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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1393825
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-03 
確定日 2023-01-04 
事件の表示 特願2018−1288号「加飾シート、加飾シート付き表示装置、パネル付き表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和元年7月22日出願公開、特開2019−120833号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年1月9日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年 7月20日付け:拒絶理由通知書
同年10月28日 :意見書の提出
同年11月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年12月 3日 :原査定の謄本の送達)
令和4年 3月 3日 :審判請求書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1〜9に係る発明は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。
「【請求項1】
少なくとも表示装置の表示面を覆う第1領域と、前記第1領域に隣接する第2領域と、を含む加飾シートであって、
絵柄部と、少なくとも前記第1領域に設けられた前記絵柄部の非形成部である透過部と、を備え、
前記第1領域における前記透過部の割合は、前記第2領域における前記透過部の割合より高く、
前記第1領域におけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*1、a*の値であるa*1、b*の値であるb*1と、前記第2領域におけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*2、a*の値であるa*2、b*の値であるb*2が、次の関係を満たす、加飾シート。
((L*1−L*2)2+(a*1−a*2)2+(b*1−b*2)2)1/2≦3」

なお、検討の便宜上、本願発明の構成を、次のとおり符号A〜Dを付して分説する。
<構成A>
「少なくとも表示装置の表示面を覆う第1領域と、前記第1領域に隣接する第2領域と、を含む加飾シート」であること
<構成B>
「絵柄部と、少なくとも前記第1領域に設けられた前記絵柄部の非形成部である透過部と、を備え」ること
<構成C>
「前記第1領域における前記透過部の割合は、前記第2領域における前記透過部の割合より高[い]」こと
<構成D>
「前記第1領域におけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*1、a*の値であるa*1、b*の値であるb*1と、前記第2領域におけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*2、a*の値であるa*2、b*の値であるb*2が、次の関係を満たす」こと
「((L*1−L*2)2+(a*1−a*2)2+(b*1−b*2)2)1/2≦3」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由の概要は、次のとおりである。

理由1(進歩性の欠如)
本願発明は、本願の出願前に発行された下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2001−331132号公報
引用文献2:特開2017−206129号公報

第4 引用文献等
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用した引用文献1(特開2001−331132号公報)には、以下の記載がある。下線は当審において付与した。以下同様である。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、使用時にはディスプレイにより必要な視覚情報を提供し、不使用時にはディスプレイが存在しないように見せかけるようにした表示装置に関する。
【従来の技術】現在、ドライバーへの情報提供を目的として、図4(a)、(b)に示すように、大型のディスプレイ1をインストルメントパネル2の中央部やその上部に配置することが広く行われている。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】しかし、カーナビゲーション情報等を利用しているときには便利であるが、利用していないときには、このようなディスプレイの存在が、特に大型であるが故に却って目障りになり、インストルメントパネル周りの美観を損なうという問題があった。
【0003】本発明は、上記事情を考慮し、使用時にはディスプレイにより必要な視覚情報を提供し、不使用時にはディスプレイが存在しないように見せかけることのできる表示装置を提供することを目的とする。
…(中略)…
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明を、車両の内装パネルに嵌め込まれ、点灯時に外部に表示光を放つディスプレイを有した表示装置に適用したものである。
【0012】図1は実施形態の表示装置を搭載した車両内部を前席から見た正面図で、(a)はディスプレイの非点灯時の状態、(b)はディスプレイの点灯時の状態をそれぞれ示している。
【0013】インストルメントパネル2の中央部及び助手席前方部には、木目調の装飾を施した木目調パネル2aが設けられており、中央部の木目調パネル2aに、第1の表示装置のディスプレイ11と第2の表示装置のディスプレイ12とが嵌め込まれ、助手席前方の木目調パネル2aに、第3の表示装置のディスプレイ13が嵌め込まれている。
【0014】これらのディスプレイ11、12、13はバック光源を内蔵しており、点灯制御されて外部に表示光を放つことで、画像情報を搭乗者に提供する。各ディスプレイ11、12、13の前面は、周囲の木目調パネル2aと同一の木目調の色・模様に印刷されたスクリーン20で覆われている。
【0015】スクリーン20は、図2に拡大して示すように、表示光Hを透過し得る多数の微細孔21を有するもので、ディスプレイ11、12、13の拡散板22上に配したスモーク板23の表面に、印刷によって形成されている。即ち、スクリーン20は、スモーク板23上に、まず黒印刷を施し、次に白印刷を施し、一番上層に木目調の印刷を施すことで、黒色層20A、白色層20B、木目調層20Cの三層構造に形成されている。
【0016】次に作用を説明する。
【0017】ディスプレイ11、12、13の使用時には、スクリーン20の背後のディスプレイ11、12、13のバック光源が点灯することにより、前方へ向かう入射光H1が拡散板22で結像し、拡散光となった表示光Hが、スモーク板23を介してスクリーン20の微細孔21より前方へ透過する(図2参照)。従って、図1(b)に示すように、スクリーン21の多数の微細孔21を通して、ディスプレイ11、12、13の画像が前方から見えるようになる。この場合、スモーク板23によりコントラストが強調された上で、スクリーン20上に画像が映し出される。
【0018】このとき、スクリーン20の色や模様は、微細孔21から透過する表示光Hの明るさに負けて見えなくなるので、スクリーン20の存在は何ら視覚的な障害とならず、スクリーン20の存在を全く気にすることなく、ディスプレイ11、12、13上の画像を見ることができる。
【0019】特に、スクリーン20の表面印刷面の下層部には黒色層20Aを設けているので、ディスプレイ11、12、13の点灯時に、その黒色層20Aがマスクとなって、ディスプレイ11、12、13の表示光Hの透過を遮断する働きをなす。従って、ディスプレイ11、12、13の使用時に、より確実に木目調の部分を見えなくすることができ、スクリーン20の存在を気づかせることがない。
【0020】また、不使用時には、ディスプレイ11、12、13のバック光源が非点灯となることにより、スクリーン20の背後が暗くなるため、図1(a)に示すように、ディスプレイ11、12、13がスクリーン20の前方から見えなくなる。そして、背後からの透過光がなくなるために、スクリーン20の表面の木目調の色や模様がはっきりと見えるようになり、ディスプレイ11、12、13の周囲の木目調パネル2aと色・模様が統一されて見えるようになる。
【0021】特に、ディスプレイ11、12、13の非点灯時には、木目調層20Cの下の白色層20Bが、外光が当たった際の白レベルを上げる働きをするので、木目調の茶色を引き立たせることができ、木目調の模様を鮮明に浮き上がらせることができる。また、色・模様が木目調であることで、単一色である場合と比較して、スクリーン20と木目調パネル2aとの境界を視覚的にぼかして見せる効果もある。さらに、スクリーン20が白色系の色・模様であると、ディスプレイ11、12、13が非点灯となって背後が暗くなった場合に、そこだけが暗い色合いになって違和感を与える可能性があるが、木目調であることにより、背後が暗くなった場合でも、色合いの沈み込みを抑えることができ、周囲の木目調パネル2aとの色合いのずれを少なくすることができ、違和感を減らせる効果もある。
【0022】即ち、ディスプレイ11、12、13が周囲と同一の木目調のスクリーン20によって隠されるので、インストルメントパネル2の周りの美観を損なうおそれがなくなる。」
「【図1】


「【図2】



(2) 引用発明の認定
前記(1)において摘記した事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「各ディスプレイ11、12、13の前面を覆うスクリーン20であって、(【0014】)
インストルメントパネル2の中央部及び助手席前方部には、木目調の装飾を施した木目調パネル2aが設けられており、中央部の木目調パネル2aに、第1の表示装置のディスプレイ11と第2の表示装置のディスプレイ12とが嵌め込まれ、助手席前方の木目調パネル2aに、第3の表示装置のディスプレイ13が嵌め込まれており、(【0013】)
これらのディスプレイ11、12、13はバック光源を内蔵しており、点灯制御されて外部に表示光を放つことで、画像情報を搭乗者に提供するものであり、各ディスプレイ11、12、13の前面は、周囲の木目調パネル2aと同一の木目調の色・模様に印刷されたスクリーン20で覆われており、(【0014】)
スクリーン20は、表示光Hを透過し得る多数の微細孔21を有するもので、ディスプレイ11、12、13の拡散板22上に配したスモーク板23の表面に、印刷によって形成されており、スクリーン20は、スモーク板23上に、まず黒印刷を施し、次に白印刷を施し、一番上層に木目調の印刷を施すことで、黒色層20A、白色層20B、木目調層20Cの三層構造に形成されており、(【0015】)
ディスプレイ11、12、13の使用時には、スクリーン20の背後のディスプレイ11、12、13のバック光源が点灯することにより、前方へ向かう入射光H1が拡散板22で結像し、拡散光となった表示光Hが、スモーク板23を介してスクリーン20の微細孔21より前方へ透過し、スクリーン20の多数の微細孔21を通して、ディスプレイ11、12、13の画像が前方から見えるようになり、(【0017】)
不使用時には、ディスプレイ11、12、13のバック光源が非点灯となることにより、スクリーン20の背後が暗くなるため、ディスプレイ11、12、13がスクリーン20の前方から見えなくなり、背後からの透過光がなくなるために、スクリーン20の表面の木目調の色や模様がはっきりと見えるようになり、ディスプレイ11、12、13の周囲の木目調パネル2aと色・模様が統一されて見えるようになる、(【0020】)
スクリーン20。」

2 引用文献2
(1) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用した引用文献2(特開2017−206129号公報)には、以下の記載がある。
「【0032】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係る車両用表示装置10について説明する。図1に示されるように、第1実施形態に係る車両用表示装置10は、車両12の車室14内におけるインストルメントパネル16等に内装(装飾)として設けられた加飾パネル20を備えている。
【0033】
図2に示されるように、加飾パネル20は、車室14内に露出される表面(一方の面)が意匠面Dとされた樹脂製の基材22を有している。基材22に用いられる樹脂材としては、例えばポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0034】
図2、図3に示されるように、基材22の所定の位置には、例えば車幅方向が長手方向とされた長方形状の開口24が形成されている。詳細に説明すると、基材22には、例えば車幅方向が長手方向とされた長方形状の凹部26が、後述する透明樹脂板30と拡散板34とを重ね合わせた板厚とほぼ同一となる深さで形成されており、その凹部26の底面28には、その凹部26よりも一回り小さくなる長方形状の開口24が形成されている。そして、その開口24が透明部材としての透明樹脂板30によって閉塞されている。
【0035】
透明樹脂板30は、例えばポリカーボネートやアクリル等の透明な樹脂材により、基材22の意匠面D側から見て、凹部26とほぼ同一形状となる平板状に形成されている。そして、図3、図4に示されるように、透明樹脂板30の一方の面には、透明樹脂板30と同一形状で、かつ透明樹脂板30よりも板厚の薄い平板状に形成された拡散部材としての透明な拡散板34が重ね合わされて接合されている。
【0036】
すなわち、透明樹脂板30の一方の面における周縁部30Aに、拡散板34の一方の面における周縁部34Aが重ね合わされて接着剤や両面テープ等によって接合され、透明樹脂板30と拡散板34とが一体化されている。そして、図5(A)に示されるように、基材22の意匠面D側から、拡散板34が接合された透明樹脂板30が、凹部26内に嵌め込まれ、その透明樹脂板30の他方の面における周縁部30Bが、凹部26の底面28における周縁部28Aに接着剤等によって接合されている。
【0037】
これにより、拡散板34が透明樹脂板30を介して基材22に固定されるとともに、拡散板34(詳細には拡散板34が接合された透明樹脂板30)によって開口24が閉塞され、拡散板34の他方の面34Bが基材22の意匠面Dと略面一とされて、その意匠面Dの一部を構成するようになっている。なお、拡散板34が接合された透明樹脂板30によって開口24が閉塞されることにより、開口24が形成されている基材22の剛性が確保される構成になっている。
【0038】
また、図2、図3、図5(B)に示されるように、基材22の意匠面Dには、その意匠面D側から見て、拡散板34(後述する光透過型スクリーン部50)よりも面積の大きい長方形状のシート部材40が設けられている。シート部材40は、表面に適宜意匠を構成する模様43等が印刷された光透過性フィルムとしての加飾フィルム42と、加飾フィルム42の裏面に蒸着等によって成膜(付着)された遮光膜44と、で構成されている。
【0039】
そして、シート部材40には、レーザー加工により、加飾フィルム42及び遮光膜44を貫通する多数の微細孔46及び後述するダミー微細孔48が形成されている。なお、微細孔46及び後述するダミー微細孔48は、共に肉眼では見え難い同径の円形状に形成されており、その直径は、例えば30μmとされている。この微細孔46が、光を透過させる光透過部となっており、微細孔46と微細孔46との間における遮光膜44が、光を透過させない遮光部となっている。
【0040】
つまり、このシート部材40は、光が透過可能となる光透過部としての多数の微細孔46と、光を透過不能とする遮光部としての遮光膜44と、が混在する光透過型スクリーン部50(図2参照)を有している。そして、その光透過型スクリーン部50が拡散板34を覆うように、シート部材40の遮光膜44側が基材22の意匠面Dの一部に接着剤や両面テープ等によって貼付されている。
【0041】
なお、図2に示されるように、光透過型スクリーン部50が形成される領域が、拡散板34よりも広く、かつシート部材40の外形よりも狭い範囲に設定されている。したがって、拡散板34からはみ出している光透過型スクリーン部50の周縁部50Aにおける微細孔46Aには、透明樹脂板30を透過し、拡散板34によって拡散された光(画像)が照射されない構成になっている。
【0042】
すなわち、拡散板34からはみ出している光透過型スクリーン部50の周縁部50Aにおける微細孔46Aは、結果的に光(画像)が照射されないダミー微細孔となっている。また、図2に示されるように、シート部材40の光透過型スクリーン部50の周囲(面内方向外側)には、レーザー加工により、加飾フィルム42及び遮光膜44を貫通する複数のダミー微細孔48を有する徐変部52が設けられている。
【0043】
詳細に説明すると、この徐変部52におけるダミー微細孔48のピッチは、光透過型スクリーン部50における微細孔46のピッチよりも大きいピッチとされている。具体的には、拡散板34を覆うとともに拡散板34からはみ出している光透過型スクリーン部50における微細孔46(微細孔46Aを含む)は、例えば200μm程度の第1ピッチで形成されている。
【0044】
一方、徐変部52におけるダミー微細孔48は、第1ピッチよりも大きいピッチとなる(例えば600μm程度の)第2ピッチで形成されている。これにより、加飾パネル20の意匠面Dにおいて、微細孔46(微細孔46Aを含む)が形成される部位と、微細孔46(微細孔46Aを含む)が形成されない部位との境界が不明確になるようになっている。
【0045】
なお、図示は省略するが、ダミー微細孔48を形成する際の第2ピッチは、拡散板34から離れるに従って徐々に大きくなるピッチとされることが望ましい。また、説明の便宜上、図2、図3、図5(B)及び後述する図7、図8では、微細孔46(微細孔46Aを含む)及びダミー微細孔48を誇張して描いている。更に、図1でも、シート部材40が貼付されるエリアを誇張して描いている。
【0046】
また、図2に示されるように、徐変部52の大きさは、例えば光透過型スクリーン部50の長手方向の長さで、光透過型スクリーン部50の長さL1の約1/4〜1/3程度とされている。具体的には、光透過型スクリーン部50の長手方向の長さL1が例えば300mmに対して、徐変部52の同方向の長さL2は、光透過型スクリーン部50の両サイドで、それぞれ例えば50mmずつ、計100mmとされている。
【0047】
また、図3、図4(B)に示されるように、基材22の裏面(他方の面)側における車両12の車体構成部品(図示省略)には、開口24を閉塞する拡散板34が接合された透明樹脂板30に対して、その開口24側から光(画像)を照射する照射装置(プロジェクタ)18が配設されている。なお、照射装置18のON・OFFは、インストルメントパネル16等に設けられたスイッチ(図示省略)を乗員が操作することによって行われる。
【0048】
また、照射装置18から照射された光(画像)は、開口24を通って透明樹脂板30及び拡散板34の接合領域である周縁部30A、34Aを除く内側領域を透過して拡散されるようになっており、その透明樹脂板30及び拡散板34の周縁部30A、34Aを除く内側領域が、光が透過する(画像が投影される)表示エリアP(図4(A)参照)となっている。よって、表示エリアPは、拡散板34よりも一回り小さいエリアとなっている。
【0049】
以上のような構成とされた第1実施形態に係る車両用表示装置10において、次にその作用について説明する。
【0050】
照射装置18から光が照射されない(画像が投影されない)ときには、多数の微細孔46(微細孔46Aを含む)及び複数のダミー微細孔48が形成され、かつ拡散板34を覆うように設けられているシート部材40における加飾フィルム42が、加飾パネル20の意匠面Dと共に、その意匠面Dの一部を構成する。
【0051】
一方、照射装置18から光が照射された(画像が投影された)ときには、拡散板34の表示エリアPを透過し、シート部材40の多数の微細孔46を透過した光により、加飾パネル20の意匠面Dの一部、即ちシート部材40の光透過型スクリーン部50に画像や電飾等が表示される。
【0052】
このように、本実施形態に係る車両用表示装置10によれば、加飾パネル20において、基材22の裏面側から光を照射しない(画像を投影しない)ときには、シート部材40の加飾フィルム42が意匠面Dの一部を構成し、基材22の裏面側から光を照射した(画像を投影した)ときには、意匠面Dの一部を構成するシート部材40の光透過型スクリーン部50がスクリーンとなって画像や電飾等を表示することができる。
【0053】
つまり、本実施形態に係る車両用表示装置10によれば、車室14内のディスプレイが大型化及び複雑化している中で、ディスプレイ(光透過型スクリーン部50)が車室14内にあることを感じ難くすることができる。なお、光透過型スクリーン部50に表示する画像としては、例えば図2に示されるマークや図示しないインジケータなどが挙げられる。また、シート部材40は、加飾パネル20の基材22の意匠面Dに貼付される構成であるため、その剛性は確保される。
【0054】
また、シート部材40において、光透過型スクリーン部50が形成される領域が、拡散板34よりも広く、かつシート部材40の外形よりも狭い範囲に設定されている。つまり、多数の微細孔46(微細孔46Aを含む)が形成される領域が、拡散板34よりも広く、かつシート部材40の外形よりも狭い範囲に設定されている。したがって、多数の微細孔46がシート部材40の全面に形成される構成に比べて、シート部材40を低コストで製造することができる。
【0055】
また、光透過型スクリーン部50の形成領域が、拡散板34よりも広くされていると、基材22の意匠面Dにシート部材40を貼付する際に、その貼付位置が若干ずれたとしても、拡散板34が光透過型スクリーン部50に確実に覆われる。したがって、シート部材40が貼付される加飾パネル20であっても、その位置精度が緩和されるため、容易に製造することができる。
【0056】
また、光透過型スクリーン部50の周囲(面内方向外側)におけるシート部材40に、微細孔46が形成される第1ピッチよりも大きい第2ピッチで形成されたダミー微細孔48を有する徐変部52が設けられているため、基材22の意匠面D側から見た場合に、微細孔46が形成されている部位と微細孔46が形成されていない部位との境界を不明確にすることができる。よって、加飾パネル20の意匠面Dの見栄えが損なわれるのを抑制することができる。
【0057】
そして、ダミー微細孔48を形成する際の第2ピッチが、拡散板34から離れるに従って大きくされていると、基材22の意匠面D側から見た場合に、微細孔46が形成されている部位と微細孔46が形成されていない部位との境界をより一層不明確にすることができる。よって、加飾パネル20の意匠面Dの見栄えが損なわれるのをより一層抑制することができる。
【0058】
また、ダミー微細孔48を形成する第2ピッチが、微細孔46を形成する第1ピッチよりも大きくされていると、ダミー微細孔48を形成するためのレーザー加工自体が省力化される。よって、シート部材40を製造する(ダミー微細孔48を形成する)ためのコストを低減させることができる。また、拡散板34は、基材22の意匠面Dと略面一とされている。つまり、表示エリアPを含む加飾パネル20の意匠面Dが、段差のない略平滑面とされている。したがって、加飾パネル20の意匠面Dの見栄えを向上させることができる。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】


「【図4】



(2) 引用文献2技術事項の認定
前記(1)において摘記した事項から、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2技術事項」という。)
[引用文献2技術事項]
「車両12の車室14内におけるインストルメントパネル16等に内装(装飾)として設けられた加飾パネル20を備えた車両用表示装置10において、(【0032】)
加飾パネル20は、車室14内に露出される表面が意匠面Dとされた樹脂製の基材22を有しており、(【0033】)
基材22の所定の位置には、開口24が形成されており、(【0034】)
拡散板34が透明樹脂板30を介して基材22に固定されるとともに、拡散板34によって開口24が閉塞され、(【0037】)
基材22の意匠面Dには、その意匠面D側から見て、拡散板34よりも面積の大きい長方形状のシート部材40が設けられており、シート部材40は、表面に適宜意匠を構成する模様43等が印刷された光透過性フィルムとしての加飾フィルム42と、加飾フィルム42の裏面に蒸着等によって成膜(付着)された遮光膜44と、で構成されており、(【0038】)
シート部材40には、レーザー加工により、加飾フィルム42及び遮光膜44を貫通する多数の微細孔46及び後述するダミー微細孔48が形成されており、この微細孔46が、光を透過させる光透過部となっており、微細孔46と微細孔46との間における遮光膜44が、光を透過させない遮光部となっており、(【0039】)
このシート部材40は、光が透過可能となる光透過部としての多数の微細孔46と、光を透過不能とする遮光部としての遮光膜44と、が混在する光透過型スクリーン部50を有しており、(【0040】)
光透過型スクリーン部50が形成される領域は、拡散板34よりも広く、かつシート部材40の外形よりも狭い範囲に設定されており、(【0041】)
シート部材40の光透過型スクリーン部50の周囲(面内方向外側)には、レーザー加工により、加飾フィルム42及び遮光膜44を貫通する複数のダミー微細孔48を有する徐変部52が設けられており、(【0042】)
この徐変部52におけるダミー微細孔48のピッチは、光透過型スクリーン部50における微細孔46のピッチよりも大きいピッチとされており、(【0043】)
これにより、加飾パネル20の意匠面Dにおいて、微細孔46が形成される部位と、微細孔46が形成されない部位との境界が不明確になるようになっており、(【0044】)
ダミー微細孔48を形成する際の第2ピッチは、拡散板34から離れるに従って徐々に大きくなるピッチとされることが望ましく、(【0045】)
照射装置18から光が照射されない(画像が投影されない)ときには、多数の微細孔46及び複数のダミー微細孔48が形成され、かつ拡散板34を覆うように設けられているシート部材40における加飾フィルム42が、加飾パネル20の意匠面Dと共に、その意匠面Dの一部を構成するものであり、(【0050】)
照射装置18から光が照射された(画像が投影された)ときには、拡散板34の表示エリアPを透過し、シート部材40の多数の微細孔46を透過した光により、加飾パネル20の意匠面Dの一部、即ちシート部材40の光透過型スクリーン部50に画像や電飾等が表示されること(【0051】)。」

(3) 周知技術の認定
前記(1)において摘記した事項(特に段落【0033】〜【0034】、【0037】〜【0042】、【0052】)に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって周知であったと認められる(以下「周知技術」という。)
[周知技術]
「加飾パネルの意匠面と共に、その意匠面の一部を構成するシート部材であって、加飾パネルの開口に設けられた表示装置の表示面を覆う領域に加えて、それに隣接する加飾パネルを覆う領域を有するシート部材。」

第5 当審の判断
1 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア(ア) 引用発明の「スクリーン20」は、「各ディスプレイ11、12、13の前面を覆う」ものであり、少なくともディスプレイの表示面を覆うものであるといえるから、引用発明の「スクリーン20」が「各ディスプレイ11、12、13の前面を覆う」領域は、本願発明の「少なくとも表示装置の表示面を覆う第1領域」に相当する。
(イ) 「加飾シート」について、本願の明細書の段落【0003】には、「表示装置に意匠性を付与するために、表示装置の表示面に対面して加飾シートを設けることが考えられた。加飾シートは、表示装置の周辺環境と調和することができる意匠性を付与することができる。」と記載されているから、本願発明の「加飾シート」とは、「意匠性を付与するシート」と解するのが相当である。
(ウ) 引用発明は、「ディスプレイ11、12、13の」「不使用時には」、「スクリーン20の表面の木目調の色や模様がはっきりと見えるようになり、ディスプレイ11、12、13の周囲の木目調パネル2aと色・模様が統一されて見えるようになる」から、引用発明の「スクリーン20」は、周囲の木目調パネルと色・模様が統一されて見えるような木目調の色や模様を付与されたものである。
(エ) そうすると、本願発明の「加飾シート」と引用発明の「スクリーン20」は、加飾部材である点で共通する。
(オ) 前記(ア)〜(エ)の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、「少なくとも表示装置の表示面を覆う第1領域を含む加飾部材」という点で共通する。

イ(ア) 引用発明の「スクリーン20」は、「スモーク板23上に、まず黒印刷を施し、次に白印刷を施し、一番上層に木目調の印刷を施すことで、黒色層20A、白色層20B、木目調層20Cの三層構造に形成され[た]」ものであるところ、「スクリーン20」における「木目調層20C」は、本願発明の「絵柄部」に相当する。
(イ) 引用発明の「スクリーン20」は、「表示光Hを透過し得る多数の微細孔21を有するもの」であり、「微細孔21」には木目調層20Cは形成されておらず、「微細孔21」はディスプレイの表示面を覆う領域に設けられているといえる。
そうすると、引用発明の「スクリーン20」における「微細孔21」の部分は、本願発明の「少なくとも前記第1領域に設けられた前記絵柄部の非形成部である透過部」に相当する。
(ウ) (ア)〜(イ)の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、「絵柄部と、少なくとも前記第1領域に設けられた前記絵柄部の非形成部である透過部と、を備え」る点で一致する。

(2) 一致点及び相違点の認定
前記(1)の対比分析を踏まえると、本願発明と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
ア 一致点
「 少なくとも表示装置の表示面を覆う第1領域を含む加飾部材であって、
絵柄部と、少なくとも前記第1領域に設けられた前記絵柄部の非形成部である透過部と、を備える、
加飾部材」である点。

イ 相違点
「加飾部材」が、
本願発明では、「加飾シート」であり、「前記第1領域に隣接する第2領域」を含み(構成A)、
「前記第1領域における前記透過部の割合は、前記第2領域における前記透過部の割合より高く」(構成C)、
「前記第1領域におけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*1、a*の値であるa*1、b*の値であるb*1と、前記第2領域におけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*2、a*の値であるa*2、b*の値であるb*2が、次の関係を満たす、」
「((L*1−L*2)2+(a*1−a*2)2+(b*1−b*2)2)1/2≦3」
(構成D)のに対して、
引用発明は、スクリーン20であり、第1領域に隣接し、透過部の割合が第1領域より低く、「((L*1−L*2)2+(a*1−a*2)2+(b*1−b*2)2)1/2≦3」を満たす第2領域を含まない点。

2 相違点についての判断
(1) 相違点の検討(その1)
ア 構成Aについて
「加飾パネルの意匠面と共に、その意匠面の一部を構成するシート部材であって、加飾パネルの開口に設けられた表示装置の表示面を覆う領域に加えて、それに隣接する加飾パネルを覆う領域を有するシート部材」は周知であるから(前記周知技術を参照)、引用発明において、「スクリーン20」(加飾部材)をシート部材とし、少なくとも各ディスプレイの前面を覆う領域に加えて、それに隣接する木目調パネル2aを覆う領域まで含むように構成することにより、前記相違点に係る本願発明の構成Aを備えるようにすることは、当業者にとって自明な設計変更にすぎない。

イ 構成Cについて
引用発明において上記アの設計変更を行った際、隣接する領域は表示面を覆うものではなく、表示光Hを透過し得る多数の微細孔21を全面にわたって形成しないことにより低コストで製造することができるから(引用文献2の段落【0054】の記載を参照)、少なくともディスプレイの前面を覆う領域(「第1領域」に相当)の微細孔21の割合と、それに隣接する領域(「第2領域」に相当)の微細孔21の割合は、後者の方を低くする(前者の方を高くする)のが当然である。
そうすると、前記相違点に係る本願発明の構成Cは、製造コストの観点から、前記アにおける自明な設計変更を行う際の当然の設計上の事項を特定したにすぎないから、格別のものではない。

ウ 構成Dについて
(ア) 本願発明の構成Dについての技術上の意義の観点からの検討
a 本願発明の課題
(a) 明細書の記載
本願発明の課題について、明細書には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、加飾シートに透過部が設けられると、透過部が設けられた部分において意匠を表示できないため、加飾シートの意匠が薄く観察されてしまう。加飾シートの表示面に対面する領域にのみ透過部が設けられると、表示面に対面する領域においてのみ、加飾シートの意匠が薄く観察されてしまう。すなわち、加飾シートの表示面に対面する領域と、加飾シートの表示面に対面する領域以外の領域との間で、意匠性に違いが生じてしまう。この意匠性の違いから、加飾シートの意匠性が劣化してしまい、さらには周辺環境との意匠性の調和が乱されることになり得る。
【0006】
加飾シートの表示面に対面する領域と表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを無くすため、加飾シートの表示面に対面する領域にだけでなく、表示面に対面する領域以外の領域にも透過部を設けることが考えられる。すなわち、加飾シートの全体に均一に透過部を設けることが考えられた。しかしながら、透過部を設ける加工工程はコストがかかるため、加飾シートの全体に透過部を設けることは、好ましくない。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、低コストで、加飾シートの表示面に対面する領域と、表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くすることを目的とする。」

(b) 本願発明の課題の認定
前記(a)の摘記事項から、本願発明の課題は次のとおりであると認められる。
「加飾シートの表示面に対面する領域にのみ透過部が設けられると、表示面に対面する領域においてのみ、加飾シートの意匠が薄く観察されてしまうことから、加飾シートの表示面に対面する領域と表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを無くすため、加飾シートの表示面に対面する領域にだけでなく、表示面に対面する領域以外の領域にも透過部を設け、加飾シートの全体に均一に透過部を設けることが考えられるが、透過部を設ける加工工程はコストがかかるため、加飾シートの全体に透過部を設けることは、好ましくなく、低コストで、加飾シートの表示面に対面する領域と、表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くすること。」

b 本願発明の課題と構成の対応関係
前記(a)に摘記した本願の明細書の記載を参酌すると、課題と構成の対応関係は、次の(a)及び(b)に示すとおりであると認められる。
(a) 低コスト化に対応する技術手段は構成Cであること
本願発明の課題のうち「低コスト」については、「透過部を設ける加工工程はコストがかかるため、加飾シートの全体に透過部を設けることは、好ましくない」としているから、構成C(透過部の割合が第2領域よりも第1領域の方が高いこと)に対応していると認められる。

(b) 意匠性の相違解消に対応する技術手段は構成Dであること
本願発明の課題のうち「加飾シートの表示面に対面する領域と、表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くすること」については、構成D(第1領域の色度値と第2領域の色度値が所定の関係を満たすこと)に対応していると認められる。

c 本願明細書の具体的開示事項を踏まえた構成Dの考察
(a) 構成Dの特定事項
構成Dは、要するに、構成Cにより透過部の割合に第1、2領域で差を設けると、第1領域では加飾シートの意匠が薄く観察されてしまうことになるため、第1領域と第2領域の色度値の差が所定の値以下になるようにして、色味に差異がないようにしたことを特定するものである。
しかしながら、構成Dは、単に第1領域と第2領域のL*a*b*表色系における色空間の座標間距離で表現した色差が所定の値であることを規定するのみであって、具体的にどのような手段を講じれば第1領域での加飾シートの意匠が薄く観察されてしまうことがないように(第1領域と第2領域の色味に差異がないように)できるのかは、何ら特定していない。

(b) 明細書の記載
前記(a)の点に関し、本願の明細書の段落【0047】〜【0050】には、その具体的な手段について以下の記載がある。
「【0047】
ところで、上述したように、図9に示す従来の加飾シート150を有するパネル付き表示装置110では、加飾シート150の表示面に対面する領域、すなわち第1領域150aのみに透過部が設けられると、第1領域150aにおいて加飾シート150の意匠が薄くなる。このため、第1領域150aと第2領域150bとの間で意匠性の違いが生じていた。
【0048】
一方、本実施の形態の加飾シート50を有するパネル付き表示装置10では、第1領域50aにおけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*1、a*の値であるa*1、b*の値であるb*1と、第2領域50bにおけるL*a*b*表色系におけるL*の値であるL*2、a*の値であるa*2、b*の値であるb*2が、次の関係を満たしている。
((L*1−L*2)2+(a*1−a*2)2+(b*1−b*2)2)1/2≦3
この関係が満たされることで、第1領域50aと第2領域50bとの間の色の差が、観察者にほとんど認識されなくなる。すなわち、加飾シート50の表示面41に対面する領域と、表示面41に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くすることができる。
【0049】
本実施の形態の加飾シート50を有するパネル付き表示装置10でも、第1領域50aのみに透過部57が設けられているため、第1領域50a及び第2領域50bが、透過部57が設けられている事を除いて同様に構成されていた場合、第1領域50aでは第2領域50bと比較して全体的に意匠を薄く表示するようになり、上述した関係が満たされなくなる。そこで、上述の関係が満たされるために、第1領域50aにおける絵柄部53aが第2領域50bにおける絵柄部53bよりも濃く意匠を表示することができるようにするための工夫がなされている。
【0050】
例えば、第1領域50aにおける遮蔽部55aの厚さTaが第2領域50bにおける遮蔽部55bの厚さTbより厚くすること、第1領域50aにおいて絵柄部53aに含まれる顔料の密度が第2領域50bにおいて絵柄部53bに含まれる顔料の密度より高くすること、第1領域50aにおける絵柄部53aの厚さHaが第2領域50bにおける絵柄部53bの厚さHbより厚くなること、第1領域50aにおける絵柄部53aの網点60aの面積比が第2領域50bにおける絵柄部53bの網点60bの面積比より大きくなること、のいずれか1つ以上を採用することによって、第1領域50aにおける絵柄部53aを第2領域50bにおける絵柄部53bより濃く意匠を表示することができる。このようにして、上述の関係が満たされ得る。これらは、第1領域50aと同様に第2領域50bにも透過部57を形成することと比較して、低コストで実施することができる。ただし、上述の関係が満たされるための条件は、これらのことに限定されない。」

(c) 明細書に開示された具体的な課題解決手段について
前記(b)の摘記事項から、次の手段1〜4のいずれか1つ以上を具体的手段として採用することにより、第1領域の絵柄部が第2領域の絵柄部よりも濃く意匠を表示するようにして、第1領域での加飾シートの意匠が薄く観察されてしまうことがないように(第1領域と第2領域の色味に差異がないように)できることが読みとれる。
手段1 遮蔽部の厚さを第2領域より第1領域の方を厚くすること
手段2 絵柄部の顔料含有密度を第2領域より第1領域の方を高くすること
手段3 絵柄部の厚さを第2領域より第1領域の方を厚くすること
手段4 絵柄部の網点面積比を第2領域より第1領域の方を大きくすること

(d) 構成Dの技術的意義
前記(a)〜(c)の検討結果を踏まえると、本願発明の構成Dは、第1領域での加飾シートの意匠が薄く観察されてしまうことがないように(第1領域と第2領域の色味に差異がないように)した「結果」を、L*a*b*表色系における色空間の座標間距離で表現した色差を数式で特定したものにすぎず、そのような結果を導くにあたり生じ得る技術的困難性を認識して、それを克服するための具体的手段(例えば、前記(c)の手段1〜4に挙げられた手段)を特定したものではない。
すなわち、構成Dは、結果として第1領域と第2領域の色味に差異がないようになれば良いとする達成すべき結果(加飾シートの表示面に対面する領域と、表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くしたいという課題そのもの)を、L*a*b*表色系の色差を用いて数式で表現したものであるといえる。

(イ) 構成Dについての判断
a 本願発明に係る構成Dは、結果として第1領域と第2領域の色味に差異がないようになれば良いとする達成すべき結果(加飾シートの表示面に対面する領域と、表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くしたいという課題自体)であるから、本願発明の進歩性を判断するにあたっては、このような達成すべき結果(課題自体)に想到することが当業者にとって困難性があるというべきか否かという観点から検討すべきである(参考裁判例として東京高等裁判所平成15年11月27日判決(平成12年(行ケ)第429号)、東京高等裁判所昭和37年6月26日判決(昭和34年(行ナ)第6号、審決取決訴訟判決集昭和36・37年269頁)を参照)。
b ここで、引用発明において、「スクリーン20」が「周囲の木目調パネル2aと同一の木目調の色・模様に印刷された」ものとしたのは、「スクリーン20」が「周囲の木目調パネル2aと色・模様が統一されて見えるように」するためであるから、引用発明において前記ア及びイの設計変更を行った際、ディスプレイの表示面を覆う領域(「第1領域」に相当)と、それに隣接する領域(「第2領域」に相当)の間において、結果として色味の差異がないようにすることは、当業者が当然認識すべき課題であるといえる。
(引用発明において自明な設計変更を行う場合でも、結果として色味の差異がなく、周囲の木目調パネルと色・模様が統一されて見えるようにしたいと願望するのは、当業者にとって当然のことである。)
c そうすると、前記相違点に係る本願発明の構成Dは、引用発明において前記ア及びイにおける自明な設計変更を行う際の前提となる自明な事項(課題自体)を特定したにすぎないから、前記aの観点に照らして、格別のものではない。
d なお、前記イの構成Cで検討したように、引用発明において上記アの設計変更を行った際、ディスプレイの表示面を覆う領域(「第1領域」に相当)の微細孔21の割合と、それに隣接する領域(「第2領域」に相当)の微細孔21の割合の相違に起因して、これらの領域の間に色味の差異が生じたとしても、例えば、各領域の着色の態様に差異を設ける等の常套手段を講じることにより、かかる色味の差異を解消するように構成することは、当業者にとっては格別困難なことではない。

エ 相違点の検討(その1)のまとめ
前記アからウまで検討のとおり、前記相違点に係る本願発明の構成A、C及びDは当業者が容易に想到し得たことである。そして、本願発明の奏する効果について検討しても、本願発明の構成が奏する効果として、引用発明及び周知技術から当業者が予測困難、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 相違点の検討(その2)
ア 構成A及びCについて
(ア) 引用文献2技術事項には、加飾パネル20の意匠面Dにおいて、微細孔46が形成される部位と、微細孔46が形成されない部位との境界が不明確になるように、加飾フィルム42を含むシート部材40において、微細孔46を有する光透過型スクリーン部50の周囲に、複数のダミー微細孔48を有する徐変部52が設けられ、徐変部52におけるダミー微細孔48のピッチが、光透過型スクリーン部50における微細孔46のピッチよりも大きいピッチとすることが開示されている。
(イ) また、引用文献1には、スクリーン20と木目調パネル2aとの境界を視覚的にぼかして見せたり、スクリーン20と周囲の木目調パネル2aの色合いのずれを少なくすることが好ましいことが示唆されてもいる(【0021】)。
(ウ) そうすると、引用発明と引用文献2技術事項は解決しようとする課題が共通するから、引用文献2技術事項の開示内容に従って、引用発明の「スクリーン20」(加飾部材)をシート状のものとし、各ディスプレイの前面を覆う領域に加えて、それに隣接する領域まで含むように構成し、これらの領域における微細孔21のピッチを周辺領域の方が大きいものとすることにより、前記相違点に係る本願発明の構成A及びCとすることは当業者にとって自明な設計変更にすぎない。

イ 構成Dについて
(ア) 引用文献2技術事項には、徐変部52におけるダミー微細孔48のピッチが、拡散板34から離れるに従って徐々に大きくなることが望ましいことが開示されているから(段落【0045】を参照)、光透過型スクリーン部50と徐変部52の境界付近においては、微細孔46のピッチとダミー微細孔48のピッチの差異は小さく、拡散板34から離れるに従ってダミー微細孔48のピッチの方が徐々に大きくなるようにしてあるといえる。
(イ) 引用発明において前記アにおける自明な設計変更を行う際に、隣接する領域における微細孔のピッチが徐々に大きくなる程度を十分緩やかに調整することは当業者にとっては自明な設計事項であるところ、そうすると、光透過型スクリーン部50と徐変部52の境界付近の徐変部52においては、光透過型スクリーン部50と微細孔のピッチ差に起因する色味の差異はほとんどないこととなるから、当該境界付近の徐変部が本願発明の第2領域に相当し、当該境界付近の徐変部52は、透過部の割合に係る構成Cを充足しつつも、色度差に係る構成Dの関係が満たされるようになると認められる。
したがって、構成Dは、格別のものではない。

ウ 相違点の検討(その2)のまとめ
前記ア及びイの検討のとおり、前記相違点に係る本願発明の構成A、C及びDは当業者が容易に想到し得たことである。そして、本願発明の奏する効果について検討しても、本願発明の構成が奏する効果として、引用発明及び周知技術から当業者が予測困難、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について
(1) 審判請求書における主張の概要
請求人は、審判請求書において、概略次の主張をしている。
引用文献1、2は、本願発明の構成Dを開示していない。
ア 引用文献1に記載されたスクリーンは、周囲の木目調パネルと同一の木目調の色・模様に印刷されているところ、このスクリーンには、多数の微細孔が設けられているから、スクリーンの微細孔によって、本願の明細書の段落0047等に記載されているように、木目調パネルとスクリーンとで意匠性に違いが生じてしまうため、構成Dのようにはなり得ない。
また、引用文献1では、微細孔によって意匠性の違いが生じることを認識しておらず、引用文献1から、構成Dを想到することもない。

イ 引用文献2には、加飾フィルムが表示する意匠の色に関する記載がないから、引用文献2は、構成Dを明らかに開示しておらず、引用文献2から構成Dを想到することもない。

(2) 請求人の主張についての検討
ア 本願発明の構成Dの技術的意義については、前記2(1)ウ(ア)c(d)において説示したとおり、構成Dは、結果として第1領域と第2領域の色味に差異がないようになればいいといった達成すべき結果(加飾シートの表示面に対面する領域と、表示面に対面する領域以外の領域との間の意匠性の違いを認識し難くするという課題自体)をL*a*b*表色系の色差を用いて数式で表現したものである。

イ 引用文献1において、「スクリーン20」が「周囲の木目調パネル2aと同一の木目調の色・模様に印刷された」ものとしたのは、「スクリーン20」が「周囲の木目調パネル2aと色・模様が統一されて見えるように」するためであり、引用文献1においても、結果として色味の差異がないようにすることは、当業者が当然認識すべき課題であるといえるから、スクリーンの微細孔によって、木目調パネルとスクリーンとで意匠性に違いが生じてしまうとしても、前記2(1)ウ(イ)で検討したとおり、各領域の着色の態様に差異を設ける等の常套手段を講じることにより、かかる色味の差異、すなわち意匠性の違いを解消するように構成することは、当業者にとっては格別困難なことではない。

ウ また、引用発明に引用文献2技術事項を適用する際に、隣接する領域における微細孔のピッチが徐々に大きくなる程度を十分緩やかに調整することにより、透過部の割合に係る構成Cを充足しつつも、色度差に係る構成Dの関係が満たされるように構成することは、当業者にとっては格別困難性はないというべきであることも、前記2(2)イで検討したとおりである。

エ よって、請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-31 
結審通知日 2022-11-01 
審決日 2022-11-17 
出願番号 P2018-001288
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 波多江 進
特許庁審判官 岡田 吉美
濱野 隆
発明の名称 加飾シート、加飾シート付き表示装置、パネル付き表示装置  
代理人 合田 幸平  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 宮嶋 学  
代理人 中村 行孝  

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