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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1393754
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-17 
確定日 2023-01-04 
事件の表示 特願2016−205795号「GPS着陸システムにおけるレーダ導出位置データの利用」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月14日出願公開、特開2017−161495号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月20日の特許出願であって(パリ条約による優先権主張 2015年12月4日 米国)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
平成29年 2月24日 :翻訳文の提出
令和 2年 9月11日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 3月23日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月26日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 9月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月14日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月25日 :原査定の謄本の送達)
令和 4年 1月17日 :審判請求書及び手続補正書の提出
同年 2月24日付け:前置報告書
同年 6月14日 :上申書の提出

第2 令和4年1月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年1月17日にされた手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の補正内容
令和4年1月17日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、以下の(1)に示す本件補正前の令和3年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「 【請求項1】
GPS信号を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成するように全地球測位衛星(GPS)着陸システム215を動作させるステップと、
着陸地点に対する前記航空機105の相対位置を示すレーダ導出位置データ210を前記着陸地点から受信するステップと、
レーダのビーム・パターン内で前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210を前記入力として用い、前記航空機が前記レーダのビーム・パターン外にある間、慣性データを前記入力として用いて、前記航空機105を飛行させるための制御信号を生成するように、前記GPS着陸システム215を動作させるステップと、
を含む、方法。」

(2) 本件補正後
「 【請求項1】
GPS信号を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成するように全地球測位衛星(GPS)着陸システム215を動作させるステップと、
着陸地点に対する前記航空機105の相対位置を示すレーダ導出位置データ210を前記着陸地点から受信するステップであって、前記着陸地点は船舶110である、ステップと、
前記航空機がレーダのビーム・パターン内にある間、前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210を前記入力として用い、前記航空機が前記レーダのビーム・パターンを離れ、再度、前記レーダのビーム・パターンに入るまで前記レーダのビーム・パターン外にある間、前記航空機および前記着陸地点の慣性データを前記入力として用いて、前記航空機105を飛行させるための制御信号を生成するように、前記GPS着陸システム215を動作させるステップと、
を含む、方法。」

2 本件補正の目的
(1) 本件補正による請求項1の補正は、請求項1について次のアからエまでの限定を行うものである。
ア 「着陸地点に対する前記航空機105の相対位置を示すレーダ導出位置データ210を前記着陸地点から受信するステップ」における「前記着陸地点」を「船舶110」に限定すること。
イ 「前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210を前記入力として用い[る]」期間について、「前記航空機がレーダのビーム・パターン内にある間」に限定すること。
ウ 「慣性データを前記入力として用い[る]」期間について、「前記航空機が前記レーダのビーム・パターンを離れ、再度、前記レーダのビーム・パターンに入るまで前記レーダのビーム・パターン外にある間」に限定すること。
エ 「慣性データ」を「前記航空機および前記着陸地点」のものに限定すること。
(2) そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3) よって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件についての当審の判断
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2) 引用文献等
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である欧州特許出願公開第1022580号明細書(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
下線は合議体が付した。摘記の後の括弧内に合議体が作成した日本語訳を示す。
a 1欄56行〜2欄13行
「 The aim of the present invention is the one of providing a guidance system and method for aircraft in the phase of approach and landing that allows the safe and timely performance of such phases also in the case of malfunctioning of the satellite navigation system; the term malfunction is here meant in the broad sense of situations, even if temporary, in which the signal produced by the satellite navigation system are out of the tolerances. The system object of the present invention operates as a backup of the satellite system: thanks to it there are satisfied the requirements of continuity of the service, with the necessary precision and with the integrity control, with an efficiency increase (this latter may be evaluated with the likelihood of a missed landing).
(本発明の目的は、接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム及び方法を提供することであって、衛星航法システムの誤動作の場合にもそのような段階の安全かつ適時な実行を可能にする誘導システム及び方法を提供することである。誤動作という用語は、ここでは、たとえ一時的であっても、衛星航法システムによって生成される信号が許容範囲外である状況の広い意味を意味する。本発明の目的であるシステムは、衛星システムのバックアップとして動作する。これにより、サービスの継続性の要件が満たされ、必要な精度及び一貫性制御が得られ、効率が向上する(後者は、着陸ミスの可能性により評価され得る)。)

b 2欄14〜21行
「 The present invention is based on the innovative use of the signals transmitted by an apparatus present on board of all the aircraft of the commercial aviation and all the airplanes (both of the commercial aviation and of the aviation in general) which operate according to the regulations of the instrument flight: it is the transponder of the secondary surveillance radar, in brief SSR.」
(本発明は、計器飛行の規則に従って動作する商用航空の全ての航空機及び全ての飛行機(商用航空及び一般的な航空の両方)の機上に存在する装置によって送信される信号の革新的な使用に基づいており、それは、二次監視レーダー、簡単に言えばSSRのトランスポンダーである。)

c 3欄12〜19行
「 Specifically, the new technology according to the present invention uses a high precision surveillance radar, preferably of the kind, "secondary radar", located near the landing strip and a suitable number, very small in the preferred embodiments of the invention, of station provided with a SSR receiver, in the following briefly indicated as passive stations.」
(具体的には、本発明による新しい技術は、着陸帯の近くに配置された高精度監視レーダー、好ましくは二次レーダーのような高精度監視レーダーと、本発明の好ましい実施形態では非常に少ない適切な数の、以下では受動局として簡単に示されるSSR受信機を備えた局とを使用する。)

d 3欄20〜42行
「 From the receiver oh the SSR and from the passive station there are produced measurements of the time elapsed between the interrogation and the response emitted by the transponder at the standard frequency of 1090 MHz (in the following the product of such time by one half of the speed of the light is indicated with the term of pseudo-distance or pseudorange: it does not coincide with the distance of the aircraft because of the fixed delay of the transponder). Such measurements are processed together with high precision angular measurement provided by the SSR with an elimination of the system errors, the first of these being the delay of the transponder, and a minimization of the effects of random errors. The processing is based on the principle of the least squares, well known to persons skilled in the art. A primary radar already present in the area of the airport or near it may also be utilized, in the field of the present invention, in combination with the secondary radar or also alone; in this latter case the responses of the transponder that are utilized are the spontaneous ones, well known to the experts and identified as "squitter".」
(SSRの受信機及び受動局から、質問と、1090MHzの標準周波数でトランスポンダーにより放出された応答との間で経過した時間の測定値が生成される(以下では、このような時間と光の速度の半分との積が擬似距離又は擬似範囲という用語で示される。トランスポンダーの固定遅延のために航空機の距離と一致しない)。このような測定は、SSRによって提供される高精度の角度測定と共に処理され、システム誤差の除去、その中でも最初に、トランスポンダーの遅延誤差の除去及びランダム誤差の影響の最小化が行われる。この処理は、当業者に周知の最小二乗の原理に基づいている。空港の領域又はその近くに既に存在する一次レーダーも、本発明の分野では、二次レーダーと組み合わせて、又は単独でも利用することができ、この後者の場合、利用されるトランスポンダーの応答は、専門家には周知でありスキッターとして識別される自発的なものである。)

e 3欄48行〜4欄17行
「1. The aim of the present invention, with reference to the techniques and the principles above described, is a system constituted of:
2. A main station provided with a surveillance radar for the localization of the aircraft in the approach and landing phase; in the realization at a lower cost, the radar is of the "secondary" type with the capability of providing the localization parameters, namely the azimuth and the pseudorange and in such realization, as also in the other, hereafter disclosed, the high precision in the measurement of the azimuth is obtained by means of a suitable processing of the sequence of the responses or "replies" of the transponder, as it is disclosed in the paper
[5] G. Galati, F.A. Studer: "Maximum likelihood azimuth estimation applied to SSR/IFF systems", IEEE Transactions on Aerospace and Electronic System, Vol. 26, n° 1, January 1990, pages 27-43;
in the medium cost and greater precision realization it has also the capability of measurement of the elevation angle of the aircraft using the techniques well known to persons skilled in radar systems (see, for instance, the volume:
[6] M.I. Skolnik, "Introduction to radar systems" M. Graw Hill - Second Edition, 1980, at pages 542 and 543)」
(1.本発明の目的は、上述の技術及び原理を参照して、以下から構成されるシステムである。
2.主局は、接近及び着陸段階における航空機の位置特定のための監視レーダーを備え、より低コストでの実現において、レーダーは、位置特定パラメーター、すなわち方位角及び擬似距離を提供する能力を有する二次タイプであり、そのような実現において、以下に開示される他のものと同様に、方位角の測定における高精度は、次の文献に開示されるように、トランスポンダーの応答又は「返事」のシーケンスを適切に処理することにより得られる。
[5] G.Galati,F.A.Studer「Maximum likelihood azimuth estimation applied to SSR/IFF systems」,IEEE Transactions on Aerospace and Electronic System,Vol.26,No1,1990年1月,27−43頁
中コスト及びより高い精度の実現において、レーダーシステムの当業者に周知の技術を使用してレーダーは航空機の仰角を測定する能力も有する(例えば、次の文献を参照。
[6] M.I.Skolnik「Introduction to radar systems」M.Graw Hill 第2版,1980年,542及び543頁)。

f 6欄33行〜7欄20行
「[0014] In particular, figure 1 is a general schematic diagram of the invention. In this figure, the block one indicates the main station, provided with a surveillance radar for the localization of the aircraft in the phase of approach and landing; the radar co-operates with the aircraft interrogating its transponder and receiving the "replies" and, in the higher cost embodiment, transmitting pulses and receiving the echoes from the aircraft itself; the blocks 2 and 3 indicate two passive stations, capable of receiving the "replies" coming from the transponder aboard, the number of two stations being simply indicative and selected in order to be able to show the invention by means of a possible embodiment thereof; the block 4 indicates the point-to-point communication system - that can be realized with techniques well known to persons skilled in the art - that connects the main station and the passive stations with the processing and control center in order to transfer to said center, in a possible embodiment of the invention, the replies, or, in an equivalent manner, in another possible embodiment of the invention, the data of the arrival time and of the code data (the code providing the identity and barometer height of the aircraft), obtained from the replies themselves in a manner well known to the experts in the field and necessary for the localization of the aircraft; the block 5 indicates the processing and control center in which the "replies" or in an equivalent manner the time of arrival and code information coming from the passive stations are combined with the information of localization and code derived from the radar in order to determine the position of the aircraft with the precision and the reliability necessary and for predisposing the messages of alarm and correction for the aircraft; the block 6 indicates the radio-communication system - that can be realized with techniques well known to persons skilled in the art - that connects the processing and control center with the aircraft in order to transmit to it the alarm signals and the possible correction maneuvers and then the block 7 indicates the display system of the alarms of end of the possible correction maneuvers on board of the aircraft; this latter block may be realized in a known way by means of the usual subsystem for processing and display, for instance the display of "horizontal situation" and of "vertical situation", briefly HSD and VSD, or by means of the simple and widespread display of the ILS instrument landing system.」
(特に、図1は、本発明の一般的な概略図である。この図において、ブロック1は、主局を示しており、接近及び着陸の段階における航空機の位置特定のための監視レーダーが設けられている。レーダーは、航空機と協働し、そのトランスポンダーに質問し、「返事」を受信し、より高いコストの実施形態では、レーダーは、パルスを送信し、航空機自体からのエコーを受信する。ブロック2及び3は、搭載されたトランスポンダーからの「返事」を受信することができる二つの受動局を示し、二つの局の数は、本発明の可能な実施形態によって本発明を示すことができるように単に示され、選択された。
ブロック4は、ポイント・ツー・ポイント通信システムを示し、これは、当業者によく知られた技術を用いて実現することができ、本発明の可能な実施形態では、主局及び受動局を処理及び制御センターに接続して、前記センターに、本発明の可能な実施形態では、当業者によく知られた方法で返事自体から取得され、航空機の位置特定に必要な返事、又は同等の方法で、本発明の別の可能な実施形態では、到着時間のデータ及びコードデータ(航空機の識別及び気圧計高さを提供するコード)を転送する。ブロック5は、処理及び制御センターを示し、そこでは、「返事」又は同等の方法では受動局から来る到着時間及びコード情報が、航空機の位置を必要な精度及び信頼性で決定するために、かつ、航空機への警報及び訂正のメッセージを準備するために、レーダーから得られる位置特定及びコードの情報と組み合わされる。ブロック6は、無線通信システムを示し、当業者によく知られている技法で実現することができるものであり、警報信号及び可能な修正操作を航空機に送信するために処理及び制御センターを航空機に接続するものであり、次いでブロック7は、航空機に搭載された可能な修正操作と警報の表示システムを示し、この後者のブロックは、処理及び表示のための通常のサブシステム、たとえば「水平状況」及び「垂直状況」のディスプレー、簡単にはHSD及びVSDであり、又はILS計器着陸システムの単純で広範なディスプレーによって、知られている方法で実現することができる。)

g Figure 1(第1図)




(イ) 引用発明の認定
上記(ア)に摘記した引用文献1の記載内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム及び方法であって、衛星航法システムの誤動作の場合に衛星システムのバックアップとして動作し、安全かつ適時な実行を可能にするものであり、(摘記事項a)
航空機上に存在する二次監視レーダー(SSR)のトランスポンダーによって送信される信号に基づいており、(摘記事項b)
着陸帯の近くに配置された二次監視レーダー(SSR)と、受動局としてSSR受信機を備えた局とを使用するものであり、(摘記事項c)
質問とトランスポンダーの応答との間の経過時間の測定値が生成され、この経過時間と光速度の半分との積が擬似距離又は擬似範囲であり、この測定は、SSRによって提供される角度測定と共に処理され、(摘記事項d)
主局は、接近及び着陸段階における航空機の位置特定のための監視レーダーを備え、レーダーは、位置特定パラメーター、すなわち方位角及び擬似距離を提供する能力を有する二次タイプであり、航空機の仰角を測定する能力も有するものであり、レーダーは、航空機と協働し、そのトランスポンダーに質問し返事を受信するものであり、(摘記事項e、fのブロック1)
ポイント・ツー・ポイント通信システムにおいて、主局及び受動局を処理及び制御センターに接続して、前記センターに到着時間のデータを転送し、(摘記事項fのブロック4)
処理及び制御センターでは、航空機の位置を必要な精度及び信頼性で決定するために、かつ、航空機への警報及び訂正のメッセージを準備するために、返事がレーダーから得られる位置特定及びコードの情報と組み合わされ、(摘記事項fのブロック5)
無線通信システムは、警報信号及び可能な修正操作を航空機に送信するために処理及び制御センターを航空機に接続するものである、
(摘記事項fのブロック6)
接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム及び方法。」

イ 周知技術の認定
(ア) 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である米国特許出願公開第2014/0350754号明細書(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。下線は合議体が付した。摘記の後の括弧内に合議体が作成した日本語訳を示す。
「[0014] Referring to FIG. 1, a ship 102 and an aircraft 104 are depicted. The ship 102, which is depicted as being waterborne and traversing a body of water 106, includes a landing deck 108 that is configured to allow various aircraft, such as a rotorcraft, to land thereon. The ship 102 may be any one of numerous types of watercraft, which may be commercial, military, privately, or publicly owned, that include a suitable landing deck 108. The aircraft 104 may be any one of numerous types of aircraft now known or developed in the future. For example, the aircraft 104 may be fixed-wing aircraft, a manned or unmanned rotary-wing aircraft, or it may be any one numerous types of unmanned air vehicles (UAVs). In the depicted embodiment, the aircraft 104 is a rotorcraft.」
(図1を参照すると、船舶102及び航空機104が示されている。船舶102は、水上にあり、水域106を横断しているものとして示されており、回転翼航空機などの様々な航空機が着陸することを可能にするように構成された着陸デッキ108を含む。船舶102は、適切な着陸デッキ108を含む、多数のタイプの船舶のうちのいずれか一つであり得、商用、軍用、個人用又は公共所有であり得る。航空機104は、現在知られている又は将来開発される多数のタイプの航空機のうちの任意の一つであってもよい。例えば、航空機104は、固定翼航空機、有人又は無人回転翼航空機であってもよく、又は多数のタイプの無人航空機(UAV)のいずれか一つであってもよい。図示の実施形態では、航空機104は回転翼航空機である。)

「[0015] No matter how the ship 102 and rotorcraft 104 are specifically implemented, and as FIG. 1 further depicts, a precision approach and shipboard landing control system 100 is also provided. This system 100 is depicted apart from, but in functional communication with, both the ship 102 and the rotorcraft 104 because the system 100 may be disposed partially within the ship 102 and the rotorcraft 104, or entirely within the rotorcraft 104. No matter where it is physically disposed, the system 100, which will now be described, is configured to generate a landing trajectory 112 for use in landing the rotorcraft 104 onto the deck 108 of the waterborne ship 102. As will also be described, the landing trajectory 112 may be automatically implemented by flight controls onboard the rotorcraft 104, or the landing trajectory 112 may be rendered on a display device for implementation by a pilot (either onboard the rotorcraft 104 or remote therefrom).」
(船舶102及び回転翼航空機104が具体的にどのように実装されても、図1が更に示すように、精密進入及び船上着陸制御システム100も提供される。システム100は、部分的に船舶102及び回転翼航空機104内に又は全体的に回転翼機104内に配置され得るから、このシステム100は、船舶102及び回転翼航空機104の両方から離れて示されているが、それらと機能的に連通している。システム100は、物理的にどこに配置されても、これから説明するが、回転翼航空機104を水上船舶102のデッキ108上に着陸させる際に使用するための着陸軌道112を生成するように構成される。これもまた説明されるように、着陸軌道112は、回転翼航空機104に搭載された飛行制御によって自動的に実施されてもよく、又は着陸軌道112は、パイロット(回転翼航空機104に搭乗しているか、又はそこから離れているかのいずれか)による実施のためにディスプレーデバイス上に示されてもよい。)

「[0016] Turning now to FIG. 2, a functional block diagram representation of one embodiment of the precision approach and shipboard landing control system 100 is depicted. The depicted system 100 includes a plurality of motion sensors 202, a plurality of wind sensors 204, and a processor 206. The motion sensors 202, which for ease of illustration are depicted using a single functional block, are configured to sense motion of the ship and supply motion data representative thereof to the processor 206. The motion sensors 202 may be variously implemented and disposed. For example, the motion sensors 202 may be implemented using one or more inertial sensors, one or more global positioning system (GPS) sensors, one or more radar sensors, one or more cameras, or various combinations thereof, just to name a few. Moreover, the motion sensors 202 may be wholly disposed on the ship 102, wholly disposed on the rotorcraft 104, or partially disposed on both. In a particular preferred embodiment, the motion sensors 202 are wholly disposed on the rotorcraft 104, and include, for example, one or more cameras, a plurality of radar altimeters, and one or more inertial sensors. The camera is configured to capture images of the ship 106 and supplies image data to the processor 206. The radar altimeters are configured to sense vertical motion of the ship 102, and supply data representative thereof to the processor 206. As may be appreciated, the pitch and roll angles that the ship 102 may be experiencing may be estimated from the sensed vertical motion of the ship 102. The inertial sensor(s) is (are) configured to sense the position and orientation of the rotorcraft 104 and ship 102, and to supply data representative thereof to the processor 206.」
(ここで図2を参照すると、精密進入及び船上着陸制御システム100の一実施形態の機能ブロック図が示されている。図示のシステム100は、複数の動きセンサー202と複数の風センサー204と一つのプロセッサー206を含む。動きセンサー202は、例示を容易にするために単一の機能ブロックを使用して示されており、船舶の動きを感知し、それを表す動きデータをプロセッサー206に供給するように構成される。動きセンサー202は多様に実施されて配置されることができる。例えば、センサー202は、いくつか例を挙げると、一つ又は複数の慣性センサー、一つ又は複数の全地球測位システム(GPS)センサー、一つ又は複数のレーダーセンサー、一つ又は複数のカメラ、又はそれらの様々な組合せを使用して実装され得る。さらに、動きセンサー202は、船舶102に全体的に配置されてもよく、回転翼航空機104に全体的に配置されてもよく、又は両方に部分的に配置されてもよい。特定の好ましい実施形態では、動きセンサー202は、全体が回転翼航空機104上に配置され、例えば、一つ又は複数のカメラ、複数のレーダー高度計、及び一つ又は複数の慣性センサーを含む。カメラは、船舶106の画像を取り込むように構成され、画像データをプロセッサー206に供給する。レーダー高度計は、船舶102の垂直運動を感知し、それを表すデータをプロセッサー206に供給するように構成される。理解され得るように、船舶102が経験し得るピッチ角及びロール角は、船舶102の感知された垂直運動から推定され得る。慣性センサーは、回転翼航空機104並びに船舶102の位置及び向きを感知し、それを表すデータをプロセッサー206に供給するように構成される。)

「[0019] The landing trajectory 112 that the processor 206 generates may be supplied, as flight control commands, to the rotorcraft flight control system 208, as image rendering display commands to one or more display devices 212, or both. In some embodiments, the flight control system 208 is configured, upon receipt of the flight control commands, to automatically fly the rotorcraft 104 along the landing trajectory 112. In other embodiments, the processor 206 may additionally supply image rendering display commands to the one or more display devices 212 that cause the one or more display devices 212 to render an image of the landing trajectory 112. In still other embodiments, the processor 206 may only cause the one or more display devices 212 to render an image of the landing trajectory 112. In these embodiments, the pilot will manually control the rotorcraft 104 to fly the landing trajectory 112.」
(プロセッサー206が生成する着陸軌道112は、飛行制御コマンドとして回転翼航空機飛行制御システム208に、画像レンダリング表示コマンドとして一つ以上の表示装置212に、又はその両方に供給され得る。いくつかの実施形態では、飛行制御システム208は、飛行制御コマンドを受信すると、着陸軌道112に沿って回転翼航空機104を自動的に飛行させるように構成される。他の実施形態では、プロセッサー206は、一つ又は複数のディスプレーデバイス212に着陸軌道112の画像を示させる画像レンダリングディスプレーコマンドを一つ又は複数のディスプレーデバイス212に付加的に供給することができる。さらに他の実施形態では、プロセッサー206は、一つ又は複数のディスプレーデバイス212に着陸軌道112の画像を示させるだけでもよい。これらの実施形態では、パイロットは、着陸軌道112を飛行するように回転翼航空機104を手動で制御する。)

「FIG.1



「FIG.2



(イ) 引用文献5に記載された事項
補正の却下の決定において引用された文献である特開平6−247394号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。下線は合議体が付した。
「【0024】
【実施例】本発明の実施例を図1〜図5を用いて説明する。まず、ジンバル機構2に取り付けられたレーザ式レーダ1とリフクタ8を使用してレーザ・センサから、リフレクタまでの距離Rと方位角を測定する。
【0025】ジンバル機構2には、レーザ式レーダ1がリフクタ8を常に追尾できるように、自動追尾装置を付ける。自動追尾は例えばリフクタ8の近くに赤外線マーカーを塗り、ジンバル機構2に赤外線自動追尾装置をつけ、前記赤外線マーカーを追尾させるということによって、実現できる。
【0026】コーナ・キューブ・リフレクタは、光の入射方向によらず、その方向へ光を反射させるプリズム、すなわち偏角180°の定偏角プリズムである。図5に示すように立方体の1つの頂角と隣接する三つの頂点とで定められる四面体の形をしている。入射光と反射光は、正三角形の面から出入する。
【0027】測定データRと方位角データ(エレベーション角θ、アジマス角ψ)は船側の演算処理装置4に入力される。さらに、船に搭載されている船の動揺センサ(加速度計とジャイロ)3により、船の姿勢角(ピッチ角θS 、ロール角φS 、ヨー角ψS )及び船首磁方位ψSMが船側の演算処理装置4に送られる。演算処理装置4では、それらのデータを用い、後述の計算(1)(2)(3)(4)を行なう。船側の演算処理装置4で得られた船上の特定箇所または抱束装置と機上のリフレクタとの相対情報及び船首磁方位は船側のデータ送信装置5から機体側のデータ受信装置6に送られ、機体側演算処理装置7に入力される。さらに機体に搭載されている機体の動揺センサ(加速度計とジャイロ)10により機体の姿勢角(ピッチ角θH 、ロール角φH 、ヨー角ψH )及び機首磁方位ψHMが機体側演算処理装置7に入力される。演算処理装置7では、それらのデータを用い、後述の計算(6)(7)(8)(9)(10)を行なう。以上のようにして本発明の装置は、船上の特定箇所と機体上の特定箇所との相対情報を出力する。
【0028】そして、その相対情報を用いてコックピット表示装置9に情報を表示してパイロットの操縦をサポートする。さらに自動操縦装置11に相対情報を入力することにより発着甲板の機体の誘導及び着船を行なう。船と機体の相対情報の算出は次のようにして行なう。図3または図4に示すように
PO ;レーザ・センサの位置
PR ;コーナ・キューブ・リフレクタの位置
PB ;船側の抱束装置(ベア・トラップ)の中心位置
PM ;機体側の抱束装置(メイン・ローブ)の位置
PS ;船側の特定箇所の位置
PA ;機体側の特定箇所の位置」
「【図1】



(ウ) 周知技術の認定
前記(ア)及び(イ)に摘記した事項に例示されるように、次の技術は当業者にとって周知であったと認められる(以下「周知技術」という。)。
[周知技術]
「航空機を船舶に着陸させる船上着陸システムにおいて、航空機の慣性データ、及び、当該航空機の着陸地点である船舶の慣性データを船上着陸システムの入力として用いて、当該航空機を飛行させるための制御信号を生成すること。」

ウ 技術常識の認定
(ア) 引用文献9の記載事項及び技術常識1、2の認定
a 引用文献9の記載事項
当審において新たに引用する文献である特開平6−224697号公報(以下「引用文献9」という。)には次の記載がある。下線は当審が付与した。
「【0015】
【実施例】図1に、本発明を使用することができる代表的な統合航空電子システムを示す。統合航空電子システムの中心要素はフライトディスプレイシステム12、フライトコントロールシステム14、航行センサシステム16、通信システム18、ミッションアビオニクス20及び大気データシステム22を含むシステムの他の要素を調整及び制御するフライト管理システム10である。
【0016】さまざまなシステムからのデータ及びフライト管理システム10から発生する結果はフライトディスプレイシステム12を構成する1台以上のディスプレイ上に表示される。航空機はフライトコントロールシステム14を構成するオートパイロット、オートスロットル及び他の構成要素により制御される。航空機位置情報は航行センサシステム16から提供することができ、それはGPS、慣性航行、TACAN、VOR/ILS、MLS、自動方向探知器及びレーダー高度計を含む広範な機能を含むことができる。空港、航路管制施設及び他の航空機との通信は通信システム18により行われる。軍用機の場合には、目標レーダー及び武器を含む特殊能力はミッションアビオニクス20により提供される。最後に、大気データシステム22は航空機を制御し航空機誘導に影響を及ぼす風及び他の要因を評価するのに使用する大気団関連性能を提供する。
【0017】図2に本発明の動作シナリオを示す。航路上の航空機30は本発明に関連するいくつかのセグメントからなる航行路31(点線)に沿って空港滑走路32の接地(着陸)、もしくは(積荷や人員の空中降下の場合の)投下点34に向って進行する。滑走路もしくは投下ゾーン32にはMLS送信機36が設置されている。到着するために巡航中の航空機30はGPSもしくは他のRNAVシステム、及び航行のためだけの慣性航行システム情報を使用して航路行程38に沿って中間地点40へ進むことができる。中間地点40において航空機30はGPS、INS及びMLS情報の混合を使用して遷移及び初期進入セグメント42に沿って中間地点44へ進むことができる。中間地点44からは、航空機30は次第に且つ最終的には完全にMLS情報に依存して最終進入セグメント46に沿って進む。
【0018】出発時には、航空機30は本発明を付随するいくつかのセグメントからなる航行路48に従うことができる。最初に、出発する航空機30は航行MLSを使用して離陸セグメント50に沿って中間地点52ヘ進むことができる。接地もしくは空中降下点から所定の距離52において、航空機30は、中間地点56までMLS、INS及びGPS情報の混合したものを使用開始する。中間地点56において航空機30はGPS及びINS航行情報を使用して出発航路セグメント58に追従し、MLS情報の重みが低減する。
【0019】航空機到着及び出発のための中間地点は任意に選択することができ、さまざまな航行補助手段は必ずしも中間地点に拘束される必要はない。次に、本発明の機能ブロック図を図3に示す。前後関係を明確にするために、図3のさまざまな要素は一群として図1に示すフライト管理システム10及びフライトコントロールシステム14へ関連づけてある。さらに、図3において航行センサシステム16は入力データ源として示されている。本発明の特徴を明確にするために、座標基準変換、妥当性チェック及び初期化等の従来公知の必要機能は図1から省かれている。
【0020】本発明は2つの代表的な無線航行源、GPS及びMLS、を使用しており、前者は通常航路上航行に使用され後者はターミナルエリア航行に使用される。しかしながら、特定した航行システムは単なる説明の都合であり、任意の他の航行システムが使用できることをお判り願いたい。さらに、本発明は主として短期間フライトコントロール及びGPSデータの補完のために、航空機の機載慣性航行システムからのINS情報を使用する。こうして、航行センサシステム16により同じ符号を付した線を介してフライト管理システム10へGPS、INS及びMLSデータ信号が与えられる。INS及びGPSデータ信号は慣性システムエラーを評価する機能を有するカルマンフィルタ70へ送られる。カルマンフィルタは、ここに参照として組み入れた、ブラウン、ロバートグローバ著、「ランダム信号分析とカルマンフィルタ」(John Wiley and Sons,1983)で検討されている。」
「【0026】スイッチ84はMLS信号が妥当な場合のみ合成航行信号を線82を介して誘導操縦装置87へ結合する。そうでない場合には、スイッチ84は誘導操縦装置87を線86を介して線90上のREVERSIONARY(復帰)信号に接続する。その信号はカルマンフィルタ70の出力から引き出される。すなわち、誘導操縦装置87が使用する航行信号はMLS信号が妥当である場合にはINS/GPS及びMLS信号の組合せから導き出され、MLS信号が妥当でない場合のみINS/GPS信号から導き出される。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】



b 技術常識1の認定
前記aに摘記した事項(【0017】〜【0018】、【図2】)に例示されるように、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識1」という。)である。
[技術常識1]
「着陸システムからの送信信号を検出できる範囲の外に航空機があるときは、当該航空機は慣性航行システム情報を使用して当該送信信号を検出できる範囲に入るように飛行すること。」

c 技術常識2の認定
前記aに摘記した事項(【0015】〜【0016】、【0019】、【0020】、【0026】、【図1】、【図3】)に例示されるように、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識2」という。)である。
[技術常識2]
「GPS、慣性航行、TACAN、VOR/ILS、MLS等の航行センサーから提供される航空機位置情報が飛行制御システムに並列に入力され、これらの入力信号のうち最適な入力信号を選択して当該飛行制御システムを動作させて航空機の飛行が制御されること。」

(イ) 引用文献10の記載事項及び技術常識3、4の認定
a 引用文献10の記載事項
当審において新たに引用する文献である特開平7−272200号公報(以下「引用文献10」という。)には次の記載がある。下線は当審が付与した。
「【0005】より高性能のアプローチは、方位角及びグライドスロープ情報の両方が着陸システムに供給される、いわゆるプレシジョンアプローチ(precision approach)である。たいていの大きな飛行場は、特定タイプのプレシジョンアプローチである計器着陸システム(ILS)を有する。このILSは、今日の民間航空にて最も信頼されているアプローチである。ナビゲーションの別の補助は、航空機が特定の航法標識(レンジ情報)からどれだけ離れているかに関する情報をパイロットに提供する距離測定装置(DME)である。方位角及びグライドスロープ情報をDME情報に組み合わせることによって、パイロットは、航空機を3次元にかなり精確に位置させることができる。しかしながら、ILSとDME機器とを組み合わせても、自動着陸システム(すなわち、航空機に搭載された慣性着陸システム、これはかなり高価でかさばり、複雑である)の能力を増大させずに形成するのに必要とされるほどの精度ではない。
【0006】多くの上記既存のプレシジョン及びノンプレシジョンアプローチの欠点は、航空機に対して着陸位置がどこにあるかに関する情報が、航空機が1の所望のアプローチの限られた特定の上昇角度(通常3゜から最大5゜)にあるときに限り提供されることである。既存のアプローチの多くは、ストレイト・イン・アプローチである。航空機に対して滑走路の位置がどこであるかをシステムに供給することは、航空機が所望のアプローチからどこへ外れているかを必要としているときに表示される。このように、さらに複雑なアプローチが、コースの反転や湾曲したアプローチなど滑走路の位置に常時留意しているパイロットによって行われている。
【0007】マイクロ波着陸システム(MLS)は、2,3の飛行場で稼働している比較的新しいタイプの精密着陸システムである。MLSは、地上に設置された送信器から方位角及びグライドスロープ情報が供給される場合はILSと同じであり、さらにレンジ情報を提供する。各MLS送信器は、よく利用される飛行場で特に有効な異なる方位角に沿った異なるアプローチに対して利用される信号を生成することができる。MLSは、ストレイト・イン、ドッグレッグ、または必要とされるタイプのアプローチのいずれに対しても使用できる。MLSは、方位角、グライドスロープ、及びレンジの3つのアンテナを使用する。航空機の2つの受信器(1つはスペースアンテナのMLS信号であり、他方のアンテナはDMEである)のうちの一方は、それぞれ3次元に航空機を積極的に配置させることの可能な航空機に関する情報を提供する3つの送信アンテナの各々から信号を受信できる。しかしながら、MLSは、ILSよりも異なるアプローチに対してかなり大きな適用性可能性を有するけれども、MLSに連結される計器の開発者はILSに利用される計器を真似たので、MLSの潜在的な適用性は実現されなかった。
【0008】MLSは、国際基準に合わせられ(全ての上記プレシジョン及びノンプレシジョンアプローチは国際基準に合わせている)、航空機の受信器に地上のアンテナに関する航空機の状態ベクトル情報が決められる空間の中で信号を生成する。DMEのトランスポンダはレンジ情報を決定する。さらに、アングル受信器は、厳密な幾何学的手段によって航空機のデカルト空間座標系を精確に決めるために航空機に特定の情報を提供する、いわゆるデータワードを解読する。故に、MLSも、プレシジョンやノンプレシジョンアプローチ用の他のタイプの着陸システムよりもより精確な情報を提供することもできる。
【0009】別の着陸システムは、過去10年内で広く認識されているが、衛星に設置された送信器を利用して緯度及び経度フォーマットにおける極めて正確な状態ベクトル情報を提供するグローバルポジショニングシステム(GPS)である。基準構成において異なるGPSを使用することによって、精確なレンジ評価をDMEの代わりに、またはDMEに加えて行うことができる。DGPSは、着陸位置近傍のみならずフライトの途中における航空機に関する3次元位置情報を提供する。故に、GPS及びMLSは、送信された信号を利用して極めて精確な状態ベクトル情報を提供することができる。
【0010】航空母艦着陸システム(ACLS)において、方位角、高さ及びレンジ情報が提供される。この情報は、一般的に上記国際基準に相当しない異なる技術によって得られる。しばし、レーダが、航空機に送信された結果を用いて船上にて順次処理されるレンジ、高さ及び方位角を決定するために使用される。得られたネット情報は、処理装置がACLS用のもの以外の機上搭載かまたは地上設置(船上搭載)であるかと同じであり、船上搭載センサ及びプロセッサは、より正確に船の動作に関する情報を提供することができる。DGPSは、レーダレンジの代わりにまたはレーダレンジに加えて利用できる。ACLSは、同様に、3次元座標系に従って飛行機に位置情報を提供できる。」
「【0021】上記情報によって、航空機の着陸位置とその粗い外形を自動着陸システムにおいて使用することができ、または以下に説明する方法を使用してHUDやHDDに描画することができる。
本発明のハードウエア
図1に、本発明に関係するハードウエア23の1の実施例の構成図を示す。航空機は全ハードウエア23を搭載する。入力が、グローバルポジショニングシステム(GPS)アビオニクス30、マイクロ波着陸システム(MLS)アビオニクス32、距離測定装置(DME)アビオニクス34及び航空母艦着陸システム(ACLS)アビオニクス36のうちの1つまたは複数から行われる。上記アビオニクス30,32,34,36の各々はプロセッサ38と情報を交信し、かかるプロセッサ38は、入力された全情報をヘッドアップディスプレイ(HDD)やヘッドダウンディスプレイ(HDD)40に表示できる形態のデータに変換したり、当該分野にて周知のシステムを使用して航空機を制御したりする。プロセッサ38は、全てのアビオニクス30,32,34,36からの情報を必要とせず、状態ベクトルの更新に要する情報のみを必要とする。
【0022】本発明の主要構成要素はプロセッサ38であり、かかるプロセッサ38は、様々なアビオニクス30,32,34,36から情報を取り出し、さらにこの情報を以下に説明するようにHUDやHDD40に供給可能な1組の符号に変換する「ブラックボックス」と考えられている。本発明で使用される「信号」は、航空機25に外部から送信され、さらに上記アビオニクス30,32,34,36のうちの利用可能な1によって受信される信号として定義されている。
【0023】図2は図1のプロセッサ38の詳細を示す。プロセッサの主要構成要素は、CPU41、標識発生器43、メモリ42、バス44、入力ポート46及び出力ポート48である。バス44の多くは、1553B(軍用基準)またはARINC基準429バスである。CPUはバス44とインターフェースできる。メモリ42は、用途に応じたRAMとROMとの複合タイプのメモリである。入力ポート46及び出力ポート48は、それぞれフラップやエンジンパワーなど航空機の他の装置(図示せぬ周知の装置)と信号を交信し合う。CPU40は、アビオニクスにて受信された情報の間の相互作用をなし、故に航空機を制御し且つ自動着陸能力を供給しながら航空機とアビオニクス30,32,34,36との間の相互作用をなす。
表示装置
プロセッサ38の重要な特徴は、図3に示すように、アビオニクス30,32,34,36から受信された外部からの信号をHUDやHDD40での立体像に変換することである。図3には、水平姿勢標識56cを含む複数の姿勢標識56a,56b,56c,56d,56eが示されている。さらに、グライドスロープ位置標識58と方位角位置標識60とがあり、これらの標識58,60は、ともにILS、MLS、または他の着陸システムに対する航空機の位置の表示を行うものである。航空機が所望の方向設定に対してどこにあるかに関する情報や水平姿勢を表示する航空機標識62がある。」
「【図1】


「【図2】



b 技術常識3の認定
前記aに摘記した事項(【0009】、【0010】、【0021】)に例示されるように、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識3」という。)である。
[技術常識3]
「航空機の着陸システムにおいて、グローバルポジショニングシステム(GPS)からの位置情報やレーダーが測定した位置情報を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成すること。」

c 技術常識4の認定
前記aに摘記した事項(【0010】)に例示されるように、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識4」という。)である。
[技術常識4]
「航空機の着陸システムにおいて、着陸地点にあるレーダーから航空機に送信した結果測定された航空機の位置情報が当該航空機に提供されること。」

(3) 対比・判断
ア 対比
(ア) 対比分析
以下、本件補正発明の発明特定事項の記載に沿って、本件補正発明と引用発明を対比する。
a(a) 「航空機の着陸システムにおいて、グローバルポジショニングシステム(GPS)からの位置情報を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成すること」は技術常識である(前記技術常識3を参照)。
(b) 引用発明の「接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム」は、「衛星航法システムの誤動作の場合に衛星システムのバックアップとして動作」するところ、上記技術常識に照らしてみると、引用発明の「衛星航法システム」は、誤動作がないときには、GPS信号を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成するように動作しているといえるから、本件補正発明の「全地球測位衛星(GPS)着陸システム215」に相当する。。
(c) したがって、本件補正発明と引用発明は、「GPS信号を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成するように全地球測位衛星(GPS)着陸システムを動作させるステップ」を含む点において一致する。

b(a) 引用発明の「二次監視レーダー(SSR)」は、「接近及び着陸段階における航空機の位置特定のための監視レーダー」として航空機の「擬似距離」、「方位角」及び「仰角」を測定している。
(b) ここで、引用発明の「二次監視レーダー(SSR)」は「着陸帯の近くに配置」されているから、測定される航空機の「擬似距離」、「方位角」及び「仰角」は、本件補正発明の「着陸地点に対する前記航空機105の相対位置」に相当する。
(c) そうすると、航空機の「擬似距離」、「方位角」及び「仰角」を「二次監視レーダー(SSR)」による測定データとして含む、引用発明の「位置特定パラメーター」は、本件補正発明の「着陸地点に対する前記航空機105の相対位置を示すレーダ導出位置データ210」に相当する。
(d) また、「航空機の着陸システムにおいて、着陸地点にあるレーダーから航空機に送信した結果測定された航空機の位置情報が当該航空機に提供されること」は技術常識である(前記技術常識4を参照)。
(e) 上記技術常識に照らしてみると、引用発明では、「処理及び制御センター」が「航空機に接続」されて「可能な修正操縦を航空機に送信」しており、「航空機に送信される」「修正操縦」に係る情報には、「二次監視レーダー(SSR)」により測定された航空機の「擬似距離」、「方位角」及び「仰角」の「位置特定パラメーター」が含まれていることは明らかである。
(f) そうすると、引用発明においても、航空機は着陸帯から位置特定パラメーターを受信しているといえるから、このことは、本件補正発明の「レーダ導出位置データ210を前記着陸地点から受信する」ことに相当する。
(g) 以上のことから、本件補正発明と引用発明は、「着陸地点に対する前記航空機の相対位置を示すレーダ導出位置データを前記着陸地点から受信するステップ」を含む点において一致する。

c(a) 引用発明の「接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム」は、「衛星航法システムの誤動作の場合に衛星システムのバックアップとして動作」するところ、「衛星航法システムの誤動作の場合」は、本件補正発明の「GPS信号が信頼できないとき」に相当する。
(b) 引用発明では、「衛星航法システムの誤動作の場合」に「二次監視レーダー(SSR)」による測定データである「位置特定パラメーター」を用いて「接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム」を動作させているから、航空機が「二次監視レーダー(SSR)」の測定可能範囲に存在していることを前提としており、「バックアップとして動作」するのが、航空機がレーダーのビーム・パターン内にある間であるといえる。
(c) そして、「航空機の着陸システムにおいて、レーダーが測定した位置情報を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成すること」は技術常識であるから(前記技術常識3を参照)、引用発明において、二次監視レーダー(SSR)が測定した「位置特定パラメーター」を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成しているといえる。
(d) そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記航空機がレーダのビーム・パターン内にある間、前記GPS信号が信頼できないとき、前記レーダ導出位置データを入力として用い」て、「前記航空機を飛行させるための制御信号を生成するように」、「着陸システムを動作させるステップ」を含む点で共通する。

d 引用発明の「接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム及び方法」の「方法」は、本件補正発明の「方法」に相当する。

(イ) 一致点及び相違点の認定
前記(ア)の対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
a 一致点
「GPS信号を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成するように全地球測位衛星(GPS)着陸システムを動作させるステップと、
着陸地点に対する前記航空機の相対位置を示すレーダ導出位置データを前記着陸地点から受信するステップと、
前記航空機がレーダのビーム・パターン内にある間、前記GPS信号が信頼できないとき、前記レーダ導出位置データを入力として用いて、前記航空機を飛行させるための制御信号を生成するように、着陸システムを動作させるステップと、
を含む、方法。」

b 相違点
本件補正発明では、「前記着陸地点は船舶110」であり、「前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210」を「GPS着陸システム215」の「入力として用いて」おり、「前記航空機が前記レーダのビーム・パターンを離れ、再度、前記レーダのビーム・パターンに入るまで前記レーダのビーム・パターン外にある間」は「前記航空機および前記着陸地点の慣性データ」を「GPS着陸システム215」の「入力として用いて」おり、これらの入力により「前記GPS着陸システム215を動作させる」のに対して、
引用発明では、着陸地点が船舶ではなく、二次監視レーダーにより得られた位置特定パラメーターをGPS着陸システムの入力として代替的に用いているか不明であり、レーダ範囲外に航空機があるとき、航空機及び着陸地点(船舶)の慣性データをGPS着陸システムの入力として代替的に用いているか不明である点。

イ 判断
(ア) 着陸地点が船舶であること及びその慣性データの利用について
前記(2)イ(ウ)において周知技術として認定したとおり、「航空機を船舶に着陸させる船上着陸システムにおいて、航空機の慣性データ、及び、当該航空機の着陸地点である船舶の慣性データを船上着陸システムの入力として用いて、当該航空機を飛行させるための制御信号を生成すること」は、周知技術であるところ、引用発明において、かかる周知技術を適用することにより、航空機が着陸する地点を船舶とし、船上着陸システムにおいて、航空機の慣性データのみならず船舶の慣性データも入力として用いて、当該航空機を飛行させるための制御信号を生成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ) レーダ範囲外における慣性データの使用について
前記(2)ウ(ア)bにおいて技術常識1として認定したとおり、「着陸システムからの送信信号を検出できる範囲の外に航空機があるときは、当該航空機は慣性航行システム情報を使用して当該送信信号を検出できる範囲に入るように飛行すること」は、技術常識である。
上記技術常識1に照らしてみると、引用発明では、二次監視レーダーから送信される質問を航空機のトランスポンダーが受信することにより位置特定パラメーターを得ているところ、当該質問を受信できる範囲の外に航空機が離脱した場合は、航空機の慣性航行システム情報(慣性データ)を使用して当該質問を受信できる範囲に入るように飛行することは、自明のことである。

(ウ) GPS着陸システムへの代替入力について
前記(2)ウ(ア)cにおいて技術常識2として認定したとおり、「GPS、慣性航行、TACAN、VOR/ILS、MLS等の航行センサーから提供される航空機位置情報が飛行制御システムに並列に入力され、これらの入力信号のうち最適な入力信号を選択して当該飛行制御システムを動作させて航空機の飛行が制御されること」は、技術常識である。
上記技術常識2に照らしてみると、引用発明において、「衛星航法システムの誤動作の場合」には、GPS信号を用いて当該衛星航法システム(GPS着陸システム)を動作させることが適切ではないことは明らかであるから、他の航行センサー(レーダーセンサーや慣性センサー)から提供されるデータを当該GPS着陸システムの最適な入力信号として選択し、当該GPS着陸システムを動作させることは、当業者が適宜なし得た設計変更にすぎない。
そして、他の航行センサーから提供されるデータとして、レーダーセンサーのデータを用いるか、慣性センサーのデータを用いるかは、航空機がレーダーの範囲内にあるか否かに応じて当業者が適宜選択すべき事項である。

(エ) 総合検討
前記(ア)から(ウ)までの検討内容を踏まえると、前記相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件補正発明の奏する効果は、引用発明、周知技術及び技術常識1〜4から当業者が予測できる程度のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術及び技術常識1〜4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 請求人の主張について
(ア) 審判請求書の主張について
a 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において次の主張をしている。
本願の補正後の請求項に係る発明は、着陸地点は船舶であり、航空機がレーダのビーム・パターンを離れ、再度、レーダのビーム・パターンに入るまでレーダのビーム・パターン外にある間、航空機および着陸地点の慣性データを入力として用いて、航空機を飛行させるための制御信号を生成する。引用文献5では、相対情報を用いて発着甲板の機体の誘導及び着船を行うが、本願請求項に係る発明では、航空機がレーダのビーム・パターンを離れ、再度、レーダのビーム・パターンに入るまでレーダのビーム・パターン外にある間、慣性データが用いられる。このような構成は引用文献に記載も示唆もされていないので、本願請求項に係る発明は進歩性を有する。

b 請求人の主張についての検討
前記イ(イ)において説示したとおり、「着陸システムからの送信信号を検出できる範囲の外に航空機があるときは、当該航空機は慣性航行システム情報を使用して当該送信信号を検出できる範囲に入るように飛行すること」が技術常識(技術常識1)であるところ、引用発明において、当該質問を受信できる範囲の外に航空機がある場合は、航空機の慣性航行システム情報(慣性データ)を使用して当該質問を受信できる範囲に入るように飛行することは、技術常識1からみて自明のことであるから、請求人の上記主張を採用することができない。

(イ) 上申書の主張について
a 請求人の主張内容
請求人は、令和4年6月14日に提出された上申書において次の主張をしている。
本願明細書の段落0052に、「GPS着陸システムは、当該データが更新されたとき航空機慣性データ235および船舶慣性データ230を処理し、船舶に対するその現在の位置を外挿し続ける。・・・最終的に、航空機慣性データ235および230を用いてGPS着陸システムにより計算された位置は航空機および船舶の実際の位置から逸れるが、当該計算された位置は一般に数分間(例えば、10分または20分まで)は信頼でき、これは航空機が旋回して進入を再度試みるのに十分な時間より多い。」と記載されているように、慣性データは「航空機が旋回して進入を再度試みる」まで使用されるだけなので、他の位置測定システムは必要ない。
本願請求項に係る発明では、航空機がレーダのビーム・パターンを離れ、再度、レーダのビーム・パターンに入るまでレーダのビーム・パターン外にある間、慣性データが用いられる。引用文献5に記載の構成に加えて引用文献4に記載の構成を採用したとしても、この構成は容易に想到できたものではない。

b 請求人の主張についての検討
「着陸システムからの送信信号を検出できる範囲の外に航空機があるときは、当該航空機は慣性航行システム情報を使用して当該送信信号を検出できる範囲に入るように飛行すること」は技術常識(技術常識1)であるところ、「航空機が旋回して進入を再度試みる」までに慣性データを使用して飛行制御することは、技術常識1からみて自明のことであり、その間、他の位置測定システムを必要としないことは、請求項1に特定された事項ではない。
したがって、請求人の上記主張も採用することができない。

(ウ) 補正案について
a 補正案の内容
令和4年6月14日に提出された上申書において、請求人は補正案を添付している。請求項1の補正案は、次に示すとおりである。
[請求項1の補正案]
「 【請求項1】
GPS信号を入力として用いて航空機を飛行させるための制御信号を生成するように全地球測位衛星(GPS)着陸システム215を動作させるステップと、
着陸地点に対する前記航空機105の相対位置を示すレーダ導出位置データ210を前記着陸地点から受信するステップであって、前記着陸地点は船舶110である、ステップと、
前記航空機において慣性測定ユニットを使用して航空機慣性データを取得するステップと、
前記航空機がレーダのビーム・パターン内にある間、前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210を前記入力として用い、前記航空機が前記レーダのビーム・パターンを離れ、再度、前記レーダのビーム・パターンに入るまで前記レーダのビーム・パターン外にある間、前記航空機および前記着陸地点の慣性データを前記入力として用いて、前記航空機105を飛行させるための制御信号を生成するように、前記GPS着陸システム215を動作させるためにバックアップ動作状態に切り替えるステップと、
を含む、方法。」

b 補正案の検討
前記上申書に添付された補正案についても検討したが、次の(a)及び(b)に示すとおり、この補正案によっても、引用発明、周知技術及び技術常識1〜4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたという判断に変わりはない。
(a) 「着陸システムからの送信信号を検出できる範囲の外に航空機があるときは、当該航空機は慣性航行システム情報を使用して当該送信信号を検出できる範囲に入るように飛行すること」が技術常識(技術常識1)であるところ、請求項1において、「前記航空機において慣性測定ユニットを使用して航空機慣性データを取得するステップと、」という構成を追加する点については、技術常識1を採用する際には当然のことであるから、このような特定を含むことによっては発明の想到困難性を認めることはできない。

(b) 請求項1において、「前記GPS着陸システム215を動作させるステップ」を「前記GPS着陸システム215を動作させるためにバックアップ動作状態に切り替えるステップ」に補正する点については、引用発明の「接近及び着陸の段階における航空機のための誘導システム」は、「衛星航法システムの誤動作の場合に衛星システムのバックアップとして動作」するから、バックアップ動作状態に切り替えるのは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。また、代替入力を用いてGPS着陸システムを動作させることは、前記イ(ウ)において説示したとおり、「GPS、慣性航行、TACAN、VOR/ILS、MLS等の航行センサーから提供される航空機位置情報が飛行制御システムに並列に入力され、これらの入力信号のうち最適な入力信号を選択して当該飛行制御システムを動作させて航空機の飛行が制御されること」が技術常識(技術常識2)であることからみて、当業者が適宜なし得た設計変更にすぎない。

エ 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、上記第2のとおり却下したので、本願の請求項1〜15に係る発明は、令和3年3月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に摘記した事項により特定されるとおりである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次の理由を含むものである。

理由2(進歩性
本願発明は、下記の引用文献1及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:欧州特許出願公開第1022580号明細書(再掲)
引用文献4:中国特許出願公開第102608596号明細書
(周知慣用技術を例示する文献)

3 引用文献に記載された事項
上記引用文献1には、第2の3(2)ア(イ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、技術常識1〜4は、前記第2の3(2)ウにおいて認定したとおりである。

4 対比・判断
(1) 本願発明は、本件補正発明から、次のアからエまでの限定を省いたものである。
ア 「着陸地点に対する前記航空機105の相対位置を示すレーダ導出位置データ210を前記着陸地点から受信するステップ」における「前記着陸地点」が「船舶110」であることの限定
イ 「前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210を前記入力として用い[る]」期間が、「前記航空機がレーダのビーム・パターン内にある間」であることの限定
ウ 「慣性データを前記入力として用い[る]」期間が、「前記航空機が前記レーダのビーム・パターンを離れ、再度、前記レーダのビーム・パターンに入るまで前記レーダのビーム・パターン外にある間」であることの限定
エ 「慣性データ」が「前記航空機および前記着陸地点」のものであることの限定

(2) そうすると、本願発明と引用発明の相違点は、前記第2の3(3)ア(イ)bの相違点から上記(1)の限定事項を省いた次のとおりである。
本願発明では、「レーダのビーム・パターン内で前記GPS信号が信頼できないとき、前記GPS信号の代わりに、前記レーダ導出位置データ210」を「GPS着陸システム215」の「入力として用いて」おり、「前記航空機が前記レーダのビーム・パターン外にある間、慣性データ」を「GPS着陸システム215」の「入力として用いて」おり、これらの入力により「前記GPS着陸システム215を動作させる」のに対して、
引用発明では、二次監視レーダーにより得られた位置特定パラメーターをGPS着陸システムの入力として代替的に用いているか不明であり、レーダ範囲外に航空機があるとき、慣性データをGPS着陸システムの入力として代替的に用いているか不明である点。

(3) 上記相違点は、前記第2の3(3)イ(イ)及び(ウ)において検討したとおり、引用発明、技術常識1〜4に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、本願発明の奏する効果は、引用発明及び技術常識1〜4から当業者が予測できる程度のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできないから、本願発明は、引用発明及び技術常識1〜4に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 岡田 吉美
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-08-04 
結審通知日 2022-08-08 
審決日 2022-08-22 
出願番号 P2016-205795
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱野 隆
佐藤 久則
発明の名称 GPS着陸システムにおけるレーダ導出位置データの利用  
代理人 崔 允辰  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 黒田 晋平  

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