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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1393116
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-25 
確定日 2022-12-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第7020506号発明「摩擦材及び摩擦部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7020506号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許(特許第7020506号)に係る出願は、平成23年6月7日に出願された特願2011−127572号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成28年6月22日に新たな特許出願とした特願2016−123632号の一部を、平成29年10月25日に新たな特許出願とした特願2017−206611号の一部を、令和元年5月23日に新たな特許出願とした特願2019−96751号の一部を、更に令和2年4月9日に新たな特許出願としたものであって、令和4年2月7日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜7に係る特許に対し、同年7月25日に特許異議申立人 株式会社アイピーシー(代表者:山内博明)(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された以下のとおりのものである(請求項1〜7に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明7」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。

「【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、 前記無機充填材に相当するチタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、 前記無機充填材に相当する酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であり、さらに、 前記有機充填材に相当するカシューダストと前記有機充填材に相当するゴム成分とを含有し、且つ、それらの質量比(カシューダスト:ゴム成分)が2:1〜10:1である、摩擦材。
【請求項2】
前記ゴム成分が、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記繊維基材が、無機繊維、金属繊維、有機繊維及び炭素系繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記繊維基材の含有量が5〜40質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
前記チタン酸塩の比表面積が0.5〜2.5m2/gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項6】
前記有機充填材の含有量が1〜10質量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項7】
請求項1〜 6のいずれか1項に記載の摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。」

第3 特許異議申立理由の概要
本件特許発明1には「銅の含有量が銅元素として5質量%以下」という特定事項があるが、本件特許明細書の記載を見ても「銅の含有量」が「0質量%」を含むかどうか明らかでないから、本件特許発明1の記載は特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たさない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜7も同様である。
このように、本件特許発明1〜7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当するから、取り消すべきものである。

第4 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
1 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。
(1)「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。
[ノンアスベスト摩擦材組成物]
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩及び粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムを含有し、かつ、該チタン酸塩の含有量が10〜35質量%であり、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことを特徴とする。
上記構成により、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高温での耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチを抑制できるという効果を発現することができる。」
(2)「【0030】
上記金属繊維としては、耐クラック性や耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への優しさを考慮すると、該摩擦材組成物中における銅全体の含有量は、銅元素として5質量%以下の範囲であることを要する。
銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の向上及びメタルキャッチ抑制の観点から含有量が0.5質量%以下であることを要する。好ましくは、摩擦係数の向上の割には耐摩耗性の悪化及びメタルキャッチの発生がしやすいため、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)である。
銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維等の金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」
(3)「【実施例】
【0039】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例に示す評価は次のように行った。
【0040】
(1)高温での耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、制動前ブレーキ温度500℃、制動前速度60km/h、減速度0.3Gで1000回制動を行い、試験前後の摩擦材厚みから、摩擦材の摩耗量を算出した。
(2)メタルキャッチ生成の評価
メタルキャッチ生成の評価では、制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行った。試験完了後、摩擦材摺動面に生成したメタルキャッチの大きさと数を、以下の基準で評価した。
A:メタルキャッチの生成無し
B:長径2mm未満のメタルキャッチが1個〜2個生成
C:長径2mm未満のメタルキャッチが3個以上生成
D:長径2mm以上のメタルキャッチが1個以上生成
(3)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
【0041】
なお、上記耐摩耗性の評価、メタルキャッチ生成及び摩擦係数の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ(株式会社キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0042】
[実施例(参考例を含む)1〜13及び比較例1〜5]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例(参考例を含む)及び比較例の摩擦材組成物を得た。なお、表1の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー(株式会社マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて日立オートモティブシステムズ株式会社製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm2)を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
【0043】
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業株式会社製(商品名:HP491UP)
(有機充填剤)
・カシューダスト:東北化工株式会社製(商品名:FF−1056)
(無機充填剤)
・チタン酸塩1:大塚化学株式会社製(商品名:テラセスL)
成分:チタン酸リチウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:25μm、比表面積:0.6m2/g
・チタン酸塩2:大塚化学株式会社製(商品名:テラセスPS)
成分:チタン酸マグネシウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:4μm、比表面積:2.5m2/g
・チタン酸塩3:大塚化学株式会社製(商品名:テラセスTF−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:燐片状
メジアン径:7μm、比表面積:3.5m2/g
・チタン酸塩4:株式会社クボタ製(商品名:TXAX−MA)
成分:チタン酸カリウム、形状:板状
比表面積:1.5m2/g
・チタン酸塩5:東邦マテリアル株式会社製(商品名:TOFIX−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:柱状
メジアン径:6μm、比表面積:0.9m2/g
・チタン酸塩6:大塚化学株式会社製(商品名:ティスモD)
成分:チタン酸カリウム、形状:繊維状
比表面積:7.0m2/g
・酸化ジルコニウム1:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−3QZ、平均粒子径2.0μm、最大粒子径15μm)
・酸化ジルコニウム2:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−QZ、平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)
・酸化ジルコニウム3:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−12QZ、平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン株式会社製(商品名:1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名:#0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名:SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)
【0044】
【表1】



【0045】
実施例では500℃での摩擦材摩耗量が少なく、優れた耐摩耗性を示し、メタルキャッチを抑制することができ、かつ高い摩擦係数を発現した。酸化ジルコニウムを含有しない比較例2、最大粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有する比較例1、チタン酸塩の含有量が10質量%より少ない比較例3、チタン酸塩の含有量が35質量%より多い比較例4、並びに鉄繊維を1質量%含有する比較例5では、十分な耐摩耗性が得られず、またメタルキャッチの抑制をすることができなかった。」

2 当審の判断
本件特許発明1の「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり」という特定事項では、「銅の含有量」の下限が特定されていない。この点につき、本件特許発明1では、摩擦材組成物が銅を含有することが何ら特定されていないことを考慮すれば、本件特許発明1には、銅の含有を前提とする場合、前提としない場合の両方が包含され、文言上、本件特許発明1には、銅の含有を前提としない場合、すなわち「銅の含有量」が「0質量%」の場合も包含されると解される。
また、本件特許明細書の表1(前記1(3))には、繊維基材として銅繊維を使用せず、「銅元素としての銅の含有量(質量%)」が「0質量%」である実施例10が記載されており、その「500℃摩擦材摩耗量(mm)」は1.7mm、「メタルキャッチ生成」はB(長径2mm未満のメタルキャッチが1個〜2個生成)、「摩擦係数」は0.40である。そうすると、表1の記載より、実施例10の性能は比較例より優れている上、「銅元素としての銅の含有量(質量%)」が「4質量%」である他の実施例と同程度に優れていることが理解できる。
このように、本件特許明細書には、「銅元素としての銅の含有量(質量%)」が「0質量%」である実施例が記載され、「銅元素としての銅の含有量(質量%)」が「0質量%」でない他の実施例と同程度にその性能が優れることが示されていることを考慮すれば、単に文言上の解釈からだけではなく、本件特許明細書の記載からも、本件特許発明1には、「銅の含有量」が「0質量%」の場合も包含されると理解するのが自然である。
したがって、「銅の含有量」が「0質量%」を含む点において、本件特許発明1は明確であり、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしている。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜7についても同様である。

3 申立人の主張及びその検討
(1)申立人の主張
申立人は、異議申立書において以下の旨を主張する。
「上記分説したとおり、構成要件Bは「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、」であるが、その下限が特定されていない。したがって、本件特許発明1の記載を見ただけでは、文言上、「銅の含有量」が「0質量%」を含むかどうか明らかでない。
そこで、本件特許明細書の記載を見てみると、構成要件Bに直接的に関係する記載が、以下に部分引用する【0030】にある。なお、強調のため、本異議申立人が下線を付した。
「【0030】
上記金属繊維としては、耐クラック性や耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への優しさを考慮すると、該摩擦材組成物中における銅全体の含有量は、銅元素として5質量%以下の範囲であることを要する。・・・」
しかし、【0030】の記載を見ても、依然として、(1)銅の存在を前提としていてその含有量を5質量%以下としていると解釈すべきであるか、(2)銅の存在を前提としていないと解釈すべきであるか明らかでない。
このため、さらに本件特許明細書を見てみると、以下に引用する【0031】に、構成要件Cに直接的に関係するとともに構成要件Bにも間接的に関係する記載がある。
「【0031】
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の向上及びメタルキャッチ抑制の観点から含有量が0.5質量%以下であることを要する。好ましくは、摩擦係数の向上の割には耐摩耗性の悪化及びメタルキャッチの発生がしやすいため、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)である。」
【0031】の記載を見ると、「銅及び銅合金以外の金属繊維」については、(1)「0.5質量%以下であること要する」という説明とともに、(2)「含有量0質量%」という記載があるから、「銅及び銅合金以外の金属繊維」の含有量が「0質量%」である場合を含むことが見て取れる。このことを踏まえて改めて【0030】を見てみると、そこには【0031】の上記(2)に相当する記載の明示がない。したがって、「銅の含有量」が「0質量%」である場合を含むというように類推解釈的な理解をすべきなのか、はたまた、「銅の含有量」が「0質量%」である場合を含まないというように反対解釈的な理解をすべきなのか、全く見当がつかない。」(第3頁第20行〜第5頁第2行)

(2)申立人の主張の検討
しかしながら、前記2で述べたとおり、本件特許発明1の「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり」という特定事項では、「銅の含有量」の下限が特定されていない上、本件特許発明1では、摩擦材組成物が銅を含有することが何ら特定されていないことを考慮すれば、本件特許発明1には、銅の含有を前提とする場合、前提としない場合の両方が包含され、文言上、本件特許発明1には、「銅の含有量」が「0質量%」の場合も包含されると解される。
また、前記2で述べたとおり、本件特許明細書には、「銅元素としての銅の含有量(質量%)」が「0質量%」である実施例が記載され、「銅元素としての銅の含有量(質量%)」が「0質量%」でない他の実施例と同程度にその性能が優れることが示されていることを考慮すれば、段落【0031】の「含有量0質量%」と同様又は類似する記載が段落【0030】にないとしても、本件特許発明1には、「銅の含有量」が「0質量%」の場合も包含されると理解するのが自然である。
したがって、前記(1)で示した申立人の主張は、採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由によっては、本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-12-14 
出願番号 P2020-070576
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 関根 裕
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
田澤 俊樹
登録日 2022-02-07 
登録番号 7020506
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 摩擦材及び摩擦部材  
代理人 澤山 要介  
代理人 弁理士法人大谷特許事務所  
代理人 平澤 賢一  

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