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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1392076
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-19 
確定日 2022-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第7006720号発明「光学積層体、画像表示装置又はタッチパネルセンサー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7006720号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7006720号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成29年3月6日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年3月4日、平成28年12月21日)を国際出願日とする特願2018−503441号の一部を令和2年4月23日に新たな特許出願としたものであって、令和4年1月11日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年7月19日に特許異議申立人 株式会社 エビヤ(代表者 羽田 龍)(以下「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第7006720号の請求項1〜6の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材の少なくとも一方の面上に、1又は2以上の機能層を有する構造を備えた光学積層体であって、
波長380nmにおける分光透過率が1%未満であり、
波長410nmにおける分光透過率が10%未満であり、
波長440nmにおける分光透過率が80%以上であり、
前記基材の厚みが25〜125μmであり、前記機能層の厚みが0.1〜100μmであり、
前記機能層は、電離放射線硬化型樹脂および光重合開始剤の硬化物を含み、
前記機能層の基材側とは反対側表面の算術平均粗さRaが10nm未満である
ことを特徴とする光学積層体。
【請求項2】
最小二乗法を用いて得られた波長415〜435nmの範囲の透過スペクトルの傾きaが、a>2.0である請求項1記載の光学積層体。
【請求項3】
機能層の基材側とは反対側表面に凹凸形状を有する請求項1又は2記載の光学積層体。
【請求項4】
機能層の基材側とは反対側面上に、複数の蒸着層を有する請求項1、2又は3記載の光学積層体。
【請求項5】
屈折率の異なる複数の積層構造を有する不可視化層を更に含む請求項1、2、3又は4記載の光学積層体。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の光学積層体が用いられたことを特徴とする画像表示装置又はタッチパネルセンサー。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として特開2014−18997号公報(甲第1号証、以下「引用例1」という。)及び従たる証拠として特開2014−231592号公報(甲第2号証、以下「引用例2」という。)、特開2015−67682号公報(甲第3号証、以下「引用例3」という。)、特開2007−152591号公報(甲第4号証、以下「引用例4」という。)及び特開2002−82218号公報(甲第5号証、以下「引用例5」という。)を提出し、請求項1〜6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 進歩性についての当審の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
引用例1(特開2014−18997号公報)は、本件特許の最先の先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
全層厚み0.15mm未満の少なくとも3層以上を有するポリオレフィン系多層フィルムのいずれかの層に構成成分としてSi,Al,Mg,Ca,Liから選ばれた少なくとも1つの原子を有する無機化合物をフィルム全層中に3重量%以上含有し、かつ、
少なくとも1種以上の以下の式(1)で表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及び
【化1】

(式中、R1、R2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数が1〜10の置換又は無置換のアルキル基、または炭素数が1〜10のアルコキシ基を表す。)
少なくとも1種以上の一分子中にベンゾトリアゾール骨格を2つ有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤をそれぞれいずれかの層に含有してなり、300nm〜380nmの紫外線が、実質的に完全に遮蔽されてなることを特徴とする農業用ポリオレフィン系多層フィルム。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムやシートに加工した場合に、紫外線遮蔽性に優れつつもブリードアウト等による光線透過性及び防曇性の低下が抑制された農業用ポリオレフィン系多層フィルムに関し、詳しくは長期間使用による紫外線吸収能の低下が抑制された農業用ポリオレフィン系多層フィルムに関し、ハウス内環境において病害菌やカビの繁殖抑制、害虫防除性及び内張資材の劣化防止性等にも優れ、更に紫外線吸収剤による環境影響を低減した農業用ポリオレフィン系多層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業用ハウスは年々大型化しており、ハウスをフィルムで覆うためのフィルム展張作業は多くの人手を要するようになってきている。その一方で、農業従事者の数は年々減少すると共に高齢化が進行しており、毎年の展張作業に人手を確保することは容易ではない状況にある。この様な状況に鑑み、ハウスに展張するフィルムは展張作業が容易で極力張り替えまでの使用期間の長いフィルム、言いかえれば、2年以上の長寿命を有し、長期間にわたり当初性能を保持できる高性能な農業用フィルムの開発が求められている。
【0003】
こうした被覆資材のなかでも、ポリオレフィン系樹脂を主体とした農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムは、密度が塩化ビニル樹脂より小さいために軽く、焼却しても有毒ガスの発生が少なく、可塑剤を添加する必要が無いためにブリードアウトによる硬化の問題も無く、更にインフレーション成型法により幅継ぎの為の接着加工を必要としない広幅フィルムが安価に提供できることなどから盛んに利用されるようになってきている。
【0004】
一方、以前より農業用フィルムに紫外線吸収剤を少量添加して紫外線の一部分をカットし、農業用フィルムの紫外線劣化を防止する方法が知られているが、今日、更に紫外線領域(300nm〜380nm)全般の紫外線を実質的に完全にカットする紫外線カットフィルムを作成し、ハウス内環境における病害菌やカビの繁殖抑制、害虫防除性をすることにより減農薬栽培を行なう試みがなされてきている。
【0005】
農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムには、0.15mm厚み以上の長期展張タイプと、0.15mm未満の短〜中期展張タイプがあり、作物の栽培形態やハウスの構造、各地域での最適栽培方法等により、使用方法に合わせて選択されている。
【0006】
全フィルム厚みが0.15mm未満である比較的薄い農業用フィルムにおいて、紫外線を完全にカットするためには、フィルム中に紫外線吸収剤を高濃度で含有する必要がある。しかし、紫外線吸収剤を高濃度添加すると、紫外線吸収剤のブリードアウトにより、フィルムの失透や防曇性の低下を招くケースがあった。
【0007】
一方、ブリードアウトしないギリギリの量の紫外線吸収剤を入れた場合は、紫外線吸収剤自体の失効により、初期の紫外線カット性を長期間維持することが出来ず、問題となっていた。また、展張初期又は経時後に、実際に紫外線遮蔽効果が期待できる波長域の一部が透過してしまうフィルムが多く、その改良が期待されていた。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、紫外線遮蔽効果が期待できる程度の広い波長域の紫外線を実質的に完全にカットし、長期の紫外線吸収能の低下がなく、使用による環境影響度の低い農業用ポリオレフィン系多層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、全層厚み0.15mm未満の少なくとも3層以上を有する多層フィルムのいずれかの層に構成成分としてSi,Al,Mg,Ca,Liから選ばれた少なくとも1つの原子を有する無機化合物をフィルム全層中に3重量%以上含有し、かつ、少なくとも1種以上の以下の式(1)で表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及び
【化1】

(式中、R1、R2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数が1〜10の置換又は無置換のアルキル基、または炭素数が1〜10のアルコキシ基を表す。)
少なくとも1種以上の一分子中にベンゾトリアゾール骨格を二つ有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤をそれぞれいずれかの層に含有してなり、300nm〜380nmの紫外線が、実質的に完全に遮蔽されてなることを特徴とする農業用ポリオレフィン系多層フィルム、更に好ましくは、表面層以外の層における単位体積当たりの紫外線吸収剤含有率>表面層中の単位体積当たりの紫外線吸収剤含有率であることを特徴とする農業用ポリオレフィン系多層フィルムにおいて、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0018】
本発明の農業用ポリオレフィン系多層フィルムは、紫外線吸収剤が樹脂表面にブリードアウトしにくいため、紫外線遮蔽性(吸収波長域が広い)に優れ、かつその性能が長期間使用した場合にも維持され、ハウス内環境において病害菌やカビの繁殖抑制、害虫防除性及び内張資材の劣化防止性等にも優れ、しかも長期に渡り塗膜密着性、耐候性が損なわれず、農業用フィルムとして好適に用いることができる。また、該フィルムに防曇塗膜を設けた場合には、ブリードアウトが抑えられ該基材との密着性が低下しないので好ましい。
・・・略・・・
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における農業用ポリオレフィン系多層フィルムとは、少なくとも外層、中間層、内層を有する3層以上の積層構造を有するフィルムである。ここで、外層とは、ハウスなどに展張した際に外側となる層をいい、内層とは、ハウス展張時に内側となる層をいい、中間層とは、その外層と内層に挟まれた層をいう。
・・・略・・・
本願発明の農業用ポリオレフィン系多層フィルムには、ポリオレフィン系樹脂が好適に使用できるが、ポリオレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系の単独重合体、α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体、α−オレフィンと共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等との共重合体などがあげられ、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、密度が0.890〜0.935の低密度ポリエチレンやエチレン−α−オレフィン共重合体および酢酸ビニル含有量が30重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体が、透明性や耐候性および価格の点から農業用フィルムとして好ましい。
また、本発明において、ポリオレフィン系樹脂の少なくとも一成分としてメタロセン触媒で共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合樹脂を使用することができる。
・・・・略・・・
【0026】
本発明において使用される基材フィルムとして、(1)外層及び内層が、樹脂成分として、エチレンと炭素原子数4〜10のα−オレフィンとをメタロセン触媒により共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合体(メタロセンポリエチレン)及び高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(HP−LDPE)を含み、(2)中間層が、酢酸ビニル含有量が10〜25重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分として含む、ポリオレフィン系多層フィルムが好適に使用される。かかる層構成を有する多層フィルムは、強度的に優れており、長期展張にも有利であることから好ましい。
【0027】
また、本発明においては、(1)外層が、樹脂成分として、エチレンと炭素原子数4〜10のα−オレフィンとをメタロセン触媒により共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合体(メタロセンポリエチレン)及び高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(HP−LDPE)を含み、(2)中間層が、酢酸ビニル含有量が10〜25重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分として含み、(3)内層が、酢酸ビニル含有量が3〜10重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分として含む、ポリオレフィン系多層フィルムを基材フィルムとして好適に使用することができる。かかる層構成を有する多層フィルムは、紫外線吸収剤などの耐ブリードアウト性に優れており好ましい。
【0028】
本発明における農業用ポリオレフィン系多層フィルムは、式(1)で表される一分子中にベンゾトリアゾール骨格を一つ有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有することを特徴とする。
【化2】

(式中、R1、R2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数が1〜10の置換又は無置換のアルキル基、または炭素数が1〜10のアルコキシ基を表す。)
・・・略・・・・
【0036】
本発明における農業用ポリオレフィン系多層フィルムは、一分子中にベンゾトリアゾール骨格を二つ有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有することをもう一つの特徴とする。上記構造を有することにより、より長波長での吸収特性、および分子量の増加による樹脂フィルムからの噴出し抑制効果を期待できる。
・・・略・・・・
【0079】
本発明の農業用ポリオレフィン系多層フィルム厚みについては、強度やコストの点及び本発明に係る添加剤配合の特徴(耐ブリードアウト性等)を発揮する上で0.03以上0.15mm未満の範囲のものが好ましく、0.05以上0.13mm以下のものがより好ましく、更に0.05以上0.10mm以下のものが好ましい。この範囲未満では強度的に問題があり、この範囲を超えると従来技術との差異が顕著でなくなる。この範囲を大きく超えると、成形が困難になる。」

ウ 「【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0090】
(1)積層フィルムの調製(防曇剤練り込みタイプ、防曇塗膜塗布タイプ共に)
3層インフレーション成形装置として3層ダイに100mmφ((株)プラ工研製)を用い、押出機はチューブ外内層を30mmφ((株)プラ技研製)2台、中間層を40mmφ((株)プラ技研製)として、外内層押出し機温度180℃、中間層押し出し機温度170℃、ダイス温度180〜190℃、ブロー比2.0〜3.0、引取り速度3〜7m/分、厚さ0.10mmにて表1に示した成分からなる3層の積層フィルム(タイプ1及びタイプ2)を得た。なお、これらのフィルムは、ハウス展張時にチューブの端部を切り開いて使用するため、展開した際に製膜時のチューブ外層が展張時にはハウスの内層(内面)となる。
基材の配合を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
〔配合〕添加量は各表記載通り。
HP−LDPE:高圧ラジカル法触媒で製造した分岐状ポリエチレン(MFR:0.8g/10分、密度0.922)日本ポリケム製ノバテックLD「YF30」
メタロセンPE:メタロセン触媒で製造したエチレン・αオレフィン共重合体(MFR:2.0g/10分、密度0.913)日本ポリケム製カーネル「KF270」
EVA1:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量15重量%、MFR2g/10分)
EVA2:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量5重量%、MFR2g/10分)
【0093】
キマソーブ944:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製光安定剤
合成ハイドロタルサイトA:協和化学(株)製「DHT4A」
エチレン・環状アミノビニル共重合体:日本ポリケム(株)製「ノバテックLD・XJ100H」MFR=3g/10分(190℃、JIS−K6760)密度=0.931g/cm3(JIS−K6760)環状アミノビニル化合物含量=5.1重量%(0.7モル%)孤立して存在する環状アミノビニル化合物の割合=90モル% 融点=111℃
【0094】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤A:チバ・スペシャリティーケミカルズ社製TINUVIN 326
2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール
・・・略・・・
【0096】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C:シプロ化成株式会社製SB−7021MBCL(2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メトキシ−6−(tert−ブチル)フェノール)
【化11】

・・・略・・・
【0103】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤J:城北化学工業(株)社製JF832
2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール
【化18】

・・・略・・・
【0107】
(2)フィルムの表面処理
得られたチューブ状フィルムの外層表面を、放電電圧120V、放電電流4.7A、ラインスピード10m/minでコロナ放電処理を行い、JIS−K6768による「濡れ指数」を測定し、その値を確認した。
【0108】
(3)防曇性塗膜の形成(防曇塗膜塗布タイプ)
表1に示した主成分(シリカゾル及び/又はアルミナゾル)と熱可塑性樹脂と架橋剤及び液状分散媒とを配合して防曇剤組成物を得た。
防曇剤組成物配合は以下の配合とした。
無機質コロイドゾル(コロイダルシリカ)4.0
熱可塑性樹脂(サンモールSW−131)3.0
架橋剤(T.A.Z.M)0.1
分散媒(水/エタノール=3/1)93
(注)無機質コロイドゾルの配合量は、無機質粒子量で示し熱可塑性樹脂の配合量は重合体固形分量で示す。
コロイダルシリカ:日産化学社製スノーテックス30、平均粒子径15mμ(当合議体注:「「mμ」は「μm」の誤記である。)
サンモールSW−131:三洋化成社製アクリルエマルジョン
T.A.Z.M:相互薬工社製アジリジン系化合物
(2)で表面処理した基材フィルムの表面に、上記の防曇剤組成物を#5バーコーターを用いて各々塗布した。塗布したフィルムを80℃のオーブン中に1分間保持して、液状分散媒を揮発させ防曇性塗膜を形成した。得られた各フィルムの塗膜の厚みは約1μmであった。
【0109】
・・・略・・・今回用いた各々のサンプルについて次のような光学特性測定を行った。実施例及び比較例における各測定法を以下に示す。
【0110】
(a)全光線透過率
3層インフレーション成形により得られた積層フィルム(ハウス内層側表面に防曇性塗膜を形成(塗工)後)を分光光度計(日立製作所製、U3500型)により測定し、各波長におけるその値を示した。
・・・略・・・
【0115】
〔実施例1、比較例1及び2〕
紫外線吸収剤として本願に係るベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2種を単独、組み合わせでそれぞれ用いた配合により、三層フィルム(防曇塗膜塗布タイプ)を作成した。なお、基材フィルムは、いずれのサンプルともタイプ1を用いた。前記方法により全光線透過率、300〜380nm透過率平均値、UVカット性、耐噴出し性、環境影響性等の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
[実施例1〜3]
紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤A、B、Cを、それぞれ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Jと組み合わせて用いた配合により、三層フィルム(防曇塗膜塗布タイプ)を作成した。基材フィルムは、いずれのサンプルともタイプ1を用いた。ここで、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤A、B又はCと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Jを、夫々、基材フィルムの中間層に0.8%、0.4%添加した。
得られた三層フィルムを用いて、分光光度計(日立製作所製、U3500型)により200〜500nmにおける初期の全光線透過率を測定した。その結果を図1に示す。
図1から、実施例2及び3の三層フィルムは、実施例1と同様のUVカット性を有することが分かる。」

エ 「【図1】



(2) 引用発明
ア 引用例1でいう「本発明」は「農業用ポリオレフィン系多層フィルム」(【0001】)に関するものであるところ、引用例1の【0090】には、その実施例として、「3層の積層フィルム」を調製することが記載され、【0091】【表1】には、「表1 基材フィルムの樹脂構成」として、「タイプ1」及び「タイプ2」の「基材フィルム」の配合が記載され、【0092】〜【0093】には、【表1】において使用される各材料名、諸特性および商品名が記載されている。
ここで、【表1】中の「全層中の請求項1記載無機化合物量」における「全層中の請求項1記載無機化合物」は、請求項1の記載によれば、「Si,Al,Mg,Ca,Liから選ばれた少なくとも1つの原子を有する無機化合物」を指すと理解できる。
また、引用例1の【0117】には、「実施例3」について、「基材フィルムは」、「タイプ1を用い」、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」「Cと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Jを、夫々、基材フィルムの中間層に0.8%、0.4%添加した」ことが記載されている。
そうすると、「実施例3」の「3層の積層フィルム」は、【表1】中のタイプ1の基材フィルムの樹脂構成を有し、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C」と、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤J」を、夫々、基材フィルムの中間層に0.8%、0.4%添加したものであると理解できる。
さらに、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C」及び「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤J」については、【0096】及び【0103】に、その化学式、商品名、構造式が記載されている。

イ 引用例1の【0107】には、得られたフィルム(3層の積層フィルム)の表面処理を行うこと、【0108】には、表面処理した基材フィルムの表面に防曇性塗膜を形成することが記載されている。

ウ 引用例1の【0117】には、「得られた三層フィルムを用いて、分光光度計(日立製作所製、U3500型)により200〜500nmにおける初期の全光線透過率を測定した。その結果を図1に示す。」と記載され、図1には、「実施例3 SB−7021MBCL/JF832=0.8/0.4%」の「全光線透過率(%)」が点線で示されている。
また、引用例1の【0110】の記載からは、「得られた三層フィルムを用いて」、「ハウス内層側表面に防曇性塗膜を形成(塗工)後」に、「全光線透過率を測定」したことが記載されている。

エ 上記(1)ア〜エ及び上記ア〜ウより、引用例1には、実施例3の「3層の積層フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。

「 農業用ポリオレフィン系多層フィルムとしての3層の積層フィルムであって、
ハウス展張時にチューブの端部を切り開いて使用するため、展開した際に製膜時のチューブ外層が展張時にはハウスの内層(内面)となり、
基材フィルムの配合は、下記の表1のタイプ1の基材フィルムの樹脂構成において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Cと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Jを、夫々、基材フィルムの中間層に0.8%、0.4%添加したものであり、
【表1】

表1中の各材料、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Jは以下のものであり、
HP−LDPE:高圧ラジカル法触媒で製造した分岐状ポリエチレン(MFR:0.8g/10分、密度0.922)日本ポリケム製ノバテックLD「YF30」
メタロセンPE:メタロセン触媒で製造したエチレン・αオレフィン共重合体(MFR:2.0g/10分、密度0.913)日本ポリケム製カーネル「KF270」
EVA1:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量15重量%、MFR2g/10分)
合成ハイドロタルサイトA:協和化学(株)製「DHT4A」
キマソーブ944:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製光安定剤
エチレン・環状アミノビニル共重合体:日本ポリケム(株)製「ノバテックLD・XJ100H」MFR=3g/10分(190℃、JIS−K6760)密度=0.931g/cm3(JIS−K6760)環状アミノビニル化合物含量=5.1重量%(0.7モル%)孤立して存在する環状アミノビニル化合物の割合=90モル% 融点=111℃
「全層中の請求項1記載無機化合物」:Si,Al,Mg,Ca,Liから選ばれた少なくとも1つの原子を有する無機化合物
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C:シプロ化成株式会社製SB−7021MBCL(2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メトキシ−6−(tert−ブチル)フェノール)
【化11】

ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤J:城北化学工業(株)社製JF832
2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール
【化18】


得られたチューブ状基材フィルムの外層表面を、放電電圧120V、放電電流4.7A、ラインスピード10m/minでコロナ放電処理を行い、基材フィルムを表面処理し、
表面処理した基材フィルムの表面に、以下の配合の防曇剤組成物を#5バーコーターを用いて塗布し、塗布した基材フィルムを80℃のオーブン中に1分間保持して、液状分散媒を揮発させ防曇性塗膜を形成し、得られた塗膜の厚みは約1μmであり、
(防曇剤組成物配合)
無機質コロイドゾル(コロイダルシリカ)4.0
熱可塑性樹脂(サンモールSW−131)3.0
架橋剤(T.A.Z.M)0.1
分散媒(水/エタノール=3/1)93
(注)無機質コロイドゾルの配合量は、無機質粒子量で示し熱可塑性樹脂の配合量は重合体固形分量で示す。
コロイダルシリカ:日産化学社製スノーテックス30、平均粒子径15μm
サンモールSW−131:三洋化成社製アクリルエマルジョン
T.A.Z.M:相互薬工社製アジリジン系化合物、
ハウス内層側表面に防曇性塗膜を形成(塗工)後に得られた3層の積層フィルムを用いて、分光光度計(日立製作所製、U3500型)により200〜500nmにおける初期の全光線透過率を測定した結果が、図1に点線として示されたものである、
農業用ポリオレフィン系多層フィルムとしての3層の積層フィルム。


(当合議体注:引用発明において、「三層フィルム」を「3層の積層フィルム」、「基材」を「基材フィルム」と言い換えて、他の記載と整合させている。)

2 請求項1について
(1) 対比
本件特許発明1と、引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 引用発明の「3層の積層フィルム」は、厚み「20μm」の「ハウス外層」、厚み「60μm」の「ハウス中間層」及び厚み「20μm」の「ハウス外層」を積層したものである。

イ 引用発明の「ハウス中間層」は、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C」及び「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤J」を含有する。
したがって、上記「ハウス中間層」は、紫外線を吸収しカットする機能を具備する。

ウ 引用発明の上記アの「3層」の位置関係及び上記イの「ハウス中間層」の上記機能からみて、引用発明の「ハウス中間層」及び「表面処理した基材フィルムの表面に」「防曇性塗膜を形成し」た側の「ハウス外層」は、それぞれ本件特許発明1の、「厚みが0.1〜100μmであり」とされる「機能層」及び「基材」に相当する。

エ 上記ア〜ウより、引用発明の「3層の積層フィルム」は、本件特許発明1の「光学積層体」に相当し、両者は、「基材の少なくとも一方の面上に、1又は2以上の機能層を有する構造を備えた」及び「前記機能層の厚みが0.1〜100μmである」点において一致する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と、引用発明は、
「基材の少なくとも一方の面上に、1又は2以上の機能層を有する構造を備えた光学積層体であって、前記機能層の厚みが0.1〜100μmである光学積層体。」の構成において一致する。

イ 相違点
(相違点1)
本件特許発明1は、「波長380nmにおける分光透過率が1%未満であり」、「波長410nmにおける分光透過率が10%未満であり」、「波長440nmにおける分光透過率が80%以上であ」るのに対して、引用発明の全光線透過率(%)は、同様な分光透過率特性を有しているものの、「波長380nmにおける分光透過率が1%未満であり」、「波長410nmにおける分光透過率が10%未満であり」、「波長440nmにおける分光透過率が80%以上であ」るか不明である点。

(相違点2)
「基材の厚み」が、本件特許発明1においては、「25〜125μmであ」るのに対して、引用発明は、「20μm」である点。

(相違点3)
「機能層」が、本件特許発明1においては、「電離放射線硬化型樹脂および光重合開始剤の硬化物を含」んでいるのに対して、引用発明においては、「高圧ラジカル法触媒で製造した分岐状ポリエチレン」、「エチレン・酢酸ビニル共重合体」、赤外線吸収剤として「合成ハイドロタルサイトA」、光安定剤として「キマソーブ944」、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤C」、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤J」を含んでいる点。

(相違点4)
「機能層」が、本件特許発明1においては、「基材側とは反対側表面の算術平均粗さRaが10nm未満である」のに対して、引用発明においては、そのような構成となっているからどうか不明である点。

(3) 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
ア 引用発明は「農業用ポリオレフィン系多層フィルムとしての3層の積層フィルム」の発明であるところ、引用例1の【0003】には、「ポリオレフィン系樹脂を主体とした農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムは、密度が塩化ビニル樹脂より小さいために軽く、焼却しても有毒ガスの発生が少なく、可塑剤を添加する必要が無いためにブリードアウトによる硬化の問題も無く、更にインフレーション成型法により幅継ぎの為の接着加工を必要としない広幅フィルムが安価に提供できることなどから盛んに利用されるようになってきている。」と記載されている。
また、引用例1の【0020】、【0026】及び【0027】の記載によれば、引用発明の「ハウス中間層」のポリオレフィン系樹脂材料は、透明性や耐候性および価格の点や、強度的に優れ、長期展張にも有利な点、紫外線吸収剤などの耐ブリードアウト性に優れる点で、好ましい材料であることが理解できる。
さらに、引用例1の実施例で用いられている基材フィルムの材料は、いずれもポリオレフィン系樹脂である。
したがって、引用発明の「農業用ポリオレフィン系多層フィルムとしての3層の積層フィルム」は、基材フィルムの材料として、ポリオレフィン系樹脂を使用することが前提とされていることが理解される。
そして、引用例1には、引用発明の「基材フィルム」の一部である「ハウス中間層」を、「電離放射線硬化型樹脂および光重合開始剤の硬化物を含」むものとする動機付けとなり得る記載ないし示唆はない。

イ また、特許異議申立人が証拠として提出した引用例2(特開2014−231592号公報、甲第2号証)には、ブルーライトカット機能に優れる紫外線硬化型樹脂組成物を提供することを目的として、(A):多官能(メタ)アクリレート、(B):光重合開始剤、(C):ナフタルイミド骨格を有する化合物及び/又はペリレン骨格を有する化合物、成分を含み、前記(C)成分の量が不揮発成分の0.7〜2.0質量%である紫外線硬化型樹脂組成物とすること、前記(C)成分が、更に、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物を含有することが記載されている(引用例2の【0004】、【0006】等参照。)。
しかしながら、上記紫外線硬化型樹脂組成物は、液晶ディスプレイ等が有するLEDのような人工的な光源が発する385〜495nm付近の波長を有するブルーライトが、眼精疲労やドライアイのような症状、網膜の機能低下、睡眠を促すメラトニンの分泌を抑制するため、体内時計がずれるといった悪影響を与えていることから、このようなブルーライトをカットするためのものである(引用例2の【0002】等参照。)。
一方、引用発明は、「農業用ポリオレフィン系多層フィルム」に関するものであって、ブルーライト悪影響が問題となる液晶ディスプレイとは技術分野を異にするから、引用発明1の「農業用ポリオレフィン系多層フィルム」の改良にあたって、当業者が、引用例2の上記紫外線効果型樹脂組成物を参考にすることはない。
仮に、当業者が引用例2に記載された上記技術に接したとしても、上記アで述べたとおり、引用発明の「ハウス中間層」は、ポリオレフィン系樹脂を前提とするものであるから、これに換えて、引用例2に記載された上記紫外線硬化型樹脂組成物を採用することには、阻害要因があるというべきである。
したがって、引用例2に記載され上記技術が周知技術であるか否かにかかわらず、当業者が、当該周知技術を引用発明に適用する動機を見いだすことはできない。
さらに、特許異議申立人が提出した引用例3(甲3)〜引用例5(甲5)を検討しても、引用発明の「ハウス中間層」を、「電離放射線硬化型樹脂および光重合開始剤の硬化物を含」む構成とすることが記載も示唆もされていないことは、上記アに示したとおりである。
してみると、引用発明において、引用例2に記載された周知技術や引用例3〜5に記載された周知技術に基づいて、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。

ウ そして、本件特許発明1は、相違点1〜相違点4に係る構成を具備することにより、「表示画面の色味に影響を与えることなく、ブルーライト遮蔽性に優れたものとなる。」、「液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機・無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(LED)、電子ペーパー等の画像表示装置やタッチパネルセンサーにおける画像表示面に好適に使用することができる。」(本件特許明細書【0079】)という優れた効果を奏するものである。

エ 小括
以上のとおりであるから、相違点1、相違点2及び相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例2〜引用例5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

3 本件特許発明2〜6について
特許請求の範囲の請求項2〜6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明2〜6は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、前記2のとおり、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例2〜引用例5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない以上、本件特許発明2〜6も、同様に引用例1に記載された発明及び引用例2〜引用例5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-02 
出願番号 P2020-076803
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 石附 直弥
河原 正
登録日 2022-01-11 
登録番号 7006720
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 光学積層体、画像表示装置又はタッチパネルセンサー  
代理人 弁理士法人WisePlus  

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