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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1393861
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-04-12 
確定日 2023-01-12 
事件の表示 特願2016−239439号「超近接スイッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年6月21日出願公開、特開2018−96748号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月9日に出願された特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和2年11月 4日付け:拒絶理由通知書
令和3年 1月14日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月26日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 9月21日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 1月25日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 2月 1日 :原査定の謄本の送達)
同年 4月12日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和4年4月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年4月12日にされた手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和4年4月12日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1
(令和3年1月14日提出の手続補正書で補正された請求項1)
「 【請求項1】
第1の物体の表面と第2の物体との間の近接距離が設定値に到達した際に到達信号を出力する超近接スイッチであって、
前記第1の物体の表面に、前記設定値に相当する厚さの近接場光L0の局在領域を発生させる近接場光発生手段と、
前記第2の物体が前記近接場光L0の局在領域に進入した際に生じる散乱光S1を検知する散乱光検知手段と、
前記散乱光検知手段が前記散乱光S1を検知したことを受けて、前記到達信号を出力する判定手段とを有し、
前記近接場光発生手段は、前記第1の物体の裏面側に配置される光源と、前記第1の物体と前記光源との間に配置され、前記光源からの光を屈折させて前記第1の物体の表面の裏側で全反射させる入射光学系及び前記第1の物体の表面の裏側で全反射した光を前記第1の物体の裏面側に屈折させる反射光学系とを備え、
前記散乱光検知手段は、前記第1の物体の裏面側に配置され、前記散乱光S1を受光する受光センサを備えることを特徴とする超近接スイッチ。」

(2) 本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
第1の物体の表面と第2の物体との間の近接距離が設定値に到達した際に到達信号を出力する超近接スイッチであって、
透光性を有し前記第2の物体と対向する前記第1の物体の表面に、前記設定値に相当する厚さの近接場光L0の局在領域を発生させる近接場光発生手段と、
前記第2の物体が前記近接場光L0の局在領域に進入した際に生じる散乱光S1を検知する散乱光検知手段と、
前記散乱光検知手段が前記散乱光S1を検知したことを受けて、前記到達信号を出力する判定手段とを有し、
前記近接場光発生手段は、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように前記第1の物体の裏面側に配置される光源と、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体及び前記光源と重なるように前記第1の物体と前記光源との間に配置されて前記光源からの光を屈折させて前記第1の物体の表面の裏側で全反射させる入射光学系と、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように該第1の物体の裏面側に配置されて該第1の物体の表面の裏側で全反射した光を前記第1の物体の裏面側に屈折させる反射光学系とを備え、
前記散乱光検知手段は、前記第1の物体の裏面側で前記入射光学系と前記反射光学系との間に前記局在領域と対向して配置され前記散乱光S1を集光する集光光学系と、前記第1の物体の裏面側に前記集光光学系を挟んで前記局在領域と対向し該集光光学系の集光部と中心が一致するように配置されて該集光光学系で集光された前記散乱光S1を受光する受光センサとを備え、
前記入射光学系、前記反射光学系及び前記受光センサ側に凸面を有する前記集光光学系は、表面に前記近接場光L0が発生する前記第1の物体の裏面側に連続して形成されて該第1の物体と一体になっていることを特徴とする超近接スイッチ。」

2 本件補正の目的
(1) 本件補正による請求項1の補正は、本件補正前の発明特定事項について、次のア〜キの限定をしたものである。
ア 「第1の物体」が「透光性を有し前記第2の物体と対向する」こと
イ 「前記第1の物体の裏面側に配置される光源」が「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように」配置されること
ウ 「前記第1の物体と前記光源との間に配置され、前記光源からの光を屈折させて前記第1の物体の表面の裏側で全反射させる入射光学系」が「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体及び前記光源と重なるように」配置されること
エ 「第1の物体の表面の裏側で全反射した光を前記第1の物体の裏面側に屈折させる反射光学系」が「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように該第1の物体の裏面側に配置」されること
オ 「散乱光検知手段」が「前記第1の物体の裏面側で前記入射光学系と前記反射光学系との間に前記局在領域と対向して配置され前記散乱光S1を集光する集光光学系」を備えること
カ 「前記第1の物体の裏面側に配置され、前記散乱光S1を受光する受光センサ」が「前記集光光学系を挟んで前記局在領域と対向し該集光光学系の集光部と中心が一致するように配置されて該集光光学系で集光された前記散乱光S1を受光する」ものであること
キ 「前記入射光学系、前記反射光学系及び前記受光センサ側に凸面を有する前記集光光学系は、表面に前記近接場光L0が発生する前記第1の物体の裏面側に連続して形成されて該第1の物体と一体になっていること」

(2) そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

(3) よって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件についての当審の判断
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2) 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献2に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開2001−194118号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。下線は合議体が付した。以下同様である。
a 段落【0019】〜【0026】、【図1】
「【0019】<1.第1の実施の形態>まず、この発明の第1の実施の形態について説明する。図1は第1の実施の形態である光記録装置1の概略構成図である。
【0020】光記録装置1は、光ディスク等の同心円状または螺旋状にデータが記録された円盤形状の記録媒体9を保持した状態で、記録媒体9を所定方向に回転させる回転機構部2と、記録媒体9の記録面にデータ記録または再生のための光を照射する光ヘッド3と、その光ヘッド3を移動させるアーム駆動機構4と、光ヘッド3に記録用または再生(読み取り)用等としての光を入射させるとともに、記録媒体9と光ヘッド3との間隔検出用としての光を光ヘッド3に入射させる光照射部5と、記録すべきデータをもとに記録光学系51に対して記録信号を与えたり、記録光学系51にて得られる再生信号に基づいてデータの再生を行う信号処理部6と、外部機器90から記録すべきデータを受け取ってコントローラ8を介して信号処理部6に送ったり、再生信号を外部機器90に出力する入出力部7と、上記各部を制御するコントローラ8とを備えて構成される。
【0021】回転機構部2は回転駆動部21と回転部材22とを備えており、コントローラ8から与えられる駆動制御信号に基づいて回転駆動部21が回転部材22を所定方向に回転させる。回転部材22は記録媒体9を所定位置にて保持するような構造を有しており、装着された記録媒体9と一体となって回転動作を行う。
【0022】アーム駆動機構4はアーム部41と駆動部42とを備えており、アーム部41の先端部には光ヘッド3が取り付けられている。駆動部42は、アーム部41を記録媒体9の径方向に旋回させることによって、記録媒体9の記録面に対する光ヘッド3での記録位置を記録媒体9の中心方向に進退させることができるように構成されている(±R方向)とともに、アーム部41を記録媒体9の記録面に垂直な方向(Z方向)に昇降移動させることも可能なように構成されている。つまり、駆動部42は、光ヘッド3による記録位置を記録媒体9の径方向に沿って移動させる水平移動手段として機能するとともに、光ヘッド3と記録媒体9との間隔を調整する間隔調整手段としても機能するのである。そして、制御手段となるコントローラ8がアーム駆動機構4に対して駆動制御信号を与えることによって、光ヘッド3の記録媒体9の記録面に対する位置が制御され、また、記録媒体9に対する光ヘッド3の高さ位置が制御される。なお、アーム駆動機構4は記録媒体9の径方向に対してアーム部41を旋回しながら光ヘッド3を進退する構成に限らず、直進的に進退するように水平移動手段を構成してもよい。
【0023】光照射部5は、記録光学系51と第1の間隔検出用光学系52と第2の間隔検出用光学系53とを備えている。第1の間隔検出用光学系52と第2の間隔検出用光学系53とは、間隔検出のための光を光ヘッド3に設けられる近接場光発生手段に入射させるための入射光学系である。
【0024】記録光学系51は、レーザ光源511から発せられたレーザ光を集光レンズ系512により集光して光ヘッド3の所定位置に導くように構成されている。第1の間隔検出用光学系52および第2の間隔検出用光学系53も上記と同様に、それぞれレーザ光源521,531と集光レンズ系522,532とを備えており、それぞれのレーザ光源521,531から発せられるレーザ光を光ヘッド3の所定位置に導くように構成されている。なお、図示しないが光照射部5を光ヘッド3と同期させて移動させるための光照射部駆動機構も設けられている。
【0025】そして、光ヘッド3では、記録光学系51からのレーザ光によって記録用や再生用となる近接場光を発生させ、それによって記録媒体9の記録面にデータを記録したり、または既に記録されているデータを再生することができるようになっている。
【0026】コントローラ8は上記のように、アーム駆動機構4および回転機構部2に対して駆動制御信号を与えたり、信号の入出力等の各部の動作を制御したり、光ヘッド3と記録媒体9との間隔を制御するように構成されている。」
「【図1】



b 段落【0027】〜【0036】、【図2】
「【0027】つぎに、光ヘッド3の構造について説明する。図2は、光ヘッド3の構造を示す断面図である。
【0028】図2に示すように、光ヘッド3はアーム部41の先端部に取り付けられており、ヘッド本体31と固浸レンズ32と光量検出手段33とを備えている。
【0029】固浸レンズ32は記録や再生のための近接場光や間隔検出用の近接場光を発生させるための近接場光発生手段として機能する部材であり、上部側が球面状に形成されており、記録光学系51からのレーザ光RLが記録媒体9の記録面に垂直な上方側より入射するように構成されている(入射角度=0°)。また、第1の間隔検出用光学系52からのレーザ光L1は入射角度θ1で固浸レンズ32に入射し、第2の間隔検出用光学系53からのレーザ光L2は入射角度θ2で入射するように構成されている。そして各レーザ光RL,L1,L2は、それぞれの集光レンズ系512,522,532によって固浸レンズ32の底面側の同一位置に集光されており、第1および第2の間隔検出用となるレーザ光L1,L2は、固浸レンズ32の底面にて全反射するように設定されている。ここで、レーザ光L1,L2の入射角度θ1,θ2としては、それぞれ固浸レンズ32の底面にて全反射するような角度が選択され、入射角度θ1とθ2とはそれぞれ異なる角度に設定される。
【0030】高屈折率媒質で形成された固浸レンズ32の底面付近には、空気中よりも小さなスポットが形成され、全反射面となる固浸レンズ32の底面より垂直下方向きに微小スポットの近接場光RN,N1,N2が浸み出す。近接場光RNはレーザ光RLによって生じた近接場光であり、近接場光N1,N2はそれぞれ第1および第2の間隔検出用となるレーザ光L1,L2によって生じた近接場光である。
【0031】図2に示すように近接場光は、一般に、固浸レンズ32底面への入射角度に応じて浸み出し深さが異なるという特性を有しており、全反射する際の入射角度が小さいほど近接場光の浸み出し深さが大きく、逆に入射角度が大きいほど近接場光の浸み出し深さが小さくなる。つまり、近接場光は非伝搬光であり、その到達距離が全反射の際の入射角度によって異なるものとなるのである。
【0032】そして、この実施の形態では、近接場光N1,N2の到達距離を異なるものとするために、全反射浸み出しによる近接場光を利用して、例えば、近接場光N1の到達距離をd1となるように入射角度θ1を設定するとともに、近接場光N2の到達距離をd2(ただし、d1>d2)となるように入射角度θ2(ただし、θ2>θ1)を設定する。そして、距離d1とd2との間に物体が存在すれば、近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが物体に到達することになる。なお、近接場光RNは、全反射するような角度で入射するものではないが、入射角度が最も小さいので到達距離が最も大きくなる。
【0033】また一般に、近接場光は何らかの媒質(物体)に到達すると、その媒質とカップリングし、非伝搬光である微弱な光が伝搬光になる。よって、上記のように近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが物体に到達すれば、その近接場光N1に応じた光の強度(光量)成分を検出することが可能になる。なお、この強度成分は、カップリングが生じる位置によっても変化し、近接場光の浸み出し位置に近い位置でカップリングが生じる程、大きくなる。
【0034】そこでこの実施の形態では、近接場光N1,N2のそれぞれの到達距離d1,d2を、光ヘッド3と記録媒体9との適正間隔に一致させて設定しておく。光ヘッド3と記録媒体9との適正間隔を40nm〜100nmとして定める場合には、近接場光N1の到達距離d1を100nmに設定し、近接場光N2の到達距離d2を40nmに設定しておく。
【0035】このように設定しておくことにより、例えば、近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが記録媒体9とカップリングすれば、そのカップリングした光成分が記録媒体9の表面で反射することになり、その反射光の光量を検出することが可能になる。
【0036】図2に示すように、光ヘッド3には、間隔検出用となる近接場光N1,N2が記録媒体9とカップリングした結果生じる反射光の光量を検出するために光量検出手段33が設けられている。光量検出手段33は、固浸レンズ32の底面の周囲近傍に設けられている。」
「【図2】



c 段落【0037】〜【0043】、【図3】
「【0037】図3は、光ヘッド3を上方側からみた図である。図3に示すように、第1および第2の間隔検出用光学系52,53によって固浸レンズ32に入射するレーザ光L1,L2は、光ヘッド3を上方側から見ても所定角度隔てて配置されており、光量検出手段33となる2つの検出器331,332がそれぞれの光路の延長線上に配置されている。検出器331,332はそれぞれフォトダイオード等の光電変換素子によって構成されており、受光面が記録媒体9に対向するように配置されている。検出器331はレーザ光L1によって生じた近接場光N1が記録媒体9の記録面に到達し、それによって伝搬光となった光成分の反射光量を検出するように構成されている。同様に、検出器332はレーザ光L2によって生じた近接場光N2が記録媒体9の記録面に到達し、それによって伝搬光となった光成分の反射光量を検出するように構成されている。
【0038】ここで、近接場光N1,N2が記録媒体9に到達して反射する光は拡散反射する。このため、検出器331が近接場光N1による反射光量のみを検出し、また、検出器332が近接場光N2による反射光量のみを検出しようとするには、例えば、レーザ光源521,531がそれぞれ異なる波長のレーザ光(630nmと410nm等)を出射するように構成し、各検出器331,332の受光面側にそれぞれ検出対象となる波長域の光成分のみを透過するための光学フィルタを配置するようにすればよい。その他にも、レーザ光源521,531が同一波長のレーザ光(630nm等)を出射するように構成されている場合に、各レーザ光源521,531からのレーザ光にそれぞれ異なる周波数変調を与え、各検出器331,332で得られる電気信号から特定周波数成分のみを抽出するように構成してもよい。
【0039】なお、固浸レンズ32の底面にて全反射した光成分は、固浸レンズ32を透過して固浸レンズ32から遠ざかったり、または何らかの部材で吸収されるので、各検出器331,332に入射することはない。
【0040】そして光量検出手段33で検出された各近接場光N1,N2による各反射光の光量成分は光電変換されて電気信号となり、アーム部41内部を配線された図示しない導電線を介してコントローラ8に送られる。
【0041】そして、コントローラ8は、間隔検出用の各近接場光N1,N2による反射光の光量に基づいて記録媒体9と光ヘッド3(特に固浸レンズ32における近接場光の浸み出し位置である底面位置)との間隔が適正間隔となっているかどうかを判断し、適正間隔にない場合にはアーム駆動機構4の駆動部42を駆動させ、光ヘッド3の記録媒体9に対する高さ位置を調整するように構成されている。
【0042】具体的には、コントローラ8は、検出器331,332を介して到達距離d1の近接場光N1による反射光と、到達距離d2の近接場光による反射光とを検出し、検出された反射光が近接場光N1による反射光のみであれば、光ヘッド3(特に固浸レンズ32の底面位置)に対する記録媒体9の表面位置が到達距離d2よりも遠く、かつ、到達距離d1よりも近い位置にあり、光ヘッド3と記録媒体とが適正間隔であることが判明する。
【0043】また、上記以外の場合には、光ヘッド3と記録媒体9との間隔が適正間隔でないため、コントローラ8がアーム駆動機構4を駆動することによって、光ヘッド3と記録媒体9との間隔の適正化が行われる。例えば、検出された反射光が近接場光N1とN2との双方による反射光である場合には、記録媒体9の表面位置は近接場光N2による到達距離d2以下の距離にあることになり、また、いずれの反射光も検出できない場合には、記録媒体9の表面位置は近接場光N1による到達距離d1よりも離れた位置にあることになる。このため、コントローラ8がアーム駆動機構4を駆動することによって、それぞれの場合に応じて、光ヘッド3の記録媒体9に対する高さ位置を調整すればよい。」
「【図3】

」(当審注:段落【0037】及び【0038】の記載から、【図3】に示された符号「51」は「52」の誤記であり、符号「52」は「53」の誤記であることは明らかである。)

d 段落【0066】〜【0069】、【図6】
「【0066】<3.第3の実施の形態>次に、この発明の第3の実施の形態について説明する。上記第1および第2の実施の形態では、間隔検出用の近接場光N1,N2がカップリングして伝搬光となった際の反射光成分や透過光成分を検出するために光量検出手段33として2つの検出器331,332(または331a,332a)を設けていたが、この実施の形態では一の検出器によって光ヘッド3と記録媒体9との間隔検出および間隔制御を行う形態について説明する。なお、光記録装置1の全体構成等は図1に示したものと同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0067】図6は、この実施の形態における光ヘッド3bの構造を示す断面図である。図6では、上記各実施の形態において説明した部材と同様の部材については同一符号を付している。
【0068】図6に示すように、光ヘッド3bはヘッド本体31bに半球状の固浸レンズ32bが取り付けられて構成される。そして、第2の実施の形態と同様に記録媒体9を挟んで固浸レンズ32bの底面側と対向する位置に光量検出手段33が設けられている。なお、この実施の形態においても図1におけるアーム部41が記録媒体9の裏面側にも延びるように配置されており、そのアーム部41の先端部に光量検出手段33が取り付けられる。
【0069】この実施の形態において固浸レンズ32bは間隔検出用となる近接場光を発生させるように構成された近接場光発生手段であり、データの記録や再生のための近接場光RNは光ヘッド3bに別途設けられた光ファイバ36の先端部より記録媒体9に向けて浸み出すように構成されている。具体的には、光ファイバ36の先端部は先鋭化されるとともに微小開口が形成されており、他端側より入射するデータの記録や再生等のためのレーザ光がその微小開口より近接場光となって浸み出すように構成されているのである。」
「【図6】



e 段落【0105】〜【0106】
「【0105】<6.変形例>以上、この発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記各実施の形態で説明した内容のものに限定されるものではない。
【0106】上記各実施の形態では、光記録装置における光ヘッドと記録媒体との間隔検出および間隔制御について主として説明したが、この発明の原理に着目すれば、上記の間隔検出方法および間隔制御方法を他の装置に適用することも可能である。例えば、上述したような近接場光発生手段を第1の物体に設け、その第1の物体からそれぞれ到達距離の異なる少なくとも2つの近接場光を第2の物体に向けて浸み出させるように構成するとともに、それらの近接場光が第2の物体に到達することによって検出可能となる光量であって第1の物体と第2の物体との間隔に応じて異なる光量を、それぞれの近接場光成分ごとに検出するように構成することで、近接センサ等のような第1の物体と第2の物体との微小な間隔(光の波長よりも短いような間隔)を検出する間隔検出装置を実現することができる。そして、このように実現される間隔検出装置では、数十nmのオーダーで間隔が変化した場合であっても検出可能となる。」

(イ) 引用発明の認定
前記(ア)において摘記した事項を総合すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「 光ディスク等の同心円状または螺旋状にデータが記録された円盤形状の記録媒体9を保持した状態で、記録媒体9を所定方向に回転させる回転機構部2と、記録媒体9の記録面にデータ記録または再生のための光を照射する光ヘッド3と、その光ヘッド3を移動させるアーム駆動機構4と、光ヘッド3に記録用または再生(読み取り)用等としての光を入射させるとともに、記録媒体9と光ヘッド3との間隔検出用としての光を光ヘッド3に入射させる光照射部5と、記録すべきデータをもとに記録光学系51に対して記録信号を与えたり、記録光学系51にて得られる再生信号に基づいてデータの再生を行う信号処理部6と、外部機器90から記録すべきデータを受け取ってコントローラ8を介して信号処理部6に送ったり、再生信号を外部機器90に出力する入出力部7と、上記各部を制御するコントローラ8とを備えて構成される光記録装置1であって、(【0020】)
光照射部5は、記録光学系51と第1の間隔検出用光学系52と第2の間隔検出用光学系53とを備えており、第1の間隔検出用光学系52と第2の間隔検出用光学系53とは、間隔検出のための光を光ヘッド3に設けられる近接場光発生手段に入射させるための入射光学系であり、(【0023】) 記録光学系51は、レーザ光源511から発せられたレーザ光を集光レンズ系512により集光して光ヘッド3の所定位置に導くように構成されており、第1の間隔検出用光学系52および第2の間隔検出用光学系53は、それぞれレーザ光源521,531と集光レンズ系522,532とを備えており、それぞれのレーザ光源521,531から発せられるレーザ光を光ヘッド3の所定位置に導くように構成されており、(【0024】)
コントローラ8は、アーム駆動機構4および回転機構部2に対して駆動制御信号を与えたり、信号の入出力等の各部の動作を制御したり、光ヘッド3と記録媒体9との間隔を制御するように構成されており、(【0026】)
光ヘッド3はアーム部41の先端部に取り付けられており、ヘッド本体31と固浸レンズ32と光量検出手段33とを備えており、(【0028】) 固浸レンズ32は記録や再生のための近接場光や間隔検出用の近接場光を発生させるための近接場光発生手段として機能する部材であり、上部側が球面状に形成されており、記録光学系51からのレーザ光RLが記録媒体9の記録面に垂直な上方側より入射するように構成されており(入射角度=0°)、第1の間隔検出用光学系52からのレーザ光L1は入射角度θ1で固浸レンズ32に入射し、第2の間隔検出用光学系53からのレーザ光L2は入射角度θ2で入射するように構成されており、各レーザ光RL,L1,L2は、それぞれの集光レンズ系512,522,532によって固浸レンズ32の底面側の同一位置に集光されており、第1および第2の間隔検出用となるレーザ光L1,L2は、固浸レンズ32の底面にて全反射するように設定されており、レーザ光L1,L2の入射角度θ1,θ2としては、それぞれ固浸レンズ32の底面にて全反射するような角度が選択され、入射角度θ1とθ2とはそれぞれ異なる角度に設定されており、(【0029】)
高屈折率媒質で形成された固浸レンズ32の底面付近には、空気中よりも小さなスポットが形成され、全反射面となる固浸レンズ32の底面より垂直下方向きに微小スポットの近接場光RN,N1,N2が浸み出し、近接場光RNはレーザ光RLによって生じた近接場光であり、近接場光N1,N2はそれぞれ第1および第2の間隔検出用となるレーザ光L1,L2によって生じた近接場光であり、(【0030】)
近接場光N1,N2の到達距離を異なるものとするために、全反射浸み出しによる近接場光を利用して、例えば、近接場光N1の到達距離をd1となるように入射角度θ1を設定するとともに、近接場光N2の到達距離をd2(ただし、d1>d2)となるように入射角度θ2(ただし、θ2>θ1)を設定し、距離d1とd2との間に物体が存在すれば、近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが物体に到達することになり、(【0032】) 近接場光N1,N2のそれぞれの到達距離d1,d2を、光ヘッド3と記録媒体9との適正間隔に一致させて設定しておき、光ヘッド3と記録媒体9との適正間隔を40nm〜100nmとして定める場合には、近接場光N1の到達距離d1を100nmに設定し、近接場光N2の到達距離d2を40nmに設定しておき、(【0034】)
このように設定しておくことにより、例えば、近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが記録媒体9とカップリングすれば、そのカップリングした光成分が記録媒体9の表面で反射することになり、その反射光の光量を検出することが可能になり、(【0035】)
光ヘッド3には、間隔検出用となる近接場光N1,N2が記録媒体9とカップリングした結果生じる反射光の光量を検出するために光量検出手段33が設けられており、光量検出手段33は、固浸レンズ32の底面の周囲近傍に設けられており、(【0036】)
第1および第2の間隔検出用光学系52,53によって固浸レンズ32に入射するレーザ光L1,L2は、光ヘッド3を上方側から見ても所定角度隔てて配置されており、光量検出手段33となる2つの検出器331,332がそれぞれの光路の延長線上に配置されており、検出器331はレーザ光L1によって生じた近接場光N1が記録媒体9の記録面に到達し、それによって伝搬光となった光成分の反射光量を検出するように構成されており、検出器332はレーザ光L2によって生じた近接場光N2が記録媒体9の記録面に到達し、それによって伝搬光となった光成分の反射光量を検出するように構成されており、(【0037】)
近接場光N1,N2が記録媒体9に到達して反射する光は拡散反射するものであり、検出器331が近接場光N1による反射光量のみを検出し、検出器332が近接場光N2による反射光量のみを検出しようとするには、例えば、レーザ光源521,531がそれぞれ異なる波長のレーザ光(630nmと410nm等)を出射するように構成し、各検出器331,332の受光面側にそれぞれ検出対象となる波長域の光成分のみを透過するための光学フィルタを配置するようにすればよく、(【0038】)
固浸レンズ32の底面にて全反射した光成分は、固浸レンズ32を透過して固浸レンズ32から遠ざかるので、各検出器331,332に入射することはなく、(【0039】)
光量検出手段33で検出された各近接場光N1,N2による各反射光の光量成分は光電変換されて電気信号となり、アーム部41内部を配線された導電線を介してコントローラ8に送られ、(【0040】)
コントローラ8は、間隔検出用の各近接場光N1,N2による反射光の光量に基づいて記録媒体9と光ヘッド3(特に固浸レンズ32における近接場光の浸み出し位置である底面位置)との間隔が適正間隔となっているかどうかを判断し、適正間隔にない場合にはアーム駆動機構4の駆動部42を駆動させ、光ヘッド3の記録媒体9に対する高さ位置を調整するように構成されており、(【0041】)
コントローラ8は、検出器331,332を介して到達距離d1の近接場光N1による反射光と、到達距離d2の近接場光による反射光とを検出し、検出された反射光が近接場光N1による反射光のみであれば、光ヘッド3(特に固浸レンズ32の底面位置)に対する記録媒体9の表面位置が到達距離d2よりも遠く、かつ、到達距離d1よりも近い位置にあり、光ヘッド3と記録媒体とが適正間隔であることが判明し、(【0042】)
上記以外の場合には、光ヘッド3と記録媒体9との間隔が適正間隔でないため、コントローラ8がアーム駆動機構4を駆動することによって、光ヘッド3と記録媒体9との間隔の適正化が行われ、検出された反射光が近接場光N1とN2との双方による反射光である場合には、記録媒体9の表面位置は近接場光N2による到達距離d2以下の距離にあることになり、いずれの反射光も検出できない場合には、記録媒体9の表面位置は近接場光N1による到達距離d1よりも離れた位置にあることになり、コントローラ8がアーム駆動機構4を駆動することによって、それぞれの場合に応じて、光ヘッド3の記録媒体9に対する高さ位置を調整すればよく、(【0043】)
データの記録や再生のための近接場光RNは光ヘッド3bに別途設けられた光ファイバ36の先端部より記録媒体9に向けて浸み出すように構成されてもよく、光ファイバ36の先端部は先鋭化されるとともに微小開口が形成されており、他端側より入射するデータの記録や再生等のためのレーザ光がその微小開口より近接場光となって浸み出すように構成されており、(【0069】)
光記録装置における光ヘッドと記録媒体の間隔検出方法および間隔制御方法は、他の装置に適用することも可能であり、近接場光発生手段を第1の物体に設け、その第1の物体からそれぞれ到達距離の異なる少なくとも2つの近接場光を第2の物体に向けて浸み出させるように構成するとともに、それらの近接場光が第2の物体に到達することによって検出可能となる光量であって第1の物体と第2の物体との間隔に応じて異なる光量を、それぞれの近接場光成分ごとに検出するように構成することで、近接センサ等のような第1の物体と第2の物体との微小な間隔(光の波長よりも短いような間隔)を検出する間隔検出装置を実現することができ、数十nmのオーダーで間隔が変化した場合であっても検出可能となる、(【0106】)
光記録装置1。」

イ 引用文献5に記載された事項と周知技術1及び引用文献5技術事項の認定
(ア) 引用文献5記載された事項
令和4年1月25日付け補正の却下の決定において引用された文献である特開2003−270524号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0016】第1の実施の形態の顕微鏡は、図6のように、落射照明光源85、透過照明光源20、試料を搭載するステージ82、ステージ82の下部に配置された対物レンズ5、ベース83、接眼レンズ部84、および、撮像装置25を有する。ベース83の内部には、図4のように光源85の光軸に沿って順に、投光管(レンズ群)61、ダイクロイックミラー27、結像光学系62、フィルタ23が配置されている。落射照明光源85は、予め定めた波長の励起光(紫外光)の光束26を発する光源である。ダイクロイックミラー27は、励起光束26を反射し、試料1が発する蛍光を透過する特性を有する。これらは、蛍光顕微鏡を構成している。
【0017】さらに、ベース83の内部には、図4に示した焦点検出用光源15,ダイクロックミラー6,投光管(レンズ群)18,フィルタ22,受光素子19、制御部40、および、対物レンズ5をその光軸に沿って上下動させる位置調整部41が配置されている。焦点検出用光源15は、上記励起光とは異なる波長の光、ここでは赤外光束16を出射する。ダイクロックミラー6は、焦点検出用光束16を反射し、他の波長の光(励起光、蛍光)を透過する特性を有する。これらは、焦点検出装置100を構成している。
【0018】図2のように、試料1を含む試料溶液2は、スライドガラス3に載せられてステージ82に搭載されている。対物レンズ5としては、試料1近傍においてエバネッセント現象を発生させるために、スライドガラス3と試料溶液2との界面2aに対して、全反射される角度で焦点検出用の赤外光束16を照射することができるような高開口数の対物レンズを使用する。このとき、対物レンズ5とスライドガラス3との間を図2の様にオイル4で満たす油浸にすることができる。なお、赤外光束16としては、光束径の小さい平行光束を用いる。光束16の径は、対物レンズ5の瞳の高開口の部分であって全反射の角度でスライドガラス3に光を出射する領域31(図2参照)の幅と同等もしくはそれ以下とすることが望ましい。焦点検出用光源15としては、レーザ光源、もしくは、通常の光源と絞りとの組み合わ等を用いる。本実施の形態では焦点検出用光源15およびダイクロックミラー6は、対物レンズ5の瞳の最も端の領域31に赤外光束16を入射するように位置合わせされている。
【0019】よって、焦点検出用光源15から出射された赤外光束16は、図2のようにダイクロイックミラー6で反射され、対物レンズ5の領域31に入射し、対物レンズ5によって集光され、全反射される浅い入射角でスライドガラス3に照射される。赤外光束16は、スライドガラス3と試料溶液2との界面2aで全反射され、全反射の際に生じるエバネッセント現象により、スライドガラス3表面から試料溶液2側にエバネッセント光が浸みだす。図2、図5のように、界面2aから浸み出したエバネッセント光17が到達する領域(深さ数十〜数百nm程度)に存在する試料1によって、エバネッセント光は散乱され、散乱光17が生じる。散乱光17の一部は、対物レンズ5を通過し、ダイクロイックミラー6に至り、ダイクロイックミラー6で反射されて、投光管(レンズ群)18により結像し、受光素子19により受光される。投光管(レンズ群)18と受光素子19との間には、フィルタ22が配置されており、赤外光束16の波長以外の、蛍光や励起光は除去される。なお、スライドガラス3で反射された全反射光束が受光素子19に入射するのを防ぐために、図2のように全反射光束を遮る絞り51を光路中に挿入しておくことが望ましい。
【0020】制御部40は、受光素子19の受光した、散乱光17の強度を検出し、信号の強度が最大になるようになる状態が、対物レンズ5の合焦点位置に試料1が存在する合焦状態であるとして、位置調整部41に制御信号を出力し、散乱光17の強度が最大となる位置まで対物レンズ5を光軸方向に移動させる。これにより、対物レンズ5を試料1に合焦させることができる。」
「【図2】


「【図4】


「【図6】



(イ) 周知技術1の認定
前記(ア)に摘記した事項(特に【図2】に示された対物レンズ5に入射する赤外光束16、対物レンズ5から出射する全反射光束、散乱光17を参照)に例示されるように、次の事項は当業者にとって周知の技術であったと認められる(以下「周知技術1」という)。
[周知技術1]
「エバネッセント光を発生させる物体の裏面側において、当該物体の表面の法線方向に沿って物体の表面側から平面視して物体と重なる方向から入射したレーザ光が当該表面の裏側で全反射するように、入射光学系において照射レーザ光を屈折させ、全反射した光を出射光学系において当該法線方向に沿って屈折させ、エバネッセント光の局在領域において生じた散乱光を、エバネッセント光を発生させる物体を介して、かつ、入射光学系と出射光学系の間の空間にある光路を通して受光すること。」

(ウ) 引用文献5技術事項の認定
前記(ア)に摘記した事項(特に【図2】に示された対物レンズ5を参照)から、引用文献5には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「引用文献5技術事項」という)。
[引用文献5技術事項]
「入射光学系、出射光学系及び集光光学系を対物レンズ5の凸状表面において連続して形成して一体化された光学系とすること。」

ウ 引用文献7に記載された事項と技術常識1の認定
(ア) 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する文献である特開平6−139647号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0012】図1は本発明の第1の実施例における情報再生装置の構成図である。図1において、1は円盤状の記録媒体であり、材質はポリカーボネイト樹脂(屈折率1.59)である。上記記録媒体1の表面には同心円状の記録トラックが設けられている。各記録トラックにはd0からd3までの4種類の深さの異なるピットが形成されており、深さはそれぞれd0:0μm(すなわち本来の媒体表面)、d1:0.05μm、d2:0.11μm、d3:0.27μmである(図1ではその様子を模式的に表してある)。上記記録媒体1のピットが形成されている表層を記録層1bと称する。上記記録媒体1にはスピンドルモータ(図示せず)によって回転が与えられている。上記記録層1bに対向する位置には光ヘッド5が配されている。光ヘッド5は、エバネッセント波発生器10、半導体レーザ21、コリメータ22、入射光偏向プリズム23、反射光偏向プリズム24、レシーバレンズ25、フォトダイオード26から構成されている。半導体レーザ21からの放射光(波長780nm)はコリメータ22によってコリメートされた後、入射光偏向プリズム23によって偏向され、エバネッセント波発生器10に入射している。エバネッセント波発生器10は直角プリズムの直角を挟む2面に屈折力を有する非球面を形成したものであり、光学ガラスSF11(屈折率1.79)で一体成形されている。エバネッセント波発生器10の上記記録層1bに対向している面を反射面10a、入射側の非球面を集光レンズ10b、出射側の非球面を受光レンズ10cと称する。入射した光束は集光レンズ10bよって開口角70度で集光している。ビームウエストは反射面10aに一致しており、反射面10a上では入射角45.0度の平面波となっている。また偏光はP偏光となっている。反射面10aからの反射光は、受光レンズ10c(開口角70度)、反射光偏向プリズム24、レシーバレンズ25によってフォトダイオード26に導かれている。なお、上記構成要素の内、エバネッセント波発生器10、入射光偏向プリズム23、反射光偏向プリズム24は、動圧ヘッドスライダ(図示せず)に搭載されており、それらを可動部5aと総称する。動圧ヘッドスライダは記録トラック幅に比べ十分大きく、流体潤滑効果により反射面10aから非トラック部分(すなわち本来の媒体表面)までの垂直距離が常に0.07μmに保たれよう可動部5aは記録媒体1に追従している。以下その距離を浮上量hと称する。
…中略…
【0015】次に、再生過程について図1、図2を用いて説明する。本実施例における再生過程は、以下に述べるようにアテヌエーテッド・トータル・リフレクションに起因する上記反射面10aの反射率減衰からピット深さを検出し、それを元の情報に復調するものである。一般に、屈折率の大きい媒質と小さい媒質との境界面に対して光が臨界角以上の角度で入射するとき、全反射が生じ境界面の反射率は1となる。しかしながら屈折率の小さい媒質中にもエネルギは存在し、境界面から離れるにしたがって指数関数的に減衰するエバネッセント波と呼ばれる非放射光として局在する。エバネッセント波の等価的進入距離は境界面の屈折率差及び入射角に依存するが、通常1波長以下である。そこで第3の媒質を境界面に極近接させて配置するとその距離に応じてエネルギが流入し反射率は減衰する。この現象はアテヌエーテッド・トータル・リフレクション(あるいはフラストレーテッド・トータル・リフレクション)と呼ばれ、量子的には光子のトンネリング現象として説明される。本実施例は、反射面10aへの入射角が45.0度と臨界角34.0度より大きく、かつ記録層1bが反射面10aに波長以下の距離で近接して配してあるため、上記アテヌエーテッド・トータル・リフレクションが生じ、反射面10aとスポット直下の記録層1b表面との距離(以下、この距離を隙間sと称する)に応じて反射面10aの反射率が変化する。図2は、第1の実施例における反射率と隙間sとの関係を示す図である。隙間sが0μmすなわちスポット直下において反射面10aと記録媒体1が接触しているとき反射率は0、また隙間sが0.5μm以上のとき反射率はほぼ1で全反射とみなせる。その間で反射率は隙間sに対して単調増加する。したがって、反射率を検出すれば、そのときの隙間sを一意的に決定することができる。いま、隙間sは浮上量hとスポット直下のピットの深さとの和である。深さd0〜d3の各ピットに対する反射率は、d0:20%、d1:55%、d3:70%、d4:95%である。したがって、各ピットは反射率25%の差で判別される。記録媒体1の回転に伴って、フォトダイオード26から4値に振幅変調された時系列的信号が得られ、それを復調し元の情報を再生する。」
「【図1】



(イ) 技術常識1の認定
前記(ア)に摘記した事項(特に【図1】に示された半導体レーザ21の配置を参照)に例示されるように、次の事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という)。
[技術常識1]
「エバネッセント光の基となる光を発生させる光源の光軸の方向が、エバネッセント光を発生させる物体のエバネッセント光が発生する表面の法線方向と平行となるように、光源を配置可能なこと。」

エ 引用文献1に記載された事項と技術常識2の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である米国特許第5715060号明細書(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。摘記の後の括弧内に合議体が作成した日本語訳を示す。
a 4段落15〜31行
「 The operation of the apparatus 10 is based on the technique of Total Internal Reflection Microscopy (TIRM) and will be described generally with reference to the drawings for the purpose of illustrating present preferred embodiments of the invention only and not for purposes of limiting the same. Referring to FIGS. 4 and 5, in accordance with the present invention, a source 12 is used to direct incident electromagnetic radiation 13 into a radiation transparent first body 14 toward an interface with a medium 16 at an angle equal to or exceeding the critical angle, θc , for TIR in the first body 14. If a second body 18 having a higher index of refraction, n3 , than the medium is placed in close proximity to the first body 14, TIR can be frustrated resulting in a transmission of some amount of the radiation 20 through the medium 16 and into the second body 18; the intensity of the reflected radiation 22 will be diminished by the amount of the transmitted radiation 20.」
(装置10の動作は、全反射顕微鏡(TIRM)の技術に基づいており、本発明の現在の好ましい実施形態を例示する目的のみのために図面を参照して一般的に説明され、本発明を限定する目的のためではない。図4及び図5を参照すると、本発明によれば、光源12を使用して、第一の本体14におけるTIRのために、臨界角θc以上の角度で、媒体16との界面に向かって、入射電磁放射線13を放射線透過性の第一の本体14に向ける。媒体よりも高い屈折率n3を有する第二の物体18が第一の物体14に近接して配置されると、TIRが妨げられ、その結果、いくらかの量の放射20が媒体16を通って第三の物体18に透過し、反射された放射22の強度は、透過した放射20の量だけ減少する。)

b 5段落34〜43行
「 A detector 24 is positioned to detect the intensity of the scattered radiation 19 and is attached to a data acquisition/analysis system 26 for processing the detected signals to determine the distance between the first and second bodies 14 and 18, respectively. While current preferred embodiments of the invention will be further described with respect to use of the apparatus 10 for testing the flying height of a magnetic head above a hard disk drive, one skilled in the art will appreciate that the invention can be suitably modified for use in other applications.」
(検出器24は、散乱放射線19の強度を検出するように位置し、第一及び第二の本体14と18の間の距離を決定するために検出信号を処理するためのデータ収集/解析システム26にそれぞれ取り付けられている。本発明の現在の好ましい実施形態は、さらに、ハードディスクドライブ上の磁気ヘッドの浮上量を検査するための装置10の使用に関して説明するが、当業者は、本発明が他の応用における使用に対して適切に修正することができることを理解するであろう。)

c 7段落1〜14行
「 In a preferred embodiment, the detector 24 is a CCD camera 24 directed toward the second surface 30 of the first body 14 opposite the location of the second body 18. It is also preferred that a microscope 40 is attached to the camera 24 to provide for focusing the viewing range of the camera 24 to discriminate the surface scattering, such as in mapping applications to allow the measuring of the intensity of the scattered radiation 19 at discrete locations on the opposing surface 36 of the second body 18.」
(好ましい実施形態では、検出器24は、第二の本体18の位置に対向する第一の本体14の第二の表面30に向けられたCCDカメラ24である。顕微鏡40がカメラ24に取り付けられて、第二の本体18の対向する表面36上の離散的な位置での散乱放射線19の強度の測定を可能にするマッピング用途などにおいて、表面散乱を区別するためにカメラ24の視野範囲の焦点を合わせることを可能にすることも好ましい。)

d 図4




e 図5




(イ) 技術常識2の認定
前記(ア)に摘記した事項(特に図4に示された散乱光19、顕微鏡40、CCDカメラ24を参照)に例示されるように、次の事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という)。
[技術常識2]
「エバネッセント光を発生させる物体の裏面側において、集光光学系で集光された散乱光を受光する受光センサが、集光光学系を挟んでエバネッセント光の局在領域と対向し、当該集光光学系の光軸中心上に配置できること。」

(3) 対比・判断
ア 対比
(ア) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
a(a) 引用発明の「光ヘッド3」及び「記録媒体9」は、それぞれ本件補正発明の「第1の物体」及び「第2の物体」に相当する。
(b) 引用発明では、「近接場光N1,N2のそれぞれの到達距離d1,d2を、光ヘッド3と記録媒体9との適正間隔に一致させて設定しておき、光ヘッド3と記録媒体9との適正間隔を40nm〜100nmとして定める場合には、近接場光N1の到達距離d1を100nmに設定し、近接場光N2の到達距離d2を40nmに設定しておき」、「距離d1とd2との間に物体が存在すれば、近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが物体に到達することにな[る]」としているから、引用発明の「近接場光N1の到達距離d1」(100nm)は、本件補正発明の「設定値」に相当し、引用発明の「近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが物体に到達すること」は、「光ヘッド3」及び「記録媒体9」の間隔が「到達距離d1」に到達したことを意味するから、本件補正発明の「第1の物体の表面と第2の物体との間の近接距離が設定値に到達した」ことに相当する。
(c) 引用発明では、「コントローラ8」が「記録媒体9と光ヘッド3(特に固浸レンズ32における近接場光の浸み出し位置である底面位置)との間隔が適正間隔となっているかどうかを判断」しており、「コントローラ8は、アーム駆動機構4および回転機構部2に対して駆動制御信号を与えたり、信号の入出力等の各部の動作を制御したり、光ヘッド3と記録媒体9との間隔を制御するように構成されて」いるから、「近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが物体に到達」した際にコントローラ8から出力される制御信号は、本件補正発明の「到達信号」に相当する。
(d) 前記(a)〜(c)の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「第1の物体の表面と第2の物体との間の近接距離が設定値に到達した際に到達信号を出力する」という点で一致する。

b(a) 引用発明の「光ヘッド3」が備える「固浸レンズ32」は、「間隔検出用の近接場光を発生させるための近接場光発生手段として機能する部材」であり、「間隔検出」では、「記録媒体9と光ヘッド3(特に固浸レンズ32における近接場光の浸み出し位置である底面位置)との間隔が適正間隔となっているかどうかを判断」するから、引用発明の「光ヘッド3」の「固浸レンズ32」の「底面」は、本件補正発明の「透光性を有し前記第2の物体と対向する前記第1の物体の表面」に相当する。
(b) 引用発明では、「全反射面となる固浸レンズ32の底面より垂直下方向きに微小スポットの近接場光RN,N1,N2が浸み出し」ているところ、引用発明の「近接場光N1」は、本件補正発明の「近接場光L0」に相当する。
(c) 引用発明の「近接場光N1」は、「到達距離d1」が「100nm」に設定されているから、「到達距離d1」(100nm)に相当する厚さの局在領域を有しているといえる。
(d) 引用発明の「近接場光N1」は、「第1の間隔検出用となるレーザ光L1によって生じた近接場光」であるから、この「レーザ光L1」に係る光学手段(レーザ光源521、集光レンズ系522、固浸レンズ32を含む)は、本件補正発明の「前記設定値に相当する厚さの近接場光L0の局在領域を発生させる近接場光発生手段」に相当する。
(e) (a)〜(d)の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明は「透光性を有し前記第2の物体と対向する前記第1の物体の表面に、前記設定値に相当する厚さの近接場光L0の局在領域を発生させる近接場光発生手段」を有する点で一致する。

c(a) 引用発明では、「近接場光N1,N2のうちの近接場光N1だけが記録媒体9とカップリングすれば、そのカップリングした光成分が記録媒体9の表面で反射することになり」、「近接場光N1,N2が記録媒体9に到達して反射する光は拡散反射するもの」であるから、引用発明の記録媒体9が近接場光N1とカップリングした際に生じる拡散反射光は、本件補正発明の「前記第2の物体が前記近接場光L0の局在領域に進入した際に生じる散乱光S1」に相当する。
(b) 引用発明では、「検出器331はレーザ光L1によって生じた近接場光N1が記録媒体9の記録面に到達し、それによって伝搬光となった光成分の反射光量を検出するように構成」されているから、引用発明の「検出器331」は、本件補正発明の「散乱光検知手段」に相当する。
(c) 前記(a)及び(b)の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記第2の物体が前記近接場光L0の局在領域に進入した際に生じる散乱光S1を検知する散乱光検知手段」を有する点で一致する。

d(a) 引用発明では、「コントローラ8は、検出器331,332を介して到達距離d1の近接場光N1による反射光と、到達距離d2の近接場光による反射光とを検出し、検出された反射光が近接場光N1による反射光のみであれば、光ヘッド3(特に固浸レンズ32の底面位置)に対する記録媒体9の表面位置が到達距離d2よりも遠く、かつ、到達距離d1よりも近い位置にあり、光ヘッド3と記録媒体とが適正間隔であることが判明」するから、前記a(c)の検討結果を踏まえると、引用発明の「コントローラ8」は、検出器331が近接場光N1による拡散反射光を検出したことを受けて、制御信号(「到達信号」に相当する。)を出力しているといえる。
(b) そうすると、引用発明の「コントローラ8」は、本件補正発明の「判定手段」に相当するから、本件補正発明と引用発明は、「前記散乱光検知手段が前記散乱光S1を検知したことを受けて、前記到達信号を出力する判定手段」を有する点で一致する。

e(a) 引用発明の「近接場光N1」を生じさせる「第1の間隔検出用となるレーザ光L1」を発する「レーザ光源521」は、本件補正発明の「光源」に相当する。
(b) 引用発明では、固浸レンズ32に入射したレーザ光L1は、集光レンズ系522によって固浸レンズ32の底面側に集光され、固浸レンズ32の底面にて全反射するように設定されているから、引用発明の「固浸レンズ32」は、本件補正発明の「入射光学系」と、「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように配置されて前記光源からの光を前記第1の物体の表面の裏側で全反射させる」点で共通する。
(c) 引用発明では、「固浸レンズ32の底面にて全反射した光成分は、固浸レンズ32を透過して固浸レンズ32から遠ざかる」から、引用発明の「固浸レンズ32」は、本件補正発明の「反射光学系」と、「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように該第1の物体の裏面側に配置されて該第1の物体の表面の裏側で全反射した光を前記第1の物体の裏面側」に出射させる点で共通する。
(d) (a)〜(c)の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記近接場光発生手段は、光源と、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように配置されて前記光源からの光を前記第1の物体の表面の裏側で全反射させる入射光学系と、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように該第1の物体の裏面側に配置されて該第1の物体の表面の裏側で全反射した光を前記第1の物体の裏面側に出射させる反射光学系とを備え[る]」点で共通する。

f 引用発明の「検出器331」は、本件補正発明の「受光センサ」に相当するから、前記cの検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記散乱光検知手段は、前記散乱光S1を受光する受光センサ」を備える点で共通する。

g(a) 本件補正発明の「超近接スイッチ」について、明細書の段落【0001】には、「本発明は、近接距離を、例えば、20〜100nmの精度で検知する超近接距離の検知方法及びそれを用いた超近接スイッチに関する。ここで、超近接距離とは、例えば、0又は0を超え1000nm以下の範囲の近接距離をさす。また、超近接スイッチとは、例えば、0又は0を超え1000nm以下の範囲内において、20〜100nmの精度で位置の変化を検知して信号を出力する近接スイッチをさす。」と記載されている。
(b) 引用発明は、「近接場光N1の到達距離d1を100nmに設定し、近接場光N2の到達距離d2を40nmに設定[する]」から、「0又は0を超え1000nm以下の範囲内」という条件を満たすことは明らかである。
そして、引用発明は、「光記録装置における光ヘッドと記録媒体の間隔検出方法および間隔制御方法は、他の装置に適用することも可能であり」、「近接センサ等のような第1の物体と第2の物体との微小な間隔(光の波長よりも短いような間隔)を検出する間隔検出装置を実現することができ、数十nmのオーダーで間隔が変化した場合であっても検出可能となる」としているから、引用発明の「間隔検出装置」が「100nm」の精度より良い精度を有することは明らかである。
(c) そうすると、引用発明の「近接センサ」は、本件補正発明の「超近接スイッチ」に相当するといえるから、本件補正発明と引用発明は、「超近接スイッチ」の発明である点で一致する。

(イ) 一致点及び相違点の認定
前記(ア)の対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
a 一致点
「第1の物体の表面と第2の物体との間の近接距離が設定値に到達した際に到達信号を出力する超近接スイッチであって、
透光性を有し前記第2の物体と対向する前記第1の物体の表面に、前記設定値に相当する厚さの近接場光L0の局在領域を発生させる近接場光発生手段と、
前記第2の物体が前記近接場光L0の局在領域に進入した際に生じる散乱光S1を検知する散乱光検知手段と、
前記散乱光検知手段が前記散乱光S1を検知したことを受けて、前記到達信号を出力する判定手段とを有し、
前記近接場光発生手段は、光源と、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように配置されて前記光源からの光を前記第1の物体の表面の裏側で全反射させる入射光学系と、前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように該第1の物体の裏面側に配置されて該第1の物体の表面の裏側で全反射した光を前記第1の物体の裏面側に出射させる反射光学系とを備え、
前記散乱光検知手段は、前記散乱光S1を受光する受光センサを備える、
超近接スイッチ」である点。

b 相違点
本件補正発明においては、
「入射光学系」が「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体及び前記光源と重なるように前記第1の物体と前記光源との間に配置されて前記光源からの光を屈折させて」おり、
「反射光学系」が「全反射した光を前記第1の物体の裏面側に屈折させる」ものであり、
「散乱光検知手段」が「前記第1の物体の裏面側で前記入射光学系と前記反射光学系との間に前記局在領域と対向して配置され前記散乱光S1を集光する集光光学系」を備え、
「受光センサ」が「前記第1の物体の裏面側」に配置されて「該集光光学系で集光された前記散乱光S1を受光する」ものであり、
「前記入射光学系、前記反射光学系及び前記受光センサ側に凸面を有する前記集光光学系は、表面に前記近接場光L0が発生する前記第1の物体の裏面側に連続して形成されて該第1の物体と一体になって」おり、(以上を以下「部分相違点A」という。)
「光源」が「前記第1の物体の表面側から平面視して該第1の物体と重なるように前記第1の物体の裏面側に配置される」ものであり、
「受光センサ」が「前記第1の物体の裏面側に前記集光光学系を挟んで前記局在領域と対向し該集光光学系の集光部と中心が一致するように配置され[る]」ものである(以上を以下「部分相違点B」という。)のに対して、
引用発明においては、
レーザ光源521が、第1の間隔検出用光学系52の集光レンズ系522を介してレーザ光L1を光ヘッド3の所定位置に導くように配置されており、光ヘッド3の上方から平面視すると、光ヘッド3と重なるように配置されておらず、レーザ光L1は固浸レンズ32において屈折しているとはいえず(引用文献2の【図3】を参照)、
光量検出手段33(検出器331)は、固浸レンズ32の底面の周囲近傍に設けられており、
固浸レンズ32は、入射光学系、反射光学系及び集光光学系が連続して形成されたものではなく、
レーザ光源521は、「光ヘッド3の表面側から平面視して光ヘッド3と重なるように光ヘッド3の裏面側に配置される」ものではなく、
光量検出手段33(検出器331)は、「光ヘッド3の裏面側に集光光学系を挟んで局在領域と対向し集光光学系の集光部と中心が一致するように配置されるもの」ではない点。

イ 判断
(ア) 部分相違点Aについて
a 「エバネッセント光を発生させる物体の裏面側において、当該物体の表面の法線方向に沿って物体の表面側から平面視して物体と重なる方向から入射したレーザ光が当該表面の裏側で全反射するように、入射光学系において照射レーザ光を屈折させ、全反射した光を出射光学系において当該法線方向に沿って屈折させ、エバネッセント光の局在領域において生じた散乱光を、エバネッセント光を発生させる物体を介して、かつ、入射光学系と出射光学系の間の空間にある光路を通して受光すること」は周知技術である(周知技術1を参照)。
b(a) ここで、引用発明では、「記録光学系51からのレーザ光RLが記録媒体9の記録面に垂直な上方側より入射するように構成されて[いる]」ものの、引用文献2の【図6】、【0066】〜【0079】を参照すると、引用文献2では、「データの記録や再生のための近接場光RNは光ヘッド3bに別途設けられた光ファイバ36の先端部より記録媒体9に向けて浸み出すように構成されてもよ[い]」としているから、レーザ光RLを固浸レンズ32に垂直入射させる以外の記録光学系51の配置も可能である。
(b) さらには、引用発明は、「光記録装置における光ヘッドと記録媒体の間隔検出方法および間隔制御方法は、他の装置に適用することも可能であ[る]」(【0106】参照)から、記録光学系51がそもそもないものも想定している。
c そうすると、引用発明において、「近接場光N1」を生じさせる「レーザ光L1」を前記周知技術1に示された形態に倣って照射することにより、「固浸レンズ32」(「入射光学系」及び「反射光学系」に相当)において「レーザ光L1」を屈折入射させて、全反射した光を屈折出射させるとともに、記録媒体9が近接場光N1とカップリングした際に生じる拡散反射光を、前記周知技術1に示された形態に倣って検出器331が受光するように構成することは当業者ならば格別の困難性はない。
d そして、引用文献5技術事項には、「入射光学系、出射光学系及び集光光学系を対物レンズ5の凸状表面において連続して形成して一体化された光学系とすること」が開示されているから、引用発明において、前記周知技術1に示された形態に倣ったレーザ光L1の照射及び拡散反射光の受光を行う際に、「固浸レンズ32」を入射光学系、出射光学系及び集光光学系が一体化されたものとして構成することは、当業者にとって自明な設計変更にすぎないというべきである。

(イ) 部分相違点Bについて
a 「エバネッセント光の基となる光を発生させる光源の光軸の方向が、エバネッセント光を発生させる物体のエバネッセント光が発生する表面の法線方向と平行となるように、光源を配置可能なこと」は技術常識であり(技術常識1を参照)、また、「エバネッセント光を発生させる物体の裏面側において、集光光学系で集光された散乱光を受光する受光センサが、集光光学系を挟んでエバネッセント光の局在領域と対向し、当該集光光学系の光軸中心上に配置できること」も技術常識である(技術常識2を参照)。
b そして、前記(ア)bにおいて検討したとおり、引用発明では、レーザ光RLを固浸レンズ32に垂直入射させる以外の記録光学系51の配置も可能であるところ、引用発明において、前記周知技術1に示された形態に倣ったレーザ光L1の照射及び拡散反射光の受光を行う際に、上記技術常識1及び技術常識2に照らして、引用文献5のダイクロックミラー6のような光軸を直角に折り曲げる手段を介在させずに、レーザ光源511及び検出器331の光軸方向が光ヘッド3の表面の法線方向に一致するように配置することは、光学的に等価な配置である選択肢の中から当業者が適宜選択し得た事項にすぎないというべきである。
c そうすると、引用発明において、レーザ光源511が光ヘッド3の表面側から平面視して光ヘッド3と重なるように前記光ヘッド3の裏面側に配置され、検出器331が光ヘッド3の裏面側に固浸レンズ32を挟んで近接場光N1と対向し固浸レンズ32と中心が一致するように配置されることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ) 総合評価
前記部分相違点A及びBについての検討結果を総合すると、引用発明において、前記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件補正発明の奏する効果としては、引用発明、周知技術1、引用文献5技術事項及び技術常識1、2から当業者が予測困難で、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術1、引用文献5技術事項及び技術常識1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 請求人の主張について
(ア) 審判請求書の主張内容
請求人の主張は、概略次のとおりである。
<主張a>
引用文献2では、レーザ光L1は、第1の物体(ヘッド本体31)の斜め上方から直接、第1の物体の表面の裏側に照射されて全反射し、反射した光がそのまま第1の物体の裏面側から出射しており、本願発明の構成とは異なる。
引用文献2の図2の集光レンズ系(集光光学系)は光源から照射される光を集光するものであり、散乱光を光量検出手段(受光センサ)に対して集光するものではない。

<主張b>
本願発明は、入射光学系、反射光学系及び集光光学系からなる光学系をコンパクトに構成できるだけでなく、別途、集光レンズを配置することなく散乱光の集光効率を高め、受光センサに対して確実に結像させることができ、超近接距離の測定の正確性及び安定性に優れるものであるから、集光光学系が、第1の物体の裏面側で入射光学系と反射光学系との間に局在領域と対向して配置され、入射光学系、反射光学系及び受光センサ側に凸面を有する集光光学系が、表面に近接場光L0が発生する第1の物体の裏面側に連続して形成されて第1の物体と一体になった構造及び配置に関して、適宜なし得る(単なる設計事項である)とはいえない。

(イ) 請求人の主張についての検討
a 主張aについての検討
前記イ(ア)において説示したとおり、引用発明(引用文献2)において、周知技術1(引用文献5)に示された形態に倣ったレーザ光L1の照射及び拡散反射光の受光を行うより、レーザ光L1を記録媒体9の記録面に垂直な上方から入射させ、固浸レンズ32においてレーザ光L1を屈折入射及び屈折出射させるように構成することは当業者ならば格別の困難性はない。
また、前記イ(イ)において説示したとおり、引用発明(引用文献2)において、拡散反射光を受光する検出器331が、光ヘッド3の裏面側において、固浸レンズ32を挟んで近接場光N1と対向し、固浸レンズ32と中心が一致するように配置されることについても、周知技術1(引用文献5)及び技術常識2から、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。
そして、請求人は、審判請求書において引用文献5に開示された技術に対して何ら反論をしていない。
したがって、主張aを採用することはできない。

b 主張bについての検討
前記イ(ア)において説示したように、引用発明において、前記周知技術1に示された形態に倣ったレーザ光L1の照射及び拡散反射光の受光を行う際に、「固浸レンズ32」を入射光学系、出射光学系及び集光光学系が一体化されたものとして構成することは、引用文献5技術事項からみて当業者にとって自明な設計変更にすぎない。
また、光学系のコンパクト化や測定の正確性及び安定性についても、前記イ(イ)において説示したとおり、引用発明において、引用文献5のダイクロックミラー6のような光軸を直角に折り曲げる手段を介在させずに、レーザ光源511及び検出器331の光軸方向が光ヘッド3の表面の法線方向に一致するように配置することは、光学的に等価な配置である選択肢の中から当業者が適宜選択し得た事項にすぎない。
よって、主張bを採用することはできない。

エ 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1〜8に係る発明は、令和3年1月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に摘記した事項により特定されるとおりである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての進歩性欠如の理由は、次のとおりである。
なお、原査定においては、引用文献1を主たる引用文献とする進歩性欠如の理由と、引用文献2を主たる引用文献とする進歩性欠如の理由の2つの理由が示されている。

理由2(進歩性欠如)
本願発明は、下記の引用文献1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:米国特許第5715060号明細書
引用文献2:特開2001−194118号公報
引用文献3:特開2010−127624号公報
引用文献4:特開2006−170768号公報

3 引用文献に記載された事項
上記引用文献2には、第2の3(2)ア(イ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、周知技術1及び技術常識1、2は、前記第2の3(2)イ(イ)、ウ(イ)、エ(イ)においてそれぞれ認定したとおりである。

4 対比・判断
(1) 対比
前記第2の3(3)ア(ア)の対比分析における検討結果も踏まえて、本願発明と引用発明を対比すると、本願発明と引用発明の相違点は、次の相違点A´のとおりであり、両者はその余の点で一致する。
<相違点A´>
本願発明では、
「光源」が「前記第1の物体の裏面側に配置され」、
「入射光学系」が「前記第1の物体と前記光源との間に配置され、前記光源からの光を屈折させ」、
「反射光学系」が「全反射した光を前記第1の物体の裏面側に屈折させる」ものであり、
「散乱光検知手段」が「前記第1の物体の裏面側に配置され[る]」ものであるのに対して、
引用発明では、レーザ光源521が、光ヘッド3の上方から平面視すると、光ヘッド3と重なるように配置されておらず、レーザ光L1は固浸レンズ32において屈折しているとはいえず、光量検出手段33(検出器331)は、固浸レンズ32の底面の周囲近傍に設けられている点。

(2) 相違点A´についての判断
前記第2の3(3)イにおいて説示した本件補正発明と引用発明の相違点についての判断を踏まえると、前記相違点A´に係る構成は、引用発明、周知技術1及び技術常識1、2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の奏する作用効果としては、引用発明、周知技術1及び技術常識1、2からは予測困難で、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び技術常識1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-11 
結審通知日 2022-11-15 
審決日 2022-11-30 
出願番号 P2016-239439
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01B)
P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 後藤 慎平
濱野 隆
発明の名称 超近接スイッチ  
代理人 中前 富士男  

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