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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部無効 2項進歩性  C09J
管理番号 1392463
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-09-30 
確定日 2022-12-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第5234556号発明「感圧転写式粘着テープ及び転写具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5234556号(以下、「本件特許」という。)は、平成17年1月25日に特許出願(特願2005−17537号)されたものに係り、平成25年4月5日に特許権の設定登録がされたものである。
その後の手続の経緯は、次のとおり。
令和2年 9月30日 無効審判請求(請求人)
令和2年12月24日 審判事件答弁書(被請求人)
令和3年 3月24日付け 審理事項通知(請求人、被請求人)
令和3年 4月23日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
令和3年 5月11日 口頭審理陳述要領書及び弁駁書提出(請求人)
令和3年 5月21日 口頭審理
令和3年 6月 4日 上申書提出(請求人)
令和3年 7月 6日 上申書提出(被請求人)
令和3年 7月13日 上申書(2)提出(請求人)
令和3年 8月 2日 上申書(その2)提出(被請求人)

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜10に係る発明は、以下のとおりの発明である。(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明10」といい、まとめて「本件特許発明」ということもある。)
「【請求項1】
封筒の封緘などの紙類同士を止着するために用いられるパターン塗工に適したアクリル系粘着剤を有してなる粘着剤層と、前記粘着剤を支持してなるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ塩化ビニルからなる基材とを有し、前記基材に前記粘着剤層を剥離可能に設け、前記粘着剤層を介して紙類同士を止着させ得る巻回保持された転写具用の感圧転写式粘着テープであって、
前記粘着剤層の厚み寸法を10〜100μmに設定し、
前記粘着剤層が前記アクリル系粘着剤からなる粘着剤部と当該粘着剤部の間に介在する空隙部とを有するものであり、前記粘着剤部が占有する塗布面積率を18〜94%に設定することにより前記粘着剤層を前記基材の表面に前記粘着剤を間欠的に配置してなるものとし、
前記粘着剤部が複数の粘着剤ブロックを有するものであり、各粘着剤ブロックの占有面積を0.05〜75平方ミリに設定し、
前記粘着剤ブロックが転写される方向である前記基材の長手方向において最も近接する前記粘着剤ブロック同士を、前記基材の短寸方向に相対的に偏位した状態で相互に接触することなく噛み合うように配置し、
紙破現象を起こし得るように構成していることを特徴とする感圧転写式粘着テープ。
【請求項2】
前記アクリル系粘着剤が粘着付与剤を含むものである請求項1記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着剤層の厚み寸法を15〜80μmに設定している請求項1又は2記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項4】
前記粘着剤層の厚み寸法を30〜60μmに設定している請求項1、2又は3記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項5】
前記塗布面積率を53〜75%に設定している請求項1、2、3又は4記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項6】
当該空隙部を前記粘着剤層の略全面に亘って当該粘着剤層の側面に開放するように構成している請求項1、2、3、4又は5記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項7】
前記基材が前記粘着剤層に対して剥離可能に設けられたものであって、
前記粘着剤部の形状を、当該粘着剤部が基材に支持される底面の面積を頂面の面積よりも広く設定した形状としている請求項1、2、3、4、5又は6記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項8】
前記頂面が前記底面に対して平行となる概略平面形状としている請求項7記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項9】
前記アクリル系粘着剤が、ホットメルト型粘着剤である請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の感圧転写式粘着テープ。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の感圧転写式粘着テープを具備してなる転写具。」

第3 請求人の主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
請求人は、「特許第5234556号の請求項1ないし請求項10についての特許を無効とする審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める」との審決を求め、その理由として以下の無効理由を主張し(審判請求書8頁2〜12行)、下記の証拠方法を提出している。
1 無効理由
(1)無効理由1(進歩性欠如)
ア 本件特許発明1〜10は甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明と周知技術と技術常識(甲第3〜12号証)に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
イ このうち、本件特許発明1についての主張は次のとおりと解される。
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項及び周知技術(甲第3号証、甲第4号証)に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
(2)無効理由2(明確性欠如)
本件特許発明は、請求項1の記載事項中、「紙破現象を起こし得るように構成している」との記載が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。
2 証拠方法
(1)審判請求書に添付された証拠
甲第1号証:特開2001−192625号公報
甲第2号証:特開2005−15736号公報
甲第3号証:実願昭51−103224号(実開昭53−21157号公報)のマイクロフィルム
甲第4号証:特開平8−333556号公報
甲第5号証:久保亮五ら編集、岩波理化学辞典、第4版、1987年、表紙、693頁、奥付
甲第6号証:特開平10−195400号公報
甲第7号証:特開平11−323072号公報
甲第8号証:特開平1−301240号公報
甲第9号証:特開平6−110395号公報
(2)審判事件弁駁書に添付された証拠
甲第10号証:欧州特許出願公開第0860489号明細書
甲第11号証:甲第10号証の和訳
甲第12号証:宮入裕夫ら編集、接着応用技術、1991年4月3日、表紙、74〜75頁、奥付
甲第13号証:株式会社DJK作成、「テープのりを用いた紙破試験」の結果報告書、2021年4月19日
(3)令和3年6月4日提出の上申書に添付された証拠
甲第14号証:株式会社DJK作成、「テープのりを用いた紙破試験」の結果報告書、2021年4月20日
甲第15号証:コクヨ東海販売株式会社のウェブサイトのお知らせ 『売上No.1 テープのり「ドットライナー」 国内累計出荷1億個を突破!』と題する2017年12月18日付けのページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月3日
甲第16号証:公益財団法人発明協会のウェブサイトの「平成26年度近畿地方発明表彰受賞者一覧(敬称略)と題するページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月4日
甲第17号証:エコール流通グループのウェブサイトの『コクヨ「パターン塗工をした感圧転写式粘着テープ」が発明奨励賞』と題する2014年11月30日付けのページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月3日
甲第18号証:コクヨ株式会社のウェブサイトの『売上No.1テープのり「ドットライナー」シリーズがリニューアル」と題する2020年11月18日付けのページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月4日
甲第19号証:コクヨ株式会社のウェブサイトの「最後まで続く軽い走行感 ドットライナー」と題するページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月3日
甲第20号証:コクヨ株式会社のウェブサイトの「ノック式テープのり ドットライナーノック」と題するページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月3日
甲第21号証:コクヨ株式会社のウェブサイトの「キャンパス ドットライナースティック」と題するページのプリントアウト、請求人印刷日2021年6月3日
(4)令和3年7月13日提出の上申書(2)に添付された証拠
甲第22号証:宮入裕夫ら編集、接着応用技術、1991年4月3日、表紙、6〜7頁、奥付

第4 被請求人の答弁の趣旨及び提出した証拠
1 答弁の趣旨
被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」というものであり、下記の証拠方法を提出している。
2 証拠方法。
(1)審判事件答弁書に添付された証拠
乙第1号証:本件特許の審査段階の平成23年2月16日付け拒絶理由通知書
乙第2号証:本件特許の審査段階の平成24年12月5日付け拒絶理由通知書
乙第3号証:特願2011−97032(本件特許の分割出願)の審査段階の平成25年3月8日付け拒絶理由通知書
乙第4号証:特許第5339475号公報(本件特許の分割出願に係る特許)
(2)令和3年7月2日提出の上申書に添付された証拠
乙第5号証:被請求人のプレスリリース、『テープのりのパターン塗工技術で「地方発明表彰 発明奨励賞」を受賞」と題する発表日2014年11月14日のウェブページ、被請求人印刷日2021年6月23日
乙第6号証:大阪法務局所属平野町公証役場作成、紙破試験の確認に関する事実実験公正証書、令和3年7月2日
乙第7号証:佐藤千明、「剥がせる接着剤:解体性接着剤とその特徴」、日本接着学会誌Vol.39、No.8、9〜15頁(2003年)

第5 証拠の記載事項
審判請求人が提出した甲第1〜14号証(以下、証拠の番号に基づいて「甲1」などともいう。)には、以下の事項が記載されている。
1 甲1の記載事項
甲1には次の記載がある。
(1a)「【請求項1】 基材上に粘着剤層を有する感圧転写粘着テープであって、前記粘着剤層は粘着剤が不連続な島模様状に塗布されており、しかもその粘着剤の1つの島の大きさが1〜100mm2、かつ隣接する島相互の間隔が0.1〜4mmであることを特徴とする島模様状の感圧粘着剤層を基材上に積層した感圧転写式粘着テープ。」
(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、テープ基材上に粘着剤層を設けた感圧転写粘着テープに関するものである。」
(1c)「【0003】この転写具は感圧転写粘着テープを巻き付ける送出リールと、この送出リールより供給される感圧転写粘着テープの粘着剤層を基材から剥離しながら被転写体へ転写させる転着ヘッドと、転写使用後に残った基材を巻き取る巻回リールとを片手で把持使用が可能な器体内に装備したことを特徴とする。これらは、紙の接着において一般に用いられている液体のりや固形のりとは異なり、手を汚すことなく簡単に粘着剤を被着材へと転写でき、接着するまでの乾燥時間が不要である、被着材である紙がしわにならないなどの利点がある。さらにこれらは、必要長さの粘着剤を被着材に転写した後に転写具を被着材から垂直に持ち上げたり横に払うなどすることによって粘着剤層を切断できるので、支持体を有する一般的な両面テープのようにあらかじめテープを必要な長さに切断しておく必要がなく、また、粘着剤層を転写し終えた剥離性基材は転写具内のリールに巻き取られるので使用時にごみが発生しないなど、非常に便利な接着用品である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらにおいては粘着剤層を切断する際、粘着剤層の粘着剤がが連続状に塗布されているため切断時に粘着剤が糸を引くように伸びてしまい円滑に切断できない、いわゆる「のり切れ」が悪いという問題があった。この問題を回避するため、従来、粘着剤層を細かいドット状にしたり、間隔を大きく開けてブロック状に配するといった方法が考案されているが、これらの方法では連続状に塗工した場合に比べ接着力が低下するという欠点がある。そこで、本発明者は上記の点を改良すべく種々検討した結果本発明を完成したもであって、本発明の目的は十分な接着力を保持しつつ良好なのり切れ性を有する感圧転写粘着テープを提供するものである。」
(1d)「【0006】
【発明の実施の形態】本発明における感圧転写粘着テープの粘着剤層は剥離性基材上に粘着剤を島模様状に塗布した層である。粘着剤としては従来知られている粘着剤がいずれも使用できる。たとえばアクリル系、ゴム系、シリコン系、ロジン系などのものがあげられ、さらに必要に応じてフィラーや保存剤、着色剤などの各種添加剤を配合することができる。基材としては粘着剤に対して剥離効果さえあれば適宜のものを使用できる。例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、グラシン紙等の紙、金属箔等であり、剥離効果を付与するために必要に応じて片面もしくは両面にシリコン樹脂やフッ素樹脂などからなる剥離層が設けられる。基材の厚さは10〜60μmが適当である。また、不連続な島模様状に粘着剤を塗布する方法としては、シルクスクリーン、グラビア、インクジェット等何れの手段も用いることができる。
【0007】上記島模様状に塗布した粘着剤層の個々の島の大きさは1〜100mm2、好ましくは3〜36mm2で、隣接する島相互の間隔は0.1〜4mm、好ましくは0.3〜2.5mmである。個々の島の大きさを100mm2以上にすると粘着剤層を切断する位置の自由度がなくなり、1mm2以下だと粘着剤の被着材への接触が「面」ではなく「点」に近くなることから十分な接着力が得られない。また隣接する島相互の間隔を4mm以上にすると被着面に対する有効粘着剤面積が低下し十分な接着力を得られない。間隔が0.1mm以下では粘着剤がもつ流動性ゆえに隣り合った区画の粘着剤層どうしが接触してしまうため、粘着剤を基材上に意図した模様で塗布することが難しく良好なのり切れ性が得られない。」
(1e)「【0009】次に本発明の感圧転写粘着テープを使用する際に用いる転写具について説明する。図1(a)はかかる感圧転写具一例を示す正面断面図、同図(b)は該転写具の側面図である。この転写具は、上で説明した感圧転写粘着テープ5を巻き付け、保持する送出リール2と粘着剤層を転写使用した後に残った基材を巻き取り、収納する巻回リール3とを片手で把持可能な感圧転写具の本体となる器体1に装備し、粘着剤層を基材から剥離しながら被転写体に転写させる転着ヘッド4を被転着体に当接できるよう容器の先端からその一部を露出して備えるものである。」
(1f)「【0012】
【発明の効果】本発明の感圧転写粘着テープは、粘着剤層の粘着剤を不連続な島模様状に塗布し、しかもその粘着剤の1つの島の大きさが1〜100mm2、かつ隣接する島相互の間隔が0.1〜4mmと特定することによって、十分な接着力を維持しつつ粘着剤層の糸引きによる切断不良を回避することができる。」
(1g)4頁における平成12年1月17日付け手続補正書「【請求項1】基材上に粘着剤層を有する感圧転写粘着テープであって、前記粘着剤層は粘着剤が不連続な島模様状に塗布されており、しかもその粘着剤の1つの島の大きさが1〜100mm2、かつ隣接する島相互の間隔が0.1〜4mmであることを特徴とする島模様状の粘着剤層を基材上に積層した感圧転写式粘着テープ。
【0008】ここでいう島模様状とは粘着剤が点々とアトランダムに、或いは規則的な配列をなしてパターン状に存在することを意味し、個々の島の形状については任意の形状でよく、また個々の島は完全に独立分断されていることが好ましい。粘着剤層の厚みは通常1〜50μm、好ましくは2〜30μmである。これら粘着剤の種類や塗布厚さなどを変えることにより、永久接着タイプ、再剥離可能タイプなど用途に合わせて特性の異なった粘着剤層を得ることができる。」
2 甲2の記載事項
甲2には次の記載がある。
(2a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、支持体に接着剤が塗工されたシール及びその製造方法と、写真用ロールフイルムの封止シールとに関するものである。」
(2b)「【0013】図2は、封止シール5の展開図である。封止シール5は、例えば紙材等で形成された帯状の支持体7と、この支持体7の一方の面の両側に設けられた熱接着剤層8a,8bとからなる。熱接着剤層8bの外側には、遮光紙4の外周から封止シール5を剥がし取る際に用いられる耳部7cが設けられている。熱接着剤は、常温では接着力を有しないが、所定温度に加熱されると活性化して接着力を発揮するため、接着するまでの取り扱い性がよい。」
(2c)「【0016】上記封止シール5の熱接着剤層8a,8bは、図4に示すグラビア塗工装置15によって形成される。グラビア塗工装置15は、封止シール5の支持体7の原材料となる原紙16の上に熱接着剤を転写するグラビア塗工版17と、このグラビア塗工版17との間に原紙16を挟み込むバックアップローラ18と、熱接着剤溶液19が貯留される塗工液パン20と、グラビア塗工版17の外周面から余分な熱接着剤溶液19を掻き落とすドクターブレード21とからなる。」
(2d)「【0019】図5は、グラビア塗工版17のセル25及び土手26の部分的展開図であり、横軸がグラビア塗工版17の回転軸方向、縦軸がグラビア塗工版17の回転方向を示している。セル25は、一辺の寸法Swが、例えば1mmとされた正方形状をしている。グラビア塗工版17の断面図である図6に示すように、セル25の深さSdは、例えば200μmとなっている。各セル25の間の隙間を規定する土手26の幅寸法Bwは、セル25の幅寸法Swのおよそ1/5となる、例えば0.2mmとされている。セル25は、一般的なグラビア印刷のセルと同様に、グラビア塗工版17の回転方向に対して角度θ、例えば45°の角度で傾斜して配列されている。」
(2e)「【0026】図7(A)は、グラビア塗工装置15によってライン状の熱接着剤層29が形成された原紙16の平面図である。グラビア塗工装置15を通過した原紙16には、複数列のライン状の熱接着剤層29が形成されており、同図(C)に示すように、各列のライン状熱接着剤層29は、多数の熱接着剤のドット12から形成されている。この原紙16は、同図(B)に示すように、横方向と縦方向とにおいて、1点鎖線で示す一定幅の間隔の裁断位置で裁断される。これにより、ハッチングで示す範囲のように、両側に熱接着剤層8a,8b、一端に耳部7cが形成された1枚の封止シール5が完成する。」
(2f)「【0030】なお、上記実施形態では、写真用ロールフイルムの封止シールを例に説明したが、本発明は、その他のシールにも適用することができる。また、熱接着剤の塗工だけではなく、その他の接着剤の塗工にも利用することができる。更に、グラビア塗工を用いて行なったが、シルクスクリーン印刷等、他の印刷方法を用いても行なうことができる。更に、接着剤のドットの大きさや塗工厚み、セルや土手の大きさ等は、上述したサイズに限定されるものではない。」
(2g)「【0031】【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、接着剤をドット状に塗工したことにより、各ドットの接着力が均一になるため、シールの接着力を安定させることができる。また、接着剤をグラビア塗工する際の粘度や、土手の幅等を最適化させたため、接着剤のドットがつながらないように塗工することできる。更に、このシールを写真用ロールフイルムの封止シールに用いた場合には、安定した接着力によって写真フイルム及び遮光紙の巻き緩みを確実に防止することができる。」
(2h)「【図2】封止シールの平面図である。
・・・
【図7】熱接着剤層が塗工された原紙の平面図である。」
(2i)「【図2】


(2j)「【図7】



3 甲3の記載事項
甲3には次の記載がある。
(3a)「2 実用新案登録請求の範囲
1. 支持体シートの少なくとも一面に点状あるいは線状の粘着部を有する粘着テープ。」
(3b)「本考案は、粘着〜剥離の繰り返し使用ができるテープでついて検討を行つたもので」(第2頁第19、20行)
(3c)「この点状あるいは線状の表面粘着部の形状は、第1図a〜iに示すように、丸、・・・、四角、星型、・・・などで、」 (第4頁第18行〜第5頁第1行)
(3d)第1図d、f、g「




4 甲4の記載事項
甲4には次の記載がある。
(4a)「【請求項1】剥離機能を有する担体シート上に、不連続の独立単位区域の集合よりなる形状を有する粘着剤層が形成され、且つ、前記各独立単位区域の寸法が被転写面の寸法以下であることを特徴とする転写型粘着シート材。」
(4b)「【0014】粘着剤層上に、保護シートとしての剥離シートを被せてもよいが、必ずしも必要では無く、剥離機能を有する担体シートの裏面を粘着剤塗布面より剥離性が高くなるように剥離剤処理しておき、転写型粘着シート材を枚葉で重ね合わせたり、ロール状に巻き取るようにしてもよい。また、保護シート無しの枚葉の転写型粘着シート材自体を、粘着剤層を内側としたカートン・ボックスとして、使用に際して該カートン・ボックスを開くようにしてもよい。なお、本発明の転写型粘着シート材をテープ状に裁断してもよく、従って、本発明の転写型粘着シート材は、テープ状のものを包含する。」
(4c)「【0023】本発明の転写型粘着シート材は、下記のような広い分野において種々の用途に供することができる。既存の紙製品に用いて、貼り付け可能型の紙製品とすることができ、例えば、メモ用紙、写真、カレンダー、ポスター等の貼り付けや、封筒シール、各種伝票のファイリング等に用いることができる。」
(4d)「【図1】


(4e)「【図5】


5 甲5の記載事項
甲5には次の記載がある。
(5a)「接着剤・・・同種または異種の物体をはりあわせるために使用される物質、接着剤には粘着剤も含まれるが、後者が一時的接着に用いられるのに対して、前者は永久的な接着に使用するという意味で、区別されることがある。」
6 甲10の記載事項
甲10には次の記載がある。
(10a)「Fig.1


(10b)「Fig.2


7 甲11の記載事項
甲11には次の記載がある。
(11a)「発明の背景
開示された特許に基づいて製造された反発性テープおよびその他の感圧性接着シート構造体は、紙および印刷業界において、フライング・スプライスのスプライスおよびその他のスプライス、例えば手動スプライスに使用される。ここでは、接合部が直ちに最高の強度値に達しなければならない。」(第2頁下から第3行〜第3頁第2行)
(11b)「本発明によれば、水溶性感圧性接着剤組成物を用いて、可逆的に接着する反発性感圧性接着剤塗膜を提供することができる。」(第3頁第20〜21行)
(11c)「互いの距離が接着している紙面の繊維長の大きさのオーダーであり、この繊維長の大きさのオーダーで拡張が制限されている接着領域は、一般的に、十分に強化された繊維複合体では、紙面の剥離速度が強く加速されても、繊維が引き裂かれることなく剥離することができる。基板表面は、ダメージを受けず、感圧接着剤の十分な凝集力により、汚れないようになっている。接着面には繊維が残っておらず、新たな接着が可能であるため、可逆的な接着の基準を満たすことができる。適切なスクリーン設計により、感圧性接着剤シート構造上の感圧性接着剤領域の間隔、拡大、および制限内での体積を介して、所望の接着特性を広い範囲で調整することができ、異なる紙種の要件に適合させることができる。このようにして、例えばEP328.925Blに従って、上述したタイプの感圧接着剤リピートを用いたシート構造上に、移行を伴う弱接着領域から不可逆的な範囲まで、異なる強度の 接着力を既に発生させることができる。また、リピート制御を備えたシステムでは、異なるコーティング材の感圧部を1枚のシートに印刷することができる。」(第5頁第6〜17行)
(11d)「図3−5は、スプライシング工程に備えて紙ベールに接着された、本発明による粘着テープの各概略側面図である。
詳しくは、図1では粘着ドーム1が対称的に配置されているが、図2による粘着ドーム1は、図2の右側の領域ではクラスター状に、左側の領域ではよりシングル状に配置されており、左側の領域から右側の領域に向かって接着力が大きくなるようになっている。
図3−図5は、全面粘着マス3、キャリア4および粘着ドーム1を備えた本発明によるリパルパブル・スプライステープまたは粘着テープ2を示す。粘着ドーム1では、粘着テープ2が紙ベール6の下側の紙ウェブ5に接着し、全面粘着組成物3を有する粘着テープ2が上側の紙ウェブ7とともに下側の紙ウェプ5に規定の粘着力で固定するので、スプライシング作業の準備において、ウェブ端部や上側の紙ウェブ7がベールから剥離することなく、紙ベール6を機械のウェブ速度まで回転加速させることができる。その後のフライング・スプライスの際に、先に走行していた紙ウェブ(図示せず)は、次に粘着マス3の開放領域に対して案内され、これに接着されるので、この点時で紙が損傷を受けたり、ウェブの端部が強く固定されすぎて紙ウェブが破れたりすることなく、下にある紙ウェブ5に対する粘着ドーム1の可逆的な接着が解除される。
この点で有利なのは、粘着ドーム1の数を増やしたり減らしたり(あるいは大きさを変えたり)する配置である。このように、図3によれば、粘着ドーム1の配置は左右対称であり図4では、粘着ドーム1は右側に行くほど密度が高く、図5では左側に行くほど密度が高くなっている。紙の種類、機械の種類、回転速度などによって、どちらか一方の変形が好ましい場合がある。」(第8頁第2〜21行)
(11e)「請求項1 紙基材と、その上に少なくとも一層配置された感圧性接着剤組成物とを有し、高粘度かつ高弾性を有する水性ペーストの個々の接着剤カロートの形態であり、全面に塗布された状態では紙基材から可逆的に剥離することができない、可逆的に接着するための粘着テープ。」(第9頁第1〜5行)
8 甲12の記載事項
甲12には次の記載がある。
(12a)「二つの被着材を接着したのち,荷重を加えて破断させると,組み合わせた材料と接着剤とにより破断の生じる個所が,図2に示したように5個所となる.
A,Bの被着材を接着剤Cで接着したとすれば,それぞれの材料が破断する3個所と,被着材と接着剤との界面であるAC,BCの2個所で破断し,合計5個所となる.AC,BCでの破断は, 被着材A,Bの表面状態の関与することが大きい.
紙や木材,プラスチックなど,それ自体の引張強さの小さな材料では,接着が完全に行われると,多くの場合に被着材の破断する母材破断となる.一方,金属を被着材とした場合には,エポキシ樹脂接着剤のように凝集力の大きな接着剤では,どちらかの被着材の表面で破断の生じることが多い.一方,シリコーンゴム接着剤のような凝集力の小さな接着剤では,接着剤の層で破断が生じることになる.
界面破断となる接着剤/被着材の組合せで,得られる接着強さが目標とする設計値を満足しない場合には,被着材の表面になんらかの処理を行い,接着剤との親和性を向上させることが必要である.異なった2 種類の被着材を組み合わせて接着した場合に界面破断が生じると,接着剤は図3に示したように,より親和性の大きい被着材のほうにのみ接着していることになる.
したがって,得られた接着強さと破断時の被着材の表面を観察することによって,接着剤の選定をはじめとする接着作業が適切かどうかが判明する.不十分な場合には,接着剤を変更したり,被着材の表面処理を検討したりすることが必要となる.」(第74頁下から第6行〜第75頁左欄下から第6行)

第6 当審の判断
事案に鑑み、まず無効理由2について検討する。
1 無効理由2についての判断
(1)明確性要件
ア 判断の枠組み
一般に『法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。』とされているところ〔知財高裁平成21年(行ケ)第10434号、平成22年8月31日判決言渡。〕、このような観点に基づいて、本件特許の明確性要件の適否を以下に検討する。
イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には次の記載がある。
(ア)「【0008】
具体的に例を挙げて説明すると、個人情報に関する書類等、重要な書類を封筒に入れて送付する場合、個人情報の保護や機密保持といったセキュリティ上の観点から、送付先の人物に当該封筒が第三者によって開封されたか否かを明確に識別できるように封緘する必要がある。詳細には、粘着剤層を剥がそうとすれば封筒の表面が損傷する様に封筒を止着・封緘することが絶対条件となる。加えて、ノートや日記帳、或いは出版物などの製本においても粘着製品を用いて各頁を綴じているが、製本後頁の入れ替えや挿入などの操作が不可能なものとすることが内容の偽造や捏造を防止するという観点から重要である。このような場合においても製本後頁と頁とが分離されたという痕跡を頁すなわち紙類に残しておけば偽造や捏造を防止し得るものとなる。
【0009】
以下本明細書において、このような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断することを紙破現象と記載することとする。
【0010】
すなわち、粘着製品が被着体に止着された後に剥離動作によって剥がされたという痕跡を紙類に明確に残すための性能として、紙破という考え方を新たに挙げることができる。」
(イ)「【0090】
<試験方法>
上述した実施例及び比較例をまずステンレス板に転写した後、基材を剥離させ、この状態において比較例8、10、12に対して部分不活化処理を施した。
部分不活化処理後、各実施例及び比較例に対し市販の白封筒(商品名:オキナ株式会社製ホワイト封筒WP2270(角形2号A4判))を短冊状に裁断した紙片を貼り付け、さらに10mm/sの速度で1Kgローラを1往復させ、40分後に0.8mm/sの速さで180°の方向に紙片を引っ張ることにより剥離動作を行った。そして結果の評価は、「紙破」:粘着剤層の表面に紙片の表層部分を付着させて剥離(図12(a))、「界面剥離」:粘着剤層と紙片との界面において剥離(同図(b))、「凝集剥離」:粘着剤が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(c))、「ナキワカレ」粘着剤層が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(d))、の何れかに分類して行った。」
(ウ)「【図12】


ウ 紙破現象について
(ア)「紙破現象」とは、前記イ(イ)で摘記した本件特許明細書の段落【0009】の記載からみて、本件特許明細書において定義された用語であるから、本件発明1の記載が明確であるかどうかは、本件特許明細書を参照する必要がある。
(イ)前記イ(ウ)、(エ)で摘記した本件特許明細書の段落【0090】及び【図12】の記載により定義された試験方法により、「紙破現象」が生ずるか否かは判定できることが理解できる。
(2)紙破現象の実験について
ア 請求人の実験
請求人は、甲14を提示し、被請求人の本件特許発明1の実施品である「ドットライナースタンダード タ−DM400−08N」及び「ドットライナーノック タ−DM480−07NB」の2種類について、前記(1)イ(イ)で摘記した本件特許明細書の段落【0090】による試験を各5回行ったところ、いずれも前記(1)イ(ウ)に摘記した本件特許明細書に添付された図12(d)に説明されている「ナキワカレ」になったため、本件特許発明1の特定事項である「紙破現象を起こし得るように構成している」が不明確であると主張する(弁駁書22頁4行〜24頁5行、上申書)。
イ 被請求人の実験
被請求人は、乙6を提示し、前記アと同じ「ドットライナースタンダード タ−DM400−08N」及び「ドットライナーノック タ−DM480−07N」(当審注:甲20によると前記アの07NBは、青色の本体であり、07Nはつめ替え用テープ)の2種類について、いずれも前記(1)イ(イ)で摘記した本件特許明細書の段落【0090】による試験を各5回行ったところ、紙破現象が発生したと反論している(上申書7頁13行〜10頁10行、上申書(その2)6頁3行〜8頁最下行)。
(3)当審の判断
ア 本件特許発明1の「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項は、前記(1)イ(イ)で摘記した本件特許明細書の段落【0090】による試験を行った時に「紙破現象」が発生する可能性があるということを示しており、これが不明確であるということはできない。
イ また、本件特許発明1の「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項は、紙破現象を起こし得ないものが除かれているということもできるところ、紙破現象を起こし得ない程度の粘着力がどの程度かは当業者にとって明確といえる。
ウ したがって、本件特許発明1の「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項が、前記(1)に示した第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
(4)請求人の主張に対して
ア 前記(2)の実験について
請求人の主張の趣旨は難解であるが、本件特許発明1の実施品である商品であっても、「紙破現象」が起こらないことがあるから、「紙破現象」を起こさない実施品を第三者が販売したとしても、本件特許発明1を侵害する可能性があり、第三者に不測の不利益を及ぼすという主張と解される。
しかしながら、同じ商品についての被請求人の実験の結果(乙6)、紙破現象は発生していると認められる(乙6の別紙画像12等)から、請求人の主張はその前提に誤りがあり、採用できない。
さらに請求人は、「被請求人の実験(乙6)における「粘着剤層の表面に繊維又は繊維の塊が付着している場合、それは紙破に該当する」という被請求人担当者の公証人に対する説明は、被請求人が自ら明細書においてなした「紙破」の定義からは遠く離れたものである。」と主張するが(上申書(2)7頁下6行〜8頁下4行)、紙の繊維又は繊維の塊が粘着剤層の表面に付着することが、本件特許明細書の段落【0009】において「紙類の表面を損傷した状態」と定義される「紙破」と遠く離れているとまでいうことはできない。
イ 請求人は、本件特許発明1における「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項は、願望的記載であって、不明確であると主張するが(審判請求書32頁12〜20行、弁駁書21頁15行〜22頁4行)、前記(3)で検討したとおり、不明確であるといえない。
ウ 請求人は、本件特許発明1においては、粘着剤の各「構成」に記載された条件の下で現に紙破現象をおこすことができるかどうか不明であるから、明確性を欠くと主張する(弁駁書19頁15行〜21頁14行)。
しかしながら、「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項は、前記(3)で検討したとおり、不明確であるといえないから、本件特許発明1は、粘着剤の各「構成」のうち、「紙破現象を起こし得るように構成している」発明に特定されているものである。
(5)無効理由2についての小括
前記(1)〜(4)から、本件特許発明が明確でないということはできない。
したがって、請求人の主張する無効理由2は理由がなく、本件特許発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものということはできない。
2 無効理由1についての判断
(1)甲1に記載された発明
(ア)前記第5、1(1g)に摘記した甲1の4頁における平成12年1月17日付け手続補正書の請求項1には、「基材上に粘着剤層を有する感圧転写粘着テープであって、前記粘着剤層は粘着剤が不連続な島模様状に塗布されており、しかもその粘着剤の1つの島の大きさが1〜100mm2、かつ隣接する島相互の間隔が0.1〜4mmであることを特徴とする島模様状の粘着剤層を基材上に積層した感圧転写式粘着テープ。」が記載され、同(1e)に摘記した甲1の【0009】には、上記感圧転写粘着テープを使用する際に用いる転写具が、感圧転写粘着テープを巻き付け、保持する送出リール2と粘着剤層を転写使用した後に残った基材を巻き取り、収納する巻回リール3とを感圧転写具の本体となる器体1に装備し、粘着剤層を基材から剥離しながら被転写体に転写させる転着ヘッド4を被転着体に当接できるよう容器の先端からその一部を露出して備えるものであることが記載されているから、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(イ)甲1発明
「感圧転写粘着テープを巻き付け、保持する送出リール2と粘着剤層を転写使用した後に残った基材を巻き取り、収納する巻回リール3とを感圧転写具の本体となる器体1に装備し、粘着剤層を基材から剥離しながら被転写体に転写させる転着ヘッド4を被転着体に当接できるよう容器の先端からその一部を露出して備える転写具において用いられる、基材上に粘着剤層を有する感圧転写粘着テープであって、前記粘着剤層は粘着剤が不連続な島模様状に塗布されており、しかもその粘着剤の1つの島の大きさが1〜100mm2、かつ隣接する島相互の間隔が0.1〜4mmである島模様状の粘着剤層を基材上に積層した感圧転写式粘着テープ」
(2)本件特許発明1について
ア 対比・一致点・相違点
(ア)本件特許発明1と甲1発明の対比
a 甲1発明の「感圧転写粘着テープを巻き付け、保持する送出リール2と粘着剤層を転写使用した後に残った基材を巻き取り、収納する巻回リール3とを感圧転写具の本体となる器体1に装備し、粘着剤層を基材から剥離しながら被転写体に転写させる転着ヘッド4を被転着体に当接できるよう容器の先端からその一部を露出して備える転写具において用いられる」は、本件特許発明1の「巻回保持された転写具用」に相当する。
b 甲1発明の「基材上に粘着剤層を有する感圧転写粘着テープ」は、前記aの「粘着剤層を基材から剥離」という記載も考慮すると、本件特許発明1の「粘着剤層と、前記粘着剤を支持してなる・・・基材とを有し、巻回保持された転写具用の感圧転写式粘着テープ」に相当する。
c 甲1発明の「前記粘着剤層は粘着剤が不連続な島模様状に塗布されており」は、本件特許発明の1の「前記粘着剤層が・・・粘着剤部と当該粘着剤部の間に介在する空隙部とを有するものであり、前記粘着剤部が占有する塗布面積率を・・・設定することにより前記粘着剤層を前記基材の表面に前記粘着剤を間欠的に配置してなるものとし」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明の一致点相違点は次のとおりである。
(イ)一致点
「粘着剤層と、前記粘着剤を支持してなる基材とを有し、巻回保持された転写具用の感圧転写式粘着テープであって、前記粘着剤層が粘着剤部と当該粘着剤部の間に介在する空隙部とを有するものであり、前記粘着剤部が占有する塗布面積率を設定することにより前記粘着剤層を前記基材の表面に前記粘着剤を間欠的に配置してなるものとした感圧転写式粘着テープ。」
(ウ)相違点
(相違点1)本件特許発明1は「前記粘着剤部が複数の粘着剤ブロックを有するものであ」って「前記粘着剤ブロックが転写される方向である前記基材の長手方向において最も近接する前記粘着剤ブロック同士を、前記基材の短寸方向に相対的に偏位した状態で相互に接触することなく噛み合うように配置」しているのに対して、甲1発明はそのように特定されていない点
(相違点2)本件特許発明1は、「前記粘着剤層の厚み寸法を10〜100μm」としたものであるのに対して、甲1発明は、粘着剤層の厚み寸法を特定していない点
(相違点3)本件特許発明1は、「前記粘着剤部が占有する塗布面積率を18〜94%に設定する」ものであるのに対して、甲1発明はそのようになっているか不明である点
(相違点4)本件特許発明1は、「各粘着剤ブロックの占有面積を0.05〜75平方ミリに設定」されるのに対して、甲1発明においては、「粘着剤のひとつの島の大きさが1〜100mm2」となっており、両者の数値範囲が異なる点
(相違点5)本件特許発明1は「封筒の封緘などの紙類同士を止着するために用いられ」、「紙破現象を起こし得るように構成している」ものであるのに対して、甲1発明は「封筒の封緘などの紙類同士を止着するために用いられ」、「紙破現象を起こし得るように構成」することが明記されていない点
(相違点6)本件特許発明1は粘着剤層が「アクリル系粘着剤を有してなるもの」に特定されているのに対して、甲1発明は粘着剤層がアクリル系粘着剤を有してなるものに特定されていない点
(相違点7)本件特許発明1は粘着剤を支持してなる基材が「ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ塩化ビニルからなる」ものに特定されたものであるのに対して、甲1発明は基材が特定されていない点
(相違点8)本件特許発明1は、アクリル系粘着剤が「パターン塗工に適した」ものに特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定を備えていない点
(相違点9)本件特許発明1は、「基材に粘着剤層を剥離可能に設け、前記粘着剤層を介して紙類同士を止着させ得る」ものに特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定を備えていない点
イ 相違点5についての判断
事案に鑑み、まず相違点5について検討する。
(ア)紙破現象について
甲12には「二つの被着材を接着したのち,荷重を加えて破断させると,組み合わせた材料と接着剤とにより破断の生じる個所が,図2に示したように5個所となる.
A,Bの被着材を接着剤Cで接着したとすれば,それぞれの材料が破断する3個所と,被着材と接着剤との界面であるAC,BCの2個所で破断し,合計5個所となる.AC,BCでの破断は, 被着材A,Bの表面状態の関与することが大きい.
紙や木材,プラスチックなど,それ自体の引張強さの小さな材料では,接着が完全に行われると,多くの場合に被着材の破断する母材破断となる.一方,金属を被着材とした場合には,エポキシ樹脂接着剤のように凝集力の大きな接着剤では,どちらかの被着材の表面で破断の生じることが多い.一方,シリコーンゴム接着剤のような凝集力の小さな接着剤では,接着剤の層で破断が生じることになる.」と記載されている。
当該記載から、母材破断になり得るか否かは、母材の引張強さと接着剤の凝集力との関係に依って決まるものと認められる。
また、紙破現象について、本件特許の明細書には「【0009】以下本明細書において、このような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断することを紙破現象と記載することとする。」と記載されているところ、母材が「紙」であって、甲12でいう「母材破断」が起こる場合が、本件特許発明でいう「紙破現象」に対応するものと認められるから、「紙破現象」が起こり得るか否かも、母材自体の引張強さと接着剤の凝集力との関係に依って決まるものと認められる。
(イ)甲1発明における紙破現象の有無について
甲1の【0008】には、「粘着剤の種類や塗布厚さなどを変えることにより、永久接着タイプ、再剥離可能タイプなど用途に合わせて特性の異なった粘着剤層を得ることができる」と記載されている。永久接着タイプの場合とは、要するに剥離することが想定されていない場合であるが、仮に強制的に剥離した場合に、甲12でいう5個所のうちどこが破断するかは母材の引張強さと接着剤の凝集力との関係に依るのであって、必ず「母材破断」(紙破現象)が起こるとはいえない。また、再剥離可能タイプの場合は、母材の表面(母材と接着剤の界面)で剥離が起こると解されるから、紙破現象は起こらない。
また、甲1において、基材(甲12における「母材」に対応。)と粘着剤(甲12における「接着剤」に対応。)については、「【0006】・・・粘着剤としては従来知られている粘着剤がいずれも使用できる。たとえばアクリル系、ゴム系、シリコン系、ロジン系などのものがあげられ、さらに必要に応じてフィラーや保存剤、着色剤などの各種添加剤を配合することができる。基材としては粘着剤に対して剥離効果さえあれば適宜のものを使用できる。例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、グラシン紙等の紙、金属箔等であり、剥離効果を付与するために必要に応じて片面もしくは両面にシリコン樹脂やフッ素樹脂などからなる剥離層が設けられる。基材の厚さは10〜60μmが適当である。」と記載されているのみであって、具体的な基剤自体の引張強さと粘着剤の凝集力を特定するに足る記載は示されていないから、母材の引張強さと接着剤の凝集力との関係が不明であり、甲12でいう5個所のうちどこが破断するかも不明である。
したがって、甲1発明が、「紙破現象を起こし得るように構成」されているということはできないから、相違点5は実質的な相違点であるといえる。
(ウ)判断
甲1発明の粘着テープは、永久接着タイプ、あるいは、再剥離可能タイプのものであるから、母材の引張強さと接着剤の凝集力との関係については特に着目する必要のないものであるか(永久接着タイプ)、母材の表面で剥離が起こるように当該関係が特定されているもの(再剥離可能タイプ)である。そして、甲1には、甲1発明において「紙破現象を起こし得るように構成」することや、母材の引張強さと接着剤の凝集力との関係を、紙破現象を起こし得るような関係となるように限定することを動機づけるような記載や示唆を見いだせない。また、他に、当該限定をすることを当業者が、容易に想到しうることであると認めるに足る証拠は、本件審判事件において請求人から提示された証拠(甲1〜12)からは認めることができない。
(エ)請求人の主張に対して
請求人は本件審判弁駁書(13頁下から6行〜16頁2行)で、甲12における「紙や木材,プラスチックなど,それ自体の引張強さの小さな材料では,接着が完全に行われると,多くの場合に被着材の破断する母材破断となる.」との記載を引用し、「永久接着タイプにおいて紙破現象を起こすことは技術常識となっている。」と主張している。
しかしながら、この記載は、母材の引張強さが小さくかつ接着が完全に行われた場合には、多くの場合母材自体の引張強さよりも接着剤の凝集力の方が大きいので、そのような関係がある場合には母材破壊が起こると説明しているのであって、母材自体の引張強さと接着剤の凝集力の大小関係がいかようであっても母材破断が起こると説明するものではない。そして、甲1発明は、接着が完全に行われるものに限定されていないし母材の材料も特定されていないことも勘案すれば、甲1発明において具体的な母材自体の引張強さと粘着剤の凝集力の関係は不明であり、「紙破現象を起こし得るように構成している」とは認められない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
ウ 相違点1〜4についての判断
(ア)証拠の記載事項
甲2には、写真用ロールフィルムに用いる封止シールにおいて、接着剤のドットが熱接着剤層の長手方向において最も近接するドット同士を、熱接着剤層の短寸方向に相対的に偏位した状態で相互に接触することなく噛み合うように配置する構成が記載されており、これにより、各ドットの接着力が均一なものとなり、シールの接着力を安定させることができる旨記載されている。
甲3には、粘着テープにおいて、点状の粘着部同士を、支持体シートの短寸方向に相対的に偏位した状態で相互に接触することなく配置した構造が記載されており、この粘着テープは、粘着〜剥離の繰り返し使用ができることが記載されている。
甲4には、テープ状のものを含む転写型粘着シートにおいて、粘着剤層のドットが担体シートの短寸方向に相対的に偏位した状態で相互に接触することなく配置した構造が記載されており、これにより所望の転写形状を得られることが記載されている。
甲10及び11には、スプライスに使用される感圧性接着シート構造において、可逆的な接着を行うために粘着ドームをキャリア(本件特許発明における「基材」に対応)の短寸方向に相対的に偏位した状態で相互に接触することなく配置した構造が開示されており、可逆的に接着する反発性感圧性接着剤塗膜を提供することができる旨記載されている。
甲5には、接着剤には粘着剤も含まれることが記載されている。
しかしながら、甲1には、粘着剤部をどのような配置にするか、また、粘着剤層の厚み寸法、占有する塗布面積率、占有面積についての記載は存在しない。
また、甲1には、その目的が十分な接着力を保持しつつ良好なのり切れ性を有する感圧転写粘着テープを提供すること、と記載されている。
(イ)判断
そうすると、仮に、甲1に接した当業者が、甲1発明の接着力を保持しつつ良好なのり切れ性を向上させることを試みるとして、甲2〜5、10及び11に記載された技術事項を精査しても、甲1発明の粘着剤部をどのような配置にするか、また、粘着剤層の厚み寸法、占有する塗布面積率、占有面積を如何なる量とするかは示唆がなく、上記相違点1〜4に係る事項を備えるものとすることを想到できるということができない。
エ 効果について
本件特許発明1は相違点1〜9に係る全ての構成を備えることで、「剥離動作により粘着剤が紙類から剥がされた際には紙破現象が起こることによって紙類が厚み方向に破断された修復不可能な状態となるため、当該粘着製品が止着された痕跡を必然的に紙類に残す」(本件特許明細書【0046】)との格別の効果を奏するものといえる。
オ 小括
(ア)以上のとおり、相違点6〜9について検討するまでもなく、本件特許発明1は、前記第3、1(1)イにおいて請求人が主張するように、甲1発明並びに甲2に記載された技術事項及び周知技術(甲3及び甲4)に基いて容易に発明することができたものとはいえず、また、前記ア〜エにおいて検討したように、甲1発明及び甲2〜12に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとは認められない。
(イ)甲6及び甲7は、本件発明2の進歩性を否定するために提示された引用例であり、また、甲8及び甲9は、本件発明7の進歩性を否定するために提示された引用例であるため、前記第5には摘記していないが、甲6〜9の記載を検討しても、いずれも相違点1〜6の一部を断片的に開示するものでしかなく、前記ア〜エの判断に影響するものではない。
(ウ)前記(ア)、(イ)にあげた証拠以外の証拠についても検討したが、前記ア〜エの判断に影響するものではない。
(3)本件特許発明2〜10について
本件特許発明2〜10は、本件特許発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものに該当するところ、上記1のとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜12に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、当該限定についてさらに検討するまでもなく、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2〜10も甲1発明及び甲2〜12に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)無効理由1についての小括
前記(1)〜(3)から、本件特許発明1〜10のいずれについても、本件審判事件における主張によっても進歩性を欠如するということはできない。
したがって、請求人の主張する無効理由1は理由がなく、本件特許発明1〜10に係る特許は、いずれも特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものということはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、
1 請求人の主張及び立証によっては、無効理由があるということができないから、本件特許発明1〜10に係る本件審判の請求は成り立たない。
2 特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、審判請求費用は請求人の負担とする。
よって結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-12-22 
結審通知日 2022-01-06 
審決日 2022-01-18 
出願番号 P2005-017537
審決分類 P 1 113・ 537- Y (C09J)
P 1 113・ 121- Y (C09J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 蔵野 雅昭
門前 浩一
登録日 2013-04-05 
登録番号 5234556
発明の名称 感圧転写式粘着テープ及び転写具  
代理人 波床 有希子  
代理人 松野 知紘  
代理人 江森 史麻子  
代理人 特許業務法人アテンダ国際特許事務所  
代理人 大野 聖二  

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