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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02H
管理番号 1391805
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-02-02 
確定日 2022-11-22 
事件の表示 特願2018− 13419「継電器システムおよび継電器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 8日出願公開、特開2019−134538、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年1月30日の出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和3年 6月28日付け 拒絶理由通知書
令和3年 8月 3日 意見書・手続補正書
令和3年11月25日付け 拒絶査定
令和4年 2月 2日 審判請求書

第2 原査定の概要
令和3年11月25日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1−5に係る発明は、以下の引用文献1−2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項 の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2002−320332号公報
2.実願平2−75869号(実開平4−34827号)のマイクロフィルム

第3 本願発明
本願請求項1−5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明5」という。)は、令和3年8月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
単相3線式の中性線の電流を検出する電流検出器と、
第1接点が前記単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部と、
前記電流検出器によって検出された前記中性線の電流が過電流である場合、前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路と、
前記一方の電圧線から大地に流れる電流に基づいて、前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカと、
を備える継電器システム。

【請求項2】
前記演算回路は、前記電流検出器によって検出された電流の電流値を所定の基準値と比較し、前記電流値が前記所定の基準値よりも大きい場合、前記リレー部に前記第1接点と前記第2接点とを接続させる信号を出力するコンパレータを有する請求項1に記載の継電器システム。

【請求項3】
前記演算回路は、前記所定の基準値を、契約アンペア数、主幹ブレーカの定格電流値、前記第1電圧線の許容電流値、前記第2電圧線の許容電流値および前記中性線の許容電流値のいずれかに従った値に設定する基準値設定部を有する請求項2に記載の継電器システム。

【請求項4】
前記第2接点と大地との間、または、前記一方の電圧線と前記第1接点との間の少なくともいずれかに直列に挿入される抵抗器を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の継電器システム。

【請求項5】
第1接点が単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部と、
前記単相3線式の中性線の電流が過電流である場合、前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路と、
を備える継電器。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。以下、同様。)。

「【0015】
【発明の実施の形態】以下、図1〜図5を参照して、本発明に従う分散型発電装置の運転制御装置の実施形態について説明する。図1は、本発明に従う運転制御装置の第1の実施形態を装備したコージェネレーションシステムの一例を示す簡略図であり、図2は、図1のコージェネレーションシステムの回路構成を簡略的に示すブロック回路図であり、図3は、図1のコージェネレーションシステムの制御系の一部を示すブロック図であり、図4は、図1のコージェネレーションシステムの運転制御装置による運転の流れを示すフローチャートである。
【0016】図1において、図示のコージェネレーションシステムは、エンジン22により駆動される発電機24を含む発電装置26と、エンジン22の冷却水から排出される熱を温水のかたちで貯留する貯湯装置28とを備え、貯湯装置28は温水を貯える貯湯タンク30を含んでいる。エンジン22はガスエンジン、ディーゼルエンジンなどである。発電機24の出力側には系統連系インバータ32が設けられている。系統連系インバータ32は、発電機24の出力電力を商業用電源34から供給される電力と同じ電圧及び同じ周波数にするとともに、電力負荷38に供給される電力を制御する。商業用電源34は、例えば単相3線式(標準電圧)100V及び200Vであり、配電線36を介して電力負荷38、即ち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等の各種電気機器に電気的に接続される。この発電装置26は分散型発電装置として設置され、インバータ32は、コージェネ用スイッチ手段40を介して配電線36に電気的に接続され、このスイッチ手段40が閉状態のときに、発電機24にて発生した電力がインバータ32、コージェネ用スイッチ手段40及び配電線36を介して電力負荷38に供給される。」

「【0020】・・・(略)・・・次に主として図2を参照して、このコージェネレーションシステムにおける配電線36及びそれに関連する回路構成について説明すると、図示の実施形態では、商業用電源34からの配電線36は単相3線式であり、U相線62、V相線64及び中性線66(O相線)から構成され、U相線62と中性線66との間に例えば100Vの電位差があり、V相線64と中性線66との間に例えば100Vの電位差があり、またU相線62とV相線64との間に例えば200Vの電位差がある。このような単相3線式の配電線36の回路構成では、電力負荷38の一部38Aについては、U相線62と中性線66との間に接続された構成となり、電力負荷38の残部38Bについては、V相線64と中性線66との間に接続された構成となる。
【0021】この配電線36には、商業用電源34と電力負荷38との間に主幹ブレーカ68が配設される。この主幹ブレーカ68は、従来の単相3線式の回路構成で一般的に使用される所謂3P2E型のものであり、U相線62及びV相線64にそれぞれその引きはずし素子(図示せず)が配設され、これら引きはずし素子は、U相線62及びV相線64を流れる電流を検知し、U相線62又はV相線64を流れる電流が定格電流、例えば50Aを超えると、主幹ブレーカ68が配電線36の電気的接続を強制的に遮断する。」

「【0023】・・・(略)・・・図3を参照して、このコージェネレーションシステムは、このシステム全体を作動制御するためのシステム制御手段82と、エンジン22に供給される燃料(例えば燃料用ガス)の流量を制御するための流量制御弁84とを備え、システム制御手段82は発電装置26の運転制御装置の一部を構成している。コージェネレーションシステムにおいては、インバータ32の出力を制御することによって、発電装置26から電力負荷38に供給される電力が制御され、かく出力電力を制御することによって、発電機24を駆動するエンジン22の出力が変動する。
【0024】システム制御手段82は、例えばマイクロプロセッサから構成され、作動制御手段86、逆潮流判定手段88、瞬時電流算出手段90、実効値電流算出手段92、停止信号生成手段94、メモリ96、比較手段98及びタイマ100を含んでいる。作動制御手段86は、インバータ32及びコージェネ用スイッチ手段40等を作動制御し、逆潮流判定手段88は、第1の電流検出器76の検出電流値に基づいてU相線62に逆潮流が発生しているかを判定するとともに、第2の電流検出器78の検出電流値に基づいてV相線64に逆潮流が発生しているかを判定し、瞬時電流算出手段90は、第1及び第2の電流検出器76,78の瞬時検出電流値を利用して上述した如くして中性線66を流れる電流の瞬時電流値を算出し、また実効値電流算出手段92は瞬時電流算出手段90により算出した瞬時電流値を用いて中性線66を流れる電流の実効値を算出し、更に停止信号生成手段108は、後述する如く停止信号を生成する。この実施形態では、メモリ96には、インバータ32の出力を低下させる基準となる電流の第1の設定値(例えば、定格電流値である例えば50Aに設定される)、インバータ32の出力を停止させる基準となる第2の設定値(例えば、定格電流値よりも大きい例えば60Aに設定される)、インバータ32の出力を低下させる際の出力低下割合値(例えば3%程度に設定される)等が記憶され、比較手段98は、電流の上記第1の設定値及び上記第2の設定値と実効値電流算出手段92により算出した実効電流値とを比較し、またタイマ100は、インバータ32の出力を後述する如く段階的に低下させる設定時間(例えば10秒程度に設定される)を計時する。
【0025】一般に、ブレーカの特性は、流れる過大電流が大きい程瞬間的に電流の流れを遮断するようになっており、このようにして安全性を確保している。このようなことから、この形態では、インバータ32の出力を低下させる基準となる第1の設定値とインバータ32の出力を停止する第2の設定値とが設定され、第1の設定値より大きい第2の設定値以上になったときには、後述するように、インバータ32の出力が瞬時に停止されるが、第1の設定値以上で第2の設定値より小さいときには、設定時間の間インバータ32出力を低下させる制御を行い、設定時間経過後においても電流値が低下しないときに、インバータ32の出力を停止させている。このように第1及び第2の設定値を設定し、設定値によってインバータ32の出力停止までの時間を所要の通り設定することによって、比較的簡単な制御で充分な安全性を確保することができ、このようにして安全性を確保しながら発電装置2の発電効率を高めている。
【0026】次いで、主として図2〜図4を参照して、上述した運転制御装置による運転について説明する。コージェネレーションシステムの運転中、第1及び第2の電流検出器76,78は、配電線36のU相線62及びV相線64を流れる電流を検出し(ステップS1)、これら電流検出器76,78空(当審注:「から」の誤記と認める。)の検出信号はシステム制御手段82に送給される。かくすると、システム制御手段82の瞬時電流算出手段90は第1及び第2の電流検出器76,78の検出瞬時電流値を利用して中性線66(O相線)を流れる電流の瞬時値を算出し(ステップS2)、実効値電流算出手段92は算出した瞬時値を用いて中性線66を流れる電流の実効値を算出する(ステップS3)。尚、逆潮流判定手段88は、第1及び第2の電流検出器76,78の検出電流値によってU相線62及びV相線64において電流の逆潮流が発生しているかを判定する。」


「【0028】中性線66の実効電流値が算出されると、比較手段98は、メモリ96に記憶された第2の設定値(例えば60A)と算出された実効電流値とを比較し(ステップS9)、実効電流値が上記第2の設定値以上であると、配電線36の中性線66に過大の電流が流れているとして、停止信号生成手段94が停止信号を生成し、この停止信号に基づいて作動制御手段86はインバータの出力を停止する(ステップ10)。従って、中性線66には比較的大きい過大電流が流れているとして、インバータ32の出力は瞬時的に停止される。このとき、コージェネレーションシステム全体の運転を停止するようにしてもよい。一方、算出された実効電流値が上記第2の設定値より小さいと、ステップS9からステップS11に移り、比較手段98は、次に、メモリ96に記憶された上記第1の設定値(例えば50A)と算出された実効電流値とを比較する。
【0029】この実効電流値が上記第1の設定値以上であると、配電線36の中性線66に比較的小さい過大の電流が流れているとして、ステップS11からステップS12に進み、作動制御手段86はインバータの出力を低下する(ステップS12)。このようにインバータ32の出力が低下すると、エンジン22に供給される燃料供給量を少なくなり(ステップS14)、これによってエンジン22の出力も下がる。」

「【0032】上述した運転制御装置では、配電線36の中性線66を流れる電流が大きくなると、インバータ32の出力を低下させてこの中性線66を流れる電流を下げているので、従来の主幹ブレーカ68を備える回路構成であっても充分な安全性を確保することができる。また、従来の主幹ブレーカ68を備えた回路構成におけるU相線62及びV相線64に電流検出器76,78を設けるという比較的簡単な構成でもって対応することができ、またこの電流検出器76,78は逆潮流を検知するためのものを利用することができ、従来の回路構成をできるだけ利用してその設置コストを少なくすることができる。更に、配電線36の中性線66に流れる電流が大きくなっても、主幹ブレーカ68を遮断状態にしないので、電力負荷38の運転を停止させることもない。
【0033】以上、本発明に従う発電装置の運転制御装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。例えば、上述した実施形態では、U相線62及びV相線64に配設された電流検出器76,78の瞬時電流値を利用して中性線66を流れる電流の実効値を算出しているが、これに代えて、例えば図5に示すように構成することもできる。図5において、この変形形態では、中性線66を流れる電流を検出する電流検出手段が専用の電流検出器106から構成され、この電流検出器106が中性線66に配設される。電流検出器106は中性線66を流れる電流の電流値(実効値)を直接的に検出し、この検出信号がシステム制御手段82に送給される。この変形形態のその他の構成は、上述した実施形態と実質上同一である。この電流検出器106の検出電流値を用いて上述したと同様に制御する(実効値電流算出手段92により算出される実効電流値に代えてこの検出電流値を用いる)ことによって、上記実施形態と同様の作用効果が達成される。」

「【図1】



「【図5】



上記記載から、特に「変形形態」の「分散型発電装置の運転制御装置」に注目すると、「この変形形態のその他の構成は、上述した実施形態と実質上同一である」(【0033】参照)とあることから、上述した実施形態(引用文献1の段落【0015】−【0032】)の構成を踏まえた変形形態として、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コージェネレーションシステムにおいて、
系統連系インバータ32は、発電機24の出力電力を商業用電源34から供給される電力と同じ電圧及び同じ周波数にするとともに、電力負荷38に供給される電力を制御し(【0016】)、
商業用電源34からの配電線36は単相3線式であり、U相線62、V相線64及び中性線66(O相線)から構成され(【0020】)、
配電線36には、商業用電源34と電力負荷38との間に主幹ブレーカ68が配設され、
主幹ブレーカ68は、従来の単相3線式の回路構成で一般的に使用される所謂3P2E型のものであり、U相線62及びV相線64にそれぞれその引きはずし素子が配設され、これら引きはずし素子は、U相線62及びV相線64を流れる電流を検知し、U相線62又はV相線64を流れる電流が定格電流、例えば50Aを超えると、主幹ブレーカ68が配電線36の電気的接続を強制的に遮断し(【0021】)、
コージェネレーションシステムは、このシステム全体を作動制御するためのシステム制御手段82を備え(【0023】)、
システム制御手段82は、例えばマイクロプロセッサから構成され、作動制御手段86、逆潮流判定手段88、瞬時電流算出手段90、実効値電流算出手段92、停止信号生成手段94、メモリ96、比較手段98及びタイマ100を含んでおり(【0024】)、
中性線66の実効電流値が第2の設定値(例えば60A)以上であると、配電線36の中性線66に過大の電流が流れているとして、停止信号生成手段94が停止信号を生成し、この停止信号に基づいて作動制御手段86はインバータの出力を停止し(【0028】)、
配電線36の中性線66に流れる電流が大きくなっても、主幹ブレーカ68を遮断状態にしないので、電力負荷38の運転を停止させることもなく(【0032】)、
電流検出器106は中性線66を流れる電流の電流値(実効値)を直接的に検出し、この検出信号がシステム制御手段82に送給される(【0033】)
分散型発電装置の運転制御装置を装備したコージェネレーションシステム(【0015】)
。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「第1図は、第7図と同様な単相3線式低圧配線方式に、本考案に係る中性線欠相保護装置X、Yを接続した例を示しており、図中第7図と同一符号は同等部分を示す。」(第8頁第9行−第12行)

「以下、中性線欠相保護装置の回路例を説明する。
第2図は、最も好ましい例を示したもので、漏電遮断器以降の屋内配電線部分を示し、Lは電圧線、Nは中性線を示す。
図中、7は電圧線Lを接地するためのリレー接点、8は地絡電流制限抵抗であり、両者によって電圧線の接地回路を構成している。
このリレー接点7を動作させるリレー9を接続した過電圧検出回路は次の通りである。
10、11は線路間に接続した抵抗で、線路間の電圧を分圧する。12は、リレー9と直列に接続したサイリスタ、13は一端を抵抗回路に接続し、他端をサイリスタのゲートに接続したトリガダイオード、14はリレー9の自己保持接点である。
このような回路構成としておけば、中性線の断線により異常電圧が発生した場合、トリガダイオード13の両端に係る電圧がスイッチング電圧に達すると、トリガダイオードが導通してサイリスタ12が導通状態となる。サイリスタのゲート・トリガ電圧は、温度特性が悪いため(0,4%/℃)、温度特性が安定した半導体トリガ素子の電圧(0,1%10C)をトリガ電圧として印加するようにしたもので、装置の遮断電圧が安定化する。サイリスタ12が導通状態となると、リレー9が動作して、リレー接点7および自己保持接点14が閉となる。したがって電圧線Lは、接地回路を通して強制的に接地され、地絡電流を流すので、漏電遮断器が動作して電源回路を遮断する。地絡電流制限抵抗8は、漏電遮断器が十分作動する地絡電流を流すことかでき、また、短絡電流か発生しないように最大50mA程度になるように設定するのが望ましい。
この装置は交流回路で使用するため、サイリスタ12は、リレー9に半波しか電源電圧を供給できないのでリレー接点7がチャタリングを起こさないように自己保持接点14を設けている。」(第9頁第8行−第11頁第4行)

上記記載から、引用文献2には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「単相3線式低圧配線方式に接続された中性線欠相保護装置において、
7は電圧線Lを接地するためのリレー接点、8は地絡電流制限抵抗であり、両者によって電圧線の接地回路を構成しており、
中性線の断線により異常電圧が発生した場合、トリガダイオード13の両端に係る電圧がスイッチング電圧に達すると、トリガダイオードが導通してサイリスタ12が導通状態となり、
サイリスタ12が導通状態となると、リレー9が動作して、リレー接点7および自己保持接点14が閉となり、
電圧線Lは、接地回路を通して強制的に接地され、地絡電流を流すので、漏電遮断器が動作して電源回路を遮断すること。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 「単相3線式の中性線の電流を検出する電流検出器と、」について

引用発明においては、「商業用電源34からの配電線36は単相3線式であり、U相線62、V相線64及び中性線66(O相線)から構成され」ることから、引用発明の「中性線66」は、本願発明1の「単相3線式の中性線」に相当する。
そして、引用発明においては、「電流検出器106は中性線66を流れる電流の電流値(実効値)を直接的に検出」することから、引用発明の「電流検出器106」は、本願発明1の「単相3線式の中性線の電流を検出する電流検出器」に相当する。

イ 「1接点が前記単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部と、」について

引用発明においては、「商業用電源34からの配電線36は単相3線式であり、U相線62、V相線64及び中性線66(O相線)から構成され」ることから、引用発明の「U相線62」および「V相線64」は、それぞれ本願発明1の「単相3線式の第1電圧線」および「第2電圧線」に相当する。
しかしながら、引用発明においては、「第1接点が単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部」は特定されていない。

ウ「前記電流検出器によって検出された前記中性線の電流が過電流である場合、前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路と、」について

引用発明は、「中性線66の実効電流値が第2の設定値(例えば60A)以上であると、配電線36の中性線66に過大の電流が流れているとして、停止信号生成手段94が停止信号を生成し、この停止信号に基づいて作動制御手段86はインバータの出力を停止」するものであるから、中性線66の電流が過電流であるか否かを判断し、中性線66の電流が過電流である場合に、インバータの出力を停止させる作動制御手段を備えている。
よって、引用発明の「作動制御手段」は、本願発明1の「前記電流検出器によって検出された前記中性線の電流が過電流である場合、前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路」と「前記電流検出器によって検出された前記中性線の電流が過電流である場合に動作する手段」である点で共通する。

エ 「前記一方の電圧線から大地に流れる電流に基づいて、前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカと、」について

引用発明においては、「商業用電源34からの配電線36は単相3線式」であることから、引用発明の「商業用電源34」は、本願発明1の「前記単相3線式の電力系統」に相当する。
また、引用発明の「主幹ブレーカ68」は、「商業用電源34と電力負荷38との間に」配設され、「従来の単相3線式の回路構成で一般的に使用される所謂3P2E型のものであり、U相線62及びV相線64にそれぞれその引きはずし素子が配設され、これら引きはずし素子は、U相線62及びV相線64を流れる電流を検知し、U相線62又はV相線64を流れる電流が定格電流、例えば50Aを超えると、主幹ブレーカ68が配電線36の電気的接続を強制的に遮断」するものである。したがって、前記イを踏まえると、引用発明の「U相線62又はV相線64を流れる電流」と、本願発明1の「前記一方の電圧線から大地に流れる電流」とは、「一方の電圧線から流れる電流」である点で共通し、また、引用発明の「主幹ブレーカ68」は、商用電源34からの電力の供給を遮断するものであるから、本願発明1の「前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカ」に相当する。
よって、引用発明の「主幹ブレーカ68」は、本願発明1の「前記一方の電圧線から大地に流れる電流に基づいて、前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカ」と「一方の電圧線から流れる電流に基づいて、前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカ」である点で共通する。

オ 「継電器システム」について

引用発明は、「分散型発電装置の運転制御装置を装備したコージェネレーションシステム」であり、「電力負荷38に供給される電力を制御」する機器といえることから、本願発明1の「継電器システム」と「電力機器システム」である点で共通する。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは、
「単相3線式の中性線の電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器によって検出された前記中性線の電流が過電流である場合に動作する手段と、
一方の電圧線から流れる電流に基づいて、前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカと、
を備える電力機器システム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1では、「第1接点が前記単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部と、」を備えるのに対し、引用発明には、そのような構成が特定されていない点。

(相違点2)
前記電流検出器によって検出された前記中性線の電流が過電流である場合に動作する手段として、本願発明1では、「前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路」を備えるのに対し、引用発明では、インバータの出力を停止させる作動制御手段を備える点。

(相違点3)
前記単相3線式の電力系統からの電力の供給を遮断する漏電ブレーカは、本願発明1では、「前記一方の電圧線から大地に流れる電流に基づいて、」遮断するのに対し、引用発明では、「大地に」流れる電流との特定はされていない点。

(相違点4)
電力機器システムについて、本願発明1は「継電器システム」であるのに対し、引用発明は「分散型発電装置の運転制御装置を装備したコージェネレーションシステム」である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、「第4 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、「単相3線式低圧配線方式に接続された中性線欠相保護装置において、7は電圧線Lを接地するためのリレー接点、8は地絡電流制限抵抗であり、両者によって電圧線の接地回路を構成しており、中性線の断線により異常電圧が発生した場合、トリガダイオード13の両端に係る電圧がスイッチング電圧に達すると、トリガダイオードが導通してサイリスタ12が導通状態となり、サイリスタ12が導通状態となると、リレー9が動作して、リレー接点7および自己保持接点14が閉となり、電圧線Lは、接地回路を通して強制的に接地され、地絡電流を流すので、漏電遮断器が動作して電源回路を遮断すること。」という技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用発明は、「配電線36の中性線66に流れる電流が大きくなっても、主幹ブレーカ68を遮断状態にしないので、電力負荷38の運転を停止させることもな」いものであることから、主幹ブレーカ68を遮断状態にしない引用発明に、引用文献2の「単相3線式低圧配線方式に接続された中性線欠相保護装置において、7は電圧線Lを接地するためのリレー接点、8は地絡電流制限抵抗であり、両者によって電圧線の接地回路を構成しており、中性線の断線により異常電圧が発生した場合、トリガダイオード13の両端に係る電圧がスイッチング電圧に達すると、トリガダイオードが導通してサイリスタ12が導通状態となり、サイリスタ12が導通状態となると、リレー9が動作して、リレー接点7および自己保持接点14が閉となり、電圧線Lは、接地回路を通して強制的に接地され、地絡電流を流すので、漏電遮断器が動作して電源回路を遮断すること。」という技術的事項を適用するのは阻害要因があるといえる。
したがって、上記相違点2−4について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2−4について
本願発明2−4も、上記相違点1に係る本願発明1の「第1接点が前記単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明5について
(1)対比
本願発明5と引用発明とを対比する。

ア 「第1接点が単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部と、」について

引用発明においては、「商業用電源34からの配電線36は単相3線式であり、U相線62、V相線64及び中性線66(O相線)から構成され」ることから、引用発明の「U相線62」および「V相線64」は、それぞれ本願発明5の「単相3線式の第1電圧線」および「第2電圧線」に相当する。
しかしながら、引用発明においては、「第1接点が単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部」は特定されていない。

イ 「前記単相3線式の中性線の電流が過電流である場合、前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路と、」について

引用発明においては、「商業用電源34からの配電線36は単相3線式であり、U相線62、V相線64及び中性線66(O相線)から構成され、」ることから、引用発明の「中性線66」は、本願発明5の「単相3線式の中性線」に相当する。
そして、引用発明は、「中性線66の実効電流値が第2の設定値(例えば60A)以上であると、配電線36の中性線66に過大の電流が流れているとして、停止信号生成手段94が停止信号を生成し、この停止信号に基づいて作動制御手段86はインバータの出力を停止」するものであるから、中性線66の電流が過電流であるか否かを判断し、中性線66の電流が過電流である場合に、インバータの出力を停止させる作動制御手段を備えている。
よって、引用発明の「作動制御手段」は、本願発明5の「前記単相3線式の中性線の電流が過電流である場合、前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路」と「前記単相3線式の中性線の電流が過電流である場合に動作する手段」である点で共通する。

ウ 「継電器」について

引用発明は、「分散型発電装置の運転制御装置を装備したコージェネレーションシステム」であり、「電力負荷38に供給される電力を制御」する機器といえることから、引用発明の「継電器」とは、「電力機器」である点で共通する。

以上のことから、本願発明5と引用発明とは、
「前記単相3線式の中性線の電流が過電流である場合に動作する手段を備える、電力機器。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5)
本願発明5では、「第1接点が単相3線式の第1電圧線および第2電圧線のいずれか一方の電圧線に接続され、第2接点が接地されたリレー部と、」を備えるのに対し、引用発明には、そのような構成が特定されていない点。

(相違点6)
前記単相3線式の中性線の電流が過電流である場合、本願発明5では、「前記リレー部の前記第1接点と前記第2接点とを接続させる演算回路」を備えるのに対し、引用発明ではインバータの出力を停止させる作動制御手段を備える点。

(相違点7)
電力機器について、本願発明5は「継電器」であるのに対し、引用発明では「継電器」との特定はされていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点5について検討すると、「第4 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、「単相3線式低圧配線方式に接続された中性線欠相保護装置において、7は電圧線Lを接地するためのリレー接点、8は地絡電流制限抵抗であり、両者によって電圧線の接地回路を構成しており、中性線の断線により異常電圧が発生した場合、トリガダイオード13の両端に係る電圧がスイッチング電圧に達すると、トリガダイオードが導通してサイリスタ12が導通状態となり、サイリスタ12が導通状態となると、リレー9が動作して、リレー接点7および自己保持接点14が閉となり、電圧線Lは、接地回路を通して強制的に接地され、地絡電流を流すので、漏電遮断器が動作して電源回路を遮断すること。」という技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用発明は、「配電線36の中性線66に流れる電流が大きくなっても、主幹ブレーカ68を遮断状態にしないので、電力負荷38の運転を停止させることもな」いものであることから、主幹ブレーカ68を遮断状態にしない引用発明に、引用文献2の「単相3線式低圧配線方式に接続された中性線欠相保護装置において、7は電圧線Lを接地するためのリレー接点、8は地絡電流制限抵抗であり、両者によって電圧線の接地回路を構成しており、中性線の断線により異常電圧が発生した場合、トリガダイオード13の両端に係る電圧がスイッチング電圧に達すると、トリガダイオードが導通してサイリスタ12が導通状態となり、サイリスタ12が導通状態となると、リレー9が動作して、リレー接点7および自己保持接点14が閉となり、電圧線Lは、接地回路を通して強制的に接地され、地絡電流を流すので、漏電遮断器が動作して電源回路を遮断すること。」という技術的事項を適用するのは阻害要因があるといえる。
したがって、上記相違点6−7について判断するまでもなく、本願発明5は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-11-09 
出願番号 P2018-013419
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 赤穂 美香
土居 仁士
発明の名称 継電器システムおよび継電器  
代理人 弁理士法人青海国際特許事務所  

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