ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C21D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C21D 審判 全部申し立て 2項進歩性 C21D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C21D |
---|---|
管理番号 | 1394024 |
総通号数 | 14 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-09-26 |
確定日 | 2023-02-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7044216号発明「焼鈍分離剤用粉末およびその製造方法ならびに方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7044216号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7044216号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、2021年(令和3年)8月25日(優先権主張:令和2年8月28日)を国際出願日とする出願(特願2021−576532号)に係るものであって、令和4年3月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年3月30日である。)。 その後、令和4年9月26日に、本件特許の請求項1〜4に係る特許に対して、特許異議申立人である合同会社SAS(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 方向性電磁鋼板の製造において焼鈍分離剤として用いる粉末であって、酸化マグネシウムが主成分であり、窒素ガス通気性が0.020cm/s以上0.50cm/s以下である焼鈍分離剤用粉末。 【請求項2】 166メッシュふるい残分が0.5質量%以下である請求項1に記載の焼鈍分離剤用粉末。 【請求項3】 請求項1または2に記載の焼鈍分離剤用粉末の製造方法であって、クエン酸活性度が300秒以上かつ、330メッシュふるい残分が10質量%以上90質量%以下含まれる酸化マグネシウムを、前記焼鈍分離剤用粉末全てに対して5質量%以上50質量%以下添加する焼鈍分離剤用粉末の製造方法。 【請求項4】 請求項1または2に記載の焼鈍分離剤用粉末を用いる方向性電磁鋼板の製造方法。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 本件特許の請求項1〜4に係る特許は、下記1〜4のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は、甲第1号証及び甲第2号証(以下、単に「甲1」等という。下記5を参照。)である。 1 申立理由1(新規性) 本件発明1〜4は、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1〜4に係る特許は、同法113条2号に該当する。 2 申立理由2(進歩性) 本件発明1〜4は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1〜4に係る特許は、同法113条2号に該当する。 3 申立理由3(実施可能要件) 本件発明1及び2については、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法113条4号に該当する。 4 申立理由4(サポート要件) 本件発明1及び2については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法113条4号に該当する。 5 証拠方法 ・甲1 国際公開第2008/047999号 ・甲2 特開平2−70020号公報 第4 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性) (1)甲1に記載された発明 甲1の記載によれば、特に、請求項3の記載及び21頁10〜15行の記載を前提として、実施例5における発明56(表7)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「40%CAA値が55秒である活性MgOを75重量部と、平均粒径が58μmであり、40%CAA値が1000秒である不活性MgOを25重量部とを含むMgO混合物100重量部に、TiO25重量部、ホウ酸ナトリウム0.3重量部を添加した、高磁束密度方向性電磁鋼板の製造に用いられる焼鈍分離剤。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「高磁束密度方向性電磁鋼板の製造に用いられる焼鈍分離剤」は、技術常識に照らして、粒子の集合体、すなわち、粉末から構成されるものであることが明らかであるから、本件発明1における「方向性電磁鋼板の製造において焼鈍分離剤として用いる粉末」である「焼鈍分離剤用粉末」に相当する 甲1発明の焼鈍分離剤においては、「MgO」は「100重量部」含まれるから、焼鈍分離剤全体に対して95.0重量%(=100/(100+5+0.3))含まれるものである。一方、本件発明1における「酸化マグネシウムが主成分であ」るとは、本件明細書の記載(【0031】)によれば、「mass%で50%以上含まれる」ことをいうものと認められる。そうすると、甲1発明において、「MgO」が「100重量部」含まれることは、本件発明1において、「酸化マグネシウムが主成分であ」ることに相当する。 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、 「方向性電磁鋼板の製造において焼鈍分離剤として用いる粉末であって、酸化マグネシウムが主成分である、焼鈍分離剤用粉末。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1 焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」が、本件発明1では「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」であるのに対して、甲1発明では不明である点。 イ 相違点1の検討 (ア)まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 a 甲1には、焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」については、何ら記載されていない。また、甲1発明に係る焼鈍分離剤用粉末であれば、必ず、「窒素ガス通気性」が「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」となるかどうかは、不明である。 b この点、申立人は、甲1発明における不活性MgOの「粒径」は58μmであり、330メッシュは目開き45μmであることから、上記不活性MgOは330メッシュふるい残分となるとの認識を前提として、甲1発明の焼鈍分離剤用粉末は、330メッシュふるい残分の酸化マグネシウムを約24重量%(=25/(100+5+0.3))含ませているから、本件明細書の記載(【0026】、【0038】)を踏まえると、甲1発明の焼鈍分離剤用粉末は、「窒素ガス通気性」が「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」である蓋然性が高いと主張する。また、甲1発明の認定の基礎とした実施例5における発明56(表7)のほか、実施例5における発明57(表7)についても、同様に主張する。 しかしながら、甲1発明における不活性MgOは、その「平均粒径」が58μmであるというにすぎず(請求項3、21頁10〜15行、表7の欄外を参照。)、当該不活性MgOを構成する全ての粒子の「粒径」が58μmであるというものではないから、このような不活性MgOを構成する全ての粒子が330メッシュふるい残分になるとはいえない。申立人の主張は、その前提において失当であり、採用できない。また、実施例5における発明57(表7)についても、同様である。 c 以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に、相違点1の容易想到性について検討する。 a 上記(ア)aで述べたとおり、甲1には、焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」については、何ら記載されておらず、また、甲1発明に係る焼鈍分離剤用粉末であれば、必ず、「窒素ガス通気性」が「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」となるかどうかは不明である。 また、甲2にも、甲1発明において、焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」を「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。 b この点、申立人は、甲1には、不活性MgOの添加の目的が、鋼板間の雰囲気通気性を高めることにあり、これによりガラス被膜を均一にすることができることが記載されており、甲2には、仕上焼鈍時にコイル層間隔が十分でないと、ガス流通性が低下し、純化が悪く磁性劣化を招き、反対に、コイル層間隔を確保することでガス流通性をよくし、純化を促進すれば、磁性特性に優れる方向性電磁鋼板を得ることができるとの教示があるところ、鋼板中のインヒビターとしての窒素を純化することが、仕上焼鈍工程における酸化マグネシウムの役割であることは、当該分野の技術常識であるから、甲1発明において、より磁性特性の優れる方向性電磁鋼板を得ることができる酸化マグネシウムを得るために、その酸化マグネシウムによる雰囲気通気性を評価するにあたり、鋼板中のインヒビターとしての窒素の純化に着目し、窒素ガスを用いた通気性を測定すること、そして、その窒素ガス通気性を好ましい特定の範囲に調整することは、当業者であれば、容易になし得ることであると主張する。 しかしながら、甲1、甲2のいずれにおいても、焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」(本件明細書【0026】に記載された方法で測定されたもの)については、何ら記載されていないから、仮に、申立人が主張するように、「酸化マグネシウムによる雰囲気通気性を評価するにあたり、鋼板中のインヒビターとしての窒素の純化に着目し、窒素ガスを用いた通気性を測定すること」が着想できたとしても、甲1発明において、焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」を「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」とすることが動機付けられるとはいえない。よって、申立人の主張は採用できない。 c 以上によれば、甲1発明において、焼鈍分離剤用粉末の「窒素ガス通気性」を「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明2〜4について 本件発明2〜4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2〜4についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件発明1〜4は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 また、本件発明1〜4は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件) (1)申立人は、本件発明1、2は、焼鈍分離剤用粉末における窒素ガス通気性を0.020cm/s以上0.50cm/s以下の範囲に調整することで、二次再結晶(仕上焼鈍)開始前及び完了後(雰囲気温度1000℃)の両方における雰囲気通気性を最適化することにより、窒素や硫黄等の不純物の焼鈍雰囲気への拡散(インヒビター成分の純化)を促進することが可能な焼鈍分離剤用粉末を提供するものであること(本件明細書【0012】、【0013】)を指摘した上で、本件発明1、2において規定されているのは、単に室温での窒素ガス通気性にすぎず(同【0026】)、酸化マグネシウムの反応性については規定されていないから、本件発明1、2には、非常に高い反応性を有する酸化マグネシウムからなる焼鈍分離剤も含まれるところ、クエン酸活性度(CAA40)等の酸化マグネシウムの反応性は、高温での酸化マグネシウムの粒径に影響を与え、粉末の粒径が変化すれば、雰囲気通気性も変化すること(同【0039】)を考慮すれば、非常に高い反応性を有する酸化マグネシウムからなる焼鈍分離剤の場合であっても、上記効果が得られるとはいえず、本件発明1、2は、上記効果が得られない発明を含んでいるとして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、出願時の技術常識に照らして、本件発明1及び2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。 (2)しかしながら、本件明細書の記載(【0013】、【0026】)及び図1によれば、 ・焼鈍分離剤が二次再結晶開始前の鋼板層間(コイル層間)に塗布された状態における雰囲気通気性が重要であること、 ・上記状態は、規定量(4.0g)の試料を規定の体積(上記内径30mm×高さ10mmの円盤状の体積)の試験材に成型することで模擬できること、 ・上記状態における窒素ガス通気性は、上記試験材をセットした図1の装置を用い、試験材通過前後の雰囲気ガス差圧を規定値(1kPa)に調整した上で、室温(25℃±1℃)における窒素ガス通気性を測定することで模擬できること、 ・焼鈍を開始して炉内温度が高くなると焼鈍分離剤粉末の焼結が進行し、ガス通気性が変化することが考えられるが、二次再結晶前の鋼板窒化を制御するための温度(800〜1000℃)条件下又は二次再結晶完了後の1000℃の温度条件下についてであれば、上記の試料前処理を行うことによって、室温での窒素ガス通気性により評価することができること、 が理解できる。 また、本件明細書には、実施例及び比較例が記載されているところ(【0019】〜【0030】、表1〜3、【0042】〜【0054】、表4〜7)、これらのうち、例えば、表2のNo.2−2の焼鈍分離剤用粉末は、いずれも非常に高い反応性を有する酸化マグネシウムと解される、表1のNo.1−1(クエン酸活性度70秒)70gと同No.1−2(クエン酸活性度75秒)30gを混合して得られたものであるが、その窒素ガス通気性は「0.020」(cm/s)であり、本件発明1の「0.020cm/s以上0.50cm/s以下」を満たすものとなっている。そして、当該焼鈍分離剤用粉末を焼鈍分離剤として用いて製造した試料鋼板(方向性電磁鋼板)については、被膜外観の均一性に優れ、鋼板中のN、S濃度が低く、繰返し曲げ特性に優れることが示されている(表3)。 なお、表5のNo.5−5の焼鈍分離剤用粉末(表4のNo.4−4(クエン酸活性度90秒)98gを配合)、同No.5−12の焼鈍分離剤用粉末(表4のNo.4−1(クエン酸活性度70秒)90gと同No.4−2(クエン酸活性度70秒)10gを混合)等についても、上記表2のNo.2−2の焼鈍分離剤用粉末の場合と同様の結果が示されている(表6)。 そうすると、当業者であれば、「窒素ガス通気性が0.020cm/s以上0.50cm/s以下である」ことが特定される本件発明1、2に係る焼鈍分離剤用粉末において、非常に高い反応性を有する酸化マグネシウムを含む場合であっても、当該焼鈍分離剤用粉末を焼鈍分離剤として用いて製造した方向性電磁鋼板については、上記効果が得られることが理解できるといえる。 これに対して、申立人は、「窒素ガス通気性が0.020cm/s以上0.50cm/s以下である」ことが特定される本件発明1、2に係る焼鈍分離剤用粉末において、非常に高い反応性を有する酸化マグネシウムを含む場合に、上記効果が得られないことを示す具体的な根拠を示していない。 以上のとおりであるから、申立人が主張するように、本件発明1、2は、上記効果が得られない発明を含んでいるとはいえず、また、そのほかに具体的な根拠も見いだせないから、本件発明1、2について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合していないとはいえず、また、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合していないとはいえない。 (3)したがって、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-01-23 |
出願番号 | P2021-576532 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C21D)
P 1 651・ 113- Y (C21D) P 1 651・ 121- Y (C21D) P 1 651・ 536- Y (C21D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
井上 猛 宮部 裕一 |
登録日 | 2022-03-22 |
登録番号 | 7044216 |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | 焼鈍分離剤用粉末およびその製造方法ならびに方向性電磁鋼板の製造方法 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 川原 敬祐 |
代理人 | 杉村 光嗣 |