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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1392032
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-02 
確定日 2022-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6879348号発明「感光性エレメント、積層体、永久マスクレジスト及びその製造方法並びに半導体パッケージの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6879348号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び3〜15〕について訂正することを認める。 特許第6879348号の請求項1〜15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6879348号の請求項1〜15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019−173465号)は、2015年(平成27年)4月24日(優先権主張 平成26年4月25日)を国際出願日とする特願2016−515225号の一部を、令和元年9月24日に新たな特許出願としたものであって、令和3年5月7日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和3年6月2日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和3年12月2日に、特許異議申立人 加藤 純子(以下「特許異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の経緯は、以下の通りである。
令和 4年 3月15日付け:取消理由通知書
令和 4年 5月20日付け:訂正請求書
令和 4年 5月20日付け:意見書(特許権者)
令和 4年 6月 8日付け:特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知
令和 4年 7月19日付け:意見書(特許異議申立人)
令和 4年 8月25日付け:手続補正書


第2 本件訂正請求及び訂正の適否についての判断
令和4年5月20日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6879348号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した(令和4年8月25日付けの手続補正後の)訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び3〜15について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求において、特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、請求項1に「層間絶縁膜形成を形成すべき基板上に」と記載されているのを、「層間絶縁膜を形成すべき基板上に」と訂正するものである。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項3〜15は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているところ、訂正事項1による訂正によって訂正前の請求項1が訂正されることにより連動して訂正されることになる。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1及び3〜15に対して請求されたものである。

4 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載された「層間絶縁膜形成を形成」という誤記を「層間絶縁膜を形成」に正すものであるから、訂正事項1による訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項
本件特許の願書に最初に添付した明細書の【0082】には、「本実施形態の感光性フィルムを用いて形成される硬化物は、層間絶縁膜として好適に用いることができる」ことが記載されているから、訂正事項1による訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
ウ 拡張又は変更
前記アで述べた訂正の内容からみて、訂正事項1による訂正により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6879348号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した(令和4年8月25日付けの手続補正後の)訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び3〜15〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1〜15に係る発明(以下それぞれ、「本件特許発明1」〜「本件特許発明15」という。また、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項によって特定されるとおり、以下のものである。
「【請求項1】
永久マスクレジスト又は層間絶縁膜形成用の感光性エレメントであって、
支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される感光層と、を備え、
前記支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで500nmより大きく、4000nm以下であり、
前記感光性樹脂組成物は、平均粒径1μm以下の無機充填材を10〜90質量%含有し、
永久マスクレジスト又は層間絶縁膜を形成すべき基板上に、前記感光層の支持フィルムと反対側の面を貼付するための、感光性エレメント。
【請求項2】
支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される感光層と、を備える感光性エレメントであって、
前記支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで200〜4000nmであり、
前記感光性樹脂組成物は、平均粒径1μm以下の無機充填材を10〜90質量%含有し、
前記無機充填材は、硫酸バリウム及びシリカフィラーからなる群から選択される少なくとも一種を含む、感光性エレメント。
【請求項3】
前記支持フィルムは、ヘーズが60%以上である、請求項1又は2に記載の感光性エレメント。
【請求項4】
前記感光性樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項5】
前記多官能エポキシ樹脂は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂及びエポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体の少なくとも一方を含有する、請求項4に記載の感光性エレメント。
【請求項6】
前記感光性樹脂組成物は、(メタ)アクリロイル基を有する光反応性化合物を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項7】
前記感光性樹脂組成物は、アシルホスフィン系化合物及びチオキサントン系化合物のうち少なくとも一種を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項8】
前記感光性樹脂組成物は、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイドを含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項9】
前記感光性樹脂組成物は、2,4−ジエチルチオキサントン及び2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−1−プロパノンの少なくとも一方を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性エレメントを用いて、基板上に感光層を形成する工程と、
感光層の所定部分に活性光線を照射し、光硬化部を形成する工程と、
前記光硬化部以外の領域を除去する工程と、を備える永久マスクレジストの形成方法。
【請求項11】
前記光硬化部を形成する工程において、直接描画方式、投影露光方式又は感光層に直接接触しないようにネガマスクを配置する露光方式を用いて活性光線を照射する、請求項10に記載の永久マスクレジストの形成方法。
【請求項12】
光硬化部以外の領域を除去する工程の後に、加熱する工程を更に備える、請求項9又は10に記載の永久マスクレジストの形成方法。
【請求項13】
基板と、該基板上に形成されたレジストパターンと、を備え、
前記レジストパターンが、請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性エレメントの感光層から形成されたものである、永久マスクレジスト。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の永久マスクレジストの形成方法により、永久マスクレジストが形成された基板上に、他の部材を形成する工程を備える、半導体パッケージの製造方法。
【請求項15】
基板と、該基板上に感光性樹脂組成物を硬化させた硬化物を備える積層体であって、
前記硬化物が、請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性エレメントの感光層の前記支持フィルムと接する面と反対側の面を前記基板と接触させた状態で硬化して形成された硬化物である、積層体。」


第4 当合議体が通知した取消しの理由
令和4年3月15日付けの取消理由通知書により通知した取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
理由(進歩性
本件特許の請求項1〜15に係る発明は、本件特許の先の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2011−13622号公報
甲第2号証:特開2012−27368号公報
甲第3号証:特開2012−141605号公報
甲第9号証:特開2013−218146号公報
なお、甲第1号証及び甲第2号証がそれぞれ主引用例であり、甲第3号証が副引例、甲第9号証が周知技術を示す文献である。また、以下、各甲号証をそれぞれ、「甲1」などという。


第5 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
1 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下同様。
ア 「【請求項1】
(a)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を分子内に少なくとも1つ以上有する樹脂、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマー、(c)光重合開始剤、(d)エポキシ化合物、(e)シリカフィラーを含有する感光性樹脂組成物であって、(e)シリカフィラーの平均粒径が3〜300nmで、感光性樹脂組成物中に最大粒径が1μm以下で分散されているアルカリ現像可能な感光性樹脂組成物。
・・・中略・・・
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の保護膜用のアルカリ現像可能な感光性樹脂組成物とそれを用いた感光性フィルムに関し、より詳しくは、半導体パッケージ用基板のレジスト分野において、永久マスクレジストとして用いられるプリント配線板の保護膜用感光性樹脂組成物とそれを用いた感光性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板分野では、従来から、プリント配線板上に永久マスクレジスト(保護膜)を形成することが行われている。この永久マスクレジストは、プリント配線板の使用時において、導体層の腐食を防止したり、導体層間の電気絶縁性を保持したりする役割を有している。
従来、プリント配線板製造における永久マスクレジストは、熱硬化性あるいは感光性樹脂組成物をスクリーン印刷する方法や、熱硬化性あるいは感光性樹脂組成物をBステージ状にフィルム化して真空ラミネートする方法で作製されている。
例えば、FC、TAB及びCOFといった実装方式を用いたフレキシブル配線板においては、リジッド配線板、ICチップ、電子部品又はLCDパネルとの接続配線パターン部分を除いて、熱硬化性樹脂ペーストをスクリーン印刷し、熱硬化して永久マスクレジストを形成している(例えば特許文献1参照)。
また、パーソナルコンピューターに搭載されているBGA(ボールグリッドアレイ)、CSP(チップサイズパッケージ)等の半導体パッケージ基板においては、(1)半導体パッケージ基板上にはんだを介して半導体素子をフリップチップ実装するために、(2)半導体素子と半導体パッケージ基板とをワイヤーボンディング接合するために、(3)半導体パッケージ基板をマザーボード基板上にはんだ接合するために、その接続部分の永久マスクレジストを除去する必要があり、このような除去が容易な感光性樹脂組成物が永久マスクレジストとして用いられている(例えば特許文献2参照)。」

イ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0034】
本発明で用いる(f)顔料成分は、必要に応じて用い、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アイオジングリーン、ジスアゾイエロー、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック、アゾ系の有機顔料等の着色剤又は染料等を用いることができる。
【0035】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、特に感光性樹脂組成物層と銅等の金属との密着が必要とされる場合に、密着性向上剤として、例えば、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン−フェノール−ホルマリン樹脂、ジシアンジアミド、トリアジン化合物、エチルジアミノ−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−キシリル−s−トリアジン等のトリアジン誘導体類、イミダゾール系、チアゾール系及びトリアゾール系、シランカップリング剤等の添加剤類を用いることができる。市販品としては、2MZ−AZINE、2E4MZ−AZINE、C11Z−AZINE、2MA−OK(いずれも四国化成工業株式会社製、商品名)等が入手可能である。これらの化合物は感光性樹脂組成物層と金属との密着性の他、耐PCT性及び電食性等の特性を向上させることができる。
・・・中略・・・
【0044】
次に、本発明の感光性フィルムを用いた感光性永久レジストの好適な実施形態について説明する。
・・・中略・・・
このようにして形成された感光性永久レジストは、基板にはんだ付けを施した後の配線の保護膜を兼ね、ソルダーレジストの諸特性を有しプリント配線板用、半導体パッケージ基板用、フレキシブル配線板用のソルダーレジストとして用いることが可能である。
【0045】
上記ソルダーレジストは、例えば、基板に対し、めっきやエッチングを施す場合に、めっきレジストやエッチングレジストとして用いられる他、そのまま基板上に残されて、配線等を保護するための保護膜(感光性永久レジスト)として用いられる。」

ウ 「【実施例】
【0046】
(実施例1〜9及び比較例1〜6)
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
実施例1〜9及び比較例1〜6について、それぞれ表1、表2に示した各成分を同表に示す配合量(質量部)で混合することにより、感光性樹脂組成物溶液を得た。
(a)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を分子内に少なくとも1つ以上有する樹脂として酸変性クレゾールノボラック型エポキシアクリレート「EXP−2810」大日本インキ化学工業株式会社製を使用した。また、ウレタン変性ビスフェノールA型エポキシアクリレート「UXE−3024」、酸変性ビスフェノールF型エポキシアクリレート「ZFR−1158」(全て日本化薬株式会社製)を使用した。重量平均分子量は何れも約10000で酸価は約70mgKOH/gであった。
また、その他樹脂成分として、合成樹脂Aを用いた。樹脂Aは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルの共重合体で重量平均分子量60000、酸価80mgKOH/gである。
(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーとして、2,2−ビス(4−(メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル)プロパン「FA−321M」(日立化成工業株式会社製)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート「NK−DCP」(新中村化学工業株式会社製)及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート「KAYARAD−DPHA」(日本化薬株式会社製)を用いた。
(c)光重合開始剤として、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド「DAROCUR−TPO」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド「IRGACURE−819」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフェリノフェニル)−ブタノン−1「IRGACURE−369」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)、及びエタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)「IRGACURE−OXE02」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)を使用した。
(d)エポキシ化合物は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000H、エポキシ当量286、ジャパンエポキシレジン株式会社製)、ビフェノール型エポキシ樹脂(YX−4000、エポキシ当量190、ジャパンエポキシレジン株式会社製)、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂(TEPIC−PAS、エポキシ当量140、日産化学工業株式会社製)を使用した。
(e)シリカフィラー成分には、以下の材料を使用した。
無機フィラーA:シリカフィラーの平均粒径が50nmでシランカップリング剤として、メタクリルシランである3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランでカップリング処理し、上記(a)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を分子内に少なくとも1つ以上有する樹脂中に分散した。分散状態は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計「UPA−EX150」(日機装株式会社製)を用いて測定し、最大粒径が1μm以下となっていることを確認した。
無機フィラーA’:シリカフィラーの平均粒径が50nmでシランカップリング剤として、イソシアネートシランである3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランでカップリング処理した以外は、無機フィラーAと同様に処理し粒度分布を測定した。最大粒径が1μm以下となっていることを確認した。
無機フィラーB:シリカフィラーの平均粒径が1μmでメチルエチルケトン中にスラリー状に分散されているシリカフィラー分散体SC2050(アドマテックス株式会社製)使用した。分散状態は、レーザー回折散乱式マイクロトラック粒度分布計「MT−3100」(日機装株式会社製)を用いて測定した。最大粒径は約3μmとなっていることを確認した。
【0047】
【表1】

・・・中略・・・
【0049】
(感光性樹脂組成物の特性評価)
実施例1〜9及び比較例1〜6の感光性樹脂組成物溶液を支持層である16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(G2−16、帝人株式会社製、商品名)上に均一に塗布することにより感光性樹脂組成物層を形成し、それを、熱風対流式乾燥機を用いて100℃で約10分間乾燥した。感光性樹脂組成物層の乾燥後の膜厚は、30μmであった。
続いて、感光性樹脂組成物層の支持体と接している側とは反対側の表面上に、ポリエチレンフィルム(NF−15、タマポリ株式会社製、商品名)を保護フィルムとして貼り合わせ、感光性フィルムを得た。
・・・中略・・・
【0051】
[レジスト形状の評価]
解像性の指標として、レジスト形状を評価した。12μm厚の銅箔をガラスエポキシ基材に積層したプリント配線板用基板(E−679、日立化成工業株式会社製、商品名)の銅表面を砥粒ブラシで研磨し、水洗後、乾燥した。このプリント配線板用基板上にプレス式真空ラミネータ(MVLP−500、株式会社名機製作所製、商品名)を用いて、プレス熱板温度70℃、真空引き時間20秒、ラミネートプレス時間30秒、気圧4kPa以下、圧着圧力0.4MPaの条件の下、感光性フィルムの保護フィルムを剥離して積層し、評価用積層体を得た。
その後、室温(25℃)で1時間放置した後、得られた評価用積層体の支持体上に、21段ステップタブレット(イーストマンコダック社製)を密着させ、超高圧水銀ランプを光源とした平行光露光方式の露光機EXM−1201(株式会社オーク製作所製)を用いて露光を行った。露光後から室温で30分間放置した後、支持体のポリエチレンテレフタレートを除去し、30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液で未露光部の感光性樹脂組成物を60秒間スプレー現像した。現像後、21段ステップタブレットの残存ステップ段数が8.0となる露光エネルギー量を感光性樹脂組成物層の最適露光量(単位;mJ/cm2)とした。
続いて、上記で得られた最適露光量で同様にして得られた評価用積層体を室温で1時間放置した後、直径80μmの開口パターンを有するネガパターンを介し、平行光露光方式の露光機EXM−1201(株式会社オーク製作所製)を用いて露光を行った。
露光後、室温で30分間放置し、支持体のポリエチレンテレフタレートを除去し、30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液で未露光部の感光性樹脂組成物を、最小現像時間(未露光部が現像される最小時間)の1.5倍の時間でスプレー現像した。スプレー現像後、株式会社オーク製作所製の紫外線照射装置を使用して1J/cm2の紫外線照射を行い、さらに160℃、60分間で加熱処理し、直径80μmの開口部を有する永久マスクレジストパターンを形成した。
次いで、株式会社日立製作所製のS−2100A型走査型電子顕微鏡を用いてレジストパターンの直径80μmの開口部における断面を観察した。開口部のレジスト形状は、はんだの密着性の観点から、断面形状が「順テーパ」形、又は「ストレート」形であることが望ましい。露光不足により現像時にレジスト底部が溶出してできる、「アンダーカット」や、過露光によりレジスト上部が残ってせり出す、「オーバーハング」のような逆テーパ形状であると、はんだ付けの際、はんだの密着性が悪くなる可能性があり、好ましくない。レジスト形状の評価は、レジスト開口部の断面形状が順テーパ形又はストレート形となっているものを「3」とし、5μm以下の僅かにオーバーハング又はアンダーカットが発生しているものを「2」、オーバーハング又はアンダーカットが発生し完全に逆テーパ形となっているものを「1」として評価した。
・・・中略・・・
【0058】
【表3】



(2)甲1に記載された発明
ア 甲1の【0046】及び【0047】【表1】の実施例1には、以下の「感光性樹脂組成物溶液」が記載されている。
「(a)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を分子内に少なくとも1つ以上有する樹脂として、酸変性クレゾールノボラック型エポキシアクリレート「EXP−2810」大日本インキ化学工業株式会社製を含有し、
(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーとして、2,2−ビス(4−(メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル)プロパン「FA−321M」(日立化成工業株式会社製)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート「NK−DCP」(新中村化学工業株式会社製)及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート「KAYARAD−DPHA」(日本化薬株式会社製)を含有し、
(c)光重合開始剤として、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド「DAROCUR−TPO」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)及びエタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)「IRGACURE−OXE02」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)を含有し、
(d)エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000H、エポキシ当量286、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を含有し、
(e)シリカフィラーとして、以下の無機フィラーAを約44質量%(表1より算出)含有し、
(無機フィラーA:シリカフィラーの平均粒径が50nmでシランカップリング剤として、メタクリルシランである3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランでカップリング処理し、上記(a)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を分子内に少なくとも1つ以上有する樹脂中に分散した。分散状態は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計「UPA−EX150」(日機装株式会社製)を用いて測定し、最大粒径が1μm以下となっていることを確認した。)
その他の成分として、フタロシアニンブルー、ベンゾグアナミン、ジシアンジアミド、を含有する、感光性樹脂組成物溶液。」

イ 甲1の【0049】には、上記アで得られた「感光性樹脂組成物溶液」を、「支持層である16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(G2−16、帝人株式会社製、商品名)上に均一に塗布することにより感光性樹脂組成物層を形成し、それを、熱風対流式乾燥機を用いて100℃で約10分間乾燥し」、「感光性樹脂組成物層の支持体と接している側とは反対側の表面上に、ポリエチレンフィルム(NF−15、タマポリ株式会社製、商品名)を保護フィルムとして貼り合わせ、感光性フィルムを得た」ことが記載されている。

ウ 甲1の【0051】には、上記イで得られた「感光フィルム」を、「12μm厚の銅箔をガラスエポキシ基材に積層したプリント配線板用基板(E−679、日立化成工業株式会社製、商品名)の銅表面を砥粒ブラシで研磨し、水洗後、乾燥した。このプリント配線板用基板上にプレス式真空ラミネータ(MVLP−500、株式会社名機製作所製、商品名)を用いて、プレス熱板温度70℃、真空引き時間20秒、ラミネートプレス時間30秒、気圧4kPa以下、圧着圧力0.4MPaの条件の下、感光性フィルムの保護フィルムを剥離して積層し、評価用積層体を得」、「得られた評価用積層体の支持体上に、21段ステップタブレット(イーストマンコダック社製)を密着させ、超高圧水銀ランプを光源とした平行光露光方式の露光機EXM−1201(株式会社オーク製作所製)を用いて露光を行った。露光後から室温で30分間放置した後、支持体のポリエチレンテレフタレートを除去し、30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液で未露光部の感光性樹脂組成物を60秒間スプレー現像し」、「株式会社オーク製作所製の紫外線照射装置を使用して1J/cm2の紫外線照射を行い、さらに160℃、60分間で加熱処理し、直径80μmの開口部を有する永久マスクレジストパターンを形成した」ことが記載されている。

エ 上記イで得られた「感光性フィルム」を、以下、「甲1フィルム発明」という。また、上記ウで得られた「永久マスクレジストパターン」及びその形成方法を、以下、「甲1レジスト発明」及び「甲1レジスト形成方法発明」という。

2 甲2の記載及び甲2に記載された発明
(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー法によってパターン形成可能なアルカリ現像型の着色感光性樹脂組成物に関し、さらに詳しくは主にフレキシブルプリント配線板(FPC)用のソルダーレジスト(カバーレイ)に関するものである。また、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、液晶表示装置(LCD)、蛍光表示装置、画像伝達装置、混成集積回路等における構造支持体(スペーサー、リブあるいは隔壁など)、ブラックマトリックスパターン等の着色感光性樹脂組成物にも応用可能である。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板には、カメラ等の小型機器に折り曲げて組み込める事が可能なフィルム状のものが有り、これはFPCと呼ばれている。プリント配線板と同様、このFPCにも、はんだ付け位置の限定及び配線の保護の為にレジストが必要であり、それはカバーレイまたはカバーコートと呼ばれている。カバーレイは、接着層を有するポリイミドや、ポリエステルフィルムを所定の型に打ち抜いた後、FPC上に熱圧着等で形成され、また、カバーコートは、熱硬化や光硬化性のインクを印刷、硬化させて形成される。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来のソルダマスク形成用感光性樹脂組成物は、いずれも可とう性が不十分であった。また、樹脂組成物中で顔料を使用する場合には、顔料の凝集や沈降といった問題や、写真現像法によって厚膜の着色パターンを形成する場合に、底部のレジスト硬化性を上げるため紫外線照射量を上げるとレジスト解像性が悪化するという問題が発生する。また、一部のカメラモジュール基板用途に用いられるソルダマスクは、基板製造時の搬送系での衝撃等で傷を目立たなくするためや、基板出荷前の外観検査の際、AOI検査機(自動外観検査機(Automated Optical Inspection))の誤認を防ぐための手法として、硬化膜のつや消しが求められている。
本発明は、前述した従来の技術の欠点を解消し、硬化膜のつやが無く(マット状)、高感度で、めっき性、折り曲げ性、耐熱性、タック性に優れた感光性フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、[1](A)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する重合性プレポリマー、(B)カルボキシル基を有するバインダーポリマー、(C)黒色顔料、(D)ウレタン・不飽和オリゴマー、(E)光重合性化合物、(F)活性光により遊離ラジカルを生成する光重合開始剤、(G)熱により重合を開始する熱硬化剤を含有してなるアルカリ水溶液で現像可能な感光性樹脂組成物の層を、(H)ヘーズ値が10〜80%である支持体上に積層した感光性フィルムに関する。」

イ 「【0070】
本発明の感光性フィルムは、前記(A)〜(G)成分を必須成分として含有し、アルカリ水溶液で現像可能である必要がある。 本発明の感光性フィルムは、ヘーズ値が10〜80%である支持体フィルム上に、前記の感光性樹脂組成物の層を積層することにより製造することができる。
ヘーズ値が10〜80%である支持体フィルムとしては、重合体フィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなるフィルムが挙げられ、中でも、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
・・・中略・・・
このうち支持体フィルムとして用いる材料としては、ヘーズ値が10〜80%である支持体を用いる事が重要である。この材料は、無機フィラ等をポリエチレンテレフタレートに練り込み処理したものが好ましい。このような材料を用いた場合、露光処理した際、感光層表面で光の散乱が起こり、膜表面の微細なムラが生じ、膜表面は光沢が低下しマット状を示すことが出来る。
感光性フィルムと支持体フィルムの剥離を良好にするには、ヘーズ値が10〜80%である支持体フィルムの感光性フィルムと接する側の表面粗さ(Ra)が、大きいと剥離しにくくなる。
通常の透明PETフィルムの表面粗さ(Ra)は、通常、多くても0.05μm程度であり、Ra値が0.2〜0.5μmとなるようマット加工、あるいは、PETフィルム中にシリカ、チタニアなどの無機粒子を含有させRaを小さくする方法が挙げられる。実際には、PET及び無機粒子の混合物をシート状に成形して、無機粒子を含有するPETフィルムを製造する。この方法では、無機粒子の含有量や粒子径を適宜調整することにより、所望のRa値が得られる。また、シリカ、チタニアなどの無機粒子を表面に付着させて形成させることも出来る。このフィルムは、単独で用いることも、重合体フィルムを積層した多層構造とすることも出来る。」

ウ 「【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、下記例中の「%」は、特に断わらない限り「質量%」を意味する。
【0079】
(実施例1〜4、比較例1〜6)
表1に示した材料を配合した溶液(溶液A)を、表2に示した厚さのポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一に塗布し、100℃の熱風循環式乾燥機で、5分間乾燥して溶剤を除去し、感光層の乾燥後の厚さが、40μmである感光性樹脂組成物の層を形成し、次いで、感光層の上に、ポリエチレンフィルムを保護フィルムとして貼り合わせ、感光性フィルム(感光性積層体)を得た。
別に、35μm厚銅箔をポリイミド基材に積層したFPC用基板(ニッカン工業株式会社製、商品名、F30VC125RC11)の銅表面を砥粒ブラシで研磨、水洗し、乾燥した。次いで真空加圧式ラミネータ(株式会社名機製作所製型式MVLP−500)を用いて、上記FPC用基板に、前記で作製した感光性積層体の保護フィルムをはく離した後、感光層をFPC用基材の銅箔面に向けてラミネートした。
この際のラミネータの条件は、ラミネート温度60℃、成形圧力0.4MPa(4kgf/cm2)、真空時間及び加圧時間をそれぞれ20秒とした。
・・・中略・・・
【0085】
乾燥後、耐金めっき性を評価する為に、直ちにセロテープ(登録商標)を貼り、これを垂直方向に引き剥がして(90°ピールオフ試験)、レジストの剥れの有無を観察した。また、金めっきのもぐりの有無を観察した。金めっきのもぐりを生じた場合、下側から光線を照射し、レジストを介して、その下にめっきにより析出した金が観察される。以上の評価結果を纏めて結果を表3に示した。
・・・中略・・・
【0087】
【表1】

*1:日立化成工業(株)製ビスフェノールA骨格エチレンオキサイド変性ジメタクリレート
*2:共栄社化学(株)製ウレタン・不飽和オリゴマー
メラミン誘導体:メラン22(日立化成工業(株)製)
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】



(2)甲2に記載された発明
ア 甲2の【0079】及び【0087】【表1】〜【0089】【表3】には、実施例3として、以下の「感光性フィルム」の発明(以下「甲2−3フィルム発明」という。)が記載されている。
「(A)成分として、ウレタン変性エポキシアクリレート樹脂UXE−3024を含有し、
(B)成分として、メタクリル酸/メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチルの共重合体の40質量%メチルセルソルブ/トルエン溶液を含有し、
(C)成分として、MHIブラック#220を含有し、
(D)成分として、UF−8001G−20Mを含有し、
(E)成分として、FA−321Mを含有し、
(F)成分として、イルガキュア369を含有し、
(G)成分として、メラミン誘導体を含有し、
その他の成分として、メチルエチルケトン及びトルエンを含有した溶液を、
ポリエチレンテレフタレートフィルム(ダイヤホイルE150−26、ヘーズ値73%)上に均一に塗布し、100℃の熱風循環式乾燥機で、5分間乾燥して溶剤を除去し、感光層の乾燥後の厚さが、40μmである感光性樹脂組成物の層を形成し、次いで、感光層の上に、ポリエチレンフィルムを保護フィルムとして貼り合わせた、感光性フィルム。」

イ 同様に甲2の実施例4として記載されている「感光性フィルム」の発明を、以下「甲2−4フィルム発明」という。

3 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、露光、現像によって微細なパターン形成することもできる黒色感光性組成物、それを用いたソルダーレジスト及び感光性ドライフィルムに関するものである。詳しくは、隠蔽性、柔軟性、耐熱性、金属との密着性、絶縁信頼性及び難燃性が優れた硬化物を与える黒色感光性組成物、それを用いたソルダーレジスト及び感光性ドライフィルムに関する。本発明の黒色感光性組成物は、レジスト材料として、特にプリント配線板の絶縁材料及びソルダーレジスト材料等として有用であり、電気・電子材料分野で有用なものである。
・・・中略・・・
【0057】
本発明の黒色感光性組成物をドライフィルムの感光層として使用する場合、ドライフィルムの製造方法としては、ポリエチレンテレフタレート等の支持フィルムに、本発明の組成物を塗布し、溶剤を加熱乾燥により除去した後、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムなどをカバーフィルムとして重ね合わせる方法等が挙げられる。組成物塗膜(レジスト層)の厚さとしては、1〜200μm、特に5〜50μmが好ましい。
この場合、使用する支持フィルムの塗工に適した溶剤を添加してもよい。組成物中の溶剤は、フィルム塗工後に該組成物が重合しない程度の加熱の温度と時間で揮発させる必要がある。そのための溶剤例としては、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール及びエタノール等の比較的低沸点のものが挙げられる。
【0058】
本発明の黒色感光性組成物をドライフィルムの感光層として使用する場合では、支持フィルムの塗工面側をマット処理したフィルムを用いることができる。この場合にレジスト層を配線板等に転写して硬化すると表面がマット化されたレジスト層が得られる。これにより、配線隠蔽性が向上したり、表面の光反射を抑制され、良好な意匠性が得られたり、LED用配線板に用いた場合はLEDの光が際立ち好ましい。
マット処理したフィルムには表面をブラスト処理したものやマット剤を練りこんだフィルムを用いることができる。特にブラスト処理したフィルムが好ましい。同程度の表面粗さで処理した場合にブラスト処理したフィルムの方がマット剤を練りこんだフィルムと比較して、形成されレジスト表面の光沢が抑えられる場合がある。また、ブラスト処理したフィルムの方がマット剤を練りこんだフィルムと比較して、ソルダーレジストとして用いた場合に良好な解像性を得られる場合がある。用いる支持フィルムの表面粗さ(Ra)は0.2〜3μmが好ましく、0.3〜1μmがより好ましい。支持フィルムの表面粗さが0.2μm未満であるとレジスト層表面が十分にマット化されず、光沢低減効果が不十分になることがある。また、支持フィルムの表面粗さが3μm以上であると、塗工工程等で支持フィルムが破れやすかったり、露光後に支持フィルムを剥離する際に剥離が重くなり工程に支障をきたす場合がある。
マット処理した支持フィルムの厚さは5〜200μm、特に10〜50μmが好ましい。
また、支持フィルムには塗工面側に各種の離型剤を塗布したものを用いることができる、特にマット処理した支持フィルムを用いた場合は支持フィルムの剥離性が重くなる場合があるので離型剤を塗布したものを用いるのが好ましい。」

4 甲9の記載
甲9には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の保護膜用のアルカリ現像可能な感光性樹脂組成物に関し、より詳しくは、半導体パッケージ用基板のレジスト分野において、永久マスクレジストとして用いられるプリント配線板の保護膜用感光性樹脂組成物に関する。
・・・中略・・・
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、(A)酸変性ビニル基含有エポキシ樹脂、(B)エチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤、(D)無機フィラーを含有してなる感光性樹脂組成物であり、(A)成分が一般式(2)及び一般式(3)で表される化合物を含み、かつ、(D)無機フィラーの含有量が全固形分量に対し20質量%から60質量%であることを特徴とする半導体パッケージ用プリント配線板の保護膜用感光性樹脂組成物を提供する。
・・・中略・・・
【0023】
(D)無機フィラーについて以下に説明する。(D)無機フィラーとしては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、ジルコニア(ZrO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、チタン酸バリウム(BaO・TiO2)、炭酸バリウム(BaCO3)、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸鉛(PbO・TiO2)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、酸化ガリウム(Ga2O3)、スピネル(MgO・Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3/5SiO2)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、チタン酸アルミニウム(TiO2−Al2O3)、イットリア含有ジルコニア(Y2O3−ZrO2)、ケイ酸バリウム(BaO・8SiO2)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸バリウム(BaSO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO2)、ハイドロタルサイト、雲母、焼成カオリン、カーボン(C)等を使用することができる。これらの(D)無機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
・・・中略・・・
【0027】
(D)無機フィラーの中でも、低膨張率・耐熱性を向上できる観点から、シリカ微粒子を使用することが好ましい。また、はんだ耐熱性、耐HAST性(絶縁信頼性)、耐クラック性(耐熱衝撃性)、及び耐PCT(Pressure Cooker Test)試験後のアンダーフィル材と硬化膜との接着強度を向上できる観点から、硫酸バリウム微粒子を使用することも好ましい。また、上記シリカ微粒子は、凝集防止効果を向上できる観点から、アルミナ及び/又は有機シラン系化合物で表面処理しているものであることが好ましい。」


第6 当合議体の判断
1 甲1を主引例とした場合の判断
(1)本件特許発明1についての対比
本件特許発明1と甲1フィルム発明とを対比する。
ア 支持フィルム
甲1フィルム発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(G2−16、帝人株式会社製、商品名)」である「支持層」は、その構成からみて、本件特許発明1の「支持フィルム」に相当する。

イ 感光層
甲1フィルム発明を形成する「感光性樹脂組成物溶液」は、その文言が示すとおり、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当する。
そして、甲1フィルム発明の「感光性樹脂組成物層」は、「感光性樹脂組成物溶液」を「支持層」である「ポリエチレンテレフタレートフィルム」上に均一に塗布・乾燥して得られるものであるから、その構成からみて、本件特許発明1の「感光層」に相当し、「支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される」という要件を満たす。

ウ 無機充填材
甲1フィルム発明は、「(e)成分」として、「無機フィラーA:シリカフィラーの平均粒径が50nmでシランカップリング剤として、メタクリルシランである3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランでカップリング処理し」、「最大粒径が1μm以下」であるシリカフィラーを約44質量%含有する「感光性樹脂組成物溶液」から形成されるものである。
そうすると、甲1フィルム発明の「シリカフィラー」は、その構成からみて、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」が含有する「無機充填材」に相当し、「平均粒径1μm以下」であるという要件及び「10〜90質量%含有」するという要件を満たす。

エ 感光性エレメント及び永久マスクレジスト
甲1フィルム発明は、上記アの「支持層」と、該支持層上に形成された上記イの「感光層」とを備える「感光性フィルム」である。
そして、本件特許の明細書の「感光性エレメントは、支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられた感光層とを備える。」との記載(【0024】)に照らして、甲1フィルム発明は、本件特許発明1の「感光性エレメント」に相当する。
また、甲1フィルム発明は、「プリント配線板用基板(E−679、日「立化成工業株式会社製、商品名)」上に、「プレス式真空ラミネータ(MVLP−500、株式会社名機製作所製、商品名)」を用いて、「感光性樹脂組成物層の支持体と接している側とは反対側の表面上」の「保護フィルム」を剥離して積層し、積層体を得、露光・現像し、「永久マスクレジストパターンを形成」するために用いられるものである。
ここで、上記「永久マスクレジストパターン」、「プリント配線基板」及び「支持体と接している側とは反対側の表面」はそれぞれ、その構成からみて、本件特許発明1の「永久マスクレジスト」、「永久マスクレジスト又は層間絶縁膜を形成すべき基板」及び「感光層の支持フィルムと反対側の面」に相当することは明らかである。さらに、「プレス式真空ラミネータ」による「積層」は、技術的にみて、本件特許発明1の「貼付」に相当することは明らかである。
そうすると、甲1フィルム発明は、本件特許発明1の「永久マスクレジスト又は層間絶縁膜形成用の」ものであるという要件及び「永久マスクレジスト又は層間絶縁膜を形成すべき基板上に、感光層の支持フィルムと反対側の面を貼付するための」ものであるという要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1フィルム発明とは、以下の点で一致する。
「永久マスクレジスト又は層間絶縁膜形成用の感光性エレメントであって、
支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される感光層と、を備え、
前記感光性樹脂組成物層は、平均粒径1μm以下の無機充填材を10〜90質量%含有し、
永久マスクレジスト又は層間絶縁膜を形成すべき基板上に、前記感光層の支持フィルムと反対側の面を貼付するための、感光性エレメント。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1フィルム発明とは、以下の点で相違する。
相違点1:本件特許発明1は、「支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで500nmより大きく、4000nm以下」であるのに対し、甲1フィルム発明の「支持層」の感光性樹脂組成物層と接する面の表面粗さ(Ra)が特定されていない点。

(3)判断
甲1フィルム発明の構造、甲1の「本発明は、プリント配線板の保護膜用のアルカリ現像可能な感光性樹脂組成物とそれを用いた感光性フィルムに関し、より詳しくは、半導体パッケージ用基板のレジスト分野において、永久マスクレジストとして用いられるプリント配線板の保護膜用感光性樹脂組成物とそれを用いた感光性フィルム」との記載(【0001】)、甲3の「本発明は、露光、現像によって微細なパターン形成することもできる黒色感光性組成物、それを用いたソルダーレジスト及び感光性ドライフィルムに関するものである。詳しくは、隠蔽性、柔軟性、耐熱性、金属との密着性、絶縁信頼性及び難燃性が優れた硬化物を与える黒色感光性組成物、それを用いたソルダーレジスト及び感光性ドライフィルムに関する。本発明の黒色感光性組成物は、レジスト材料として、特にプリント配線板の絶縁材料及びソルダーレジスト材料等として有用であり、電気・電子材料分野で有用なものである」との記載(【0001】)等に照らすと、甲1フィルム発明及び甲3に記載された感光性ドライフィルムは、共通の技術分野において、プリント配線板のソルダーレジスト形成用の感光性樹脂組成物からなる感光性のドライフィルムであるという共通の機能・構造を有する。
そして、甲1には、「本発明で用いる(f)顔料成分は、必要に応じて、カーボンブラックを用いることができる。」旨の記載(【0034】)があるところ、共通の技術分野において共通の機能・構造を有する甲3の感光性ドライフィルムと同様に、甲1フィルム発明も甲3の感光性ドライフィルムと同様に「用いる支持フィルムの表面粗さ(Ra)は0.2〜3μm」とすることで、「表面がマット化されたレジスト層が得られ」、「配線隠蔽性が向上したり、表面の光反射を抑制され、良好な意匠性が得られたり」する(【0058】)効果が望まれることは、当業者には自然に理解することができることである。

しかしながら、本件特許発明1は、「半導体の高集積化に伴い、永久マスクレジスト上に更に他の材料が積層されるような例が増加している。このため、永久マスクレジストとして用いられる材料は、積層される他の材料、例えば、封止材、アンダーフィル、銅等との密着性に優れることが望ましい」(【0005】)ことに鑑みて、「異種材料、特に封止材、アンダーフィル、銅スパッタ等との密着性に優れる永久マスクレジストを形成することができる感光性エレメントを提供することができる」という効果(【0021】)を奏するものである。
一方で、甲1及び甲3には、「永久マスクレジスト上に更に他の材料が積層される」ことについての記載及びその示唆となる記載はなく、感光層の支持層と接する側の面において「異種材料、特に封止材、アンダーフィル、銅スパッタ等との密着性に優れる永久マスクレジストを形成する」ことや、その際にそれらとレジストとの密着性を考慮して、レジストの上面が所望の表面粗さ(Ra)となるような形成手段として、支持フィルムの感光層と接する面の表面粗さ(Ra)を500nmより大きく、4000nm以下とする動機付けや示唆となる記載も見出すこともできない。
そうすると、本件特許発明1が奏する上記効果は、甲1フィルム発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が予測できた範囲を超える顕著な効果であるといえる。
したがって、本件特許発明1は、甲1フィルム発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)本件特許発明2についての対比判断
本件特許発明2と甲1フィルム発明とを対比すると、上記(1)と同様であり、本件特許発明2と甲1フィルム発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点2:本件特許発明1は、「支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで200nm〜4000nm」であるのに対し、甲1フィルム発明の「支持層」の感光性樹脂組成物層と接する面の表面粗さ(Ra)が特定されていない点。
そして、上記相違点2について判断は、上記1(3)と同様である。
したがって、本件特許発明2は、甲1フィルム発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)本件特許発明3〜15についての対比判断
ア 本件特許発明3〜9は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明1及び2と同様の理由により、甲1フィルム発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件特許発明10〜12は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用する「永久マスクレジストの形成方法」の発明であるから、甲1レジスト形成方法発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明13は、請求項1又は2を直接的に引用する「永久マスクレジスト」の発明であるから、甲1レジスト発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明14は、請求項10〜12を直接又は間接的に引用する「半導体パッケージの製造方法」の発明であるから、甲1レジスト形成方法発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

オ 本件特許発明15は、請求項1又は2を直接的に引用する「積層体」の発明であるから、甲1フィルム発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)小括
以上(1)〜(3)のとおりであるから、本件特許発明1〜15は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(7)特許異議申立人の主張(甲1を主引例とした場合)について
特許異議申立人は、令和4年7月19日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)の「3(2)(2−1)(2−1−2)(b)」(第3頁〜第4頁)において、「被申立人は甲1に甲3の技術を採用することの阻害要因等を云々主張しているものの、ソルダーレジスト(永久マスクレジスト)という用途が共通する甲1及び甲3において、ソルダーレジスト用の感光性樹脂組成物として、所定粒径の無機充填材を含む感光性樹脂組成物を使用することや、感光性樹脂組成物を塗布する支持体としてマット化されたフィルムを使用することは公知の事項であり、甲1発明の課題と異なる課題が甲3に記載されているからといって、それが阻害事由になるとまでは言えません。」と主張する。
しかしながら、上記(3)で説示したとおり、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項からは、本件特許発明1が奏する効果を、当業者が予測できたということはできず、上記主張を参酌しても、その点について採用すべき主張を見出すこともできない。
したがって、特許異議申立人の主張は、採用することはできない。

2 甲2を主引例とした場合の判断
(1)本件特許発明2についての対比(甲2−3フィルム発明を主引用発明とした場合)
本件特許発明2と甲2−3フィルム発明とを対比する。
ア 支持フィルム、感光層及び感光性エレメント
甲2−3フィルム発明の「感光性フィルム」は、
「(A)成分として、ウレタン変性エポキシアクリレート樹脂UXE−3024を含有し、
(B)成分として、メタクリル酸/メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチルの共重合体の40質量%メチルセルソルブ/トルエン溶液を含有し、
(C)成分として、MHIブラック#220を含有し、
(D)成分として、UF−8001G−20Mを含有し、
(E)成分として、FA−321Mを含有し、
(F)成分として、イルガキュア369を含有し、
(G)成分として、メラミン誘導体を含有し、
その他の成分として、メチルエチルケトン及びトルエンを含有した溶液」を、
「ポリエチレンテレフタレートフィルム(ダイヤホイルE150−26、ヘーズ値73%)」上に均一に塗布乾燥し、40μmである感光性樹脂組成物の層である「感光層」を形成して得られたものである。
上記「感光性フィルム」の構造からみて、甲2−3フィルム発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(ダイヤホイルE150−26、ヘーズ値73%)」及び「感光層」は、それぞれ本件特許発明2の「支持フィルム」及び「感光層」に相当する。
また、上記製造工程からみて、甲2−3フィルム発明の「感光層」は、本件特許発明2の「支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される」という要件を満たす。さらに、甲2−3フィルム発明の「感光性フィルム」はその構成等からみて、本件特許発明2の「感光性エレメント」に相当する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明2と甲2−3フィルム発明とは、以下の点で一致する。
「支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される感光層と、を備える感光性エレメント。」

イ 相違点
本件特許発明2と甲2−3フィルム発明とは、以下の点で相違する。
相違点3:本件特許発明2が、「支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで200〜4000nm」であるのに対し、甲2−3フィルム発明では、支持フィルムの表面粗さが明らかでない点。

相違点4:本件特許発明2が、「感光性樹脂組成物は、平均粒径が1μm以下の無機充填材を10〜90質量%含有し、前記無機充填材は、硫酸バリウム及びシリカフィラーからなる群から選択される少なくとも一種を含む」のに対し、甲2−3フィルム発明は、無機充填材を含まない点。

(3)判断
上記相違点3について検討すると、甲2の【0070】及び甲3の【0058】には、支持フィルムの感光層と接する面の表面粗さ(Ra)についての記載はあるものの、「永久マスクレジスト上に更に他の材料が積層される」ことについて明記はないので、感光層の支持層と接する側の面において「異種材料、特に封止材、アンダーフィル、銅スパッタ等との密着性に優れる永久マスクレジストを形成すること」や、その際にそれらとレジストとの密着性を考慮して、レジストの上面が所望の表面粗さ(Ra)となるように、支持フィルムの感光層と接する面の表面粗さ(Ra)を200nm〜4000nmとすることにつながる動機付けや示唆となる記載を見出すこともできない。
そうすると、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明2は、上記1(3)と同様の理由により、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲9に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)本件特許発明2についての対比判断(甲2−4フィルム発明を主引用発明とした場合)
上記2(1)〜(3)と同様の対比及び判断により、本件特許発明2は、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲9に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)本件特許発明3〜15についての対比判断(甲2−3フィルム発明又は甲2−4フィルム発明を主引用発明とした場合)
上記1(5)と同様の理由で、本件特許発明3〜15は、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲9に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)小括
以上(1)〜(5)のとおりであるから、本件特許発明2〜15は、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲9に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(7)特許異議申立人の主張(甲2を主引例とした場合)について
特許異議申立人は、意見書の「3(2)(2−2)(2−2−2)(b)」(第6頁〜第7頁)において、「樹脂表面に銅めっき層等を形成する際に、樹脂表面を粗面化してアンカー効果によって銅めっき層との密着性を向上させることは当業者には公知の事項でした。例えば、甲第14号証(第20回 マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集、2010年9月公表)には、エポキシ樹脂等からなる配線基板上に無電解銅めっきを行う際に、表面粗さRaを170nm〜400nmの範囲で表面粗度を変えた樹脂表面に無電解銅めっきを行うと、樹脂表面の表面粗度が増加するに従い、アンカー効果により銅めっき皮膜のピール強度が高くなることが記載されております(甲14の112頁、図4)。」と主張する。
(なお、上記意見書と共に提出された甲第14号証は以下のものである。
甲第14号証:清水 悟 外3名、荏原ユージライト株式会社 総合研究所、「低粗度セミアディティブ基板への高密着無電解銅めっきの検討」、2010年9月、第20回 マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集、第111〜114頁)
しかしながら、甲14に記載されているのは、上記のとおり「エポキシ樹脂等からなる配線基板上に無電解銅めっきを行う際」のことであって、配線基板上に形成した「永久マスクレジスト上に更に他の材料が積層される」際のことではない。
そうすると、甲14の記載を参照したとしても、上記1(3)と同様の理由により、本件特許発明2は、甲2−3フィルム発明又は甲2−4フィルム発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。


第7 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 甲1を主引例とした場合の理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)の「(4)(4−2)(4−2−3)」(第27頁〜第28頁)において、「甲1には、上記のように、基板側の銅など金属と感光性樹脂組成物層との密着性についても示唆されているのであるから(甲1の【0035】)、甲1−1発明の感光性エレメントにおいても、感光層を設ける支持フィルムとして甲3や甲4に記載されているようなRaが200〜数千nm程度の支持フィルムを使用すれば、金属と感光性樹脂組成物層との密着性がより向上すると当業者であれば当然考えるはずであり、甲1−1発明に甲3や甲4に記載されている技術的事項を適用するのに障壁や障害も見当たらない」旨主張する。
しかしながら、上記主張にある甲1の【0035】には、「本発明の感光性樹脂組成物には、特に感光性樹脂組成物層と銅等の金属との密着が必要とされる場合」と記載されているものの、当該記載における「銅等の金属」とは、甲1の【0051】に「銅箔をガラスエポキシ基材に積層したプリント配線板用基板(E−679、日立化成工業株式会社製、商品名)」との記載があるように、プリント配線用基板上のもの(上記「第6」(7)で説示した甲14と同様)であり、本件特許がいうところの、支持フィルムの「感光層と接する面」における表面粗さ(Ra)とは形成位置が異なる面の密着性あるいはその面の表面粗さ(Ra)に関するものであるから、上記主張に係る事項は、甲1に記載された発明において甲3、甲4及び甲14に記載された技術的事項を採用して、支持フィルムの「感光層と接する面」の表面粗さ(Ra)を所望のものとする動機付けにはなり得ない。

申立書の「(4−2−4)」(第28頁〜第29頁)の本件特許発明2に対する主張についても同様である。

2 甲2を主引例とした場合の理由について
(1)特許異議申立人は、申立書の「(4)(4−3)(4−3−2)」(第36頁〜第37頁)において、甲2発明において、「ダイヤホイルE130−26の表面粗さRaは、製造者である三菱樹脂株式会社のカタログ(甲第7号証)によれば、0.26μm(260nm)である。
以上から、相違点1である「刊行物1には、支持フィルムの感光層と接する面の表面粗さRaが明らかでない点」は実質的な相違点とはいえない。」旨主張する。
(2)また、特許異議申立人は、申立書の「(4)(4−3)(4−3−3)」(第38頁〜第39頁)において、「平均粒径1μm以下の無機充填材として硫酸バリウムやシリカフィラーを10〜90質量%含む感光性樹脂組成物を使用することで、得られる硬化膜は、異種材料に対して高い密着性を示すと共に、クラック耐性も高くなることは、甲9〜甲11にも記載のとおり周知慣用の技術的事項であったといえるから、予想外の効果であるとまでは到底言えない。」旨主張する。

しかしながら、上記(1)の主張によると、特許異議申立人が主張する甲2発明は、甲2の「比較例5」(ダイヤホイルE130−26を用いたもの)に基づく発明と理解できるが、甲2発明は「比較例5は、感度、解像度に劣る」(甲2の【0090】)ものであるところ、申立書で提示された甲9〜甲11に記載された周知慣用技術は、感度や解像度を向上させるものではないし、当業者が感度や解像度の問題をひとまず措いて、甲2発明を出発点としてクラック耐性を高めるようとする理由も見いだせないので、甲2発明に甲9〜甲11に記載された技術的事項を適用する動機が存在するとはいえない。
また、上記(1)の支持フィルムの感光層と接する面の表面粗さRaについては、上記1と同様に、甲2に記載された発明において、支持フィルムの「感光層と接する面」を所望のものとする動機付けとなり得ない。

3 小括
以上1及び2のとおりであるから、申立書における特許異議申立ての理由については採用することはできない。


第8 まとめ
以上のとおりであるから、当合議体が通知した取消しの理由及び特許異議申立ての理由によっては、請求項1〜15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久マスクレジスト又は層間絶縁膜形成用の感光性エレメントであって、
支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される感光層と、を備え、
前記支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで500nmより大きく、4000nm以下であり、
前記感光性樹脂組成物は、平均粒径1μm以下の無機充填材を10〜90質量%含有し、
永久マスクレジスト又は層間絶縁膜を形成すべき基板上に、前記感光層の支持フィルムと反対側の面を貼付するための、感光性エレメント。
【請求項2】
支持フィルムと、該支持フィルム上に設けられ、感光性樹脂組成物から形成される感光層と、を備える感光性エレメントであって、
前記支持フィルムは、感光層と接する面の表面粗さがRaで200〜4000nmであり、
前記感光性樹脂組成物は、平均粒径1μm以下の無機充填材を10〜90質量%含有し、
前記無機充填材は、硫酸バリウム及びシリカフィラーからなる群から選択される少なくとも一種を含む、感光性エレメント。
【請求項3】
前記支持フィルムは、ヘーズが60%以上である、請求項1又は2に記載の感光性エレメント。
【請求項4】
前記感光性樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項5】
前記多官能エポキシ樹脂は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂及びエポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体の少なくとも一方を含有する、請求項4に記載の感光性エレメント。
【請求項6】
前記感光性樹脂組成物は、(メタ)アクリロイル基を有する光反応性化合物を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項7】
前記感光性樹脂組成物は、アシルホスフィン系化合物及びチオキサントン系化合物のうち少なくとも一種を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項8】
前記感光性樹脂組成物は、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイドを含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項9】
前記感光性樹脂組成物は、2,4−ジエチルチオキサントン及び2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−1−プロパノンの少なくとも一方を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の感光性エレメント。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性エレメントを用いて、基板上に感光層を形成する工程と、
感光層の所定部分に活性光線を照射し、光硬化部を形成する工程と、
前記光硬化部以外の領域を除去する工程と、を備える永久マスクレジストの形成方法。
【請求項11】
前記光硬化部を形成する工程において、直接描画方式、投影露光方式又は感光層に直接接触しないようにネガマスクを配置する露光方式を用いて活性光線を照射する、請求項10に記載の永久マスクレジストの形成方法。
【請求項12】
光硬化部以外の領域を除去する工程の後に、加熱する工程を更に備える、請求項9又は10に記載の永久マスクレジストの形成方法。
【請求項13】
基板と、該基板上に形成されたレジストパターンと、を備え、
前記レジストパターンが、請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性エレメントの感光層から形成されたものである、永久マスクレジスト。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の永久マスクレジストの形成方法により、永久マスクレジストが形成された基板上に、他の部材を形成する工程を備える、半導体パッケージの製造方法。
【請求項15】
基板と、該基板上に感光性樹脂組成物を硬化させた硬化物を備える積層体であって、
前記硬化物が、請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性エレメントの感光層の前記支持フィルムと接する面と反対側の面を前記基板と接触させた状態で硬化して形成された硬化物である、積層体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-16 
出願番号 P2019-173465
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G03F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 小濱 健太
関根 洋之
登録日 2021-05-07 
登録番号 6879348
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 感光性エレメント、積層体、永久マスクレジスト及びその製造方法並びに半導体パッケージの製造方法  
代理人 平野 裕之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  

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