• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G06Q
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G06Q
管理番号 1393449
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-08-07 
確定日 2022-02-28 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第6309504号発明「プログラム、情報処理装置及び情報処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6309504号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3〜7について訂正することを認める。 特許第6309504号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件の特許第6309504号についての手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年12月26日 本件特許出願(特願2015−255513号)
平成30年 3月23日 設定登録
平成30年10月11日 特許異議申立(異議2018−700826号)
平成31年 1月24日 異議決定(異議理由なし,起案日)
平成31年 4月15日 無効審判請求(無効2019−800033号)
令和 2年 4月28日 審決(請求不成立,起案日,審決取消訴訟令和2年(行ケ)10073号)
令和 2年 8月 7日 本件無効審判請求
令和 2年 8月26日 上申書(請求人)
令和 2年12月14日 答弁書
令和 3年 1月21日 審理事項通知書(起案日)
令和 3年 3月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)(以下,「被要領書」という。)
令和 3年 3月 3日 口頭審理陳述要領書(請求人)(以下,「請要領書」という。)
令和 3年 3月 4日 訂正上申書(請求人)
令和 3年 3月18日 口頭審理・調書(両当事者確認済み)
令和 3年 3月24日 審決取消訴訟判決(令和2年(行ケ)第10073号,請求棄却)
令和 3年 3月31日 上申書(被請求人)
令和 3年 5月27日 審決の予告(起案日)
令和 3年 7月30日 訂正請求書
令和 3年 9月16日 訂正拒絶理由通知書(起案日)
令和 3年 9月16日 職権審理結果通知書(起案日)
令和 3年10月22日 手続補正書・意見書(被請求人)
令和 3年11年26日 上申書(請求人)

なお,関連する侵害事件につき,下記の事件に対し上告受理の申立てがなされたが,令和3年9月24日に不受理とされ,当該事件の判決は確定した。
知的財産高等裁判所令和3年2月24日判決言渡 令和2年(ネ)第10050号


第2 請求の趣旨及び答弁の趣旨

1 請求の趣旨
請求人は,
特許第6309504号(以下,「本件特許」という。)の特許を無効とする,
審判費用は被請求人の負担とする,
との審決を求めている。

2 答弁の趣旨
被請求人は,
本件審判請求は成り立たない,
審判費用は請求人の負担とする,
との審決を求めている。


第3 本件発明

本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」といい,その他の請求項に係る発明も同様に称する。また,まとめて「本件発明」ともいう。)は,特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである(なお,A1,B1,C1…等の分説記号は,令和3年1月21日付け審理事項通知書で示した。)。

【請求項1】
A1 患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得部と,
B1 前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と,
C1 前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力部と,
D1 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部と,
E1 前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と,
F1 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部と,
G1 を備える情報処理装置。

【請求項2】
H2 前記入力画面から入力された,取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置へ出力する第3出力部をさらに備えた請求項1に記載の情報処理装置。

【請求項3】
A3 患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得ステップと,
B3 前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと,
C3 前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力ステップと,
D3 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得ステップと,
E3 前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと,
F3 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記端末装置において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと,
I3 を含む情報処理方法。

【請求項4】
A4 患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得ステップと,
B4 前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと,
C4 前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力ステップと,
D4 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得ステップと,
E4 前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと,
F4 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記端末装置において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと,
J4 をコンピュータに実行させる情報処理プログラム。

【請求項5】
K5 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得部と,
L5 前記第1取得部で取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信部と,
M5 前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部と,
N5 前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得部と,
O5 前記第2取得部で取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部と,を備え,
P5 前記表示部は,前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する
Q5 端末装置。

【請求項6】
K6 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと,
L6 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと,
M6 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップと,
N6 前記患者の医療情報が表示された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと,
O6 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと,
P6 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと,
R6 を含む端末装置の制御方法。

【請求項7】
K7 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと,
L7 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと,
M7 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップと,
N7 前記患者の医療情報が表示された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと,
O7 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと,
P7 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと,
S7 をコンピュータに実行させる端末装置の制御プログラム。


第4 無効理由

請求人が主張する無効理由は,以下のとおりである。
理由番号は,令和3年1月21日付け審理事項通知書で示した番号である。

1 理由1−1
本件発明1は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるため,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

2 理由1−3
本件発明3は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるため,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

3 理由1−4
本件発明4は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるため,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

4 理由1−5
本件発明5は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるため,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

5 理由1−6
本件発明6は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるため,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

6 理由1−7
本件発明7は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるため,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

7 理由2−1
本件発明1は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

8 理由2−2
本件発明2は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明並びに甲第3号証〜甲第9号証及び甲第23号証に記載された技術常識に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

9 理由2−3
本件発明3は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

10 理由2−4
本件発明4は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

11 理由2−5
本件発明5は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第10号証〜甲第16号証に記載された技術常識に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

12 理由2−6
本件発明6は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第10号証〜甲第16号証に記載された技術常識に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

13 理由2−7
本件発明7は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第10号証〜甲第16号証に記載された技術常識に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。


第5 証拠方法

1 甲号証
甲第 1号証:特開2004−195006号公報
甲第 2号証:特開2004−201114号公報
甲第 3号証:特開平 10−323332号公報
甲第 4号証:特開2002−269238号公報
甲第 5号証:特開2003− 30323号公報
甲第 6号証:特開2003−337863号公報
甲第 7号証:特開2006−195669号公報
甲第 8号証:特開2006−350812号公報
甲第 9号証:特開2015− 73610号公報
甲第10号証:特開2012−118782号公報
甲第11号証:特開2002−169889号公報
甲第12号証:特開2006−172340号公報
甲第13号証:特開2014− 96065号公報
甲第14号証:特開2012− 81125号公報
甲第15号証:特開2005− 11187号公報
甲第16号証:特開2013−137675号公報
甲第23号証:「術前廻診で何を診るか?」(日本臨床麻酔学会誌第19巻第4号267〜275頁収録)

2 乙号証
乙第 1号証:特開2015− 18461号公報
乙第 2号証:「医療情報システムの完全管理に関するガイドライン(第4.2版)」(平成25年10月 厚生労働省発行)(抄本)
乙第 3号証:判決書(知的財産高等裁判所令和2年(ネ)第10050号)


第6 当事者の主張の概要

1 請求人の主張の概要
(1)理由1−1(新規性)及び理由2−1(進歩性
ア 構成要件C1について
「 甲第1号証には,「第1の病室液晶ナースコール子機2aの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態」において,…(途中省略)…(摘記1-m,【0029】)ことが記載されている。
「第1の病室液晶ナースコール子機2aの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態」とは,甲第1号証の段落【0026】に,「患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付される」(摘記1-i)と記載されているとおり,ナースコール用パーソナルコンピュータ7が,「第1の患者が担持するバーコードに格納されているバーコードデータと,予め記憶された第1の患者のバーコードデータとが一致すると判定した場合」に他ならない。
また,「患者用カルテ,治療計画および食事制限などの患者情報」が「患者の医療情報」に相当することは明らかであり,液晶ナースコール子機2aの表示部に第1の患者に係る患者用カルテなどが表示されるのであるから,第1の患者の医療情報がナースコール用パーソナルコンピュータ7から端末装置に相当する液晶ナースコール子機2aに出力されることは明白である。」(請求書52〜53頁)

イ 構成要件D1,E1について
「 以上のとおり,甲第1号証の段落【0031】には,第1の患者が担持するバーコードを子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして子機用バーコードリーダ1aで読取ると,看護師は,液晶ナースコール子機2aを使用して,第1の患者の体温や脈拍などを記録したり,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができることが記載されている(摘記1-n)。
そして,上記記載における「第1の患者が担持するバーコードを読取り」とは,読取られた第1の患者のバーコードに格納されたバーコードデータが,予め記憶されている「第1の患者のバーコードデータ」(「予め記憶部に記憶された第1識別情報」に相当)と照合され,一致すると判定されることを意味しているから,本件特許発明1の発明特定事項D1が規定する「前記第1識別情報(第1の患者が担持するバーコードに格納されたバーコードデータ)が一致すると判定した場合」に相当する。
また,上記記載における「更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取る」とは,看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取り,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に送信し,予め記憶部に記憶されている当該看護師のバーコードデータと照合され,一致すると判定されることを意味しており,子機用バーコードリーダ1aからナースコール用パーソナルコンピュータ7への読み取りデータの送信は,端末装置に相当する液晶ナースコール子機2aを介して行われるから,ナースコール用パーソナルコンピュータ7は,「看護師を識別するための第2識別情報(看護師が担持するバーコードに格納されたバーコードデータ)を端末装置(液晶ナースコール子機2a)から取得する第2取得部」として機能することは明らかである。」(請求書56〜57頁)

「 また,上述したとおり,上記記載における「看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取る」(摘記1-n,【0031】)とは,看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取り,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に送信し,予め記憶部に記憶されている当該看護師の識別情報と照合され,一致すると判定されることを意味しており,このような照合,判定はナースコール用パーソナルコンピュータ7において実行される。」(請求書57頁)

「 甲1発明においては,看護師や医師が担持するバーコードは,看護師や医師を特定するものであるとともに,看護師や医師が担持するため,他人はそのバーコードを容易に手に入れることはできず,またバーコードであるためバーコードデータを目視で読み取ることもできない。このようなバーコードデータをバーコード読み取り機で読み取らせることは,これを担持する看護師や医師のみができる。そのため,これをアクセス権獲得のためのパスワードとして用いることができるのである。このように,パスワードとして利用できるからといって,看護師や医師が担持するバーコードが,看護師や医師を特定するための識別情報に当たらないなどとすることはできない。観点を変えてあえて述べれば,看護師や医師が担持するバーコードは,看護師又は医師がユーザとして情報端末を利用する際に用いられるユーザIDであるとともにパスワードでもあると理解することもできる。」(請要領書23〜24頁)

ウ 構成要件F1について
「 甲第1号証のナースコール装置においては,上述したとおり,「更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。」(摘記1-n,【0031】)とされている。
…(途中省略)…
読み取られた看護師のバーコードが予め記憶部に記憶されている当該看護師の識別情報と一致すると判定されたときとは,発明特定事項F1が規定する「前記第2識別情報が一致すると判定した場合」に相当し,その場合に,看護師は,「液晶ナースコール装置2a(端末装置に相当)のテンキー操作部(不図示)などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録することができ,ひいては,第1の患者に係る記録データ」をナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送(摘記1-n,【0031】)することができるのである。
そして,液晶ナースコール子機2aを介して患者の体温や脈拍などのデータが入力され,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送される以上,液晶ナースコール子機2aの表示部に何らかの入力画面が表示されるのは当然であり,第1の患者の体温や脈拍などのデータが「前記患者の状態に関する状態情報」に相当するのは明らかであるから,甲第1号証のナースコール装置は,「前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面」を液晶ナースコール子機2a(「端末装置」に相当)に出力する第2出力部を備えているといえる。」(請求書57〜58頁)

エ 甲第1号証の「付加機能」について
「 付加機能の用語の意味についての解釈は,以下のとおりである
段落【0029】までに説明されている「ナースコール装置」を標準機能とするとき,段落【0030】〜【0036】の記載にかかる機能は,この標準機能では備えていない機能として追加した機能を意味する。つまり,付加機能が追加された「ナースコール装置」は,標準機能を備え,さらに,当該付加機能を合わせもつものである。
…(途中省略)…
以上のとおり,付加機能第1は,看護師が病室液晶ナースコール子機2aを用いて記録したバイタルを転送する機能,付加機能第2は,看護師または医師がナースコール用パーソナルコンピュータ7を用いて院内ネットワークへのアクセス権を得る機能,付加機能第5は,手術室液晶ナースコール子機で患者名を表示し,これを用いて看護師または医師が電子カルテのデータを表示する機能であるから,それぞれ独立した機能であり,それぞれ単独であるいはこれらを組み合わせることができる機能である。付加機能第3は,病室子機用バーコードリーダ,手術室子機用バーコードリーダにより看護師又は医師が担持するバーコードが読み取られることにより,ナースステーション,各病室および手術室の何れかからでも院内ネットワークやナースコール用パーソナルコンピュータにアクセスすることができ,患者情報の閲覧や患者情報の変更や削除若しくは登録などを行なうことができるという機能を説明するものであるから,付加機能第1,付加機能第2,付加機能第4,付加機能第5に共通する機能である。
付加機能第4は,特定の病室などに対する人の入出管理を行なう機能であるから,付加機能第1,付加機能第2及び付加機能第5と独立した機能であるが,これらと組み合わせることもできる機能である。」(請要領書1〜3頁)

オ 甲第1号証【0031】の「更に」について
「(前略)…従って,このような構成のナースコール装置によれば,【0031】の前段の処理,すなわち,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ると,図2の画面が現れ,かつ,患者チェック欄にチェックマークが表示されるので,当該バーコードを担持する患者が第1の患者,すなわち,病室A内の第1のベッドに係る患者であることを確認することができる。
「更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取る」と記載されているから,【0026】に記載のとおり,図2に示すような画面が現れ,当該画面の患者チェック欄21には,チェックマークが付されている。
…(途中省略)…
そして,【0031】の後段冒頭の「更に」は,その前段の処理に基づく標準機能の処理がなされた後に,付加的機能第1の処理がなされることを意味している。
標準機能の処理の後,更に,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。これにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部(不図示)などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録することができ,ひいては,第1の患者に係る記録データを前述の第1のバーコードデータと同様の経路を経由してナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができる。
このように,【0031】の「更に」は,標準機能により図2の画面を出現させ,これに加えた付加機能として,看護師が担持するバーコードを読み取らせることを示す意味で用いられていることは明らかである。」(請要領書3〜6頁)

(2)理由2−2(進歩性
ア 相違点について
「 本件特許発明2と甲1発明1とを対比すると,以下の相違点がある。
【相違点2−1】
本件特許発明2は,患者の状態の変化を示すための変化情報を出力する第3出力部を備えるのに対し,甲1発明1は,患者の状態の変化を示すための変化情報を出力するとの特定がない点。」(請求書60頁)

イ 相違点の検討について
「(イ)甲1発明1においてバイタルの入力画面の表示にバイタル変化情報の表示画面を追加することに技術的困難性はないこと…(以下省略)」(請求書61〜62頁)

「(ウ)バイタルの入力画面の表示にバイタル変化情報の表示画面を追加することは,当業者の技術常識であったこと
…(途中省略)…
甲第3号証〜甲第9号証は,端末装置において患者のバイタル情報を入力すること,このバイタル情報の入力画面に前回または過去のバイタル情報を表示したり…(途中省略)…することは,本件特許出願の優先日前の当業者の技術常識であったことを示している。
また,甲第23号証も,バイタル情報の変更情報が電子カルテに記録され,医療情報として参照されるものであることが記載されている。」(請求書62〜63頁)

(3)理由1−3〜理由1−4(新規性)及び理由2−3〜理由2−4(進歩性
ア 本件発明3について
「 本件特許発明3は,単に,本件特許発明1の発明特定事項A1〜F1末尾の「取得部」,「判定部」,及び「出力部」を,それぞれ「取得ステップ」,「判定ステップ」,及び「出力ステップ」に置き換え,発明のカテゴリーを「情報処理装置」(発明特定事項G1)から,「情報処理方法」(発明特定事項I3)に変更したに過ぎず,本件特許発明3の発明特定事項と本件特許発明1の発明特定事項との間に実質的な差異はない。」(請求書64頁)

イ 本件発明4について
「 本件特許発明4は,本件特許発明3の「情報処理方法」を「コンピュータに実行させる情報処理プログラム」に変更し,発明のカテゴリーを変更したにすぎない。」(請求書65頁)

(4)理由1−5〜1−7(新規性)及び理由2−5〜2−7(進歩性
ア 本件発明5について
「 以上のとおり,本件特許発明5は,本件特許発明1に係る情報処理装置と情報のやりとりをする相手として記載されている「端末装置」に係るものであり,本件特許発明5における発明特定事項は,本件特許発明1における発明特定事項を単に「端末装置」に即して表現しただけにすぎない。」(請求書67頁)

「 本件特許発明5と甲1発明5とを対比すると,以下の相違点がある。
【相違点5−1】
看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する」条件について,本件特許発明5においては「前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合に」と規定しているのに対し,甲1発明5においては,「第1の患者が担持するバーコードに格納されているバーコードデータと予め記憶された第1の患者のバーコードデータとが一致すると判定した場合に」とするものである点。」(請求書68頁,調書)

「そうすると,相違点5−1は,本件特許発明1が情報処理装置に関する発明((1)の患者の特定は情報処理装置が行うから,これを発明特定事項として規定している)であるのに対し,本件特許発明5がこれと情報を授受する端末装置に関する発明((1)の患者の特定は情報処理装置が行うため,端末装置はその患者の特定後に情報処理装置から送信される当該患者の医療情報を表示することを発明特定事項として規定している)であることに由来する形式的な相違点にすぎないと解される。」(請求書69頁。なお,丸数字は半角カッコ数字で表記した。以下同じ。)

「(ウ)甲1発明5における患者の認証後の看護師の認証
…(途中省略)…
したがって,看護師は,「前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報の入力を受け付ける表示画面」を表示する前に,所定の操作を行なって,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から,第1の患者に係る患者用カルテなどの患者情報を取得して表示することが当然に前提されているものと解される。その後,看護師が担持するバーコードに格納されたバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7に送信することは,通常のベッドサイド端末の使用方法である。」(請求書70頁,調書)

「(エ)患者の医療情報が表示されてから,医療スタッフの識別情報を取得するように構成することが技術常識であったこと
…(甲第10号証〜甲第16号証の摘記含め途中省略)…
以上のとおり,患者認証(患者の特定)によって患者の医療情報を表示した上で,医療スタッフの識別情報を取得するように構成することは,本件特許の出願日前に広く行われた技術常識である。」(請求書70〜81頁)

イ 本件発明6について
「 本件特許発明6は,単に,本件特許発明5に係る「端末装置」(発明特定事項Q5)を,「端末装置の制御方法」(発明特定事項R5)に置き換え,発明のカテゴリーを装置から方法へと変更したにすぎないものである。」(請求書82頁)

ウ 本件発明7について
「 本件特許発明7は,本件特許発明6の「端末装置の制御方法」(発明特定事項R6)を「コンピュータに実行させる端末装置の制御プログラム」(発明特定事項S7)に置き換えたにすぎないものである。」(請求書83頁)

2 被請求人の主張の概要
(1)本件発明の意義について
「 したがって,本件発明1は,患者と医療従事者のそれぞれに対して必要十分な情報を提供しながら,煩雑な作業なしに,患者とベッドの対応付けの誤りによる患者の取り違えを防止することを目的とする技術なのである。…(途中省略)…すなわち,患者識別情報が正しいことを情報処理装置で確認してから,その患者の医療情報を,端末装置を用いて出力しているため,端末装置を利用する患者と,端末装置から出力される医療情報とを間違いなく確実に対応させることができるのである。」(答弁書8頁)

「 本件発明にかかる情報処理装置の主たる目的は,分説された請求項1の構成要件F1に記載されているとおり,「患者の状態に関する状態情報の入力を受け付ける」ことにあります。
そして,この患者の状態情報を,患者の取り違えが起こらないように受け付けるため,「第1(患者)識別情報の取得」→「第1識別情報の判定」→「患者の医療情報の出力」→「第2(看護師等)識別情報の取得」→「第2識別情報の判定」という5つものステップを経て,「状態情報」の「入力画面」を出力することを特徴としています。このように,「状態情報」の「入力画面」の出力までに大きなハードルを用意しているのです。」(被要領書3頁,8頁(同旨),12頁(同旨))

「 そして,本件発明1によれば,患者と医療従事者とが同じ情報端末を共有し,患者にとって必要十分な情報と医療従事者にとって必要十分な情報とを,患者の取り違えを防止しつつ,タイミングよく提供することができる。また,たとえ寝たきりの患者や認知症の患者などの情報を知りたい場合であっても,医療従事者は,信頼できるセキュリティの下で正確に情報を取得し,更新することができる。
従来のように,端末IDを患者名に変換してから電子カルテシステムで患者名に対応する医療情報を引き出すという2段階のステップでは,表示された医療情報に含まれる患者名がそのベッドに寝ている患者と対応しているか,医療スタッフが毎回目視で確認しなければならず,それを怠ることによる人為的な事故が生じる可能性があった。しなしながら,本件発明1によれば,患者識別情報から直接に正確な医療情報を引き出すため,従来行われていた医療スタッフの目視による確認の必要がなく,かつ,患者の取り違えによる事故を確実に防止することができるのである。」(答弁書12頁)

(2)甲第1号証について
ア 「(前略)…甲第1号証の基本的な技術概念は,「バーコードをパスワードとして利用する」ことである。」(答弁書12〜13頁)

イ パスワードとして利用される「バーコード」及びユーザIDについて
「 かかる記載から,第1のバーコードデータと,第1の患者のバーコードデータが一致すれば,下記に引用する図2に示す画面を表示することが理解されるが,…(途中省略)…患者バーコードのみで表示されるのはあくまでも患者名と担当医名とチェックマークのみである。…(途中省略)…
ここで表示されるチェックマークはもちろんのこと,患者名や担当医師名についても「患者の医療情報」には該当しない。特に,上記の段落【0026】には,バーコードが一致した場合にナースコール用パーソナルPC7からナースコール子機2a伝送されているのは「一致信号」であると記載されているが,…(途中省略)…「一致信号」は患者の医療情報ではない。」(答弁書15〜16頁)

「(前略)…データベースには,「第1の患者のものとして登録されたバーコードデータ」だけではなく,「第2の患者のものとして登録されたバーコードデータ」,「第3の患者のものとして登録されたバーコードデータ」が登録されているはずである。…(途中省略)…常識的に考えて,ナースコール用PC7内のデータベースには,下図のようにナースコール子機2aを識別する子機IDと,第1の患者のバーコードデータとが紐付けてあると考えるべきである。

ナースコール子機2aからナースコール用PC7に送信されてきたバーコードデータについては,当然ながら,ナースコール子機2aの子機IDに紐付けられたバーコードデータ(これが,段落【0026】で急に登場した「第1の患者のバーコードデータ」)と比較するものである。…(途中省略)…ナースコール子機と患者名との対応関係が,ナースコール用PC7内のデータベースに登録されていることは,当然というべきである。
以上を踏まえて,甲第1号証の段落【0029】を検討するに,まず,同段落には以下の記載がある。…(途中省略)…
ナースコール子機2aと患者とは初めから(バーコードを読み取るまでもなく)紐付けられているが,患者のバーコードが読み取られて,チェックマークが付された状態で,看護師などが所定の操作を行えば,患者用カルテ,治療計画などといった「患者情報」が表示される。」(答弁書17〜19頁)

「甲第1号証において患者バーコードの判定によって表示される情報は,あくまでも患者名や担当医師名であって,看護師による患者取り違えの防止を図るために確認することを目的とする情報であり,本件発明における「患者の医療情報」とは,目的も内容も異なるものです。」(被要領書10頁)

「 次に,段落【0030】及び【0031】には,下記の記載がある。…(途中省略)…つまり,下図のように,患者が担持するバーコードが,「ユーザID」として用いられ,看護師が担持するバーコードが「パスワード」として用いられるのである。…(図省略)…
さらに,段落【0033】には下記の記載がある。…(途中省略)…段落【0033】においては,患者情報の閲覧のために,看護師や医師が担持するバーコードがナースコール用パーソナルコンピュータ7に送られることだけが記載されており,患者のバーコードの読取には一切触れられていない。このことから,甲1発明では,患者情報の閲覧のために,患者のバーコードが必要とは考えていないことが理解される。
加えて,段落【0032】,【0034】〜【0036】においても,同様に,看護師,医師が担持するバーコードをパスワードとして用いるケースについて説明がなされているが,いずれも,患者識別情報の判定結果を条件として,看護師,医師が担持するバーコードの読取が行われるものではない。また,患者識別情報の判定後に患者の医療情報を提供するものでもない。」(答弁書19〜21頁)

(3)理由1−1(新規性),2−1(進歩性
ア 甲第1号証に記載された発明との相違点
「(前略)…本件特許発明1と甲1発明は,患者の取り違えを防止する技術としては共通しているが,本件特許発明1は患者と医療従事者のそれぞれに対して必要十分な情報を提供しながら,煩雑な作業なしに,患者とベッドの対応付けの誤りによる患者の取り違えを防止することを主たる目的とするものである一方,甲1発明は看護師がナースコール用子機を操作するにあたって患者の取り違えを防止するものであり,そもそも技術思想が異なる発明である。
また,甲1発明のナースコール用子機において表示される患者名が,ナースコール用子機のそばにいる患者の患者名となるのは,データデータに登録されたナースコール用子機のIDと患者名との対応関係が最新情報に更新されている場合のみである。…(途中省略)…
これに対し,本件特許発明1においては,端末装置を通じて取得された患者識別情報を情報処理装置に送って判定させ,さらに医師等識別情報の判定をさせるので,医師や看護師用の医療情報を提示したり,端末装置から患者の状態情報を取得したりする場合に,端末装置に提示される情報や端末装置から取得される情報が,端末装置に紐付けされた患者のものであると確実に信頼することができる。例えば,患者がベッド間を移動したり,端末装置がベッド間を移動したりした場合においても,患者識別情報そのものを認証するので,端末装置に表示されている医療情報が,その端末装置のそばにいる患者の医療情報であることが保証される。」(答弁書22頁)

「(1) 相違点A
甲1発明には,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を,前記端末装置へ出力する第1出力部」(構成要件1C)が無い点。」(答弁書23頁,調書)

「(前略)…甲第1号証において患者バーコードの判定によって表示される情報は,あくまでも患者名や担当医師名であって,看護師による患者取り違えの防止を図るために確認することを目的とする情報であり,本件発明における「患者の医療情報」とは,目的も内容も異なるものです。」(被要領書10頁)

「(2) 相違点B
甲1発明には,「前記第1識別情報が一致すると判定された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」(構成要件1D)が無い点。
(3) 相違点C
「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」を条件として取得した「前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部」(構成要件1E)が無い点。
(4) 相違点D
甲1発明には,「前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部」(構成要件1F)における「前記第2識別情報」が「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」を条件として取得したものではない点。」(答弁書23頁,調書)

「甲第1号証は,ナースコールの発明に関するものであるため,明細書中では一貫して,看護師が主体となっています。前記段落【0031】でも,看護師が,患者バーコードと看護師バーコードとを順番に連続して読み取ることを意味しています。ここは,段落【0031】の冒頭に記載されているとおり,あくまでも「看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合」についての説明であり,患者バーコードの認証は想定していません。看護師バーコードの認証を行うことは明確ですが,看護師は,通常,非常に多忙であるため,患者バーコードの読取と看護師バーコードの読取を連続的かつ迅速に行い,誰が誰の体温や脈拍などを記録したのかを,次から次へとデータベースに残していくのです。」(被要領書7〜8頁,11頁(同旨))

「 第2取得部における「看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する」条件について,本件発明は,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,」取得するのに対し,甲第1号証のナースコール装置は,そのような条件はありません。したがって,「第2判定部」における「前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報と」「一致するか否か判定する」「前記第2識別情報」が,本件発明では,「第2取得部」で取得された「第2識別情報」であるのに対し,甲第1号証の「看護師のバーコードデータ」は,そのような条件で取得されたものではありません」(被要領書13〜14頁)

イ 甲第1号証の「付加機能」について
「 被請求人は,段落【0031】〜【0036】の「第1」から「第5」で説明される機能は,段落【0029】までに説明されている「ナースコール装置」とはそれぞれ独立した別の実施例であり,かかる「ナースコール装置」とは別に付加される機能であると解釈しています。」(被要領書7頁)

ウ 甲第1号証【0031】の「更に」について
「 この部分は,文言通り,患者バーコードを読み取った後に連続的に看護師バーコードの読取を行うと解釈すべきです。患者が担持するバーコードの読取に関する記載は,段落【0025】,【0027】にありますが,双方,看護師が患者を確認するための読取であり,患者本人によるバーコードの読取ではありません。甲第1号証は,ナースコールの発明に関するものであるため,明細書中では一貫して,看護師が主体となっています。前記段落【0031】でも,看護師が,患者バーコードと看護師バーコードとを順番に連続して読み取ることを意味しています。ここは,段落【0031】の冒頭に記載されているとおり,あくまでも「看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合」についての説明であり,患者バーコードの認証は想定していません。看護師バーコードの認証を行うことは明確ですが,看護師は,通常,非常に多忙であるため,患者バーコードの読取と看護師バーコードの読取を連続的かつ迅速に行い,誰が誰の体温や脈拍などを記録したのかを,次から次へとデータベースに残していくのです。」(被要領書7〜8頁)

「 また,甲第1号証には,「第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。」(強調付加)(段落【0031】)との記載があるが,これは,患者バーコード及び看護師バーコード(パスワード)を続けて読み取ることで病室液晶ナースコール子機1aからナースコール用PCにログインして,患者用カルテを表示させることを意味しており,患者バーコードの一致を条件として看護師バーコードの読取を行っているわけではない。」(答弁書24頁)

「 そして,当該別件無効審判請求事件の審決において,御庁は,「『ベッドサイド端末識別子』と『医療スタッフ識別子』を一体不可分に用いるものであると解するのが自然である」と認定判断し,本件発明の第2取得部における「看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する」条件として「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,」取得するという条件が前記特開2005−275607号公報には開示されていないと結論付けております。
本無効審判においても,これと全く同じ論理が成り立つものであり,甲第1号証の段落【0031】の患者バーコード及び看護師バーコードは,ユーザID及びパスワードのように一体不可分に用いられると解されるものです。」(被要領書4〜5頁)

(4)理由2−2〜2−7(進歩性
「また,本件特許の請求項2ないし7の記載にかかる本件特許発明2〜7についても,同様に,甲1発明と甲第2号証ないし甲第16号証及び甲第23号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない」(答弁書28頁)


第7 訂正請求について

1 訂正請求の内容
令和3年7月30日に提出された訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正(補正前)」という。)の内容は,特許第6309504号の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものである。
訂正の内容は,次のとおりである。なお,下線は訂正箇所を示すものとして訂正請求人(無効審判被請求人,以下,「被請求人」という。)が付加したものである。
(1)訂正事項1
本件訂正(補正前)前の特許請求の範囲の請求項1に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力部」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部」に訂正する。
本件訂正(補正前)前の特許請求の範囲の請求項1に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を,前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得部」に訂正する。
本件訂正(補正前)により,特許請求の範囲の請求項1に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を前記端末装置から取得する第3取得部と,
前記第3識別情報と,前記記憶部に前記医療関係者を識別する情報として予め記憶された第3識別情報とが一致するか否か判定する第3判定部と,
前記第3識別情報が一致すると判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を前記端末装置へ出力する第3出力部と,」を追加する。
請求項2において,「第3出力部」を「第4出力部」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項3〜7について,請求項1と同様に訂正する。

(3)訂正事項1,2の訂正事項について
ア 訂正事項1
当審では,検討の便宜から,訂正事項1を,次のとおりに分割する。
<訂正事項1−1>
本件訂正(補正前)前(特許公報に掲載された願書に添付した特許請求の範囲)の特許請求の範囲の請求項1(以下,「訂正前請求項1」という。同様に,本件訂正(補正前)前の特許請求の範囲の請求項2〜7を,それぞれ,「訂正前請求項2」,…,「訂正前請求項7」という。)に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力部」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部」に訂正する。

<訂正事項1−2>
訂正前請求項1に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を,前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得部」に訂正する。

<訂正事項1−3>
訂正前請求項1に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を前記端末装置から取得する第3取得部と,
前記第3識別情報と,前記記憶部に前記医療関係者を識別する情報として予め記憶された第3識別情報とが一致するか否か判定する第3判定部と,
前記第3識別情報が一致すると判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を前記端末装置へ出力する第3出力部と,」を追加する。

<訂正事項1−4>
訂正前請求項2の「第3出力部」を,本件訂正(補正前)により,「第4出力部」にする。

イ 訂正事項2について
検討の便宜から,訂正事項2について,本件訂正(補正前)により訂正された特許請求の範囲の請求項3〜7の記載に基づき,次のとおりに分割する。

(ア)請求項3について
<訂正事項2−3−1>
訂正前請求項3に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」に訂正する。

<訂正事項2−3−2>
訂正前請求項3に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得ステップ」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップ」に訂正する。

<訂正事項2−3−3>
訂正前請求項3に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を前記端末装置から取得する第3取得ステップと,
前記第3識別情報と,前記記憶部に前記医療関係者を識別する情報として予め記憶された第3識別情報とが一致するか否か判定する第3判定ステップと,
前記第3識別情報が一致すると判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を前記端末装置へ出力する第3出力ステップと,」を追加する。

(イ)請求項4について
<訂正事項2−4−1>
訂正前請求項4に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」に訂正する。

<訂正事項2−4−2>
訂正前請求項4に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得ステップ」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップ」に訂正する。

<訂正事項2−4−3>
訂正前請求項4に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を前記端末装置から取得する第3取得ステップと,
前記第3識別情報と,前記記憶部に前記医療関係者を識別する情報として予め記憶された第3識別情報とが一致するか否か判定する第3判定ステップと,
前記第3識別情報が一致すると判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を前記端末装置へ出力する第3出力ステップと,」を追加する。

(ウ)請求項5について
<訂正事項2−5−1>
訂正前請求項5に「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部」に訂正する。

<訂正事項2−5−2>
訂正前請求項5に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を取得する第3取得部と,
前記第3識別情報と,前記記憶部に前記医療関係者を識別する情報として予め記憶された第3識別情報とが一致するか否か判定する第3判定部と,」を追加する。

<訂正事項2−5−3>
訂正前請求項5に「前記表示部は,前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記表示部は,前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示し,前記第3識別情報が一致すると判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を表示する」に訂正する。

(エ)請求項6について
<訂正事項2−6−1>
訂正前請求項6に「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップ」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップ」に訂正する。

<訂正事項2−6−2>
訂正前請求項6に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を前記端末装置から取得する第3取得ステップと,
前記第3取得ステップで取得した前記第3識別情報と記憶部に予め記憶された第3識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を表示する第3表示ステップと,」を追加する。

(オ)請求項7について
<訂正事項2−7−1>
訂正前請求項7に「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップ」と記載されているのを,本件訂正(補正前)により,「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップ」に訂正する。

<訂正事項2−7−2>
訂正前請求項7に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,医師,薬剤師またはレントゲン技師を含む医療関係者を識別するための第3識別情報を前記端末装置から取得する第3取得ステップと,
前記第3取得ステップで取得した前記第3識別情報と記憶部に予め記憶された第3識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合に,前記医療関係者向けの画面を表示する第3表示ステップと,」を追加する。

(4)一群の請求項についての説明
訂正前の請求項2は請求項1を引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前請求項1,2に対応する本件訂正(補正前)後の請求項1,2は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

2 令和3年10月22日提出の手続補正書による訂正請求書及び訂正特許請求の範囲についての補正
訂正拒絶理由通知に対する補正(令和3年10月22日提出の手続補正書による補正)は,本件訂正請求書に添付した全文特許請求の範囲についての補正であり,同日付けの意見書によれば次の補正を含むものである。なお,下線は,被請求人が付与した。また,下記で摘記した事項について,「本件訂正前」及び「本件訂正により」の「本件訂正」は,令和3年10月22日提出の手続補正書により補正された訂正請求書及び訂正特許請求の範囲についての訂正(以下,「本件訂正」という。)であることは明らかである。

(1)補正1
「<訂正事項1−1>
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1(以下,「訂正前請求項1」という。同様に,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2〜7を,それぞれ,「訂正前請求項2」,…,「訂正前請求項7」という。)に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力部」と記載されているのを,本件訂正により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれかIつを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力部」に訂正する。」
「処置情報の少なくともいずれかIつを」は「処置情報の少なくともいずれか1つを」の明らかな誤記である。

(2)補正2
「<訂正事項1−2>
訂正前請求項1に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」と記載されているのを,本件訂正により「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を,前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得部」に訂正する。」

(3)補正3
「<訂正事項2−3−1>
訂正前請求項3に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」と記載されているのを,本件訂正により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハピリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報.及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」に訂正する。」
下線の「として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハピリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報.及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」は,「として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」の明らかな誤記である。

(4)補正4
「<訂正事項2−3−2>
訂正前請求項3に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得ステップ」と記載されているのを本件訂正により「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップ」に訂正する。」

(5)補正5
「<訂正事項2−4−1>
訂正前請求項4に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」と記載されているのを,本件訂正により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップ」に訂正する。」

(6)補正6
「<訂正事項2−4−2>
訂正前請求項4に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得ステップ」と記載されているのを,本件訂正により,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップ」に訂正する。」

(7)補正7
「<訂正事項2−5−1>
訂正前請求項5に「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部」と記載されているのを本件訂正により「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部」に訂正する。」

(8)補正8
「<訂正事項2−6−1>
訂正前請求項6に「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップ」と記載されているのを,本件訂正により,「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハピリ情報.投薬情報.検査情報.手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し端末装置に表示する第1表示ステップ」に訂正する。」
下線の「として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハピリ情報.投薬情報.検査情報.手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」は,「として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」の明らかな誤記である。

(9)補正9
「<訂正事項2−7−1>
訂正前請求項7に「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し端末装置に表示する第1表示ステップ」と記載されているのを本件訂正により「前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として.前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ.リハビリ情報.投薬情報.検査情報.手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し端末装置に表示する第1表示ステップ」に訂正する。」
下線の「として.前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ.リハビリ情報.投薬情報.検査情報.手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」は,「として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」の明らかな誤記である。

(10)一群の請求項についての説明
訂正前の請求項2は請求項1を引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前請求項1,2に対応する本件訂正後の請求項1,2は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
なお,上記1(3)の訂正事項の番号と,上記3の補正後の訂正事項の番号が同一のものは,同一の内容であることから,以後,特段の事情がない限り,両者を区別しない。

3 補正についての判断
(1)補正1及び補正2について
補正1及び補正2は,補正前訂正事項1を訂正事項1−1〜1−3に分けたうちの訂正事項1−3の部分を削除し,残りの部分を,訂正事項1−1及び訂正事項1−2とする補正である。
そして,訂正事項1−1及び1−2と,訂正事項1−3は,技術的に関連しておらず,訂正事項1−3を削除することは,単純に審理対象を減少させるのみであって,補正前後で審理対象を拡張変更するものではないことから,補正1及び補正2は,訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(2)補正3〜6について
補正3及び補正4は,請求項3についての補正前の訂正事項2−3−1,訂正事項2−3−2及び訂正事項2−3−3のうち,訂正事項2−3−3を削除し,訂正事項2−3−1及び訂正事項2−3−2とする補正であり,補正5及び補正6は,請求項4についての補正前の訂正事項2−4−1,訂正事項2−4−2及び訂正事項2−4−3のうち,訂正事項2−4−3を削除し,訂正事項2−4−1及び訂正事項2−4−2とする補正であるから,上記(1)と同様に,補正3〜6は,訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(3)補正7について
補正7は,請求項5についての補正前の訂正事項2−5−1,訂正事項2−5−2及び訂正事項2−5−3のうち,訂正事項2−5−2及び訂正事項2−5−3を削除し,訂正事項2−5−1とする補正であるから,上記(1)と同様に,補正7は,訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(4)補正8,9について
補正8は,請求項6についての補正前の訂正事項2−6−1及び訂正事項2−6−2のうち,訂正事項2−6−2を削除し,訂正事項2−6−1とする補正であり,補正9は,請求項7についての補正前の訂正事項2−7−1及び訂正事項2−7−2のうち,訂正事項2−7−2を削除し,訂正事項2−7−1とする補正であるから,上記(1)と同様に,補正8及び9は,訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(5)補正についての小括
以上のとおりであるから,令和3年10月22日提出の手続補正書による補正は,特許法第134条の2第9項で準用する同法第131条の2第1項に適合する。

4 訂正についての判断
(1)訂正事項1−1及び訂正事項1−2について
訂正事項1−1は,本件訂正前の「前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を,前記端末装置へ出力する第1出力部」を,本件訂正により「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部」とするものであって,端末装置へ出力されるものを「患者の医療情報」から,「患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面」と下位概念化するものであるから,特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして,訂正事項1−2は,訂正事項1−1に関連する訂正であって,本件訂正前に「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」と記載されているのを,本件訂正により「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を,前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得部」とするものであって,「第2取得部」が,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を,「前記患者用画面が表示された端末装置」から取得すると下位概念化するものであるから,特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また,特許明細書等に記載した事項の範囲内であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2−3−1及び訂正事項2−4−1について
訂正事項2−3−1及び訂正事項2−4−1は訂正事項1−1に対応する訂正であり,訂正事項2−3−2及び訂正事項2−4−2は訂正事項1−2に対応する訂正であるから,いずれも,特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また,特許明細書等に記載した事項の範囲内であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項2−5−1について
訂正事項2−5−1は,訂正事項1−1に対応する訂正であるから,特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また,特許明細書等に記載した事項の範囲内であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項2−6−1及び訂正事項2−7−1について
訂正事項2−6−1及び訂正事項2−7−1は,いずれも,訂正事項1−1に対応する訂正であるから,特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また,特許明細書等に記載した事項の範囲内であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正事項1−1及び訂正事項1−2に係る訂正前の請求項1及び2について,請求項2は,請求項1を引用するものであって,訂正事項1−1及び訂正事項1−2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また,訂正前の請求項1及び2は訂正後の請求項1及び2にそれぞれ対応する。
したがって,訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第4項に規定する一群の請求項である。

5 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とし,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合し,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
なお,本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1〜7について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項1〜7に係る訂正事項1−1〜訂正事項2−7−1に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。


第8 本件訂正後の発明

上記「第7」のとおりであるから,本件訂正により訂正された特許請求の範囲に係る発明は,補正された訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定されるもの(以下,それぞれ,「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明7」といい,まとめて「本件訂正発明」という。)であって,次のとおりである。なお,下線は,訂正箇所であって,被請求人が付与したものである。分説記号は,「本件発明」の分説記号にならって,当審が付与した。
「 【請求項1】
A1 患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得部と,
B1 前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と,
C1’ 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部と,
D1’ 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を,前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得部と,
E1 前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と,
F1 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部と,
G1 を備える情報処理装置。
【請求項2】
H2 前記入力画面から入力された,取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置へ出力する第3出力部をさらに備えた請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
A3 患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得ステップと,
B3 前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと,
C3’ 前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップと,
D3’ 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップと,
E3 前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと,
F3 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記端末装置において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと,
I3 を含む情報処理方法。
【請求項4】
A4 患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得ステップと,
B4 前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと,
C4’ 前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップと,
D4’ 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップと,
E4 前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと,
F4 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記端末装置において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと,
J4 をコンピュータに実行させる情報処理プログラム。
【請求項5】
K5 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得部と,
L5 前記第1取得部で取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信部と,
M5’ 前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部と,
N5 前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得部と,
O5 前記第2取得部で取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部と,を備え,
P5 前記表示部は,前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面
Q5 を表示する端末装置。
【請求項6】
K6 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと,
L6 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと,
M6’ 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップと,
N6 前記患者の医療情報が表示された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと,
O6 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと,
P6 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと,
R6 を含む端末装置の制御方法。
【請求項7】
K7 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと,
L7 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと,
M7’ 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,端末装置に表示する第1表示ステップと,
N7 前記患者の医療情報が表示された場合に,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと,
O7 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと,
P7 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと,
S7 をコンピュータに実行させる端末装置の制御プログラム。」


第9 甲第1号証の記載について

1 甲第1号証記載事項
本件特許の出願前に国内において頒布された甲第1号証には,次の事項が記載されている。

「【請求項1】
病室などに設置された液晶ナースコール子機(2a,2b)の患者からの呼出に応じて,廊下に設置された集合廊下灯(3a,3b,3c,…),病院内に設置されたナースコール制御機(4)を介してナースステーションなどに設置されたナースコール親機(5)に呼出を報知/表示させ,前記ナースステーション内に設置されたナースコール用パーソナルコンピュータ(7)に予め記憶されている患者情報を報知/表示させるナースコール装置において,
前記液晶ナースコール子機は,前記患者情報と照合し前記患者の確認をするため前記患者によって担持され前記患者を特定するバーコードを読取る子機用バーコードリーダ(1a,b)を備えたことを特徴とするナースコール装置。」

「【請求項3】
前記患者によって担持され前記患者を特定するバーコードを前記子機用バーコードリーダで読取り,更に看護師によって担持され前記看護師を特定するバーコードをパスワードとして前記子機用バーコードリーダで読取ることにより前記液晶ナースコール子機で患者の体温,脈拍などの患者の状態を記録し,前記ナースコール用パーソナルコンピュータに転送することを特徴とする請求項1記載のナースコール装置。」

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,このような構成のナースコール装置においては,病室内の患者や手術室内の患者を特定する手段を備えていないことから,患者の確認を行なうことができず,ひいては患者をとり間違えたり,投薬ミスなどの医療過誤を誘発するおそれがあるという難点があった。
【0007】
本発明は,このようなナースコール装置の難点を解決するためになされたもので,バーコードを用いて患者の確認を行ない,また,バーコードをパスワードとして利用することにより患者情報などを閲覧することができ,ひいては患者をとり間違えたり,投薬ミスなどの医療過誤の誘発を防止することができるナースコール装置を提供することを目的とする。」

「【0009】
また,本発明のナースコール装置は,患者によって担持され患者を特定するバーコードを子機用バーコードリーダで読取ることにより液晶ナースコール子機で患者用カルテ,治療計画,食事制限などの患者情報を閲覧することができるように構成されている。
【0010】
また,本発明のナースコール装置は,患者によって担持され患者を特定するバーコードを子機用バーコードリーダで読取り,更に看護師によって担持され看護師を特定するバーコードをパスワードとして子機用バーコードリーダで読取ることにより液晶ナースコール子機で患者の体温,脈拍などの患者の状態を記録し,ナースコール用パーソナルコンピュータに転送することができるように構成されている。」

「【0016】
また,本発明のナースコール装置は,手術室内に,患者によって担持され患者を特定するバーコードを読取り,看護師,医師によって担持され看護師,医師を特定するバーコードをパスワードとして読取り院内ネットワークのアクセス権を得るための子機用バーコードリーダと,患者名を表示して患者の確認をするとともに,看護師,医師用カルテなどのデータを表示させる液晶ナースコール子機とを備えている。」

「【0018】
【発明の実態の形態】
以下,本発明のナースコール装置の好ましい実施の形態例について,図面を参照して説明する。ここで,図1は,本発明の一実施例におけるナースコール装置のシステム構成図を示している。
【0019】
同図において,本発明のナースコール装置は,各病室A,Bに設置され,子機用バーコードリーダ(以下「病室子機用バーコードリーダ」という。)1aを有する液晶ナースコール子機(以下「病室液晶ナースコール子機」という。)2aと,手術室ORに設置され,子機用バーコードリーダ(以下「手術室子機用バーコードリーダ」という。)1bを有する液晶ナースコール子機(以下「手術室液晶ナースコール子機」という。)2bと,廊下に設置された複数の集合廊下灯3a,3b,3c,…(以下,集合廊下灯3aを「第1の集合廊下灯3a」と,集合廊下灯3bを「第2の集合廊下灯3b」と,集合廊下灯3cを「第3の集合廊下灯3c」という。)と,病院内に設置されたナースコール制御機4と,ナースステーションNSなどに設置されたナースコール親機5と,ナースステーションNS内に設置され,親機用バーコードリーダ6を有するナースコール用パーソナルコンピュータ7と,病院内に構築された院内ネットワーク8と,電気錠9を有する出入口扉10と,電気錠9の開閉を制御する電気錠コントローラ11と,出入口用バーコードリーダ12を有するアダプタ13とを備えている。」

「【0021】
図2は,病室液晶ナースコール子機2aや手術室液晶ナースコール子機2bの液晶タッチパネルディスプレイなどの表示部(不図示)に現れる画面の一例を示している。同図において,表示部の画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などが表示され,同画面の右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などが表示されている。」

「【0024】
先ず,病室内の患者や看護師および医師などの院内関係者は,それぞれ自己を特定する専用のバーコードを所持し若しくは自己の身体の一部(腕部など)に取り付けている(以下,バーコードの所持若しくは身体への取付けを「バーコードの担持」という)。また,ナースコール用パーソナルコンピュータ7には,予め患者用カルテ,治療計画,食事制限などの患者情報が記憶されている。
【0025】
今,ある患者,例えば病室A内のあるベッド(以下「第1のベッド」という。)に係る患者(以下「第1の患者」という。)を確認するために,第1の患者が担持するバーコードを第1のベッドに係る病室子機用バーコードリーダ(以下「第1の病室子機用バーコードリーダ」という。)1aで読取ると,第1の病室子機用バーコードリーダ1aから第1の患者を特定するバーコードデータ(以下「第1のバーコードデータ」という。)が出力され,この第1のバーコードデータが第8の伝送路L8,第1のベッドに係る病室液晶ナースコール子機(以下「第1の液晶ナースコール子機」という。)2a,第4の伝送路L4,第1の集合廊下灯3a,第1の伝送路L1,ナースコール制御機4,第2の伝送路L2,ナースコール親機5および第6の伝送路L6を介してナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送される。
【0026】
そうすると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7において,患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号(以下「一致信号」という。)が出力され,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,図2に示すような画面が現れるとともに,当該画面の患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付される。従って,このような構成のナースコール装置によれば,当該バーコードを担持する患者が第1の患者,すなわち,病室A内の第1のベッドに係る患者であることを確認することができる。
【0027】
ここで,第1の患者と異なる患者,例えば病室A内の第1のベッドに隣接する他のベッドに係る患者(以下「第2の患者」という。)が担持するバーコードを第1の子機用バーコードリーダ1aで読取ると,第1の病室子機用バーコードリーダ1aから第2の患者を特定するバーコードデータ(以下「第2のバーコードデータ」という。)が出力され,この第2のバーコードデータが前述の第1のバーコードデータと同様の経路を経由してナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送される。
【0028】
そうすると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7において,患者情報が照合され,第2のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致しない旨の信号(以下「不一致信号」という。)が出力され,この不一致信号が前述の一致信号と同様の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,両者のバーコードデータが一致しない旨のエラーが表示される。従って,このような構成のナースコール装置によれば,患者をとり間違えるなどの医療過誤を防止することができる。
【0029】
一方,第1の病室液晶ナースコール子機2aの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの患者情報(以下「第1の患者情報」という。)が読み出され,かかる第1の患者情報が前述の一致信号と同様の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,図2に示すような第1の患者情報,すなわち第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの情報が表示される。従って,このような構成のナースコール装置によれば,第1のベッドサイドにおいて第1の患者情報を閲覧することができる。
【0030】
次に,本発明のナースコール装置の付加機能について説明する。
【0031】
第1に,看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,当該看護師は病室液晶ナースコール子機2aを用いて患者に関する所定の記録データをナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができる。すなわち,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。これにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部(不図示)などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録することができ,ひいては,第1の患者に係る記録データを前述の第1のバーコードデータと同様の経路を経由してナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができる。」(なお,「第1の病室液晶ナースコール子機1a」は,「第1の病室液晶ナースコール子機2a」の誤記であることは明らかである。)


【図2】

2 甲第1号証に記載された発明
上記1から,甲第1号証には,次の発明(以下,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に関する発明を「甲1発明1」,病室液晶ナースコール子機2aに関する発明を「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

(1)甲1発明1
ナースステーションNS内に設置されたナースコール用パーソナルコンピュータ7であって(【0019】),
予め患者用カルテ,治療計画,食事制限などの患者情報が記憶されており,(【0024】),
第1の患者を特定する第1のバーコードデータを病室液晶ナースコール子機2aから取得し(【0025】),
第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号を,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して病室液晶ナースコール子機2aへ伝送し(【0026】),これにより,病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部では,画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などを主要部とし,その右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などを有する画面が表示され(【0021】【図2】),
第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部で表示された前記画面の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報を伝送し(【0029】),
付加機能として,看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,病室液晶ナースコール子機2aにおいて,第1の患者が担持するバーコードを読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録し,第1の患者に係る記録データをナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができ(【0031】),
バーコードは,病室内の患者や看護師および医師などの院内関係者が担持する,それぞれ自己を特定する専用のバーコードである(【0024】),
ナースコール用パーソナルコンピュータ7。

(2)甲1発明2
各病室に設置され,病室子機用バーコードリーダ1aを有する病室液晶ナースコール子機2aであって(【0019】),
画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などが表示され,同画面の右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などが表示される液晶タッチパネルディスプレイの表示部を有し(【0021】【図2】),
第1の患者が担持するバーコードをベッドに係る病室子機用バーコードリーダ1aで読取ると,病室子機用バーコードリーダ1aから第1の患者を特定する第1のバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送し(【0025】),
ナースコール用パーソナルコンピュータ7で患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号(以下「一致信号」という。)を受信し,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表れる前記画面の患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付され(【0026】【図2】),このとき,前記画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などを主要部とし,その右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などを有する画面が液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示され(【0021】【図2】),
第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報が表示され(【0029】),
付加機能として,看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などを操作することで,看護師は第1の患者の体温や脈拍などを記録することができ(【0031】),
バーコードは,病室内の患者や看護師および医師などの院内関係者が担持する,それぞれ自己を特定する専用のバーコードである(【0024】),
病室液晶ナースコール子機2a。


第10 無効理由に対する当審の判断

1 理由1−1(新規性)及び理由2−1(進歩性)について
(1)本件訂正発明1と甲1発明1との対比
ア 構成要件G1について
甲1発明1の「ナースコール用パーソナルコンピュータ7」は,後述する相違点は別にして,本件訂正発明1の「情報処理装置」に相当する。

イ 構成要件A1について
甲1発明1は,第1の患者を特定する第1のバーコードデータを病室液晶ナースコール子機2aから取得する機能を有しており,甲1発明1の「第1の患者」,「第1の患者を特定する第1のバーコードデータ」,「病室液晶ナースコール子機2a」は,それぞれ,本件訂正発明1の「患者」,「患者を識別するための第1識別情報」,「端末装置」に相当し,甲1発明1は第1のバーコードデータを取得するための手段を備えることは明らかであるから,甲1発明1の当該手段は,本件訂正発明1の「患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得部」に相当する。

ウ 構成要件B1について
甲1発明1のナースコール用パーソナルコンピュータ7は,第1の患者を特定する第1のバーコードデータを病室液晶ナースコール子機2aから取得すると,第1の患者のバーコードデータと照合する。このため,甲1発明1のナースコール用パーソナルコンピュータ7は,第1の患者のバーコードデータを予め記憶しておく必要があり,記憶手段を備えていることは明らかであり,さらに,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータとを照合する手段を備えていることも明らかである。そうすると,甲1発明1の当該記憶手段及び第1の患者のバーコードデータは,それぞれ,本件訂正発明1の「記憶部」,「患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報」に相当し,甲1発明1の当該照合する手段は,本件訂正発明1の「前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部」に相当する。

エ 構成要件C1’について
本件訂正発明1の「患者用画面」について,本件特許明細書には次の記載がある。
「【0038】
図7は患者の医療情報を表示するための患者用画面5を説明する説明図である。図7に示すように,患者用画面5は右部に設けられた医療情報表示欄50と,医療情報表示欄50の下部に設けられた切り替えボタン54と,医療情報表示欄50の左上部に設けられた年月日欄55とを備える。医療情報表示欄50は左部に設けられた予定欄51と,右部に設けられた注意欄52と,予定欄51及び注意欄52の下部に設けられたピクトグラム欄53とを備える。」

「【0040】
本実施形態における情報処理システムを説明する。まず情報処理システムは認証処理を行う。具体的な認証処理は以下の通りである。本実施形態における患者は1次元又は2次元のバーコードを記載したリストバンドを手に巻いている。バーコードには患者IDが含まれている。患者は端末装置3の撮像部37でバーコードを撮像する。CPU31は撮像部37で撮像されたバーコードを取得する。CPU31は画像処理を用いて取得したバーコードを患者ID「001」に変換する。すなわちリストバンドとは,識別情報を含む識別媒体である。識別媒体とは,識別情報を介して自身を所持する患者,看護師又は医師を識別するための器具又は装置等の媒体である。なお,本実施形態ではリストバンドにバーコードを記載したが,これに限られるものではない。リストバンドは画像を記載してもよい。またリストバンドは数字,文字もしくは記号の羅列又はそれらの組み合わせを記載してもよい。
【0041】(省略)
【0042】
CPU31は患者ID「001」を通信部36から医療用サーバ2へ出力する。CPU21は患者ID「001」を通信部26で端末装置3から取得する。CPU21は取得した患者ID「001」並びに記憶部22に記憶された医療情報DB221,予定情報DB222,検査情報DB223及び手術情報DB224を通信部26から情報処理装置1へ出力する。CPU11は患者ID「001」,医療情報DB221,予定情報DB222,検査情報DB223及び手術情報DB224を通信部16で医療用サーバ2から取得する。なお,CPU11はRAM13に患者IDを一時的に記憶している。また,CPU11は記憶部12に患者IDを記憶してもよい。あるいはCPU11は患者IDと同時に医療情報DB221を取得するだけでなく,予め医療情報DB221等を取得していてもよい。CPU11は医療情報DB221を参照し,患者ID「001」が記憶されているか否かを判定する。CPU11は医療情報DB221に患者ID「001」が記憶されていると判定する。CPU11は医療情報DB221に基づいて患者用画面5を生成する。
【0043】
以下,患者用画面5の生成方法を説明する。CPU11は計時部17から現在の年月日「2015年8月20日」を取得する。CPU11は現在の年月日「2015年8月20日」を年月日欄55に生成する。CPU11は予定情報DB222を参照する。CPU11は年月日「2015年8月20日」の患者ID「001」に対応する医療時刻「10:20」及び医療情報「CT検査」,医療時刻「14:00」及び医療情報「リハビリ」並びに医療時刻「18:00」及び医療情報「栄養指導」を予定欄51に生成する。
【0044】
CPU11は医療情報DB221を参照する。CPU11は患者ID「001」に対応する注意メッセージ「アルコール禁止」等を注意欄52に生成する。CPU11は患者ID「001」に対応するピクトグラムH等をピクトグラム欄53に生成する。
【0045】
CPU11は生成した患者用画面5を通信部16から端末装置3へ出力する。CPU31は患者用画面5を通信部36で情報処理装置1から取得する。CPU31は患者用画面5を表示部35に表示する。」

図7

このように,情報処理装置は,端末装置で読み取られた患者IDが,予め取得した医療情報DB221に記憶されているか否かを判定すると,医療情報DB221に基づき,予定,注意事項を表示する患者用画面5(図7参照)を生成し,この画面を端末装置に送信するものである。これにより,「リハ」,「投薬」,「検査」,「手術」,「処置」のボタンを選択することで,それぞれのボタンに対応する情報を確認するできるものである。
そして,本件訂正発明1「患者用画面」は,このような患者用画面5に対応するものと解釈される。
甲1発明1の「第1の患者情報」は,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などである点で,より具体的な内容について特定されていない点で相違するものの,本件訂正発明1の「患者の医療情報」に相当し,甲1発明1の「病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部では,画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などを主要部とし,その右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などを有する画面」は,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」などのいずれかのボタンを選択操作することで,選択されたボタンに対応付けられた情報を確認できる画面である点で,後述する相違点は別にして,本件訂正発明1の「患者用画面」に相当する。
甲1発明1は,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致し,第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に「画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などを主要部とし,その右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などを有する画面」が表示され,その画面の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報を有する画面が表示され,これにより表示された内容を確認できる点で,甲1発明1のナースコール用パーソナルコンピュータ7は,第1の患者情報を有する画面を伝送する手段を備えることは明らかであり,甲1発明1の当該手段と,本件訂正発明1の「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部」とは,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合に,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部」で共通する。

オ 構成要件D1’〜F1について
(ア)本件特許明細書には次の記載がある。
「【0085】
図19はバイタルDB226に格納されているデータの一例を示す図である。バイタルDB226はバイタル等を記憶するデータベースである。バイタルとは患者の状態を表す情報であり,例えば,体温,呼吸数,最高血圧,最低血圧,脈拍数又は動脈内の酸素濃度等である。すなわち,バイタルとは患者の生命に対する基本的な情報である。バイタルDB226は患者ID列,医療年月日列,医療時刻列,体温列,呼吸数列,最高血圧列,最低血圧列,脈拍数列及び酸素濃度列を備える。患者ID列には患者IDが記憶される。医療年月日列には医療年月日が記憶される。医療時刻列にはバイタルを取得した時刻を示す医療時刻(取得時間)が記憶される。体温列には患者ID,医療年月日及び医療時刻に対応づけられた体温が記憶される。呼吸数列には患者ID,医療年月日及び医療時刻に対応づけられた呼吸数が記憶される。最高血圧列には患者ID,医療年月日及び医療時刻に対応づけられた最高血圧が記憶される。最低血圧列には患者ID,医療年月日及び医療時刻に対応づけられた最低血圧が記憶される。脈拍数列には患者ID,医療年月日及び医療時刻に対応づけられた脈拍数が記憶される。酸素濃度列には患者ID,医療年月日及び医療時刻に対応づけられた酸素濃度が記憶される。バイタルDB226の記憶方法は後述する。なお,バイタルDB226の各列は対応づけられている。
【0086】
本実施形態における情報処理システムを説明する。CPU31が患者用画面5を表示部35に表示した後,看護師が自身のリストバンドに記載されたバーコードを撮像部37で撮像する。CPU31は撮像部37で撮像されたバーコードを取得する。CPU31はバーコードを看護師ID「N0001」に変換する。CPU31は看護師ID「N0001」を通信部36から医療用サーバ2へ出力する。
【0087】【0088】(省略)
【0089】
CPU11は看護師専用画面9を生成する。CPU11は看護師専用画面9を通信部16から端末装置3へ出力する。CPU31は看護師専用画面9を通信部36で情報処理装置1から取得する。CPU31は看護師専用画面9を表示部35に表示する。
【0090】
図20は看護師専用画面9を説明する説明図である。看護師専用画面9は左部に設けられた看護支援記録ボタン91と,看護支援記録ボタン91の右上部に設けられたバイタルボタン92と,バイタルボタン92の右部に設けられた切り替えボタン93とを備える。
【0091】
看護支援記録ボタン91は患者のバイタルの変化を表示するための看護支援記録画面(変化画面)110を表示するためのボタンである。看護支援記録画面110は電子カルテ421を表示する場合に,一般的に用いられる画面である。看護師は看護支援記録画面110を用いることで見慣れた画面で作業をすることができるため,作業効率を上げることができる。バイタルボタン92は患者のバイタルを入力するためのバイタル画面(入力画面)10を表示するためのボタンである。切り替えボタン93はリハビリ,与薬,検査,手術及び処置ボタンを備える。」
本件特許明細書の「バイタル」は「患者の状態を表す情報」であり,「例えば,体温,呼吸数,最高血圧,最低血圧,脈拍数又は動脈内の酸素濃度等」であって,本件訂正発明1の「患者の状態に関する状態情報」に対応するものであり,本件特許明細書の「看護師専用画面9」は,本件訂正発明1の「前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面」に対応するものである。

(イ)甲1発明1のナースコール用パーソナルコンピュータ7は,「看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,病室液晶ナースコール子機2aにおいて,第1の患者が担持するバーコードを読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして読み取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録」することができる機能を有している。

(ウ)また,看護師が担持するバーコードは,自己を特定する専用のバーコードであって,パスワードとして読み取ったとしてもナースコール用パーソナルコンピュータ7で照合されることにより,当該看護師を特定することができるものであるから,看護師が担持するバーコードは看護師を識別する識別情報として機能することは明らかである。
そして,甲1発明1は,看護師が担持するバーコードをパスワードとしての読取りを経ることで,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録することができる点で,甲1発明1の「看護師が担持するバーコード」は,医師が担持するバーコードではないものの,本件訂正発明1の「看護師または医師を識別するための第2識別情報」のうちの「看護師」「を識別するための第2識別情報」に相当する。

(エ)このとき,甲1発明1において,「第1の患者の体温や脈拍などを記録し,第1の患者に係る記録データをナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送する」ためには,ナースコール用パーソナルコンピュータ7へのアクセス許可のための照合が行われることは技術常識であり,そのために,ナースコール用パーソナルコンピュータ7は,病室液晶ナースコール子機2aから取得した看護師が担持するバーコードが正しいか否かを判定する手段,及び,判定するために照らし合わせる,看護師および医師などの院内関係者が担持するバーコードに対応する元となる情報を照合よりも前に記憶する記憶手段を備える必要がある。また,上記ウでみたとおり,甲1発明1は判定に必要な情報を記憶する記憶手段を有しており,甲1発明1の,判定するために照らし合わせる元となる看護師が担持するバーコードに対応する情報は,本件訂正発明1の「前記記憶部に看護師」「を識別する情報として予め記憶された第2識別情報」に相当する。そして,甲1発明1の看護師が担持する自己を特定する専用のバーコード(第2識別情報)を判定する手段は,本件訂正発明1の「前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師」「を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部」(構成要件E1)に相当する。

(オ)そして,上記(エ)のとおり,甲1発明1の看護師が担持するバーコードは,読み取りが行われるための条件は別にして,パスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取られ,上記照合のために,ナースコール用パーソナルコンピュータ7が取得する点で,ナースコール用パーソナルコンピュータ7は看護師が担持するバーコード(第2識別情報)を取得する手段を有しているから,甲1発明1の当該取得手段は,本件訂正発明1の「看護師」「を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」(構成要件D1’)に相当する。

(カ)さらに,上記(ア)のとおり,「バイタル」は,本件訂正発明1の「患者の状態に関する状態情報」に対応することから,甲1発明1の「第1の患者の体温や脈拍」は,本件訂正発明1の「患者の状態に関する状態情報」に相当する。
甲1発明1は,「看護師が担持するバーコードをパスワードとして読み取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録」することができることから,上記(エ)の甲1発明1の判定する手段により,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)が一致すると判定した場合に,看護師による第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録する画面を,病室液晶ナースコール子機2aに表示するために,ナースコール用パーソナルコンピュータ7が当該画面を送信する手段を有していることは明らかである。そうすると,甲1発明1における,第1の患者の体温や脈拍などを記録する画面は,本件訂正発明1の「前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面」に相当し,そして,甲1発明1の,当該画面を病室液晶ナースコール子機2aに送信する手段は,本件訂正発明1の「前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部」(構成要件F1)に相当する。

カ 一致点及び相違点について
<一致点>
患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得部と,
前記第1識別情報と,患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と,
前記第1識別情報が一致すると判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を確認するための患者用画面を,前記端末装置へ出力する第1出力部と,
看護師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部と,
前記第2識別情報と,前記記憶部に看護師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と,
前記第2識別情報が一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部と,
を備える情報処理装置。

<相違点1−1>
本件訂正発明1は,「患者医療情報」が,「前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つ」であるのに対し,甲1発明1は,第1の患者情報が,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画及び食事制限などであって,その具体的な内容が定かではない点。

<相違点1−2>
本件訂正発明1は,「患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つ」を「前記患者が自ら確認する」のに対し,甲1発明1は,第1の患者情報を誰が確認するか特定されていない点。

<相違点1−3>
本件訂正発明1は,第2取得部が看護師または医師を識別するための第2識別情報を端末装置から取得する条件が,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」であって,「前記患者用画面が表示された」との条件に基づき取得された第2識別情報と,記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定し,一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力するのに対し,甲1発明1では,看護師が担持するバーコードをパスワードとして読み取る条件が,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」であって,「前記患者用画面が表示された」ものであるか定かではない点。

(2)判断
ア 理由1−1(新規性)について
上記(1)カのとおり,本件訂正発明1と甲1発明1との間には相違点1−1〜相違点1−3があり,相違点1−1〜相違点1−3は実質的な相違点であるといえるから,本件訂正発明1は新規性を有する。

イ 理由2−1(進歩性)について
(ア)相違点1−1の判断
甲1発明1の「第1の患者情報」には,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などが含まれている。そして,「治療計画」について,病気の治療方針に基づく投薬計画や,ケガの回復度合いや術後の経過に基づくリハビリ計画が立てられることがあることは一般的であるから,甲1発明1の「治療計画」を,より具体化した「投薬計画(情報)」や「リハビリ計画(情報)」とすることは当業者が容易になし得た事項であり,甲1発明1の「食事制限」は,第1の患者に対して食事に関する注意事項(摂取可能な飲食物の提示,間食禁止等)を示す情報でもあるともいえることから,これを「患者に対する注意メッセージ」とすることは,当業者が容易になし得た事項である。
また,一般に,カルテ情報には,患者に対して行われた検査,手術,処置に関する情報など,治療に関する情報が含まれており,甲1発明1の「患者用カルテ」は,病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される情報である点で,患者に提示できる情報であることは明らかであるから,甲1発明1の「患者用カルテ」に含まれる情報を,より具体的な,患者に提示できる「検査情報」,「手術情報」及び「処置情報」とすること,また,甲1発明1の「治療計画」から「前記患者の一日の予定」とすることに技術的困難性は見いだせない。
以上より,相違点1−1の構成は,甲1発明1から,当業者が容易に想到することができたものである。

(イ)相違点1−3の判断
判断の便宜から,相違点1−3を検討する。
a バーコードの読取り順序について
甲1発明1は,「付加機能として,看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,病室液晶ナースコール子機2aにおいて,第1の患者が担持するバーコードを読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録し,第1の患者に係る記録データをナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができ」るものである。
そうすると,甲1発明1の病室液晶ナースコール子機2aにおける「バーコードの読取り」の順番は,まず「第1の患者が担持するバーコード」が読み取られ,次に「看護師が担持するバーコード」が読み取られるものである。

b 第1の患者が担持するバーコードの読取り後の処理について
甲1発明1は,「第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号を,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して病室液晶ナースコール子機2aへ伝送」されるものである。
そして,その後の動作を説明する甲第1号証【0026】には,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7において,患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号(以下「一致信号」という。)が出力され,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,図2に示すような画面が現れるとともに,当該画面の患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付される。従って,このような構成のナースコール装置によれば,当該バーコードを担持する患者が第1の患者,すなわち,病室A内の第1のベッドに係る患者であることを確認することができる。」として,第1のベッドに係る患者であることが確認できるように,第1の液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,甲第1号証の図2に示すような,患者名を含む,患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付された画面が現れるようにする構成が記載されている。

c 上記aとbの関係について
甲第1号証の記載全体から見て,上記bは,発明の全体構成を説明するものとして記載されているのに対し,上記aは,上記全体構成を記載した後の「次に,本発明のナースコール装置の付加機能について説明する。」(【0030】)との記載のさらに後に記載されている【0031】に関するものであるから,上記aは,上記bの全体構成に対して付加した構成といえる。
すなわち,甲1発明1は,上記bの全体構成としての,「第1の患者が担持するバーコードを読み取った後,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号を,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して病室液晶ナースコール子機2aへ伝送し,第1の液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,甲第1号証の図2に示すような,患者名を含む,患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付された画面を表示する」という構成に加えて,上記aの「第1の患者が担持するバーコードを読み取った後,看護師が担持するバーコードを読み取り,看護師の識別を行う」との付加機能をともに有していると捉えることができる。

d 全体構成と付加機能をともに有する構成について
ここで,付加機能において,第1の患者の体温や脈拍などを記録するときに,患者を取り違えることは医療過誤につながる恐れがあることは当業者に自明の事項であり,患者が担持するバーコードを第1の病室液晶ナースコール子機2aの病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることは,患者の取り違えという医療過誤を防止するために行われるものであるといえるから,甲1発明1の「病室液晶ナースコール子機2aにおいて,第1の患者が担持するバーコードを読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取る」ことを,病室液晶ナースコール子機2aにおいて,第1の患者が担持するバーコードを読み取ることで,患者を確認する画面を表示させて,患者の取り違えがないことを確認した後に,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)をパスワードとして読み取る,すなわち,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)をパスワードとして読み取るための条件を,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」とすることは,当業者が容易になし得た事項である。

e 「前記患者用画面が表示された」ことについて
「前記患者用画面が表示された」ことについて,本件特許明細書【0086】には,「CPU31が患者用画面5を表示部35に表示した後,看護師が自身のリストバンドに記載されたバーコードを撮像部37で撮像する。」と記載されている。すなわち,看護師のバーコードの撮像は,端末装置3の表示部35に患者用画面5が表示された後に行われることが記載されている。
そして,このような患者用画面5を表示することを条件に,看護師が自身のリストバンドに記載されたバーコードを撮像部37で撮像する構成とすることで,患者の取り違えを防止するものである。
甲1発明1におけるバーコードの読取り順序について,甲1発明1は,「付加機能として,看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,病室液晶ナースコール子機2aにおいて,第1の患者が担持するバーコードを読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録し,第1の患者に係る記録データをナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができ」るものであるから,甲1発明1の病室液晶ナースコール子機2aにおける「バーコードの読取り」の順番は,まず「第1の患者が担持するバーコード」が読み取られ,次に「看護師が担持するバーコード」が読み取られるものである。
そして,「第1の患者が担持するバーコード」が読み取られると,「患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名など」を含む「画面」(甲第1号証の図2)が表示される。そして,この表示画面は患者の氏名を含むことから,患者の取り違えによる医療過誤の防止につながるものである。
このように,甲1発明1において,患者の氏名を含む表示画面を表示させることで,看護師が,適切な患者であるか否かを目視でき,その後,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることにより,看護師は第1の患者の体温や脈拍などを記録することができるものであり,甲1発明1の画面における「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」の表示が第1の患者情報の具体的な内容を示す情報であるといえるか定かではない点で相違するものの,上記相違点1−1の判断で検討したとおり当業者が容易になし得た事項であって,このような患者の情報を,看護師が患者を確認することができる点で,本件訂正発明1と甲1発明1との間に差異はない。
そして,甲1発明1においても,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される患者の氏名を含む表示画面であって,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」を表示させる「画面」を,看護師が操作することで,操作に対応する第1の患者情報の具体的な内容を示す情報を表示させることができるものであるところ,甲1発明1の病室液晶ナースコール子機2aにおいて,一度患者のバーコードを確認した後に,看護師が,任意の時点で,テンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録可能とすることは普通に想定し得ることであるから,上記操作に対応する第1の患者情報の具体的な内容を示す情報を「画面」に表示させた状態で,すなわち,このような「画面」を表示させた後,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることを可能とすることは,当業者が容易になし得た事項である。

f 相違点1−3の構成とすることについて
上記dのとおり,甲1発明1に基づき,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)をパスワードとして読み取るための条件を,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」とすることは,当業者が容易になし得た事項であり,そしてこのとき,上記eのとおりであるから,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)をパスワードとして「患者用画面が表示された」端末装置から,取得する構成とすることは,当業者が容易になし得た事項である。
さらに,このような条件に基づいて取得された第2識別情報と,記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定し,一致すると判定した場合に,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する構成とすることも,当業者が容易になし得た事項である。
よって,本件訂正発明1の相違点1−3の構成は,甲1発明1に基づき,当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)相違点1−2について
a 上記(イ)のとおり,第2取得部が看護師または医師を識別するための第2識別情報を端末装置から取得する条件が,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」とすることは,当業者が容易になし得た事項であって,このとき,甲1発明1において,「第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致」(ここでは,「第1の認証」という。)することでアクセスできる情報と,「更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取る」(ここでは,「第2の認証」という。)ことでアクセスできる情報の秘匿性(機密性)のレベルが異なり,第1の認証を経た第2の認証により,「看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録」できるものの,患者がそのような操作を行うことができないことは明らかである。そして,第1の認証によりアクセスできる情報の範囲と,第2の認証によりアクセスできる情報の範囲は異なることは明らかである。さらに,第2の認証によって,「看護師」が「患者の体温や脈拍などを記録」することができることを勘案すると,甲1発明1において,患者の認証を行う第1の認証によって,「患者」が,許容される範囲内で自身の情報にアクセスできるようになっていると考えることは自然である。
甲第1号証【0029】には,「一方,第1の病室液晶ナースコール子機2aの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの患者情報(以下「第1の患者情報」という。)が読み出され,かかる第1の患者情報が前述の一致信号と同様の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,図2に示すような第1の患者情報,すなわち第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの情報が表示される。」とあり,「看護師など」による病室液晶ナースコール子機2aの操作により,患者用カルテを含む第1の患者情報が表示されることが記載されているものの,病室液晶ナースコール子機2aが病室にあること,患者のバーコードを用いて第1の認証が行われることから,患者が表示される情報を閲覧できるものと考えることが自然である。そうすると,上記相違点1−3が,当業者が容易になし得たものであるから,このとき表示される情報を「前記患者が自ら確認する」ことができることは明らかである。
よって,甲1発明1に基づき,相違点1−2の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項にすぎない。

b 被請求人は,令和3年10月22日提出の補正書で,次のように主張する。
「請求項1に記載された発明は,無効審判において提出された甲第1号証(特開2004−195006号公報)に記載された発明,及び周知技術からは,当業者といえども本件特許出願前に容易に発明をすることができたものではなく,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものには該当しない。なぜなら,まず,甲第1号証は,あくまでもナースコールであり,患者が看護師を呼び出すボタン以外は,患者による操作を前提としていないからである。これは甲第1号証に,「患者が」「患者は」「患者により」「患者による」などの表現が一切存在しないことからも分かる。甲第1号証において患者バーコードを読み取ったときに表示される情報は,患者向けのものではなく,看護師向けの情報(取り違えを防止するための患者名と担当医名)である。
ナースコールについては,以下のURLで公開された資料に記載されている通り,当然のことながら患者が看護師を呼ぶ機能を中核機能としており,命に直結した装置である。
https://www.jiia.gr.jp/pages/report/catalog/catalog-nurse-software.pdf
拡張機能としては,センサ等の情報を受けて医療関係者に状況を通知したり,他の医療用情報システムとの連携を図る機能,患者をモニタリングする機能,看護業務を支援する機能など挙げられているが,いずれも,患者に対して情報を提供するものではない。ナースコールを用いて患者に対して注意メッセージなどの医療情報を提供することが,本願発明の出願時点で技術常識であるという証拠も存在しない。
一方,本件発明は,患者に対して注意メッセージなどの医療情報を提供するとともに,看護師または医師に対して,患者の医療情報を,バランス良くセキュアに提供するものである。本件発明は,病室でもともと用いられていた掲示板をデジタル化して発展させたものとも捉えられ,製品コンセプトや,技術思想が,甲第1号証とは全く異なる。
甲第1号証では,患者の状態情報を読み取る過程において,「第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。」と記載されている(段落0031)。しかし,看護師及び医師のみが操作するナースコールシステムでは,患者バーコードを読み取った後,注意メッセージなどを含む患者用画面が表示された状態で看護師IDを取得する必要は一切なく,何らの動機づけも存在しない。
」(8〜9ページ(同旨訂正請求書7〜8ページ))
上記主張は,訂正の適法性について主張するものではないが,念のため検討をする。
甲1発明1の病室液晶ナースコール子機2aは,第1の患者が担持するバーコードをベッドに係る病室子機用バーコードリーダ1aで読取ると,病室子機用バーコードリーダ1aから第1の患者を特定する第1のバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送し,ナースコール用パーソナルコンピュータ7で患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号(以下「一致信号」という。)を受信し,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表れる前記画面の患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付され,第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報が表示される機能を有する。
そして,甲1発明1は,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などを操作することで,看護師は第1の患者の体温や脈拍などを記録することができる機能は,患者等によって行われないように,使用制限が行われていることは明らかであるが,甲1発明1の病室液晶ナースコール子機2aは,「食事制限」等の情報を表示する機能には,そのような使用制限は行われていないことから,「食事制限」等の表示機能では,病院食以外で患者が摂取できる又はできない飲食物を患者等が閲覧可能であることは明らかである。そして,甲1発明1の「病室液晶ナースコール子機2a」は,甲第1号証の【0019】のとおり,各病室に設置され子機用バーコードリーダ1aを有していることから,患者等が,患者が担持する第1のバーコードを読み取り,食事制限の内容を閲覧できることが可能であることも明らかである。なお,甲1発明2についても,同様のことがいえることは明らかである。
また,甲第1号証には,「カルテ」について,【請求項2】【0009】【0021】【0024】【0029】に「患者用カルテ」,【請求項6】【請求項9】【0013】【0016】【0032】【0036】に「看護師,医師用カルテ」又は「看護師や医師用カルテ」(以下,「看護師,医師用カルテ」という。)との記載がある。
「患者用カルテ」について,甲第1号証には,具体的に次の記載がある。
「【0021】
図2は,病室液晶ナースコール子機2aや手術室液晶ナースコール子機2bの液晶タッチパネルディスプレイなどの表示部(不図示)に現れる画面の一例を示している。同図において,表示部の画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などが表示され,同画面の右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などが表示されている。」
「【0024】
先ず,病室内の患者や看護師および医師などの院内関係者は,それぞれ自己を特定する専用のバーコードを所持し若しくは自己の身体の一部(腕部など)に取り付けている(以下,バーコードの所持若しくは身体への取付けを「バーコードの担持」という)。また,ナースコール用パーソナルコンピュータ7には,予め患者用カルテ,治療計画,食事制限などの患者情報が記憶されている。」
「【0029】
一方,第1の病室液晶ナースコール子機2aの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの患者情報(以下「第1の患者情報」という。)が読み出され,かかる第1の患者情報が前述の一致信号と同様の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,図2に示すような第1の患者情報,すなわち第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの情報が表示される。従って,このような構成のナースコール装置によれば,第1のベッドサイドにおいて第1の患者情報を閲覧することができる。」
これらの記載から,「患者用カルテ」は,病室に設置されている病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部で表示されることは明らかである。
これに対し,「看護師,医師用カルテ」について,甲第1号証には,具体的に次の記載がある。下線は,当審が付与した。
「【0019】
同図において,本発明のナースコール装置は,各病室A,Bに設置され,子機用バーコードリーダ(以下「病室子機用バーコードリーダ」という。)1aを有する液晶ナースコール子機(以下「病室液晶ナースコール子機」という。)2aと,手術室ORに設置され,子機用バーコードリーダ(以下「手術室子機用バーコードリーダ」という。)1bを有する液晶ナースコール子機(以下「手術室液晶ナースコール子機」という。)2bと,廊下に設置された複数の集合廊下灯3a,3b,3c,…(以下,集合廊下灯3aを「第1の集合廊下灯3a」と,集合廊下灯3bを「第2の集合廊下灯3b」と,集合廊下灯3cを「第3の集合廊下灯3c」という。)と,病院内に設置されたナースコール制御機4と,ナースステーションNSなどに設置されたナースコール親機5と,ナースステーションNS内に設置され,親機用バーコードリーダ6を有するナースコール用パーソナルコンピュータ7と,病院内に構築された院内ネットワーク8と,電気錠9を有する出入口扉10と,電気錠9の開閉を制御する電気錠コントローラ11と,出入口用バーコードリーダ12を有するアダプタ13とを備えている。」
「【0032】
第2に,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に親機用バーコードリーダ6を接続した場合においては,看護師,医師が担持するバーコードをパスワードとして,院内ネットワーク8のアクセス権を得ることができる。すなわち,看護師や医師が担持するバーコードをパスワードとして親機バーコードリーダ6で読取ると,親機バーコードリーダ6からバーコードデータ(以下「親機バーコードデータ」という。)が第11の伝送路L11を介してナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送される。そして,親機バーコードデータと当該看護師や医師のバーコードデータとが一致すると,当該看護師や医師は院内ネットワーク8のアクセス権を得ることができる。これにより,当該看護師や医師は,ナースコール用パーソナルコンピュータ7にて,図3に示すような薬剤情報71や看護師や医師用カルテなどのデータを閲覧することができる。ここで,当該看護師や医師が担持するバーコードは,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に対するパスワードとしても利用することができ,ひいては,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に記憶されている患者情報を閲覧することができ,また,ナースコール用パーソナルコンピュータ7にて,患者情報の変更や削除若しくは登録なども行なうことができる。さらに,薬剤に取付けられたバーコードや薬剤の包装に付されたバーコードを親機用バーコードリーダ6で読取ることにより,薬剤の確認も行なうことができる。これにより,看護師などは,投薬ミスなどの発生を防止することができる。なお,上記の薬剤は,第1の患者が担持するバーコードを病室子機用バーコードリーダ1aや手術室子機用バーコードリーダ1bで読取り,更に,薬剤に取付けられたバーコードを病室子機用バーコードリーダ1aや手術室子機用バーコードリーダ1bで読取ることでも確認することができる。」
「【0036】
第5に,手術室OR内に患者が担持するバーコードを読取ることが可能な手術室子機用バーコードリーダ1bを備える場合においては,手術室液晶ナースコール子機2bに患者名を表示させることができ,ひいては,患者を確認することで,患者の取り間違いなどの医療過誤を防止することができる。ここで,看護師や医師が担持するバーコードをパスワードとして手術室子機用バーコードリーダ1bで読取れば,院内ネットワーク8のアクセス権を得ることができ,ひいては,手術室液晶ナースコール子機2bに看護師や医師用カルテなどのデータを表示させることができる。」
これらの記載から,「看護師,医師用カルテ」は,ナースステーションNS内に設置されたナースコール用パーソナルコンピュータ7,又は,手術室に設置された手術室液晶ナースコール子機2bで表示されるものである。
このように,「患者用カルテ」と「看護師,医師用カルテ」は,甲第1号証の中で明確に使い分けられており,「患者用カルテ」に含まれる情報が,「看護師,医師用カルテ」と比較して,患者が見ることのできる情報であることは,「患者用カルテ」が,病室に設置された病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部で表示されること,「患者用」との記載から明らかである。そして,患者用カルテと同様に,病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部で表示可能な治療計画及び食事制限も患者が閲覧できる情報であることも当然の事項である。
したがって,病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部は,患者が自らの情報を確認するための患者用画面であるといえるから,被請求人の主張する「甲第1号証において患者バーコードを読み取ったときに表示される情報は,患者向けのものではなく,看護師向けの情報(取り違えを防止するための患者名と担当医名)である。」とまで,甲第1号証の記載を限定して解釈をすることはできない。
さらに,甲第1号証には,次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はナースコール装置に係わり,特にバーコードを用いて患者の確認を行ない,また,バーコードをパスワードとして利用することにより患者情報などを閲覧することができるナースコール装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から,この種のナースコール装置として,図4に示すような構成のものが知られている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
このナースコール装置は,各病室a,b毎に,複数の患者の患者用ベッド付近にそれぞれ設置される患者用子機100と,各患者用子機100側にそれぞれ設けられる患者用情報端末200と,各病室a,bの入口付近にそれぞれ設置され,患者用子機100からの呼出しを検出する複数の廊下灯300a,300b,…と,ナースステーションnsに設置されるナースコール親機400,制御機500および看護用端末600と,HUB700を介して接続されたサーバ800および売店用情報端末900とを備えている。
【0004】
このような構成のナースコール装置においては,患者用情報端末200の患者からの呼出に応じて,廊下灯300a,300b,…,制御機500を介してナースコール親機400に呼出を報知/表示させることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2002?199115号公報 (段落番号「0017」?「0026」,図1)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,このような構成のナースコール装置においては,病室内の患者や手術室内の患者を特定する手段を備えていないことから,患者の確認を行なうことができず,ひいては患者をとり間違えたり,投薬ミスなどの医療過誤を誘発するおそれがあるという難点があった。」

【図4】
上記のとおり,甲1発明1は,上記図4のシステムを従来技術とするものであり,「ナースコール装置においては,病室内の患者や手術室内の患者を特定する手段を備えていないことから,患者の確認を行なうことができず」との課題を解決するものである。
そこで,上記図4のシステムがどのようなシステムであるかを念のため従来技術である特開2002?199115号公報(段落番号「0017」?「0026」,図1,以下,「従来文献」という。)を確認すると,甲第1号証の図4と従来文献の図1は同じ図面である。そして,従来文献には【0026】「しかして,例えば,病室A内のある患者(以下,「特定患者PA」という。)が,患者用情報端末10のタッチパネル101aの操作によって,患者表示部101bに表示された売店注文画面の送信を要求する選択肢を選択すると共に特定患者PAに与えられたID番号を入力する。そして,患者CPU103によって,売店注文画面の送信を要求するデータ(以下,「要求データ」という。)が検出されると,患者CPU103から要求データが出力され,この要求データが,患者送受信部104および患者用情報端末幹線L19を介して患者用子機12へ送出される。しかして,この要求データが患者用子機12で検出されると,患者用子機12から特定患者PAに係る患者用子機12のID番号等を含有する要求データが出力され,このID番号等を含有する要求データが患者用子機幹線L17a,廊下灯13aおよび廊下灯幹線L11を介して制御機15へ送出される。」とあり,病室に設置してある患者用情報端末10は,患者が操作することができるものである。
そうすると,このような従来技術を背景に有する甲1発明1においても,液晶タッチパネルディスプレイの表示部を有する第1の液晶ナースコール子機2aを患者が操作することは考慮されていると考えることが自然である。
仮に,本件訂正発明1において,患者が操作する「患者用画面」という意味であるとしても,上述したように,病室に設置してある患者用情報端末10は,患者が操作することができるものであるから,甲1発明1に基づき,患者が操作する画面とすることに,技術的困難性は見いだせない。
また,甲1発明1の上述した機能は,甲第1号証【0023】には「なお,各病室液晶ナースコール子機2aや手術室液晶ナースコール子機2bからの呼出に応じて,第1,第2,第3の集合廊下灯3a,3b,3cおよびナースコール制御機4を介してナースコール親機5に呼出を報知/表示させる点は,従来のナースコール装置と同様であることから詳細な説明を省略し」と記載されており,被請求人が主張する「ナースコール」装置の中核機能とは異なる拡張機能であることは明らかである。
よって,甲第1号証に,患者が,第1の液晶ナースコール子機2aを操作する記載がないことをもって,直ちに,「患者が看護師を呼び出すボタン以外は,患者による操作を前提としていない」こと,「甲第1号証において患者バーコードを読み取ったときに表示される情報は,患者向けのものではなく,看護師向けの情報(取り違えを防止するための患者名と担当医名)である。」とまで,甲第1号証の記載を限定して解釈することはできず,「本件発明は,病室でもともと用いられていた掲示板をデジタル化して発展させたものとも捉えられ,製品コンセプトや,技術思想が,甲第1号証とは全く異なる。」とまではいえない。
むしろ,甲第1号証の記載を総合すれば,甲第1号証の病室液晶ナースコール子機は,患者が操作することを想定し,その上で「看護師,医師用カルテ」とは異なる「患者用カルテ」等の情報を表示する技術思想を有するものであると考えるべきである。
以上のとおりであるから,被請求人の上記主張を採用することはできない。
なお,甲第1号証の従来技術を考慮せずとも,甲1発明1に基づき,相違点1−2の構成を当業者が容易になし得たものであることは,上述したとおりである。

(エ)本件訂正発明1の「第2識別情報」について
本件訂正発明1の「第2識別情報」は,「看護師または医師を識別するための第2識別情報」であって,「看護師または医師」とあることから,どちらか一方を識別する識別情報であればよい。そのため,第2識別情報が医師を識別するための識別情報である点は,相違点ではないが,相違点であるとして,念のため検討をする。
甲1発明1において,「バーコードは,病室内の患者や看護師および医師などの院内関係者が担持する,それぞれ自己を特定する専用のバーコード」であり,医師についても専用のバーコードを所持することは明らかである。病室において入院患者に対して医師が診察をすることは一般的に行われるものであって,カルテ情報へのアクセス等について,看護師よりも多くの権限が付与されることが一般的である。
よって,甲1発明1において,看護師に加え医師も第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録できるようにすることは,当業者が容易になし得た事項にすぎない。

(オ)効果について
上記相違点1−1〜相違点1−3により奏する,患者の取り違えにより患者に危害が及ぶことを防止する(セキュリティの向上)との効果は,当業者の予測し得る範囲内の事項にすぎない。

ウ 被請求人の主張について
(ア)本件訂正発明の5つのステップについて
被請求人は,患者の状態情報を,患者の取り違えが起こらないように受け付けるため,「第1(患者)識別情報の取得」→「第1識別情報の判定」→「患者の医療情報の出力」→「第2(看護師等)識別情報の取得」→「第2識別情報の判定」という5つものステップを経て,「状態情報」の「入力画面」を出力することを特徴とすること,本件訂正発明1により,患者識別情報から直接に正確な医療情報を引き出すため,従来行われていた医療スタッフの目視による確認の必要がなく,かつ,患者の取り違えによる事故を確実に防止することができる旨主張する。
しかしながら,本件訂正発明1は,上述のとおり,甲1発明1から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,甲1発明1において,5つのステップを実行する構成とすることに格別の困難性は見いだせず,その奏する効果も当業者の予測し得る範囲内であり,本件訂正発明1のいずれの構成要件も,従来行われていた医療スタッフの目視による確認の必要がないことに関係するものとはいえず,被請求人の主張を採用することはできない。

(イ)甲第1号証【0031】について
被請求人は,甲第1号証【0031】は,文言どおり,患者バーコードを読み取った後に連続的に看護師バーコードの読取を行うと解釈すべきであり,患者バーコード及び看護師バーコード(パスワード)を続けて読み取ることで病室液晶ナースコール子機1aからナースコール用PCにログインして,患者用カルテを表示させることを意味しており,患者バーコードの一致を条件として看護師バーコードの読取りを行っているわけではない旨主張する。
この主張について検討するに,甲第1号証【0031】の「第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取る」とは,文言上,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取った後に,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることを意味するものであり,「更に」は,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることと,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることの順番を特定する程度の意味を有するのみである。
そして,このように解釈をして行った,上記(2)イ(ア)における相違点1−3の判断のとおり,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)をパスワードとして読み取るための条件を,「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」とすることは,当業者が容易になし得た事項であるから,被請求人の主張を採用することはできない。

(ウ)付加機能が別実施例であるとの主張について
被請求人は,甲第1号証【0031】〜【0036】の「第1」から「第5」で説明される機能は,同【0029】までに説明されている「ナースコール装置」とはそれぞれ独立した別の実施例である旨主張する。
以下,被請求人の主張について検討をする。

a 実施例について
甲第1号証の記載では,まず,【0019】〜【0029】において,ナースコール装置のシステム構成,病室液晶ナースコール子機2aの構成,ナースコール用パーソナルコンピュータ7の構成,ナースコール装置の動作などについての記載があり,特に,第1の病室子機用バーコードリーダ1aから第1のバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送し,ナースコール用パーソナルコンピュータ7において,患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致するとき,第1の患者情報が,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から第1の液晶ナースコール子機2aへ伝送され,第1の液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示されることで,第1のベッドサイドにおいて第1の患者情報を閲覧することで,患者を確認することができる具体的な構成が開示されている。(上記【0019】〜【0029】に係る実施例の構成を,以下「具体例」という。)
これに対して,【0030】及び【0031】には「次に,本発明のナースコール装置の付加機能について説明する。」(【0030】)
「第1に,看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合においては,当該看護師は病室液晶ナースコール子機2aを用いて患者に関する所定の記録データをナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができる。すなわち,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。これにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部(不図示)などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録することができ,ひいては,第1の患者に係る記録データを前述の第1のバーコードデータと同様の経路を経由してナースコール用パーソナルコンピュータ7に転送することができる。」(【0031】。なお,「第1の病室液晶ナースコール子機1a」は,「第1の病室液晶ナースコール子機2a」の誤記であることは明らかである。)
との記載があるのみであって,対応する図面もない。
すなわち,「看護師が担持するバーコードをパスワードとして利用する場合(以下,「第1の場合」という)」についての具体的な構成は,当該記載しかなく,仮に,具体例と第1の場合とが,それぞれ,独立した実施例とした場合,第1の場合についての説明が簡略すぎて,不自然である。
一方,具体例と第1の場合の関係が,第1の場合は具体例を前提とした上で,さらに,第1の場合の構成を付加したものとすれば,両者共に「病室液晶ナースコール子機2a」,「ナースコール用バーソナルコンピュータ7」,「第1の病室子機用バーコードリーダ1a」を備え,また,動作も「第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取」ることを前提として,病室液晶ナースコール子機を利用可能とすることが共通していることから自然である。
さらに,甲第1号証の特許請求の範囲には以下のとおりの記載がある。
「【請求項1】
病室などに設置された液晶ナースコール子機(2a,2b)の患者からの呼出に応じて,廊下に設置された集合廊下灯(3a,3b,3c,…),病院内に設置されたナースコール制御機(4)を介してナースステーションなどに設置されたナースコール親機(5)に呼出を報知/表示させ,前記ナースステーション内に設置されたナースコール用パーソナルコンピュータ(7)に予め記憶されている患者情報を報知/表示させるナースコール装置において,
前記液晶ナースコール子機は,前記患者情報と照合し前記患者の確認をするため前記患者によって担持され前記患者を特定するバーコードを読取る子機用バーコードリーダ(1a,b)を備えたことを特徴とするナースコール装置。」
「【請求項3】
前記患者によって担持され前記患者を特定するバーコードを前記子機用バーコードリーダで読取り,更に看護師によって担持され前記看護師を特定するバーコードをパスワードとして前記子機用バーコードリーダで読取ることにより前記液晶ナースコール子機で患者の体温,脈拍などの患者の状態を記録し,前記ナースコール用パーソナルコンピュータに転送することを特徴とする請求項1記載のナースコール装置。」
以上の記載をみると,請求項1は,上記具体例の構成を特定しており,請求項3は第1の場合の構成を特定していると捉えることができる。
上記請求項の特定事項をみれば,第1の場合を実施する際には具体例の構成を前提としていることは明白である。
被請求人は,実施例として,例えばフローチャートなどで,具体例の構成と第1の場合の構成とが組み合わされた事項が記載されていないから,甲第1号証の記載から,具体例の構成と第1の場合の構成とが組み合わされた事項まで開示がないとも主張しているが,上述したように,両者共に「『病室液晶ナースコール子機』,『ナースコール用パーソナルコンピュータ』,『第1の病室子機用バーコードリーダ』を備え,また,動作も『第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取』ることを前提として,病室液晶ナースコール子機を利用可能とすることが共通している」のであるから,当該共通する構成に,さらに,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aを使用可能とし,第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部(不図示)などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録可能とする構成を付加することは,甲第1号証の記載からみて当業者が普通に想定できたことであるといえる。

b 看護師の業務について
上記具体例の構成は,看護師などが第1のベッドサイドにおいて第1の患者情報を閲覧する際に患者を確認することができるようにするためのものであり,第1の場合は,看護師が第1の患者の体温や脈拍などを記録する際に,患者及び看護師を確認するためのものであるといえる。
そして,看護師が,上記患者情報を閲覧することや患者の体温や脈拍などを記録することは共に日常的に生じる業務であり,これらは,シームレスに行われることが望ましいことは普通に知られているから,上記具体例の構成と第1の場合の構成とは共に組み合わせて利用されることを前提としていると考えることが自然である。

c 以上のとおりであるから,甲第1号証には,【0019】〜【0029】に記載された具体例を説明する実施例と,【0031】〜【0036】において,具体例に対して,それぞれ追加的に付加することのできる「第1」から「第5」の付加機能についての実施例が記載されているといえる。そして,甲1発明1及び甲1発明2は,このうち,具体例に対して「第1」の付加機能を追加した実施例に基づき認定したものである。

d よって,具体例についての実施例と,付加機能に関する実施例が,それぞれ独立した別の実施例であるとの主張を採用することはできない。

(エ)無効2019−800033号の「一体不可分」について
被請求人は,無効2019−800033号を引用して,これと全く同じ論理が成り立つものであり,甲第1号証の段落【0031】の患者バーコード及び看護師バーコードは,ユーザID及びパスワードのように一体不可分に用いられると解される旨主張する。
しかしながら,無効2019−800033号の審決は,当該審決で引用されている特開2005−275607号には「電子カルテサーバ3は,ベッドサイド端末識別子,及び,医療スタッフ識別子を受信する」ことで,「ベッドサイド端末識別子に対応する患者名をベッドサイド端末情報記憶部7から取得」し,「医療スタッフ識別子,及び,患者名に対応する状態情報が存在するか否か判定する」(【0108】【0109】参照)との一連の処理を行う点で,ベッドサイド端末識別子と医療スタッフ識別子は一体不可分であるとするものである。
これに対し,甲第1号証の【0031】は,上記(イ)のとおり,第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取った後に,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることを意味するもの程度のものであって,患者が担持するバーコードと看護師が担持するバーコードとの間に,無効2019−800033号で引用する特開2005−275607号のベッドサイド端末識別子と医療スタッフ識別子の関係と同様の関係があるとは認められない。
よって,被請求人の主張を採用することはできない。

(オ)被請求人は,令和3年10月22日提出の補正書で,次のように主張する。
(主張A)
「 甲第1号証では,患者の状態情報を読み取る過程において,「第1の患者が担持するバーコードを第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取り,更に看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機1aを使用することができる。」と記載されている(段落0031)。しかし,看護師及び医師のみが操作するナースコールシステムでは,患者バーコードを読み取った後,注意メッセージなどを含む患者用画面が表示された状態で看護師IDを取得する必要は一切なく,何らの動機づけも存在しない。
すなわち,患者に対する情報提供を前提として,医療関係者に必要な情報を提供する技術思想は,甲第1号証には一切表れていないため,本件発明のように構成する動機づけや示唆がないことは明らかである。動機づけがない限り,本件発明のように,患者や医療関係者に向けて情報提供する構成は設計事項とは言えない(平20年(行ケ)第10405号 インクカートリッジ事件)。」(9ページ(同旨訂正請求書8ページ))

(主張B)
「 また一方で,甲第1号証に記載の発明は,患者や医療関係者のそれぞれに必要な情報を提供するという機能は有しておらず,本件発明とは機能も作用も異にするものであるから,本件発明の第1出力部,第2取得部,第3取得部,第3判定部,第3出力部といった相違点は単なる設計事項にすぎないとは言うことができない(平成14年(行ケ)第646号 特許取消決定取消請求事件)。」(9ページ(同旨訂正請求書8ページ))

なお,上記主張A,Bは,訂正の適法性を説明する中で主張するものであるが,念のため検討をする。

(a)主張Aについて
第1の患者が担持するバーコードの読取り後の処理について,甲1発明1は,「第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号を,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して病室液晶ナースコール子機2aへ伝送」されるものである。
そして,その後の動作を説明する甲第1号証【0026】には,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7において,患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号(以下「一致信号」という。)が出力され,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して第1の病室液晶ナースコール子機2aへ伝送される。これにより,第1の液晶ナースコール子機2aの表示部に,図2に示すような画面が現れるとともに,当該画面の患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付される。従って,このような構成のナースコール装置によれば,当該バーコードを担持する患者が第1の患者,すなわち,病室A内の第1のベッドに係る患者であることを確認することができる。」として,第1のベッドに係る患者であることが確認できるように,第1の液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,甲第1号証の図2に示すような,患者名を含む,患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付された画面が現れるようにする構成が記載されている。
そして,上記相違点1−3で検討した,甲1発明1におけるバーコードの読取り順序との関係について,甲第1号証の記載全体から見て,上記第1の患者が担持するバーコードの読取り後の処理は,発明の全体構成を説明するものとして記載されているのに対し,上記バーコードの読取り順序は,上記全体構成を記載した後の「次に,本発明のナースコール装置の付加機能について説明する。」(【0030】)との記載のさらに後に記載されている【0031】に関するものであるから,上記バーコードの読取り順序は,上記第1の患者が担持するバーコードの読取り後の処理の全体構成に対して付加した構成といえる。
すなわち,甲1発明1は,上記第1の患者が担持するバーコードの読取り後の処理の全体構成としての,「第1の患者が担持するバーコードを読み取った後,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると,ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号を,この一致信号が前述の第1のバーコードデータと逆の経路を経由して病室液晶ナースコール子機2aへ伝送し,第1の液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,甲第1号証の図2に示すような,患者名を含む,患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付された画面を表示する」という構成に加えて,上記バーコードの読取り順序の「第1の患者が担持するバーコードを読み取った後,看護師が担持するバーコードを読み取り,看護師の識別を行う」との付加機能をともに有していると捉えることができる。
そして,上記(1)エの対比で見たとおり,甲1発明1の液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される,「主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名など」が表示され,「右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などが表示される」「画面」は,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」などのいずれかのボタンを選択操作することで,選択されたボタンに対応付けられた情報を確認できるものであるから,甲1発明1において,第1の患者が担持するバーコードを読み取った後,看護師が担持するバーコードを読み取る前に,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」などのいずれかのボタンを選択操作することで,選択されたボタンに対応付けられた情報を確認することができるものである。
そして,上記(ウ)bで検討したとおり,甲1発明1は,看護師及び医師のみが操作するナースコールシステムではないことから,被請求人の主張する「注意メッセージなどを含む患者用画面が表示された状態で看護師IDを取得する必要は一切なく,何らの動機づけも存在しない。」との点を採用することはできない。
よって,被請求人の上記主張Aを採用することはできない。

(b)主張Bについて
上記(1)エの対比及び上記相違点1−2で検討したとおり,甲1発明1において,「食事制限」等の表示機能により,病院食以外で患者が摂取できる又はできない飲食物を患者等が閲覧可能であることは明らかであり,上記(1)オの対比で見たとおり,甲1発明1の,第1の患者の体温や脈拍などが記録できる画面は,病室液晶ナースコール子機2aで表示されることは明らかであり,この画面では,第1の患者の体温や心拍などの履歴情報を閲覧できることは技術常識であることから,甲1発明1は,患者や医療関係者のそれぞれに必要な情報を提供するという機能を有しているものである。
よって,被請求人の上記主張Bを採用することはできない。

(3)小括
以上によれば,本件訂正発明1は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできない。
他方,本件訂正発明1は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 理由2−2(進歩性)について
(1)理由2−2は,本件訂正発明2に対する無効理由であって,本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用する発明であって,本件訂正発明1に対して,さらに「前記入力画面から入力された,取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置へ出力する第3出力部」との構成を備えるものである。
そこで,本件訂正発明2と甲1発明1とを対比すると,上記1(1)カの一致点及び相違点1−1〜相違点1−3に加えて,さらに,次の点で相違する。

<相違点2−1>
本件訂正発明2は「前記入力画面から入力された,取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置へ出力する第3出力部」を備えるのに対し,甲1発明1は,「第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報を伝送」するものの,「前記入力画面から入力された,取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置へ出力する第3出力部」を備えることが明確ではない点。

(2)判断
ア 上記1(1)カの相違点1−1〜相違点1−3は,上記1(2)イ(イ)で検討したとおり,当業者が容易になし得た事項である。

イ 相違点2−1について検討をする。
本件特許明細書には次の記載がある。
「【0102】
看護支援記録画面110の動作は以下の通りである。看護師が患者ID欄170の患者ID「001」を入力部34でタッチした場合,CPU31はバイタルグラフ120,体温欄130,脈拍数欄140,最高血圧欄150,最低血圧欄160及び患者ID欄170を患者ID「001」に対応する看護支援記録画面110に切り替える。看護師が医療年月日欄180の医療年月日を入力部34で「2015年8月20日」に切り替えた場合,CPU31は「2015年8月20日」に対応する看護支援記録画面110に切り替える。CPU41は本日,電子カルテ421内に記憶されたバイタルに基づいて看護支援記録画面110を生成する。また,看護師が医療年月日「2015年8月18日」に切り替えた場合,CPU31は「2015年8月18日」に対応する看護支援記録画面110に切り替える。CPU41は過去に電子カルテ421内に記憶されたバイタルに基づいて看護支援記録画面110を生成する。このように,CPU31が医療年月日欄180の表示を切り替えることでCPU41は現在及び過去に記録したバイタルの看護支援記録画面110を生成することができる。またCPU41はバイタル画面10で入力されたバイタルだけでなく,予め診察時等に電子カルテ421内に記録されたバイタルに基づいて看護支援記録画面110を生成してもよい。
【0103】
患者ID「001」に対応する看護支援記録画面110の生成方法は以下の通りである。CPU41はバイタルDB226を通信部46で医療用サーバ2から取得する。CPU41は取得したバイタルDB226に基づいて電子カルテ421を更新する。CPU41は電子カルテ421に記憶されたバイタルを参照し,体温欄130,脈拍数欄140,最高血圧欄150,最低血圧欄160及び患者ID欄170に体温,脈拍数,最高血圧,最低血圧及び患者IDを生成する。CPU11は体温,脈拍数,最高血圧及び最低血圧の時系列のグラフをバイタルグラフ120に生成する。」
本件特許明細書の上記記載によれば,本件訂正発明2の「状態情報の履歴」は「現在又は過去に記録したバイタル」を含み,本件訂正発明2の「患者の状態の変化を示すための変化情報」は「体温,脈拍数,最高血圧及び最低血圧の時系列のグラフ」を生成するための情報を含むものである。

ウ 一方,甲1発明1は,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7が,第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報を伝送」するものであって,これにより,看護師が第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される患者用カルテ,治療計画および食事制限などを閲覧できるものである。さらに,甲1発明1は,「看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録」することができるものであって,第1の患者の体温や脈拍などは,患者用カルテに記録されることは技術常識である。
よって,甲1発明1において,看護師が第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される患者用カルテを閲覧できる機能に,現在及び過去に記録した体温や脈拍を時系列のグラフで表示する機能を追加し,このとき,現在又は過去に記録した体温や脈拍を時系列のグラフで表示する出力部を備える構成とすることで,上記相違点2−1の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項にすぎない。

(3)小括
よって,本件訂正発明2は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 理由1−3〜理由1−4(新規性)及び理由2−3〜理由2−4(進歩性)について
理由1−3は,本件訂正発明3に対する無効理由であって,情報処理方法の発明である本件訂正発明3は,情報処理装置の発明である本件訂正発明1とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。
また,理由1−4は,本件訂正発明4に対する無効理由であって,情報処理プログラムの発明である本件訂正発明4は,情報処理装置の発明である本件訂正発明1とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。
そして,甲第1号証に記載された甲1発明1としては,ナースコール用パーソナルコンピュータ7という物の発明だけではなく,方法の発明及びプログラムの発明としても認定することができる。
このようにして認定した甲第1号証に記載された方法及びプログラム発明と,本件訂正発明3及び4の一致点及び相違点は,実質的に上記1(1)カのとおりであるから,上記1(2)ア及びイのとおり,本件訂正発明3及び4は新規性を有し(理由1−3,理由1−4),本件訂正発明3及び4は進歩性(理由2−3,理由2−4)を有しない。
よって,本件訂正発明3及び4は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできない。
他方,本件訂正発明3及び4は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 理由1−5(新規性)及び理由2−5(進歩性)について
(1)本件訂正発明5と甲1発明2との対比
ア 構成要件Q5について
甲1発明2の「病室液晶ナースコール子機2a」は,後述する相違点は別にして,本件訂正発明5の「端末装置」に相当する。

イ 構成要件K5,L5について
甲1発明2の「病室液晶ナースコール子機2a」は,「第1の患者が担持するバーコードをベッドに係る病室子機用バーコードリーダ1aで読取ると,病室子機用バーコードリーダ1aから第1の患者を特定する第1のバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送」する機能を有するものであって,甲1発明2の「第1の患者」,「第1の患者が担持するバーコードデータ」及び「ナースコール用パーソナルコンピュータ7」は,それぞれ,本件訂正発明5の「患者」,「患者を識別するための第1識別情報」,「情報処理装置」に相当し,甲1発明2の「第1の患者が担持するバーコード」を読み取る「病室子機用バーコードリーダ1a」は,本件訂正発明5の「患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得部」(構成要件K5)に相当し,甲1発明2の病室液晶ナースコール子機2aは,「病室子機用バーコードリーダ1aから第1の患者を特定する第1のバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送」する機能を有することから,第1のバーコードデータを送信する手段を備えていることは明らかであり,この送信する手段は,本件訂正発明5の「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信部」(構成要件L5)に相当する。

ウ 構成要件M5’について
本件訂正発明5の「患者用画面」は,上記1(1)エのとおり,本件特許明細書の患者用画面5に対応するものと解釈される。
甲1発明2の「病室液晶ナースコール子機2a」は,「第1の患者が担持するバーコードをベッドに係る病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ると,病室子機用バーコードリーダ1aから第1の患者を特定する第1のバーコードデータをナースコール用パーソナルコンピュータ7へ伝送し」,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7」で「第1の患者のバーコードデータ」と「照合する」ものであって,甲1発明2のナースコール用パーソナルコンピュータ7は,第1の患者のバーコードデータを予め記憶しておく必要があり,記憶手段を備えていることは明らかであり,さらに,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータとを照合する手段を備えていることも明らかである。そうすると,甲1発明2の当該記憶手段及び第1の患者のバーコードデータは,それぞれ,本件訂正発明5の「記憶部」及び「予め記憶された第1識別情報」に相当し,甲1発明2の,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7で患者情報が照合され,第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると」,との処理は,本件訂正発明5の「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合」に相当する。
さらに,甲1発明2の病室液晶ナースコール子機2aは,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7から両者のバーコードデータが一致した旨の信号を受信し,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表れる画面の患者チェック欄21に両者のバーコードデータが一致した旨を表わすチェックマークが付され,第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報が表示され」る機能を有しているところ,「第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画および食事制限などの第1の患者情報」は,より具体的な内容について特定されていない点で相違するものの,本件訂正発明5の「患者の医療情報」に相当する。甲1発明2の液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される,「画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などを主要部とし,その右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などを有する画面」は,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」などのいずれかのボタンを選択操作することで,選択されたボタンに対応付けられた情報を確認できる画面である点で,後述する相違点は別にして,本件訂正発明5の「患者用画面」に相当する。
甲1発明2において,第1の患者情報は,「ナースコール用パーソナルコンピュータ7で患者情報」が,「第1のバーコードデータと第1の患者のバーコードデータが一致すると」とされた後,看護師などが所定の操作を行うと,第1の病室液晶ナースコール子機2aの液晶タッチパネルディスプレイの表示部に「画面の主要部には,患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名などを主要部とし,その右側には,患者用カルテ,治療計画,食事制限などを有する画面」が表示されることから,甲1発明2の液晶タッチパネルディスプレイの「表示部」と,本件訂正発明5の「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部」とは,「前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部」で共通する。

エ 構成要件N5について
甲1発明2の,病室液晶ナースコール子機2aの,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取る機能における看護師が担持するバーコードは,自己を特定する専用のバーコードであることから,このバーコードの読取りが行われるための条件は別にして,看護師が担持するパスワードとして読み取ったとしてもナースコール用パーソナルコンピュータ7で照合されることにより,当該看護師を特定することができるものである。このため,看護師が担持するバーコードは,当該バーコードを担持する看護師を特定する識別情報として機能することは明らかである。
そして,甲1発明2は,看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取りを経ることで,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録することができる点で,甲1発明2の「看護師が担持するバーコード」は,本件訂正発明5の「看護師または医師を識別するための第2識別情報」のうちの「看護師」「を識別するための第2識別情報」に相当する。
そうすると,甲1発明2の「看護師が担持するバーコードをパスワード」として読み取る「第1の病室子機用バーコードリーダ1a」は,本件訂正発明5の「看護師」「を識別するための第2識別情報を取得する第2取得部」に相当する。

オ 構成要件O5について
また,上記ウのとおり,甲1発明2において,ナースコール用パーソナルコンピュータ7が患者情報を照合することから,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることにより行われる看護師の照合は,ナースコール用パーソナルコンピュータ7で行われることは技術常識であり,このとき,病室液晶ナースコール子機2aは,読み取られた看護師が担持するバーコードを,ナースコール用パーソナルコンピュータ7に送信する手段を有することも明らかである。そうすると,甲1発明2の当該送信する手段は,本件訂正発明5の「前記第2取得部で取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部」に相当する。

カ 構成要件P5について
(ア)上記1(1)オ(ア)で摘記した,本件特許明細書【0085】〜【0091】の記載から,本件特許明細書の「バイタル」は,本件訂正発明5の「患者の状態に関する状態情報」に対応するものであり,本件特許明細書の「看護師専用画面9」は,本件訂正発明5の「前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面」に対応するものである。

(イ)上記(ア)のとおり,「バイタル」は,本件訂正発明5の「患者の状態に関する状態情報」に対応することから,甲1発明2の「第1の患者の体温や脈拍」は,本件訂正発明5の「患者の状態に関する状態情報」に相当する。
甲1発明2は,「看護師が担持するバーコードをパスワードとして読取ることにより,看護師は第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録」することができることから,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)が一致すると判定した場合に,看護師による第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録する画面が,病室液晶ナースコール子機2aに表示されることは明らかであり,そうすると,甲1発明2における,第1の患者の体温や脈拍などが記録できる画面は,本件訂正発明5の「前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面」に相当する。また,甲1発明2において,看護師が担持するバーコード(第2識別情報)が一致すると判定するためには,上記ウでみたとおり,情報処理装置が,判定のために照らし合わせる元となる看護師が担持するバーコードに対応する情報を予め記憶部に記憶しておく必要がある。以上のことから,甲1発明2の液晶タッチパネルディスプレイの「表示部」が当該画面を表示する機能は,本件訂正発明5の「前記表示部は,前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する」ことに相当する。

キ 一致点及び相違点について
<一致点>
患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得部と,
前記第1取得部で取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信部と,
前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し,表示する表示部と,
看護師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得部と,
前記第2取得部で取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部と,を備え,
前記表示部は,前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する
端末装置。

<相違点5−1>
本件訂正発明5は,「患者医療情報」が,「前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つ」であるのに対し,甲1発明2は,第1の患者情報が,第1の患者に係る患者用カルテ,治療計画及び食事制限などであって,その具体的な内容が定かではない点。

<相違点5−2>
本件訂正発明5は,「患者の医療情報として,前記患者の一日の予定,前記患者に対する注意メッセージ,リハビリ情報,投薬情報,検査情報,手術情報,及び処置情報の少なくともいずれか1つ」を「前記患者が自ら確認する」のに対し,甲1発明2は,第1の患者情報を誰が確認するか特定されていない点。

<相違点5−3>
本件訂正発明5は,看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する条件が,「前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合」であり,このような条件に基づき取得された第2識別情報を情報処理装置に送信し,この第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合,患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示するのに対し,甲1発明2では,看護師が担持するバーコードをパスワードとして読み取る条件が,「前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合」であるか定かではない点。

(2)判断
ア 理由1−5(新規性)について
上記(1)キのとおり,本件訂正発明5と甲1発明2との間には相違点5−1〜相違点5−3があり,相違点5−1〜相違点5−3は実質的な相違点であるといえるから,本件訂正発明5は新規性を有する。

イ 理由2−5(進歩性)について
(ア)相違点5−1の判断
上記相違点5−1は,上記1(1)カの相違点1−1と同じ相違点であって,上記1(2)イ(ア)で検討したとおり,当業者が容易になし得た事項である。

(イ)相違点5−3の判断
判断の便宜から,相違点5−3を検討する。
a 本件訂正発明5の構成要件N5の「前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合」の「患者の医療情報」について
本件特許明細書【0025】は,「患者の医療情報」について,次のように説明する。
「【0025】
図3は医療情報DB221に格納されているデータの一例を示す図である。医療情報DB221は医療情報等を記憶するデータベースである。医療情報とは例えば,後述するリハビリ情報,薬情報,検査情報,手術情報,処置情報,注意メッセージ,ピクトグラム,栄養指導及びバイタル等である。なお,医療情報とはこれらに限られず,医療に関する情報であれば含まれるものとする。医療情報DB221は患者ID列,リハビリ情報列,薬情報列,検査情報列,手術情報列,処置情報列,注意メッセージ列及びピクトグラム列等を備える。患者ID列には患者を識別するための患者IDが記憶される。リハビリ情報列には患者IDに対応づけて,リハビリ内容を示すリハビリ情報が記憶される。薬情報列には薬の内容を示す薬情報が記憶される。」
このように,本件特許明細書における具体的な「患者の医療情報」は,リハビリ情報,薬情報,検査情報,手術情報,処置情報,注意メッセージ,ピクトグラム,栄養指導及びバイタル等の医療に関する情報である。
また,上記1(1)オ(ア)で摘記した本件特許明細書【0086】には,「CPU31が患者用画面5を表示部35に表示した後,看護師が自身のリストバンドに記載されたバーコードを撮像部37で撮像する。」と記載されている。すなわち,看護師のバーコードの撮像は,端末装置3の表示部35に患者用画面5が表示された後に行われることが記載されている。
そして,「患者用画面5」は,次の図7に示されるとおり,患者名,「予定」,「注意」等の情報とともに,「リハ」,「投薬」,「検査」,「手術」,「処置」ボタンを含む画面であって,「リハ」,「投薬」,「検査」,「手術」,「処置」ボタンを選択することで,それぞれのボタンに対応する患者の医療情報が表示されるものである。そうすると,本件訂正発明5の構成要件N5の「前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合」の「患者の医療情報」は,リハビリ情報,薬情報,検査情報,手術情報,処置情報,注意メッセージ,ピクトグラム,栄養指導及びバイタル等の医療に関する情報であり,「患者名」とともに画面に表示されるものである。
そして,このような患者用画面5を表示することを条件に,看護師が自身のリストバンドに記載されたバーコードを撮像部37で撮像する構成とすることで,患者の取り違えを防止するものである。

【図7】

b 相違点5−3の構成とすることについて
甲1発明2においても,上記1(2)イ(イ)で検討したとおり,病室液晶ナースコール子機2aにおける「バーコードの読取り」の順番は,まず「第1の患者が担持するバーコード」が読み取られ,次に「看護師が担持するバーコード」が読み取られるものである。そして,「第1の患者が担持するバーコード」が読み取られると,「患者の診療科目,患者の病室番号やベッド番号,患者の氏名,患者チェック欄21および担当医の氏名など」を含む画面(甲第1号証の図2)が表示される。そして,この表示画面は患者の氏名を含むことから,患者の取り違えによる医療過誤の防止につながるものである。
さらに,甲1発明2の画面(甲第1号証の図2)は,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」の表示を含み,液晶タッチパネルディスプレイの表示部の患者チェック欄21にチェックマークが付された状態において,看護師などが所定の操作を行なうと,病室液晶ナースコール子機2aにおいて患者情報を閲覧できることから,操作者がこれらの表示を操作することで,操作に対応する第1の患者情報の「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」の具体的な内容を示す情報を表示させることができることは明らかである。
このように,甲1発明2において,患者の氏名を含む表示画面を表示させることで,看護師が,適切な患者であるか否かを目視でき,その後,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることにより,看護師は第1の患者の体温や脈拍などを記録することができるものであり,甲第1号証の図2における「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」の表示が第1の患者情報の具体的な内容を示す情報であるといえるか定かではないが,看護師が患者を確認することができる点で,本件訂正発明5と甲1発明2との間に差異はない。
そして,甲1発明2においても,液晶タッチパネルディスプレイの表示部に表示される,患者の氏名を含む表示画面において,看護師が,「患者用カルテ」,「治療計画」,「食事制限」の表示を操作することで,操作に対応する第1の患者情報の具体的な内容を示す情報を表示させることができるものであるところ,甲1発明2の病室液晶ナースコール子機において,一度患者のバーコードを確認した後であれば,看護師が,任意の時点で,テンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録可能とすることは普通に想定し得ることであるから,上記操作に対応する第1の患者情報の具体的な内容を示す情報を表示させた状態で,看護師が担持するバーコードをパスワードとして第1の病室子機用バーコードリーダ1aで読み取ることを可能とすることで,上記相違点5−3の構成とすることは,当業者が容易になし得た事項である。

(ウ)相違点5−2の判断
上記相違点5−2は,上記1(1)カの相違点1−2と同じ相違点であって,上記1(2)イ(ウ)で検討したとおり,当業者が容易になし得た事項である。

(エ)本件訂正発明5の「第2識別情報」について
本件訂正発明5の「第2識別情報」は,「看護師または医師を識別するための第2識別情報」であって,「看護師または医師」とあることから,どちらか一方を識別する識別情報であればよい。そのため,第2識別情報が医師を識別するための識別情報である点は,相違点ではないが,相違点であるとして,念のため検討をするに,実質的に上記1(2)イ(エ)のとおりであるから,甲1発明2において,看護師に加え医師も第1の病室液晶ナースコール子機2aのテンキー操作部などの操作により,第1の患者の体温や脈拍などを記録できるようにすることは,当業者が容易になし得た事項にすぎない。

(オ)効果について
上記相違点5−1〜相違点5−3により奏する,患者の取り違えにより患者に危害が及ぶことを防止する(セキュリティの向上)との効果は,当業者の予測し得る範囲内の事項にすぎない。

ウ 被請求人の主張について
本件訂正発明1と同じ主張については,上記1(2)ウ(ア),(ウ),(エ)及び(オ)のとおりである。また,上記1(2)ウ(イ)に関する主張については,上記相違点5−3の判断のとおりであるから,被請求人の主張を採用することはできない。

(3)小括
よって,本件訂正発明5は,本件特許出願前に国内で頒布された甲第1号証に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできない。
他方,本件訂正発明5は,本件特許出願前に国内で頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 理由1−6〜理由1−7(新規性)及び理由2−6〜理由2−7(進歩性)について
理由1−6は,本件訂正発明6に対する無効理由であって,端末装置の制御方法の発明である本件訂正発明6は,端末装置の発明である本件訂正発明5とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。
また,理由1−7は,本件訂正発明7に対する無効理由であって,端末装置の制御プログラムの発明である本件訂正発明7は,端末装置の発明である本件訂正発明5とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。
そして,甲第1号証に記載された甲1発明2としては,病室液晶ナースコール子機2aという物の発明だけではなく,方法の発明及びプログラムの発明としても認定することができる。
このようにして認定した甲第1号証に記載された方法及びプログラムの発明と,本件訂正発明6及び7の一致点及び相違点は,実質的に上記4(1)キのとおりであるから,上記4(2)ア及びイのとおり,本件訂正発明6及び7は新規性を有し(理由1−6,理由1−7),本件訂正発明6及び7は進歩性(理由2−6,理由2−7)を有しない。
よって,本件訂正発明6及び7は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできない。
他方,本件訂正発明6及び7は,本件特許出願前に国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第11 むすび

以上のとおり,請求項1ないし7に係る本件訂正発明1ないし7は,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,請求項1ないし7に係る本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得部と、
前記第1識別情報と、患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と、
前記第1識別情報が一致すると判定した場合に、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として、前記患者の一日の予定、前記患者に対する注意メッセージ、リハビリ情報、投薬情報、検査情報、手術情報、及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を、前記端末装置へ出力する第1出力部と、
前記第1識別情報が一致すると判定した場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を、前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得部と、
前記第2識別情報と、前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と、
前記第2識別情報が一致すると判定した場合に、前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記入力画面から入力された、取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置へ出力する第3出力部をさらに備えた請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得ステップと、
前記第1識別情報と、患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと、
前記第1識別情報が一致すると判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として、前記患者の一日の予定、前記患者に対する注意メッセージ、リハビリ情報、投薬情報、検査情報、手術情報、及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップと、
前記第1識別情報が一致すると判定した場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップと、
前記第2識別情報と、前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと、
前記第2識別情報が一致すると判定した場合に、前記端末装置において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと、
を含む情報処理方法。
【請求項4】
患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得ステップと、
前記第1識別情報と、患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと、
前記第1識別情報が一致すると判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として、前記患者の一日の予定、前記患者に対する注意メッセージ、リハビリ情報、投薬情報、検査情報、手術情報、及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記端末装置へ出力する第1出力ステップと、
前記第1識別情報が一致すると判定した場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記患者用画面が表示された前記端末装置から取得する第2取得ステップと、
前記第2識別情報と、前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと、
前記第2識別情報が一致すると判定した場合に、前記端末装置において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと、
をコンピュータに実行させる情報処理プログラム。
【請求項5】
患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得部と、
前記第1取得部で取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信部と、
前記第1取得部で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として、前記患者の一日の予定、前記患者に対する注意メッセージ、リハビリ情報、投薬情報、検査情報、手術情報、及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し、表示する表示部と、
前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得部と、
前記第2取得部で取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部と、
を備え、
前記表示部は、前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する端末装置。
【請求項6】
患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと、
前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと、
前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として、前記患者の一日の予定、前記患者に対する注意メッセージ、リハビリ情報、投薬情報、検査情報、手術情報、及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し、端末装置に表示する第1表示ステップと、
前記患者の医療情報が表示された場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと、
前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと、
前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと、
を含む端末装置の制御方法。
【請求項7】
患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと、
前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと、
前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報として、前記患者の一日の予定、前記患者に対する注意メッセージ、リハビリ情報、投薬情報、検査情報、手術情報、及び処置情報の少なくともいずれか1つを前記患者が自ら確認するための患者用画面を前記情報処理装置から受信し、端末装置に表示する第1表示ステップと、
前記患者の医療情報が表示された場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと、
前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと、
前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと、
をコンピュータに実行させる端末装置の制御プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-12-28 
結審通知日 2022-01-07 
審決日 2022-01-19 
出願番号 P2015-255513
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (G06Q)
P 1 113・ 851- ZAA (G06Q)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 松田 直也
古川 哲也
登録日 2018-03-23 
登録番号 6309504
発明の名称 プログラム、情報処理装置及び情報処理方法  
代理人 安國 忠彦  
代理人 加藤 卓士  
代理人 永島 孝明  
代理人 清水 紘武  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 加藤 卓士  
代理人 永島 孝明  
代理人 安國 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ