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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1392581
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-09 
確定日 2022-12-05 
事件の表示 特願2018−561230「自動車燃料組成物中におけるワックス沈降防止添加剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日国際公開、WO2017/202735、令和 1年 6月20日国内公表、特表2019−516849〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、2017年(平成29年)5月19日(優先権主張 平成28年5月23日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年11月27日に手続補正がされ、令和2年10月1日付けで拒絶理由が通知され、令和3年1月8日に意見書の提出と共に手続補正がされ、同年3月4日付けで拒絶査定がされ(謄本発送は同年3月12日)、同年7月9日に本件審判請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 本願発明など
1 本願発明の認定
本願の請求項1〜5に係る発明は、令和3年7月9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜5の記載により特定されるものであるところ、そのうち請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「自動車燃料組成物が導入される、もしくは導入されることが意図される内燃エンジンまたはそのようなエンジンにより駆動される車両の動力出力を改善する目的での、前記燃料組成物中におけるワックス沈降防止剤(WASA)の使用であって、 前記ワックス沈降防止剤が、カルボン酸の第四級アンモニウム塩の形態の油溶性極性窒素化合物を含み、カルボン酸の前記第四級アンモニウム塩が、式[NR2R13R14]X(式中、Rは、メチル、エチルまたはプロピル基を表し、R13は、8〜40個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基を表し、R14は、40個までの炭素原子を含有するヒドロカルビル基を表し、Xは、1価のカルボン酸アニオンを表す)を有し、前記ワックス沈降防止剤が燃料組成物の重量基準で150ppm〜2000ppmの範囲内の濃度で前記燃料組成物中で使用される、使用。」

2 本願明細書の記載
本願明細書には、次の記載がある。
(1)「【0006】
燃料油は、石油または植物源に由来するかどうかを問わず、低温において、燃料にその流動能力を失わせるゲル構造を形成するように、大型の板状結晶または球晶またはワックスとして沈殿する傾向がある成分、例えばn−アルカンまたはメチルn−アルカノエートを含有する。燃料がまだ流動する最も低い温度は、流動点として知られている。
【0007】
燃料の温度が下がり、流動点に近付くにつれて、ラインやポンプを通した燃料の輸送が困難になる。さらに、ワックス結晶は、流動点を超える温度で、燃料ライン、スクリーン及びフィルタを詰まらせる傾向がある。これらの問題は、当該技術分野において十分に認識されており、様々な添加剤が提案されているが、その多くは、燃料油の流動点を低下させるために商業的に使用されている。同様に、他の添加剤も提案されており、形成するワックス結晶のサイズを低減し、形状を変化させるために商業的に使用されている。より小さなサイズの結晶は、フィルタを詰まらせる可能性が低いため、望ましい。主にアルカンワックスであるディーゼル燃料からのワックスは、小板として結晶化する。特定の添加剤はこれを阻害し、ワックスに針状晶癖をとらせ、結果として生じる針は小板よりもフィルタを通過する可能性が高く、またはフィルタ上に多孔質の結晶層を形成する可能性が高い。他の添加剤もまた、ワックス結晶を燃料中に懸濁状態で保持し、沈降を低減し、したがって閉塞防止を補助する効果を有する。これらのタイプの添加剤は、しばしば「ワックス沈降防止添加剤」(WASA)と呼ばれ、一般に極性窒素種である。」
(2)「【0024】
加速性能の改善はまた、少なくともある程度まで、別の原因に起因する、特に燃料組成物に含まれる別の燃料成分または添加剤に起因する加速性能の低下の軽減を包含し得る。一例として、燃料組成物は、燃焼時に発生する排出物のレベルを低減するようにその全体的密度を低減することを意図した1つ以上の成分を含有することができ、密度の低下はエンジン出力の損失をもたらす可能性があるが、この効果は、本発明によるワックス沈降防止剤の使用によって克服され得るか、または少なくとも緩和され得る。
【0025】
加速性能の改善はまた、酸素化成分を含有する燃料(例えば、いわゆる「バイオ燃料」)の使用、またはエンジン内(典型的には燃料噴射器内)の燃焼関連堆積物の蓄積等の別の理由で低減された加速性能を、少なくとも部分的に復旧することを包含し得る。」
(3)「【0045】
ワックス沈降防止剤は、燃料組成物の重量基準で、好ましくは、0.001重量%(10ppm)〜0.2重量%(2000ppm)、より好ましくは0.010重量%(100ppm)〜0.1重量%(1000ppm)からの範囲内、さらにより好ましくは0.010重量%(100ppm)〜0.05重量%(500ppm)の範囲内、特に0.01重量%(100ppm)〜0.03重量%(300ppm)の範囲内の濃度で燃料組成物中に使用される。」
(4)「【0066】
WASAと組み合わせた本明細書における使用に好ましい燃料添加剤は、中間蒸留物流動性改善剤(MDFI)等の低温流動性改善剤である。低温流動性改善剤は、組成物の低温流動特性を改善することができる任意の材料である。
【0067】
MDFIは、例えば、酢酸ビニル含有化合物、特にポリマー等のビニルエステル含有化合物を含んでもよい。例えば、アルケン(例えば、エチレン、プロピレンまたはスチレン、より典型的にはエチレン)及び不飽和エステル(例えばビニルカルボン酸塩、典型的には酢酸ビニル)のコポリマーが、MDFIとしての使用に知られている。」
(5)「【実施例】
【0108】
5つの燃料を、ディーゼルエンジンの加速及び出力性能に対するその効果を測定するために、エンジン試験に供した。燃料の1つは参照燃料、すなわちSwedish Class 1 EN590 Diesel B7燃料(7%FAMEを含有する)であった。Swedish class 1燃料は、まだいずれの低温流動性改善剤も含んでいなかったため、参照燃料として選択された。候補燃料(実施例A〜D)は、以下の表1に示すように、様々な種類及びレベルの添加剤を添加して同じ参照燃料を使用した。
【表1】



第3 原査定の概要
令和3年3月4日付けの拒絶査定(以下「原査定」という。)は、次の理由を含むものである。
「●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項1〜5
・引用文献1〜6
上記理由1について述べたとおり、引用文献1には、自動車燃料組成物に、本願発明と同様のワックス沈降防止剤(WASA)を、本願発明と同様の濃度で使用することが記載されている。
そして、当該技術分野において、自動車燃料組成物が導入されるエンジンにより駆動される車両の加速性能や動力出力を改善することは、引用文献1〜6にも記載されるように当業者であれば当然に考慮する課題であるから、引用文献1に記載された発明において、加速性能や動力出力の改善を目的とすることに、格別の困難性は存しない。
また、ターボチャージエンジンは、普通に知られた内燃エンジンであるから、引用文献1に記載された発明のエンジンとして、ターボチャージエンジンを用いることは、当業者が適宜に為し得ることである。
したがって、請求項1〜5に係る発明は、引用文献1〜6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2008−169391号公報
2.特開2014−208752号公報
3.米国特許第5879418号明細書
4.特表2015−507052号公報
5.特表2013−532163号公報
6.特開2008−150605号公報」

第4 当審の判断
1 引用文献の記載
前記第3の原査定に引用された引用文献1には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
少量の、
(A)ワックス沈降防止剤として効果的である、ポリカルボン酸の4級アンモニウム塩の形態にある少なくとも一つの油溶性極性窒素化合物;及び
(B)少なくとも一つの油溶性ポリアルキレンアミン清浄剤、
を含む、中間留分燃料油組成物であって、
(A)及び(B)の濃度が、前記燃料油組成物の1以上の低温特性が、4級アンモニウム塩ではなく、かつ(A)に類似したポリカルボン酸の油溶性アミン塩である(Aref)を、(A)の代わりに含んだ以外は同一の他の燃料油組成物の低温特性よりもよりよくなるほどのものであり;かつ
前記燃料油組成物における(B)の濃度が、前記それ以外は同一の他の燃料油組成物における(Aref)の一以上の低温特性にマイナスに影響するであろう程のものである、燃料油組成物。
・・・
【請求項3】
極性窒素化合物中に又は各極性窒素化合物の4級アンモニウムカチオンが、式NR13R14(式中R13は、ヒドロカルビル基、例えば8から40の炭素原子を含むアルキル基を表し、及びR14はヒドロカルビル基、例えば最大で40の炭素原子を含むアルキル基を表し、但し、R13及びR14が直鎖又は分枝してもよく及び/又は同一又は異なっても良い)の部分を含む、請求項1又は2に記載の燃料油組成物。
【請求項4】
4級アンモニウムカチオンが、式+NR13R14R2(式中Rはメチル、エチル又はプロピルを表す)により表される、請求項3に記載の燃料油組成物。
【請求項5】
R13及び任意でR14が、水素化した牛脂に由来するアルキル基を表す、請求項3又は4に記載の燃料油組成物。
・・・
【請求項7】
(A)が、以下の式により表され、
【化1】

(式中、R13及びR14はそれぞれ、水素化した牛脂由来のアルキル基を表す)、及び(Aref)が、1モル部のフタル酸無水物と、2モル部の二水素化した牛脂アミンの反応により得られるアミド−アミン塩である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料油組成物。
・・・
【請求項10】
少なくとも一つの油溶性ポリアルキレンアミン清浄剤である少量の(B)を含んだ中間留分燃料油組成物における、ワックス沈降防止剤として効果的である、ポリカルボン酸の4級アンモニウム塩の形態にある少なくとも一つの油溶性極性窒素化合物である少量の(A)の、4級アンモニウム塩ではなくかつ(A)に類似したポリカルボン酸のアミン塩である(Aref)を、(A)の代わりに含んだ以外は同一の他の燃料油組成物の1以上の低温特性と比較して、前記燃料油組成物の1以上の低温特性を向上させるための使用であって、前記燃料油組成物における(B)の濃度が、前記それ以外で同一の他の燃料油組成物における(Aref)の一以上の低温特性にマイナスに影響するであろう程のものである使用。
【請求項11】
向上する低温特性が、ΔCP又はCFPP又はその両方である、請求項10に記載の使用。」
(2)「【0001】
本発明は、燃料油組成物の改良、とりわけ清浄剤種を含み、かつ低温でワックスの形成の影響を受けやすい燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料油は、石油から得ようと植物源から得ようと、成分、例えばn−アルカン又はメチルn−アルカノエートを含み、これらは、低温で、燃料の流動性を失わせるゲル構造を形成するように、大きな板状結晶又は球晶のワックスとして沈殿する傾向がある。燃料が未だ流動するであろう最低温度は、流動点として知られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
燃料の温度が低下して流動点に近づくにつれて、ライン及びポンプを介した燃料の輸送における困難さが上昇する。さらに、ワックスの結晶は、流動点より高い温度で燃料ライン、スクリーン及びフィルターをふさぐ傾向がある。これらの問題は、本技術において良く認識されており、種々の添加剤が提案され、これらの多くは燃料油の流動点を低下させるために、商業的に使用されている。同様に、他の添加剤が提案され、確かに形成するワックス結晶のサイズの減少及び形状の変更のために、商業的に使用されている。より小さなサイズの結晶が望まれ、それはそれらがフィルターをあまり詰まらせないためである。主としてアルカンワックスである、ディーゼル燃料からのワックスは、板状(platelet)に結晶化する。ある添加剤はこれを阻害し、ワックスに針状の性質をもたらすようにし、その結果得られる針状結晶は、フィルターを通過し、又はフィルター上に結晶の多孔質層を形成するため、板状晶よりも好ましい。他の添加剤は、燃料中でワックス結晶を懸濁状態に維持する効果も有し、沈降を減少させ結果として閉塞の防止を助ける。これらの種類の添加剤は、多くの場合“ワックス沈降防止剤(wax anti-settling additive)”(WASA)と称され、一般に極性窒素種である。
【0004】
多くの添加剤は、エンジンの清浄性を向上することに関して、例えば吸入システム(例えばキャブレター、吸気マニホールド、吸気弁)又はスパーク点火エンジン(spark−ignition engine)の燃焼室表面の堆積物を減少させ又は除去することに関し、又は圧縮点火エンジンのインジェクターノズルの付着物を減少し又は防ぐことに関して記載されている。
例えば、英国特許第960,493号は、内燃機関用の基燃料中に、テトラエチレンペンタミンのポリオレフィン置換コハク酸イミドの形態にある、金属フリー清浄剤を添加することを記載している。このような金属フリー清浄剤の使用は、現在普及している。最も一般的に使用されているのは、ポリイソブチレン置換コハク酸イミドであり、これは、ポリイソブチレン置換アシル化剤、例えばコハク酸又は無水物とポリアミンの反応生成物である。このような材料及びこれらの製造方法は、当業者に知られている。これらは、一般的に、金属フリーポリアルキレンアミン清浄剤として記載されるであろう。
【0005】
最新式のディーゼルエンジン技術における傾向は、インジェクション圧力を増加してかつインジェクターノズルの直径を減少させることにより、出力及び効率を増加させることである。これらの状況下において、インジェクターの堆積物の沈着がより起こりそうであり、発生する堆積物はより著しい。このことが、燃料製品を、多くの場合“ハイオク(premium)”グレードとして販売され、及びエンジンの清浄性を向上するためにとりわけ効果的であるものとして宣伝販売される新型の燃料を、製造者に製造させることになった。この性能の要求を満たすため、このようなハイオク燃料は、普通は、非ハイオクグレードの燃料よりも、顕著に高いレベルの清浄剤を含む。
エンジンの清浄性の関係で大いに効果的であるが、燃料油における清浄剤の高いレベルでの使用において欠点が確認されている。特に、当該清浄剤とワックス沈降防止剤が燃料中に存在する場合、ハイオクグレードの燃料中における高いレベルのポリアルキレンアミン清浄剤の存在が、ワックス沈降防止剤の低温流動性性能を妨げ得ることが観察された。その結果、このような燃料はエンジンの清浄性を満足させるかも知れないが、ワックス沈降防止及び低温フィルター目詰まり点(CFPP)についての低温特性は満足できるものではないかも知れない。」
(3)「【0015】
(A)4級アンモニウム塩
上記のように、これは、ワックス沈降防止剤として効果的である、ポリカルボン酸の4級アンモニウム塩の形態にある油溶性窒素化合物である。アンモニウムカチオンの窒素原子は、例えば4つのヒドロカルビル基を含む。塩は、例えば、単量(monomeric)のものである。
化合物中の4級アンモニウムカチオンは、好ましくは式NR13R14(式中、R13は、独立に、ヒドロカルビル基、例えば8から40の炭素原子を含むアルキル基を表し、及びR14は、独立に、ヒドロカルビル基、例えば最大で40の炭素原子を含むアルキル基を表す)の部分を含む。R13及びR14は、直鎖又は分枝しても良く、及び/又は同一又は異なって良い。好ましくは、R13及びR14のそれぞれは、C12からC24の直鎖アルキル基を表す。
【0016】
4級アンモニウムカチオンは、好ましくは式+NR13R14R2(Rは1から4の炭素原子を有するアルキル基、例えばメチル、エチル又はプロピル基を表す)により表される。
適切には、部分NR13R14は、第二級アミン、例えばジオクタデシルアミン、ジココアミン、二水素化した牛脂アミン及びメチルベヘニルアミンに由来する。アミンは、例えば、天然材料、好ましくは第二級の水素化した牛脂アミンから誘導される混合物であって、そのアルキル基が、約4%のC14、31%のC16 及び59%のC18から成る水素化した牛脂に由来するものであってよい。
【0017】
4級アンモニウム塩の調製のために適切なポリカルボン酸及びその無水物の例は、エチレンジアミンテトラ酢酸、環骨格に基づくカルボン酸、例えば、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンタン−1,2−カルボン酸及びナフタレンジカルボン酸、及びジアルキルスピロビスラクトンを含む1,4−ジカルボン酸を含む。一般的に、これら酸は、5から13の炭素原子を環部分に含む。本発明で有用な好ましい酸は、ベンゼンジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸である。フタル酸及びその無水物が、特に好ましい。特に好ましい4級アンモニウム塩は、以下の式により表され:
【化1】

(式中、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素化した牛脂に由来するアルキル基を表す)この化合物は、例えば、N,N−ジメチル−N,N−二水素化した牛脂アンモニウムクロライド(1モル)と、二水素化した牛脂アミン(1モル)、フタル酸無水物(1モル)及びナトリウムメトキシド(1モル)を反応させることにより製造して良い。」
(4)「【0030】
(処理割合)
燃料油中に存在する各成分の量は、使用する種の性質、燃料油の特性及び要求される低温性能により決まる。上で検討したように、本発明は、比較的高いレベルのポリアミン清浄剤を含むハイオクディーゼル燃料に存在する場合、ワックス沈降防止剤の低温の挙動にマイナスの影響を与える観察結果に基づく。
典型的には、燃料油組成物中の少なくとも一つのポリアルキレンアミン清浄剤(B)の量は、燃料油の質量に基づいて、50質量ppm過剰であり、例えば75又は100質量ppm過剰である。いくつかのハイオクディーゼル燃料は、500質量ppmまでのポリアルキレンアミン清浄剤を含んでもよい。これは、より従来の非ハイオクディーゼル燃料に対する約10から75ppmの処理割合と匹敵できる。
ワックス沈降防止剤として効果のある四級アンモニウム化合物の形態にある少なくとも一つの極性窒素化合物(A)の量は、燃料油の質量に基づいて、典型的には、10から500ppm、好ましくは20から250ppm、より好ましくは20から150質量ppmである。代わりに、10から200ppm、好ましくは10から100ppmを採用して良い。
【0031】
(他の添加剤)
ワックス沈降防止剤として効果のある極性窒素化合物を、他の付加的な低温流動性向上剤と組み合わせて使用することは、本技術においてごく普通である。適切な物質は、当業者にとって公知であり、及び例えば、エチレン−不飽和エステルコポリマー、例えばエチレン:ビニルアセテートコポリマー及び同類のポリマーを含む。本発明は、このような付加的な低温流動性向上剤の添加を考慮し、処理割合の点におけるこれらの適用も、当業者に公知である。本発明の全ての側面の態様において、燃料油は、さらに、エチレン−不飽和エステルコポリマーを含む。」
(5)「【実施例】
【0032】
本発明は、本出願の請求の範囲を制限することを意図しない実施例で、以下に記載されるであろう。
【0033】
構成成分
以下の成分を使用した:
WASA(Aref):フタル酸無水物(1モル)及びジ(水素化した牛脂)アミン(2モル)を反応させて製造した、2−N',N'−ジアルキルアミド安息香酸のN,N−ジアルキルアンモニウム塩の形態にある、ワックス沈降防止剤として効果のある単量の極性窒素化合物。
WASA(A):N,N−ジメチル−N,N−二水素化したアンモニウムクロライド(1モル)と、二水素化した牛脂アミン(1モル)、フタル酸無水物(1モル)及びナトリウムメトキシド(1モル)を反応させて製造した、2−(N',N'−二水素化した牛脂アミド)安息香酸の、N,N−ジメチルジ−二水素化した牛脂アンモニウム塩の形態にある、ワックス沈降防止剤として効果のある、単量の極性窒素化合物。塩化ナトリウム(副生成物)は、水洗し、次いで水溶液を除去することにより分離した。
清浄剤(B):ポリイソブテン置換したコハク酸無水物(ここでポリイソブテン基は約1000の分子量を有する)と分子当たり少なくとも7つの窒素原子を有する種が支配的であるポリ−エチレンアミン混合物を反応させて製造したコハク酸清浄剤。
【0034】
燃料:使用した燃料は、中間留分ディーゼル燃料、燃料Xであった:
燃料Xは、以下により特徴付けられる;
D86蒸留 IBP 199℃
20% 231℃
90% 319℃
FBP 352℃
曇り点 −6℃
CFPP −13℃
【0035】
試験
添加剤(A)、(Aref)及び(B)を、以下に示す割合で燃料Xにブレンドし、中間留分燃料油組成物を得た。組成物は、ディーゼル燃料で規定通りに使用される添加剤、例えば、エチレン不飽和エステルコポリマー(EVE)、ジアルキルフマレートビニルアセテートコポリマー(FVA)、ポリエチレングリコールエステル(PEGE)及びアルキルフェノールホルムアルデヒド縮合物(APFC)も含んでいる。このような添加剤は、上記略語で以下言及される。
以下の全ての添加割合は、活性成分(すなわち、溶媒又はキャリアーではない成分)の、燃料の質量に基づいた質量ppmとして表される。
【0036】
組成物の低温特性は、以下のように測定した:
(アラルショートセディメントテスト(Aral Short Sediment Test))
アラルショートセディメントテスト(ASST)は、燃料油のワックス含有物を沈降させる傾向の測定であり、結果として、ワックス沈降防止剤の有効性の決定である。この試験は、ドイツの石油企業アラル(Aral)によって開発され、及びヨーロッパ全体で広く受け入れられている。ASST測定基準は、“ΔCP”デルタ曇り点であり、これは以下のように測定される:基燃料油の曇り点(CP)を測定する。検討するワックス沈降防止剤の組み合わせを、基燃料に添加し、サンプルを、測定したCPより7℃低い温度、すなわち、通常はドイツの冬期ディーゼル燃料に対する−13℃で16時間貯蔵する。目視により沈降したと判断されたワックスの量に注意を払う。次いで、燃料の底20%を取り、及びこの試料のCPを測定して、基燃料の値と比較する。ΔCPは、[基燃料のCP]−[添加した燃料のCP]の差である;従って、より大きいΔCPはより大きなワックス沈降の程度である。ΔCPの小さな値、好ましくは約0は、良好なワックス分散を示す。
【0037】
低温フィルター目詰まり点(“CFPP”)
CFPPは、標準的な工業試験であり、燃料油サンプルの低下した温度でフィルターを通過する能力を評価する。この試験は、“Jn. Of the Institute of Petroleum”, vol.52, No.510 (1996), p173-285において詳細に記載された手順により行われ、自動車ディーゼルにおける中間留分燃料油の低温流動性と関係づけるために設計された。要するに、試験すべき油の試料(40cm3)を、約1℃/分の平均冷却率を得るために、約−34℃に維持した浴中で冷却する。定期的に(上記曇り点から出発して各1℃で)、油を、その下端が試験すべき油の表面より下に配置する逆じょうごに取り付けられたピペットである試験機器を用いる間、規定の時間に細かい網目を通過する能力に関して試験する。じょうごの口を横切って引っ張られるのは、12mmの直径により定義された領域を有する350メッシュスクリーンである。周期的な試験を、ピペット上端に真空を適用することにより開始し、これにより、油の20cm3を示すマークまで、網目を介してピペット中に油が浸される。各成功した通過の後、油を即座にCFPPチューブに戻す。試験を、油が60秒以内にピペットを満たすことに失敗するまで、温度を各1℃づつ落としながら繰り返し、失敗の起こった温度を、CFPP温度として報告する。
【0038】
結果
燃料Xに基づいた燃料油組成物に行った試験結果を、以下の表1に示す。
試験の最初のセットにおいて、燃料油組成物の3つのグループを、220、290及び365ppmのそれぞれのEVE濃度で使用した。これら各3つのグループは、それぞれ0、50及び100ppmの濃度の清浄剤(B)を有する油を含み、及びこれら各油は、100ppmの参照WASA(Aref)又は本発明のWASA(A)を含んだ油を含んだ。従って、燃料Xに基づく18の油を試験した。
【0039】
【表1】

【0040】
右側の欄に示される結果は、ΔCPである。小さい値、例えば約0は、良好な性能を示し、一方より大きな値、例えば4から6℃は、乏しい性能を示す。これらは、清浄剤(B)が存在する場合、参照WASA(Aref)のワックス沈降防止性能がほとんど完全に失われていることを実証する。対照的に、本発明のWASA(A)を使用する場合、そのワックス沈降防止性能が、清浄剤(B)の存在下で十分に維持される。
燃料Xに基づいた燃料油組成物で行った第二のセットの試験結果を、以下の表2に示す。燃料Xに基づく全ての組成物は、ジドデシルフマレート:ビニルアセテートコポリマー(25ppm)、及びAPFC(25ppm)(両方とも低温流動性向上添加剤で知られる)を含んだ。
燃料油組成物の3つのグループを、それぞれ220、290及び365ppmのEVE濃度で使用した。
各これら3つのグループは、それぞれ0又は100ppmの清浄剤(B)、及び各0又は20ppmのポリエチレングリコールエステル(“PEGE”)低温流動性向上剤を有する油を含んだ。各油は、50ppmの参照WASA(Aref)又は本発明のWASA(A)を含んだ。従って、燃料Xに基づく24の油を試験した。
【0041】
【表2】

【0042】
2つの隣接した右側の欄に示す結果は、℃におけるCFPPの結果である。これらは、清浄剤(B)が存在しない場合において、参照WASA(Aref)を含む油のCFPPが、本発明のWASA(A)を含む油のCFPPよりもよりよいか又は匹敵することを実証する。しかしながら、これらは、清浄剤(B)が存在する場合において、CFPPの利点が消失すること、及び(Aref)の代わりに(A)を含むさらなるCFPPの利点が存在することも実証する。」

引用発明の認定
前記1の摘記(5)の段落【0033】〜【0040】には、引用文献1の実施例として、中間留分ディーゼル燃料(燃料X)に対し、EVE、清浄剤(B)、WASA(Aref)、WASA(A)をブレンドした中間留分燃料油組成物を調製し、その低温特性を測定した結果が表1として示されており、本発明のWASA(A)を使用する場合、そのワックス沈降防止性能が、清浄剤(B)の存在下で十分に維持されることが記載されている。
同【0038】には、この燃料油組成物におけるWASA(Aref)、WASA(A)の濃度は100ppmであることが記載されている。
同【0033】には、WASA(A)は、N,N−ジメチル−N,N−二水素化したアンモニウムクロライド(1モル)と、二水素化した牛脂アミン(1モル)、フタル酸無水物(1モル)及びナトリウムメトキシド(1モル)を反応させて製造した、2−(N',N'−二水素化した牛脂アミド)安息香酸の、N,N−ジメチルジ−二水素化した牛脂アンモニウム塩の形態にあるものであることが記載されており、前記1の摘記(3)の段落【0017】には、この形態のものは、以下の式により表されることが記載されている。
【化1】

(式中、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素化した牛脂に由来するアルキル基を表す)
これらの記載と、前記1の(1)で摘記した請求項1、3〜5、7、10の記載に着目すると、引用文献1から次の発明(以下「引用発明」という。)が認定できる。
「中間留分ディーゼル燃料油組成物の低温特性を向上させるための、前記燃料油組成物におけるワックス沈降防止剤の使用であって、前記ワックス沈降防止剤が、ポリカルボン酸の4級アンモニウム塩の形態にある少なくとも一つの油溶性極性窒素化合物であり、前記極性窒素化合物が以下の式により表され、
【化1】

(式中、R13及びR14はそれぞれ、水素化した牛脂由来のアルキル基を表す)、
前記ワックス沈降防止剤が燃料油組成物中100ppmの濃度で使用される、使用。」

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の【化1】におけるR13及びR14はそれぞれ、水素化した牛脂由来のアルキル基であり、その炭素原子数は12〜18の範囲内であるから、「8〜40個」を充足する。そうすると、引用発明の【化1】で表される極性窒素化合物は、本願発明の「式[NR2R13R14]X(式中、Rは、メチル、エチルまたはプロピル基を表し、R13は、8〜40個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基を表し、R14は、40個までの炭素原子を含有するヒドロカルビル基を表し、Xは、1価のカルボン酸アニオンを表す)」において、Rがメチル基である化合物に相当する。
(2)一致点
そうすると、本願発明と引用発明は、次の点で一致する。
「燃料組成物中におけるワックス沈降防止剤(WASA)の使用であって、
前記ワックス沈降防止剤が、カルボン酸の第四級アンモニウム塩の形態の油溶性極性窒素化合物を含み、カルボン酸の前記第四級アンモニウム塩が、式[NR2R13R14]X(式中、Rは、メチル、エチルまたはプロピル基を表し、R13は、8〜40個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基を表し、R14は、40個までの炭素原子を含有するヒドロカルビル基を表し、Xは、1価のカルボン酸アニオンを表す)を有する、使用。」
(3)相違点
一方、本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、「自動車燃料組成物が導入される、もしくは導入されることが意図される内燃エンジンまたはそのようなエンジンにより駆動される車両の動力出力を改善する目的」でワックス沈降防止剤が使用されるのに対し、引用発明では、「中間留分ディーゼル燃料油組成物の低温特性を向上させるため」にワックス沈降防止剤が使用される点。
(相違点2)
本願発明では、ワックス沈降防止剤が燃料組成物の重量基準で「150ppm〜2000ppm」の範囲内の濃度で使用されるのに対し、引用発明では、ワックス沈降防止剤が燃料油組成物中「100ppm」の濃度で使用される点。

4 相違点についての判断
(1)相違点1について
引用文献1には、ワックス沈降防止剤の作用効果として、燃料油の流動点(ゲル構造の形成や結晶ワックスの沈殿により、燃料の流動性が失われ始める温度)を低下させること、結晶化した際のワックス結晶の形状を板状ではなく針状とし、そのサイズを減少させること、燃料中でワックス結晶を懸濁状態に維持し、沈降を減少させ、結果として燃料ライン、ポンプ、スクリーン、フィルター等の閉塞の防止を助けることが記載されている(前記1の摘記(2)の段落【0002】〜【0003】参照)。そして、引用文献1の実施例では、中間留分ディーゼル燃料油組成物の低温特性評価試験として、アラルショートセディメントテスト(Aral Short Sediment Test,ASST)及び低温フィルター目詰まり点(CFPP)の測定を行い、所定のワックス沈降防止剤を添加した中間留分ディーゼル燃料油組成物は、ワックス沈降の程度が小さく、良好なワックス分散性を示すこと、またCFPP温度(フィルターが目詰まりし始める温度)がより低下することが示されている(前記1の摘記(5)の段落【0033】〜【0042】参照)。
引用文献1のこれらの記載を踏まえると、引用発明にいう「中間留分ディーゼル燃料油組成物の低温特性を向上させる」とは、低温でも結晶ワックスの発生や沈降を抑制し、フィルター等の閉塞を防止することを意味すると解される。そして、フィルター等の閉塞は車両の動力出力に悪影響を及ぼすため、フィルター等の閉塞防止が車両の動力出力改善につながることは、優先日当時の当業者の技術常識から明らかである。
そうすると、「中間留分ディーゼル燃料油組成物の低温特性を向上させるため」にワックス沈降防止剤を使用する引用発明において、当該ワックス沈降防止剤の使用が車両の動力出力改善の点でも有用であることを予測し、その目的で当該ワックス沈降防止剤を使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
なお、本願発明では、ワックス沈降防止剤(WASA)使用時の燃料組成物の温度が何ら特定されていないため、本願発明には、燃料組成物中に結晶ワックスやその沈降が生じ、それに伴うフィルター等の閉塞が発生し得るような低温条件下で使用される場合も包含される。そして、少なくともそのような条件下において、当業者は、ワックス沈降防止剤の使用が車両の動力出力改善の点でも有用であることを予測可能である。
(2)相違点2について
ア 構成上の容易想到性
引用文献1には、「ワックス沈降防止剤として効果のある四級アンモニウム化合物の形態にある少なくとも一つの極性窒素化合物(A)の量は、燃料油の質量に基づいて、典型的には、10から500ppm、好ましくは20から250ppm、より好ましくは20から150質量ppmである。」との記載がある(前記1の摘記(4)の段落【0030】参照)。
そうすると、引用発明において、引用文献1の当該箇所の記載に基づき、燃料油組成物中のワックス沈降防止剤の濃度を「100ppm」から変化させ、より好ましくとされている量の上限に着目し150ppmとし、本願発明の相違点2に係る構成を充足する濃度とすることは、技術の具体的適用に当たり当業者が適宜設計変更し得ることである。
イ 効果の検討
本願発明において、燃料組成物中のワックス沈降防止剤の濃度が「150ppm〜2000ppm」と特定されることによる、本願発明の効果について検討する。
燃料組成物中のワックス沈降防止剤の濃度に関し、本願明細書には、段落【0045】に「ワックス沈降防止剤は、燃料組成物の重量基準で、好ましくは、0.001重量%(10ppm)〜0.2重量%(2000ppm)、より好ましくは0.010重量%(100ppm)〜0.1重量%(1000ppm)からの範囲内、さらにより好ましくは0.010重量%(100ppm)〜0.05重量%(500ppm)の範囲内、特に0.01重量%(100ppm)〜0.03重量%(300ppm)の範囲内の濃度で燃料組成物中に使用される。」との記載があるのみで(前記第2の2摘記(3)参照)、ワックス沈降防止剤が具体的にどのような作用機序で動力出力の改善に寄与するのか、ワックス沈降防止剤の濃度によって動力出力がどのように変化するのかは、本願明細書に何ら記載されていない。また、本願の実施例でも、ワックス沈降防止剤(Infineum社から市販されているR446)の濃度が150ppmである態様(候補燃料C及びD)が開示されるのみで(前記第2の2摘記(5)の表1参照)、ワックス沈降防止剤の濃度を150ppmから種々変化させた場合の動力出力の変化については、何ら確認されていない。そのため、「150ppm〜2000ppm」の全範囲において、動力出力の点で本願発明が格別顕著な効果を奏するのかは明らかでなく、その数値範囲に格別の臨界的意義を見いだすことはできない。
したがって、前記アにおいて検討した構成上の容易想到性が阻害されるということはできない。

5 請求人の主張の検討
(1)引用文献1記載の発明に対する反論の検討
請求人は、審判請求書において、「引用文献1は、前記カルボン酸の第四級アンモニウム塩を含むWASAを150ppm〜2000ppmの濃度で使用することも、エンジンの加速性能及び出力性能の改善のために使用することを具体的には開示しない。」(第5頁第13〜16行)、「本願発明は、車両の加速性能または動力出力を改善する目的で、式[NR2R13R14]Xを有するカルボン酸の前記第四級アンモニウム塩を含むワックス沈降防止剤を150ppm〜2000ppmの濃度で使用するという構成を有する点で、車両の加速性能または動力出力を改善する目的でワックス沈降防止剤を150ppm〜2000ppmの濃度で使用することを具体的に開示しない引用文献1に記載の発明と相違する。」(第6頁第8〜13行)等と主張する。
しかしながら、前記4(1)アで検討したとおり、車両の動力出力を改善する目的で所定のワックス沈降防止剤を使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、前記4(2)ア〜イで検討したとおり、ワックス沈降防止剤を150ppm〜2000ppmの濃度で使用することは、設計変更により当業者が適宜なし得ることであり、当該濃度の数値範囲が格別の臨界的意義を有し、格別顕著な効果を奏するとも認められない。
したがって、請求人の前記主張は採用できない。
(2)補正案について
請求人は、審判請求書の「(4)むすび」において、「なお、出願人は、必要に応じて、段落0066を根拠として前記燃料組成物がさらに中間蒸留物流動性改善剤(MDFI)添加剤を含有することを限定する準備がありますので、補正の機会を頂けますと幸いです。」(第7頁第12〜14行)と主張する。
そこで、本願発明において、「前記燃料組成物がさらに中間蒸留物流動性改善剤(MDFI)添加剤を含有する」点がさらに特定された場合について、予備的に検討する。
引用文献1の実施例で低温特性の評価に供される中間留分燃料油組成物は、ワックス沈降防止剤WASA(A)の他に、エチレン不飽和エステルコポリマー(EVE)を含有する(前記1の摘記(5)、特に段落【0035】及び表1〜2参照)。このエチレン不飽和エステルコポリマー(EVE)は、引用文献1の「ワックス沈降防止剤として効果のある極性窒素化合物を、他の付加的な低温流動性向上剤と組み合わせて使用することは、本技術においてごく普通である。適切な物質は、当業者にとって公知であり、及び例えば、エチレン−不飽和エステルコポリマー、例えばエチレン:ビニルアセテートコポリマー及び同類のポリマーを含む。」との記載(前記1の摘記(4)の段落【0031】参照)を踏まえれば、本願発明でさらに特定される「中間蒸留物流動性改善剤(MDFI)添加剤」に相当するといえる。
そうすると、本願発明において、「前記燃料組成物がさらに中間蒸留物流動性改善剤(MDFI)添加剤を含有する」点がさらに特定されたとしても、当該の点は、本願発明と引用文献1の記載から認定できる発明における新たな相違点とはならない。
したがって、本願発明において、「前記燃料組成物がさらに中間蒸留物流動性改善剤(MDFI)添加剤を含有する」点がさらに特定されたとしても、その発明は引用文献1の記載から当業者が容易に想到し得るものであるから、補正案の提案は採用しなかった。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 門前 浩一
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-07-13 
結審通知日 2022-07-14 
審決日 2022-07-26 
出願番号 P2018-561230
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 関根 裕
田澤 俊樹
発明の名称 自動車燃料組成物中におけるワックス沈降防止添加剤の使用  
代理人 宮前 徹  
代理人 新井 規之  
代理人 山本 修  

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