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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D21H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D21H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D21H 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D21H |
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管理番号 | 1393119 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-08-04 |
確定日 | 2022-12-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7020339号発明「キッチンペーパーロールおよびキッチンペーパー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7020339号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7020339号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許についての出願は、平成30年8月8日(優先権主張 平成29年12月28日 日本国)に出願され、令和4年2月7日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月16日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜11に係る特許に対し、令和4年8月4日に特許異議申立人大野芙美(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立て(以下「本件異議申立」という。)を行った。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜11に係る発明(以下「本件発明1」などという。また、本件発明1〜11を「本件発明」と総称することもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 キッチンペーパーをロール状としたキッチンペーパーロールであって、 前記キッチンペーパーの紙厚の実測値をTrとし、前記キッチンペーパーロールの回転軸に直交した切断面において、前記キッチンペーパーが占める面積を、前記キッチンペーパーロールに巻かれた前記キッチンペーパーの巻長で除して得られる算出値をTiとしたときに、前記実測値Trを前記算出値Tiで除して得られる復元値が1.10以上であり、 前記キッチンペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり、前記キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%であることを特徴とするキッチンペーパーロール。 【請求項2】 前記キッチンペーパーの長手方向の乾燥時の引張強度が5.0N〜13.0Nであり、前記キッチンペーパーの幅方向の乾燥時の引張強度が1.5N〜4.5Nであることを特徴とする請求項1に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項3】 前記復元値が1.15以上であることを特徴とする請求項1 または請求項2に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項4】 前記キッチンペーパーには、エンボス加工により凹部が施されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項5】 前記凹部の深さは200μm〜450μmであり、前記キッチンペーパーの単位面積当たりの前記凹部の面積の割合は3%〜50%であることを特徴とする請求項4に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項6】 前記キッチンペーパーに形成された前記凹部の窪みの外側輪郭は、角部を有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項7】 前記キッチンペーパーに形成された前記凹部の窪みの外側輪郭は、多角形を呈していることを特徴とする請求項6に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項8】 前記キッチンペーパーは、第1層および第2層を有し、 前記第1層の一方面と前記第2層の一方面とは、接着部を介して接着されており、 前記第1層の他方面および前記第2層の他方面に前記凹部の窪みが配置されるように、前記凹部がそれぞれ形成されることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項9】 前記第1層の前記一方面には、前記第1層の前記他方面に形成された前記凹部に対応するように、第1エンボス凸部が形成されており、 前記第2層の前記一方面には、前記第2層の前記他方面に形成された前記凹部に対応するように、第2エンボス凸部が形成されており、 前記第1エンボス凸部の頂部と、前記第2層の前記一方面のうちエンボス加工がされていない面と、が前記接着部を介して接着されており、且つ、前記第2エンボス凸部の頂部と、前記第1層の前記一方面のうちエンボス加工がされていない面と、が前記接着部を介して接着されていることを特徴とする請求項8に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項10】 前記キッチンペーパーロールの重量は150g〜320gであり、前記巻かれた前記キッチンペーパーの巻長は14m〜35mであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のキッチンペーパーロール。 【請求項11】 請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のキッチンペーパーロールから引き出して使用可能なキッチンペーパー。」 第3 特許異議申立理由の概要 申立人は、次の甲第1〜6号証(以下「甲1」などという。)を提出し、次の申立理由1〜5を主張している。 甲1:特開2017−131545号公報 甲2:特開2002−345676号公報 甲3:特表2007−504919号公報 甲4:特表2016−540530号公報 甲5:特開昭60−173200号公報 甲6:特開2002−88694号公報 1 申立理由1(甲1を主たる引例とした進歩性) 本件発明1〜11は、甲1に記載された発明および甲2〜6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、本件特許の請求項1〜11に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。 2 申立理由2(甲2を主たる引例とした新規性または進歩性) 本件発明1〜4、10、11は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当するから、本件特許の請求項1〜4、10、11に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。 また、本件発明1〜11は、甲2に記載された発明および甲1、3〜6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、本件特許の請求項1〜11に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件発明1は、復元値と長手方向および幅方向の伸びの数値範囲が特定されたキッチンペーパーロールの発明であるところ、エンボス加工の有無が特定されておらず、エンボス加工が施されていないキッチンペーパーロールにおいて上記数値範囲が好適であることは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、本件発明1をエンボス加工が施されていないものまで拡張ないし一般化することができず、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。 本件発明1を引用する本件発明2、3についても同様である。 よって、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきである。 4 申立理由4(サポート要件) 請求項1には、「前記キッチンペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり、前記キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%である」と記載されているが、本件特許明細書の【0076】には、キッチンペーパーの縦方向の「伸び」を「第1の範囲」(13.4%から22.7%)に設定し、横方向の「伸び」を「第2の範囲」(4.9%から6.5%)に設定することによって、「復元値を1.10以上のキッチンペーパーロールを製造することが可能となっている」こと及び「比較例1から比較例3のキッチンペーパーの「伸び」は、これらの範囲から逸脱しており、縦方向が24.3%から25.0%の範囲となって」いることが記載されており、比較例1〜3に係る「縦方向が24.3%から25.0%の範囲」は、本件発明1のキッチンペーパーの長手方向の伸びの範囲である「10.0%〜25.0%」に含まれる範囲であり、本件発明1は、「復元値を1.10以上のキッチンペーパーロールを製造すること」を可能とする範囲以外のものを包含することになるから、本件発明1を、キッチンペーパーの長手方向の伸びを24.3%〜25.0%の範囲にまで拡張ないし一般化することができず、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。 本件発明1を引用する本件発明2〜11についても同様である。 よって、本件特許の請求項1〜11に係る特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきである。 5 申立理由5(実施可能要件) 請求項1には、「キッチンペーパーの紙厚の実測値をTrと」することが記載されているが、本件特許明細書には、キッチンペーパーの紙厚を実測するにあたり、キッチンペーパーのどの部分を実測するのかが記載されていない。 したがって、本件特許明細書には、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 本件発明1を引用する本件発明2〜11についても同様である。 よって、本件特許の請求項1〜11に係る特許は、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきである。 第4 甲1〜6の記載、甲1発明、甲2発明 1 甲1について 甲1には、次の事項が記載されている。以下、下線は、理解の便宜のため、当審が付した。 「【請求項1】 エンボスを有する2プライの衛生紙ロールであって、1プライの坪量が13〜29g/m2、紙厚が1.0〜3.2mm/10枚、巻長が15〜60m、巻密度が0.4〜1.0m/cm2、 前記エンボスの個数が300〜1600個/100cm2、前記エンボス1個当たりの平均面積が1.0〜7.0mm2/個、かつ該エンボスの深さが0.10〜0.60mmである衛生紙ロール。」 「【請求項6】 巻直径が82〜155mmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の衛生紙ロール。 【請求項7】 エンボスの面積率が7〜60%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の衛生紙ロール。」 「【0001】 この発明は、ペーパータオルやキッチンタオル等に好適に用いることができる2プライの衛生紙ロールに関するものである。」 「【0008】 この発明によれば、巻長を長くしつつもコンパクトかつ嵩高で、吸水性、強度にも優れた衛生紙ロールを得ることができる。」 「【0012】 巻密度は、(巻長×プライ数)÷(ロールの断面積)で表される。ロールの断面積は、{ロールの外径(巻直径DR)部分の断面積}−(コア外径部分の断面積)で表される。コア外径DI(図1参照)は、ロールの中心孔の直径である。なお、ロールの内側にコア(巻芯紙管)が装着されている場合は、コア外径がDIに相当する。 巻密度が0.4m/cm2未満であると、巻直径DRが155mmを超えてしまい、ロールホルダー等に収まり難くなる。巻密度が1.0m/cm2を超えると、紙厚が低くなって吸水性が劣ったり、坪量が低くなって破れやすくなる。 巻密度は、好ましくは0.5〜0.9m/cm2、より好ましくは0.6〜0.8m/cm2である。」 「【0015】 <エンボス> 本発明の衛生紙ロール10(シート10x)に以下のエンボスが施されている。エンボスは、シングルエンボスでもダブルエンボスでもよいが、ダブルエンボスが好ましい。ダブルエンボス加工は、2プライの衛生紙ロールのシートにそれぞれエンボス加工し、各シートのエンボスの凸面同士を対向させるように2プライに積層したものである。 ダブルエンボスにすることで、紙厚や比容積を高くし易く、吸水性をより高くしやすい。また、ダブルエンボスにする際は、エッジエンボスや糊によって2プライにすることができるが、糊を使用するとエンボスの形状を保ちやすくできるため好ましい。また、ダブルエンボスとしては、ネステッドエンボスが好ましい。」 「【0052】 パルプ組成(質量%)をNBKP50%、LBKP50%とし、公知の方法でフェルトを介してロールプレスを行って抄紙した。その後、図5に示すエンボス加工装置100によりエンボス加工して衛生紙ロールを製造した。 【0053】 以下の評価を行った。 乾燥時の縦方向引張り強さDMDTと乾燥時の横方向引張り強さDCDT:JIS P8113に基づいて、2プライのシート10xにつき、破断までの最大荷重をN/25mmの単位で測定した。 坪量:シート10xについて、JIS P8124に基づいて測定した。 紙厚:シート10xについて、シックネスゲージ(尾崎製作所製のダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用いて測定した。測定条件は、測定荷重3.7kPa、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取った。なお、シート10xを10枚(2プライを5組)重ねて測定を行った。又、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。そして、得られた1回当りの平均値を枚数で割ってシート10x当りの紙厚とした。 比容積:シート10xの厚さを坪量で割り、単位gあたりの容積cm3で表した。 吸水量:上述の方法で測定した。」 「【表1】 」 「【表2】 」 以上の記載を総合し、特に、実施例1に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲1発明] 「キッチンタオルに好適に用いることができる2プライの衛生紙ロールであって、 紙厚が1.63mm/10枚、巻長が16m、巻直径が85mm、コア外径が39mmの 衛生紙ロール。」 2 甲2について 甲2には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】1枚または2枚重ねの薄葉紙を巻いてなる薄葉衛生用紙ロールであって、 巻長さをロール断面積で割った値として定まる巻密度を0.68〜0.74m/cm2にした、 ことを特徴とする薄葉衛生用紙ロール。」 「【請求項3】前記薄葉紙のクレープ数が25〜45本/cmとされ、長手方向の伸び率が15〜25%とされた、請求項1記載の薄葉衛生用紙ロール。 【請求項4】前記薄葉紙1枚あたりの、坪量が15〜25g/m2、密度が0.10〜0.15g/cm3、かつ厚さが120〜170μmとされた、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄葉衛生用紙ロール。」 「【請求項6】エンボスが付与された前記1枚または2枚重ねの薄葉紙を巻いてなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄葉衛生用紙ロール。 【請求項7】前記一枚の薄葉紙からなる場合には巻長さを58〜65mとし、2枚重ねの薄葉紙からなる場合には巻長さを29〜33mとした、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄葉衛生用紙ロール。 【請求項8】前記薄葉紙を、外径を30〜40mmの管芯に巻きつけてなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薄葉衛生用紙ロール。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の薄葉衛生用紙ロールは、巻きが固すぎて手肉感(肉厚感)、ふんわり感に乏しいものか、あるいは反対に巻きが緩すぎて、中心部分が側面から突出するようにずれてロールが竹の子状に変形したり、断面が多角形に変形したりし易く、また手にもったときのボリューム感が乏しいものであった。 【0006】特に巻きを固くしたい場合には、前述のようにエンボスを付与することで手肉感、ふんわり感を向上させることができるように思われているが、単にエンボスを鮮明に入れただけでは、巻き取り時やその後時間が経つにつれて巻き取り方向の張力によりエンボスが伸ばされて平坦化し、手肉感やふんわり感が失われてしまう。またコンパクトロール化する場合には、薄葉紙を引っ張りながら管芯に巻きつけるため、その張力によってエンボスが伸ばされ平坦化してしまい、手肉感、ふんわり感を向上させることができない。 【0007】他方、単に巻取りの張力を下げて柔らかく巻くだけでは、巻きが弛み易く、巻き不良品を生じたり、ボリューム感に乏しくなるだけでなく、巻き長さが短いにもかかわらず巻径が大きくなりすぎるという問題が生じる。特に、エンボスを鮮明に入れて紙厚を出した上で通常の巻き長さで巻きつけるとエンボスの平坦化は防げるものの、巻径が大きくなりすぎて、通常のホルダーに収まらなくなってしまう。 【0008】そこで、本発明の主たる課題は、手肉感やふんわり感に富みながらも、変形しにくく、手にもったときのボリューム感が十分にあり、またエンボスを付与した場合であってもエンボスが平坦化しにくい、薄葉衛生用紙ロールを提供することにある。」 「【0013】<請求項3記載の発明>前記薄葉紙のクレープ数が25〜45本/cmとされ、長手方向の伸び率が15〜25%とされた、請求項1記載の薄葉衛生用紙ロール。 【0014】(作用効果)かかるクレープ(幅方向に沿う皺であって長手方向に複数設けられるもの)を形成して長手方向の伸び率を15〜25%とすることによって、使用時の手肉感、ふんわり感、ボリューム感が更に良好となり、特にエンボスを付与した場合にはエンボスが更に平坦化しにくくなる。」 「【0021】<請求項7記載の発明>前記一枚の薄葉紙からなる場合には巻長さを58〜65mとし、2枚重ねの薄葉紙からなる場合には巻長さを29〜33mとした、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄葉衛生用紙ロール。 【0022】(作用効果)本発明の特に好適な対象がトイレットペーパーロールであり、一般的なロールホルダーへの取り付けを考慮すると、外径は100〜118mm程度にする必要がある。本発明の巻き密度の範囲では、巻き長さを上記範囲とすることにより外径を一般的なロールホルダーへの取り付け可能な範囲にすることができる。またもちろん、この場合においても前述の作用効果が十分に奏せられる。」 「【0027】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について芯有りトイレットペーパーロールの例を引いて詳述するが、もちろん芯無しトイレットペーパーロールやキッチンペーパーロール等、他の薄葉衛生用紙ロールにも適用することができる。図1は、一枚または二枚重ねの薄葉紙Pを紙管等の管芯1Aに巻きつけた芯有りトイレットペーパーロール例1を示している。ここに、本発明の用語の意義を明らかにすると、巻長さとは、薄葉紙Pの巻き取り方向(長手方向)の長さをいい、ロール断面積とは、ロールの中心軸と直交する面の面積(側部平面1Sの面積に等しい)をいう。幅方向とは中心軸方向と平行な方向(長手方向と直交する方向)をいう。」 「【0029】薄葉紙Pの一枚あたりの強度としては、JISP8113に規定される引張特性試験方法により測定される幅方向の乾燥時引張強さを40N/m以上、望ましくは40〜45N/mと必要十分な程度まで高くし、さらに長手方向の乾燥時引張強さを幅方向乾燥時引張強さの1.0〜4.0倍、望ましくは2.5〜3.5倍にするのが望ましい。これによって、巻き密度を0.68〜0.74m/cm2としても、巻き取り時やその後において薄葉紙Pが薄く締め固められにくくなり、使用時の手肉感、ふんわり感、ボリューム感が十分に確保される。特に薄葉紙Pにエンボス(図示せず)を付与した場合には、エンボスが平坦化しにくく使用時においても鮮明に残り、手肉感、ふんわり感、ボリューム感が損なわれにくくなる。」 「【0036】他方、本例のようにトイレットペーパーロールへ適用する場合、ロール外径が100〜118mm程度となるようにするのが望ましい。特に、ロールホルダーに収まり易く且つ使用時に回り易いようにするためには、外径が110〜115mmとなるようにするのが望ましい。 【0037】このため本発明では、1プライ品の場合には巻長さを58〜65mにし、2プライ品の場合には巻長さを29〜33mにしても良いし、また管芯1Aの外径を30〜40mm、特に好適には36〜39mmにしても良い。」 「【表1】 」 以上の記載を総合し、特に、実施例1、2に着目すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲2発明] 「トイレットペーパーロールであって、 1プライのロールであり、紙厚が142μm、紙管内径が38mm、巻長さが60.4m、外径が109mmであるか又は、 2プライのロールであり、紙厚が128μm、紙管内径が38mm、巻長さが60.5m、外径が111mmであり、 長手方向の伸び率が15〜25%である トイレットペーパーロール。」 3 甲3について 甲3には、次の事項が記載されている。 「【0007】 用語「機械方向」は、抄紙製造、印刷及びエンボス加工機械中で移動方向に平行な、加工される材料ウェブの方向を定義するのに使用される専門用語である。 【0008】 同様に、用語「横断方向」又は「機械横方向」は、抄紙製造、印刷及びエンボス加工機械中でウェブがとる移動方向に垂直な、ウェブの方向を指す。」 「【0048】 (実施形態3) 本繊維性構造体の代替実施形態は、いずれかの既知の通気空気乾燥プロセスと組み合わせた、約5%よりも大きい湿式ミクロ収縮を有する紙構造体である。湿式ミクロ収縮は、米国特許第4,440,597号に記載されている。実施形態3の一例は、以下の方法によって製造することができる。 【0049】 湿潤ウェブの短縮が10%であるように、ワイヤの速度をTAD搬送用布と比較して速くする。実施形態1のTAD搬送用布を、2.54cm(1インチ)あたり5シェッドの織り(weeve)、36個の機械方向フィラメント及び32個の横断方向フィラメントを有する搬送用布と取り替える。正味のクレープ短縮は20%である。結果として得られる紙のエンボス加工前の坪量は約36g/m2(22lb/3000平方フィート)であり、CD最大伸びは約7%であり、湿潤時破裂強度は約340gである。 【0050】 この紙を更に実施形態1のエンボス加工プロセスに供し、結果として得られる紙のキャリパーは約0.66mm(0.026インチ)であり、CD最大伸びは約6%であり、湿潤時破裂強度は約275gである。結果として得られる紙の第一表面のエンボス高さが650μmよりも大きく、第二表面のエンボス高さが650μmよりも大きい。」 4 甲4について 甲4には、次の事項が記載されている。 「【0033】 図1Aに、紙製品の嵩を小さくするため、本件に開示の方法で使用される1つの模様を図示する。この模様は、渦巻き模様に湾曲して互いの周囲を流れる線状セグメントで構成されている。図1Bに、ドット状のエンボスで示した図1Aの模様を図示する。図2A、図3A、図4A、図5A、図6A、図7A、図8Aに、紙製品の嵩を小さくするため、本件に開示の方法で使用される、その他の模様を図示する。図2B、図3B、図4B、図5B、図6B、図7B、図8Bに、ドット状のエンボスで示した、図2A、図3A、図4A、図5A、図6A、図7A、図8Aと同じ模様をそれぞれ図示する。図9に、大きさの異なる線状セグメントで構成されている、本発明で使用するための模様を図示する。」 5 甲5について 甲5には、次の事項が記載されている。 (第2ページ左下欄第13〜18行) 「本発明は衛生紙製品の製造に適した8ポンドと20ポンド/2’880平方フイートとの間の基本重量を有する軟質軽量ペーパーウエブの製造法に関する。このようなウエブから製造できる衛生紙製品の例は、化粧室テイツシユ、フエイシアルテイツシユ、紙タオル、およびナプキンである。」 (第4ページ左上欄第3〜16行) 「本発明はヤンキークレープ加工後、非常に低い残留緊張を有し、それ故第二クレープ加工段階で弾性的にエネルギーを吸収する能力が低く、そのため、その構造の永久的変形にあまり耐えられないウエブを求めている。 シートの平均平方伸張は次のように定義される: この場合、MDSは機緘方向における伸張百分率であり、CDSは交差機械方向における伸張であり、MSSはこのように定義された平均平方伸張である。 通常の製紙技術を用いてつくられたシートは約11%の平均平方伸張(MSS)を有するが、第二クレープ加工工程前の本発明におけるウエプは9%未満、なるべくは6%未満のMSSを有する。」 6 甲6について 甲6には、次の事項が記載されている。 「【0020】 【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を図3〜図6を参照しながらさらに詳説する。図示の実施の形態は、シート1と2とを2枚重ね状態で接着したもので、その坪量は10g/m2〜50g/m2とされている。その接着態様は、「Tip to Tip」形態としており、一方のシート1のエンボス凸部1Aの天部と、他方のシート2のエンボス凸部2Aの天部とが接着剤3により接着したものである。エンボスの形状は、実施の形態では裁切四角錐形としてあるが、裁切円錐形や、天部が平面形状で楕円や三角その他多角形などとすることができる。シート相互の接着のために天部は可能な限り平坦であるのが望ましい。天部の面積は0.1〜40mm2、より好適には0.25〜4.0mm2、最も望ましくは0.5〜2.0mm2である。」 第5 当審の判断 1 申立理由1について(甲1を主たる引例とした進歩性) (1)本件発明1について ア 対比 甲1発明の「衛生紙ロール」は、甲1の技術分野に係る記載を参照すると、「この発明は、ペーパータオルやキッチンタオル等に好適に用いることができる2プライの衛生紙ロールに関するものである。」(【0001】)とされていることから、本件発明1の「キッチンペーパーロール」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1−1、1−2で相違する。 [一致点1] 「キッチンペーパーをロール状としたキッチンペーパーロール」 [相違点1−1] 復元値について、本件発明1は、「前記キッチンペーパーの紙厚の実測値をTrとし、前記キッチンペーパーロールの回転軸に直交した切断面において、前記キッチンペーパーが占める面積を、前記キッチンペーパーロールに巻かれた前記キッチンペーパーの巻長で除して得られる算出値をTiとしたときに、前記実測値Trを前記算出値Tiで除して得られる復元値が1.10以上」であるのに対して、甲1発明は、「紙厚が1.63mm/10枚、巻長が16m、巻直径が85mm、コア外径が39mm」であるものの、復元値について、特定されていない点。 [相違点1−2] 伸びについて、本件発明1は、「前記キッチンペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり、前記キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%」であるのに対して、甲1発明は伸びについて特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず上記相違点1−2について検討する。 甲2の【0014】には、「長手方向の伸び率が15〜25%」であることは記載されているが、「幅方向の伸びが4.0%〜7.0%」であることは記載も示唆もされていない。 甲3の【0050】には、「CD最大伸びは約6%」であることは記載されているが、「長手方向の伸びが10.0%〜25.0%」であることは記載も示唆もされていない。 甲5には、「通常の製紙技術を用いてつくられたシートは約11%の平均平方伸張(MSS)を有する」ことは記載されているが、「長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり」かつ、「幅方向の伸びが4.0%〜7.0%」であることは記載されていない。 甲4、6にも、相違点1−2に係る本件発明1の構成は記載されていない。 特に、甲1発明に、甲2に記載された上記事項及び甲3に記載された上記事項を適用することについて検討すると、本件発明1の相違点1−2に係る構成である、「長手方向の伸び」及び「幅方向の伸び」という相互に関連する2つの物性のうち、一方に関することが記載された文献(甲2)に記載された事項と、他方に関することが記載された文献(甲3)に記載された事項とを、甲1発明へ適用する動機付けはなく、甲1発明において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 同様に、甲1発明に、甲2に記載された上記事項及び甲5に記載された上記事項を適用すること、又は、甲3に記載された上記事項及び甲5に記載された上記事項を適用することについて検討すると、本件発明1の相違点1−2に係る構成である、「長手方向の伸び」及び「幅方向の伸び」の2つの物性のうち、一方に関することが記載された文献(甲2または甲3)に記載された事項と、その一方から他方の値を類推するための文献(甲5)に記載された事項とを、甲1発明へ適用する動機付けはなく、甲1発明において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 以上から、甲1発明において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、上記相違点1−1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (2)本件発明2〜11について 本件発明2〜11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イで示した理由により、当業者が甲1発明及び甲2〜6に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 2 申立理由2について(甲2を主たる引例とした新規性または進歩性) (1)本件発明1について ア 対比 甲2発明の「トイレットペーパーロール」と、本件発明1の「キッチンペーパーロール」とは、「ペーパーロール」の限りで一致する。 甲2発明の「長手方向の伸び率が15〜25%である」ことは、本件発明1の「長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であ」ることに相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点2で一致し、相違点2−1、2−2、2−3で相違する。 [一致点2] 「ペーパーをロール状としたペーパーロールであって、 前記ペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であるペーパーロール。」 [相違点2−1] ペーパーロールについて、本件発明1は、「キッチンペーパーロール」であるのに対して、甲2発明は、「トイレットペーパーロール」である点。 [相違点2−2] 復元値について、本件発明1は、「前記キッチンペーパーの紙厚の実測値をTrとし、前記キッチンペーパーロールの回転軸に直交した切断面において、前記キッチンペーパーが占める面積を、前記キッチンペーパーロールに巻かれた前記キッチンペーパーの巻長で除して得られる算出値をTiとしたときに、前記実測値Trを前記算出値Tiで除して得られる復元値が1.10以上」であるのに対して、甲2発明は、「1プライのペーパーであり、紙厚が142μm、紙管内径が38mm、巻長さが60.4m、外径が109mmであるかまたは、2プライのペーパーであり、紙厚が128μm、紙管内径が38mm、巻長さが60.5m、外径が111mm」であるものの、復元値について、特定されていない点。 [相違点2−3] 幅方向の伸びについて、本件発明1は、「幅方向の伸びが4.0%〜7.0%」であるのに対して、甲2発明は、幅方向の伸びについて特定されていない点。 イ 判断 (ア)新規性について 事案に鑑み、まず上記相違点2−2について検討する。 甲2発明において、紙管の厚みを厚く想定して、紙管外径を大きくすると、同じ巻長さで巻かれた状態の紙厚は、薄く算出され、その結果、巻かれていない状態の紙厚との関係で復元値が大きく算出されるところ、甲2発明が「1プライのペーパーであり、紙厚が142μm、紙管内径が38mm、巻長さが60.4m、外径が109mmである」場合、紙管の厚みを通常では採用し得ない程度の2.5mmと仮定すると(紙管外径が43mm)、本件発明1で定義された実測値Tr、算出値Ti、復元値は、それぞれ、0.142mm、0.130mm、1.09となる。 同様に、甲2発明が「2プライのペーパーであり、紙厚が128μm、紙管内径が38mm、巻長さが60.5m、外径が111mmであ」る場合、甲2の「本例のようにトイレットペーパーロールへ適用する場合、ロール外径が100〜118mm程度となるようにするのが望ましい。」(【0036】)及び「このため本発明では、1プライ品の場合には巻長さを58〜65mにし、2プライ品の場合には巻長さを29〜33mにしても良い」(【0037】)との記載を踏まえると、甲2発明の上記構成は、2プライとしたペ−パーの紙厚を256μm(128×2)とし、巻長さを30.25m(60.5/2)としてペーパーをロール状にし、ロールの外径を111mm、紙管内径を38mmとするものであると認められ、そうすると、紙管の厚みを通常では採用し得ない程度の2.5mmと仮定すると(紙管外径が43mm)、本件発明1で定義された実測値Tr、算出値Ti、復元値は、それぞれ、0.256mm、0.272mm、0.942となる。 そうすると、甲2発明において、復元値を1.10以上の値とすることは、通常採用される値とはいえず、相違点2−2は実質的な相違点である。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではない。 (イ)進歩性について 相違点2−2について検討すると、上記述べたとおり、通常採用し得ない仮の紙管の厚みを採用して、同じ巻長さであってもロール状にしたときにペーパーが薄くロールされるように、すなわち仮の復元値が大きく算出されるようにしても、その値は1.10以上となり得ないのであるから、甲2発明において、復元値を1.10以上とすることの動機付けはないといえる。 その上、甲1には、復元値をどのように規定するのかについては記載も示唆もされていないし、そもそも、甲1の寸法を、甲2発明に適用する動機付けもない。また、他の甲3〜6にも、相違点2−2に係る本件発明の構成は記載も示唆もされていない。 よって、甲2発明において、相違点2−2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、上記他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3〜6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (2)本件発明2〜11についての新規性について 本件発明2〜4、10、11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イ(ア)で示した理由により、本件発明1〜4、10、11は、甲2発明ではない。 (3)本件発明2〜11についての進歩性について 本件発明1〜11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イ(イ)で示した理由により、当業者が甲2発明及び甲1、3〜6に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 3 申立理由3について(サポート要件) 本件発明の課題は、「使用可能な枚数の確保、吸水性および吸油性の維持、の2つの観点から、キッチンペーパーを構成するシートの形状、構造を決定」し(本件特許明細書【0005】)、「吸水性および吸油性を維持可能なキッチンペーパーロールおよびキッチンペーパーを提供すること」(同【0006】)であり、本件発明は、キッチンペーパーロールの復元値や伸びの大きさの範囲を特定することにより、その課題を解決するものである。 そして、「構成するシートの形状や構造に工夫を施したキッチンペーパーは、その紙厚が厚いものとなり、それをロール状にしたものは、巻き径が太くなり、使用可能な枚数も制限される傾向がある。一方、例えば、構成するシートにエンボス加工を施したキッチンペーパーの場合、キッチンペーパーロールの巻き径を細くするため、キッチンペーパーを紙管に巻き付ける力を強くすると、エンボスの形状がくずれ、吸水性、吸油性が損なわれるおそれがある。」(同【0004】)と記載されており、「構成するシートの形状や構造」の工夫の具体例として、エンボス加工が挙げられているものの、エンボス加工以外の「構成するシートの形状や構造」の工夫を施した場合であっても、キッチンペーパーロールの復元値や伸びの大きさを特定することにより、課題を解決できると認められる。 よって、本件発明1並びに本件発明1を引用する本件発明2、3には課題解決手段が反映されており、本件発明1〜3は発明の詳細な説明に記載したものである。 4 申立理由4について(サポート要件) 本件発明の課題及び解決手段は、上記3で示した通りである。 そして、本件特許明細書の【0053】には、「本発明の効果を有効に発揮する上で好適な範囲としては、キッチンペーパーロールの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%、キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%であり」と記載されており、【0063】には、「<伸びについて> 表1および表2中の伸びについて、本発明のキッチンペーパーの長手方向(縦方向)の伸び率(%)は30.0%よりも低いことが好ましく、25.0%以下であることがより好ましく、19.0%以下であることが特に好ましい。また、本発明のキッチンペーパーの幅方向(横方向)の伸び率(%)は10.0%よりも低いことが好ましく、7.0%以下であることがより好ましい。」と記載されていることから、「前記キッチンペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり、前記キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%であ」る場合に、課題を解決できると認められる。 また、本件特許明細書の表1、表2に記載された実施例1〜9において、キッチンペーパーの「伸び」は、縦方向が13.4%から22.7%の範囲(第1の範囲)であり、横方向が4.9%から6.5%の範囲(第2の範囲)であるから、本件発明1の構成である、「前記キッチンペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり、前記キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%」については、当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものである。 申立人は、異議申立書において、比較例1〜3に係る「縦方向が24.3%から25.0%の範囲」は、本件発明1のキッチンペーパーの長手方向の伸びの範囲である「10.0%〜25.0%」に含まれる範囲であり、本件発明1は、「復元値を1.10以上のキッチンペーパーロールを製造すること」を可能とする範囲以外のものを包含することになるから、本件発明1を、キッチンペーパーの長手方向の伸びを24.3%〜25.0%の範囲にまで拡張ないし一般化することができず、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する(異議申立書第59ページ下から8行目〜下から1行目)。 しかし、本件発明1の「前記キッチンペーパーの長手方向の伸びが10.0%〜25.0%であり、前記キッチンペーパーの幅方向の伸びが4.0%〜7.0%である」との構成は、「長手方向の伸びが10.0%〜25.0%」であり、且つ「幅方向の伸びが4.0%〜7.0%」であることを特定するものであるから、上記比較例に基づく申立人の主張は採用できない。 よって、本件発明1または本件発明1を引用する本件発明2〜11には課題解決手段が反映されており、本件発明1〜11は発明の詳細な説明に記載したものである。 5 申立理由5について(実施可能要件) 本件特許明細書の【0028】には、「キッチンペーパー1の紙厚は、ISO12625−3に準拠していれば、様々な公知の測定方法で測定されうる。」と記載されており、キッチンペーパーの紙厚の実測値を測定すること自体は、当業者が実施可能であるといえる。 そして、キッチンペーパーのどの位置で紙厚を測定するかについても、当業者であれば、キッチンペーパーの性質を最もよく表す好適な位置を特定することができるか、あるいは、そのような位置が特定できないとしても、複数箇所で測定した紙厚からキッチンペーパーの性質を表す紙厚を算出することができると考えられるから、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。 よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものである。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-12-13 |
出願番号 | P2018-149593 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(D21H)
P 1 651・ 536- Y (D21H) P 1 651・ 121- Y (D21H) P 1 651・ 537- Y (D21H) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
石田 智樹 稲葉 大紀 |
登録日 | 2022-02-07 |
登録番号 | 7020339 |
権利者 | 王子ホールディングス株式会社 |
発明の名称 | キッチンペーパーロールおよびキッチンペーパー |
代理人 | 弁理士法人谷・阿部特許事務所 |