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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1392082
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-28 
確定日 2022-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7014937号発明「水素吸蔵合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7014937号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7014937号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2021年(令和3年)4月15日(優先権主張 令和 2年 4月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和 4年 1月24日に特許権の設定登録がされ、同年 2月 1日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 7月28日に、請求項1〜6(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である彦野太樹夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」といい、これらを総合して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、
前記MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり、
当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
50%体積累積粒径(D50)が21μm±2μmとなるように粒径調整した水素吸蔵合金粉末を、液温120℃の31質量%KOH水溶液に3時間浸漬させる表面処理を行った後の磁化が1.60emu/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記ABx組成におけるAサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のBサイトを構成する元素の合計モル比(ABx)が5.28以上5.46以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金を含有する、ニッケル水素電池の負極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載の負極活物質を用いたニッケル水素電池。
【請求項6】
請求項4に記載の負極活物質を用いた、電気自動車或いはハイブリッド自動車に搭載するニッケル水素電池。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1〜6号証を提出して、以下の申立理由1〜8により、本件特許のうち請求項1〜6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性進歩性
本件特許発明1、2、4〜6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(新規性進歩性
本件特許発明1、2、4〜6は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第2号証及び甲第3〜6号証に記載された発明に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(新規性進歩性
本件特許発明1〜6は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明及び甲第1〜2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(新規性進歩性
本件特許発明1〜6は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明及び甲第1〜2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

5 申立理由5(新規性進歩性
本件特許発明1〜6は、甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第5号証に記載された発明及び甲第1〜2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

6 申立理由6(実施可能要件
本件特許発明1〜6に係る特許は、以下(1)に示す理由により、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)AサイトをLa及びCeのみにし、ABxモル比が5.0超の組成にしたCaCu5型結晶構造の結晶構造を形成させるのは極めて難しい。これは、上記の結晶構造を形成しようとすれば、Aサイトに空孔を形成する必要があるが、実際には、AサイトにNiが存在することになるからであり、「AサイトをLaとCeのみ」とすることが現実的に不可能であるからである。
したがって、本件特許発明1には、「AサイトをLaとCeのみ」とすることが規定されているが、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「AサイトをLaとCeのみ」とするための特殊な製造方法は一切記載されていない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜6についても同様である。

7 申立理由7(サポート要件)
本件特許発明1〜6に係る特許は、以下(1)〜(8)に示す理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)本件特許発明1では、水素吸蔵合金の構成原子である、La,Ce,Ni,Mn,Alのモル比や質量比が規定されていないが、発明の詳細な説明においては、上記モル比や質量比が規定されている。
(2)本件特許発明1では「Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり」と規定されているが、発明の詳細な説明では、0.10超から0.11以下の範囲の実施例は記載されていない。
(3)本件特許発明1では「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり」と規定されているが、発明の詳細な説明では、0.35超0.37未満の範囲と、1.00超1.10以下の範囲の実施例は記載されていない。
(4)本件特許発明1では「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である」と規定されているが、発明の詳細な説明では、0.80920超0.80928未満の範囲と、0.81104超の範囲の実施例は記載されていない。
(5)本件特許発明1では「AサイトをLaとCeのみ」とされているが、実施例のABx(当審注:ABx組成におけるAサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のBサイトを構成する元素の合計モル比のこと。【0020】と請求項3を参照。)は全て5.0超であるため、技術常識によれば、AサイトにはBサイトの元素であるNiも存在しているといえる。すると、発明の詳細な説明では、「AサイトをLaとCeのみ」とする実施例は記載されていない。
(6)本件特許発明2では「50%体積累積粒径(D50)が21μm±2μmとなるように粒径調整した水素吸蔵合金粉末を、液温120℃の31質量%KOH水溶液に3時間浸漬させる表面処理を行った後の磁化が1.60emu/g以下である」と規定されているが、発明の詳細な説明では、1.5501emu/g超1.60emu/g以下の範囲と、1.1820emu/g未満の範囲の実施例は記載されていない。
(7)本件特許発明3では「前記ABx組成におけるAサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のBサイトを構成する元素の合計モル比(ABx)が5.28以上5.46以下である」と規定されているが、発明の詳細な説明では、5.28以上5.316未満の範囲と、5.419超5.46以下の範囲の実施例は記載されていない。
(8)本件特許発明1〜3を引用している本件特許発明4〜6についても同様である。

8 申立理由8(明確性
本件特許発明1〜6に係る特許は、以下(1)〜(2)に示す理由により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)本件特許発明1では「CaCu 5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である」と規定されているが、同比率が∞(無限大)である場合に本件特許発明1が成立するか不明である。
(2)本件特許発明2では「50%体積累積粒径(D50)が21μm±2μmとなるように粒径調整した水素吸蔵合金粉末を、液温120℃の31質量%KOH水溶液に3時間浸漬させる表面処理を行った後の磁化が1.60emu/g以下である」と規定されているが、同磁化の値がマイナスである場合に本件特許発明2が成立するか不明である。

[証拠方法]
甲第1号証:Baozhong Liu 外6名“Phase structure and electrochemical properties of La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x hydrogen storage alloys”,Journal of Alloys and Compounds,516(2012),pp53-57
甲第2号証:国際公開第2018/123752号
甲第3号証:国際公開第2006/085542号
甲第4号証:国際公開第2005/014871号
甲第5号証:特開2005−133193号公報
甲第6号証:特開平11−204103号公報

(以下、甲第1号証〜甲第6号証をそれぞれ「甲1」〜「甲6」という。)

第4 当審の判断
上記申立理由1〜8はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「Phase structure and electrochemical properties of La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x hydrogen storage alloys(当審訳:La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x水素吸蔵合金の相構造と電気化学的性質」(論文の表題)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア「

」(53頁左下欄1〜8行)
(当審訳:導入 AB5型の水素吸蔵合金は、優れた活性化能力、大容量、過充電および過放電に対する高い耐性、高速充電/放電能力、長サイクル寿命、環境へのやさしさなどの利点を有することから、市販のニッケル/金属水素化物(Ni/MH)二次電池の負極材料として広く利用されている。)

1イ「

」(54頁左欄14〜20行)
(当審訳:それゆえ、AB5型の水素吸蔵合金においてCuの代わりにFeとBを組み合わせて使用すると、放電容量、高速放電性およびサイクル安定性が向上する可能性がある。幸いなことに、市販のFeB合金には、コストが安く、融点が低いなど、純粋なFeやBよりも多くの利点がある。したがって、La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x合金が目的物として選ばれる。)

1ウ「

」(54頁左欄「2.Experimental procedures」の直後1〜4行)
(当審訳:La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x合金は、金属元素(La,Ce,Ni,Mn,Al,Cu:純度99.9%、ならびに、57.0%のBを含み残部Feおよび微量不純物である市販のFeB合金)をアルゴン雰囲気下で誘導溶融した後に1223Kで10時間アニールすることによって合成された。)

1エ「

」(54頁左欄下から10〜1行)
(当審訳:図1には、La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x合金のXRDパターンが示されている。La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75合金は、CaCu5型LaNi5の単一相を有し、FeBを含む合金は、マトリックス相LaNi5および二次相La3Ni13B2の二相で構成されていることがわかる。La3Ni13B2相の存在量は、x値の増加に伴って増加する。全合金におけるLaNi5相の算出格子パラメータを表1に示す。LaNi5相の算出格子定数cおよびc/a比は、x値の増加に伴って増加する。)

1オ「

」(54頁右上)
(表題の当審訳:表1 La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x合金の格子パラメータ)

1カ「

」(54頁右下)
(表題の当審訳:表2 La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75-x(Fe0.43B0.57)x合金の電気化学的性質)

1キ「

」(55頁左欄「3.3Cycling stability」の直後〜下から9行)
(当審訳:サイクルの安定性は、水素吸蔵合金の耐用年数によって非常に重要な要素である。サイクル数の関数としての合金電極の放電容量を図2に示す。Sn(%)=Cn/Cmax×100(Cnはn番目のサイクルでの放電容量である。)として表されるサイクル容量保持率を表1(当審注:表2の誤記と認められる。)に示す。S100が76.4%(x=0)から81.6%(x=20)に増加していることが窺える。電極合金の容量低下の根本的な原因は、充放電サイクル中の合金の粉砕(微粉化)であることが確認されている。よく知られているように、水素の吸収/放出中のAB5型金属水素化物の粉砕(微粉化)は、体積変化とそれらの脆性の組み合わせから生じる本質的な問題である。主相におけるc/a比の増加によって、水素原子が結晶から出たり入ったりするようになり、充電/放電サイクル中の格子応力が減少する。LaNi5相のc/a比は、x値の増加に伴って大きくなり、格子応力の低下および耐粉砕性(耐微粉化性)の向上に貢献する。)

1ク「


」(57頁左欄下から4行〜右欄11行)
(当審訳:La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75合金は、CaCu5型のLaNi5からなる単一の相を有し、FeBを含むこの合金は、マトリックス相LaNi5および二次相La3Ni13B2の二相で構成される。La3Ni13B2相の量は、x値の増加に伴って増加する。FeBの含有量が増えると、最大放電容量は314.0から290.4mAh/gに減少する。一方、S100は76.4%(x=0)から81.6%(x=0/20)に増加する。サイクル安定性は、c/aの増加および二次相の形成に起因して改善するはずである。そして、これにより粉砕(微粉化)防止特性が改善される。合金電極のHRD、交換電流密度I0および水素拡散係数Dは、FeB含有量の増加に伴って初め増加した後に減少し、x=0.10の合金で最も高い値を示す。電極/電解質界面での電荷移動反応、および、合金電極での水素拡散の両方が、高速放電性の原因となるはずである。)

イ 甲1に記載された発明
(ア)上記1エと1オの表1に記載されたLa0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.75−x(Fe0.43B0.57)x合金のうち、1オの表1におけるx=0.20の合金であるLa0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114に注目すると、当該合金は、Coを含んでおらず、Al/Mn=0.15/0.35=0.43であり、マトリックス相LaNi5および二次相La3Ni13B2の二相で構成されている。そして、上記マトリックス相LaNi5は、その結晶構造がCaCu5型であり、その格子パラメータであるc軸長とa軸長の比率であるc/a=0.8093である。

(イ)したがって、甲1には次の「水素吸蔵合金」が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。

「CaCu5型の結晶構造を有するマトリックス相LaNi5および二次相La3Ni13B2の二相で構成された水素吸蔵合金であって、
組成がLa0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114であり、
Coを含まず、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.43であり、
上記マトリックス相LaNi5は、c軸長とa軸長の比率であるc/aが0.8093である水素吸蔵合金。」

(2)甲2の記載、及び甲2に記載された発明
ア 甲2には、「水素吸蔵合金」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、CaCu5型結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金に関する。詳しくは、電気自動車及びハイブリッド自動車用途等に搭載するニッケル水素電池に用いる負極活物質として好適な水素吸蔵合金に関する。」

「[0004] これらの中で、CaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金、例えばAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Co等の元素を用いてなる合金(以下、この種の合金を「Mm−Ni−Mn−Al−Co合金」と称する)は、他の合金組成に比べて、比較的安価な材料で負極を構成でき、しかもサイクル寿命が長く、過充電時の発生ガスによる内圧上昇が少ない密閉型ニッケル水素電池を構成できるなどの特徴を備えている。
[0005] ところで、Mm−Ni−Mn−Al−Co合金の構成元素において、Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性の向上に効果を発揮する重要な元素であったため、従来は10質量%程度のCo(モル比で0.6〜1.0)を配合するのが一般的であった。しかし、Coは非常に高価な金属であり、今後の水素吸蔵合金の利用拡大を考慮するとCoを低減することが好ましい。その反面、Coを低減すると寿命特性の低下につながるため、出力特性と寿命特性を両立しつつCoを低減することが研究課題となっていた。特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)及びハイブリッド自動車(HEV:HybridElectricVehicle;電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車)用電源等への利用開発を進めるには、出力特性及び寿命特性を高水準に維持することが必須の課題であった。」

「[0014] 本発明者は、MH電池の出力特性をさらに高めることができる水素吸蔵合金の評価方法として、電池の負極活物質として使用する前に、水素吸蔵合金を粉砕して水素を吸蔵・脱蔵させることで、膨張・収縮による亀裂を合金に生じさせ、その後に機械粉砕する処理(「2段粉砕処理」と称する)が有効であるという知見を得た。
[0015] そこで本発明は、AB5型水素吸蔵合金に関し、水素吸蔵合金を粉砕して1000〜300μmの粒子とした後、水素を吸蔵・脱蔵させた後に機械粉砕する2段粉砕処理に適した水素吸蔵合金、言い換えれば、従来よりも微粒化することができる、新たな水素吸蔵合金を提案せんとするものである。」

「[0019] <本水素吸蔵合金>
本実施形態の水素吸蔵合金(以下「本水素吸蔵合金」という)は、インターナショナルテーブル番号191(P6/mmm)の空間群を有するCaCu5型結晶構造、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金である。
[0020] (組成)
本水素吸蔵合金は、ABx組成におけるAサイトが、Laを含有する希土類元素から構成され、Bサイトは、Coを含有せず、Ni、Al及びMnを少なくとも含有する組成を特徴とする。
[0021] 本水素吸蔵合金の一例として、一般式:MmNiaMnbAlc(式中、MmはLaを含有する希土類元素、3.8≦a≦4.7、0.1≦b≦0.6、0.1≦c≦0.6)、又は、一般式:MmNiaMnbAlcMd(式中、MmはLaを含有する希土類元素、Mは、Ni、Mn、Al及びCoを除く遷移金属のうちの1種又は2種以上、3.8≦a≦4.7、0.1≦b≦0.6、0.1≦c≦0.6、0<d≦0.2)で表すことができるAB5型水素吸蔵合金を挙げることができる。但し、これらの組成に限定するものではない。
[0022] 本水素吸蔵合金において、ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数(すなわち、上記式の「a+b+c」もしくは「a+b+c+d」)の比率(「ABx」と称する)は、特に限定するものではない。
例えば電気自動車(「EV」と称する)及びハイブリッド自動車(「HEV」と称する)に搭載するNi−MH電池の負極活物質に使用する観点からは、5.00≦ABx≦5.40であるのが好ましい。ABxが5.00以上であれば、寿命特性(容量維持率)の低下を抑制することができる。よって、このような観点から、ABxは5.10以上であるのがより好ましく、5.20以上、特に5.30以上であるのがさらに好ましく、他方、ABxが大き過ぎると容量が低下するため、該容量の観点からABxが5.35以下であるのがさらに好ましい。
また、出力特性の観点からは、ABxは4.85以上であるのが好ましく、中でも4.90以上であるのがより好ましく、その中でも4.95以上であるのがさらに好ましい。
[0023] 本水素吸蔵合金において、上記MmはLaを含有する希土類元素であればよく、例えばLaを含む希土類系の混合物(ミッシュメタル)を挙げることができる。この際、混合物(ミッシュメタル)中のLa量は、60〜100質量%であるのが好ましく、中でも70質量%以上或いは90質量%以下、その中でも75質量%以上或いは85質量%以下であるのがさらに好ましい。
また、混合物(ミッシュメタル)中のLa量は70質量%以上であるのが好ましく、中でも85質量%以上、その中でも90質量%以上であるのがさらに好ましい。
前記希土類系の混合物(ミッシュメタル)中にはLa以外に、Ce、Pr及びNdのうちの少なくとも1種又は2種以上の組み合わせを含んでいてもよいし、さらにその他の元素を含んでいてもよい。
上記Mmの一例を挙げると、Laのみからなるもの、又は、La及びCeからなるもの、又は、La及びCeのほかにPr、Nd、Sm等の希土類を含むものなどを挙げることができる。この際、例えばCe(3wt%〜10wt%)、La(15wt%〜40wt%)、Pr、Ndを主要構成元素とする希土類混合物を挙げることができる。
より具体的な例として、Laの含有量が水素吸蔵合金中15wt%〜35wt%、中でも18wt%以上或いは34wt%以下、その中でも20wt%以上或いは33wt%以下であるのが好ましく、Ceの含有量は水素吸蔵合金中0wt%〜10wt%、中でも9wt%以下、その中でも特に8.5wt%以下であるのが好ましい。
[0024] 本水素吸蔵合金において、Alの含有量(モル比)に対するMnの含有量(モル比)の割合(Mn/Al)は1.56未満であるのが好ましい。
本水素吸蔵合金において、当該Mn/Alが1.56未満であれば、水素吸蔵の平衡圧(プラトー圧)が低いため好ましい。但し、当該Mn/Alが小さ過ぎると、Alが溶出することにより正極の特性低下を招くなどの問題が生じる可能性がある。
かかる観点から、本水素吸蔵合金において、Alの含有量(モル比)に対するMnの含有量(モル比)の割合(Mn/Al)は0.60以上1.56未満であるのが好ましく、中でも1.15以上、その中でも1.17以上或いは1.40以下、その中でも1.36以下であるのが特に好ましい。」

「[0030] 本水素吸蔵合金は、上記元素のほか、例えばTi,Mo,W,Si,Ca,Pb,Cd,Mg、Coなどの元素を不可避不純物として含有していてもよい。但し、これら元素の含有量は、性能に影響しない量、すなわち0.05質量%程度未満であるのが好ましい。」

「[0033](a軸長)
本水素吸蔵合金は、粉末X線回折測定から得られるa軸長が5.02オング以上5.08オング以下(当審注:Aの上に○を書くオングストロームの単位が表示できないので、オングストロームの単位を以下「オング」と表示する。)であるのが好ましい。
本水素吸蔵合金のa軸長が5.02オング以上であれば、電池寿命や微粉化特性を維持できるから好ましく、5.08オング以下であれば水素吸蔵特性及び出力特性も維持できるから好ましい。
かかる観点から、本水素吸蔵合金のa軸長は、5.02オング以上5.08オング以下であるのが好ましく、中でも5.03オング以上或いは5.07オング以下、その中でも5.03オング以上或いは5.06オング以下であるのがさらに好ましい。
本水素吸蔵合金のa軸長を上記範囲に調整するには、例えば熱処理条件の調整などすればよい。但し、この方法に限定するものではない。」

「[0035]<本水素吸蔵合金の製造方法> 本水素吸蔵合金は、例えば、所定の合金組成となるように各水素吸蔵合金原料を秤量及び混合し、例えば誘導加熱による高周波加熱溶解炉を用いて上記水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯となし、これを鋳型、例えば水冷型の鋳型に流し込んで、例えば1350〜1550℃の鋳湯温度で鋳造し、所定の熱処理を行い、その後、粉砕することにより得ることができる。
但し、本水素吸蔵合金の製造方法がこのような製法に限定されるものではない。
[0036] 熱処理する際の雰囲気は不活性ガス、例えばAr、N2などが好ましい。
熱処理する際の温度制御としては、900〜1100℃の温度(「熱処理温度」と称する)を1〜10時間維持する熱処理を行い、次いで、500℃まで降温速度10〜30℃/分で冷却後、100℃以下まで自然冷却し、その後、前記と同条件にて熱処理及び冷却を2回或いは3回以上行うのがより好ましい。
上記熱処理において、1回の熱処理時間は1時間以上10時間以下が好ましく、中でも2時間以上或いは8時間以下、さらに2時間以上或いは6時間以下であるのが好ましい。」

「[0047](実施例1)
各元素の質量比率が、Mm:32.38、Ni:60.76、Mn:4.95、Al:1.91となるように原料を秤量し、混合した。
なお、Mmは、Laのみからなるものを用いた。
[0048] 得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を2kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
[0049] この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で913℃まで1時間で昇温し、さらに1063℃まで30分、1073℃まで10分で昇温し、1073℃を5時間維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却した。
[0050] 次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
[0051] 得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、LaNi4.44Al0.30Mn0.39(ABx=5.13)であることが確認された。
[0052] (実施例2−10及び比較例1−7) 実施例1において、原料組成を変更して、表1及び表2に示すような組成とした以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。」

「[0067]
[表1]



「[0068]
[表2]

」(一部のみ抜粋)

イ 甲2に記載された発明
(ア)表1及び表2に実施例5として記載された水素吸蔵合金に注目すると、
・当該合金の組成は、表2の成分(mol)の割合から、
La1.00Ce0.00Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27であり、
・当該合金は、CaCu5型結晶構造、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であり([0019])、
・当該合金は、ABx組成において、AサイトがLaであり、BサイトがNi、Mn、Alであり([0020]参照。)、
・当該合金における、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)=0.27/0.38=0.71であり、
・a軸長は5.043オング(5.043の単位がオングストローム(オング)であることは、[0033]の記載に基づく。)であり、
・当該合金のB/A(ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率のことであり、「ABx」とも表示される。[0022]参照。)は5.22である(当審注:表2では5.23と記載されているが、Ni、Mn、Alの組成比を加えた5.22を採用した。)。

(イ)したがって、甲2には次の「水素吸蔵合金」が記載されているものと認められる(以下「甲2発明」という。)。

「CaCu5型の結晶構造すなわちAB5型の結晶構造の母相を有している水素吸蔵合金であって、
組成がLa1.00Ce0.00Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.71であり、
a軸長は5.043オングであり、
B/Aは5.22である、水素吸蔵合金。」

(3)甲3の記載、及び甲3に記載された発明
ア 甲3には、「低Co水素吸蔵合金」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、CaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金に関し、詳しくは合金中のコバルトの含有割合が極めて少なく、それでいて電気自動車及びハイブリッド自動車用途等で特に要求される出力特性、活性、寿命特性を備えた低Co水素吸蔵合金に関する。」

「[0004] 本発明者らの研究グループは、これらの中でCaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金、詳しくはAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Coの4元素を用いてなるMm-Ni-Mn-Al-Co合金に着目し研究を進めてきた。この種のMm-Ni-Mn-A1-Co合金は、他の合金組成に比べて、比較的安価な材料で負極を構成でき、しかもサイクル寿命が長ぐ、過充電時の発生ガスによる内圧上昇が少ない密閉型ニッケル水素蓄電池を構成できるなどの特徴を備えている。
[0005] ところで、Mm-Ni-Mn-Al-Co合金の構成元素において、Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性の向上に効果を発揮する重要な元素であるため、従来は10重量%程度のCo(モル比で0.6〜1.0)を配合するのが一般的であった。しかし、Coは非常に高価な金属であり、今後の水素吸蔵合金の利用拡大を考慮するとCoを低減することが好ましいが、Coを低減すれば出力特性や寿命特性の低下につながるため、出力特性及び寿命特性を維持しつつCoを低減することが研究課題の一つであった。特に電気自動車(EV:ElectricVehicle)及びハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle;電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車)用電源等への利用開発にあたり、Coを低減しつつ出力特性と寿命特性を高水準に維持することが必須の課題であった。」

「[0014] そこで本発明は、Coの含有率を更に低い水準まで低減させたとしても、特に寿命特性を高水準にすることができる低Co水素吸蔵合金を提供せんとするものである。」

「[0050] 本発明の水素吸蔵合金は、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.30≦b≦0.65、0.20≦c≦0.50、0 [0051] 本発明の低Co水素吸蔵合金は、ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d又はa+b+c+d+e(この比率を「ABx」或いは「a+b+c+d(+e)」とも称する)が、5. 2≦ABx≦5.5であるから、Bサイトリッチの非化学量論組成からなるものである。この範囲のABxであれば、電池寿命や微粉化特性の低下を抑制できる一因をなし、水素吸蔵 特性及び出力特性の低下も抑制することができる。このような観点から、ABxは5.25以上であるのがより好ましく、また5.45以下であるのがより好ましい。
[0052] 本発明の低Co水素吸蔵合金にいて、出力特性(特にパルス放電特性)、活性(活性度)及び寿命特性を向上させる観点から、a軸長は499.Opm以上であるのが好ましく、503.Opm以下であるのが好ましい。特に499.7pm以上であるのがより好ましく、502.7pm以下であるのがより好ましい。他方、c軸長は405.Opm以上であるのがより好ましく、408.Opm以下であるのがより好ましい。中でも特に405.6pm以上であるのがより好ましく、407.4pm以下であるがより好ましい。
[0053] 例えば、a軸長が499.7pm〜501.2pmであり、c軸長が405.6pm〜406.2pmである場合は好ましい一例である。」

「[0059] ハイブリッド自動車の用途に求められる水準の高耐久性を維持するためには、50サイクル後の微粉化残存率(%))が50%以上であることが必要である。上述のようにABxの範囲毎にa軸長及びc軸長を制御することにより、Coの組成割合(モル比)が0.35以下であるから安価で、しかも上述のように次世代ハイブリツド自動車用電池の負極活物質に要求される高耐久性を満足する水素吸蔵合金を提供することができる。」

「[0062] Coの割合(d)は、0
「[0067] 上記組成において「Mm」は、少なくともLa及びCeを含む希土類系の混合物(ミッシュメタル)であればよい。通常のMmは、La及びCeのほかにPr、Nd、Sm等の希土類を含んでいる。例えばCe(40〜50%)、La(20〜40%)、Pr、 Ndを主要構成元素とする希土類混合物を挙げることができる。Mm中のLaの含有量は、Mm中の含有量において 10〜90質量%、特に10〜85質量%、中でも15〜30重量%、その中でも特に18〜30重量%であるのが好ましい。」

「[0081] 例えば、水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、この混合物を溶解して鋳造し、次いで熱処理するようにして水素吸蔵合金を製造すればよく、この際、鋳造条件(鋳造方法、鋳造温度、冷却速度など)、熱処理条件などの製造条件を合金組成に合わせて適宜選択、制御することによって、結晶格子のa軸長及びc軸長を所定範囲に調整することができる。多くの場合、鋳造における冷却速度を速くすれば結晶格子のa軸長及びc軸長を変化させることができ、また、熱処理温度を高くすれば多くの場合には結晶格子のc軸長を成長させることができる。但し、合金種によっては熱処理温度が低温であってもc軸長が成長するものもあるから、合金種によって適宜制御することが必要である。」

「[0087] ここでは、鋳型鋳造法による製造方法の一例について説明する。
[0088] 先ず、所望の合金組成となるように、水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、例えば誘導加熱による高周波加熱溶解炉を用いて、上記水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯となす。これを鋳型、例えば水冷型の鋳型に流し込んで水素吸蔵合金を1350〜1550℃で鋳造し、所定の冷却速度(所定の冷却水量)で冷却する。この際の鋳湯温度は1200〜1450℃とする。なお、ここでいう鋳造温度とは、鋳造開始時(鋳型注ぎ込み前)のルツボ内溶湯温度であり、鋳湯温度とは鋳型注ぎ込み口温度(鋳造前温度)である。
[0089] 次に、得られた水素吸蔵合金を不活性ガス雰囲気中、例えばアルゴンガス中で熱処理する。熱処理条件は1040〜1080℃、3〜6時間が好ましい。」

「実施例
[0098] 以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
[0099][サンプルの作製]
表1に示した合金組成となるように、各水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、その混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4Torr以下まで真空状態にした後、アルゴンガス雰囲気中で加熱溶解して水冷式銅鋳型に流し込み、表2に示した鋳造温度で鋳造を行い、表2に示した冷却水量で冷却を行い、合金を得た。さらに、この合金をアルゴン雰囲気中で1060℃、6時間の熱処理を行い、インゴット状の水素吸蔵合金(サンプル1〜37)を得た。
[0100] なお、Ceの含有量については表1に示した範囲内であることは確認できているが、より詳細な定量はできていない。また、不純物については定量できていない。
[0101][表1]



「[0125][表2]

」(一部のみ抜粋)

イ 甲3に記載された発明
(ア)表1及び表2にサンプル10として記載された水素吸蔵合金に注目すると、
・当該合金の組成は、表1の割合(Mmのモル比を1として各元素のモル比が記載されているものと解される。)から、Mm1Ni4.25Mn0.60Al0.35Co0.10であり、
・当該合金において、Mmは、少なくともLa及びCeを含む希土類系の混合物、即ちミッシュメタルであり([0067])、La26wt%、Ce10〜15wt%を含有し([表1])、さらにその他希土類を適量含有するものであり([表1]の右下*の記載参照。また、[0067]によれば、CeとLaの最大含有量がそれぞれ50%、40%であるから、サンプル10においてもMm中にはCeとLa以外に少なくとも10%程度のその他希土類が含まれると認められる。)、
・当該合金は、CaCu5型結晶構造を有するABx型の低Co水素吸蔵合金であり([0050])、
・当該合金における、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)=0.35/0.60=0.58であり、
・a軸長は499.7pm、c軸長は407.4pmであるから([表2])、a軸長に対するc軸長の比は、407.4÷499.7=0.8152であり、
・当該合金のABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d(この比率を「ABx」とも称する)が、4.25+0.10+0.60+0.35=5.30である。

(イ)したがって、甲3には次の「水素吸蔵合金」が記載されているものと認められる(以下「甲3発明」という。)。

「CaCu5型の結晶構造を有するABx型の低Co水素吸蔵合金であって、
その組成がMm1Ni4.25Mn0.60Al0.35Co0.10であり、
Mmはミッシュメタルであり、La26wt%、Ce10〜15wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.58であり、
a軸長に対するc軸長の比は0.8152であり、
ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率ABxが5.30である、低Co水素吸蔵合金。」

(4)甲4の記載、及び甲4に記載された発明
ア 甲4には、「低Co水素吸蔵合金」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、CaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金に関し、詳しくは合金中のコバルトの含有割合が極めて少なく、それでいて電気自動車及びハイブリッド自動車用途等で特に要求される出力特性、活性、寿命特性を備えた低Co水素吸蔵合金に関する。」

「[0004] 本発明者らの研究グループは、中でもCaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金、詳しくはAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Coの4元素を用いてなるMm-N-Mn-Al-Co合金に着目し研究を進めてきた。この種のMm-Ni-Mn-Al-Co合金は、La系の合金に比べて比較的安価な材料で負極を構成でき、しかもサイクル寿命が長く、過充電時の発生ガスによる内圧上昇が少ない密閉型ニッケル水素蓄電池を得ることができるなどの特徴を備えている。
[0005] ところで、Mm-Ni-Mn-Al-Co合金の構成元素において、Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性の向上に効果を発揮する重要な元素であったため、従来は10重量%程度のCo(モル比で0.6〜1.0)が配合するのが一般的であった。しかし、Coは非常に高価な金属であり、今後の水素吸蔵合金の利用拡大を考慮するとCoを低減することが好ましいが、Coを低減すれば出力特性や寿命特性の低下につながるため、出力特性及び寿命特性を維持しつつCoを低減することが研究課題であった。特に電気自動車(EV: Electric Vehicle)及びハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle;電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車)用電源等への利用開発を進めるには、出力特性及び寿命特性を高水準に維持することが必須の課題であった。」

「[0010] 上述のように、本発明者が属する研究グループは、以前に低Co組成の水素吸蔵合金であってもc軸の格子長を所定の範囲に制御することにより電池の寿命特性を維持できることを提案したが、次世代電気自動車及びハイブリッド自動車のための開発を進めるうち、Coをさらに低減し、かつ出力特性(特にパルス放電特性)、活性(活性度)及び寿命特性を高水準に維持するためには「c軸の格子長を制御する」という発想では限界があることが分かってきた。
そこで本発明の目的は、Coの含有率を更に低い水準まで低減させたとしても、出力特性(特にパルス放電特性)、活性(活性度)及び寿命特性を高水準にすることができる低Co水素吸蔵合金を提供することにある。」

「[0012] 本発明は、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.3≦b≦0.65、0.2≦c≦0.5、0
「[0017] 本発明の水素吸蔵合金は、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.3≦b≦0.65、0.2≦c≦0.5,0 [0018] 本発明の低Co水素吸蔵合金は、ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d(この比率をABxとも称する)が、5.2≦ABx≦5.5であるから、Bサイトリッチの非化学量論組成からなるものである。この範囲のABxであれば、電池寿命や微粉化特性を維持することができ、しかも水素吸蔵特性及び出力特性も維持することができる。ただし、中でもABxが5.25以上が好ましく、又5.45以下であるのが好ましい。
[0019] また、本発明の低Co水素吸蔵合金において、a軸長は499以上であるのが好ましく、503pm以下であるのが好ましい。特に499.7以上であるのがより好ましく、502.7pm以下であるのがより好ましい。他方、c軸長は405以上であるのがより好ましく、408pm以下であるのがより好ましい。中でも特に405.6以上であるのがより好ましく、407.4pm以下であるがより好ましい。
例えば、a軸長が499.7〜501.2pmであり、c軸長が405.6〜406.2pmである場合は好ましい一例である。」

「[0021] それぞれのABxの範囲によって上記の範囲のa軸長及びc軸長に制御することにより、ハイブリッド自動車に求められる寿命特性、すなわち、水素吸蔵合金を粉砕し、篩い分けして粒度20〜53μmの範囲に調整して水素吸蔵合金粉末とし、この水素吸蔵合金粉末の平均粒径(;サイクル前粒度、D50)を粒度分布測定装置により測定した後、この水素吸蔵合金粉末2gを秤量してPCTホルダー中に入れ、1.75Mpaの水素圧で2回表面洗浄し、次いで3MPaの水素を導入するようにして活性化を2回行い、次に、PCT装置により、水素吸蔵合金粉末2.0gに3MPaの水素ガスを導入して水素を吸蔵させ、45°Cにて水素脱着を50回繰り返すサイクル試験を行い、50サイクル試験後の水素吸蔵合金粉末の平均粒径(;サイクル後粒度、D50)を粒度分布測定装置により測定したときの、サイクル前粒度に対するサイクル後粒度の割合(微粉化残存率(%))が50%以上を示す寿命特性、を備えた水素吸蔵合金とすることができる。」

「[0023] Coの割合(d)は、0
「[0024] なお、上記組成において「Mm」は、La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希土類系の混合物であるミッシュメタルである。例えばCe(40〜50%)、La(20〜40%)、 Pr、Ndを主要構成元素とした希土類を挙げることができる。Mm中のLaの含有量は、一般的には水素金属合金に対して15〜30重量%、特に18〜30重量%であるのが好ましい。」

「[0026] 例えば、水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、この混合物を鋳造し、次いで熱処理するようにして水素吸蔵合金を製造すればよぐこの際、鋳造条件(鋳造方法、鋳造温度、冷却速度など)、熱処理条件などの製造条件を合金組成に合わせて適宜選択、制御することによって、結晶格子のa軸長及びc軸長を所定範囲に調整することができる。一般的には鋳造における冷却速度を速くすれば結晶格子のc軸長を成長させることができ、また、熱処理温度を高くしても一般的には結晶格子のc軸長を成長させることができる。但し、合金種によっては熱処理温度が低温であってもc軸長が成長するものもあるから、合金種によって適宜制御することが必要である。
また、結晶格子のa軸長及びc軸長をともに所定範囲内に入るように調整するには、結晶を均質に成長させることも重要な要素の一つである。結晶の均質化を図るためには、熱処理のほかにも、例えば特開2002?212601号に開示されているように、熱処理前の合金を分級して合金粉末の粒径を制御することも有効であるとも考えられる。よって、このような手段も結晶格子のa軸長及びc軸長を所望の範囲に調整する手段の一つとして採用することが可能である。」

「[0028] ここでは、鋳型鋳造法による製造方法の一例について説明する。
先ず、所望の合金組成となるように、水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、例えば誘導加熱による高周波加熱溶解炉を用いて、上記水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯となす。これを鋳型、例えば水冷型の鋳型に流し込んで水素吸蔵合金を1350〜1550℃で鋳造し、所定の冷却速度(所定の冷却水量)で冷却する。この際の鋳湯温度は1200〜1450℃とする。なお、ここでいう鋳造温度とは、鋳造開始時のルツボ内溶湯温度であり、鋳湯温度とは鋳型注ぎ込み口温度(鋳型前温度)である。
次に、得られた水素吸蔵合金を不活性ガス雰囲気中、例えばアルゴンガス中で熱処理する。熱処理条件は1040〜1080℃、3〜6時間が好ましい。」

「実施例
[0030] 以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
[0031][サンプルの作製]
表1に示した合金組成となるように、各水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、その混合物をルツボにいれて高周波溶解炉に固定し、10-4Torr以下まで真空状態にした後、アルゴンガス雰囲気中で加熱溶解して水冷式銅鋳型に流し込み、表2に示した鋳造温度で鋳造を行い、表2に示した冷却水量で冷却を行い、合金を得た。さらに、この合金をアルゴン雰囲気中で1060℃、6時間の熱処理を行い、インゴット状の水素吸蔵合金(サンプル1〜33)を得た。」

「[0032][表1]



イ 甲4に記載された発明
(ア)表1及び表2にサンプル10として記載された水素吸蔵合金に注目すると、
・当該合金の組成は、表1の割合(Mmのモル比を1として各元素のモル比が記載されているものと解される。)から、Mm1Ni4.25Mn0.60Al0.35Co0.10であり、
・当該合金において、Mmは、La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希土類系の混合物であるミッシュメタルであり([0024])、La26wt%、Ce10〜15wt%を含有し([表1])、さらにその他希土類を適量含有するものであり([表1]の右下*の記載参照。また、[0024]によれば通常、CeとLa以外に少なくとも10%程度のその他希土類が含まれる。)、
・当該合金は、CaCu5型結晶構造を有するABx型の低Co水素吸蔵合金であり([0017])、
・当該合金における、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)=0.35/0.60=0.58であり、
・a軸長は499.7pm、c軸長は407.4pmであるから([表2])、a軸長に対するc軸長の比は、407.4÷499.7=0.8152であり、
・当該合金のABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d(この比率をABxとも称する)が、4.25+0.10+0.60+0.35=5.30である。

(イ)したがって、甲4には次の「水素吸蔵合金」が記載されているものと認められる(以下「甲4発明」という。)。

「CaCu5型の結晶構造を有するABx型の低Co水素吸蔵合金であって、
その組成がMm1Ni4.25Mn0.60Al0.35Co0.10であり、
Mmはミッシュメタルであり、La26wt%、Ce10〜15wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.58であり、
a軸長に対するc軸長の比は0.8152であり、
ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率ABxが5.30である、低Co水素吸蔵合金。」

(5)甲5の記載、及び甲5に記載された発明
ア 甲5には「低Co水素吸蔵合金」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、CaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金に関し、詳しくはCo量を低減した低Co水素吸蔵合金とその用途に関する。」

「【0004】
本発明が対象とするAB5型水素吸蔵合金、詳しくはAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Coの4元素を用いてなるMm-Ni-Mn-Al-Co合金は、La系の合金に比べて安価な材料で負極を構成でき、しかもサイクル寿命が比較的長く、過充電時の発生ガスによる内圧上昇も少ないという特徴を備えている。
【0005】
Mm-Ni-Mn-Al-Co合金の構成組成において、Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性等の向上に寄与する重要な元素である。そのため、従来の一般的なMm-Ni-Mn-Al-Co系合金では10重量%程度のCo(原子比で0.6〜1.0)を含有するものが多かった。しかし、Coは非常に高価な金属であるため、Coの含有率が高いとそれだけ原料コストが高くなる。今後の工業的利用拡大を図るためにはCoを低減する必要があるが、前述のようにCoは寿命特性等に寄与する重要な元素であるため、如何にしてCo量を低減しつつ寿命特性等の電池特性を維持するかが重要な開発課題となっている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者がMm-Ni-Mn-Al-Co合金においてCoの低減と寿命特性について鋭意研究を進めた結果、Co量を低減した特定の水素吸蔵合金は特定のH/M領域で使用する場合には、寿命特性(サイクル特性)を含めて優れた電池特定を示すことを発見し、かかる知見に基づき本発明を提案するものである。」

「【0021】
本発明の低Co水素吸蔵合金は、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、3.7≦a≦4.7、0.3≦b≦0.65、0.2≦c≦0.5、0.05<d≦0.65、4.9≦a+b+c+d≦5.5)で表すことができるCaCu5型結晶構造を有する低Co水素吸蔵合金である。
【0022】
本発明の低Co水素吸蔵合金は、ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d(この比率をABxとも称する)が、4.9≦ABx≦5.5である。この範囲のABxであれば、電池寿命や微粉化特性を維持することができ、しかも水素吸蔵特性及び出力特性も維持することができる。ただし、中でもABxが5.25以上5.45以下であるのが好ましい。」

「【0024】
Coの割合(d)は、0.05≦d≦0.65、好ましくは0.05≦d≦0.3、更に好ましくは0.05≦d≦0.2の範囲内で調整するのがよい。0.05≦d≦0.65の範囲内であれば、少なくとも本用途においては水素吸蔵特性や微粉化特性が問題となることもなく、しかも充分にコスト削減の利益を享受できる。・・・
【0025】
なお、上記組成において「Mm」は、La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希土類系の混合物であるミッシュメタルである。例えばCe(40〜50%)、La(20〜40%)、Pr、Ndを主要構成元素とした希土類を挙げることができる。Mm中のLaの含有量は、一般的には水素金属合金に対して18から30重量%であるのが好ましい。」

「【0036】
(低Co水素吸蔵合金の製造方法)
本発明の低Co水素吸蔵合金の製造方法は特に限定するものではないが、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、3.7≦a≦4.7、0.3≦b≦0.65、0.2≦c≦0.5、0.05<d≦0.65、4.9≦a+b+c+d≦5.5)の合金組成となるように、各水素吸蔵合金原料を秤量、混合した上で、本発明の条件を満足するように製造方法及び製造条件を調整して水素吸蔵合金を製造すればよい。
【0037】
例えば、水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、この混合物を鋳造し、次いで熱処理するようにして水素吸蔵合金を製造すればよく、この際、鋳造条件(鋳造方法、溶湯温度、鋳型形状)や熱処理条件などの製造条件を合金組成に合わせて適宜選択、制御することによって、本発明が特定する基準を満足する合金を製造することができる。
【0038】
一例としては、水素吸蔵合金原料を混合し、鋳造し、熱処理して水素吸蔵合金を製造する場合であれば、熱処理前の水素吸蔵合金のc軸長C1に対する熱処理後のc軸長C2の比率(C2/C1)が1.0001〜1.0060、好ましくは1.0020〜1.0060、中でも好ましくは1.0027〜1.0060となるように熱処理条件を調整するようにする。
なお、一般的には熱処理温度を高くすれば結晶格子のc軸長を成長させることができるが、合金種によっては熱処理温度が低温であってもc軸長が成長するものもあるから、合金種によって適宜制御することが必要である。」

「【0042】
[サンプルの作製]
表1に示した合金組成となるように、各水素吸蔵合金原料を秤量、混合し、その混合物をルツボにいれて高周波溶解炉に固定し、10-4Torr以下まで真空状態にした後、アルゴンガス雰囲気中で加熱溶解して水冷式銅鋳型に流し込み、1430℃(溶湯温度)で鋳造を行い、合金を得た(サンプル1〜17)。
それぞれのサンプル(合金)を、アルゴン雰囲気中で600〜1100℃、3〜6時間の熱処理を行い、インゴット状の水素吸蔵合金を得た。
なお、他の詳細な製造条件はいずれのサンプルも同1条件とした。
【0043】
【表1】


「【0045】
<a軸長><c軸長>
水素吸蔵合金(インゴット)を粉砕し、篩い分けして-20μm(20μm以下)、20μm〜53μm、53μm以上に分級し、このうちの-20μmのものをガラスホルダーに詰めて粉体X線回折装置(RIGAKU製XRD)に供した。CuKα線により1°/minの走査速度、100?150°の角度で測定を行い、誤差関数測定法(wilsonpike法)により格子定数の精密化を行った上、a軸長(pm)及びc軸長(pm)を算出した。算出したa軸長及びc軸長の値には±0.1pmのばらつきがある。」

「【0060】
【表7】

」(一部のみ抜粋。)

イ 甲5に記載された発明
(ア)表1及び表7にサンプル14として記載された水素吸蔵合金であって、熱処理条件が1060℃*4hのものに注目すると、
・当該合金の組成は、表1の割合(Mmのモル比を1として各元素のモル比が記載されているものと解される。)から、Mm1Ni4.40Mn0.45Al0.35Co0.10であり、
・当該合金において、Mmは、La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希土類系の混合物であるミッシュメタルであり([0025])、Laを22wt%含有し、Ceを5〜10wt%含有し([表1])、さらに、ミッシュメタル中のCe含有割合の最大値が50%で、同Laの含有割合の最大値が40%のものが例示されていることから、残部には、Ce及びLa以外のその他の希土類を適量(少なくとも10wt%程度)含有するものであり([0025])、
・当該合金は、CaCu5型結晶構造を有し、ABx組成の低Co水素吸蔵合金であり([0021]、[0022])、
・当該合金における、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)は、0.35/0.45=0.77であり、
・a軸長に対するc軸長の比は、406.7÷501.2=0.811452であり(表7の物性の欄参照)、
・当該合金のABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d(この比率をABxとも称する)が5.30である(表1のABx参照)。

(イ)したがって、甲5には次の「水素吸蔵合金」が記載されているものと認められる。

「CaCu5型の結晶構造を有するABx組成の低Co水素吸蔵合金であって、
上記組成がMm1Ni4.40Mn0.45Al0.35Co0.10であり、
Mmはミッシュメタルであり、La22wt%とCe5〜10wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.77であり、
a軸長に対するc軸長の比は0.811452であり、
ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率ABxが5.30である、低Co水素吸蔵合金。」(「甲5―14発明」という。)

(ウ)続いて、サンプル15、サンプル16にも注目し、上記(ア)と同様に検討すると、次の「水素吸蔵合金」が記載されているものと認められる。

「CaCu5型の結晶構造を有するABx組成の低Co水素吸蔵合金であって、
上記組成がMm1Ni4.31Mn0.52Al0.37Co0.10であり、
Mmはミッシュメタルであり、La20wt%とCe5〜10wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.71であり、
a軸長に対するc軸長の比は0.811091であり、
ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率ABxが5.30である、低Co水素吸蔵合金。」(「甲5―15発明」という。)

「CaCu5型の結晶構造を有するABx組成の低Co水素吸蔵合金であって、
上記組成がMm1Ni4.35Mn0.50Al0.35Co0.10であり、
Mmはミッシュメタルであり、La20wt%とCe5〜10wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.70であり、
a軸長に対するc軸長の比は0.812899であり、
ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率ABxが5.30である、低Co水素吸蔵合金。」(「甲5―16発明」という。)

(6)甲6の記載
ア 甲6には「アルカリ二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素の吸蔵・放出を行なう前のBET法による比表面積をS0、80℃で脱気後20℃で水素吸蔵させ、80℃で放出させる水素の吸蔵・放出を5回以下行なった時のBET法による比表面積をSnとした時、前記Sn/S0の比(S)が30以下で、8NのKOH水溶液で1時間煮沸処理した後の飽和磁化が0.01〜1.0emu/gである水素吸蔵合金粉末を含む負極を備えたことを特徴とするアルカリ二次電池。」

「【0016】前記飽和磁化は、前述したSn/S0の比(S)が30以下である水素吸蔵合金インゴットを粉砕し、得られた粉末を8NのKOH水溶液に浸漬し、1時間煮沸処理した後に測定されたものである。・・・ところで、水素吸蔵合金は、アルカリ水溶液と接触するとその表面のニッケル以外の金属がアルカリ水溶液中に溶出し、合金表面にニッケルの層が形成される。このニッケル層は、強磁性を示す。水素吸蔵合金表面にニッケル層が存在すると、この層が合金と水素の反応触媒となり、初期活性が向上される。但し、腐食の進行しやすい、すなわち、ニッケル以外の金属の溶出量が多いものは、結果的にニッケル層が多くなることから、飽和磁化が高くなるとサイクル寿命の低下を招く。従って、Sn/S0の比(S)が30以下の水素吸蔵合金インゴットを機械粉砕し、得られた粉末の8NのKOH水溶液で1時間煮沸処理した後の飽和磁化を測定することによって、機械粉砕の際の酸化による表面状態の変化を測定することができる。・・・」

「【0027】前記Sn/S0の比(S)が30以下である水素吸蔵合金を衝撃式の粉砕機で粉砕し、得られた粉末の8NのKOH水溶液で1時間煮沸処理した後の飽和磁化を0.01〜1.0emu/gにすることによって、粉砕の際の酸化で合金粉末の表面状態が変化することによる初期活性の劣化や、サイクル寿命の低下を防止することができる。従って、機械粉砕により粉砕された水素吸蔵合金粉末を有する負極を備え、初期活性及びサイクル寿命の双方が優れたアルカリ二次電池を実現することができる。」

(7)申立理由1(甲1を主引例とする新規性進歩性)について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「CaCu5型の結晶構造を有するマトリックス相LaNi5」は、本件発明1の「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相」に相当する。

(イ)甲1発明の「組成がLa0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114であり」のうち「La0.7Ce0.3」は、「LaNi5」のLa(Aサイト)の一部がCeに置き換わったものと考えられるから、本件発明1の「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成」し「前記MmはLa及びCeからな」ることに相当する。

(ウ)甲1発明の「組成がLa0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114であり」のうち「Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114」は、「LaNi5」のNi(Bサイト)の一部がMn、Al、Cu、Fe、Bに置き換わったものと考えられるから、甲1発明の「組成がLa0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114であり」のうち「Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114」であることと、本件発明1の「Bサイトを」「Ni、Mn及びAlが構成する」こととは、Bサイトを少なくともNi、Mn及びAlが構成する点で共通する。

(エ)甲1発明の「Coを含まず」は、本件発明1の「Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり」に相当する。

(オ)甲1発明の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.43」は、本件発明1の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10」に相当する。

(カ)甲1発明の「c軸長とa軸長の比率であるc/aが0.8093」は、本件発明1の「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であること」に相当する。

(キ)以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点1)
「 CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、Bサイトを少なくともNi、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、
前記MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり、
当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である水素吸蔵合金。」の点。

(相違点1)
ABx組成におけるBサイトについて、本件発明1では「Ni、Mn及びAlが構成する」のに対して、甲1発明では「Ni、Mn及びAl」以外に「Cu、Fe、B」も構成する点。

イ 相違点についての検討
(ア)水素吸蔵合金を構成する元素について、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には次のように記載されている。
「【0025】
本水素吸蔵合金は、本発明の効果に影響しない範囲で不純物を含むことを許容する。例えばTi,Mo,W,Si,Ca,Pb,Cd,Mgのいずれかの不純物を0.05質量%程度以下であれば含んでいてもよい。」

(イ)上記(ア)の記載によれば、本件発明1の水素吸蔵合金には、Aサイトを構成するLa及びCe、Bサイトを構成するNi、Co、Mn以外に、不純物を含むことが許容されており、当該不純物とは発明の効果に影響しないものであって、0.05質量%程度以下のものである。

(ウ)そこで、甲1発明の水素吸蔵合金のBサイトを構成する「Cu、Fe、B」が、本件発明1における不純物に該当するものであるかについて検討する。

(エ)甲1発明の組成式「La0.7Ce0.3Ni3.75Mn0.35Al0.15Cu0.55Fe0.086B0.114」は各元素の量比がモル比で表されているので、各元素の原子量を用いて下記表のとおり質量比に換算することができる。

上記表の計算のとおり、甲1発明の水素吸蔵合金のBサイトを構成する「Cu、Fe、B」の質量%は、0.05質量%よりもはるかに大きい9.68質量%である。

(オ)また、甲1の上記1イの記載によれば、甲1発明において「Cu、Fe、B」が含まれているのは、放電容量、高速放電性およびサイクル安定性を向上させるためであって、意図的に含有されているものである。

(カ)したがって、甲1発明の水素吸蔵合金のBサイトを構成する「Cu、Fe、B」は、水素吸蔵合金がよりよいサイクル特性等を備えるものとなるように意図的に含有しているものであり、また、その含有量も、0.05質量%をはるかに超える8.99質量%であるから、本件明細書にいうところの不純物には該当しない。

(キ)そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
また、甲1発明において、「Cu、Fe、B」は上記(オ)に記載のとおり、よりよいサイクル特性等を備えるものとなるように意図的に含有されているものであって、甲1発明において新規な特徴である本質的な部分といえるから、甲1発明のBサイトから「Cu、Fe、B」を排除して「Ni、Mn及びAl」のみから構成されるものとすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。

ウ 小括
以上から、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明2、4〜6について
本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2、4〜6も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)申立理由2(甲2を主引例とする新規性進歩性)について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明の「CaCu5型の結晶構造すなわちAB5型の結晶構造の母相を有している水素吸蔵合金であって、組成がLa1.00Ce0.00Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27であり」において「La1.00Ce0.00」であることは、本件発明1の「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成」することに相当する。

(イ)甲2発明で「Ce0.00」「Co0.00」と表記されている点について、甲2の原料の組成(成分wt%)を表している[表1]を参照すれば、甲2発明の認定の基礎とされた実施例5にはCeが0.02wt%含まれており、Coが0.01wt%含まれることが示されていることから、甲2発明の組成には直接的には表示されていないが実際にはCe及びCoが極微量含まれているものである。なお、CeとCoの正確なモル比を、構成元素の各原子量を用いて次の表のとおり計算することができる。

上記表より、当該合金における、ミッシュメタル(LaとCe)のモル比を1.00としたときのCeのモル比は0.00062であり、Coのモル比は0.00074である。

(ウ)上記(イ)の検討を参照すれば、甲2発明は、「組成がLa1.00Ce0.00Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27であり」と特定されており、Bサイトに相当する「Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27」において「Co0.00」と表記されていても、Coは必ずしも0ではなく、極微量含むことを意味しているから、甲2発明においてBサイトの組成が「Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27」であることは、本件発明1において「BサイトをNi、Co、Mn及びAl」「が構成する」ことに相当する。

(エ)甲2発明の「Co0.00」は、上記(ウ)で検討したとおり、Coを極微量(ミッシュメタルのモル比1に対して0.00074)含むことを意味している。一方、本件発明1における「Coのモル比が0.0以上」であるとは、本件明細書段落【0018】に「Coについては、コスト低減の観点から、Aサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比、すなわち上記一般式におけるCoのモル比(d)が0.0以上0.11以下であるのが好ましい。中でも0.09以下、中でも0.06以下、中でも0.05以下、その中でも0.03以下、その中でも特に含有しないことがさらに好ましい。」と記載されていることから、Coを全く含まない場合を含んでいる。したがって、甲2発明において「La1.00Ce0.00」に対して「Co0.00」であることは、当該「Co0.00」がCoを極微量含むことを意味していることを勘案すると、本件発明1の「Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であ」ることに相当する。

(オ)甲2発明の「Ce0.00」は、上記(エ)の検討と同様に、Ceを極微量含むことを意味しているから、甲2発明の「組成がLa1.00Ce0.00Ni4.57Co0.00Mn0.38Al0.27」のうち「La1.00Ce0.00」であることは、Laに加えて極微量のCeを含むことを意味しているから、本件発明1の「MmはLa及びCeからなり」に相当する。

(カ)甲2発明の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)=0.27/0.38=0.71」は、本件発明1の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10」に相当する。

(キ)以上によれば、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点2)
「 CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、
前記MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10である水素吸蔵合金。」の点。

(相違点2)
本件発明1では「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である」のに対して、甲2発明では「a軸長は5.043オングである」もののc軸長が不明であり、したがって、a軸長に対するc軸長の比率がどのような値になっているか不明である点。

イ 相違点についての検討
(ア)甲2には、a軸長についての記載はあるが、c軸長については何ら記載されていないため、a軸長に対するc軸長の比率がどのような値になっているか不明である。

(イ)甲2にc軸長について何ら記載されていないとしても、仮に、本件明細書と甲2において、水素吸蔵合金の原料と製造方法・製造条件が一致するのであれば、その結果得られる水素吸蔵合金の格子長さも両者で一致する可能性は高い。
しかしながら、本件明細書の表2に記載された各実施例の組成の中に、甲2発明の組成と一致するものはない。また、本件明細書の【0044】に記載された実施例の製造方法と、甲2の[0048]に記載された実施例の製造方法を対比すると、アルゴン雰囲気中での加熱温度が異なり(1500℃と1450℃)、鋳造方法が異なり(銅ロールを用いた鋳造と水冷式銅鋳型を用いた鋳造)、鋳造後の合金の形体が異なり(薄帯状とインゴット状)、熱処理条件が異なり(1078℃を5時間と1073℃を5時間)、合金の粉砕方法が異なっている(吉田製作所ブラウンミルのみと、Fuji PaudI社製ジョークラッシャー及び吉田製作所ブラウンミル)。
そして、甲3の[0081]には、水素吸蔵合金の製造において、合金組成や鋳造条件や熱処理条件を適宜選択することによって、結晶格子のa軸長とc軸長を調整することができること、すなわち、合金組成や鋳造条件や熱処理条件が相違すれば結晶格子のa軸長及びc軸長が異なるものとなることが記載されているから、原料、鋳造条件、熱処理条件が異なっている甲2発明と本件発明1において、a軸長に対するc軸長の比率が同じになっているとはいえない。

(ウ)したがって、相違点2は甲2発明と本件発明1との実質的な相違点である。そこで、次に、甲2発明において相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。

(エ)水素吸蔵合金の結晶格子のa軸長とc軸長について、甲3の表2等、甲4の表2等、甲5の表7等に様々な実施例の測定値が記載されている。これら測定値の中には、a軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であるものも含まれているが、当該比率が0.8092未満であるものも含まれており、両者とも実施例として適していることが記載されているから、a軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上とすることが特に好ましいとの技術事項は甲第2〜6号証のいずれにも記載されていない。

(オ)したがって、水素吸蔵合金の結晶格子において「a軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上」とすることを動機付ける記載は、甲第2〜5号証のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(カ)そして、本件発明1は、「CaCu 5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上」とすることによって、充放電を繰り返すことで水素吸蔵合金が割れ、比表面積が増加することによる電池寿命の低下を抑制することができるという、いずれの甲号証にも記載されていない優れた効果を奏するものである。

ウ 小括
以上から、本件発明1は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明と甲2〜5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明2、4〜6について
本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2、4〜6も、本件発明1と同様の理由で、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明と甲2〜5に記載された事項に基いて、さらに甲6の記載を参照したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)申立理由3(甲3を主引例とする新規性進歩性)について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
(ア)甲3発明の「CaCu5型の結晶構造を有するABx型の低Co水素吸蔵合金」は、本件発明1の「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造」「を有する水素吸蔵合金」に相当する。

(イ)甲3発明の「組成がMm1Ni4.25Mn0.60Al0.35Co0.10であり、 Mmはミッシュメタルであり、La26wt%、Ce10〜15wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであ」ることと、本件発明1の「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成」し「前記MmはLa及びCeからな」ることは、「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成」し「前記MmはLa及びCe」を含む点で共通する。

(ウ)甲3発明の「組成がMm1Ni4.25Mn0.60Al0.35Co0.10であり」において「Mm1」に対して「Co0.10」であることは、本件発明1の「Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であ」ることに相当する。

(エ)甲3発明の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.58であり」は、本件発明1の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10」に相当する。

(オ)甲3発明の「a軸長に対するc軸長の比は0.8152であ」ることは、本件発明1の「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であること」に相当する。

(カ)以上によれば、本件発明1と甲3発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点3)
「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、
前記MmはLa及びCeを含み、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり、
当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である水素吸蔵合金。」

(相違点3)
「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造」は、本件発明1では「水素吸蔵合金」の「母相」であるのに対して、甲3発明では「低Co水素吸蔵合金」の「母相」となっているか不明である点。

(相違点4)
ABx組成におけるAサイトを構成するミッシュメタルが、本件発明1では「La及びCeからな」るのに対して、甲3発明では、La及びCe以外に、その他希土類を適量含有している点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑みて相違点4について検討する。
(ア)甲1には、放電容量、高速放電性およびサイクル安定性を向上させたAB5型の水素吸蔵合金において、Aサイトのミッシュメタルとして、「La0.7Ce0.3」とし、BサイトにCoを含まないものとすることが記載されている(1イ、1ウ)。
また、甲2には、次に引用するとおり、Coの含有率を低減しながらも出力特性及び寿命特性を高水準に維持することを目的とする、Mm−Ni−Mn−Al−Co合金からなる水素吸蔵合金において、AサイトのミッシュメタルとしてLa及びCeからなるものが利用可能であることが記載されている。
「Mm−Ni−Mn−Al−Co合金の構成元素において、Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性の向上に効果を発揮する重要な元素であったため、従来は10質量%程度のCo(モル比で0.6〜1.0)を配合するのが一般的であった。しかし、Coは非常に高価な金属であり、今後の水素吸蔵合金の利用拡大を考慮するとCoを低減することが好ましい。その反面、Coを低減すると寿命特性の低下につながるため、出力特性と寿命特性を両立しつつCoを低減することが研究課題となっていた。」([0005])
「上記Mmの一例を挙げると、Laのみからなるもの、又は、La及びCeからなるもの、又は、La及びCeのほかにPr、Nd、Sm等の希土類を含むものなどを挙げることができる。」([0023])

(イ)そして、甲3の[0001]に「本発明は、CaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金に関し、詳しくは合金中のコバルトの含有割合が極めて少なく、それでいて電気自動車及びハイブリッド自動車用途等で特に要求される出力特性、活性、寿命特性を備えた低Co水素吸蔵合金に関する。」と記載されているように、甲3発明も甲1、甲2と同様に水素吸蔵合金において寿命特性を向上するとの課題を解決しようとするものであるから、甲3発明において、ABx組成におけるAサイトを構成するミッシュメタルを「La及びCe」からなるものとすること、すなわち、相違点4に係る本件発明1の特定事項とする動機付けがあるということができる。

(ウ)しかしながら、上記(8)イ(イ)で検討したように、水素吸蔵合金の組成を変更すると結晶格子のa軸長とc軸長が変化するから、甲3発明において、仮に、Aサイトを構成するミッシュメタルを上記(イ)のように「La及びCe」からなるものに変更すると、甲3発明の「a軸長に対するc軸長の比」の値である0.8152が維持されるか不明であり、その結果、当該変更後に「a軸長に対するc軸長の比」がどのような値となるか不明であるから、この点が新たな相違点となってしまう。
また、甲5の【0038】に記載されているように、熱処理温度を高くすれば結晶格子のc軸長を成長させることができるから、熱処理条件を調整することにより、a軸長に対するc軸長の比を変更すること自体は実施可能であると推定されるが、上記(8)イ(エ)で検討したように、「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上」とすることは、いずれの甲号証にも記載も示唆もされていないから、Aサイトを構成するミッシュメタルを上記(イ)のように「La及びCe」からなるものに変更すると同時に、熱処理条件を調整することによって「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上」を維持することが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(エ)つまり、甲3発明において、上記一致点3を維持したままで、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

ウ 小括
以上から、本件発明1は甲3に記載された発明ではないし、また、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は甲3に記載された発明と甲1〜2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明2〜6について
本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2〜6も、本件発明1と同様の理由で、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明と甲1〜2に記載された事項に基いて、さらに甲6の記載を参照したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(10)申立理由4(甲4を主引例とする新規性進歩性)について
ア 本件発明1と甲4発明との対比と判断
甲4発明は甲3発明と同様の構成の発明であるから、本件発明1との対比も上記(9)アと同様に行うことができ、その結果、本件発明1と甲4発明は、上記一致点3と同様の一致点で一致し、上記相違点3、相違点4と同様の相違点で相違する。
そして、上記(9)イで検討した理由と同様の理由によって、甲4発明において、一致点3と同様の一致点を維持したままで、相違点4と同様の相違点に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、本件発明1は甲4に記載された発明ではないし、また、相違点3と同様の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲4に記載された発明と甲1〜2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2〜6も、本件発明1と同様の理由で、甲4に記載された発明ではなく、甲4に記載された発明と甲1〜2に記載された事項に基いて、さらに甲6の記載を参照したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(11)申立理由5(甲5を主引例とする新規性進歩性)について
ア 本件発明1と甲5−14,15,16発明との対比
(ア)甲5−14発明の「CaCu5型の結晶構造を有するABx組成の低Co水素吸蔵合金」は、本件発明1の「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造」「を有する水素吸蔵合金」に相当する。

(イ)甲5−14発明の「組成がMm1Ni4.40Mn0.45Al0.35Co0.10であり、Mmはミッシュメタルであり、La22wt%とCe5〜10wt%を含有し、さらにその他希土類を適量含有するものであ」ることと、本件発明1の「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成」し「前記MmはLa及びCeからな」ることは、「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成」し「前記MmはLa及びCe」を含む点で共通する。

(ウ)甲5−14発明の「組成がMm1Ni4.40Mn0.45Al0.35Co0.10であり」において「Mm1」に対して「Co0.10」であることは、本件発明1の「Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であ」ることに相当する。

(エ)甲5−14発明の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.77であり」は、本件発明1の「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10」に相当する。

(オ)甲5−14発明の「a軸長に対するc軸長の比は0.811452であ」ることは、本件発明1の「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であること」に相当する。

(カ)以上によれば、本件発明1と甲5−14発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点5)
「 CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、
前記MmはLa及びCeを含み、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり、
当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である水素吸蔵合金。」

(相違点5)
「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造」は、本件発明1では「水素吸蔵合金」の「母相」であるのに対して、甲5−14発明では「低Co水素吸蔵合金」の「母相」となっているか不明である点。

(相違点6)
「ABx組成におけるAサイト」を構成する「ミッシュメタル」が、本件発明1では「La及びCeからな」るのに対して、甲5−14発明では、La及びCe以外に、その他希土類を適量含有している点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑みて相違点6について検討する。
(ア)甲1には、放電容量、高速放電性およびサイクル安定性を向上させたAB5型の水素吸蔵合金において、Aサイトのミッシュメタルとして、「La0.7Ce0.3」とし、BサイトにCoを含まないものとすることが記載されている(1イ、1ウ)。
また、甲2には、Coの含有率を低減しながらも出力特性及び寿命特性を高水準に維持することを目的とする、Mm−Ni−Mn−Al−Co合金からなる水素吸蔵合金において、AサイトのミッシュメタルとしてLa及びCeからなるものが利用可能であることが記載されている([0005]、[0023])

(イ)そして、甲5の【0005】に「Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性等の向上に寄与する重要な元素である。そのため、従来の一般的なMm-Ni-Mn-Al-Co系合金では10重量%程度のCo(原子比で0.6〜1.0)を含有するものが多かった。しかし、Coは非常に高価な金属であるため、Coの含有率が高いとそれだけ原料コストが高くなる。今後の工業的利用拡大を図るためにはCoを低減する必要があるが、前述のようにCoは寿命特性等に寄与する重要な元素であるため、如何にしてCo量を低減しつつ寿命特性等の電池特性を維持するかが重要な開発課題となっている。」と記載されているように、甲5−14発明も甲1、甲2と同様に水素吸蔵合金において寿命特性を向上するとの課題を解決しようとするものであるから、甲5−14発明において、ABx組成におけるAサイトを構成するミッシュメタルを「La及びCe」からなるものとすること、すなわち、相違点6に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるということができる。

(ウ)しかしながら、上記(8)イ(イ)で検討したように、水素吸蔵合金の組成を変更すると結晶格子のa軸長とc軸長が変化するから、甲5−14発明において、仮に、Aサイトを構成するミッシュメタルを上記(イ)のように「La及びCe」からなるものに変更すると、甲5−14発明の「a軸長に対するc軸長の比」の値である0.811452が維持されるか不明であり、その結果、当該変更後に「a軸長に対するc軸長の比」がどのような値となるか不明であるから、この点が新たな相違点となってしまう。
また、甲5の【0038】に記載されているように、熱処理温度を高くすれば結晶格子のc軸長を成長させることができるとされているから、熱処理条件を調整することにより、a軸長に対するc軸長の比を変更すること自体は実施可能であると推定されるが、上記(8)イ(エ)で検討したように、「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上」とすることは、いずれの甲号証にも記載も示唆もされていないから、Aサイトを構成するミッシュメタルを上記(イ)のように「La及びCe」からなるものに変更すると同時に、熱処理条件を調整することによって「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上」を維持することが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(エ)つまり、甲5−14発明において、上記一致点5を維持したままで、相違点6に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(オ)また、本件発明1と甲5−15発明又は甲5−16発明を対比すると、上記アの検討と同様に、上記一致点5で一致し、上記相違点5及び相違点6で相違しており、また、上記(ア)〜(エ)の検討と同様に、甲5−15発明又は甲5−16発明において、上記一致点5を維持したままで、相違点6に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

ウ 小括
以上から、本件発明1は甲5に記載された発明ではないし、また、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は甲5に記載された発明と甲1〜2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明2〜6について
本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2〜6も、本件発明1と同様の理由で、甲5に記載された発明ではなく、甲5に記載された発明と甲1〜2に記載された事項に基いて、さらに甲6の記載を参照したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(12)申立理由6(実施可能要件)について
実施可能要件についての申立理由6はおおよそ次のとおりである。すなわち、本件発明において、AサイトをLa及びCeのみにし、ABxモル比が5.0超の組成にしたCaCu5型結晶構造の結晶構造を形成させるのは極めて難しい。これは、上記の結晶構造を形成しようとすれば、Aサイトに空孔を形成する必要があるが、実際には、AサイトにNiが存在することになるからであり、「AサイトをLaとCeのみ」とすることが現実的に不可能である、というものである。
そこで、上記主張について検討する。

イ 本件発明1の特定事項のうち、「CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって」(以下「構成イ」という。)は、本件発明1の水素吸蔵合金の結晶構造について特定するものであり、「ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する」(以下「構成ロ」という。)は、本件発明1の組成について特定するものである。

ウ そこで、上記構成ロについて検討すると、構成ロにおける「Aサイト」なる文言は、「ABx組成におけるAサイト」と記載されているものであって、「AB5型の結晶構造におけるAサイト」と記載されているものではない。
つまり、構成ロにおける「Aサイト」とは、本件発明の水素吸蔵合金の組成を「ABx組成」と表記した場合に、ミッシュメタルに該当する元素が記載される組成式内の位置を意味すると解するのが相当であり、AB5型の結晶構造におけるAサイトを表すものではない。

エ そうすると、「ABx組成におけるAサイト」をLa及びCeのみにし、ABxモル比が5.0超であるいうことは、単に水素吸蔵合金の組成において、ミッシュメタルとして含まれる元素がLaとCeであり、ミッシュメタルに該当する元素のモル数とそれ以外の元素のモル数の比が5.0超ということを特定しているだけであり、AB5型の結晶構造におけるAサイトとBサイトに何の元素が入るかを特定しているものではないといえる。

オ したがって、構成ロは、AB5型の結晶構造におけるAサイト、Bサイトに入る元素を特定しているわけではないので、上記アの主張は前提において誤っているものであるから、採用することができない。

(13)申立理由7(サポート要件)について
ア 本件明細書等には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Mm−Ni−Mn−Al−Co合金の構成元素において、CoとともにMmも水素吸蔵合金の価格を低下させるのを妨げる要因の一つであった。
従来一般的に使われてきたMmは、La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希上類系の混合物であった。これをLaとCeからなるMmに置き換えることで、価格を低下させることができる。しかしその場合、寿命特性が低下することが問題であった。特に、Co量を低下させつつ、LaとCeからなるMmを用いた場合には、寿命特性を維持することは容易なことではなかった。
【0011】
そこで本発明の課題は、Mm−Ni−Mn−Al−Co合金系のAB5型水素吸蔵合金に関し、Co量を低下させつつ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金においても、ニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合に電池の寿命特性の低下を防ぐことができる、新たな水素吸蔵合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり、当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であることを特徴とする水素吸蔵合金を提案する。」
「【0019】
本水素吸蔵合金において、Aサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合の、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)は0.35〜1.10であるのが好ましい。
本水素吸蔵合金をニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合、電池の寿命特性の低下を防ぐためには、本水素吸蔵合金が電解液(アルカリ水溶液)に接触した際の腐食を抑制することが一つの解決手段となる。そのためには、Co量が十分に低く、且つ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金に関しては、Mn量に対するAl量の比率(Al/Mn)を所定の範囲に調整することが好ましいことが分かった。
かかる観点から、本水素吸蔵合金において、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)は0.35以上であるのが好ましく、中でも0.45以上、その中でも0.50以上、さらにその中でも0.54以上であるのがさらに好ましい。他方、1.10以下であるのが好ましく、中でも1.05以下、その中でも0.97以下、さらにその中でも0.88以下であるのがさらに好ましい。」
「【0027】
(結晶構造)
本水素吸蔵合金をニッケル水素電池の負極活物質として使用する場合、電池の寿命特性の低下を防ぐためには、水素の吸蔵を繰り返し行っても、水素吸蔵合金粒子が割れるのを抑制することが一つの解決手段となる。そのためには、水素の吸蔵に伴う膨張・収縮に耐えられるように、結晶構造を最適化するのが好ましい。
かかる観点から、本水素吸蔵合金では、当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であるのが好ましく、中でも0.8098以上、その中でも0.8100以上であるのがさらに好ましい。他方、合金が割れることが影響する出力特性の観点からは、0.8200以下であるのが好ましく、中でも0.8115以下、その中でも0.8110以下であるのが好ましい。」
「【0085】
【表2】



イ 本件明細書等の段落【0010】〜【0011】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「Mm−Ni−Mn−Al−Co合金系のAB5型水素吸蔵合金に関し、Co量を低下させつつ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金においても、ニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合に電池の寿命特性の低下を防ぐことができる、新たな水素吸蔵合金を提供すること」であると認められる。

ウ 上記課題の解決手段は、段落【0012】の記載によれば、CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比1.00に対してCoのモル比が0.0以上0.11以下である場合に、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35〜1.10であり、当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であることである。

エ 段落【0019】の記載によれば、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)を0.35〜1.10とすることにより、本件発明の水素吸蔵合金は、電解液(アルカリ水溶液)に接触した際の腐食を抑制することができるので、電池の寿命特性の低下を防ぐことができる。
また、段落【0027】の記載によれば、CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率を0.8092以上とすることにより、本件発明の水素吸蔵合金は、水素の吸蔵を繰り返し行うことに伴う膨張・収縮に耐えて、水素吸蔵合金粒子が割れるのを抑制することできるので、電池の寿命特性の低下を防ぐことができる。

オ そして、段落【0085】の【表2】によれば、本件発明1で特定された全ての要件を満たす実施例1〜12は、いずれかの要件を満たさない比較例1〜5に比べて、「ΔCS×アルカリ処理3hr後磁化」の値が小さくなっていることが看取できるところ、「ΔCS」(比表面積増加量)が小さいほど割れにくいことを表し、「アルカリ処理3hr後磁化」が小さいほど水素吸蔵合金表面がNiリッチになっておらず腐食に耐えていることを表しているので、「ΔCS×アルカリ処理3hr後磁化」の値が小さくなっているものは、上記課題を解決していることが確認できる。

カ したがって、本件発明1は、上記ウの課題の解決手段を備えるものであるから、上記課題、すなわち、「Mm−Ni−Mn−Al−Co合金系のAB5型水素吸蔵合金に関し、Co量を低下させつつ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金においても、ニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合に電池の寿命特性の低下を防ぐことができる、新たな水素吸蔵合金を提供すること」を解決し得るものであるといえる。

キ ここで、上記第3の申立理由の概要の7のサポート要件において具体的な理由として示された(1)〜(8)の主張について検討する。
(ア)(1)の主張について。
本件発明1では、水素吸蔵合金の構成原子である、La,Ce,Ni,Mn,Alのモル比が規定されていないが、「AB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する」ことが特定されており、ABx組成の各元素はAB5型の結晶構造を構成する水素吸蔵合金でなくてはならないから、Aサイト元素とBサイト元素のモル比には技術常識から把握される一定の範囲(概略1:5程度)があるものと認められる。
また、そのような一定の範囲のモル比の組成を有する水素吸蔵合金であれば、当該モル比の違いにより寿命特性が優れたものや劣ったものがあり得ることは認められるものの、技術常識から把握される許容されるモル比のものであればいずれのものであっても、上記エで検討した機序により、「モル比の比率(Al/Mn)を0.35〜1.10」かつ「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率を0.8092以上」との条件を満たすものは、当該条件を満たさないものに比べて、電池寿命の低下を抑制できるものと考えられる。
したがって、サポート要件の理由(1)を採用することができない。

(イ)(2)の主張について
発明の詳細な説明では、「Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比」が0.10超から0.11以下の範囲の実施例は記載されていないが、当該範囲のものであっても、上記エで検討した機序により、「モル比の比率(Al/Mn)を0.35〜1.10」かつ「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率を0.8092以上」との条件を満たすものは、当該条件を満たさないものに比べて、電池寿命の低下を抑制できるものと考えられる。
また、上記範囲のものが課題を解決できないとする理論的根拠や具体的な実験結果が示されているわけでもない。
したがって、サポート要件の理由(2)を採用することができない。

(ウ)(3)の主張について
発明の詳細な説明では、「Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)」が0.35超0.37未満の範囲と、1.00超1.10以下の範囲の実施例は記載されていないが、当該範囲のものであっても、上記エで検討した機序により、「モル比の比率(Al/Mn)を0.35〜1.10」かつ「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率を0.8092以上」との条件を満たすものは、当該条件を満たさないものに比べて、電池寿命の低下を抑制できるものと考えられる。
また、上記範囲のものが課題を解決できないとする理論的根拠や具体的な実験結果が示されているわけでもない。
したがって、サポート要件の理由(3)を採用することができない。

(エ)(4)の主張について
発明の詳細な説明では、「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率」が0.80920超0.80928未満の範囲と、0.81104超の範囲の実施例は記載されていないが、当該範囲のものであっても、上記エで検討した機序により、「モル比の比率(Al/Mn)を0.35〜1.10」かつ「CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率を0.8092以上」との条件を満たすものは、当該条件を満たさないものに比べて、電池寿命の低下を抑制できるものと考えられる。
また、上記範囲のものが課題を解決できないとする理論的根拠や具体的な実験結果が示されているわけでもない。
したがって、サポート要件の理由(4)を採用することができない。

(オ)(5)の主張について
上記(12)エで検討したように、「ABx組成におけるAサイト」をLa及びCeのみにし、ABxモル比が5.0超であるいうことは、単に水素吸蔵合金の組成において、ミッシュメタルとして含まれる元素がLaとCeであり、ミッシュメタルに該当する元素のモル数とそれ以外の元素のモル数の比が5.0超ということを特定しているだけであり、AB5型の結晶構造におけるAサイトに入る元素を特定しているものではない。
そして、「ABx組成におけるAサイト」をLa及びCeのみとしたものは、実施例1〜12として発明の詳細な説明に記載されている。
したがって、サポート要件の理由(5)を採用することができない。

(カ)(6)、(7)の主張について
本件発明1が課題を解決し得ることは、上記ウ〜カに記載したとおりである。そして、本件発明2、3は直接又は間接に本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様の理由で本件発明2、3も、上記課題を解決し得るものであるといえる。
したがって、サポート要件の理由(6)、(7)を採用することができない。

(キ)(8)の主張について
上記(ア)〜(カ)で検討したように、本件発明1〜3は上記課題を解決し得るものであるから、これら本件発明1〜3を直接又は間接に引用することによって、本件発明1の特定事項を全て備える本件発明4〜6についても、本件発明1〜3と同様の理由で上記課題を解決し得るものであるといえる。
したがって、サポート要件の理由(8)を採用することができない。

ク 以上のとおり、サポート要件違反の具体的な理由として示された上記(1)〜(8)の主張はいずれも採用できない。

(14)申立理由8(明確性)について
ア 申立理由8の(1)について
「CaCu 5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率」は本件明細書等の段落【0028】に測定方法が記載されており、当該測定結果によって、上記比率が0.8092以上であるか否かを一義的に判断することができることは明らかである。
したがって、上記比率の規定が不明確であるとはいえない。
なお、技術常識によれば、「CaCu 5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率」が無限大になるようなことは起こりえないから、そのような非合理的な事項を想定して検討する必要はない。

イ 申立理由8の(2)について
本件明細書の段落【0029】〜【0030】の記載によれば、電池の寿命特性の低下を防ぐために、電解液(強アルカリ溶液)への腐食を抑制するのが好ましいとの認識のもと、電解液による腐食反応の代替反応としての「液温120℃の31質量%KOH溶液に3時間浸漬させる表面処理」によって、水素吸蔵合金の表面にNiリッチ層が形成されて磁化が高くなれば、電解液によって腐食が進み易いことを示すことになるため、本件発明2においては、「50%体積累積粒径(D50)が21μm±2μmとなるように粒径調整した水素吸蔵合金粉末を、液温120℃の31質量%KOH水溶液に3時間浸漬させる表面処理を行った後の磁化」について、「1.60emu/g以下」と特定しているものと解される。
ところで、本件明細書の段落【0079】〜【0080】には、振動試料型磁力計によって磁化を測定する方法が記載されており、当該方法では、試料をコイルの間で振動させることで誘導電流が発生してヒステリシスループを測定することができ、当該ヒステリシスループから磁化を特定することができることは技術常識である。そして、ヒステリシスループの測定では、振動方向によって磁化がプラスとマイナスの両方で計測されるが、本件発明2の上記の技術的意義を踏まえると、本件発明2における上記「磁化」の特定は、上記「表面処理」によって水素吸蔵合金の表面に形成されたNiリッチ層の量の多寡に対応するものであることから、上記「磁化」の大きさ自体が問題であり、プラスかマイナスか(すなわち、磁化の方向)が問題となるものではないと解される。したがって、仮に、磁化の値がマイナスの値として測定される場合があったとしても、本件発明2においては、同じ大きさのプラスの値の磁化と読み替えるだけである(マイナスの値の磁化を考える必要がない。)から、磁化の値がマイナスの値として測定される場合があったとしても、本件発明2が成立するのは明らかであり、何ら不明確といえる点はない。

ウ 以上のとおり、明確性の具体的な理由として示された上記(1)〜(2)の主張はいずれも採用できない。

第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-02 
出願番号 P2021-555344
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 池渕 立
土屋 知久
登録日 2022-01-24 
登録番号 7014937
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 水素吸蔵合金  
代理人 弁理士法人翔和国際特許事務所  

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