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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1392802
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-12-23 
確定日 2022-12-14 
事件の表示 特願2018−567715「チョーク流れに基づく質量流量検証のための方法、システム、および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月 4日国際公開、WO2018/004856、令和 1年 7月18日国内公表、特表2019−520576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月17日を国際出願日とする外国語特許出願(パリ条約による優先権主張、2016年6月27日、米国)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
平成31年 2月25日 :翻訳文の提出
令和 3年 3月15日付け:拒絶理由通知書
同年 6月29日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 8月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月24日 :原査定の謄本の送達)
同年12月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 4年 2月18日付け:前置報告書
同年 6月 9日 :上申書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1〜8に係る発明は、令和3年12月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
質量流量検証システムであって、
入口と、
それぞれ前記入口の下流に結合された第1の圧力センサおよび温度センサと、
前記入口の下流に結合された複数の遮断バルブと、
前記入口の下流で並列に結合された複数の異なるサイズの流量制限器であって、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記入口および前記複数の遮断バルブのうちの対応する遮断バルブと直列に結合されており、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブの下流に結合されており、
前記第1の圧力センサおよび前記温度センサが、前記複数の異なるサイズの流量制限器のすぐ上流に結合されており、前記第1の圧力センサおよび前記温度センサがそれぞれ、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々と、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブとの間に結合されている、複数の異なるサイズの流量制限器と、
前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々の下流に、各々と直列に結合された出口と、
前記第1の圧力センサ、前記温度センサ、および前記複数の遮断バルブに結合されたコントローラであって、チョーク流れ状態の下で前記温度センサによって測定された温度および前記チョーク流れ状態の下で前記第1の圧力センサによって測定された第1の圧力に応答して質量流量を決定するように構成されているコントローラと
を備え、
前記複数の遮断バルブが、サブの複数の遮断バルブを含み、
前記サブの複数の遮断バルブの各々が、前記第1の圧力センサおよび前記温度センサに結合された第1のポートを有し、かつ、前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器と、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブとの間に結合された第2のポートを有する、質量流量検証システム。」


第3 原査定の拒絶の理由の概要
1 本願発明は、令和3年12月23日にされた手続補正前の、すなわち、令和3年6月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7(以下「補正前請求項7」という。)に係る発明に対応するものであるところ、補正前請求項7に係る発明に対する、原査定の拒絶の理由(理由2)の概要は、次のとおりである。

補正前請求項7に係る発明は、本願の優先日前に発行された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:米国特許出願公開第2014/0033828号明細書

2 なお、補正前請求項7に関連して、令和3年3月15日付け拒絶理由通知書において、次の点を指摘している。
(1) 出願当初の【請求項6】において特定された、
「前記第1の圧力センサおよび前記温度センサがそれぞれ、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々と、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブとの間に結合されている、請求項5に記載の質量流量検証システム。」という点について
引用文献1に記載のorifice 560,562,564,566,568の上流には、pressure sensor 526,528及びtemperature sensor 524が接続されているが、orificeのそれぞれに対応するものではない。しかしながら、圧力及び温度の検出箇所及びその個数は、必要に応じて当業者が適宜設計する事項であって、個々のorificeに圧力センサー及び温度センサーを設けることもその範囲にすぎない。

(2) 出願当初の【請求項7】において特定された、
「前記複数の遮断バルブが、サブの複数の遮断バルブを含み、
前記サブの複数の遮断バルブの各々が、前記第1の圧力センサおよび前記温度センサに結合された第1のポートを有し、前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器と、前記複数の遮断バルブのうちの対応する遮断バルブとの間に結合された第2のポートを有する、請求項6に記載の質量流量検証システム。」という点について
引用文献1に記載のpressure sensor 526,528の手前にはvalve534,536があり、温度センサのvalve534,536に対する位置も設計的事項にすぎない。


第4 当審の判断
1 引用文献等
(1) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用する米国特許出願公開第2014/0033828号明細書には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体により、引用発明の認定に直接用いる部分に付した。また、括弧内に当合議体による日本語訳を示す。
「[0012] Gas supply systems for plasma processing chambers can include flow controllers to control the flow ratio of the same process gas, different process gases, or gas mixtures, to different zones, thereby allowing in-process adjustment of across-substrate uniformity of both gas flow rates and gas composition. See, e.g., commonly-owned U.S. patent application Ser. No. 10/835,175, which is incorporated herein by reference in its entirety. However, flow controllers, such as mass flow controllers (MFCs), have a performance error. For example, MFCs typically have an error of about ±1% of the set point, which corresponds to a set flow rate, of the MFC. The magnitude of the error can vary depending on various factors including the magnitude of the set flow rate, the gas composition, and the accuracy of the MFC.」
(プラズマ処理チャンバーのためのガス供給システムは、同じプロセスガス、異なるプロセスガス又はガス混合物の異なるゾーンへの流量を制御するための流量コントローラーを含むことができ、それによって、ガス流量及びガス組成の両方の基板全体にわたる均一性についてのプロセス内調整を可能にする。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、共有に係る米国特許出願第10/835,175号を参照。しかしながら、質量流量コントローラー(MFC)などの流量コントローラーは、性能誤差を有する。例えば、MFCは、典型的には、MFCの設定流量に対応する設定点の約±1%の誤差を有する。誤差の大きさは、設定流量の大きさ、ガス組成及びMFCの精度を含む様々な要因に応じて変化し得る。)

「[0040] In the flow verification section 300, each of the orifices 325-330 of the orifice array preferably has a fixed restriction size, i.e., a fixed gas flow opening size, for gas flow through the orifice. The orifices 325-330 restrict gas flow and can maintain an approximately constant gas pressure in the respective gas lines 302, 304, 306, 308, 310 and 312 (as also can orifice 297 arranged along gas line 284) upstream of, and proximate, the respective orifices. The orifices 325-330 can dampen pressure surges and flow instabilities in the gas flow when the gas supply system 100 changes the gas composition and/or flow rate flowed into the plasma processing chamber 12. The orifices 325-330 of the orifice array can have different respective cross-sectional gas restriction sizes, e.g., a different diameter or a different cross-sectional area. For example, the orifices 325, 326, 327, 328 and 329 can have respective diameters of 0.007 in., 0.010 in., 0.015 in., 0.020 in., 0.030 in., and orifice 330 can have a diameter of 0.030 in. The gas restriction sizes of the orifices 325-330 are smaller than the sizes of the gas flow paths of the gas lines of the gas supply system 100.」
(流量検証部300において、オリフィスアレーのオリフィス325-330の各々は、好ましくは、オリフィスを通るガス流の固定された制限サイズ、すなわち固定されたガス流開口サイズを有する。オリフィス325-330は、ガス流を制限し、それぞれのオリフィスの上流及びそれに近接したそれぞれのガスライン302、304、306、308、310及び312内のほぼ一定のガス圧を(ガスライン284に沿って配置されたオリフィス297もまた可能であるように)維持することができる。オリフィス325-330は、ガス供給システム100がプラズマ処理チャンバー12に流入するガス組成及び/又は流量を変化させるときに、ガス流の圧力サージ及び流れ不安定性を弱めることができる。オリフィスアレーのオリフィス325-330は、異なるそれぞれの断面のガス制限サイズ、例えば、異なる直径又は異なる断面積を有することができる。例えば、オリフィス325、326、327、328及び329は、それぞれ0.007インチ、0.010インチ、0.015インチ、0.020インチ、0.030インチの直径を有することができ、オリフィス330は0.030インチの直径を有することができる。オリフィス325-330のガス制限サイズは、ガス供給システム100のガスラインのガス流路のサイズよりも小さい。)

「[0041] The orifices are preferably sized to provide viscous sonic flow conditions for process gas flow. As described in greater detail below, during flow rate verification, gas flows through the orifices 325-330 are preferably at the critical viscous flow regime in the flow verification section 300 to allow the flow conductance of a given orifice 325-330 to be determined by its restriction size and upstream pressure, without having to also determine downstream orifice pressure.」
(オリフィスは、好ましくは、プロセスガス流に対して粘性音速流条件を提供するようにサイズ決めされる。以下でより詳細に説明されるように、流量検証中、オリフィス325-330を通るガス流は、好ましくは、流量検証部300において臨界粘性流領域にあり、所与のオリフィス325-330の流れコンダクタンスが、下流オリフィス圧力も決定する必要なしに、その制限サイズ及び上流圧力によって決定される。)

「[0044] FIG. 3 shows an exemplary embodiment of a flow verification section 540 in flow communication with an upstream gas supply section 520 via a gas line 522, and with a downstream plasma processing chamber 580 via a gas line 570. The flow verification section 540 includes gas lines 540, 542, 544, 546 and 548, each including a valve 550, and also an orifice 560, 562, 564, 566 and 568, respectively. A gas line 538 interconnects the gas lines 540, 542, 544, 546 and 548.」
(図3は、ガスライン522を介して上流ガス供給部520と、ガスライン570を介して下流プラズマ処理チャンバー580と流れ連通する流量検証部540の例示的な実施形態を示す。流量検証部540は、ガスライン540、542、544、546及び548を含み、各ガスラインは、バルブ550とオリフィス560、562、564、566及び568をそれぞれ含む。ガスライン538は、ガスライン540、542、544、546及び548を相互接続する。)

「[0045] The flow control section 540 includes pressure sensors 526, 528 in flow communication with the gas line 538 via gas lines 530, 532, respectively. Valves 534, 536 are arranged along the gas lines 530, 532. The pressure sensors 526, 528 can measure different gas pressure ranges. For example, the pressure sensor 526 can measure pressures of up to about 500 Torr, and the pressure sensor 528 can measure pressures of up to about 50 Torr. The pressure sensors 526, 528 are preferably under control of a control section. In the embodiment, based on the predicted upstream gas pressure for one of the respective orifices 560, 562, 564, 566 and 568 for a set gas flow rate supplied from a flow controller of the gas supply section 520, the pressure sensor 526 or 528 operates to sense the upstream gas pressure by opening of the associated valve 534 or 536, respectively. The gas temperature of the gas supplied from the gas supply section 520 is measured by the temperature sensor 524. The pressure sensors 526, 528 and temperature sensor 524 are operable supply signals to the control section to allow upstream orifice pressures and gas temperatures to be determined in the flow control section 540.」
(流量制御部540は、それぞれガスライン530、532を介してガスライン538と流れ連通する圧力センサー526、528を含む。バルブ534、536は、ガスライン530、532に沿って配置される。圧力センサー526、528は、異なるガス圧力範囲を測定することができる。例えば、圧力センサー526は、約500Torrまでの圧力を測定することができ、圧力センサー528は、約50Torrまでの圧力を測定することができる。圧力センサー526、528は、好ましくは制御部によって制御されることが好ましい。本実施形態では、ガス供給部520の流量コントローラーから供給される設定ガス流量に対応する、それぞれのオリフィス560、562、564、566、及び568のうちの一つの予測上流ガス圧力に基づいて、圧力センサー526又は528は、それぞれ、関連付けられた弁534又は536の開放によって、上流ガス圧力を感知するように動作する。ガス供給部520から供給されるガスのガス温度は、温度センサー524によって測定される。圧力センサー526、528及び温度センサー524は、上流オリフィス圧力及びガス温度が流量制御部540において決定されることを可能にするために、制御部に信号を供給するように動作可能である。)

「[0058] (中略)In this equation, Q is the gas flow rate through the orifice, A is the cross-sectional flow area of the orifice, P1 is the upstream pressure, P2 is the downstream pressure, Ro is the universal gas constant, T is the gas temperature, and M is the molecular weight of the gas.」
(この式において、Qはオリフィスを通るガス流量であり、Aはオリフィスの流路断面積であり、P1は上流圧力であり、P2は下流圧力であり、Roは普遍気体定数であり、Tはガス温度であり、Mはガスの分子量である。)

「[0062] For differential flow verification, the following equation applies:
Q=KdP1 (8)
In equation (8), Kd is the differential flow empirical factor equal to the quadratic curve of P1 versus Q for a flow controller. Kd is preferably determined for each flow controller, gas and orifice of the flow verification section 300. Kd is preferably determined using multiple set points of the flow controller, e.g., at ten set points at 10% increments of the full scale of the flow controller (e.g., at 10%, 20%, 30%, 40%, 50%, 60%,70%, 80%, 90% and 100% of full scale). Kd can account for variations in gas flow from Viscous Sonic flow conditions, for non-ideal gas compressibility, and for orifice discharge factors that determine effective orifice area versus physical orifice area for various gases and flows. Once Kd is determined, a given flow controller can be verified by selecting a set point for the flow controller and measuring P1, while flowing the gas through an appropriate orifice for that gas flow rate to achieve Viscous Sonic flow conditions.」
(差分流量検証の場合、以下の式が適用される。
Q=KdP1 (8)
式(8)において、Kdは、流量コントローラーのP1対Qの二次曲線に等しい差分流量実験的係数である。Kdは、好ましくは、流量検証部300の各流量コントローラー、ガス及びオリフィスについて決定される。Kdは、好ましくは、流量コントローラーの複数の設定点、例えば、流量コントローラーのフルスケールの10%増分(例えば、フルスケールの10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、および100%)での指定設定点を使用して決定される。Kdは、粘性音速流条件からのガス流の変動、非理想的ガス圧縮性、及び、様々なガス及び流量のための物理的オリフィス面積に対する有効オリフィス面積を決定するオリフィス放出因子を説明することができる。Kdが決定されると、所与の流量コントローラーは、流量コントローラーの設定点を選択し、そのガス流量に適したオリフィスを通してガスを流して粘性音速流を達成している状態でP1を計測することによって検証することができる。)





イ FIG.3から読み取れる事項
FIG.3より、次の(ア)から(カ)までの技術事項を読み取れる。
(ア) 「流量検証部540」が「上流ガス供給部520」に接続する「入口」を備えること。
(イ) 前記「入口」の下流に複数の「バルブ550」が結合されていること。
(ウ) 前記「入口」の下流であって、複数の「バルブ550」の上流に「圧力センサー526及び528」並びに「温度センサー524」がそれぞれ結合されていること。
(エ) 前記「入口」の下流で複数の「オリフィス560、562、564、566及び568」が並列に結合されていること。
(オ) 前記複数の「オリフィス560、562、564、566及び568」の各々が、前記「入口」及び対応する前記複数の「バルブ550」と直列に結合されており、前記複数の「オリフィス560、562、564、566及び568」の各々が、対応する前記複数の「バルブ550」の下流に結合されていること。
(カ) 前記複数の「オリフィス560、562、564、566及び568」の各々の下流に、それぞれと直列に結合され、下流プラズマ処理チャンバー580と結合された出口を備えること。

ウ 引用文献1に記載されているに相当する事項
引用文献1の「圧力センサー526、528及び温度センサー524は、上流オリフィス圧力及びガス温度が流量制御部540において決定されることを可能にするために、制御部に信号を供給するように動作可能である。」([0045])、「差分流量検証の場合、以下の式が適用される。 Q=KdP1 (8)」([0062])という記載から、「圧力センサー526、528及び温度センサー524」によって測定された「上流オリフィス圧力及びガス温度」に応答して、質量流量「Q」が決定されることは明らかであり、また質量流量を決定する制御を行うために、コンピュータなどのコントローラーを用いることが技術常識であることを踏まえると、「圧力センサー526、528及び温度センサー524によって測定された上流オリフィス圧力及びガス温度に応答して、質量流量を決定するように構成されているコントローラー」は、明示の記載がなくとも引用文献1に記載されているに相当する事項であるといえる。

引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献1の記載事項、イにおいて示したFIG.3から読み取れる事項及びウにおいて認定した引用文献1に記載されているに相当する事項を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「質量流量コントローラー(MFC)などの流量コントローラーを対象とする流量検証部540であって、([0012]、[0044])
入口と、([0044]、FIG.3)
前記入口の下流に結合された複数のバルブ550と、([0044]、FIG.3)
それぞれ前記「入口」の下流であって、複数の「バルブ550」の上流に結合された圧力センサー526、528及び温度センサー524と、([0045]、FIG.3)
前記入口の下流で並列に結合されたオリフィス560、562、564、566及び568と、([0044]、FIG.3)
前記複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々の下流に、それぞれと直列に結合され、下流プラズマ処理チャンバー580と結合された出口と、([0044]、FIG.3)を備え、
それぞれの前記オリフィス560、562、564、566及び568は、ガス供給部520の流量コントローラーから供給される設定ガス流量に対応し、([0045])
前記複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々が、前記入口及び対応する前記複数のバルブ550と直列に結合されており、前記複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々が、対応する前記複数のバルブ550の下流に結合され、([0044]、FIG.3)
圧力センサー526、528及び温度センサー524は、上流オリフィス圧力及びガス温度が流量制御部540において決定されることを可能にするために、制御部に信号を供給し、([0045])
圧力センサー526、528及び温度センサー524によって測定された上流オリフィス圧力及びガス温度に応答して、質量流量を決定するように構成されているコントローラーを備え、([0045][0062])
粘性音速流条件が達成されて、式 Q=KdP1 (Qはオリフィスを通るガス流量であり、P1は上流圧力)が適用される、([0058][0062])
流量検証部540。」

(2) 引用文献3の記載事項と技術常識1の認定
ア 引用文献3
当審において新たに引用する、本願の優先日より前に出願公開された特開2009−116904号公報には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体による。
「【0003】
従来、ガス流量を正確に制御するために、配管内にオリフィスを配置し、このオリフィスを通過する理論流量として出来るだけ精度の良い流量式が選択されてきた。特に、ガス流の非圧縮性を考慮して、オリフィスを通過するガス流の流速を音速領域に設定して流量制御する方法が使用されている。
【0004】
この流量制御方法では、オリフィスの上流側圧力P1と下流側圧力P2の圧力比P2/P1を約0.5の臨界値より小さくしたとき、オリフィスを通過するガスの流速が音速に達し、この音速領域で理論流量式が高精度にQc=KP1によって表現される性質が利用されている。ここで、比例係数Kは流体の種類と流体温度に依存することが分かっている。
【0005】
この理論流量式によりオリフィス通過流量を制御するには、オリフィスの上流側圧力P1と上流側の流体温度Tを正確に測定することが必要となる。上流側圧力P1はダイヤフラムで受圧され、圧力伝達媒体を経由して抵抗素子で測定される。他方、流体温度Tはオリフィスを組み込んだ弁装置にサーミスタを別個に配置することにより測定されている。」
「【0027】
図1は臨界膨張条件を利用した圧力式流量制御装置による流量制御の構成図である。この圧力式流量制御装置2は、供給される流体が臨界膨張条件にある場合、即ちオリフィス4から流出する流体の速度が音速である場合を前提としているため、流量はQc=KP1で表される。
【0028】
この圧力式流量制御装置2には、オリフィス孔4aを形成したオリフィス4、上流側配管6、下流側配管8、上流側の圧力温度センサ10、制御回路16、バルブ駆動部20及びコントロールバルブ22が配置されている。」
「【図1】



また、図1から、圧力温度センサ10がオリフィス4のすぐ上流に結合されていることが読み取れる。

イ 技術常識1の認定
引用文献3の前記摘記事項に例示されるように、本願の優先日前において、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識1」という。)であったものと認められる。

[技術常識1]
「オリフィスから流出する流体の速度が音速である場合、流量Qcが流体の種類と流体温度に依存する比例係数Kと上流側圧力P1の積で表される性質を利用して流量を求める際に、温度及び圧力センサの測定箇所をオリフィスのすぐ上流とすること。」

(3) 引用文献4の記載事項と技術常識2の認定
ア 引用文献4の記載事項
当審において新たに引用する、本願の優先日より前に発行された特開2003−168648号公報には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体による。
「【0014】図1において、1は処理装置として例示した縦型熱処理装置で、被処理体例えば半導体ウエハwを収容して所定の処理例えばCVD処理を施すための処理容器例えば石英製の反応管3を備えている。反応管3は、図示しないベースプレートに保持されていると共に、炉口として開放した下端開口部が蓋体4で気密に閉塞されるようになっている。」
「【0022】ところで、前記流量制御器81,82,83は、ある程度使用すると例えば処理ガスの副生成物が付着したり異物をかみ込んだりする場合があり、流量制御81,82,83の精度および信頼性が低下することがある。そこで、流量制御器81,82,83が正常か否かを監視するために、校正された流量制御器81,82,83の取付後にバイパス配管19を真空引きし、封止弁21を閉じて封止した後、ガス供給配管91,92,93から固定された流量のガスを導入しながら前記圧力計20により圧力上昇値ΔPと推移時間ΔTを各ガス供給配管91,92,93毎に測定して初期値として記憶し、所定期間使用後(所定期間経過後)に測定した測定値と前記初期値とを比較して流量制御器81,82,83が正常か否かを定期的に例えばプロセス終了毎に監視する。
【0023】この監視方法は、各ガス供給配管91,92,93とバイパス配管19とからなるバイパスラインの容積を利用し、各流量制御器81,82,83を通過する実流量を圧力として直接測定し、測定圧力の時間的変化により流量制御器81,82,83の流量センサ部14が正常か否かを監視するものである。具体的には、例えば図1の左から2番目のガス供給配管92の流量制御器82を監視する場合には、校正された流量制御器82の取付後に開閉弁V9及び封止弁21を開に、他の開閉弁V1,V2,V3,V4,V5,V6,V7,V8,V10,V11及び圧力制御弁11を閉にし、当該バイパスラインを真空ポンプ10により真空引きする。この時の圧力計20で測定した値を基準圧力として図2にP0で示す。」
「【0026】そして、所定期間経過後に、前記と同じ動作すなわちバイパス配管19を真空引きして封止した後、ガス供給配管91,92,93から固定された流量のガスを導入しながら圧力計20を用いて圧力上昇値と推移時間を各ガス供給配管91,92,93毎に測定し、この測定値と前記初期値とを比較して流量制御器81,82,83が正常か否かを判別する。例えば、推移時間ΔTを同じくして測定した測定値ΔP’と初期値ΔPとを比較するか、圧力上昇値ΔPを同じくして測定した測定値ΔT’と初期値ΔTとを比較する。測定値と初期値が同じであれば、流量制御器81,82,83が正常であると判断し、測定値と初期値が異なれば、流量制御器81,82,83が異常であると判断する。」
「【0029】すなわち、バイパスラインの容積を利用して流量制御器81,82,83を通過する実ガスの実流量を圧力として直接測定するようにし、流量制御器81,82,83のセンサとは異なる圧力センサ(圧力計)20を使用するため、同じ方式のセンサ同士を比較して流量制御器の異常を監視する従来の処理方法ないし処理装置と比べて信頼性の向上が図れる。また、共通のバイパス配管19に圧力計20を1つ設けるだけで良いため、設置スペース及びコストの低減が図れる。また、処理容器3を介さずにバイパスラインを使用するため、反応管3の蓋体4開放時やウエハ移載時などに平行して監視を行うことができ、処理装置のサイクルタイムに影響しない。更に、プロセス間に監視を毎回行うことも可能であり、プロセスの再現性や信頼性の向上が図れる。
【0030】なお、ガスの体積変化(熱膨張収縮)の要因となる温度変化による測定精度の低下を防止するために、測定系である前記流量制御器81,82,83から圧力系20までの範囲を図示しないヒータ(加熱手段)及び温度調整器(温度制御手段)により一定の温度に保つように構成されているか、または、前記圧力計20に図示しない温度センサを併設して測定温度に基いて測定圧力に補正をかけるように構成されていることが好ましい。測定系を一定の温度に保つ場合は、測定系にヒータを巻き付ける等により設け、このヒータの温度を温度調整器により一定の温度に制御する。本実施の形態の場合、測定容積範囲が広いので、流量制御器81,82,83から圧力計20までの範囲をヒータと温度調整器により一定温度に維持するように構成することが好ましい。この場合、各ガス供給管91,92,93は室温よりも若干高い温度例えば40℃程度に、または、蒸気圧の低いガスのガス供給管は気体状態を維持できる温度に、ヒータと温度調整器により一定に保つ。バイパス管91,92,93はガス供給管81,82,83の中で一番高い温度と同じ温度に設定するようにしても良い。このように測定系を略一定の温度に保つことにより、ガスの体積変化を抑制ないし防止することができ、測定精度の向上が図れる。」
「【図1】


イ 技術常識2の認定
引用文献4の前記摘記事項の記載に例示されるように、本願の優先日前において、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識2」という。)であったものと認められる。

[技術常識2]
「複数箇所ごとの圧力を測定する際に、当該複数箇所に開閉弁を介して共通に一つの圧力計を設けることにより、設置スペース及びコストの低減を図ること。また、同様に温度測定を行うこと。」

2 本願発明の想到容易性について
(1) 対比
ア 対比分析
以下、本願発明の発明特定事項の記載に沿って、本願発明と引用発明を対比する。

(ア) 引用発明の「質量流量コントローラー(MFC)などの流量コントローラーを対象とする流量検証部540」は、本願発明の「質量流量検証システム」に相当するから、本願発明と引用発明は、「質量流量検証システム」の発明である点で一致する。

(イ) 次の引用発明の欄に記載した引用発明の各構成は、それぞれ、対応する本願発明の欄に記載した次の本願発明の構成に相当する。
<引用発明> <本願発明>
入口 入口
出口 出口
圧力センサ526、528 第1の圧力センサ
温度センサ524 温度センサ
バルブ550 遮断バルブ
オリフィス560、562、564、566及び568 流量制限器

(ウ) 前記(イ)に示した引用発明と本願発明の構成間の相当関係(以下、単に「前記(イ)の相当関係」という。)を踏まえると、本願発明と引用発明は「入口」を備える点で一致している。

(エ) 引用発明は、「それぞれ前記入口の下流であって、複数の「バルブ550」の上流に結合された圧力センサー526、528及び温度センサー524」を備えるから、前記(イ)の相当関係も踏まえると、本願発明と引用発明は「それぞれ前記入口の下流に結合された第1の圧力センサおよび温度センサ」を備える点で一致する。

(オ) 引用発明は「前記入口の下流に結合された複数のバルブ550」を備えるから、前記(イ)の相当関係も踏まえると、本願発明と引用発明は「前記入口の下流に結合された複数の遮断バルブ」を備える点で一致する。

(カ)a 引用発明において「それぞれのオリフィス560、562、564、566及び568は、ガス供給部520の流量制御器から供給される設定ガス流量に対応するものであ[る]」から、引用文献1の[0040]に記載されたものと同様に、異なるサイズであることは、明らかである。
b そして、引用発明は、次の構成を備えている。
「それぞれの前記オリフィス560、562、564、566及び568は、ガス供給部520の流量制御器から供給される設定ガス流量に対応し、」「前記複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々が、前記入口及び対応する前記複数のバルブ550と直列に結合されており、前記複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々が、対応する前記複数のバルブ550の下流に結合され[ている]」「前記入口の下流で並列に結合されたオリフィス560、562、564、566及び568」を備えていること。
c 上記a及びb並びに前記(イ)の相当関係を踏まえると、本願発明と引用発明は、次の構成を備える点で一致している。
「前記入口の下流で並列に結合された複数の異なるサイズの流量制限器であって、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記入口および前記複数の遮断バルブのうちの対応する遮断バルブと直列に結合されており、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブの下流に結合されて「いる」」という構成。

(キ) 引用発明は「前記複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々の下流に、各々と直列に結合され、下流プラズマ処理チャンバー580と結合された出口」を備えるから、前記(イ)の相当関係も踏まえると、本願発明と引用発明は、「前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々の下流に、各々と直列に結合された出口」を備える点で一致する。

(ク)a 本願発明の「チョーク流れ状態」に関し、本願明細書の段落【0016】には、「圧力差が、絞り部、すなわちチョークポイントでガス流速度を音の速さ(すなわち音速)まで増加させるのに十分大きくなると、チョーク流れが発生する」と記載され、【0017】には、「チョーク流れの間に流量制限器を通る質量流量(MFR)は、流量制限器の上流の圧力と共に線形に変化する」と記載されている。
b 引用発明においては、「粘性音速流条件が達成されて、式 Q=KdP1 (Qはオリフィスを通るガス流量であり、P1は上流圧力)が適用される」ところ、「粘性音速流条件が達成」されると、上流圧力の変化により流量が線形に変化することが成立するから、条件達成後の状態は、本願発明の「チョーク流れ状態」に相当する。
そうすると、引用発明においても、圧力及び温度の測定は「粘性音速流条件」の下で、すなわち、「チョーク流れ状態の下で」行われることは明らかである。
c 上記bの検討結果も踏まえると、引用発明は「圧力センサー526、528及び温度センサー524によって測定された上流オリフィス圧力及びガス温度に応答して、質量流量を決定するように構成されているコントローラー」を備えるから、本願発明と引用発明は「チョーク流れ状態の下で前記温度センサによって測定された温度および前記チョーク流れ状態の下で前記第1の圧力センサによって測定された第1の圧力に応答して質量流量を決定するように構成されているコントローラ」を備える点で一致する。

イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。

(ア) [一致点]
「質量流量検証システムであって、
入口と、
それぞれ前記入口の下流に結合された第1の圧力センサおよび温度センサと、
前記入口の下流に結合された複数の遮断バルブと、
前記入口の下流で並列に結合された複数の異なるサイズの流量制限器であって、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記入口および前記複数の遮断バルブのうちの対応する遮断バルブと直列に結合されており、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブの下流に結合されている、複数の異なるサイズの流量制限器と、
前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々の下流に、各々と直列に結合された出口と、
チョーク流れ状態の下で前記温度センサによって測定された温度および前記チョーク流れ状態の下で前記第1の圧力センサによって測定された第1の圧力に応答して質量流量を決定するように構成されているコントローラと
を備える、質量流量検証システム」である点。

(イ) [相違点]
a 相違点1
本願発明においては、「前記第1の圧力センサおよび前記温度センサが、前記複数の異なるサイズの流量制限器のすぐ上流に結合されており、前記第1の圧力センサおよび前記温度センサがそれぞれ、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々と、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブとの間に結合されて」おり、また「前記複数の遮断バルブが、サブの複数の遮断バルブを含み、前記サブの複数の遮断バルブの各々が、前記第1の圧力センサおよび前記温度センサに結合された第1のポートを有し、かつ、前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器と、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブとの間に結合された第2のポートを有する」ものであるのに対し、
引用発明においては、「圧力センサ526、528」及び「温度センサ524」は、それぞれ下流に複数のオリフィス560、562、564、566及び568の各々が結合された複数の「バルブ550」の上流に結合されており、複数のオリフィスとバルブ550の間の位置には結合されておらず、また、当該位置と、圧力センサ及び前記温度センサを結ぶ、第1及び第2のポートを有するサブの複数の遮断バルブも設けられていない点。

b 相違点2
チョーク流れ状態の下で前記温度センサによって測定された温度および前記チョーク流れ状態の下で前記第1の圧力センサによって測定された第1の圧力に応答して質量流量を決定するように構成されているコントローラ(以下「質量流量決定コントローラ」という。)が、
本願発明においては、「前記第1の圧力センサ、前記温度センサに結合されたコントローラ」であり、また「前記第1の圧力センサ、前記温度センサ」の他に「前記複数の遮断バルブ」にも「結合されたコントローラ」であるのに対して、
引用発明においては、「質量流量決定コントローラ」が「圧力センサ」、「温度センサ」及び「前記複数の遮断バルブ」に結合されたコントローラであるのか否か不明である点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)a 引用発明の「流量検証部540」も本願発明と同じように「チョーク流れ状態」を用いるものであり、オリフィス近傍の上流側領域における圧力及び温度の測定値を用いて質量流量を求めるものであるところ、「チョーク流れ状態」を用いるという測定方法の原理からして、上流側領域における圧力及び温度を精度良く測定するための測定位置として、各オリフィスの「すぐ上流」の領域は、極めて自然な選択肢にすぎない。
b 実際に、前記1(2)アにおいて技術常識1として認定したとおり、「オリフィスから流出する流体の速度が音速である場合、流量Qcが流体の種類と流体温度に依存する比例係数Kと上流側圧力P1の積で表される性質を利用して流量を求める際に、温度及び圧力センサーの測定箇所をオリフィスのすぐ上流とすること」は、技術常識でもある。
(イ)a 引用発明においては、圧力センサーが二つ設けられているところ、「圧力センサー526、528は、異なるガス圧力範囲を測定することができる。」旨記載されている([0045]参照)。これに対して、オリフィスは、560、562、564、566及び568の5箇所存在する。したがって、オリフィス上流の圧力を測定する際に、圧力センサーを兼用して用いていることは、明らかである。
b したがって、前記(ア)の測定位置の選択に係る指針に従って、各オリフィスの「すぐ上流」の領域の圧力を測定する際に、被測定点より少ない数の圧力センサーで測定することは、当業者にとっては、設置スペースやコストなどを考慮しての、極めて自明の設計指針により導かれることにすぎない。
なお、温度センサーについても、同様のことがいえる。
c そうすると、5箇所のオリフィス、560、562、564、566及び568のすぐ上流に分岐管を設けて圧力センサー526又は528と接続することは、当業者にとっては、ごく自然の設計変更にすぎない。そして、この場合、5箇所のオリフィスが流体連通してしまうから、バルブ(本願発明の「サブの複数の遮断バルブ」に相当する。)を設けることが必要であることは、自明である。
d したがって、引用発明において、「圧力センサー526、528及び温度センサー524が、前記複数の異なるサイズのオリフィス、560、562、564、566及び568のすぐ上流に結合し、圧力センサー526、528及び温度センサー524がそれぞれこれらのオリフィスと複数のバルブ550のうちの対応するバルブとの間に結合されているようになし、さらに、複数のバルブ(本願発明の「サブの複数の遮断バルブ)に相当する。)を設け、当該複数のバルブの各々が、圧力センサー526、528及び温度センサー524に結合された第1のポートを有し、かつ、前記複数の異なるサイズのオリフィスのうちの対応するオリフィスと、前記複数のバルブ550のうちの前記対応するバルブとの間に結合された第2のポートを有する」ようになし、相違点1に係る構成を有するようにすることは、極めて自明の設計指針により導かれることにすぎないといえる。
e なお、前記1(3)イにおいて技術常識2として示したとおり、実際に、「複数箇所ごとの圧力を測定する際に、該複数箇所に開閉弁を介して共通に一つの圧力計を設けることにより、設置スペース及びコストの低減を図り、同様に温度測定を行うこと」は、技術常識でもある。

(ウ) 以上検討のとおりであるから、相違点1は、「チョーク流れ状態」を用いた質量流量測定技術における圧力や温度の最適な測定箇所を選択し、また、圧力センサーや温度センサーを兼用するという基本的な設計指針から導かれるものにすぎないから、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者にとっては、自明のものである。

イ 相違点2について
引用発明において、圧力などの測定に際して遮断バルブの開閉制御は必須であり、そのための遮断バルブコントローラを備えていることは明らかといえる。そして、そのような遮断バルブコントローラと、前記「質量流量決定コントローラ」の関係について、これらの構成をまとめて一つのコントローラーとするか否かは、システム全体の構成を決定する際に、コストや各装置のサイズなどを考慮して当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎない。
また、引用発明において「圧力センサー526、528及び温度センサー524によって測定された上流オリフィス圧力及びガス温度に応答して、質量流量を決定するように構成されているコントローラー」を直接圧力センサー及び温度センサーに結合させるか、別の何らかの構成を介して、上流オリフィス圧力及びガス温度のデータが伝送されるようにするかについても、システム全体の構成を考慮して当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ということができない。

ウ 総合検討
以上検討のとおり、相違点1及び相違点2は、いずれも格別のものではない。また、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の構成が奏するものとして予測困難でかつ格別顕著な効果は、認められない。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

エ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張内容
審判請求書において、請求人は次のaからcに示した点を主張している(審判請求書の3.(c)参照)。また、平成4年6月9日に提出された上申書において、請求人は、次のd及びeの点を主張している。

a 請求人の主張1(第1の圧力センサ及び温度センサの位置の重要性)
本願発明における「前記第1の圧力センサおよび前記温度センサが、前記複数の異なるサイズの流量制限器のすぐ上流に結合されている」との構成は、圧力/温度センサと流量制限器の間にほかの構成要素が介在することなく、当該センサが流量制限器の上流に位置していること、すなわち、流量制限器から上流経路をたどった際、最初に現れる構成要素が上記センサであることを意味している。
引用文献1には、「前記第1の圧力センサおよび前記温度センサが、前記複数の異なるサイズの流量制限器のすぐ上流に結合されている」との構成が開示されていない。
当該構成は、単なる設計事項ではない。流量制限器のすぐ手前にセンサを位置付けることにより、明細書段落0130にも記載されているように、所与の流量オリフィスの入口と測定ポイントの間の距離に起因する変化又は損失を修正するためのアルゴリズム又は機能を使用する必要なく、より精度の高い読み取りが可能となる。

b 請求人の主張2(サブの複数の遮断バルブの想到困難性)
仮に当業者が、引用文献1におけるvalves 534, 536が本願発明におけるサブの複数の遮断バルブに相当するものであると認識した上で、sensors 526, 528をvalves 550 とorifices 560-568との間に接続する構成とすることを想定しうるとしても、引用文献1には、「サブ」の遮断バルブが、複数の流量制限器のうちの対応する流量制限器と複数の遮断バルブのうちの対応する遮断バルブとの間に結合されることについては開示されておらず、引用文献1のシステムは、各流量制限器/各遮断バルブについて、サブの遮断バルブが設けられる構成ではないので、引用文献1におけるシステムを変更して、本願補正後の請求項1に記載のシステムと同様の構成を採用するためには、追加の構成要素を導入しシステムの全体的な配置構成を見直す必要性が生じるものであって、このような根本的かつ大幅な変更は当業者の通常の創作能力によりなし得る事項ではない。

c 請求人の主張3(補正案及び補正の用意)
独立請求項について、次のような特徴を代替的又は追加的に記載する補正を行う用意がある。
「前記複数の遮断バルブの各々は、
(i)前記第1の圧力センサ、前記温度センサ、および前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器の各々の下流に結合されているか、または
(ii)前記第1の圧力センサ、前記温度センサ、および前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器の各々の上流に結合されている」」

d 請求人の主張4(サブの遮断バルブの配置位置の想到困難性)
仮に当業者が、引用文献1におけるvalves 534, 536が本願発明におけるサブの複数の遮断バルブに相当するものであると認識した上で、引用文献3の構成を適用し、引用文献1のsensors 526, 528をvalves 550 とorifices 560-568の間に接続することに着想し得たとしても、そのような構成を採用した引用文献1の発明が、「サブ」の遮断バルブが複数の流量制限器のうちの対応する流量制限器と複数の遮断バルブのうちの対応する遮断バルブとの間に結合されるとの本願発明の構成を開示又は示唆するものであるとはいえない。すなわち、引用文献1の発明においてsensors 526, 528の配置場所に付随してvalves 534, 536をorifices 560-568のすぐ上流に移動させる構成を採用したとしても、平行な流路の各々に対して個別の「サブ」遮断バルブを設けたことにはならず、よって、各流量制限器/各遮断バルブについて一つの「サブ」遮断バルブを配置する本願発明の構成と同一又はこれに相当するものとはならない。

e 請求人の主張5(拒絶理由通知の必要性)
審判請求人は、本願発明は引用文献1−3に記載の発明に対して進歩性を有していると確信している。
なお、引用文献3及びこれに基づく審査官の見解は、前置報告書で初めて提示されており、審判請求時又はそれ以前に正式な反論の機会が得られなかったものであるから、審判合議体の審理においては、新たな拒絶理由通知書を通知し、補正の機会を与えるべきである。

(イ) 請求人の主張についての検討
a 請求人の主張1(第1の圧力センサ及び温度センサの位置の重要性)について
(a) 請求人は審判請求書において、「すぐ上流に結合されている」とは、流量制限器から上流経路をたどった際、最初に現れる構成要素がセンサであることを意味していると主張しているが、本願明細書の図4を見れば明らかなように、各流量制限器から上流に向かって最初に現れるのは、サブの各遮断バルブの一端である。
したがって、「すぐ上流に結合されている」の表す意味は、請求人の表現に沿えば、流量制限器から上流経路をたどった際、最初に現れる構成要素が、センサ及び複数のサブ遮断バルブからなるセンサ系である、とすべきものである。
当審の前記アの判断は、「すぐ上流」の表す意味をこのように認定した上で行っているものである。
(b) 請求人は、流量制限器のすぐ手前にセンサを位置付けることは、引用文献1に開示がなく、当該構成により、明細書段落0130にも記載されているように、所与の流量オリフィスの入口と測定ポイントの間の距離に起因する変化又は損失を修正するためのアルゴリズム又は機能を使用する必要なく、より精度の高い読み取りが可能となる旨主張しているが、前記アにおいて説示したように、「流量制限器のすぐ上流」は、「チョーク流れ状態」を用いた質量流量測定技術における上流圧力や温度の本来の測定箇所であるから、このようにセンサを配置することは自明であり、請求人が主張する効果も、本願発明の構成に起因する効果として予測困難でかつ格別顕著な効果といえるものではない。
したがって、請求人の主張1は、前記ア及びウの結論を左右するものではない。

b 請求人の主張2(サブの複数の遮断バルブの想到困難性)及び請求人の主張4(サブの遮断バルブの配置位置の想到困難性)について
前記アにおいて説示したように、圧力センサー及び温度センサーを兼用しつつ「流量制限器のすぐ上流」で圧力及び温度を測定するという設計指針に従って設計変更するに際して、オリフィスが互いに流れ連通することを防止することが必要となるところ、このためにバルブを設けることは当たり前のことにすぎないから、サブの複数の遮断バルブを測定点とセンサ系の間に設けることに困難性は認められないし、この点は、技術常識(「技術常識2」参照)でもある。
したがって、請求人の主張2は、採用することができない。

c 請求人の主張3(補正案及び補正の用意)について
(a) 請求人が審判請求書において示した補正案は、次の事項を代替的又は追加的に記載するというものである。
「前記複数の遮断バルブの各々は、
(i)前記第1の圧力センサ、前記温度センサ、および前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器の各々の下流に結合されているか、または
(ii)前記第1の圧力センサ、前記温度センサ、および前記複数の異なるサイズの流量制限器のうちの対応する流量制限器の各々の上流に結合されている」
(b) 補正案の(i)の記載内容は、現在の請求項1における次の構成と矛盾するものである。
「前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々が、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブの下流に結合されており、」「前記第1の圧力センサおよび前記温度センサが、前記複数の異なるサイズの流量制限器のすぐ上流に結合されており、前記第1の圧力センサおよび前記温度センサがそれぞれ、前記複数の異なるサイズの流量制限器の各々と、前記複数の遮断バルブのうちの前記対応する遮断バルブとの間に結合されている」という構成。
(c) したがって、(i)の記載内容を含む補正案は、受け入れることができない。
(d) また、前記補正案の(ii)の構成が進歩性を有するものでないことは、前記相違点1の判断と同様の検討により、明らかである。
(e) したがって、前記補正案は受け入れることができないものであり、また、仮に前記補正案による補正が行われたとしても、本審決における前記ア及びウの判断の結論に影響が生じるものではない。

d 請求人の主張5(拒絶理由通知の必要性)について
請求人は、審判合議体の審理においては、新たな拒絶理由通知書を通知し、補正の機会を与えるべきと主張している。
しかしながら、前記アに示したとおり、センサ系が「すぐ上流に結合されている」ことは、「チョーク流れ状態」を用いた質量流量の測定技術からして設計事項であるというべきであって、原査定の理由と同等のものである。そして、引用文献3は、かかる判断が正当なものであることの証左としての技術常識1を例示するための補助的な証拠として引用したにすぎない。請求人が審判請求を行うに際しては、技術常識を踏まえて補正の検討や反論を行うべきものであるから、本件においては、改めて拒絶理由を通知する必要を認めることはできない。
なお、引用文献4に関しても同様である。

e 請求人の主張についての小括
以上検討のとおり、請求人の主張1〜5は、いずれも採用できないものであって、前記ア〜ウの結論を左右するものではない。


第5 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 岡田 吉美
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-07-15 
結審通知日 2022-07-19 
審決日 2022-08-01 
出願番号 P2018-567715
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 中塚 直樹
濱野 隆
発明の名称 チョーク流れに基づく質量流量検証のための方法、システム、および装置  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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