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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F41B
管理番号 1392464
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-12-11 
確定日 2022-11-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第4910074号発明「吹矢の矢」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許4910074号(以下「本件特許」という。)は、平成23年9月13日の出願であって、平成24年1月20日にその請求項1〜11に係る発明について特許権の設定登録がなされた。
そして、本件無効審判に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年12月11日 審判請求書、
甲第1〜5号証提出
令和3年 6月11日 審判事件答弁書、
(6月10日差出) 乙第1〜2号証提出
同年 7月 1日 上申書(被請求人)、
参考資料提出
同年 7月30日付け 審理事項通知書
同年 9月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)、
甲第6〜17号証提出
同年 9月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)、
乙第3〜4号証提出
同年 9月22日 上申書(請求人)、
甲第18〜19号証提出
同年 9月22日 口頭審理
同年10月 6日 上申書(請求人)
同年10月 6日 上申書(被請求人)、
参考資料提出
同年10月20日 上申書(請求人)、
甲第20〜24号証提出
同年10月20日 上申書(被請求人)、
参考資料提出

第2 本件発明
本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その願書に添付された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項2】
吹矢に使用する矢であって、
長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、
円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、
からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された矢。」

第3 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第4910074号の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、審判請求書、口頭審理陳述要領書、令和3年9月22日付け上申書、同年10月6日付け上申書、及び、同年10月20日付け上申書を提出し、また、これらに添付した甲第1〜24号証を提出し、以下の無効理由1及び2を主張している。

1 無効理由
(1)無効理由1
本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:実願昭55−175099号(実開昭57−114294号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開2000−130989号公報
甲第3号証:特開平11−201692号公報
甲第4号証:登録実用新案第3051432号公報
甲第5号証:登録実用新案第3128332号公報
甲第6号証:「2008.7 スポーツ吹矢カタログ 社団法人日本スポーツ吹矢協会公認用具」、株式会社ダイセイコー
甲第7号証:「写真撮影報告書」、服部謙太朗、2019年7月30日
甲第8号証:「BigSuccess オンラインショップ」のウェブページ、検索日:2019年7月16日、<URL:https://www.big-success.jp/shop/index.php?main_page=product_info&cPath=3&products_id=20>,<URL:https://www.big-success.jp/shop/index.php?main_page=page_6>
甲第9号証の1:「公認用具取扱説明書」、一般社団法人日本スポーツ吹矢協会、表紙及び奥付
甲第9号証の2:「公認用具取扱説明書」、一般社団法人日本スポーツ吹矢協会、p.22-23
甲第10号証:米国特許第4586482号明細書
甲第11号証:林督元、「スポーツ吹矢入門」、初版第1刷、ビックサクセス ぶんぶん書房、2007年4月20日、p.30、31、136、137
甲第12号証:「実験結果報告書 甲1発明の再現及び実験」、森田直樹、令和3年9月3日
甲第13号証:「一般社団法人日本スポーツウエルネス吹矢協会」のウェブページ、「Q&A(よくあるご質問)」、検索日:令和3年9月7日、<URL:https://www.fukiya.net/faq/index.php>
甲第14号証:「じじのひとりごと」のウェブページ、「吹き矢に刺さった釘?」、ブログの日付:2007年11月30日、<URL:https://masa03223j.exblog.jp/6871713/>
甲第15号証:「たかが吹き矢、されど吹き矢、やはり吹き矢」のウェブページ、「矢は消耗品?」、記事の日付:2011年12月23日、<URL:http://yumehukiya.seesaa.net/article/242187186.html>
甲第16号証:「スポーツ吹矢 ガイドブック」、第4刷、株式会社ぶんぶん書房、2009年5月13日、p.18、19
甲第17号証:「実験結果報告書 ダブル時の吹矢の食い込み方」、森田直樹、令和3年6月16日
甲第18号証の1:「矢の形状に関する提案」、山田信彦(2002)
甲第18号証の2:山田信彦氏提供のUSBのエクスプロラー画面スクリーンショット、請求人代理人作成、2021年9月16日
甲第18号証の3:甲第18号証の1のファイルプロパティ画面(「全般」タブ)スクリーンショット、請求人代理人作成、2021年9月16日
甲第18号証の4:甲第18号証の1のファイルプロパティ画面(「詳細」タブ)スクリーンショット、請求人代理人作成、2021年9月16日
甲第19号証:「PC CAFE」のウェブページ、「ファイルの『作成日時』、『更新日時』、『アクセス日時』」、記事の作成日:2015年9月16日、<URL:https://www.pccafe.jp/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%81%AE%E3%80%8C%E4%BD%9C%E6%88%90%E6%97%A5%E6%99%82%E3%80%8D%E3%80%81%E3%80%8C%E6%9B%B4%E6%96%B0%E6%97%A5%E6%99%82%E3%80%8D%E3%80%81%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%82%AF/>
甲第20号証:「陳述書」、山田信彦、令和3年10月19日
甲第21号証:「写真撮影報告書」、服部謙太朗、令和3年10月18日
甲第22号証:「BigSuccess オンラインショップ」のウェブページ、検索日:令和3年10月15日、<URL:https://www.big-success.jp/shop/index.php?main_page=product_info&cPath=3&products_id=172>
甲第23号証:特開2021−81125号公報
甲第24号証:新村出、「広辞苑」、第六版第一刷、株式会社岩波書店、2008年1月11日、「嵌合」(かんごう)が記載されたページ及び「嵌合」(はめあい)が記載されたページ

甲第1号証〜甲第24号証を、それぞれ「甲1」〜「甲24」ともいう。
なお、甲6〜8は、口頭審理において、両当事者合意のうえ、参考資料1〜3として扱うこととした。

第4 被請求人の主張の概要
1 主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、令和3年7月1日付け上申書、同年10月6日付け上申書、及び、同年10月20日付け上申書を提出し、また、これらに添付した乙第1〜4号証を提出し、請求人の主張する無効理由によっては本件特許を無効とすべきでないと主張している。

2 証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第1号証:平成31年(ワ)第2675号特許権侵害差止等請求事件で請求人が東京地裁に提出した「被告証拠説明書(2)」、令和元年7月31日
乙第2号証:平成31年(ワ)第2675号特許権侵害差止等請求事件の判決文、令和3年5月18日判決言渡
乙第3号証:「楕円形」、ウェブ辞書「コトバンク」、作成日:令和元年5月30日(出力日)
乙第4号証の1:「楕円形こたつ」、楽天市場ウェブページ、作成日:令和元年6月6日(出力日)
乙第4号証の2:「白い楕円形の卵」、depositphotosウェブページ、作成日:令和元年6月6日(出力日)
乙第4号証の3:「鳥の卵はなぜ、いびつな楕円形(だえんけい)?」、朝日新聞DIGITALウェブページ、作成日:平成19年6月11日(掲載日)
乙第4号証の4:「楕円形ブルー水滴」、Pngtreeウェブページ、作成日:平成31年1月30日(出力日)
乙第4号証の5:「藍色楕円形」、Pngtreeウェブページ、作成日:平成31年1月30日(出力日)
乙第4号証の6:「楕円形のクリソライドスワロフスキーの雫ペンダント」、ヤフオクウェブページ、作成日:平成31年1月26日(掲載日)

乙第1号証〜乙第4号証の6を、それぞれ「乙1」〜「乙4の6」ともいう。

第5 各甲号証の記載事項等
1 甲1
(1)甲1に記載された事項
甲1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様である。)。
(1a)
「実用新案登録請求の範囲
1.・・・先端に円頭状の金属製の矢じりを備え、・・・競技用安全吹き矢。
考案の詳細な説明
本案は吹矢筒と吹矢と簡単に取替え出来る標的とよりなる競技用安全吹矢に係り、競技勝負の妙味とスリル感及び精神的鍛練と健康維持を兼ねた一種のスポーツ競技として普及せしめる事を目的としたものである。」(明細書1ページ3行〜2ページ2行)
(1b)
「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり(4)を有した金属製の矢軸(5)の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された前記吹矢筒(3)にフイツトする最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部(6)を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる吹矢(7)」(明細書2ページ10〜16行)
(1c)
「台板(8)の上部表面には下端より40cm離れ、発射された前記吹矢(7)が貫通又ははね返えらないで標的面上にささつたまゝの状態を保持出来るよう所定厚さ(約20mm程度)の発泡プラスチツク板その他類似の発泡状素材のクツシヨンボード(12)を貼着し、」(明細書3ページ2〜7行)
(1d)
「以上の説明から明らかなように、この考案の競技用吹矢は矢じり先端が危険な突起のない円頭状としてあるので安全であるばかりでなく、之れが標的面に当ると発泡性素材のクツシヨンボードに突きささると同時に小気味の良い音を発して爽快感と競技勝負のスリル感も高く、一般の人はもとより身体障害者の屋外スポーツ競技の一種として興味を与え充分楽しむ事が出来、又吹矢は肺活量や精神統一も必要で心身の鍛練にも最適である。」(明細書5ページ8〜16行)
(1e)
第1〜6図は、以下のとおりである。

(2)甲1に記載された発明

甲1の第6図は拡大断面図であり、吹矢7については横断面図となっている。
甲1の第6図の矢軸5の横断面形状と第4図(正面図)の矢軸5に対応する点線の形状とに併せて第3図を参照すると、円柱からなる矢軸(5)が看取でき、かつ、甲1の明細書の2ページ10〜11行に記載の「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり(4)を有した金属製の矢軸(5)」は、「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した」、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる「金属製の矢軸5」であることが、明らかである(以下、「(4)」を「4」のように、符号は、( )を省略して全角文字で記載することもある。)。

上記アと、甲1の明細書の2ページ10〜16行(摘記(1b))の記載から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる吹矢7。」

2 甲2
甲2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(2a)
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】吹矢の原初が武器又は狩具であり、後に射的ゲーム機となったという歴史的由来に起因して、その矢じりが鋭利であり、硬質であるという元来の形質を残存すること等に対する危険性がなお払拭されていないという問題点があった。
・・・
【0008】
【課題を解決するための手段】矢じりが木竹、獣骨、石器、銅器、鉄器その他の強固且つ鋭利なものでなければいけないという固定観念を排し、飛び道具の矢の矢じり及び矢羽双方をソフトヘッドで代替し、実質ばかりでなく感覚的にも十分な安全性を追求する。」
(2b)
「【0011】
【発明の実施の形態】本発明の飛び道具の矢はシャフトとその両端に装着する一対のヘッドとよりなるものであるが、外形的に形容すれば、大きいものではパレードなどで用いる装飾的な指揮杖のバトン、また小さなものでは耳鼻科医療用の綿棒などより類推される形状を有する。前記のようなダブルヘッドであり首尾の区別がないので一方をやじりとすれば他方がおのずから矢羽となる。素材としては木材・ゴム等自然物類を初め、比較的柔軟な合成樹脂類に至るまで特に限定しないが、自然保護及び資源再利用の見地からは再生紙などによる一体成型等で実施する。
【0012】前記0011項の飛び道具の矢のヘッド先端にそれぞれピンホールを貫通してあり、このピンホールが目標のまとのマークピンに突き刺される形態をとる。
【0013】前記0012項のピンホールを更に延伸しシャフトを貫通させる形態にし、シャフトをストロー管などで軽量化するほか、該シャフトの中を前後に自由に転動する小ボールを封入することによりシャフト全体に矢羽機能を付加する。
【0014】本発明の吹矢の目標のまとは一見生け花の剣山に類する形態を有し、円形・方形等の平板なマーク盤にマークピンを一定間隔に多数連鎖して打ち並べて作るブラシによって、命中した飛び道具の矢のヘッドを捕捉させる。」
(2c)
「【0016】
【実施例】実施例について図面を参照して説明すると、図1及び図2における飛び道具の矢D及び目標のまとEは共に最小の実施例であり、最大の実施例では2倍以上の大きさに達するが、基本的な構造・仕様は共通である。先ず図1において飛び道具の矢Dのシャフト33は長さ7cm、太さ直径4mmの再生紙、木竹又はプラスチックス製丸棒であり、そのシャフト33両端切り口にゴム又はポリエチレンその他の軟質材料で作る長径10mm短径7mmの円柱体乃至長球体ヘッドa34とヘッドb44とを固着してある。そして、飛び道具の矢Dが命中した目標のまとEはマーク盤10面に植えられているマークピン11の中の6本がヘッドb44に外接して確保している状態を示す。図2は図1XX面の断面図であり、ヘッドに外接する正6角形の6頂点にピンを打ち、さらに合同の正6角形を連鎖した図形の各頂点にそれぞれピンを配植してある。
・・・
【0021】飛び道具の矢の矢じり及び矢羽双方を丸坊頭のソフトヘッドで代替することにより、プレーヤーはもとより観戦者にも、また器物に対しても傷害を及ばさないという実態とともに、感覚的にも十分な安全性を実現できる。」
(2d)
図1、図2は、以下のとおりである。


3 甲3
甲3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(3a)
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明における吹き矢は、飛び道具の矢を吹く呼気が一定の気圧に達するまで何度でも息を吹き溜めることができる呼気コンプレッサーと飛び道具の矢とを気密にドッキングすることとしている。そして、このような呼気の備蓄増圧により何人も飛び道具の矢をある一定の距離まで比較的容易に飛ばすことができる。」
(3b)
「【0008】前項の0007に記載した呼気コンプレッサーとドッキングする飛び道具の矢のドッキング部材は半球体のテールカップとし、そしてヘッドも相似の球体を形づくることとしている。それ故、仮に人体その他の器物と衝突してもそれらに損傷を与える恐れがなくなる。」
(3c)
「【0017】
【実施例】実施例について図面を参照して説明すると、図1及び図2において、呼気コンプレッサーAの筒体1とマウスピース2とを嵌合し、その中間に弁室3を設け、筒体1の中の空気がマウスピース2の方へ漏れることを防止する逆止弁4を該弁室3の中に封入する。筒体1の他の切り口は開いたままとし、その外形を乳頭状に成型してノズル5を作る。ノズル5は飛び道具の矢Bのテールカップ7に内接してドッキングするための部材であるから、その大きさは飛び道具の矢Bの大きさに規定される。そして、ノズル5とテールカップ7とのドッキングを確保するスナップ凹部6をノズル5の外周に設ける。一方、筒体1の長さは飛び道具の矢Bを射筒12の装填口13の中に送致するまでの距離に規定されるが、飛び道具の矢Bは、テールカップ7とヘッド10及びそれらを繋ぐシャフト9の3部分よりなるものである。テールカップ7とヘッド10はいずれも飛翔方向の軸の長さが、直交する軸よりも長い長球体乃至は軸の長短が逆の稍扁平な短球体に成型する。そして、テールカップ7は飛翔軸の約2分の1付近を軸に垂直な平面で切断し、チューリップ形の開口とする。そして、テールカップ7の内面にはスナップ凸部8を設けておき、ドッキングに際してノズル5のスナップ凹部6とかみ合わせる。飛び道具の矢Bはテールカップ7とシャフト9及びヘッド10とをプラスチックスで一体成型して作ることができるが、テールカップ7が中空であるのとは逆にヘッド10の内部を充実させ、重心を飛翔の方向に寄せて製する。飛び道具の矢Bの大きさは、全長約5〜10cmとし、従って、テールカップ7とヘッド10の太さは約1.0〜1.5cmとする。このテールカップ7に呼気コンプレッサーAのノズル5を挿入してドッキングさせるものが本発明の実施例の原形であり、基本的には、呼気コンプレッサーAと飛び道具の矢Bの2部材の組み合わせだけでも吹き飛ばすことができる。」
(3d)
「【0022】飛び道具の矢のヘッドを球体とすることにより、吹き矢を安全なゲームとすることができる。」
(3e)
図1、図2は、以下のとおりである。

4 甲4
甲4には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(4a)
「【実用新案登録請求の範囲】
図1に示すような短冊形のプラスチックフィルム・・・を円錐形に巻き,形が崩れないように糊でプラスチックフィルムを接着し.円錐形の矢の先端に重りの釘・・・を固着した吹き矢の矢。
【図面の簡単な説明】
図1は本案の短冊形プラスチックフィルム,図2はプラスチックフィルムを巻いて円錐形にした矢の側面図と正面図である。」
(4b)
図1、図2は、以下のとおりである。

5 甲5
(1)甲5に記載された事項
甲5には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(5a)
「【考案が解決しようとする課題】
【0004】
スポーツ吹矢は、練習中に、後に吹いた矢が、的に刺さった前の矢に重なって刺さってしまうことがある。矢にスピードがあるため、後に吹いた矢は、釘の部分が前の矢の内部に強く接合されてしまう。このような場合、前の矢は、後の矢が引き剥がされると、釘だけが中に取り残されてしまうことがよくある。このように矢の中に取り残された釘を取り外すには、矢を持って根気良くもみ出すしかなく不便であった。
【0005】
この考案は、上記課題を解決するために、スポーツ吹矢において、矢の中に取り残された釘を容易に取り外すことのできる釘取り外し具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の考案は、スポーツ吹矢用の矢の中に取り残された釘を取り外すための釘取り外し具において、一端が先細りの円錐形であるとともに前記釘の胴部が挿通可能な第1開口を有し、他端に前記第1開口よりも径の大きい第2開口を有する筒体と、前記第2開口から前記筒体内に挿入されると前記第1開口の近傍に到達可能な長さの棒状部分を有するとともに、前記棒状部分が前記釘と前記筒体の内壁との間に挿入されるくさび部を備えた挿入具とから構成されることを特徴とする釘取り外し具である。
【考案の効果】
【0007】
本考案の釘取り外し具によれば、スポーツ吹矢において、矢の中に取り残された釘を容易に取り外すことができる。」
(5b)
「【0011】
次に、図2及び図3を参照して、釘取り外し具1の使い方について説明する。
【0012】
図2(a)(b)において、吹矢の矢5は、シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して円錐筒に形成されている。そして、矢5の重しとなる釘4が、スカート部6の先端に丸い頭部4aを露出させて、その胴部4bを開口6a内に収納した状態で接着剤により固着されている。
【0013】
次に、図3(a)〜(c)を参照して、釘取り外し具1により矢5のスカート部6の中に取り残された釘4eを取り外す際の手順について説明する。
【0014】
図3(a)において、後の矢5eは、前の矢5にスカート部6後端の開口6bから入り込んで、重なって刺さっていたものである。前の矢5は、後の矢5eのスカート部6eを持って引き剥がした際に、後の矢5eの釘4eが、スカート部6の中に取り残された状態である。」
(5c)
第1〜3図は、以下のとおりである。


(2)甲5に記載された発明

段落【0012】の記載と図3から、段落【0012】の「矢5の重しとなる釘4」は、「胴部4b」と「丸い頭部4a」とからなる、「矢5の重しとなる釘4」として特定できる。
そして、このように特定できる「矢5の重しとなる釘4」について、図3を参照すると、「丸い頭部4a」は、側面視が略半円形状の「丸い頭部4a」であることが看取できる。
また、釘は胴部が円柱状であって打ち込まれる前端部が尖っていることが技術常識である。
これらのことと図1〜3から、段落【0012】に記載された「矢5の重しとなる釘4」は、円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された「胴部4b」と、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の「丸い頭部4a」とからなり、「丸い頭部4a」の最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、「矢5の重しとなる釘4」として特定できる。

上記アと、甲5の段落【0012】の記載から、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲5発明]
「シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して円錐筒に形成され、
円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4bと、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4aとからなり、丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4が、スカート部6の先端に、前記側面視が略半円形状の丸い頭部4aを露出させて、その胴部4bを開口6a内に収納した状態で接着剤により固着されている、
吹矢の矢5。」

第6 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1(甲1発明を主たる引用発明とする無効理由)
(1)対比
本件発明と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5」は、第3図も参照すると、実質的に、「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を」取り付けた、「横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5」を意味し、「円頭形の矢じり4」と「円柱からなる金属製の矢軸5」とは、別々のものと理解できる。
このことを踏まえると、以下のことがいえる。
甲1発明の「円柱からなる金属製の矢軸5」は、本件発明の「円柱部」に相当する。
甲1発明の「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した」「円柱からなる金属製の矢軸5」は、実質的に「先端に」「円頭形の矢じり4を」取り付けた「円柱からなる金属製の矢軸5」であり、「円頭形の矢じり4」と「円柱からなる金属製の矢軸5」とから構成されたピンの態様となっているといえるから、甲1発明の「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した」「円柱からなる金属製の矢軸5」は、本件発明の「ピン」に相当する。
そして、甲1発明の「円頭形の」「矢じり4」は、「矢軸5」の「先端に」取り付けられているから、甲1発明の「円頭形の」「矢じり4」と、本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部」とは、ピンの「先端部」において共通している。
したがって、甲1発明の「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5」と、本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピン」とは、「先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピン」において共通している。

甲1発明の「紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6」と、本件発明の「円錐形に巻かれたフィルム」とは、「円錐形の中空部材」において共通している。

甲1発明は、「円柱からなる金属製の矢軸5の後方に」「中空円錐状の羽根部6を嵌合固着し」ており、「円柱からなる金属製の矢軸5の後方に」「中空円錐状の羽根部6」の先端部が「嵌合固着」されていることが明らかである(第3図も参照。)。
そうすると、甲1発明の「円柱からなる金属製の矢軸5」の後方部分(羽根部6の先端部が嵌合固着されている箇所とその箇所よりも後方の部分)は、「中空円錐状の羽根部6」内に差し込まれており(第3図なども参照。)、甲1の「中空円錐状の羽根部6」は、「円柱からなる金属製の矢軸5」の後方部分が差し込まれ、「嵌合固着」されているといえる。
これに対して、この後方部分以外の「矢軸5」の先端側の部分は、「中空円錐状の羽根部6」内に差し込まれておらず露出した状態で、「中空円錐状の羽根部6」の先端部に連続して接続されているといえる。
上記の「矢軸5」の先端側の部分は、上記の後方部分(羽根部6の先端部が嵌合固着されている箇所とその箇所よりも後方の部分)以外の「矢軸5」の部分であるから、矢軸5における、羽根部6の先端部が嵌合固着されている箇所よりも先端側の露出している部分の全てを意味するものであり、矢軸5の中間部分よりも先端側の部分に限るものではなく、羽根部6の先端部が嵌合固着されている箇所が矢軸5の後端部に近ければ、矢軸5の中間部分よりも後方側の部分も含み得るものである。
これらのことと、上記ア、イを踏まえると、甲1発明の「円頭形の矢じり4を有した」「円柱からなる金属製の矢軸5の後方に」「中空円錐状の羽根部6を嵌合固着し」た構成と、本件発明の「円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された」構成とは、「円錐形の中空部材であって、先端部にピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材と、からなり、前記中空部材の先端部に連続して前記ピンの先端側の部分が接続された」構成において共通している。

以上から、甲1発明の「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる」構成と、本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された」構成とは、「先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、円錐形の中空部材であって、先端部に前記ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材と、からなり、前記中空部材の先端部に連続して前記ピンの先端側の部分が接続された」構成において共通している。

甲1発明の「吹矢7」は、本件発明の「吹矢に使用する矢」及び「矢」のいずれにも相当する。

以上から、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点1−1>
「吹矢に使用する矢であって、
先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、
円錐形の中空部材であって、先端部に前記ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材と、
からなり、前記中空部材の先端部に連続して前記ピンの先端側の部分が接続された矢。」
<相違点1−1>
「ピン」の「先端部」について、本件発明では、「長手方向断面が楕円形」である先端部であるのに対して、甲1発明では、「円頭形の矢じり4」である先端部である点。
<相違点2−1>
「円錐形の中空部材であって、先端部に前記ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材と
からなり、前記中空部材の先端部に連続して前記ピンの先端側の部分が接続された」ことについて、
本件発明では、「円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された」ものであるのに対して、
甲1発明では、「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる」点。
(下線は、相違点などを明らかにするため、当審が付与したものである。以下同様である。)

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点1−1について
(ア)
摘記(2c)から、甲2には、「シャフト33両端切り口にゴム又はポリエチレンその他の軟質材料で作る長径10mm短径7mmの円柱体乃至長球体ヘッドa34とヘッドb44とを固着してある、シャフト33を備えた吹矢の飛び道具の矢D。」が記載されている。
甲2の「シャフト33両端切り口にゴム又はポリエチレンその他の軟質材料で作る長径10mm短径7mmの円柱体乃至長球体ヘッドa34とヘッドb44」及び「シャフト33」は、それぞれ、本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部」及び「該先端部から後方に延びる円柱部」に相当し、これらを合わせたものは、本件発明の「ピン」に相当し、甲2の「吹矢の飛び道具の矢D」は、本件発明の「吹矢に使用する矢」に相当する。
したがって、甲2には、「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」が記載されているといえる。
また、摘記(3a)、(3c)から、甲3には、「テールカップ7とヘッド10はいずれも飛翔方向の軸の長さが、直交する軸よりも長い長球体乃至は軸の長短が逆の稍扁平な短球体に成型された、テールカップ7とヘッド10及びそれらを繋ぐシャフト9の3部分よりなる、吹き矢の飛び道具の矢B。」が記載されている。
甲3の「直交する軸よりも長い長球体乃至は軸の長短が逆の稍扁平な短球体に成型された」「ヘッド10」及び「テールカップ7とヘッド10」「を繋ぐシャフト」は、それぞれ、本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部」及び「該先端部から後方に延びる円柱部」に相当し、これらを合わせたものは、本件発明の「ピン」に相当し、甲3の「吹き矢の飛び道具の矢B」は、本件発明の「吹矢に使用する矢」に相当する。
したがって、甲3にも、「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(以下「甲2、甲3に記載された技術事項」ともいう。)が記載されているといえる。
(イ)
甲1発明と甲2、甲3に記載された技術事項とは、「吹矢に使用する矢」という技術分野において共通している。
しかしながら、甲2のヘッドb44はゴムなどの軟質材料からなるソフトヘッドであり(摘記(2c)を参照)、甲3のヘッド10はプラスチックスであってシャフト9などと一体成形したものであり(摘記(3c)を参照)、これらは甲1発明の「矢じり4」(摘記(1a)を参照すると、矢じり4は金属製の矢軸5と同じく金属製であるといえる。)とは材質が異なり、また、甲2は矢羽根をソフトヘッドで代替したものであり(摘記(2c)を参照。)、甲3は呼気コンプレッサーAのノズル5を挿入してドッキングさせる半球体のテールカップ7が矢の後方に設けられているものであり(摘記(3b)を参照)、いずれも円錐状の中空部材で構成されている羽根を備えるものではないから、矢じりが金属製であり円錐状の中空部材で構成されている羽根を備えている甲1発明とは、主に羽根の部分などの構造や機序が異なり(摘記(2b)、(3b)、(3c)等を参照)、全体的に見ると材質ないし構造や機能が大幅に異なるものである。
そうすると、技術分野が共通しているとしても、ただちに甲1発明に甲2、甲3に記載された技術事項を適用しようとする動機付けはないといえる。
そして、甲1発明では、「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有」することで、形状について既に安全吹矢を実現できているから、安全吹矢とすることを課題として、「円頭形の」「矢じり4」を「円頭形」以外の形状とする動機付けはないといえる。
以上のことを総合すると、当業者であれば、甲1発明において、既に安全性が確保されている「吹矢7」の「円頭形の矢じり4」を、長手方向断面が楕円形である矢じり(先端部)に、わざわざ変更するようなことはしない。
(ウ)
したがって、甲1発明に甲2、甲3に記載された技術事項を適用し、上記相違点1−1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。

イ 相違点2−1について
相違点2−1は、実質的に、次の3つの相違点に分けることができる。
<相違点2−1−a>
「円錐形の中空部材」について、本件発明では、「円錐形に巻かれたフィルム」であるのに対して、甲1発明では、「紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6」である点。
<相違点2−1−b>
「円錐形の中空部材の先端部に連続して」「接続された」「ピンの先端側の部分」について、本件発明では、「錘として接続された」のに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。
<相違点2−1−c>
「先端部に」「ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材」及び「中空部材の先端部に連続して」「ピンの先端側の部分が接続された」ことについて、本件発明では、「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルム」及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が」「接続された」ものであるのに対して、甲1発明では、「円頭形の矢じり4を有した」「矢軸5の後方に」「中空円錐状の羽根部6を嵌合固着し」た点。

以下、事案に鑑み、最初に相違点2−1−cについて検討する。
(ア)
甲2、甲3は、そもそも円錐形のフィルムを備えた矢ではなく、甲4は、矢の先端側に釘の頭部が位置しておらず釘の向きが逆であって釘の円柱部すべてがプラスチックフィルム(円錐形の中空部材)に差し込まれていないから、甲2〜甲4には、先端部にピンの円柱部すべてが差し込まれ固着された円錐形のフィルムは記載されていない。
また、甲5には、上記「第5 5(2)」で認定した甲5発明(後述する2(1)の一致点5を参照すると、「先端部にピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたシート」を備えているといえる。)が記載されている。
(イ)
甲1発明は、「金属製の矢軸5の後方に、」「最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる吹矢7」であるから、「羽根部6を嵌合固着」する位置が「金属製の矢軸5の後方」に定まっており、「金属製の矢軸5」の先端側の部分は、羽根部6で覆われずに露出している。
そして、この定まっている嵌合固着する位置を変えることについては、甲1には何ら記載されておらず、それを示唆する記載もないから、甲1発明において、甲1発明の「金属製の矢軸5の後方に」「羽根部6を嵌合固着して」いる位置を変えようとする動機付けはないといえる。
また、甲1には、「発射された前記吹矢(7)が貫通又ははね返えらないで標的面上にささつたまゝの状態を保持出来る」(摘記(1c)参照)と記載され、「之れが標的面に当ると発泡性素材のクツシヨンボードに突きささると同時に小気味の良い音を発して爽快感と競技勝負のスリル感も高く」(摘記(1d)参照)と記載されていることと、第6図から、甲1発明の「金属製の矢軸5の後方に」「羽根部6を嵌合固着して」いることの技術的意義は、「羽根部6を嵌合固着して」いる「金属製の矢軸5の後方」よりも前方における「金属製の矢軸5」の全部分、要するに、羽根部6で覆われずに露出している、「金属製の矢軸5」の先端側の部分(以下「矢軸5の露出している先端側の部分」ともいう。)が、発泡性素材のクツシヨンボードに突きささって、深く侵入する(例えば、吹矢(7)の先端が台板(8)に当るまで深く侵入する)ことで、小気味の良い音を発することと、吹矢が抜けにくくなることにあるといえる。
そうすると、甲1発明において、上記相違点2−1−cに係る本件発明の「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルム」及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された」構成を想到しようと試みて、「羽根部6」の先端部に連続して「円頭形の矢じり4」を接続すると、矢軸5の露出している先端側の部分が存在しなくなり、発泡性素材のクツシヨンボードに突きささっても、固着されている羽根部6が矢軸5のクツシヨンボードへの侵入の際の抵抗となるなどして、深く侵入する(例えば、吹矢(7)の先端が台板(8)に当るまで深く侵入する)ことができなくなり、小気味の良い音が得られなくなり、かつ、矢が抜けやすくなるおそれもあることが明らかである。
このように、甲1発明において、「羽根部6」が「嵌合固着」している位置を変え、矢軸5の露出している先端側の部分がない構成にして、「羽根部6」の先端部に連続して「円頭形の矢じり4」を接続することには、阻害要因があるといえる。
(ウ)
以上から、甲1発明に、先端部にピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたシートを備えている甲5発明(上記(ア))などを適用して、「羽根部6」が「嵌合固着」している位置を変え、「羽根部6」の先端部に連続して「円頭形の矢じり4」を接続しようとしても、甲1発明においては、そうする動機付けはなく、阻害要因も存在するから(上記(イ))、相違点2−1−cに係る本件発明の構成とすることはできず、その余の相違点2−1−a及び相違点2−1−bについて検討するまでもなく、上記相違点2−1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。

ウ 本件発明の作用効果
本件発明は、上記相違点1−1及び2−1に係る本件発明の構成を有すること、特に、ピンの先端部の長手方向断面が楕円形の部分を円錐形に巻かれたフィルムの先端部に接続して、フィルムにピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されることで、「矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい」(本件明細書の段落【0035】)という、甲1〜5には記載されていない格別な作用効果を有するものである。

エ 小括
よって、本件発明は、甲1発明及び甲2〜甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 無効理由2(甲5発明を主たる引用発明とする無効理由)
(1)対比
本件発明と甲5発明とを対比する。

(ア)
甲5発明の「円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4a」と、本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部」とは、「先端部」において共通している。
(イ)
甲5発明の「円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4b」は、本件発明の「円柱部」に相当する。
そして、甲5発明の「円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4b」は、「丸い頭部4a」が「円柱状部分の他方の端部に連続した」ものであるから、上記(ア)を踏まえると、本件発明の「先端部から後方に延びる円柱部」に相当する。
(ウ)
甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」と、本件発明の「該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピン」とは、「ピン」において共通している。
(エ)
上記(ア)〜(ウ)を踏まえると、甲5発明の「円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4bと、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4aとからなり、丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」と、「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピン」とは、「先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピン」において共通している。

本件発明の「フィルム」は、シート状といえるから、甲5発明の「先端に開口6aを有して円錐筒に形成され」た「シート材よりなるスカート部6」と、本件発明の「円錐形に巻かれたフィルム」とは、「円錐筒に形成されたシート」において共通している。

本件発明において、「先端部」及び「前記ピンの楕円形の部分」は、いずれも、「長手方向断面が楕円形である先端部」と同じものといえるから、上記ア(ア)、(エ)を踏まえると、甲5発明の「円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4a」と、本件発明の「先端部」及び「前記ピンの楕円形の部分」のそれぞれとは、それぞれ「先端部」及び「前記ピンの先端部」において共通している。
甲5発明において、「胴部4bと、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4aとからな」る「矢5の重しとなる釘4」は、「矢5の重しとなる」ものであるから、「円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4a」も「重しとな」っており、錘として機能するといえる。
甲5発明は、「シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して」いるところ、甲5発明の「収納」の意味を踏まえると、「開口6a内」は、「開口6a」よりも内側すなわち「スカート部6」内を意味していることが明らかであり、甲5発明の「胴部4bを開口6a内に収納した状態」とは、実質的に、「胴部4b」のすべてが「スカート部6」内に差し込まれている状態であるといえる(図3(c)も参照。)。
このように、甲5発明は、実質的に、「胴部4b」のすべてが「スカート部6」内に差し込まれているから、甲5発明において、「スカート部6の先端に、前記側面視が略半円形状の丸い頭部4aを露出させて」いる構成は、実質的に「スカート部6の先端」に連続して「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」が接続されている構成であるといえる。
これらのことと、上記ア、イを踏まえると、甲5発明の「シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して円錐筒に形成され、円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4bと、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4aとからなり、丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4が、スカート部6の先端に、前記側面視が略半円形状の丸い頭部4aを露出させて、その胴部4bを開口6a内に収納した状態で接着剤により固着されている」構成と、本件発明の「円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された」構成とは、「円錐筒に形成されたシートであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたシートと、からなり、前記シートの先端部に連続して前記ピンの先端部が錘として接続された」構成において共通している。

甲5発明の「吹矢の矢5」は、本件発明の「吹矢に使用する矢」及び「矢」のいずれにも相当する。

以上から、本件発明と甲5発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点5>
「吹矢に使用する矢であって、
先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンと、
円錐筒に形成されたシートであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたシートと、
からなり、前記シートの先端部に連続して前記ピンの先端部が錘として接続された矢。」
<相違点1−5>
「ピン」の「先端部」の形状について、本件発明は、「長手方向断面が楕円形である」先端部であり、「楕円形の部分」であるのに対して、甲5発明は、「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」であり、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい」点。
<相違点2−5>
「ピン」について、本件発明は、「該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さい」ピンであるのに対して、甲5発明は、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」である点。
<相違点3−5>
「円錐筒に形成されたシート」について、本件発明は、「円錐形に巻かれたフィルム」であるのに対して、甲5発明は、そのように特定されていない点。
<相違点4−5>
「ピンの先端部が錘として接続された」ことについて、本件発明は、ピンの「楕円形の部分」が錘として接続されたのに対して、甲5発明は、「釘4」の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」が錘として接続された点。

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点1−5について
(ア)
甲5の図3に記載されたような丸い頭部4aの釘4すなわち丸頭の釘が中空ではなく中実となっていることは技術常識であるから、甲5発明の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」は、中実であることが明らかであり、その構造は、実質的に、略半球形状であるといえる。
甲5発明では、「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」(略半球形状)は、「胴部4b」の「円柱状部分の他方の端部に連続し」ており、略半球形状の平面部分が円柱状部分の他方の端部に接続されていることが明らかである(略半球形状の丸い曲面が先端側になっていることが明らかである。)。
このことと、甲5発明の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」(略半球形状)は、「胴部4b」の「円柱状部分の他方の端部に連続し」、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい」ことから、「丸い頭部4aの最大幅」の部分となっている略半球形状の平面部分は、「胴部4b」の「円柱状部分の他方の端部」から径方向外側に突出し、当該平面部分と「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」(略半球形状)の先端側の丸い曲面とが接する部分が、尖った角部を形成していることが明らかである。
(イ)
そして、甲5では、「後に吹いた矢が、的に刺さった前の矢に重なって刺さってしまうことがある。矢にスピードがあるため、後に吹いた矢は、釘の部分が前の矢の内部に強く接合されてしまう。」という事象が発生し、この事象が前提となり、「前の矢は、後の矢が引き剥がされると、釘だけが中に取り残されてしまうことがよくある。このように矢の中に取り残された釘を取り外すには、矢を持って根気良くもみ出すしかなく不便であった。」という問題が発生し、その問題に対処するために、甲5では、「矢の中に取り残された釘を容易に取り外すことのできる釘取り外し具を提供すること」を課題としているといえる(摘記(5a)参照。)。
(ウ)
これに対して、本件では、「従来の矢24は、図20に示すように、フィルム28の先端部に丸釘26が差し込まれた形状になっている。丸釘26は、図21に示すように、頭部29にカエシが形成されており、頭部29には後方に向かって尖っている円柱部30が一体接続されている。このカエシの存在により、次の2つの事象がしばしば生じている。」(段落【0004】)、「1.的に刺さった矢を的から外すときに丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまう。」(段落【0005】)、「2.的に刺さっている矢に次に吹いた矢が前の矢のフィルムの円錐形奥深くに突入し(この事象を以降「ダブル突入」と呼ぶ)、丸釘の頭部のカエシが前の矢のフィルムに食い込んでしまう(図23参照)。この場合、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られてフィルムが丸釘のピンから抜け、後ろの矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまう。」(段落【0006】)という事象が前提となり、「1.矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、2.ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい、3.円柱部がヘッドの中心を通り飛行中のブレを少なくする、矢を提供すること」(段落【0012】)を課題としている。
(エ)
このように、本件は、「矢を提供する」ことが課題であり、甲5は「釘取り外し具を提供すること」ことが課題であり、本件発明と甲5発明は、解決しようとする課題が相違している。
そして、甲5発明の釘は、その形状や構造から、広く流通している尖った角部がある釘と同様の構成を備えているといえるものであり(甲5の図3も参照)、甲5では、この尖った角部を備えること(上記(ア))及び強く接合されてしまうという事象(上記(イ))が、課題の前提となっており、要するに、甲5の課題は尖った角部を有したまま解決されるものであり、その尖った角部の形状を変えようとすることは、甲5に記載も示唆もされていない。
また、釘の形状に着目して釘の尖った角部自体をなくすようにすることは、請求人が提出した証拠のうち、本件出願前の公知文献には、記載も示唆もされていない。
したがって、甲5発明において、尖った角部をなくすようにする動機付けは存在しない。
(オ)
さらに、甲5には、安全性について記載されていないから、安全性の課題が共通することを動機付けとして、甲5発明に、甲2、甲3に記載された技術事項を適用することはできないし、仮に、甲5に安全性が示唆されていたとしても、甲5発明の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」(略半球形状)は、先端側が丸いから(上記(ア)参照)、安全性に関して、甲1発明の「円頭形の矢じり4」と同様のことがいえるので、上記1(2)ア(イ)で述べたのと同様の理由が成立し、さらに、甲2、甲3に記載された技術事項は、広く流通しているような釘の頭部を改良したものではなく、甲5発明の「矢5の重しとなる釘4」(広く流通しているような釘といえる。)とは構造が異なるものであるから、甲5発明に、甲2、甲3に記載された技術事項を適用する動機付けはない。
(カ)
ここで、甲5にはカエシについての記載はないから、上記(イ)で述べた事象がカエシによると直ちにいうことはできないが、甲5の図3の「吹矢の矢5」が本件の図20の「従来の矢24」と同様の構造であることから、仮に、甲5発明の尖った角部がカエシであり、上記(イ)で述べた事象がカエシによるとしても、上記(エ)で述べたとおりであり、甲5発明の尖った角部(カエシ)を、なくすようにする動機付けは存在しない。
(キ)
そして、本件発明は、「ピン」が「長手方向断面が楕円形である先端部」を有しており、尖った角部(カエシ)を備えないから、「矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい」(本件明細書の段落【0035】)という格別の作用効果を奏するといえる。
(ク)
以上から、甲5発明において、釘4の尖った角部(カエシ)をなくすようにすることを着想し、さらに、釘4の頭部の形状として楕円形という特定の形状を選定すること、要するに、広く流通しているような尖った角部(カエシ)がある釘を、特定の構造や機能を備えるピンとして構成することで、「長手方向断面が楕円形である」先端部すなわち上記相違点1−5に係る本件発明の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。

イ 相違点2−5について
(ア)
甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」の「丸い頭部4a」は、「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」であるから、当該「丸い頭部4a」については、上記ア(ア)で述べたとおりのことがいえる。
(イ)
甲5発明の「円柱状部分の幅」は、円柱状部分の横断面の直径である。
上記(ア)を踏まえると、甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅」とは、略半球形状(先端部)の平面部分の直径であることが明らかである。
この略半球形状の平面部分は、略半球形状の端面であり、横断面ではないが、形状の直径(最大径)を比較することに限れば、実質的に横断面に対応する面であるといえる。
そうすると、甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」と、本件発明の「該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピン」とは、実質的に、「該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピン」において共通しているとまではいえる。
(ウ)
しかしながら、上記(ア)を踏まえると、甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」の「丸い頭部4a」について、上記アと同じことがいえるから、甲5発明の当該「丸い頭部4a」すなわち「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」の尖った角部(カエシ)をないようにして、長手方向断面が楕円形である先端部を想到することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
そうすると、「楕円形の先端部」を含んでいる上記相違点2−5に係る本件発明の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。

ウ 相違点4−5について
本件発明の「ピンの楕円形の部分」は、「長手方向断面が楕円形である先端部」と同じものであるから(上記(1)ウ参照)、相違点1−5に係る本件発明の「長手方向断面が楕円形である先端部」について検討した、上記アと同様のことがいえる。
したがって、「楕円形の部分」を含んでいる上記相違点4−5に係る本件発明の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。

エ 小括
よって、その余の相違点3−5について検討するまでもなく、本件発明は、甲5発明及び甲2、甲3に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 請求人の主張について
(1)請求人の主張

請求人は、令和3年9月8日付け口頭審理陳述要領書(以下「陳述要領書」という。)の19ページ下から11行〜20ページ4行において、「甲1発明に係る矢を製造する場合、矢軸に接着剤をつけて、ピンとフィルムを固定する。・・・羽根部分が・・・ピンから外れる、あるいは前側(円頭形部分側)にフィルムがずれてしまうことが、当業者であれば容易に見て取れる。現に、甲12の報告書において甲1発明を再現した製品について的に当てて確認したところ、そのような現象が発生した。このように、甲1に接した当業者であれば、・・・甲5に開示の様にフィルムに円柱部をすべて差し込む構成とする必要があることは自明であり、甲1発明に甲5に開示の構成を適用することは動機付けがあるといえる。」(以下「主張A」という。)と主張する。

請求人は、令和3年10月20日付け上申書の7ページ1〜23行において、「請求人が主張する『楕円形』の定義が非常に広範で、甲1は実質的には『楕円形』であるといえる・・・上記のとおり甲1の『円頭形』のピンは少なくとも『球形』であるといえるところ、これと『楕円形』のピンとでは作用効果に差異はないことや、被請求人が主張する『楕円形』の定義が非常に広範で、甲1発明は実質的には『楕円形』の開示があるといえること等も踏まえると、相違点1−1は、実質的な相違点ではないし、仮に相違点だとしてもこのような球形と楕円形の差異はごくわずかな差異であり、より得点性能の良い矢を開発するに際して当業者として楕円形のピンを試すことはごく自然に行う(設計事項に等しい)ものであることからすると、動機付けは十分にあるといえる。」(以下「主張B」という。)と主張する。

請求人は、陳述要領書の23ページ下から2行〜24ページ1行において、「甲5には、従来技術に係る吹矢(すなわち甲6以下の被請求人の販売に係る吹矢)ではダブル時に後の矢の釘が前の矢のフィルムに食い込んで外す際に抜けてしまうという、本件発明の課題が開示されている。」と主張し、陳述要領書の29ページ6〜15行において、「そうである以上、甲5に係る技術背景の矢にこのような周知の課題が存在する場合に、係る課題を解決すべく、甲2、甲3に開示のピンの形状(先端部が楕円形のピン)を適用し、係る課題を解決できないかを検討することは当然のことである。・・・このような課題が発生する原因である矢の先端部の形状を適宜変更して甲2及び甲3に係る構成を採用することについて動機付けがあるといえる。」(当初の記載における「乙2、乙3」は、「甲2、甲3」と訂正されている(第1回口頭審理調書参照)。)と主張する。
以下これらの主張をまとめて「主張C」という。

請求人は、令和3年9月22日付け上申書及び同年10月20日付け上申書において、甲18の1〜甲21に基づき、甲5発明のピンの先端部の形状を楕円形とすることが当業者にとって容易である旨(以下「主張D」という。)主張している。
また、請求人は、令和3年10月20日付け上申書の8ページ4〜11行及び10ページ6行〜下から3行において、甲22などに基づき、甲5発明において、カエシの有無は阻害要因とならない旨(以下「主張E」という。)、及び、甲23によれば甲12の実験が正しいことが理解できる旨(以下「主張F」という。)も主張している。

(2)検討
ア 主張Aについて
羽根部分が外れる、あるいはフィルムの位置がずれてしまうのであれば、外れないように、あるいは、ずれないように、強固に固着すれば済むことであるし、そもそも、甲1発明において、「紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6」は、フィルムであるのか否かも不明であり、また、どのような手段により「嵌合固着」されているのかも不明であって、矢軸に接着剤をつけてピンとフィルムを固定した矢を用いた、甲12の実験は、甲1発明に基づく実験とはいえない。
したがって、甲12の実験結果を根拠に、甲1発明において、羽根部分が外れる、あるいはフィルムの位置がずれることを前提としている、主張Aは採用できない。
さらに、仮に、主張Aが採用できたとしても、上記1(2)イで述べたとおり、甲1発明への甲5に記載された技術事項の適用には阻害要因が存在するから、当該適用をすることはできない。

イ 主張Bについて
広辞苑第六版に記載されているとおり、「楕円」は、「長円」を意味し、「円」は、「まるいこと」を意味し、これらは、別々のものである。
そうすると、「楕円形」(楕円形状)と「円形」(円形状)も意味が異なり形状も異なり、作用効果も異なるといえる(吹き矢のように高速で飛行する物体は、わずかな形状の相違であっても重心の位置に違いが生じ飛行のブレに影響することは、技術常識である。)。
そうすると、矢じり4の形状について「円頭形」が開示されているだけの甲1は、実質的には「長手方向断面が楕円形」であるとはいえないし、「長手方向断面が楕円形」のピンの先端部とでは作用効果に差異はないともいえないから、相違点1−1は、実質的な相違点ではないということはできない。
そして、上記1(2)アで述べたとおり、甲1発明に、甲2、甲3に記載された技術事項を適用する動機付けはないといえる。
したがって、主張Bは採用できない。

ウ 主張Cについて
甲5発明の課題及び本件発明の課題は、上記2(2)ア(イ)及び(ウ)で述べたとおりであり、同(エ)で述べたとおり、これらの課題は相違している。
したがって、甲5に、本件発明の課題が開示されているとはいえない。
そして、上記2(2)ア(エ)及び(カ)で述べたとおり、本件発明のように、釘の頭部の形状を変えて尖った角部(カエシ)をなくすようにする手段が、本件出願前に周知ないし公知であったといえる根拠は存在せず、この手段を着想したこと自体が新規であるといえる。
さらに、上記2(2)ア(オ)で述べたとおり、甲5発明に甲2及び甲3に係る構成を採用することについて動機付けがあるとはいえない。
したがって、主張Cは採用できない。

エ 主張D〜Fについて
甲18の2〜甲21の内容を総合すると、甲18の1は、特定のUSBに格納されたデジタル情報を印刷したものであり、当該USBのデジタル情報は、甲18の3に示される日時に作成、更新されたものであったとしても一部の限られた者しか知ることができないものであったと解するのが妥当であり、本件出願前に周知ないし公知であったとはいえない。
したがって、甲18の1は、本件発明の容易想到性の判断に参酌されるべきものではなく、主張Dは採用できない。
また、主張Eについて、「ピン」の「先端部」の形状に係る相違点1−5の判断は、上記2(2)アで述べたとおりであるので、当該主張Eは採用できない。
そして、甲23は、本件出願後の令和3年5月27日に出願公開されたものであるが、甲23を参酌したとしても、甲12の実験結果を根拠に甲1発明において円柱部のすべてをフィルムに差し込むことが容易であるといえないことは、上記ア及び上記1(2)イで述べたとおりである。
したがって、主張Fも採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-25 
結審通知日 2022-01-28 
審決日 2022-02-09 
出願番号 P2011-199686
審決分類 P 1 123・ 121- Y (F41B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 島田 信一
出口 昌哉
登録日 2012-01-20 
登録番号 4910074
発明の名称 吹矢の矢  
代理人 小林 幸夫  
代理人 木村 剛大  
代理人 飯田 啓之  
代理人 服部 謙太朗  
代理人 平田 慎二  
代理人 河部 康弘  
代理人 松浦 憲三  
代理人 山本 洋三  
代理人 藤野 清規  

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