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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1393586
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-16 
確定日 2023-01-16 
事件の表示 特願2019−518952「光偏向デバイス、光偏向デバイスを製造するための方法、および照明デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月12日国際公開、WO2018/065464、令和 1年11月14日国内公表、特表2019−533198〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2019−518952号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)10月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)10月5日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 5月31日提出:特許協力条約34条補正の翻訳文提出書
令和 2年 5月14日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月19日提出:意見書
令和 2年11月19日提出:手続補正書
令和 3年 4月13日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 8月16日提出:審判請求書
令和 3年 8月16日提出:手続補正書
(令和3年8月16日にした手続補正を以下「本件補正」という。)
令和 3年10月 1日提出:手続補正書(方式)
(上記審判請求書の「請求の理由」を補充するもの)
令和 4年 2月25日提出:上申書


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1〜13に係る発明(令和3年8月16日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において下記の頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2000−249836号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2007/0058391号明細書
引用文献4:特開2002−116441号公報
引用文献5:米国特許出願公開第2008/0198295号明細書
(当合議体注:引用文献1は、主引用例であり、引用文献2は、副引用例であり、引用文献4〜5は、周知技術を示す文献である。)


第3 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、次のものである。
「− 平坦で透明な光ガイド(2、2’)と、
− 少なくとも前記光ガイド上の領域内に提供された、前記光ガイド(2、2’)に結合された光を分離するための微細構造(4、4’)と、
− 少なくとも前記光ガイド(2、2’)上の領域内に平坦に適用された透明な被覆層(8、8’)と、
を備える光偏向デバイスであって、
前記微細構造(4、4’)が、微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)を有し、前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)がいずれの場合も前記光ガイド(2、2’)と接触するための点状の幾何形状を有し、断面で見える前記点状の幾何形状の領域内の前記光ガイド(2、2’)との前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)の有効接触領域の幅が、多くとも10μmの幅であり、前記微細構造(4、4’)が、前記被覆層(8、8’)と前記光ガイド(2、2’)との間に提供され、前記被覆層(8、8’)が、前記光ガイド(2、2’)に面する表面上に、前記光ガイド(2、2’)に結合された光を分離するための前記微細構造(4、4’)を有し、前記微細構造(4、4’)の前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が、少なくとも断面で見える部分で凸状に湾曲し、前記微細構造(4、4’)は、分離された光の大部分を、所望の方向を中心として多くとも30°の角度範囲で放出するように構成され、前記微細構造(4’)の前記微細構造要素(6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が、別個の微小体(12’)によって形成されている、光偏向デバイス。」
(なお、本件補正により、補正前の請求項1に請求項2の記載を付加するとともに、先行する請求項を削除することに伴って請求項3〜6を請求項2〜5に繰り上げ、また、補正前の請求項7に請求項8の記載を付加して請求項6とし、先行する請求項を削除することに伴って請求項9〜13を請求項7〜11に繰り上げたものである。)


第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2000−249836号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付与したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パーソナルコンピュータ、コンピュータ用モニタ、ビデオカメラ、テレビ受信機、カーナビゲーションシステムなどの直視型液晶表示装置に用いられる面光源素子およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶パネルに代表される透過型表示装置は、面状に光を発する面光源素子(バックライト)とドット状に画素が配置された表示パネルとで構成され、該表示パネルの各画素の光の透過率がコントロールされることによって文字および映像が表示される。面光源素子としては、ハロゲンランプ、反射板、レンズ等が組み合わされて出射光の輝度の分布が制御されるもの、蛍光管が導光体の端面に設けられ、蛍光管からの光が端面と垂直な面から出射されるもの、蛍光管が導光体の内部に設けられたもの(直下型)などが挙げられる。ハロゲンランプを利用した面光源素子は、高輝度を必要とする液晶プロジェクタに主に用いられる。一方、導光体を利用した面光源素子は薄型化が可能であるため、直視型の液晶TV、パーソナルコンピュータのディスプレイなどに用いられることが多い。
【0003】液晶TV、ノートパソコンなどに用いられる面光源素子では、消費電力を軽減すること、および高輝度であることが要求されている。高輝度化を実現することは、冷陰極管などの光源を増やすことで可能であるが、この方法は消費電力の増加につながるため実用的ではない。そこで、導光板上に光を取り出すシート(出射光制御シート)が設けられた構成の面光源素子が提案されている(特開平8−221013号公報等を参照)。この面光源素子によれば、光の全反射を利用しており、光の損失が少なく、高輝度化を実現することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この構成の面光源素子では、導光板と出射光制御シートの凸部先端とを光線が通過可能なように接着しなければならない。このときの接着方法としては、透明な粘着剤、熱硬化樹脂などを用いて接着することが挙げられるが、薄い接着層を設けようとしても均一に塗布することが困難であり、接着層に厚い部分ができると、出射光制御シートの微小な凸部が接着層に埋まってしまうという課題が生じていた。この面光源素子においては、当該微小な凸部が周囲を空気で囲まれていることによって凸部壁面で全反射が生じ、これにより該凸部が集光レンズの役割を果たすのであり、該凸部の大部分が接着剤に埋まってしまうと集光レンズの役割を果たさなくなる。
【0005】本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、全反射を利用して光を集光する凸部が設けられた出射光制御シートが導光板の出射面上に配置される面光源素子において、出射光制御シートの微小な凸部を接着層に埋没させることなく先端のみが接着された面光源素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決する本発明の面光源素子は、光源と、リフレクタと、リフレクタで反射された光源からの光が端面から入射される導光体と、導光体の出射面に対向する面に複数の凸部を有し、導光体の出射面側に設けられて、導光体の出射面からの光を正面方向に向かわせる出射光制御シートとを備え、該出射光制御シートの凸部の先端部と導光体の出射面とが紫外線硬化樹脂により接着されていることを特徴とする。この面光源素子は、出射光制御シートの凸部の先端部と導光体の出射面との接着に用いる紫外線硬化樹脂にあらかじめ微弱な紫外線を当てて半硬化状態にした後、該出射光制御シートと導光体の出射面とを重ね合わせ、次いで、該紫外線硬化樹脂に強力な紫外線を当てることにより紫外線硬化樹脂を完全硬化させることによって、該出射光制御シートの凸部の先端部と導光体の出射面とを接着することにより製造することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】図1に本発明の面光源素子の1例の概略構成図を示す。この面光源素子は両端面1に光源2が設けられた導光体3と、導光体3から出射された光の角度分布を制御する出射光制御シート4とを備えている。出射光制御シート4は導光体3上に配置されており、入射面5に入射した光が出射面6から出射される。出射光制御シート4の入射面5には多数の凸部7が形成されており、この凸部7の導光体側先端と導光体3の光出射面とが紫外線硬化樹脂からなる接着剤8を用いて光線が通過するように光学的に点接着されている。光源2の周りには、導光体3の端面とは反対方向に進む光を反射し、導光体3の端面方向に進行させるリフレクタ9が設けられている。端面1から導光体に入射した光は導光体内を全反射を繰り返しながら伝搬していく。この伝搬光は凸部7と導光体3の出射面との密着部から出射光制御シート4に取り込まれる。これにより、導光体3内を伝搬する光は当該密着部から順次、出射光制御シート4に取り出され、取り出された光は出射光制御シート4の凸部7内で全反射されながら集光される。
【0008】本発明の面光源素子では出射光制御シートの凸部の先端のみを接着するために紫外線硬化樹脂を用いる。この面光源素子は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、PETフィルム(例えば、厚さが125μm)の片側にバーコーターで紫外線硬化樹脂を約10μmの厚さになるように塗布し、紫外線硬化樹脂面とアクリル樹脂製等の導光板とをラミネーターで貼り合わせる。次いで、高圧水銀ランプから発生される微弱な紫外線をPETフィルム側から照射し(例えば120mJ)、半硬化状態の紫外線硬化樹脂層を得る。これにより、凸部が紫外線硬化樹脂層に埋没することを防ぎ、該凸部の先端のみを点接着させることができる。そして、PETフィルムを剥離して導光板の上に接着剤が塗布された状態を得る。その上から出射光制御シートを押しつけ(例えば、圧力0.3kgf/cm2)、ラミネーターを用いて貼り付ける。最後に出射光制御シート側から高圧水銀ランプから発せられる紫外線を照射し(例えば2.0J)、紫外線硬化樹脂を完全に硬化する。
【0009】出射光制御フィルムの凸部が紫外線硬化樹脂内に埋め込まれた部分の面積は、導光板側から光学顕微鏡を用いて観察することにより測定することができる。埋め込まれた部分は光が反射してこないために暗い部分として観察され、凸部が埋め込まれていない接着剤表面は明るい部分として観察される(図2において(a)は紫外線硬化樹脂が適度に半硬化されており、凸部が点で接着されている状態を、(b)は紫外線硬化樹脂の硬化が不十分で、凸部が過度に埋没している状態を示す。)。出射光制御シートの凸部が紫外線硬化樹脂に埋没すれば暗い部分の面積が大きくなるので、暗い部分の直径(以下、これを「接着直径」と表現する。)を測定することによって接着の状態を判断することができる。
【0010】半硬化状態の紫外線硬化樹脂層を得るための微弱な紫外線の照射量と接着直径との関係の一例を図3に示す。紫外線の照射量が少ないと、接着直径は大きくなり、出射光制御シートの凸部が紫外線硬化樹脂に埋没していることが分かる。照射量が徐々に大きくなるにつれて接着直径が小さくなり、凸部の埋没量が出射光制御シートからの出射光特性が良好な範囲になるように制御することができることが分かる(出射光制御シートの一例では接着直径が15〜18μmの範囲であれば良い。)。なお、照射量が大きくなりすぎると接着力が低下するので、凸部が埋没しない範囲でなるべく少ない照射量を選択することが好ましい。照射量は、接着剤に含まれる重合開始剤濃度などで変化するため、接着剤に適した照射量を選ぶ必要がある。
【0011】出射光制御シート表面の凸部は、熱プレス法、紫外線硬化による2P法、熱硬化による2P法、雌金型を用いた射出成形法等によって形成することができる。出射光制御シートの作製に用いるスタンパは、例えばガラス基板上にネガ型あるいはポジ型の紫外線硬化樹脂をコーティングし、この紫外線硬化樹脂をフォトマスクを介して露光し、現像後、電鋳を行うことにより作製することができる。出射光制御シートはシート状である必要はなく、板状であってもよい。シート状および板状の何れでも量産性に富むため、安価で大量に製造することが可能である。本発明では、導光体として、例えば厚さが2〜20mm程度で、光源が配置された導光体端面間の距離が、例えば50〜500mmの範囲にあるアクリル板を用いることができる(導光体のサイズの一例は、幅が340mm、長さ(光源間距離)が280mm、厚さが8mmである。)。導光体の成形に用いる樹脂としては、アクリル樹脂の外にポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂等の透明性に優れるものが挙げられる。
【0012】上記の通り説明した面光源素子をバックライトとして用い、その出射面に設けられる透過型の表示素子としては、STN、TFT、MINIなどの液晶パネルが挙げられる。
【0013】
【発明の効果】本発明によれば、全反射を利用して光を集光する凸部が設けられた出射光制御シートが導光板の出射面上に配置される面光源素子において、出射光制御シートの微小な凸部を接着層に埋没させることなく先端のみが接着された面光源素子およびその製造方法を提供することができる。」

(2)図1


(3)図2


(4)図3


2 引用発明
上記1より、引用文献1の【0007】、図1には、導光体3と出射光制御シート4とを備えている素子が記載されているといえる。ここで、図1から、上記素子は、出射光制御シート4の入射面5には多数の凸部7が形成されている構造(以下「入射面5側の構造」という。)と、出射光制御シート4の出射面6には平坦な部分が形成されている層(以下「出射面6側の層」という。)とを備えていることが看取できる。また、図1から、凸部7は湾曲していることが看取できる。
そうしてみると、引用文献1には、次の「素子」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
なお、参考のため、認定の根拠となった箇所をかっこ内に示す。

「 両端面1に光源2が設けられた導光体3と、導光体3から出射された光の角度分布を制御する出射光制御シート4とを備えている素子であって、(【0007】)
出射光制御シート4の入射面5には多数の凸部7が形成されている入射面5側の構造と、出射光制御シート4の出射面6には平坦な部分が形成されている出射面6側の層を備えており、(図1)
出射光制御シート4は導光体3上に配置されており、入射面5に入射した光が出射面6から出射され、出射光制御シート4の入射面5には多数の凸部7が形成されており、この凸部7の導光体側先端と導光体3の光出射面とが紫外線硬化樹脂からなる接着剤8を用いて光線が通過するように光学的に点接着されており、
端面1から導光体に入射した光は導光体内を全反射を繰り返しながら伝搬していき、この伝搬光は凸部7と導光体3の出射面との密着部から出射光制御シート4に取り込まれ、これにより、導光体3内を伝搬する光は当該密着部から順次、出射光制御シート4に取り出され、取り出された光は出射光制御シート4の凸部7内で全反射されながら集光され、(【0007】)
凸部7は湾曲している(図1)、
素子。」

3 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2007/0058391号明細書(以下、同じく「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、当合議体にて訳した。
(1)「[0063] FIG. 1A is a cross-sectional view of a light extraction layer (LEX) 102 disposed over a light guide 101 in accordance with an example embodiment.
・・・省略・・・
[0065] The LEX 102 includes a plurality of light extraction features ('features') 104 disposed over a top surface of the light guide.
・・・省略・・・
[0067]In a specific embodiment, the substrate 116 and the features 104 are integral, with the features 104 being formed from the substrate 1116. In another specific embodiment, the features 104 are not integral with the substrate 104, and are adhered to the substrate 116. In either case, the material of the substrate 116 and the features 104 are beneficially of the same material or of different materials having substantially the same indices of refraction (nr).」
訳「[0063] 図1Aは、一実施形態によるライトガイド101上に配置された光抽出層(LEX)102の断面図である。
・・・省略・・・
[0065]102は、導光体の上面の上に配置された光抽出特徴物(特徴物)104を複数備えている。
・・・省略・・・
[0067]特定の実施形態では、基板116と特徴物104とが一体化されている、基板1116から形成される特徴物104を有する。別の特定の実施形態では、特徴物104は、基板104と一体化されることがなく、基板116に接着されている。いずれにせよ、基板116および104の材料は、同一の材料または屈折率(nr)と実質的に同じ屈折率を有する異なる材料からなることが好ましい。」

上記記載から、引用文献2には、「導光体の上面の上に配置された複数の光抽出特徴物104は、基板116と一体化されることなく、基板116に接着されていること」(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されている。


第5 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)光ガイド
引用発明の「導光体3」は、「両端面1に光源2が設けられ」、「端面1から導光体に入射した光は導光体内を全反射を繰り返しながら伝搬していき、この伝搬光は凸部7と導光体3の出射面との密着部から出射光制御シート4に取り込まれ」るものである。
上記構成からみて、引用発明の「導光体3」は、本願発明の「光ガイド(2、2’)」に相当する。
また、上記構成からみて、引用発明の「導光体3」は透明であるといえる。さらに、技術常識から、引用発明の「導光体3」は平坦であるといえる(当合議体注:このことは、引用文献1の【0007】等の記載により、引用発明の素子が面発光素子として用いられることからも明らかである。)。
そうしてみると、引用発明の「導光体3」は、本願発明の「光ガイド(2、2’)」の「平坦で透明な」ものであるとの要件を満たす。

(2)微細構造
引用発明は、「導光体3から出射された光の角度分布を制御する出射光制御シート4とを備えて」おり、「出射光制御シート4の入射面5には多数の凸部7が形成されている入射面5側の構造と、出射光制御シート4の出射面6には平坦な部分が形成されている出射面6側の層を備えており」、「出射光制御シート4は導光体3上に配置されており、入射面5に入射した光が出射面6から出射され、出射光制御シート4の入射面5には多数の凸部7が形成されており、この凸部7の導光体側先端と導光体3の光出射面とが紫外線硬化樹脂からなる接着剤8を用いて光線が通過するように光学的に点接着されて」いる。
上記構成からみて、引用発明の「入射面5側の構造」は、「導光体3」上の領域内に提供された、「導光体3」に結合された光を分離するための構造であるといえる。また、引用発明の「凸部7」は、「導光体3」や「出射光制御シート4」よりも十分小さいものであるから、微細であるといえる。
そうしてみると、引用発明の「入射面5側の構造」は、本願発明の「微細構造(4、4’)」に相当する。また、引用発明の「入射面5側の構造」は、本願発明の「微細構造(4、4’)」の「少なくとも前記光ガイド上の領域内に提供された、前記光ガイド(2、2’)に結合された光を分離するための」ものであるとの要件を満たす。

(3)被覆構造
上記(2)の構成からみて、引用発明の「出射面6側の層」は、「導光体3」上の領域内に平坦に適用された透明なものであるといえる。
そうしてみると、引用発明の「出射面6側の層」は、本願発明の「被覆層(8、8’)」に相当する。また、引用発明の「出射面6側の層」は、本願発明の「被覆層(8、8’)」の「少なくとも前記光ガイド(2、2’)上の領域内に平坦に適用された透明な」ものであるとの要件を満たす。

(4)光ガイド、微細構造、被覆層
上記(1)及び(2)の構成からみて、引用発明は、「入射面5側の構造」が、「出射面6側の層」と「導光体3」との間に提供され、「出射面6側の層」が、「導光体3」に面する表面上に、「導光体3」に結合された光を分離するための「入射面5側の構造」を有するといえる。
そうしてみると、引用発明は、本願発明の「前記微細構造(4、4’)が、前記被覆層(8、8’)と前記光ガイド(2、2’)との間に提供され、前記被覆層(8、8’)が、前記光ガイド(2、2’)に面する表面上に、前記光ガイド(2、2’)に結合された光を分離するための前記微細構造(4、4’)を有し」ているとの要件を満たす。

(5)微細構造要素
引用発明の「凸部7」は、「湾曲している」。
上記(2)の構成及び上記構成からみて、引用発明の「凸部7」は、本願発明の「微細構造要素」に相当する。
また、上記(2)の構成からみて、引用発明は、「入射面5側の構造」が、「凸部7」を有し、「凸部7」が「導光体3」と接触するための点状の幾何形状を有するといえる。また、引用発明の「凸部7」は、断面で見える部分で凸状に湾曲しているといえる。
そうしてみると、引用発明は、本願発明の「前記微細構造(4、4’)が、微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)を有し、前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)がいずれの場合も前記光ガイド(2、2’)と接触するための点状の幾何形状を有し」、「前記微細構造(4、4’)の前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が、少なくとも断面で見える部分で凸状に湾曲し」ているとの要件を満たす。
さらに、上記(2)で述べたのと同様の理由により、引用発明は、「入射面5側の構造」の「凸部7」が、微小体によって形成されているといえる。そうしてみると、引用発明は、本願発明と、「前記微細構造(4’)の前記微細構造要素(6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が」、「微小体(12’)によって形成されている」との点で共通する。

(6)光偏向デバイス
引用発明の「素子」は、「両端面1に光源2が設けられた導光体3と、導光体3から出射された光の角度分布を制御する出射光制御シート4とを備えている」。
上記(1)〜(5)と上記構成とを総合すると、引用発明の「素子」は、本願発明の「偏向デバイス」に相当する。また、引用発明の「素子」は、本願発明の「光偏向デバイス」の「光ガイド(2、2’)と」、「微細構造(4、4’)と」、「被覆層(8、8’)と、を備える」との要件を満たす。

2 一致点・相違点
(1)一致点
以上の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「− 平坦で透明な光ガイド(2、2’)と、
− 少なくとも前記光ガイド上の領域内に提供された、前記光ガイド(2、2’)に結合された光を分離するための微細構造(4、4’)と、
− 少なくとも前記光ガイド(2、2’)上の領域内に平坦に適用された透明な被覆層(8、8’)と、
を備える光偏向デバイスであって、
前記微細構造(4、4’)が、微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)を有し、前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)がいずれの場合も前記光ガイド(2、2’)と接触するための点状の幾何形状を有し、前記微細構造(4、4’)が、前記被覆層(8、8’)と前記光ガイド(2、2’)との間に提供され、前記被覆層(8、8’)が、前記光ガイド(2、2’)に面する表面上に、前記光ガイド(2、2’)に結合された光を分離するための前記微細構造(4、4’)を有し、前記微細構造(4、4’)の前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が、少なくとも断面で見える部分で凸状に湾曲し、前記微細構造(4’)の前記微細構造要素(6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が、微小体(12’)によって形成されている、光偏向デバイス。」

(2)相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、「断面で見える前記点状の幾何形状の領域内の前記光ガイド(2、2’)との前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)の有効接触領域の幅が、多くとも10μmの幅であ」るのに対して、引用発明は、「凸部7の導光体側先端と導光体3の光出射面とが」「光学的に点接着されて」いることにとどまり、点接着されている幅については明らかではない点。

<相違点2>
「微細構造(4、4’)」が、本願発明は、「分離された光の大部分を、所望の方向を中心として多くとも30°の角度範囲で放出するように構成され」ているのに対して、引用発明の「入射面5側の構造」は、光の放出する角度範囲は明らかではない点。

<相違点3>
本願発明は、「前記微細構造(4’)の前記微細構造要素(6’、6a、6b、6e)の少なくとも一部が、別個の微小体(12’)によって形成されている」のに対して、引用発明の「入射面5側の構造」の「凸部7」は別個であるとはいえない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献1には、【0009】に、「出射光制御シートの凸部が紫外線硬化樹脂に埋没すれば暗い部分の面積が大きくなるので、暗い部分の直径(以下、これを「接着直径」と表現する。)を測定することによって接着の状態を判断することができる。」としたうえで、【0010】に、「微弱な紫外線の照射量と接着直径との関係の一例を図3に示す。・・・照射量が徐々に大きくなるにつれて接着直径が小さくなり、凸部の埋没量が出射光制御シートからの出射光特性が良好な範囲になるように制御することができる」こと、「照射量が大きくなりすぎると接着力が低下するので、凸部が埋没しない範囲でなるべく少ない照射量を選択することが好ましい」こと、「照射量は、接着剤に含まれる重合開始剤濃度などで変化するため、接着剤に適した照射量を選ぶ必要がある」ことが記載されている。
そうすると、かかる記載に接した当業者であれば、凸部の埋没量を示す接着直径は、接着力に影響を及ぼすところ、接着力を保持し、かつ、良好な出射光特性となるよう、凸部の埋没量、すなわち接着直径となるように、接着剤に応じて照射量を最適化すべきと理解する。また、同【0010】には「出射光制御シートの一例では接着直径が15〜18μmの範囲であれば良い。」と記載されているものの、当該接着直径はあくまでも一例であって、図3を参照しても、特定の接着剤を用い、接着剤膜厚が10μmである場合の例にすぎないのであるから、引用発明において、接着直径が10μm以下であることを除外するものでもない。かえって、引用文献1の【0004】及び【0005】には、それぞれ「【発明が解決しようとする課題】ところで、この構成の面光源素子では、導光板と出射光制御シートの凸部先端とを光線が通過可能なように接着しなければならない。・・・接着層に厚い部分ができると、出射光制御シートの微小な凸部が接着層に埋まってしまうという課題が生じていた。この面光源素子においては、当該微小な凸部が周囲を空気で囲まれていることによって凸部壁面で全反射が生じ、これにより該凸部が集光レンズの役割を果たすのであり、該凸部の大部分が接着剤に埋まってしまうと集光レンズの役割を果たさなくなる。」、「本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、全反射を利用して光を集光する凸部が設けられた出射光制御シートが導光板の出射面上に配置される面光源素子において、出射光制御シートの微小な凸部を接着層に埋没させることなく先端のみが接着された面光源素子およびその製造方法を提供することを目的とする。」と記載されているように、引用発明においては、凸部を接着層に埋没させることなく、接着直径を小さくするといことによって、出射光制御シートにおける出射光特性を向上させようという課題が示されているといえる。
してみれば、引用発明において、接着層に用いる接着剤の材料、膜厚や、凸部の曲率半径を最適化し、凸部の導光体への接着力を保持しつつ、接着直径を小さくすることは、当業者が想起し得ることである。
そして、本願発明において、相違点1に係る有効接触領域の幅の上限を10μmとすることの臨界的意義も認められない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明は、「端面1から導光体に入射した光は導光体内を全反射を繰り返しながら伝搬していき、この伝搬光は凸部7と導光体3の出射面との密着部から出射光制御シート4に取り込まれ、これにより、導光体3内を伝搬する光は当該密着部から順次、出射光制御シート4に取り出され、取り出された光は出射光制御シート4の凸部7内で全反射されながら集光され、凸部7は湾曲している」という構成を備えるものである。
かかる構成からみて、引用発明の「凸部7」を通して「出射光制御シート4」から出射する光は、大部分が「出射光制御シート4」の法線方向を中心として放出されているといえる。なぜならば、引用発明は、引用文献1の【0001】に「【発明の属する技術分野】本発明は、パーソナルコンピュータ、コンピュータ用モニタ、ビデオカメラ、テレビ受信機、カーナビゲーションシステムなどの直視型液晶表示装置に用いられる面光源素子およびその製造方法に関する。」と記載されているとおり直視型液晶表示装置に適用される面光源素子にかかる発明であって、一般に、直視型液晶表示装置に用いられる面光源素子においては、面光源素子の出射面から出射する光の大部分は、面光源素子の法線方向を中心として放出されることは、当該分野の技術常識に照らし明らかである。そうすると、引用発明の「凸部7」を通して「出射光制御シート4」から出射する光は、大部分が「出射光制御シート4」の法線方向を中心として放出されていると、当業者であれば当然に理解し得る。
そして、表示装置に用いられる面光源素子から放出される光の大部分を所望の方向を中心として30°程度の角度範囲とすることは、特開2002−116441号公報の【0018】〜【0019】、特開2008−235245号公報の【0012】、図4、米国特許出願公開第2008/0198295号明細書の[0057]〜[0059]、図4に記載されているように、本件優先日前に周知技術である。
そうしてみると、引用発明において、「出射光制御シート4」の「凸部7」を、「出射光制御シート4」の法線方向(所望の方向)を中心として30°の角度範囲で放出するように構成することは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。
したがって、引用発明において周知技術を適用して相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、念のため付言すると、上記判断は、引用発明において、「出射光制御シート4」の「凸部7」を、別の微細構造に置き換えることの容易想到性を述べたものではない。あくまでも、上記周知技術は、表示装置に用いられる面光源素子から放出される光の大部分を所望の方向を中心として30°程度の角度範囲とすることを示すものにすぎない。したがって、上記周知技術に用いられている導光板やプリズムシートは、上記判断に影響を及ぼすものではない。

(3)相違点3について
第4「3」で示したように、引用文献2には、「導光体の上面の上に配置された複数の光抽出特徴物104は、基板116と一体化されることなく、基板116に接着されていること」が記載されている。
また、光学部材を複数の別個の部材からなるように構成することは、引用文献2の他に、独国特許出願公開第102014200369号明細書の[0008]にも記載されているように、本件優先日前に周知技術である。一般に光学部材を一体化することで製造工程を簡略化できるといった利点を有する。
一方で、光学部材を複数の別個の部材からなるように構成することで、各部材に特化した製造方法や形状、組成物を選択できるといった利点を有する。光学部材を一体化するか複数の別個の部材からなるようにするかは、一長一短があり、いずれを採用することも、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
そして、引用発明の「凸部7」も引用文献2に記載された事項の「光抽出特徴物104」は、いずれも導光体の上面に多数設けられているものであるから、両者の配置、機能は共通し、サイズも導光体や光源に比べて十分小さいものであるという意味でほぼ同等であるといえる。
そうしてみると、引用発明の「入射面5側の構造」の「凸部7」を別個のものとすることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。
したがって、引用発明の「入射面5側の構造」の「凸部7」に引用文献2に記載された事項を適用して相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

4 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年10月1日提出の手続補正書(方式)において、「引用文献1には、本願の新請求項1の構成(F)、並びに新請求項6の構成(R)(特に、「断面で見える前記点状の幾何形状の領域内の前記光ガイド(2、2’)との前記微細構造要素(6、6’、6a、6b、6e)の有効接触領域の幅が、多くとも10μmの幅であり」の部分)は少なくとも開示されていない。なお、上記阻害要因を考慮すれば、引用文献1記載の発明に、本願の新請求項1の構成’(F)、並びに新請求項6の構成(R)(特に、「断面で見える前記点状の幾何形状の領域内の前記光ガイド(2、2’)との前記微細構造要素(6、6、6a、6b、6e)の有効接触領域の幅が、多くとも10μmの幅であり」の部分)を適用する動機付けもないものと思料する。」(以下「主張1」」という。)、「本願の新請求項1の構成(J)並びに新請求項6の構成(U)は、引用文献4、5のいずれにも開示されていない。また、当業者が、三角形の断面をもつ部分/要素のみに向けられている引用文献4、5の技術的教示を、引用文献1の凸状部分にどのように適用すべかに関しても明らかではない。」(以下「主張2」という。)、「引用文献2は、上記構成(K)、並びに上記構成(V)によって要求されるような、(複数の)別個の微小体を提供することを直接かつ明確に教示しない。・・・引用文献1(図1、2参照)は、凸状部分の規則的な配列を有する出射光制御シートを教示することから、デバイスの複雑さを軽減しようとする当業者が、この規則的な出射光制御シートを、例えば、引用文献2のFig.2に示されている複雑な構造のlight extraction features 104に置き換える動機がないからである。よって、当該動機付けの観点から、当業者が、引用文献1に記載されている凸部を、上記構成(K)、並びに上記構成(V)によって要求されるような別個の微小体に変更することはないと思料する。」(以下「主張3」という。)と主張している。また、審判請求人は、令和4年2月25日提出の上申書において、「審査官殿は、「接着力は、紫外線硬化樹脂に含まれる成分に左右されることは技術常識であるから、紫外線硬化樹脂の種類によって、接着力と接着直径との関係は図3と異なるものとなるため、接着直径を10μmにすることに阻害要因はないと認められる。加えて、接着直径は、接着剤に出射光制御シートを押しつける圧力(引用文献1の段落0008参照。)にも左右される」と認定されているが、当該認定は、要するに、接着力と接着直径との関係に影響を与える因子(即ち、紫外線硬化樹脂の種類(紫外線硬化樹脂に含まれる成分)、紫外線の照射量、接着剤に出射光制御シートを押し付ける圧力)を列挙したにすぎないと考えます。そして、審査官殿は、上記列挙された因子の具体的な組み合わせを何ら提示することなく、本出願人の上記主張を採用できないと認定しています。よって、本出願人は、上記接着力と接着直径との関係に影響を与える因子の具体的な組み合わせに関して何ら提示されていない審査官殿の上記認定は、本出願人の上記主張を採用できないとするための裏付け・立証がされていないため同意することはできません。」(以下「主張4」という。)と主張している。
しかしながら、主張1については上記3(1)で、主張2については上記3(2)で、主張3については上記3(3)で、主張4については上記3(1)及び(3)で、それぞれ述べたとおりである。
したがって、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 加々美 一恵
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-08-15 
結審通知日 2022-08-22 
審決日 2022-09-05 
出願番号 P2019-518952
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 加々美 一恵
特許庁審判官 井口 猶二
松波 由美子
発明の名称 光偏向デバイス、光偏向デバイスを製造するための方法、および照明デバイス  
代理人 越川 隆夫  

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