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審決分類 |
審判 全部申し立て 特174条1項 G06Q 審判 全部申し立て 2項進歩性 G06Q 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G06Q 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G06Q 審判 全部申し立て 発明者・出願人 G06Q |
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管理番号 | 1393125 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-08-31 |
確定日 | 2022-12-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7032485号発明「水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7032485号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第7032485号の請求項1〜5に係る特許(以下「本件特許1」等という。)についての出願は、平成30年6月13日になされた特許出願(特願2018−113002号)の一部を令和2年7月9日に新たな特許出願(特願2020−118346号)としたものであり、同年7月14日に手続補正書が提出され、同3年8月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月20日に手続補正書及び意見書が提出され、同4年2月28日に特許権の設定登録がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年8月31日に特許異議申立人竹原尚彦(以下「申立人」という。)より、特許異議の申立てがなされた。 2 本件特許発明 特許第7032485号の請求項1〜5の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(分説は、異議申立書による。) 「【請求項1】 A 実原水又は実汚泥を用いて水処理又は汚泥処理を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法において、 B 前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置を用いて予め取得した、少なくとも画像取得装置により取得した静止又は連続画像からなる説明変数と、前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値からなる目的変数とを、1つのデータセットとして、所定量のデータセットを備えてなるデータベース、を事前に用意しておき、 C 前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいたデータベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築し、 D 前記構築された予測モデルを前記実原水を対象とした前記水処理システム又は前記実汚泥を対象とした前記汚泥処理システムの制御部に予め導入した後に、前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を開始することを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。 【請求項2】 請求項1に記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、 E 前記実運転の制御開始後、実原水又は実汚泥を処理する実運転から得られたデータも、前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を開始した後に、前記データベースに加えることを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、 F 前記説明変数として設定する項目の中には、少なくとも前記実運転を行う水処理又は汚泥処理システムに設置される画像取得装置またはセンサで測定できる項目を含むことを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。 【請求項4】 請求項1乃至3の内の何れかに記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、 G 前記静止又は連続画像は、凝集フロックを対象としたものであることを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。 【請求項5】 請求項1乃至3の内の何れかに記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、 H 前記静止又は連続画像は、水処理用担体を対象としたものであることを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。」 3 申立理由の概要 (1)甲号証 甲1:特開平4−133164号公報 甲2:特開2015−171678号公報 甲3:寒冷地の効率的浄水処理に関する研究 報告書, 平成25年4月,国立大学法人北見工業大学 甲4:汚泥・濁水のジャーテスト(凝集実験) 甲5:特開2002−263673号公報 甲6:特開2017−123088号公報 (2)申立理由 ア 理由1−1 本件特許発明1〜本件特許発明5は、特許出願前に当業者が主引例である甲1に記載された発明と周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものであり、本件特許1〜本件特許5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 イ 理由1−2 本件特許発明1〜本件特許発明5は、特許出願前に当業者が主引例である甲6に記載された発明と周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものであり、本件特許1〜本件特許5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ウ 理由2 本件特許1〜本件特許5は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 エ 理由3 本件特許1〜本件特許5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 オ 理由4 本件特許1〜本件特許5は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 カ 理由5 本件特許発明1〜本件特許発明5は、未完成発明であり、本件特許1〜本件特許5は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものである。 キ 理由6 本件特許1〜本件特許5は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。 4 甲号証について (1)甲1(理由1−1の主引例) ア 甲1には、次の記載がある。 「〔産業上の利用分野〕 本発明は、ニューラルネットを応用した運転支援システムに係り、特に、定量的なガイダンスを行い、さらにそのガイダンスの判断根拠を提示するような支援能力の高い運転支援システムに関する。」(2頁左下欄1〜6行) 「本発明の目的は、想起による定量的なガイダンスだけでなく、想起根拠も示して説得力ある運転支援システムを提供することである。」(3頁左上欄6〜8行) 「〔作用〕 本発明は、ニューラルネットの内部結合状態を解析して、入出力間の因果関係に関する知識を抽出し、それを想起の根拠として、定量的なガイダンスとともにオペレータに提示するものである。 一方、学習は、ニューラルネットの内部結合状態が必要最小限の因果関係しか持たないような方法によって、運転履歴データ内に潜在している因果関係を正確に学習するものである。この学習方法によるニューラルネットで、定量的ガイダンスを想起し、内部結合状態の解析を行う。 したがって、本発明においては、定量的ガイダンスだけでなく、そのガイダンスを導くに至った判断根拠を提示することにより、オペレータに対して説得力のある支援を実行できる。 また、必要最小限の因果関係となるような学習方法により、想起が正確になり、内部結合状態の解析から得られる想起根拠(知識)も正確になるので、信頼性の高い支援を実行できる。」(3頁右下欄1〜19行) 「〔実施例〕 本発明は、オペレータによる判断を必要とするプロセスの運転管理を知能的に支援するシステムである。したがって、本発明は、オペレータが介在する各種のプロセス、例えば、浄水処理プロセス、下水処理プロセス、化学反応プロセス、バイオプロセス、原子力発電プロセス、株価・為替などの金融プロセスなどに適用できる。 以下、図面を参照して、本発明の詳細な説明する。 第1図は、本発明によるニューラルネット応用運転支援システムを浄水処理プロセスの運転管理支援システムに適用した一実施例の全体構成を示すブロック図である。 まず、浄水処理プロセスの手順を簡単に説明する。第1図において、河川や湖沼からの原水を着水井5に導く。着水井5の水を導入する急速混和池10においては、凝集剤タンク11の凝集剤を凝集剤注入ポンプ12により注入し、撹拌翼13を撹拌機14により駆動して撹拌する。ここでは、フロック形成を促進するアルカリ剤を注入することもある。フロック形成池15には撹拌パドル16を配置し緩やかに回転させる。フロックは沈殿池20で沈降させ、その上澄み液をろ過池25でろ過する。 次に、計測系統について説明する。原水の水質を計測するために、着水井5に計測器5Mを設置する。計測項目は、水温、濁度、アルカリ度、電気伝導度、pH、残留塩素濃度、塩素要求量、水量、水位などである。 フロック形成池15には計測器15Mを設置してある。計測器15Mは、計測器9Mで計測する項目に加えて、水中カメラなどの撮像手段60を含む。沈殿池20には、計測器20Mを設置してある。急速混和池10にも計測器15Mと同様の計測器10Mを設置し、ろ過池25にも計測器25Mを設置することもある。これらの計測項目は、計測器5M、15Mの計測項目と同様である。 以上の計測データは、支援システム100内の運転履歴データベース80に取り込まれる。また、撮像手段60で得られたデータは、画像処理手段70で処理された後、運転履歴データベース80に取り込まれる。」(3頁右下欄20行〜4頁左下欄2行) 「次に、運転管理支援を行う知能的運転管理支援システム(支援システム)100を説明する。 支援システム100は、以下のサブシステムからなる。 (1)知識ベース応用運転支援システム(知識システム)110 (2)理論モデルシミュレーションシステム120 (3)ニューラルネット応用運転支援システム(ニューロシステム)150 (4)画像処理手段70 (5)運転履歴データベース80 本発明の特徴であるニューロシステム150は、学習手段160と、内部結合状態解析手段200と、定量的ガイダンスおよび想起根拠表示手段(ガイダンス表示手段)250と、ニューラルネットベース300とからなる。このうち、学習手段160は、因果選択・抑制手段180を持つことを特徴とする。 ニューロシステム150は、まず、過去の履歴データのうち有用と思われるデータを運転履歴データベース80から教師データとして選択する。この教師データを学習手段160においてニューラルネットにより学習する。この学習の際に、不要な因果関係を抑制し、必要な因果関係を選択的に残すために、因果選択・抑制手段180を用いる。これについては後述する。 学習後のニューラルネットは、2つの役割を持つ。1つの役割は、想起によって運転管理に必要な定量的ガイダンスを求め、結果を表示手段250に送ることである。2つ目の役割は、学習後の重み係数行列を内部結合状態解析手段200に送り、重み係数行列に内包される知識を抽出することである。ここで抽出された知識は、表示手段250に送られるとともに、知識システム110に送られ、推論用のルールとされる。知識の抽出方法については後述する。 表示手段250では、定量的ガイダンスと抽出知識とをCRT90の画面上に表示する。これにより、オペレータはニューラルネットからのガイダンスがいかにして導かれたかの根拠を知ることができる。」(4頁左下欄3行〜5頁左上欄4行) 「次に、支援システム100への各種データの入出力について説明する。 まず、入力について説明する。計測器5M、10M、20M、25M、および撮像手段60では、所定時間間隔でデータをサンプリングする。サンプリングされたデータは、運転履歴データベース80に送られて保存される。また、計測器によるオンライン計測ができない手分析データや目視観察データは、キーボード95から、CRT90の画面上のメッセージを参照しながら、対話的に入力される。 次に、出力について説明する。支援システム100は、入力されたデータに基づいてガイダンスする内容を決定する。支援システム100内の知識システム110およびニューロシステム150から得られたガイダンスは、CRT90の画面を通してオペレータに表示される。なお、このCRT90は、必要に応じて撮像手段60からの映像を映すモニタも兼ねることができる。 オペレータはガイダンスを参考に、操作量の必要と認められる変更などをキーボード95を通して、制御手段50に入力する。制御手段50は、入力データに従ってプロセスの各機器を制御する。なお、支援システム100からのガイダンスが直接に制御手段50に入力されることもある。」(5頁左上欄5行〜右上欄9行) 「浄水プロセスの凝集剤注入データの学習の場合では、・・(略)・・で最も想起精度が良くなる。」(6頁右下欄16〜18行) 「次に、この因果選択型BP法を使った学習手段160の構成を具体的に説明する。第4図は、学習手段160の工程の構成を示すブロック図である。 まず、学習パターン選択工程165において、学習に用いる学習パターンを運転履歴データベース80から選択する。この工程では、プロセスの運転が良好に行われた時のデータの中から、そのデータの学習によって以前までのデータよりも想起誤差が下がるデータのみを選択する。また、この工程においては、オペレータが対話形式で任意の学習パターンを選択することもできる。 続いて、学習パラメータ設定工程170およびネット構造設定工程175で必要な条件を設定する。学習パラメータとしては、誤差の反映のさせ方を調整する加速係数ηや過去の重み係数修正分をどの程度反映させるかを調整するスムージング係数α等がある。また、ネット構造としては、ニューラルネットモデルの各層のニューロン数がある。 学習工程185では、先の工程で設定された学習条件に基づいて因果選択型BP法による学習を行う。因果選択・抑制手段180は、先に説明した因果抑制係数εを調整する機能である。この手段が働かない場合、つまり、ε=0の場合は因果抑制が全くかからない学習であるので、従来型BP法に相当する。 学習結果書き出し工程190では、学習後の重み係数行列を数値ファイルとしてニューラルネットベース300に書き出して保存する。 学習手段160の最後は、想起工程195であり、ここで想起された値は定量的ガイダンスとして表示手段250に送られる。」(6頁右下欄19行〜7頁右上欄11行) 「本発明の特徴の一つである内部結合状態解析手段を用いることにより、知識工学のボトルネックである知識獲得を支援できる。 本発明のもう一つの特徴である表示手段250では、第6図に示すように、学習手段160からの定量ガイダンスを定量的ガイダンス表示工程255で表示し、また内部結合状態解析手段200からの知識を想起根拠表示手段260で表示する。 これまでのニューラルネットによる運転支援では、想起根拠を示す手段がなく、定量的なガイダンスをブラックボックス的に提示するにとどまっていたため、オペレータがそのガイダンスを正しいものとして利用してよいかどうか判断に窮することがあった。 これに対して、本発明においては、第7図のように、想起判断根拠を日本語のルール形式で示しており、オペレータにとってより使いやすく、説得力を持ったガイダンスが可能である。」(8頁左上欄17行〜右上欄14行) 「次に、本実施例のニューロシステム150を浄水プロセスで運用する場合を例に採り、本発明の学習方法について説明する。 浄水プラントでは、流入水質や計測器の特性が経時的に変化するために、これに応じて凝集剤注入方法も変化する。この状況変化に対応して、ニューラルネットが臨機応変に学習していけば、自己成長性を有する運転支援が行える。このような学習は、第8図に示すような運用手順により行う。この運用手順の考え方は、 a.処理良好でしかも過去の運転履歴と大きく矛盾しないデータのみをネットに反映させる。 b.過去の運転履歴を尊重しつつ、新たなデータを最も強く反映させる。 c.メンテナンスフリーで自動学習する。 ことにより、プラントデータ群の構造変化に適応して常に最適なガイダンスを行うことである。 第8図の自動追加学習の手順に基づき、データを1日周期で追加学習しながらガイダンスを行う。なお、手順中の学習判定日数Nとは、ネット更新の条件として履歴データN日分の平均想起誤差を求めるための日数である。つまり、ネット更新は過去のN日分のデータと矛盾しない(N日分の平均想起誤差が増加しない)場合にだけ行う。 浄水処理プロセスの凝集剤注入操作の場合、最適なN値は晴天時などの流入原水が低濁度時には1日、降雨時などの高濁度時では7日分以上(高濁度時は平均して月に2、3度なので1期間にして3か月分程度)であることを確認している。 本実施例においては、定量的ガイダンスと併せて、想起根拠を日本語の知識で示すことができ、より知能的な運転支援が可能になる。また、ニューラルネットの学習においてネット内の因果関係を適度に抑制する学習を行うことにより、従来の学習法以上の想起精度を達成でき、しかも、そこから抽出される知識はより信頼性の高いものとなる。」(8頁右上欄15行〜右下欄11行) 「〔発明の効果〕 本発明によれば、定量的ガイダンスとともに想起根拠を日本語で表示する手段により、従来のニューラルネット応用運転支援システムでは不十分であったオペレータへのガイダンスの説得力を高めることができる。 また、ニューラルネット内の因果関係を抑制する新しい学習法により、想起による定量的ガイダンスの精度および想起根拠として示される知識の信頼性を高めることができる。 その結果、オペレータ単独でプロセスの運転管理を行う場合よりも、信頼性の高い運転を実現でき、オペレータの負担が軽減される。」(8頁右下欄16行〜9頁左上欄8行) イ 上記アによれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 (甲1発明) 1a 河川や湖沼から着水井5に導かれた原水を導入する急速混和池10において、凝集剤タンク11の凝集剤を凝集剤注入ポンプ12により注入し、撹拌翼13を撹拌機14により駆動して撹拌し、フロック形成池15に配置した撹拌パドル16を緩やかに回転させて形成されるフロックを沈殿池20で沈降させ、その上澄み液をろ過池25でろ過する、浄水処理プロセスの運転管理支援システムに適用されたニューラルネット応用運転支援システムにおける支援方法であって、 1b(1e、1f、1g) フロック形成池15に設置された水中カメラなどの撮像手段60を含む計測器15M等からの計測データが支援システム100内の運転履歴データベース80に取り込まれ、その際、撮像手段60で得られたデータは、画像処理手段70で処理された後、運転履歴データベース80に取り込まれ、 1c 浄水プラントにおける凝集剤注入方法の変化に対応して、ニューラルネットが臨機応変に学習することで自己成長性を有する運転支援が行えるものであって、浄水プロセスの凝集剤注入データを学習するものであり、 ニューロシステム150は、過去の履歴データのうち有用と思われるデータを運転履歴データベース80から教師データとして選択し、この教師データを学習手段160においてニューラルネットにより学習するものであり、学習結果書き出し工程190では、学習後の重み係数行列を数値ファイルとしてニューラルネットベース300に書き出して保存し、 1d 支援システム100は、入力されたデータに基づいてガイダンスする内容を決定し、支援システム100内の知識システム110およびニューロシステム150から得られたガイダンスがCRT90の画面を通してオペレータに表示される、 システムにおける支援方法。 ウ 甲1発明の認定について、申立人は、特に上記1bについて、甲1に「実原水を用いて運転する支援システム100を用いて撮像装置60より取得した静画像からなる説明変数と、凝集剤注入率からなる目的変数とを、運転履歴データベース80に取り込」む旨が記載されている旨を主張している。 しかし、甲1には、運転履歴データベースに取り込まれるデータのうちいずれを説明変数とし、いずれを目的変数とするかを示す記載はないから、申立人の主張を採用することはできない。 (2)甲6(理由1−2の主引例) ア 甲6には、次の記載がある。 「【0002】 近年、機械学習の技術分野によれば、例えばR(The R Foundation for Statistical Computing Platform)のようなパッケージが、フリーソフトウェアとしてGNU(General Public License)から配布されている。そのために、機械学習に特別な知識を要することなく、様々なソリューションシステムに適用されてきている。機械学習の中でも、決定木学習アルゴリズムのような教師有り学習は、人間の勘や経験、ノウハウによって調整されてきた過去の膨大なデータを用いることができる。 【0003】 また、ソリューションシステムとして、例えば浄水場の水処理システムへの適用を想定することもできる。浄水場は、水処理工程の中で、凝集用のPAC(ポリ塩化アルミニウム)と殺菌用の次亜塩素酸との薬品注入率を制御している。これによって、ろ過池で凝集フロックを除去することができ、処理水の水質を目標値とすることができる。 【0004】 従来技術によれば、水処理システムにおける凝集処理について、PAC注入率や次亜塩素酸注入率は、原水の濁度に応じて比例制御する技術がある(例えば特許文献1,2参照)。また、ジャーテストと称される水質に対する薬品注入率を実験で算定し、単なる比例制御ではなく、水質と薬品注入率と対応付けて制御する技術もある。 【0005】 既存の水処理システムによれば、各工程で検出されるセンシングデータに基づいて、オペレータ(熟練技術者)が多大の時間で蓄積された勘と経験、ノウハウに依存して、薬品注入量が調整されている。これに対し、ニューラルネットワークを用いて、複数の注入条件で、PAC注入率や活性炭注入率に基づく処理水の水質を予測する技術もある(例えば特許文献3参照)。この技術によれば、膜ろ過方式であって、超微細な細孔を持つ膜に圧力差を利用して原水を通し、膜の孔径よりも大きな原水中の不純物を分離して除去するものである。 ・・略・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 決定木学習アルゴリズムのような教師有り学習によれば、過去長期間の膨大な教師データを用いることによって予測モデルを構築し、その予測モデルを用いて将来的なデータを予測することができる。しかしながら、実運用中における直近短期間のデータに変化があっても、過去長期間の教師データによって構築された予測モデルにおける予測精度に依存するという問題があった。一方で、直近短期間のデータのみで予測モデルを構築しても、過去の教師データの振る舞いを反映することはできない。 【0008】 また、決定木学習アルゴリズムによれば、予測に無関係なデータ(説明変数)が多いと予測精度が上がらないという問題もある。更に、過去長期間の膨大な教師データのみを用いた場合、その教師データの一部に抜けがあると、最適な予測モデルを構築できなくなるという問題もある。 【0009】 このような問題は、機械学習を、水処理システムに適用した場合にも顕著に現れる。即ち、過去長期間に運用された膨大な薬品注入率のデータに基づいて決定木学習アルゴリズムの予測モデルを構築しても、大雨や藻類の増殖などに起因する突発的な原水濁度の変化に対応できない。即ち、原水濁度に応じて薬品注入率を比例制御しても、ニューラルネットワークを用いても、この問題を解決することは極めて難しい。 【0010】 そこで、本発明によれば、決定木学習アルゴリズムのような教師有り学習であっても、過去長期間の膨大な教師データに対して、直近短期間の教師データに変化があっても、予測モデルにおける予測精度を高めることができる予測プログラム、装置及び方法を提供することを目的とする。特に、水処理システムに適用した場合、過去長期間に運用された膨大な薬品注入率のデータに基づく予測モデルを構築しても、大雨や藻類の増殖などに起因する突発的な原水濁度の変化に対応して薬品注入率を決定することができる。」 「【0022】 以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。 【0023】 図1は、本発明の予測サーバが設置された水処理のシステム構成図である。 【0024】 図1における水処理システム(浄水場)は、「急速ろ過方式」を用いたものである。急速ろ過方式とは、水中の小さな濁りや細菌類などを薬品で凝集、沈殿させた後の上澄みを、砂利や砂などが敷き詰めてあるろ過池に、120〜180m/日の速度で水を流してろ過する。比較的濁りの多い河川水や湖沼水の処理に適しており、狭い敷地でも多量の水を処理できる。 【0025】 図1によれば、以下の水処理工程の中で、センシングデータの取得と、薬品注入率の制御とが実行される。 [原水] (原水温度センサ) ->予測サーバへのセンシングデータ (原水濁度センサ) ->予測サーバへのセンシングデータ [生物処理池] (前処理水濁度センサ) ->予測サーバへのセンシングデータ (前処理水PHセンサ) ->予測サーバへのセンシングデータ [活性炭混和池] <-(前次亜注入装置) <-予測サーバからの薬品注入率 ->予測サーバへの薬品注入データ <-(活性炭注入装置) <-予測サーバからの薬品注入率 ->予測サーバへの薬品注入データ [凝集混和池] <-(PAC注入装置) <-予測サーバからの薬品注入率 ->予測サーバへの薬品注入データ <-(中次亜注入装置) <-予測サーバからの薬品注入率 ->予測サーバへの薬品注入データ (中間処理遊離残留塩素センサ)->予測サーバへのセンシングデータ [急速ろ過池] (ろ過池水圧センサ) ->予測サーバへのセンシングデータ (ろ過池ろ過時間計測器) ->予測サーバへのセンシングデータ (浄水濁度センサ) ->予測サーバへのセンシングデータ [浄水池] [配水池] (配水池水位センサ) ->予測サーバへのセンシングデータ 尚、制御可能なものとして薬剤注入率以外にも、取水量/配水量であってもよい。 【0026】 図1の水処理システムによれば、過去長期間の運用データ(センシングデータ及び薬品注入データ)を予測サーバによって学習させることにより、その浄水場に適した予測モデルを作成することができる。これによって、例えば現時点から1時間後の薬品注入率を予測することができる。これは、浄水場の構造や規模に関係なく適用でき、オペレータにおける過去長期間の経験値を用いて薬品注入率を制御することができる。」 「【0029】 本発明の予測サーバ1は、学習段階と運用段階とに区別して実行される。 学習段階とは、過去長期間の教師データ(説明変数)を用いて、決定木学習エンジンの予測モデルを作成する。 運用段階とは、作成された予測モデルの決定木学習エンジンを用いて、直近短期間のデータ(説明変数)から、将来のデータを予測する ・・略・・ 【0031】 図1によれば、予測サーバ1は、運用段階として、データ受信部111と、決定木学習エンジン110と、予測結果送信部112とを有する。また、学習段階として、データベース120と、第1の説明変数抽出部121と、第2の説明変数抽出部122と、第3の説明変数抽出部123と、予測モデル作成部124とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現できる。また、これら機能構成部の処理の流れは、予測方法としても理解できる。 【0032】 [決定木学習エンジン110] 決定木学習エンジン110は、機械学習のアルゴリズムとして「ランダムフォレスト(Random Forest)」を用いる。ランダムフォレストとは、決定木を弱学習器とする集団(アンサンブル)学習アルゴリズムであって、ランダムサンプリングされた説明変数によって学習した多数の決定木を構築する。ランダムフォレストを利用する理由として、説明変数の寄与度(重要度)を算出することができる。本発明によれば、決定木学習エンジンであればよいが、説明変数の寄与度(重要度)を算出可能なアルゴリズムであることを要する。」 「【0036】 <学習段階S12> [データベース120] データベース120は、過去長期間に時系列に取得された異なる種類の説明変数全群を記憶する。説明変数は、具体的には、1時間毎に計測及び制御された運用データ(センシングデータ及び薬品注入率)であって、学習期間として例えば過去1年分(年単位の実測期間)のものである。 【0037】 説明変数は、実測値、複数の実測値の積算値、又は、複数の実測値の平均値であり、 センシングデータ又は薬品注入データについて、任意の種類の所定時刻で記録されていない場合、当該種類について所定時刻の直近短期間の実測値における平均値によって、所定時刻の当該説明変数を補間する。 【0038】 [第1の説明変数抽出部121(S121)] 第1の説明変数抽出部121は、説明変数全群を教師データとして、決定木学習アルゴリズムによって説明変数毎の寄与度を算出し、寄与度の高い順に上位から第1の所定数の第1の説明変数群を抽出する。 【0039】 図6は、水処理システムにおける学習段階のデータを表す説明図である。 【0040】 図6(a)によれば、説明変数全群は、図1の水処理システムにおけるセンシングデータ及び薬品注入データである。 センシングデータは、原水水温、原水濁度、前処理水濁度、前処理水pH値、中間処理遊離残留塩素値、ろ過池水圧、ろ過池ろ過時間、浄水濁度、配水池水位の1つ以上である。 薬品注入データは、前次亜塩素酸注入率、活性炭注入率、PAC(ポリ塩化アルミニウム)注入率、中次亜塩素酸注入率、硫酸バンド注入率、後次亜塩素酸注入率の1つ以上である。 これら説明変数は、決定木学習エンジン110へ入力され、説明変数毎の寄与度を算出する。ここでの予測値は、次の時点の薬品注入率となる。 図6(b)によれば、寄与度の高い順に上位から、例えば20件(第1の所定数)の第1の説明変数群が抽出される。 【0041】 [第2の説明変数抽出部122(S122)] 第2の説明変数抽出部122は、第1の説明変数群に含まれる説明変数毎に、直近短期間に時系列に取得された第2の説明変数群を取得する。直近短期間とは、現時点から過去に時間単位の実測期間に基づくものである。 【0042】 図6(c)によれば、図6(b)によって選択された20件の第1の説明変数群について、その説明変数毎に過去6時間(直近短期間)に取得された1時間毎の説明変数を取得する。例えば第1の説明変数群に含まれる「原水濁度」について、直近6時間における1時間毎の6個の説明変数を取得する。 原水濁度-> 原水濁度1h、原水濁度2h、原水濁度3h、 原水濁度4h、原水濁度5h、原水濁度6h 第1の説明変数群が20件であるならば、各6時間分で、20件×6時間=120件の第2の説明変数群を取得する。 【0043】 [第3の説明変数抽出部123(S123)] 第3の説明変数抽出部123は、第2の説明変数群を教師データとして、決定木学習アルゴリズムによって説明変数毎の寄与度を算出し、寄与度の高い順に上位から第2の所定数の第3の説明変数群を抽出する。 【0044】 図6(c)の120件の第2の説明変数群を、決定木学習エンジン110へ入力し、説明変数毎の寄与度を算出する。 図6(d)によれば、寄与度の高い順に上位から、例えば40件(第3の所定数)の第3の説明変数群が抽出される。 【0045】 [予測モデル作成部124(S124)] 予測モデル作成部124は、第3の説明変数群を教師データとして、決定木学習アルゴリズムにおける予測モデルを作成する。 【0046】 尚、説明変数の数は、例えば以下のような関係にあるのが好ましい。 説明変数全群の数 > 第1の説明変数群の数 第1の説明変数群の数 << 第2の説明変数群の数 第2の説明変数群の数 >> 第3の説明変数群の数 第1の説明変数群の数 < 第3の説明変数群の数」 「【0047】 <運用段階S11> [データ受信部111(S111)] データ受信部111は、データ(説明変数)を受信する。水処理システム用の予測サーバ1によれば、水処理システムの各工程に設置されたセンサ又はコントローラから、センシングデータ及び薬品注入率を、説明変数として逐次、受信する。そして、そのデータを、決定木学習エンジン110及びデータベース120へ出力する。 【0048】 [決定木学習エンジン110(S110)] 決定木学習エンジン110は、運用段階として、第3の説明変数群に対応する直近短期間の説明変数群を、リアルタイムに入力する。決定木学習アルゴリズムには、学習段階S12で作成された予測モデルに基づくものである。図4のS110を参照すると、現時点となる実測時点(運用時点)の過去6時間分に対応する第3の説明変数群を入力する。 【0049】 そして、次の1時間後の時点の予測対象種類の予測値を算出する。予測対象種類とは、水処理システムにおける「薬品注入率」となる。具体的には、過去のセンシングデータ及び薬品注入率を用いて、未来の予測時点における薬品注入率を予測することができる。 【0050】 [予測結果送信部112(S112)] 予測結果送信部112は、予測された薬品注入データ(薬品注入率)を、ユーザ操作の端末4へ送信する。水処理システムにおけるオペレータは、端末4に表示された薬品注入率を視認することによって、熟練技術者でなくても経験値の高い運用をすることができる。また、薬品を自動的に注入するコントローラに対して予測結果を送信することによって、薬品注入率の制御が可能となる。 【0051】 図7は、本発明におけるオペレータ用の端末に表示された薬品注入ガイダンスを表す画面図である。 図7によれば、端末4の画面には、「PAC注入率」「活性炭注入率」「前次亜塩素酸注入率」「中次亜塩素酸注入率」毎に、予測結果としての注入率が表示されている。 【0052】 図8は、本発明における予測精度を表すグラフである。 【0053】 図8は、約20,000m3/日の水処理能力を有する浄水場で、過去長期間1年分の運用データに基づいて、本発明によって薬品注入率を制御することによって、実績値に近い予測値を算出することを表したものである。説明変数全群は約150種類であり、学習データサンプリングは1時間周期のものである。そして、現時点から1時間後の薬品注入率を予測する。予測した薬品注入率は、3種類である。 【0054】 例えば従来の回帰モデルに基づく予測精度は90%程度である。これに対し、本発明によれば、予測精度は97%程度となり、突発的な濁度変化にも対応できる精度となった。尚、予測精度の算定は、過去の運用値と本発明の予測結果とを比較して、以下の式で算出したものである。 予測精度=100−|実績値−予測値|/実績値×100」 「【0055】 以上、詳細に説明したように、本発明の予測プログラム、装置及び方法によれば、決定木学習アルゴリズムのような教師有り学習であっても、過去長期間の膨大な教師データに対して、直近短期間の教師データの変化があっても、予測モデルにおける予測精度を高めることができる。特に、水処理システムに適用した場合、過去長期間の膨大な薬品注入率に基づく予測モデルを構築しても、大雨や藻類の増殖などに起因する突発的な原水濁度の変化に対応して薬品注入率を決定することができる。」 イ 上記アによれば、甲6には、次の発明が記載されている。 (甲6発明) 6a 機械学習が適用された水処理システムにおける予測方法であって、この水処理システムは、原水、生物処理池、活性炭混和池、凝集混和池、急速ろ過池、浄水池及び配水池からなる水処理工程の中で、センサ(原水における原水温度センサと原水濁度センサ、生物処理池における処理水濁度センサと処理水PHセンサ、凝集混和池における中間処理遊離残留塩素センサ)からのセンシングデータ及び薬品注入データの取得と、活性炭混和池及び凝集混和池における薬品注入率の制御が実行されるものであり、 6b 過去長期間の運用データ(センシングデータ及び薬品注入データ)を予測サーバによって学習させるものであり、データベース120は、過去長期間に時系列に取得された異なる種類の説明変数全群を記憶するものであって、1時間毎に計測及び制御された運用データ(センシングデータ及び薬品注入率)が説明変数となっており、また、この説明変数は、実測値、複数の実測値の積算値、又は、複数の実測値の平均値であり、センシングデータは、原水水温、原水濁度、前処理水濁度、前処理水pH値、中間処理遊離残留塩素値、ろ過池水圧、ろ過池ろ過時間、浄水濁度、配水池水位の1つ以上であり、 薬品注入データは、前次亜塩素酸注入率、活性炭注入率、PAC(ポリ塩化アルミニウム)注入率、中次亜塩素酸注入率、硫酸バンド注入率、後次亜塩素酸注入率の1つ以上であり、 6c 学習段階では、過去長期間の教師データ(説明変数)を用いて、決定木学習エンジンの予測モデルを作成し、 第1の説明変数抽出部121が説明変数全群を教師データとして決定木学習アルゴリズムによって説明変数毎の寄与度を算出し寄与度の高い順に上位から第1の所定数の第1の説明変数群を抽出し、 第2の説明変数抽出部122が第1の説明変数群に含まれる説明変数毎に、直近短期間に時系列に取得された第2の説明変数群を取得し、 第3の説明変数抽出部123が第2の説明変数群を教師データとして、決定木学習アルゴリズムによって説明変数毎の寄与度を算出し、寄与度の高い順に上位から第2の所定数の第3の説明変数群を抽出し、 予測モデル作成部124が第3の説明変数群を教師データとして、決定木学習アルゴリズムにおける予測モデルを作成するものであり、 6d 運用段階では、学習段階で作成された予測モデルに基づき、第3の説明変数群に対応する直近短期間の説明変数群を、リアルタイムに入力して予測された薬品注入データ(薬品注入率)を、ユーザ操作の端末4へ送信する、 予測方法。 ウ 甲6発明の認定について、申立人は、甲6に「予測モデル」を水処理システム2の制御部に「予め導入した後」に水処理システムの「実運転の制御を開始する」点が記載されている旨を主張している。 しかしながら、甲6は「過去長期間の運用データ(センシングデータ及び薬品注入データ)を予測サーバによって学習させることにより、その浄水場に適した予測モデルを作成する」(段落【0026】)ことを記載していることから、「予測モデル」を水処理システム2の制御部に「予め導入した後」に水処理システムの「実運転の制御を開始する」ものではないことが明らかであり、このことに照らせば、申立人の主張を採用することはできない。 (3)従たる証拠 ア 周知技術を示す文献(甲2、甲3、甲4) 甲2、甲3及び甲4(摘記省略)によれば、実原水を用いたジャーテストを行うにあたって、画像取得装置により取得した画像と、凝集剤注入率とを1つのデータセットとして、所定量のデータセットを用意することは、周知技術であるといえる(以下「周知技術1」という。)。 この点、申立人は、画像を「説明変数」とし、凝集剤注入率を「目的変数」とすることを含めて周知技術であると主張しているが、甲2、甲3及び甲4は、いずれもモデルの学習に係る「説明変数」と「目的変数」を記載したものでないことから、これらの証拠によって画像を「説明変数」とし、凝集剤注入率を「目的変数」とすることを含めた周知技術を認定することはできない。 イ 甲5 甲5(摘記省略)によれば、甲5には、水処理用担体が配置されて回転可能に設けられた攪拌機によって攪拌される水処理槽、給水管及び配水管を備える水処理装置(以下「甲5技術」という。)が記載されている。 5 理由1−1についての当審の判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 (ア)分説Aについて 甲1発明の「河川や湖沼から着水井5に導かれた原水」及び「浄水処理プロセス」は、本件特許発明1の「実原水」及び「水処理」に相当し、甲1発明の「浄水処理プロセスの運転管理支援システムに適用されたニューラルネット応用運転支援システムにおける支援方法」は、水処理システムの運転制御方法であるといえる。 よって、分説Aは一致点となる。 (イ)分説Bについて 甲1発明の「撮像手段60」は、本件特許発明1の「画像取得装置」に相当する。そして、甲1発明の「撮像手段60で得られたデータ」は、実原水を用いた回分試験装置あるいは水処理システムの近傍に設置されて実原水を用いて運転する連続試験装置を用いて予め取得したものとはいえないものの、「画像取得装置により取得した静止又は連続画像」に対応するものといえ、甲1発明の「履歴データベース80」は、このような画像取得装置により取得した静止又は連続画像を含むデータを所定量含むものである点で、本件特許発明1の「データベース」に対応するものといえる。よって、本件特許発明1と甲1発明とは、いずれも、画像取得装置により取得した静止又は連続画像をデータとして、所定量のデータを備えてなるデータベースを用意するものである点で、共通するといえる。 (ウ)分説Cについて 甲1発明は、データベースからの教師データをニューラルネットにより学習し、学習後の重み係数行列をニューラルネットベース300に書き出すものであるところ、この学習後の重み係数行列が示すニューラルネットは、本件特許発明1の「機械学習アルゴリズム」により構築される「予測モデル」に対応するといえる。よって、本件特許発明1と甲1発明とは、データベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築するものである点で、共通するといえる。 (エ)分説Dについて 甲1発明の「ニューロシステム150」は、上記(ウ)の「予測モデル」を含むものであり、甲1発明では、この予測モデルを用いて得られたガイダンスをオペレータに表示することから、構築された予測モデルを実原水を対象とした水処理システムの制御部に導入して水処理での実運転の制御を行うものである点で、本件特許発明1と共通するといえる。 (オ)以上より、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 <一致点> 実原水又は実汚泥を用いて水処理又は汚泥処理を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法において、 少なくとも画像取得装置により取得した静止又は連続画像を、1つのデータとして、所定量のデータを備えてなるデータベース、を用意し、 データベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築し、 前記構築された予測モデルを前記実原水を対象とした前記水処理システム又は前記実汚泥を対象とした前記汚泥処理システムの制御部に導入して前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。 <相違点> (相違点1) 本件特許発明1の静止又は連続画像は、「前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置」を用い、かつ「予め」取得したものであるのに対し、甲1発明の静止又は連続画像は、「前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置」ではなく撮像手段60が設置されるフロック形成池を用いて取得したものであり、また「予め」取得したものではない点。 (相違点2) 本件特許発明1の「データベース」のデータは、「静止又は連続画像」を「データセット」の「説明変数」として備えるのに対し、甲1発明では説明変数と目的変数のいずれとして備えるかが明らかでない点。 (相違点3)本件特許発明1の「データベース」のデータは、「前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値」を「データセット」の「目的変数」として備えるのに対し、甲1発明のデータベースのデータは、「前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値」を「データセット」の「目的変数」として備えるものでない点。 (相違点4) 本件特許発明1の予測モデルの構築のためのデータベースは「前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいた」ものであるのに対し、甲1発明のデータベースは、「前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって」ではなく浄水プラントにおける凝集剤注入方法の変化に対応した臨機応変な学習に用いられるものとして用意されるものであり、「事前に用意しておいた」ものでもない点。 (相違点5) 本件特許発明1は、構築された予測モデルを制御部に「予め導入した後」に水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を「開始する」のに対し、甲1発明は、浄水プラントにおける凝集剤注入方法の変化に対応し臨機応変に学習して自己成長性を有する運転支援を行うものであることから、実運転の制御の開始の前に予め予測モデルを導入するものでない点。 イ 相違点の判断 (ア)相違点1、相違点4、相違点5について 相違点1、相違点4及び相違点5は相互に関連するものであるので、まとめて検討する。 本件特許発明1は、「実プラント」を用いる場合における「データを集積するために時間が掛かる」、「新設プラントの稼働時には、そもそもデータが無いため、制御できない」との従来技術の問題点(本件特許明細書段落【0011】)を課題として相違点1、相違点4及び相違点5に係る構成によってこの課題を解決するものであるのに対し、申立人が提出する甲2〜甲5に示された内容は、上記4(3)のとおりであり、いずれも、このような課題の解決のための技術を示すものでなく、各相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 なお、甲6も、これらの相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 (イ)相違点2、相違点3について 相違点2及び相違点3は相互に関連するものであるので、まとめて検討する。 本件特許発明1は、「水処理/汚泥処理分野」の「プラントの維持管理」では「センサや分析機器により取得できる数値のみならず、運転員の五感、特に目によりプラントの処理状況を判断している場合」があり、「センサ等の数値データのみを学習しても、現在人間の視覚情報と経験に頼った運転管理レベルを達成できない可能性がある」との課題(本件特許明細書段落【0012】〜【0015】)を相違点2及び相違点3に係る構成によってこの課題を解決するものであるのに対し、申立人が提出する甲2〜甲5に示された内容は、上記4(3)のとおりであり、いずれも、このような課題の解決のための技術を示すものでなく、各相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 なお、甲6も、これらの相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 (ウ)以上のとおり、相違点1〜相違点5について申立人が提出する証拠によって容易想到であるとすることはできない。 ウ 申立人の主張について (ア)上記ア(イ)について、申立人は、分説Bを一致点と整理している。 しかし、甲1には、運転履歴データベースに取り込まれたデータのいずれを機械学習における説明変数や目的変数として用いるかに係る記載がなされていない。また、甲1の「浄水プロセスの凝集剤注入データを学習する」旨の記載は、運転履歴データベースに取り込まれた「浄水プロセスの凝集剤注入データ」を学習に用いる旨を示すにとどまり、他の記載を含め、甲1には、凝集剤注入率を機械学習における目的変数として用いること(申立人主張の甲1発明)や本件特許発明1の「前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値」に相当する構成の記載は見当たらない。 よって、分説Bについて、甲1発明との間に上記相違点2及び相違点3があり、一致点ではない。 (イ)上記ア(エ)について、申立人は、甲1発明が「実運転の制御開始後、実原水を処理する実運転から得られたデータも、支援システム100での実運転の制御を開始した後にデータベースに加える」ことを指摘し、分説Dを一致点と整理しているが、申立人が指摘する内容は、分説Dが一致点であることの根拠にならない。そして、分説Dについて、甲1発明との間に上記相違点5があり、一致点ではない。 (2)本件特許発明2〜本件特許発明5について 本件特許発明2〜本件特許発明5は、本件特許発明1の内容を含むものであり、少なくとも上記(1)ア(オ)に示した相違点1〜相違点5において甲1発明と相違し、かつ、上記(1)イに示したとおり、相違点1〜相違点5について申立人が提出する証拠によって容易想到であるとすることはできない。 (3)小括 以上によれば、本件特許発明1〜本件特許発明5は、当業者が、甲1発明と申立人が示した周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものでなく、本件特許1〜本件特許5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 6 理由1−2についての当審の判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 (ア)分説Aについて 甲6発明の「水処理工程」のうち「原水」の水は、本件特許発明1の「実原水」に相当し、この水処理工程は、本件特許発明1の「水処理」に相当する。そして、この水処理工程について機械学習が適用された水処理システムにおける予測方法は、水処理システムの運転に係る薬品注入率の制御のためのものであることから、水処理システムの運転制御方法であるといえる。 よって、分説Aは一致点となる。 (イ)分説Bについて 甲6発明のデータベース120は、本件特許発明1の「データベース」に対応するものであり、これに記憶されるセンシングデータ及び薬品注入率は、機械学習における説明変数であるところ、このうち薬品注入率については、運用段階で予測されるものでもあって機械学習による予測の目的変数ともなっているといえることから、本件特許発明1と甲6発明とは、いずれも「説明変数と目的変数とを、1つのデータセットとして、所定量のデータセットを備えてなるデータベースを、用意しておく」点で共通するといえる。 (ウ)分説Cについて 本件特許発明1と甲6発明は、データベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築するものである点で、共通するといえる。 (エ)分説Dについて 甲6発明は、運用段階で学習段階で作成された予測モデルに基づいて水処理のための薬品注入率を送信するものであることから、構築された予測モデルを実原水を対象とした水処理システムの制御部に導入して水処理での実運転の制御を行うものである点で、本件特許発明1と共通するといえる。 (オ)以上より、本件特許発明1と甲6発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 <一致点> 実原水又は実汚泥を用いて水処理又は汚泥処理を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法において、 説明変数と、目的変数とを、1つのデータセットとして、所定量のデータセットを備えてなるデータベース、を用意しておき、 データベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築し、 前記構築された予測モデルを前記実原水を対象とした前記水処理システム又は前記実汚泥を対象とした前記汚泥処理システムの制御部に導入し前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。 <相違点> (相違点1’) 本件特許発明1の「説明変数」及び「目的変数」は、「前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置を用いて予め取得した、少なくとも画像取得装置により取得した静止又は連続画像からなる」もの及び「前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値からなる」ものであるのに対し、甲6発明の「説明変数」及び「目的変数」は、このようなものではない点。 (相違点2’) 本件特許発明1のデータベースは「前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいた」ものであるのに対し、甲6発明のデータベースは、運用データであって「事前に用意」しておいたものではない点。 (相違点3’) 本件特許発明1は、構築された予測モデルを制御部に「予め導入した後」に水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を「開始する」のに対し、甲6発明は、運用データを用いて学習するものであって、実運転の制御の開始の前に予め予測モデルを導入するものでない点。 イ 相違点の判断 (ア)相違点1’について 本件特許発明1は、「水処理/汚泥処理分野」の「プラントの維持管理」では「センサや分析機器により取得できる数値のみならず、運転員の五感、特に目によりプラントの処理状況を判断している場合」があり、「センサ等の数値データのみを学習しても、現在人間の視覚情報と経験に頼った運転管理レベルを達成できない可能性がある」との課題(本件特許明細書段落【0012】〜【0015】)を相違点1’に係る構成によってこの課題を解決するものであるのに対し、申立人が提出する甲2〜甲5に示された内容は、上記4(3)のとおりであり、いずれも、このような課題の解決のための技術を示すものでなく、各相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 なお、甲1も、この相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 (イ)相違点2’、相違点3’について 相違点2’と相違点3’は相互に関連するものであるので、まとめて検討する。 本件特許発明1は、「実プラント」を用いる場合における「データを集積するために時間が掛かる」、「新設プラントの稼働時には、そもそもデータが無いため、制御できない」との従来技術の問題点(本件特許の明細書段落【0011】)を課題として相違点2’及び相違点3’に係る構成によってこの課題を解決するものであるのに対し、申立人が提出する甲2〜甲5に示された内容は、上記4(3)のとおりであり、いずれも、このような課題の解決のための技術を示すものでなく、各相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 なお、甲1も、これらの相違点に相当する構成を開示するものとはいえない。 (ウ)以上のとおり、相違点1’〜相違点3’について申立人が提出する証拠によって容易想到であるとすることはできない。 ウ 申立人の主張について 申立人が甲2〜甲4から認定できると主張する周知技術を認定することができない点については、上記4(3)アに示したとおりである。 (2)本件特許発明2〜本件特許発明5について 本件特許発明2〜本件特許発明5は、本件特許発明1の内容を含むものであり、少なくとも上記(1)ア(オ)に示した相違点1’〜相違点3’において甲6発明と相違し、かつ、上記(1)イに示したとおり、相違点1’〜相違点3’について申立人が提出する証拠によって容易想到であるとすることはできない。 (3)小括 以上によれば、本件特許発明1〜本件特許発明5は、当業者が、甲6と申立人が示した周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものでなく、本件特許1〜本件特許5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 7 理由2〜理由4(記載要件違反)についての当審の判断 (1)理由2(明確性要件違反) ア 申立人は、本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜5の「前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいたデータベース」の記載における「異なる」について、回分試験装置等が水処理装置と物理的に離れていなければならないのか、水処理システム内にあっても実際に水を処理する装置・機械と離れていればいいのか、意味が不明である旨を主張している。 イ しかしながら、上記の記載は、「前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置を用いて予め取得した、少なくとも画像取得装置により取得した静止又は連続画像からなる説明変数と、前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値からなる目的変数とを、1つのデータセットとして、所定量のデータセットを備えてなるデータベース、を事前に用意しておき、」との記載(以下「記載A」という。)を受けたものであることから、文理上、この「異なる」は、「前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置」が「前記水処理又は汚泥処理システム」と「異なる」ものである旨を示すものであって、データベースを「事前に」、つまり実運転の制御を開始する前に、「用意」するための「静止又は連続画像」と「水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値」を取得するにあたって用いられる「前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置」と、実運転の制御に係る「前記水処理又は汚泥処理システム」とが「異なる」ものである旨を示すことが明らかである。 そして、この「異なる」は、本件特許の明細書の段落【0050】の「本発明によれば、実プラントで得られるデータ以外に、予めデータベース構築用に実施したジャーテスト(回分試験)によって、早期の且つ精度の高い制御立ち上げが可能となった。」の記載において「予めデータベース構築用に実施したジャーテスト(回分試験)」により得られるデータを「実プラントから得られるデータ」と区別していることに対応しているといえることから、明細書の記載とも整合している。 ウ よって、「異なる」の意味は明確であり、本件特許1〜本件特許5が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 (2)理由3(サポート要件違反)の「その1」 ア 申立人は、本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜5の記載における「前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいたデータベース」の記載について、発明の詳細な説明には「ジャーテスト(回分試験)」を行ってデータベースを構築することは記載されているが、この「ジャーテスト」を実際の浄水場で行っているのか、実際の浄水場以外で行っているのかについて記載されておらず、そうであるにも関わらず、水処理システムとは異なる場所で回分試験等を行ったデータベースを構築することが含まれているとして、発明の課題を解決する手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載されたものでないとの旨を主張している。 イ しかしながら、上記(1)でも示したとおり、この記載は、記載Aを受けたものであり、文理上、回分試験等を「実原水又は実汚泥」を用いて行う旨が特定されていることから、課題解決手段としてのデータベースは、実際の浄水場以外で行う場合においても実際の浄水場で行う場合と同様のものとなることが明らかである。 ウ よって、請求項1〜5の記載は、発明の課題を解決する手段が反映されたものとなっており、本件特許1〜本件特許5が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 (3)理由3(サポート要件違反)の「その2」 ア 申立人は、本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜5の記載において、例えば水質の異なるA川とB川があった場合にB川の回分試験装置から得られたデータベース及び予測モデルをA川の水処理システムに適用する事例も含まれるのに対し、発明の詳細な説明には、異なる川について本件特許が適用されることについての説明がなく、また水質の異なるA川のデータベース及び予測モデルをB川に適用しても「精度の高い出力を返す」との効果を達成することができない旨を主張している。 イ しかしながら、請求項1〜5の記載においては、上記記載Aにおいて、「回分試験装置」や「連続試験装置」において用いられる「前記実原水又は実汚泥」は、「システム」が行う「水処理又は汚泥処理」の対象となる「実原水又は実汚泥」である旨が明示されており、水質の異なる河川の水を用いたモデル構築用学習データのデータベースを用いることは、請求項1〜5の記載において排除されていることが明らかである。 そして、この記載は、発明の詳細な説明の段落【0026】〜【0034】に記載された、「実際の浄水場の着水井に導入される実際の原水(実原水)」を入手した上でジャーテストを実施してモデル構築用学習データのデータベースにデータセットを蓄える旨の記載と整合している。 ウ よって、請求項1〜5の記載は、水質の異なる河川の水を用いたデータベース及び予測モデルを排除した記載となっており、本件特許1〜本件特許5が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 (4)理由4(実施可能要件違反)の「その1」 ア 申立人は、「ジャーテスト(回分試験装置)」について、明細書の段落【0028】、【0029】において、どの時点の凝集フロックを撮像するのか記載されておらず不明であり、機械学習による予測ではデータセットと予測対象の母集団とが同一であることが求められるため、当業者は発明の詳細な説明の記載では実施することができない旨を主張している。 イ しかしながら、「静止又は連続画像」が示す「凝集フロック」や「水処理用担体」の状態(大きさ、形状等)から「システムの運転の良否」が判断できるものであれば、どの時点の凝集フロックや水処理用担体の「静止又は連続画像」を取得してもよいことは明らかである。 また、そのような時点の例として、本件特許の明細書の段落【0038】の「急速攪拌終了時における凝集フロックの様子をカメラで撮影した」の記載や段落【0040】の「緩速攪拌後の凝集フロック画像」、【0041】の「急速攪拌後の凝集フロック画像」と記載されており、これらの記載からみても、発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施できる程度に記載したものといえる。 ウ よって、発明の詳細な説明は、どの時点の凝集フロックを撮像するのかについて当業者が実施できる程度に記載したものであるから、本件特許1〜本件特許5が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 (5)理由4(実施可能要件違反)の「その2」 ア 申立人は、明細書の段落【0039】、【0040】、【0042】、【0047】の記載にある、画像だけでなく他の説明変数をDeep Learningの入力として用いる場合は、どの層にどのように画像以外の説明変数を入力するかでモデルの精度は大きく異なるが、発明の詳細な説明には、どの層にどのように画像以外の説明変数を入力するのか記載されていない、明細書の段落【0047】の「〔制御開始後、1か月間のR2値〕:0.83」は、どのようなモデルによって得られる値なのか不明である、と主張している。 イ しかしながら、請求項1及び請求項2に係る発明については、「画像以外の説明変数」がそもそも発明特定事項でなく、また、請求項3〜請求項5に係る発明については、発明特定事項において「画像以外の説明変数」は必須とされていないことから、画像以外の他の説明変数を用いる場合における、どの層にどの説明変数を入力するかが記載されていなくても、本件特許発明1〜5に係る記載要件を欠くことにならない。明細書の段落【0047】の記載がどのようなモデルによって得られる値なのかについても、これが不明であるとしても実施可能要件を欠くことにならない。 ウ よって、これらについての申立人の主張は、特許異議申立理由になっておらず、本件特許1〜本件特許5が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 (6)小括 以上のとおり、本件特許1〜本件特許5は、特許法第36条第6項第2号、同項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 8 理由5(発明該当性)についての当審の判断 (1)申立人は、次の2点を根拠として、本件特許発明1〜本件特許発明5は、未完成発明であると主張している。 ア 本件特許は、水質の異なる河川の回分試験装置から得られたデータベース及び予測モデルを用いるものを権利範囲に含むが、「精度の高い出力を返す」という本件特許の効果を達成できない。 イ 本件特許の効果について、段落【0047】〜【0050】のモデルの予測精度についての検証の記載に比較例がないため、記載された値の良し悪しの判断ができず、精度の高い出力を返しているか不明であり、実験結果等の具体的な裏付けを欠いている。 (2)しかしながら、下記のとおり、いずれの点も、本件特許発明1〜本件特許発明5が未完成発明であることの根拠にならない。 ア 上記7(3)イに示したとおり、水質の異なる河川の水を用いたモデル構築用学習データのデータベースを用いることは、請求項1〜5の記載において排除されており、申立人の主張は、本件特許発明1〜本件特許発明5についての主張になっていない。 イ 段落【0047】〜【0050】のモデルの予測精度についての検証は必須のものとはいえず、これらの記載がなくても本件特許発明1〜本件特許発明5は、発明として成立している。 (3)小括 よって、本件特許発明1〜本件特許発明5が未完成発明であるとはいえない。 9 理由6(補正要件)についての当審の判断 (1)申立人は、本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜5の「前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいたデータベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築し」の記載の下線部分について、「異なる」の文言が令和3年10月20日提出の手続補正書による補正で追加されたものであり、同日提出の意見書において根拠として示された明細書の段落【0034】【0058】を含め本件特許の明細書には「異なる」の記載や説明がなく、補正部分は技術常識でなく自明な事項でないから、新規事項の追加に該当すると主張している。 (2)しかしながら、上記7(1)イに示したところに照らせば、「異なる」は、「実運転」中の「システム」そのものを試験装置として用いない趣旨を示していることから、当初明細書等の記載を総合したものに対して新たな技術的事項を導入したものといえないことが明らかであり、補正により「異なる」の文言が追加された点は当初明細書等の記載の範囲内のものである。 (3)小括 よって、本件特許1〜本件特許5は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。 10 むすび 以上のとおり、理由1〜理由6は、いずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1〜本件特許5を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1〜本件特許5を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-12-08 |
出願番号 | P2020-118346 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(G06Q)
P 1 651・ 15- Y (G06Q) P 1 651・ 55- Y (G06Q) P 1 651・ 121- Y (G06Q) P 1 651・ 536- Y (G06Q) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
渡邊 聡 |
特許庁審判官 |
古川 哲也 相崎 裕恒 |
登録日 | 2022-02-28 |
登録番号 | 7032485 |
権利者 | 水ing株式会社 |
発明の名称 | 水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法 |
代理人 | 高木 裕 |
代理人 | 熊谷 隆 |