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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B |
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管理番号 | 1391990 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-11 |
確定日 | 2022-11-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6783413号発明「表示パネル及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6783413号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6783413号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜17に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)3月28日(優先権主張 2018年(平成30年)3月29日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和2年10月23日に特許権の設定登録がされ(特許掲載公報 令和2年11月11日発行)、その特許について、令和3年5月11日に特許異議申立人鹿川明香(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和3年9月28日付けで取消理由が通知され、令和3年12月1日(受付日)に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和4年5月6日に申立人から意見書が提出され、令和4年6月24日付けで訂正拒絶理由が通知され、令和4年7月12日(受付日)に特許権者から意見書が提出され、令和4年8月4日付けで取消理由が通知され(決定の予告)、令和4年9月9日(受付日)に特許権者から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6783413号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜19について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ヘイズが0.1〜3%」と記載されているのを、「ヘイズが0.22〜2.51%」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項8の記載も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の記載の「前記顔料は、平均粒子径が50〜180nmの黒色顔料」、「前記調色用顔料は、前記黒色顔料の平均粒子径に対して0.8〜1.2倍の平均粒子径」を、それぞれ、「前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が50〜180nmのカーボンブラック」及び「前記調色用顔料は、前記カーボンブラックの前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径に対して0.8〜1.2倍の前記透明樹脂中に前記調色用顔料を分散させた状態での平均粒子径」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項8の記載も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1の記載の「を有する、加飾シート」を、「であり、非表示領域とその非表示領域に隣接する表示領域に対応した領域を有する、加飾シート」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項8の記載も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4の記載の「ヘイズが0.1〜3%」を、「ヘイズが0.22〜2.51%」に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項7の記載も同様に訂正する。) (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項6の「請求項2に記載の加飾シートを準備する工程」という記載を、「基体シートと、前記基体シートの上に形成された表面保護層と、前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料又は染料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である加飾シートを準備する工程」に訂正する。(請求項6の記載を引用する請求項7の記載も同様に訂正する。) (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7の記載の「請求項3から請求項6のいずれかに記載の」を、「請求項4又は請求項6に記載の」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項7の記載に「請求項3から請求項6のいずれかに記載の」とあったところ、請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、新たに請求項18とし、更に「前記基体シート又は前記表面保護層の任意の位置に、」という記載を「前記基体シートの任意の位置に、」と訂正して、 「基体シートと、 前記基体シートの上に形成された透明樹脂と顔料又は染料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である、加飾シートを準備する工程と、 前記加飾シートの透明着色層側の面に、接着層を介して重剥離離型フィルムを形成する工程と、前記重剥離離型フィルムを剥離し、前記加飾シートの前記接着層側の面を基材に積層させて、前記加飾シートを前記基材に固着させ、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記基材までの全光線透過率が40〜90%である積層パネルを得る工程とを備えた、製造方法によって得られた積層パネルを準備する工程と、 非表示領域における前記基材と反対側から測定される全光線透過率が0〜10%となり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%となるように、前記基体シートの任意の位置に、透明樹脂と顔料を含む加飾層を前記非表示領域として形成する工程とを備えた、表示パネルの製造方法。」とする。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項10の記載に「請求項9の記載の」とあるところ、請求項2を引用する請求項9を引用するものを独立形式に改め、 更に「ヘイズが0.1〜3%」、「平均粒子径」、「黒色顔料である」、「積層パネル」を、それぞれ、「ヘイズが0.22〜2.51%」、「前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径」、「カーボンブラックであり、」、「非表示領域とその非表示領域に隣接する表示領域に対応した領域を有する、積層パネル」に訂正して、 「基材と、 基体シートと、前記基体シートの上に形成された表面保護層と、前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である、加飾シートの前記基体シートを剥離して、前記透明着色層側の面を前記基材の上に接するように積層して形成された、前記透明着色層と前記表面保護層とを備え、 前記表面保護層側から測定される前記表面保護層から前記基材までの全光線透過率は、40〜90%であり、 前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が1〜30nmのカーボンブラックであり、 非表示領域とその非表示領域に隣接する表示領域に対応した領域を有する、積層パネル。」とする。(請求項10の記載を引用する請求項12の記載も同様に訂正する。) (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項11の記載に「請求項9の記載の」とあるところ、請求項2を引用する請求項9を引用するものを独立形式に改め、 更に「ヘイズが0.1〜3%」、「前記顔料は、平均粒子径が」、「0.8〜1.2倍の平均粒子径を有する調色用顔料」、「黒色顔料」、「積層パネル」を、それぞれ、「ヘイズが0.22〜2.51%」、「前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が」、「0.8〜1.2倍の前記透明樹脂中に前記調色用顔料を分散させた状態での平均粒子径を有する調色用顔料」、「カーボンブラック」、「非表示領域とその非表示領域に隣接する表示領域に対応した領域を有する、積層パネル」に訂正して、 「基材と、 基体シートと、前記基体シートの上に形成された表面保護層と、前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である、加飾シートの前記基体シートを剥離して、前記透明着色層側の面を前記基材の上に接するように積層して形成された、前記透明着色層と前記表面保護層とを備え、 前記表面保護層側から測定される前記表面保護層から前記基材までの全光線透過率は、40〜90%であり、 前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が50〜180nmのカーボンブラックであり、 前記透明着色層は、前記カーボンブラックの前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径に対して0.8〜1.2倍の前記透明樹脂中に前記調色用顔料を分散させた状態での平均粒子径を有する調色用顔料を更に備え、 非表示領域とその非表示領域に隣接する表示領域に対応した領域を有する、積層パネル。」とする。(請求項11の記載を引用する請求項12の記載も同様に訂正する。) (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項13の記載に「請求項8から請求項12のいずれかに記載の」とあったところ、請求項1を引用する請求項8を引用するものを独立形式に改め、 更に「ヘイズが0.1〜3%」、「前記顔料は、平均粒子径が」、「0.8〜1.2倍の平均粒子径を有する調色用顔料」、「黒色顔料」、「前記表面保護層又は前記基体シートの上の任意の位置に、」を、それぞれ、「ヘイズが0.22〜2.51%」、「前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が」、「0.8〜1.2倍の前記透明樹脂中に前記調色用顔料を分散させた状態での平均粒子径を有する調色用顔料」、「カーボンブラック」、「前記基体シートの上の任意の位置に、」に訂正して、 「基体シートと、前記基体シートの上に形成された、透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、 前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%であり、前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が50〜180nmのカーボンブラックであり、前記調色用顔料は、前記カーボンブラックの前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径に対して0.8〜1.2倍の前記透明樹脂中に前記調色用顔料を分散させた状態での平均粒子径を有する加飾シートと、前記加飾シートの前記透明着色層側の面を積層された基材とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記基材までの全光線透過率は、40〜90%である積層パネルの前記基体シートの上の任意の位置に、非表示領域として形成された、透明樹脂と顔料を含む加飾層を備え、 前記非表示領域における前記加飾層側から測定される全光線透過率が0〜10%であり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%である、表示パネル。」とする。 (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項13の記載に「請求項8から請求項12のいずれかに記載の」とあるところ、請求項2を引用する請求項9を引用するものを独立形式に改め、新たに請求項19とし、 更に「ヘイズが0.1〜3%」、「前記顔料は、平均粒子径が」、「黒色顔料」、「前記表面保護層又は前記基体シートの上の任意の位置に、」を、それぞれ、「ヘイズが0.22〜2.51%」、「前記顔料は、前記透明樹脂中に前記顔料を分散させた状態での平均粒子径が」、「カーボンブラック」、「前記表面保護層の上の任意の位置に、」に訂正して、 「基体シートと、前記基体シートの上に形成された表面保護層と、前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料又は染料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である加飾シートの前記基体シートを剥離して、前記透明着色層側の面を基材の上に接するように積層して形成された、前記透明着色層と前記表面保護層とを備え、前記表面保護層側から測定される前記表面保護層から前記基材までの全光線透過率は、40〜90%である積層パネルの前記表面保護層の上の任意の位置に、非表示領域として形成された、透明樹脂と顔料を含む加飾層を備え、 前記非表示領域における前記加飾層側から測定される全光線透過率が0〜10%であり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%である、表示パネル。」とする。 (16)訂正事項16 特許請求の範囲の請求項14を削除する。 (17)訂正事項17 特許請求の範囲の請求項15を削除する。 (18)訂正事項18 特許請求の範囲の請求項16を削除する。 (19)訂正事項19 特許請求の範囲の請求項17の記載に「請求項16に記載の」とあり、請求項16の記載が引用する請求項14の記載を引用するものについて、独立形式に改めて、 「基体シートと、 前記基体シートの上に形成された離型層と、前記離型層の上に形成された表面保護層と、前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料を含み、JIS C2151に準拠し測定される表面粗さRaが0.1nm〜100nm、拡散透過率が0.2〜1.13%、0.22〜2.51%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層と、 前記透明着色層の上に形成された接着層と、前記接着層の上に形成された重剥離離型フィルムとを備え、前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%であり、前記離型層と前記表面保護層との間の剥離重さは、前記重剥離離型フィルムと前記接着層との間の剥離重さより大きくなるように設定された、加飾シートを準備する工程と、 前記重剥離離型フィルムを剥離し、前記加飾シートの前記接着層側の面を基材に固着する工程と、前記加飾シートの前記基体シート及び前記離型層を剥離し、前記透明着色層及び前記表面保護層を前記基材に転写する工程とを備えた、製造方法によって得られた積層パネルを準備する工程と、 非表示領域における前記基材と反対側から測定される全光線透過率が0〜10%となり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%となるように、前記表面保護層又は前記基体シートの任意の位置に、透明樹脂と顔料を含む加飾層を前記非表示領域として形成する工程とを備えた、表示パネルの製造方法。」とする。 2.訂正の適否 (1)一群の請求項 本件訂正前の請求項2〜6は、請求項7が直接的又は間接的に引用し、請求項1、2、8〜12は、請求項13が直接的又は間接的に引用し、請求項2は請求項7と請求項13のいずれにも間接的に引用される。また、新たに追加された請求項18は、本件訂正前の請求項3を引用する請求項7であり、新たに追加された請求項19は、本件訂正前の請求項2を引用する請求項9を引用する請求項13である。そうすると、訂正後の請求項〔1〜13、18、19〕は、一群の請求項である。 また、本件訂正前の請求項15〜17は、請求項14の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正後の請求項〔14〜17〕は、一群の請求項を構成するものである。 そして、本件訂正は、特定の請求項について別の訂正単位とすることは求められていないから、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜13、18、19〕と請求項〔14〜17〕を、それぞれ訂正単位とするものであり、訂正後の請求項〔1〜13、18、19〕については訂正事項1〜15が、また、訂正後の請求項〔14〜17〕については訂正事項16〜19が、一体の訂正事項として取り扱われるものである。 (2)請求項1〜13、18、19に係る訂正単位について ア 訂正事項1について 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の「ヘイズが0.1〜3%」を、「ヘイズが0.22〜2.51%」に訂正するものである。 ヘイズの下限の「0.22%」と上限の「2.51%」の算出根拠は、訂正請求書の記載(8頁6〜11行)によれば、「基体シート側から測定される基体シートから透明着色層までの全光線透過率が45〜90%となるように、「ヘイズ(%)=(拡散透過率/全光線透過率)×100」を用いて、不合理を生じているヘイズ値を正すと、ヘイズの最大値は、全光線透過率45%、拡散透過率の上限1.13%のときで、2.51%となり、ヘイズの最小値は、全光線透過率90%、拡散透過率の下限0.2%のときで、0.22%となる。」と記載されている。 しかし、全光線透過率の値は基体シートから透明着色層までの加飾シート全体の値(本件明細書の段落【0048】)であるのに対し、拡散透過率の値は透明着色層の値(本件明細書の段落【0118】、【0119】)であり、異なる層である加飾シート全体の値と透明着色層の値を掛け合わせて、透明着色層のヘイズ値が算出できるとする理由が、技術常識からみても不明である。また、全光線透過率とヘイズ値のうち、全光線透過率が正しく、ヘイズ値が誤記であったと解すべき根拠もみあたらない。そのため、算出根拠が不明であるヘイズが「0.22〜2.51%」との事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合せず、訂正事項1に係る訂正は認められない。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1の「平均粒子径」を、「透明樹脂中に顔料を分散させた状態での平均粒子径」とする訂正を含むものである。 本件特許明細書等には、「平均粒子径」について 「【0116】 透明着色層62は、透明樹脂中に顔料を分散させることで形成されている。顔料としては、例えば、平均粒子径が1〜30nmの黒色顔料を用いることができる。一方黒色顔料としては、一般的には、平均粒子径が50〜150nmのものが用いられている。しかし、平均粒子径が50〜150nmの黒色顔料は青色光を吸収しやすく、赤色光を反射しやすい性質を有するため、赤味または黄味がかった底色を有している。特にヘイズを小さくするために、顔料の濃度を小さくした場合に、赤味または黄味がかった色となりやすい。一方で、表示パネルとしては、表示部分となる透明着色層が青味がかった黒色やニュートラルな黒色が好まれる場合がある。その場合、平均粒子径が50〜150nmの黒色顔料のみでは、青味がかった黒色の実現は容易ではない。本実施形態では、青色光を反射しやすい平均粒子径が1〜30nmの黒色顔料を用いることで、青味がかった黒色を実現することができる。 【0117】 ここで、平均粒子径とはレーザ回折・散乱式 粒子径分布測定装置によって測定したものである。」と記載されている。 しかし、「平均粒子径」の測定を、透明樹脂中に顔料を分散させた状態で行うとは記載されていない。また、このことが技術常識であるともいえない。 さらに、特許権者が、訂正請求書(9頁20〜29行)で、上記訂正の根拠とする、本件特許明細書等の段落【0127】、【0128】にも、「透明樹脂中に顔料を分散させた状態での平均粒子径」であることは記載されていない。 そうすると、上記訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合せず、訂正事項2に係る訂正は認められない。 ウ 訂正事項6、8、10、12〜15について 訂正事項6、8、10、12〜15は、上記(2)ア又はイで検討した訂正を含むものであり、上記(2)ア又はイで検討した理由と同様の理由で、訂正事項6、8、10、12〜15に係る訂正は認められない。 (3)請求項14〜17に係る訂正単位について 訂正事項19は、本件訂正前の請求項17が引用する請求項16が引用する請求項14で、ヘイズが「0.1〜3%」とされていたものを、「0.22〜2.51%」とする訂正を含むものである。 しかし、この訂正は、上記(2)アで検討した理由と同様の理由で認められるものではなく、この訂正を含む訂正事項19に係る訂正は認められない。 (4)まとめ 上記(1)のとおり、特許請求の範囲の請求項1〜13、18、19に係る訂正である訂正事項1〜15、及び、請求項14〜17に係る訂正事項16〜19は、それぞれ一体の訂正事項として取り扱われるものである。 よって、訂正事項1、2、6、8、10、12〜15に係る訂正が認められないため、特許請求の範囲の請求項1〜13、18、19に係る訂正は認められない。 また、訂正事項19が認められないため、特許請求の範囲の請求項14〜17に係る訂正も認められない。 第3 本件特許発明 本件特許の請求項1〜17に係る発明は、特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものである(以下、これらの各発明を「本件発明1」のようにいう。)。 【請求項1】 基体シートと、 前記基体シートの上に形成された、透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、 前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%であり、 前記顔料は、平均粒子径が50〜180nmの黒色顔料であり、 前記調色用顔料は、前記黒色顔料の平均粒子径に対して0.8〜1.2倍の平均粒子径を有する、加飾シート。 【請求項2】 基体シートと、 前記基体シートの上に形成された表面保護層と、 前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料又は染料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、 前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である、加飾シート。 【請求項3】 基体シートと、前記基体シートの上に形成された、透明樹脂と顔料又は染料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である、加飾シートを準備する工程と、 前記加飾シートの透明着色層側の面に、接着層を介して重剥離離型フィルムを形成する工程と、 前記重剥離離型フィルムを剥離し、前記加飾シートの前記接着層側の面を基材に積層させて、前記加飾シートを前記基材に固着させ、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記基材までの全光線透過率が40〜90%である積層パネルを得る工程とを備えた、積層パネルの製造方法。 【請求項4】 基体シートと、前記基体シートの上に形成された、透明樹脂と顔料又は染料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層とを備え、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%である、加飾シートを準備する工程と、 基材の上にダムを形成する工程と、 前記ダムに接着層を形成する工程と、 前記接着層の上に、前記加飾シートの前記透明着色層側の面を押し付け、前記加飾シートを前記基材に固着させ、前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記基材までの全光線透過率が40〜90%である積層パネルを得る工程とを備えた、積層パネルの製造方法。 【請求項5】 請求項2に記載の加飾シートの透明着色層側の面に、接着層を介して重剥離離型フィルムを形成する工程と、 前記重剥離離型フィルムを剥離し、前記加飾シートの前記接着層側の面を基材に積層させて、前記加飾シートを前記基材に固着させる工程と、 前記基体シートを剥離して、前記表面保護層側から測定される前記表面保護層から前記基材までの全光線透過率が40〜90%である積層パネルを得る工程とを備えた、積層パネルの製造方法。 【請求項6】 請求項2に記載の加飾シートを準備する工程と、 基材の上にダムを形成する工程と、 前記ダムに接着層を形成する工程と、 前記接着層の上に、前記加飾シートの前記透明着色層側の面を押し付け、前記加飾シートを前記基材に固着させる工程と、 前記基体シートを剥離して、前記表面保護層側から測定される前記表面保護層から前記基材までの全光線透過率が40〜90%である積層パネルを得る工程とを備えた、積層パネルの製造方法。 【請求項7】 請求項3から請求項6のいずれかに記載の製造方法によって得られた積層パネルを準備する工程と、 非表示領域における前記基材と反対側から測定される全光線透過率が0〜10%となり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%となるように、前記基体シート又は前記表面保護層の任意の位置に、透明樹脂と顔料を含む加飾層を前記非表示領域として形成する工程とを備えた、表示パネルの製造方法。 【請求項8】 基材と、 前記透明着色層側の面を前記基材の上に積層された請求項1に記載の加飾シートとを備え、 前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記基材までの全光線透過率は、40〜90%である、積層パネル。 【請求項9】 基材と、 請求項2に記載の加飾シートの前記基体シートを剥離して、前記透明着色層側の面を前記基材の上に接するように積層して形成された、前記透明着色層と前記表面保護層とを備え、 前記表面保護層側から測定される前記表面保護層から前記基材までの全光線透過率は、40〜90%である、積層パネル。 【請求項10】 前記顔料は、平均粒子径が1〜30nmの黒色顔料である、請求項9に記載の積層パネル。 【請求項11】 前記顔料は、平均粒子径が50〜180nmの黒色顔料であり、 前記透明着色層は、前記黒色顔料の平均粒子径に対して0.8〜1.2倍の平均粒子径を有する調色用顔料を更に備えた、請求項9に記載の積層パネル。 【請求項12】 前記表面保護層又は前記基体シートは、JIS C2151に準拠し測定される表面粗さRaが0.1nm〜100nmである、請求項10又は請求項11に記載の積層パネル。 【請求項13】 透明樹脂と顔料を含み、請求項8から請求項12のいずれかに記載の積層パネルの前記表面保護層又は前記基体シートの上の任意の位置に、非表示領域として形成された加飾層を備え、 前記非表示領域における前記加飾層側から測定される全光線透過率が0〜10%であり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%である、表示パネル。 【請求項14】 基体シートと、 前記基体シートの上に形成された離型層と、 前記離型層の上に形成された表面保護層と、 前記表面保護層の上に形成された、透明樹脂と顔料を含み、JIS C2151に準拠し測定される表面粗さRaが0.1nm〜100nm、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層と、 前記透明着色層の上に形成された接着層と、 前記接着層の上に形成された重剥離離型フィルムとを備え、 前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%であり、 前記離型層と前記表面保護層との間の剥離重さは、前記重剥離離型フィルムと前記接着層との間の剥離重さより大きくなるように設定された、加飾シート。 【請求項15】 前記離型層と前記表面保護層との間の剥離重さは、0.15〜0.50N/25mmであり、 前記重剥離離型フィルムと前記接着層との間の剥離重さは、0.05N〜0.30N/25mmである、請求項14に記載の加飾シート。 【請求項16】 請求項14又は請求項15に記載の加飾シートを準備する工程と、 前記重剥離離型フィルムを剥離し、前記加飾シートの前記接着層側の面を基材に固着する工程と、 前記加飾シートの前記基体シート及び前記離型層を剥離し、前記透明着色層及び前記表面保護層を前記基材に転写する工程とを備えた、積層パネルの製造方法。 【請求項17】 請求項16に記載の製造方法によって得られた積層パネルを準備する工程と、 非表示領域における前記基材と反対側から測定される全光線透過率が0〜10%となり、前記非表示領域と前記非表示領域に隣接する表示領域との色差ΔEが0.1〜1.0%となるように、前記表面保護層又は前記基体シートの任意の位置に、透明樹脂と顔料を含む加飾層を前記非表示領域として形成する工程とを備えた、表示パネルの製造方法。 第4 取消理由(決定の予告)の概要 令和4年8月4日付けで当審が通知した取消理由(決定の予告)は、次のとおりである。 1.明確性要件について 本件発明1は、「顔料」の「平均粒子径」を特定する発明特定事項を含んでいるが、「顔料」の「平均粒子径」とは、一般に粒子径と言った場合に、その対象が一次粒子であったり二次粒子であったりすること等を考えると、どのようなものを指すのか不明である。したがって、本件発明1は明確でない。 また、本件発明8、10〜13も、本件発明1を直接的又は間接的に引用して上記事項を含むため、明確でない。 よって、これらの特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、いずれも、特許法第113条第4号に該当する。 2.実施可能要件について 上記「1.」で述べたとおり、「平均粒子径」という点で、どのような「顔料」とすれば良いのか理解できないから、本件発明1、8、10〜13は、当業者が実施することができず、それらの発明に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、いずれも、特許法第113条第4号に該当する。 第5 当審の判断 1.明確性要件について 本件発明1の「顔料」の「平均粒子径」は、「レーザ回折・散乱式 粒子径分布測定装置によって測定したもの」(本件特許明細書等の段落【0117】)とされている。 レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置では、甲第22号証(“粒子径解析手法:動的光散乱法とレーザー回折・散乱法の比較”、[online]、Anton Paar、インターネット<https:wiki.anton-paar.com/jp-jp/particle-size-analysis-methods-dynamic-light-scattering-vs-laser-diffraction/>)に記載のとおり、測定サンプルとして分散液又は乾燥粉体が用いられる。乙第3号証(“粒子径測定用のレーザー回折・散乱法”、[online]、Anton Paar、インターネット<https://wiki.anton-paar.com/jp-jp/laser-diffraction-for-particle-sizing/>)に記載のとおり、レーザー回折・散乱法において、顔料を分散液の状態で用いる場合には、湿式(分散液)のサンプルを用い、顔料を粉体の状態で用いる場合には、乾式(乾燥粉体)のサンプルを用いる。本件発明1では、顔料を透明樹脂中に分散させた状態で用いているため(本件特許明細書等の段落【0054】)、顔料の平均粒子径を測定するサンプルは分散液である。 ここで、分散液とは、顔料を溶媒中で一定の粒度まで解砕(解凝集)させ、顔料が均一で安定的な状態である液体を表す(乙第4号証(“分散と凝集”、[online]、株式会社トクシキ、インターネット<https://orizuru.co.jp/media/technical_information/microparticulation_technology/a29>)が、顔料を溶媒中に分散させる際には、顔料の粒子一個分(一次粒子)まで分解して分散させることはできず、顔料の粒子が凝集した状態に(二次粒子)で分散されているとされる(乙第1号証(特開2016−161925号公報(【0020】))、乙第2号証(特開2013−96944号公報(【0004】))。 このように、分散液中では、顔料は二次粒子の状態で存在することが通常であり、本件発明1において、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置によって分散液中の顔料の平均粒子径を測定することから、この方法で測定される平均粒子径は、二次粒子のものと理解される。 よって、本件発明1、8、10〜13は明確というべきであり、それらの発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであり、いずれも、特許法第113条第4号に該当しない。 2.実施可能要件について 上記「1.明確性要件について」で述べたように、本件発明の「顔料」は「二次粒子」と理解でき、本件特許明細書等に記載のレーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定できるから、本件発明1、8、10〜13は、当業者が実施することができるものというべきである。 よって、本件発明1、8、10〜13に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであり、いずれも、特許法第113条第4号に該当しない。 3.取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について (1)実施可能要件について 申立人は、本件発明1は相互に矛盾するパラメータを規定しており、本件特許明細書等の発明の詳細な説明は、そのような発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、実施可能要件を満たさない旨主張する。(特許異議申立書47〜48頁) しかし、本件発明1が実施可能であるとは、本件発明1が特定する「前記基体シートの上に形成された、透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層」を備えて、「前記基体シート側から測定される前記基体シートから前記透明着色層までの全光線透過率が45〜90%」を満たす加飾シートを製造できることであるところ、基体シートから透明着色層までの全光線透過率が45〜90%の範囲の加飾シートは、「拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μm」の各パラメータの数値範囲内のいずれかの数値を備える透明着色層と基体シートとで製造できる(本件特許明細書等の段落【0135】〜【0136】)。また、これらの数値範囲の中から数値を選んでも製造できないとする理由はない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (2)サポート要件について ア 申立人は、「本件発明の課題解決に必須のパラメータに関して本件明細書では何らその裏付けとなる実験データを開示しておらず、また、そのような実験データを開示しなくともこれらのパラメータを充足すればその問題を解決できると言えるような技術常識は存在しない。従って、本件発明の各種パラメータに関し、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されているとも、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載されているとも認められない。従って、本件発明に係る特許にはいずれもサポート要件違反の取消事由が存在する。」、「本件明細書では、平均粒子径が50〜180nmの黒色顔料を用いる場合、ヘイズの上昇を抑えた透明着色層を得るためには黒色顔料の平均粒子径に揃えた調色用顔料を用いる必要があると記載されているにもかかわらず、本件発明2は、透明着色層に含まれる着色剤として「顔料又は染料」という選択式の記載となっており、また、顔料について平均粒子径の限定がされていない。・・・・同様のことは、同様に顔料(または染料)の存在を前提としつつも、その必須の解決手段である平均粒子径が何ら規定されていない本件発明3乃至7、9、13乃至17についても同様に当て嵌まる。」旨主張する。(特許異議申立書49〜52頁) イ 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 ウ そこで、本件特許明細書等を参照すると、次の記載がある、 「【技術分野】 【0001】 この発明は、透明着色層を有する表示パネル及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 車載用ナビゲーションシステムや携帯端末などにおいて、情報を表示するための表示パネルが用いられている。この表示パネルは、透光性に優れた表示領域と、所要の範囲で液晶パネルなどの表示ディバイスからの光漏れを防ぐ非表示領域とから構成されている。その中で、表示ディバイスの非点灯時の意匠性の観点から、着色された表示領域が設けられている場合がある。例えば、特開2009−96380号公報(特許文献1)においては、表示領域をスモーク色の樹脂を用いて形成した表示パネルが開示されている。 ・・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 上記のような従来の表示パネルでは、顔料を練り込んで着色された樹脂基材を用いて、表示パネルを形成しているため、様々な色調の表示パネルを製造するためには、それぞれの色彩に着色された樹脂基材を用意する必要があるが、その製造方法により一度に3t以上の着色樹脂を用いての生産などが要求されるため、ロットの小さい機種での採用が難しく、かつ同一装置で透明樹脂からなる表示パネルを生産するため、樹脂換えのための装置洗浄に大量の透明樹脂を流動させることが必要になる点から、採用される機種が限定されていた。又、表示パネルとして、着色されたガラスを用いる場合には、例えば、ガラスの原料に着色剤を加え高温で溶融して表示パネルを製造するか、透明ガラスの表面に金属酸化膜の多層膜により透明着色を形成した表示パネルを製造するが、前者の場合、透明着色樹脂からなる表示パネルと同様に製造方法の制約があり小ロット対応が困難となる。 【0005】 後者の場合、最終製品形状に仕上げた透明ガラスに個々に高額な多層膜を形成するため、コストが高く、かつ再現できない色調があるなどデザイン性に制約があった。 【0006】 この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、予め色調や光学特性および塗膜表面状態を精度良く管理された透明着色層を有する加飾シートを用いて樹脂板やガラスなどの基材上に、透明着色層を形成してなる積層パネルに対し、非表示領域となる加飾層を形成した表示パネル及びその製造方法を提供することを目的とする。 ・・・・ 【発明の効果】 【0045】 この発明によれば、基材を透明着色層によって加飾した積層パネル及び積層パネルに表示領域と非表示領域を形成した表示パネルを得ることができる。」 エ 上記記載から、表示パネルについて、従来、顔料を練り込んで着色された樹脂基材を用いて表示パネルを形成する場合には、様々な色調の表示パネルを製造するため、それぞれの色彩に着色された樹脂基材を用意する必要があるが、ロットの小さい機種での採用が難しく、採用される機種が限定されるという課題があり、表示パネルとして着色されたガラスを用いる場合も、小ロット対応が困難であり、最終製品形状に仕上げた透明ガラスに個々に高額な多層膜を形成するため、コストが高く、かつ再現できない色調があるなどデザイン性に制約があるとい課題があり、本件発明は、そのような課題を解決しようとするものであると理解される。 そして、この課題は、「予め色調や光学特性および塗膜表面状態を精度良く管理された透明着色層を有する加飾シートを用いて樹脂板やガラスなどの基材上に、透明着色層を形成」(段落【0006】)することにより解決できると、本件特許明細書等の記載から理解できる。 よって、顔料や染料を含む透明着色層を備える本件発明は、本件発明の課題を解決し得ると認識できるから、本件発明は、サポート要件を満たすものである。 オ 申立人は上記アのように主張するが、上記エで述べたように、本件発明の解決しようとする課題は、予め色調や光学特性および塗膜表面状態を精度良く管理された透明着色層を有する加飾シートを、樹脂板やガラスなどの基材上に形成することにより解決できると、当業者であれば認識できるものである。そのため、申立人が主張する、実験による裏付けられたパラメータや顔料の平均粒子径の特定は、本件発明がサポート要件を満たすために必須のものとはいえない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 (3)新規性・進歩性要件について ア 申立人は、次の甲第1号証(特開2001−310351号公報)、甲第2号証(特開2003−191366号公報)を提出し、本件発明1〜17は、新規性又は進歩性要件を満たさない旨主張する。 イ 甲第1号証(以下「甲1」という。)には、次の技術的事項及び発明が記載されている。(なお、下線は当審で付したものである。以下同じ。) 「【請求項1】 基体シート上に少なくとも微細凹凸層が形成された裏面用加飾シートを基体シート側がキャビティ面に接するように金型内に設置し、金型内に透明な溶融樹脂を射出して加飾シートと樹脂からなる透明基板との一体化物を得、次いで裏面用加飾シートの基体シートを剥離して、透明基板の表面が平滑であり裏面が微細凹凸形状を有する成形品を得ることを特徴とする反射防止成形品の製造方法。 【請求項2】 一方の面に微細凹凸形状が形成された基体シートを用いた裏面用加飾シートを微細凹凸形状とは反対側の面がキャビティ面に接するように金型内に設置し、金型内に透明な溶融樹脂を射出して加飾シートと樹脂からなる透明基板との一体化物を得、次いで裏面用加飾シートの基体シートを剥離して、透明基板の表面が平滑であり裏面が微細凹凸形状を有する成形品を得ることを特徴とする反射防止成形品の製造方法。 【請求項3】 基体シート上に少なくとも図柄層が形成された表面用加飾シートを、裏面用加飾シートと対向するキャビティ面に基体シートが接するように金型内に設置し、金型内に透明な溶融樹脂が射出されて表面用加飾シートおよび裏面用加飾シートと樹脂とからなる透明基板との一体化物が得られた後に、表面用加飾シートおよび裏面用加飾シートの基体シートを剥離して、透明基板の表面に図柄層を形成する請求項1〜2のいずれかに記載の反射防止成形品の製造方法。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ、自動車用機器などのディスプレイ部分のカバー部品などに用いることができる反射防止成形品の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ、自動車用機器などにおいて、ディスプレイ部分は、液晶パネルあるいは有機ELパネルとの組み合わせなどにより構成されている。ディスプレイ部分は、液晶パネルの破損を防止したり、液晶パネルの表示を拡大したり、液晶パネル近辺を装飾したりすることを目的として、レンズ状に成形した透明基板や縁取りなどの図柄が形成された透明基板により構成されるカバー部品により覆われている。 【0003】液晶パネルとの間に空間を設けて設置するカバー部品の場合は、液晶パネルとカバー部品との間に空気層が存在するため、液晶パネルからの光がカバー部品を透過する際、カバー部品の裏面で反射が生じる。このようなカバー部品において、透明基板がアクリル樹脂からなる場合、アクリル樹脂の屈折率が1.48であり空気層の屈折率1.0に比べ高屈折なため、カバー部品の片面で4〜5%の反射率を示すものであった。したがって、カバー部品の裏面からの外光が反射して写り込み視認性が落ちるため、反射光をできるだけ抑えたいという要求がある。 【0004】また、液晶パネルのカラー化が進むに伴い、カバー部品の裏面からの反射光がディスプレイ表示のコントラストに影響を及ぼし表示品質を落とすことから、裏面の反射の少ないカバー部品が求められている。」 「【0008】 【発明が解決しようとする課題】・・・・ 【0011】したがって、この発明は、上記のような欠点を解消し、透明基板の裏面に透明低反射層を形成せずとも優れた反射防止効果を有する反射防止成形品を容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。」 【0023】 【発明の実施の形態】図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳しく説明する。 ・・・・ 【0025】この発明の反射防止成形品5の製造方法は、基体シート11上に少なくとも微細凹凸層12が形成された裏面用加飾シート10を基体シート11側がキャビティ面に接するように金型1内に設置し、金型1内に透明な溶融樹脂を射出して加飾シートと樹脂からなる透明基板2との一体化物を得、次いで裏面用加飾シート10の基体シート11を剥離して、透明基板2の表面が平滑であり裏面が微細凹凸形状6を有する成形品を得る方法である(図1〜3参照)。 【0026】このように構成することにより、裏面の微細凹凸形状6により裏面からの反射が拡散され、防眩が可能となる反射防止成形品5を容易に得ることができる。 ・・・・ 【0034】転写層の剥離性を高めるとともに微細凹凸層12の微細凹凸形状6を写し取って微細凹凸形状6を表現するためには剥離層13を形成するとよい。・・・・ 【0038】また、反射防止成形品5を加飾するために転写層として図柄層14を形成してもよい。図柄層14は、剥離層13の上に形成するとよい。 【0039】図柄層14は、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。印刷層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。印刷層は、通常は、部分的に設ける。 ・・・・ 【0048】微細凹凸形状6は、光拡散させるためのものでヘイズが発生しない程度であれば、その表面粗度は特に限定されない。好ましくは、ヘイズ値が0.1〜8.0(JIS K7105準拠)になるよう調整した方がよい。ヘイズ値が0.1に満たないと、光拡散効果が十分に得られず、反射防止成形品5の裏面の反射を防止できない。また、ヘイズ値が8.0を越えると、白濁が著しくなり、反射防止機能が優れていても反射防止成形品5の裏面に配置されるディスプレイの文字や画像がにじんでみえることになるので好ましくない。ヘイズ値は、0.1〜3.0の範囲であるのが特に好ましい。この範囲内にあると、反射防止成形品5の透明感が増し、コントラストがより高くなり文字や画像のにじみも減少する。 ・・・・ 【0061】透明基板2の表面に、図柄層23や保護層22などを形成するために、表面用加飾シート20を利用してもよい。表面用加飾シート20を用いることにより、透明基板2の裏面に微細凹凸形状を形成するのと同時に、透明基板2の表面に、図柄層23や保護層22などを形成することができる。 【0062】表面用加飾シート20は、転写材あるいはインサート材として構成される。 【0063】表面用加飾シート20として転写材を用いる場合、表面用加飾シート20は、基体シート21上に、図柄層23や保護層22などが転写層として構成される。 【0064】基体シート21としては、裏面用加飾シート10の場合と同様のものを用いることができる。必要に応じて、離型層や剥離層を形成する。 【0065】保護層22は、基体シート21または離型層上に全面的に形成する。保護層22は、成形同時転写後に基体シート21を剥離した際に、基体シート21または離型層から剥離して被転写物の最外面となり、反射防止成形品5の表面強度を高める層となる。保護層22の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。 【0066】図柄層23は、裏面用加飾シート10の場合と同様にして形成するとよい。 ・・・・ 【0068】また、必要に応じて、接着層24などを形成してもよい。 ・・・・ 【0070】上記のように構成した表面用加飾シート20である転写材を、裏面用加飾シート10と対向するキャビティ面に基体シート21が接するように金型1内に設置し(図1参照)、金型1内に透明な溶融樹脂が射出されて表面用加飾シート20および裏面用加飾シート10と樹脂とからなる透明基板2との一体化物が得られた後に(図2参照)、表面用加飾シート20および裏面用加飾シート10の基体シート11、21を剥離する(図3参照)。このようにして、透明基板2の表面に、図柄層14、23や保護層22などを形成することができる(図5参照)。」 「【0079】 【実施例】厚さ33μmのポリエステルフィルム(帝人株式会社製G2N)を基体シートとし、その上に酸化ケイ素を12重量%含有するエポキシ系樹脂からなる微細凹凸層、アクリル系樹脂からなる剥離層、ビニル系樹脂からなる接着層を順次グラビア印刷法で形成して裏面用加飾シートを得た。各層の厚さは1.0μmとなるようにした。 【0080】また、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シートとし、その上に紫外線硬化樹脂からなる保護層、アクリル系樹脂からなる図柄層、ビニル系樹脂からなる接着層を順次グラビア印刷法で形成して表面用加飾シートを得た。 【0081】携帯電話のディスプレイ部分のカバー部品を成形する成形用金型に、裏面用加飾シートを基体シート側がキャビティ面に接するように金型内に設置した。また、表面用加飾シートを、裏面用加飾シートと対向するキャビティ面に基体シートが接するように金型内に設置した。 【0082】次いで、金型内に透明なアクリル系樹脂(住友化学工業株式会社製スミペックスHT−55X)を射出し、表面用加飾シートおよび裏面用加飾シートと樹脂とからなる透明基板との一体化物を得た。 【0083】次いで、表面用加飾シートおよび裏面用加飾シートの基体シートを剥離したところ、透明基板の表面には、接着層、図柄層、保護層が順次積層され、平滑面が形成された。また、透明基板の裏面には、接着層と剥離層が順次形成され、基体シートとともに除去された微細凹凸層の凹凸形状が剥離層に写し取られ、剥離層表面に微細凹凸形状が形成された。 【0084】このようにして得た携帯電話のディスプレイ部分のカバー部品である反射防止成形品は、微細凹凸形状の表面粗度(Ra)が2.8μmとなり、裏面の反射防止効果に優れたものであった。」 「【図1】 【図2】 【図3】 【図5】 」 以上の記載事項、特にその実施例の記載から、甲1には表面用加飾シートに係る次の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されている。 「基体シート上に、保護層、アクリル樹脂系の樹脂からなる図柄層、接着層がこの順で形成された表面用加飾シートであって、 前記図柄層は、印刷層として形成し、顔料を着色剤として含有する着色インキを用いた、 表面用加飾シート。」 また、甲1には、この表面用加飾シートを用いて製造された反射防止成形品に係る発明(以下「甲1発明2」という。)も記載されている。 「表面用加飾シートの基体シートを剥離して、透明基板上に、接着層、アクリル樹脂系の樹脂からなる図柄層、保護層がこの順で積層された反射防止成形品であって、 前記図柄層は、印刷層として形成し、顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いた、 反射防止成形品。」 ウ 甲第2号証(以下「甲2」という。)には、次の技術的事項及び発明が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 透明基材フィルム層と、透明基材フィルム層の一方の面に設けられたハードコート層、透明基材フィルムの他方の面に設けられた粘着剤層からなり、紫外線吸収剤がいずれかの層に含有され、着色剤がいずれかの層に含有され、かつ着色剤の含有される層が紫外線吸収剤の含有される層より粘着層側に存在し、ヘーズ値が5%以下の着色ハードコートフィルムであって、波長450〜650nmの範囲における光線の透過率の平均値(Tav)が0.40〜0.80であり、かつ該波長範囲における各波長iの光線の透過率(Ti)をTavで割った値が0.70〜1.30であることを特徴とする着色ハードコートフィルム。」 「【請求項9】 着色剤が、平均粒径10〜500nmの顔料、又は染料である請求項1に記載の着色ハードコートフィルム。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、表示装置の表示面に貼り合せて使用するのに好適な着色ハードコートフィルムに関する。さらに詳しくは、CRTや液晶表示装置などの電子ディスプレイの表示面に貼り合せることで、映像のコントラストや色純度を向上できる着色ハードコートフィルムに関する。」 「【0006】 【課題を解決するための手段】・・・・ 【0011】本発明の着色ハードコートフィルムは、ハードコート層、フィルム層および粘着層から構成されるが、フィルム層は単層のフィルムからなってもよく、多層のフィルムからなってもよい。 【0012】[光線透過率]本発明の着色ハードコートフィルムは、前記三原色光の重畳部分を透過させないために、波長450〜650nmの範囲における光線透過率の平均値(Tav)が0.40〜0.80の範囲にあることが必要である。このTavが0.80を超えると、コントラストを強める効果が十分に発現できず、他方0.40未満では、画面全域が暗くなって視認性が低下する。好ましいTavは0.50〜0.70の範囲である。本明細書においては、以下にTavを平均透過率と称することがある。 ・・・・ 【0014】[着色剤]本発明においては、吸光度を上げる際、着色ハードコートフィルムのヘーズ値を大きくしないことが肝要であり、従って本発明の着色ハードコートフィルムは、ヘーズ値を5%以下にすることが必要である。このヘーズ値は4%以下が好ましく、3%以下が更に好ましい。ヘーズ値が5%より大きいと、映像の色相が白濁し、鮮映性を欠いて視認性が低下する。前記着色ハードコートフィルムのヘーズを5%以下にしつつ、Tavを0.80以下にする手段としては、例えば着色剤として粒径500nm以下の顔料または染料を用いることが好ましく挙げられる。着色剤の添加量は、積層ポリエステルフィルムの一層及び粘着剤層の厚み方向に垂直な面に対して0.02〜0.42g/m2の範囲である。 【0015】本発明における着色剤としては、上述のように、染料および顔料が好ましく挙げられる。染料は一般的に顔料に比べ耐侯性が劣るため、その使用には注意を要し、耐侯性の観点からは顔料が好ましいが、他方で顔料はその散乱光によりフィルムヘーズが増加するという二律背反の特性を有する。この為顔料を用いる場合には、その粒径を小さくすることによりヘーズを抑える必要がある。従って、粘着層又はフィルムに配合する顔料は、透明基材、すなわちフィルムを構成するポリエステルヘの分散性が良好であり、分散後は粒径が小さく、均一な粒径分布をもち、染料と同様な理由から各波長の吸光度を平均的に低下させるものが好ましい。 【0016】着色剤の顔料としては、ポリエステル又は粘着剤ヘの分散性がよく、各波長の吸光度を平均的に低下させることから、カーボンブラックや酸化コバルトなどの無機顔料が好ましい。分散後の粒径は10〜500nmであることが好ましい。無機顔料の特に好ましい添加量は、ポリエステルフィルムの一層及び粘着剤層の厚み方向に垂直な面に対して、0.02〜0.18g/m2の範囲である。 【0017】また、有色系の顔料を適宜、色相が黒色になるよう混合したものを使用してもよい。この有色顔料の例としては、フタロシアニン系顔料(例えば、銅フタロシアニン、塩素化銅フタロシアニン、スルホン化フタロシアニン等)、キナクリドン系顔料(例えば、キナクリドンピグメントバイオレッド19、2,9−ジメチルキナクリドン、キナクリドンキノン等)などが挙げられ、染料としては、ペリレン系染料(例えば、ビオラントロン、イソビオラントロン、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等)、インダンスレンブルー系染料(例えば、フラバントロン・イエロー、インダンスレン・レッド5GK、インダンスレン・バイオレッドBN等)などが挙げられる。」 「【0074】[透明基材フィルム層]本発明では、透明基材フィルム層として、透明基材フィルムを用いる。透明基材フィルムは、単層のものでもよく、積層されたものでもよい。使用する透明基材フィルムは、無色透明であり、ハードコートフィルムの支持体として実用に耐えうる機械的強度を有するものであればよい。 【0075】なお、ここでいう無色とは、着色ハードコートフィルムとした際に、前述の可視光線における光学特性を満足することを意味するのであって、透明基材フィルムに着色剤を添加して着色したものも該光学特性を満足する場合は含まれる。 【0076】また、ここでいう透明とは、ヘーズが高々5%以下、好ましくは4%以下であることを意味する。」 「【0113】[粘着剤層]本発明の着色ハードコートフィルムは、ハードコート層を形成した側とは反対側の面に、粘着剤層を積層しているが、この粘着剤の積層の場合も着色ハードコートフィルムとの接着性を向上させるために、易滑易接着層を介して積層するのが好ましい。 【0114】前記粘着剤層としては、再剥離性があり、剥離時に糊残りがないこと、高温、高湿下での強制老化試験で剥がれや泡の発生がないものが好ましい。このような特性を有する粘着剤としては、アクリル系、ゴム系、ポリビニルエーテル系、シリコーン系等から適宜選択使用できるが、最も好ましいのはアクリル系粘着剤である。」 「【0121】[層構成]以上の説明で明白であるように、本発明の着色ハードコートフィルムは次の基本的層構成を有する。 (1)紫外線吸収剤含有ハードコート層/着色剤含有透明基材層/粘着層(粘着層にも着色剤を添加しても良い) (2)紫外線吸収剤含有ハードコート層/透明基材/着色剤含有粘着層 (3)ハードコート層/紫外線吸収剤含有透明基材/着色剤含有粘着層(ハードコート層にも紫外線吸収剤を添加しても良い) これらは、それぞれに特徴があり、製造上の都合でいずれを選択しても良い。例えば(3)は、ハードコート層に紫外線吸収剤が含まれてなくても、透明基材がポリエステルの場合、紫外線劣化で表層が失透するようなことが無いことが確認されている。 【0122】いずれにせよ、紫外線吸収剤が着色剤より外来光側即ちハードコート層寄りに存在することが肝要である。但し、本発明の効果を損なわない範囲で少量の紫外線吸収剤又は着色剤を上記の基本的層構成以外の層に添加しても、本発明に包含される。 【0123】 【実施例】以下、本発明を、実施例を挙げて更に詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は以下の方法により評価した。 (1)全光線透過率およびへーズ値 JISK6714−1958に準じて、日本電色工業社製のへーズ測定器(NDH−20)を使用して全光線透過率Tt(%)と散乱光透過率Td(%)とを測定した。得られた全光線透過率は次の基準で評価し、評価A以上が実用上問題ないもので、評価AAが極めて優れたものである。 AA:全光線透過率60%以上 A: 全光線透過率40%以上60%未満 B: 全光線透過率40%未満 また、測定された全光線透過率Tt(%)と散乱光透過率Td(%)とから、以下の式よりへーズ(%)を算出した。 【0124】 【数3】へーズ(%)=(Td/Tt)100 得られたヘーズ値は、以下の基準で評価した。 AA:ヘーズ値≦2.0%(ほとんどヘーズがなく、極めて良好) A: 2.0%<ヘーズ値≦3.0%(ヘーズ値が小さく実用上良好) B: 3.0%<ヘーズ値≦5.0%(実用上問題ないヘーズ値) C: 5.0%<ヘーズ値≦10%(ヘーズが実用上やや問題があることがある) D:10%<ヘーズ値(ヘーズ値が大きく、実用不可) 【0125】 ・・・・ [実施例1]大日精化工業(株)製カーボンブラック顔料を0.03重量%および平均粒径1.7μmの多孔質シリカを0.007重量%含有させたポリエチレンテレフタレート(固有粘度[η]=0.65)を溶融状態でダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとした。次いで、該未延伸フィルムを縦方向に3.5倍延伸し、一旦巻き取ることなく引き続いて、その両面に以下に示す塗膜用組成物の濃度8%の水性液をロールコーターで均一に塗布した。その後、引き続いて95℃で乾燥しながら横方向に120℃で3.8倍延伸し、230℃で緊張熱処理して、厚み188μmの着色された二軸配向ポリエステルフィルムを得た。 【0126】[塗膜用組成物]酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸(70モル%)、イソフタル酸(24モル%)および5−スルホイソフタル酸ナトリウム(6モル%)、グリコール成分がエチレングリコール(90モル%)およびジエチレングリコール(30モル%)から合成されるTg(ガラス転移温度)が85℃の共重合ポリエステル75重量%、構成成分がメチルメタクリレート15モル%、エチルアクリレート75モル%、N−メチロールアクリルアミド5モル%、2−ヒドロキシエチルメタクリレート5モル%から合成されるTg0℃のアクリル共重合体15重量%、ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル10重量% 得られた着色された二軸配向ポリエステルフィルムの片方の面に、ハードコート層を形成するためのハードコート剤(商品名:PETD−31、大日精化工業(株)製)に、下記 【化20】の構造を持つ紫外線吸収剤5.0重量%(対硬化後の樹脂)を1−ヒドロキシシクロフェニルケトンと共に添加攪拌脱泡して、ロールコート法でドライ厚みが10μmになるように塗工し、乾燥した後、電子線を175kvおよび10Mradの条件で照射してハードコート塗膜を形成した。 【0127】 【化20】 【0128】一方、着色された二軸配向ポリエステルフィルムに積層されたハードコート層とは反対の面に、粘着層(組成は表1に示す)を形成するための粘着剤をロールコート法でドライ厚みが20μmとなるように塗工し、着色ハードコートフィルムを得た。得られた着色ハードコートフィルムの粘着層の面には、厚み50μmの表面にシリコーン処理を施したPETフィルムをセパレータフィルム(剥離フィルム)として貼り合わせた。得られた着色ハードコートフィルムの特性を表3に示す。 【0129】 【表1】 ・・・・ 【0131】 【表3】 」 以上の記載事項、特にその実施例1の記載に着目すると、甲2には着色ハードコートフィルムに係る次の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されている。 「厚み188μmの着色された二軸配向ポリエステルフィルムと、当該フィルムの一方の面に設けられたドライ厚み10μmのハードコート層と、他方の面に設けられたアクリル系粘着剤で形成されたドライ厚み20μmの粘着剤層からなり、着色された二軸配向ポリエステルフィルムは、カーボンブラック顔料と平均粒径1.7μmの多孔質シリカを含み、2.0<ヘーズ値≦3.0%、全光線透過率60%以上である、着色ハードコートフィルム。」 また、甲2には、この着色ハードコートフィルムを透明基材面に貼付した表示装置に係る発明(以下「甲2発明2」という。)も記載されている。 「甲2発明1の着色ハードコートフィルムを透明基材面に貼付した表示装置。」 エ 甲1に記載された発明の解決しようとする課題は、「携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ、自動車用機器などのディスプレイ部分のカバー部品などに用いることができる反射防止成形品の製造方法」(【0001】)に関し、カバー部材の「透明基板の裏面に透明低反射層を形成せずとも優れた反射防止効果を有する反射防止成形品を容易に製造することができる方法を提供すること」(【0011】)である。 甲1発明1の「表面用加飾シート」は、透明基板上に積層し基体シートを剥離して甲1発明2の「反射防止成形品」を製造するものであり、甲1発明1の「図柄層」と、本件発明1の「透明着色層」とは「着色層」という限りで一致し、この「着色層」に関し、甲1発明1と本件発明1とは、次の点で相違する。 《相違点1》 着色層に関し、本件発明1が「透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層」であるのに対し、甲1発明1は「アクリル樹脂系の樹脂からな」り、「印刷層として形成し、顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いた」ものではあるが、拡散透過率、ヘイズ及び厚みについては特定されていない点。 本件発明1は、様々な色調の表示パネルを安価に簡便に製造するために、予め色調や光学特性および塗膜表面状態を精度良く管理された透明着色層を有する加飾シートを用いて、樹脂板やガラスなどの基材上に貼り付けるようにしたものであり(本件特許明細書等の段落【0004】〜【0006】)、このことを可能とするために、「透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層」の構成を採用したものである。 他方、甲1発明1は、ディスプレイ部分のカバー部品などに用いることができる反射防止成形品に係る発明であり、様々な色調の表示パネルを安価に簡便に製造することを課題にするものではないから、上記のような透明着色層の構成を採用する動機付けがなく、他に、このことを示す証拠も提出されていない。 また、本件発明2〜17についても同様である。 よって、申立人の甲1を主引用例とする新規性・進歩性要件に係る主張は採用できない。 オ 甲2に記載された発明は、「CRTや液晶表示装置などの電子ディスプレイの表示面に貼り合せることで、映像のコントラストや色純度を向上できる着色ハードコートフィルムに関する」(【0001】)ものである。 甲2発明1の「着色ハードコートフィルム」は、透明基材面に貼付して甲2発明2の「表示装置」を製造するものであり、甲2発明1の「厚み188μmの着色された二軸配向ポリエステルフィルム」と、本件発明1の「透明着色層」とは「着色層」という限りで一致し、この「着色層」に関し、甲2発明1と本件発明1とは、次の点で相違する。 《相違点2》 着色層に関し、本件発明1が「透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層」であるのに対し、甲2発明1は「二軸配向ポリエステルフィルム」であり、「カーボンブラック顔料と平均粒径1.7μmの多孔質シリカを含」むものではあるが、拡散透過率、ヘイズ及び厚みについては特定されていない点。 本件発明1は、上記エで述べたように、予め色調や光学特性および塗膜表面状態を精度良く管理された透明着色層を有する加飾シートを用いて、樹脂板やガラスなどの基材上に貼り付けることを可能とするために、「透明樹脂と、顔料と、調色用顔料とを含み、拡散透過率が0.2〜1.13%、ヘイズが0.1〜3%、厚みが0.5〜20μmである透明着色層」の構成を採用したものである。 他方、甲2発明1は、映像のコントラストや色純度を向上できる着色ハードコートフィルムに係る発明であり、様々な色調の表示パネルを安価に簡便に製造することを課題にするものではないから、上記のような透明着色層の構成を採用する動機付けがなく、他に、このことを示す証拠も提出されていない。 また、本件発明2〜17についても同様である。 よって、申立人の甲2を主引用例とする新規性・進歩性要件に係る主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、請求項1〜17に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-11-08 |
出願番号 | P2020-509324 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YB
(B32B)
P 1 651・ 537- YB (B32B) P 1 651・ 113- YB (B32B) P 1 651・ 121- YB (B32B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
山崎 勝司 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 石田 智樹 |
登録日 | 2020-10-23 |
登録番号 | 6783413 |
権利者 | 株式会社サンパック NISSHA株式会社 |
発明の名称 | 表示パネル及びその製造方法 |