• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特174条1項 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A61B
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A61B
管理番号 1393747
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-14 
確定日 2023-02-07 
事件の表示 特願2019− 93598「内視鏡用光学カプラ」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月26日出願公開、特開2019−162467、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
分割出願の経緯の概略
本願は、令和元年5月17日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、2012年(平成24年)2月16日を国際出願日とする特願2013−554596号(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月16日、米国)を最初の原出願とする、いわゆる第3世代の分割出願である。出願の分割の経緯は、次のとおりである。
最先の出願 :特願2013−554596号
第1世代分割:特願2016−197328号
第2世代分割:特願2018− 9295号
本願 :特願2019− 93598号

2 本願の手続の経緯の概略
本願の出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和2年 8月 3日付け:拒絶理由通知書
同年11月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月17日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
令和3年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月 8日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。) (同月14日 :原査定の謄本の送達)
令和4年 1月14日 :審判請求書の提出
同年 5月13日 :上申書の提出

第2 原審における令和3年9月8日付け補正の却下の決定の当否について 請求人は、令和4年1月14日提出の審判請求書の「請求の趣旨」において、「令和3年9月8日(起案日)になされた補正の却下の決定ならびに原査定を取り消す、本願は特許すべきものであるとの審決を求める。」と主張している。
また、請求人は、「請求の理由」の「6.むすび」において、「4.本願発明の説明」の「令和3年5月7日付け手続補正書で補正された本願発明の特許請求の範囲に記載された」請求項1−5について、「以上のとおり、本願の請求項1−5に係る発明は、引用文献1−4に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、独立して特許を受けることができるものであり、この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものでなく、同法第53条第1項の規定により却下されるものではありません。そして、令和2年12月17日付けの拒絶理由は、令和3年5月7日付意見書で述べました通り同日付の手続き補正書により解消しています。よって、補正の却下の決定ならびに原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める次第です。」と主張している。
以上のとおり、令和3年9月8日付け補正の却下の決定に対して不服が申し立てられていることから、同補正の却下の決定の当否について検討する。

[補正の却下の決定の当否の結論]
令和3年9月8日付け補正の却下の決定を取り消す。

[理由]
1 令和3年9月8日付け補正の却下の決定の概要
原審における令和3年9月8日付け補正の却下の決定(以下、単に「補正の却下の決定」という。)の概要は、次のとおりである。

(1)令和3年5月7日に提出された手続補正書でした補正(以下、「本件補正」という。)による請求項1ないし5についての補正は、限定的減縮を目的としている。
(2)本件補正後の請求項1ないし3に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件補正後の請求項4ないし5に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)したがって、本件補正後の請求項1ないし5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(5)よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により、本件補正を却下することを決定する。

引用文献1:特開2008−212506号公報
引用文献2:実願昭56−151131号(実開昭58−54805号)のマイクロフィルム
引用文献3:実願昭63−90124号(実開平2−10517号)のマイクロフィルム
引用文献4:特表2008−528239号公報

2 本件補正の内容
本件補正は、本件補正前(令和2年11月5日に提出された手続補正書により補正されたもの)の特許請求の範囲を、以下のとおりに補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年11月5日に提出された手続補正書でした補正による補正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
不透明な流体及び/又は微粒子で覆われた表面領域を視覚化する装置であって、
光学画像化システムと、
前記光学画像化システムの末端に搭載され、一端に視覚化部を有した光学カプラと、を備え、
前記視覚化部が、前記光学画像化システムの末端に係合する近接表面、及び該近接表面から離れ前記視覚化部の第1の外側境界から第2の外側境界に亘って延在する外表面を有し、
前記視覚化部が前記表面領域の光学画像を伝送できる弾性材料を備え、
前記光学カプラが、前記視覚化部に接続されそこから延在し且つ前記光学画像化システムの末端に装着される大きさとされた取付部を備え、
1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラから横方向に離れるように延在する、
表面領域を視覚化する装置。
【請求項2】
前記支持要素は、該装置が対象物に位置付けられるとき視覚化される該対象物の内表面に接触する大きさとされる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持要素が、ルーメン又は前記光学画像化システムが進行する他の構造、の中心に相対的に前記光学画像化システムの位置を保持する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
該装置が医療デバイスで、前記光学カプラに力を加えると、該医療デバイスが縮小状態もあり得る組織を平らにするか開くように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
該装置が医療デバイスであって、前記光学カプラが、組織を前記光学カプラの形状に合わせるように構成された材料を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記支持要素が前記光学カプラから横方向に離れるように延在する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記支持要素が該装置の前記光学カプラの長手軸から横方向に離れるように延在する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
光学画像化システムで使用するための光学カプラであって、
前記光学画像化システムの遠位端に係合するための近位表面、及び近位表面から離間し第1の外側境界から第2の外側境界に亘って延びる外表面を含むと共に、表面領域の光学画像を伝送できる弾性材料を含んでいる、前記カプラの一端にある視覚化部と、
前記視覚化部に接続され前記視覚化部から離れて延び光学画像化システムの遠位端に取り付けられるように寸法が決められている取付部と、
前記視覚化部及び前記取付部の何れかから横方向に延びる1つまたは複数の支持要素と、を備える光学カプラ。
【請求項9】
前記支持要素が、前記光学カプラが対象物内に配置されたときに、視覚化される前記対象物の内面に接触するように寸法が決められている、請求項8に記載の光学カプラ。
【請求項10】
前記支持要素が、光学画像化システムが前進している管腔または他の構造の比較的中心に光学画像化システムの位置を維持するように寸法が決められている、請求項8に記載の光学カプラ。
【請求項11】
前記光学画像化システムが光学レンズを備え、前記視覚化部が前記光学レンズと前記表面領域との間に配置されている、請求項8に記載の光学カプラ。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲は次のとおり補正された(下線部は、請求人が付したもので、補正箇所を示すものである。)。

「 【請求項1】
不透明な流体及び/又は微粒子で覆われた表面領域を視覚化する装置であって、
光学画像化システムと、
前記光学画像化システムの末端に搭載され、一端に視覚化部を有した光学カプラと、を備え、
前記視覚化部が、前記光学画像化システムの末端に係合する近接表面、及び該近接表面から離れ前記視覚化部の第1の外側境界から第2の外側境界に亘って延在する外表面を有し、
前記視覚化部が前記表面領域の光学画像を伝送できる弾性材料を備え、
前記光学カプラが、前記視覚化部に接続されそこから延在し且つ前記光学画像化システムの末端に装着される大きさとされた取付部を備え、
1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラの長手軸から横方向に離れるように延在する、
表面領域を視覚化する装置。
【請求項2】
前記支持要素は、該装置が対象物に位置付けられるとき視覚化される該対象物の内表面に接触する大きさとされる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持要素が、ルーメン又は前記光学画像化システムが進行する他の構造、の中心に相対的に前記光学画像化システムの位置を保持する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
該装置が医療デバイスで、前記光学カプラに力を加えると、該医療デバイスが縮小状態もあり得る組織を平らにするか開くように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
該装置が医療デバイスであって、前記光学カプラが、組織を前記光学カプラの形状に合わせるように構成された材料を含む、請求項1に記載の装置。」

3 補正の却下の決定についての検討
(1)補正事項
上記2(1)及び(2)から、本件補正は、以下の補正事項からなるものである。

ア 本件補正前の請求項1における「1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラから横方向に離れるように延在する」という記載を、「1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラの長手軸から横方向に離れるように延在する」とする補正(以下、「補正事項ア」という。)。

イ 本件補正前の請求項6ないし11を削除する補正(以下、「補正事項イ」という。)。

(2)新規事項の追加の有無
補正事項アは、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の請求項7、段落【0082】、【図14B】等の記載からみて、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるといえるので、特許法第17条の2第3項の規定を満たす。

(3)補正の目的について
ア 補正事項アについて
補正事項アは、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「支持要素」について、補正前に「前記光学カプラから横方向に離れるように延在する」とあったものを、補正後に「前記光学カプラの長手軸から横方向に離れるように延在する」と限定して特許請求の範囲を減縮するものであって、補正の前後で請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることは明らかであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
請求項2ないし5は、請求項1を直接的に引用するものであるから、補正事項アによる補正で、請求項1に係る発明が減縮されたことに伴い、請求項2ないし5に係る発明も減縮されている。

イ 補正事項イについて
補正事項イは、本件補正前の請求項6ないし11を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

そこで、上記補正事項アに係る補正後の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願補正発明1」ないし「本願補正発明5」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである(いわゆる独立特許要件)か否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について、以下で検討する。

(4)独立特許要件について
ア 本願補正発明
本願補正発明1ないし5は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、上記2(2)に記載のとおりのものである。

イ 引用文献の記載及び引用発明
(ア)引用文献1について
a 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の挿入部の先端部に着脱可能なキャップ本体と、
該キャップ本体に設けた開口部を気密状態で塞ぎ、かつ該キャップ本体を上記先端部に装着したときに該先端部に設けた対物レンズと対向する透光性膜材と、
を備えることを特徴とする内視鏡用先端キャップ。
・・・
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項記載の内視鏡用先端キャップにおいて、
上記挿入部の先端部が処置具挿通穴を備え、
上記透光性膜材が、上記処置具挿通穴から出没可能な処置具によって破ることが可能である内視鏡用先端キャップ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載の内視鏡用先端キャップにおいて、
上記透光性膜材に、上記キャップ本体を上記先端部に装着したときに、上記処置具挿通穴の直前に位置させることが可能な指標を設けた内視鏡用先端キャップ。
・・・
【請求項9】
先端部に対物レンズを備える挿入部と、
該挿入部の上記先端部に着脱可能なキャップ本体、及び、該キャップ本体に設けた開口部を気密状態で塞ぎ、かつ該キャップ本体を上記先端部に装着したときに上記対物レンズと対向する透光性膜材と、を有する内視鏡用先端キャップ、と
を備えることを特徴とする内視鏡。」

(b)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の挿入部の先端部に着脱可能な内視鏡用先端キャップ及び内視鏡に関する。」

(c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態の内視鏡10は医療用の電子内視鏡であり、操作者が把持する操作部11と、操作部11から前方に延出する可撓性のある挿入部12と、操作部11から挿入部12と反対側に延び図示を省略したプロセッサに接続されるユニバーサルチューブ13と、を備えている。挿入部12の先端部14は円柱形状をなす硬質部材から構成してあり、その先端面15には、図2に示すように、対物レンズ16と、一対の照明用レンズ17と、送気穴18と、送水穴19と、処置具挿通穴20とが設けてある。さらに、図4から図6に示すように、先端部14の周面には環状突部21が一体的に突設してある。図示するように、この環状突部21は、その前方部分及び後方部分(先端部14)より大径である。
【0021】
先端部14の内部には対物レンズ16の直後に位置する撮像素子(図示略)が設けてあり、この撮像素子から延びる信号線(図示略)は、挿入部12、操作部11及びユニバーサルチューブ13を通って上記プロセッサと接続している。従って、対物レンズ16で観察された像は、撮像素子による撮像及びプロセッサによる画像処理を経た後にプロセッサに接続するモニタ(図示略)に映し出される。
【0022】
操作部11には送気送水ボタン22が出没可能に突設してある。この送気送水ボタン22は、操作部11内に埋設したシリンダ(図示略)にスライド可能に支持されている。送気送水ボタン22には、その一端が送気送水ボタン22の上端面において開口し他端がシリンダ内において開口するリーク穴(図示略)が穿設してある。挿入部12、操作部11及びユニバーサルチューブ13の内部には、その前端が送気穴18と連通し他端が圧縮空気源(図示略)に接続する送気用管路(図示略)と、その前端が送水穴19と連通し他端が送水源(図示略)と連通する送水用管路が設けてあり、これら送気用管路及び送水用管路の中間部は上記シリンダと連通している。従って、術者が送気送水ボタン22のリーク穴を指で塞ぐと、圧縮空気源の空気が送気用通路を介して送気穴18から排出され、術者がリーク穴を指で塞ぎながら送気送水ボタン22を操作部11内に押し込むと、送水源の水が送水用通路を介して送水穴19から排出される。
処置具挿通穴20は、挿入部12内に配設された処置具用管路を通じて内視鏡10に設けた鉗子口23と連通している。
【0023】
先端部14に着脱可能な先端キャップ30は、前後両面が開口する円筒形状のキャップ本体31と、キャップ本体31の前面開口部を気密状態で塞ぐ透光性膜材35とからなる。
キャップ本体31は硬質ゴム製であり、その内径は自由状態において先端部14(及び環状突部21)より僅かに小径である。キャップ本体31の外周面の前端部には環状凹部32が凹設してあり、環状凹部32の後端部にはその前方部分よりさらに深く凹設された環状の係合凹部33が形成してある。
透光性膜材35は、正面視円形かつ無色透明の弾性材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、透明シリコン樹脂)からなり、その肉厚はキャップ本体31より薄い。透光性膜材35は、その中央部を構成する正面視円形の圧接部36と、圧接部36の外周側に位置し環状凹部32に気密状態で被せられる外周部37と、外周部37の周縁に形成した係合凹部33に気密状態で嵌合固定される環状の係合突部38とを有している。図8に示すように、圧接部36には指標39が印刷してある。さらに、透光性膜材35をキャップ本体31に固定すると、図4に示すように圧接部36は扁平となる。
【0024】
次に内視鏡10と先端キャップ30の使用方法について、図4から図8を利用して説明する。
まず、図4に示すように内視鏡10の挿入部12の先端部14に先端キャップ30を装着する。すると、圧接部36が対物レンズ16と対向するので、キャップ本体31の先端部14に対する相対回転位置を調整し、圧接部36に印刷した指標39を処置具挿通穴20の直前に位置させる(対向させる)。先端キャップ30を装着すると、自由状態においては先端部14(及び環状突部21)より小径であったキャップ本体31の後半部が拡径方向に弾性変形するので、キャップ本体31の内周面が先端部14及び環状突部21の外周面に気密状態で圧接する。
このようにして先端キャップ30を先端部14に装着したら、挿入部12を患者の体腔A内に挿入し、モニタに映し出された対物レンズ16の観察像を見ながら、先端キャップ30及び先端部14を体腔A(体腔壁)に出来た患部Bの近傍に位置させる。先端キャップ30及び先端部14が患部Bの近傍に位置すると、図8に示すようにモニタに透明な圧接部36を通して観察された患部B及び患部Bからの血液Cが映し出される。
次いで、送気送水ボタン22のリーク穴を指で塞いで、送気穴18から先端キャップ30内に圧縮空気源で発生した空気を排出する。すると、この排出された空気の圧力により圧接部36が膨張する(図5参照)。圧接部36が適度に膨張したら送気送水ボタン22のリーク穴から指を離し(送気穴18からの空気の排出を停止し)、圧接部36を図5の状態に保持する。
【0025】
次いで、図6に示すように、内視鏡10を操作しながら膨張した圧接部36を患部B及び血液Cに圧接させる。すると、圧接部36により血液Cが圧接部36の外周側に押し出され、モニタに映し出された画像から血液Cが無くなるので、術者はモニタを通じて患部Bを明瞭に視認可能となる。
このように患部Bが視認出来る状態になったら、指標39を出血Cにあわせるように内視鏡10を操作した後、鉗子口23から内視鏡10の処置具用管路に処置具40を挿入し、その先端部に形成された一対の開閉爪41を処置具挿通穴20から先端キャップ30内に突出させる。さらに、処置具40の基端部に設けられた操作部(図示略)を操作して、開閉爪41によって圧接部36の患部Bに圧接している部分を破る。すると、図7に示すようにこの破られた部分から開閉爪41にて出血部C(患部B)を把持し、開閉爪41を内視鏡10側に引きこんだ後、処置具40に接続された高周波発生装置(不図示)から把持した出血部C(患部B)に通電することにより出血部Cを止血する。
最後に、体腔A内に挿入した挿入部12を処置具40と一緒に体腔Aから患者の体外に引き抜く。さらに、内視鏡10の先端部14からキャップ本体31を弾性変形させながら取り外し、取り外した先端キャップ30を廃棄処分する。
【0026】
以上説明したように本実施形態では空気圧及び透光性膜材35の弾力を利用することにより患部B(出血部C)を簡単かつ確実に処置できる。従って術者は、水を利用する従来の方法により処置を行う場合に比べて、患部Bの処置を容易に行うことができる。
また、本実施形態の透光性膜材35は弾性材料からなるので、空気圧によって膨張させるのが容易である。しかも、仮に術者が先端キャップ30内に大量の空気を注入し、その結果、先端キャップ30内の気圧が過大になったとしても、弾性材料からなる透光性膜材35は簡単に破れることはない。
しかも、圧接部36は処置具40の開閉爪41によって簡単に破ることができるので、先端キャップ30を先端部14から取り外すことなく、処置具40によって患部Bを処置することが可能である。
さらに、圧接部36に指標39をプリントしたので、術者はモニタを見ることにより、モニタには映し出されない処置具挿通穴20の位置を的確に把握できる。従って、術者は処置具挿通穴20から先端キャップ30内に突出する処置具40の操作を容易に行うことができる。」

(d)「【図面の簡単な説明】
【0028】
・・・
【図4】挿入部先端に先端キャップを装着した状態を、先端キャップを断面視して示す側面図である。
【図5】送気穴からの空気圧により透光性膜材を膨張させた状態を示す図4と同様の側面図である。
【図6】挿入部先端に装着した先端キャップの透光性膜材を患部に圧接した状態を示す図4と同様の側面図である。
・・・
【図8】モニターに映し出された患部及び出血部を表す図である。」

(e)「【図4】



(f)「【図5】



(g)「【図6】



(h)「【図8】



b 引用文献1に記載された発明
上記(a)ないし(d)の記載事項と、上記(e)ないし(h)の図面に記載された事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「操作者が把持する操作部11と、操作部11から前方に延出する可撓性のある挿入部12と、操作部11から挿入部12と反対側に延び、プロセッサに接続されるユニバーサルチューブ13と、を備え、前後両面が開口する円筒形状のキャップ本体31と、キャップ本体31の前面開口部を気密状態で塞ぐ透光性膜材35とからなる、挿入部12の先端部14に着脱可能な先端キャップ30、を備える内視鏡10であって、
先端部14は円柱形状をなす硬質部材から構成してあり、その先端面15には、対物レンズ16と、一対の照明用レンズ17と、送気穴18と、送水穴19と、処置具挿通穴20とが設けてあり、先端部14の内部には対物レンズ16の直後に位置する撮像素子が設けてあり、この撮像素子から延びる信号線は、挿入部12、操作部11及びユニバーサルチューブ13を通って上記プロセッサと接続しており、対物レンズ16で観察された像は、撮像素子による撮像及びプロセッサによる画像処理を経た後にプロセッサに接続するモニタに映し出され、
キャップ本体31は硬質ゴム製であり、その内径は自由状態において先端部14(及び、先端部14の周面に一体的に突設してあり、先端部14より大径である環状突部21)より僅かに小径であり、キャップ本体31の外周面の前端部には環状凹部32が凹設してあり、環状凹部32の後端部にはその前方部分よりさらに深く凹設された環状の係合凹部33が形成してあり、
透光性膜材35は、正面視円形かつ無色透明の弾性材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、透明シリコン樹脂)からなり、その中央部を構成する正面視円形の圧接部36と、圧接部36の外周側に位置し環状凹部32に気密状態で被せられる外周部37と、外周部37の周縁に形成した係合凹部33に気密状態で嵌合固定される環状の係合突部38とを有し、
透光性膜材35をキャップ本体31に固定すると、圧接部36は扁平となり、
先端部14に先端キャップ30を装着したときに、圧接部36が対物レンズ16と対向し、圧接部36に印刷した指標39を処置具挿通穴20の直前に位置させ(対向させ)、自由状態においては先端部14(及び環状突部21)より小径であったキャップ本体31の後半部が拡径方向に弾性変形して、キャップ本体31の内周面が先端部14及び環状突部21の外周面に気密状態で圧接し、
先端キャップ30を先端部14に装着した挿入部12を患者の体腔A内に挿入して先端キャップ30及び先端部14を体腔A(体腔壁)に出来た患部Bの近傍に位置させると、モニタに透明な圧接部36を通して観察された患部B及び患部Bからの血液Cが映し出され、
次いで、送気穴18から先端キャップ30内に排出された空気の圧力により圧接部36を膨張させ、圧接部36が適度に膨張したら、送気穴18からの空気の排出を停止し、圧接部36を膨張させた状態に保持し、
次いで、膨張した圧接部36を患部B及び血液Cに圧接させると、圧接部36により血液Cが圧接部36の外周側に押し出され、モニタに映し出された画像から血液Cが無くなるので、術者はモニタを通じて患部Bを明瞭に視認可能となる、
内視鏡10。」

(イ)引用文献2について
a 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(a)「本考案は内視鏡の先端部の改良に関する。」(明細書第2頁第4行)

(b)「以下、本考案の一実施例を第1図ないし第4図にもとづいて説明する。
第1図中1は内視鏡であり、この内視鏡1は操作部2に挿入部3を連結してなり、さらに、操作部2にはライトガイドケーブル4が連結されている。上記挿入部3は可撓管5の先端に湾曲管を介して先端部7が連結されている。」(明細書第3頁第5−11行)

(c)「また、挿入部3内には像伝達用光学系のイメージガイド21と照明光伝達用光学系のライトガイド22とが挿通されており、上記イメージガイド21の先端には筒状の対物レンズ枠23が連結されている。また、ライトガイド22の先端には照明用支持筒24が被嵌固定されている。そして、この対物レンズ枠23と照明用支持筒24とはそれぞれその外周に周方向に沿う突条25,26が設けられている。」(明細書第4頁第11−19行)

(d)「一方、先端部7はその先端部本体31を、たとえばゴムや合成樹脂などの弾性体材料によつて一体に形成してなり、さらに、従来別体としてあつたフード32も同時に一体に形成されている。この先端部本体31には対物レンズ枠用圧入孔33と支持筒用圧入孔34とがそれぞれ前後方向に貫き抜けるように形成されている。この各圧入孔33,34の内面には前記突条25,26に対応してそれを嵌め込む係合溝35,36が形成されている。また、対物レンズ枠用圧入孔33の内径はそれに嵌め込む対物レンズ枠23の外径より小さく、その対物レンズ枠23を弾性的に圧入させてそれを保持できるようになつている。支持筒用圧入孔34の内径はそれに嵌め込む支持筒24を弾性的に圧入させてそれを保持できるようになつている。」(明細書第5頁第5−20行)

(e)「第5図および第6図は本考案の他の実施例を示すもので、この実施例では上記実施例に比較して先端部本体41の構造のみが異なる。すなわち、この先端部本体41は透明な弾性体材料によつて一体に形成されており、さらに、対物レンズ枠用圧入孔42および支持筒用圧入孔43などの圧入孔はそれぞれ先端側が閉塞されている。」(明細書第7頁第12−19行)

(f)「第1図



(g)「第4図



(h)「第5図



(i)「第6図



b 引用文献2に記載された技術的事項
上記(a)ないし(e)の記載事項と、上記(f)ないし(i)の図面に記載された事項を総合すると、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「操作部2に挿入部3を連結してなる内視鏡1の先端部7であって、
上記挿入部3は可撓管5の先端に湾曲管を介して先端部7が連結されており、
挿入部3内には像伝達用光学系のイメージガイド21と照明光伝達用光学系のライトガイド22とが挿通されており、上記イメージガイド21の先端には筒状の対物レンズ枠23が連結され、ライトガイド22の先端には照明用支持筒24が被嵌固定されており、
先端部7の先端部本体41は透明な弾性体材料によつて一体に形成されており、フード32も同時に一体に形成されており、
先端部本体41には対物レンズ枠用圧入孔42と支持筒用圧入孔43とが形成され、対物レンズ枠用圧入孔42の内径はそれに嵌め込む対物レンズ枠23を弾性的に圧入させてそれを保持できるようになつており、支持筒用圧入孔43の内径はそれに嵌め込む照明用支持筒24を弾性的に圧入させてそれを保持できるようになつており、対物レンズ枠用圧入孔42および支持筒用圧入孔43などの圧入孔はそれぞれ先端側が閉塞されている、
内視鏡1の先端部7。」

(ウ)引用文献3について
引用文献3には、明細書第2頁第15−19行に、
「内視鏡本体1の先端部2にひょうたん状のセンタリングデバイス11を装着することにより、パイプ等の中心軸近傍に観察位置を設定し、パイプ内周面を観察し易くするものがある。」
と記載されていることから、
「内視鏡本体1の先端部2にひょうたん状のセンタリングデバイス11を装着することにより、パイプ等の中心軸近傍に観察位置を設定する。」
という技術的事項が記載されていると認められる。

(エ)引用文献4について
引用文献4には、段落【0016】ないし【0017】に、
「【0016】
前記撮像および操作アセンブリ10を撮像組織に使用する状態にする場合、矢印で示すように、撮像フード12をカテーテル14に対して進め、カテーテル14の遠位開口部から展開する。展開する際は、図1Bに示すように撮像フード12を開放して、展開撮像形態に拡張する、または開く。撮像フード12は、ポリマー、プラスティック、または織布を含むがこれらに限定されない様々な柔軟性、弾性のある生体適合材料で作られる。織布の一例は、Kevlar(登録商標)(E.I.du Pont de Nemours、デラウェア州ウィルミントン)である。これは、例えば0.001インチ未満にまで薄くすることができるアラミド材であり、本明細書に記載のアプリケーションに対する十分な整合性を維持する。さらに、前記撮像フード12は、半透明または不透明な材料を用いて多様な色に加工され、周囲の流体あるいは解剖学的、機械的構造または器具などの構造から反射される光を最適化あるいは弱める。いずれの場合も、撮像フード12を一様構造あるいは足場支持構造に組み立てることができる。この場合、Nitinolなどの形状記憶合金、バネ鋼、あるいはプラスティックなどを備える足場は、ポリマー、プラスティック、あるいは織布で加工および被覆される。
【0017】
撮像フード12は、インターフェイス24において、展開カテーテルまたはシース14から独立して変換される展開カテーテル16に取り付けられる。インターフェイス24の取り付けは、あらゆる従来方法によって行うことができる。展開カテーテル16は、流体送達管腔18および内部に光撮像ファイバーまたはアセンブリが組織を撮像するために配置される撮像管腔20を画定する。展開する際、空きスペースまたはフィールド26が撮像フード12によって画定されるならば、撮像フード12は円柱、図に示すような円錐、半球などを含むあらゆる形状に拡張する。前記空きスペース26は、対象の組織部位が撮像される領域である。また撮像フード12は、傷つけない接触縁または端22を画定して、対象の組織部位に押し付けて配置または当接させる。さらに、撮像フード12の直径は、最大に展開した状態、例えば接触縁または端22において、通常展開カテーテル16の直径よりも大きい(しかし、接触縁または端22の直径は、展開カテーテル16の直径よりも小さいか等しい場合もある)。例えば、前記接触端の直径は、展開カテーテル16の直径の1?5倍の範囲で変動する(あるいはそれ以上でも使用可能である)。図1Cは、展開形態における前記撮像フード12の端面図を示す。また、前記接触縁あるいは端22および流体送達管腔18、撮像管腔20も示す。」
と記載されていることから、
「流体送達管腔18および内部に光撮像ファイバーまたはアセンブリが組織を撮像するために配置される撮像管腔20を画定する展開カテーテル16に取り付けられる撮像フード12をカテーテル14に対して進め、カテーテル14の遠位開口部から展開し、撮像フード12は、弾性のある生体適合材料で作られ、傷つけない接触縁または端22を画定して、対象の組織部位に押し付けて配置または当接させる。」
という技術的事項が記載されていると認められる。

ウ 本願補正発明1について
(ア)対比
本願補正発明1と引用発明1とを対比する。

a 引用発明1の「血液C」は、本願補正発明1の「不透明な流体」に相当する。また、引用発明1の「患部B」は、「体腔A(体腔壁)に出来」ており、「血液C」は、「患部Bから」のものであることから、引用発明1の「患部B」は、「血液C」で覆われている体腔壁の表面であるといえるので、本願補正発明1の「不透明な流体」「で覆われた表面領域」に相当する。
そして、引用発明1の「内視鏡10」は、「モニタに映し出された」「患部B及び患部Bからの血液C」の「画像から血液C」を「無く」して、「術者」が、「患部B」を、「モニタを通じて」「明瞭に視認可能となる」ようにするものであるといえるから、本願補正発明1の「不透明な流体」「で覆われた表面領域を視覚化する装置」に相当する。

b 引用発明1は、「挿入部12の先端部14」の「先端面15に」、「対物レンズ16と、一対の照明用レンズ17と、」「が設けてあり、先端部14の内部には対物レンズ16の直後に位置する撮像素子が設けてあり、この撮像素子から延びる信号線は、挿入部12、操作部11及びユニバーサルチューブ13を通って」「プロセッサと接続」するものである。そして、「対物レンズ16で観察された像」が、「撮像素子による撮像及びプロセッサによる画像処理を経た後にプロセッサに接続するモニタに映し出され」るものである。
そして、引用発明1の「対物レンズ16」、「対物レンズ16の直後に位置する撮像素子」、および「撮像素子から延び」る「信号線」は、観察対象からの光を画像に変えるものであるから、これらを含む引用発明1の「挿入部12」、「操作部11」、および「ユニバーサルチューブ13」は、本願補正発明1の「光学画像化システム」に相当する。

c 引用発明1の「透光性膜材35」が有する「圧接部36」は、「血液C」を「圧接部36の外周側に押し出」して「患部B」を「明瞭に視認可能となる」ようにするものであるといえるから、当該「圧接部36」を有する引用発明1の「透光性膜材35」は、本願補正発明1の「視覚化部」に相当する。
また、本願補正発明1に記載された「視覚化部」の「第1の外側境界」、「第2の外側境界」とは、それぞれ、本願の明細書および図面の記載を考慮すると、外形が略柱状または略錐台状の「視覚化部」を、当該柱または錐台の中心軸を含む面であって、該中心軸と平行な面で切断して、2つの部分に分けた際の、一方の部分の外周面と他方の部分の外周面、を意味するものであると解される。
これに対し、引用発明1の「透光性膜材35」は、「その中央部を構成する正面視円形の圧接部36と、圧接部36の外周側に位置し環状凹部32に気密状態で被せられる外周部37と、」「を有し」ているのであるから、引用発明1の「透光性膜材35」は、外形が略円柱状であるといえる。そして、「透光性膜材35」が有する「外周部37」の外周面は、「透光性膜材35」を、円柱の中心軸を含み、かつ、該中心軸と平行な面で切断して、2つの部分に分けた際の、一方の部分の外周面と他方の部分の外周面からなるものであるといえる。
そうすると、引用発明1の「透光性膜材35」が有する「外周部37」の外周面は、本願補正発明1の「前記視覚化部の第1の外側境界」および「第2の外側境界」という構成を備えているものである。
そして、引用発明1の「透光性膜材35」が有する「圧接部36」は、正面視において「外周部37」の外周面で囲まれる領域の内部に連続的に存在しており、「内視鏡10」の内部からみた際の「透光性膜材35」の外部の面を有しているといえることから、引用発明1の「透光性膜材35」が有する「圧接部36」は、本願補正発明1の「前記視覚化部の第1の外側境界から第2の外側境界に亘って延在する外表面」に相当する。
また、引用発明1の「透光性膜材35」は、「無色透明の弾性材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、透明シリコン樹脂)からなり」、「患部B」からの光を通過させることができるものであることから、引用発明1の「透光性膜材35」が、「無色透明の弾性材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、透明シリコン樹脂)からな」ることは、本願補正発明1の「前記視覚化部が前記表面領域の光学画像を伝送できる弾性材料を備え」ることに相当する。

d 本願補正発明1の「前記視覚化部に接続されそこから延在し且つ前記光学画像化システムの末端に装着される大きさとされた取付部」と、引用発明1の「キャップ本体31」とを対比する。
引用発明1の「先端部14及び環状突部21」は、「挿入部12」のはしの部分であるから、本願補正発明1の「前記光学画像化システムの末端」に相当し、かつ、引用発明1の「キャップ本体31」の「内径」は、「拡径方向に弾性変形」すると、「キャップ本体31」の「内周面が先端部14及び環状突部21の外周面に気密状態で圧接し」うる「内径」であるといえることから、引用発明1の「キャップ本体31」は、本願補正発明1の上記「取付部」と、「前記光学画像化システムの末端に装着される大きさとされた取付部」である点で共通する。
また、引用発明1の「キャップ本体31」は、その「外周面の前端部に」「凹設」された「環状凹部32」に、「透光性膜材35」の「外周部37」が「気密状態で被せられ」、「環状凹部32の後端部」に「形成」された「環状の係合凹部33」に、「外周部37の周縁に形成した」「環状の係合突部38」が「気密状態で嵌合固定される」ものであるから、「透光性膜材35」と「前端部」でつながれて後端側に延びているものであるといえるので、本願補正発明1の上記「取付部」と、「前記視覚化部に接続されそこから延在」する取付部である点で共通する。

e 本願補正発明1の「前記光学画像化システムの末端に搭載され、一端に視覚化部を有した光学カプラ」と、引用発明1の「先端キャップ30」とを対比する。
引用発明1の「先端キャップ30」は、「先端部14及び環状突部21」に「装着」され、「装着」されたときに、「先端キャップ30」を構成する「透光性膜材35」が有する「圧接部36」が、「照明用レンズ17」からの光を通過させるとともに、体腔壁からの光を通過させるものであるといえるから、本願補正発明1の上記「光学カプラ」と、「前記光学画像化システムの末端に搭載され」る「光学カプラ」である点で共通する。
また、引用発明1の「先端キャップ30」は、「前後両面が開口する円筒形状のキャップ本体31」「の前面開口部」(一端)に「透光性膜材35」が設けられたものであるから、本願補正発明1の上記「光学カプラ」と、「一端に視覚化部を有した」光学カプラである点で共通する。

そうすると、本願補正発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、それぞれ以下のとおりである。

(一致点)
「不透明な流体で覆われた表面領域を視覚化する装置であって、
光学画像化システムと、
前記光学画像化システムの末端に搭載され、一端に視覚化部を有した光学カプラと、を備え、
前記視覚化部が、前記視覚化部の第1の外側境界から第2の外側境界に亘って延在する外表面を有し、
前記視覚化部が前記表面領域の光学画像を伝送できる弾性材料を備え、
前記光学カプラが、前記視覚化部に接続されそこから延在し且つ前記光学画像化システムの末端に装着される大きさとされた取付部を備えた、
表面領域を視覚化する装置。」

(相違点1)
視覚化部の第1の外側境界から第2の外側境界に亘って延在する外表面を有する視覚化部が、
本願補正発明1は、「前記光学画像化システムの末端に係合する近接表面、及び、該近接表面から離れ」た前記外表面「を有」するものであるのに対し、
引用発明1は、そのような近接表面を有していないものである点。

(相違点2)
本願補正発明1は、「1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラの長手軸から横方向に離れるように延在する」という構成を備えているのに対し、
引用発明1は、そのような構成を備えていない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。

a.引用文献1の「【発明の効果】」における段落【0013】の記載からみて、引用発明1は、「先端部14」に「先端キャップ30」を「装着」し、「対物レンズ16」と対向させた「透光性膜材35」を、出血中の患部に圧接すると、その圧力により患部から流れ出た血液が「透光性膜材35」の外側に押し出されるものであり、それによって、術者が、「透光性膜材35」を通して「対物レンズ16」が観察した患部を明瞭に視認でき、患部を容易に処置することを可能にする、という効果を奏するものであるといえる。
また、引用文献1の「【発明の効果】」における段落【0014】ないし【0015】の記載からみて、引用発明1は、「送気穴18」からの空気圧を利用して「透光性膜材35」を膨張させ、膨張した「透光性膜材35」を患部に押しつけるものであり、それによって、患部の出血をより確実に除去する、という効果を奏するものであるといえる。
また、引用文献1の「【発明の効果】」における段落【0016】の記載からみて、引用発明1は、「透光性膜材35」の弾力を利用することにより、血液をより簡単に除去できるようにする、という効果を奏するものであるといえる。
以上のことを踏まえると、引用発明1の「透光性膜材35」は、膨張させた状態であるか否かにかかわらず、出血中の患部の領域に圧力をかけて接触させて血液を除去しうるものである、と解することができ、引用発明1は、「透光性膜材35」がもともと奏する、血液を除去するという効果を、「送気穴18」からの空気圧と「透光性膜材35」の弾力によって、さらに高めているものであるといえる。
そうすると、引用発明1の「透光性膜材35」は、出血中の患部から血液を除去するための使用態様として、「送気穴18」からの空気圧と「透光性膜材35」の弾力によって、「圧接部36」を膨張させた状態で、出血中の患部に押しつける使用態様のほかに、「送気穴18」からの空気圧を用いないで、「圧接部36」を扁平な状態で、出血中の患部に押しつける使用態様も含んでいるものであるといえる。
そして、術者が、扁平な状態の「圧接部36」を患部に圧接させて、当該「圧接部36」を通して「対物レンズ16」が観察した患部を明瞭に視認できるようにするためには、引用発明1の「先端面15」を正面視した際に、「対物レンズ16」と「照明用レンズ17」の間に間隔があるところ、「照明用レンズ17」からの照明光が、「対物レンズ16」の視野を照らしうるようにするべく、「透光性膜材35」の「圧接部36」が「対物レンズ16」と「照明用レンズ17」が設けられた「先端面15」から離れた位置に設けられなければならないといえる。

b.上記a.によれば、引用発明1は、上記2つの使用態様を可能とするように、「透光性膜材35」の「圧接部36」を「先端面15」から離れた位置に設けることを、前提としているものである、といえるから、そのような引用発明1において、「透光性膜材35」が有する「圧接部36」を、「先端面15」に係合させて近接させるようにしようとする動機付けはないといえる。

c.もし、引用発明1の「透光性膜材35」が、出血中の患部から血液を除去するための使用態様として、「送気穴18」からの空気圧と「透光性膜材35」の弾力によって、「圧接部36」を膨張させた状態で、出血中の患部に押しつける態様のみを有するものであるとしても、
(a)引用発明1において、「圧接部36」を、「送気穴18」が設けられた「先端面15」に係合させて近接させた場合は、「圧接部36」を膨張させる際に、「圧接部36」が、出血中の患部から血液を「圧接部36」の外周側に押し出すことができるような均質な凸面形状となるように、膨張させることができるのか不明であるし、
(b)膨張させた「圧接部36」を、凹凸のある患部に圧接させる際に、患部と「先端面15」が衝突しない状態で圧接させることができるのかも不明であり、さらに、
(c)膨張させた「圧接部36」を患部に圧接させた際に、処置具を突出させて処置するための空間を確保できるものであるのか、については、引用発明1において存在している「先端キャップ30内」の空間(「先端面15」と「圧接部36」と「キャップ本体31」によって気密状態に閉ざされた空間)が、存在しなくなることから、引用発明1と同様に実現できるものであるのかも不明であるといえる。

d.上記c.によれば、引用発明1の「透光性膜材35」が、出血中の患部から血液を除去するための使用態様として、「送気穴18」からの空気圧と「透光性膜材35」の弾力によって、「圧接部36」を膨張させた状態で、出血中の患部に押しつける使用態様のみを有するものであるとしても、引用発明1において、「透光性膜材35」が有する「圧接部36」を、「先端面15」に係合させて近接させるようにしようとする動機付けはないといえる。

e.そして、引用文献2ないし3をみても、引用発明1において、そのようにしようとする動機付けとなる事項は見当たらない。

f.よって、上記相違点1に係る本願補正発明1の構成は、引用発明1、引用文献2に記載の技術的事項、及び引用文献3に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点1に係る本願補正発明1の「視覚化部」に係る構成のほかの上記相違点2に係る事項について検討するまでもなく、本願補正発明1は、引用発明1、引用文献2に記載の技術的事項、及び引用文献3に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本願補正発明2ないし3について
本願補正発明2ないし3も、上記相違点1ないし2に係る本願補正発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願補正発明1と同じ理由により、引用発明1、引用文献2に記載の技術的事項、および引用文献3に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本願補正発明4ないし5について
本願補正発明4ないし5も、上記相違点1ないし2に係る本願補正発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願補正発明1と同じ理由により、引用発明1、引用文献2に記載の技術的事項、引用文献3に記載の技術的事項、および引用文献4に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ まとめ
以上のことから、本願補正発明1ないし5は、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものではなく、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由もない。
よって、本願補正発明1ないし5は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(5)むすび
上記(4)で検討したように、本願補正発明1ないし5が特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである、とはいえない。
そして、他に本件補正を却下すべき理由はない。
したがって、原審における令和3年9月8日付け補正の却下の決定を取り消す。

第3 本願発明についての判断
1 本願発明
以上のとおり、令和3年9月8日付け補正の却下の決定は取り消されたから、本願の請求項1ないし5に係る発明(それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5(上記第2[理由]2(2)参照。)に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

理由(新規事項)
令和2年11月5日に提出された手続補正書でした補正は、「1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラから横方向に離れるように延在する」との記載によって特定される事項を含む補正後の請求項1ないし7に係る発明、および「前記視覚化部及び前記取付部の何れかから横方向に延びる1つまたは複数の支持要素」との記載によって特定される事項を含む補正後の請求項8ないし11に係る発明が、当初明細書等に記載されておらず、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 原査定の拒絶の理由についての判断
本件補正により、補正前の請求項1の記載における「1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラから横方向に離れるように延在する」との記載は、「1つまたは複数の支持要素が前記光学カプラの長手軸から横方向に離れるように延在する」との記載に補正された。
そして、上記の補正は、本件補正の補正事項アに対応し、上記第2[理由]3(2)の「新規事項の追加の有無」において検討したように、上記補正事項アは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また、本件補正により、補正前の請求項8ないし11は削除された。
以上のことから、原査定の拒絶の理由は、本件補正により解消したと認められる。
したがって、本願は、原査定の拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

4 まとめ
以上のことから、本願について、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-01-23 
出願番号 P2019-093598
審決分類 P 1 8・ 55- WYA (A61B)
P 1 8・ 121- WYA (A61B)
P 1 8・ 575- WYA (A61B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 石井 哲
特許庁審判官 井上 香緒梨
樋口 宗彦
発明の名称 内視鏡用光学カプラ  
代理人 瀧野 文雄  
代理人 福田 康弘  
代理人 津田 俊明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ