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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
管理番号 1392674
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-04 
確定日 2022-12-15 
事件の表示 特願2017− 78820「電気的接続装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018−179721〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月12日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

令和 3年 1月28日付け:拒絶理由通知書
同年 3月30日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年7月 6日 :原査定の謄本の送達)
同年10月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 4年 6月 2日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 2日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明について
本願の請求項1〜4に係る発明は、令和4年8月2日に提出された手続補正書により補正された請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。以下、請求項1に記載された事項により特定される発明を「本願発明」という。

「【請求項1】
被検査体の電気的特性の測定に使用される電気的接続装置であって、
測定時に先端部が前記被検査体と接触するプローブと、
前記プローブが貫通するトップ部、前記トップ部よりも先端部側に配置されて前記プローブが貫通するボトム部、及び前記トップ部と前記ボトム部との間に配置されて前記プローブが貫通するガイド部を有するプローブヘッドと
を備え、
前記プローブが、前記トップ部と前記ガイド部との間で湾曲した状態で保持され、
前記先端部が前記被検査体と接触することにより前記プローブが前記トップ部と前記ガイド部との間で座屈し、
少なくとも前記プローブが座屈した状態における前記プローブの前記ボトム部を貫通している部分から前記ガイド部を貫通している部分までの連続した部分が、前記プローブの座屈する部分よりも剛性を高くした高剛性部分であり、
前記ボトム部の主面の面法線方向からみて前記ガイド部と前記ボトム部の前記プローブが通過するガイド穴の位置が一致し、前記高剛性部分において、前記プローブは湾曲せずに直線形状であり、
前記先端部が前記被検査体と接触した場合に前記プローブの座屈する部分は撓むが前記高剛性部分は撓まないように、前記プローブの座屈する部分と前記高剛性部分との剛性の差が設けられ、
前記高剛性部分は、前記ガイド部の前記ガイド穴の中心線と平行に前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴の内部を摺動し、前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴と接触する場合に前記プローブの側面が前記ガイド部の前記ガイド穴の内壁面と面接触する硬さである
ことを特徴とする電気的接続装置。」


第3 当審において通知した拒絶の理由
当審において令和4年6月2日付けで通知した拒絶の理由のうち、本願の請求項1に係る発明についての拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

進歩性の欠如
本願の令和3年3月30日付け手続補正により補正された請求項1に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び下記の引用文献2に記載されているような周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1.国際公開第2014/087906号
引用文献2.国際公開第2004/072661号


第4 当審の判断
当審は、以下に詳述するとおり、本願発明は当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。

1 引用発明等の認定
(1) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1(国際公開第2014/087906号)には、以下の記載がある。(下線は当審が引いたものである。)

「[0001] 本発明は、電気的接触子に係り、更に詳しくは、弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子、例えば、半導体デバイスの電気的特性試験に用いられるコンタクトプローブの改良に関する。
[0002] 半導体デバイスの電気的特性試験は、配線基板上に多数のコンタクトプローブが形成されたプローブカードに半導体ウエハを近づけることにより、各コンタクトプローブを半導体ウエハ上の電極パッドと接触させ、コンタクトプローブを介してテスト信号を入出力することによって行われる。」

「[0012] 本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ガイド板と干渉することによる削り屑の発生を抑制することができる電気的接触子を提供することを目的とする。また、本発明は、ガイド板と干渉することにより、電気的接触子に捻れが生じるのを抑制することを目的とする。」

「[0036]実施の形態1.
図1及び図2は、本発明の実施の形態1によるコンタクトプローブ101の一構成例を示した外観図である。図1は、コンタクトプローブ101の斜視図であり、図2の(a)及び(b)は、コンタクトプローブ101の異なる側面をそれぞれ示した側面図である。このコンタクトプローブ101は、半導体デバイスの電気的特性試験に用いられるプローブであり、電気的接触子の一例として示されている。
[0037] 上記コンタクトプローブ101は、検査対象物に対し垂直に配置される垂直型プローブであり、略直線状の細長い形状からなる本体部1と、本体部1の先端に形成されたコンタクト部2と、本体部1の根元端に設けられた端子部6とにより構成される。本体部1は、3つの金属層11〜13からなる積層構造を有し、各金属層11〜13は、いずれも積層面が本体部1の長手方向に沿って延び、本体部1の根元端から先端まで形成されている。また、金属層11〜13は順に積層形成され、中間の金属層12が外側の金属層11,13により挟まれている。コンタクト部2は、検査対象物に当接させる当接部であり、本体部1の先端から突出するように形成されている。端子部6は、本体部1の根元端の端面に設けられている。
[0038] 本体部1は、オーバードライブ時に弾性変形する細長い形状の弾性変形部4と、その両端に形成された先端部3及び根元部5とにより構成される。先端部3の端部には、コンタクト部2が形成され、根元部5の端部には、端子部6が形成されている。端子部6は、図示しない配線基板に固着され、弾性変形部4は、その長手方向の圧縮力が加えられることにより、容易に座屈変形する形状からなる。このため、オーバードライブ時には、検査対象物からの反力に応じて、弾性変形部4が座屈変形し、コンタクト部2が根元部5側へ後退する。
[0039] 弾性変形部4は、空隙を挟んで配置された3つのビーム部41〜43により形成されている。各ビーム部41〜43は、いずれも細長い板状体からなり、互いの主面を対向させて配置されている。また、これらのビーム部41〜43の長手方向の一端は、先端部3により互いに結合され、他端は根元部5により互いに結合されている。」

「[0045] 図3は、図1のコンタクトプローブ101の一構成例を示した断面図であり、図中の(a)には、図2のA−A切断線により先端部3を切断した場合の断面が示され、(b)には、図2のB−B切断線により弾性変形部4を切断した場合の断面が示されている。なお、A−A切断線及びB−B切断線は、いずれもコンタクトプローブ101の長手方向と直交する切断線である。
[0046] 先端部3及び弾性変形部4は、いずれも金属層11〜13により構成され、金属層11〜13は、いずれも矩形形状の断面を有している。また、中間の金属層12は、外側の金属層11,13よりも厚い。
[0047] 弾性変形部4を構成するビーム部41〜43は、いずれも矩形形状の断面を有し、当該断面は、厚みが幅に比べて小さく、厚み方向に沿って等間隔で整列配置されている。また、各ビーム部41〜43の断面は、厚みが略同一であり、幅も略同一である。つまり、これらの断面は、略同一の形状及びサイズからなる。
[0048] このような構成を採用することにより、オーバードライブ時の押圧力を各ビーム部41〜43へ均等に分散し、互いに略同一の湾曲形状となるように、ビーム部41〜43をそれぞれ変形させることができる。その結果、弾性限界内において、より大きなオーバードライブ量を確保することができるとともに、コンタクトプローブ101が傾くのを抑制することができる。」

「[0053] また、先端部3の外周面上には薄膜層14が形成されている。薄膜層14には、先端部3を構成するニッケル合金よりも更に耐摩耗性特性の良好な金属材料、例えば、ロジウム(Rh)が用いられる。また、薄膜層14は、例えば、電気めっき処理により形成されるめっき層からなる。この様な薄膜層14を形成することにより、先端部3の側面から導電性の削り屑が発生するのを抑制することができる。また、薄膜層14を形成することにより、金属層11〜13の段差の頂部を鈍らせ、先端部3の側面の変化を緩やかにすることにより、削り屑の発生を更に効果的に抑制することができる。なお、この例では、製造工程上の都合により、外側の金属層11の主面には、薄膜層14が形成されていないが、上記主面を含む先端部3の側面の全てに薄膜を形成してもよい。」

「[0057] 図中の(a)には、配線基板110と半導体ウエハ200とを近づけて、コンタクト部2が電極端子201に接触し始めたときの状態、つまり、オーバードライブ直前の様子が示されている。このとき、コンタクトプローブ101は弾性変形しておらず、緩やかに湾曲する予め定められた形状になっている。」

「[0060] 図5は、図4の先端部3の断面形状と貫通孔121との関係を示した図である。図中の(a)は、本発明と比較すべき比較例を示した図であり、(b)及び(c)は、本実施の形態によるコンタクトプローブ101の一例を示した図である。
[0061] 貫通孔121は、矩形形状の開口を有し、その内面122は、先端部3の外面と略平行となるように対向している。つまり、湾曲方向N及びその反対方向N'については、中間の金属層12の端面と対する2面と、湾曲方向Nと交差する方向については、外側の金属層11,13と対向する2面を備えている。
[0062] 図中の(a)には、本発明と比較すべき先端部3の一例が示されている。この先端部3は、湾曲方向Nにおいて、外側の金属層13が中間の金属層12よりも突出している。この場合、貫通孔121内において、先端部3に捻れが生じ易く、ガイド板120によるコンタクトプローブ101の先端の位置決め精度を低下させる。また、コンタクトプローブ101に捻れが生じなかったとしても、外側の金属層13の厚みは中間の金属層12に比べて薄く、摺動時の接触面積が小さくなることにより、削り屑が生じ易くなる。
[0063] 上述した通り、オーバードライブ時には、弾性変形部4の湾曲方向N又はその反対方向N'に向けて、先端部3が貫通孔121の内面122に押圧された状態で摺動する。このため、図中の(a)のように、コンタクトプローブ101の中心から遠い外側の金属層11が、中心を含む中間の金属層12よりも突出している場合、貫通孔121内において、先端部3に捻れが生じ易い。また、コンタクトプローブ101に捻れが生じることにより、摺動時の接触面が小さくなり、削屑が生じ易くなる。
[0064] 図中の(b)には、図2(a)と同様、十字形状の断面を有する先端部3が示されている。この先端部3は、中間の金属層12が外側の金属層11,13よりも突出するように形成されている。このため、オーバードライブ時に、湾曲方向N又はその反対方向N'において、中間の金属層12の端面と貫通孔121の内面122とが、互いに正対して摺動する。従って、このような摺動により、コンタクトプローブ101が傾いたり、捻れたりすることはなく、削屑の発生も抑制することができる。」

「[0084]実施の形態2.
実施の形態1では、ガイド板120により支持される先端部3が十字形状の断面を有するコンタクトプローブ101について説明した。これに対し、本実施の形態では、ガイド板130により支持される根元部5が、十字形状の断面を有するコンタクトプローブ102について説明する。
[0085] 図8は、本発明の実施の形態2によるコンタクトプローブ102の一構成例を示した外観図であり、図中の(a)及び(b)には、コンタクトプローブ102の異なる側面がそれぞれ示されている。図9は、図8のコンタクトプローブ102の一構成例を示した断面図であり、図8のC−C切断線により根元部5を切断した場合の断面が示されている。
[0086] 本実施の形態によるコンタクトプローブ102を図2のコンタクトプローブ101(実施の形態1)と比較すれば、根元部5の構成が異なるが、その他の構成は同一であり、重複する説明は省略する。また、図8に示した根元部5のC−C切断面は、その形状及び材質が、図3(a)に示した先端部3のA−A切断面の場合と同一である。」

「[0090] 図10は、図8のコンタクトプローブ102を用いて電気的特性試験を行うときの様子を模式的に示した説明図である。なお、図中の配線基板110及びガイド板120,130は、プローブカードを構成する周知の構成要素であり、半導体ウエハ200は、検査対象物の一例である。
[0091] 端子部6は、配線基板110に形成されたプローブ電極111と対向するように配置されている。また、根元部5は、長手方向に移動可能になるように、ガイド板130によって支持されている。このため、オーバードライブ時における電極端子201からの反力によって、根元部5が長手方向に僅かに移動することにより、端子部6をプローブ電極111に当接させることができる。つまり、コンタクトプローブ102を配線基板110に固着することなく、端子部6をプローブ電極111と確実に導通させることができる。従って、コンタクトプローブ102を容易に交換することが可能になる。
[0092] ガイド板130には、例えばシリコン基板が用いられ、コンタクトプローブ102に対応する貫通孔131が形成されている。コンタクトプローブ102は、根元部5の側面が貫通孔131の内面132と対向するように、貫通孔131に貫通させた状態で配置される。このため、根元部5は、長手方向に移動可能な状態を維持しつつ、ガイド板130に平行な2次元平面内において位置決めされる。
[0093] 図中の(a)には、オーバードライブ直前の様子が示されている。このとき、コンタクトプローブ102は弾性変形しておらず、また、端子部6は、プローブ電極111から僅かに浮き上がっており、プローブ電極111と導通していない。
[0094] 図中の(b)には、オーバードライブ後の様子が示されている。オーバードライブ後のコンタクトプローブ102は、電極端子201からの反力に応じて弾性変形し、弾性変形部4の中央付近が湾曲方向Nに向かって変位し、湾曲形状の曲率が増大する。このとき、根元部5の側面は、貫通孔131の内面132と摺動する。しかも、弾性変形部4の弾性変形にともなって、湾曲方向N又はその反対方向N'へ根元部5を変位させ、あるいは、根元部5を傾けようとする力が作用する。その結果、湾曲方向N又はその反対方向N'において、根元部5が貫通孔131の内面132に押圧された状態で摺動することになる。
[0095] このため、中間の金属層12を外側の金属層11,13よりも突出させ、根元部5の断面を十字形状にすれば、オーバードライブ時に、湾曲方向N又はその反対方向N'において、中間の金属層12の端面と貫通孔131の内面132とが、互いに正対して摺動する。従って、オーバードライブ時に、コンタクトプローブ102が傾いたり、捻れたりすることがなく、削屑の発生も抑制することができる。」














イ 図10から読み取れる事項の認定
図10から、「ガイド板120はガイド板130より先端部側に配置されていること」、及び、「ガイド板120及びガイド板130をコンタクトプローブ102が貫通していること」が読み取れる。
さらに、図10及び段落[0057]、[0093]、[0094]の記載から、「オーバードライブ直前では、コンタクトプローブ102がガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形しておらず、緩やかに湾曲する予め定められた形状になっていること」、及び「オーバードライブ後のコンタクトプローブ102は、ガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形するものであること」が読み取れる。

引用発明の認定
前記アにおいて摘記した記載事項及び前記イにおいて認定した図10から読み取れる事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「半導体デバイスの電気的特性試験に用いられるコンタクトプローブが形成されたプローブカードであって、([0001]、[0002])
本体部1と、本体部1の先端に形成されたコンタクト部2と、本体部1の根元端に設けられた端子部6とにより構成され、コンタクト部2は、検査対象物に当接させる当接部であるコンタクトプローブと、([0037])
ガイド板120,130と([0090])
を備え、
ガイド板120はガイド板130より先端部側に配置され、ガイド板120及びガイド板130をコンタクトプローブが貫通しており、([図10])
本体部1は、オーバードライブ時に弾性変形する細長い形状の弾性変形部4と、その両端に形成された先端部3及び根元部5とにより構成され、弾性変形部4は、その長手方向の圧縮力が加えられることにより、容易に座屈変形する形状からなり、コンタクトプローブが傾くのを抑制し、([0038]、[0048])
オーバードライブ直前では、コンタクトプローブはガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形しておらず、緩やかに湾曲する予め定められた形状になっており、([0057]、[0093]、図10)
オーバードライブ後のコンタクトプローブは、電極端子201からの反力に応じてガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形し、弾性変形部4の中央付近が湾曲方向Nに向かって変位し、湾曲形状の曲率が増大する、([0094]、図10)
プローブカード。」

(2) 周知技術
ア 引用文献2の記載事項
引用文献2(国際公開第2004/072661号)には、以下の記載がある。

「本発明は、集積回路のような半導体デバイス等、被検査体の通電試験に用いられるプローブカードのような電気的接続装置に関する。」(1ページ4行〜5行)

「プローブ組立体26は、接続基板22の板状部34よりやや小さい矩形の平面形状を有する直方体に形成されている。プローブ組立体26は、矩形の第1の板状部材50上側に矩形の第2の板状部材52を配置し、第2の板状部材52の上側に矩形の第3の板状部材54を間隔をおいて配置し、矩形の枠部材56を第2及び第3の板状部材52及び54の間に配置している。」(6ページ8行〜12行)

「第1及び第2の板状部材50及び52の貫通穴64及び66は、厚さ方向と直角の面内において、互いに一致されているが、接続基板22の貫通穴42に対しては一方向にずらされている。」(7ページ20行〜22行)

「この際、貫通穴66,68と直角の方向におけるプローブ60の先端側の位置決めが貫通穴64,66の小径部64a,66aの相互作用により行われているから、貫通穴64,66と直角の方向における針先の位置が安定されており、プローブ60は被検査体12の電極16に確実に接触される。」(10ページ20行〜23行)





イ 周知技術の認定
上記アにおいて摘記した引用文献2の記載事項に例示されるように、次の事項は周知技術である。

[周知技術]
「プローブ先端側に、同じ位置に貫通穴を有する二つの板状部材を配置して針先の位置を安定させたプローブカードのような電気的接続装置。」

2 対比・判断について
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 次の引用発明の欄に記載した引用発明の各構成は、それぞれ、対応する本願発明の欄に記載した次の本願発明の構成に相当する。
<引用発明> <本願発明>
半導体デバイス 被検査体
コンタクトプローブ プローブ
プローブカード 電気的接続装置
ガイド板120 ボトム部
ガイド板130 トップ部

イ 前記アを踏まえると、引用発明の「半導体デバイスの電気的特性試験に用いられる」「プローブカード」は、本願発明の「被検査体の電気的特性の測定に使用される電気的接続装置」に相当する。

ウ 前記アを踏まえると、引用発明の「本体部1と、本体部1の先端に形成されたコンタクト部2と、本体部1の根元端に設けられた端子部6とにより構成され、コンタクト部2は、検査対象物に当接させる当接部であるコンタクトプローブ」は、本願発明の「測定時に先端部が前記被検査体と接触するプローブ」に相当する。

エ 前記アを踏まえると、引用発明において「コンタクトプローブが貫通」するとされている「ガイド板130」、及び、「ガイド板130より先端部側に配置され」た「ガイド板120」が、それぞれ、本願発明の「前記プローブが貫通するトップ部」及び「前記トップ部よりも先端部側に配置されて前記プローブが貫通するボトム部」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、「前記プローブが貫通するトップ部、前記トップ部よりも先端部側に配置されて前記プローブが貫通するボトム部」「を有するプローブヘッド」を備える点で共通する。

オ 前記アを踏まえると、引用発明において「オーバードライブ直前では、コンタクトプローブはガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形しておらず、緩やかに湾曲する予め定められた形状」となっていることと、本願発明において「前記プローブが、前記トップ部と前記ガイド部との間で湾曲した状態で保持され[る]」ことは、「前記プローブが、湾曲した状態で保持され[る]」点で共通する。

カ 前記アを踏まえると、引用発明において「オーバードライブ後のコンタクトプローブは、電極端子201からの反力に応じてガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形し、弾性変形部4の中央付近が湾曲方向Nに向かって変位し、湾曲形状の曲率が増大する」ことと、本願発明において「前記先端部が前記被検査体と接触することにより前記プローブが前記トップ部と前記ガイド部との間で座屈」することは、「前記先端部が前記被検査体と接触することにより前記プローブが座屈」する点で共通する。

キ 引用発明のコンタクトプローブの「本体部1」のうち、「オーバードライブ時に弾性変形する細長い形状の弾性変形部4」は、「その長手方向の圧縮力が加えられることにより、容易に座屈変形する形状からな[る]」とされており、そのような形状を有さない「先端部3」が「弾性変形部4」よりも剛性が高く、容易に座屈変形をしない構造であることは明らかといえる。
したがって、引用発明の「先端部3」は、本願発明の「湾曲せずに直線形状」を保つ「プローブの座屈する部分よりも剛性を高くした高剛性部分」に相当する。また、引用発明においては「オーバードライブ後のコンタクトプローブは、電極端子201からの反力に応じてガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形」するものであるから、前記弾性変形しない「先端部3」が「ガイド板120」を貫通する領域に配置されていることは明らかといえる。
そうすると、本願発明と引用発明は、「少なくとも前記プローブが座屈した状態における前記プローブの前記ボトム部を貫通している部分」「が、前記プローブの座屈する部分よりも剛性を高くした高剛性部分であ[る]」点、及び「前記高剛性部分において、前記プローブは湾曲せずに直線形状であ[る]」点で共通する。

ク 前記キを踏まえると、引用発明において「オーバードライブ後のコンタクトプローブは、電極端子201からの反力に応じてガイド板120及びガイド板130の間で弾性変形」し、「先端部3」では弾性変形するとされていないことが、本願発明の「前記先端部が前記被検査体と接触した場合に前記プローブの座屈する部分は撓むが前記高剛性部分は撓まないように、前記プローブの座屈する部分と前記高剛性部分との剛性の差が設けられ[る]」ことに相当する。

(2) 一致点及び相違点の認定
前記(1)の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の一致点で一致し、次の相違点において相違する。

ア 一致点
「被検査体の電気的特性の測定に使用される電気的接続装置であって、
測定時に先端部が前記被検査体と接触するプローブと、
前記プローブが貫通するトップ部、前記トップ部よりも先端部側に配置されて前記プローブが貫通するボトム部を有するプローブヘッドと
を備え、
前記プローブが湾曲した状態で保持され、
前記先端部が前記被検査体と接触することにより前記プローブが座屈し、
少なくとも前記プローブが座屈した状態における前記プローブの前記ボトム部を貫通している部分が、前記プローブの座屈する部分よりも剛性を高くした高剛性部分であり、
前記高剛性部分において、前記プローブは湾曲せずに直線形状であり、
前記先端部が前記被検査体と接触した場合に前記プローブの座屈する部分は撓むが前記高剛性部分は撓まないように、前記プローブの座屈する部分と前記高剛性部分との剛性の差が設けられる、
電気的接続装置」である点。

イ 相違点
本願発明は「前記トップ部と前記ボトム部との間に配置されて前記プローブが貫通するガイド部」を備え、「前記ボトム部の主面の面法線方向からみて前記ガイド部と前記ボトム部の前記プローブが通過するガイド穴の位置が一致」し、「高剛性部分」の範囲が「少なくとも前記プローブが座屈した状態における前記プローブの前記ボトム部を貫通している部分から前記ガイド部を貫通している部分までの連続した部分」とされ、プローブの湾曲及び座屈が「前記トップ部と前記ガイド部との間で」生じるものとされ(以上を「部分相違点A」という。)、
「前記高剛性部分は、前記ガイド部の前記ガイド穴の中心線と平行に前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴の内部を摺動し、前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴と接触する場合に前記プローブの側面が前記ガイド部の前記ガイド穴の内壁面と面接触する硬さである」(以上を「部分相違点B」という。)のに対し、
引用発明は「ガイド部」に相当する構成を備えておらず、前記高剛性部分は、前記ガイド部の前記ガイド穴の中心線と平行に前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴の内部を摺動し、前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴と接触する場合に前記プローブの側面が前記ガイド部の前記ガイド穴の内壁面と面接触する硬さであることの特定がない点。

(3) 判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点について
(ア) 部分相違点Aについて
a 前記1(2)イに示したように、「プローブ先端側に、同じ位置に貫通穴を有する二つの板状部材を配置して針先の位置を安定させたプローブカードのような電気的接続装置」は周知のものであるから、引用発明のプローブカードにおいても同様な構成を採用して、ガイド板120を、同じ位置に貫通穴を有する二つの板状部材を配置した構造とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
b その際、二つの板状部材を配置したガイド構造の中でプローブが曲がらないようにすることは、針先の位置を安定させるという目的からして当然であるから、引用発明に上記周知技術を採用する際に、コンタクトプローブの二つの板状部材間に対応する部分全体を高剛性部分である「先端部3」とすべきことも明らかである。
c したがって、部分相違点Aの点は、当業者が容易に想到し得たものである。

(イ) 部分相違点Bについて
a(a) 引用発明は上記「弾性変形部4」を「容易に座屈変形する形状」とすることによって「コンタクトプローブが傾くのを抑制」するものであり、少なくともオーバードライブ開始後のある時間範囲内においては、その「先端部3」が傾かない状態で摺動するように構成されていることは明らかといえる。
(b) また、引用発明は、「ガイド板と干渉することによる削り屑の発生を抑制することができる電気的接触子を提供することを目的とする(引用文献1の段落[0062]参照)ものであるところ、引用文献1の段落[0063]には、「また、コンタクトプローブ101に捻れが生じなかったとしても、外側の金属層13の厚みは中間の金属層12に比べて薄く、摺動時の接触面積が小さくなることにより、削り屑が生じ易くなる。」と記載されていることから、摺動時にコンタクトプローブ101がガイド板と、点接触に近い状態小さい面積で接触し、高い圧力が掛かることにより削り屑が生じることを避けるべきこと、すなわち、摺動時にコンタクトプローブ101がガイド板と接触する際には、接触面積が大きい状態である面接触が望ましいことは、引用文献1の記載から容易に察しが付く事項である。
b(a) 部分相違点Bについては、請求人は、意見書において、当初明細書の段落[0028]、[0029]及び図2を補正の根拠として説明している。
(b) そこで、明細書の段落[0028]及び[0029]を参酌すると、次のとおり記載されている。
「 【0028】
これに対し、電気的接続装置1では、プローブ10のボトム部23のガイド穴230の内部を摺動する部分から下部ガイド部25のガイド穴250の内部を摺動する部分までを連続して高剛性部分101にしている。このため、下部ガイド部25のガイド穴250の中心線と略平行に、プローブ10がガイド穴250の内部を摺動する。したがって、プローブ10はガイド穴250の開口部と点接触しない。その結果、ガイド穴250の開口部との摩耗によるプローブ10の損傷を抑制することができる。
【0029】
なお、プローブ10の高剛性部分101の外径は、プローブ10がガイド穴250の内部をスムーズに摺動できる程度に、ガイド穴250の内径よりも僅かに細くすることが好ましい。高剛性部分101の外径とガイド穴250の内径との差が小さいほど、ガイド穴250の内部でプローブ10が直線形状になる。このため、プローブ10が摺動する際にプローブ10とガイド穴250とが接触したとしても、プローブ10の側面はガイド穴250の開口部と点接触せずに、ガイド穴250の内壁面と面接触する。したがって、プローブ10の損傷を抑制することができる。」
(c) 前記明細書の関連箇所を参酌すると、部分相違点Bの「前記高剛性部分は、前記ガイド部の前記ガイド穴の中心線と平行に前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴の内部を摺動し、前記プローブが前記ガイド部の前記ガイド穴と接触する場合に前記プローブの側面が前記ガイド部の前記ガイド穴の内壁面と面接触する硬さである」という構成は、「前記トップ部と前記ボトム部との間に配置されて前記プローブが貫通するガイド部を備え、前記ボトム部の主面の面法線方向からみて前記ガイド部と前記ボトム部の前記プローブが通過するガイド穴の位置が一致する」という前記部分相違点Aの構成を備える条件下においては、本願明細書の段落【0029】に記載された、前記高剛性部分は非常に硬く弾性変形せず(この点は引用発明も共通である。)、「プローブ10の高剛性部分101の外径は、プローブ10がガイド穴250の内部をスムーズに摺動できる程度に、ガイド穴250の内径よりも僅かに細くなっており、高剛性部分101の外径とガイド穴250の内径との差が小さく、ガイド穴250の内部でプローブ10が直線形状になり」、その結果として、「プローブ10が摺動する際にプローブ10とガイド穴250とが接触したとしても、プローブ10の側面はガイド穴250の開口部と点接触せずに、ガイド穴250の内壁面と面接触する」ということを間接的に特定しているにすぎない。
(d) しかして、プローブの通過する穴をプローブがスムーズに摺動できる程度に若干大きなものにして、基本的には直線的にプローブが移動するようにすることは、当業者には自明のことにすぎない。
(e) そうすると、本願発明の部分相違点Bに係る構成は、引用発明において部分相違点Aに係る構成を備えるようにした場合には、実質的な相違点ということができないものである。

(ウ) 相違点についてまとめ
前記(ア)及び(イ)において検討したとおりであるから、相違点は、当業者が周知技術から容易に想到し得たものである。

イ 本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果について検討しても、本願発明の構成により奏する効果として引用発明及び周知技術からは予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。

ウ 判断のまとめ
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

3 請求人の主張について
(1) 請求人の主張の概要
令和4年8月2日に提出した意見書において、請求人は概略次のような主張をしている。

ア 請求人の主張1
引用文献1に記載の発明は、先端部3が貫通孔121の内面122に押圧された状態で、コンタクトプローブは貫通孔121の内部を斜めに摺動する(段落[0064]、図2など)。
これに対し、本願発明では、ガイド穴の中心線と平行にプローブがガイド穴の内部を摺動し、プローブがガイド穴の開口部に点接触せずにガイド穴の内壁面と面接触することで、プローブの損傷を抑制する。
本願発明と引用文献1に記載の発明は、ガイド穴でのプローブの摺動に起因するプローブの損傷を抑制するための技術思想が全く異なり、本願発明は、引用文献1に記載の発明と構成が異なることは明白である。

イ 請求人の主張2
引用文献2に記載のように二つの板状部材を配置したプローブカードのような電気的接続装置が周知であったとしても、コンタクトプローブが貫通孔の内部を斜めに摺動する引用文献1では、仮にガイド穴の位置が一致する二つの板状部材を適用した場合に、これら二つの板状部材それぞれの貫通孔の部分に薄膜層を形成すれば引用文献1に記載の発明の効果を奏するのに足りるのであり、引用文献1には、二つの板状部材と貫通する連続した部分についてプローブを高剛性部分としてプローブとこれらの板状部材の貫通孔を面接触可能なように構成することの動機付けとなり得るものがない。

(2)検討
ア 請求人の主張1について
請求人は、引用発明のコンタクトプローブが貫通孔の内部を斜めに摺動する旨の主張を行っているが、請求人の引用する引用文献1の段落[0064]には、次のとおり記載されている。
「オーバードライブ時に、湾曲方向N又はその反対方向N'において、中間の金属層12の端面と貫通孔121の内面122とが、互いに正対して摺動する。従って、このような摺動により、コンタクトプローブ101が傾いたり、捻れたりすることはなく、削屑の発生も抑制することができる。」
ここで、コンタクトプローブの中間の金属層12の端面と、ガイド板120の貫通孔121の内面122とが、互いに正対して摺動するとは、コンタクトプローブの外面と貫通孔の内面が平行な状態で摺動することであるから、この点で本願発明と相違しない。
したがって、請求人の主張1は、採用することはできない。

イ 請求人の主張2について
請求人は、二つの板状部材それぞれの貫通孔の部分に薄膜層を形成すれば引用文献1に記載の発明の効果を奏するのに足りるのであり、引用文献1には、二つの板状部材と貫通する連続した部分についてプローブを高剛性部分としてプローブとこれらの板状部材の貫通孔を面接触可能なように構成することの動機付けとなり得るものがない、と主張している。
しかし、前記2(3)ア(ア)において説示したように、二つの板状部材を配置したガイド構造の中でプローブが曲がらないようにすることは、針先の位置を安定させるという目的からして当然であるから、引用発明に周知技術を採用する際に、コンタクトプローブの二つの板状部材間に対応する部分全体を高剛性部分である「先端部3」とすべきことは明らかである。
したがって、請求人の主張2は、採用することができない。


第5 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-13 
結審通知日 2022-10-18 
審決日 2022-10-31 
出願番号 P2017-078820
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01R)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 佐藤 久則
中塚 直樹
発明の名称 電気的接続装置  
代理人 三好 秀和  

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