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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特39条先願 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1393085 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-24 |
確定日 | 2022-11-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6895135号発明「バリア性積層体、該バリア性積層体を備える包装容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6895135号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6895135号の請求項1、3〜9に係る特許を維持する。 特許第6895135号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6895135号の請求項1〜9に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)9月29日(優先権主張 令和元年9月30日)の出願であって、令和3年6月9日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月30日に特許掲載公報が発行された。 本件の特許異議の申立てに係る手続の経緯の概要は、次のとおりである。 令和3年12月24日 :特許異議申立人末吉直子(以下「申立人」という。)による請求項1〜9に係る特許に対する本件特許異議の申立て 令和4年 5月13日付け:取消理由通知書 令和4年 7月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。) 令和4年 9月 5日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に記載された「多層基材と、蒸着膜と、シーラント層とを備え、」を、 「多層基材と、蒸着膜と、シーラント層を備えるバリア性積層体であって、」に訂正し(以下「訂正事項1−1」という)。 「前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、」を、 「前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され、前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、」に訂正し(以下「訂正事項1−2」という。)、 また、本件訂正前の請求項1に記載された 「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、1.60以下である」を、 「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であり、 前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてなり、 前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上である」に訂正する(以下「訂正事項1−3という。) (請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜9も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項3に記載された 「請求項1または2に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1に記載のバリア性積層体」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜9も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項4に記載された 「請求項1〜3のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1または3に記載のバリア性積層体」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5〜9も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 本件訂正前の請求項5に記載された 「請求項1〜4のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1,3,4のいずれか一項に記載のバリア性積層体」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜9も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 本件訂正前の請求項6に記載された 「請求項1〜5のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1,3〜5のいずれか一項に記載のバリア性積層体」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7〜9も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7 本件訂正前の請求項7に記載された 「請求項1〜6のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1,3〜6のいずれか一項に記載のバリア性積層体」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する)。 (8)訂正事項8 本件訂正前の請求項8に記載された 「請求項1〜7のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1,3〜7のいずれか一項に記載のバリア性積層体」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9も同様に訂正する)。 (9)訂正事項9 本件訂正前の請求項9に記載された 「請求項1〜8のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、 「請求項1,3〜8のいずれか一項に記載のバリア性積層体」に訂正する。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1〜9は、請求項2〜9が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜9〕について請求されたものである。 3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について (1)訂正事項1について ア 訂正事項1−1について 訂正事項1−1は、本件訂正前の請求項1の冒頭に記載されていた「多層基材と、蒸着膜と、シーラント層とを備え」たものが、訂正前の請求項1の末尾に記載された「バリア性積層体」であることを明確にし、さらに訂正事項1−3により「前記バリア性積層体」の構成が付加されたことと整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項1−1は、本件訂正前の請求項1の記載に基づくものであって、訂正事項1−3は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項1−2について 訂正事項1−2は、本件訂正前の請求項1の「前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、」の記載について、文構造が明らかでなかったものを、読点を加えることで文構造を明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項1−2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項1−3について 訂正事項1−3は、本件訂正前の請求項1の「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲、「シーラント層」の材料、及び「バリア性積層体」のポリプロピレンの含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1−3は、本件特許の明細書の【0037】、【0103】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項1−3は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3〜9について 訂正事項3〜9は、本件訂正前の請求項3〜9について、訂正事項2によって請求項2が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項2によって削除された請求項2を引用しないようにする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項3〜9は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、明らかである。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1、3〜9に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1、3〜9を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 多層基材と、蒸着膜と、シーラント層とを備えるバリア性積層体であって、 前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、 前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、 かつ前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、 前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、 前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され、 前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、 前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、 前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であり、 前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてなり、 前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上であることを特徴とする、バリア性積層体。 【請求項3】 前記ポリプロピレン樹脂層と、シーラント層とが同一の材料から構成され、 前記同一材料が、ポリプロピレンである、請求項1に記載のバリア性積層体。 【請求項4】 前記多層基材の総厚さに対する、前記表面コート層の厚さの割合が、0.08%以上20%以下である、請求項1または3に記載のバリア性積層体。 【請求項5】 前記表面コート層の厚さが、0.02μm以上10μm以下である、請求項1,3,4のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項6】 前記樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、アモルファスナイロンおよびポリウレタンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1,3〜5のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項7】 前記表面コート層は、水系エマルジョンまたは溶剤系エマルジョンを用いて形成された層である、請求項1,3〜6のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項8】 包装容器用途に用いられる、請求項1,3〜7のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項9】 請求項1,3〜8のいずれか一項に記載のバリア性積層体を備えることを特徴とする、包装容器。 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1〜9に係る特許に対して、当審が令和4年5月13日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)取消理由1(同日出願) 本件特許の請求項1〜9に係る発明は、同日出願された下記の出願1に係る発明と同一と認められ、かつ、同出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないものであるから、特許法第39条第2項の規定に違反して特許されたものであるので、その特許は、取り消されるべきものである。 (2)取消理由2(新規性) 本件特許の請求項1〜6、8、9に係る発明は、下記の甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、当該発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (3)取消理由3(進歩性) 本件特許の請求項1〜9に係る発明は、下記の甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、又は下記の甲3に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、当該発明に係る特許は取り消されるべきものである。 記 <引用文献等一覧> 出願1:特願2021−508017号(特許第6902231号)(甲第1号証) 甲2:特開平10−264292号公報(甲第2号証) 甲3:特開2009−154449号公報(甲第3号証) 2 当審の判断 (1)取消理由1(同日出願)について ア 出願1に係る発明 出願1の請求項1、3〜11に係る発明は、令和4年7月19日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体であって、 前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、 前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、 前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、 前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、 前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、 前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、 前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であることを特徴とする、バリア性積層体。 【請求項3】 前記多層基材の総厚さに対する、前記表面コート層の厚さの割合が、0.08%以上20%以下である、請求項1に記載のバリア性積層体。 【請求項4】 前記表面コート層の厚さが、0.02μm以上10μm以下である、請求項1または3に記載のバリア性積層体。 【請求項5】 前記樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、アモルファスナイロンおよびポリウレタンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1,3,4のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項6】 前記表面コート層は、水系エマルジョンまたは溶剤系エマルジョンを用いて形成された層である、請求項1,3〜5のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項7】 包装容器用途に用いられる、請求項1,3〜6のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項8】 前記無機酸化物が、シリカ、酸化炭化珪素またはアルミナである、請求項1,3〜7のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項9】 請求項1,3〜8のいずれか一項に記載のバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体。 【請求項10】 前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、 前記同一材料は、ポリプロピレンである、請求項9に記載のヒートシール性積層体。 【請求項11】 請求項9または10に記載のヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器。 イ 判断 本件発明1、3〜9は、「前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上であること」を発明特定事項としているが、出願1の請求項1、3〜11に係る発明は、いずれも当該事項を発明特定事項としていない。 そうすると、本件特許に係る出願を先願とし、出願1を後願と仮定した場合、本件発明1、3〜9と出願1の請求項1、3〜11に係る発明とは、少なくとも、前者は「前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上である」のに対して、後者はそのようなものであると特定されていない点で相違する。 そして、当該相違点は当該「樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量」下限値の有無に関する実質的なものであるから、本件発明1、3〜9のそれぞれは、出願1の請求項1、3〜11に係る発明のいずれのものとも同一ではない。 (2)引用文献の記載事項、及び引用発明 ア 甲2 甲2には次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は食品、医薬品等の包装分野に用いられる包装用の積層体に関するものである。 【0002】 【従来の技術】包装材の分野において、ヒートシール性を有したシーラントフィルム等の積層体が公知である。これらを積層する方法は、接着剤を介して積層するドライラミネート、熱溶融した樹脂層を介して積層するエキストルージョン(以下EXTと略す)ラミネート等の方法が一般的である。接着強度は強いほど望ましいので、基材フィルムやシーラントフィルムは易接着処理されている場合が多い。易接着処理方法は、化学的表面処理、ガス炎処理などの方法もあるが、処理のコントロール性や均一性でコロナ処理が一般的に用いられている。 【0003】また、EXTラミネートではポリエチレン等の無極性樹脂を押し出す場合、コロナ処理した基材でも接着力が不足するため、ラミネート前に有機チタン系、ポリエチレンイミン系、イソシアネート系のアンカーコート剤を塗布する場合もある。 【0004】何れの方法でも、充填する内容物により経時でラミネート強度が劣化する場合も頻繁に起こっているのが現状である。特に、包装材料に気体や水蒸気のバリア性を付与することを目的とし、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化珪素などの無機化合物からなる薄膜層を積層したとき、プラスチックフィルム面と無機化合物からなる薄膜層の間の接着性が弱く、そこから剥離することが頻繁におこる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、基材もしくはシーラントのプラスチックフィルムに易接着性を付与し、かつ、経時により内容物のアタックがあってもラミネート強度が劣化しないという、いわゆる耐内容物性も同時に付与した透明積層体を提供することを目的とするもので、特に本願発明では更に酸素透過バリア性も向上しようとするものである。」 「【0018】本発明において用いられるプラスチック基材1とは、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリイミド等、あるいはこれらの高分子の共重合体などの通常の包装材料として用いられるもので、限定はされないが、透明性、熱安定性などから、二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム等が好ましく用いられる。」 「【0025】さらに、これらのアクリル樹脂に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの他の官能基との反応性を有する官能基を導入したものを用いても構わない。例えば、両末端に水酸基を導入したものや、β−ヒドロキシエチルメタクリレートのようなモノマーを導入したアクリルポリオールである。本発明に関わる透明プライマー層2の他の成分であるイソシアネート樹脂との反応性を考慮すると水酸基価が5〜200のアクリルポリオールを用いることが望ましい。」 「【0035】本発明の積層体に他の基材(プラスチックフィルムや紙等)を積層したり、ヒートシール性の樹脂を積層したりすることもできる。積層の方法には周知の方法(ドライラミネート、EXTラミネート等)が使用でき、特に限定はされない。」 「【0040】ガスバリア性被膜4は、無機化合物よりなる薄膜層3上に設けられ、アルミ箔並みの高いガスバリア性を付与するために設けられるもので、水溶性高分子と、(a)1種以上の金属アルコキシド及び加水分解物又は、(b)塩化錫、の少なくとも一方を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤からなる。水溶性高分子と塩化錫を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液、或いはこれに、金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合した溶液を無機化合物よりなる薄膜層3にコーティング、加熱乾燥し形成したものである。コーティング剤に含まれる各成分についてさらに詳細に説明する。 【0041】本発明でコーティング剤に用いられる水溶性高分子はポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。特にポリビニルアルコール(以下PVAとする)を本発明の積層体のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れる。ここで言うPVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全PVAまでを含み、特に限定されるものではない。」 「【0051】<プライマーの混合>下記の配合比でプライマーを混合した。本実験のプライマーとして使用したアクリルポリオール樹脂は三菱レーヨン(株)製のダイヤナールLR209である。また、イソシアネート樹脂としては日本ポリウレタン工業(株)製のコロネートLを用いた。 プライマーA;アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂を(アクリルポリオール樹脂のOH基):(イソシアネート樹脂のNCO基)が1:1になるように混合した。 プライマーB;アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂を(アクリルポリオール樹脂のOH基):(イソシアネート樹脂のNCO基)が1:2になるように混合した。 プライマーC;アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂を(アクリルポリオール樹脂のOH基):(イソシアネート樹脂のNCO基)が1:4になるように混合した。 以上の混合樹脂を希釈溶剤である酢酸エチルによりNV(固形分)が5%となる様に希釈した。」 「【0058】上記の実施例1〜3と比較例1〜3の積層体のプライマー層上に無機化合物からなるガスバリア性の薄膜層を積層し、さらにガスバリア性被膜を積層し、最後にドライラミネート法によりヒートシール性の樹脂を積層した。ただし、ガスバリア性被膜を積層せずに、無機化合物よりなる薄膜層上に直接ヒートシール性の樹脂を積層したものも作製した。」 「【0074】本発明の積層体を別の実施例を用いて更に詳細に説明する。 【0075】<実施例4>厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(本実験では東洋紡績(株)製のパイレンP2102を用いた)の片面にプライマーAを0.10μmの厚みでコーティングにより積層した。」 「【0080】上記の実施例4〜6と比較例4、5の積層体のプライマー層上に無機化合物からなるガスバリア性の薄膜層を積層し、さらにガスバリア性被膜を積層し、最後にドライラミネート法によりヒートシール性の樹脂を積層した。ただし、ガスバリア性被膜を積層せずに、無機化合物よりなる薄膜層上に直接ヒートシール性の樹脂を積層したものも作製した。 【0081】<無機化合物よりなる薄膜層の積層>電子線加熱方式による真空蒸着を行い、酸化珪素または酸化アルミニウムからなる薄膜層を積層した。酸化珪素を積層する場合には400〜500Åの厚さになるように、また酸化アルミニウムを積層する場合には100〜300Åの厚さになるように積層した。 【0082】<ガスバリア性被膜の積層>下記組成よりなるコーティング剤を0.3μmの厚さに積層した。 (コーティング剤組成) A テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO換算)の加水分解溶液。 B ポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比で90:10) A液とB液を配合比(wt%)で60/40に混合したもの。 【0083】<ドライラミネート>ウレタン系接着剤層を介して、厚み30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを積層した。本実験では出光石油化学(株)製のユニラックスRS503Cを用いた。」 「【0091】<テスト16>上記のように積層した実施例4,5,6と比較例4,5の無機酸化物からなる薄膜層として酸化アルミニウム層を持つ積層体を用いて4方シールのパウチを作製し、内容物として歯磨粉を約25g充填し、40℃−90%RHの雰囲気下に1ヶ月間保存し、経時で酸素バリア性の変化を測定した。測定条件は、上記テスト7と同様とした。」 「【0097】 【発明の効果】以上に述べたように本発明によれば、ラミネートする際の接着性に優れ、かつ、内容物充填時の経時における接着性にも優れる汎用性のある包装材料が得られる。特に、包装材料に酸素を中心としたバリア性を付与する目的で無機化合物からなる薄膜層を積層する場合、接着性が弱いとされるプラスチックとバリア性薄膜層(無機化合物よりなる薄膜層)との間での剥離を防ぎ、接着性とバリア性に優れた包装材料が得られる。」 甲2の上記記載事項から、特に、テスト16に用いられた実施例4に着目すると、甲2には次の「甲2発明」が記載されている。 「厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋製罐(株)製のパイレンP2102)の片面に、アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂を(アクリルポリオール樹脂のOH基):(イソシアネート樹脂のNCO基)が1:1になるように混合したプライマーAを0.10μmの厚みでコーティングにより積層し、プライマー層上に、電子線加熱方式による真空蒸着を行い、無機化合物からなるガスバリア性の薄膜層として酸化アルミニウムからなる薄膜層を100〜300Åの厚さになるように積層し、さらに、ガスバリア性被膜として、テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO換算)の加水分解溶液であるA液とポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比で90:10)であるB液とを配合比(wt%)で60/40に混合したコーティング剤を0.3μmの厚さに積層し、最後に、ドライラミネート法により、ウレタン系接着剤層を介して、ヒートシール性の樹脂として厚み30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(出光石油化学(株)製のユニラックスRS503C)を積層した、パウチを作製するための積層体。」 イ 甲3 甲3には次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、食品、医薬品、精密電子部品等の包装材料として用いられるガスバリア性フィルムに関する。」 「【請求項1】 高分子フィルム基材の表面に金属酸化物蒸着層と有機無機ハイブリッドバリア層が順次設けられたバリア性フィルムであって、該有機無機ハイブリッドバリア層は、X線光電子分光分析法によるアトミックパーセントの分析において、炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、5〜30%の割合で存在することが確認されることを特徴とするバリア性フィルム。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、可撓性を有するとともに酸素、水蒸気などに対するガスバリア性に優れ、耐熱性、耐湿性、耐水性を有し、かつ製造が容易なガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。」 「【0029】 次に有機無機ハイブリッドバリア層5は、水酸基を有する水溶性高分子と、1種以上の金属アルコキシド及びその加水分解物、及び水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を高分子フィルム基材1の表面に塗布し、加熱乾燥することによって形成される。」 「【0044】 そこで、発明者は、種々のサンプルについてその有機無機ハイブリッドバリア層の表面をXPSによって分析し、炭素、酸素、珪素のアトミックパーセントに着目した結果、炭素、酸素、珪素の割合が、それぞれ15〜50%、30〜65%、5〜30%の割合で存在するときに、最も好ましい結果が得られることを見いだした。 炭素の割合が50%より多い場合、バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア性が悪くなり、膜質が脆くなる。酸素の割合が30〜65%より多い場合、少ない場合ともに、また、珪素の割合が5〜30%より多い場合、少ない場合ともに、Si−O−Siの架橋構造に欠陥が生じ、緻密な膜質でなくなる結果、バリア性フィルムのガスバリア性が悪くなる。」 「【0071】 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。以下実施例に用いた、コーティング剤の配合処方、設定条件、測定条件等の実験条件を列記する。 【0072】 <実験条件> <アンカーコート層用コーティング剤の配合処方> アクリルポリオール6gにイソシアネートプロピルトリメトキシシラン0.6gを混合攪拌し調整した溶液(固形分20wt%)の7gに対して、硬化剤としてイソシアネート樹脂(TDI、固形分50wt%)1.5gと希釈溶媒(酢酸エチル)を加えて30分攪拌し、固形分2wt%としたもの。 【0073】 <RIE処理条件> RIEによる高分子フィルム基材の処理は、電極に周波数13.56MHzの高周波電源を用い、自己バイアス値を800Vとした。ガス種としては、アルゴンを使用した。 【0074】 <酸化アルミニウムの蒸着方法> 真空反応蒸着法の電子銃加熱方式を使用し、金属アルミニウムを蒸発し、マイクロ波でプラズマ化された酸素とアルミニウム蒸気を反応させ、基材に酸化アルミニウム膜を製膜する。 【0075】 <有機無機ハイブリッドバリア層用コーティング剤の配合処方> (A液):テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4、以下TEOSと称す)17.9gと、メタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた固形分5%(重量比SiO2換算)の加水分解溶液。 (B液):ポリビニルアルコールの5%(重量比)、水/メタノール=95/5(重量比)水溶液。 (C液):β−(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランのIPA溶液に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間撹拌し、加水分解させた後、さらに水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い、固形分5%(重量比R2Si(OH)3換算)に調整した加水分解溶液。 (D液):1,3,5−トリス(3−メトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを、水/IPA=1/1溶液で、固形分5%(重量比R2Si(OH)3換算)に希釈、調整した溶液。 (E液):エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン共重合比率29%)の5%(重量比)、水/IPA=95/5(重量比)溶液。 (F液):シリカ粉末をIPAに加え30分間撹拌した固形分5%の分散液。 【0076】 準備した有機無機ハイブリッドバリア層用コーティング剤は下記の7種類である。 配合比はすべて固形分重量比率である。 コーティング剤1・・・A/B =60/40 コーティング剤2・・・A/B/C=70/20/10 コーティング剤3・・・A/B/D=70/20/10 コーティング剤4・・・B =100 コーティング剤5・・・A/E =60/40 コーティング剤6・・・F/B =60/40 コーティング剤7・・・A/E/C=70/20/10。 【0077】 <XPS分析方法> 日本電子社製JPS−90MXVmicroを使用し、ワイドスペクトルにより炭素、酸素、珪素の各アトミックパーセントを測定し、ナロースペクトルにより、C−C結合:C−O結合のピーク強度(高さ)の比から、各結合数の比を定量的に測定する。 【0078】 <酸素透過度測定方法> MOCON社製OX−TRAN2/20を使用し、23℃−65%RH条件で測定する。 【0079】 <水蒸気透過度測定方法> MOCON社製PERMATRAN2/20を使用し、40℃−90%RH条件で測定する。 【実施例1】 【0080】 高分子フィルム基材1として、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し、この片面に、アンカーコート層2として<実験条件>に記載のアンカーコート層用コーティング剤をグラビアコート法により厚さ0.1μm(乾燥膜厚)となるように形成した。次いでアンカーコート層2上に酸化アルミニウム蒸着層4として<実験条件>に記載の真空反応蒸着方式で酸化アルミニウム蒸着層41を、厚さ15nmに形成した。更にその上に有機無機ハイブリッドバリア層5として、<実験条件>に記載のコーティング剤1をグラビアコーターで塗布し乾燥機で100℃、1分間乾燥させ、厚さ0.3μmの有機無機ハイブリッドバリア層5を形成し、バリア性フィルム10を得た。 【0081】 得られたバリア性フィルム10の有機無機ハイブリッドバリア層5をXPSのワイドスペクトルでアトミックパーセントを測定し、ナロースペクトルでC−C結合:C−O結合のピーク強度(高さ)の比を測定した。 【0082】 酸化アルミニウム蒸着層41のアルミニウムと酸素の比は、XPSで有機無機ハイブリッドバリア層の表面からエッチングを行い、有機無機ハイブリッドバリア層と高分子フィルム基材の影響を受けていない部分で構成比を測定した。 【0083】 また、ガスバリア性の評価としては、<実験条件>に記載した方法によって酸素透過度および水蒸気透過度を測定した。 【0084】 実施例1で得られたバリア性フィルムの有機無機ハイブリッドバリア層の分析結果は、C,O,Siがそれぞれ25%、50%、20%であった。また、C−C結合:C−O結合=50:50であった。有機無機ハイブリッドバリア層をXPS分析装置でエッチングしながら、酸化アルミニウム蒸着層のアルミニウムと酸素の比率を確認した結果は、1:2.0であった。得られたバリア性フィルムは、良好なガスバリア性を示した。」 「【0093】 【表1】 ![]() 」 甲3の上記記載事項から、甲3には、特に、実施例1に着目すると、次の「甲3発明」及び「甲3記載事項1」が記載されており、特に、【請求項1】に着目すると、「甲3記載事項2」が記載されている。 甲3発明 「高分子フィルム基材1として、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し、この片面に、アンカーコート層2として、アクリルポリオール6gにイソシアネートプロピルトリメトキシシラン0.6gを混合攪拌し調整した溶液(固形分20wt%)の7gに対して、硬化剤としてイソシアネート樹脂(TDI、固形分50wt%)1.5gと希釈溶媒(酢酸エチル)を加えて30分攪拌し、固形分2wt%としたコーティング剤をグラビアコート法により厚さ0.1μm(乾燥膜厚)となるように形成し、次いでアンカーコート層2上に真空反応蒸着方式で酸化アルミニウム蒸着層41を、厚さ15nmに形成し、更にその上に有機無機ハイブリッドバリア層5として、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4、以下TEOSと称す)17.9gと、メタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた固形分5%(重量比Si02換算)の加水分解溶液(A液)と、ポリビニルアルコールの5%(重量比)、水/メタノール=95/5(重量比)水溶液(B液)とを、固形分重量比率がA/B=60/40となる配合比としたコーティング剤1をグラビアコーターで塗布し乾燥機で100℃、1分間乾燥させ、厚さ0.3μmの有機無機ハイブリッドバリア層5を形成して得た、バリア性フィルム10であって、 有機無機ハイブリッドバリア層5が、XPSのワイドスペクトルでアトミックパーセントを測定した結果、Cが25%、Siが20%である、バリア性フィルム10。」 甲3記載事項1 「テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4、以下TEOSと称す)17.9gと、メタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた固形分5%(重量比Si02換算)の加水分解溶液(A液)と、ポリビニルアルコールの5%(重量比)、水/メタノール=95/5(重量比)水溶液(B液)とを、固形分重量比率がA/B=60/40となる配合比としたコーティング剤1を、酸化アルミニウム蒸着層41の上にグラビアコーターで塗布し、乾燥させた、有機無機ハイブリッドバリア層5について、XPSのワイドスペクトルでアトミックパーセントを測定した結果、Cが25%、Siが20%であること。」 甲3記載事項2 「高分子フィルム基材の表面に金属酸化物蒸着層と有機無機ハイブリッドバリア層が順次設けられたバリア性フィルムであって、該有機無機ハイブリッドバリア層は、X線光電子分光分析法によるアトミックパーセントの分析において、炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、5〜30%の割合で存在することが確認されるバリア性フィルム。」 ウ 甲4(特開2017−211082号公報) 甲4には次の記載がある。 「【0105】 (II)第2態様 本開示の第2態様の外包材は、少なくとも第1フィルムと、オーバーコート層付きフィルムと、熱溶着可能なフィルムとをこの順で有する真空断熱材用外包材であって、上記第1フィルムは、第1樹脂基材と、上記第1樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置され、少なくともM−O−P結合(ここで、Mは金属原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する金属酸化物リン酸層とを有し、上記オーバーコート層付きフィルムは、樹脂基板と、上記樹脂基板の少なくとも一方の面側に配置された無機層と、上記無機層の上記樹脂基板とは反対の面側に配置されたオーバーコート層とを有し、上記オーバーコート層は親水基含有樹脂を含み、上記オーバーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率が0.1以上、2以下の範囲内であることを特徴とするものである。」 「【0107】 本態様においても、上述した第1態様と同様に、高温高湿な環境に曝された際の劣化が少ないという特徴を有する金属酸化物リン酸層付きフィルムを、外包材の外側に用いることにより、内側のフィルムの劣化を防止し、外包材全体として、高温高湿な環境におけるガスバリア性を高く維持するものである。本態様においては、上記金属酸化物リン酸層付きフィルムの熱溶着可能なフィルム側に、オーバーコート層付きフィルムを用いることにより、そのような外包材を用いて形成された真空断熱材内部の真空度を高く維持することができる。これは、上記オーバーコート層付きフィルムは、高温高湿な環境において上記金属酸化物リン酸層付きフィルムを透過する程度の水蒸気に曝された場合でも、自身のガスバリア性を高く維持することができるからである。」 「【0111】 (1)オーバーコート層 本態様におけるオーバーコート層は、上記無機層の上記樹脂基板とは反対の面側に配置され、親水基含有樹脂を含むものである。上記親水基含有樹脂の有無は、例えば、赤外線吸収スペクトルなどにより判別することができる。また、上記オーバーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の範囲内であることが好ましい。比率が上記範囲に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバーコート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する場合がある。 【0112】 上述したような比率を有するオーバーコート層は、例えば、オーバーコート層形成用組成物における親水基含有樹脂の含有量を、後述するアルコキシドの合計量100質量部に対して5質量部以上、500質量部以下の範囲内、中でも20質量部以上、200質量部以下の範囲内の配合割合とすることにより得ることができる。上記オーバーコート層形成用組成物の一例としては、A液(ポリビニルアルコール(PVA)、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液)に、予め調製したB液(テトラエトキシシラン(TEOS)、イソプロピルアルコール、塩酸およびイオン交換水からなる加水分解液)を、TEOS100質量部に対してPVAが特定の割合となるように加えて撹拌し、ゾルゲル法により得られる、無色透明のオーバーコート層形成用組成物を挙げることができる。 【0113】 オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率の測定方法は特に限定されるものではなく、例えば、X線光電子分光法や、外包材断面からのエネルギー分散型X線分光法(EDX)などにより測定することができる。また、上記X線光電子分光法により測定する際はエッチングを行い、オーバーコート層の内部を評価してもよい。 【0114】 上述したA液およびB液を用い、TEOS100質量部に対してPVAが5質量部以上、500質量部以下の範囲内となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物を用いて作製されたオーバーコート層における、炭素原子に対する金属原子の比率を下記表1に示す。原子比率の測定は、X線光電子分光法により、測定装置としてESCA5600(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて行った。なお、下記表1においては、炭素原子(C)に対する金属原子としての珪素(Si)の比率を示す。 【0115】 【表1】 ![]() 」 「【0192】 [実施例5] (真空断熱材用外包材の作製) 金属酸化物リン酸層付きフィルム(第1樹脂基材/金属酸化物リン酸層)/オーバーコート層付きフィルム(樹脂基板/無機層/オーバーコート層)/熱溶着可能なフィルムの層構成を有する外包材を作製した。上記金属酸化物リン酸層付きフィルムおよび熱溶着可能なフィルムは、上記実施例1と同じ物を用いた。オーバーコート層付きフィルムとして、PETフィルムの一方の面側にシリカ蒸着層を有し、上記シリカ蒸着層のPETフィルムとは反対の面側にオーバーコート層を有するフィルムを用いた。上記各層は、下層となる層の面上に実施例1と同じ配合比で調製した接着剤を、塗布量3.5g/m2となるようにドライラミネート法により積層した。なお、上記オーバーコート層は、「A.真空断熱材用外包材、(II)第2態様、2.オーバーコート層付きフィルム、(1)オーバーコート層」の項において説明されている、A液およびB液を用いたオーバーコート層形成用組成物における親水基含有樹脂の含有量が、アルコキシドの合計量100質量部に対して50質量部となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物を用いて作製されたものである。以下の実施例および比較例におけるオーバーコート層についても同様である。 【0193】 すなわち実施例5では、第1フィルム(PETフィルム/金属酸化物リン酸層)/オーバーコート層付きフィルム(PETフィルム/シリカ蒸着層/PVA−TEOS層)/熱溶着可能なフィルム(CPPフィルム)の順で積層された層構成を有する外包材を得た。」 甲4の上記記載事項から、甲4には、次の「甲4記載事項」が記載されている。 「金属酸化物リン酸層付きフィルムと、オーバーコート層付きフィルムと、熱溶着可能なフィルムとをこの順で有する真空断熱材用外包材であって、 金属酸化物リン酸層付きフィルムの熱溶着可能なフィルム側に、オーバーコート層付きフィルムを用いることにより、オーバーコート層付きフィルムは、高温高湿な環境に曝された際の劣化が少ない金属酸化物リン酸層付きフィルムを透過する程度の水蒸気に曝された場合でも、自身のガスバリア性を高く維持することができ、 オーバーコート層付きフィルムは、樹脂基板と、樹脂基板の少なくとも一方の面側に配置された無機層と、無機層の樹脂基板とは反対の面側に配置されたオーバーコート層とを有し、オーバーコート層を構成する原子における、X線光電子分光法により測定される炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)は、0.8以上、1.6以下の範囲内である、真空断熱材用外包材。」 (3)甲2に基づく取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は本件発明1の「ポリプロピレン樹脂層」に相当し、以下同様に、「プライマー層」は「表面コート層」に、「ガスバリア性被膜」は「バリアコート層」に相当する。 甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「プライマー層」を合わせたものは、本件発明1の「多層基材」に相当する。 甲2発明の「アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂を(アクリルポリオール樹脂のOH基):(イソシアネート樹脂のNCO基)が1:1になるように混合したプライマーA」は本件発明1の「極性基を有する樹脂材料」に相当する。 甲2発明の「ガスバリア性の薄膜層」は「電子線加熱方式による真空蒸着を行い」積層されたものであるから、本件発明1の「蒸着膜」に相当する。 甲2発明の「ヒートシール性の樹脂」としての「未延伸ポリプロピレンフィルム」は本件発明1の「シーラント層」に相当する。 甲2発明の「テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO換算)の加水分解溶液であるA液とポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比で90:10)であるB液とを配合比(wt%)で60/40に混合したコーティング剤を0.3μmの厚さに積層し」たものは本件発明1の「金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜」に相当する。 甲2発明の「積層体」は、「ガスバリア性薄膜層」、「ガスバリア性被膜」を積層したものであるから、本件発明1の「バリア性積層体」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点1] 「多層基材と、蒸着膜と、シーラント層とを備えるバリア性積層体であって、 前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、 前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、 かつ前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、 前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、 前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され、 前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、 前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、 前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてなる、バリア性積層体。」 [相違点1−1] 本件発明1は、「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であ」るのに対して、甲2発明は、「ガスバリア性被膜」の表面の、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が不明である点。 [相違点1−2] 本件発明1は、「前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上である」のに対して、甲2発明は、そのようなものであると特定されていない点。 (イ)新規性についての判断 相違点1−1について検討する。 甲3には、有機無機ハイブリッドバリア層に係るXPS測定結果として、Cが25%、Siが20%となることが記載されている。 そして、甲2発明の「ガスバリア性被膜」と甲3記載事項1の「有機無機ハイブリッドバリア層5」とは、ともに酸化アルミニウムからなる層の上に、テトラエトキシシランとポリビニルアルコールの固形成分が60/40となるように配合したコーティング剤を積層したものであるから、甲2発明の「ガスバリア性被膜」は、XPSにより測定されるC、Siがそれぞれ25%、20%、すなわち珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.8となる蓋然性が高い。 したがって、相違点1−1はガスバリア性塗布膜の表面に存在する珪素原子と炭素原子の個数の比に由来する相違点であるから、実質的な相違点である。そうすると、本件発明1は甲2発明ではない。 (ウ)進歩性についての判断 さらに相違点1−1について検討する。 a 相違点1−1に係る本件発明1の構成の技術的意義 本件特許の明細書には、相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項に関して、次の記載がある。 「【0103】 ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、1.60以下であることが好ましく、0.50以上1.60以下であることがより好ましく、0.90以上1.35以下であることがさらに好ましい。 珪素原子と炭素原子の比を1.60以下とすることにより、バリア性積層体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できる。 珪素原子と炭素原子の比を0.50以上とすることにより、バリア性積層体を用いて包装製品を作製する際に、ヒートシール等の加熱を行ってもガスバリア性の低下を抑制できる。 珪素原子と炭素原子の比の上記範囲は、水溶性高分子に対する金属アルコキシドの比を適宜調整することにより達成できる。 なお、本明細書において、珪素原子と炭素原子の比は、モル基準である。」 すなわち、本件発明1は、相違点1−1に係る発明特定事項により、バリア性積層体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制でき、バリア性積層体を用いて包装製品を作製する際に、ヒートシール等の加熱を行ってもガスバリア性の低下を抑制できるという効果を奏するものである。 b 甲3、甲4に記載された技術 (a)甲3 甲3記載事項2に摘記した、「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、5〜30%の割合で存在すること」との記載から、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)を計算すると、0.1(炭素と酸素と珪素の割合が、それぞれ50%、45%、5%のとき)以上、2(同じく15%、55%、30%のとき)以下であるから、甲3記載事項2は、本件発明1の用語で表現すれば、ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.1以上2以下であることといえる。 また、甲3の【0093】【表1】には、実施例として、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.8(実施例1、4)、1.7(実施例2)、3(実施例3)のガスバリア性塗布膜の表面が示されている。 (b)甲4 甲4記載事項は、本件発明1の用語で表現すれば、ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.8以上2以下であることといえる。 また、甲4の実施例5(【0192】)におけるオーバーコート層は、A液およびB液を用いたオーバーコート層形成用組成物における親水基含有樹脂の含有量が、アルコキシドの合計量100質量部に対して50質量部となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物が用いられており、甲4の【0115】【表1】を参照すると、甲4には、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、1.03のガスバリア性塗布膜の表面が示されている。 c 判断 相違点1−1に係る本件発明1の構成の技術的意義は上記aに示したとおりであるところ、甲2発明の「ガスバリア性被膜」は、「アルミ箔並の高いガスバリア性を付与するために設けられるもの」(甲2の【0040】)であるものの、甲2には、積層体を屈曲させたり、あるいは加熱した場合のガスバリア性の低下についての記載がない。そうすると、甲2発明には、積層体を屈曲させたり、あるいは加熱したりした場合のガスバリア性の低下を抑制するために、ガスバリア性塗布膜の表面における、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)を0.90以上1.60以下とすることの動機付けがあるとはいえない。 上記(2)イやb(a)に示したように、甲3には、可撓性を有するとともに酸素、水蒸気などに対するガスバリア性に優れ、耐熱性、耐湿性、耐水性を有するものとするため、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)を0.1以上2以下とすることが少なくとも示唆されているものの、バリア性積層体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制でき、ヒートシール等の加熱を行ってもガスバリア性の低下を抑制できるようにするため、相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることまでは、記載も示唆もされていないから、甲3の記載を踏まえても、当業者が甲2発明において相違点1−1に係る本件発明の構成とすることに動機付けがあるとはいえない。 また、上記b(b)で示したとおり、甲4には、ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.8以上2以下とすることが記載され、実施例として1.03のものが記載されている。しかしながら、甲4に記載されたものは、金属酸化物リン酸層付きフィルムと、オーバーコート層付きフィルムと、熱溶着可能なフィルムとをこの順で有する真空断熱材用外包材におけるオーバーコート層付きフィルムに関して、高温高湿な環境において上記金属酸化物リン酸層付きフィルムを透過する程度の水蒸気に曝された場合でも、自身のガスバリア性を高く維持するためのものであるのに対して、甲2発明は、食品、医薬品等の包装分野に用いられる包装用の積層体(甲2の【0001】)に関して、アルミ箔並の高いガスバリア性を付与するために設けられるためのもの(甲2の【0040】)であって、両者は、技術分野、課題が異なるものであるから、当業者であっても甲2発明に甲4記載事項を適用することに動機付けがあるとはいえない。 したがって、甲2発明において、相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、相違点1−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 本件発明3〜9について 本件発明3〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えるものであるから、本件発明3〜6、8、9は甲2に記載された発明ではなく、また、本件発明3〜9は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお、申立人は、特許異議の申立てにおいて、請求項7に係る発明について、甲2に基づく新規性の理由も申し立てているが、同様に、本件発明7は甲2に記載された発明ではない。 (4)甲3に基づく取消理由3(進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「アンカーコート層」は本件発明1の「表面コート層」に相当し、以下同様に、「蒸着層」は「蒸着膜」に、「有機向きハイブリッドバリア層」は「バリアコート層」に、「バリア性フィルム10」は「バリア性積層体」に相当する。 甲3発明の「2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し」した「高分子フィルム基材1」と本件発明1の「ポリプロピレン樹脂層」とは、「樹脂層」の限りで一致する。 甲3発明の「高分子フィルム基材1」と「アンカーコート層」を合わせたものは、本件発明1の「多層基材」に相当する。 甲3発明の「アクリルポリオール6gにイソシアネートプロピルトリメトキシシラン0.6gを混合攪拌し調整した溶液(固形分20wt%)の7gに対して、硬化剤としてイソシアネート樹脂(TDI、固形分50wt%)1.5gと希釈溶媒(酢酸エチル)を加えて30分攪拌し、固形分2wt%としたコーティング剤」は本件発明1の「極性基を有する樹脂材料」に相当する。 甲3発明の「ガスバリア性の薄膜層」は「電子線加熱方式による真空蒸着を行い」積層されたものであるから、本件発明1の「蒸着膜」に相当する。 甲3発明の「テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4、以下TEOSと称す)17.9gと、メタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた固形分5%(重量比Si02換算)の加水分解溶液(A液)と、ポリビニルアルコールの5%(重量比)、水/メタノール=95/5(重量比)水溶液(B液)とを、固形分重量比率がA/B=60/40となる配合比としたコーティング剤1をグラビアコーターで塗布し乾燥機で100℃、1分間乾燥させ、厚さ0.3μmの有機無機ハイブリッドバリア層5を形成して得た」たことは本件発明1の「前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であ」ることに相当する。 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点2] 「多層基材と、蒸着膜とを備えるバリア性積層体であって、 前記多層基材は、少なくとも樹脂層と表面コート層とを備え、 前記樹脂層は、延伸処理が施されており、 かつ前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、 前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、 前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され、 前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、 前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、 前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であり、 前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてなり、 前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上であることを特徴とする、バリア性積層体。」 [相違点2−1] 本件発明1は「シーラント層」を備え、「前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてな」るのに対して、甲3発明はそのようなシーラント層を備えていない点。 [相違点2−2] 「樹脂層」に関して、本件発明1は「ポリプロピレン樹脂層」であるのに対して、甲3発明は「2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し」した「高分子フィルム基材1」である点。 [相違点2−3] 本件発明1は、「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であ」るのに対して、甲3発明は、そのようなものであると特定されていない点。 [相違点2−4] 本件発明1は、「前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上である」のに対して、甲3発明は、そのようなものであるのかが不明である点。 (イ)判断 まず、相違点2−1、相違点2−2及び相違点2−4についてそれぞれ検討する。 本件発明1は、相違点2−1に係る発明特定事項、相違点2−2に係る発明特定事項及び相違点2−4に係る発明特定事項を兼ね備えたことにより、シーラント層及び多層基材の樹脂層をそれぞれ共にポリプロピレンとすることに加えて、樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量を90質量%以上とすることで、「バリア性積層体を用いて作製した包装容器のリサイクル適性をより向上することができる」(【0037】)ものである。 これに対し、甲3発明には、上記述べたポリプロピレンに係る本件発明1の構成とすることについて、記載も示唆もされておらず、甲3発明において、そのような構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。この点、他の証拠を参酌しても、この判断が変わるものではない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明3〜9について 本件発明3〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えるものであるから、いずれも甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議の申立ての理由について 1 甲4に基づく特許法第29条第2項(進歩性)に係る申立理由について 申立人は、請求項1〜9に係る発明は、甲4に記載された発明、甲2、甲4、甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の主張をしている。 (1)甲4に記載された発明 甲4には、【0111】〜【0115】、【0192】の記載があり、特に、実施例5に着目すると、次の「甲4発明」が記載されている。 「第1フィルム(PETフィルム/金属酸化物リン酸層)/オーバーコート層付きフィルム(PETフィルム/シリカ蒸着層/PVA−TEOS層)/熱溶着可能なフィルム(CPPフィルム)の順で積層された層構成を有する外包材であって、 前記オーバーコート層付きフィルムとして、PETフィルムの一方の面側にシリカ蒸着層を有し、上記シリカ蒸着層のPETフィルムとは反対の面側にオーバーコート層を有するフィルムを用い、 前記オーバーコート層は、A液(ポリビニルアルコール(PVA)、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液)に、予め調製したB液(テトラエトキシシラン(TEOS)、イソプロピルアルコール、塩酸およびイオン交換水からなる加水分解液)を用いたオーバーコート層形成用組成物における親水基含有樹脂の含有量が、アルコキシドの合計量100質量部に対して50質量部となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物を用い、 前記オーバーコート層は、X線光電子分光法により測定を行った、炭素原子(C)に対する金属原子としての珪素(Si)の比率が1.03である、外包材。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「シリカ蒸着膜」は本件発明1の「蒸着膜」に相当し、以下同様に、「PVA−TEOS層」は「バリアコート層」に相当し、「熱溶着可能なフィルム」は「シーラント層」に、「外包材」は「バリア性積層体」に相当する。 甲4発明の「オーバーコート層付きフィルム」の「PETフィルム」と本件発明1の「少なくとも」「延伸処理が施されて」いる「ポリプロピレン樹脂層」と「極性基を有する樹脂材料を含」む「表面コート層」とを備える「多層基材」とは、「樹脂層」を備える「基材」の限りで一致する。 甲4発明の「前記オーバーコート層は、A液(ポリビニルアルコール(PVA)、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液)に、予め調製したB液(テトラエトキシシラン(TEOS)、イソプロピルアルコール、塩酸およびイオン交換水からなる加水分解液)を用いたオーバーコート層形成用組成物における親水基含有樹脂の含有量が、アルコキシドの合計量100質量部に対して50質量部となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物を用い」たことは、本件発明1の「前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であ」ることに相当する。 甲4発明の「前記オーバーコート層は、X線光電子分光法により測定を行った、炭素原子(C)に対する金属原子としての珪素(Si)の比率が1.03である」ことは、本件発明1の「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であ」ることに相当する。 そうすると、本件発明1と甲4発明とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点3] 「基材と、蒸着膜と、シーラント層とを備えるバリア性積層体であって、 前記基材は、樹脂層を備え、 前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され、 前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、 前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、 前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であり、 前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてなる、バリア性積層体。」 [相違点3−1] 「樹脂層」を備える「基材」に関して、本件発明1は「少なくとも」「延伸処理が施されて」いる「ポリプロピレン樹脂層」と「極性基を有する樹脂材料を含」む「表面コート層」とを備える「多層基材」であるのに対して、甲4発明は、「オーバーコート層付きフィルム」の「PETフィルム」である点。 [相違点3−2] 本件発明1は「前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられて」いるのに対して、甲4発明は「PETフィルムの一方の面側にシリカ蒸着層を有し」ている点。 [相違点3−3] 本件発明1は「前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上である」のに対して、甲4発明はそのようなものであると特定されていない点。 イ 判断 本件発明1は、「前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてな」ることに加え、相違点3−1に係る発明特定事項のうち「前記多層基材」が「ポリプロピレン樹脂層」を備えること及び相違点3−3に係る発明特定事項を兼ね備えたことにより、シーラント層及び多層基材の樹脂層をそれぞれ共にポリプロピレンとすることに加えて、樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量を90質量%以上とすることで、「バリア性積層体を用いて作製した包装容器のリサイクル適性をより向上することができる」(【0037】)ものである。 これに対し、甲4発明には、相違点3−1に係る本件発明1の構成、及び相違点3−3に係る本件発明1の構成とすることについて、記載も示唆もされておらず、甲4発明において、そのような構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。この点、他の証拠を参酌しても、この判断が変わるものではない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3〜9について 本件発明3〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えるものであるから、いずれも甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る申立理由について 申立人は、請求項1〜9に記載された「Si/C」について、Si/C比率が0.83未満である場合に、発明の詳細な説明の記載、出願時の技術常識からは、発明の解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識することができないため、請求項1〜9に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨の主張をしている。 申立人の主張について検討するに、上記第2の1(1)及び3(1)ウに示したように、訂正事項1−3により、本件発明1、3〜9は「Si/C」が「0.90以上」と訂正されたから、請求人の上記主張は根拠がないものであるから採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、請求項1、3〜9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、3〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項2は、本件訂正により削除されたため、請求項2に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 多層基材と、蒸着膜と、シーラント層とを備えるバリア性積層体であって、 前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、 前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、 かつ前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、 前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、 前記蒸着膜が、無機酸化物から構成され、 前記蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、 前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、 前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であり、 前記シーラント層はポリプロピレンにより構成されてなり、 前記バリア性積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有量は、90質量%以上であることを特徴とする、バリア性積層体。 【請求項2】 〈削除〉 【請求項3】 前記ポリプロピレン樹脂層と、シーラント層とが同一の材料から構成され、 前記同一材料が、ポリプロピレンである、請求項1に記載のバリア性積層体。 【請求項4】 前記多層基材の総厚さに対する、前記表面コート層の厚さの割合が、0.08%以上20%以下である、請求項1または3に記載のバリア性積層体。 【請求項5】 前記表面コート層の厚さが、0.02μm以上10μm以下である、請求項1,3,4のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項6】 前記樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、アモルファスナイロンおよびポリウレタンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1,3〜5のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項7】 前記表面コート層は、水系エマルジョンまたは溶剤系エマルジョンを用いて形成された層である、請求項1,3〜6のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項8】 包装容器用途に用いられる、請求項1,3〜7のいずれか一項に記載のバリア性積層体。 【請求項9】 請求項1,3〜8のいずれか一項に記載のバリア性積層体を備えることを特徴とする、包装容器。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-10-26 |
出願番号 | P2020-163967 |
審決分類 |
P
1
651・
4-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B) P 1 651・ 113- YAA (B32B) P 1 651・ 537- YAA (B32B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 藤原 直欣 |
登録日 | 2021-06-09 |
登録番号 | 6895135 |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | バリア性積層体、該バリア性積層体を備える包装容器 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 宮嶋 学 |
代理人 | 柏 延之 |
代理人 | 浅野 真理 |
代理人 | 浅野 真理 |
代理人 | 宮嶋 学 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 柏 延之 |