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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C22C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C |
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管理番号 | 1391900 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-04-11 |
確定日 | 2022-11-22 |
事件の表示 | 特願2019−128145「フレキシブルプリント基板用銅箔」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月12日出願公開、特開2021− 14603、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、令和 1年 7月10日の出願であって、令和 3年 5月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年 8月23日付けで意見書が提出され、令和 4年 1月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年 4月11日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1〜4に係る発明は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」等という。また、本願の願書に最初に添付した明細書を「本願明細書」という。)。 【請求項1】 99.9質量%以上のCuと、添加元素として0.0005〜0.0220質量%のPを含有し、残部不可避的不純物からなる圧延銅箔であって、 Copper方位の結晶方位密度が10未満であり、Brass方位の結晶方位密度が20未満であるフレキシブルプリント基板用銅箔。 【請求項2】 JIS−H3100(C1100)に規格するタフピッチ銅又はJIS−H3100(C1020)の無酸素銅に、添加元素として0.0005〜0.0220質量%のPを含有してなる請求項1に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。 【請求項3】 表面粗さSaが0.2μm未満である請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。 【請求項4】 厚さが12μm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。 第3 原査定の概要 1 理由1(新規性) 本願発明1、2、4は、下記3の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2 理由2(進歩性) 本願発明1〜4は、下記3の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 引用文献等 (1)特開2019−29606号公報(引用文献1) 第4 当審の判断 以下に述べるように、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 1 理由1(新規性) (1)引用文献1に記載された発明 引用文献1の記載(請求項1〜8、段落【0001】〜【0003】、【0005】、【0006】、【0015】〜【0019】、【0030】〜【0038】、表1、2)によれば、特に実施例2(【0030】、【0034】、【0035】)に着目すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「99.91質量%のCuと、添加元素として0.005質量%のPを含有し、残部不可避的不純物からなる圧延銅箔であって、 Ar雰囲気で鋳造して上記化学組成を有する鋳塊(酸素含有量は15ppmである。)を得て、この鋳塊を900℃で均質化焼鈍後、熱間圧延した後、加工度η=1.26で冷間圧延し、300℃で最終焼鈍して5μmに結晶粒径を調整し、その後、表面に発生した酸化スケールを除去して、加工度η=6.65で最終冷間圧延をして目的とする最終厚さの箔として得られたフレキシブルプリント基板用銅箔。」(以下、「引用発明」という。) (2)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明における「99.91質量%のCuと、添加元素として0.005質量%のPを含有し、残部不可避的不純物からなる圧延銅箔」である、「フレキシブルプリント基板用銅箔」は、酸素含有量が15ppmである鋳塊から得られたものであり、得られた上記圧延銅箔においても、酸素含有量は15ppm程度であると解されるところ、本願出願時の技術常識に照らして、当該酸素は上記「不可避的不純物」に該当するものといえる。 そうすると、引用発明における「99.91質量%のCuと、添加元素として0.005質量%のPを含有し、残部不可避的不純物からなる圧延銅箔」、「フレキシブルプリント基板用銅箔」は、それぞれ、本願発明1における「99.9質量%以上のCuと、添加元素として0.0005〜0.0220質量%のPを含有し、残部不可避的不純物からなる圧延銅箔」、「フレキシブルプリント基板用銅箔」に相当する。 以上によれば、本願発明1と引用発明とは、 「99.9質量%以上のCuと、添加元素として0.0005〜0.0220質量%のPを含有し、残部不可避的不純物からなる圧延銅箔である、フレキシブルプリント基板用銅箔」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1 本願発明1では、フレキシブルプリント基板用銅箔の結晶方位密度が「Copper方位の結晶方位密度が10未満であり、Brass方位の結晶方位密度が20未満である」のに対して、引用発明では、フレキシブルプリント基板用銅箔の結晶方位密度が不明である点。 イ 相違点1の検討 (ア)引用文献1には、フレキシブルプリント基板用銅箔の結晶方位密度については、何ら記載されていない。 (イ)また、本願明細書の記載(段落【0029】〜【0037】)によれば、本願発明1の銅箔の製造方法は、引用発明とP含有量が等しい実施例3においては、 無酸素銅(JIS−H3100C1020)に対し、表1に記載の元素(P濃度0.0050%)を添加したインゴットを作製した。このインゴットを900℃前後で熱間圧延、冷間圧延が加えられた後に、焼鈍を加えて表面の酸化スケール除去のための面削を行った。その後に、多段式の冷間圧延機により圧延銅条の厚みが2.0mmになるまで最終焼鈍前冷間圧延した。その後、上記した方法で決定した最終焼鈍の熱処理温度(280℃)で、窒素雰囲気下で30分間の最終焼鈍を行った。その後、最終銅箔厚みである12μmまで圧下率99.4%で最終焼鈍後冷間圧延を行った。 というものである。 ここで、上記製造方法では、最終焼鈍前冷間圧延の圧延率が不明であるが、本願明細書の段落【0024】には、「最終焼鈍前冷間圧延の圧下率は、80%以上とすることが好ましい。」と記載されていることから、上記製造方法においても、最終焼鈍前冷間圧延の圧延率は「80%以上」であると推認される。 (ウ)一方、段落【0016】に記載される引用発明における銅箔の製造方法の加工度η(最終焼鈍前の冷間圧延直前の材料の厚みをA0、最終焼鈍前の冷間圧延直後の材料の厚みをA1として、η=ln(A0/A1))から圧延率を計算すると、加工度η=1.26の場合の圧延率は約71.6%、加工度η=6.65の場合の圧延率は約99.87%となる。 (エ)そうすると、引用発明における銅箔の製造方法と、本願発明1の銅箔の製造方法とは、最終焼鈍前冷間圧延の圧延率が、前者では「約71.6%」であるのに対し、後者では「80%以上」と推認される点、最終焼鈍条件が、前者では「300℃」であるのに対し、後者では「280℃で30分」である点、最終焼鈍後冷間圧延の圧延率が、前者では「約99.87%」であるのに対し、後者では「99.4%」である点で相違するから、製造方法の観点からみても、引用発明の結晶方位密度が、「Copper方位の結晶方位密度が10未満であり、Brass方位の結晶方位密度が20未満である」かどうかは不明である。 (オ)よって、相違点1は、本願発明1と引用発明との実質的な相違点である。 ウ 小括 したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 (3)本願発明2、4について 本願発明2、4は、本願発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本願発明1が、引用文献1に記載された発明であるとはいえない以上、本願発明2、4についても同様に、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願発明1、2、4は、いずれも、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 したがって、本願について、理由1(新規性)によって拒絶すべきものとすることはできない。 2 理由2(進歩性) (1)本願発明1について ア 相違点1の検討 引用文献1には、フレキシブルプリント基板用銅箔の結晶方位密度について何ら記載されておらず、また、フレキシブルプリント基板用銅箔の結晶方位密度を「Copper方位の結晶方位密度が10未満であり、Brass方位の結晶方位密度が20未満である」とすることが、本願出願時の技術常識であるともいえないから、引用発明において、最終焼鈍後冷間圧延後の結晶方位密度を、「Copper方位の結晶方位密度が10未満であり、Brass方位の結晶方位密度が20未満である」ようにすることが動機付けられるとはいえない。 そして、本願発明1は、銅張積層板とした際に、本願明細書の段落【0031】〜【0033】に記載される耐折り曲げ特性が、折り曲げ回数5回以上という、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 そうすると、引用発明において、最終焼鈍後冷間圧延後の結晶方位密度を、「Copper方位の結晶方位密度が10未満であり、Brass方位の結晶方位密度が20未満である」ようにすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。 イ 小括 したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本願発明2〜4について 本願発明2〜4は、本願発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(1)で述べたとおり、本願発明1が、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本願発明2〜4についても同様に、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、本願発明1〜4は、いずれも、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本願について、理由2(進歩性)によって拒絶すべきものとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-11-10 |
出願番号 | P2019-128145 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C22C)
P 1 8・ 113- WY (C22C) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
井上 猛 |
特許庁審判官 |
宮部 裕一 佐藤 陽一 |
発明の名称 | フレキシブルプリント基板用銅箔 |
代理人 | 赤尾 謙一郎 |