記導電アッセンブリは、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、
前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、
前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され、
前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される
マイクロコンタクタプローブ。」

ウ サポート要件の充足性(請求項には課題解決のために必要な技術手段が特定されていること)の判断
本件発明は、前記課題を解決するための手段として、明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】、【0011】及び【0024】に記載された構成に対応する「前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され、前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」という構成を備えており、当該構成を備えることにより、二つの摺動導通部の存在する従来技術に比較して、インダクタンス及び抵抗の増大を招くような構成をほかに備えることなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させているのであるから、従来技術に比較して、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)を提供できていることは明らかである。
したがって、請求項1の記載は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、サポート要件を充足する。
同様にして、請求項21の記載も、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、サポート要件を充足する。

(3) 請求人の主張について
ア 請求人の主張1(コイルばねの材質や表面に施すメッキの厚み等の条件の不足)について
(ア) 請求人の主張1の内容
請求人は、本件発明が解決しようとする課題は、「インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ等を提供すること」にあるところ、マイクロコンタクタプローブに用いられるコイルばねの材質やコイルばねの表面に施すメッキの厚み等の条件次第では、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、抵抗のばらつきを抑制する効果は得られないから、これらの条件の特定を欠く本件発明は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていないと主張する(審判請求書53〜54頁)。

(イ) 請求人の主張1に対する合議体の判断
a 明細書及び図面の記載から把握される「密巻き部」について
前記(1)に摘記した事項(【0005】、【0006】、【0024】、【図13】)を参照して、本件発明の「密巻き部」の導通経路における役割について検討すると、「密巻き部」は、検査時の電気信号の「導通経路」の一部を構成する筒状のものである。
そして、「導通経路」が「目的とする用途に供するのに有効な程度の電流が流れる電流の通り道」を意味することを踏まえると(前記1(5)を参照)、「密巻き部」は、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができる程度に、コイルばねを軸線方向に沿って筒のように一体化した電流の通り道であると理解できる。

b 「密巻き部」に係る請求項の記載について
請求項1及び21では、「密巻き部」を限定する事項として、次の(a)〜(d)の事項が特定されている。以下、これらの事項を総称して「密巻き部限定事項」という。
<密巻き部限定事項>
(a) 前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し[ていること]。
(b) 前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し[ていること]。
(c) 前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され[ていること]。
(d) 前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される[こと]。

c 請求項の記載から把握される「密巻き部」について
前記密巻き部限定事項の(a)によれば、「密巻き部」は「筒状」のものであるから、コイルばねが空間的に隙間なく密に巻かれ、筒のように一体化した部分であることが読み取れる。また、密巻き部限定事項の(b)及び(c)によれば、「密巻き部」の「摺動導通部」と「固定導通部」はいずれも「電気的に導通可能」であるから、上記筒のように一体化した部分は、当該筒の軸線方向に沿って直線的に電流を流すことができる導体であることも読み取れる。さらに、密巻き部限定事項の(d)によれば、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のであるから、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができるようにしたものであることも読み取れる。
したがって、請求項1又は請求項21における「密巻き部」は、密巻き部限定事項を踏まえて把握すれば、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができる程度に、コイルばねを軸線方向に沿って筒のように一体化した電流の通り道であることを読み取ることは十分に可能である。

d 小括
そうすると、コイルばねの材質やメッキ厚み等の条件の特定を欠く本件発明は当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているという請求人の主張を採用することはできない。

イ 請求人の主張2(密巻き部の限定の不足)について
(ア) 請求人の主張2の内容
請求人は、請求項1及び請求項21の「密巻き部」については、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、「軸線方向に沿って直線的に電気信号が流れない」構成も含まれ得るから、本件発明の作用効果を有さず、本件発明の課題を解決できない範囲を含み、明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超えており、特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていないと主張する(審判請求書54〜55頁)。

(イ) 請求人の主張2に対する合議体の判断
前記ア(イ)において説示したとおり、請求項1及び21の密巻き部限定事項を踏まえると、「密巻き部」が、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができる程度に、コイルばねを軸線方向に沿って筒のように一体化した電流の通り道であることを読み取ることは十分可能である。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

ウ 請求人の主張3(密巻き部の導通経路足り得る条件の充足の必要性)
(ア) 請求人の主張3の内容
(請求人陳述要領書の27〜28頁の(2−3−8)参照)
本件発明の課題を解決するための「密巻き部」は、コイルの軸線方向の接触圧力・コイルの表面状態(メッキ厚)等の導通経路足り得る条件を満たす必要がある。
本件特許発明の明細書の以下の記載によれば、単に相対的にみて「2つの摺動導通部」が存在するものよりも「抵抗のばらつき」が軽減されればよいということではなく、「インダクタンス及び抵抗の増大」を伴わないことが作用効果の前提となっていることは明らかである。
そして、コイルばねを介する導通経路において、インダクタンス及び抵抗の増大を伴わないためには、コイルばねにおいて、螺旋状(コイル状)に高周波信号が流れないようにすることが必要となり(本件特許明細書[0031]参照)、そのための構成が「密巻き部」であるものと理解される。
実際、コイルばねを介する導通経路においては、螺旋状(コイル状)に信号が流れる結果、抵抗が極めて大きくなり、電源オフ状態になるおそれがあることも、甲2の【0003】【発明が解決しようとする課題】で指摘されているところである。
しかしながら、本件発明の「密巻き部」については、被請求人が、「密巻き部」とは、単に「空間的にすき間が少なく巻かれた部分」をいうものとし、「電流がかなりの割合で軸方向に略々ストレートに流れる効果が生じる」ものには限定されないと主張している関係からも、本件特許発明は、明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載していることになり、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(イ) 請求人の主張3に対する合議体の判断
前記ア(イ)において説示したとおり、請求項1及び21の密巻き部限定事項を踏まえると、「密巻き部」が、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができる程度に、コイルばねを軸線方向に沿って筒のように一体化した電流の通り道であることを読み取ることは十分可能である。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(4) 無効理由4についての小括
以上検討のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項1号の規定する要件に違反するものではないから、無効理由4は理由がない。

6 無効理由5(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の検討
ア 請求人の主張
請求人は、請求項1及び請求項21の「密巻き部」については、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、本件発明の課題を解決できないものも含まれる記載ぶりとなっている一方で、どのような構成の「密巻き部」であれば、検査対象の検査時に、「密巻き部」を介する導通経路において、インダクタンス及び抵抗の増大を伴わず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」のかが不明であり、その技術的範囲が不明確であるから、特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項2号の規定する要件を満たしていないと主張する。
すなわち、請求人は、本来記載されていて然るべき密巻き部についての構成がクレームに記載されていない結果、発明の範囲が曖昧となり発明の範囲が不明確となっていると主張する(請求人陳述要領書の28〜29頁の(2−3−9)参照)。

イ 請求人の主張に対する合議体の判断
(ア) 請求人の主張について検討すると、まず、請求項1及び21の「密巻き部」は「筒状」のものであるという記載から、コイルばねが空間的に隙間なく密に巻かれ、筒のように一体化した部分であることが読み取れる。
(イ) また、請求項1又は請求項21には、前記密巻き部限定事項も特定されている。
<密巻き部限定事項>
・前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し[ていること]。
・前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し[ていること]。
・前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され[ていること]。
・前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される[こと]。
(ウ) 前記5(3)において検討したとおり、密巻き部限定事項から、「密巻き部」が、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができる程度に、コイルばねを軸線方向に沿って筒のように一体化した電流の通り道であることを読み取ることは十分可能である。
(エ) したがって、本来記載されていて然るべき密巻き部についての構成がクレームに記載されていないものではなく、本件発明の「密巻き部」についての特定に係る特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。
よって、請求人の上記主張を採用することはできず、請求項1及び請求項21の記載は、明確性要件に違反しない。

(2) 無効理由5についての小括
以上検討のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項21の記載は、特許法36条6項2号の規定する要件に違反するものではないから、無効理由5は理由がない。

7 無効理由6(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件についての合議体の判断
本件発明の解決しようとする課題は、前記5(2)アにおいて認定したとおりのものであるところ、明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】、【0011】及び【0024】には、前記課題を解決するための手段が記載されており、かかる解決手段により、二つの摺動導通部の存在する従来技術に比較して、インダクタンス及び抵抗の増大を招くような構成をほかに備えることなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させているのであるから、従来技術に比較して、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)を提供できていることは明らかである。
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1及び本件発明21について、当該発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、本件特許の明細書の発明に詳細な説明の記載は実施可能要件に違反しない。

(2) 請求人の主張について
ア 請求人の主張1(「密巻き部」)について
(ア) 請求人の主張1の内容
請求人は、本件発明の「密巻き部」について、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、明細書の記載からは「密巻き部」をどのような構成とすれば本件発明の課題を解決できるのか不明であり、発明の詳細な説明に「密巻き部」の構成が具体的に記載されているとはいえないから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、出願時の当業者の技術常識を参酌しても、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張している。

(イ) 請求人の主張1に対する合議体の判断
a 請求項1及び21では、前記密巻き部限定事項が特定されている。
<密巻き部限定事項>
(a) 前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し[ていること]。
(b) 前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し[ていること]。
(c) 前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され[ていること]。
(d) 前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される[こと]。
b 前記5(3)において検討したとおり、前記密巻き部限定事項を踏まえると、請求項1又は請求項21における「密巻き部」は、検査対象からの電気信号を軸線方向に流れる直線的な電流として外部回路に伝達するという機能を果たすことができる程度に、コイルばねを軸線方向に沿って筒のように一体化した電流の通り道であることを読み取ることは十分に可能であり、明細書の段落【0010】、【0011】及び【0024】等には、当該事項に対応する事項が記載されている。
c してみれば、「摺動導通部と固定導通部」を有し、「筒状」であること以外に構成の限定がなく、明細書の記載からは「密巻き部」をどのような構成とすれば本件発明の課題を解決できるのか不明であるとの主張は採用することができない。

イ 請求人の主張2(一定の接触条件)について
請求人は、軸線方向に電流が流れる為には、各螺旋間の接触圧力、螺旋の材質、表面処理等の一定の接触条件が満たされなければならないところ、そのような条件についてなんら開示されていないと主張する(請求人陳述要領書の29〜30頁の(2−3−10)参照)。
しかしながら、各螺旋間の接触圧力、螺旋の材質、表面処理等がどのようなものであれ、従来技術と本件発明において同一の材料を用いた場合に、従来技術に比較して、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)及び導電アッセンブリを提供できることは、明らかであるから、各螺旋間の接触圧力、螺旋の材質、表面処理等の一定の接触条件の具体的な開示がなければ課題の解決手段や発明の技術上の意義を理解することができないというものではない。
したがって、請求人の主張2を採用することはできない。

(3) 無効理由6についての小括
以上検討のとおりであるから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号の規定する要件に違反するものではない。したがって、無効理由6は理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、無効理由1から無効理由6までは、いずれも理由がなく、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1及び本件発明21についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-29 
結審通知日 2022-09-01 
審決日 2022-09-15 
出願番号 P2002-510960
審決分類 P 1 123・ 121- Y (G01R)
P 1 123・ 536- Y (G01R)
P 1 123・ 537- Y (G01R)
P 1 123・ 113- Y (G01R)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱野 隆
佐藤 久則
登録日 2011-12-22 
登録番号 4889183
発明の名称 マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット  
代理人 有我 栄一郎  
代理人 弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ  

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