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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
管理番号 1393134
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-09-22 
確定日 2023-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7040810号発明「地盤改良機用施工位置誘導システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7040810号の請求項1〜13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7040810号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜13に係る特許についての出願は、令和2年5月12日(優先権主張 同年1月8日)に出願され、令和4年3月14日にその特許権の設定登録がされ、同月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年9月22日に特許異議申立人大塚達也(以下「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った(特許異議申立書について、以下「申立書」という。)。


第2 本件発明1〜13
本件特許の請求項1〜13の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、符号1A〜1Lは請求項1を分説するために当審で付したものである。

「【請求項1】
1A 衛星測位システムに係る電波を受信する複数のアンテナ(101A、101B)及び受信装置(102A、102B)と、
1B 一の前記アンテナ(101A)を原点とする前記地盤改良機(200)上で規定される所定の局所座標系(OXY)と、
1C 他の前記アンテナ(101B)と共に前記局所座標系(OXY)の一の座標軸(Y軸)を形成するために前記地盤改良機(200)の同一平面上に設置された機械基準点(120)と、
1D 前記衛星測位システムに対応した地球表面上で規定される所定の全体座標系(O’X’Y’)と、
1E 前記電波に含まれる位置及び時間情報を基にして、地盤改良機(200)を施工目標位置(PT)に誘導する際の誘導基準点の現在位置(P3’)を算出する演算処理部(103)と、
1F 前記誘導基準点の現在位置(P3’)と施工目標位置(PT)とを表示する表示部(107a)と、
1G 前記地盤改良機(200)の本体(20)及びリーダー装置(30)について前記本体(20)を基準面に平行に且つ前記リーダー装置(30)を基準方向に平行に設置する施工基準姿勢時の前記本体(20)の前記基準面に関する、前記局所座標系(OXY)の前記一の座標軸(Y軸)に平行な方向である前後方向と該一の座標軸(Y軸)に直交した前記局所座標系(OXY)内の他の座標軸(X軸)に平行な方向である左右方向についての各変化角度(θ1,θ2)、ならびに前記施工基準姿勢時の前記リーダー装置(30)の前記基準方向に関する前記左右方向と前記前後方向についての各変化角度(θ3,θ4)、ならびに前記施工基準姿勢時の前記前記本体(20)の前記前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)を個別にリアルタイムに計測する角度計測部(104、105、106)と、を備えた
1H 地盤改良機用施工位置誘導システム(100)であって、
1I 前記演算処理部(103)は、前記各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、前記誘導基準点の現在位置(P3’)についての前記全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置(P3)からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)をリアルタイムに算出し、
1J 当該ずれ量Δ’(Δx’、Δy’)を基に前記誘導基準点の現在位置(P3’)から前記施工目標位置(PT)に到る前記局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))をリアルタイムに修正し、
1K 当該誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))を前記表示部(107a)にリアルタイムに表示する
1L ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項2】
請求項1に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記局所座標系(OXY)は、前記地盤改良機(200)上に取り付けられ且つ前記アンテナ(101A、101B)を取り付け可能なブラケット(29A、29B)であって、水平に調整可能な矩形面(29Aa、29Ba)を有する複数の前記ブラケット(29A、29B)によって構築される
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項3】
請求項2に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
一の前記ブラケット(29B)の矩形面(29Ba)は、前記地盤改良機(200)の長手方向に平行になるように設定されている
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項4】
請求項2又は3に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記局所座標系(OXY)の原点に配置された前記アンテナ(101A)についての前記受信装置(102A)から取得される第1の位置情報と、前記矩形面(29Ba)に配置された他のアンテナ(101B)についての前記受信装置(102B)から取得される第2の位置情報とに基づいて、前記地盤改良機(200)の前記全体座標系(O’X’Y’)上での方向角度(θ)を算出する
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記局所座標系(OXY)上で前記誘導基準点の当初位置(P3)を規定し、前記各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて前記誘導基準点の前記現在位置(P3’)についての前記局所座標系(OXY)上での前記当初位置(P3)からのずれ量Δ(ΔX、ΔY)をリアルタイムに算出し、
次に前記局所座標系(OXY)から前記全体座標系(O’X’Y’)に変換する座標変換(T)に基づいて前記ずれ量Δ’(Δx’、Δy’)をリアルタイムに算出する
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項6】
請求項5に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記リーダー装置(30)の前後方向についての傾斜中心(24a)を第1基準点と、前記リーダー装置(30)の左右方向についての傾斜中心(25a)を第2基準点とし、前記アンテナ(101A)から前記第1基準点(24a)を経由して前記誘導基準点の当初位置(P3)に到る第1仮想折れ線(P1abcP3)並びに前記アンテナ(101A)から前記第2基準点(25a)を経由して前記誘導基準点の当初位置(P3)に到る第2仮想折れ線(P1defP3)に基づいて前記局所座標系(OXY)上での前記誘導基準点の前記当初位置(P3)からの前記ずれ量Δ(ΔX、ΔY)をリアルタイムに算出する
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記施工基準姿勢では、前記リーダー装置(30)は鉛直方向に設置され且つ前記本体(20)は水平方向に設置されると共に、
前記角度計測部(104、105、106)は出力値を所定の基準値に設定される
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記誘導基準点の現在位置(P3’)が前記施工目標位置(PT)から所定距離(X)の範囲内に入るときに、
前記リーダー装置(30)を鉛直方向になるように制御する
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
施工目標位置(PT)を規定するガイダンス用データを提供するサーバー(111)又は前記アンテナ(101A)に対する前記誘導基準点の前記局所座標系(OXY)上でのオフセット量を計測する測距装置(110)との間で前記演算処理部(103)がデータの送受信を行う無線通信装置(108)を備える
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記地盤改良機(200)の作業実績を電子データとして保存するデータ記憶部(109)を備える
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項11】
請求項1から10の何れか1項に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記地盤改良機(200)の本体(20)の旋回中心(PCt)から前記誘導基準点の現在位置(P3’)に到る距離(Rt)を算出し、
該距離(Rt)を旋回半径とする旋回円(Ct)を前記表示部(107a)に表示させる
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項12】
請求項11に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記地盤改良機(200)のクローラ装置(10)の走行方向を示す走行線(LS1、LS2)を前記旋回円(Ct)と共に前記表示部(107a)に表示させる
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。

【請求項13】
請求項12に記載の地盤改良機用施工位置誘導システムにおいて、
前記演算処理部(103)は、前記旋回円(Ct)及び前記走行線(LS1、LS2)と共に、前記施工目標位置(PT)を通るガイド線(LG1、LG2)を前記表示部(107a)に表示させる
ことを特徴とする地盤改良機用施工位置誘導システム。」


第3 申立理由の概要
本件特許発明1は、甲第1号証〜甲第4号証記載事項に基づいて、本件特許発明2及び3は、甲第1号証1〜甲第5号証記載事項に基づいて、本件特許発明4は、甲第1号証〜甲第6号証記載事項に基づいて、本件特許発明5は、甲第1号証〜甲第7号証記載事項に基づいて、本件特許発明6は、甲第1号証〜甲第8号証記載事項に基づいて、本件特許発明7は、甲第1号証〜甲第9号証記載事項に基づいて、本件特許発明8は、甲第1号証〜甲第10号証記載事項に基づいて、本件特許発明9及び10は、甲第1号証〜甲第11号証記載事項に基づいて、本件特許発明11は、甲第1号証〜甲第14号証記載事項に基づいて、本件特許発明12及び13は、甲第1号証〜甲第15号証記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1〜13に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号の規定に該当し、取り消されるべきものである(申立書第10ページ「理由の要点」欄、第11ページ下から12行〜第12ページ18行の記載に基づく。)。

(証拠方法)
1 甲第1号証:地盤改良機誘導システム、新技術情報提供システム(NETIS)、国土交通省、登録番号CG−120020−VE、2016年4月21日(申請情報の最終更新年月日)、[令和4年6月21日](申立書には甲第1号証の検索日が記載されていないため、記載された「印刷日」を検索日とした。)、インターネット
2 甲第2号証:特開2012−172429号公報
3 甲第3号証:特開2006−214246号公報
4 甲第4号証:特開平6−57746号公報
5 甲第5号証:特開2016−29912号公報
6 甲第6号証:特開2019−105160号公報
7 甲第7号証:特開2000−160549号公報
8 甲第8号証:特開2019−157493号公報
9 甲第9号証:特開2005−126957号公報
10 甲第10号証:特開昭64−43618号公報
11 甲第11号証:特開2019−152453号公報
12 甲第12号証:特開2018−35645号公報
13 甲第13号証:特開2008−312004号公報
14 甲第14号証:国際公開第2020/003633号
15 甲第15号証:特開2004−107926号公報


第4 各甲号証の内容
1 甲第1号証について
(1) 記載事項(下線は当審合議体が付した。以下同様。)
甲第1号証(地盤改良機誘導システム、新技術情報提供システム(NETIS)、国土交通省、登録番号CG−120020−VE、インターネット)には、次の事項が記載されている。
ア 記載事項1
「申請情報の最終更新年月日:2016/04/21」(「類似している技術はこちら」欄の次の欄(見出しなし)の冒頭行)

イ 記載事項2
「技術名称 地盤改良機誘導システム
アブストラクト 本技術は、地盤改良機に搭載された2台のGNSSアンテナの位置情報から、方位と座標を取得し攪拌羽根杭芯を、運転席内に取り付けたモニターに表示し誘導員なしでオペレータ自身が所定の位置に地盤改良機を誘導するものである。施工終了の杭は設計値からの偏心量を帳票出力できる。」(「新技術概要説明情報」欄の2行〜5行)

ウ 記載事項3



」(「システムイメージ」図)

エ 記載事項4
前記ウの「システムイメージ」図には、「地盤改良機誘導システム」の説明として、「GNSSアンテナから攪拌羽根杭芯までの数値をオフセットし杭芯の座標を表示」した事項が記載されている。

オ 記載事項5
「本システムはGNSSの平面座標、方位を利用して設計上の所定の杭芯へ運転席内のモニターをオペレータが見ながら偏心量を1cm単位で把握できる。又、データベースで座標が残るので施工終了の杭毎の偏心量の帳票作成ができる。」(「新規性及び期待される効果」欄の6行〜10行)

カ 記載事項6


」(「誘導画面」図)

(2) 認定事項
ア 認定事項1
前記(1)アから、甲第1号証に記載された事項は、本件特許の優先日である令和2年(2020年)1月8日より前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったと認められる。

イ 認定事項2
前記(1)ウの「システムイメージ」図には、「地盤改良機の本体に、2台のGNSSアンテナ及び受信機を設置し、前記受信機に、誘導ソフト付パソコン・モニター(運転席内)を接続した」事項が記載されていると認められる。

ウ 認定事項3
前記(1)カの「誘導画面」図には、引出し線で「地盤改良機攪拌羽根杭芯」と説明される2つの円と、同じく引出し線で「設計杭位置」と説明される2つの円に囲まれた面が記載されるところ、断面が円形である「杭」の中心点を「杭芯」と呼ぶことが技術常識であること、前記(1)エの記載事項4に基づくと、「杭芯」は「座標」として「表示」されるものであること、上記「誘導画面」図で「地盤改良機攪拌羽根杭芯」と説明される2つの円が、その大きさから見て、「点」又は「座標」を表しているとは考えにくいこと等から、上記した「地盤改良機攪拌羽根杭芯」の表記は、「地盤改良機攪拌羽根杭」の誤りであると考えられる。そうすると、前記(1)カには、「一の誘導画面に、地盤改良機攪拌羽根杭を示す2つの円と、設計杭位置を示す2つの円に囲まれた面を表示した」事項が記載されていると認められる。

エ 認定事項4
前記(1)カの「誘導画面」図には、「一の誘導画面の上部右隅部に、「後 28」、「左 8」の文字列を上下に並べて表示し、誘導画面の上部左隅部に、「後 31」、「左 8」の文字列を上下に並べて表示」した事項が記載されていると認められる。

(3) 甲1発明
以上の記載事項及び認定事項から、本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証には、次の発明が開示されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。なお、1a〜1lの符号は、本件特許発明1の分説1A〜1Lに概ね対応させて当審合議体が付したものである。

「1a、1d、1g 地盤改良機の本体に、2台のGNSSアンテナ及び受信機を設置し、前記受信機に、誘導ソフト付パソコン・モニター(運転席内)を接続し(認定事項2)、2台のGNSSアンテナの位置情報から、方位と座標を取得し(記載事項2)、
1e、1f GNSSアンテナから攪拌羽根杭芯までの数値をオフセットし杭芯の座標を表示し(記載事項4)、攪拌羽根杭芯を、運転席内に取り付けたモニターに表示し所定の位置に地盤改良機を誘導し(記載事項2)、
1b、1j、1k 一の誘導画面の上部右隅部に、「後 28」、「左 8」の文字列を上下に並べて表示し、誘導画面の上部左隅部に、「後 31」、「左 8」の文字列を上下に並べて表示し(認定事項4)、GNSSの平面座標、方位を利用して設計上の所定の杭芯へ運転席内のモニターをオペレータが見ながら偏心量を1cm単位で把握でき(記載事項5)、一の誘導画面に、地盤改良機攪拌羽根杭を示す2つの円と、設計杭位置を示す2つの円に囲まれた面を表示した(認定事項3)、
1h、1l 地盤改良機誘導システム(記載事項2)。」

2 甲第2号証について
(1) 記載事項
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証(特開2012−172429号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0019】
図2(a)に示すように、ブーム6とアーム7とバケット8には、それぞれ第1〜第3ストロークセンサ16−18が設けられている。第1ストロークセンサ16は、ブームシリンダ10のストローク長さを検出する。後述する表示コントローラ39(図3参照)は、第1ストロークセンサ16が検出したブームシリンダ10のストローク長さから、後述する車両本体座標系のZa軸(図6参照)に対するブーム6の傾斜角θ1を算出する。第2ストロークセンサ17は、アームシリンダ11のストローク長さを検出する。表示コントローラ39は、第2ストロークセンサ17が検出したアームシリンダ11のストローク長さから、ブーム6に対するアーム7の傾斜角θ2を算出する。第3ストロークセンサ18は、バケットシリンダ12のストローク長さを検出する。表示コントローラ39は、第3ストロークセンサ18が検出したバケットシリンダ12のストローク長さから、アーム7に対するバケット8の傾斜角θ3を算出する。
【0020】
車両本体1には、位置検出部19が備えられている。位置検出部19は、油圧ショベル100の現在位置を検出する。位置検出部19は、RTK−GNSS(Real Time Kinematic - Global Navigation Satellite Systems、GNSSは全地球航法衛星システムをいう。)用の2つのアンテナ21,22(以下、「GNSSアンテナ21,22」と呼ぶ)と、3次元位置センサ23と、傾斜角センサ24とを有する。GNSSアンテナ21,22は、後述する車両本体座標系Xa−Ya−ZaのYa軸(図6参照)に沿って一定距離だけ離間して配置されている。GNSSアンテナ21,22で受信されたGNSS電波に応じた信号は3次元位置センサ23に入力される。3次元位置センサ23は、GNSSアンテナ21,22の設置位置P1,P2の位置を検出する。図2(b)に示すように、傾斜角センサ24は、重力方向(鉛直線)に対する車両本体1の車幅方向の傾斜角θ4(以下、「ロール角θ4」と呼ぶ)を検出する。」

イ 「【0034】
なお、上述したように、目標面線92はバケット8の先端の現在位置から算出される。表示コントローラ39は、3次元位置センサ23、第1〜第3ストロークセンサ16−18、傾斜角センサ24などからの検出結果に基づき、グローバル座標系{X,Y,Z}でのバケット8の先端の現在位置を算出する。具体的には、バケット8の先端の現在位置は、次のようにして求められる。
【0035】
まず、図6に示すように、上述したGNSSアンテナ21の設置位置P1を原点とする車両本体座標系{Xa,Ya,Za}を求める。図6(a)は油圧ショベル100の側面図である。図6(b)は油圧ショベル100の背面図である。ここでは、油圧ショベル100の前後方向すなわち車両本体座標系のYa軸方向がグローバル座標系のY軸方向に対して傾斜しているものとする。また、車両本体座標系でのブームピン13の座標は(0,Lb1,−Lb2)であり、予め表示コントローラ39の記憶部43に記憶されている。
【0036】
3次元位置センサ23はGNSSアンテナ21,22の設置位置P1,P2を検出する。検出された座標位置P1、P2から以下の(1)式よってYa軸方向の単位ベクトルが算出される。Ya=(P1−P2)/|P1−P2|・・・(1)図6(a)に示すように、YaとZの2つのベクトルで表される平面を通り、Yaと垂直なベクトルZ’を導入すると、以下の関係が成り立つ。(Z’,Ya)=0・・・(2)Z’=(1−c)Z+cYa・・・(3)cは定数である。(2)式および(3)式より、Z’は以下の(4)式のように表される。Z’=Z+{(Z,Ya)/((Z,Ya)−1)}(Ya−Z)・・・(4)さらに、YaおよびZ’と垂直なベクトルをX’とすると、X’は以下の(5)式のようのように表される。X’=Ya⊥Z’・・・(5)図6(b)に示すように、車両本体座標系は、これをYa軸周りに上述したロール角θ4だけ回転させたものであるから、以下の(6)式のように示される。


・・・(6)

【0037】
また、第1〜第3ストロークセンサ16−18の検出結果から、上述したブーム6、アーム7、バケット8の現在の傾斜角θ1、θ2、θ3が算出される。車両本体座標系内でのバケット8の先端P3の座標(xat、yat、zat)は、傾斜角θ1、θ2、θ3およびブーム6、アーム7、バケット8の長さL1、L2、L3を用いて、以下の(7)〜(9)式により算出される。
xat=0・・・(7)
yat=Lb1+L1sinθ1+L2sin(θ1+θ2)+L3sin(θ1+θ2+θ3)・・・(8)
zat=−Lb2+L1cosθ1+L2cos(θ1+θ2)+L3cos(θ1+θ2+θ3)・・・(9)
なお、バケット8の先端P3は、車両本体座標系のYa−Za平面上で移動するものとする。
そして、グローバル座標系でのバケット8の先端P3の座標が以下の(10)式から求められる。
P3=xat・Xa+yat・Ya+zat・Za+P1・・・(10)
図4に示すように、表示コントローラ39は、上記のように算出したバケット8の先端の現在位置と、記憶部43に記憶された設計地形データとに基づいて、3次元設計地形とバケット8の先端P3を通るYa−Za平面77との交線80を算出する。そして、表示コントローラ39は、この交線のうち目標面70を通る部分を上述した目標面線92として案内画面に表示する。」

ウ 図6 「



(2) 甲2記載の技術事項
以上の記載事項から、甲第2号証には次の事項が記載されていると認められる(以下「甲2記載の技術事項」という。)。
「油圧ショベル100の(【0035】)、車両本体1に備えられたGNSSアンテナ21,22の設置位置P1,P2の位置を検出する3次元位置センサ23、重力方向に対する車両本体1の車幅方向の傾斜角θ4を検出する傾斜角センサ24(【0020】)、及び車両本体座標系のZa軸に対するブーム6の傾斜角θ1、ブーム6に対するアーム7の傾斜角θ2、アーム7に対するバケット8の傾斜角θ3を算出する第1〜第3ストロークセンサ16−18(【0019】)などからの検出結果に基づき、グローバル座標系{X,Y,Z}でのバケット8の先端の現在位置を算出(【0034】)する点。」

3 甲第3号証について
(1) 記載事項
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証(特開2006−214246号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0036】
(P1)バックホウにおけるバケット位置・方向角を検出する手段
たとえば、図1(a)に示すように、ブーム角、アーム角、バケット角等の作業機角度検出装置(5,6,7)と、傾斜測定装置4とデータをデジタル化し出力する装置8と2台の絶対位置計測装置(1,2)による出力データを作業機に搭載した演算装置とソフトウェアによりバックホウ所定箇所の座標と作業機の方向を算出する。
【0037】
なお、上記の作業機角度検出装置は角度計の場合も、ストローク計の場合もある。また、絶対位置計測装置について、GPSの場合、トータルステーションの場合、両者の組合せの場合とすることができる。
【0038】
<作業機アームの固定軸及び方向角を検出する>
ここで、たとえば図2(a)に示すように、作業機にGPS又は反射プリズム(以下測定点という)を設置し、この測定点と固定軸座標と検出点を結ぶ線との位置関係を既知とし、測定点を測定することにより、固定軸の座標(X0,Y0,Z0)との方向角(Θh)を検出することができる。
【0039】
<固定軸から検出点座標を検出する>
次に、たとえば図2(b)に示すように、固定軸間長さL1,L2,L3を既知とし、ブーム角、アーム角、バケット角をストロークセンサ又は角時計を用いて検出することができる。これによって、水平とのなす角θv1,θv2,θv3を測定することができる。
【0040】
<作業機の傾きを検出する>
そして、図1(a)に示すように、作業機に傾斜計4を取り付け、これによって、図2(c)に示すような、バックホウの傾き(ピッチ角,ロール角)を検出することができる。」

イ 「【0042】
<演算による作業機方向、指定点座標を検出する>
ここにおいて、作業機方向、指定点座標を検出するため、たとえば先ず、固定軸(X0,Y0,Z0)から、次の数1によって刃先座標(X3,Y3,Z3)を検出することができる。・・・(中略)・・・
【0044】
この場合、座標変換は、ローカル座標系で表わされた座標(x,y,z)を管理座標系(X,Y,Z)で表わすため、次ぎの数2を使って、管理座標系への三次元座標変換を行い、検出する。」

ウ 図2 「



(2) 甲3記載の技術事項
以上の記載事項から、甲第3号証には次の事項が記載されていると認められる(以下「甲3記載の技術事項」という。)。
「作業機アームのブーム角、アーム角、バケット角を検出し(【0038】、【0039】)、作業機に取り付けた傾斜計4で作業機の傾き(ビッチ角、ロール角)を検出し(【0040】)、管理座標系(X,Y,Z)での刃先座標(X3,Y3,Z3)を検出する(【0042】、【0044】)点。」

4 甲第4号証について
(1) 甲第4号証の記載
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証(特開平6−57746号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】杭打機で走行する時は地盤の傾斜に伴って、杭打機全体が傾斜し危険な状態となる。この対策として、従来はオペレータが左右それぞれのステーシリンダを伸縮させてリーダを垂直に修正している。しかし誤操作により杭打機を転倒させる事があり、問題となっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このように、通常はリーダの傾斜をオペレータが修正し垂直にしているが、誤操作により杭打機を転倒させる事があるため、リーダを垂直に修正する操作をオペレータに頼らずに演算機を用いて自動化することを目的とする。」

イ 「【0006】さらに安全装置として演算機4がリーダ前後左右傾斜センサ1と本体前後左右傾斜センサ2よりそれぞれの傾斜角を読み取る。リーダ傾斜角修正中は、リーダ傾斜角は演算機4の修正方向に必ず変化する筈である。しかし、演算機4の修正方向にリーダ傾斜角が変化しない場合には、警報装置3より警報を発し、また演算機の制御を停止する。又、リーダ傾斜角を修正していない時は、リーダ傾斜角と本体傾斜角の差は停止時,走行時とも一定である。しかし、一定値以上差が変化する様な異常の場合には警報装置3より警報を発するようにしている。」

ウ 「【0010】さて、以上の構成であって、杭打機を走行させると杭打機が傾斜するが、この傾斜角が許容値以上になると警報装置3により警報が出るので走行を停止する。そこでオペレータが本装置を作動させ、リーダaを垂直に修正し、リーダaが垂直になったならば走行を開始するものとする。
なお、「1」(当審注:「1」は丸の中に数字の1)本装置ではリーダaが傾斜した場合に自動的にリーダ傾斜角を修正する事も可能である。
「2」(当審注:「2」は丸の中に数字の2)又本装置では走行時に限らず、リーダが傾斜した場合には杭打作業時等、何時でもリーダを垂直に修正する事も可能である。
「3」(当審注:「3」は丸の中に数字の3)さらに本装置では、走行しながらでもリーダ傾斜角を修正する事も可能である。」

エ 図1 「



オ 図2 「



(2) 甲4記載の技術事項
以上の記載事項から、甲第4号証には次の事項が記載されていると認められる(以下「甲4記載の技術事項」という。)。
「杭打機において、リーダを垂直に修正する操作をオペレータに頼らずに演算機を用いて自動化することを目的として(【0003】)、演算機4がリーダ前後左右傾斜センサ1と本体前後左右傾斜センサ2よりそれぞれの傾斜角を読み取るようにした(【0006】)点。」

5 甲第5号証〜甲第15号証について
(1) 甲第5号証の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証(特開2016−29912号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0112】
また、圃場の出入口で走行車体2が傾斜したとき、GPS制御装置120の受信アンテナ121の位置が、走行車体2より先行する、または遅延することによる位置情報のずれを利用して、圃場への進入、または離脱を検知することにより、受信アンテナ121を用いて、圃場での作業開始や作業終了を判断することができる。この結果、作業の開始や終了を判断するための他の検知部材が不要となり、部品点数の削減を図ることができる。
【0113】
また、圃場への進入時に、最大旋回半径を描く旋回軌跡で圃場に進入することにより、進入時の走行車体2の進行方向を略直進姿勢とすることができるので、圃場への進入後に、進行方向を微調整する必要が無く、圃場の出入口から作業開始位置までの間隔が広がることを防止できる。これにより、作業者が非作業区間を手作業で作業する必要がなくなり、作業者の労力を軽減できると共に、作業能率を向上させることができる。また、圃場への進入時に、ジャイロセンサ115が直進方向を検知していないときは、苗植付部50に駆動力が伝動されなくなることにより、作業開始位置付近での作業位置が、左右に振れることを防止することができる。この結果、より確実に、作業精度を向上させることができる。
【0114】
また、ローリング機構80が作動することによる苗植付部50の回動に合わせて、アンテナフレーム124を傾かせて、受信アンテナ121を走行車体2に対して傾かせているため、受信アンテナ121を水平状態に維持することができる。これにより、GPSで使用される人工衛星からの信号を受信アンテナ121で受信する際における受信アンテナ121の姿勢を安定化させることができ、受信精度を向上させることができる。この結果、苗移植機1の位置情報を、高い精度で取得することができる。」

(2) 甲第6号証の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証(特開2019−105160号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0026】
グローバル座標演算部23は、油圧ショベル100の位置を検出する。グローバル座標演算部23は、RTK−GNSS(Real Time Kinematic - Global Navigation Satellite Systems、GNSSは全地球航法衛星システムをいう)を利用して油圧ショベル100の現在位置を検出する。アンテナ(GNSSアンテナ)21,22が受信したGNSS電波に応じた信号は、グローバル座標演算部23に入力される。グローバル座標演算部23は、グローバル座標系におけるGNSSアンテナ21,22の設置位置を求める。
【0027】
グローバル座標演算部23は、グローバル座標系で表される2つの基準位置データP11,P12を取得する。グローバル座標演算部23は、2つの基準位置データP11,P12に基づいて、上部旋回体3の配置を示す旋回体配置データを生成する。旋回体配置データには、2つの基準位置データP11,P12の少なくとも一方と、2つの基準位置データP11,P12に基づいて生成された上部旋回体3の方位の情報とが含まれる。これら2個のGNSSアンテナ21,22によりGPSコンパスを構成し、上部旋回体3の方位の情報を得るようにしてもよい。つまり、グローバル座標演算部23は、両方のGNSSアンテナ21,22の基準位置データP11、P12は出力せず、2つのGNSSアンテナ21,22の相対位置から方位角を算出し、その方位角を旋回体の方位としてもよい。」

(3) 甲第7号証の記載
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第7号証(特開2000−160549号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0041】ところで、施工場所における改良杭の配置図が図11のように設計されている場合に、実際の施工に際しては、地盤改良装置の位置及び施工しようとする改良杭17の平面座標位置を計測し、地盤改良装置を施工位置(設計座標位置)へ正確に迅速に誘導して位置合わせを行うことが重要課題であり、そのための計測手段なり位置誘導手段の成否が実際の施工上に極めて重要である。
【0042】請求項3記載の発明では、前記の計測手段として、現在では自動車のカーナビゲーションとして知られ普及している、人工衛星からの電波をとらえて自己位置を緯度、経度や標高などで瞬時に測定する(推定する)全地球測位システム(グローバル ポジショニング システム、以下、GPSと略す場合がある。)を採用した。その用意として、地盤改良装置に衛星用アンテナ(GPSアンテナ)を取付け、施工管理装置(制御用の演算処理装置)にGPS受信機を併設する。
【0043】一方、図11のように設計された改良杭の施工場所における配置(施工位置)は緯度、経度に基く座標位置として求め、これを予め杭位置登録管理システムへ入力しておき、必要の都度呼び出して、前記GPSの計測結果と照合して地盤改良装置の位置誘導ないし位置合わせを行う。
【0044】次に、請求項5記載の発明に係る、改良したソイル柱列杭のラップ長の施工管理方法の実施例を、下記A)〜D)の各段階にしたがって説明する。
【0045】A)上記構成の2軸地盤改良装置により、図11のように設計されたソイル柱列杭17の施工を進めるにあたり、先ずは上述のGPS受信機を起動して、地盤改良装置の現在位置、及び攪拌掘削軸6の先端位置を、施工場所での座標位置として計測する。同時に予め杭位置登録管理システムに入力しておいた改良杭17の施工場所での設計座標位置を呼び出し、両者を照合する方法によって地盤改良装置の位置誘導を行い、攪拌掘削軸6の貫入開始位置(軌跡管理開始位置)を求める。
【0046】更に具体的に位置誘導の要領を示すと、一例として図12のような画面表示となる。X,Y2次元の平面座標系内で、予め設定した誘導許容範囲(例えば10〜30mm)内に到達するように位置誘導を行う。」

(4) 甲第8号証の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第8号証(特開2019−157493号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0027】
本実施形態において、位置検知装置12は、図1のようにブーム6に設置された位置センサ12aと、アーム7に設置された位置センサ12bと、バケットリンク81に設置された位置センサ12cとを有する。位置センサ12a〜12cは、それぞれ作業機5の可動な面上での動き、より具体的には、枢軸ピン40の軸線aを含む鉛直面上での動きを検知する。本実施形態では、位置センサ12a〜12cとして加速度センサを使用し、後述の角度α、β及びγを検知する例を示す。位置検知装置11と同様に、位置検知装置12を構成する位置センサは、加速度センサなどの慣性センサに限られない。
【0028】
図4は、座標系と旋回作業車1を概念的に示す左側面図である。この座標系は、図4で左右に延びる水平方向のX軸と、図4の紙面に垂直となる水平方向のY軸(図5参照)と、図4で上下に延びる鉛直方向のZ軸とにより定まる直交座標系である。X軸は、下部走行体2の前後方向に延びており、Y軸は、下部走行体2の左右方向(幅方向)に延びている。Z軸は、上部旋回体3の旋回中心となる軸線に一致する。原点Oを含むXY平面は、枢軸ピン60の軸線の高さに位置し、そのXY平面に枢軸ピン40の軸線aが直交している。
【0029】
図5は、座標系と旋回作業車1を概念的に示す平面図である。図4に示した作業機5の位置は、図5において鎖線で表している。図4,5では、枢軸ピン40の軸線aがX軸上に配置されている。下部走行体2に対する上部旋回体3の旋回角θ1(図6参照)は、この状態を基準とし、図4,5において旋回角θ1はゼロである。また、図4では、枢軸ピン40の軸線aとZ軸とを含む鉛直面(XZ平面)上に作業機5が配置されている。上部旋回体3に対するブームブラケット4のスイング角θ2は、この状態を基準とし、図4においてスイング角θ2はゼロである。
【0030】
図4では、作業機5がXZ平面上で可動な状態にあり、つまりはブーム6、アーム7及びバケット8の各々がXZ平面上で上下回動(前後回動)しうる状態にある。角度αは、枢軸ピン40の軸線aを基準としたブーム6の傾斜角度(回動角度)である。角度βは、ブーム6の延在方向(長さL1の方向)を基準としたアーム7の傾斜角度(回動角度)である。角度γは、アーム7の延在方向(長さL2の方向)を基準としたバケット8の傾斜角度(回動角度)である。既述のように、これらの角度α、β及びγは、位置検知装置12を構成する位置センサ12a〜12cによって検知できる。
【0031】
長さL1は、ブーム6の基端部から先端部までの長さであり、より具体的には、枢軸ピン60の軸線から枢軸ピン70の軸線までの直線距離に相当する。長さL2は、アーム7の基端部から先端部までの長さであり、より具体的には、枢軸ピン70の軸線から枢軸ピン80の軸線までの直線距離に相当する。長さL3は、バケット8の基端部から先端部までの長さであり、より具体的には、枢軸ピン80の軸線から刃先8Eまでの直線距離に相当する。長さL1〜L3のデータは、予め記憶装置36aに記憶されている。
【0032】
本実施形態の旋回作業車1は、2つのGPS用のアンテナ9,9を備えている。アンテナ9,9の三次元位置情報は、受信装置19(図3参照)によって受信される。アンテナ9,9は、旋回作業車1の所定位置に固定されている。本実施形態では、XY平面に平行な水平面上にアンテナ9,9が配置されている。アンテナ9,9に対する、上部旋回体3の旋回中心となる軸線(即ち、Z軸)の相対位置、延いては原点Oの相対位置(グローバル座標)は、旋回作業車1のスペックに基づいて、または事前の計測に基づいて予め知得され、そのデータが記憶装置36aに記憶されている。
【0033】
図6は、図5と同じく座標系と旋回作業車1を概念的に示す平面図であるが、上部旋回体3が旋回している点で図5と異なる。図6では、スイング角θ2がゼロのときの作業機5の位置を鎖線で表している。軸線aの旋回半径rは予め知得できるため、そのデータが記憶装置36aに記憶されている。下部走行体2に対する上部旋回体3の旋回角θ1は、アンテナ9,9の三次元位置情報、及び、記憶装置36aに記憶されたデータに基づいて計算可能であり、その処理は演算装置36bによって行われる。旋回角θ1の計算に必要な情報が得られる限り、旋回作業車1におけるアンテナ9,9の設置箇所は特に限定されない。
【0034】
まず、図4及び図5に鎖線で示したように上部旋回体3を旋回させず且つ作業機5をスイングさせていない状態(即ち、θ1=0、θ2=0)において、XY平面上の軸線aの位置を基点とした刃先8Eの三次元座標を(Xa,Ya,Za)とするとき、その座標(Xa,Ya,Za)は下記の式によって求めることができる。
Xa=L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)
Ya=0
Za=L1cosα+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)
【0035】
次に、図5に実線で示したように上部旋回体3を旋回させずに作業機5をスイングさせた状態(θ1=0、θ2≠0)において、XY平面上の軸線aの位置を基点とした刃先8Eの三次元座標を(Xa1,Ya1,Za1)とするとき、その座標(Xa1,Ya1,Za1)は下記の式によって求めることができる。
Xa1=Xa・cosθ2
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}cosθ2
Ya1=Xa・sinθ2
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}sinθ2
Za1=Za
=L1cosα+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)
【0036】
また、図6に示すように上部旋回体3を旋回させた状態(θ1≠0)において、XY平面上の原点Oを起点とした軸線aの三次元座標を(Xo0,Yo0,Zo0)とし、その軸線aの旋回半径をrとするとき、その座標(Xo0,Yo0,Zo0)は下記の式によって求めることができる。
Xo0=r・cosθ1
Yo0=r・sinθ1
Zo0=0
【0037】
そして、図6に鎖線で示したように上部旋回体3を旋回させて作業機5をスイングさせていない状態(θ1≠0、θ2=0)において、XY平面上の原点Oを起点とした刃先8Eの三次元座標を(Xo1,Yo1,Zo1)とするとき、その座標(Xo1,Yo1,Zo1)は下記の式によって求めることができる。
Xo1=Xa・cosθ1+Xo0
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}cosθ1+r・cosθ1
Yo1=Xa・sinθ1+Yo0
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}sinθ1+r・sinθ1
Zo1=Za+Zo0
=L1cosα+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)
【0038】
更に、図6に実線で示したように上部旋回体3を旋回させて作業機5をスイングさせた状態(θ1≠0、θ2≠0)において、XY平面上の原点Oを起点とした刃先8Eの三次元座標を(Xo2,Yo2,Zo2)とするとき、その座標(Xo2,Yo2,Zo2)は下記の式によって求めることができる。
Xo2=Xa・cos(θ1+θ2)+Xo0
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}cos(θ1+θ2)+r・cosθ1
Yo2=Xa・sin(θ1+θ2)+Yo0
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}sin(θ1+θ2)+r・sinθ1
Zo2=Za+Zo0
=L1cosα+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)
【0039】
したがって、原点Oのグローバル座標を(A,B,C)とするとき、下記の式によって刃先8Eの三次元座標(Xo2,Yo2,Zo2)を変換することにより、刃先8Eのグローバル座標(Xg2,Yg2,Zg2)を求めることができる。
Xg2=Xo2+A
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}cos(θ1+θ2)+r・cosθ1+A
Yg2=Yo2+B
={L1sinα+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)}sin(θ1+θ2)+r・sinθ1+B
Zo2=Zo2+C
=L1cosα+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)+C
【0040】
このように、本実施形態では、上部旋回体3に対するブームブラケット4の水平方向位置(延いては、スイング角θ2)を位置検知装置11により検知し、上部旋回体3に対する作業機5の上下方向位置(延いては、角度α、β及びγ)を位置検知装置12により検知し、それらの検知結果に基づいて刃先8Eの位置を演算する。かかる演算処理は、記憶装置36aに記憶されたデータや、受信装置19から送信された情報を適宜に参照しながら演算装置36bによって実行される。演算の結果は、例えば表示装置37に表示させることによりオペレータに通知できる。
【0041】
以上の通り、本実施形態によれば、ブームスイング機能を有する旋回作業車1において、作業機5の施工端部である刃先8Eの位置を高精度に検知することができる。」

(5) 甲第9号証の記載
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第9号証(特開2005−126957号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 図1「



イ 図2「



(6) 甲第10号証の記載
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第10号証(特開昭64−43618号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「(問題点を解決するための手段)
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、圧入する枝部材の垂直度を保つための姿勢検出と姿勢制御を全て自動化して作業能率を大幅に向上するようにしだ杭圧入機の姿勢制御装置を提供することを目的とする。
この目的を達成するため本発明にあっては、圧入済みの杭部材上に設置される圧入機サドルに対しリーダマストをX,Y,Z軸の3軸方向のそれぞれで回動自在に装着すると共にX軸方向に直動自在に備え、更に枝部材を保持して圧入するチャックをリーダマストに対しZ軸方向に直動すると共に枝部材の進行方向(継ぎ手の方向等)を調整するためZ軸回りに回動自在とした圧入機に於いて、まずリーダマストの姿勢制御系として、リーダマストのX及びY軸方向の傾斜量を検出する傾斜センサを設け、この傾斜センサの検出傾斜量を零に保つようにリーダマストのX軸及びY軸回りの回動を制御する。
一方、チャックに保持された枝部材の姿勢制御系は、枝部材にX軸及びY軸方向の傾斜量を検出する傾斜センサを設け、リーダマストの姿勢制御系による枝部材の動きを外乱として枝部材の傾斜センサで検出し、リーダマストのX軸直動とZ軸回転により枝部材に装着した傾斜センサの検出傾斜量を零に保つ姿勢制御を行なう。
更に、杭圧入機の進行方向(圧入機サドルの進行方向)とリーダマストの方向とが異なるコーナ部での圧入時には、リーダマストのサドルに対するZ軸回転量と、リーダマストに対するチャックのZ軸回転量を回転センサで検出し、コーナ部で枝部材を垂直に保持するリーダマストのX軸直動量及び7軸回転角を演算する処理を付加するようにしたものである。
(作用)
このような構成を備えた本発明の杭圧入機の姿勢制御装置にあっては、リーダマストの傾斜が傾斜センサで正確に検出されてリーダマストを垂直状態に保つ姿勢制御が自動的に行なわれ、このようなリーダマストの姿勢制御に対し独立した制御系によって杭部材の傾斜が正確に検出されてリーダマストの姿勢制御が成立した状態で杭部材を垂直に保つ姿勢制御が行なわれることとなり、圧入開始から圧入終了までの間に渡って常時姿勢制御が掛かることで(但しチャック引き上げ時は姿勢制御を解除する場合がある)、傾斜が大きくなる前に常に姿勢制御による修正が行なわれ、高い制御精度で且つ自動的に垂直度を保った杭部材の圧入作業を行なうことができ、制御異常が起きない限りオペレータの介入は不要であり、作業能率を大幅に向上しまた労力負担を大幅に軽減することができる。
(実施例)
第2図は本発明の姿勢制御の対象となる杭圧入機の駆動系を模式的に示した説明図であり、あわせて駆動系に対する傾斜センサ及び回転センサの設置状態を示す。
第2図において、10は杭圧入機の圧入機サドルであり、圧入機サドル10は最初の1本目を圧入する際には予め準備されたスタンド上に載置され、例えば3本の杭部材の圧入を終了すると、その後は圧入が済んだ杭部材上に乗って次の杭部材の圧入を行ない、杭部材の圧入毎に移動する自走式としての機能を有する。
12はリーダマストであり、圧入機サドル10に対しX軸方向(サドル進行方向)、Y方向(サドル進行方向に直交する方向)、及びZ方向(垂直方向)の3軸回りに回動自在で且つX軸方向に直動自在に装着されている。
具体的に説明すると、圧入機サドル10にはX軸直動アクチュエータ18が設けられ、X軸直動アクチュエータ18によってリーダマスト12をX軸方向に直動することができる。X軸直動アクチュエータ18に続いてはX軸回転アクチュエータ20が設けられ、リーダマスト12をX軸回りに回動することができる。更にY軸回転アクチュエータ16が設けられ、Y軸回転アクチュエータ16によりリーダマスト12をY軸回りに回動することができる。また、Y軸回転アクチュエータ16に続いてはX軸回転アクチュエータ14が設けられ、リーダマスト12をX軸回りに回動することができる。このようなX軸直動アクチュエータ18、Z軸回転アクチュエータ20、Y軸回転アクチュエータ16及びX軸回転アクチュエータ14で成るリーダマスト12の駆動系には、リーダマスト12のZ軸方向を基準としたY軸方向の傾斜角に応じた傾斜量S1を検出するマストY方向傾斜センサ30と、X軸方向の傾斜角に応じた傾斜882を検出するマストX方向傾斜センサ34が設けられる。
また、X軸回転アクチュエータ20による圧入機サドル10の進行方向に対するX軸回りの回転角θ1を検出するためマスト回転センサ46が設けられる。
一方、リーダマスト12に対してはZ軸直動アクチュエータ24及びX軸回転アクチュエータ26を介してチャック22が設けられる。Z軸直動アクチュエータ24はリーダマスト12に対しチャック22を上下方向に駆動するもので、チャック22を引上げた状態で杭部材100を保持してZ軸直動アクヂュエータ24よりチャック22を下降駆動することで杭部材100を圧入することができる。また、X軸回転アクチュエータ26は、例えば杭部材100として鋼管矢板を使用した場合には、鋼管矢板に設けている継手の方向を調整するチャック回転用のアクチュエータとなる。
このようにチャック22により保持された杭部材100には杭部材の姿勢制御を行なうため、杭部材100の垂直方向、即ちZ軸に対するY軸方向の傾斜角に応じた傾斜量S10を検出する杭Y方向傾斜センサ38と、X軸方向の傾斜角に応じた傾斜量820を検出するための杭X方向傾斜センサ42が装着されている。この杭X方向及びY方向傾斜センサ38,42の装着は、杭圧入位置の圧入作業の影響を受けない杭部材100の頭頂部に設置するようになり、各傾斜センサ38,42の検出傾斜量は送信電波により杭圧入機側に設けられる制御装置に送られるようになる。更に、7軸回転アクチュエータ24によるチャック22の回転角θ2を検出するチャック回転センサ48が設けられる。
尚、Z軸回転アクチュエータ26の回転軸Aとチャック22の回転軸Bは説明を分かり易くするため分けて示しているが、実際には、輸入と軸Bは同軸に配置され、Z軸アクチュエータ26の回転は、チャック22による杭部材100の回転そのものとなる。
第1図は第2図に示した杭圧入機の駆動系及びセンサ設置状態を前提に得られた本発明の姿勢制御装置の一実施例を示したブロック図である。
第1図において、まずリーダマスト12の姿勢制御系は、マストY方向傾斜センサ30、マストX方向傾斜センサ34、第1の制御回路32、第2の制御回路36、X軸回転アクチュエータ14、Y軸回転アクチュエータ16で構成される。ここでX軸回転アクチュエータ14によるリーダマスト12のX軸回りの回転は、マストのY姿勢として反映され、またY軸回転アクチュエータ16によるリーダマスト12のY軸回りの回転はマストのX姿勢12Xとして反映され、当然のことながらマストのY姿勢12Y及びマストのX姿勢12XはマストY方向及びマストX方向傾斜センサ30,34に破線で示すように傾斜角の変化として入力される。
一方、杭部材100の姿勢制御系は、杭Y方向傾斜センサ38、杭X方向傾斜センサ42、第3の制御回路40、第4の制御回路44、Z軸回転アクチュエータ20、X軸直動アクチュエータ18で構成され、7軸回転アクチュエータ20及びX軸直動アクチュエータ18による杭部材100の動きは杭のX、Y姿勢変化として反映され、破線で示すように杭のX,Y姿勢の変化は杭Y方向及び杭X方向傾斜センサ38、42に検出傾斜角の変化として入力される。また、杭部材100のX,Y姿勢はリーダマストの姿勢制御系におけるX軸回転及びY軸回転アクチュエータ14、16の動きによる姿勢変化を受け、更に圧入時の反力等の外乱による姿勢変化を受けることになる。
このような杭部材100の基本的な姿勢制御系に対し、更にマスト回転センサ46、チャック回転センサ48及び演算回路50が付加されている。演算回路50は後の説明で明らかにするように、コーナ部の杭圧入時においてマスト回転センサ46及びチャック回転センサ48の検出回転角θ1,θ2に基づいて杭部材100を垂直状態に姿勢制御するためのX軸直動量Xa及びZ軸回転角θaを演算するようになる。
このように第1図でリーダマスト12と杭部材100の姿勢制御系を独立に構成している理由は第2図から明らかなように、リーダマスト12は圧入機サドル10を基準に姿勢制御されるものであり、一方、杭部材100は地面に当たった杭部材100の下端100aを支点として姿勢制御されるものであり、各制御系における制御対象の制御基準が異なることから独立した姿勢制御系とするものである。
即ち、第2図から明らかなように、リーダマスト12は圧入機サドル10に対するX軸回りの回動でY軸方向に対する傾斜を修正することができ、またY軸回りの回動でX軸方向に対する傾斜を修正することができる。これに対し杭部材100は下部の100aを支点としてチャック22の位置を移動することで傾斜を修正するようになり、X軸方向の直動でX軸方向の傾斜を修正することができ、またZ軸回りの回動でY方向の傾斜を修正することができる。
次に第1図に示したリーダマスト12の姿勢制御系の動作を第3図のフローチャートを参照して説明する。
第3図に示すフローチャートにあっては、第1図の第1及び第2の制御回路36に示すように、圧入機サドル10を圧入済みの机上に固定するサドルチャック(図示せず)の開閉信号と圧入制御のオン、オフ信号のそれぞれが与えられており、その結果、第1及び第2の制御回路32,36は圧入の制御信号がオンで且つサドルクランプ開閉信号が閉信号のときにリーダマストの姿勢制御を行ない、それ以外のときは姿勢制御を解除するようになる。
そこで第3図のフローチャートに従ってリーダマストの姿勢制御を説明すると、まず判別ブロック52で圧入開始の有無をチェックしており、例えばオペレータが圧入開始の制御操作を行なうと次の判別ブロック54に進む。判別ブロック54にあってはサドルクランプが閉じているか否かチェックしており、サドルチャックが閉じているとブロック56に進んでマストY方向傾斜センサ30の出力S1とマストX方向センサ34の出力S2を読込む。続いて、ブロック58でY方向傾斜センサ30の出力S1を減らす方向に第1の制御回路32がX回転アクチュエータ14を駆動し、その結果、Y方向傾斜センサ30の出力S1が減少するようになる。判別ブロック60にあってはY方向傾斜センサ30の出力S1が零か否かを監視しており、X軸回転アクチュエータ14の駆動で出力S1=0、即ちリーダマスト12のY方向の傾斜角が零となってZ軸方向に姿勢制御されると、ブロック62に進んでX軸回転アクチュエータ14の制御を停止する。続いて、ブロック64でY方向傾斜センサ34の出力S2を減らす方向にY軸回転アクチュエータ16を駆動し、同様に判別ブロック66でS2=0となったときブロック68に進んでY軸回転アクチュエータ16の駆動を停止する。
このようなリーダマストの姿勢制御により第2図に示した杭圧入時において、Z軸直動アクチュエータ24によりチャック22をストローク上限に引上げた状態で保持して下降駆動により圧入する際に、X軸回転アクチュエータ14及びY軸回転アクチュエータ16によるリーダマスト12を垂直に保つ姿勢制御が繰り返されるようになる。
尚、このようなリーダマストの姿勢制御により、杭の姿勢が変化するが、その変化分は後述する杭の姿勢制御系により修正されるので問題ない。
また第3図のフローチャートに示すリーダマストの姿勢制御にあっては、杭部材の圧入開始後に姿勢制御をオンし圧入終了後に姿勢制御オフしているか、このような姿勢制御のオン、オフ制御を行なわずに、サドルチャックの保持中は圧入動作の如何に係わらず常時リーダマストの姿勢制御を行なうようにしてもよい。
次に、第1図に示した杭部材の姿勢制御系の動作を第4図のフローチャートを参照して説明する。
この第4図のフローチャートにあってもリーダマストの姿勢制御の場合と同様、第3及び第4の制御回路40,44に対してはチャック開閉信号及び圧入制御のオン、オフ信号が与えられており、圧入制御が開始されて且つチャックが閉じているときにのみ、杭部材の姿勢制御を行なうようにしている。
そこで第4図のフローチャートについて杭部材の姿勢制御を説明すると、判別ブロック70で圧入開始を判別すると、判別ブロック72に進んでチャック開閉の有無をチェックし、チャックが閉じていればブロック74に進んで杭Y方向傾斜センサ38の出力S10及び杭X方向傾斜センサ42の出力S20をそれぞれ読込む。
次の判別ブロック76にあっては、コーナ部の圧入か否かチェックしており、コーナ部でなければ、即ち直線方向の圧入作業であったならばブロック7Bに進み、Y方向傾斜センサ38の出力S10を減らす方向にZ軸回転アクチュエータ20を駆動し、判別ブロック80で出力S10=0が得られたならばブロック82でZ軸回転アクチュエータ20の駆動を停止する。
続いて、ブロック84でY方向傾斜センサ42の出力S20を減らす方向にX軸直動アクチュエータ1Bを駆動し、判別ブロック86でS20=0が得られると、ブロック88でX輔直動アクチュエータ18の駆動を停止する。
このような杭部材の姿勢制御にあっては第3図のフローチャートに示したリーダマストの姿勢制御による杭部材100の姿勢変化が外乱として抗Y方向及びX方向傾斜センサ38,42で検出されて姿勢制御を行なうこととなり、更に圧入時の反力による杭部材100の姿勢変化の外乱についてもあわせて杭部材の姿勢制御を行なうこととなり、杭部材100はチャック22の下降駆動による圧入時において垂直状態を保つ姿勢制御を受けることができる。
次に、第4図のフローチャートにおける判別ブロック76でコーナ部が判別されるとブロック90に示すコーナ部の姿勢制御に移行する。このブロック90のコーナ部の姿勢制御は第5図にサブルーチンとして示される。
第6図はコーナ部の杭圧入時における杭圧入機の状態を示した平面図である。
第6図において、コーナ部の圧入にあっては、それまでの杭圧入機の進行方向に対し(圧入機サドル10に対し)圧入機本体10aが回転角θ1となる方向にリーダマスト12を回転することになる。このためコーナ圧入時にあっては、リーダマストの方向と圧入機の進行方向とがそれぞれ別になる。更に、チャックに保持された圧入しようとする杭部材100における杭の進行方向、即ち傾斜センサの方向もリーダマストの進行方向に対し異なるθ2方向となる。
そこで第1図に示したように、コーナ部の圧入時にあってはマスト回転センサ46で検出した進行方向に対するリーダマストの回転角θ1と、チャック回転センサ48で検出したマスト進行方向に対する抗進行方向の回転角θ2とに基づいて、杭Y方向及び杭X方向傾斜センサ38、42の検出傾斜量S10、S20をZ軸回転アクチュエータ20及びY軸直動アクチュエータ18の制御量に変換する必要があり、この変換演算を演算回路50で行なうようになる。」(第2ページ左下欄3行〜第6ページ右下欄3行)

(7) 甲第11号証の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第11号証(特開2019−152453号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0024】
<計測治具>
図3は本発明の実施形態に係る計測治具40の斜視図である。トータルステーションでバケット10の爪先の位置を計測する場合(すなわち,計測対象物がバケット10の爪先の場合),計測治具40はバケット10が有する複数のツース(爪)10A(図1参照)の先端に取付けることができる。図3は複数のツース10Aのうちトータルステーションに最も近いツース10Aの先端に計測治具40が取付けられた状態を示している。
【0025】
図3に示す計測治具40は,トータルステーションからの投射光(例えばレーザー)を反射するプリズムミラー51(図5参照)を内部に保持する略円筒状のターゲット部材50と,ターゲット部材50を取付けるための略L字型の板部材である取付け部材60と,取付け部材60を計測対象物(例えばツース10A)に固定するための固定部材70(クランプ71及び高さ調整シム72)と,ターゲット部材50を取付け部材60に対して着脱可能に結合するための結合部材80とを備えている。
【0026】
ターゲット部材50は略円筒状のケーシング53を有する。ケーシング53の軸方向における一方の端面55にはプリズムミラー51が収納される凹部(図5参照)がプリズムミラー51の形状に合わせて形成されている。当該凹部に収納されたプリズムミラー51はケーシング53の端面55の内側に嵌合されるリング状のフレーム52(図5参照)により固定されている。
【0027】
図4はケーシング53の軸方向における他方の端面(第1面)56の平面図である。図5はターゲット部材50の断面図であり,図4中の矢印Vは図5の断面図の切断面を示している。図5に示すように,プリズムミラー51は,その中心軸51bがケーシング53の端面56と直交するようにケーシング53内に保持されている。ケーシング53の端面56の中心にはプランジャ54が設けられている。
【0028】
プランジャ54は,取付け部材60に対するターゲット部材50(すなわちプリズムミラー51)の位置決めをするための部品である。本実施の形態のプランジャ54は,いわゆるボールプランジャであり,ピン部材として球体のボール(凸部)54aと,ボール54aが収納される凹部54cの軸方向にボール54aを進退可能に保持するスプリング(ばね部材)54bを有している。凹部54cはボール54aとスプリング54bが収納される円筒状の溝である。ボール54aはスプリング54bにより保持されている。スプリング54bが自然長のとき,ボール54aは端面56から一部が突出するように保持されており端面56上の凸部となっている。端面56からのボール54aの突出量はスプリング54bにより調節可能である。円筒状の凹部54cの中心軸はプリズムミラーの中心軸51bと一致し,凹部54cの中心軸上にはボール54aの中心が位置する。ボール54aの径と凹部54cの径は略同じであり,ボール54aは自身の中心の位置を凹部54cの中心軸上に保持しながら当該中心軸に沿って凹部54c内を摺動できる。ボール54aを凹部54cの内部に押し込む方向の外力がボール54aに作用すると,スプリング54bがボール54aを凹部54cの外部に押し出す向きの復元力を発生する。
【0029】
プランジャ54の外周には4つの円盤状の永久磁石(例えばネオジム磁石)80が等間隔で配置されている。本実施形態ではケーシング53の端面56に対向配置される取付け部材60の材料が鉄,コバルト,ニッケル等の強磁性体となっており,この4つの磁石80がターゲット部材50と取付け部材60の結合部材80を構成している。各磁石80はケーシング53の端面56に設けた略円盤状の凹部に収納されており,当該凹部に収納されたときの各磁石80の上面(端面56側の面)は端面56とともに概略平面を形成している。なお,図示した磁石80の形状や数は一例に過ぎず任意の形状や数を選択できる。
【0030】
プリズムミラー51は,プリズムミラー51の中心軸51b上においてミラー頂点51aと対向する面を入射面51cとし,その入射面51cに入射した光線を,入射した方向に反射する特性を持つ光学機器である。本実施形態のプリズムミラー51は,3枚の平面を互いに直角に組み合わせたコーナーキューブプリズムであり,当該3枚の平面の交点がミラー頂点51aとなっている。プリズムミラー51の中心軸51bはミラー頂点51aを通る。プリズムミラー51の内部はガラスで充填されている。
【0031】
プリズムミラー51のミラー頂点51a側の部分は,図6に示すように,前述の3枚の平面の内壁がミラー状になった立方体の1つの角を切り取ったような形状(コーナーキューブ)をしている。ただし,本実施形態では,円筒状のケーシング53内に収納するためにコーナーキューブの底面側(入射面51c側)の側面を円筒状に切削しているため,図6のような4面体形状とはなっていない(図5参照)。
【0032】
図7に図6のコーナーキューブをミラー頂点と中心軸を通過する面で切断した断面図を示す。図7において,入射光線と反射光線のそれぞれの光路は平行であるが,光路間の距離は入射光線の入射位置によって異なり,反射点がミラー頂点に近いほど入射光線と反射光線の光路が近くなる。一方で,プリズムミラーがガラスで充填されていることから,トータルステーションからの入射光線が入射面に斜めに入射した場合,光線の屈折が生じる。すなわち,図8のように,入射面に対する入射光線の入射角が大きくなるほど,ミラー頂点で反射する場合の光線の見かけの光路が実際の光路から離れるため,トータルステーションがみかけのミラー頂点の方向にミラー頂点があると判断してしまい,ミラー頂点の座標値について計測誤差が発生する。
【0033】
油圧ショベルの計測点(例えばツース10Aの先端)は所定の動作平面上に限定されるものの一般的に広い領域内を動き得る。そのため,トータルステーションからの入射光がプリズムミラーの入射面に常に垂直に入射するようトータルステーション及びプリズムミラーを配置することは非常に手間のかかる作業となる。
【0034】
このような入射角の問題に対し,様々な入射角でミラー頂点に向かって入射した光線の見かけの光路が集中するミラー中心(図8参照)と呼ばれる点が存在することが知られており,このミラー中心の位置を計測するように調整する機能がトータルステーションに備えられている。従って,ミラー頂点ではなくミラー中心を計測することで,プリズムミラーの入射面に対するトータルステーションからの入射光の入射角度がトータルステーションの座標計測結果に与える影響を低減することが可能となる。これにより,トータルステーションとプリズムミラーを組み合わせて迅速かつ正確に計測可能となる。ただし,ミラー中心はプリズムミラーの内部に存在するため,フロント作業装置1Aの外縁部に割り当てられた計測点にミラー中心を直接設置することは不可能である。しかし,後述するような座標変換を行うことでミラー中心の問題は解消される。
【0035】
取付け部材60は,図9に示すような所定の厚みの長方形状の板部材をその長軸方向の途中で90度折り曲げたようなL字型の板部材(例えば鉄製)であり,固定部材70(クランプ71及び高さ調整シム72)による固定時にフロント作業装置1Aの動作平面に沿って配置される縦板部60aと,縦板部60aに略直角で交わる横板部60bとから成る。固定部材70による固定時,縦板部60aの外側面(第2面)60a1はターゲット部材50の端面56と隣接して対向配置され,縦板部60aの内側面60a2はツース10Aの幅方向に配置される2つの側面のうち一方の側面と隣接して対向配置される。
【0036】
縦板部60aにはターゲット部材50のプランジャ54の固定溝となる貫通孔(凹部)61が設けられている。貫通孔61は縦板部60aの外側面60a1上にプランジャ54のボール54aが係合される円形の輪郭を形成している。当該円形の径はボール54aの径より小さく設定されている。本実施形態の貫通孔61は円筒状に形成されており外側面60a1に現れる円形と同一の径を軸方向に有している。ボール54aが係合される固定溝(凹部)の機能のみを具備する観点に基づけば貫通孔61は有底状の凹部に代替可能である。ただし,プランジャ54用の固定溝を貫通孔61とすると,当該貫通孔61の中心に計測点(例えばツース10Aの先端)が位置するように取付け部材60を計測対象物に固定することが容易となり,その結果プリズムミラー51の中心軸51bを当該計測点と同一直線上に配置することが容易となる。
【0037】
本実施形態の固定部材70はクランプ71と高さ調整シム72である。
図3,9に示した高さ調整シム72は,計測対象物の厚み(例えばツース10Aの先端の厚み)と,横板部60bの内側面60b2から貫通孔61の中心までの距離を考慮して,取付け部材60を測定対象物に固定した場合に計測点が貫通孔61の中心に位置するように設定された所定の厚み及び形状を有する板部材である。図示した高さ調整シム72は一例に過ぎずその厚みや形状は計測対象物に応じて変更することできる。図示の例では高さ調整シム72をツース10Aと取付け部材60の間に配置しているが,取付け部材60のみで計測点が貫通孔61の中心に配置できる場合には高さ調整シム72は省略可能である。
【0038】
図10はクランプ71の概略構成図である。図示のクランプ71は,略C字型に屈曲したクランプ本体71aと,クランプ本体71aにおける上側の先端部に設けられた孔であって当該孔の内側にねじ溝が切られている雌ねじ部71bと,雌ねじ部71bに挿入される雄ねじであって軸部の外周面上にねじ溝が切られた締め付けネジ71cと,締め付けネジ71cの軸方向における一方側の端部(すなわち下端)に設けられた可動口金部71dと,締め付けネジ71cの軸方向における他方側の端部(すなわち上端)に設けられた貫通孔71eに挿入されたハンドル部71fと,クランプ本体71aにおける下側の先端部に設けられた固定口金部71gを備えている。
【0039】
可動口金部71dと固定口金部71gは互いに対向する面がそれぞれ平坦面となっている。可動口金部71dは締め付けネジ71cのネジ先に対して揺動自在に取付けても良い。貫通孔71eは締め付けネジ71cの軸方向に直交する方向を軸方向とする円筒状の孔である。貫通孔71eに挿入されたハンドル部71fを締め付けネジ71cの周方向に回転させると締め付けネジ71cがその軸方向に沿って進退して可動口金部71dと固定口金部71gの距離が増減される。
【0040】
<確認作業>
本実施形態の計測治具40とトータルステーションを用いて,油圧ショベル1のコントローラによる位置推定機能が正しく機能しているかを確認する確認作業について説明する。
【0041】
一般的なトータルステーションでは,任意の点を原点にでき,重力方向を軸の一つに持つ直交座標系(例えばグローバル座標系)が利用できる。トータルステーションから任意の計測点又はその近傍に取付けたプリズムミラー51に向けてレーザー(投射光)を照射し,その反射光を利用してトータルステーションから見た当該計測点の距離と角度(鉛直角・水平角)を計測することで,当該座標系(例えばグローバル座標系)における計測点の座標値を算出することが可能である。
【0042】
トータルステーション本体の向きを自動的に調整するサーボモータを搭載したトータルステーションでは,入射光と反射光の光路差を監視することで,入射光線がミラー頂点で反射する向きにレーザーを自動的に向けることができる。このようなトータルステーションを用いれば,例えば,フロント作業装置1Aの姿勢,すなわち計測点であるツース10Aの位置が変わるごとにトータルステーションの向きを計測員が調節する必要が無くなるので,位置計測の効率が向上する。
【0043】
一般に,トータルステーションの座標系は車体座標系とは一致しない。そのため,トータルステーションの計測結果と,車体座標系での推定位置とを比較するためには,適切な座標変換を行う必要がある。ここではトータルステーションの座標系をUVW座標系とする。UVW座標系は,U軸,V軸及びW軸で定義される右手直交系の座標系である。W軸は重力方向と平行であり,W軸の負の方向を重力方向とする。このときU軸,V軸はともに水平面上に設定されるが更なる設定の詳細は後述する。
【0044】
計測点の位置計測の準備として,まず,油圧ショベル1(下部走行体11)を可能な限り平坦かつ硬い地面に置く。ただし,地面に傾斜角θがある場合には,上部旋回体12の左右方向の傾斜,すなわち水平面(U−V平面)に対するY軸の傾斜が0度となる旋回角度まで上部旋回体12を旋回させて静止する。このようにすることで,車体座標系のY軸が水平となり,座標変換が容易となる。
【0045】
トータルステーションは,ブームフートピンの軸方向における端面が視認可能な位置,すなわち車体右側に設置する。
【0046】
次に,図2に示すように,トータルステーションの座標系のV軸が車体座標系のY軸と平行になるように,トータルステーションの座標系(UVW座標系)を設定する。なお,トータルステーションの座標系の原点は任意の点として良い。
【0047】
以上のように2つの座標系(XYZ座標系,UVW座標系)を設定することにより,フロント作業装置1Aを動かした場合にフロント作業装置1A上の任意の点が通り得るX−Z平面はトータルステーションの座標系のU−W平面と平行になる。つまり,フロント作業装置1Aを動かしてもフロント作業装置1A上の任意の点のV軸方向の座標値が変化することが無いため,V軸方向に関する計測結果を無視でき,U−W平面上の計測結果のみに着目すれば良い。これによりトータルステーションの座標系と車体座標系との間の座標変換が原点の平行移動とY軸周りの角度θ分の回転移動のみで可能となる(図2参照)。
【0048】
また,このとき,計測点とミラー中心のずれはV軸方向のみに制限される。計測点とミラー中心とのずれをV軸方向のみに制限しておけば,計測点とミラー中心のずれを無視してトータルステーションの計測結果と推定結果(すなわちコントローラによる演算結果)との比較を行うことが可能となる。
【0049】
(プリズムミラー51の中心軸51bの計測点への固定方法)
本実施形態では計測点を,(1)車体右端に位置するツース10Aの先端におけるツース厚み方向の中心点TM(図11参照)と,(2)ブームフートピンにおける車体右側端面の中心点に設定する。以下,計測治具40を用いてプリズムミラー51の中心軸51bを計測点に固定する方法を説明する。
【0050】
(ツース10Aへの固定)
ツース10Aの先端へのターゲット部材50(プリズムミラー51)の固定について説明する。まず,ツース10Aの先端への取付け部材60の固定について説明する。図3に示すように,車体右端に位置するツース10Aの先端において,ツース10Aと取付け部材60の間に適切な厚み及び形状を有する高さ調整シム72を配置し,取付け部材60の縦板部60aが車体右側に,横板部60bがツース10A及び高さ調整シム72の下方に位置するように取付け部材60を配置する。この状態で,クランプ71の可動口金部71dをツース10Aの上方に,クランプ71の固定口金部71gを取付け部材60の横板部60bの下方に配置する。そして,可動口金部71dと固定口金部71gの距離が減少する方向にハンドル部71fを回転し続けるとクランプ71の発生する締め付け力により取付け部材60がツース10Aの先端(すなわちバケット10の先端)に強固に固定される。
【0051】
この際,作業者は取付け部材60の縦板部60aの外側面60a1がX−Z平面(すなわちフロント作業装置1Aの動作平面)と平行に配置されるように取付け部材60を固定する。これによりプリズムミラー51の中心軸51bがX−Z平面とU−W平面に直交するように取付け部材60を配置できる。また,作業者は取付け部材60の貫通孔61を介してツース10Aの中心点(すなわち計測点)TMと貫通孔61の中心HMの位置関係を目視しながら,図11に示すようにツース10Aの中心点TMと貫通孔61の中心HMが一致するように取付け部材60を固定する。これによりプリズムミラー51の中心軸51bがツース10Aの中心点TMを通過する位置に取付け部材60を配置できる。その結果,計測点TMとミラー中心の位置ズレはY軸とV軸方向のみに制限できる。
【0052】
取付け部材60の固定が完了したら,取付け部材60の外側面60a1にターゲット部材50を取付ける。その際,外側面60a1に設けられた貫通孔(凹部)61に対してプランジャ54のボール54aを係合させながらターゲット部材50の端面56を外側面60a1に当接させる。この貫通孔(凹部)61とボール54aの係合により,ターゲット部材50の外側面60a1に沿った移動(すなわち,X−Z平面とU−W平面に沿った移動)が拘束される。また,プランジャ54のスプリング54bの復元力とボール54aの凹部54cの内壁面に沿った摺動の作用により貫通孔(凹部)61とボール54aが係合を保持した状態で外側面60a1と端面56が当接される。これにより互いに充分に接近した取付け部材60とターゲット部材50は,ターゲット部材50の端面56に配置された4つの永久磁石80の発生する磁力で結合される。この結果,貫通孔(凹部)61の中心HMとプリズムミラー51のミラー頂点51aと中心軸51bが同一直線上に配置される。すなわち貫通孔(凹部)61の中心HMと同軸上にプリズムミラー51の中心軸51bを容易に配置できる。またスプリング54bの復元力の作用によりターゲット部材50を取付け部材60にガタつき等がなく安定した状態で取付けることができる。
【0053】
なお,このようにフロント作業装置1Aの外縁部にターゲット部材50が取付けられる場合には,ターゲット部材50の外周に,ミラー中心の計測が妨げられない程度の大きさの緩衝材を取付けることが好ましい。これによりフロント作業装置1Aが地面等に接触した際のプリズムミラー51の破損の可能性を低減できる。」

イ 「【0055】
(座標値の比較)
上記のようにターゲット部材50をツース10Aの先端(バケット先端)とブームフートピン35に固定し,それぞれの場合においてトータルステーションの座標系(UVW座標系)におけるプリズムミラー51のミラー中心の座標値をトータルステーションで計測する。ターゲット部材50をツース10Aの先端に固定した場合にはフロント作業装置1Aに所望の姿勢をとらせて座標値を計測する。ここでは計測したトータルステーションの座標系(UVW座標系)におけるツース10Aの先端の座標を(Xbk,Ybk,Zbk),ブームフートピン35の端面の中心の座標を(Xo,Yo,Zo)と表記する。また,フロント作業装置1Aが同じ姿勢のときにコントローラで演算した車体座標系(XYZ座標系)のX−Z平面におけるバケット先端の推定位置を(XbkE,ZbkE)と表記する。上部旋回体12の前後方向の傾斜角(X−Z平面における傾斜角)をθと表記する。なお,ブームフートピン35の軸方向の中心は車体座標系(XYZ座標系)の原点に一致する。
【0056】
この時,コントローラによるバケット先端の推定位置(XbkE,ZbkE)は,次式によりトータルステーションの座標系のU−W平面上の点(XbkE’,ZbkE’)に変換できる。
【0057】
XbkE’=XbkE×COS(θ)+ZbkE×SIN(θ)+Xo
ZbkE’=−XbkE×SIN(θ)+ZbkE×COS(θ)+Zo
トータルステーションの座標系のU−W平面において,バケット先端位置のトータルステーションによる計測結果(Xbk,Zbk)とコントローラによる推定結果(XbkE’,ZbkE’)とを比較することで,コントローラの位置推定機能の正しさを確認することができる。
【0058】
<作用・効果>
フロント作業装置1Aに様々な姿勢をとらせてコントローラの推定機能の正しさを確認するにあたり,計測治具40をフロント作業装置1Aに取付けた状態のままフロント作業装置1Aをその動作平面上(すなわち,車体座標系におけるX−Z平面上)で回動動作させることがある。
【0059】
(プリズムミラー51の位置ズレ・脱落防止)
取付け部材60については,クランプ71によりツース10Aに強固に固定されているためフロント作業装置1Aを回動動作させても動くことはない。
【0060】
ターゲット部材50については,図12及び図13に示すように,まず,フロント作業装置1A(バケット10)の回動動作によりX−Z平面に平行な力91が働く。このとき,取付け部材60の外側面60a1はクランプ71によりX−Z平面に平行に固定されているため,その力91は外側面60a1に平行な力としてターゲット部材50に働く。しかし,プランジャ54のボール54aと貫通孔61の係合によりターゲット部材50の外側面60a1に沿った移動は拘束されている。そのため,作業装置1Aの回動動作によりX−Z平面に平行な力91が作用してもプリズムミラー51の位置がずれることがない。また,フロント作業装置1Aの回動動作中,フロント作業装置1Aの動作平面(X−Z平面)に垂直な方向の力(Y軸方向の力)92,すなわち外側面60a1に垂直な力はほとんど生じない。すなわち,結合部材である磁石80が発生する結合力に抗してターゲット部材50を取付け部材60から離そうとする方向の力はほとんど生じないため,人力で着脱可能な磁力程度でも十分に固定でき,プリズムミラー51の位置がずれることはない。したがって,本実施の形態の計測治具40によれば,プリズムミラー51の取付け対象(計測対象物)であるフロント作業装置1Aが回動動作してもプリズムミラー51の位置ズレや脱落の発生を防止できる。
【0061】
(衝撃荷重作用時のプリズムミラー51の破損可能性の軽減)
また,確認作業中にフロント作業装置1Aを回動動作した際,バケット先端が誤って地面等の障害物に接触する虞がある。しかし,ターゲット部材50については,結合部材である磁石80により取付け部材60と着脱可能に結合されている。そのため,バケット10が地面等に接触するなどして大きな衝撃荷重が取付け部材60に作用した場合には,取付け部材60の変形や地面等から受ける力によりターゲット部材50が取付け部材60から脱落しやすい。これにより取付け部材とターゲット部材が着脱不能に構成されている場合と比較して,障害物との接触時に作用する衝撃が緩和されてプリズムミラー51の破損の可能性を低減できる。
【0062】
なお,取付け部材60についてはクランプ71によりバケット先端に強固に固定されているためバケット10の障害物接触時の衝撃を受けて破損する可能性が高いものの,取付け部材60自体は単純な構造であるため交換は容易であり経済的損失も少ない。
【0063】
<ブームフートピンに取付ける場合の計測治具の変形例>
ブームフートピン35の端面のすぐそばにカバー39(図14参照)等の障害物があり,取り付け部材60Bを介してターゲット部材50をブームフートピン35(図14参照)に取付けられない場合や,取付けられてもトータルステーションから視認できない場合等がある。そのような場合には,図14に示すようなブームフートピン用の取付け部材60A及び固定部材70Aを別途用意することで対応可能となる。
【0064】
図14は取付け部材60Aと固定部材70Aの斜視図であり,図15は図14中の矢印XV方向における取付け部材60Aと固定部材70Aの矢視断面図である。本実施形態の計測治具は,ターゲット部材50と,取付け部材60Aと,固定部材70Aと,ターゲット部材50の端面56に設けられた結合部材としての永久磁石80(図示せず)を備える。このうちターゲット部材50と磁石80については先の実施形態と同じなので説明は省略する。
【0065】
取付け部材60Aは,外側面60a1を有する円盤状の板部材(例えば鉄製)であり,先の例の取付け部材60と同様に固定部材70Aによりフロント作業装置1Aの動作平面と平行に保持される。円盤状の取付け部材60Aの中心には貫通孔61が設けられている。なお,本実施形態では計測点と貫通孔61の中心の位置合わせは貫通孔61の内部を目視して実施する必要は無いので,凹部で形成しても良い。
【0066】
固定部材70Aは,ブームフートピン35の軸方向端面にあるネジ穴36に対し嵌合するネジ部65を介して固定されるピン接合部76と,ピン接合部76との間に架け渡された回動軸77aを中心にブームフートピン35の中心軸37周りに滑らかに回動可能に構成された回動部材77と,回動部材77の中心軸(回動軸心)に直交する軸を共有し,回動部材77の上下にそれぞれ取付けられた四角柱状の部材であるオフセット部材75,79と,オフセット部材79の下端に取付けられたおもり78を有する。
【0067】
ピン接合部76は、ブームフートピン35が結合される側に図17の取り付け部材60Bの端面60a2と同様の端面を有し、ブームフートピン端面にあるネジ穴36と嵌合可能なネジ部65を備える。回動軸77aは,ピン接合部76をブームフートピン35に結合させた状態でブームフートピンの中心軸37と回動軸77aの中心軸が一致するようにピン接合部76によって保持されている。オフセット部材75は,ブームフートピン35の傍のカバー等の障害物39より外側に取付け部材60Aが位置するような充分な軸方向長さを有しており,オフセット部材75の上端には取付け部材60Aが取付けられている。取付け部材60Aの外側面60a1は回動軸77aの中心軸と直交しており,貫通孔61の中心軸は2つのオフセット部材75,79の中心軸と直交している。
【0068】
おもり78の重心はオフセット部材75,79の中心軸を通るよう取付けられている。また,ターゲット部材50を取付け部材60Aに取付けたときのターゲット部材50,取付け部材60A及び固定部材70Aからなる質点系の重心が回動軸77aの中心軸に対してターゲット部材50の中心軸51bと反対側に位置するようにおもり78の重量及び形状が設定されている。これにより固定部材70Aはオフセット部材75,79の中心軸が鉛直に保持された状態で静止し,取付け部材60Aに取付けられたターゲット部材50のプリズムミラー51の中心軸がブームフートピンの中心軸37の鉛直上方に常に位置することになる。
【0069】
したがって,図14,15に示した計測治具を用いれば,ブームフートピン35の中心軸37を鉛直上方に一定距離だけオフセットした点の位置をトータルステーションにより計測可能となる。そして,その計測結果のW座標から貫通孔61と回動軸77aの中心軸間の距離Dw(図15参照)を減じることでブームフートピンの位置を容易に求めることができる。すなわち本実施形態の計測治具によれば,ブームフートピン35の端面の近傍に障害物がある場合にもトータルステーションの座標系(UVW座標系)におけるブームフートピンの位置を計測できる。」

(8) 甲第12号証の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第12号証(特開2018−35645号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 図10「



(9) 甲第13号証の記載
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第13号証(特開2008−312004号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 図5「



(10) 甲第14号証の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第14号証(国際公開第2020/003633号)には、次の事項が記載されている。
ア 図5「



(11) 甲第15号証の記載
本件特許の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第15号証(特開2004−107926号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0054】
また、図11に示すように横方向にほぼ同じ方角で長い法面Gを形成する作業の場合、走行体Sを法面が走る方向に向けて順次移動しながら法面形成を行う。この場合、走行体Sの移動する方向線TLを同一画面上に表示することにより、法面Gのはしる方向と走行体Sの移動方向がほぼ平行であるかをオペレータは確認することができ、走行方向の微妙なずれにより逐一油圧ショベルの位置を修正する手間が削減でき、作業効率が向上する。
【0055】
なお、上記実施の形態はその詳細が上述の例に限定されず、種々の変形が可能である。一例として、上記実施の形態ではバケットと車体を表示したが、少なくともバケット先端の掘削部を表示すれば油圧ショベルの全体またはその一部分を表示してもよい。・・・(後略)・・・」


第5 判断
1 本件特許発明1について
(1) 甲1発明との対比
ア 本件特許発明1の構成1H、1Lについて
甲1発明の構成1h、1lの「地盤改良機誘導システム」は、本件特許発明1における構成1H及び1Lの「地盤改良機用施工位置誘導システム」に相当する。

イ 本件特許発明1の構成1Aについて
甲1発明の構成1a、1d、1gの「GNSSアンテナ」、「受信機」は、それぞれ、本件特許発明1の構成1Aの「衛星測位システムに係る電波を受信するアンテナ」、「受信装置」に相当し、甲1発明において上記「GNSSアンテナ」が「2台」あることは、本件特許発明1において「衛星測位システムに係る電波を受信するアンテナ」が「複数」あることに対応する。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の構成1Aを備えている。

ウ 本件特許発明1の構成1Dについて
甲1発明は、構成1a、1d、1gによれば、「地盤改良機の本体に」「設置し」た「2台のGNSSアンテナ」「の位置情報から、方位と座標を取得」するものであるところ、当該「方位と座標」を取得するために規定される「座標系」が、前記イで検討した点も踏まえると、本件特許発明1の「前記衛星測位システムに対応した地球表面上で規定される所定の全体座標系(O’X’Y’)」に相当することは明らかである。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の構成1Dを備えているといえる。

エ 本件特許発明1の構成1Gについて
前記ウで検討したように、甲1発明は、「地盤改良機の本体に」「設置し」た「2台のGNSSアンテナ」「の位置情報から、方位と座標を取得」し、当該「方位と座標」を取得するために「座標系」(全体座標系(O’X’Y’))を規定するものであるところ、「本体」の「方位」を取得するに当たって、本件特許発明1のように、「前記本体の前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての角度(θ)を計測」していることは明らかであり、また、このために、甲1発明の「地盤改良機誘導システム」が、本件特許発明1の「角度計測部」に相当する手段を備えることも明らかである。
さらに、上記「GNSSアンテナ」については、受信する「電波」に「位置及び時間情報」が含まれ、当該「位置及び時間情報」を基にして対象の「現在位置」の情報が「リアルタイム」に取得されることは技術常識である。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の構成1Gと、「前記地盤改良機の本体について、前記本体の前記前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)をリアルタイムに計測する角度計測部」を備える点で一致するといえる。

オ 本件特許発明1の構成1Bについて
甲1発明は、構成1b、1j、1kによれば、「一の誘導画面の上部右隅部に、「後 28」、「左 8」の文字列を上下に並べて表示し、誘導画面の上部左隅部に、「後 31」、「左 8」の文字列を上下に並べて表示し、GNSSの平面座標、方位を利用して設計上の所定の杭芯へ運転席内のモニターをオペレータが見ながら偏心量を1cm単位で把握でき」るものであるところ、上記した「後 28」、「左 8」、「後 31」、「左 8」等の文字列における数値は、前記第4の1(2)ウで述べたように、断面が円形である杭の中心点である杭芯について、その「偏心量」を「cm単位」で表したものであり、また、それぞれの文字列の先頭の「後」、「左」等の文字は、「運転席」から見た前後左右を表したものと解釈すると全体として意味が整合するから、モニターには、運転席から見た前後左右で、設計上の所定の杭芯への偏心量が表示されるものと推認される。
そして、この場合、運転席から見た前後左右及び偏心量は、前記ウで検討した「全体座標系(O’X’Y’)」ではなく、地盤改良機の運転席を基にして規定される座標系において示されたものであることから、当該座標系は、本件特許発明1における「前記地盤改良機上で規定される所定の局所座標系(OXY)」に相当し、甲1発明は、本件特許発明1の構成1Bと、「前記地盤改良機上で規定される所定の局所座標系(OXY)」を備える点で一致するといえる。

カ 本件特許発明1の構成1Eについて
甲1発明は、構成1e、1fによれば、「GNSSアンテナから攪拌羽根杭芯までの数値をオフセットし杭芯の座標を表示し、攪拌羽根杭芯を、運転席内に取り付けたモニターに表示し所定の位置に地盤改良機を誘導」するものであるところ、上記「GNSSアンテナ」については、前記エで述べたように、受信する「電波」に「位置及び時間情報」が含まれ、当該「位置及び時間情報」を基にして対象の「現在位置」の情報が「リアルタイム」に取得されることは技術常識である。
そして、甲1発明の上記「表示される「杭芯の座標」」は、「所定の位置に地盤改良機を誘導」するためのものであるから、本件特許発明1の「地盤改良機を誘導する際の」「誘導基準点」の「現在位置」に相当し、当該「杭芯の座標」(誘導基準点の現在位置)について、甲1発明で、「GNSSアンテナから攪拌羽根杭芯までの数値をオフセットし」て得ることは、上記した技術常識も踏まえると、本件特許発明1において、「算出」することに相当する事項である。加えて、座標(現在位置)をオフセットして得る(算出する)ために、甲1発明の「地盤改良機誘導システム」が、本件特許発明1の「演算処理部」に相当する手段を備えることは自明である。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の構成1Eを備えているといえる。

キ 本件特許発明1の構成1Fについて
甲1発明は、構成1e、1fによれば、「杭芯の座標を表示し、攪拌羽根杭芯を、運転席内に取り付けたモニターに表示」するものであるところ、上記「モニター」は、本件特許発明1の「表示部」に相当する。
そして、上記「モニター」(表示部)は、「杭芯の座標を表示」するものであるから、前記カにおける検討を踏まえると、甲1発明は、本件特許発明1の構成1Fと、「前記誘導基準点の現在位置を表示する表示部」を備える点で一致するといえる。

ク 本件特許発明1の構成1J、構成1Kについて
甲1発明の構成1b、1j、1kにおける「設計上の所定の杭芯」(断面が円形である杭の中心点)は、本件特許発明1の「施工目標位置」に相当する。
また、甲1発明の構成1b、1j、1kにおいて、「モニター」(表示部)で見ることができる「偏心量」は、前記オにおける検討を踏まえると、本件特許発明1の「前記局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))」に相当するといえる。
そして、前記エで述べたように、「GNSSアンテナ」が受信する「電波」に「位置及び時間情報」が含まれ、当該「位置及び時間情報」を基にして対象の「現在位置」の情報が「リアルタイム」に取得されることは技術常識である。
そうすると、甲1発明は、前記カにおける検討も踏まえて、本件特許発明1の構成1J及び1Kと、「前記誘導基準点の現在位置から前記施工目標位置に到る前記局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))をリアルタイムに修正し、当該誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))を前記表示部にリアルタイムに表示する」点で一致するといえる。

ケ 本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点
前記ア〜クの検討を踏まえると、本件特許発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1〜5で相違する。

(一致点)
「1A 衛星測位システムに係る電波を受信する複数のアンテナ及び受信装置と、
1B’ 前記地盤改良機上で規定される所定の局所座標系(OXY)と、
1D 前記衛星測位システムに対応した地球表面上で規定される所定の全体座標系(O’X’Y’)と、
1E 前記電波に含まれる位置及び時間情報を基にして、地盤改良機を施工目標位置に誘導する際の誘導基準点の現在位置を算出する演算処理部と、
1F’ 前記誘導基準点の現在位置を表示する表示部と、
1G’ 前記地盤改良機の本体について、前記本体の前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)をリアルタイムに計測する角度計測部と、を備えた
1H 地盤改良機用施工位置誘導システムであって、
1J’ 前記誘導基準点の現在位置から前記施工目標位置に到る前記局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))をリアルタイムに修正し、
1K 当該誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))を前記表示部にリアルタイムに表示する
1L 地盤改良機用施工位置誘導システム。」

(相違点1) (構成1B)
本件特許発明1は、「一の前記アンテナ(101A)を原点とする前記地盤改良機(200)上で規定される所定の局所座標系(OXY)」を備えるのに対し、甲1発明では、「所定の局所座標系(OXY)」の「原点」の位置について明らかにされていない点。

(相違点2) (構成1C)
本件特許発明1は、「他の前記アンテナ(101B)と共に前記局所座標系(OXY)の一の座標軸(Y軸)を形成するために前記地盤改良機(200)の同一平面上に設置された機械基準点(120)」を備えるのに対し、甲1発明では、「機械基準点」の「設置」について明らかにされていない点。

(相違点3) (構成1F)
本件特許発明1は、「前記誘導基準点の現在位置(P3’)と施工目標位置(PT)とを表示する表示部(107a)」を備えるのに対し、甲1発明では、「表示部」に、「施工目標位置」としての「設計上の所定の杭芯」(断面が円形である杭の中心点)を表示することについて明らかにされていない点。

(相違点4) (構成1G)
本件特許発明1は、「前記地盤改良機(200)の本体(20)及びリーダー装置(30)について前記本体(20)を基準面に平行に且つ前記リーダー装置(30)を基準方向に平行に設置する施工基準姿勢時の前記本体(20)の前記基準面に関する、前記局所座標系(OXY)の前記一の座標軸(Y軸)に平行な方向である前後方向と該一の座標軸(Y軸)に直交した前記局所座標系(OXY)内の他の座標軸(X軸)に平行な方向である左右方向についての各変化角度(θ1,θ2)、ならびに前記施工基準姿勢時の前記リーダー装置(30)の前記基準方向に関する前記左右方向と前記前後方向についての各変化角度(θ3,θ4)、ならびに前記施工基準姿勢時の前記前記本体(20)の前記前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)を個別にリアルタイムに計測する角度計測部(104、105、106)」を備えているが、これに関し、甲1発明では、「地盤改良機の本体について、本体の前後方向に関する全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)をリアルタイムに計測する角度計測部」を備えること以外については明らかにされていない点。

(相違点5) (構成1I)
本件特許発明1は、「前記演算処理部(103)は、前記各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、前記誘導基準点の現在位置(P3’)についての前記全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置(P3)からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)をリアルタイムに算出」するのに対し、甲1発明では、「各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)」に基づく「ずれ量Δ’(Δx’、Δy’)」の「算出」について明らかにされていない点。

(相違点6) (構成1J)
本件特許発明1は、「当該ずれ量Δ’(Δx’、Δy’)を基に前記誘導基準点の現在位置(P3’)から前記施工目標位置(PT)に到る前記局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))をリアルタイムに修正」するのに対し、甲1発明では、「誘導量」の修正を、「ずれ量Δ’(Δx’、Δy’)を基に」して行うことについて明らかにされていない点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4、5をまとめて、先に検討する。
前記第4の4(2)で説示したように、甲第4号証には、「杭打機において、リーダを垂直に修正する操作をオペレータに頼らずに演算機を用いて自動化することを目的として、演算機4がリーダ前後左右傾斜センサ1と本体前後左右傾斜センサ2よりそれぞれの傾斜角を読み取るようにした点。」(甲4記載の技術事項)が記載されるところ、上記「リーダ前後左右傾斜センサ1」より「読み取る」「傾斜角」と、上記「本体前後左右傾斜センサ2」より「読み取る」「傾斜角」が、それぞれ、本件特許発明1の、前記相違点3に係る構成1Gの「施工基準姿勢時のリーダー装置の基準方向に関する左右方向と前後方向についての各変化角度(θ3,θ4)」、「施工基準姿勢時の本体の基準面に関する一の座標軸に平行な方向である前後方向と該一の座標軸に直交した他の座標軸に平行な方向である左右方向についての各変化角度(θ1,θ2)」に対応するとしても、甲4に記載の技術事項の技術的課題が、上記したように「リーダを垂直に修正する操作をオペレータに頼らずに演算機を用いて自動化することを目的として・・・傾斜角を読み取る」ことにあるのだから、甲1発明に上記甲4記載の技術事項を採用した上で、甲4に記載の技術事項における上記「リーダ前後左右傾斜センサ1」より読み取る上記各「傾斜角」(各変化角度(θ3,θ4)及び上記「本体前後左右傾斜センサ2」より読み取る上記各「傾斜角」(各変化角度(θ1,θ2))と、さらに甲1発明における「進行方向についての変化角度(θ)」に基づいた「誘導基準点の現在位置についての全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)」の「算出」を新たに想起することは、当業者であっても容易とはいえない。
そして、甲第2号証、甲第3号証に、前記第4の2(2)の甲2に記載の技術事項、前記第4の3(2)の甲3に記載の技術事項がそれぞれ記載されているとしても、甲4に記載の技術事項の上記した技術的課題のもとでは、そこに、甲2に記載の技術事項、甲3に記載の技術事項の手段を採用する動機付けがないことに加え、仮に、甲2に記載の技術事項、甲3に記載の技術事項の手段を採用したとしても、甲4に記載の技術事項において読み取る「傾斜角」の種類や方向と、甲2に記載の技術事項において検出する各「傾斜角」や、甲3に記載の技術事項において検出する各「角」の種類や方向が同じとはいえないのであるから、前記相違点4に係る本件特許発明1の構成1Iのように、「各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、誘導基準点の現在位置についての全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)」を「算出」することが導かれるものではない。

なお、甲第1号証〜甲第4号証以外の証拠方法として前記第3で挙げた甲第5号証〜甲第15号証について、上記第4の5(1)〜(11)で摘記した記載を含めて検討しても、上記相違点4及び5に係る本件特許発明1の構成1G及び1Iについて記載又は示唆する箇所は見当たらない。


(3) 申立人の主張について
上記相違点4及び5に係る、本件特許発明1の構成1G及び1Iに係る構成について、申立人は、申立書で以下ア〜エを主張している。なお、申立書における「発明特定事項1G」、「発明特定事項1I」は、それぞれ、本件特許発明1の「構成1G」、「構成1I」に対応する。

ア 「(相違点2);本件特許発明1は、前記地盤改良機(200)の本体(20)及びリーダー装置(30)について前記本体(20)を基準面に平行に且つリーダー装置(30)を基準方向に平行に設置する施工基準姿勢時の前記本体(20)の前記基準面に関する、前記局所座標系(OXY)の前記一の座標軸(Y軸)に平行な方向である前後方向と該一の座標軸(Y軸)に直交した前記局所座標系(OXY)内の他の座標軸(X軸)に平行な方向である左右方向についての各変化角度(θ1,θ2)、ならびに前記施工基準姿勢時の前記リーダー装置(30)の前記基準方向に関する前記左右方向と前記前後方向についての各変化角度(θ3,θ4)、ならびに前記施工基準姿勢時の前記前記本体(20)の前記前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)を個別にリアルタイムに計測する角度計測部(104、105、106)と、を備えているという点を必須の発明特定事項(1G)としているが、甲第1号証には、かかる事項を直接明示する記載はない。」(申立書第30ページ下から7行〜第31ページ6行)

イ 「(相違点3);本件特許発明1は、前記演算処理部(103)は、前記各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、前記誘導基準点の現在位置(P3’)についての前記全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置(P3)からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)をリアルタイムに算出し、当該ずれ量Δ’(Δx’、Δy’)を基に前記誘導基準点の現在位置(P3’)から前記施工目標位置(PT)に到る前記局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))をリアルタイムに修正するという点を必須の発明特定事項(1I、1J)としているが、甲第1号証には、かかる事項を直接明示する記載はない。」(申立書第31ページ7行〜第32ページ14行)

ウ 「相違点2となる発明特定事項1Gは、甲第4号証に概ね記載されている。・・・(中略)・・・
なお、発明特定事項1Gのうち「施工基準姿勢時の前記前記本体(20)の前記前後方向に関する前記全体座標系(O’X’Y’)の一の基準方向(X’軸)から見た方向である進行方向についての変化角度(θ)」の事項については、上述した甲第1号証に記載されているに等しい事項である・・・(後略)・・・。」(申立書第32ページ11行〜第33ページ8行)

エ 「相違点3となる発明特定事項1I、1Jは、設計的事項といい得るものであるが、甲第2号証にも記載されている。すなわち、センシングにより生じる測定位置の誤差を把握することは、当業者が当然考えることであり、各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて当初位置(P3)からのずれ量Δ’を計算に入れることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
甲第2号証には、「3次元位置センサ23,傾斜角センサ24などからの検出結果に基づき、グローバル座標系{X,Y,Z}でのバケット8の先端の現在位置を算出する点」が記載されている・・・(中略)・・・。さらに、甲第2号証の図6(a)(b)には、傾斜状態の油圧ショベルが開示され、作業機の前後方向の変化角度(θ1,θ2,θ3)及び車両本体の左右方向の変化角度(θ4)が表されている・・・(中略)・・・。そして、各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4)に基づいて、現在位置(バケットの先端P3)についてのグローバル座標系(XYZ)上での当初位置からのずれ量(誤差)がリアルタイムに算出されていることは当然のこととして認識し得るものである。すなわち、甲第2号証の上記事項は、「各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、前記誘導基準点の現在位置(P3’)についての前記全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置(P3)からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)をリアルタイムに算出」する事項に相当する。したがって、甲第2号証には、相違点1である本件特許発明1の発明特定事項1I、1Jが記載されていると言える。
なお、甲1発明に、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項を組み合わせた発明は、誘導基準点の現在位置について、地盤改良機の本体及びリーダー装置についての少なくとも前後方向、左右方向及び進行方向に関する所定の施工基準姿勢・基準軸からの各変化角度をリアルタイムにそれぞれ計測しながら、衛生測位システムに対応した全体座標系上での所定の施工基準姿勢からのずれ量をリアルタイムに算出し、そのずれ量に基づいて誘導基準点の現在位置から施工目標位置に至る局所座標系上での誘導量をリアルタイムに算出するように構成されて、その結果、誘導基準点の現在位置を施工目標位置に円滑に誘導することが出来るようになると共に、誘導基準点の現在位置についての施工基準姿勢に相当する当初位置からの全体座標系上でのずれ量を正確に算出することが出来るようになるものであり、本件特許発明1の作用効果と相違するところはない。」(申立書第33ページ9行〜第34ページ12行)

しかしながら、上記エの主張について、甲4記載の技術事項の技術的課題が、「リーダを垂直に修正する操作をオペレータに頼らずに演算機を用いて自動化することを目的として・・・傾斜角を読み取る」ことにあるのだから、甲1発明に上記甲4記載の技術事項を採用した上で、甲4記載の技術事項における上記「リーダ前後左右傾斜センサ1」より読み取る上記各「傾斜角」(各変化角度(θ3,θ4)及び上記「本体前後左右傾斜センサ2」より読み取る上記各「傾斜角」(各変化角度(θ1,θ2))と、さらに甲1発明における「進行方向についての変化角度(θ)」に基づいた「誘導基準点の現在位置についての全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)」の「算出」を新たに想起することは、当業者であっても容易とはいえないことは、前記(2)で述べたとおりである。
また、甲4記載の技術事項の技術的課題のもとでは、そこに、甲2記載の技術事項、甲3記載の技術事項の手段を採用する動機付けがないことに加え、仮に、甲2記載の技術事項、甲3記載の技術事項の手段を採用したとしても、甲4記載の技術事項において読み取る「傾斜角」の種類や方向と、甲2記載の技術事項において検出する各「傾斜角」や、甲3記載の技術事項において検出する各「角」の種類や方向が同じとはいえないのであるから、「各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、誘導基準点の現在位置についての全体座標系(O’X’Y’)上での当初位置からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)」を「算出」することが導かれるものではないことも、前記(2)で述べたとおりである。
そうすると、申立人の上記主張には理由がない。

(4) 小括
相違点4及び5については、前記(2)で説示したとおりであって、本件特許発明1は、相違点4及び5に係る本件特許発明1の構成G及びIを備えることにより、「誘導基準点の現在位置(P3’)について、上記角度計測部(104、105、106)によってリアルタイムに計測される上記各変化角度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ)に基づいて、施工基準姿勢に相当する上記当初位置(P3)からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)がリアルタイムに正確に算出されることになる。これにより、全体座標系(O’X’Y’)上での誘導基準点の現在位置(P3’)と施工目標位置(PT)とをリアルタイムに正確に算出することが可能となる。その結果、・・・(中略)・・・誘導基準点の現在位置(P3’)から施工目標位置(PT)に到る局所座標系(OXY)上での誘導量(ΔM(ΔXM、ΔYM))をリアルタイムに正確に算出することが可能となる。・・・(中略)・・・誘導基準点の現在位置(P3’)を施工目標位置(PT)に円滑に誘導することが出来るようになると共に、誘導基準点の現在位置(P3’)についての当初位置(P3)からのずれ量Δ’(Δx’、Δy’)を正確に算出することが出来るようになる。そのため、地盤改良機の施工姿勢が変化する地盤状況であっても実際に杭を施工した実杭施工位置と施工目標位置との間のずれ(誤差)を最小限に抑えることが可能となる。」(【0015】、【0016】)という作用効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2〜甲4記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件特許発明2〜13について
本件特許発明2〜13は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに減縮した発明であるから、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2〜甲4記載の技術事項並びに甲第5号証〜甲第15号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜13は、甲1発明及び甲2記載の技術事項〜甲4記載の技術事項並びに甲第5号証〜甲第15号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、本件特許発明1〜13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。


第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-12-26 
出願番号 P2020-083939
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E02D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 澤田 真治
小林 俊久
登録日 2022-03-14 
登録番号 7040810
権利者 株式会社ワイビーエム
発明の名称 地盤改良機用施工位置誘導システム  
代理人 富崎 曜  
代理人 富崎 元成  

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