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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01S
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01S
管理番号 1392048
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-17 
確定日 2022-10-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6929578号発明「システム等」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6929578号の請求項1〜4に係る特許を取り消す。 同請求項5〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第6929578号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和元年9月30日に出願した特願2019−178754号の一部を令和2年7月14日に新たな特許出願としたものであって(優先権主張 平成31年4月4日、令和元年5月24日)、令和3年8月13日にその特許権の設定登録がされ、同年9月1日に特許掲載公報が発行された。
2(1) 本件特許の請求項1から請求項7に係る特許に対して、令和4年2月17日に特許異議申立人秋山美菜子(以下、単に「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがされた。
(2) 同年5月13日付けで、本件特許の請求項1〜4に係る発明に対して、取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。


第2 本件発明
特許第6929578号の請求項1〜7に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1〜7には次のとおり記載されている。
「 【請求項1】
車両の速度を測定するためのレーザー光の受光に応じて警報を発する制御を行うシステムであって、
窓が設けられた筐体と、
レンズと、
前記レンズを保持するレンズホルダと、
前記筐体の内部に配置され、受光部が設けられた基板と、
前記受光部が受光した前記レーザー光に応じて警報を発する制御を行う制御部と、
を備え、
前記レンズホルダは、前記窓および前記レンズを通過した光が前記受光部に受光される位置に配置され、
前記窓は、前記車両の高さ方向よりも前記車両の幅方向に長い
システム。
【請求項2】
車両の速度を測定するためのレーザー光の受光に応じて警報を発する制御を行うシステムであって、
窓が設けられた筐体と、
レンズと、
前記レンズを保持するレンズホルダと、
前記筐体の内部に配置され、受光部が設けられた基板と、
前記受光部が受光した前記レーザー光に応じて警報を発する制御を行う制御部と、
を備え、
前記レンズホルダは、前記窓および前記レンズを通過した光が前記受光部に受光される位置に配置され、
前記窓は、横長である
システム。
【請求項3】
前記レンズホルダは、前記基板に開けられた穴に一部が挿し込まれることにより、前記通過した光が前記受光部に受光される位置に配置される
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記レンズホルダは、前記基板に開けられた穴に一部が挿し込まれることにより、前記レンズの光軸位置に前記受光部が位置するように構成される
請求項1から3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記受光部の受光素子を覆う、前記レーザー光の伝搬を防ぐ素材で形成されたケースを備える
請求項1から4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ケースは、前記車両の幅方向に延びる第1の辺の側の側面と、前記第1の辺に交差する第2の辺側の側面とを有し、
前記第1の辺は前記第2の辺よりも長い
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記基板は、前記レンズ側の第1面と、前記第1面に対向する第2面とを有し、
前記受光部の受光素子は、前記基板の前記第2面側に設けられ、
前記基板には、前記第1面側から前記受光素子に光を導くための透光部が設けられている
請求項1から6のいずれか1項に記載のシステム。」


第3 令和4年5月13日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件発明1〜4に係る特許に対して、当審において、令和4年5月13日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

理由1(新規性の欠如)
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1〜4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

理由2(進歩性要件違反)
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲5号証及び甲1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。


甲1号証 :米国特許第5666120号明細書
甲5号証 :「INSPECTOR SCAT Sの取扱説明書」
Internet Archive、Wayback machine、https://web.archive.org/web/20171215040625/http:/www.rd-inspector.ru/wp-content/uploads/2017/11/manual-scat-s.pdf

第4 取消理由通知で通知した取消理由について
1 各甲号証に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 甲1号証に記載された事項と甲1発明の認定
ア 甲1号証に記載された事項
前記甲1号証には、以下の事項が記載されている。なお、日本語訳は当合議体によるものであり、下線は当合議体が付したものである。

(ア) 1欄8行〜2欄19行
「 FIELD OF THE INVENTION
This invention relates to detectors and more particularly to vehicle speed sensing systems.

BACKGROUND OF THE INVENTION
As is known in the art, speed detection systems may be used to determine the speed of moving objects, such as ground based or airborne motor vehicles for example. It is often desirable for the operator of the moving vehicle to know when the speed of the vehicle is being measured. For example, it may be desirable for an operator of a moving automobile to know when the speed of the automobile is being detected by a speed detection system.
As is also known, such speed detection systems may utilize either radar or laser devices in their operation.
(中略)
It would, therefore, be desirable to provide a detection device which detects the presence of both laser and radar speed detection systems and which is able to distinguish between signals provided from speed detection systems and signals provided from other detection devices such as other radar detectors.」
( 発明の属する技術分野
本発明は、検出器に関し、特に車両速度検出システムに関する。

発明の背景技術
本発明の属する技術分野において、地上又は空中にあるモータービークルなどの移動物体の速度を決定するため、速度検出システムが使用されていることが知られている。走行中の車両の運転者にとって、当該車両の速度が測定されているときを知ることが多くの場合望ましい。例えば、走行中の自動車の運転者にとって、当該自動車の速度が速度検出システムによって検出されているときを知ることが望ましいことがある。
また、そのような速度検出システムが、レーダー装置又はレーザー装置のいずれかを利用して動作することもよく知られている。
(中略)
したがって、レーザー速度検出システムとレーダー速度検出システムの双方の存在を検出し、速度検出システムから供給される信号と他のレーダー検出器などの他の検出装置から供給される信号を区別することができる検出装置を提供することが望ましい。)

(イ) 2欄20〜38行
「 SUMMARY OF THE INVENTION
In accordance with the present invention, a detector device includes a microcontroller having coupled thereto a laser detector a radar detector and a display. The microcontroller receives signals from the laser and radar detectors and provides an output signal to the display indicating which of the detectors fed a signal thereto. With this particular arrangement, a detector which detects signals emitted from both radar and laser guns is provided. The detector device may further include a housing in which the microcontroller, radar detector and laser detector are disposed with the radar detector being disposed above the laser detector. The laser detector includes a lens array positioned in front of a detector to thus provide a laser detector having a relatively wide field of view and higher sensitivity with minimal costs. The lens array may be provided as a high optical gain lens array which provides amplified signals to the detector which may for example be provided as a single photodiode.」
( 発明の概要
本発明によれば、検出装置は、レーザー検出器、レーダー検出器及びディスプレーが接続されたマイクロコントローラーを含む。マイクロコントローラーは、レーザー及びレーダー検出器から信号を受信し、いずれの検出器がマイクロコントローラーに信号を供給したかを示す出力信号をディスプレーに提供する。この特定の構成により、レーダーガンとレーザーガンの双方から放出される信号を検出する検出器が提供される。この検出装置は、マイクロコントローラー、レーダー検出器及びレーザー検出器が収納され、レーダー検出器がレーザー検出器の上方に配置される、筐体を更に含んでもよい。
レーザー検出器は、検出器の前に配置されたレンズアレーを含み、したがって、最小限のコストで比較的広い視野及びより高い感度を有するレーザー検出器を提供する。レンズアレーは、例えば単一のフォトダイオードとして提供され得る検出器に増幅された信号を提供する高光学利得レンズアレーとして提供され得る。)

(ウ) 3欄49行〜4欄1行
「FIG. 1 is a block diagram of a combination radar/laser detector system;
FIG. 1A is a block diagram of a combination laser/radar detector system including a pair of microprocessors;
FIG. 1B is a perspective view of a combination radar/laser detector system disposed in a housing;
FIG. 2 is a diagram of a laser detector which may be used in the system of FIG. 1;
FIG. 3 is a top view of a lens array which may be used in the laser detector of FIG. 2;
FIG. 3A is a front view of the lens array of FIG. 3 taken along lines 3A--3A;
FIG. 3B is a front view of the lens array of FIG. 3 taken along lines 3B--3B;
FIG. 3C is a side view of the lens array of FIG. 3 taken along lines 3C--3C;
FIG. 3D is a schematic diagram of a printed circuit board on which a lens array and a photodetector are disposed;
FIG. 3E is a top view of a lens array;」
(図1は、レーダー/レーザー複合検出器システムのブロック図である。
図1Aは、一対のマイクロプロセッサーを含むレーザー/レーダー複合検出器システムのブロック図である。
図1Bは、筐体内に配置されたレーダー/レーザー複合検出器システムの斜視図である。
図2は、図1のシステムで使用することができるレーザー検出器の図である。
図3は、図2のレーザー検出器において使用され得るレンズアレーの上面図である。
図3Aは、線3A−3Aに沿った図3のレンズアレーの正面図である。
図3Bは、線3B−3Bに沿った図3のレンズアレーの正面図である。
図3Cは、線3C−3Cに沿った図3のレンズアレーの側面図である。
図3Dは、レンズアレー及び光検出器が配置されるプリント回路基板の概略図である。
図3Eは、レンズアレーの上面図である。)

(エ) 5欄10〜13行
「Since laser guns are less common and the reaction time thereto must be faster, in those cases where both laser and radar alarm signals are generated, the laser alarm signals have priority over the radar signals.」
(レーザーガンはあまり一般的ではなく、その反応時間はより速くなければならないので、レーザー警報信号とレーダー警報信号の双方が生成される場合、レーザー警報信号はレーダー信号よりも優先される。)

(オ) 5欄14〜19行
「Referring now to FIG. 1B detector 10 is shown to further include a housing 11 in which the laser detector circuit 12, radar detector circuit 14, microcontroller 16 and display 18 are disposed. Since radar detector 14 protrudes farther from the housing than does laser detector 12, laser detector 12 is disposed below radar detector 14.」
(図1Bを参照すると、検出器10が、レーザー検出器回路12、レーダー検出器回路14、マイクロコントローラー16及びディスプレー18が内部に配置された筐体11を更に含むことが示される。レーダー検出器14はレーザー検出器12よりも筐体から突出しているため、レーザー検出器12はレーダー検出器14の下方に配置されている。)

(カ) 5欄33〜35行
「A first window 72 is disposed in front of laser detector 12 and a second window 73 is disposed in front of radar detector 14.」
(第1の窓72はレーザー検出器12の前方に配置され、第2の窓73はレーダー検出器14の前方に配置される。)

(キ) 5欄43〜50行
「Referring now to FIG. 2, laser detector circuit 12 includes a lens 20 disposed about a photodiode detector 22. Lens 20 will be described in detail in conjunction with FIGS. 3-3C below. Suffice it here to say that lens 20 provides the laser detector 12 having a particular field of view such that laser beam incident on a surface 20a of lens 20 are focused on photodiode 22 such that photodiode 22 provides a signal in response thereto.」
(ここで図2を参照すると、レーザー検出器回路12は、フォトダイオード検出器22の周りに配置されたレンズ20を含む。レンズ20は、以下の図3−3Cと共に詳細に説明される。ここでは、次の点を言っておくだけで十分である。レンズ20の表面20aに入射するレーザービームがフォトダイオード22に集光し、当該レーザービームに応じた信号を当該フォトダイオード22が出力するようにレンズ20は特定の視野を有するレーザー検出器12を提供する。)

(ク) 7欄16〜35行
「Referring now to FIGS. 3-3C, in which like elements are provided having like reference designations throughout the several views, a lens array 50 which may be used in laser detection 12 of FIG. 2 for example, includes a plurality of lenses 50a, 50b and 50c. Each lens 50a-50c includes first and second opposing lens surfaces. Lens array 50 also includes a frame 58 having three apertures in which lenses 50a-50c are disposed.
Lens frame 58 includes a pair of arm regions 62, 64 each of which have a pair of mounting posts 66 (FIGS. 3B,3C) projecting from a first surface thereof. Mounting posts 66 are coupled to a printed circuit board and thus to housing 11 (FIG. 1B) to secure the lenses 50a, 50b, 50c in a predetermined position.
The lenses 50a, 50c are here disposed in the apertures of the frame 58 such that lenses 50a, 50c here respectively form angles alpha and beta with respect to a center line 61. The focal point of the lenses 50a-50c coincide at a point F at which a photodetector diode (70 FIG. 3D) will be disposed.」
(ここで図3−3Cを参照すると(これらの図においては、全図を通じて、同じ参照符号を有する同じ要素が提供されている)、例えば図2のレーザー検出器12において使用され得るレンズアレー50は、複数のレンズ50a、50b及び50cを含む。レンズ50a、50b及び50cのそれぞれは、対向する第1及び第2のレンズ面を有する。レンズアレー50は、レンズ50a〜50cが配置される三つの開口を有するフレーム58も含む。
レンズフレーム58は、第1の面から突出する一対の取り付け支柱66(図3B、3C)をそれぞれ有する一対のアーム領域62,64を含む。取り付け支柱66は、プリント配線基板に、したがって筐体11に連結され、レンズ50a、50b及び50cを予め決められた位置に固定する。
レンズ50a、50cは、ここでは、レンズ50a,50cがそれぞれ中心線61に対して角度α及びβを形成するように、フレーム58の開口に配置されている。レンズ50a〜50cの焦点は、フォトダイオード(70、図3D)が配置される位置Fと一致する。)

(ケ) 7欄47〜56行
「Here alpha and beta are each 42 degrees. The particular angles were selected according to a variety of factors including but not limited to the size of the photodiode being used, the maximum allowable size of array 50 as limited by the desired size of the housing 11 (FIG. 1B), and the field of view which is desired to be covered. Theoretically, with this configuration of lens array, a single photodiode can cover a 180 degree field of view and a 360 degree field of view can be covered with two photodiodes and two arrays arranged in diametrically opposing directions as shown in FIG. 3E.」
(ここで、α及びβはそれぞれ42度である。この特定の角度は、使用されるフォトダイオードのサイズや、筐体11(図1B)の大きさによって制限されるアレー50の最大許容サイズや、カバーされることが望まれる視野のみに限らず、様々な要因に従って選択された。理論的には、このレンズアレーの構成では、単一のフォトダイオードが180度の視野をカバーすることができ、360度の視野は、図3Eに示すように、互いに反対の方向に配置された二つのフォトダイオード及び二つのアレーでカバーすることができる。)

(コ) 9欄46〜62行
「Referring now to FIG. 3D, a portion of lens array 50 is shown disposed on a printed circuit board 68 on which a photodetector 70 and a plurality of electrical components 79 are also disposed. A window 72 is disposed about an outer surface of the lens. Lens array 50 focuses light incident thereon onto the photodetector 70 such that photodetector 70 provides an electrical signal in response to the light signal fed thereto.
As mentioned above, lenses 50a, 50b are disposed in apertures of frame 58 having side sections 62, 64. Each side section 62, 64 has a pair of posts 66 projecting from a surface thereof. The printed circuit board 68 has a corresponding pair of holes in which the posts are disposed.
Posts 66 may be press fit to the printed circuit board and then fastened to the printed circuit board using a sonic welding technique or any technique well known to those of ordinary skill in the art.」
(ここで図3Dを参照すると、フォトダイオード70及び複数の電子コンポーネント79が実装されるプリント配線基板68に、レンズアレー50の一部が配置されることが示される。窓72は、レンズの外面の近くに配置される。レンズアレー50は、フォトダイオード70が、与えられた光信号に反応して電気信号を出力するように、自身に入射した光をフォトダイオード70に集光する。
上述したように、レンズ50a、50bは、側部62、64を有するフレーム58の開口に配置されている。側部62、64はそれぞれ、それらの表面から突出する一対の支柱66を有する。プリント配線基板68は、支柱が配置される一対の対応する穴を有する。
支柱66は、プリント配線基板に押し込まれ、さらに音波溶接技術又は当業者によく知られた任意の技術によってプリント配線基板に固定されてもよい。)

(サ) 図1




(シ) 図1A




(ス) 図1B




(セ) 図2




(ソ) 図3




(タ) 図3A




(チ) 図3B




(ツ) 図3C




(テ) 図3D




(ト) 図3E




イ 甲1号証に記載された発明の認定
(ア) 図1Bから、窓12が筐体11に設けられていることが読み取れる。

(イ) 図3には、レンズ50a〜50cが配置されたレンズアレー50が示されているところ、甲1号証の3欄49行〜4欄1行に記載された「図3は、図2のレーザー検出器において使用されるレンズアレーの上面図である。」を参酌すると、レンズ50a〜50cが水平方向に並んで配置されているものと認められる。
そして、甲1号証の7欄16〜35行、7欄47〜56行及び図3には、レンズ50a,50cがそれぞれ中心線61に対して角度α及びβを形成するように配置され、ここで、α及びβはそれぞれ42度であり、理論的には、このレンズアレーの構成では、単一のフォトダイオードが180度の視野をカバーすることができると記載されているから、上記のとおり、レンズ50a〜50cが水平方向に並んで配置されているとすると、カバーする180度の視野は、水平方向における視野であることが読み取れる。
そうすると、甲1号証の5欄33〜35行、9欄46〜62行に記載されているように、窓72は、レーザー検出器12の前方に、かつレンズの外面の近くに配置されており、レーザービームは窓72を介してレンズに入射するから、水平方向において180度の視野をカバーするためには、図1Bに示されている窓72の長手方向が水平方向であり、短手方向が上下方向であることは明らかである。

(ウ) 前記アの記載事項及び前記(ア)及び(イ)の認定事項を総合すると、甲1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1発明>
「レーザー速度検出システムとレーダー速度検出システムの双方の存在を検出する検出装置であって(1欄8行〜2欄19行)、
検出装置は、レーザー検出器、レーダー検出器及びディスプレーが接続されたマイクロコントローラーを含み、マイクロコントローラーは、レーザー及びレーダー検出器から信号を受信し、いずれの検出器がマイクロコントローラーに信号を供給したかを示す出力信号をディスプレーに提供し、
レーザー警報信号とレーダー警報信号の双方が生成される場合、レーザー警報信号はレーダー信号よりも優先され(5欄10〜13行)、
当該検出装置は、マイクロコントローラー、レーダー検出器及びレーザー検出器が収納される筐体を含み(2欄20〜38行)、
レーザー検出器は、検出器の前に配置されたレンズアレーを含み(2欄20〜38行)、
レンズアレー50は、複数のレンズ50a、50b及び50cと、レンズ50a〜50cが配置される三つの開口を有するフレーム58を含み(7欄16〜35行)、
レンズ50a〜50cは、フレーム58の開口に配置され、レンズ50a〜50cの焦点は、フォトダイオード70が配置される位置Fと一致し(7欄16〜35行)、
レンズアレー50は、フォトダイオード70が、与えられた光信号に反応して電気信号を出力するように、自身に入射した光をフォトダイオード70に集光し(9欄46〜62行)、
フレーム58は、第1の面から突出する一対の取り付け支柱66をそれぞれ有する一対のアーム領域62,64を含み、取り付け支柱66は、プリント配線基板に連結され、レンズ50a、50b及び50cを予め決められた位置に固定し(7欄16〜35行)、
フォトダイオード70が実装されるプリント配線基板68に、レンズアレー50の一部が配置され、プリント配線基板68は、支柱が配置される一対の対応する穴を有し、支柱66は、プリント配線基板に押し込まれ、さらに音波溶接技術又は当業者によく知られた任意の技術によってプリント配線基板に固定され(9欄46〜62行)、
窓72は、筐体11に設けられ、レーザー検出器12の前方に、かつ、レンズの外面の近くに配置され、長手方向が水平方向であり、短手方向が上下方向である(5欄33〜35行、9欄46〜62行、上記(ア)及び(イ)の認定事項)、
検出装置。」

(2) 甲5号証に記載された事項と甲5発明の認定
ア 甲5号証に記載された事項
前記甲5号証には、以下の事項が記載されている。なお、日本語訳は特許異議申立人による抄訳を基本的に用いたものであり、下線は当合議体が付したものである。

(ア) 1頁1〜14行



(コンボデバイスINSPECTOR SCAT Sのご購入、誠にありがとうございます。
デバイスを使用する前に、本取扱説明書を注意深くお読みください。説明書には、デバイス本体、各種機能・設定、取付及び使用方法並びに保証条件に関する詳細が記載されております。この記載情報は、デバイスを正しくセットアップし、通常使用時のエラーを回避し、長くご使用いただくために役立つものです。
デバイスについて
INSPECTOR SCAT S − 国家道路交通安全検査局(GIBDD)のレーダーのシグネチャを検出することができる高性能レーダー探知機と、走行中の映像を記録するためのSuperHDビデオレコーダーを搭載したハイテク・コンボデバイスです。
レーダー探知機 − あなたの自動車の走行速度を計測するのに用いられている国家道路交通安全検査局(GIBDD)のレーダー信号を検出することができるデバイスです。ここから警告が通知されることにより走行区間の交通規則で定められた制限速度を超過した際、車の速度を落とすことができ、規則違反による罰金の支払いを避けることができます。レーダー探知機は、警告を目的としたものであり、故意に道路交通規則に違反することがないように!)

(イ) 2頁9〜15行



(本デバイスの技術仕様書:
レーダー探知機
周波帯
・Strelka ST/Mのレーダー受信
・K − 24.150GHz±125MHz
・X − 10.525GHz±50MHz
・Laser − 800〜1000nm(180°))

(ウ) 3頁11〜22行



(外観・操作部位
1.電源接続プラグ
2.メモリーカードmicroSD用スロット
3.デバイス再起動ボタン(Reset)
4.電源ボタン兼動画ファイル上書き防止ボタン(●)
5.音声記録用マイク
6.タッチパネル
7.ビデオレコーダーの対物レンズ
8.レーダー探知機の受信機
9.フロントガラス用ホルダースロット
10.フロントガラス用ホルダー)

(エ) 4頁15行〜5頁1行



(レーダー探知機能
本デバイスは、レーダー探知機能を用いて無線信号を受信し、現在ロシアで使用されているあらゆる周波数帯の速度レーダー信号(K/X/Laser及び最新型レーダーのStrelka ST(定置式)とStrelka M(移動式))を事前に検知します。高性能誤認警報フィルターにより、速度レーダーと同じ周波数帯で動作するモーションセンサーやデバイスの信号による誤作動数を減らすことができます。
ある周波数帯の信号に反応して作動した場合、画面上にその周波数帯、及び信号放出源に近づくほど大きくなる信号強度のイラストが表示されます。
様々な周波数帯の信号に対応して表示されるイラスト例は以下のとおりです。)

イ 甲5号証に記載された発明の認定
(ア) 甲5号証の3頁11〜22行に示されている外観図から、本デバイスが筐体を有していることが読み取れる。
そして、上記筐体の正面図には番号8が示されており、当該番号8の説明として「8.レーダー探知機の受信機」と記載されているから、当該筐体内にレーダー探知器の受信機が収納されていることが読み取れる。

(イ) 甲5号証の2頁9〜15行及び4頁15行〜5頁1行から、本デバイスが800〜1000nmのレーザー信号を事前に検知するレーダー検知機能を有していることが読み取れる。

(ウ) 上記(イ)に示したとおり、本デバイスはレーザー信号を検知するものであり、筐体内のレーダー探知器の受信機がレーザー信号を検知するためには、レーザー信号を透過する窓が筐体に設けられていなければならないことは明らかであるところ、甲5号証の3頁11〜22行に示されている外観図から、本デバイスの筐体の正面左上に横長の窓があることが読み取れる。
なお、INSPECTOR SCAT Sに関する下記動画には、本製品のレーザー波センサに関する説明時において、上記横長の窓を、左手の親指で押さえており、このことからも上記横長の窓がレーザー信号を透過する窓であることが強く推認される。
(動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=O9DL5P0sUSI
※ 動画を視聴する際は、日本語自動翻訳の字幕付き設定とし、0:52以降を特に参照)

(エ) 前記アの記載事項及び前記(ア)〜(ウ)の認定事項を総合すると、甲5号証には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲5発明>
「高性能レーダー探知機を搭載したハイテク・コンボデバイスであって(1頁1〜14行)、
前記レーダー探知器の受信機が収納される筐体を有し(上記(ア)の認定事項)、
前記レーダー探知機は、自動車の走行速度を計測するのに用いられている国家道路交通安全検査局(GIBDD)のレーダー信号を検出することができるデバイスであり、ここから警告が通知されることにより走行区間の交通規則で定められた制限速度を超過した際、車の速度を落とすことができ(1頁1〜14行)、
本デバイスは、レーダー探知機能を用いて無線信号を受信し、現在ロシアで使用されているあらゆる周波数帯の速度レーダー信号を事前に検知し(4頁15行〜5頁1行)、
上記速度レーダー信号には、800〜1000nmのレーザー信号が含まれ(上記(イ)の認定事項)、
上記レーザー信号を透過する横長の窓が前記筐体の正面左上に設けられている(上記(ウ)の認定事項)、
ハイテク・コンボデバイス。」

2 理由1(新規性の欠如)について
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「レーザー速度検出システムとレーダー速度検出システムの双方の存在を検出する検出装置」は、「レーザー検出器、レーダー検出器及びディスプレーが接続されたマイクロコントローラーを含み、マイクロコントローラーは、レーザー及びレーダー検出器から信号を受信し、いずれの検出器がマイクロコントローラーに信号を供給したかを示す出力信号をディスプレーに提供」するものである。
そして、甲1発明は、「レーザー警報信号とレーダー警報信号の双方が生成される場合、レーザー警報信号はレーダー信号よりも優先され」る、すなわち、レーザー検出器及びレーダー検出器の双方から警報信号が供給されるから、甲1発明の「マイクロコントローラー」が、レーザー検出器から信号を受信したことを示す出力信号をディスプレーに供給することで、運転者に警報を発していることは明らかである。
したがって、甲1発明の上記検出装置は、本件発明1の「車両の速度を測定するためのレーザー光の受光に応じて警報を発する制御を行うシステム」に相当する。

イ 甲1発明の「窓72」が設けられた「筐体11」は、本件発明1の「窓が設けられた筐体」に相当する。

ウ 甲1発明の「レンズ50a、50b及び50c」及び「レンズ50a〜50cが配置される三つの開口を有するフレーム58」は、それぞれ本件発明1の「レンズ」及び「レンズを保持するレンズホルダ」に相当する。

エ 甲1発明の「フォトダイオード70」は、本件発明1の「受光部」に相当する。
そして、甲1発明の「フォトダイオード70が実装されるプリント配線基板68」は、「レーザー検出器」に含まれることは明らかであり、「レーザー検出器」は筐体11に収納されているから、本件発明1の「前記筐体の内部に配置され、受光部が設けられた基板」に相当する。

オ 甲1発明の「マイクロコントローラー」は、上記アで示したとおり、レーザー検出器から信号を受信したことを示す出力信号をディスプレーに提供することによって、運転者に警報を発しているから、本件発明1の「前記受光部が受光した前記レーザー光に応じて警報を発する制御を行う制御部」に相当する。

カ 甲1発明の「フレーム58」は、プリント配線基板に連結されて、レンズ50a、50b及び50cを予め決められた位置に固定するものであり、レンズ50a〜50cの焦点は、フォトダイオード70が配置される位置Fと一致するものである。
また、甲1発明の「窓72」は、レーザー検出器12の前方に、かつレンズの外面の近くに配置されているから、レーザー速度検出システムからのレーザービームは、「窓72」及び「レンズ50a、50b及び50c」を介して、「フォトダイオード70」に集光していることは明らかである。
したがって、甲1発明が、本件発明1の「前記レンズホルダは、前記窓および前記レンズを通過した光が前記受光部に受光される位置に配置され[ていること]」に相当する構成を有していることは明らかである。

キ 甲1発明の「窓72」の「長手方向が水平方向であり、短手方向が上下方向である」ことは、本件発明1の「前記窓は、前記車両の高さ方向よりも前記車両の幅方向に長い」ことに相当する。

ク 以上のとおり、甲1発明は、本件発明1の構成の全てについて、それに相当する構成を有しているから、本件発明1は甲1号証に記載された発明である。

(2) 本件発明2について
甲1発明の「窓72」の「長手方向が水平方向であり、短手方向が上下方向である」ことは、本件発明2の「前記窓は、横長である」ことに相当する。

(3) 本件発明3、4について
甲1発明では、「フレーム58」が有する「一対の取り付け支柱66」が、「プリント配線基板68」が有する「支柱が配置される一対の対応する穴」に押し込まれ、「フレーム58」が「プリント配線基板68」に連結されることで、レンズ50a、50b及び50cを予め決められた位置に固定し、レンズ50a〜50cの焦点が、フォトダイオード70が配置される位置Fに一致するようになるものである。
したがって、甲1発明は、本件発明3の「前記レンズホルダは、前記基板に開けられた穴に一部が挿し込まれることにより、前記通過した光が前記受光部に受光される位置に配置される」構成に相当する構成を有している。
同様に、甲1発明は、本件発明4の「前記レンズホルダは、前記基板に開けられた穴に一部が挿し込まれることにより、前記レンズの光軸位置に前記受光部が位置するように構成される」ことに相当する構成を有している。

(4) 理由1(新規性の欠如)についてのまとめ
以上検討のとおり、本件発明1〜4は、甲1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。

3 理由2(進歩性要件違反)について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲5発明の対比
本件発明1と甲5発明を対比する。
(ア) 甲5発明の「ハイテク・コンボデバイス」は、自身が搭載するレーダー探知器が、自動車の走行速度を計測するのに用いられている国家道路交通安全検査局(GIBDD)のレーダー信号を検出して、警告を通知するものであり、また、当該レーダー信号には800〜1000nmのレーザー信号が含まれているから、本件発明1の「車両の速度を測定するためのレーザー光の受光に応じて警報を発する制御を行うシステム」に相当する。

(イ) 甲5発明の「レーザー信号を透過する横長の窓が前記筐体の正面左上に設けられている」ことは、本件発明1の「窓が設けられた筐体」を有し、「前記窓は、前記車両の高さ方向よりも前記車両の幅方向に長い」ことに相当する。

(ウ) 上記(ア)を踏まえると、甲5発明の「レーダー探知器」が制御部を有することは明らかであり、当該制御部が、本件発明1の「受光部が受光した前記レーザー光に応じて警報を発する制御を行う制御部」に相当する。

イ 一致点及び相違点
上記アの検討を総合すると、本件発明1と甲5発明の両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点において相違する。

<一致点>
車両の速度を測定するためのレーザー光の受光に応じて警報を発する制御を行うシステムであって、
窓が設けられた筐体と、
前記受光部が受光した前記レーザー光に応じて警報を発する制御を行う制御部と、
を備え、
前記窓は、前記車両の高さ方向よりも前記車両の幅方向に長い
システム、である点。

<相違点>
本件発明1では、「レンズと、前記レンズを保持するレンズホルダと、前記筐体の内部に配置され、受光部が設けられた基板と」を備え、「前記レンズホルダは、前記窓および前記レンズを通過した光が前記受光部に受光される位置に配置され」ているのに対して、甲5発明では、そのような構成を有しているか不明である点。

ウ 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
前記2(1)に示したとおり、甲1発明は、甲5発明と同じくレーザー速度検出システムの存在を検出する検出装置において、上記相違点に係る構成を備えるものである。
したがって、甲5発明において、車両の速度を測定するためのレーザー光を検出するための構成として、甲1発明の上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る設計事項である。
その場合、フォトダイオード70が実装されるプリント配線基板68は、甲5発明の筐体内に配置されることになるから、当該筐体の形状や向きに応じて、プリント配線基板68の配置も適宜変更すべきことは明らかである。
そして、本件発明1によって奏される効果は、甲5発明及び甲1発明から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。
よって、本件発明1は、甲5発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件発明2について
甲5発明の「レーザー信号を透過する横長の窓が前記筐体の正面左上に設けられている」ことは、本件発明2の「窓が設けられた筐体」を有し、「前記窓は、横長である」ことに相当する。したがって、本件発明2は、甲5発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件発明3、4について
前記2(3)に示したとおり、甲1発明は、請求項3〜4に記載された構成を備えるものであり、甲5発明に当該構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得る設計事項にすぎない。したがって、本件発明3,4は、甲5発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 理由2(進歩性要件違反)についてのまとめ
以上検討のとおり、本件発明1〜4は、甲5発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 むすび
以上のとおり、本件発明1〜4は、甲1号証に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当するものであり、また、甲5発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 採用しなかった特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、次の(1)及び(2)の特許異議申立理由を主張している。

(1)ア 「受光部の受光素子を覆い、レーザー光の伝搬を防ぐ素材で形成されたケースを設けること」は、甲7号証及び甲8号証に開示されているように周知技術である。したがって、本件発明5は、甲1発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
イ さらに、「第1の辺の側の側面と第1の辺に交差する第2の辺側の側面とを有し、第1の辺が第2の辺よりも長いケースを設けること」は、甲7号証及び甲8号証に開示されているように周知技術である。また、「第1の辺の側の側面を車両の幅方向に伸びる向きに配置すること」は、当業者にとってケースの形状を決定する際の設計事項にすぎない。したがって、本件発明6は、甲1発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(2) 「受光部の受光素子を基板に対して光が入射する側とは反対側の面に設け、光が入射する側から受光素子に光を導くための透光部を基板に設けること」は、甲9号証及び甲10号証に開示されているように周知技術である。したがって、本件発明7は、甲1発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

<甲号証一覧>
甲1号証 :米国特許第5666120号明細書
甲2号証 :米国特許第4916536号明細書
甲3号証 :特開2012−225821号公報
甲4号証 :特開昭59−218590号公報
甲5号証 :「INSPECTOR SCAT Sの取扱説明書」
Internet Archive、Wayback machine、https://web.archive.org/web/20171215040625/http:/www.rd-inspector.ru/wp-content/uploads/2017/11/manual-scat-s.pdf
甲6号証 :特開2018−173433号公報
甲7号証 :特開平8−15414号公報
甲8号証 :特開平6−59038号公報
甲9号証 :特開2013−9709号公報
甲10号証:再表2010/050184号公報

2 甲7〜甲10号証に記載された事項
(1) 甲7号証に記載された事項の認定
甲7号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、車両に搭載されて車間距離測定等に使用される車両用光レーダ装置に関するものである。」
「【0019】
【実施例】
実施例1.以下、この発明の一実施例である車両用光レーダ装置を図について説明する。図1において、1はケース、2はケース1の端面開口部に蓋をするために取り付けられたフロントカバー、3はフロントカバー2に固着されレーザ光を透過するガラス、4はビーム光を出す発光源、5は発光源4を固着したメイン基板、6は発光源4の光束を所定範囲に絞り、前方にビーム光を照射する凸レンズ、7は凸レンズ6を保持し、発光源4の光束が所定範囲外へ出ていくことを規制するホルダ、8は凸レンズ6の発光源4側に設けられ、凸レンズ6の所定範囲より外周部を通る発光源4からの光束を遮蔽し、中央部に光束を透過するスリット、9はスリット8により反射された発光源4からの光束を検知するメイン基板5上に設けられたセンサ、10は測定対象物(図示せず)から反射して入力するビーム光を受信する受光素子、11は受光素子10を固着したサブ基板、12はサブ基板11とメイン基板5を電気的に接続すると同時にサブ基板11を保持するターミナル、13は前方に照射されたビーム光が対象物に当たり反射して入力してくるビーム光を集光して受光素子10に集める凸レンズ、14は凸レンズ13を受光素子10に対して所定位置に保持するホルダ、15は受光素子10およびサブ基板11を囲んで外部ノイズより保護するケースである。」
「【図1】



(2) 甲8号証に記載された事項の認定
甲8号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、3次元測定能力を備え、物標の概略形状を測定し、物標の識別能力を有する車両用障害物検知レーザレーダに関する。」
「【0011】
【実施例】図1は、本発明の第1の実施例の側断面図、図2は制御回路のブロック図である。図1において、21は車両用レーザレーダの送光部、22は受光部である。
【0012】送光部21は、パルス駆動回路23、半導体レーザ24、送光レンズ25、同軸コネクタ26および貫通コンデンサ44等から構成され、全体がシールドケース40に納められている。また、受光部22は、受光レンズ27、光フィルタ28、受光素子29、光スイッチ50、マトリックス型光スイッチ制御回路30、前置増幅器31、同軸コネクタ42、43、貫通コンデンサ45、46等から構成され、全体がシールドケース41に納められている。また、図2に示す制御回路は、広帯域増幅器32、クロック発生器33、単安定マルチバイブレータ34、距離検出回路35、インターフェース回路36、マイクロコンピュータ37、RAM38、ROM39から構成されている。なお、図1の各信号線A、B、C、D、Eは、それぞれ図2の同符号を付した信号線に接続されている。」
「【0015】(2)受光部22
受光部22において、受光素子の受光エリア径をdp、受光レンズの焦点距離をfとすれば、そのdpおよびfと受光視野角θrとの間には、θr≒dp/fの関係が成立する。光軸をZとし、物標(走路前方にある先行車両、障害物、路側物など)から前記レーザビームLtが反射された反射光のうち、視野角θr=60mrad程度の受光視野内に存在する物標から反射された受信レーザ光Lrを大口径のフレネル・レンズである受光レンズ27で集光する。そして、可視光カットの光フィルタ28を通してPINフォトダイオード等の受光素子29の受光面に入射する。この受光素子29は受光レンズ27の焦点Uに受光面の中心がくるように設置されており、受光エリア径dpである。また、受光素子29の受光面に密接(必ずしも密着でなくてもよい)して光スイッチ50(マトリックス状に配列された多数のON/OFF光シャッタ)が設置されており、受光視野をこの光シャッタのマトリックスに対応して分割できるようにし、反射物体が受光視野のどの部位に存在するかを識別できるようにしている。これによって光軸Zに対する方位が概略定められる(詳細後述)。この光スイッチ50は、例えば、図5に示すように横15×縦10=150マスの光シャッタで構成され、前記の基準クロック信号S1に基づいてマトリックス型光スイッチ制御回路30の作用で、各シャッタは順番にON/OFF(ON:光の透過:シャッタ開、OFF:光の遮断:シャッタ閉)の制御をされる。例えば、10Tp毎に変化する第1ステップではマトリックス(1,1)がON、第2ステップではマトリックス(1,2)がON、第10×(i−1)+j番目のステップではマトリックス(i,j)がONになり、それ以外のマトリックスは全てOFFになる。この光スイッチ50の唯一開いている光シャッタを通過した受信レーザ光Lrは受光素子29で光電変換され、その光電変換出力は広帯域の前置増幅器31に入力され、所定利得で増幅されてアナログパルスのエコー信号S3となる。」
「【図1】



(3) 甲9号証に記載された事項の認定
甲9号証には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波などの生体情報を検出する技術に関する。」
「【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る生体センサーにあっては、光透過性を有する第1基板と、前記第1基板の一方の面側に設けられ、光を出射する発光素子と、前記第1基板の他方の面側に設けられ、前記発光素子から出射した光のうち、生体からの反射光を受光して、当該受光に応じた信号を出力する受光素子と、を具備することを特徴とする。本発明によれば、光透過性を有する第1基板に対し、発光素子と受光素子とが互いに異なる面にそれぞれ設けられるので、発光素子からの漏光が受光素子に受光されてしまうのを抑えることができるほか、受光素子の受光領域を広く確保することができる。したがって、本発明によれば、微弱な光成分を精度良く検出することが可能になる。」
「【0011】
図2は、生体情報検出装置1の要部構成を示す断面図である。
図に示されるように、筐体10の内部は中空部15を有する形状となっており、当該中空部15において被験者への装着面側に生体センサー20が設けられている。生体センサー20は、光透過性を有するガラスなどの基板22と、基板22に対して装着面側に設けられる複数の発光素子24と、基板22に対して非装着面側、すなわち装着面側とは反対側に設けられる受光素子26とを含む。なお、ここでいう基板22が第1基板である。
基板22を平面視したときの形状については、任意であるが、本実施形態では円形としている。また、ここでいう光透過性とは、発光素子24からの出射される光の波長帯域に含まれる光成分を透過する性質をいう。」
「【図2】


「【0023】
図7は、生体センサー20の光路を示す図である。この図に示されるように、筐体10が被験者に装着された場合、被験者の左手皮膚52が筐体10の裏面と発光素子24とに接触することになる。
ここで、発光素子24が上述した光共振構造を有するものであれば、出射光は、図において下側となるような指向性を持つ。一方、発光素子24が光共振構造を有しないものであれば、結合によって発生した光が等方性で出射される。ただし、反射層241が発光層243bの周縁を含むように、発光層243bよりも一回り広く形成されているので(図4参照)、発光層243bによって発生した光のうち、受光素子26の側(図において上側)に向かう光成分は、反射層241によって反射する。
したがって、発光素子24が光共振構造であるか否かに関係なく、発光層243bからの光のほぼ全部が、図7において下側の被験者側に出射する。
なお、第1実施形態において発光素子24は、基板22の反対側に向けて光を出射するのでトップエミッション型となる。
【0024】
発光素子24から出射された光は、表皮を透過してその奥の血管50に到達する。血管50に到達した光は当該血管50を流れる血液により吸収、反射され、あるいは血液を透過する。
このうち、血管50に流れる血液によって反射された光は、基板22およびフィルター25を透過して受光素子26に入射する。このため、受光素子26は、入射光量に応じた光電流を出力する。ここで、血管50は、心拍と同じ周期で膨張・収縮を繰り返している。したがって、血管の膨張・収縮の周期と同じ周期で光の反射量が増減するので、受光素子26から出力される光電流の変化は、血管50の容積変化を示すことになる。」
「【図7】



(4) 甲10号証に記載された事項の認定
甲10号証には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換を行う撮像素子を備えた撮像ユニットに関するものである。」
「【0041】
−撮像ユニットの構成−
撮像ユニット1は、図3に示すように、被写体像を電気信号に変換するための撮像素子10と、撮像素子10に接合されたガラス基板19と、撮像素子10を保持するためのパッケージ31と、位相差検出方式の焦点検出を行うための位相差検出ユニット20とを有している。
【0042】
撮像素子10は、裏面照射型のインターライン型CCDイメージセンサであって、図1に示すように、半導体材料で構成された光電変換部11と、垂直レジスタ12と、転送路13と、マスク14と、カラーフィルタ15とを有している。
【0043】
光電変換部11は、基板11aと、基板11a上に配列された複数の受光部(画素ともいう)11b,11b,…とを有している。
【0044】
基板11aは、Si(シリコン)ベースで構成された半導体基板である。詳しくは、基板11aは、Si単結晶基板又はSOI(Silicon On Insulator wafer)で構成されている。特に、SOI基板は、Si薄膜とSiO2薄膜のサンドイッチ構造をなし、エッチングの処理などにおいてSiO2層で反応をとめることが可能であり、安定した基板加工を行う上で有利である。
【0045】
また、受光部11bは、フォトダイオードで構成されていて、光を吸収して電荷を発生する。受光部11b,11b,…は、基板11aの表面(図1における下面)において行列状に配列された微小な方形の画素領域内にそれぞれ設けられている(図4参照)。
【0046】
前述の如く、撮像素子10は、裏面照射型であって、被写体からの光が、基板11aにおける、受光部11b,11b,…が設けられている面(以下、表面ともいう)と反対側の面(以下、裏面ともいう)から入射する。」
「【図1】


「【図3】


「【図4】



3 本件発明5〜7についての判断
(1) 本件発明5及び6について
ア 本件発明5と甲1発明の相違点
前記第4の2(1)において検討した、本件発明1と甲1発明の対比を踏まえて、本件発明5と甲1発明を対比すると、両者は、以下の相違点において相違し、その他の点で一致する。

<相違点>
本件発明5においては、「前記受光部の受光素子を覆う、前記レーザー光の伝搬を防ぐ素材で形成されたケースを備え」ているのに対して、甲1発明においては、そのようなケースを備えていることの特定がない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
(ア) 甲7号証には、車両用光レーダ装置において、測定対象物から反射して入力するビーム光を受信する受光素子10、及び、当該受光素子10を固着したサブ基板11を囲んで外部ノイズより保護するケースを設けることが記載されている。
また、甲8号証には、車両用障害物検知レーザレーダにおいて、受光素子29が、シールドケース41に納められている構成が示されている。

(イ)a しかしながら、前記第4の1(1)イ(イ)で示したとおり、甲1号証の7欄16〜35行、7欄47〜56行及び図3には、レンズ50a,50cがそれぞれ中心線61に対して角度α及びβを形成するように配置され、ここで、α及びβはそれぞれ42度であり、理論的には、このレンズアレーの構成では、単一のフォトダイオードが180度の視野をカバーすることができると記載されており、すなわち、甲1発明は、単一のフォトダイオードが180度の視野をカバーする効果を奏するものであるところ、甲1発明のフォトダイオードに、外部ノイズより保護するケースを適用した場合、前記効果を奏さなくなることは明らかである。
b したがって、甲1発明の前記効果を鑑みるに、甲1発明には甲7号証及び甲8号証に記載された事項の適用を阻害する要因があるといえるから、甲1発明に甲7号証及び甲8号証に記載された事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たものでない。

(ウ) また、前記相違点に係る構成は、甲2〜6、9、10号証のいずれにも開示されていない。

(エ) したがって、本件発明5は、甲1発明と甲2〜10号証に記載された事項に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。

(オ) また、本件発明6は、本件発明5の構成を全て備えるから、本件発明5と同様に、甲1発明と甲2〜10号証に記載された事項に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 本件発明5及び6についてのまとめ
以上検討のとおりであるから、本件発明5及び6は、当業者であっても、甲1発明と甲2〜10号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、本件発明5及び6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。

(2) 本件発明7について
ア 本件発明7と甲1発明の相違点
前記第4の2(1)において検討した、本件発明1と甲1発明の対比を踏まえて、本件発明7と甲1発明を対比すると、両者は、以下の相違点において相違し、その他の点で一致する。

<相違点>
本件発明7においては、「前記基板は、前記レンズ側の第1面と、前記第1面に対向する第2面とを有し、前記受光部の受光素子は、前記基板の前記第2面側に設けられ、前記基板には、前記第1面側から前記受光素子に光を導くための透光部が設けられている」のに対して、甲1発明では、そのような構成を有していることの特定がない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
(ア)a 甲9号証には、脈波などの生体情報を検出する生体情報検出装置1であって、当該検出装置1が被験者の皮膚に装着された場合、光透過性を有するガラスなどの基板22に対して装着面側に設けられる複数の発光素子24と、基板22に対して非装着面側、すなわち装着面側とは反対側に設けられる受光素子26を有することが記載されている。
b しかしながら、甲9号証に記載された生体情報検出装置1は、【0005】に記載されているように、光透過性を有する第1基板に対し、発光素子と受光素子とが互いに異なる面にそれぞれ設けられることにより、発光素子からの漏光が受光素子に受光されてしまうのを抑えるためのものであるから、受光素子のみで発光素子を有さず、同一基板に発光素子と受光素子を設ける構成を有しない甲1発明に、甲9号証に記載された装着面とは反対側に受光素子を設ける構成を適用する動機付けがあるとはいえない。

(イ)a また、甲10号証には、光電変換を行う撮像素子を備えた撮像ユニットであって、当該撮像素子が裏面照射型であって、被写体からの光が、基板11aにおける、受光部11bが設けられている面と反対側の面から入射することが記載されている。
b しかしながら、甲10号証に記載された事項は、光電変換を行う撮像素子を備えた撮像ユニットであるのに対して、甲1発明は、レーザー速度検出システムが発するレーザーを、単一のフォトダイオードで検出することにより、その存在を検出する検出装置であり、両者が属する技術分野は同一の分野でない。
c さらに、甲10号証に記載されているのはいわゆる裏面照射型イメージセンサであるところ、裏面照射型イメージセンサは、受光素子を集積化した撮像素子に対して配線層を受光面とは反対側に形成することにより、入射光に対する配線層の影響を低減するというイメージセンサに特有の課題を解決するための手段であることが技術常識である。この点も踏まえると、受光素子が集積化されておらず、入射光に対する配線層の影響がない甲1発明に、甲10号証に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

(ウ) また、前記相違点に係る構成は、甲2〜8号証のいずれにも開示されていない。

(エ) したがって、本件発明7は、甲1発明と甲2〜10号証に記載された事項に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 本件発明7についてのまとめ
以上検討のとおり、本件発明7は、当業者であっても甲1発明と甲2〜10号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、本件発明7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。


第6 むすび
以上のとおり、本件発明1〜4は、甲1号証に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当するものであり、また、甲5発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、本件発明5〜7に係る特許は、特許異議申立人が申立てた理由によっては取り消すことはできない。そして、ほかに本件発明5〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。




 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
異議決定日 2022-09-08 
出願番号 P2020-120290
審決分類 P 1 651・ 113- ZC (G01S)
P 1 651・ 121- ZC (G01S)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱本 禎広
波多江 進
登録日 2021-08-13 
登録番号 6929578
権利者 株式会社ユピテル
発明の名称 システム等  
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