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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01B
管理番号 1392615
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-13 
確定日 2022-12-08 
事件の表示 特願2018− 64502「作業車両」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月10日出願公開、特開2019−170309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月29日に出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 1月21日付け :拒絶理由通知書
(同年 同月26日発送)
同年 3月22日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月 6日付け :拒絶査定
(同年 同月18日発送)
同年 8月13日 :審判請求書、上申書の提出
令和4年 6月 3日 :応対記録
同年 6月 6日付け :拒絶理由通知書
(同年 同月 7日発送)
同年 8月 3日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
以下、令和4年8月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面に基いて審理する。
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
走行部を有する走行機体と、その走行機体上に配置される運転席と、測定対象物までの距離を3次元にて測定可能な距離センサと、前記運転席の上部を覆うルーフとが備えられ、
前記距離センサは、前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの前部に前下がり姿勢にて配置されており、
前記距離センサは、前記ルーフの最高部位を通る最高位線よりも低い位置に配置されている作業車両。

【請求項2】
走行部を有する走行機体と、その走行機体上に配置される運転席と、測定対象物までの距離を3次元にて測定可能な距離センサと、前記運転席の上部を覆うルーフとが備えられ、
前記距離センサは、前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置されており、
前記距離センサは、前記ルーフの最高部位を通る最高位線よりも低い位置に配置されている作業車両。

【請求項3】
走行部を有する走行機体と、その走行機体上に配置される運転席と、測定対象物までの距離を3次元にて測定可能な距離センサと、前記運転席の上部を覆うルーフとが備えられ、
前記距離センサは、前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置されており、
前記走行機体の後部には、作業装置が上昇位置と下降位置との間で昇降自在に備えられ、
前記距離センサは、前記走行機体の後方側を含む領域を測定範囲とするように配置され、前記距離センサの測定範囲は、上下方向での中心線が上昇位置の前記作業装置よりも上方側に位置するように設定されている作業車両。

【請求項4】
前記距離センサは、使用位置と非使用位置との間で位置変更可能なアンテナユニットと一体的に備えられている請求項1に記載の作業車両。

【請求項5】
前記距離センサは、キャビンフレームを構成する後側支柱に支持されている請求項2又は3に記載の作業車両。」


第3 当審拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶理由の概要は、整理すると以下のとおりである。

明確性
令和4年8月3日付け手続補正書による補正前(令和3年3月22日付け手続補正書による補正後)の本願請求項5及び6に係る発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

実施可能要件
令和4年8月3日付け手続補正書による補正前(令和3年3月22日付け手続補正書による補正後)の本願請求項5及び6に係る発明について、本願明細書における発明の詳細な説明は、実施可能な説明を記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

新規性進歩性
令和4年8月3日付け手続補正書による補正前(令和3年3月22日付け手続補正書による補正後)の本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同条同項の規定により特許を受けることができない。
また、令和4年8月3日付け手続補正書による補正前(令和3年3月22日付け手続補正書による補正後)の本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1 引用文献1又は2
・請求項2 引用文献1又は2
・請求項3 引用文献1ないし3
・請求項4 引用文献1又は2
・請求項5 引用文献1又は2
・請求項6 引用文献1ないし3

<引用文献等一覧>
・引用文献1 特表2010−510918号公報
・引用文献2 米国特許出願公開第2010/63681号明細書
・引用文献3 国際公開第2015/147149号


第4 引用文献の記載事項、引用文献に記載された発明
事案に鑑み、当審による拒絶の理由で引用した引用文献1ないし3についてみる。

1 引用文献1
(1)記載事項
引用文献1には、次の記載がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。

ア 明細書
(ア)「【0002】
トラクター、コンバインまたは飼料ホッパーのような、特に農業用自動車の運転者は、通常自動車のハンドル操作のほかに、多量な他の任務、たとえば放出アームの操縦、穀物タンク充填の監視、農場噴霧器、鋤または打穀作業の調整の制御も課されている。」

(イ)「【0042】
図1の農業用自動車1は、以下の個別には記号表示されない装置を含む:前進用の駆動装置、前進方向を変化させるためのハンドル装置、前進速度を変化させるための加速装置およびブレーキ装置、自動車前方の前進方向内にある目立つ対象構造3の画像情報を把握するために、並びに自動車1と対象構造3との間の距離がクロックされ繰り返し求めるために形成されている走時カメラ2、およびハンドル装置用および加速装置およびブレーキ装置用に、画像情報および距離変化から操縦命令を作り出すための評価装置および処理装置。
【0043】
走時カメラ2は、図1に提示された側面図で、視角β約15°ないし40°を有する視範囲4を持つ。視角βは、農業用自動車1の目標決定に依存しており、構成尺度によって予め与えられている。こうして、たとえば農業用自動車1をとうもろこし収穫のために投入の際には、視角β=15°で十分であり、一方植物列をたどる際、たとえば分離した列を認識できるようにするためには、より大きい視角βが望ましい。」

(ウ)「【0048】
位相敏感なセンサにより、このように「タイム・オヴ・フライト」原理に従い、明度値と並んで、対象構造までの距離aに関する情報も獲得される。走時カメラ2に組み込まれているのが有利なクロック発振器が予め与える短い時間間隔で、この情報は現時点で活性化され、この原理で評価装置および処理装置に、常に自動車1前方の空間の3次元画像が作り出される。自明なように、ここにおいて時間ユニット当たりのクロックは、同じ時間ユニットに自動車1の過ぎた道程区間より何倍も大きい。」

(エ)「【0060】
農業用自動車前方の空間の3次元プロファイルは、たとえばさらに、自動車に結合された工具の適合を地面プロファイルに行うことに利用される。こうして、コンバインのスリッタ・ローラなどは、地面接触または低い障害物との接触、およびこれによる損傷を避けるよう、自動的に高さで調整されることができる。スリッタ・ローラは、下底まで最適な間隔が保たれるよう、高さにおいて常に調整される。
【0061】
本発明は構築法も含み、この場合走時カメラは、走行方向での地面区分ばかりでなく、地面区分の反対側の、または走行方向側方の3次元プロファイルも獲得されるように向けられている。それで、たとえば近隣の自動車が場所、距離および/または相対速度に関して監視されるのが有利であり、この基盤で操縦される自動車の走行速度および走行方向の適合がなされる。」

なお、上記段落【0061】における「走時カメラは、走行方向での地面区分ばかりでなく、地面区分の反対側の、または走行方向側方の3次元プロファイルも獲得されるように向けられている。」との記載の前半部分は、引用文献1が外国語出願の翻訳文であること及び技術常識をふまえると、「走時カメラは、走行方向での地面区分ばかりでなく、走行方向の反対側の地面区分の、・・・」との趣旨であると理解される。

イ 図面における図示
図1には、次の図示がある。




ウ 図より看取される事項
上記図1より、引用文献1に記載される上記に指摘した事項及び技術常識もふまえると、次の事項が看取される。
(ア)トラクターである農業用自動車1は、前輪及び後輪を有する走行に必須の躯体部分と、走行に必須の躯体部分から上方に突出する人が乗降可能な部分とを有し、人が乗降可能な部分の上には屋根が設けられている。
(イ)前方用の走時カメラ2は、人が乗降可能な部分の屋根の前部に、前下がり姿勢で配置される。
(ウ)前方用の走時カメラ2の側面図における視角βの下端は、走行に必須の躯体部分の前方部分の上端近傍を通過する。

(2)記載された発明
「3次元画像」と「3次元プロファイル」とは同じであることが明らかであることを踏まえ、「3次元画像」に表記を統一して整理すると、上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「前輪及び後輪を有する走行に必須の躯体部分と、走行に必須の躯体部分から上方に突出する人が乗降可能な部分とを有し、人が乗降可能な部分の上には屋根が設けられている、トラクターである農業用自動車1であって、
前方用の走時カメラ2を有し、
高さが調整される、自動車に結合された工具を有し、
前方用の走時カメラ2は、人が乗降可能な部分の屋根の前部に、前下がり姿勢で配置され、
走時カメラ2の側面図における視角βは、目標決定に依存して与えられ、
前方用の走時カメラ2の側面図における視角βの下端は、走行に必須の躯体部分の前方部分の上端近傍を通過し、
走時カメラは、「タイム・オヴ・フライト」原理に従い、対象構造までの距離に関する情報を獲得し3次元画像を作り出すものであり、
走時カメラは、走行方向での地面区分ばかりでなく、走行方向の反対側の地面区分の3次元画像も獲得されるように向けられてよく、
近隣の自動車が場所、距離および/または相対速度に関して監視されるのが有利である、
トラクターである農業用自動車1。」

2 引用文献2
引用文献2は、引用文献1の英文のファミリ文献であり、引用文献1について上述したと同様の記載(当審注;英文による)及び図示がある。
また、引用文献1の段落【0061】に対応する引用文献2の段落【0075】には、次の記載がある。
「【0075】 The invention also includes embodiments where the time-of-flight camera is directed such that a three-dimensional depiction not only of the terrain in the direction of travel, but also of terrain behind the vehicle or at right angles to the direction of travel. …」
(当審仮訳;走時カメラを、走行方向の地面の3次元画像のみでなく、車両後方の地面の3次元画像を獲得するように配置する実施形態、あるいは走行方向右側の地面の3次元画像を得るように配置する実施形態もまた、本発明に含まれる。・・・)
上記仮訳における「車両後方」及び「地面」を、引用文献1における「走行方向の反対側」及び「地面区分」との表記に合わせて整理すると、引用文献2には、引用発明1と同じ発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

3 引用文献3
引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。
「[0012] 衛星測位システムを利用して自律走行を可能とした自律走行作業車両1をトラクタとし、自律走行作業車両1の後部には作業機としてロータリ耕耘装置24を装着した実施例について説明する。
・・・・・
[0020] また、トラクタ機体後方に作業機装着装置23を介して作業機としてロータリ耕耘装置24が昇降自在に装設させて耕耘作業を行うように構成している。
・・・・・
[0030] また、自律走行作業車両1には障害物検知手段として障害物センサ41やカメラ42が配置されて制御装置30と接続され、障害物に当接しないようにしている。
・・・・・
[0031] また、自律走行作業車両1のルーフには前方や作業機を撮影するカメラ42が搭載され制御装置30と接続されている。」

[図1]



上記図1より、後部に作業機としてのロータリ耕耘装置24を装着し、ルーフの前部に前方用のカメラ42を前下がり姿勢で配置したトラクタにおいて、ルーフの後部に、後方用のカメラ42が、後下がり姿勢で配置される様子が、看取される。


第5 対比・判断
事案に鑑み、本願発明3について、対比・判断を行う。

1 引用発明1を主たる引用発明とした対比
本願発明3と引用発明1とを対比する。
引用発明1において、「前輪及び後輪を有する走行に必須の躯体部分」、「走行に必須の躯体部分から上方に突出する人が乗降可能な部分」、及び「人が乗降可能な部分の上」に設けられた「屋根」は、本願発明3において、「走行部を有する走行機体」、「その走行機体上に配置される運転席」、及び「前記運転席の上部を覆うルーフ」に、それぞれ相当する。
引用発明1における「トラクターである農業用自動車1」は、本願発明3における「作業車両」に相当する。
引用発明1において、「「タイム・オヴ・フライト」原理に従い、対象構造までの距離に関する情報を獲得し3次元画像を作り出すもの」である「走時カメラ」は、本願発明3において、「測定対象物までの距離を3次元にて測定可能な距離センサ」に相当する。
引用発明1において、「高さが調整される、自動車に結合された工具」を有する構成は、高さが調整される範囲内で工具の位置が上昇位置から下降位置まで昇降自在であることが明らかであることをふまえると、本願発明3において、「前記走行機体の後部には、作業装置が上昇位置と下降位置との間で昇降自在に備えられ」る構成とは、「作業装置が上昇位置と下降位置との間で昇降自在に備えられ」る構成という点で、共通する。
引用発明1において、「走時カメラ」が「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像も獲得されるように向けられ」る構成は、本願発明3において、「前記距離センサは、前記走行機体の後方側を含む領域を測定範囲とするように配置され」る構成に、相当する。

以上を整理すると、引用発明1と本願発明3とは、
「走行部を有する走行機体と、その走行機体上に配置される運転席と、測定対象物までの距離を3次元にて測定可能な距離センサと、前記運転席の上部を覆うルーフとが備えられ、
作業装置が上昇位置と下降位置との間で昇降自在に備えられ、
前記距離センサは、前記走行機体の後方側を含む領域を測定範囲とするように配置される作業車両。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
「作業装置」が「上昇位置と下降位置との間で昇降自在に備えられ」る位置に関し、
本願発明3においては、「前記走行機体の後部」と特定されているのに対し、
引用発明1においては、「高さが調整される、自動車に結合された工具」の位置について、トラクターの「躯体部分の後部」とは特定されていない点。

<相違点2>
「後方側を含む領域を測定範囲」とする「距離センサ」の配置及び設定に関し、
本願発明3においては、「前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置されて」いること、及び、「前記距離センサの測定範囲は、上下方向での中心線が上昇位置の前記作業装置よりも上方側に位置するように設定されている」ことが特定されているのに対し、
引用発明1においては、具体的な配置及び設定が特定されていない点。

2 相違点についての判断
(1)相違点1
上記相違点1について検討する。
「工具」としての作業機を、トラクタの機体の後方に、昇降自在に設けることは、たとえば上記第4の3に摘記した引用文献3の段落[0012]及び[0020]の記載にも示されるように、通常行われている慣用技術であって、「トラクター」である引用発明1において採用することに阻害要因があるものではない。
また、引用発明1において「トラクター」に結合される「工具」として、機体の後方に昇降自在に設ける作業機という慣用技術を採用したことによる効果も、引用文献1、及び引用文献3の記載、及び農業機械の技術分野における技術常識から、事前に予測される範囲を超えるものではない。
したがって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明3の構成を選択することは、当業者が適宜になし得た設計事項程度である。

(2)相違点2
ア 「前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置」する点について
上記相違点2のうち、「後方側を含む領域を測定範囲とする距離センサ」を、「前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置」する点について、検討する。
引用発明1において、「前方用の走時カメラ2」を「人が乗降可能な部分の屋根の前部に、前下がり姿勢で配置」していることからすれば、「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を獲得するための「走時カメラ」についても、人が乗降可能な部分の屋根の後部に、後下がり姿勢で配置する蓋然性が高い。
仮にそうでないとしても、「前方用の走時カメラ2」の配置をふまえて、「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を獲得するための「走時カメラ」を、人が乗降可能な部分の屋根の後部に、後下がり姿勢で配置することは、「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を獲得するうえで無理がなく、かつ「前方用の走時カメラ2」の配置とも整合する配置であるから、当業者が自然に選択し得た設計事項程度である。
また、上記第4の3に摘記した引用文献3の[図1]の図示を参照しても、ルーフの前部に前方用のカメラ42を前下がり姿勢で配置したトラクタにおいて、ルーフの後部に、後方用のカメラ42が、後下がり姿勢で配置することは、自然な選択であるところ、「前方用の走時カメラ2」を「人が乗降可能な部分の屋根の前部に、前下がり姿勢で配置」している引用発明1において、「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を獲得するための「走時カメラ」を、人が乗降可能な部分の屋根の後部に、後下がり姿勢で配置することは、当業者が自然に選択し得た設計事項程度である。
したがって、本願発明3における「前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置」する構成に相当する構成は、引用発明1において採用している蓋然性が高いものであり、また引用発明1において当業者が自然に選択し得た設計事項程度のものである。

イ 「測定範囲は、上下方向での中心線が上昇位置の前記作業装置よりも上方側に位置するように設定」する点について
上記相違点2のうち、「後方側を含む領域を測定範囲とする距離センサ」の「測定範囲は、上下方向での中心線が上昇位置の前記作業装置よりも上方側に位置するように設定」する点について、検討する。
引用発明1において、「走時カメラ」の「側面図における視角βは、目標決定に依存して与えられ」るものであり、目的とすべき測定対象に応じて適宜に設定されるものである。
ここで、引用発明1において、「工具」としての作業機を、トラクタの機体の後方に、昇降自在に設けることは、上記(1)において指摘したとおり、機体の後方に昇降自在に設ける作業機という慣用技術を採用することにより、当業者が適宜に選択し得た設計事項であるところ、上昇位置において「工具」が「走時カメラ」の上下視角の半分以上を覆うような設定を行えば、「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を得るうえで、また「近隣の自動車が場所、距離および/または相対速度に関して監視される」うえで、後方向きの「走時カメラ」の上下視角の半分以上を利用することができなくなることは明らかである。
そうすると、引用発明1において、後方向きの「走時カメラ」について、「側面図における視角β」を目的とすべき測定対象に応じて適宜に設定することを考慮して、機体の後部に設けた「工具」が上昇位置にある場合でも「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を適切に得ることができ、また「近隣の自動車が場所、距離および/または相対速度に関して監視される」ように、「走時カメラ」の「側面図における視角β」の中心線が上昇位置にある「工具」よりも上方側に位置するように姿勢及び視野範囲の設定を行い、もって本願発明3における「前記運転席への乗降部よりも上方側であって、前記ルーフの後部に後下がり姿勢にて配置」されている構成に相当する構成とすることは、当業者が適宜に選択し得た設計事項程度である。
そして、そうしたことによる効果も、事前に予測される範囲を超えるものではない。

(3)小括
以上のとおり、本願発明3は、引用発明1、及び引用文献3に示される慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 引用発明2を主たる引用発明とした対比・判断
上記第4の2に示したとおり、引用文献2には、引用発明1と同様の引用発明2が記載されており、本願発明3と引用発明2とを対比すると、上記1に示した本願発明3と引用発明1との対比と同様となる。
そして、本願発明3と引用発明2との相違点についての判断は、上記2に示した本願発明3と引用発明1との相違点についての判断と同様となる。
したがって、本願発明3は、引用発明2、及び引用文献3に示される慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について
請求人は令和4年8月3日付け意見書において、相違点2に係る本願発明3の構成のうち、「距離センサ」について、「測定範囲は、上下方向での中心線が上昇位置の前記作業装置よりも上方側に位置するように設定」する構成は、上下動可能な作業装置がある後方側を測定範囲としつつ、作業装置にて作業を行いながらも大きな測定範囲を確保するという技術的課題があって初めて想到し得る構成であるから、上記2(2)イの判断は後知恵に基づくものであり、本願発明3は進歩性を有する旨を主張している。
しかしながら、引用文献1において、走時カメラの側面図における視角βは目標決定に依存して与えられること(段落【0043】)、高さ調整可能な工具が結合されること(段落【0060】)、走時カメラにより走行方向の反対側の地面区分の3次元画像を得ること、及び近隣の自動車を場所、距離および/または相対速度に関して監視すると有利であること(段落【0061】)が記載または示唆されていることからすれば、引用発明1において走行方向の反対側を測定する走時カメラについて具体的な設定を行ううえで、機体の後部に設けた「工具」が上昇位置にある場合でも「走行方向の反対側の地面区分の3次元画像」を適切に得ることができ、また「近隣の自動車が場所、距離および/または相対速度に関して監視される」ように、「走時カメラ」の「側面図における視角β」の中心線が上昇位置にある「工具」よりも上方側に位置するように姿勢及び視野範囲の設定を行うことは、上記2(2)イに指摘したとおり、当業者であれば適宜に選択し得た設計事項程度であり、かつ、そうしたことによる効果も事前に予測される範囲を超える格別なものではない。
したがって、請求人の上記主張について検討しても、本願発明3の進歩性について、上記1ないし3の対比・判断を変更すべき事情は見いだせない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明3は、引用発明1又は引用発明2、及び引用文献3に示される慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-06 
結審通知日 2022-10-11 
審決日 2022-10-24 
出願番号 P2018-064502
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 藤脇 昌也
有家 秀郎
発明の名称 作業車両  
代理人 種村 一幸  
代理人 仲石 晴樹  

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