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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1392110
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-11 
確定日 2022-12-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第7053278号発明「ペースト状調味料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7053278号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7053278号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成30年1月12日を出願日とする特許出願であって、令和4年4月4日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和4年10月11日に特許異議申立人 奥谷 宏邦(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし12)がされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
液状油脂、極度硬化油及び可塑性油脂を含む油脂原料と、粉体原料と、乳化剤とを含むペースト状調味料の製造方法であって、
1)液状油脂と、極度硬化油と、乳化剤とを含む原料を加熱混合する工程、
2)工程1で得られた混合物を冷却する工程、及び
3)工程2で得られた混合物に可塑性油脂及び粉体原料を添加し、それらを混合して、ペースト状調味料を得る工程、
を含み、
前記油脂原料の配合量が、前記ペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%であることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記極度硬化油の配合量が、前記ペースト状調味料の全質量に対して0.1〜1.7質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記粉体原料が、デキストリン及び/又は香辛料を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記可塑性油脂が、ショートニングを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ペースト状調味料の25℃における粘度が、13000〜35000mPa・sである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ペースト状調味料を容器に充填する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたペースト状調味料であって、
液状油脂、極度硬化油及び可塑性油脂を含む油脂原料と、粉体原料と、乳化剤とを含み、
前記油脂原料の配合量が、前記ペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%であり、前記ペースト状調味料が、温度変化に対して安定であり、かつ油分離が抑制されたものであることを特徴とする、ペースト状調味料。
【請求項8】
前記極度硬化油の配合量が、前記ペースト状調味料の全質量に対して0.1〜1.7質量%である、請求項7に記載のペースト状調味料。
【請求項9】
前記粉体原料が、デキストリン及び/又は香辛料を含む、請求項7又は8に記載のペースト状調味料。
【請求項10】
前記可塑性油脂が、ショートニングを含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載のペースト状調味料。
【請求項11】
前記ペースト状調味料の25℃における粘度が、13000〜35000mPa・sである、請求項7〜10のいずれか一項に記載のペースト状調味料。
【請求項12】
容器に充填されている、請求項7〜11のいずれか一項に記載のペースト状調味料。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和4年10月11日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。

1 申立理由(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記のAないしBの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

A.本件特許発明1の「1)液状油脂と、極度硬化油と、乳化剤とを含む原料を加熱混合する工程」について

A−1.本件特許発明1における「1)液状油脂と、極度硬化油と、乳化剤とを含む原料を加熱混合する工程」(以下、「工程1」という。)は、液状油脂と、極度硬化油と、乳化剤とを含んでいれば他のいかなる原料を含むことを妨げない。このため、工程1で可塑性油脂の総量の半分以上を添加する場合までもが本件特許発明の技術的範囲に含まれることになり、このような場合に発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決できるかどうか不明である。

A−2.本件特許発明1における工程1は、液状油脂と、極度硬化油と、乳化剤とを含んでいれば他のいかなる原料を含むことを妨げない。しかしながら、本件特許明細書の実施例1〜8からは、工程1で添加することが許容される原料の種類は「香辛料」のみであり、しかも、その量は「3.0質量部」程度にすぎないと解され、かかる香辛料3.0質量部以外の原料についても実際に工程1で添加した場合に本件特許発明における効果が奏されるか否かの確認が必要であるが、そのような実施例は示されていない。

B.本件特許発明3の「香辛料」について
本件特許発明1では粉体原料は「3)工程2で得られた混合物に可塑性油脂及び粉体原料を添加し、それらを混合して、ペースト状調味料を得る工程」(以下、「工程3」という。)で添加されるべきものであり、さらに、本件特許発明3では、その粉体原料が「香辛料」である場合を含んでいる。しかしながら、本件特許明細書の実施例1〜8では粉体原料である香辛料は全て工程1で添加されており、香辛料を工程3で添加した実施例は全く示されていない。

2 証拠方法
甲第1号証:特許第7053278号公報(本件特許公報)

証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由には理由がないと判断する。

1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載によりその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえ、以下検討する。

2 申立理由についての判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)の【0005】ないし【0007】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「温度変化に対して安定であり、かつ油分離が抑制されたペースト状調味料及びその製造方法を提供する」ことである。
そして、詳細な説明に「本発明に従えば、液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加することにより、製造されるペースト状調味料の温度変化に対する安定性を向上し、かつ油分離を抑制することができる。」(【0007】)、「本発明のペースト状調味料の製造方法において、前記液状油脂、前記極度硬化油、及び前記可塑性油脂を含む前記油脂原料の配合量は、前記ペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%である。前記油脂原料の配合量がこの範囲であると、製造されるペースト状調味料において望ましいペースト状の物性が付与されて維持され、さらに油分離が効果的に抑制される。」(【0013】)、「前記極度硬化油は、前記液状油脂及び前記可塑性油脂と比較して融点が高いため、高温で加熱しないと、他の原料と均一に混合することが難しい。一方、前記可塑性油脂は、高温で加熱すると変性して可塑性を失い軟化してしまう。本発明では、前記極度硬化油及び前記可塑性油脂の添加のタイミングを分離し、まず前記極度硬化油を含む原料を加熱混合して、それを十分に冷ましてから前記可塑性油脂を添加することで、前記極度硬化油を均一に混合し、かつ前記可塑性油脂の物性に影響を与えないだけでなく、驚くべきことに、製造したペースト状調味料の温度変化に対する安定性を向上することができることが明らかとなった。」(【0023】)と記載されている。
そして、詳細な説明の【0033】〜【0049】において、液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加した実施例1が、液状油脂、極度硬化油、及び可塑性油脂を含むすべての原料を最初に加熱混合した比較例1よりも、温度変化を経ても硬化せず良好に絞り出すことができ、温度変化に対する安定性が向上したことが示され、また、液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加する製造方法に関し、ペースト状調味料の全質量に対する油脂原料の配合量が30〜40質量%である実施例2ないし4が、該配合量が30質量%未満もしくはある40質量%超である比較例2ないし3よりも、温度変化に対する安定性を向上しかつ油分離を抑制できたこと、が示されている。
そうすると、当業者は、「液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加する工程を有し、かつ、油脂原料の配合量がペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%である」製造方法とすることで発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明は、前記条件を満足しているものである。
したがって、本件特許発明は、詳細な説明に記載された発明で、詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

3 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、上記2に関し、上記第3 1に記載のA−1、A−2、及びBの点でサポート要件を満たしていない旨を主張しており、以下、当該主張について検討する。

(1)A−1について
特許異議申立人は、本件特許発明には請求項1記載の工程1で可塑性油脂の総量の半分以上を添加する場合までもが含まれることになり、このような場合に詳細な説明に記載された発明の課題を解決できるかどうか不明であるから、本件特許発明はサポート要件を満たさない旨主張する。

しかしながら、当業者が発明の課題を解決できると認識できるものは「液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加する工程を有し、かつ、油脂原料の配合量がペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%である」製造方法であるから、該製造方法の「当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加する工程」において可塑性油脂が添加されていれば、該製造方法の「液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し」に相当する工程1で可塑性油脂を総量の半分以上を添加する場合であっても、ある程度は発明の課題を解決できるものといえる。
また、工程1で可塑性油脂を総量の半分以上を添加することが、「製造されるペースト状調味料の温度変化に対する安定性を向上し、かつ油分離を抑制する」ことの妨げとなって発明の課題を解決できないものとする、特段の証拠はない。

したがって、特許異議申立人の上記主張A−1を採用することはできない。

(2)A−2及びBについて
特許異議申立人は、詳細な説明に実施例1ないし8として発明の課題を解決できることが示されているのは、「液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加する工程を有し、かつ、油脂原料の配合量がペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%である」場合のうち、粉体原料として香辛料3.0質量部を工程1で添加する場合のみであり、香辛料3.0質量部以外の任意の原料を工程1で添加した実施例(申立理由1)や、香辛料を工程3で添加した実施例(申立理由2)が詳細な説明に記載されていないから、本件特許発明はサポート要件を満たさない旨主張する。

しかしながら、当業者が発明の課題を解決できると認識できるものは、「液状油脂及び極度硬化油を含む原料を加熱混合し、その後、当該原料の品温を下げて可塑性油脂を添加する工程を有し、かつ、油脂原料の配合量がペースト状調味料の全質量に対して30〜40質量%である」製造方法であるから、該事項を備えた製造方法であれば、工程1において香辛料3.0質量部以外の任意の原料を添加した場合や、工程3の粉体原料として香辛料を添加した場合であっても、ある程度は発明の課題を解決すると当業者は理解できる。
また、工程1において任意の原料を添加した場合や、工程3の粉体原料として香辛料を添加した場合に、これらのいずれかの原料を添加することが、「製造されるペースト状調味料の温度変化に対する安定性を向上し、かつ油分離を抑制する」ことの妨げとなって発明の課題を解決できないものとする、特段の証拠はない。

したがって、特許異議申立人の上記主張A−2及びBを採用することはできない。

(3)まとめ
よって、特許異議申立人の主張A−1、A−2、及びBはいずれも採用できない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-12-01 
出願番号 P2018-003404
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 平塚 政宏
三上 晶子
登録日 2022-04-04 
登録番号 7053278
権利者 ハウス食品株式会社
発明の名称 ペースト状調味料及びその製造方法  
代理人 須田 洋之  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 松田 七重  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 小松 邦光  
代理人 市川 さつき  

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