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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
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管理番号 | 1393128 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-09-02 |
確定日 | 2022-12-16 |
異議申立件数 | 3 |
事件の表示 | 特許第7029503号発明「熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7029503号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7029503号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和2年9月14日に出願され、令和4年2月22日にその特許権の設定登録がされ、令和4年3月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して令和4年9月2日に特許異議申立人 御代川 友美(以下、「特許異議申立人1」という。)により、同日に特許異議申立人 吉澤 悦子(以下、「特許異議申立人2」という。)により、及び、同年9月5日に特許異議申立人 増山 美紀(以下、「特許異議申立人3」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜9の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される発明であり、請求項1〜9の記載は以下のとおりである。 「【請求項1】 バインダ樹脂と、第1の熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性シートであって、 上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、 被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であり、 当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シート。 【請求項2】 当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が15体積%以下である、請求項1に記載の熱伝導性シート。 【請求項3】 アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、磁性粉からなる群から選択される少なくとも1種の第2の熱伝導性フィラーをさらに含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。 【請求項4】 熱抵抗が2.71℃・cm2/W以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。 【請求項5】 上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。 【請求項6】 上記第2の熱伝導性フィラーが、アルミナと窒化アルミニウムと酸化亜鉛との組み合わせ、アルミナと窒化アルミニウムと水酸化アルミニウムとの組み合わせ、アルミナと窒化アルミニウムと窒化ホウ素との組み合わせ、又は、アルミナとアルミニウムと黒鉛との組み合わせである、請求項3に記載の熱伝導性シート。 【請求項7】 発熱体と、 放熱体と、 発熱体と放熱体との間に配置された請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性シートとを備える、電子機器。 【請求項8】 第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、 上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、 上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、 上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であり、 上記熱伝導性シートは、厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シートの製造方法。 【請求項9】 上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が15体積%以下である、請求項8に記載の熱伝導性シートの製造方法。」 第3 申立理由の概要 1 特許異議申立人1は、証拠として甲第1−1号証〜甲第1−8号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜9に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。 (1) 申立理由1(サポート要件) 本件発明1〜9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2) 申立理由2(明確性) 本件発明3〜7は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項3〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3) 申立理由3(新規性) 本件発明1、2、4、5、7〜9は、甲第1−1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4、5、7〜9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (4) 申立理由4(進歩性) 本件発明1〜9は、甲第1−1号証〜甲第1−5号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] 甲第1−1号証:特開2019−214663号公報 甲第1−2号証:カタログ「熱・電波対策ソリューション」(Polymatech Group) 甲第1−3号証:Thomas, Anthony, "The Effect of Voltage Ramp Rate on Dielectric Breakdown of Thin Film Polymers" (2007), Utah State University, Senior Theses and Projects. Paper 2 甲第1−4号証:特開2003−309386号公報 甲第1−5号証:国際公開第2017/135237号 甲第1−6号証:特開平9−97988号公報 甲第1−7号証:特開2009−10296号公報 甲第1−8号証:特開2012−23335号公報 2 特許異議申立人2は、証拠として甲第2−1号証〜甲第2−4号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜9に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。 (1) 申立理由1−1(新規性) 本件発明1〜9は、甲第2−1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (2) 申立理由2−1(進歩性) 本件発明1〜9は、甲第2−1号証、甲第2−3号証及び甲第2−4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3) 申立理由1−2(新規性) 本件発明1〜9は、甲第2−2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (4) 申立理由2−2(進歩性) 本件発明1〜9は、甲第2−2号証〜甲第2−4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (5) 申立理由3(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (6) 申立理由4(サポート要件) 本件発明1〜9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲第2−1号証:国際公開第2020/105601号 甲第2−2号証:特開2012−23335号公報 甲第2−3号証:特開2017−212253号公報 甲第2−4号証:特開2011−230472号公報 3 特許異議申立人3は、証拠として甲第3−1号証〜甲第3−3号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜9に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。 (1) 申立理由1(新規性) 本件発明1〜9は、甲第3−1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (2) 申立理由2(進歩性) 本件発明1〜9は、甲第3−1号証〜甲第3−3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] 甲第3−1号証:国際公開第2014/203875号 甲第3−2号証:国際公開第2017/130740号 甲第3−3号証:国際公開第2011/158942号 第4 文献の記載、引用発明 1 文献1について (1)特許異議申立人1が提出した甲第1−1号証である特開2019−214663号公報(令和元年12月19日出願公開、以下、「文献1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、熱伝導性シートに関する。」 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献1に記載されているように、熱伝導性シートが鱗片状の熱伝導性フィラーを含有している場合、当該熱伝導性フィラーを熱伝導性シートの厚さ方向に沿って配向させることにより、熱伝導性シートは優れた熱伝導性を有するようになる。 一方、本発明者らの検討によると、鱗片状の熱伝導性フィラーを熱伝導性シートの厚さ方向に沿って配向させた場合、当該熱伝導性シートは、絶縁破壊しやすくなる(耐絶縁破壊性に劣る)という課題があることが明らかになった。 そのため、熱伝導性フィラーがその厚さ方向に沿って配向した熱伝導性シートは、熱伝導性に優れるものの、耐絶縁破壊性が求められる用途、例えば、電子部品とヒートシンクとの間に介在させる放熱シート等として使用するには不向きであった。」 「【発明を実施するための形態】 ・・・ 【実施例】 【0048】 次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。 (実施例1) シリコーンゴム100重量部、可塑剤100重量部、2種類の架橋剤を合計で10重量部、及び熱伝導性フィラー670重量部を2本ロールで練り込み、リボンシート(原料組成物)を得た。 上記樹脂成分としては、シリコーンゴム「東レダウコーニング社製のDY321005U」、及び可塑剤(信越化学工業社製のシリコーンオイル:KF−96−3000CS)を用いた。 上記架橋剤としては、東レダウコーング社製の「MR−53」、及び、「RC−4 50P FD」を用いた。表1にはその合計含有量を示した。 上記熱伝導性フィラーとしては、窒化ホウ素からなるフィラー(デンカ株式会社製「XGP」(鱗片状、粒径35μm、アスペクト比約30))を用いた。 【0049】 次に、作製したリボンシートを所定の形状のダイ10(第1ギャップの長さ(ランド長さ)L1=5mm、第1ギャップの高さH1=1mm、第2ギャップの高さH2=2mm、吐出口の幅W1=55mm)を取付けたゴム用短軸押出機100(図2、3(a)及び(b)参照)のホッパ8から投入し、押出成形を行うことにより、熱伝導性フィラー(鱗片状窒化ホウ素)の傾きが、樹脂組成物の押出方向に沿って周期的に変化している厚さ2mmのシートを成形した。 次に、得られたシートに170℃で30分間の架橋処理を施して、熱伝導性シートA−1を作製した。 ・・・ 【0052】 (比較例2) ダイ10と同様の形状を有し、各部の寸法を変更したダイを使用した以外は、実施例1と同様にして、厚さ10mmの熱伝導性シートA−3を作製した。 ここでダイの寸法は、第1ギャップの長さ(ランド長さ)L1=5mm、第1ギャップの高さH1=1mm、第2ギャップの高さH2=10mm、吐出口の幅W1=55mmとした。 その後、作製した熱伝導性シートA−3を実施例1と同様の手法によって面方向にスライスして、厚さ300μmの熱伝導性シートB−3を、熱伝導性シートA−3の厚さ方向中央部付近から切り出した。 得られた熱伝導性シートB−3の厚さ方向に平行な断面であって、押出方向に沿った断面をSEMで観察したところ、厚さ方向に沿って熱伝導性フィラーが配向していることが確認された。図9にSEM観察による観察画像を示した。図9(a)は倍率100倍の画像であり、図9(b)は倍率200倍の画像である。 【0053】 [評価試験] (1)熱抵抗値[K・cm2/W] 熱伝導性樹脂シートB−1〜B−3のそれぞれについて、厚さ方向の熱抵抗値をTIM TESTER1300を用いて測定した。当該測定は定常法にて米国規格ASTM D5470に準拠した。 ここで、熱抵抗値の計測は、3水準の測定圧力(0.3MPa、0.5MPa及び1MPa)で行った。結果を図10に示した。 【0054】 (2)絶縁破壊電圧[kV] 熱伝導性樹脂シートB−1〜B−3のそれぞれについて、厚さ方向の絶縁破壊電圧を電源装置(Trek社製 DC電源 MODEL610C)を用いて測定した。 ここで、電極は銅材(C1020)、10mm×10mm R0.4mm(電極との接触面10mm角)を使用し、厚さ300μmの熱伝導性樹脂シートを電極で挟み込み、上部からの加圧をせずに測定した。電源装置で電圧を印加し、絶縁破壊が発生した電圧を記録した。 結果を図11にヒストグラムで示した。」 「【図10】 ![]() 」 「【図11】 ![]() 」 (2)文献1の記載事項 ア 前記(1)の【0001】の「本発明は、熱伝導性シートに関する。」の記載によれば、文献1の記載は、「熱伝導性シート」に関するものであるといえる。 イ 同【0052】には、「(比較例2)・・・得られた熱伝導性シートB−3の厚さ方向に平行な断面であって、押出方向に沿った断面をSEMで観察したところ、厚さ方向に沿って熱伝導性フィラーが配向していることが確認された。」と記載されているから、文献1には、比較例2として、厚さ方向に熱伝導性フィラーが配向している「熱伝導性シートB−3」が記載されているといえる。 ウ 同【0052】には、「厚さ300μmの熱伝導性シートB−3を、熱伝導性シートA−3の厚さ方向中央部付近から切り出した。」と記載されているから、「熱伝導性シートB−3」は、「熱伝導性シートA−3」から切り出されたものである。 また、同【0052】には、「(比較例2)ダイ10と同様の形状を有し、各部の寸法を変更したダイを使用した以外は、実施例1と同様にして、厚さ10mmの熱伝導性シートA−3を作製した。」と記載されているから、寸法を除き、実施例1の熱伝導性シートと同じものであるといえる。 ここで、実施例1の熱伝導性シートについて、同【0048】には、「(実施例1)シリコーンゴム100重量部、可塑剤100重量部、2種類の架橋剤を合計で10重量部、及び熱伝導性フィラー670重量部を2本ロールで練り込み、リボンシート(原料組成物)を得た。・・・上記熱伝導性フィラーとしては、窒化ホウ素からなるフィラー(デンカ株式会社製「XGP」(鱗片状、粒径35μm、アスペクト比約30))を用いた。」と記載され、同【0049】には、「次に、作製したリボンシートを所定の形状のダイ10(第1ギャップの長さ(ランド長さ)L1=5mm、第1ギャップの高さH1=1mm、第2ギャップの高さH2=2mm、吐出口の幅W1=55mm)を取付けたゴム用短軸押出機100(図2、3(a)及び(b)参照)のホッパ8から投入し、押出成形を行うことにより、熱伝導性フィラー(鱗片状窒化ホウ素)の傾きが、樹脂組成物の押出方向に沿って周期的に変化している厚さ2mmのシートを成形した。」と記載されているから、「熱伝導性シートA−3」は、「シリコーンゴム」と、「熱伝導性フィラー」を含み、「熱伝導性フィラー」が「鱗片状の窒化ホウ素」であるといえる。 そして、上記のとおり「熱伝導性シートB−3」は、「熱伝導性シートA−3」から切り出されたものであり、技術常識からすれば、単なる切り出しによってその組成は変わらないものと考えられるから、「熱伝導性シートB−3」は、「シリコーンゴム」と、「熱伝導性フィラー」を含み、「熱伝導性フィラー」が「鱗片状の窒化ホウ素」であるといえる。 エ 同【0054】には、「(2)絶縁破壊電圧[kV] 熱伝導性樹脂シートB−1〜B−3のそれぞれについて、厚さ方向の絶縁破壊電圧を電源装置(Trek社製DC電源 MODEL610C)を用いて測定した。ここで、電極は銅材(C1020)、10mm×10mm R0.4mm(電極との接触面10mm角)を使用し、厚さ300μmの熱伝導性樹脂シートを電極で挟み込み、上部からの加圧をせずに測定した。電源装置で電圧を印加し、絶縁破壊が発生した電圧を記録した。結果を図11にヒストグラムで示した。」と記載され、同【図11】から、比較例2の絶縁破壊電圧値が3〜10kVであることが見て取れるから、厚さ300μmの「熱伝導性シートB−3」の厚さ方向の絶縁破壊電圧は、3〜10kVであるといえる。 オ 「熱伝導性シートB−3」の製造方法について、同【0052】には、「(比較例2)・・・厚さ10mmの熱伝導性シートA−3を作製した。・・・その後、作製した熱伝導性シートA−3を実施例1と同様の手法によって面方向にスライスして、厚さ300μmの熱伝導性シートB−3を、熱伝導性シートA−3の厚さ方向中央部付近から切り出した。」と記載されているから、「熱伝導性シートB−3」の製造方法は、「熱伝導性シートA−3」を作成する工程と、「熱伝導性シートA−3」を面方向にスライスして「熱伝導性シートB−3」を得る工程と、を含むといえる。 また、「熱伝導性シートA−3」の[SS1]作成について、同【0052】には、「(比較例2)ダイ10と同様の形状を有し、各部の寸法を変更したダイを使用した以外は、実施例1と同様にして、厚さ10mmの熱伝導性シートA−3を作製した。」と記載されているところ、実施例1の記載を参照すると、同【0048】には、「(実施例1)シリコーンゴム100重量部、可塑剤100重量部、2種類の架橋剤を合計で10重量部、及び熱伝導性フィラー670重量部を2本ロールで練り込み、リボンシート(原料組成物)を得た。」と記載され、同【0049】には、「次に、作製したリボンシートを所定の形状のダイ10(第1ギャップの長さ(ランド長さ)L1=5mm、第1ギャップの高さH1=1mm、第2ギャップの高さH2=2mm、吐出口の幅W1=55mm)を取付けたゴム用短軸押出機100(図2、3(a)及び(b)参照)のホッパ8から投入し、押出成形を行うことにより、熱伝導性フィラー(鱗片状窒化ホウ素)の傾きが、樹脂組成物の押出方向に沿って周期的に変化している厚さ2mmのシートを成形した。次に、得られたシートに170℃で30分間の架橋処理を施して、熱伝導性シートA−1を作製した。」と記載されているから、「熱伝導性シートA−3」を作成する工程は、「シリコーンゴム」及び「熱伝導性フィラー」を練り込み、「リボンシート(原料組成物)」を得る工程と、前記「リボンシート(原料組成物)」を押出成形して「熱伝導性シートA−3」を得る工程と、を含むといえる。 (3)文献1に記載された発明 前記(2)の記載事項から、文献1には、比較例2として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「厚さ方向に熱伝導性フィラーが配向している熱伝導性シートB−3であって、 シリコーンゴムと、 熱伝導性フィラーとを含み、 前記熱伝導性フィラーが鱗片状の窒化ホウ素であり、 厚さ300μmの前記熱伝導性シートB−3の厚さ方向の絶縁破壊電圧は、3〜10kVである、 熱伝導性シートB−3。」 また、前記(2)の記載事項から、文献1には、比較例2について、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「厚さ方向に熱伝導性フィラーが配向している熱伝導性シートB−3の製造方法において、 熱伝導性シートA−3を作成する工程と、 前記熱伝導性シートA−3を面方向にスライスして熱伝導性シートB−3を得る工程と、 を含み、 前記熱伝導性シートA−3を作成する工程が、さらに、 シリコーンゴム及び熱伝導性フィラーを練り込み、リボンシート(原料組成物)を得る工程と、 前記リボンシート(原料組成物)を押出成形して前記熱伝導性シートA−3を得る工程と、を含み、 前記熱伝導性フィラーが鱗片状の窒化ホウ素であり、 厚さ300μmの前記熱伝導性シートB−3の厚さ方向の絶縁破壊電圧は、3〜10kVである、 熱伝導性シートB−3の製造方法。」 2 文献2について (1)特許異議申立人2が提出した甲第2−1号証である国際公開第2020/105601号(2020年5月28日国際公開、以下、「文献2」という。)には、以下の記載がある。 「技術分野 [0001] 本発明は、熱伝導性シート、及びその製造方法に関する。」 「発明が解決しようとする課題 [0008] そこで、本発明は、シリコーン樹脂をマトリクス成分として使用し、かつ単位層が多数積層されて構成される熱伝導性シートにおいて、柔軟性を高くすることを課題とする。」 「[0012] 以下、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートについて詳しく説明する。 [第1の実施形態] 図1は、第1の実施形態の熱伝導性シートを示す。第1の実施形態に係る熱伝導性シート10は、それぞれがシリコーン樹脂11と、熱伝導性充填材とを含有する複数の単位層13を備える。複数の単位層13は、面方向に沿う一方向(すなわち、厚さ方向zに垂直な一方向であり、「積層方向x」ともいう)に沿って積層されており、隣接する単位層13同士が互いに接着されている。各単位層13において、シリコーン樹脂11は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものであり、シリコーン樹脂11には、熱伝導性充填材が分散するように配合される。 [0013] 熱伝導性シート10は、熱伝導性充填材として、異方性充填材14と、非異方性充填材15とを含有する。異方性充填材14は、シート10の厚さ方向zに配向している。すなわち、各単位層13の面方向の一方向に沿って配向している。熱伝導性シート10は、シートの厚さ方向zに配向する異方性充填材14を含有することで、厚さ方向zの熱伝導性が向上する。また、熱伝導性シート10は、さらに非異方性充填材15を含有することでも熱伝導性がさらに向上する。」 「[0046]<熱伝導性シートの製造方法> 次に、上記した第1の実施形態に係る熱伝導性シートの製造方法の一例について図2を参照しながら説明する。本製造方法は、それぞれがシリコーン樹脂と、熱伝導性充填材を含む、複数の1次シートを用意する1次シート準備工程と、1次シートにVUVを照射するVUV照射工程と、VUVを照射した1次シートを積層して積層ブロックを得る積層工程と、積層ブロックを切断して熱伝導性シートを得る切断工程とを備える。以下、各工程について詳細に説明する。 [0047](1次シート準備工程) 1次シート準備工程では、まず、シリコーン樹脂の原料である硬化性シリコーン組成物と、熱伝導性充填材(すなわち、異方性充填材14、非異方性充填材15)とを混合して液状組成物を調製する。液状組成物は、通常スラリーとなる。液状組成物には必要に応じて適宜添加成分がさらに混合されてもよい。ここで、液状組成物を構成する各成分の混合は、例えば公知のニーダー、混練ロール、ミキサーなどを使用するとよい。 ・・・ [0050] 次に、液状組成物を、剪断力を付与しながらシート状に成形することにより、異方性充填材14をシート面と平行な方向(すなわち、面方向)に配向させる。ここで、液状組成物は、例えば、バーコータ又はドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に塗工するとよく、このような方法により、液状組成物の塗工方向に沿った剪断力を与えることができる。この剪断力を受けて、液状組成物中の異方性充填材14は塗工方向に配向する。 [0051] 次に、シート状に成形された液状組成物を硬化させ、1次シートを得る。1次シートでは、上記のとおり、面方向に沿って異方性充填材が配向される。液状組成物の硬化は、液状組成物に含まれる硬化性シリコーン組成物を硬化することで行う。液状組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50〜150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分〜3時間程度である。 なお、液状組成物に溶剤が配合される場合には、溶剤は硬化時の加熱により揮発させるとよい。 ・・・ [0055](積層工程) 次に、複数の1次シート21を、図2(a)及び(b)に示すように、異方性充填材14の配向方向が同じになるように積層する。 ・・・ [0057](切断工程) 次に、図2(c)に示すように、刃物18によって、積層ブロック22を1次シート21の積層方向xに沿って切断し、熱伝導性シート10を得る。この際、積層ブロック22は、異方性充填材14の配向方向と直交する方向に切断するとよい。刃物18としては、例えば、カミソリ刃やカッターナイフ等の両刃や片刃、丸刃、ワイヤー刃、鋸刃等を用いることができる。積層ブロック22は、刃物18を用いて、例えば、押切、剪断、回転、摺動等の方法により切断される。」 「[0075](実施例6) 異方性充填材を窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)に変更し、さらに添加部数を180質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは500μmであった。異方性充填材の充填率が26体積%、非異方性充填材の充填率が41体積%であり、シリコーン樹脂の充填率が33体積%であった。なお、異方性充填材は、鱗片面の法線方向が積層方向に向いていた。」 「[0076](実施例7) 異方性充填材を鱗片状炭素粉末(平均粒径130μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率400W/m・K)に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは500μmであった。異方性充填材の充填率が19体積%、非異方性充填材の充填率が45体積%、シリコーン樹脂の充填率が36体積%であった。なお、異方性充填材は、鱗片面の法線方向が積層方向に向いていた。」 (2)文献2の記載事項 ア 前記(1)の[0001]には、「本発明は、熱伝導性シート、及びその製造方法に関する。」と記載されているから、文献2は、「熱伝導性シート」に関するものであるといえる。 イ 同[0012]には、「第1の実施形態に係る熱伝導性シート10は、それぞれがシリコーン樹脂11と、熱伝導性充填材とを含有する複数の単位層13を備える。」と記載されているから、「熱伝導性シート」は、「シリコーン樹脂11」を含むといえる。 ウ 同[0013]には、「熱伝導性シート10は、熱伝導性充填材として、異方性充填材14と、非異方性充填材15とを含有する。」と記載されているから、「熱伝導性シート」は、「異方性充填材14」を含むといえる。 エ 同[0013]には、「異方性充填材14は、シート10の厚さ方向zに配向している。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の「異方性充填材14」は、「熱伝導性シート」の厚さ方向に配向しているといえる。 オ 同[0075]には、「(実施例6)異方性充填材を窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)に変更し、さらに添加部数を180質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の「異方性充填材14」は、鱗片状の「窒化ホウ素」である場合を含む、といえる。 カ 同[0076]には、「(実施例7)異方性充填材を鱗片状炭素粉末(平均粒径130μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率400W/m・K)に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。・・・異方性充填材の充填率が19体積%、非異方性充填材の充填率が45体積%、シリコーン樹脂の充填率が36体積%であった。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の「異方性充填材14」は、充填率が19体積%である「鱗片状炭素粉末」である場合を含む、といえる。 キ 「熱伝導性シート」の製造方法について、同[0047]には、「1次シート準備工程では、まず、シリコーン樹脂の原料である硬化性シリコーン組成物と、熱伝導性充填材(すなわち、異方性充填材14、非異方性充填材15)とを混合して液状組成物を調製する。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の製造方法は、シリコーン樹脂の原料である「硬化性シリコーン組成物」と、「異方性充填材14」と、「非異方性充填材15」とを混合して「液状組成物」を調製する工程を含むといえる。 ク 同[0050]には、「次に、液状組成物を、剪断力を付与しながらシート状に成形することにより、異方性充填材14をシート面と平行な方向(すなわち、面方向)に配向させる。」と記載され、同[0051]には、「次に、シート状に成形された液状組成物を硬化させ、1次シートを得る。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の製造方法は、「液状組成物」をシート状に成形して硬化させ、1次シートを得る工程を含むといえる。 ケ 同[0055]には、「次に、複数の1次シート21を、図2(a)及び(b)に示すように、異方性充填材14の配向方向が同じになるように積層する。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の製造方法は、「1次シート」を積層する工程を含むといえる。 コ 同[0057]には、「次に、図2(c)に示すように、刃物18によって、積層ブロック22を1次シート21の積層方向xに沿って切断し、熱伝導性シート10を得る。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の製造方法は、1次シートを積層した「積層ブロック22」を切断し、「熱伝導性シート」を得る工程を含むといえる。 (3)文献2に記載された発明 前記(2)の記載事項から、文献2には、実施例6、7として、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「熱伝導性シートにおいて、 シリコーン樹脂と、 異方性充填材14と、 を含み、 前記異方性充填材14が、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向し、 前記異方性充填材14が、鱗片状の窒化ホウ素、又は、充填率が19体積%である鱗片状炭素粉末である、 熱伝導性シート。」 また、前記(2)の記載事項から、文献2には、実施例6、7について、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。 「熱伝導性シートの製造方法において、 シリコーン樹脂の原料である硬化性シリコーン組成物と、異方性充填材14と、非異方性充填材15とを混合して液状組成物を調製する工程と、 前記液状組成物をシート状に成形して硬化させ、1次シートを得る工程と、 前記1次シートを積層する工程と、 前記1次シートを積層した積層ブロック22を切断し、熱伝導性シートを得る工程と、 を含み、 前記異方性充填材14が、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向し、 前記異方性充填材14が、鱗片状の窒化ホウ素、又は、充填率が19体積%である鱗片状炭素粉末である、 熱伝導性シートの製造方法。」 3 文献3について (1)特許異議申立人2が提出した甲第2−2号証であり、特許異議申立人1が提出した甲第1−8号証である特開2012−23335号公報(平成24年2月2日出願公開、以下、「文献3」という。)には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。」 「【0033】 <切断工程> 前記切断工程は、第1の形態では、前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する工程である。 前記切断工程は、第2の形態では、前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断する工程である。 なお、超音波カッターは固定されており、超音波カッターの刃の位置は不変である。 ・・・ 【0036】 前記第1の形態の切断工程によると、硬化反応が完了した硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断することにより、異方性熱導電性フィラー(例えば炭素繊維、鱗片状粒子)が熱伝導性シートの厚み方向に配向(垂直配向)した熱伝導性シートを得ることができる。 前記第2の形態の切断工程によると、前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物(熱伝導性シート)の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断することにより、熱伝導性シート内の異方性熱伝導性フィラーが倒れ易くなり(熱伝導性シート内で異方性熱伝導性フィラーがスライドし易くなり)、熱抵抗の上昇を抑えながら圧縮率の向上が図れる。」 「【0042】 (実施例1) −熱伝導性シートの作製− シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)18.8体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)18.8体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)42.3体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)20.1体積%とを分散させて、シリコーン樹脂組成物を調製した。 得られたシリコーン樹脂組成物を押出機で型(中空円柱状)の中に押出成形し、シリコーン成形体を作製した。押出機の押出口にはスリット(吐出口形状:平板)が形成されている。 得られたシリコーン成形体をオーブンにて100℃で1時間加熱して、シリコーン硬化物とした。 得られたシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるように超音波カッターでスライス切断した(図3参照、発信周波数20.5kHz、振幅50〜70μm)。以上により、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例1の熱伝導性シートを作製した。 得られた熱伝導性シートは、その断面をマイクロスコープ(HiROX Co Ltd製、KH7700)で観察したところ、ピッチ系炭素繊維が熱伝導性シートの厚み方向に対し0度〜5度に配向していた。」 「【0047】 (実施例6) −熱伝導性シートの作製− 実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)19.5体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)19.5体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)45.0体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)16.0体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例6の熱伝導性シートを作製した。」 (2)文献3の記載事項 ア 前記(1)の【0001】には、「本発明は、熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。」と記載されているから、文献3の記載は、「熱伝導性シート」に関するものであるといえる。 イ 同【0047】には、「(実施例6)−熱伝導性シートの作製− 実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)19.5体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)19.5体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)45.0体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)16.0体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例6の熱伝導性シートを作製した。」と記載されているから、「熱伝導性シート」は、「シリコーン樹脂」と、16.0体積%の「ピッチ系炭素繊維」と、を含むといえる。 ウ 同【0033】には、「<切断工程> 前記切断工程は、第1の形態では、前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する工程である。」と記載され、同【0036】には、「前記第1の形態の切断工程によると、硬化反応が完了した硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断することにより、異方性熱導電性フィラー(例えば炭素繊維、鱗片状粒子)が熱伝導性シートの厚み方向に配向(垂直配向)した熱伝導性シートを得ることができる。」と記載されているから、「熱伝導性シート」における炭素繊維等の異方性熱伝導性フィラーが配向する方向は、切断工程に寄って定まるものであるといえる ここで、同【0047】には、「実施例1において、・・・シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例6の熱伝導性シートを作製した。」と記載され、同【0047】には切断工程について何ら記載がないから、同【0047】に記載された実施例6に用いられる切断工程は、実施例1と同じといえる。 そして、実施例1に関する同【0042】には、「得られたシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるように超音波カッターでスライス切断した(図3参照、発信周波数20.5kHz、振幅50〜70μm)。以上により、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例1の熱伝導性シートを作製した。得られた熱伝導性シートは、その断面をマイクロスコープ(HiROX Co Ltd製、KH7700)で観察したところ、ピッチ系炭素繊維が熱伝導性シートの厚み方向に対し0度〜5度に配向していた。」というように、「ピッチ系炭素繊維」が、「熱伝導性シート」の厚み方向に配向するように切断されていることからすれば、実施例6においても、「ピッチ系炭素繊維」は、「熱伝導性シート」の厚み方向に配向しているといえる。 よって、実施例6の「熱伝導性シート」の「ピッチ系炭素繊維」は、「熱伝導性シート」の厚み方向に配向しているといえる。 エ 「熱伝導性シート」の製造方法について、同【0047】には、「(実施例6)−熱伝導性シートの作製− 実施例1において、・・・シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例6の熱伝導性シートを作製した。」と記載され、同【0042】には、「(実施例1)−熱伝導性シートの作製− シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)18.8体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)18.8体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)42.3体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)20.1体積%とを分散させて、シリコーン樹脂組成物を調製した。」、「得られたシリコーン樹脂組成物を押出機で型(中空円柱状)の中に押出成形し、シリコーン成形体を作製した。押出機の押出口にはスリット(吐出口形状:平板)が形成されている。」、「得られたシリコーン成形体をオーブンにて100℃で1時間加熱して、シリコーン硬化物とした。」、「得られたシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるように超音波カッターでスライス切断した(図3参照、発信周波数20.5kHz、振幅50〜70μm)。以上により、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例1の熱伝導性シートを作製した。」と記載されているから、実施例6の「熱伝導性シート」の製造方法は、「シリコーン樹脂」に「ピッチ系炭素繊維」を分散させて「シリコーン樹脂組成物」を調製する工程と、「シリコーン樹脂組成物」を押出成形して、「シリコーン成形体」を作成する工程と、「シリコーン成形体」を加熱して「シリコーン硬化物」を得る工程と、「シリコーン硬化物」をスライス切断して「熱伝導性シート」を作成する工程とを含むといえる。 (3)文献3に記載された発明 前記(2)の記載事項から、文献3には、実施例6として、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。 「熱伝導性シートにおいて、 シリコーン樹脂と、 16.0体積%のピッチ系炭素繊維と、 を含み、 前記ピッチ系炭素繊維が、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向する、 熱伝導性シート。」 また、前記(2)の記載事項から、文献3には、実施例6について、次の発明(以下、「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。 「熱伝導性シートの製造方法において、 シリコーン樹脂にピッチ系炭素繊維を分散させてシリコーン樹脂組成物を調製する工程と、 前記シリコーン樹脂組成物を押出成形して、シリコーン成形体を作成する工程と、 前記シリコーン成形体を加熱してシリコーン硬化物を得る工程と、 前記シリコーン硬化物をスライス切断して前記熱伝導性シートを作成する工程と、 を含み、 前記ピッチ系炭素繊維の含有量は16.0体積%であり、 前記ピッチ系炭素繊維が、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向する、 熱伝導性シートの製造方法。」 4 文献4について (1)特許異議申立人3が提出した甲第3−1号証である国際公開第2014/203875号(2014年12月24日国際公開、以下、「文献4」という。)には、以下の記載がある。 「技術分野 [0001] 本発明は、発熱性電子部品等の放熱を促す熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。・・・」 「発明が解決しようとする課題 [0007] 本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、厚み方向の熱伝導性が良好な熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法を提供することを目的とする。」 「[0035] [熱伝導性繊維] 熱伝導性繊維としては、例えば、炭素繊維を用いることができる。炭素繊維としては、例えばピッチ系、PAN系、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成されたものを用いることができる。これらの中でも、熱伝導の点からピッチ系炭素繊維やポリベンザゾールを黒鉛化した炭素繊維が特に好ましい。」 「[0057] [切断工程S3] 切断工程S3は、柱状の硬化物を、柱の長さ方向に対し略垂直方向に所定の厚みに切断し、表面のL*a*b表色系におけるL*値が、29以上47以下である熱伝導性シートを得る工程である。例えば、図2及び図3に示すように、超音波切断機3を用いて、柱状の熱伝導性組成物2の長手方向Lと直交する方向Vに柱状の熱伝導性組成物2を超音波カッター4でスライスすることにより、熱伝導性繊維の配向を保った状態で熱伝導性シート1を形成することができる。そのため、熱伝導性繊維の配向が厚み方向に維持され、熱伝導特性が良好な熱伝導性シート1を得ることができる。」 「[0080] [実施例1] 実施例1では、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、熱伝導性粒子としてシランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径5μmのアルミナ粒子40体積%、及び熱伝導性繊維として平均繊維長40μmのピッチ系炭素繊維20体積%を2時間混合し、シリコーン樹脂組成物を調製した。 [0081] 2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものを使用し、シリコーンA液16.8体積%と、シリコーンB液18.8体積%とを混合した。得られたシリコーン樹脂組成物を、中空四角柱状の金型(35mm×35mm)の中に押出成形し、35mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物を、厚み2.0mmとなるように超音波カッターで切断し、熱伝導性シートを得た。超音波カッターのスライス速度は、毎秒50mmとした。また、超音波カッターに付与する超音波振動は、発振周波数を20.5kHzとし、振幅を60μmとした。」 (2)文献4の記載事項 ア 前記(1)の[0001]には、「本発明は、発熱性電子部品等の放熱を促す熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。」と記載されているから、文献4の記載は、「熱伝導性シート」に関するものであるといえる。 イ 同[0080]には、「実施例1では、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、熱伝導性粒子としてシランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径5μmのアルミナ粒子40体積%、及び熱伝導性繊維として平均繊維長40μmのピッチ系炭素繊維20体積%を2時間混合し、シリコーン樹脂組成物を調製した。」と記載され、同[0081]には、「得られたシリコーン樹脂組成物を、中空四角柱状の金型(35mm×35mm)の中に押出成形し、35mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物を、厚み2.0mmとなるように超音波カッターで切断し、熱伝導性シートを得た。」と記載されているから、「熱伝導性シート」は、「シリコーン樹脂」と、20体積%の「ピッチ系炭素繊維」とを含むといえる。 ウ 同[0057]には、「そのため、熱伝導性繊維の配向が厚み方向に維持され、熱伝導特性が良好な熱伝導性シート1を得ることができる。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の「熱伝導性繊維」は、「熱伝導性シート」の厚み方向に配向しているといえる。 ここで、同[0035]には、「熱伝導性繊維としては、例えば、炭素繊維を用いることができる。・・・これらの中でも、熱伝導の点からピッチ系炭素繊維やポリベンザゾールを黒鉛化した炭素繊維が特に好ましい。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の「熱伝導性繊維」は、「ピッチ系炭素繊維」であるといえる。 以上によれば、「熱伝導性シート」の「ピッチ系炭素繊維」は、「熱伝導性シート」の厚み方向に配向しているといえる。 エ 「熱伝導性シート」の製造方法において、同[0080]には、「実施例1では、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、熱伝導性粒子としてシランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径5μmのアルミナ粒子40体積%、及び熱伝導性繊維として平均繊維長40μmのピッチ系炭素繊維20体積%を2時間混合し、シリコーン樹脂組成物を調製した。」と記載され、同[0081]には、「得られたシリコーン樹脂組成物を、中空四角柱状の金型(35mm×35mm)の中に押出成形し、35mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物を、厚み2.0mmとなるように超音波カッターで切断し、熱伝導性シートを得た。」と記載されているから、「熱伝導性シート」の製造方法は、「シリコーン樹脂」と「ピッチ系炭素繊維」とを混合して「シリコーン樹脂組成物」を調製する工程と、「シリコーン樹脂組成物」を押出成形し、加熱して「シリコーン硬化物」を得る工程と、「シリコーン硬化物」を切断して「熱伝導性シート」を得る工程と、を含むといえる。 (3)文献4に記載された発明 前記(2)の記載事項から、文献4には、次の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。 「熱伝導性シートにおいて、 シリコーン樹脂と、 20体積%のピッチ系炭素繊維と、 を含み、 前記ピッチ系炭素繊維は、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向している、 熱伝導性シート。」 また、前記(2)の記載事項から、文献4には、次の発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されていると認められる。 「熱伝導性シートの製造方法において、 シリコーン樹脂とピッチ系炭素繊維とを混合してシリコーン樹脂組成物を調製する工程と、 前記シリコーン樹脂組成物を押出成形し、加熱してシリコーン硬化物を得る工程と、 前記シリコーン硬化物を切断して熱伝導性シートを得る工程と、 を含み、 前記ピッチ系炭素繊維の含有量は20体積%であり、 前記ピッチ系炭素繊維は、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向している、 熱伝導性シートの製造方法。」 5 文献5 特許異議申立人1が提出した甲第1−2号証であるカタログ「熱・電波対策ソリューション」(Polymatech Group)(以下、「文献5」という。)には、以下の記載がある。 「 ![]() 」 6 文献6 特許異議申立人1が提出した甲第1−3号証であるThomas, Anthony, "The Effect of Voltage Ramp Rate on Dielectric Breakdown of Thin Film Polymers" (2007), Utah State University, Senior Theses and Projects. Paper 2(以下、「文献6」という。)には、以下の記載がある。 「 ![]() 」 7 文献7 特許異議申立人1が提出した甲第1−4号証である特開2003−309386号公報(平成15年10月31日出願公開、以下、「文献7」という。)には、以下の記載がある。 「【0005】そこで、放熱シートや放熱スペーサーの放熱部材では、熱抵抗を小さくするために、放熱部材の厚みを薄くしたり、柔軟性を付与して熱接触抵抗を低減することが行われているが、その反面、放熱部材の取り扱い性が悪化するので、このような方法で熱抵抗を低減させるにはおのずと限界があった。」 「【0015】パラフィンワックス層の形成される基材は、熱伝導性フィラーの充填されたシリコーン固化物である。具体的には、窒化硼素、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ等の熱伝導性フィラーとシリコーンとを含む配合物の固化物からなる放熱シート又は放熱スペーサーである。特に好ましくは、付加反応型液状シリコーンと熱伝導性フィラーを含む配合物の固化物であり、熱伝導率1W/m・K以上、アスカーC硬度40以下の放熱スペーサーである。このような放熱シート又は放熱スペーサーには市販品があるので、それを用いることができる。中でも、骨格部と、骨格部の一部又は全部と一体的に形成された樹脂部の構造からなる熱伝導性シリコーン成形体(特開2000−185328号特許請求の範囲等参照)が好ましい。」 8 文献8 特許異議申立人1が提出した甲第1−5号証である国際公開第2017/135237号(2017年8月10日国際公開、以下、「文献8」という。)には、以下の記載がある。 「[0019] 本実施形態の熱伝導性樹脂シートは、樹脂と、第一熱伝導性フィラー及び前記第一熱伝導性フィラーより小さい粒径を有する第二熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーと、を含み、前記第一熱伝導性フィラーが10以上のアスペクト比を有するとともに前記熱伝導性樹脂シートの略厚み方向に配向しており、前記樹脂がシリコーン樹脂、アクリルゴム又はフッ素ゴムである。」 「[0030] 次に、第一熱伝導性フィラー及び前記第二熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーについて説明する。本発明における熱伝導性フィラーとしては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の材料を用いることができ、例えば、窒化ホウ素(BN)、黒鉛、炭素繊維、雲母、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二硫化モリブデン、銅、アルミニウムなどが挙げられる。 [0031] 熱伝導性フィラーの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば鱗片状、板状、膜状、塊状、円柱状、角柱状、楕円状、扁平形状等が挙げられる。粒径の大きい第一熱伝導性フィラーの間隙に粒径の小さい第二熱伝導性フィラーが分散して熱伝導パスを形成し易く、また、第一熱伝導性フィラーが樹脂中で配向し易いという観点から、第一熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上であることが好ましい。」 「請求の範囲 [請求項1] 樹脂と、第一熱伝導性フィラー及び前記第一熱伝導性フィラーより小さい粒径を有する第二熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーと、を含み、 前記第一熱伝導性フィラーが10以上のアスペクト比を有するとともに前記熱伝導性樹脂成形品の略厚み方向に配向しており、 前記樹脂がシリコーン樹脂、アクリルゴム又はフッ素ゴムであり、 前記第二熱伝導性フィラーが5W/mK超の熱伝導率を有すること、 を特徴とする熱伝導性樹脂成形品。」 9 文献9 特許異議申立人1が提出した甲第1−6号証である特開平9−97988号公報(平成9年4月8日出願公開、以下、「文献9」という。)には、以下の記載がある。 「【0013】また、熱伝導性シートとする場合には、電気絶縁性マトリックス材料として高分子樹脂を用い、これに窒化ケイ素を主成分とするセラミックス粒子を分散させたものをシート状に成形すればよい。このような熱伝導性シートの電気絶縁性マトリックスとしては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の柔軟性(可撓性)を有する高分子樹脂が好適である。特に、アクリル樹脂は柔軟性に優れ、発熱部品および冷却部品等の接合面に対する良好な追従性が得られることから、熱接触抵抗の低減に効果を発揮する。」 10 文献10 特許異議申立人1が提出した甲第1−7号証である特開2009−10296号公報(平成21年1月15日出願公開、以下、「文献10」という。)には、以下の記載がある。 「【0064】 (3)絶縁性 実施例1〜31及び参考例1〜17で得た熱伝導性接着フィルムについて、交流耐電圧変圧器(形式:セパレータ型YPAS形、京南電機(株)製)を用いて絶縁破壊電圧を測定した。なお、測定条件は下記のとおりであり、絶縁破壊電圧が30kV/mm以上である場合を合格と判定した。 ・保持時間:1min、 ・ステップ昇圧:0.5kV、 ・カットオフ電流:25mA、 ・試験雰囲気:JIS C2320に準拠した絶縁油(20℃±10℃)」 11 文献11 特許異議申立人2が提出した甲第2−3号証である特開2017−212253号公報(平成29年11月30日出願公開、以下、「文献11」という。)には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 放熱シートの熱伝導性は、熱抵抗を用いて評価される。放熱シートの熱伝導性を向上させるためには、熱抵抗(R)を小さくする必要がある。なお、放熱シートの熱抵抗(R)は、放熱シート自体の熱抵抗(Rb)と、放熱シートと発熱部材等との界面における接触熱抵抗(Rc)との和で表わされる。従来の放熱シートの開発においては、放熱シート自体の熱抵抗(Rb)を減少させることが検討されてきた。 【0011】 しかし、本発明者らの検討により、熱抵抗(R)全体に対する接触熱抵抗(Rc)の占める割合が比較的大きいことが分かった。これまでは、接触熱抵抗(Rc)を減少させることは検討されておらず、放熱シートの熱伝導性を大幅に向上させることは難しかった。」 12 文献12 特許異議申立人2が提出した甲第2−4号証である特開2011−230472号公報(平成23年11月17日出願公開、以下、「文献12」という。)には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 例えば、特許文献1、特許文献2に開示された熱伝導シートでは、高熱伝導性を確保するために、熱伝導性に優れる金属やグラファイト等を用いている。しかしこれらは電気伝導性の物質のため、電気絶縁性を付与する配慮をしても高い電気絶縁性を付与することは難しい。 【0009】 これに対し、特許文献3に開示された熱伝導シートでは、熱伝導性物質に電気絶縁性の無機粒子を用いているため、一定の電気絶縁性は確保できるが、大電流を使用する用途での高い電気絶縁性には不安が残る。 また、特許文献4に開示された熱伝導シートでは、中間層の合成樹脂フィルム層により高い電気絶縁性は確保できるが、熱伝導性の低い中間層を設けているため高い熱伝導性を確保することは難しい。 【0010】 上述のように、熱伝導シートに向けて様々な検討がなされているが、シートの熱伝導性と電気絶縁性とを高いレベルで両立するという観点では、いずれの方法も満足いくものではない。 本発明は、このような状況に鑑みて、高い熱伝導性を維持し、且つ高い電気絶縁性を有する熱伝導シートを提供することを目的とする。また、そのような熱伝導シートを使用して、高い放熱能力を持ち、且つ近傍の回路をショートさせるリスクの少ない放熱装置を提供することを目的とする。」 13 文献13 特許異議申立人3が提出した甲第3−2号証である国際公開第2017/130740号(2017年8月3日国際公開、以下、「文献13」という。)には、以下の記載がある。 「[0019]<絶縁被覆炭素繊維> 前記絶縁被覆炭素繊維は、炭素繊維と、前記炭素繊維の表面の少なくとも一部に皮膜とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。 前記皮膜は、重合性材料の硬化物からなる。 [0020]−炭素繊維− 前記炭素繊維としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成された炭素繊維を用いることができる。これらの中でも、熱伝導性の点から、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が特に好ましい。 [0021] 前記炭素繊維は、必要に応じて、前記皮膜との密着性を高めるために、その一部又は全部を表面処理して用いることができる。前記表面処理としては、例えば、酸化処理、窒化処理、ニトロ化、スルホン化、あるいはこれらの処理によって表面に導入された官能基若しくは炭素繊維の表面に、金属、金属化合物、有機化合物等を付着あるいは結合させる処理などが挙げられる。前記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基などが挙げられる。」 14 文献14 特許異議申立人3が提出した甲第3−3号証である国際公開第2011/158942号(2011年12月22日国際公開、以下、「文献14」という。)には、以下の記載がある。 「[0041] 前記無機物フィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム(窒化アルミ:AlN)、シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化亜鉛、炭化ケイ素、ケイ素(シリコン)、酸化珪素、酸化アルミニウム、金属粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカが好ましく、熱伝導率の点から、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛が特に好ましい。 [0042] なお、前記無機物フィラーは、表面処理が施されていてもよい。前記表面処理としてカップリング剤で前記無機物フィラーを処理すると、前記無機物フィラーの分散性が向上し、熱伝導シートの柔軟性が向上する。」 第5 当審の判断 1 新規性及び進歩性について (1)本件発明1について ア 引用発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明1とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明1の「熱伝導性シートB−3」は、本件発明1の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明1の「バインダ樹脂」について、本件特許の明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明1の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 そして、引用発明1の「シリコーンゴム」もまた「シリコーン樹脂」であるから、引用発明1の「シリコーンゴム」は、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明1の「熱伝導性フィラー」は、「鱗片状の窒化ホウ素」である。 また、引用発明1の「熱伝導性フィラー」は、「熱伝導性シートB−3」の「厚さ方向に熱伝導性フィラーが配向している」ものである。 さらに、本件発明1の「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」との事項は、「第1の熱伝導性フィラー」が「炭素繊維」ないし「絶縁被覆炭素繊維」である場合の含有量を特定するものである一方、本件発明1においては、「第1の熱伝導性フィラー」が「鱗片状の窒化ホウ素」である場合について、「鱗片状の窒化ホウ素」の含有量が特定されていない。そして、上述のとおり、引用発明1の「熱伝導性フィラー」は、「鱗片状の窒化ホウ素」である。 以上によれば、引用発明1の「熱伝導性フィラー」は、本件発明1の「第1の熱伝導性フィラー」に相当し、本件発明1の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「鱗片状の窒化ホウ素」を選択する場合において、本件発明1と引用発明1とは、「上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 引用発明1は、「厚さ300μmの前記熱伝導性シートB−3の厚さ方向の絶縁破壊電圧は、3〜10kVである」ところ、技術常識からすれば、厚さが厚いほど絶縁破壊電圧は高くなるといえるから、引用発明1の「熱伝導性シートB−3」の厚さが1mmのときの絶縁破壊電圧は、少なくとも「3〜10kV」以上になるといえる。 よって、本件発明1と引用発明1とは、「当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり」という点で一致する。 e 以上のa〜dによれば、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「バインダ樹脂と、第1の熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性シートであって、 上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、 当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シート。」 <相違点1> 本件発明1は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明1における接触熱抵抗は不明である点。 (イ)判断 a 文献1には、被着体に対する接触熱抵抗について記載も示唆もされていない。 そうすると、本件発明1は、引用発明1であるとはいえない。 また、上記相違点1に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」ることは、周知技術であるともいえない。 よって、本件発明1は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 b 特許異議申立人1の主張について 特許異議申立人1は、上記相違点1について、文献1の図10から読み取れる熱抵抗値を、文献5(特許異議申立人1の甲第1−2号証)を参照して換算すると、上記相違点1の「0.46℃・cm2/W以下」の接触熱抵抗となることが明らかであるから引用発明1が上記相違点1を充足する旨、及び、仮に充足しなかったとしても、導電性シートにおいて被着体に対する接触熱抵抗を低減することが周知の課題であったから、上記相違点1は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。(特許異議申立人1の特許異議申立書の第60頁第18行〜第63頁第1行。) しかしながら、接触熱抵抗は、物体と物体の物理的接触面で生じる熱抵抗であり、単に熱抵抗値によってのみ定まるものではなく、熱伝導性シートの表面の状態や測定時の接触圧などによっても変化するものであることからすれば、接触熱抵抗についての測定が何らされておらず、単に熱抵抗値が記載されているだけである文献1において、上記相違点1に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」ることが記載されているとはいえない。 よって、引用発明1が上記相違点1を充足するという特許異議申立人1の主張は採用できない。 また、導電性シートにおいて被着体に対する接触熱抵抗を低減することが周知の課題であったとしても、そもそも文献1において接触熱抵抗を測定して接触熱抵抗の値を利用する技術思想がない上に、文献2〜14をみても測定される接触熱抵抗の値について何ら記載がないことからすれば、引用発明1において、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るようにすることは、当業者といえど困難であるといえる。 よって、上記相違点1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるという特許異議申立人1の主張を採用できない。 以上によれば、特許異議申立人1の上記主張には理由がない。 c まとめ したがって、本件発明1は、引用発明1ではない。また、本件発明1は、引用発明1及び文献2〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 引用発明3について (ア)対比 本件発明1と引用発明3とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明3の「熱伝導性シート」は、本件発明1の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明1の「バインダ樹脂」について、本件特許の明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明1の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 よって、引用発明3の「シリコーン樹脂」は、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明3の「異方性充填材14」は、本件発明1の「第1の熱伝導性フィラー」に相当する。 また、引用発明3の「鱗片状炭素粉末」は、本件発明1の「炭素繊維」に相当する。 そして、引用発明3は、「異方性充填材14」を含み、「前記異方性充填材14が、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向し」、かつ、「前記異方性充填材14が、鱗片状の窒化ホウ素、又は、充填率が19体積%である鱗片状炭素粉末である」ものである。 よって、本件発明1の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「炭素繊維」又は「鱗片状の窒化ホウ素」を選択する場合において、本件発明1と引用発明3は、「上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 以上のa〜cによれば、本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「バインダ樹脂と、第1の熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性シートであって、 上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シート。」 <相違点2> 本件発明1は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明3における接触熱抵抗は不明である点。 <相違点3> 本件発明1は、「当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であ」るのに対し、引用発明3における絶縁破壊電圧は不明である点。 (イ)判断 a 相違点2について (a)文献2には、上記相違点2に係る本件発明1の接触熱抵抗について記載も示唆もされていない。 そうすると、本件発明1は、引用発明3であるとはいえない。 また、上記相違点2に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」ることは、周知技術であるともいえない。 よって、本件発明1は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)特許異議申立人2の主張について 特許異議申立人2は、上記相違点2について、原料が同一であり、同一の製造方法により作成された熱伝導性シートであれば、上記相違点2に係る数値が満足される蓋然性が極めて高いから、上記相違点2が実質的な相違点とはいえない旨、及び、仮に相違点だったとしても、接触熱抵抗を低くすることは周知の課題であるから、上記相違点2は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである旨を主張する。(特許異議申立人2の特許異議申立書の第32頁第1行〜第35頁第25行。) しかしながら、文献2に記載されている製造方法は、文献2の課題を解決し、文献2に記載された発明を実施できる程度に詳細が記載されたものであり、製造機器やその使用条件や使用方法など、あらゆる製造条件が明示されているわけではないところ、文献2においては、そもそも接触熱抵抗の値について何ら言及されていないのであるから、接触熱抵抗に関係する製造条件がどのように設定されるか、という点は不明である。 よって、接触熱抵抗の値に影響する範囲において、本件特許に係る明細書に記載された製造方法と、文献2に記載された製造方法が同一といえるか否かは不明であるというほかない。 また、上述のとおり、文献2においては、そもそも接触熱抵抗の値を所定の範囲にするという思想自体が記載されていないのであるから、その文献2に記載の熱伝導性シートが、上記相違点2に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るという接触熱抵抗の値を有するか否かも不明であるといえる。 よって、上記相違点2が実質的な相違点とはいえないとの特許異議申立人2の主張を採用できない。 また、接触熱抵抗を低くすることが周知の課題であったとしても、そもそも引用発明3が記載された文献2において接触熱抵抗を測定して接触熱抵抗の値を利用する技術思想がない上に、文献1、3〜14をみても測定される接触熱抵抗の値について何ら記載がないことからすれば、引用発明3において、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るようにすることは、当業者といえど困難であるといえる。 よって、上記相違点2が、引用発明3に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるという特許異議申立人2の主張を採用できない。 以上によれば、特許異議申立人2の上記主張には理由がない。 b まとめ したがって、相違点3について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明3ではない。また、本件発明1は、引用発明3及び文献1、3〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 引用発明5について (ア)対比 本件発明1と引用発明5とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明5の「熱伝導性シート」は、本件発明1の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明1の「バインダ樹脂」について、本件特許に係る明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明1の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 よって、引用発明5の「シリコーン樹脂」は、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明5は、「16.0体積%のピッチ系炭素繊維」を含み、「前記ピッチ系炭素繊維が、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向する」ものである。 よって、引用発明5の「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明1の「第1の熱伝導性フィラー」に相当し、本件発明1の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「炭素繊維」を選択する場合において、本件発明1と引用発明5は、「上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 以上のa〜cによれば、本件発明1と引用発明5との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「バインダ樹脂と、第1の熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性シートであって、 上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シート。」 <相違点4> 本件発明1は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明5における接触熱抵抗は不明である点。 <相違点5> 本件発明1は、「当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であ」るのに対し、引用発明5における絶縁破壊電圧は不明である点。 (イ)判断 a 相違点4について (a)文献3には、上記相違点4に係る本件発明1の接触熱抵抗について記載も示唆もされていない。 そうすると、本件発明1は、引用発明5であるとはいえない。 また、上記相違点4に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」ることは、周知技術であるともいえない。 よって、本件発明1は、引用発明5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)特許異議申立人2の主張について 特許異議申立人2は、上記相違点4について、上記相違点2に関する主張(上記イ(イ)a(b))と同様の主張をするものの、その主張についての判断は、上記イ(イ)a(b)のとおりである。 よって、相違点4に関する特許異議申立人2の主張には理由がない。 b まとめ したがって、相違点5について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明5ではない。また、本件発明1は、引用発明5及び文献1、2、4〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 引用発明7について (ア)対比 本件発明1と引用発明7とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明7の「熱伝導性シート」は、本件発明1の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明1の「バインダ樹脂」について、本件特許に係る明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明1の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 よって、引用発明7の「シリコーン樹脂」は、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明7は、「20体積%のピッチ系炭素繊維」を含み、「前記ピッチ系炭素繊維は、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向している」ものである。 よって、引用発明7の「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明1の「第1の熱伝導性フィラー」に相当し、本件発明1の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「炭素繊維」を選択する場合において、本件発明1と引用発明7は、「上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 以上のa〜cによれば、本件発明1と引用発明7との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「バインダ樹脂と、第1の熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性シートであって、 上記第1の熱伝導性フィラーが当該熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シート。」 <相違点6> 本件発明1は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明7における接触熱抵抗は不明である点。 <相違点7> 本件発明1は、「当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であ」るのに対し、引用発明7における絶縁破壊電圧は不明である点。 (イ)判断 a 相違点6について (a)文献4には、上記相違点6に係る本件発明1の接触熱抵抗について記載も示唆もされていない。 そうすると、本件発明1は、引用発明7であるとはいえない。 また、上記相違点6に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」ることは、周知技術であるともいえない。 よって、本件発明1は、引用発明7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)特許異議申立人3の主張について 特許異議申立人3は、上記相違点6について、原料が同一であり、同一の製造方法により作成された熱伝導性シートであれば、上記相違点6に係る数値が満足される蓋然性が極めて高いから、上記相違点6が実質的な相違点とはいえない旨、及び、仮に相違点だったとしても、接触熱抵抗を低くすることは周知の課題であるから、上記相違点6は、引用発明7に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである旨を主張する。(特許異議申立人3の特許異議申立書の第17頁第28行〜第19頁第30行。) しかしながら、文献4に記載されている製造方法は、文献4の課題を解決し、文献4に記載された発明を実施できる程度に詳細が記載されたものであり、製造機器やその使用条件や使用方法など、あらゆる製造条件が明示されているわけではないところ、文献4においては、そもそも接触熱抵抗の値について何ら言及されていないのであるから、接触熱抵抗に関係する製造条件がどのように設定されるか、という点は不明である。 よって、接触熱抵抗の値に影響する範囲において、本件特許に係る明細書に記載された製造方法と、文献4に記載された製造方法が同一といえるか否かは不明であるというほかない。 また、上述のとおり、文献4においては、そもそも接触熱抵抗の値を所定の範囲にするという思想自体が記載されていないのであるから、その文献4に記載の熱伝導性シートが、上記相違点6に係る本件発明1の「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るという接触熱抵抗の値を有するか否かも不明であるといえる。 よって、上記相違点6が実質的な相違点とはいえないとの特許異議申立人3の主張を採用できない。 また、接触熱抵抗を低くすることが周知の課題であったとしても、そもそも引用発明7が記載された文献4において接触熱抵抗を測定して接触熱抵抗の値を利用する技術思想がない上に、文献1〜3、5〜14をみても測定される接触熱抵抗の値について何ら記載がないことからすれば、引用発明7において、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るようにすることは、当業者といえど困難であるといえる。 よって、上記相違点6が、引用発明7に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるという特許異議申立人3の主張を採用できない。 以上によれば、特許異議申立人3の上記主張には理由がない。 b まとめ したがって、相違点7について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明7ではない。また、本件発明1は、引用発明7及び文献1〜3、5〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2〜7について 請求項2〜7が、請求項1を引用するものであることからすれば、本件発明2〜7は、少なくとも、上記(1)の相違点1、2、4、6に係る本件発明1の構成を有する。 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件発明2、4、5、7は、引用発明1であるとはいえず、また、本件発明2〜7は、引用発明3、5、7であるとはいえない。また、本件発明2〜7は、引用発明1、3、5、7及び文献1〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明8について ア 引用発明2について (ア)対比 本件発明8と引用発明2とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明2の「熱伝導性シートB−3」は、本件発明8の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明8の「バインダ樹脂」について、本件特許の明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明8の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 そして、引用発明2の「シリコーンゴム」もまた「シリコーン樹脂」であるから、引用発明2の「シリコーンゴム」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明2の「熱伝導性フィラー」は、「鱗片状の窒化ホウ素」である。 また、引用発明2の「熱伝導性フィラー」は、「熱伝導性シートB−3」の「厚さ方向に熱伝導性フィラーが配向している」ものである。 さらに、本件発明8の「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」との事項は、「第1の熱伝導性フィラー」が「炭素繊維」ないし「絶縁被覆炭素繊維」である場合の含有量を特定するものである一方、本件発明8においては、「第1の熱伝導性フィラー」が「鱗片状の窒化ホウ素」である場合について、「鱗片状の窒化ホウ素」の含有量が特定されていない。そして、上述のとおり、引用発明2の「熱伝導性フィラー」は、「鱗片状の窒化ホウ素」である。 以上によれば、引用発明2の「熱伝導性フィラー」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当し、本件発明8の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「鱗片状の窒化ホウ素」を選択する場合において、本件発明8と引用発明2とは、「上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 引用発明2は、「厚さ300μmの前記熱伝導性シートB−3の厚さ方向の絶縁破壊電圧は、3〜10kVである」ところ、技術常識からすれば、厚さが厚いほど絶縁破壊電圧は高くなるといえるから、引用発明2の「熱伝導性シートB−3」の厚さが1mmのときの絶縁破壊電圧は、少なくとも「3〜10kV」以上になるといえる。 よって、本件発明8と引用発明2とは、「上記熱伝導性シートは、厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり」という点で一致する。 e 上記bによれば、引用発明2の「シリコーンゴム」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当し、上記cによれば、引用発明2の「熱伝導性フィラー」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当するところ、引用発明2の「シリコーンゴム及び熱伝導性フィラーを練り込み、リボンシート(原料組成物)を得る工程」は、「熱伝導性フィラー」を「バインダ樹脂」に練り込むことによって分散させ、熱伝導性シート形成用の組成物を調製する工程であるといえるから、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程A」に相当する。 f 引用発明2の「前記リボンシート(原料組成物)を押出成形して前記熱伝導性シートA−3を得る工程」は、熱伝導性シート用の樹脂組成物から、押出成形によって成形体を得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程B」に相当する。 g 引用発明2の「前記熱伝導性シートA−3を面方向にスライスして熱伝導性シートB−3を得る工程」は、上記eによれば成形体である熱伝導性シートA−3について、スライスして熱伝導性シートB−3を得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程C」に相当する。 h 以上のa〜gによれば、本件発明8と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、 上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、 上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、 上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており、 上記熱伝導性シートは、厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シートの製造方法。」 <相違点8> 本件発明8は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明2における接触熱抵抗は不明である点。 (イ)判断 相違点8は、相違点1(上記(1)ア(ア)e)と実質的に同一であり、その判断は、相違点1の判断(上記(1)ア(イ))のとおりである。 したがって、本件発明8は、引用発明2ではない。また、本件発明8は、引用発明2及び文献2〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 引用発明4について (ア)対比 本件発明8と引用発明4とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明4の「熱伝導性シート」は、本件発明8の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明8の「バインダ樹脂」について、本件特許の明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明8の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 よって、引用発明4の「シリコーン樹脂」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明4の「異方性充填材14」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当する。 また、引用発明4の「鱗片状炭素粉末」は、本件発明8の「炭素繊維」に相当する。 そして、引用発明4は、「異方性充填材14」を含み、「前記異方性充填材14が、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向し」、かつ、「前記異方性充填材14が、鱗片状の窒化ホウ素、又は、充填率が19体積%である鱗片状炭素粉末である」ものである。 よって、本件発明8の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「炭素繊維」又は「鱗片状の窒化ホウ素」を選択する場合において、本件発明8と引用発明4は、「上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 上記bによれば、引用発明4の「シリコーン樹脂」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当し、上記cによれば、引用発明4の「異方性充填材14」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当するところ、引用発明4の「シリコーン樹脂の原料である硬化性シリコーン組成物と、異方性充填材14と、非異方性充填材15とを混合して液状組成物を調製する工程」は、「熱伝導性フィラー」を「バインダ樹脂」に混合することによって分散させ、熱伝導性シート形成用の組成物を調製する工程であるといえるから、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程A」に相当する。 e 引用発明4の「前記液状組成物をシート状に成形して硬化させ、1次シートを得る工程」及び「前記1次シートを積層する工程」は、熱伝導性シート用の樹脂組成物から、押出成形によって成形体を得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程B」に相当する。 f 引用発明4の「前記1次シートを積層した積層ブロック22を切断し、熱伝導性シートを得る工程」は、成形体である積層ブロック22を切断して熱伝導性シートを得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程C」に相当する。 g 以上のa〜fによれば、本件発明8と引用発明4との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、 上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、 上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、 上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シートの製造方法。」 <相違点9> 本件発明8は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明4における接触熱抵抗は不明である点。 <相違点10> 本件発明8は、「上記熱伝導性シートは、厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であ」るのに対し、引用発明4における絶縁破壊電圧は不明である点。 (イ)判断 a 相違点9について 相違点9は、相違点2(上記(1)イ(ア)c)と実質的に同一であり、その判断は、相違点2の判断(上記(1)イ(イ)a)のとおりである。 b まとめ したがって、相違点10について判断するまでもなく、本件発明8は、引用発明4ではない。また、本件発明8は、引用発明4及び文献1、3〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 引用発明6について (ア)対比 本件発明8と引用発明6とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明6の「熱伝導性シート」は、本件発明8の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明8の「バインダ樹脂」について、本件特許に係る明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明8の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 よって、引用発明6の「シリコーン樹脂」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明6は、「16.0体積%のピッチ系炭素繊維」を含み、「前記ピッチ系炭素繊維が、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向する」ものである。 よって、引用発明6の「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当し、本件発明8の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「炭素繊維」を選択する場合において、本件発明8と引用発明6は、「上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 上記bによれば、引用発明6の「シリコーン樹脂」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当し、上記cによれば、引用発明6の「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当するところ、引用発明6の「シリコーン樹脂にピッチ系炭素繊維を分散させてシリコーン樹脂組成物を調製する工程」は、「熱伝導性フィラー」を「バインダ樹脂」に分散させ、熱伝導性シート形成用の組成物を調製する工程であるといえるから、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程A」に相当する。 e 引用発明6の「前記シリコーン樹脂組成物を押出成形して、シリコーン成形体を作成する工程」及び「前記シリコーン成形体を加熱してシリコーン硬化物を得る工程」は、熱伝導性シート用の樹脂組成物から、押出成形によって成形体を得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程B」に相当する。 f 引用発明6の「前記シリコーン硬化物をスライス切断して前記熱伝導性シートを作成する工程」は、成形体であるシリコーン硬化物を切断して熱伝導性シートを得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程C」に相当する。 g 以上のa〜fによれば、本件発明8と引用発明6との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、 上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、 上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、 上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シートの製造方法。」 <相違点11> 本件発明8は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明6における接触熱抵抗は不明である点。 <相違点12> 本件発明8は、「上記熱伝導性シートは、厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であ」るのに対し、引用発明6における絶縁破壊電圧は不明である点。 (イ)判断 a 相違点11について 相違点11は、相違点4(上記(1)ウ(ア)c)と実質的に同一であり、その判断は、相違点4の判断(上記(1)ウ(イ)a)のとおりである。 b まとめ したがって、相違点12について判断するまでもなく、本件発明8は、引用発明6ではない。また、本件発明8は、引用発明6及び文献1、2、4〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 引用発明8について (ア)対比 本件発明8と引用発明8とを対比すると以下のことがいえる。 a 引用発明8の「熱伝導性シート」は、本件発明8の「熱伝導性シート」に相当する。 b 本件発明8の「バインダ樹脂」について、本件特許に係る明細書の【0025】には、「バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。」と記載されているから、本件発明8の「バインダ樹脂」は、「シリコーン樹脂」であるといえる。 よって、引用発明8の「シリコーン樹脂」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当する。 c 引用発明8は、「20体積%のピッチ系炭素繊維」を含み、「前記ピッチ系炭素繊維は、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向している」ものである。 よって、引用発明8の「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当し、本件発明8の「炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素」のうちの「炭素繊維」を選択する場合において、本件発明8と引用発明8は、「上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており」、「上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり」、「上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」という点で一致する。 d 上記bによれば、引用発明8の「シリコーン樹脂」は、本件発明8の「バインダ樹脂」に相当し、上記cによれば、引用発明8の「ピッチ系炭素繊維」は、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラー」に相当するところ、引用発明8の「シリコーン樹脂とピッチ系炭素繊維とを混合してシリコーン樹脂組成物を調製する工程」は、「熱伝導性フィラー」を「バインダ樹脂」に混合することによって分散させ、熱伝導性シート形成用の組成物を調製する工程であるといえるから、本件発明8の「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程A」に相当する。 e 引用発明8の「前記シリコーン樹脂組成物を押出成形し、加熱してシリコーン硬化物を得る工程」は、熱伝導性シート用の樹脂組成物から、押出成形によって成形体を得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程B」に相当する。 f 引用発明8の「前記シリコーン硬化物を切断して熱伝導性シートを得る工程」は、成形体であるシリコーン硬化物を切断して熱伝導性シートを得る工程であるといえるから、本件発明8の「上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程C」に相当する。 g 以上のa〜fによれば、本件発明8と引用発明8との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、 上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、 上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、 上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており、 上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維と炭素繊維との併用、又は、鱗片状の窒化ホウ素であり、 上記熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である、熱伝導性シートの製造方法。」 <相違点13> 本件発明8は、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るのに対し、引用発明8における接触熱抵抗は不明である点。 <相違点14> 本件発明8は、「上記熱伝導性シートは、厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であ」るのに対し、引用発明8における絶縁破壊電圧は不明である点。 (イ)判断 a 相違点13について 相違点13は、相違点6(上記(1)エ(ア)c)と実質的に同一であり、その判断は、相違点6の判断(上記(1)エ(イ)a)のとおりである。 b まとめ したがって、相違点14について判断するまでもなく、本件発明8は、引用発明8ではない。また、本件発明8は、引用発明8及び文献1〜3、5〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明9について 請求項9が、請求項8を引用するものであることからすれば、本件発明9は、少なくとも、上記(3)の相違点8、9、11、13に係る本件発明8の構成を有する。 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件発明9は、引用発明2、4、6、8ではない。また、本件発明9は、引用発明2、4、6、8及び文献1〜14に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)小括 以上のとおりであるから、本件発明1〜9は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。また、本件発明1〜9は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 2 実施可能要件について (1)明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、方法の発明にあっては、その方法を使用できるように、それぞれ具体的に記載されていることが必要であると解される。 (2)物である熱伝導性シートの発明である本件発明1〜6について検討すると、本件特許に係る明細書の【0059】〜【0065】、【0070】及び【表1】には、本件発明1〜6の一態様である実施例1〜4について、具体的な製造方法が記載されており、これらの記載に基づいて、当業者が本件発明1〜6の一態様である実施例1〜4の生産及び使用をできるものといえる。 そして、本件発明1〜6に含まれる実施例1〜4以外の態様について、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえないという理由もないことからすれば、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。 (3)物である電子機器の発明である本件発明7について検討すると、本件特許に係る明細書の【0054】〜【0057】は、熱伝導性シートを用いて電子機器を構成する方法が記載されており、また、熱伝導性シートについては、上記(2)のとおり、明細書の記載に基づいて、その生産及び使用ができるものといえることからすれば、本件発明7についても、当業者がその生産及び使用をできるものといえる。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。 (4)物を生産する方法の発明である本件発明8及び9について検討すると、本件特許に係る明細書の【0059】〜【0065】、【0070】及び【表1】には、本件発明8及び9の一態様である実施例1〜4の具体的な製造方法が記載されており、これらの記載に基づいて、当業者が本件発明8及び9の一態様である実施例1〜4の製造方法を使用できるものといえる。 そして、本件発明8及び9に含まれる実施例1〜4の製造方法以外の態様について、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえないという理由もないことからすれば、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明8及び9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。 (5)特許異議申立人2の主張について ア 特許異議申立人2は、本件特許請求の範囲の請求項1においては「バインダ樹脂」の種類が特定されておらず、また、第2の熱伝導性フィラーが必須の構成要件とはなっていないところ、本件発明における実施例においては、バインダ樹脂がシリコーン樹脂であり、かつ、第2の熱伝導性フィラーを必ず含有しており、更に、バインダ樹脂をシリコーン樹脂以外とした場合、及び、第2の熱伝導性フィラーを含まない場合には、接触熱抵抗の値が0.46℃・cm2/以下、かつ、絶縁破壊電圧が0.5kV以上とならない蓋然性が高いから、当業者であっても本件発明を実施することはできない旨、主張する。(特許異議申立人2の特許異議申立書の第48頁第12行〜第50頁第10行。) しかしながら、上記(2)〜(4)で検討したとおり、本件特許に係る明細書には、本件発明1〜9の一態様が実施可能なように記載されている。 また、本件発明は、熱伝導性シートが、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であり」、かつ、「当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり」というものに限定されたものであるところ、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下」ではないもの、あるいは、「当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上」ではないものは、そもそも本件発明に包含されない。 そうすると、仮に、特許異議申立人2が主張するような、バインダ樹脂をシリコーン樹脂以外とした場合、及び、第2の熱伝導性フィラーを含まない場合に、接触熱抵抗の値及び絶縁破壊電圧の値が上記の範囲を満たさないのであれば、それは本件発明に該当するものではなく、本件発明を実施できるか否かという点を左右するものではない。 よって、特許異議申立人2の上記主張を採用することはできない。 イ 特許異議申立人2は、本件特許請求の範囲の請求項1においては「当該熱伝導性シート中、上記炭素繊維と上記絶縁被覆炭素繊維の含有量の合計が20体積%以下である」のに対し、本件特許に係る明細書においては、炭素繊維の含有量が5質量%である熱伝導性シートの絶縁破壊電圧が0.5kVである一方、21.5質量%である熱伝導性シートが導電性であり、また炭素繊維の含有量が増加すると絶縁破壊電圧が低下するものといえるから、本件発明に含まれる、5体積%を超え、20体積%以下である炭素繊維を含み、絶縁破壊電圧が0.5kV以上である態様を当業者が実施することができない旨、主張する。(特許異議申立人2の特許異議申立書の第50頁第11行〜第52頁第18行。) しかしながら、上記アにも記載したとおり、そもそも絶縁破壊電圧が0.5kV以上にならないものは本件発明に包含されないのであるから、仮に特許異議申立人2が主張するように、5体積%を超え、20体積%以下である炭素繊維を含む場合に、絶縁破壊電圧が0.5kV以上とならないのであれば、単にそれらは、本件発明に含まれない態様であると判断されるにすぎず、本件発明が実施できるか否かという点を左右するものではないといえる。 よって、特許異議申立人2の上記主張を採用することはできない。 ウ 特許異議申立人2は、第1の熱伝導性フィラー及び第2の熱伝導性フィラーの含有量について、本件特許に係る明細書に記載された実施例1〜4以外の含有量について、接触熱抵抗及び絶縁破壊電圧の値を本件発明の範囲内にすることに過度の試行錯誤が必要であるから、もしくは不可能であるから、実施例1〜4以外の態様について本件発明が実施できない旨主張する。(特許異議申立人2の特許異議申立書の第52頁第19行〜第54頁第3行。) しかしながら、本件特許に係る明細書の【0039】には、「例えば、熱伝導性シート1中の鱗片状の熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性シート1の接触熱抵抗や絶縁破壊電圧の観点では、20〜30体積%とすることが好ましい。また、熱伝導性シート1中の繊維状の熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性シート1の接触熱抵抗や絶縁破壊電圧の観点では、2体積%以上とすることが好ましく、4体積%以上であってもよく、5体積%以上であってもよく、8体積%以上であってもよい。・・・第1の熱伝導性フィラー3として、絶縁被覆されていない炭素繊維を用いる場合、熱伝導性シート1の絶縁破壊電圧の観点では、熱伝導性シート1中の絶縁被覆されていない炭素繊維の含有量は、10体積%以下が好ましい。」と記載され、同【0040】には、「第2の熱伝導性フィラー4の材質は、熱伝導性シート1の接触熱抵抗や絶縁破壊電圧の観点では、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、磁性粉からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。」と記載されるなど、接触熱抵抗及び絶縁破壊電圧の観点で調整できる数値や材料などが示されている一方、特許異議申立人2の主張においては、実施例1〜4以外の態様が現に実施できないという具体的な証拠もないのであるから、実施例1〜4以外の態様が実施できないとはいえない。 よって、特許異議申立人2の上記主張を採用することはできない。 (6)小括 以上のとおりであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 3 サポート要件について (1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 (2)本件特許に係る明細書の【0007】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、「被着体に対する接触熱抵抗が小さい熱伝導性シートを提供する」ことである。 (3)これに対し、本件発明1〜9は、いずれも、熱伝導性シートが「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るものに限定されているから、本件発明により本件課題が解決されることは明らかである。よって、本件発明1〜9が、当業者が当該本件課題を解決できると認識できる範囲を超えるものということはできない。 (4)特許異議申立人1の主張について 特許異議申立人1は、本件発明1〜9においては、第1の熱伝導性フィラーが鱗片状の窒化ホウ素である場合の含有量が限定されていないから、本件発明1には、鱗片状の窒化ホウ素の含有量が実施例よりもはるかに大きい態様が含まれ、本件課題を解決する手段として発明の詳細な説明に記載された範囲を超えた態様が含まれる旨を主張する。(特許異議申立人1の特許異議申立書の第44頁第11行〜第57頁第11行。) しかしながら、特許異議申立人1が主張するような鱗片状の窒化ホウ素の含有量が実施例よりもはるかに大きい態様について、仮に、「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下」とならないのであれば、それはそもそも本件発明には包含されない。 よって、特許異議申立人1が主張するような態様があるからといって、本件発明が、当業者が当該本件課題を解決できると認識できる範囲を超えるものということはできない。 以上のとおりであるから、特許異議申立人1の上記主張を採用することはできない。 (5)特許異議申立人2の主張について 特許異議申立人2は、本件発明1においては、バインダ樹脂の種類、第2の熱伝導性フィラーの有無、炭素繊維と絶縁被覆炭素繊維の含有量、第1の熱伝導性フィラー及び第2の熱伝導性フィラーの含有量が特定されておらず、本件発明1に含まれる実施例1〜4以外の態様を採用した際に、接触熱抵抗の値及び絶縁破壊電圧の値を所定の値とし、本件課題を解決できるとは、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明及び技術常識を考慮しても当業者に認識できるといえない旨を主張する。(特許異議申立人2の特許異議申立書の第54頁第7行〜第60頁第6行。) しかしながら、そもそも本件発明は、熱伝導性シートが「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」るものに限定されている。よって、特許異議申立人2が主張する、実施例1〜4以外の態様についても、熱伝導性シートが「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下」でないものについては、本件発明には包含されない。 そして上記(3)のとおり、本件課題は、熱伝導性シートが「被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であ」ることにより解決されるものであるから、本件発明が当業者が当該本件課題を解決できると認識できる範囲を超えるものということはできない。 よって、特許異議申立人2の上記主張を採用することはできない。 (6)小括 以上のとおりであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 4 明確性について (1)特許法第36条第6項第2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解される。 (2)本件特許の特許請求の範囲について検討すると、請求項1〜9の記載は、記載自体明確であるといえる。 (3)特許異議申立人1の主張について 特許異議申立人1は、請求項3及び6に記載された第2の熱伝導性フィラーが「窒化ホウ素」であり、請求項3、6が引用する請求項1に記載された第1の熱伝導性フィラーが「鱗片状の窒化ホウ素」である場合に第1の熱伝導性フィラーと第2の熱伝導性フィラーが区別できないから、本件発明3〜7が明確性要件に違反する旨を主張する。(特許異議申立人1の特許異議申立書の第57頁第12行〜第58頁第11行。) しかしながら、請求項3の「・・・からなる群から選択される少なくとも1種の第2の熱伝導性フィラーをさらに含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。」の記載からすれば、第1の熱伝導性フィラーに加え、さらに、第2の熱伝導性フィラーを含む必要があるのは明らかであるところ、熱伝導性シート中に含まれる一の材料が、第1の熱伝導性フィラーと第2の熱伝導性フィラーの両方に同時に該当するということができないのは明らかである。すなわち、熱伝導性シート中に、第1の熱伝導性フィラー及び第2の熱伝導性フィラーに該当するものが「鱗片状の窒化ホウ素」しか含有されていないのであれば、当該「鱗片状の窒化ホウ素」は第1の熱伝導性フィラーと第2の熱伝導性フィラーのうちのいずれか一方のみに該当するものと認められるから、そのような熱伝導性シートについて、第1の熱伝導性フィラー及び第2の熱伝導性フィラーの両方が含まれているということはできない。 このように、第1の熱伝導性フィラーが「鱗片状の窒化ホウ素」であり、第2の熱伝導性フィラーが「窒化ホウ素」である場合にも、第1の熱伝導性フィラーと第2の熱伝導性フィラーが含有されているか否かを区別することができるから、請求項3及び請求項3を引用する請求項4〜7の記載が不明確であるとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、請求項3〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議申立人1による特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠、特許異議申立人2による特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠、並びに、特許異議申立人3による特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠、によっては、請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-12-05 |
出願番号 | P2020-153479 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L) P 1 651・ 113- Y (H01L) P 1 651・ 121- Y (H01L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
鈴木 聡一郎 小田 浩 |
登録日 | 2022-02-22 |
登録番号 | 7029503 |
権利者 | デクセリアルズ株式会社 |
発明の名称 | 熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 |
代理人 | 穂谷野 聡 |
代理人 | 野口 信博 |