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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1392052
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-01 
確定日 2022-09-27 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6931433号発明「低甘味の炭酸飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6931433号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第6931433号の請求項1、2及び4に係る特許を維持する。 特許第6931433号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6931433号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和3年1月28日の出願であって、同年8月17日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年9月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年3月1日に特許異議申立人 神谷 高伸(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同日に特許異議申立人 田中 亜実(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同年6月16日付けで取消理由が通知され、同年8月16日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされたものである。
なお、下記第3のとおり、令和4年8月16日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)後の請求項1、2及び4は、それぞれ、本件訂正前の請求項1を引用する請求項3、請求項2を引用する請求項3及び請求項3を引用する請求項4に相当し、本件訂正は、実質的に本件訂正前の請求項1及び2並びに本件訂正前の請求項1又は2を直接引用する請求項4の削除のみの訂正であるといえ、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときといえるから、当審は特許異議申立人A及びBに意見書を提出する機会を与えていない。

第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和4年8月16日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上であり、かつ(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有する、炭酸飲料。」と記載されているのを、「(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上であり、(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有し、かつ(d)波長660nmにおける吸光度が0.03以上である、炭酸飲料。」に訂正する(当審注:訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1においては、「(b)」と「(c)」を接続する「かつ」が削除されているので、そうなるように、訂正事項1を当審で認定した。)。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか一項記載の飲料。」と記載されているのを「請求項1または2記載の飲料。」に訂正する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「波長660nmにおける吸光度」に関する限定を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項3についての訂正について
訂正事項2による請求項3についての訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項4についての訂正について
訂正事項1による請求項4についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項4についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び3による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3による請求項1ないし4についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし3による請求項1ないし4についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし3による請求項1ないし4についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)甘味度が0.6〜2.0であり、
(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上であり、
(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有し、かつ
(d)波長660nmにおける吸光度が0.03以上である、
炭酸飲料。
【請求項2】
果汁および/または果実エキスを含有する、請求項1記載の飲料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
乳化香料を含む、請求項1または2記載の飲料。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年3月1日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由A1(甲第1号証に基づく新規性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由A2(甲第9号証に基づく新規性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由A3(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由A4(甲第9号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5)証拠方法
甲第1号証:特開2017−104046号公報
甲第2号証:最新・ソフトドリンクス編集委員会、「最新・ソフトドリンクス」、平成15年9月30日、株式会社光琳、第950〜956ページ
甲第3号証:Kirchnerら、「CITRUS FLAVORING Volatile Water-Soluble Constituents of Grapefruit Juice」、Journal of AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY Vol.1 No.7、American Chemical Society 1953年6月24日、第510〜512ページ
甲第4号証:高橋邦彦ら、「果実中のエタノール含有量の実態調査」、食品衛生学雑誌、公益社団法人日本食品衛生学会(発行)、1992年12月、第33巻、第6号、第619〜622ページ
甲第5号証:本間直子ら、「市販清涼飲料及び果実加工品中のエタノール含有量」、食品衛生学雑誌、公益社団法人日本食品衛生学会(発行)、1985年12月、第26巻、第6号、第674〜678ページ
甲第6号証:社団法人日本果汁協会、「果汁・果実飲料事典」、第9刷、1993年4月20日、株式会社朝倉書店、第100〜101ページ
甲第7号証:社団法人日本果汁協会、「最新 果汁・果実飲料事典」、初版、1997年10月1日、株式会社朝倉書店、第466〜467ページ
甲第8号証:特開2004−168936号公報
甲第9号証:特開2019−170193号公報
甲第10号証:印藤元一、<増補改訂版>「合成香料 化学と商品知識」、化学工業日報社(発行)、2005年3月22日、第38、39、156、157、164、165ページ
甲第11号証:特開2018−99089号公報
甲第12号証:特開2017−104090号公報
甲第13号証:特開2018−117610号公報
甲第14号証:国際公開第2018/117001号
甲第15号証:特開2020−167969号公報
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。

2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年3月1日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由B1(甲第1号証に基づく新規性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由B2(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項3及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項3及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)証拠方法
甲第1号証:特開2021−61778号公報
甲第2号証:有手友嗣、外5名、「ブドウ‘ルビーロマン’の糖、有機酸および揮発性成分の分析」、石川県農林総合研究センター農業試験場研究報告第31号、2015年、p.17−27
甲第3号証:「果実飲料の日本農林規格」、平成25年12月24日農林水産省告示第3118号
甲第4号証:岸直邦,「天然物便覧 第15版」、株式会社食品と科学社、平成15年11月30日、p.136―137
甲第5号証:国税庁所定分析法(訓令)、第3表 炭酸ガス吸収係数(びん内圧力補正表)、[2022年3月1日検索]、インターネット<URL:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/pdf/fl03.pdf>
甲第6号証:本間直子、外2名、「市販清涼飲料及び果実加工品中のエタノール含有量」、食衛誌、Vol.26、No.6、日本食品衛生学会、1985年12月、p.674−678
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。

第5 取消理由の概要
令和4年6月16日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。なお、該取消理由のうち新規性は申立理由A1とおおむね同旨であり、進歩性は申立理由A3のうち請求項1、2及び4に対する理由とおおむね同旨である。

・甲A1に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、甲A1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 取消理由(甲A1に基づく新規性進歩性)についての判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、「炭酸感が増強された容器詰め低甘味度炭酸飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【0009】
本発明の課題は、甘味度が一定以下に抑えられている低甘味度の炭酸飲料において、その飲料の炭酸ガス圧に比べて、飲用時に炭酸感を強く感じる容器詰め低甘味度炭酸飲料を提供することにある。」

・「【0020】
要件(1)について説明する。本発明でいう、甘味度とは、甘味の強さを示す尺度であり、ショ糖1重量%(20℃)の甘味を1として、このショ糖の甘さの強さに対する倍率を示す。例えば、高甘味度甘味料の一であるアセスルファムカリウムはショ糖の200倍の甘さを示すことから、甘味度は濃度(重量%)の200倍で算出される。本発明の容器詰め炭酸飲料は甘味度が2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1以下、最も好ましくは0.5以下である。なお、下限値は0以上であり、好ましくは0.01以上である。通常の炭酸飲料の甘味度が5〜15程度であることから考えると、本発明の炭酸飲料はかなり甘味が抑えられた飲料といえる。」

・「【0040】
<試験飲料の調製例3>
表5に示す配合割合において、グレープフルーツ果汁又は高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム)により、甘味度を変更した試験飲料5種を調製した。各飲料は調製後にカーボネーションを行い、全てガス圧が0.38MPaである炭酸飲料とした。ちなみにこれらの試験飲料の苦味度は0.0136で、酸度は0.0628であり、苦味度/酸度は0.2166である。また、Brix.は0.1〜4.5°Bxであった。
【0041】
【表5】

【0042】
<試験飲料の官能評価3>
訓練を受けたパネリスト5人を選定し、これらのパネリストに調製した試験飲料を提示して、「炭酸感」について評価した。評価の基準は以下の通りである。
〇:対照飲料(実施例4)と比較して、同程度の炭酸感の増強効果が見られる。
△:対照飲料(実施例4)と比較して、多少劣るものの炭酸感の増強効果が見られる。
×:対照飲料(実施例4)と比較して、明らかに炭酸感の増強効果が損なわれている。
結果を表6に示す。比較例6の飲料は高甘味度甘味料特有の強い甘味によって炭酸感が感じられなかった。また比較例7では甘味によって酸味と苦味のバランスが悪く炭酸感の増強効果が損なわれていた。
【0043】
【表6】



イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に実施例17及び18に関して整理すると、甲A1には次の発明(以下、順に「甲A1実施例17発明」及び「甲A1実施例18発明」という。)が記載されていると認める。

<甲A1実施例17発明>
「甘味度が1.0であり、
炭酸ガス圧が0.38MPaであり、かつ、
グレープフルーツ果汁を11.0重量%含有する
炭酸飲料。」

<甲A1実施例18発明>
「甘味度が2.0であり、
炭酸ガス圧が0.38MPaであり、かつ、
グレープフルーツ果汁を22.0重量%含有する
炭酸飲料。」

(2)甲A2に記載された事項
甲A2にはおおむね次の事項が記載されている。

・「

」(第954及び955ページ)

2 本件特許発明1について
(1)甲A1実施例17発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲A1実施例17発明を対比する。
甲A1実施例17発明における「甘味度が1.0」は本件特許発明1における「(a)甘味度が0.6〜2.0」であるとの要件を満たす。
甲A2に記載された炭酸ガス吸収係数表によれば、甲A1実施例17発明における「炭酸ガス圧」の「0.38MPa」という数値は「3.875kgf/cm2」に換算されるから、甲A1実施例17発明における「炭酸ガス圧が0.38MPa」は本件特許発明1における「(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上」であるとの要件を満たす。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(a)甘味度が0.6〜2.0であり、
(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上である、
炭酸飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1−1>
本件特許発明1においては、「(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有し」と特定されているのに対し、甲A1実施例17発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点1−2>
本件特許発明1においては、「(d)波長660nmにおける吸光度が0.03以上である」と特定されているのに対し、甲A1実施例17発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点1−2について検討する。
甲A1には、「波長660nmにおける吸光度」に関する記載はなく、他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲A1実施例17発明において、「波長660nmにおける吸光度」が「0.03以上である」ことが、当業者に明らかであるとはいえないから、相違点1−2は実質的な相違点である。
また、甲A1及び他の証拠には、甲A1実施例17発明において、「波長660nmにおける吸光度」を「0.03以上」とする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A1実施例17発明において、甲A1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「飲用後に残る炭酸の不快な刺激が改善されるが、さらに波長660nmにおける吸光度を0.03以上となるよう濁らせることで、その効果が顕著に得られる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0044】。なお、同【0008】によると、「飲用後に残る炭酸の不快な刺激」とは、「飲用後数秒にわたって喉の奥に感じるピリピリとした刺激」のことである。)という効果は、甲A1実施例17発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、特許異議申立人Aは、「本件明細書の段落【0018】には、波長660nmにおける吸光度が0.03以上であるとは、目視で濁りを明確に知覚できる状態であること、乳化香料を添加する方法や混濁果汁を添加する方法によって、飲料に適度な濁りを付与できることが記載されている。つまり、甲1発明の炭酸飲料に、「乳化香料の添加」という周知技術を適用すると、当然に波長660nmにおける吸光度が0.03以上となる。したがって、相違点2及び相違点3はいずれも周知技術の適用にすぎず、相違点2及び相違点3によっては本件発明の進歩性は認められるべきではない。」旨主張する(特許異議申立書Aの第31ページ第26ないし33行)。
そこで、該主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【0018】に「本発明の飲料において、波長660nmの吸光度が0.03以上であることが好ましい。より好ましくは吸光度が0.03〜0.3であり、さらに好ましくは0.04〜0.1であり、最も好ましくは0.04〜0.06である。波長660nmの吸光度が0.03以上であると、目視で濁りを明確に知覚できる。一方、波長660nmの吸光度が大きすぎる場合(例えば、0.3より大きい場合)、視覚的に濁りがかなり強いように見え、濁りの強い飲料は視覚的に炭酸飲料の爽快さが感じられにくいため、消費者に視覚の面から爽快さの少ない飲料と認識されるおそれがある。飲料に適度な濁りを付与する方法としては、特に限定されないが、乳化香料を添加する方法や混濁果汁あるいは混濁エキスを添加する方法などがある。飲料に均一な濁りを付与することができる点から、乳化香料を添加する方法が好ましい。」と記載されているが、該記載は、「飲料に適度な濁りを付与する方法」として「乳化香料を添加する方法」が好ましいと述べているだけで、乳化香料を添加すれば、必ず「波長660nmの吸光度が0.03以上」になると述べるものではない。
したがって、甲A1実施例17発明に、「乳化香料の添加」という周知技術を適用しても、当然に波長660nmにおける吸光度が0.03以上となるとはいえない。
また、甲A1実施例17発明並びに甲A1及び他の証拠からは、本件特許発明1の奏する効果も予測できない。
よって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1実施例17発明であるとはいえないし、甲A1実施例17発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)甲A1実施例18発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲A1実施例18発明を対比する。
甲A1実施例18発明における「甘味度が2.0」は本件特許発明1における「(a)甘味度が0.6〜2.0」であるとの要件を満たす。
また、甲A1実施例18発明における「炭酸ガス圧」については、甲A1実施例17発明との対比と同様のことがいえる。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(a)甘味度が0.6〜2.0であり、
(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上である、
炭酸飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2−1>
本件特許発明1においては、「(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有し」と特定されているのに対し、甲A1実施例18発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2−2>
本件特許発明1においては、「(d)波長660nmにおける吸光度が0.03以上である」と特定されているのに対し、甲A1実施例18発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2−2について検討する。
相違点2−2は相違点1−2と同じであるから、その判断も相違点1−2と同じである。
すなわち、相違点2−2は実質的な相違点であるし、甲A1実施例18発明において、甲A1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「飲用後に残る炭酸の不快な刺激が改善されるが、さらに波長660nmにおける吸光度を0.03以上となるよう濁らせることで、その効果が顕著に得られる」という効果は、甲A1実施例18発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1実施例18発明であるとはいえないし、甲A1実施例18発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1実施例17発明又は甲A1実施例18発明であるとはいえないし、甲A1実施例17発明又は甲A1実施例18発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

4 本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1実施例17発明又は甲A1実施例18発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1、2及び4は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。

第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由は、申立理由A3(甲A1に基づく進歩性)のうち請求項3に対する理由、申立理由A2(甲A9に基づく新規性)、申立理由A4(甲A9に基づく進歩性)、申立理由B1(甲B1に基づく新規性)及び申立理由B2(甲B1に基づく進歩性)である。
以下、順に検討する。

1 申立理由A3(甲A1に基づく進歩性)のうち請求項3に対する理由について
本件訂正により、請求項3は削除され、申立理由A3のうち請求項3に対する理由は、その対象がなくなった。

2 申立理由A2(甲A9に基づく新規性)及び申立理由A4(甲A9に基づく進歩性)について
(1)甲A9に記載された事項等
ア 甲A9に記載された事項
甲A9には、「炭酸飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0006】
すっきりとした水様の風味を有する炭酸飲料を提供するための方法の一つとして、甘味を下げる(甘さを控える)ことが考えられる。しかし、炭酸飲料においては、甘味の強さが小さくなると、炭酸そのものに由来する後味に残るエグ味や渋味が強く感じられるようになる、という問題がある。」

・「【0016】
本発明に係る炭酸飲料において、甘味度は1〜5の範囲内にある。甘味度は、製造する炭酸飲料の目的の製品品質に合わせて適宜調整することができる。ここで、飲料の甘味度とは、ショ糖の甘味の強さを標準とし、甘味の強さが同じショ糖水溶液のショ糖濃度に相当する。例えば、甘味度1とは、20℃における1g/100mL ショ糖水溶液と同じ甘味の強度であることを意味する。高甘味度甘味料を配合した飲料では、配合した高甘味度甘味料の甘味度の換算係数と配合比率に基づいて算出することができる。各甘味料の甘味度の換算係数は、ショ糖が1であり、ブドウ糖は0.7、果糖は1.3、乳糖は0.3、アセスルファムカリウムは200、総アスパルテームは200、スクラロースは600、エリスリトールは0.8、ステビアは400、ステビオサイドは200、レバウジオサイドAは270である。」

・「【0024】
本発明に係る炭酸飲料のガスボリューム(炭酸ガスの圧力)は特に限定されるものではないが、充分な炭酸感が得られるため、2.0〜4.5であることが好ましい。また、後味のすっきり感と口当たりのなめらかさのバランスがより良好であることから、本発明に係る炭酸飲料のガスボリュームは2.5〜4.2がより好ましく、3.0〜4.0がさらに好ましい。
【0025】
ガスボリュームは、標準状態(1気圧、0℃)において、炭酸飲料全体の体積に対して、炭酸飲料に溶けている炭酸ガスの体積を表したものであるまた、炭酸飲料中のガスボリュームは公知の方法で測定することができる。例えば、市販の測定器(京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500A)を用いて測定することができる。」

・「【0048】
[実施例2]
表5の組成でガスボリュームが3.5である炭酸飲料について、すっきり感等を官能評価した。なお、香料としては、青葉の香りの香気成分を含まない柑橘フレーバーを使用した。官能評価は、サンプル1(表2のサンプル3に香料を配合した炭酸飲料)の評点を4点とし、5人の評価パネルによって行い、その平均値を各サンプルの評点とした。炭酸飲料としての飲み易さ及び一気飲みできるかについては、7段階(1点は非常に飲み難い、4点はどちらともいえない、7点が非常に飲み易い)でそれぞれ評価した。評価結果を表6に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
この結果、糖度が6.0以上であるサンプル4〜6や、糖度が0であるサンプル1(ガスボリュームが3.5であり、かつ香料のみを添加した炭酸水)では、後味のすっきり感に劣っていたが、糖度が2.0又は3.0であり、かつ甘酸度が200〜300であるサンプル2及び3では、後味のすっきり感に優れ、かつ飲みやすく、おいしい炭酸飲料が得られた。」

イ 甲A9に記載された発明
甲A9に記載された事項を、実施例2のサンプル2に関して整理すると、甲A9には、次の発明(以下、「甲A9発明」という。)が記載されていると認める。

<甲A9発明>
「青葉の香りの香気成分を含まない柑橘フレーバー1g、果糖ぶどう糖液糖26.5g、クエン酸0.1gの組成で、糖度(Brix)が2.0、ガスボリューム(炭酸ガスの圧力)が3.5である炭酸飲料。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A9発明を対比する。
甲A9発明における「糖度(Brix)が2.0」は本件特許発明1における「(a)甘味度が0.6〜2.0」であるとの要件を満たす。
甲A2に記載された炭酸ガス吸収係数表によれば、甲A9発明における「ガスボリューム(炭酸ガスの圧力)」の「3.5」という数値は「3.059kgf/cm2」に換算されるから、甲A9発明における「ガスボリューム(炭酸ガスの圧力)が3.5」は本件特許発明1における「(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上」であるとの要件を満たす。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(a)甘味度が0.6〜2.0であり、
(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上である、
炭酸飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3−1>
本件特許発明1においては、「(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有し」と特定されているのに対し、甲A9発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3−2>
本件特許発明1においては、「(d)波長660nmにおける吸光度が0.03以上である」と特定されているのに対し、甲A9発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点3−1及び3−2について検討する。
(ア)相違点3−1について
甲A9には、「エタノール」又は「プロピレングリコール」に関する記載はなく、当然、それらの含有量に関する記載もないし、他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲A9発明が「エタノール」又は「プロピレングリコール」を「0.005〜1.0v/v%」含有することが、当業者に明らかであるとはいえないから、相違点3−1は実質的な相違点である。
また、甲A9及び他の証拠には、甲A9発明において、「エタノール」又は「プロピレングリコール」を「0.005〜1.0v/v%」含有することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A9発明において、甲A9及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、特許異議申立人Aは、「(i)・・・(略)・・・甲9発明の炭酸飲料も柑橘フレーバーを含有している(構成e2)が、甲第9号証には、柑橘フレーバーの溶剤の種類や添加量についての記載はない。しかし、飲料に添加される香料は、通常、エタノールやプロピレングリコールを溶剤としたエッセンスであり、その飲料への添加量も0.1〜0.2v/v%程度であることから、甲9発明の炭酸飲料も、エタノール又はプロピレングリコールを溶剤とした柑橘フレーバーを、0.1〜0.2v/v%程度添加した炭酸飲料である蓋然性が高い。・・・(略)・・・よって、甲9発明の炭酸飲料は、構成Cを充足する蓋然性が高く、相違点1と同様に、相違点4は実質的な相違点ではない。
(ii)・・・(略)・・・したがって、飲料中のエタノール及び/又はプロピレングリコールの濃度を0.005〜1.0v/v%とすることは、甲第9号証及び甲第8号証の記載並びに本願出願時の技術常識に基づいて当業者が容易になし得ることである。
(iii)・・・(略)・・・したがって、飲料中のエタノール及び/又はプロピレングリコールの濃度を0.005〜1.0v/v%とすることは、甲第9号証及び甲第10号証の記載並びに本願出願時の技術常識に基づいて当業者が容易になし得ることである。
(iv)・・・(略)・・・これらの知見から、甲第12号証〜甲第15号証に記載されているような様々な不快呈味と同様に、「低甘味度の強炭酸飲料における、飲用後に残る炭酸の不快な苦味と刺激」に対してもマスキング効果が発揮されることを期待して、エタノール又はプロピレングリコールを含有させることは、当業者が容易に想到し得るものであり、エタノール又はプロピレングリコールの含有量を最適化することも、当業者が通常行う設計事項に過ぎない。」旨主張する(特許異議申立書Aの第34ページ第16行ないし第36ページ末行)。
そこで、該主張について検討する。
甲A9発明における「青葉の香りの香気成分を含まない柑橘フレーバー」の溶剤が、「エタノール又はプロピレングリコール」であることを示す記載が甲A9及び他の証拠にはないから、甲A9発明が、エタノール又はプロピレングリコールを、0.1〜0.2v/v%程度添加した炭酸飲料である蓋然性が高いとはいえない。
また、甲A9発明において、「青葉の香りの香気成分を含まない柑橘フレーバー」の溶剤を「エタノール又はプロピレングリコール」とし、その濃度を「0.005〜1.0v/v%」とすることは、その動機付けとなる記載が甲A9及び他の証拠にはないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
さらに、「甘味度が0.6〜2.0で炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上の強炭酸飲料」における「飲用後に残る炭酸の不快な刺激」に関する記載は、甲A9及び他の証拠にはないから、当業者といえども、「エタノール又はプロピレングリコール」が「甘味度が0.6〜2.0で炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上の強炭酸飲料」における「飲用後に残る炭酸の不快な刺激」に対してマスキング効果を発揮することは、容易に想到し得るものではなく、「エタノール又はプロピレングリコール」の含有量を最適化することが、当業者が通常行う設計事項に過ぎないとはいえない。
したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。

(イ)相違点3−2について
甲A9には、「波長660nmにおける吸光度」に関する記載はなく、他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲A9発明において、「波長660nmにおける吸光度」が「0.03以上である」ことが、当業者に明らかであるとはいえないから、相違点3−2は実質的な相違点である。
また、甲A9及び他の証拠には、甲A9発明において、「波長660nmにおける吸光度」を「0.03以上」とする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A9発明において、甲A9及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、特許異議申立人Aは、「甲9発明の炭酸飲料に乳化香料を添加することは、本願出願時の周知技術の適用に過ぎず、この結果当然に波長660nmにおける吸光度が0.03以上となる。・・・(略)・・・相違点6及び相違点7によっては本件発明の進歩性は認められるべきではない。」旨主張する(特許異議申立書Aの第37ページ第6ないし19行)。
そこで、該主張について検討するに、上記第6 2(1)イのなお書きで述べたのと同様であり、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。

(ウ)効果について
本件特許発明1の奏する「飲用後に残る炭酸の不快な刺激が改善されるが、さらに波長660nmにおける吸光度を0.03以上となるよう濁らせることで、その効果が顕著に得られる」という効果は、甲A9発明並びに甲A9及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲A9発明であるとはいえないし、甲A9発明並びに甲A9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明2及び4について
本件特許発明2及び4は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A9発明並びに甲A9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明3について
本件訂正により、請求項3は削除され、申立理由A4のうち請求項3に対する理由は、その対象がなくなった。

(5)申立理由A2及びA4についてのむすび
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1、2及び4は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A2及びA4によっては取り消すことはできない。

3 申立理由B1(甲B1に基づく新規性)及び申立理由B2(甲B1に基づく進歩性)について
本件特許は令和3年1月28日を出願日とするものであり、甲B1は同年4月22日を公開日とするものであるから、甲B1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるとはいえない。
したがって、申立理由B1及びB2によっては、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。

第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、取消理由並びに特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人A及びBによる請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)甘味度が0.6〜2.0であり、
(b)炭酸ガス圧が3.0kgf/cm2以上であり、
(c)0.005〜1.0v/v%のエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含有し、かつ
(d)波長660nmにおける吸光度が0.03以上である、
炭酸飲料。
【請求項2】
果汁および/または果実エキスを含有する、請求項1記載の飲料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
乳化香料を含む、請求項1または2記載の飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-16 
出願番号 P2021-011908
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 加藤 友也
奥田 雄介
登録日 2021-08-17 
登録番号 6931433
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 低甘味の炭酸飲料  
代理人 山本 修  
代理人 松尾 淳一  
代理人 松尾 淳一  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 宮前 徹  

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