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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1391881
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-24 
確定日 2022-11-24 
事件の表示 特願2017− 76270「端末装置、それを備える無線通信システム、コンピュータに実行させるためのプログラムおよびプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018−182436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年4月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 9月23日付け 拒絶理由通知書
令和2年11月25日 手続補正書、意見書の提出
令和3年 5月11日付け 拒絶理由通知書(最後)
令和3年 7月12日 手続補正書、意見書の提出
令和3年12月20日付け 令和3年7月12日に提出された手続補正
書による補正に対する補正の却下の決定、
拒絶査定
令和4年 3月24日 審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月24日に提出された手続補正書による補正(以下「本件請求時補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件請求時補正の内容
本件請求時補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであるところ、本件請求時補正前の特許請求の範囲及び本件請求時補正後の特許請求の範囲の記載は、それぞれ以下のとおりである。

(1)本件請求時補正前の特許請求の範囲(令和2年11月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲)
「 【請求項1】
センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く端末装置であって、
センサーデータを検出するセンサーと、
前記検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う処理手段と、
前記決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する送信手段とを備える端末装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項4】
前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項3に記載の端末装置。
【請求項5】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項1に記載の端末装置。
【請求項6】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項5に記載の端末装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の端末装置と、
前記端末装置からセンサーデータを受信し、その受信したセンサーデータを保持するサーバとを備える無線通信システム。
【請求項8】
センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作制御をコンピュータに実行させるためのプログラムを除くプログラムであって、
処理手段が、センサーによって検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う第1のステップと、
送信手段が、前記第1のステップにおいて決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する第2のステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項10に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項12に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれかに記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」

(2)本件請求時補正後の特許請求の範囲(下線は請求人が付加したものであり、補正箇所を示す。)
「 【請求項1】
第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有し、センサーデータを検出してサーバへ送信する端末装置であって、
センサーデータを検出するセンサーと、
前記検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータを前記サーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う処理手段と、
前記端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信するときに用いられる前記第1の無線通信システムと異なる前記第2の無線通信システムを用いて、前記決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する送信手段とを備える端末装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記送信手段は、前記第2の無線通信システムを用いて、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを前記第1の無線通信システムを用いて受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記送信手段は、前記第2の無線通信システムを用いて、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項4】
前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記第2の無線通信システムを用いて、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項3に記載の端末装置。
【請求項5】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項1に記載の端末装置。
【請求項6】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項5に記載の端末装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の端末装置と、
前記端末装置からセンサーデータを受信し、その受信したセンサーデータを保持するサーバとを備える無線通信システム。
【請求項8】
第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有する端末装置で検出されたセンサーデータのサーバへの送信をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
処理手段が、センサーによって検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う第1のステップと、
送信手段が、前記端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信するときに用いられる前記第1の無線通信システムと異なる前記第2の無線通信システムを用いて、前記第1のステップにおいて決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する第2のステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記第2の無線通信システムを用いて、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを前記第1の無線通信システムを用いて受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記第2の無線通信システムを用いて、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記第2の無線通信システムを用いて、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項10に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項12に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれかに記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」

2 本件請求時補正の適否の判断
(1)請求項1に対する補正について
ア 本件請求時補正のうち、請求項1に対する補正について検討すると、本件請求時補正は、請求項1に記載された「端末装置」について、本件請求時補正前の「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」という発明特定事項を、本件請求時補正後の「第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有し、センサーデータを検出してサーバへ送信する」という発明特定事項へ変更する事項(以下、「本件請求時補正事項」という。)を含むものである。

イ ところで、特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(同項第1号)、特許請求の範囲の減縮(同項第2号)、誤記の訂正(同項第3号)、明瞭でない記載の釈明(同項第4号)のいずれかを目的とするものに限るとされている。

ウ そこで、本件請求時補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するかについて、まず検討する。

本件請求時補正前の請求項1に記載された、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」という発明特定事項は、端末装置について、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことを特定するものである。
一方、本件請求時補正後の請求項1に記載された、「第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有し、センサーデータを検出してサーバへ送信する」という発明特定事項のうち、「第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有し、」という部分は、端末装置の「無線通信を行う機能」について、「第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有」することを特定するものであり、また、「センサーデータを検出してサーバへ送信する」という部分は、本件請求時補正前の請求項1に記載された「センサーデータを検出するセンサー」を備える点(第2及び第4段落)、及び「センサーデータを前記サーバへ送信する送信手段とを備える」点(第4段落)をまとめて記載したものといえる。

そして、本件請求時補正後の請求項1に記載された、「無線通信を行う機能」を特定する内容は、本件請求時補正前の請求項1に記載された、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」という発明特定事項を含まないことが明らかであるから、本件請求時補正は、本件請求時補正前の請求項1に記載された当該発明特定事項を削除する補正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない、といえる。
また、本件請求時補正後の請求項1に記載された、「無線通信を行う機能」を特定する内容は、本件請求時補正前の請求項1に記載された、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことを、概念的により下位の発明特定事項とするものではないことが明らかであるから、本件請求時補正は、本件請求時補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない、といえる。

そうすると、本件請求時補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた、特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。

エ また、本件請求時補正事項は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げられた請求項の削除、同項第3号に掲げられた誤記の訂正、又は同項第4号に掲げられた明瞭でない記載の釈明、のいずれを目的とするものにも該当しないことが明らかである。

オ したがって、本件請求時補正事項を含む本件請求時補正は、特許法第17条の2第5項の規定を満たすものではない。

(2)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の「【請求の理由】」「(3)本願発明が特許されるべき理由」「(b)補正の根拠の説明」において、概ね以下のように主張している(下線は請求人が付加した。)。
「 その結果、請求項1において、新たな技術的事項であると認定された「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く端末装置であって、」の記載を削除した状態においては、請求項1に記載の端末装置の範囲は、出願当初の請求項1に記載の端末装置の範囲になります。
そして、請求項1に記載の端末装置の範囲が出願当初の請求項1に記載の端末装置の範囲である状態において、「第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有し、センサーデータを検出してサーバへ送信する端末装置であって、」の記載を追加することによって、請求項1に記載の端末装置の範囲は、出願当初の請求項1に記載の端末装置の範囲よりも狭くなります。即ち、令和2年11月25日付けで提出した手続補正書の請求項1に記載の端末装置を限定することになります。
更に、・・・請求項1に記載の「送信手段」を限定することになります。
そして、・・・補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の当該請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることは明らかであります。
従って、審判請求と同時に提出した手続補正書における請求項1の補正は、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)に該当すると思料します。」

要するに、請求人は、本件請求時補正後の請求項1に記載された「端末装置」は、出願当初の請求項1に記載された「端末装置」を限定するものであるから、令和2年11月25日に提出された手続補正書による補正後の請求項1に記載された「端末装置」をも限定するものであり、本件請求時補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する、と主張していると解される。

イ そこで、当該主張について検討する。
まず、本件請求時補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するかどうかについては、本件請求時補正前に適法になされた最新の補正後の特許請求の範囲を基準として判断されるから、本件請求時補正については、令和2年11月25日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の記載を基準として判断される。
そして、本件請求時補正が出願当初の請求項1に記載された「端末装置」を限定するものであるかどうかについては、本件請求時補正の目的とは無関係であり考慮されないから、請求人の上記主張は理由がない。
また、請求人は、本件請求時補正が、本件請求時補正前の請求項1に記載された「端末装置」について、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」という発明特定事項を削除するとともに、「第1の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能と、前記第1の無線通信システムと異なる第2の無線通信システムを用いて無線通信を行う機能とを有し、センサーデータを検出してサーバへ送信する」という発明特定事項を追加するものである点を認めているが、当該追加する内容が、前記削除する内容をさらに特定するものであることは主張していない。
そして、当該追加する内容が、前記削除する内容をさらに特定するものでないことは、上記「(1)請求項1に対する補正について」「ウ」で説示したとおりである。

ウ したがって、請求人の上記主張は、採用されない。

3 補正の却下の決定の理由のむすび
以上のとおりであるから、本件請求時補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件請求時補正は、上記「第2 補正の却下の決定」「[補正の却下の決定の結論]」のとおり却下され、また、令和3年7月12日に提出された手続補正書による補正は、同年12月20日付け補正の却下の決定により却下されたから、本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和2年11月25日に提出された手続補正書による補正後の特許請求範囲に記載された事項によって特定される次のとおりのものである(下線は請求人が付加したものであり、補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く端末装置であって、
センサーデータを検出するセンサーと、
前記検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う処理手段と、
前記決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する送信手段とを備える端末装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項4】
前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項3に記載の端末装置。
【請求項5】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項1に記載の端末装置。
【請求項6】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項5に記載の端末装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の端末装置と、
前記端末装置からセンサーデータを受信し、その受信したセンサーデータを保持するサーバとを備える無線通信システム。
【請求項8】
センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作制御をコンピュータに実行させるためのプログラムを除くプログラムであって、
処理手段が、センサーによって検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う第1のステップと、
送信手段が、前記第1のステップにおいて決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する第2のステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項10に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項12に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれかに記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、令和2年11月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く端末装置であって、
センサーデータを検出するセンサーと、
前記検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う処理手段と、
前記決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する送信手段とを備える端末装置。」
ここで、出願当初の明細書の図1,2及び段落83,84に「…制御部14は、センサーデータを検出するタイミングになると、センサーデータを検出するようにセンサー15を制御するとともに、位置を検出するようにGPS16を制御する。…制御部14は、センサー15からセンサーデータを受け、GPSから端末装置1の位置を示す位置情報を受けると、センサーデータおよび位置情報を受けたときの時刻を検出する。そして、制御部14は、センサーデータ、位置情報、および時刻を示す時間情報を相互に対応付けてストレージ部17に格納する。」と記載され、端末装置1(本件補正の「端末装置」に相当)の制御部14(本件補正の「処理手段」)は、センサーデータを検出するタイミングになると、センサーデータを検出するようにセンサー15を制御するとともに、センサー15からセンサーデータを受ける点は記載されているが、本件補正の請求項1に記載された「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」点については何ら記載されていない。
また、出願当初の明細書又は図面のその他の記載を参照しても本件補正により新たに追加された構成は、出願当初の明細書又図面には、記載されておらず、かつ、その記載から自明に導き出すことができるものでもない。
特に、本件補正の「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間」は、センサを含むネットワークにおいて重要な発明特定要素であるから、本件補正は新たな技術的事項を含むものである。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

3 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであるところ、本件補正前の特許請求の範囲、すなわち本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲、の記載は、以下のとおりである。

「【請求項1】
センサーデータを検出するセンサーと、
前記検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う処理手段と、
前記決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する送信手段とを備える端末装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項1に記載の端末装置。
【請求項4】
前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項3に記載の端末装置。
【請求項5】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項1に記載の端末装置。
【請求項6】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項5に記載の端末装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の端末装置と、
前記端末装置からセンサーデータを受信し、その受信したセンサーデータを保持するサーバとを備える無線通信システム。
【請求項8】
処理手段が、センサーによって検出されたセンサーデータのうち、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定する決定処理を行う第1のステップと、
送信手段が、前記第1のステップにおいて決定されたセンサーデータを前記サーバへ送信する第2のステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータが複数であるとき、複数のセンサーデータを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、自己が搭載された端末装置が他の端末装置からセンサーデータを受信したとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータの信頼度と、前記センサーによって検出されたセンサーデータの信頼度との総和を演算し、その演算した総和がしきい値以上であるとき、前記他の端末装置から受信したセンサーデータと前記センサーによって検出されたセンサーデータとを集約し、
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
前記第2のステップにおいて、前記送信手段は、自己が搭載された端末装置のランクが他の端末装置のランクよりも高いとき、前記集約されたセンサーデータを前記サーバへ送信する、請求項10に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記センサーデータは、検出された位置を示す位置情報と、検出された時間を示す時間情報とによって規定され、
前記第1のステップにおいて、前記処理手段は、前記センサーデータが検出された位置についての信頼度を示す位置信頼度と、前記センサーデータが検出された時間についての信頼度を示す時間信頼度との重み付け和を前記センサーデータの信頼度として用いて前記決定処理を行う、請求項8に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
前記位置信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの位置と前記センサーによって検出されたセンサーデータの位置との距離が小さくなるに従って高くなり、
前記時間信頼度は、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が大きくなるに従って低くなり、前記他の端末装置において検出されたセンサーデータの時間と前記センサーによって検出されたセンサーデータの時間との差の絶対値が小さくなるに従って高くなる、請求項12に記載のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれかに記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」

4 本件補正の適否の判断
(1)請求項1に対する補正について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「端末装置」について、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」という発明特定事項を付加する事項(以下、「本件補正事項」という。)を含むものである。

(2)本件補正事項がいわゆる新規事項を追加するものであるかについて
本件補正事項が、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものかについて、まず検討する。

ア 本件補正事項が、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであるといえるためには、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことが、当初明細書等に明示的に記載されているか、または、当初明細書等の記載から自明な事項でなければならない。

イ そこで、本願の願書に最初に添付された明細書の記載を参酌すると、センサーと端末装置との間の処理に関連して、以下の記載がある。

(ア) 「【0012】
(構成1)
この発明の実施の形態によれば、端末装置は、センサーと、処理手段と、送信手段とを備える。センサーは、センサーデータを検出する。」

(イ) 「【0057】
端末装置1〜10の各々は、例えば、スマートフォン、携帯電話、ウェアラブルデバイスおよび一定の位置に固定された通信機器等からなり、自己に搭載されたセンサーを用いてセンサーデータを検出する参加型センシングを行う端末装置である。」

(ウ) 「【0066】
端末装置1〜10の各々は、例えば、気温、湿度、気圧、CO2、PM2.5、照度、紫外線強度、騒音、および無線周波数等を検出し、その検出した気温および湿度等をセンサーデータとして保持する。」

(エ) 「【0076】
・・・図2を参照して、端末装置1は、アンテナ11,12と、通信部13と、制御部14と、センサー15と、GPS(Global Positioning System)16と、ストレージ部17とを含む。」

(オ) 「【0082】
制御部14は、タイマーを内蔵する。・・・
【0083】
制御部14は、センサーデータを検出するタイミングになると、センサーデータを検出するようにセンサー15を制御するとともに、位置を検出するようにGPS16を制御する。
【0084】
制御部14は、センサー15からセンサーデータを受け、GPSから端末装置1の位置を示す位置情報を受けると、センサーデータおよび位置情報を受けたときの時刻を検出する。・・・」

(カ) 「【0189】
図17を参照して、端末装置pのセンサー15は、定期的にセンサーデータrpをセンシングし(ステップS1〜S3)、そのセンシングしたセンサーデータrpを制御部14へ出力する。」

ウ 上記「イ」「(ア)」ないし「(カ)」には、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことについて明示的な記載が無いことは明らかである。
また、本願の願書に最初に添付された明細書及び図面の記載全体を参酌しても、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことについて明示的な記載は無い。
さらに、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことについて、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲に明示的な記載が無いことは、上記「3 本件補正前の特許請求の範囲」に記載した内容から、明らかである。

エ 次に、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことが、当初明細書等の記載から自明な事項かどうか検討する。
「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことが、当初明細書等の記載から自明であるといえるためには、その前提として、当初明細書等に記載された「端末装置」が、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置」を含むことが自明である必要がある。
しかしながら、上記「3 本件補正前の特許請求の範囲」及び上記「イ」「(ア)」ないし「(カ)」の記載から明らかなとおり、当初明細書等には、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置」については記載も示唆もされておらず、他に、「端末装置」がそのような端末装置を含むことが自明であったと認めるに足りる根拠は見当たらない。
また、当初明細書等において、端末装置がバッテリを備えており、当該バッテリに対して何らかの制御をしていることが自明だとしても、当該制御に、センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーを動作させる制御が含まれることまでも自明であったと認めるに足りる根拠は見当たらない。
そうすると、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く」ことが、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえない。

オ そして、本件補正事項は、当初明細書等に記載された「端末装置」について、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置」を含むものであるという、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものでない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、令和2年11月25日に提出された意見書の「【意見の内容】」「(2)本願発明の説明」において、概ね以下のように主張している。
「 請求項1における「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置を除く端末装置であって、」の補正・・・は、所謂、「除くクレーム」による補正であります。
特許・実用新案審査基準第IV部第2章3.3.1(4)の「除くクレームとする補正の場合」によれば、・・・「除くクレームとする補正の場合」においては、「補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する『除くクレーム』は、除外した後の『除くクレーム』が新たな技術的事項を導入するものではない場合には、許される。」と記載されております。
そして、「除くクレーム」が許される類型(i)として、次の補正が記載されております。
(i)請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正
類型(i)の(説明)においては、「『除くクレーム』とすることにより特許を受けることができる発明は、引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明である。」と記載されております。
そこで、本件において、除くクレームの妥当性について検討します。
本願発明の技術的思想は、センサーによって検出されたセンサーデータのうち、センサーデータの信頼度がしきい値以上であるセンサーデータをサーバへ送信するセンサーデータとして決定し、その決定したセンサーデータをサーバへ送信することであります。
・・・
従って、引用文献1に記載の発明の技術的思想は、センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御することであります。
・・・
従って、本願発明の技術的思想は、引用文献1に記載の発明の技術的思想と顕著に異なります。
また、本願発明は、後述するように、本来、進歩性を有します。
・・・
更に、請求項1においては、「センサーにおけるバッテリの残り駆動時間が目標残り駆動時間に略等しくなるようにセンサーの動作を制御する端末装置」のみを除外するものであり、・・・本願の明細書および図面には、センサーのバッテリの残り駆動時間を制御することは記載されていないので、引用文献1に記載の発明(引用発明)の内容となっている特定の事項を除外することによって、補正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとは言えず、新たな技術的事項を導入することになりません。
従って、請求項1,9に記載の「除くクレームによる補正」は、許容されるべきものであると思料します。」

イ 請求人の上記主張について検討する。
(ア) 本件補正は、令和2年9月23日付け拒絶理由通知書で通知された拒絶理由を解消するためになされたものであるところ、当該拒絶理由通知は、この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由である。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由(進歩性)について
・請求項 1−14
・引用文献等 1及び2
<引用文献等一覧>
1.特開2003−115092号公報
2.特表2012−530466号公報

(イ) そうすると、本件補正は、特許法第29条第2項の拒絶理由を解消するためになされたものであり、特許・実用新案審査基準第IV部第2章3.3.1(4)に記載された上記類型「(i)請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正」に該当しないことが明らかであるから、「請求項1,9に記載の「除くクレームによる補正」は、許容されるべきものであると思料します。」という請求人の主張は採用できない。

(ウ) また、本件補正事項が、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものでないことは、上記「(2)」「オ」で説示した通りであるから、「引用文献1に記載の発明(引用発明)の内容となっている特定の事項を除外することによって、補正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとは言えず、新たな技術的事項を導入することになりません。」という請求人の主張もまた、採用されない。

5 本願発明についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
そして、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許を受けることができないものである。

第4 むすび

以上のとおり、令和2年11月25日付け手続補正書による補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、当該補正後の請求項1に係る発明は、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-27 
結審通知日 2022-09-28 
審決日 2022-10-12 
出願番号 P2017-076270
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H04W)
P 1 8・ 56- Z (H04W)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 齋藤 哲
特許庁審判官 石田 紀之
圓道 浩史
発明の名称 端末装置、それを備える無線通信システム、コンピュータに実行させるためのプログラムおよびプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体  
代理人 松山 隆夫  

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