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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1392103
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-30 
確定日 2022-11-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第7031805号発明「金属端子用接着性フィルム、金属端子用接着性フィルム付き金属端子、当該金属端子用接着性フィルムを用いた蓄電デバイス、及び蓄電デバイスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7031805号の請求項1ないし4、7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7031805号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、2021年7月16日(優先権主張 令和2年7月16日、令和3年5月12日)を国際出願日とする出願であって、令和4年2月28日に特許権の設定登録がされ、令和4年3月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和4年8月30日に特許異議申立人 弁理士法人朝日奈特許事務所 により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし18の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明18」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
蓄電デバイス素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記蓄電デバイス素子を封止する蓄電デバイス用外装材との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層の樹脂層を含んでおり、
前記樹脂層は、融点が150℃以上270℃以下であり、
前記樹脂層は、エラストマーを含み、
前記樹脂層は、ポリブチレンテレフタレートを含む、金属端子用接着性フィルム。
【請求項2】
前記エラストマーが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリエーテル系から選ばれる少なくとも1種以上の熱可塑性エラストマー、または、これらの共重合体である熱可塑性エラストマーを含む、請求項1に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項3】
前記エラストマーが、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルのブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマーである、請求項1または2に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項4】
前記ポリエーテル成分が、テレフタル酸とポリテトラメチレンエーテルグリコールの共重合体である、請求項3に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項5】
前記エラストマーが、ポリメチルペンテンのα−オレフィン共重合体からなる熱可塑性エラストマーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項6】
前記蓄電デバイス用外装材側の表面が、前記樹脂層により形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項7】
前記蓄電デバイス用外装材側の表面を形成する樹脂と、前記金属端子側の表面を形成する樹脂とが、共通する樹脂である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項8】
酸変性ホモポリプロピレン層または酸変性ブロックポリプロピレン層をさらに含む、請求項1に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項9】
少なくとも、第1の樹脂層、中間層、及び第2の樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記第1の樹脂層、前記中間層、及び前記第2の樹脂層のうち、少なくとも1層が、前記樹脂層により構成されており、
前記中間層の融点が250℃以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項10】
少なくとも、第1の樹脂層、中間層、及び第2の樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記第1の樹脂層、前記中間層、及び前記第2の樹脂層のうち、少なくとも1層が、前記樹脂層により構成されており、
前記中間層は、イミン変性ポリオレフィン系樹脂により形成されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項11】
少なくとも、第1の樹脂層及び第2の樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層のうち、少なくとも一方が、前記樹脂層により構成されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項12】
前記金属端子用接着性フィルムの総厚みが、50μm以上500μm以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項13】
前記蓄電デバイス用外装材が、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記熱融着性樹脂層の融点が150℃以上250℃以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項14】
前記蓄電デバイス用外装材が、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記熱融着性樹脂層がポリブチレンテレフタレートを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項15】
前記蓄電デバイス用外装材が、全固体電池用外装材である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項16】
金属端子に、請求項1〜15のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルムが取り付けられてなる、金属端子用接着性フィルム付き金属端子。
【請求項17】
少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた前記蓄電デバイス素子と、当該蓄電デバイス素子を封止する前記蓄電デバイス用外装材と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記蓄電デバイス用外装材の外側に突出した前記金属端子とを備える蓄電デバイスであって、
前記金属端子と前記蓄電デバイス用外装材との間に、請求項1〜15のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルムが介在されてなる、蓄電デバイス。
【請求項18】
少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた前記蓄電デバイス素子と、当該蓄電デバイス素子を封止する前記蓄電デバイス用外装材と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記蓄電デバイス用外装材の外側に突出した前記金属端子とを備える蓄電デバイスの製造方法であって、
前記金属端子と前記蓄電デバイス用外装材との間に、請求項1〜15のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルムを介在させて、前記蓄電デバイス素子を前記蓄電デバイス用外装材で封止する工程を備える、蓄電デバイスの製造方法。」

第3 申立理由の概要
請求項1ないし4、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4、7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特許第6420094号公報
甲第2号証:特開2013−139523号公報

第4 甲各号証の記載事項、引用発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間に、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を介在させて、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)を、複合一体化させた熱可塑性樹脂複合成形体であって、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)を含有し、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66〜98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂(B)1〜30質量%、シランカップリング剤(C)0.01〜5.0質量%と、酸化防止剤(D)0.01〜5.0質量%を含有し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)の少なくとも一部において全周を被い、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間で、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)を接合し、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)の材質が、金属であり、気密性を有する熱可塑性樹脂複合成形体。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合成形体。」

「【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として鋭意検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明は、異種材料間の接合強度が高く、気密性に優れた、熱可塑性樹脂複合成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の熱可塑性樹脂複合成形体は、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間に、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を介在させて、熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)を、複合一体化させた熱可塑性樹脂複合成形体であって、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)を含有し、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66〜98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂(B)1〜30質量%、シランカップリング剤(C)0.01〜5.0質量%と、酸化防止剤(D)0.01〜5.0質量%を含有する。」

「【0020】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)は、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66〜98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂(B)1〜30質量%、シランカップリング剤(C)0.01〜5.0質量%と、酸化防止剤(D)0.01〜5.0質量%を含有する。本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)において、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルアルコール樹脂(B)、シランカップリング剤(C)、酸化防止剤(D)の合計は、100質量%である。
【0021】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)と含有する。」

「【0027】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)のポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。」

「【0053】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体の適用可能な用途としては、例えば、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、リチウムイオン電池などの電池部品、駆動モーター部品、発電モーター部品、電動パワステ部品、ブレーキ部品、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品など各種用途が例示できる。」

「【0057】
図1は、実施例1で使用した熱可塑性樹脂複合成形体の模式図であり、図1(a)は試験に使用した形状が6×70×1mmで中央部にφ1.5mmの穴を開けたアルミニウム合金製金属端子であり、図1(b)は、金属端子の中央部に熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を被覆した成形体であり、図1(c)は熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を被覆した金属端子をさらに熱可塑性樹脂(X)でインサート成形して得た金属複合熱可塑性樹脂成形体を示す。」

「【0059】
[リーク性試験]
図4に示すように、金属複合熱可塑性樹脂成形体を、リーク性試験測定用治具に固定し、治具のソケット部に圧縮空気を流入させる管を接続した状態で水槽内に入れる。管から圧力0.4MPaの空気を治具内に流入させて、アルミニウム合金製金属端子と熱可塑性樹脂(X)の隙間から空気の漏れを確認した。」

「【0065】
[実施例1]
形状が6×70×1mmで中央部にφ1.5mmの穴を開けたアルミニウム合金製金属端子を用い、穴部がある中央部分に厚み0.1mm、幅6mmにフィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y−1)を巻き付け、150℃のオーブン内に1時間保持し、金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した成形体(b)を得た。尚、中央部の穴は射出成形時に被覆した熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y−1)が移動しないよう固定するために設けた。」

「【0068】
得られた金属複合熱可塑性樹脂成形体を−40℃×1時間と110℃×1時間の温度条件で50サイクルの冷熱処理を施した後、図4のリーク性測定用治具に固定し、次いで圧縮空位を流入する管をソケットに接続し、次いで水を入れた水槽内にリーク性測定用治具と金属複合熱可塑性樹脂成形体を固定した装置を入れ、治具内に0.4MPaの圧縮空気を5分間流入させた。金属複合熱可塑性樹脂成形体からは空気の漏れは確認されなかった。」

ここで、フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物に着目すると、甲第1号証には次の事項が記載されている。
・【0065】によれば、金属端子の中央部分にフィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物を巻き付け、150℃のオーブン内に1時間保持し、金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した成形体を得たことが読み取れる。
・【0057】によれば、金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した成形体をさらに熱可塑性樹脂でインサート成形して金属複合熱可塑性樹脂成形体を得たことが読み取れる。
・【0020】によれば、熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体66〜98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂1〜30質量%を含有することが読み取れる。
・【0021】によれば、ポリエステルブロック共重合体は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメントと含有することが読み取れる。

(2)引用発明
上記記載事項より、甲第1号証にはフィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物に関して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「金属端子の中央部分にフィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物を巻き付け、150℃のオーブン内に1時間保持し、金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した成形体を得、
成形体をさらに熱可塑性樹脂でインサート成形した金属複合熱可塑性樹脂成形体における、フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物であって、
フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体66〜98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂1〜30質量%を含有し、
ポリエステルブロック共重合体は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメントと含有する、
フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を主たる構成成分とするフィルムであり、任意の方向およびその直交する方向の190℃、20分における寸法変化率が4%以下であるポリブチレンテレフタレートフィルム。」

「【0001】
本発明はポリブチレンテレフタレートフィルムに関し、任意の方向およびその直交する方向の190℃、20分における寸法変化率が4%以下と高温における寸法安定性に優れるため、食品包装、蓋材、電池外装、医薬包装といった包装用途、化粧板、建材といった金属箔貼合せ用途、基板製造工程での離型フィルム用途などに好適に使用できるポリブチレンテレフタレートフィルムに関するものである。」

「【0010】
本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムは、任意の方向およびその直交する方向の190℃、20分における寸法変化率が4%以下と高温における寸法安定性に優れるため、食品包装、蓋材、電池外装、医薬包装といった包装用途、化粧板、建材といった金属箔貼合せ用途、基板製造工程での離型フィルム用途などに好適に使用することができる。」

「【0045】
本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムは、食品包装、蓋材、電池外装、医薬包装といった包装用途に好適に用いることができる。本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムをパウチ包装のような食品包装に用いると、高温における寸法安定性が非常に優れるため、ラミネート加工時の熱収縮に起因するシワ、弛みの抑制、レトルト処理時のフィルム剥がれなどを抑制できるため非常に好ましい。また、本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムを蓋材に用いた場合も高温における優れた寸法安定性のために、ラミネート加工時のシワ、弛みを抑制することができる。さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂特有の形状保持性にも優れていることから、形状保持性が重要な蓋材には好ましく適用できる。さらに、本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムは、リチウムイオン電池などの電池外装用途にも好ましく適用できる。リチウムイオン電池の外装としては、一般的に、最外層フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルムの構成が適用されているが、最外層フィルムへの適用が好ましい。リチウムイオン電池は、高容量化対応のニーズが高く、外装材としての深絞成型性が求められる。最外層フィルムの熱収縮率が高いと深絞成型後のシーラントフィルム同士のヒートシール工程において、カール、さらにはデラミが発生する場合があるため、本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムを適用することで、この課題を解決することができる。同様に、医薬包装用途においても、最外層フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルムの構成が用いられており、様々な形状の医薬品に対応できるような深絞成型性へのニーズが高まっている。このため、最外層フィルムに本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムを用いることで、シーラント同士のヒートシール工程でのカール、デラミを抑制することが可能となるため、好ましい。」

「【0059】
(実施例4)
PBT−3とポリエステル系エラストマーとを質量比97:3で混合して使用した。押出温度を270℃、シート膨張部での樹脂温度を120℃、ブロー比を2.6とした以外は実施例1と同様にして厚み25μmのフィルムを得た。該フィルムは、寸法変化率が高めであり、ラミネート加工適性、深絞り成型後のヒートシール適性が若干低下した。」

(2)甲第2号証に記載された技術
PBTはポリブチレンテレフタレートのことであるから、【0010】、【0045】及び【0059】によれば、甲第2号証には次の技術が記載されている。
「高温における寸法安定性が優れている、3質量%のエラストマーを含むポリブチレンテレフタレートフィルムを、リチウムイオン電池の外装の最外層フィルムへ適用する技術。」

第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「金属端子」は、本件特許発明1の「金属端子」に相当する。
但し、金属端子が、本件特許発明1は「蓄電デバイス素子の電極に電気的に接続され」ているのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
イ 引用発明は「金属端子の中央部分にフィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物を巻き付け、150℃のオーブン内に1時間保持し、金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆し」ているので、「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」は金属端子に接着している。
そうすると、引用発明の「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」は、本件特許発明1の「金属端子用接着性フィルム」に相当するといえる。
また、引用発明は「金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した成形体を得、成形体をさらに熱可塑性樹脂でインサート成形し」ているので、「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」は、「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間に介在している。
したがって、引用発明の「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間に介在している「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」と本件特許発明1とは、「金属端子と、部材との間に介在される、金属端子用接着性フィルム」である点で共通するといえる。
但し、金属端子用接着性フィルムが、本件特許発明1は「金属端子と、前記蓄電デバイス素子を封止する蓄電デバイス用外装材との間に介在される」のに対して、引用発明は「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間に介在している点で相違する。
ウ 引用発明の「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」は樹脂層であるから、当該「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」は、本件特許発明1の「少なくとも1層の樹脂層を含んで」いる「前記金属端子用接着性フィルム」に相当する。
エ 引用発明の「ポリエステルブロック共重合体」は、「結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメントと含有する」のであるから、エラストマーである。
そうすると、引用発明の「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、」「ポリエステルブロック共重合体」を含むことは、本件特許発明1の「前記樹脂層は、エラストマーを含」むことに相当する。
但し、本件特許発明1は「前記樹脂層は、融点が150℃以上270℃以下であ」るのに対して、引用発明は「ポリエステルブロック共重合体」は「融点が210℃未満」であるが、「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」にそのような特定はない点で相違する。
また、本件特許発明1は「前記樹脂層は、ポリブチレンテレフタレートを含む」のに対して、引用発明は「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、」「ポリビニルアルコール樹脂」を含む点で相違する。

上記アないしエによれば、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「金属端子と、部材との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層の樹脂層を含んでおり、
前記樹脂層は、エラストマーを含む、金属端子用接着性フィルム。」

(相違点1)
金属端子が、本件特許発明1は「蓄電デバイス素子の電極に電気的に接続され」ているのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点2)
金属端子用接着性フィルムが、本件特許発明1は「金属端子と、前記蓄電デバイス素子を封止する蓄電デバイス用外装材との間に介在される」のに対して、引用発明は「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間に介在している点。
(相違点3)
本件特許発明1は「前記樹脂層は、融点が150℃以上270℃以下であ」るのに対して、引用発明は「ポリエステルブロック共重合体」は「融点が210℃未満」であるが、「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」にそのような特定はない点。
(相違点4)
本件特許発明1は「前記樹脂層は、ポリブチレンテレフタレートを含む」のに対して、引用発明は「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、」「ポリビニルアルコール樹脂」を含む点。

(2)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点4について検討する。
甲第2号証には、高温における寸法安定性が優れている、3質量%のエラストマーを含むポリブチレンテレフタレートフィルムを、リチウムイオン電池の外装の最外層フィルムへ適用する技術が記載されている(上記「第4 2(2)」)。
しかしながら、引用発明の「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」は、「金属端子」を「熱可塑性樹脂」でインサート成型した「金属複合熱可塑性樹脂成形体」において、異種材料間(「金属端子」と「熱可塑性樹脂」の間)の接合強度を高め気密性を優れたものとするために(甲第1号証(【0007】))、「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間に介在させたものである(甲第1号証(【0008】)、上記「(1)イ」)。
そうすると、甲第2号証に記載されたリチウムイオン電池の外装として使用するポリブチレンテレフタレートフィルムによって、引用発明の「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間にある「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」を置きかえる動機はない。
更に、甲第2号証に記載されたエラストマーを含むポリブチレンテレフタレートフィルムによって、引用発明の「金属端子」と「熱可塑性樹脂」との間にある「フィルム化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物」を置き換えるとすると、甲第2号証のポリブチレンテレフタレートフィルムは高温における寸法安定性に優れるがエラストマーを主成分とする材料でないので、異種材料間(「金属端子」と「熱可塑性樹脂」の間)の接合強度を高めることは期待できず、このことからも置きかえる動機はないといえる。
したがって、上記相違点4に係る構成は、引用発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2 本件特許発明2ないし4、7について
本件特許発明2ないし4、7は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし4、7は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4、7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-11-10 
出願番号 P2021-573478
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 山本 章裕
須原 宏光
登録日 2022-02-28 
登録番号 7031805
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 金属端子用接着性フィルム、金属端子用接着性フィルム付き金属端子、当該金属端子用接着性フィルムを用いた蓄電デバイス、及び蓄電デバイスの製造方法  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  

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