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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1393087
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-14 
確定日 2022-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6902076号発明「炭酸感が改善された炭酸飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6902076号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。 特許第6902076号の請求項1、2、4ないし6に係る特許を維持する。 特許第6902076号の請求項3に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第6902076号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年4月27日を出願日とする特願2015−90884号(以下、「原出願」という。)の一部を令和1年9月11日に新たな特許出願としたものであって、令和3年6月22日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年7月14日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和4年1月14日に特許異議申立人 山▲崎▼ 浩一郎(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年4月21日付けで取消理由が通知され、同年6月21日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月30日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年8月8日に特許異議申立人より意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「カリウムとナトリウム含量の合計が30mg以下、」と記載されているのを、「カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし6も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1又は2」に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5及び6も同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1、2、及び4のいずれか1項」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1、2、4、及び5のいずれか1項」に訂正する。

(6) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるので、訂正前の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、カリウムとナトリウム含量の合計を「30mg以下」から「16mg以下」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1の請求項1の訂正は、願書に添付した明細書の【0037】ないし【0045】、特に【0038】の【表4】及び【0043】の【表5】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるから新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし6も同様である。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項3の訂正は、請求項3の削除を目的とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(3) 訂正事項3ないし5について
訂正事項3ないし5に係る請求項4ないし6の訂正はいずれも、訂正事項2に係る請求項3の訂正により請求項3が削除されたことに伴い、引用先の請求項から請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3ないし5に係る請求項4ないし6の訂正はいずれも、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(4) 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和4年6月21日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、
当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、及び
カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、
である前記炭酸飲料。
【請求項2】
カラメル色素を更に含む、請求項1に記載の炭酸飲料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記炭酸飲料100ml当たりカリウムを14mg以上含有する、請求項1又は2に記載の炭酸飲料。
【請求項5】
前記カリウムの供給源は、炭酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三カリウム、水酸化カリウム、乳酸カリウム、酒石酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、及びフマル酸カリウムからなる群より選ばれる、請求項1、2、及び4のいずれか1項に記載の炭酸飲料。
【請求項6】
請求項1、2、4、及び5のいずれか1項に記載の炭酸飲料の製造方法。」

第4 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)ないし(7))は、次のとおりである。

(1) 申立理由1−1(甲第1号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由1−2(甲第2号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由1−3(甲第3号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4) 申立理由2−1(甲第12号証ないし甲第15号証をそれぞれ主たる根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第12号証ないし甲第15号証のいずれかに記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 申立理由2−2(甲第23号証を主たる根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第23号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6) 申立理由2−3(甲第24号証を主たる根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第24号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7) 申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由3の具体的理由は次のとおりである。

ア 申立理由3−1(カリウム及びナトリウムの含有量と効果について)
本件明細書段落0038の表4において、「カフェインとカリウムの組み合わせによる炭酸感の改善効果に及ぼすナトリウムの影響について検討」した結果が示されている。
[本件明細書段落0038の表4]

本件請求項1に係る発明は、カリウムとナトリウムに関して、炭酸飲料100ml当たりカリウムを6mg〜30mg、ナトリウムを10mg以下、及びカリウムとナトリウム含量の合計が30mg以下含有するものであるため、表4のうちで発明の範囲に含まれるサンプルは、K:6mgかつNa:Omg、K:6mgかつNa:10mg、K:15mgかつNa:Omg、K:15mgかつNa:10mg、K:30mgかつNa:Omgのみであり、これらの官能スコアはそれぞれ2.6, 1.7, 3.4, 2.6, 3.5点である(下記の通り表4に強調を追加した)。これらのうち特に「K:6mgかつNa:10mg」の時の官能スコアに着目すると、わずか1.7点である。


ここで評価は、「カフェインとカリウムを含まない試験サンプルの炭酸感を1点とし、該試験サンプルに比べて、2点:炭酸感を少し強く感じる、3点:炭酸感をやや強く感じる、4点:炭酸感を非常に強く感じる、5点:炭酸感を痛いと感じるほど強く感じる」という基準で行われている(本件明細書段落0029)。
しかしながら、本件発明が解決しようとする課題が、「炭酸感が改善された、カフェインを含有する炭酸飲料の提供」(本件明細書段落0004)であることに鑑みると、官能スコアが2点を下回る場合においてまで、炭酸感の改善効果を有するとは理解することができず、本件特許請求の範囲に係る発明は、その全体にわたって上記課題を解決できることが実施例からは読み取れず、発明の詳細な説明に記載されたものではない。実際に、官能スコアが1.7点ということは、複数人のパネラーは1点をつけていることを示しており、すなわち複数人のパネラーは炭酸感が改善されていないと判断していることを示している。そのため、当業者であっても本件発明の課題を解決できると認識できるものではないと考えられる。
また、仮に官能スコアが2点に満たない1.7点の場合に炭酸感の改善効果を有するものと判断できるのであれば、官能スコアが1点超のものであればすべて炭酸感の改善が認められると判断し得ることとなる。しかしながら、例えば、上記表4のうちK:6mgかつNa:20mgは官能スコアが1.5であるにもかかわらず本件発明の範囲外のものとなっている(さらにK:15mgかつNa:30mgは1.9点であり、K:15mgかつNa:30mgは1.5点であること等が示されている)。実際、1つのサンプル(K:6mgかつNa:30mg)を除くすべての値が1.4点以上であり、2点以上の値を有するサンプルは複数存在している。すなわち、少なくとも現在の請求項に記載の数値範囲とすることにおいて臨界的意義を有するとは認められないと考えられる。
そのため、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ 申立理由3−2(実施例における官能評価について)
本件明細書において、炭酸感の評価は、次の方法で行われたことしか開示されていない:
「専門パネラーによる炭酸飲料としての炭酸感を評価した。評価は5段階で行うものとし、カフェインとカリウムを含まない試験サンプルの炭酸感を1点とし、該試験サンプルに比べて、2点:炭酸感を少し強く感じる、3点:炭酸感をやや強く感じる、4点:炭酸感を非常に強く感じる、5点:炭酸感を痛いと感じるほど強く感じると評価した。」(本件明細書段落0029)。
ここで、実施例の官能評価において、各パネラーの個別の評点が記載されておらず、少しの炭酸感の増加であっても強い炭酸感の増加であると判断するパネラーの存在を否定できず、全パネラーの平均値のみを示した場合に炭酸感を客観的に正確に評価したものと捉えることは困難と考えられ、このような実施例では特許請求の範囲に記載された発明に係る炭酸飲料の炭酸感の改善効果が示されているとは言えず、特許請求の範囲に記載の発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。すなわち、当業者が課題を解決できると認識できるものではないと考えられる。
そのため、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(8) 証拠方法
・甲第1号証:「Way Back Machine | Over Caffeinated, Diet Pepsi Lime」、[online]、2014年12月30日、[2021年12月15日検索]、インターネット
・甲第2号証:「Way Back Machine | Over Caffeinated, Diet Pepsi Wild Cherry」、[online]、2014年12月30日、[2021年12月15日検索]、インターネット
・甲第3号証:「Way Back Machine | Over Caffeinated, Diet Pepsi Vanilla」、[online]、2014年12月30日、[2021年12月21日検索]、インターネット
・甲第4号証:Over Caffeinated, Diet Pepsi Lime、[online]、 OverCaffeinated.org、2021年12月15日、[2021年12月15日検索]、インターネット
・甲第5号証:Christina Cheddar Berk、 Pepsi Lime Is Planned、第1頁第2段落第1〜2行目、[online]、2005年2月4日、The Wall Street Journal、[2021年12月21日検索]、インターネット
・甲第6号証:Diet Pepsi Lime、[online]、 PepsiCo Inc.、2021年12月22日、[2021年12月22日検索]、インターネット<URL:https://www.pepsicobeveragefacts.com/Home/product?formula=35005*30*01-0l&form=RTD&size=12>
・甲第7号証:Over Caffeinated, Diet Pepsi Wild Cherry、[online]、OverCaffeinated.org、 2021年12月15日、[2021年12月15日検索]、インターネット
・甲第8号証:Linda Liguori、PEPSI COLA VARIATION、第6頁下から1−2行目、[online]、2014年10月30日、Linda Liguori Brand Naming、[2021年12月23日検索]、インターネット
・甲第9号証:Diet Pepsi Wild Cherry、[online]、PepsiCo Inc.、2021年12月22日、[2021年12月22日検索]、インターネット
・甲第10号証:Over Caffeinated, Diet Pepsi Vanilla、[online]、OverCaffeinated.org、2021年12月21日、[2021年12月21日検索]、インターネット
・甲第11号証:Diet Pepsi Vanilla、[online]、PepsiCo Inc.、2021年12月22日、[2021年12月22日検索]、インターネット
・甲第12号証:「Way Back Machine I Over Caffeinated, Diet Pepsi」、[online]、2014年12月30日、[2021年12月22日検索]、インターネット
・甲第13号証:Diet Coke、[online]、THE COCA-COLA COMPANY、2021年12月23日、[2021年12月23日検索]、インターネット
・甲第14号証:Coca-Cola Vanilla Zero Sugar、[online]、THE COCA-COLA COMPANY、2021年12月23日、[2021年12月23日検索]、インターネット
・甲第15号証:Coca-Cola Cherry Zero Sugar、[online]、THE COCA-COLA COMPANY、2021年12月23日、[2021年12月23日検索]、インターネット
・甲第16号証:A Short History of The Coca-Cola Company, 125 years of sharing happiness、第20頁左欄「1982」の項、[online]、THE COCA-COLA COMPANY、2021年12月23日、[2021年12月23日検索]、インターネット
・甲第17号証:Coca-Cola Zero Sugar、第5頁第2欄及び第3欄、[online]、wikipedia.org、2021年12月23日、[2021年12月23日検索]、インターネット /wiki/Coca-Cola_Zero_Sugar>
・甲第18号証:Christine Mugnolo、Calories in Soda: The Ultimate Guide、第5〜6頁「Diet Coke」の項、[online]、LIVESTRONG.com、2021年12月21日、[2021年12月21日検索]、インターネット
・甲第19号証:「Way Back Machine | Over Caffeinated, DietCoke」、[online]、2015年1月1日、[2021年12月27日検索]、インターネット
・甲第20号証:「Way Back Machine | Over Caffeinated, Coca-Cola Vanilla Zero」、[online]、2014年12月30日、[2021年12月27日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20141230211127/http://overcaffeinated.org/database/soda-pop/coca-cola-vanilla-zero/>
・甲第21号証:Cherry Coke Zero Sugar、[online]、caffeineinformer.com、2021年12月23日、[2021年12月23日検索]、インターネット ・甲第22号証:「Way Back Machine | Over Caffeinated, Coca-cola Cherry Zero」、[online]、2014年1月26日、[2021年12月27日検索]、インターネット
・甲第23号証:米国特許出願公開2003/0134007号明細書
・甲第24号証:米国特許第8440246号明細書

なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。

また、特許異議申立人は、令和4年8月8日提出の意見書に添付して、次の証拠も提出している。
・甲第25号証:専門家による宣誓書
・甲第26号証:甲第25号証の宣誓書に記載されるExhibit A
・甲第27号証:甲第25号証の宣誓書に記載されるExhibit B
・甲第28号証:甲第25号証の訳文
・甲第29号証:項第26号証の訳文
・甲第30号証:甲第27号証の訳文

なお、甲第25号証ないし甲第30号証の表記は、令和4年8月8日提出の意見書における記載にしたがった。

第5 令和4年4月21日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要

当審が令和4年4月21日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりである。なお、特許異議申立理由のうち、申立理由1−1ないし申立理由1−3は、取消理由に包含される。

取消理由1(甲第1号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2(甲第2号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由3(甲第3号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 当審の判断

1 令和4年4月21日付け取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1) 取消理由1(甲第1号証を根拠とする新規性)について
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「Diet Pepsi Lime」に関し、次の記載がある。

・「Ingredients」として、
Carbonated Water
CARAMEL COLOR
NATURAL FLAVOR
Phosphoric Acid
Aspartame
Citric Acid
POTASSIUM CITRATE
Caffeine
POTASSIUM SORBATE(PRESERVES FRESHNESS)
Acesulfame Potassium
Phenyalanine
との記載がある。

・「Nutrition Information」として、
Size 12oz
Caffeine 38.00
Potassium 55
Aspartame 124
Acesulfame Potassium 32
Phosphorous 43
Sodium 35
との記載がある。

(イ) 甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載をまとめると、甲第1号証には、
「カフェイン、カリウム、ナトリウムを含有する炭酸飲料であって、
カラメル色素、クエン酸カリウムを含むものであって、
炭酸飲料12ozあたり
カフェイン 38.00mg
カリウム 55mg
ナトリウム 35mg
含有する、炭酸飲料。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

なお、本件特許発明6は、「炭酸飲料の製造方法」に関する発明であるため、これに対応して、
甲第1号証には、「甲1発明を製造する方法。」が記載されているものであって、後の本件特許発明6との対比を行うべきであるところ、本件特許発明6の炭酸飲料の製造方法の特定事項は、本件特許発明1の炭酸飲料の組成そのもののみであり、その論点が同じものとなるため、甲第1号証には「甲1発明を製造する方法」も記載されているものとし、以下、まとめて論じることとする。なお、他の証拠に基づく検討も同様である。

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
甲1発明のカフェイン、カリウム、ナトリウムの含有量について、1oz=29.57mlであるから、100mlあたりに換算すると、次のように換算される。
カフェイン 10.71mg/100ml
カリウム 15.50mg/100ml
ナトリウム 9.86mg/100ml
カリウムとナトリウム含量の合計 25.36mg/100ml
と算出される。
してみると両者は、
「カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、
当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、
である前記炭酸飲料。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
炭酸飲料100ml当たりにおけるカリウムとナトリウムの合計の量について、本件特許発明1は「16mg以下」と特定されるのに対して、甲1発明は25.36mgである点。
上記相違点1は、実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。

なお、特許異議申立人は令和4年8月8日提出の意見書において、甲第25号証ないし甲第30号証を提出するとともに、甲第1号証で表される飲料と訂正後の請求項1に係る発明で特定される成分含有量の数値範囲との差は微差であり、当該微差は普通の人が炭酸飲料を飲む場合、味や口当たりの違いを知覚できない程度のものであるから、甲1号証で表される飲料に基いて、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら、甲1発明は、「Diet Pepsi Lime」という完成された商品の組成であることからすれば、甲1発明の組成を変更する動機付けがあるとはいえないし、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことによる本件特許発明1の効果も予測することはできないから、上記の特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ) 本件特許発明2及び4ないし6について
本件特許発明2及び4ないし6はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は甲1発明ではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし6についても同様に、甲1発明ではない。

(ウ) 取消理由1についてのまとめ
上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1はその理由がない。

(2) 取消理由2(甲第2号証を根拠とする新規性)について
ア 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「Diet Pepsi Wild Cherry」に関し、次の記載がある。

・「Ingredients」として、
Carbonated Water
CARAMEL COLOR
Phosphoric Acid
NATURAL FLAVOR
Aspartame
Potassium Benzoate
POTASSIUM CITRATE
Citric Acid
Caffeine
Acesulfame Potassium
Calcium Disodium EDTA
Phenyalanine
との記載がある。

・「Nutrition Information」として、
Size 12oz
Caffeine 38.00
Fat 0g
Potassium 65
Aspartame 124
Acesulfame Potassium 32
Phosphorous 53
Sodium 35
との記載がある。

(イ) 甲第2号証に記載された発明
上記(ア)の記載をまとめると、甲第2号証には
「カフェイン、カリウム、ナトリウムを含有する炭酸飲料であって、
カラメル色素、クエン酸カリウムを含むものであって、
炭酸飲料12ozあたり
カフェイン 38.00mg
カリウム 65mg
ナトリウム 35mg
含有する、炭酸飲料。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
甲2発明のカフェイン、カリウム、ナトリウムの含有量について、1oz=29.57mlであるから、100mlあたりに換算すると、次のように換算される。
カフェイン 10.71mg/100ml
カリウム 18.32mg/100ml
ナトリウム 9.86mg/100ml
カリウムとナトリウム含量の合計 28.18mg/100ml
と算出される。
してみると両者は、
「カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、
当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、
である前記炭酸飲料。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
炭酸飲料100ml当たりにおけるカリウムとナトリウムの合計の量について、本件特許発明1は「16mg以下」と特定されるのに対して、甲2発明は28.18mgである点。
上記相違点2は、実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明ではない。

なお、特許異議申立人は令和4年8月8日提出の意見書において、上記(1)イ(ア)と同様の主張をするが、その主張が採用できないのは、上記(1)イ(ア)における当該主張に対する検討と同様である。

(イ) 本件特許発明2及び4ないし6について
本件特許発明2及び4ないし6はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は甲2発明ではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし6についても同様に、甲2発明ではない。

(ウ) 取消理由2についてのまとめ
上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由2はその理由がない。

(3) 取消理由3(甲第3号証を根拠とする新規性)について
ア 甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
(ア) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「Diet Pepsi Vanilla」に関し、次の記載がある。

・「Ingredients」として、
Carbonated Water
CARAMEL COLOR
NATURAL AND ARTIFICIAL FLAVOR
Phosphoric Acid
Aspartame
POTASSIUM CITRATE
Caffeine
POTASSIUM SORBATE(PRESERVES FRESHNESS)
Acesulfame Potassium
VANILLA EXTRACT
Citric Acid
Calcium Disodium EDTA
Phenyalanine
との記載がある。

・「Nutrition Information」として、
Size 12oz
Caffeine 38.00
Potassium 45
Aspartame 124
Acesulfame Potassium 32
Phosphorous 57
Sodium 35
との記載がある。

(イ) 甲第3号証に記載された発明
上記(ア)の記載をまとめると、甲第3号証には、
「カフェイン、カリウム、ナトリウムを含有する炭酸飲料であって、
カラメル色素、クエン酸カリウムを含むものであって、
炭酸飲料12ozあたり
カフェイン 38.00mg
カリウム 45mg
ナトリウム 35mg
含有する、炭酸飲料。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
甲3発明のカフェイン、カリウム、ナトリウムの含有量について、1oz=29.57mlであるから、100mlあたりに換算すると、次のように換算される。
カフェイン 10.71mg/100ml
カリウム 12.68mg/100ml
ナトリウム 9.86mg/100ml
カリウムとナトリウム含量の合計 22.54mg/100ml
と算出される。
してみると両者は、
「カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、
当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、
である前記炭酸飲料。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3)
炭酸飲料100ml当たりにおけるカリウムとナトリウムの合計の量について、本件特許発明1は「16mg以下」と特定されるのに対して、甲3発明は22.54mgである点。
上記相違点3は、実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、本件特許発明1は、甲3発明ではない。

なお、特許異議申立人は令和4年8月8日提出の意見書において、上記(1)イ(ア)と同様の主張をするが、その主張が採用できないのは、上記(1)イ(ア)における当該主張に対する検討と同様である。

(イ) 本件特許発明2及び4ないし6について
本件特許発明2及び4ないし6はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は甲3発明ではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし6についても同様に、甲3発明ではない。

(ウ) 取消理由3についてのまとめ
上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由3はその理由がない。

2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由2−1ないし申立理由2−3及び申立理由3であるので、以下順に検討する。
(1) 申立理由2−1(甲第12号証ないし甲第15号証をそれぞれ主たる根拠とする進歩性)について
ア 本件特許発明1について
甲第12号証ないし甲第15号証は、いずれも上市されている炭酸飲料であり、そのカフェイン、カリウム、ナトリウムの含有量は次のとおりである。
・甲第12号証「diet Pepsi」
12oz当たり、カフェイン35.00mg、カリウム30mg、ナトリウム35mg
・甲第13号証「diet Coke」
12oz当たり、カフェイン46mg、カリウム39.6mg、ナトリウム40mg
(なお、カリウム含有量は甲第18号証を参照した。)
・甲第14号証「Coca-Cola Vanilla Zero Sugar」
12oz当たり、カフェイン34mg、カリウム60mg、ナトリウム40mg
・甲第15号証「Coca-Cola Cherry Zero」
12oz当たり、カフェイン34mg、カリウム60mg、ナトリウム40mg
(なお、カフェイン含有量については甲第22号証を参照した。)
そこで、これら甲第12号証ないし甲第15号証にそれぞれ記載された組成を有する炭酸飲料の発明(以下、それぞれ「甲12発明」ないし「甲15発明」という。)を、上記1の甲1発明ないし甲3発明の場合と同様に換算の上、本件特許発明1と対比すると、甲12発明ないし甲15発明はいずれも、本件特許発明1において特定されている、
「当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、及び
カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、」
との条件を満たさない点で相違する。
そして、甲12発明ないし甲15発明はいずれも、完成された商品の組成であることからすれば、他の証拠の記載を勘案しても、甲12発明ないし甲15発明の各々の組成を変更する動機付けがあるとはいえないし、当該相違点に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことによる本件特許発明1の効果も予測することはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲12発明ないし甲15発明のいずれからも、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2及び4ないし6について
本件特許発明2及び4ないし6はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は甲12発明ないし甲15発明のいずれに基いても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし6についても同様に、甲12発明ないし甲15発明のいずれに基いても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由2−1についてのまとめ
上記ア及びイのとおりであるから、申立理由2−1はその理由がない。

(2) 申立理由2−2(甲第23号証を主たる根拠とする進歩性)について
ア 本件特許発明1について
甲第23号証の請求項1、13を整理すると、「炭酸飲料」の発明(以下、「甲23発明」という。)が記載されているものと認められる。
そこで、本件特許発明1と甲23発明とを対比すると、本件特許発明1では、
「当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、及び
カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、」
と特定されるのに対して、甲23発明にはそのような特定がない点で相違する。
この点について、甲第23号証の請求項10には、「クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスコルビン酸、リン酸、リン酸カリウム及び/又はリン酸ナトリウムなどの緩衝剤を0.01〜0.5重量%の濃度で含む」こと、請求項11には「0.01〜0.5重量%濃度のカフェインを補助的に添加」することの記載はあるものの、甲第23号証及び他の証拠をみても、特に、カフェインとカリウム、ナトリウムを含み、その割合を相違点に係る本件特許発明1の特定の範囲に調整する動機がない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点に係る発明特定事項を満たすことにより、カフェインを含有する炭酸飲料において炭酸感を改善するとの格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲23発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2及び4ないし6について
本件特許発明2及び4ないし6はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は甲23発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし6についても同様に、甲23発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由2−2についてのまとめ
上記ア及びイのとおりであるから、申立理由2−2はその理由がない。

(3) 申立理由2−3(甲第24号証を主たる根拠とする進歩性)について
ア 本件特許発明1について
甲第24号証の比較例2の記載(TABLE1-continuedの成分含有量の記載を参照のこと)から認められる容器詰緑茶飲料の発明(以下、「甲24発明」という。)を本件特許発明1と対比すると、本件特許発明1では、
「当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、及び
カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、」
と特定されるのに対して、甲24発明にはそのような特定がない点で少なくとも相違する。
この点について、甲第24号証にはカリウムの供給源等の記載はあるものの、他の証拠をみても、比較例である甲24発明を出発点としてその組成を変更する動機があるとはいえないし、当該相違点に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことによる本件特許発明1の効果も予測することはできない。
してみれば、本件特許発明1は、甲24発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2及び4ないし6について
本件特許発明2及び4ないし6はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は甲24発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし6についても同様に、甲24発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件についての検討
本件特許発明は、「炭酸感が改善された、カフェインを含有する炭酸飲料の提供」(【0004】)を発明の課題とするものであって、「カフェインを含有する炭酸飲料において、カリウムが特定量で存在する場合、炭酸感の改善に寄与しうることを見出した」(【0005】)との記載、及び【0011】、【0014】、【0018】及び実施例の記載からみて、カフェインを含有する炭酸飲料に、カリウムを所定量添加することによって、発明の課題を解決するものと当業者は認識できる。
そして、本件特許発明1、2及び4ないし6は、カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料(炭酸飲料の製造方法)であって、カフェインとカリウムの量が特定されるとともに、さらにナトリウムの量、カリウムとナトリウムの合計量についても特定されるものであって、発明の課題を解決するものと認識できる特定事項を全て含むものであるといえるから、本件特許発明1、2及び4ないし6は、当然発明の課題を解決するものである。

イ 申立理由3−1(カリウム及びナトリウムの含有量と効果の点)について
特許異議申立人は、官能評価スコアが1点台の実施例があることをとりあげ、本件特許発明は課題を解決しない部分を含むものである旨主張する。
しかし、カフェインを含む炭酸飲料においてカリウムを添加することで、カフェイン・カリウムを含まないものに比して評価値が上昇し炭酸感が改善していることは、【表2】、【表3】からも読み取れるといえるから、当該主張は採用できない。

ウ 申立理由3−2(実施例における官能評価の点)について
特許異議申立人は、各パネラーの個別の評点が示されておらず、全パネラーの平均値のみを示した場合に炭酸感を客観的に正確に評価したものと捉えることは困難である旨主張する。
しかし、複数のパネラーの平均値により、炭酸感の改善効果について一定の傾向が読み取れるものといえるから、平均値のみ示されていることを根拠に炭酸感の改善効果が示されているとはいえないとする特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 申立理由3についてのまとめ
上記アないしウのとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。

3 令和4年8月8日に提出した意見書における特許異議申立人の主張についての判断
特許異議申立人は、令和4年8月8日に提出した意見書において、さらに、特許法第36条第6号第2号に規定する明確性要件に関して、次の理由を主張する。

特許権者は、上記訂正により請求項1の範囲を、カリウムとナトリウム含量の合計16mg以下に訂正した。すなわち、例えばナトリウムの量がOmgであるときは、カリウムの量は16mg以下であるということである。しかしながら、訂正後の請求項1には、「力リウムを6mg〜30mg」と記載されている。
すなわち、訂正後の請求項1において、例えば30mgのカリウムを許容することが記載されており、その一方でそれと同量のカリウムは除外されることが記載されている。そのため、訂正後の請求項1にはその内部に矛盾があるため、訂正後の発明は不明確である。

上記主張について検討する。
確かに、請求項1には、
「カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、及び
カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、」
と記載されているが、当該記載からは、「カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下」と特定されていることからみて、カリウムの含量、ナトリウムの含量が、「カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下」との条件を満たす範囲においてとり得る範囲であることは、当業者にとって自明である。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は明確であるから、上記主張は採用できない。

第7 結語

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、
当該炭酸飲料100ml当たり、
カフェインを10mg〜40mg、
カリウムを6mg〜30mg、
ナトリウムを10mg以下、及び
カリウムとナトリウム含量の合計が16mg以下、
である前記炭酸飲料。
【請求項2】
カラメル色素を更に含む、請求項1に記載の炭酸飲料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記炭酸飲料100ml当たりカリウムを14mg以上含有する、請求項1又は2に記載の炭酸飲料。
【請求項5】
前記カリウムの供給源は、炭酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三カリウム、水酸化カリウム、乳酸カリウム、酒石酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、及びフマル酸カリウムからなる群より選ばれる、請求項1、2、及び4のいずれか1項に記載の炭酸飲料。
【請求項6】
請求項1、2、4、及び5のいずれか1項に記載の炭酸飲料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-10-14 
出願番号 P2019-165114
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
登録日 2021-06-22 
登録番号 6902076
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 炭酸感が改善された炭酸飲料  
代理人 宮前 徹  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 中西 基晴  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 中西 基晴  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  

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