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審決分類 審判 全部無効 産業上利用性  F24H
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  F24H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F24H
管理番号 1393450
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-10-07 
確定日 2023-01-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第6145808号発明「流体ヒータ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6145808号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6145808号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、2015年7月28日(優先権主張外国庁受理2014年8月1日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月26日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、令和2年10月7日に請求人 大山パワー株式会社(代表者 大山 和男)より特許無効審判の請求がされた。
その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和2年10月22日に請求人より手続補正書(審判請求書の補正)の提出
令和3年1月26日に被請求人 ロッシ,アンドレより審判事件答弁書(乙第1号証とその訳文を添付)の提出
令和3年4月9日付けで審理事項通知
令和3年4月21日に請求人より口頭審理陳述要領書(甲1号証を添付)の提出
令和3年4月23日に被請求人より口頭審理陳述要領書(乙第2号証とその訳文、及び乙第3号証とその訳文を添付)の提出
令和3年5月1日に請求人より令和3年4月30日付け手続補正書(口頭審理陳述要領書の補正、並びに甲第1ないし5号証と甲第2、3及び5号証の訳文を添付)の提出(当審注;甲第1号証は口頭審理陳述要領書に添付されたものと同じ。)
令和3年5月1日に請求人より令和3年4月30日付け証拠説明書の提出
令和3年5月1日に被請求人より令和3年4月30日付け証拠説明書の提出
令和3年5月1日に被請求人より令和3年4月30日付け上申書(乙第4号証とその訳文、及び証拠説明書を添付)の提出
令和3年5月7日に請求人より上申書(甲第6号証とその訳文、及び証拠説明書を添付)の提出
令和3年5月14日に口頭審理
令和3年6月11日に被請求人より上申書(乙第5号証とその訳文、乙第6号証とその訳文、及び証拠説明書を添付)の提出
令和3年6月17日に被請求人より上申書(令和3年6月11日提出の上申書の補正)の提出
令和3年6月20日に請求人より上申書(甲第7ないし10号証と甲第7号証の訳文、及び証拠説明書を添付)の提出
令和3年7月6日に被請求人より上申書の提出
令和3年7月9日に請求人より令和3年7月8日付け上申書((甲第11号証とその訳文、及び証拠説明書を添付)の提出
令和3年8月27日付けで審決の予告

なお、審決の予告に対して、被請求人からは指定した期間内に何らの応答もなかった。

第2 本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件発明
本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりであり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下請求項の番号に従い「本件発明1」ないし「本件発明10」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、本件特許の出願の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)の記載からみて、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
流体を加熱する装置であって、前記装置は加熱される流体を保持するためのタンクと、前記流体と流体連絡し、反応物と触媒とを含む燃料混合物を含む燃料ウェハと、前記燃料混合物及び前記触媒と熱的に連絡する点火源とを備え、該点火源は、誘導加熱装置と、電気抵抗と、天然ガス燃焼に依存する加熱装置と、燃料の燃焼に依存する加熱装置とからなる群から選択され、
前記点火源は電気抵抗を備え、
前記タンクは加熱される流体を保持するように構成され、前記燃料ウェハは前記流体と熱的に連絡するように構成され、前記抵抗は電圧源と結合されるように構成され、前記装置は更に前記電圧源と通信するコントローラと、温度センサとを備え、前記燃料混合物はリチウムと水素化アルミニウムリチウムを含み、前記触媒は10族の元素を含み、前記コントローラは前記温度センサからの温度を監視し、少なくとも部分的に前記温度に基づいて前記燃料混合物内の反応を再活性化するように構成され、前記反応の再活性化は前記電圧源の電圧を変更することを含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記触媒はニッケル粉末を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ニッケル粉末はその有孔度を高めるように処理されている請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記燃料ウェハは、前記電気抵抗を含む層と熱的に連絡する前記燃料混合物の層を有する多層構造を備える請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記燃料ウェハは、中央の加熱インサートと、前記加熱インサートのどちらかの側に配置された一対の燃料インサートとを備える請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記タンクは前記燃料ウェハを受ける凹部を備える請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記タンクは前記凹部を密封するためのドアを更に備える請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記タンクは放熱シールドを備える請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記燃料混合物内の前記反応は少なくとも部分的に可逆性である請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記反応は、水素化リチウムとアルミニウムを反応させて水素ガスを産生することを含む請求項9に記載の装置。」

第3 請求人の主張の概要
1 主張の概要について
請求人は、「本件特許第6145808号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、下記2の証拠方法を提出して以下の無効理由1ないし4を主張する。

(1)無効理由1(産業上の利用性)
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、化学反応炉と解すると、その構成から発熱が得られることはなく、流体を加熱する装置とは認められず、産業上利用ができる発明に該当しないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第1項柱書きの規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2(実施可能要件
本件特許の出願の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1ないし10に係る発明が核反応炉に関するものであり、核反応炉関連の当業者が実施できる程度に十分に記載されておらず、また記載された内容に矛盾があるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

(3)無効理由3(サポート要件)
本件特許の出願の願書に添付された特許請求の範囲の記載は、本件特許の請求項1ないし10に係る発明が核反応炉に関するものであり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができず、また、本件特許の請求項1ないし10には、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

(4)無効理由4(明確性要件)
本件特許の出願の願書に添付された特許請求の範囲の記載は、「触媒」を単純に「化学触媒」と理解したのでは、「流体を加熱する装置」にはなり得ないので矛盾が生じ、本件特許の請求項1ないし10に係る発明が不明確であるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証: 田中栄一,展望「低エネルギー核反応による新しい核エネルギーへの期待」,Isotope News 2013年1月号 No.705,p.13-18

(2)甲第2号証: Giuseppe Levi et al.,“Observation of abundant heat production from a reactor device and of isotopic changes in the fuel”,2014年10月6日,<URL:http://www.sifferkoll.se/sifferkoll/wp-content/uploads/2014/10/LuganoReportSubmit.pdf>

(3)甲第3号証: Norman D. Cook and Andrea Rossi,“On the Nuclear Mechanisms Underlying the Heat Production by the “E-Cat””[2020年2月25日]<URL:https://arxiv.org/vc/arxiv/papers/1504/1504.01261v1.pdf>

(4)甲第4号証: ウィキペディア,「水素化アルミニウムリチウム」,2020年7月22日,<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/水素化アルミニウムリチウム>

(5)甲第5号証: Patnaik,”Handbook of Inorganic Chemicals”,2003年,McGraw-Hill,p.500-501,ISBN 9780070494398,<URL:https://archive.org/details/Handbook_of_Inorganic_Chemistry_Patnaik/mode/2up>

(6)甲第6号証: 「The Rossi Effect」のページ,[令和3年4月9日],<URL:https://ecat.com/ECATのリンク先>

(7)甲第7号証: ボローニャ大学HP(University of Bologna − Home Page(電子メールのドメイン名:unibo.it))のジョゼッペ・レヴィ(Giuseppe Levi)氏の職員紹介,[令和3年6月14日]

(8)甲第8号証: 大山和男,甲第6号証の元データ「The Rossi Effect.pdf」の作成期日が分かる画像,[令和3年6月19日]

(9)甲第9号証: 大山和男,株式会社 計算熱力学研究所の状態図作成プログラムCaTCalcSEBasicで作成した、温度T=400℃、圧力P=1.01325barでのLi−Al状態図,[令和3年6月17日]

(10)甲第10号証: ”示差熱分析(DTA)の原理と応用”,一般社団法人 日本分析機器工業会,[令和3年6月14日],<URL:https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/cta/dta/>

(11)甲第11号証: 英語版Wikipedia「Sergio Focardi」のページ,[令和3年7月7日]

以下、甲第1ないし11号証を順に「甲1」ないし「甲11」という。
なお、括弧付きの日付は請求人が作成した日付である。

第4 被請求人の主張の概要
1 主張の概要について
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は審判請求人の負担とする」との審決を求め、以下の証拠方法を提出して請求人が主張する無効理由はすべて理由がない旨を主張する。

2 証拠方法
(1)乙第1号証: V.P.Balema et al.,”Titanium catalyzed solid-state transformations in LiAlH4 during high-energy ball-milling",Journal of Alloys and Compounds,Vol 329 ,2001年,p.108-114

(2)乙第2号証: ジュゼッペ・レヴィ,宣誓供述書,(日付なし)

(3)乙第3号証: ロッシ,アンドレ,乙第2号証の実験の様子を撮影した写真,ボローニャ大学において撮影,(日付なし)

(4)乙第4号証: 米国特許第9,115,913号明細書,2015年8月25日

(5)乙第5号証: ジュゼッペ・レヴィ,宣誓供述書,ボローニャ,2021年4月16日

(6)乙第6号証: Robert A. Varin et al.,”The effects of nanonickel additive on the decomposition of complex metal hydride LiAlH4 (lithium alanate) ",International Journal of Hydrogen Energy 36,2011年,p.1167-1176

以下、乙第1ないし6号証を順に「乙1」ないし「乙6」という。

第5 証拠方法について
請求人及び被請求人の提出した証拠には、以下の記載がある。
なお、下線は当審で付したものがあり、「・・・」は記載の省略を示す(以下、同様)。
また、翻訳文は請求人又は被請求人によるものであり、当審おいて翻訳・修正した部分はその旨を示す。
また、文字や式の書式と配列が異なる表記となる部分がある。
さらに、摘記箇所の行数には空行を含まない。

1 請求人の提出した証拠
(1)甲1
ア 「1989年に・・・常温核融合が起こったらしいと発表して世間を騒がせたが,再現性が悪く,主流学会では認められなかった。・・・2011年になって, A. Rossiがニッケルと水素を燃料として,実用的に十分な熱出力(10〜1,000kW)を持つ常温核融合炉(Ni/H炉)を開発したと発表して関係者を驚かせた。」(13ページ左欄14行〜末行)

イ 「1996年頃に水野忠彦(北海道大学)は熱核融合とは異なった核反応が起こっているらしいことを指摘し,その頃からこの反応を熱核融合と区別して,低エネルギー核反応(Low-Energy Nuclear Reaction, LENR) と呼ぶようになった。」(14ページ左欄10〜14行)

ウ 「ところが,その後13年を経た2011年に米国在住のイタリア人工ンジニアA.Rossiが初めて実用的な熱エネルギー出力(1基当たり10kW程度)のNi/H炉を開発したと発表した。同年は奇しくも大震災で福島第一原発事故が発生した年である。Rossiはこの装置をEnergy Catalyzer(E-Cat)2)と命名し,同年1月から数回にわたって限られた人々を招待してボローニャ大学で実験デモを行った。同年10月28日にはE-Catユニットを107台接続して公称出力1MWの装置を組み上げ,匿名の顧客を含む限られた人々を招いて実験デモを行った(図1)。この1MW装置は運転後,入力電源を切った状態(Self-Sustained Mode) で公称出力の約半分の平均出力で5.5時間動作したといわれる。これらの実験デモは見学者が限定され,装置の反応炉の詳細は未公開で発熱量の測定にも技術的に不明瞭な点が多く,結果を疑問視する人も多かった。」(14ページ左欄30行〜同ページ右欄8行)

エ 「一般に2つの原子核が融合するには原子核間の電気的斥力によって生ずるクーロン障壁を超えるだけのエネルギーが必要である。LENRが反対される理由は常温でクーロン障壁を超えることができるという理論的根拠がないことと,熱核融合反応で生ずるはずの中性子やγ線などが実験ではほとんど検出されないことである。LENRの妥当性を示すためにはこれらの問題に対処できる理論が必要である。」(15ページ右欄下から6行〜16ページ左欄3行)

オ 「Rossiによると2011年末に既にlOkWの家庭用E-Catを1万台受注している。彼は大量生産によって低価格のホームユニットを製作し,販売することを目指している。その装置は大きさ12インチ×12インチ×4インチ,重量9kgで,価格は900USドルである。燃料(Ni粉末)の交換は6か月ごとに消費者自身でできるようにするという。1回の燃料費は10US ドルである。Rossiはこのホームユニットを米国のLeonardo社から2013年に販売を開始する計画である。その生産能力は年間100万台という。」(17ページ左欄28〜末行)

(2)甲2
ア 「Observation of abundant heat production from a reactor device
and of isotopic changes in the fuel

Giuseppe Levi
Bologna University, Bologna, Italy
・・・
ABSTRACT
New results are presented from an extended experimental investigation of anomalous heat production in a special type of reactor tube operating at high temperatures. The reactor, named E-Cat, is charged with a small amount of hydrogen-loaded nickel powder plus some additives, mainly Lithium. The reaction is primarily initiated by heat from resistor coils around the reactor tube. Measurements of the radiated power from the reactor were performed with high-resolution thermal imaging cameras. The measurements of electrical power input were performed with a large bandwidth three-phase power analyzer. Data were collected during 32 days of running in March 2014. The reactor operating point was set to about 1260 ℃ in the first half of the run, and at about 1400 ℃ in the second half. The measured energy balance between input and output heat yielded a COP factor of about 3.2 and 3.6 for the 1260 ℃ and 1400 ℃ runs, respectively. The total net energy obtained during the 32 days run was about 1.5 MWh. This amount of energy is far more than can be obtained from any known chemical sources in the small reactor volume.
A sample of the fuel was carefully examined with respect to its isotopic composition before the run and after the run, using several standard methods: XPS, EDS, SIMS, ICP-MS and ICP-AES. The isotope composition in Lithium and Nickel was found to agree with the natural composition before the run, while after the run it was found to have changed substantially. Nuclear reactions are therefore indicated to be present in the run process, which however is hard to reconcile with the fact that no radioactivity was detected outside the reactor during the run.」(1ページ1〜26行)
<翻訳文;当審による>
「原子炉装置からの大量の熱発生の観察と燃料の同位体変化について

ジュゼッペ・レヴィ
ボローニャ大学、ボローニャ、イタリア
・・・
要約
高温で動作する特殊なタイプの反応器管における異常な熱生成の拡張された実験的調査から新しい結果が提示される。E-Catと命名された反応器に、少量の水素充填ニッケル粉末+いくつかの添加剤、主にリチウムを充填する。反応は、主として、反応管の周りの抵抗コイルからの熱によって開始される。反応器からの放射パワーの測定は、高分解能熱画像カメラを用いて行った。入力電力の測定は、広帯域3相電力分析器を用いて行った。2014年3月の32日間のランニングの間にデータを収集した。反応器操作点は、運転の前半では約1260℃、後半では約1400℃に設定した。入力熱と出力熱との間の測定されたエネルギー収支は、1260℃および1400℃の運転についてそれぞれ約3.2および3.6のCOP係数をもたらした。32日間の運転中に得られた総正味エネルギーは約1.5MWhであった。このエネルギー量は、小さな反応器容積内の任意の既知の化学的供給源から得ることができるエネルギー量よりもはるかに大きい。
いくつかの標準的な方法:XPS、EDS、SIMS、ICP-MSおよびICP-AESを使用して、運転前および運転後に、燃料の試料をその同位体組成に関して注意深く調べた。リチウムおよびニッケルの同位体組成は、実験前には天然の組成と一致することが見出されたが、実験後には実質的に変化していることが見出された。したがって、核反応は運転プロセス中に存在することが示されるが、運転中に反応器の外側で放射能が検出されなかったという事実と調和させることは困難である。」

イ 「

Figure 1.Weighing the E-Cat after the test (452 g). The ridges along the body of the reactor increase the dissipation surface for natural heat convection. The power supply cables run through the two cylindrical extremities (termed “caps”), and were cut prior to weighing. 」(2ページ図1の説明)
<翻訳文>
「図1.テスト後のE-Cat の重量測定(452 g)。反応器の本体に沿ったネジ山は、自然の熱対流のために放散面を増加させます。電源ケーブルは、2つの円筒形の端(「キャップ」と呼ばれます)を通り、計量する前に切断されました。」

ウ 「

Figure 2.The E-Cat, installed on its metal frame. Note the two sets of three alumina rods (one per side) thermally and electrically insulating the supply cables that run through them. On the left, the cable connecting to the K-type probe may be seen. The strut under the center of the reactor has been covered with alumina cement, which provides thermal insulation of the reactor from the strut.」(3ページ図2の説明)
<翻訳文>
「図2.金属フレームに取り付けられたE-Cat。2セットの3本のアルミナロッド(片側に1セット)が、それらを通る供給ケーブルを熱的および電気的に絶縁していることに注意してください。左側には、K タイプのプローブに接続するケーブルが見えます。原子炉の中心の下の支柱は、アルミナセメントで覆われており、支柱からの原子炉の断熱を提供します。」

エ 「

Figure 4.Wiring diagram. The two PCEs are located one upstream and one downstream from the control instruments, a TRIAC three-phase power regulator driven by a potentiometer and by the temperature read by the K-probe. The resistors are connected in delta configuration (SW = Switch, C = Connection Box). Note that, in the text, the three cables running from the control system to C are termed C1, whereas the six cables running from C to the reactor are termed C2.」(5ページ図4の説明)
<翻訳文>
「図4.配線図。2つのPCEは、制御機器、ポテンショメータおよびKプローブによって読み取られた温度によって駆動されるトライアック3相パワーレギュレーター1つ上流および1つ下流に配置されています。抵抗はデルタ構成で接続されています(SW=スイッチ、C=接続ボックス)。本文では、制御システムからCへの3本のケーブルはC1と呼ばれ、Cから原子炉への6本のケーブルはC2と呼ばれることに注意してください。」

オ 「The dummy reactor was switched on at 12:20 PM of 24 February 2014 by Andrea Rossi who gradually brought it to the power level requested by us. Rossi later intervened to switch off the dummy, and in the following subsequent operations on the E-Cat: charge insertion, reactor startup, reactor shutdown and powder charge extraction.」 (7ページ3〜6行)
<翻訳文>
「ダミーの原子炉は、2014年2月24日の午後12時20分にAndrea Rossi によってスイッチがオンにされ、彼は私たちが要求した電力レベルに徐々に上げました。ロッシは後にダミーの電源を切るために介入し、その後のE-Catの操作で、燃料挿入、原子炉の起動、原子炉の停止、粉末の抽出を行いました。」

カ 「

Table 7. For each of the 16 thermography files recorded (ca. two days of test) we have, subsequently: average power consumption of the E-Cat, power emitted by the E-Cat by radiation, power emitted by convection, sum total of the last two values, sum total of watts emitted by both sets of rods by radiation and convection, power dissipated by Joule heating, COP, and net production.」(22ページ表7とその説明)
<翻訳文>



(当審注;ファイル番号16については省略されている。)
表7.記録された16個のサーモグラフィーファイル(約2日間のテスト)のそれぞれについて、E-Cat の平均消費電力、E-Cat が放射によって放出する電力、対流によって放出される電力、合計 最後の2つの値のうち、放射と対流によって両方のロッドから放出されるワットの合計、ジュール加熱によって消費される電力、COP、および純発熱量。」

キ 「It should also be noted that our total sample was about 10 mg, i.e. only a small part of the total fuel weight of 1 g used in the reactor.」(28ページ19〜20行)
<翻訳文>
「また、サンプル全体が約10mgであったこと、つまり、原子炉で使用される1gの総燃料重量のごく一部にすぎないことにも注意してください。」

ク 「

」(42ページ表1)
<翻訳文>




(3)甲3
ア 「On the Nuclear Mechanisms Underlying the Heat Production
by the “E-Cat”
Norman D. Cook1 and Andrea Rossi2
1. Department of Informatics, Kansai University, Osaka, 1095-569, Japan
2. Leonardo Corporation, Miami Beach, Florida, 33139, USA
We discuss the isotopic abundances found in the E-Cat reactor with regard to the nuclear mechanisms responsible for “excess” heat. We argue that a major source of energy is a reaction between the first excited-state of 7Li4 and a proton, followed by the breakdown of 8Be4 into two alphas with high kinetic energy, but without gamma radiation.」(1ページ1〜10行)
<翻訳文>
「「E-Cat」の熱生成の根底にある核メカニズムについて
Norman D.Cook1 とAndrea Rossi2
1.関西大学情報学部、大阪、1095-569、日本
2. Leonardo Corporation、フロリダ州マイアミビーチ、33139、米国
「過剰な」熱の原因となる核メカニズムに関して、E-Cat 原子炉で見つかった同位体の存在量について説明します。主なエネルギー源は、7Li4 の最初の励起状態とプロトンの間の反応であり、その後に8Be4 が高い運動エネルギーでガンマ線を含まない2つのアルファに分解することであると主張します。」

イ 「

」(5ページ表1)
<翻訳文>




ウ 「We have previously suggested [11] that the bulk of the energy produced by the E-Cat may be a consequence of Lithium reactions.」(6ページ右欄下から8行〜下から6行)
<翻訳文>
「E-Catによって生成されるエネルギーの大部分は、リチウム反応の結果である可能性があることを以前に示唆しています[11]。(請求人の注釈;文献11の著者は被請求人です。)」

エ 「3.2 Nickel Transmutations
With regard to the transmutations of Nickel, the most obvious reaction mechanisms in NiH systems are listed in Eqs. (11-15). They all entail the addition of one proton to stable Nickel isotopes. If all five reactions actually occur, the net effect would be several β+ decays, and small deposits of stable isotopes: 59Co32, 63Cu34, and 65Cu36 in the E-Cat “ash”. In the recent experimental reports [3, 4], significant accumulations of Cobalt and Copper isotopes were not found, indicating that reactions (11), (14) and (15) did not occur and therefore that all Nickel isotopes were not equally susceptible to transmutation.
・・・
Moreover, in spite of the fact that the absorption of an alpha particle by 58Ni30 would lead directly to an increase in 62Ni34 (58Ni30 + α→ 62Zn32→ 61Cu33→ 62Ni34), the absence of stable isotopes 62Zn34, 64Zn36, and 66Zn38 in the post-reaction ash indicates that alpha particles (released from the LiH reaction) were not absorbed by 60Ni32 and 62Ni34. The dramatic increase in 62Ni34 must, therefore, be explained through a different mechanism, without implying transmutations for which there is no empirical evidence.」(8ページ右欄8行〜9ページ左欄3行)
<翻訳文>
「3.2 ニッケル変換
ニッケルの核変換に関して、NiHシステムで最も明らかな反応メカニズムは式(11-15)にリストされています。それらはすべて、安定したニッケル同位体に1つのプロトンを追加する必要があります。5つすべての反応が実際に発生する場合、正味の効果はいくつかのβ+崩壊と、安定同位体のわずかな堆積です:E-Cat「灰」中の59Co32、63Cu34、および65Cu36 になります。核変換。最近の実験報告[3、4]では、コバルトと銅の同位体の有意な蓄積は見られず、反応(11)、(14)、および(15)が発生しなかったため、すべてのニッケル同位体が核変換の影響を等しく受けなかったことを示しています。
・・・
さらに、58Ni30 によるアルファ粒子の吸収が62Ni34 の直接増加につながるという事実(58Ni30+α→62Zn32→62Cu33→62Ni34)にもかかわらず、反応中に安定同位体62Zn34、64Zn36、および66Zn38 が存在しない反応灰は、アルファ粒子(LiH 反応から放出された)が60Ni32 および62Ni34によって吸収されなかったことを示します。したがって、62Ni34 の劇的な増加は、実証的な根拠がない核変換をほのめかすことはなく、別のメカニズムで説明する必要があります。」

(4)甲4
ア 「水素化アルミニウムリチウム(すいそかアルミニウムリチウム、lithium aluminium hydride)は組成式LiAlH4で表されるアルミニウムのヒドリド錯体で無機化合物の一種であり、ケトン、アルデヒド、アミド、エステルなどの還元に用いられる。粉末状の強い還元剤であり、水と激しく反応し水素を発生するため、使用する際はジエチルエーテルなどの脱水溶媒を用いる必要がある。LAH (ラー)という略称がよく用いられる。」(1ページ4〜10行)

イ 「標準生成熱」「ΔfHθ」「−116.3 kJ mol−1[1]」(1ページ右の表)

ウ 「熱分解
・・・
室温ではLAHは準安定である。長期間保存しておくと徐々に八面体型六配位のヘキサヒドリドアルミン酸イオンを含むLi3AlH6とLiHに分解する。この分解はチタン、鉄、バナジウムなどの触媒存在下で加速する。
LAHの加熱分解には3つの反応機構が関係している。
1. LiAlH4 → 1/3Li3AlH6 + 2/3Al+ H2
2. 1/3Li3AlH6 → LiH + 1/3Al +1/2 H2
3. LiH+Al → LiAl + 1/2H2」(3ページ熱分解の欄)

(5)甲5
「LITHIUM HYDRIDE
・・・
Physical Properties
White crystalline solid; cubic crystals; density 0.82g/cm2; melts at 686.4℃; decomposes in water; soluble in acids.

Thermochemical Properties
ΔHfO -21.64kcal/mol」(500ページ27行〜501ページ5行)
<翻訳文>
「水素化リチウム
・・・
物理的特性
結晶性固体:立方晶:密度0.82g / cm2:686.4℃で溶融。
水中で分解します。酸に可溶。
熱化学的性質
ΔHfO -21.64kcal/mol」

(6)甲6
「The Rossi Effect

Until the inventor Andrea Rossi (https://ecat.com/inventor-andrea-rossi) discovered the Rossi Effect there were basically only two categories of studied:

1. Palladium - Deuterium(the original Cold Fusion process)
2. Nickel - Hydrogen
__________________________________________________________________

The Rossi Effect is a completely new discovery in the field of technology and raises the available power density of processes several orders of magnitude to at least 10 kW/kg.
____________________________________________________________________

With Power Densities this high most conventional Energy Applications have the potential of being replaced with an ECAT energy source.

Copyright(当審注;記号は省略。)2011 -2021 Ecat.com
The Rossi Effect is based on a process including Hydrogen and Lithium where Nickel is merely used as a catalyst and is not consumed in the process (some Nickel - Hydrogen reactions occur but the major part of the Nickel is not consumed and can be recycled). The Hydrogen - Lithium reaction is highly exothermic;

1. Li7 + H1 → Be8 → 2He4 + 17.3 MeV,

where the 17.3 MeV (=2.8*10-12J) is released as heat This is equivalent to an Energy Density (Specific Energy) of 209 million MJ/kg or 58 million kWh/kg or 5 million times the Energy Density of Oil.

ECAT uses Lithium Aluminium Hydride (LiAIH4) as fuel for utilizing the Rossi Effect. The benefit of Lithium Aluminium Hydride as a Fuel Source is that it is a solid and therefore much easier to handle than ordinary Hydrogen Gas.
Leonardo Corporation received a US patent for this ECAT process on the 25 Aug 207 5, see ECAT patents (../ecat-technology/ecat-patents).

When heated Lithium Aluminium Hydride decomposes in a three-steps:

1. 3 LiAIH4 → Li3AIH6 + 2 Al+ 3 H2 (R1)
2. 2 Li3AIH6 → 6 LiH+ 2 Al+ 3 H2 (R2)
3. 2 LiH + 2 Al → 2 LiAI + H2 (R3)

(R1) is usually initiated by the melting of Lithium Aluminium Hydride in the temperature range 150-170 ℃, immediately followed by decomposition into solid Li3AIH6 , although (R1) is known to proceed below the melting point of LiAIH4 as well. At about 200℃, Li3AIH6 decomposes into LiH (R2) and Al which subsequently convert into LiAI above 400℃
(R3). Reaction (R1) is effectively irreversible. (R3) is reversible with an equilibrium pressure of about 0.25 bar at 500℃. (R1) and (R2) can also occur at room temperature with suitable catalysts. When Nickel is added as a catalyst Lithium and Hydrogen will start to diffuse into the Nickel Lattice after the decomposition of the Lithium Aluminium Hydride and at high enough temperature, 600 - 1200℃, the Rossi Effect will kick in and convert Lithium and Hydrogen into Helium under the release of vast amounts of energy.

Especially beneficial is that gamma radiation is naturally absent in the Rossi Effect because the energy is only released as kinetic energy through thermal Helium nuclei which later thermalize the Nickel Lattice and the inner walls of the ECAT reactor core, under impact, turning kinetic energy into thermal energy. This makes the Rossi Effect ideal for utilizing nuclear sized energy in the complete absence of both radioactive materials and radiation.」(全文)
<翻訳文;当審により一部修正>
「ロッシ効果

発明者のアンドレア・ロッシ(https://ecat.com/inventor-andrea-Rossi)がロッシ効果を発見するまで、研究されたのは基本的に2つのカテゴリーのみでした。

1.パラジウム−重水素(常温核融合独自のプロセス)
2.ニッケル−水素
__________________________________________________________________
ロッシ効果は、技術分野におけるまったく新しい発見であり、プロセスの利用可能な電力密度を数桁以上、少なくとも10 kW / kg に引き上げます。
____________________________________________________________________
電力密度を使用すると、この最も高い従来のエネルギーアプリケーションは、ECATエネルギー源に置き換えられる可能性があります。

Copyright(当審注;記号は省略。)2011 -2021 Ecat.com
ロッシ効果は、水素とリチウムを含むプロセスに基づいており、ニッケルは単に触媒として使用され、プロセスで消費されません(一部のニッケル−水素反応は発生しますが、ニッケルの大部分は消費されず、リサイクルできます)。水素−リチウム反応は非常に発熱性です。

1. Li7 + H1 → Be8 →2He4+17.3MeV,

ここで、17.3 MeV(= 2.8×10-12J)が熱として放出されます。これは、2億900万MJ / kgまたは5800 万kWh / kgのエネルギー密度(比エネルギー)または石油のエネルギー密度の500万倍に相当します。

ECATは、ロッシ効果を利用するための燃料として水素化アルミニウムリチウム(LiAIH4)を使用しています。燃料源としての水素化アルミニウムリチウムの利点は、固体であるため、通常の水素ガスよりもはるかに扱いやすいことです。
Leonardo Corporation は、2015年8月25日にこのECATプロセスの米国特許を取得しました。ECAT 特許(../ecat-technology/ecat-patents)を参照してください。

加熱すると、水素化アルミニウムリチウムは次の3つのステップで分解します。

1. 3LiAIH4 → Li3AiH6 + 2AI + 3H2(R1)
2. 2Li3AiH6 → 6LiH + 2AI + 3H2(R2)
3. 2LiH + 2Al → 2LiAl + H2 (R3)

(R1)は通常、150〜170℃の温度範囲で水素化アルミニウムリチウムが溶融することによって開始され、直後に固体のLi3AiH6 に分解されますが、(R1)はLiAIH4 の融点よりも低く進行することが知られています。約200℃でLi3AiH6 はLiH(R2)とAl に分解し、400℃(R3)を超えるとLiAl に変換されます。反応(R1)は事実上不可逆的です。(R3)は、500℃で約0.25bar の平衡圧力で可逆的です。(R1)および(R2)は、適切な触媒を使用して室温で発生することもあります。ニッケルを触媒として添加すると、リチウムアルミニウムハイドライドのリチウムが600〜1200℃の高温で分解した後、リチウムと水素がニッケル格子に拡散し始め、ロッシ効果は、大量のエネルギーの放出下で、リチウムと水素のヘリウムへの変換を開始します。

特に有益なのは、ロッシ効果にガンマ線が自然に存在しないことです。これは、エネルギーが熱ヘリウム原子核を介して運動エネルギーとしてのみ放出され、後で衝撃を受けてニッケル格子とECAT 炉心の内壁を熱化し、運動エネルギーを熱エネルギーに変えるためです。
これにより、ロッシ効果は、放射性物質と放射線の両方がまったくない状態で核サイズのエネルギーを利用するのに理想的です。」

(7)甲7
「Giuseppe Levi
Assistant professor
Department of Physics and Astronomy "Augusto Righi"
Academic discipline: FIS/04 Nuclear and Subnuclear Physics

Contacts
E-mail: giuseppe.levi@unibo.it
Tel: +39 051 20 9 5081
Dipartimento di Fisica e Astronomia
Viale Berti Pichat 6/2, Bologna - Go to maP

Office hours
Sono sempre disponibile dopo ogni lezione. E sempre contattabile tramite il form del sito www.giuseppelevi.it.

After every lecture I can receive students.
Students can always contact me via the form on my site www.giuseppelevi.it

(当審注;記号は省略した。)2021 - ALMA MATER STUDIORUM - Universita di Bologna - Via Zamboni, 33 - 40126 Bologna - Partita IVA: 01131710376
Privacy I Legal Notes」(全文)
<翻訳文>
「ジュゼッペ・レヴィ
助教授
物理学・天文学科「アウグスト・リギ」
学問分野:FIS/04核・亜核物理学

連絡先
電子メール: giuseppe.levi@unibo.it
電話: +39 051 20 9 5081
デイパルテイメント・ディ・フィシカ・エ・アストロ
ノミア・ヴィアーレ・ベルティ・ピチャ6/2、ボローニャ−地図に移動

営業時間
ソノ・センプレ・ディスポニビレ・ドポ・オグニ・レツィオオ−ネEセンプレコンタビレトラマイトイルフォームデルシトwww.giuseppelevi.it.
講義を受けた後は学生を受け入れることができます。
学生はいつでも私のサイトのフォームを介して私に連絡することができますwww.giuseppelevi.it

(当審注;記号は省略した。)2021年−アルマ・マテル・スタジオラム−ボローニャ大学−ザンボニ通り,33-40126ボローニヤ−パルテイタIVA: 01131710376
プライバシーI法的注意事項」

(8)甲8




(9)甲9




(10)甲10
「示差熱分析(DTA)の原理と応用

概要
示差熱分析(DTA)は、試料と基準物質の温度を一定のプログラムに従って変化させながら、その試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する方法です。温度変化に伴い、試料が転移や反応を起こした場合、基準物質との温度差が変化するため、これを検出します。DTA信号からは試料の転移温度、反応温度、及び転移や反応が吸熱現象か発熱現象かの情報が得られます。融解、ガラス転移、結晶化、気化、昇華、結晶転移等の相転移、脱水、分解、酸化、硬化等の反応現象を捉えることができます。本編では、DTA分析の概要、原理、手法、応用例を解説致します。

1. はじめに
示差熱分析( differential thermal analysis : DTA)とは、[試料及び基準物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する方法](JIS K 0129 "熱分析通則")と定義されている。示差熱分析で検出するのは試料の温度(正確には基準物質との温度差)であり、転移、融解、反応等の吸発熱を伴う現象が測定対象となる。種々の材料は、温度に応じてその機能や性質、形態を変化させるため、その温度特性を把握することは重要である。研究開発から、製造工程の検討・最適化、製品の品質管理まで、示差熱分析の測定対象は非常に広く、高分子材料、有機材料、金属、セラミックなど我々の身の周りにある様々な材料に対して、その特性を調べるために用いられている。

2. 示差熱分析(DTA)の原理
試料の温度を変化させると、融解、ガラス転移、結晶化といった転移現象や、分解、酸化、硬化といった反応が起こり、このとき試料には吸発熱などの熱変化が生じる。DTAでは、加熱炉内に置かれた試料と基準物質の温度をそれぞれ計測し、両者の温度差から試料側に生じた上述の熱物性変化を捉える。DTAの装置 構成を図 1に示す。試料と基準物質を加熱炉内の対称位置に配置し、ヒーターによって加熱炉の温度をプログラムに従って変化させ、試料側と基準物質側に設置した熱電対でそれぞれの温度を計測する。


図2(a)は、加熱炉の温度 T f を時間 tに対して直線的に上げたときの基準物質の温度T rと試料の温度T sを描いたものである。ここで基準物質としては、測定温度範囲で熱的に変化のない物質(通常はα-アルミナなど)が用いられる。加熱炉の昇温が始まると、試料、基準物質ともそれぞれの熱容量により、加熱炉の温度より少し遅れながら温度上昇を開始し、やがて加熱炉の温度に追従して昇温するようになる。図2(a)では、基準物質側よりも試料側の熱容量が大きいことを想定したため、試料温度の方が立ち上がりの時間遅れが大きくなっている。例えば試料に融解が生じたとすると、図2(a)に示したように融解中は試料の温度が停滞し、融解が終了すると急速に元の温度上昇曲線に戻る。図2(b)は試料と基準物質との温度差(ΔT = T s−T r)を時間tに対して描いたものである。ΔTは温度上昇が定常状態ではほぼ一定の値となり(これはベースラインと呼ばれる)、試料が融解する点では吸熱ピークを示す。このΔTの変化を記録したものがDTA曲線となる。DTAでは「示差」の言葉が示すとおり、試料と基準物質の温度差を測定することで、試料の熱物性変化を感度良く捉えている。
現在市販されている装置では熱重量測定(TG)との同時測定が行える示差熱‐熱重量同時測定(TG-DTA)装置が広く普及している。TG-DTA装置では、試料の吸発熱と質量変化を同時に測定できる利点があり、より詳細な熱特性の解析を行うことができる。」(1ページ1行〜2ページ7行)

(11)甲11
ア 「WIKIPEDIA

Sergio Focardi

Sergio Focardi(1932 − 22 June 2013) was an Italian physicist and professor emeritus at the
University of Bologna.・・・
・・・
He was a member of the President's Board of the Italian Physical Society.[9] From 1992 he had been working on cold fusion with nickel-hydrogen reactors.[10] From 2007 until his death,Focardi collaborated with inventor Andrea Rossi on the development of the Energy Catalyzer(E-Cat).」(1ページ1〜13行)
<翻訳文>
「ウィキペディア

セルジオ・フォカルディ

セルジオ・フォカルディ(1932年−2013年6月22日)はボローニャ大学でイタリアの物理学者と名誉教授でした。・・・
・・・
彼はイタリア物理学会の会長会のメンバーでした。 [9] 1992 年から、彼はニッケル−水素原子炉との冷核融合に取り組んでいました。2007年から死去するまで、フォカルディは発明家アンドレア・ロッシとエネルギー触媒(E-Cat)の開発に協力した。」

イ 「Died 22 June 2013」(1ページ右上の表)
<翻訳文>
「2013年6月22日死亡」

2 被請求人の提出した証拠
(1)乙1
ア 「Differential thermal analysis also reveals significant changes in the thermochemical behavior of the hydride doped with Al3Ti and ball-milled for 7.5 h as compared with the pure LiAlH4. We note that the thermochemical behavior of pure LiAlH4 has been studied extensively (e.g. see Refs. [9], [33], [34], [35]), and it is well known that the thermal decomposition of LiAlH4 into Li3AlH6, H2 and Al is exothermic, while the decomposition of Li3AlH6 into LiH, Al and H2 is endothermic.」(112ページ右欄31〜39行)
<翻訳文;当審により一部修正>
「示差熱分析はまた、純粋なLiAlH4と比較して、Al3Tiでドープされ、7.5時間ボールミル粉砕された水素化物の熱化学的挙動の有意な変化を明らかにする。純粋なLiAlH4の熱化学的挙動は広く研究されており(例えば、参考文献[9]、[33]、[34]、[35]を参照)、LiAlH4のLi3AlH6、H2およびAlへの熱分解が発熱反応であり、Li3AlH6のLiH、AlおよびH2への分解は吸熱反応であることは周知の事実である。」

イ 「


<翻訳文;当審による翻訳>
「図6. 3mol%のAl3Tiの存在下で7.5時間ボールミル粉砕したLiAlH4 (a)、出発LiAlH4(b)、及びメカノケミカルに調製したLi3AlH6(c)についてのDTA線図。」

(2)乙2
「To whom of interest.
I, Dr. Giuseppe Levi (PhD), declare that:
in the years from 2011 to 2014 I have worked together with other academic
colleagues, both at the University of Bologna and at the University of Uppsala, on
experiments that have measured the heat emitted by Andrea Rossi's reactors made
according to the technologies patented by him (US 9,115,913, B1) noting a
remarkable production of thermal energy.
The reports with the measurements made have been made public.

Best regards,
Giuseppe Levi
(signature)」
<翻訳文>
「関係者に向けて
私、ジュゼッペ・レヴィ(教授)は、
2011年〜2014年に掛けて、私は他の学会の人々とともに、ボローニャ大学及びウプサラ大学において、ロッシ,アンドレ氏の特許(米国特許第9,115,913号)の反応装置により生成される熱を測定する実験を行い、顕著な熱エネルギーの生成を確認したことをここに宣言します。
測定結果を含む論文は公開されています。

ジュゼッペ・レヴィ
(サイン)」

(3)乙3






(4)乙4
ア 「Patent No.: US9,115,913
Date of Patent Aug.25,2015」

イ 「Fluid heater
Inventor: Andrea Rossi,Miami Beach,FL(US)」
<翻訳文;当審による翻訳>
「流体ヒータ
発明者: ロッシ・アンドレ,マイアミ ビーチ(アメリカ合衆国)」

ウ 「Referring to FIG. 1, a heat transfer system 10 includes a pipe 12 for transporting a heated fluid in a closed loop between a heat source 14 and a thermal load 16. In most cases, for example where there is hydraulic resistance to be overcome, a pump 18 propels the heated fluid. However, in some cases, such as where the heated fluid is steam, the fluid's own pressure is sufficient to propel the fluid. A typical thermal load 16 includes radiators such as those commonly used for heating interior spaces.
As shown in FIG. 2, the heat source 14 is a tank 20 having a lead composite shield, an inlet 22 and an outlet 24, both of which are connected to the pipe 12. The interior of the tank 20 contains fluid to be heated. In many cases, the fluid is water. However, other fluids can be used. In addition, the fluid need not be a liquid fluid but can also be a gas, such as air.
The tank 20 further includes a door 26 that leads to a receptacle 28 protruding into the tank 20. Radiating fins 30 protrude from walls of the receptacle 28 into the tank 20. To maximize heat transfer, the receptacle 28 and the fins 30 are typically made of a material having high thermal conductivity, such as metal. A suitable metal is one not subject to corrosion, such as stainless steel.
The receptacle 28 holds a multi-layer wafer 32 for generating heat. A voltage source 33 is connected to the wafer 32, and a controller 35 for controlling the voltage source 33 in response to temperature of fluid in the tank 12 as sensed by a sensor 37.
As shown in FIG. 3, the multilayer fuel wafer 32 includes a heating section 34 sandwiched between two fuel sections 36, 38. The heating section 34 features a central layer 40 made of an insulating material, such as mica, that supports a resistor 42. FIG. 4 shows an exemplary central layer 40 having holes 44 through which a resistive wire 42 has been wound. This resistive wire 42 is connected to the voltage source 33. First and second insulating layers 46, 48, such as mica layers, encase the central layer 40 to provide electrical insulation from the adjacent fuel sections 36, 38.
Each fuel section 36, 38 features a pair of thermally conductive layers 50, 52, such as steel layers. Sandwiched between each pair of conductive layers 50, 52 is a fuel layer 54 that contains a fuel mixture having nickel, lithium, and lithium aluminum hydride LiAlH4 (“LAH”), all in powdered form. Preferably, the nickel has been treated to increase its porosity, for example by heating the nickel powder to for times and temperatures selected to superheat any water present in micro-cavities that are inherently in each particle of nickel powder. The resulting steam pressure causes explosions that create larger cavities, as well as additional smaller nickel particles.
The entire set of layers is welded together on all sides to form a sealed unit. The size of the wafer 32 is not important to its function. However, the wafer 32 is easier to handle if it is on the order of 1/3 inch thick and 12 inches on each side. The steel layers 50, 52 are typically 1 mm thick, and the mica layers 40, 48, which are covered by a protective polymer coating, are on the order of 0.1 mm thick. However, other thicknesses can also be used.
In operation, a voltage is applied by the voltage source 33 to heat the resistor 42. Heat from the resistor 42 is then transferred by conduction to the fuel layers 54, where it initiates a sequence of reactions, the last of which is reversible. These reactions, which are catalyzed by the presence of the nickel powder, are:
3LiAlH4→Li3AlH6+2Al+3H2
2Li3AlH6→6LiH+2Al+3H2
2LiH+2Al→2LiAl+H2
Once the reaction sequence is initiated, the voltage source 33 can be turned off, as the reaction sequence is self-sustaining. However, the reaction rate may not be constant. Hence, it may be desirable to turn on the voltage source 33 at certain times to reinvigorate the reaction. To determine whether or not the voltage source 33 should be turned on, the temperature sensor 37 provides a signal to the controller 35, which then determines whether or not to apply a voltage in response to the temperature signal. It has been found that after the reaction has generated approximately 6 kilowatt hours of energy, it is desirable to apply approximately 1 kilowatt hour of electrical energy to reinvigorate the reaction sequence.
Eventually, the efficiency of the wafer 32 will decrease to the point where it is uneconomical to continually reinvigorate the reaction sequence. At this point, the wafer 32 can simply be replaced. Typically, the wafer 32 will sustain approximately 180 days of continuous operation before replacement becomes desirable.
The powder in the fuel mixture consists largely of spherical particles having diameters in the nanometer to micrometer range, for example between 1 nanometer and 100 micrometers. Variations in the ratio of reactants and catalyst tend to govern reaction rate and are not critical. However, it has been found that a suitable mixture would include a starting mixture of 50% nickel, 20% lithium, and 30% LAH. Within this mixture, nickel acts as a catalyst for the reaction, and is not itself a reagent. While nickel is particularly useful because of its relative abundance, its function can also be carried out by other elements in column 10 of the periodic table, such as platinum or palladium.
FIGS. 5-7 show a variety of ways to connect the heat source 14 in FIG. 1.
In FIG. 5, the heat source 14 is placed downstream from a conventional furnace 56. In this case, the controller 35 is optionally connected to control the conventional furnace. As a result, the conventional furnace 56 will remain off unless the output temperature of the heat source 14 falls below some threshold, at which point the furnace 56 will start. In this configuration, the conventional furnace 56 functions as a back-up unit.
In FIG. 6, first and second heat sources 58, 60 like that described in FIGS. 1-4 are connected in series. This configuration provides a hotter output temperature than can be provided with only a single heat source 58 by itself. Additional heat sources can be added in series to further increase the temperature.
In FIG. 7, first and second heat sources 62, 64 like that described in FIGS. 1-4 are connected in parallel. In this configuration, the output volume can be made greater than what could be provided by a single heat transfer unit by itself. Additional heat transfer units can be added in parallel to further increase volume.」(2欄33行〜4欄20行)
<翻訳文>
「図1を参照すると、伝熱システム10は熱源14と熱負荷16との間の閉ループで加熱流体を輸送するための管12を含んでいる。ほとんどの場合、例えば克服すべき流体抵抗が存在する場合は、ポンプ18が加熱流体を推進させる。しかし、加熱流体が蒸気であるような幾つかの場合は、流体を推進するには流体自体の圧力で十分である。通常の熱負荷16は、内部空間を加熱するために通常使用されるような放熱器を備えている。
図2に示されているように、熱源14は、鉛(lead)複合シールドと、両方とも管12に接続されている入口22及び出口24とを有するタンク20である。タンク20の内部は加熱される流体を格納している。多くの場合、流体は水である。しかし、他の流体が使用されてもよい。加えて、流体は液相流体である必要はなく、空気などの気相流体でもよい。
タンク20はさらに、タンク20内に突起するリセプタクル28に通じるドア26を含んでいる。放熱フィン30がリセプタクル28の壁からタンク20内に突起している。伝熱を最大にするため、リセプタクル28及びフィン30は通常、金属などの熱伝導率が高い材料製である。適切な金属はステンレス鋼などの腐食しない金属である。
リセプタクル28は発熱するための多層ウェハ32を保持している。電圧源33は前記ウェハ32と、センサ37によって検知されたタンク20内の流体温度に応じて電圧源33を制御するコントローラ35とに接続されている。
図3に示されているように、多層燃料ウェハ32は、2つの燃料部36、38の間に挟装された加熱部34を含んでいる。加熱部34は抵抗42を支持するマイカなどの絶縁材料製の中央層40を特徴的に備えている。図4は、穴44を有する例示的中央層40を示し、穴44を通して抵抗線42が巻回されている。この抵抗線42は電圧源33に接続されている。マイカ層などの第1及び第2の絶縁層46、48は隣接する燃料部36、38からの電気絶縁を提供するための中央層40を収容している。
各々の燃料部36、38はスチール層などの一対の熱伝導層50、52を特徴的に備えている。各々一対の伝導層50、52の間に挟まれているのは、すべてが粉末状である、ニッケル、リチウム、及び水素化リチウムアルミニウムリチウムLiAlH4(「LAH」)を含む燃料混合物を含む燃料層54である。好適には、ニッケルは、例えばニッケル粉末の各粒子に内在する微小空洞内に存在する水を過熱するように選択された時間と温度までニッケル粉末を加熱することによってその有孔度を高めるように処理されている。その結果として生じる蒸気圧が爆発を引き起こし、それによってより大きい空洞、ならびに付加的なより小さいニッケル粒子が生じる。
各層の全体は全面が溶接されて密封されたユニットを形成する。ウェハ32のサイズはその機能にとって重要ではない。しかし、ウェハ32は厚さが約1/3インチで、各辺が12インチだと取扱い易い。スチール層50、52の厚さは通常1mmであり、保護用のポリマーコーテイングで被覆されたマイカ層40、48の厚さは約0.1mmのオーダーである。しかし、他の厚さにしてもよい。
動作時には、電圧源33によって電圧が印加され、抵抗42を加熱する。抵抗42からの熱は次いで伝導によって燃料層54に伝達され、そこで最後の反応が可逆性である一連の反応を開始する。ニッケル粉末の存在により触媒されるこれらの反応は下記の通りである。
3LiAlH4→Li3AlH6+2AL+3H2
2Li3AlH6→6LiH+2AL+3H2
2LiH+2Al→2LiAl+H2
いったん一連の反応が開始されれば、一連の反応が自立的に維持されるため電圧源33はオフにされてもよい。しかし、反応率は一定ではない。したがって、反応を再活性化するために電圧源33を所定の時間にオンにすることが望ましいことがある。電圧源33がオンにされるべきかを判定するため、温度センサ37がコントローラ35に信号を供給し、そこでコントローラ35は温度信号に応じて電圧を印加するか否かを判定する。反応が約6キロワット時のエネルギを発生した後、一連の反応を再活性化するために約1キロワット時のエネルギを印加することが望ましいことが判明している。
最終的には、ウェハ32の効率は、一連の反応を継続的に再活性化するには不経済になるところまで低下する。そこで、ウェハ32は単に交換されればよい。通常は、ウェハ32は交換が望ましくなるまで約180日の継続動作を持続する。
燃料混合物中の粉末は大部分が、ナノメートルからマイクロメートルの範囲、例えば1ナノメートルから100マイクロメートルの間の直径を有する球状粒子からなる。反応物と触媒との比率の変化が反応率を左右する傾向があるが、重要ではない。しかし、適切な混合物が50%のニッケル、20%のリチウム、及び30%のLAHの原料混合物を含むことが判明している。この混合物中で、ニッケルは反応の触媒として作用し、それ自体は反応物(reagent)ではない。ニッケルは比較的豊富であるため特に有用であるものの、その機能はプラチナ又はパラジウムなどの周期表の10族の他の元素によっても果たされ得る。
図5−7は図1の熱源14への様々な接続方法を示している。
図5では、熱源14は従来の炉56の下流側に配置されている。この場合は、コントローラ35は従来の炉を制御するために任意に接続されている。その結果、従来の炉56は、炉56が始動する所定の閾値未満に熱源14の出力温度が低下しない限りオフ状態に留まる。この構成では、従来の炉56はバックアップユニットとして機能する。
図6では、図1−4に記載した熱源のような第1及び第2の熱源58、60が直列接続されている。この構成は、単一の熱源58自体だけで得られるよりも高温の出力温度を提供する。温度を更に高めるために、追加の熱源が直列で追加されてもよい。
図7では、図1−4に記載した熱源のような第1及び第2の熱源62、64が並列接続されている。この構成では、出力容積は単一の伝熱ユニット自体だけで得られるよりも大きくなる。容積を更に大きくするために追加の伝熱ユニットが並列で追加されてもよい。」

エ 「






(5)乙5
「・・・Bologna,16 April 2021
To whom of interest.
I, Dr. Giuseppe Levi (PhD), declare that:
in the years from 2011 to 2014 I have worked together with other academic
colleagues, both at the University of Bologna and at the University of Uppsala, on
experiments that have measured the heat emitted by Andrea Rossi's reactors made
according to the technologies patented by him (US 9,115,913, B1) noting a
remarkable production of thermal energy.
The reports with the measurements made have been made public.

Best regards,
Giuseppe Levi
(signature)」
<翻訳文>
「・・・ボローニャ 2021年4月16日
関係者に向けて
私、ジュゼッペ・レヴィ(教授)は、
2011年〜2014年に掛けて、私は他の学会の人々とともに、ボローニャ大学及びウプサラ大学において、ロッシ,アンドレ氏の特許(米国特許第9,115,913号)の反応装置により生成される熱を測定する実験を行い、顕著な熱エネルギーの生成を確認したことをここに宣言します。
測定結果を含む論文は公開されています。

ジュゼッペ・レヴィ
(サイン)」

(6)乙6
ア 「3. Results and discussion
3.1. Microstructure of powders before and after milling
・・・
Therefore, the first important finding in this study is that LiAlH4 doped with 5 or even 10 wt% n-Ni does not decompose, even partially, during milling up to 1 h duration under high energy impact mode. At this moment, the reader must recall that Kojima et al. [13] reported that the LiAlH4 doped with 5 wt% of n-Ni partially decomposed during ball milling for 24 h at room temperature.・・・

3.2. Thermal behavior of undoped LiAlH4 and doped with 5 wt% n-Ni

Fig. 4 shows the evolution of DSC curves with increasing ball milling energy for the LiAlH4 + 5 wt% n-Ni(14.5) mixture as compared to the behavior of undoped LiAlH4.
Fig. 4a shows the DSC behavior of a reference as received LiAlH4. According to the numerous papers in the literature which were reviewed in [1] the first exothermic (exo) peak labeled “h” is usually assigned to the unspecified interaction of LiAlH4 with “surface hydroxyl impurities”. The second endothermic (endo) reaction (1a) is due to the melting of LiAlH4 which starts rapidly decomposing into 1/3Li3AlH6 + 2/3Al + H2 resulting in another exo peak (1b). For a 100% pure LiAlH4 the theoretical release of H2 in reaction (1b) should be 5.3 wt%. However, for a 97% pure LiAlH4, as in the present work, this amount will be 5.1 wt%. Correspondingly, for the mixture LiAlH4 + 5 wt% n-Ni this amount will still be lowered to 〜4.8 wt%. The endo reaction (2) is due to the following decomposition reaction: 1/3Li3AlH6 → LiH + 1/3Al + 0.5H2. This reaction gives 2.6 wt% H2 theoretically, 2.5 wt% H2 for a 97% pure LiAlH4 and 2.4 wt% H2 for the mixture LiAlH4 + 5 wt% n-Ni. The high temperature reaction (3),occurring over 400 ℃, is considered to be due to the decomposition of LiH into Li and 0.5H2 releasing exactly the same amount of H2 as reaction (2). As can be seen, for a 97% pure LiAlH4 doped with 5 wt% n-Ni the amount of 〜7.2 wt% H2, i.e.〜80% of the total hydrogen capacity, is available at the temperatures lower than 250 ℃. At present there is no other hydride on the horizon that would be able to release such a high amount of H2 at such a low temperature range, perhaps with the exception of AlH3 [1].
Fig. 4b shows that high energy ball milling does not change in any way the DSC scan observed for as received LiAlH4. Most interestingly, Fig. 4c shows that the addition of n-Ni to LiAlH4 by simple mixing without ball milling does not change the reference DSC scan either. That means that n-Ni must be intimately embedded into the powder particles of LiAlH4 to show its superior catalytic potential. Fig. 4d shows that even milling under a very low energy shearing mode with only one weak magnet and 2 steel balls results in a dramatic reduction of the LiAlH4 melting peak (1a). An increase in milling energy using a low energy shearing mode with 1 strong magnet and 4 steel balls leads to nearly complete disappearance of melting (Fig. 4e). Milling under a high energy IMP68 mode completely eliminates melting of LiAlH4 + 5 wt% n-Ni (Fig. 4f).」(1169ページ左欄下から5行〜1172ページ左欄11行)
<翻訳文;当審による翻訳>
「3.結果および考察
3.1.粉砕前後の粉末の微細構造
・・・
したがって、この研究における第1の重要な知見は、5wt%またはさらには10wt%のn-NiでドープされたLiAlH4が、高エネルギー衝撃モード下で1時間までの継続時間のミリング中に、部分的であっても分解しないことである。この時点で、読者は、Kojima et al.[13]は、5wt%のn-NiでドープされたLiAlH4が、室温で24時間のボールミル粉砕の間に部分的に分解したことを報告した。・・・

3.2.ドープされていないLiAlH4および5wt%のn-NiでドープされたLiAlH4の熱挙動

図4は、非ドープLiAlH4の挙動と比較した、LiAlH4+5wt%n-Ni(14.5)混合物のボールミル粉砕エネルギーの増加に伴うDSC曲線の展開を示す。
図4aは、受け取ったままのLiAlH4としての参照のDSC挙動を示す。[1]で概説された文献中の多数の論文によれば、”h”と標識された第1の発熱(エキソ)ピークは、通常、LiAlH4と”表面ヒドロキシル不純物”との不特定の相互作用に割り当てられる。第2の吸熱反応(エンド)(1a)は、LiAlH4の融解によるものであり、これは急速に分解し始めて1/3Li3AlH6+2/3Al+H2となり、別のエキソピーク(1b)をもたらす。純度100%のLiAlH4の場合、反応(1b)におけるH2の理論的放出は5.3wt%であるべきである。しかしながら、本研究のように、97%純度のLiAlH4の場合、この量は5.1wt%である。これに対応して、LiAlH4+5wt%n-Niの混合物では、この量は約4.8wt%まで低下する。エンド反応(2)は、以下の分解反応による:1/3Li3AlH6→LiH+1/3Al+0.5H2。この反応は、理論的には2.6wt%のH2、97%の純度のLiAlH4に対しては2.5wt%のH2、そしてLiAlH4+5wt%のn-Niの混合物に対しては2.4wt%のH2を与える。400℃を超えて起こる高温反応(3)は、LiHのLiHのLiおよび0.5H2への分解によるものと考えられ、反応(2)と全く同じ量のH2を放出する。図から分かるように、5wt%のn-Niでドープされた97%の純度のLiAlH4に対して、約7.2wt%のH2、すなわち、総水素容量の約80%が、250℃未満の温度で利用可能である。現在、おそらくAlH3を除いて、このような低温範囲でこのような多量のH2を放出することができる他の水素化物は存在しない[1]。
図4bは、高エネルギーボールミル粉砕が、受け取ったままのLiAlH4について観察されたDSCスキャンを全く変化させないことを示す。最も興味深いことに、図4cは、ボールミル粉砕を伴わない単純な混合によるLiAlH4へのn-Niの添加が、参照DSC走査も変化させないことを示す。これは、n-Niがその優れた触媒能力を示すためにLiAlH4の粉末粒子中に緊密に埋め込まれなければならないことを意味する。図4dは、ただ1つの弱い磁石および2つの鋼球を用いた非常に低いエネルギー剪断モード下での粉砕でさえ、LiAlH4融解ピーク(1a)の劇的な減少をもたらすことを示す。1個の強力な磁石および4個の鋼球を用いた低エネルギー剪断モードを使用した粉砕エネルギーの増加は、溶融のほぼ完全な消失をもたらす(図4e)。高エネルギーIMP68モード下でのミリングは、LiAlH4+5wt%n-Niの溶融を完全に排除する(図4f)。」

イ 「






」(1171ページ図4)

ウ 「Fig. 4−The evolution of DSC scans for undoped LiAlH4 and LiAlH4+5 wt% n-Ni (SSA=14.5m2/g) with increasing energy of ball milling. (a) As received LiAlH4, (b) LiAlH4 ball milled under a high energy IMP68, R40, for 15 min, (c) just mixed LiAlH4 + 5 wt% n-Ni, (d) LiAlH4 + 5 wt% n-Ni milled under a low energy shearing mode with 1 weak magnet, 2 balls, (e)LiAlH4 + 5 wt% n-Ni milled under a low energy shearing mode with 1 strong magnet, 4 balls, and (f) LiAlH4 + 5 wt% n-Ni milled under a high energy IMP68 mode, R40, for 15 min.」(1171ページ図4の注釈)
<翻訳文>
「図4 ボールミリングのエネルギの増加に伴うドープされていないLiAlH4およびLiAlH4+5wt% n-N i (SSA =14. 5m2/ g)のDSCスキャンの変化。(a)受け取った状態のLiAlH4、(b)高エネルギIMP68、R40で15分間ボールミルしたLiAlH4、( c)LiAlH4+5wt% n-Niを混合しただけ、(d) 1つの弱い磁石、2つのボールのせん断モードでボールミリングしたLiAlH4+5wt%n-Ni、(e) 1つの強力な磁石、4つのボールの低エネルギのせん断モードでボールミリングしたLiAlH4+5wt% n-Ni。」

エ 「2. An incorporation of 5 wt% n-Ni to LiAlH4 by ball milling under a high energy IMP68 mode completely eliminates melting of LiAlH4 when heated.」(1176ページの「4. Conclusions」の2)
<翻訳文>
「高エネルギIMP68モードでのボールミリングによってLiAlH4に5wt%n-Niを組み込むと、加熱時にLiAlH4の溶融が完全になくなります。」

第6 当審の判断
1 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものである。)。
(1)「【0002】
本開示は伝熱システムに関し、特に流体への伝熱装置に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの伝熱システムは伝熱媒体として高温流体を使用する。このようなシステムは発熱のための発熱装置と、エネルギ源と熱連絡する伝熱媒体と、加熱された媒体を熱が必要とされるどこにでも移動するためのポンプとを含んでいる。その熱容量の高さ、豊富さにより、通常、伝熱流体は液相と気相の両方の水である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多様な発熱装置が一般に使用されている。例えば、原子力発電所では、核分裂が水を加熱するエネルギを提供する。太陽エネルギを使用するソーラ式水加熱装置も存在する。しかし、ほとんどの伝熱源は発熱化学反応、特に何らかの燃料の燃焼に依存している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一側面では、本発明は、流体を加熱する装置であって、前記装置は加熱される流体を保持するためのタンクと、前記流体と流体連絡し、反応物と触媒とを含む燃料混合物を含む燃料ウェハと、前記燃料混合物及び前記触媒と熱的に連絡する点火源とを備えることを特徴とする。該点火源又は熱源は、電気抵抗、又は、天然ガス燃焼などの燃焼に依存する加熱源、又は、誘導加熱に依存する熱源であり得る。
【0006】
実施形態の一部は、燃料混合物はリチウム及び水素化アルミニウムリチウムを含む実施形態、触媒は粉末形態のニッケルなどの10族の元素を含む実施形態、又は、その任意の組み合わせである。
【0007】
他の実施形態では、粉末形態の触媒は、その有孔度を高めるように処理されている。例えば、触媒は、その有孔度を高めるように処理されたニッケル粉末である。装置は、熱源と電気的に連絡した電流源及び/又は電圧源などの電気エネルギ源も含み得る。
【0008】
他の実施形態には、前記燃料ウェハが、前記熱源を含むそうと熱的に連絡する前記燃料混合物の層を有する多層構造を備える実施形態が含まれる。
【0009】
更に他の実施形態では、前記燃料ウェハは、中央の加熱インサートと、前記加熱インサートのどちらかの側に配置された一対の燃料インサートとを備える。
【0010】
多様なタンクを使用し得る。例えば、いくつかの実施形態では、前記タンクは前記燃料ウェハを受容する凹部を備える。これらの実施形態は、前記タンクが前記凹部を密封するためのドアを更に備える実施形態を含む。更に他の実施形態では、前記タンクは放熱シールドを備える。
【0011】
同様に、実施形態は、前記電圧源と通信するコントローラを更に備える実施形態を含む。それらのうちには、前記コントローラが、前記加熱される流体の温度に応じて前記電圧を変更するように構成される実施形態を含む。
【0012】
他の側面では、本発明は、流体を加熱するための装置であって、前記装置は前記流体を収容するための手段と、触媒と反応物とを含む燃料混合物を保持するための手段と、前記触媒により媒介されて一連の反応を開始し、発熱反応を引き起こす手段とを備える装置であることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の側面は、熱を発生させるための組成物であって、前記組成物は有孔度が高められたニッケル粉末、リチウム粉末、及びリチウムアルミニウム粉末の混合物を含む組成物である。前記混合物と熱的に連絡する熱源は、ニッケルにより触媒される発熱反応を開始させるために使用され得る。
【0014】
更に他の側面は、熱の発生に特徴を有する。組成物は、燃料混合物と触媒を含む、触媒は、10族の元素を含む。
【0015】
実施形態は、前記触媒がニッケルを含む実施形態を含む。これらの一部は、ニッケルがニッケル粉末の形態である実施形態、及び、ニッケル粉末が、有孔度を高めるように処理されている実施形態である。
【0016】
本発明の他の側面は、流体を加熱する方法であって、前記方法は、前記流体と熱的に連絡するニッケル粉末、リチウム粉末、及び水素化リチウムアルミニウムの混合物を配置することと、前記混合物を加熱し、それによって前記混合物内の発熱反応を開始することを有する、方法である。」

「【0019】
図1を参照すると、伝熱システム10は熱源14と熱負荷16との間の閉ループで加熱流体を輸送するための管12を含んでいる。ほとんどの場合、例えば克服すべき流体抵抗が存在する場合は、ポンプ18が加熱流体を推進させる。しかし、加熱流体が蒸気であるような幾つかの場合は、流体を推進するには流体自体の圧力で十分である。通常の熱負荷16は、内部空間を加熱するために通常使用されるような放熱器を備えている。
【0020】
図2に示されているように、熱源14は、鉛(lead)複合シールドと、両方とも管12に接続されている入口22及び出口24とを有するタンク20である。タンク20の内部は加熱される流体を格納している。多くの場合、流体は水である。しかし、他の流体が使用されてもよい。加えて、流体は液相流体である必要はなく、空気などの気相流体でもよい。
【0021】
タンク20はさらに、タンク20内に突起するリセプタクル28に通じるドア26を含んでいる。放熱フィン30がリセプタクル28の壁からタンク20内に突起している。伝熱を最大にするため、リセプタクル28及びフィン30は通常、金属などの熱伝導率が高い材料製である。適切な金属はステンレス鋼などの腐食しない金属である。
【0022】
リセプタクル28は発熱するための多層ウェハ32を保持している。電圧源33は前記ウェハ32と、センサ37によって検知されたタンク20内の流体温度に応じて電圧源33を制御するコントローラ35とに接続されている。
【0023】
図3に示されているように、多層燃料ウェハ32は、2つの燃料部36、38の間に挟装された加熱部34を含んでいる。加熱部34は抵抗42を支持するマイカなどの絶縁材料製の中央層40を特徴的に備えている。例えば天然ガスの燃焼に依存する熱源、ならびに電気誘導に依存する熱源を含む他の熱源が使用されてもよいことに留意されたい。したがって、ガスを使用すると、反応を開始させるために電気エネルギ源を有する必要がなくなる。
【0024】
図4は、穴44を有する例示的中央層40を示し、穴44を通して抵抗線42が巻回されている。この抵抗線42は電圧源33に接続されている。マイカ層などの第1及び第2の絶縁層46、48は隣接する燃料部36、38からの電気絶縁を提供するための中央層40を収容している。
【0025】
各々の燃料部36、38はスチール層などの一対の熱伝導層50、52を特徴的に備えている。各々一対の伝導層50、52の間に挟まれているのは、すべてが粉末状である、ニッケル、リチウム、及び水素化リチウムアルミニウムリチウムLiAlH4(「LAH」)を含む燃料混合物を含む燃料層54である。好適には、ニッケルは、例えばニッケル粉末の各粒子に内在する微小空洞内に存在する水を過熱するように選択された時間と温度までニッケル粉末を加熱することによってその有孔度を高めるように処理されている。その結果として生じる蒸気圧が爆発を引き起こし、それによってより大きい空洞、ならびに付加的なより小さいニッケル粒子が生じる。
【0026】
各層の全体は全面が溶接されて密封されたユニットを形成する。ウェハ32のサイズはその機能にとって重要ではない。しかし、ウェハ32は厚さが約1/3インチで、各辺が12インチだと取扱い易い。スチール層50、52の厚さは通常1mmであり、保護用のポリマーコーテイングで被覆されたマイカ層40、48の厚さは約0.1mmのオーダーである。しかし、他の厚さにしてもよい。
【0027】
動作時には、電圧源33によって電圧が印加され、抵抗42を加熱する。抵抗42からの熱は次いで伝導によって燃料層54に伝達され、そこで最後の反応が可逆性である一連の反応を開始する。ニッケル粉末の存在により触媒されるこれらの反応は下記の通りである。
3LiAlH4→Li3AlH6+2AL+3H2
2Li3AlH6→6LiH+2AL+3H2
2LiH+2Al→2LiAl+H2
【0028】
いったん一連の反応が開始されれば、一連の反応が自立的に維持されるため電圧源33はオフにされてもよい。しかし、反応率は一定ではない。したがって、反応を再活性化するために電圧源33を所定の時間にオンにすることが望ましいことがある。電圧源33がオンにされるべきかを判定するため、温度センサ37がコントローラ35に信号を供給し、そこでコントローラ35は温度信号に応じて電圧を印加するか否かを判定する。反応が約6キロワット時のエネルギを発生した後、一連の反応を再活性化するために約1キロワット時のエネルギを印加することが望ましいことが判明している。
【0029】
最終的には、ウェハ32の効率は、一連の反応を継続的に再活性化するには不経済になるところまで低下する。そこで、ウェハ32は単に交換されればよい。通常は、ウェハ32は交換が望ましくなるまで約180日の継続動作を持続する。
【0030】
燃料混合物中の粉末は大部分が、ナノメートルからマイクロメートルの範囲、例えば1ナノメートルから100マイクロメートルの間の直径を有する球状粒子からなる。反応物と触媒との比率の変化が反応率を左右する傾向があるが、重要ではない。しかし、適切な混合物が50%のニッケル、20%のリチウム、及び30%のLAHの原料混合物を含むことが判明している。この混合物中で、ニッケルは反応の触媒として作用し、それ自体は反応物(reagent)ではない。ニッケルは比較的豊富であるため特に有用であるものの、その機能はプラチナ又はパラジウムなどの周期表の10族の他の元素によっても果たされ得る。
【0031】
図5−7は図1の熱源14への様々な接続方法を示している。
【0032】
図5では、熱源14は従来の炉56の下流側に配置されている。この場合は、コントローラ35は従来の炉を制御するために任意に接続されている。その結果、従来の炉56は、炉56が始動する所定の閾値未満に熱源14の出力温度が低下しない限りオフ状態に留まる。この構成では、従来の炉56はバックアップユニットとして機能する。
【0033】
図6では、図1−4に記載した熱源のような第1及び第2の熱源58、60が直列接続されている。この構成は、単一の熱源58自体だけで得られるよりも高温の出力温度を提供する。温度を更に高めるために、追加の熱源が直列で追加されてもよい。
【0034】
図7では、図1−4に記載した熱源のような第1及び第2の熱源62、64が並列接続されている。この構成では、出力容積は単一の伝熱ユニット自体だけで得られるよりも大きくなる。容積を更に大きくするために追加の伝熱ユニットが並列で追加されてもよい。
【0035】
一実施形態では、反応物は圧力3−6バール、及び温度400Cから600Cの反応室内に配置される。反応炉の一方の側に陽極が配置され、反応炉の他方の側に陰極が配置される。これは100KeV超の極めて高いエネルギを有するに十分な程度に双方の間で電子を加速する。電子エネルギの調整は陰極と陽極との間の電界の調整によって行うことができる。」

「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



2 無効理由2(実施可能要件)について
事案に鑑み、まず無効理由2について検討する。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない旨規定するところ、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。(平成29年(行ケ)第10138号)
これを踏まえて、以下検討を行う。
(1)本件発明1について
ア 本件明細書に記載された燃料混合物内の反応に流体を加熱しうる発熱が認められるか否かについて
本件発明1の「燃料混合物」は、「リチウムと水素化アルミニウムリチウム」からなる「反応物」と、「10族の元素」を含む「触媒」とを含むものである。
そして、本件発明1の「流体を加熱する装置」は、「燃料混合物を含む燃料ウェハ」が「流体と熱的に連絡するように構成され」ていることから、流体を加熱するためには燃料ウェハが含む燃料混合物内の反応に発熱が認められる必要がある。
そこで、本件明細書において、「リチウムと水素化アルミニウムリチウム」からなる「反応物」と、「10族の元素」を含む「触媒」とを含む燃料混合物内の反応により流体を加熱しうる発熱が発生するといえる程度の記載があるか否か、以下検討する。
(ア)式1〜3の反応自体による発熱反応について
燃料混合物内の反応について、本件明細書の段落0023〜0029の記載によると、次の説明がされている。
・多層燃料ウェハ32において、各々の燃料部36、38の燃料層54には、すべてが粉末状である、ニッケル、リチウム、及び水素化アルミニウムリチウムLiAlH4(「LAH」)を含む燃料混合物が含まれている。(段落0023、0025)
・動作時には、電圧源33によって電圧が印加され、抵抗42を加熱する。抵抗42からの熱は次いで伝導によって燃料層54に伝達され、そこで最後の反応が可逆性である一連の反応を開始する。ニッケル粉末の存在により触媒されるこれらの反応は下記の通りである。
3LiAlH4→Li3AlH6+2AL+3H2 (以下「式1」という。)
2Li3AlH6→6LiH+2AL+3H2 (以下「式2」という。)
2LiH+2Al→2LiAl+H2 (以下「式3」という。)
(段落0027)
・反応が約6キロワット時のエネルギを発生した後、一連の反応を再活性化するために約1キロワット時のエネルギを印加することが望ましい。(段落0028)
・ウェハ32は交換が望ましくなるまで約180日の継続動作を持続する。(段落0029)
これら本件明細書中の記載によると、ニッケル、リチウム、及び水素化アルミニウムリチウムを含む燃料混合物内の発熱反応が、式1〜3によるものであり、約6キロワット時のエネルギを発生し、約180日の継続動作を持続するというものであると理解するのが自然であるから、式1〜3については全体として発熱反応である必要がある。なお、この点につき、被請求人も、答弁書(4頁13〜14行目)において、「乙第1号証に記載されている通り、上記の3つの化学式(式1〜3)の反応は発熱反応であり、本発明の装置は流体を加熱することができる。」と主張している。
以下、式1〜3については全体として発熱反応であるか否か検討する。
式1については、乙1の記載(第5の2(1))によれば、発熱反応である。
なお、甲10の記載(第5の1(10))によると、示差熱分析(DTA)で温度差から吸熱か発熱かの情報が得られるものといえるところ、乙1の図6の記載によれば、b)LiAlH4のΔTのグラフによると170℃で最小値となる下方に突出した約160〜180℃の温度帯の部分で吸熱反応が生じることは認められるものの、式1の反応が全体として吸熱反応であるかは不明である。
次に、式2については、乙1の記載(第5の2(1))によれば、吸熱反応である。
そして、甲4の記載(上記第5の1(4)ア、イ)によれば、LiAlH4の標準生成熱(水素イオンの標準生成エンタルピー変化を基準にとり0とする。)はΔH=−116.3kJ/molであり、また、甲5の記載(上記第5の1(5))によれば、LiHの標準生成熱はΔH=−21.64kcal/molであり、換算すると−90.54kJ/molであるから、式1と式2とを合わせると、3LiAlH4からLiHへの反応は、加熱分解であり(上記第5の1(4)のウ)、ΔH=−(−116.3)−90.54=25.76kJ/molの吸熱反応と認められる。
また、甲9の記載(上記第5の1(5))によれば、株式会社計算熱力学研究所の状態図作成プログラムCaTCalcSEBasicで作成したLi−Al状態図からは、Al(FC_Al)molが0.5で最も低いラインが表す、400℃でのAl(FC_Al)が0.5の時のエンタルピーが約−9.9kJとなっており、これがLiAlの生成熱ΔHとすると、LiHの標準生成熱は−90.54 kJ/molであるから、式3の反応はΔH=(90.54−約9.9)≒80.64kJ/mol の吸熱反応である蓋然性が高い。
そうすると、式1の反応は発熱反応であると認められるとしても、式2の反応は吸熱反応と認められ、式1の反応と式2の反応を合わせたものは吸熱反応と認められ、さらに、式3も吸熱反応である蓋然性が高いことから、式1〜式3の反応が全体として発熱反応であるとは認めることができない。
ところで、乙6の記載(上記第5の2(6)ア〜エ)によれば、5重量%のn−Niを混合したLiAlH4に、1個の強力な磁石及び4個の鋼球を用いた低エネルギーの剪断モードでボールミリングをすると、LiAlH4の融解ピーク(1a)の劇的な減少、すなわち融解のほぼ完全な消失をもたらし(図4e)、5重量%のn−Niを混合したLiAlH4に、高エネルギーIMP68モードでのボールミリングをすると、加熱時にLiAlH4の融解が完全になくなる(図4f)ことが説明されており、5重量%のn−Niを混合したLiAlH4においてこれらの特殊なボールミリングをすることにより融解による吸熱反応が消失することが認められるところ、その特殊なボールミリングが本件明細書に記載されたニッケル粉末の処理に採用される(例えば、ニッケル粉末の有孔度を高める処理(段落0025)において採用される)ことは本件明細書には何ら説明がなく、技術常識とはいえず、発明の詳細な説明の記載に基づいてその実施ができないこと、また、5重量%のn−NiをLiAlH4に単純に混合した場合には、吸熱反応が消失しない(図4c)こと、さらに、混合物にリチウムを含んでおらず、乙6に記載の結果が式1〜3の反応にも該当するとは直ちにいえないことを考慮すると、燃料混合物にニッケルが水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)とともに含まれるからといって、吸熱反応が減少し、式1〜3の反応が全体として発熱反応になるとは認めることができない。
なお、式1〜3の反応以外に発熱反応に関する記載は、本件明細書に何ら記載されていない。
よって、本件明細書には、燃料混合物内でどのような発熱反応が起こるのか具体的に記載されていない。

(イ)燃料混合物内の反応や発熱を発生させるための具体的な構成等について
上記(ア)で検討したように、本件明細書には燃料混合物内でどのような発熱反応が起こるのか具体的に記載されていないが、次に、燃料混合物内の反応や発熱を発生させるための具体的な構成等について、本件明細書中に発明を実施することができる程度に記載があるか否か、以下検討する。
本件明細書の段落0019〜0035及び図1〜4の記載によれば、燃料混合物内の反応を生じさせるための構成等として、次の記載が認められる。
・発熱するための多層ウェハ32は、2つの燃料部36、38とそれらの間に挟装された加熱部34を有する多層構造である。(段落0022、0023及び0027並びに図3及び4)
・多層ウェハ32の各々の燃料部36、38は、すべてが粉末状である、ニッケル、リチウム、及び水素化アルミニウムリチウムLiAlH4(「LAH」)を含む燃料混合物を含む燃料層54を有している。(段落0025)
・適切な混合物が50%のニッケル、20%のリチウム、及び30%のLAHの原料混合物を含む。(段落0030)
・ニッケルは、例えばニッケル粉末の各粒子に内在する微小空洞内に存在する水を過熱するように選択された時間と温度までニッケル粉末を加熱することによってその有孔度を高めるように処理されている。(段落0025)
・多層ウェハ32は、厚さが約1/3インチで、各辺が12インチである。(段落0026)
・動作時には、電圧源33によって電圧が印加され、抵抗42を加熱する。抵抗42からの熱は次いで伝導によって燃料層54に伝達され、そこで最後の反応が可逆性である一連の反応を開始する。(段落0027)
・電圧源33がオンにされるべきかを判定するため、温度センサ37がコントローラ35に信号を供給し、そこでコントローラ35は温度信号に応じて電圧を印加するか否かを判定する。(段落0028)
・反応物は圧力3−6バール、及び温度400℃から600℃の反応室内に配置される。(段落0035)
・反応炉の一方の側に陽極が配置され、反応炉の他方の側に陰極が配置される。これは100KeV超の極めて高いエネルギを有するに十分な程度に双方の間で電子を加速する。電子エネルギの調整は陰極と陽極との間の電界の調整によって行う。(段落0035)
しかし、本件明細書には、「反応が約6キロワット時のエネルギを発生した」こと(段落0028)、及び「ウェハ32は交換が望ましくなるまで約180日の継続動作を持続する」こと(段落0029)について、具体的にどのような構成等で発熱反応となり、それを実施可能とするのか記載されておらず、不明である。具体的には、例えば次の点で不明である。
・ニッケル、リチウム及び水素化アルミニウムリチウムについて、それぞれの重量及び粒径をどの程度としたのか。ニッケルに有孔度を高める処理をした場合、どの程度の有孔度に高める処理を施したのか。
・燃料混合物を含む燃料層の寸法をどのようにするのか。
・温度センサがどこの温度を検出し、検出した温度に基づき抵抗への電圧源からの電圧の印加をどのように制御するのか。
・燃料混合物を含む多層ウェハを配置する反応室はどのようなものであるか。
・反応室内の温度及び圧力等の反応条件はどのようにするのか。
・点火源である抵抗により発生した熱エネルギが燃料混合物に与えられるところ、燃料混合物内の反応による発生エネルギ(熱エネルギ)をどのようにして測定し、燃料混合物内の反応による発生エネルギの時間推移、発生エネルギの総量等の測定結果がどのようになったのか。

特に、本件発明1の触媒は、ニッケル以外のパラジウムや白金などの10族の元素であってもよく、そのような触媒を採用した場合について、燃料混合物内の反応により流体を加熱しうる程度の発熱が生じるように構成するにあたり、燃料混合物をどのように反応させるのか不明であり、どのように構成すればよいのか理解できるとはいえない。
また、実験結果について、乙5(乙2に代える)の記載(上記第5の2(5))によれば、甲7のボローニャ大学の職員紹介にあるジュゼッペ・レヴィ氏により、本件特許の対応特許である乙4の被請求人の特許(米国特許第9,115,913号)の反応装置により生成される熱を測定する実験を行い、顕著な熱エネルギーの生成を確認したことが宣誓され、測定結果を含む論文は公開されていると述べられており、乙5の実験が複数の立会人の参加のもとで行われたことを示すための写真である乙3が提出された。
しかし、乙5で述べる測定結果を含む論文は提示されておらず、どのような燃料混合物を使用し、どのような構成の装置を用いてどのような条件の実験を行い、どのような結果が得られたのか不明であり、また、乙3は、何らかの装置について複数の人が立ち会っていることを示すにとどまり詳細は不明であるから、乙5及び乙3により本件発明1において燃料混合物内の反応が流体を加熱しうる程度の発熱が生じることが証明されているとは認められない。
仮に、乙5で述べるところの公開された論文が提示されたとしても、その具体的な実験の内容が本件明細書に記載されていない以上、本件明細書の記載内容から当業者が燃料混合物内の反応により流体を加熱しうる程度の発熱が生じるように構成するあたり、どのように構成すればよいのか理解できるとはいえない。(この点、乙5で述べるところの公開された論文が本件特許の出願の優先日前に公開され、技術常識であるというのであれば、新規性又は進歩性の新たな無効理由が発生するおそれがある。)
以上から、燃料混合物内の反応や発熱を発生させるための具体的な構成等について、本件明細書中に発明を実施することができる程度に記載があるとはいえない。

(ウ)アのまとめ
上記(ア)及び(イ)から、本件明細書には、「リチウムと水素化アルミニウムリチウム」からなる「反応物」と、「10族の元素」を含む「触媒」とを含む燃料混合物内の反応に流体を加熱しうる発熱が発生するといえる程度の記載がされているとは認められず、また燃料混合物内の反応や発熱を発生させるための具体的な構成等についての記載がない。
よって、本件明細書に、当業者が、本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるとはいえない。

イ 本件発明が低温核融合反応に関するものであるとした場合について
請求人は、無効理由2について、本件発明が低温核融合反応に関するものであると主張しており、本件発明が低温核融合反応に基づくものであるとした場合につき、以下検討する。
(ア)本件特許の発明者であるロッシ、アンドレ氏が発表した甲6の記載について
甲6は、本件特許の発明者であるロッシ、アンドレ氏が発表したものであり、その記載(上記第5の1(6))によれば、水素化アルミリチウムが加熱分解する際の式として、本件明細書に記載された式1〜式3と同じ式R1〜R3が示されており、式R1〜R3で示される水素化アルミリチウムの加熱分解の反応で水素ガスを生じ、ニッケルを触媒とした「Li7 + H1 → Be8 →2He4+17.3MeV」の反応式で示されるロッシ効果により、大量のエネルギーの放出下で、リチウムと水素をヘリウムに変換を開始すること(ニッケルを触媒としてリチウムと水素を反応させてヘリウム及び17.3MeVエネルギーが発生すること)が説明されている。

また、甲6には、「ECATは、ロッシ効果を利用するための燃料として水素化アルミニウムリチウム(LiAIH4)を使用しています。」と記載されている。
ここで、本件発明1は、リチウム、水素化アルミリチウム及び10族の元素であるニッケル等を構成要件として含むものであるので、上記甲6の記載によると、本件発明1は、10族の元素であるニッケルを触媒として、リチウムと、水素化アルミリチウムを加水分解して発生する水素が反応して、ロッシ効果により大量のエネルギーを放出するものと解することができるが、本件明細書には、そのような記載は一切なされていない。
なお、甲6の記載によると、本件明細書に記載された式1〜3の反応は、水素化アルミリチウム(LiAlH4)の分解反応を示すものであって、いずれも発熱反応としての役割ではなく、リチウムと反応させるための水素ガスを発生するものであるといえるので、上記ア(ア)において、式1〜3の反応によって、流体を加熱しうる発熱があるとは認めることができないと結論づけたことの証左といえる。

(イ)甲6記載のECATについて
甲6に記載のECATについては、甲1の記載(上記第5の1(1)ア〜オ)によれば、被請求人が2011年1月からニッケルと水素を燃料とした低エネルギー核反応(LENR)であるECAT(当審注;「E−Cat」の表記を「ECAT」にした。以下同様。)の実験デモをボローニャ大学で行い、同年10月28日には、ECATユニットを107台接続して公称出力1MWの装置を組み上げ、匿名の顧客を含む限られた人々を招いて実験デモを行い、2011年末に既に10KWの家庭用ECATを1万台受注していることが確認でき、甲7のボローニャ大学の職員紹介にあるジュゼッペ・レヴィ氏が筆頭執筆者の論文である甲2の記載(上記第5の1(2)ア〜ク)によれば、ECATと命名された反応器に、少量の水素充填ニッケル粉末+いくつかの添加剤、主にリチウムを充填し、反応は、主として、反応管の周りの抵抗コイルからの熱によって開始するものとし、放射パワーの測定や入力電力の測定等を行い、2014年3月の32日間のランニングの間にデータを収集したこと、ダミーの原子炉は、2014年2月24日の午後12時20分に被請求人によってスイッチがオンにされ、被請求人は要求した電力レベルに徐々に上げ、被請求人は後にダミーの電源を切るために介入し、その後のECATの操作で、燃料挿入、原子炉の起動、原子炉の停止、粉末の抽出を行ったことが確認でき、また、被請求人が執筆者に含まれる論文である甲3の記載(上記第5の1(3)ア〜エ)によれば、「『ECAT』の熱生成の根底にある核メカニズムについて」と題して、主なエネルギー源は、7Li4 の最初の励起状態とプロトンの間の反応である旨主張し、ECATによって生成されるエネルギーの大部分は、リチウム反応の結果である可能性があることを説明していることが確認でき、また、被請求人が乙3に示されている立会人とするセルジオ・フォカルディ氏(令和3年4月23日提出の口頭審理陳述要領書3ページ)について説明をした甲11の記載(上記第5の1(11))によれば、セルジオ・フォカルディ氏はボローニャ大学の名誉教授であり、2007年から死去する2013年6月22日まで、被請求人のECATの開発に協力したことが確認できるから、被請求人は本件特許の出願の優先日(2014年8月1日)の約6か月前までECATの研究開発に関わっていたことが認められる。
また、甲6には、「Leonardo Corporation は、2015 年8 月25 日にこのECAT プロセスの米国特許を取得しました。」と記載されているところ、甲6に記載されたECATプロセスの米国特許と本件特許の対応特許である乙4とは、出願人及び特許日が同じであることから、同じ特許である蓋然性が高いことを合わせて考慮すると、本件発明1は低エネルギー核反応(LENR)をするECATに関する発明であると解するのが自然であり、本件発明1において低エネルギー核反応(LENR)をするものについて排除するものではない。
そして、甲1の記載(上記5の(1)ウ及びエ)によれば、2011年1月から同年10月28日に被請求人の行ったECATユニットの実験デモは、見学者が限定され、装置の反応炉の詳細は未公開で発熱量の測定にも技術的に不明瞭な点が多く、結果を疑問視する人も多かったというものである。
そもそも低エネルギー核反応(LENR)は、常温でクーロン障壁を超えることができるという理論的根拠がないことと、熱核融合反応で生ずるはずの中性子やγ線などが実験ではほとんど検出されないことから、その実現性が疑問視されているものであり、その後、低エネルギー核反応(LENR)をするECATにより燃料混合物内の反応により発熱が得られたとする理由は見当たらない(なお、被請求人も、令和3年6月11日付け上申書5ページ33行〜6ページ7行において、低エネルギー核反応(LENR)が実現不能であることを認めているとおりである。)。
したがって、本件発明1は、燃料混合物内の反応が低エネルギー核反応(LENR)であるとしても流体を加熱しうる程度の発熱が生じるものということができず、当業者が実施困難な技術であるといわざるをえない。

(ウ)イのまとめ
上記(ア)及び(イ)から、本件発明1は、リチウム、水素化アルミリチウム及び10族の元素であるニッケル等を構成要件として含むものであるので、低温核融合反応を利用した発明である可能性も排除できないが、本件明細書中は、そのような記載は一切無いので、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があると認めることはできない。なお、本件明細書中に低温核融合反応に関する記載があったとしても、上記(イ)で検討したように、低温核融合反応は当業者が実施困難な技術であり、実施可能なものでない。

ウ まとめ
上記ア及びイから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるとはいえず、また、本件発明1が燃料混合物内の反応に流体を加熱しうる程度の発熱を生じるものとは認めることができず、実施困難な技術であるから、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1の構成を全て含み、さらに「前記触媒はニッケル粉末を含む」という事項を新たに特定したものである。
また、本件発明3は、本件発明1及び2の構成を全て含み、さらに「前記ニッケル粉末はその有孔度を高めるように処理されている」という事項を新たに特定したものである。
そして、これら本件発明2及び3で新たに特定された事項については、上記(1)の本件発明1の検討において、本件明細書に記載があるものとして検討している。(上記(1)ア)
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明2及び3について、本件発明1の検討と同様の理由により、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(3)本件発明4ないし8について
本件発明4ないし8については、本件発明1の構成を全て含み、それぞれの新たに特定された事項は燃料混合物内の反応自体に関するものではない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4ないし8について、本件発明1の検討と同様の理由により、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(4)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1の構成を全て含み、さらに「前記燃料混合物内の前記反応は少なくとも部分的に可逆性である」という事項を新たに特定したものである。
そして、本件発明9で新たに特定された事項については、本件明細書に記載された式3の反応について述べたものであり、式3の反応については上記(1)の本件発明1の検討において検討しており、その検討に影響があることとは認められない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明9について、本件発明1の検討と同様の理由により、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1の構成を全て含み、さらに「前記反応は、水素化リチウムとアルミニウムを反応させて水素ガスを産生することを含む」という事項を新たに特定するものである。
そして、本件発明10で新たに特定された事項については、本件発明1の検討(上記(1)イ)において検討している。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明10について、本件発明1の検討と同様の理由により、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(6)被請求人の主張について
ア 被請求人は、式1〜式3に関し、次の主張をする。(なお、行数には空行を含む。以下同様。)
・「本特許発明は装置についての発明であり、理論についての発明、ましてや、式(1)〜式(3)についての発明ではありません。よって、装置の動作原理(物理的科学的な原理)の記載は特許法上求められておらず、発明が式(1)〜式(3)に基づいて動作するとの理論の正確性は特許の有効/無効に影響しません。」(口頭審理陳述要領書2ページ6〜9行)
・「本特許の記載要件不備を立証するためには、単に式(1)〜式(3)が吸熱反応であることの証拠だけでは不十分であり、本特許に記載の条件下(10族の元素触媒の存在下)で式(1)〜式(3)が吸熱反応であることの証拠が必要であることにご留意ください。」(口頭審理陳述要領書2ページ29〜32行)
・「本件発明の燃料混合物は水素化アルミニウムリチウムを含むことから、本件発明で進行すると考えられる反応式として、本特許の出願人は【0027】に3つの反応式を明細書に記載した。しかし、当該記載は、本件発明の作用機序/メカニズムが当該3つの反応式のみで説明できることまでを宣言したのではない。」(令和3年6月11日付け上申書の3ページ15〜18行)
・「本発明は、3成分系(リチウム/水素化アルミニウムリチウム/ニッケル)燃料を使用して発熱する。これは実験によって確認された実験事実である。当該実験の結果は、明細書に記載されている(「(3)について」参照)。
【0027】の3つの反応式は、1成分系(水素化アルミニウムリチウム)又は2成分系(水素化アルミニウムリチウム/ニッケル)の反応であり、本件発明のような3成分系(リチウム/水素化アルミニウムリチウム/ニッケル)の反応ではない。
したがって、「1つ目の反応式と2つ目の反応式(第1回口頭審理調書の(7))」又は「3つの反応式(第1回口頭審理調書の(8))」が全体として発熱性であるかどうかは、本件発明(3成分系の燃料)が発熱反応であることを否定する根拠にならない。」(令和3年6月11日付け上申書の6ページ33行〜7ページ5行)
・「反応物質の熱量がそれらを発熱性にするのに十分でないということだけを根拠として、【0027】の3つの式が吸熱性であるから本件発明の装置が機能しないと主張するのは、触媒の存在下で反応が起こる場合を考慮しておらず、無意味な主張である。」(令和3年6月11日付け上申書の7ページ33〜35行)
・「被請求人は、触媒の影態を考慮せずに、水素化アルミニウムリチウムの1成分系の反応(本特許の明細書の【0027】の3つの化学式の反応)が吸熱反応か発熱反応かを議論しているに過ぎない。本件発明はリチウム/水素化アルミニウムリチウム/ニッケルの3成分系の反応であり、当該3成分系が発熱反応であることは本特許の明細書に記載の通りであり、令和3年6月11日提出の被請求人側上申書の「(3)について」、 (「(4)について」、 (「(7)〜(9)について」等で主張した通りである。」(令和3年7月6日付け上申書の2ページ18〜23行)
これら主張によると、被請求人は概略「本件発明の作用機序/メカニズムが式1〜3の3つの反応式のみで説明できるものではなく、水素化アルミニウムリチウムの1成分系の反応である式1〜3の反応が全体として発熱反応であるかどうかは、本件発明(3成分系の燃料)が発熱反応であることを否定する根拠にならない」旨を主張している。
しかし、上記(1)ア(ア)で検討したとおり、本件明細書の記載(特に、段落0023〜0029)によると、ニッケル、リチウム、及び水素化アルミニウムリチウムを含む燃料混合物内の発熱反応が、式1〜3によるものであり、約6キロワット時のエネルギを発生(発熱)し、約180日の継続動作を持続するというものであると理解するのが自然であるから、式1〜式3の反応が全体として発熱反応であるかどうかは本件発明において発熱反応であるかどうかの根拠となるものであり、これら被請求人の主張は採用できない。

イ 被請求人は、本件明細書の記載に関し、次の主張をする。
・「明細書に記載された本件発明の実施形態の具体的な構造、サイズは、下記の通りである。
−燃料ウエハー32は、図3に示すような燃料部36、38と抵抗42を有する多層構造である(【0023】)。
−燃料部36、38はリチウム/水素化リチウムアルミニウムリチウム/ニッケルの3成分系の燃料混合物を含む燃料層54を有する。(【0025】)
−好ましい燃料混合物の比率は50%のニッケル、20%のリチウム、及び30%の水素化アルミニウムリチウムであり(【0030】)、好ましいウエハー32のサイズは、厚さ約1/3インチ、各辺12インチである(【0026】)。
−上記の通り、本特許の明細書には、当業者が容易に実施可能なように、本件発明の実施形態が記載されている。」(令和3年6月11日付け上申書の2ページ21〜30行)
・「当業者は本件特許明細書の記載に従って容易に本発明を製造、使用可能である。
−燃料混合物の量(重量)の記載は無いが、好ましいサイズである「厚さ約1/3インチ、各辺12インチ」に入る範囲の量で試行実験すれば、適切な量を容易に確認可能である。
−自立的な反応を開始させるためにどの程度の電流/電圧を電気抵抗42に印加すればよいかも、試行実験により容易に確認できる。
−実質的な発熱量(反応で発生した熱の方と抵抗加熱に要した熱の差)がどの程度であるかも、試行実験(追試)を行うことで容易に確認できる。
上記試行実験は、何ら「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等」には当たない。このように、当業者は本件発明の装置を容易に製造、使用することが可能であり、また、追試(効果確認の実験)を行うことも容易であり、特許法第36条第4項第第1号の実施可能要件を満たしている。」(令和3年6月11日付け上申書の3ページ27行〜4ページ1行)
これら主張によると、被請求人は概略「当業者は本件発明の装置を容易に製造、使用することが可能であり、また、追試(効果確認の実験)を行うことも容易である。」旨を主張している。
しかし、上記(1)ア(イ)で検討したとおり、本件明細書の燃料混合物内の反応を生じさせるための構成についての記載内容から当業者が「リチウムと水素化アルミニウムリチウム」からなる「反応物」と、「10族の元素」を含む「触媒」とを含む燃料混合物内の反応により流体を加熱しうる程度の発熱が生じるように構成するあたり、燃料混合物をどのように反応させるのか不明であり、どのように構成すればよいのか理解できるとはいえないから、被請求人の上記主張は採用できない。

ウ 被請求人は、ニッケルの使用に関し、次の主張をする。
・「本特許の実施形態は、特許取得済みの装置が水素化アルミニウムリチウムとしてLiAlH4を使用し、10族の元素の触媒としてニッケルを使用することで流体を加熱できることを示しており、この実施形態は、実験的に実際に確認された実験結果を記載したものです。」(口頭審理陳述要領書1ページ32〜末行)
・「ニッケル粉末は多孔性であり、その細孔に水素化アルミニウムリチウムの粉末が進入する。
ジュール効果による抵抗で粉末を加熱すると、細孔が無秩序に拡大し、一部の細孔がより厚い壁を持つ他の細孔の間で圧縮される。この時点で、平方ナノメートルに集中された数グラムの質量によって水素化アルミニウムリチウム粉末に合計で数十万バールにもなる圧力がかかる。これは、ジュール効果によって抵抗から生成される温度よりもはるかに高い温度を生成する。この熱エネルギの違いが、エネルギ利得の源である。」(令和3年6月11日付け上申書の8ページ1〜7行)
・「ニッケルの存在が水素化アルミニウムリチウムの反応の熱的挙動(DSCの曲線形状)を変化させることを裏付ける証拠として、乙第6号証を提出する。乙第6号証は、ニッケル触媒の存在が水素化アルミニウムリチウムの反応(【0027】の3つの反応式)の熱的挙動(DSC の曲線形状)を劇的に変化させることを明確に示している。乙第6号証の図4から、わずか5%のニッケル(本特許の実施形態のニッケル比率は50%である)を添加しただけで、グラフ(e及びf)の曲線形状が二ッケル無添加のグラフ(a)から大幅に変化することが明らかである。
また、乙第6号証の4.Conclusionには、「高エネルギIMP68モードでのボールミリングによってLiAlH4に5wt%n-Niを組み込むと、加熱時にLiAlH4の融解が完全になくなる。」と記載されている。したがって、極少量のニッケルを添加するだけで、水素化アルミニウムリチウムの融解(液化)が生じなくても【0027】の1つ目の反応式を生じるように水素化アルミニウムリチウムの反応の熱的挙動を変化させることができる。請求人は、乙第1号証の図6のb)に関し、「水素化アルミニウムリチウムが液化するときの吸熱」があるから(1)式が全体として吸熱反応であると主張するが、乙第6号証からすれば、【0027】の3つの反応式ではこのような液化はおそらく全く生じないと考えられる。
さらに、ニッケルの存在でこれらの曲線がどのように変化するかは不明であるから、ニッケルが存在しない場合の現象に基づいてニッケルが存在する場合における【0027】の1つめの反応式と2つ目の反応式が吸熱性であると主張することは無意味であり、乙第6号証によれば、請求人の主張がまったく根拠のないことは明らかである。」(令和3年6月11日付け上申書の8ページ25行〜9ページ10行)
これら主張によると、被請求人は概略「本件特許の実施形態は、水素化アルミニウムリチウムとしてLiAlH4を使用し、10族の元素の触媒としてニッケルを使用することで流体を加熱できることを示している。」旨を主張している。
しかし、本件明細書には、段落0025において「ニッケルは、例えばニッケル粉末の各粒子に内在する微小空洞内に存在する水を過熱するように選択された時間と温度までニッケル粉末を加熱することによってその有孔度を高めるように処理されている。その結果として生じる蒸気圧が爆発を引き起こし、それによってより大きい空洞、ならびに付加的なより小さいニッケル粒子が生じる。」と記載されているものの、「ジュール効果による抵抗で粉末を加熱すると、細孔が無秩序に拡大し、一部の細孔がより厚い壁を持つ他の細孔の間で圧縮され」、「ジュール効果によって抵抗から生成される温度よりもはるかに高い温度を生成する」ことは記載がなく、被請求人の主張は、本件明細書の記載に基づくものではない。
また、乙6に基づく主張についても、上記(1)アで検討したとおり、特殊なボールミリングが本件明細書に記載されたニッケル粉末の処理に採用される(例えば、ニッケル粉末の有孔度を高める処理(段落0025)において採用される)ことは本件明細書には何ら説明がなく、技術常識とはいえないこと、また、5重量%のn−NiをLiAlH4に単純に混合した場合には、吸熱反応が消失しない(図4c)ことを考慮すると、燃料混合物にニッケルが水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)とともに含まれるからといって、吸熱反応が減少し、式1〜3の反応が全体として発熱反応になるとは認めることができない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

エ 被請求人は、核反応に関し、次の主張をする。
・「本発明が化学反応による発熱によって液体を加熱する装置であることは、明細書の全文及び特許請求の範囲の記載から明らかである。
審判請求書第4頁第14行〜第5頁第8行は、本発明が「核反応炉」を含むという請求人の誤解に基づく主張であり、理由が無い。」(答弁書3ページ14〜17行)
・「本件発明は核反応炉の発明ではない。本件発明は、リチウム/水素化リチウムアルミニウムリチウム/ニッケルを含む燃料混合物が反応することでエネルギを発生させるものであり、明細書の記載(核種の変化に関する記載が一切無い)及び技術常識からして、核反応でないことは明らかである。」(令和3年6月11日付け上申書の4ページ6〜9行)
・「本件発明の追試(効果確認の実験)を行うことは容易であるにもかかわらず、請求人はそのような追試を行うこともなく、本件発明の構成(3成分系の燃料)とは異なる構成(1成分系又は2成分系の燃料)についての理論的考察のみに基づいて「化学反応による発熱では考えられないほど膨大」と判断しているに過ぎない。燃料成分が相違すれば発熱量も相違することは当然であることからして、本件発明が核反応炉であるとの主張に理由がないことは明らかである。
このように、本件発明は核反応炉の発明ではないから、理由2に関する請求人の主張は前提において誤りである。」(令和3年6月11日付け上申書の4ページ21〜28行)
・「被請求人は、過去の一時期、LENR(低エネルギ核反応技術)を研究していた。
LENRは、リチウムと水素からヘリウムを生成する反応(Li+H→2He)によりエネルギを発生させるという技術である。反応により異なる核種が生成されるのであるから、この反応は核反応である。甲第6号証はLENRの説明を記載した文献である。
過去の一時期、被請求人はLENRが実現可能と考えていた。そのため、LENRの理論的な説明を被請求人のホームページ(www.leonardocorporation.com)に掲載した。
その後、被請求人のホームページを見た第3者により、いくつかの同様のホームページが公開された。甲第6号証(https://ecat.com/ECAT)は、そのような第3者によるホームページの1つであって、被請求人の取引先企業が所有するホームページである。
その後、被請求人は、LENRが実現不可能であるとの結論に至った。そのため、被請求人のホームページ(www.leonardocorporation.com)からLENRの説明を削除した。
・・・
上記のように、甲第6号証は、本件発明のようなウエハー型の3成分(リチウム/水素化アルミニウムリチウム/ニッケル)を使用するものではなく、甲第6号証は核核反応であるのに対して、本件発明は核反応ではない。このように、甲第6号証と本特許は構成が全く相違し、両者は無関係である。
・・・
このように、甲第1〜3,6号証の「E-cat」は、単に、被請求人の取り扱う製品又は技術であることを示しているだけであり、甲第1〜3,6号証が本件発明に関連することの証拠にはならない。」(令和3年6月11日付け上申書の5ページ33行〜6ページ28行)
これら主張によると、被請求人は概略「過去の一時期、LENR(低エネルギ核反応技術)を研究していたが、本件発明は核反応ではない。」旨を主張している。
しかし、上記(1)イで検討したとおり、本件発明は、リチウム、水素化アルミリチウム及び10族の元素であるニッケル等を構成要件として含むものであるので、低温核融合反応を利用した発明である可能性が高く、低エネルギー核反応(LENR)をするものについて排除するものではないから、被請求人の上記主張は採用できない。

(7)小括
以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1ないし10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

3 無効理由3(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、サポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負う。(平成29年(行ケ)第10138号)
これを踏まえて、以下検討を行う。
(1)本件発明の課題
本件明細書の記載によれば、本件発明の課題について、【発明の解決しようとする課題】の欄には、段落0004において「多様な発熱装置が一般に使用されている。例えば、原子力発電所では、核分裂が水を加熱するエネルギを提供する。太陽エネルギを使用するソーラ式水加熱装置も存在する。しかし、ほとんどの伝熱源は発熱化学反応、特に何らかの燃料の燃焼に依存している。」と記載されているところ、どのような課題を解決しようとするのか明記はされていない。
そこで、本件明細書の全体の記載を考慮すると、本件発明の課題は、上記段落0004に記載された従来の発熱装置とは異なる発熱装置により流体を加熱する装置を得ようとするものであると、一応は認めることができる。

(2)本件発明1〜10について
上記2(1)ア及びイの検討によれば、本件発明1ないし10は、燃料混合物内の反応に流体を加熱しうる程度の発熱が生じることを認めることができないのであるから、本件発明の課題を解決することができるとは認められない。
また、上記2(1)イで検討したとおり、本件発明1ないし10は、低エネルギー核反応(LENR)をするものについて排除するものではないところ、本件明細書には、低エネルギー核反応(LENR)に関する記載はなく、技術常識を考慮しても低エネルギー核反応(LENR)をするものを理解することはできず、本件発明1ないし10の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
そうすると、本件発明1ないし10は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を越えるものであり、また、当業者が本件特許の優先日前の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を越えるものである。

(3)被請求人の主張について
被請求人は、次の主張をする。
・「本発明は核融合炉を含まない。審判請求人の特許法第36条第6項第1号違反の主張は、「本発明は核融合炉を含む」との誤った前提に基づくものであり、理由が無い。」(答弁書の3ページ30〜32行)
・「理由3に関する請求人の主張は、本件発明が核反応炉であることを前提とするものである。これは、令和3年4月21日付け口頭審理陳述要領書の第22〜23行において、無効理由2及び3の記載は「本件特許の請求項1〜10に係る発明が核反応炉に関するものである場合、」である』と記載されていることからも明らかである。
そして、上記B(b)の通り、本件発明は核反応炉ではないから、理由3に関する請求人の主張は誤りである。
本件発明が発明の詳細に十分に記載されたものであることは、上記Aにおいて説明した通りであり、特許法第36条第6項第1号のサポート要件は満たされている。」(令和3年6月11日付け上申書の4ページ30行〜5ページ1行)
しかし、上記2(1)イで検討したとおり、本件発明1において低エネルギー核反応(LENR)をするものについて排除するものではないから、被請求人の主張は認められない。

(4)小括
以上によれば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1ないし10が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

4 無効理由1(産業上の利用性)について
特許法第29条第1項柱書は、特許を受けることができる要件として、発明が産業上利用することができるものであることを規定し、「実際上明らかに実施できない発明」については、特許を受けることができない。
これを踏まえて、以下検討を行う。
(1)本件発明1ないし10について
上記2(1)ア及びイの検討によれば、本件発明1ないし10は、燃料混合物内の反応に流体を加熱しうる程度の発熱が生じることを認めることができないから、「実際上明らかに実施できない発明」に該当し、産業上利用することができるものとは認められない。

(2)被請求人の主張について
被請求人の無効理由1についての主張は、上記2の無効理由2(実施可能要件)についての検討においてまとめて検討しており、いずれも採用できない。

(3)小活
以上によれば、本件発明1ないし10は、産業上利用ができる発明に該当しない。
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第1項柱書きの規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

5 無効理由4(明確性要件)について
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。(平成29年(行ケ)第10138号)
これを踏まえて、以下検討を行う。
(1)請求人の主張について
請求人は、無効理由4について次の点を主張する。
・「本件特許発明1は、化学反応で用いる「反応物」「触媒」「燃料」「点火源」「燃焼」の単語が使われて表現されている。・・・従って、「触媒」は「化学触媒」として解する以外にない。
従って、本件特許発明はニッケルなどの10族の元素を含む触媒を用いて当該3つの化学式で表される吸熱反応を、より低温で起こし、更に当該3つの最後の反応を可逆的に起こすことで、せいぜい温度が上がると吸熱し、温度が下がると発熱する温度安定化装置と解する他ない。
しかるに、本件特許発明1の対象となる装置は「流体を加熱する装置」であり、【発明を実施する為の形態】では当該「流体を加熱する装置」を『熱源』と表現しているので、熱の発生を特徴としていると考えられる。
また、【課題を解決するための手段】の【0013】段に『前記混合物と熱的に連絡する熱源は、ニッケルにより触媒される発熱反応を開始させるために使用され得る。』と書かれている。ここでの「熱源」は「点火源」のことを指しているようである。そうすると点火源により熱せられたニッケルにより触媒される前記3つの化学式の反応が起き、吸熱反応が起きるはずであるのに、逆に発熱反応が起きると書かれていることになる。このように「触媒」を単純に「化学触媒」と理解したのでは、「流体を加熱する装置」にはなり得ないので矛盾が生じる。
以上から、本件特許発明1は、発明の対象が不明確である。本件特許発明2以下の発明も同様の理由で不明確である。」(審判請求書6ページ34行〜7ページ20行)

(2)本件発明1ないし10について
そこで、本件発明1ないし10について検討すると、本件発明1ないし10に記載された「流体を加熱する装置」は、文言上、「流体を加熱する装置」であることにおいて明確であり、他に本件特許の請求項1ないし10に記載された発明特定事項には装置を特定するのに不明確な点は認められないから、装置として構成は明確である。
そうすると、上記(1)の請求人の主張は採用できず、本件特許の請求項1ないし10の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとは認められず、本件発明1ないし10は明確である。

(3)小括
以上によれば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1ないし10が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たすものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、同法第29条第1項柱書きの規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号及び同項第4号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

審判長 松下 聡
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-24 
結審通知日 2022-01-04 
審決日 2022-01-19 
出願番号 P2016-567541
審決分類 P 1 113・ 537- Z (F24H)
P 1 113・ 14- Z (F24H)
P 1 113・ 536- Z (F24H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
槙原 進
登録日 2017-05-26 
登録番号 6145808
発明の名称 流体ヒータ  

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