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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1394029
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-05 
確定日 2023-01-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第7058114号発明「レーザー溶着及びレーザーマーキングが可能な成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7058114号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7058114号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)12月12日を出願日とする特願2017−237437号であって、令和4年4月13日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、令和4年4月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、この特許に対し、令和4年10月5日に特許異議申立人 弁理士法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「申立人1」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4;以下、「申立て1」という。)を行い、同年同月19日に特許異議申立人 岡本 敏夫(以下、「申立人2」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4;以下、「申立て2」という。)を行った。

第2 本件特許発明
特許第7058114号の請求項1ないし4の特許に係る発明は、それぞれ、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい、これらをあわせて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であり、かつ、レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品であって、
熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラックを0.1〜0.4質量部含む樹脂組成物からなる成形品。
【請求項2】
前記カーボンブラックのDBP吸油量が116〜600cm3/100gである、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記熱可塑性芳香族樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
さらに、前記熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、無機充填材を20〜200質量部、及びエラストマーを10〜30質量部含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形品。」

第3 申立理由
各申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

1 申立て1について
1−1 申立理由1−1(甲1−1を引用文献とする新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という 。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
1−2 申立理由1−2(甲1−5を引用文献とする新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
1−3 申立理由1−3(甲1−1を主引用文献とし甲1−2を副引用文献とする進歩性
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−1に記載された発明及び甲1−2に記載された技術事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
1−4 申立理由1−4(甲1−5を主引用文献とし甲1−2を副引用文献とする進歩性
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−5に記載された発明及び甲1−2に記載された技術事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
1−5 申立理由1−5(甲1−1を主引用文献とし甲1−2及び甲1−4、又は甲1−4を副引用文献とする進歩性
本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−1に記載された発明並びに甲1−2及び甲1−4に記載された技術事項、又は甲1−4に記載された技術事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
1−6 申立理由1−6(甲1−5を主引用文献とし甲1−2及び甲1−4、又は甲1−4を副引用文献とする進歩性
本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1−5に記載された発明並びに甲1−2及び甲1−4に記載された技術事項、又は甲1−4に記載された技術事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
1−7 申立理由1−7(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4の記載は、同各項に記載された、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
1−8 証拠方法
申立人1は、証拠として、以下の文献を提出する。
・甲第1号証:特開2008−081621号公報(以下、甲第1号証を「甲1−1」という。)
・甲第2号証:特表2011−503274号公報(以下、甲第2号証を「甲1−2」という。)
・甲第3号証:JIS K 6217−4:2008(以下、甲第3号証を「甲1−3」という。)
・甲第4号証:特開2003−292752号公報(以下、甲第4号証を「甲1−4」という。)
・甲第5号証:特開2008−133341号公報(以下、甲第5号証を「甲1−5」という。)
・甲第6号証:特開2006−168221号公報(以下、甲第6号証を「甲1−6」という。)

2 申立て2について
2−1 申立理由2(甲2−1を主引用文献とする進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2−1に記載された発明及び甲2−2ないし甲2−6に記載された技術事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2−2 証拠方法
申立人2は、証拠として、以下の文献を提出する。
・甲第1号証:特開2008−081621号公報(以下、甲第1号証を「甲2−1」という。)
・甲第2号証:特開2005−187798号公報(以下、甲第2号証を「甲2−2」という。)
・甲第3号証:特開2008−106217号公報(以下、甲第3号証を「甲2−3」という。)
・甲第4号証:特開2015−093951号公報(以下、甲第4号証を「甲2−4」という。)
・甲第5号証:特表2004−514007号公報(以下、甲第5号証を「甲2−5」という。)
・甲第6号証:特開2006−199861号公報(以下、甲第6号証を「甲2−6」という。)

第4 当審の判断
当審は、申立人1及び申立人2が申し立てたいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 申立て1について
1−1 申立理由1−1、1−3、1−5について
ここでは、甲1−1を主たる引用文献とする、申立理由1−1、1−3、1−5をまとめて検討する。
(1)甲1−1、甲1−2、甲1−4の記載事項及び甲1−1に記載された発明
ア 甲1−1の記載事項
甲1−1には、次の記載がある。
「【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、
(B)カーボンブラック、
(C)アゾ系染料、
を含有するレーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、(B)カーボンブラックと(C)アゾ系染料との重量比(B)/(C)が、5より大きく且つ50より小さい範囲である、レーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対する、(B)カーボンブラックの配合量が0.05〜5重量部であり及び(C)アゾ系染料の配合量が0.001〜0.2重量部である請求項1に記載のレーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
・・・
【請求項4】
結晶化速度が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂より遅い結晶性の他の熱可塑性樹脂及び/又は非結晶性の他の熱可塑性樹脂と、無機繊維及び/又は有機繊維とをさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された黒色成形品。」

「【0001】
本発明は、レーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びこれを用いて形成された成形品並びにレーザー光加飾方法に関する。具体的には、該組成物を用いて形成された成形品の表面に、レーザー光を用いて、所望の文字や記号等の鮮明な加飾を施すことが可能な黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び黒色成形品並びに該黒色成形品表面にレーザー光を用いて白色系の文字や記号等の加飾を行うレーザー光加飾方法に関するものである。」

「【0021】
(B)カーボンブラック
本発明で使用されるカーボンブラックについては特に制限はない。一般に、樹脂組成物の着色に用いられているカーボンブラックの中から、適宜選択すればよい。カーボンブラックの平均一次粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは13nm以上であり、また好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。またカーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは30cm3/100g以上、より好ましくは45cm3/100g以上であり、また好ましくは500cm3/100g以下、より好ましくは130cm3/100g以下である。」

「【0026】
本発明の樹脂組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲において、強化充填剤を含有させてもよい。強化充填剤の例には、ガラス繊維、カーボン繊維(炭素繊維)、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維;及び芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などが含まれる。・・・
【0027】
・・・
強化充填剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対して、0〜150重量部であることが好ましく、中でも、剛性及び寸法安定性の向上の観点から、5〜100重量部であることが好ましい。」

「【0029】
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、エラストマー成分等の衝撃性改良成分を含有させてもよい。また、リン系、イオウ系化合物などの熱安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、光安定剤、離型剤、結晶化促進剤、滑剤、可塑剤などの公知の添加剤を含有させてもよい。」

「【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、これらは本発明を制限するものではない。
以下の実施例1〜4及び比較例1〜6にて使用した各種原材料は、以下の通りである。
(A)PBTとして、ノバデュラン(登録商標) 5008(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、固有粘度(η) 0.85dl/g、末端カルボキシル基 13eq/Ton)を用いた。
(B)カーボンブラックとして、商品名:MA600B(三菱化学株式会社製ファーネスブラック、平均一次粒径 20nm、DBP吸油量 115cm3/100g)を用いた。
(C)アゾ系染料として、商品名:NUBIAN BLACKEP−3(オリエント化学工業株式会社製のニグロシン)を用いた。
(D)ガラス繊維には、商品名:ECS03−T−187(日本電気ガラス株式会社製)を用いた。
(*1)ポリエチレンテレフタレートとして、商品名:ノバペットGS385(三菱化学社製、固有粘度〔η〕=0.65)を用いた。
(*2)ポリカーボネートとして、商品名:ノバレックス(登録商標)7022PJ(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品、粘度平均分子量:22000)を用いた。
【0034】
上記原料を表1及び表2に示す組成で、同方向回転二軸押出機(株式会社日本製鋼所製 TEX−30C)を用いて、設定温度:250℃、スクリュー回転数:200rpmの条件にて、それぞれ溶融混合し、各組成物を得た。
得られた組成物を用いて、射出成形機(株式会社日本製鋼所製JSW J75−ED型)にて、シリンダー温度:260℃、金型温度設定:80℃、射出/冷却=15/15[秒]の条件にて、100mm×100mm×3mmの平板状試験片として成形した。
得られた試験片(成形品)の表面に、下記のレーザーマーカー装置を使用して、レーザー光加飾を施した。次いで、目視によりレーザー照射部分(印字部分)の鮮映性(明瞭性)、素地及び文字の色調を判定し、同時に下記のカラーメーターにより、レーザー照射部分と非照射部分との△Eを測定した。結果を下記表1及び2に示す。
[レーザーマーカー装置]
レーザーマーカー:日本電気(株)製 レーザーマーカーエンジン
型式 SL475H
Nd:YAGレーザー(固有波長1064nm)スキャン方式
[ΔEの測定装置]
カラーメーター:コニカミノルタ製 分光測色計
型式 CM−3600d SCE(正反射光除去)測定
【0035】
また、鮮映性について次の基準で判定した。
[鮮映性判定基準]
◎ :素地とレーザー光加飾箇所とのコントラストが鮮やかであり、容易に加飾文字などの識別が可能。
○ :素地とレーザー光加飾箇所とのコントラストがあり、一応加飾文字などの識別が可能。
△ :素地とレーザー光加飾箇所とのコントラストが小さく、注意してみれば加飾文字などの識別が可能。
× :素地とレーザー光加飾箇所とのコントラストがほとんどなく、加飾文字などの識別が困難。
結果を、下記表1及び2に示す。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】
表1及び表2に示す結果より、次のことが理解できる。
1)カーボンブラックとアゾ系染料の重量配合比率が本発明の範囲内の実施例1〜5はいずれも発色性(ΔE)、鮮映性が良好で、黒地に白色文字のため鮮やかでありレーザーマーキング性に優れている。実施例3や実施例5では、全組成物中にカーボンブラック0.5重量%以上配合したにもかかわらず、良好なレーザーマーキング性能を示しており、特許文献1に記述されている、「カーボンブラック0.5重量%以上では樹脂成形品表面の蝕刻が激しくなりコントラストの良いマーキングが難しくなる」という現象は認められず、この結果は、本発明が特許文献1に記載の技術内容とは異なることを示唆する。
2)カーボンブラックとアゾ系染料の配合比率が本発明の範囲から外れる比較例1〜7においては、発色性(ΔE)及び鮮映性が不十分であり、レーザーマーキング性は実用に耐えるとはいえない。特に比較例3は、カーボンブラックとアゾ系染料の重量配合比率が2.1であり、カーボンブラックとアゾ系染料の合計配合量が0.43重量部と、カーボンブラックとアゾ系染料の配合については特許文献2の範囲内であるが、レーザーマーキング性が不十分であり、この結果は、特許文献2に記載の組成物とは樹脂の種類が異なっていることに起因するものと考えられる。また、特に、実施例5と比較例7との比較から、ガラス繊維を使用しない場合は、カーボンブラックとアゾ染料との重量比率が本件発明の範囲外であると、特に、引張強度や破断伸びの低下が著しいことが理解できる。
3)本発明の優れたレーザーマーキング性は、上述した通り、所定の重量比率のカーボンブラックとアゾ系染料とを、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中に含有させることで、はじめてもたらされるものである。」

イ 甲1−1に記載された発明
甲1−1の比較例1は、レーザーマーキング性としては実用に耐えるものではないものの、鮮鋭性が「○」となっており、素地とレーザー光加飾箇所とのコントラストがあり、一応加飾文字などの識別が可能なものであるから、レーザー加飾用として機能し得るものと認められる。
そこで、甲1−1の比較例1に着目すると、甲1−1には、以下の発明が記載されているといえる。
「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン(登録商標) 5008(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、固有粘度(η) 0.85dl/g、末端カルボキシル基 13eq/Ton))100重量部、
(B)カーボンブラック(商品名:MA600B(三菱化学株式会社製ファーネスブラック、平均一次粒径 20nm、DBP吸油量 115cm3/100g))0.29重量部、
(D)ガラス繊維(商品名:ECS03−T−187(日本電気ガラス株式会社製))43重量部、を含有するレーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された黒色成形品。」(以下、「甲1−1発明」という。)

ウ 甲1−2の記載事項
甲1−2には、次の記載がある。
「【0004】
多くの技術工程(プラスチックのレーザー溶着及びマーキング、コーティングのNIR硬化及び乾燥、印刷の乾燥、紙のレーザーマーキング、接着剤の硬化及び乾燥、インクトナーの基材への定着、プラスチック予備成形体の加熱など)には、効率的で迅速かつ局所集中的な、赤外線による熱入力が要求される。赤外線の熱への変換は、熱が必要とされる箇所に、適切なIR吸収材を配置することによって実現される。カーボンブラックは、このような工程のための、よく知られた効率的なIR吸収剤である。しかしながら、カーボンブラックには、1つの大きな欠点がある:それはその黒色が濃いことである。従ってカーボンブラックは、(黒又は灰色以外に)着色された、着色されていない、白色の、又は透明のシステムには適用することができない。このようなシステムに対して、「白色又は無色のカーボンブラック」は、技術的な需要が高い。」

エ 甲1−4の記載事項
甲1−4には、次の記載がある。
「【請求項1】(A)ポリブチレンテレフタレートまたは、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート共重合体からなるポリブチレンテレフタレート系樹脂と、(B)ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリフェニレンオキシド、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の樹脂を配合してなり、(B)は、(A)と(B)の合計に対し1〜50重量%であるレーザ溶着用樹脂組成物。
【請求項2】さらに(C)無機充填材及び有機系充填材から選択される少なくとも1種を、(A)、(B)の合計量100重量部に対し、1〜200重量部添加配合してなる請求項1記載のレーザ溶着用樹脂組成物。
【請求項3】さらに(D)スチレン系エラストマを(A)、(B)の合計量100重量部に対し、1〜50重量部添加配合してなる請求項1〜2いずれかに記載のレーザ溶着用樹脂組成物。
・・・
【請求項5】請求項1〜4いずれかに記載のレーザ溶着用樹脂組成物からなる成形品をレーザ溶着した複合成形体。」

「【0064】・・・尚、レーザ光線透過試料へは本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂を用い、レーザ光線吸収側試料へは、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、ガラス繊維を43重量部添加し、更にはカーボンブラックを0.4部添加した材料を用いた。」

(2)対比・判断
(2−1) 本件特許発明1について
(2−1−1)申立理由1−1に対して
本件特許発明1と甲1−1発明とを対比する。
まず、甲1−1発明の「(A)PBT(ノバデュラン(登録商標) 5008(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、固有粘度(η)0.85dl/g、末端カルボキシル基13eq/Ton))」は、本件特許発明1の「熱可塑性芳香族樹脂」に相当する。
ついで、甲1−1発明の「黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成される黒色成形品」は、「本件特許発明1の「樹脂組成物からなる成形品」に相当し、甲1−1発明の「レーザー光加飾用」とは、「組成物を用いて形成された成形品の表面に、レーザー光を用いて、所望の文字や記号等の鮮明な加飾を施すこと」(甲1−1の【0001】)であるから、本件特許発明1の「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な」ものであるといえる。
甲1−1発明の「(B)カーボンブラック(商品名:MA600B(三菱化学株式会社製ファーネスブラック、平均一次粒径 20nm、DBP吸油量 115cm3/100g))」は、その一次粒子径、DBP吸油量からみて、本件特許発明1の「一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラック」に相当する。
そして、「ポリブチレンテレフタレート樹脂」100重量部に対して、甲1−1発明の「カーボンブラック」を0.29重量部含有させるものであることは、本件特許発明1の「熱可塑性芳香族樹脂」100質量部に対して「カーボンブラック」を0.1〜0.4質量部含むことに相当する。

してみると、両発明は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1>で相違する。
<一致点>
「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品であって、
熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラックを0.1〜0.4質量部含む樹脂組成物からなる成形品。」

<相違点1>
本件特許発明1は、「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる」のに対して、甲1−1発明は、そのような特定がない点

上記相違点1について検討する。
甲1−1発明は、レーザー加飾用成形体であって、レーザー溶着するものではないから、上記相違点1は、実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲1−1に記載された発明ではない。
そして、レーザー溶着に関する事項が記載されていない甲1−1を出発点として、相違点1に係る構成を想到することは、当業者にとって容易になしえることではない。

また、本件特許発明1の効果を予測できるか否かについて検討する。
本件特許発明1は、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラック(以下、「本件のカーボンブラック」という。)を0.1〜0.4質量部含む樹脂組成物とすることで、「レーザー溶着及びレーザーマーキング性を両立した成形品を提供することができる」(本件特許明細書の【0012】)ものである。
この点について、本件特許明細書には、次の記載がある。
「本実施形態において、カーボンブラックの一次粒子径は20〜40nmであるが、20nm未満であるとレーザー光照射による昇華が起こりにくく、脱色が不十分となり、レーザーマーキング部の視認性に劣り、40nmを超えると黒色系への着色性が不利となり、成形品(マーキング前)の漆黒度が低下(白味が上昇)し、レーザーマーキング部とそれ以外の箇所との輝度比が小さくなり視認性に劣る。カーボンブラックの一次粒子径は、20〜40nmであることが好ましく、20〜35nmであることがより好ましい。」(【0030】)
「一方、DBP吸油量は、ストラクチャーの大きさに相関する指標であり、その数値が大きいほどカーボンブラックのストラクチャーが大きいことを反映する。そして、本実施形態において、カーボンブラックのDBP吸油量は100cm3/100g以上であるが、100cm3/100g未満では、レーザー光照射による発熱が不十分となり、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性に劣る。DBP吸油量は、110cm3/100g以上が好ましく、120cm3/100gがより好ましく、150cm3/100gがさらに好ましい。DBP吸油量の上限は特に制限されないが、ストラクチャーが大きすぎる場合、製造自体が困難となり、入手性面で不利となるため、600cm3/100g以下であることが好ましく、500cm3/100g以下であることがより好ましく、400cm3/100g以下(例えば300cm3/100g以下)であることがさらに好ましい。」(【0031】)
「本実施形態において、カーボンブラックは、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して0.1〜0.4質量部含む。カーボンブラックが0.1質量部未満では、レーザーマーキングにおいてはレーザー光照射部と非照射部における輝度比が小さくレーザーマーキング性に劣り、レーザー溶着においては十分な発熱量を確保するのが困難なため接合強度が不十分となり、0.4質量部を超えると、レーザーマーキングにおいて、カーボンブラックを昇華させるために必要なレーザー光照射による発熱量が大きくなり、樹脂部の炭化や変色が発生し、レーザー光非照射部との輝度比が小さくなり視認性が悪化してしまう。」(【0033】)。
これらの記載によると、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性を両立させるためには、成形品に含まれるカーボンブラックにおいて、レーザーマーキング性を向上させるための適切な一次粒子径と、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性に寄与する適切なDBP吸油量とが重要であり、かつ成形品中における適切な配合割合(熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対する配合量)が特定されることが重要であると認められ、そうすることによって、本件特許発明の効果を奏すること、すなわちレーザー溶着性及びレーザーマーキング性を両立した成形品を提供することが把握できる。
そして、実施例では、PBT樹脂100質量部に特定のカーボンブラックを0.17、0.25質量部含有させることで、レーザーマーキング性(輝度比)、レーザー溶着強度(MPa)に優れることが示されている。
以上を踏まえると、甲1−1には、レーザー加飾用の黒色成形品が記載されているにすぎないものであるから、仮にレーザー溶着に適用したとしても、特定物性を有するカーボンブラックを特定の配合割合で含む組成物とすることによって、レーザーマーキング性はもちろんのこと、レーザー溶着性にも優れて、それらを両立しうるという効果については、当業者が予測しうることができないものといえる。

したがって、本件特許発明1は、甲1−1発明と同じ発明であるとも、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2−1−2)申立人1の主張について
申立人1は、異議申立書(第14頁第18行〜第27行)において、以下の主張をしている。
「そして、両者は、甲1発明(当審注:上記「甲1−1発明」に相当)に「A レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品」・・・が記載されていない点で相違する。
しかしながら、甲1発明のレーザー光加飾用黒色ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された黒色成形品は、本件特許発明1のカーボンブラックに該当するカーボンブラックを同程度の含有量で含むものであるから、「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品」であるものと推測される。よって、本件特許発明1と甲1発明とに相違点(当審注:上記「相違点1」に相当)はなく、甲1発明には本件特許発明1の全構成が開示されており、両者は同一である。または、本件特許発明1は、甲1発明から当業者が容易に想到できたものである。」
しかしながら、上記(2−1−1)に示したとおり、相違点1に係る「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる」成形品であることは実質的な相違点であるから、本件特許発明1と甲1−1発明とは同じものではなく、該相違点1は、上述のとおり、甲1−1発明に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないため、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、当該主張は妥当でない。

(2−2−1)申立理由1−3に対して
本件特許発明1と甲1−1発明とは、上記相違点1において相違する。
そこで、上記相違点1について検討する。
甲1−1には、「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であ」ることはもとより、レーザー溶着に関する事項が記載されていない。
他方、甲1−2には、レーザー溶着やレーザーマーキングの技術工程において、IR吸収材としてカーボンブラックが用いられていることは記載されているが、レーザー溶着及びレーザーマーキングの両方に適したカーボンブラックの物性やその添加量については記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1−1発明に甲1−2に記載された事項を適用できるか検討しても、甲1−1には、レーザー溶着に関する事項が記載されていないものであるから、甲1−2に記載された事項を適用するための動機付けが存在しないし、仮にIR吸収材としてカーボンブラックを用いるとしても、甲1−2には、レーザー溶着及びレーザーマーキングを両立させるために、どのようなカーボンブラックをどの程度含有させるかについては何ら記載されていない。
してみると、甲1−1発明と甲1−2に記載された事項とから、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件特許発明1の効果については、上記(2−1−1)で述べたのと同様に、特定の物性を有するカーボンブラックを特定の配合割合で含む組成物とすることによって、レーザーマーキング性はもちろんのこと、レーザー溶着性にも優れて、それらを両立しうるという効果を奏することは、甲1−2には記載されていないため、上記効果は予測し得ないものである。

(2−2−2)申立人1の主張について
申立人1は、異議申立書(第14頁第28行〜第15頁第8行)において、以下の主張をしている。
「さらにまた、甲第2号証には、「・・・プラスチックのレーザー溶着及びマーキング、・・・には、効率的で迅速かつ局所集中的な、赤外線による熱入力が要求される。赤外線の熱への変換は、熱が必要とされる箇所に、適切なIR吸収材を配置することによって実現される。カーボンブラックは、このような工程のための、よく知られた効率的なIR吸収剤である。」と記載され、カーボンブラックを含むプラスチックについて、レーザー溶着及びマーキングを行う技術は周知であることから、甲1発明をレーザー溶着に使用することは、甲第1号証及び甲第2号証に基づき、当業者が容易に想到できたものである。」
しかしながら、上記(2−2−1)に示したとおり、甲1−2にはレーザ溶着及びマーキングにIR吸収剤を用いること、カーボンブラックが周知のIR吸収剤であることを記載するにとどまり、本件特許発明1に特定されるカーボンブラック及びその含有量がレーザー溶着及びレーザーマーキングに適したものであることは記載も示唆もされていない。
してみると、甲1−1発明及び甲1−2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないため、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、当該主張は妥当でない。

(3)本件特許発明2ないし3について
本件特許発明2ないし3は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記(2−1)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし3は、甲1−1に記載された発明ではなく、また甲1−1発明に基づいて当業者が容易になしえたものではない。

(4)申立理由1−5について
申立理由1−5として、以下の2つがあげられている。
ア 甲1−1発明と甲1−2、甲1−4に記載された事項に基づく進歩性について
イ 甲1−1発明と甲1−4に記載した事項に基づく進歩性について

アについて
申立理由1−5は、本件特許発明4に対するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1を引用するものであるから、少なくとも上記相違点1において相違する。
しかしながら、上記(2−1−1)に示したとおり、甲1−1には、レーザー溶着に関する事項が記載されていないため、甲1−2に記載された事項を適用するための動機付けが存在しないし、仮にIR吸収材としてカーボンブラックを用いるとしても、甲1−2には、レーザー溶着及びレーザーマーキングを両立させるために、どのようなカーボンブラックをどの程度含有させるかについては何ら記載されていない。
してみると、上記相違点1は、甲1−1発明と甲1−2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないから、本件特許発明1は当業者が容易に想到し得ないものであり、該本件特許発明1を引用する本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イについて
上記相違点2及び相違点3が実質的な相違点であって、上述のとおり、本件特許発明1は新規性進歩性を有するものであるから、その下位請求項に基づく発明である本件特許発明4は、甲1−1発明と甲1−4に記載された事項とから進歩性がないと判断されることはないものである。
してみると、本件特許発明4は、甲1−1発明と甲1−4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4−1)申立人1の主張について
申立人1は、異議申立書(第16頁第23行〜第17頁第5行)において、以下の主張をしている。
「甲1発明は、エラストマー成分等の衝撃性改良成分を含有してもよいものであるが、その含有割合についての明示はない。甲4発明は、レーザ溶着用樹脂組成物およびそれを用いた複合成形体に関するものであり、レーザ溶着用樹脂組成物は、「さらに(D)スチレン系エラストマーを(A)、(B)の合計量100重量部に対し、1〜50重量部添加配合」することが記載され、これは本件特許発明4「K 及びエラストマーを10〜30質量部含む」に相当する。したがって、本件特許発明4は、甲1発明及び甲4発明から当業者が容易に想到できたものであるか、甲1発明、甲2発明及び甲4発明から当業者が容易に想到できたものである。」
しかしながら、上述のとおり、上記相違点1が実質的な相違点であるから、上述のとおり本件特許発明1が新規性進歩性を有するものであり、甲1発明に甲2発明及び/又は甲4発明を適用したとしても、その下位請求項である本件特許発明4は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、当該主張は妥当でない。

(5)申立理由1−1、1−3、1−5についてのまとめ
本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由1−1、1−3によっては取り消すことはできない。
本件特許発明4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項4に係る特許は、申立理由1−5によっては取り消すことはできない。

1−2 申立理由1−2、1−4、1−6について
ここでは、甲1−5を主たる引用文献とする、申立理由1−2、1−4、1−6をまとめて検討する。

(1)甲1−5、甲1−2、甲1−4の記載事項及び甲1−5に記載された発明
ア 甲1−5の記載事項
甲1−5には、次の記載がある。
「【請求項1】
(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)強化充填材0〜100重量部、(c)着色剤0.01〜1重量部配合してなるポリエステル樹脂組成物であって、前記(c)着色剤がフタロシアニン系顔料を含む2種類以上の着色剤の組合せであり、さらに、該樹脂組成物からなる厚み1.5mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が15%以上である、黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
(a)ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである、請求項1に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
・・・
【請求項7】
レーザー透過側の部材に用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を、前記樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させてなる成形品。」

「【0043】
より具体的には、例えば、本発明のポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、本発明のポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射(好ましくは接着面に垂直に照射)する。この時、必要によりレンズ系を利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは本発明のポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材中を透過し、樹脂組成物(B)からなる部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって本発明のポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材側にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして部材同士を溶着された成形品は、高い接合強度を有する。尚、本発明における成形品とは、少なくとも2以上の部材を溶着されたものをいい、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0044】
尚、樹脂組成物(B)からなる部材は、少なくとも樹脂を含み、且つ、本発明のポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材と溶着可能なものであれば特に制限されない。樹脂組成物(B)に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などが挙げられ、相溶性が良好な点から、特にポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。また、樹脂組成物(B)は1種または2種以上の樹脂から構成されていてもよい。さらにまた、本発明のポリエステル樹脂組成物(A)であってもよい。
また、樹脂組成物(B)に含まれる樹脂は、照射するレーザー光波長の範囲内に吸収波長を持つものも好ましい。さらに、樹脂組成物(B)に、光吸収剤、例えば着色顔料等を添加含有させることにより、その吸収特性を発現させてもよい。前記着色顔料としては、例えば、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なかでも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強く、レーザー吸収側の樹脂組成物(B)により好ましく用いることができる。これらの光吸収剤は単独でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し0.01〜1重量部であることが好ましい。」

「【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
[各種測定方法]
(1)光線透過率
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SE−50D)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で成形した、表1の実施例1〜3および比較例1〜5に示した組成の樹脂組成物それぞれからなる13mm×128mm、厚さ1.5mmtおよび2mmtの平板を作製した。これらの平板について、それぞれ、可視・紫外分光光度計(島津製作所製:UV−3100PC)で光線透過率を測定した。光線透過率は、近赤外領域960nmの透過光強度と入射光強度の比を、それぞれ百分率で表した。
【0048】
(2)レーザー溶着強度試験
図1に示すように試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。また、図1中、1は上記(1)で作製した試験片を、2は接合する相手材である樹脂組成物(B)からなる試験片(上記(1)と同様に作製したもの)を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。
【0049】
光線透過率測定で使用した試験片1(13mm×128mm、厚み2mmtの平板)をレーザー透過側、樹脂組成物(B)からなる試験片2をレーザー吸収側として重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置は、一括照射タイプの日本エマソン社製 IRAM−300、レーザー光波長は960nm、溶着スポットは3mm×6mm、圧力は4.8MPaでレーザーを照射した。レーザー照射時間は、試験片1が強化充填材を含まない場合は、13sec、強化充填材を含む場合は、17secとした。
レーザー溶着強度測定は、引張試験機(インストロン社製5544型)を使用し、引張速度は5mm/secで評価した。引張強度は、溶着部の引張せん断破壊強度で示した。
【0050】
(3)引張強度試験
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SG−75MIII)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、表1の実施例1〜3及び比較例1〜5に示した組成の樹脂組成物それぞれからなるISO試験片を作製した。該ISO試験片について、ISO527に準拠し引張強度の測定を行った。
【0051】
(4)黒色度
(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(c6)カーボンブラック0.6重量部を配合し、後述する実施例1と同様の製法で樹脂組成物を作製し、上記(1)光線透過率測定用平板と同様の方法で13mm×128mm、厚み2mmtの平板を作製した。得られた平板の色相をL*a*b*表色系で評価し、これを黒色の基準とした。
上記光線透過率測定用厚み2mmtの平板の色相を測定し、黒色基準との色相の差(色差:ΔE)を評価した。ΔEが小さい方が黒色度が良好と判断した。
測定は、分光測色計(コニカミノルタ社製:CM−3600d)を使用し、ΔEは以下の式で求めた。
ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2
【0052】
(5)耐紫外線加速試験(耐紫外線老化性)
上記ISO試験片を、社団法人 日本電線工業会発行の「技術資料 第130号 照明器具用電線・ケーブルの紫外線劣化促進試験」に記載の試験法に準拠して、120℃の雰囲気下で、JIS C7604に規定するH400(400W水銀灯)照射を500時間実施した後、ISO527に準拠し引張強度の測定を行った。また、次式に従い、引張強度保持率を求めた。
引張強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100
また、退色度は、分光測色計(コニカミノルタ社製:CM−3600d)を使用し、試験前と試験後の色差(ΔE)で評価した。ΔEは、黒色度と同様、以下の式で求めた。
ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2
【0053】
[樹脂組成物の原材料]
(a)ポリエステル樹脂
(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバデュラン(登録商標)5008」、固有粘度[η]=0.85dl/g
(a2)ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバデュラン(登録商標)5020」、固有粘度[η]=1.20dl/g
【0054】
(b)強化充填材
ガラス繊維:表面処理剤で処理されてなるチョップドストランド、オーエンスコーニング社製、「商品名:183H−13P」、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm
【0055】
(c)着色剤
(c1)フタロシアニン顔料:C.I.Pigment Blue 15:3、大日本インキ化学工業(株)製、「商品名:FASTOGEN BLUE GB−7HS」
(c2)メチン系染料:C.I.Solvent Brown 53、クラリアント社製、「商品名:Polysynthren Brown R」
(c3)メチン系染料:C.I.Solvent Violet 49、クラリアント社製、「商品名:Polysynthren Violet G」
(c4)アンスラキノン系とペリレン系の混合染料:有本化学工業社製、「商品名:DA−412」
(c5)アンスラキノン系染料:C.I.Solvent Blue 97、ランクセス社製、「商品名:Macrolex−BLUE−2R」
(c6)カーボンブラック:三菱化学(株)製、「商品名:MA600B」
【0056】
酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「商品名:Irganox1010」
【0057】
[樹脂組成物(B)]
比較例5の樹脂組成物に、(c6)カーボンブラックを(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し0.6重量部配合したものを用いた。
【0058】
[実施例1〜3、比較例1〜5]
(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(c)着色剤、および酸化防止剤を表1に示した比率となるよう配合しタンブラーで20分混合した。シリンダー温度を250℃に設定した2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30C、バレル9ブロック構成)を用い、得られた原料混合物をホッパーへ供給し溶融混練した。(b)ガラス繊維を配合する場合は、ホッパーから数えて5番目のブロックからサイドフィード方式で供給し溶融混練した。得られた樹脂組成物を用い、上述した評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示したように、着色剤として(c1)フタロシアニン顔料を含む2種類以上の着色剤を添加することにより、紫外線による樹脂劣化が少なく、レーザー透過性およびレーザー溶着性に優れた、バランスのとれた黒色のポリエステル樹脂組成物が得られることが明らかとなった。すなわち、本発明のポリエステル樹脂組成物を使用することにより、他の部材と容易に強固なレーザー溶着が可能である。」

「【図1】



イ 甲1−5に記載された発明
甲1−5には、請求項8、実施例、特に段落【0057】の樹脂組成物(B)、段落【0048】及び【0049】の記載からみて、「(2)レーザー溶着強度試験」の樹脂組成物(B)からなる試験片に着目すると、甲1−5には、以下の発明が記載されているといえる。
「(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバデュラン(登録商標)5008」、固有粘度[η]=0.85dl/g)100重量部、(b)ガラス繊維(表面処理剤で処理されてなるチョップドストランド、オーエンスコーニング社製、「商品名:183H−13P」、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)43重量部、(c6)カーボンブラック(三菱化学(株)製、「商品名:MA600B」)0.6重量部を配合してなる、レーザー吸収性を有する樹脂組成物からなる試験片。」(以下、「甲1−5発明」という。)

ウ 甲1−2の記載事項
上記1 1−1(1)ウに記載のとおりである。

エ 甲1−4の記載事項
上記1 1−1(1)エに記載のとおりである。

(2)対比・判断
(2−1) 本件特許発明1について
(2−1−1)申立理由1−2について
本件特許発明1と甲1−5発明とを対比する。
まず、甲1−5発明の「(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバデュラン(登録商標)5008」、固有粘度[η]=0.85dl/g)」は、本件特許発明1の「熱可塑性芳香族樹脂」に相当する。
ついで、甲1−5発明の「試験片」は、甲1−5の段落【0048】及び【0049】における「(2)レーザー溶着強度試験」の項及び図1にあるように、樹脂組成物(B)からなり、レーザー溶着においてレーザー透過側の試験片とともに用いられるレーザー吸収側の試験片である。そうすると、甲1−5発明の「レーザー吸収性を有する樹脂組成物からなる試験片」は、本件特許発明1の「樹脂組成物からなる成形品」に相当し、本件特許発明1の「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品」であるといえる。
そして、甲1−5発明の「カーボンブラック」は、その商品名が「MA600B」であるので、上記1 1−1(1)アに摘記した甲1−1の【0033】の記載から、「平均一次粒径 20nm、DBP吸油量 115cm3/100g」であると認められ、その一次粒子径、DBP吸油量からみて、本件特許発明1の「一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラック」に相当する。
また、甲1−5発明と本件特許発明1とは、「熱可塑性芳香族樹脂」100質量部に対して「カーボンブラック」を適量含む点において、一致する。

してみると、両発明は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点2>、<相違点3>で相違する。
<一致点>
「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であって、
熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラックを適量含む樹脂組成物からなる成形品。」

<相違点2>
本件特許発明1は、「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品」であることが特定されているのに対して、甲1−5発明は、そのような特定がない点
<相違点3>
熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対するカーボンブラックの含有量について、本件特許発明1では「0.1〜0.4質量部」であるのに対し、甲1−5発明では、0.6重量部である点

上記相違点について検討する。
(ア)相違点2について
甲1−5には、「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品」であることはもとより、レーザーマーキングに関する事項が記載されていないから、相違点2は実質的な相違点である。
そして、レーザーマーキングに関する事項が記載されていない甲1−5を出発点として、相違点2に係る構成を想到することは、当業者にとって容易になしえることではない。
(イ)相違点3について
甲1−5発明では、カーボンブラックの含有量が0.6重量部と、本件特許発明1におけるカーボンブラックの含有量よりも大きな値となっている。してみると、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲1−5の段落【0044】には、樹脂組成物(B)に光吸収剤としてカーボンブラック等の黒色顔料を含有できること、該光吸収剤の配合量が樹脂成分100重量部に対し0.01〜1重量部であることが好ましいことが記載されてはいるものの、上記光吸収剤の配合量は、レーザー溶着の観点からみて、好ましい配合量の数値範囲が記載されているだけである。他方、本願特許明細書の段落【0033】には、レーザーマーキング性を良好にするために、カーボンブラックを熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して0,1〜0.4質量部含むことが記載されている。そうすると、レーザーマーキング性とカーボンブラックの含有量との関係について考慮されていない甲1−5において、レーザー溶着及びレーザーマーキングを両立するために、光吸収剤の配合量を、相違点3のような配合量とすることは、当業者には容易になしえたこととは認められない。

ここで、本件特許発明1の効果を予測できるか否かについて検討する。
本件特許発明1の効果については、上記1 1−1(2−1−1)に記載のとおりである。
他方、甲1−5は、レーザー溶着に用いられるレーザー吸収性を有する試験片が記載されているにすぎないものであるから、仮にレーザーマーキングに適用したとしても、特定物性を有するカーボンブラックを特定の配合割合で含む組成物とすることについては記載されていないのだから、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性を両立しうるという効果については、当業者が予測することはできないものといえる。

したがって、本件特許発明1は、甲1−5発明と同じ発明であるとも、甲1−5発明に基づいて当業者が容易に想到し得えたものともいえない。

(2−1−2)申立人1の主張について
申立人1は、異議申立書(第17頁第18行〜第20行、同第18頁第8行〜第17行)において、以下の主張をしている。
a「さらにまた、甲5発明の「光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し0.01〜1重量部」(段落0044)は、本件特許発明1の「G 0.1〜0.4質量部を含む樹脂組成物からなる成形品。」に相当する。」
b「そして、両者は、甲5発明に「B かつ、レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品であって、」が記載されていない点で相違する。
しかしながら、甲5発明の成形品は、本件特許発明1のカーボンブラックに該当するカーボンブラックを同程度の含有量で含む物であるから、「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品」であるものと推測される。
よって、本件特許発明1と甲5発明とに相違点はなく、甲5発明には本件特許発明1の全構成が開示されており、両者は同一である。また、本件特許発明1は、甲5発明から当業者が容易に想到できたものである。」

上記主張について検討する。
ア 主張aについて
上記(2−1−1)に示したとおり、レーザーマーキング及びレーザー溶着を両立するためには、カーボンブラックの一次粒子径、DBP吸油量物性を特定することに加えて、カーボンブラックの配合量を特定することも重要であるところ、本件特許発明1におけるカーボンブラックの配合量は、特にレーザーマーキング性を考慮した上で特定されているものである。一方、甲1−5には、樹脂成分100重量部に対してカーボンブラックを0.1〜0.4重量部を含有することにより、レーザー溶着性に加えてレーザーマーキング性を向上させることが記載も示唆もされていないし、動機付けられてもいない。してみると、甲1−5発明には、上記要件(G)に相当する特定は記載されていない。
イ 主張bについて
上記(2−1−1)に示したとおり、上記「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品」であることは実質的な相違点であるから、本件特許発明1と甲1−5発明とは同じものではないし、該相違点(当審注:上記「相違点2」に相当)は、上述のとおり甲1−5発明に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないため、本件特許発明1は当業者が容易に想到しえないものである。
よって、当該主張は妥当でない。

(2−2−1)申立理由1−4について
本件特許発明1と甲1−5発明とは、上記相違点2、相違点3において相違する。
そこで、上記相違点2、相違点3について検討する。
(ア)相違点2について
甲1−5には、「レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品」であることはもとより、レーザーマーキングに関する事項が記載されていない。
他方、甲1−2には、レーザー溶着やレーザーマーキングの技術工程において、IR吸収材としてカーボンブラックが用いられていることは記載されているけれども、レーザー溶着及びレーザーマーキングの両方に適したカーボンブラックの物性やその添加量については記載も示唆もされていない。
ここで、甲1−5発明に甲1−2に記載された事項を適用できるか検討しても、甲1−5には、レーザーマーキングに関する事項が記載されていないものであるから、甲1−2に記載された事項を適用するにあたり、動機付けが存在しないし、仮にIR吸収材としてカーボンブラックを用いるとしても、甲1−2には、レーザー溶着及びレーザーマーキングを両立させるために、どのようなカーボンブラックをどの程度含有させるかについては何ら記載されていない。
してみると、甲1−5発明と甲1−2に記載された事項とから、本件特許発明1は当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)相違点3について
上記(2−1−1)(イ)に記載したとおりであって、相違点3のような配合量とすることは、当業者には容易になしえたとは認められない。
また、甲1−5には、レーザー溶着性に適したレーザー光吸収側に用いられる成形品であるけれども、レーザーマーキング性について考慮されたものではないし、甲1−2には、特定物性を有するカーボンブラックを特定の配合割合で含む組成物とすることによって、レーザーマーキング性はもちろんのこと、レーザー溶着性にも優れて、それらを両立しうるという効果を奏することが記載されているわけではないから、本件特許発明1の効果は予測し得ないものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1−5発明と甲1−2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得えたものとはいえない。

(2−2−2)申立人1の主張について
申立人1は、異議申立書(第18頁第18行〜第26行)において、以下の主張をしている。
「さらにまた、甲第2号証には、「・・・プラスチックのレーザー溶着及びマーキング、・・・には、効率的で迅速かつ局所集中的な、赤外線による熱入力が要求される。赤外線の熱への変換は、熱が必要とされる箇所に、適切なIR吸収材を配置することによって実現される。カーボンブラックは、このような工程のための、よく知られた効率的なIR吸収剤である。」と記載され、カーボンブラックを含むプラスチックについて、レーザー溶着及びマーキングを行う技術は周知であることから、甲5発明をマーキングに使用することは、甲第5号証及び甲第2号証に基づき、当業者が容易に想到できたものである。」
しかしながら、上記(2−1−1)に示したとおり、甲1−2にはレーザ溶着及びマーキングにIR吸収剤を用いること、カーボンブラックが周知のIR吸収剤であることを記載するにとどまり、本件特許発明1に特定されるカーボンブラック及びその含有量がレーザー溶着及びレーザーマーキングに適したものであることは記載も示唆もされていない。
してみると、上述のとおり甲1−5発明及び甲1−2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないため、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、当該主張は妥当でない。

(3)本件特許発明2ないし3について
本件特許発明2ないし3は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記(2−1)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし3は、甲1−5に記載された発明ではなく、また甲1−5発明に基づいて当業者が容易になしえたものではない。

(4)申立理由1−6について
申立理由1−6として、以下の2つがあげられている。
ア 甲1−5発明と甲1−2、甲1−4に記載された事項に基づく進歩性について
イ 甲1−5発明と甲1−4に記載した事項に基づく進歩性について

アについて
申立理由1−6は、本件特許発明4に対するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1を引用するものであるから、少なくとも上記相違点2及び相違点3において相違する。
しかしながら、上記(2−2−1)に示したとおり、甲1−5には、レーザーマーキングに関する事項が記載されていないため、甲1−2に記載された事項を適用するための動機付けが存在しないし、仮にIR吸収材としてカーボンブラックを用いるとしても、甲1−2には、レーザー溶着及びレーザーマーキングを両立させるために、どのようなカーボンブラックをどの程度含有させるかについては何ら記載されていない。
してみると、上記相違点2及び相違点3は、甲1−5発明と甲1−2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないから、本件特許発明1は当業者が容易に想到し得ないものであり、該本件特許発明1を引用する本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イについて
上記相違点2及び相違点3が実質的な相違点であって、上述のとおり、本件特許発明1は新規性進歩性を有するものであるから、その下位請求項に基づく発明である本件特許発明4は、甲1−5発明と甲1−4に記載された事項とから進歩性がないと判断されることはないものである。
してみると、本件特許発明4は、甲1−5発明と甲1−4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4−1)申立人1の主張について
上記1 1−1(4−1)の述べたとおりであるから、当該主張は妥当でない。

(5)申立理由1−2、1−4、1−6についてのまとめ
本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、同法第29同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由1−2、1−4によっては取り消すことはできない。
本件特許発明4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項4に係る特許は、申立理由1−6によっては取り消すことはできない。

1−3 申立理由1−7(サポート要件)
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記「第2」のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許発明1には、特定の一次粒子径であって、かつ、特定のDBP吸油量を有するカーボンブラックを、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、特定の配合量で含有する樹脂組成物からなる成形品とすることで、レーザー溶着及びレーザーマーキングが可能であることが特定されている。
そこで、「熱可塑性芳香族樹脂」、「カーボンブラック」に加えて、「レーザー溶着」、「レーザーマーキング」の観点については、以下の記載がある。

「【0014】
[熱可塑性芳香族樹脂]
本実施形態において用いる熱可塑性芳香族樹脂は、構造単位中に芳香族基を有する熱可塑性樹脂である。炭化しやすい樹脂である芳香族樹脂を対象とし、そのような樹脂を用いた樹脂組成物からなる成形品のレーザー溶着性(レーザー光吸収性の成形品側として使用)及びレーザーマーキング性の両立を図るものである。以下に、そのような樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)を挙げて説明するが、本実施形態においてはそれらに限定されるものではない。」

「【0028】
[カーボンブラック]
本実施形態に係るカーボンブラックは、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が100cm3/100g以上のカーボンブラックである。そして、当該カーボンブラックを、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して0.1〜0.4質量部有する。本実施形態において、上記のような特定のカーボンブラックを特定量含むことにより、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性の両立を図ることができる。
【0029】
ここで、本実施形態の成形品は、カーボンブラックを含むことにより黒色系の色味を呈する。そして、レーザーマーキングにおいては、レーザー光照射部はカーボンブラックが分解、昇華して脱色することで、レーザー光の非照射部(黒色系の色味を有する)との色味の差(輝度比)が大きくなり十分な視認性が得られる。従って、レーザーマーキングにおいて十分な視認性を得るためには少量の添加で黒色系に着色することができ、かつ、レーザー光の照射により分解、昇華しやすいカーボンブラックを用いることが重要である。一方、レーザー溶着においては、樹脂を効率よく発熱、溶融させるため、カーボンブラックでの着色によりレーザー光を吸収させることが必要となる。そのため、カーボンブラックの昇華しやすさのみを追求すると、十分なレーザー溶着性が得られないことがある。これは、カーボンブラックの昇華が早すぎた場合、溶着に必要な程度の発熱が得られないためである。つまり、レーザーマーキングに最適なカーボンブラックであっても、それがレーザー溶着にも最適であるとは限らない。そこで、本実施形態においては、カーボンブラックの一次粒子径、DBP吸油量及び含有量を上記のように規定することにより、レーザーマーキング性とレーザー溶着性との両立を図っている。
【0030】
本実施形態において、カーボンブラックの一次粒子径は20〜40nmであるが、20nm未満であるとレーザー光照射による昇華が起こりにくく、脱色が不十分となり、レーザーマーキング部の視認性に劣り、40nmを超えると黒色系への着色性が不利となり、成形品(マーキング前)の漆黒度が低下(白味が上昇)し、レーザーマーキング部とそれ以外の箇所との輝度比が小さくなり視認性に劣る。カーボンブラックの一次粒子径は、20〜40nmであることが好ましく、20〜35nmであることがより好ましい。なお、本実施形態における一次粒子径は、ASTM D3849規格に準じ、取得された拡大画像から3,000個の単位粒子径を測定し、求められる平均値をいう。
【0031】
一方、DBP吸油量は、ストラクチャーの大きさに相関する指標であり、その数値が大きいほどカーボンブラックのストラクチャーが大きいことを反映する。そして、本実施形態において、カーボンブラックのDBP吸油量は100cm3/100g以上であるが、100cm3/100g未満では、レーザー光照射による発熱が不十分となり、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性に劣る。DBP吸油量は、110cm3/100g以上が好ましく、120cm3/100gがより好ましく、150cm3/100gがさらに好ましい。DBP吸油量の上限は特に制限されないが、ストラクチャーが大きすぎる場合、製造自体が困難となり、入手性面で不利となるため、600cm3/100g以下であることが好ましく、500cm3/100g以下であることがより好ましく、400cm3/100g以下(例えば300cm3/100g以下)であることがさらに好ましい。なお、本実施形態におけるDBP吸油量は、JIS K6217−4:2008に準拠して測定される値をいう。
【0032】
カーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが知られているが、これらの中で、ケッチェンブラックは多孔性で比表面積が大きく昇華しやすいため好ましい。
【0033】
本実施形態において、カーボンブラックは、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して0.1〜0.4質量部含む。カーボンブラックが0.1質量部未満では、レーザーマーキングにおいてはレーザー光照射部と非照射部における輝度比が小さくレーザーマーキング性に劣り、レーザー溶着においては十分な発熱量を確保するのが困難なため接合強度が不十分となり、0.4質量部を超えると、レーザーマーキングにおいて、カーボンブラックを昇華させるために必要なレーザー光照射による発熱量が大きくなり、樹脂部の炭化や変色が発生し、レーザー光非照射部との輝度比が小さくなり視認性が悪化してしまう。
【0034】
ここで、カーボンブラックの含有量を少なくしつつ、レーザー光の出力を高くすることにより十分なレーザー溶着性を確保することも考えられる。しかし、レーザー光の出力を高くすると、レーザー溶着に際し、レーザー光透過側の成形品に異物が存在した場合、その異物が高出力のレーザー光照射により発熱し、その異物の周囲が溶けたり発泡したりしてしまうことがある。従って、レーザー光は出力を高くしすぎない方が安定生産上好ましい。そして、低出力のレーザー光で樹脂の溶融に必要な発熱量を確保するには、レーザー光吸収側の成形品が効率よくレーザー光を吸収できるよう、カーボンブラックの含有量を一定以上に増やすことが好ましいが、増やし過ぎるとレーザーマーキングの際に、カーボンブラックを昇華させるために必要なレーザー光照射による発熱量が大きくなり、樹脂部の炭化や変色による視認性の低下が起こりやすくなってしまう。そこで、本実施形態において、カーボンブラックの含有量を上記数値範囲とした。」

「【0041】
[レーザー溶着]
既述の通り、レーザー溶着は、レーザー光透過性の材料からなる成形品(レーザー光透過側)と、レーザー光吸収性の材料からなる成形品(レーザー光吸収側)とを重ね合わせて、レーザー光透過性の成形品側からレーザー光を照射し、レーザー光吸収性の成形品との界面を発熱させて溶着する。そして、本実施形態の成形品は、レーザー光吸収側に用いられる成形品である。つまり、レーザー溶着に当たり、レーザー光透過側の成形品を別途用意し、本実施形態の成形品とレーザー光透過側の成形品とを、溶着しようとする面同士が接触するように重ね合わせて、レーザー光透過側の成形品側からレーザー光を照射して溶着する。
・・・
【0043】
レーザー溶着に当たり、レーザー光の照射条件は特に限定されず、使用する材料の組合せや成形品の形状に応じ適宜調整すればよい。この照射条件は、レーザー光透過側成形品とレーザー光吸収側成形品との界面を溶融させるのに必要なエネルギーを与えられるように設定する必要があり、特にレーザー光透過側成形品のレーザー光透過率や厚さによって適切な条件範囲は変わることになるが、当業者であれば、保有する装置の仕様を考慮しつつ、主にレーザー光の出力と照射時間(スキャン速度)を変更した有限回数の試行により、適切な条件を見出すことができる。
一例として、レーザー光透過側成形品に波長940nmのレーザー光の透過率が40%である厚さ1mmのポリブチレンテレフタレート樹脂成形品を、レーザー光吸収側成形品にカーボンブラックを0.2質量%含有するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品を、それぞれ用いて、波長940nmのレーザー光を、スキャン速度10mm/secで照射してレーザー溶着を行う場合、出力は5W〜15W程度に設定することができる。
・・・
【0044】
[レーザーマーキング]
既述の通り、レーザーマーキングは、本実施形態の成形品に対してレーザー光を照射し、当該成形品中に含まれるカーボンブラックを分解、昇華させて脱色することにより行われる。従って、本実施形態の成形品に対してレーザーマーキングをするに当たり、マーキングしたい文字や図形を描画するようにレーザー光を走査して照射する。または、マーキングしたい部分にのみレーザー光が届くよう、光源と成形品の間にマスキング層を配置した上でレーザー光を全面に照射する。描画する文字、図形は特に制限はなく任意に選定することができる。
【0045】
使用するレーザー光としては、上述のレーザー溶着に用いるレーザー光、例えばNd:YAGレーザーやNd:YVO4レーザーが挙げられる。
また、レーザーマーキングに当たり、レーザー光の照射条件は特に限定されず、対象となる成形品に用いる材料に含まれるカーボンブラックの濃度や樹脂の耐熱性に応じ適宜調整すればよい。この照射条件は、成形品を脱色するためにカーボンブラックを分解、昇華させられるように設定する必要があるが、既述の通り、レーザー光照射による発熱量が大きくなりすぎると、樹脂の炭化や変色により視認性が低下してしまうため、照射エネルギー量が高くなり過ぎないように抑えることが好ましい。具体的には、主にレーザー光の出力、照射時間(スキャン速度)、周波数の変更によりエネルギー量を調整することができるが、これらは照射装置の設定で容易に変更できるため、当業者であれば、保有する装置の仕様等を考慮しつつ、これらの組合せを変えた有限回数の試行により、適切な条件を見出すことができる。
一例として、一次粒子径が21nm、DBP吸油量が175cm3/100gのカーボンブラックを0.2質量%含有するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品を用いて、波長1064nmのレーザー光を出力2W、Qスイッチ周波数20kHzで照射してレーザーマーキングを行う場合、スキャン速度は200〜700mm/sec程度に設定することができる。」

「【実施例】
【0046】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1〜4、比較例1〜6]
各実施例・比較例において、表1に示す部数(質量部)で、PBT樹脂と、カーボンブラックと、エラストマーと、ガラス繊維とを混合・攪拌し、樹脂組成物を調製した。表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
PBT樹脂:(ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度(IV)=0.88dL/g、CEG=16meq/kg)
カーボンブラック1:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径22nm、DBP吸油量116cm3/100g)
カーボンブラック2:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径21nm、DBP吸油量175cm3/100g)
カーボンブラック3:(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、ケッチェンブラック、一次粒子径30nm、DBP吸油量396cm3/100g)
カーボンブラック4:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径15nm、DBP吸油量48cm3/100g)
カーボンブラック5:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径16nm、DBP吸油量62cm3/100g)
カーボンブラック6:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径24nm、DBP吸油量42cm3/100g)
カーボンブラック7:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径50nm、DBP吸油量115cm3/100g)
エラストマー:((株)NUC製、NUC−6570(エチレン−エチルアクリレート共重合体)
ガラス繊維:(日本電気硝子(株)製、ECS03T−187、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
【0048】
カーボンブラック1〜7の一次粒子径及びDBP吸油量を下記表2に示す。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】
[評価]
得られた樹脂組成物を用いて、70mm×50mm×3mmの平板状成形品を作製し、レーザーマーキングの評価を行った。
(1)レーザーマーキング性(輝度比)
得られた成形品に対して、以下に示すスキャンスピードとQスイッチ周波数条件の組合せにてレーザーマーキングを実施した。レーザーマーキング後、マーキング部及び非マーキング部をキヤノン(株)製LiDE210でスキャンした画像をもとに、Adobe社製Photoshop Elementsを用いてヒストグラムの輝度を取得し、マーキング部の中で最も高い輝度の値と、非マーキング部の輝度の値から、輝度比(マーキング部の最高輝度値÷非マーキング部の輝度値)を計算した。測定結果を表1に示す。
(レーザーマーキング条件)
レーザーマーキング装置:KEYENCE社製、MD−V9900A
レーザーの種類:Nd:YVO4レーザー 波長1064nm
Qスイッチ周波数:0,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100Hz
レーザー出力:2W
スキャンスピード:100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000mm/s
(2)成形品のL値(明度)
作製した成形品に対し、日本電飾工業(株)製、Spectrophotometer SE6000を用いてL値を測定した。測定結果を表1に示す。
(3)レーザー溶着強度
作製した成形品をレーザー光吸収側とし、ウィンテックポリマー社製、ジュラネックス(登録商標) 3300 EF2001(ガラス繊維30質量%を含む無着色のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物)にて作製した80mm×20mm×1mmの短冊状の成形品をレーザー光透過側とし、両者を重ね合わせた状態で、以下に示すレーザー溶着条件にてレーザー溶着を行った。次いで、島津製作所製万能試験機 オートグラフAG−Xを用いて試験速度10mm/minにて破壊強度を測定し、溶着強度を算出した。結果を表1に示す。
(レーザー溶着条件)
レーザー溶着装置:株式会社ファインデバイス FD-2430
レーザーの種類:Nd:YAGレーザー(波長:940nm)
照射速度:10mm/sec
照射径:φ1.6mm
照射距離:4mm
レーザー出力:5W〜13W
なお、「レーザー出力:5W〜13W」とは、各実施例について、出力を5Wから13Wの範囲内で変更した複数の条件にてレーザー溶着を行った中で、最も高い接合強度が得られた条件を「レーザー溶着強度」の評価条件として採用したことを意味する。これは、既述の通り、レーザー光の照射条件によっては、レーザー光吸収側成形品に含まれるカーボンブラックが分解しすぎてしまい、レーザー溶着に必要な発熱量を得にくくなる点で、レーザー溶着における最適なレーザー照射条件は材料によっても異なってくることを考慮したものである。
【0052】
表1より、実施例1〜4の成形品は、いずれも輝度比が大きく、レーザーマーキング性が良好であった。また、レーザー溶着強度も優れており、レーザーマーキング性とレーザー溶着性との両立を図ることができたことが分かる。これに対して、比較例1〜6は、レーザーマーキング性及びレーザー溶着強度の少なくとも一方において劣っており、それらの性能の両立を図ることができなかった。」

(4)サポート要件の判断
本件特許発明の課題は、本件特許明細書【0008】によると、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性を両立した成形品を提供することであると認められる。
本件明細書には、熱可塑性芳香族樹脂を含む樹脂組成物からなる成形品のレーザー溶着性(レーザー光吸収性の成形品側として使用)及びレーザーマーキング性の両立を図るものであって、そのような樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)が挙げられること(【0014】)、カーボンブラックとしては、レーザーマーキングにおいて少量の添加で黒色系に着色することができ、レーザー光の照射により分解、昇華し易いこと、レーザー溶着において樹脂を効率よく発熱、溶融させるため、レーザー光を吸収することが求められること、レーザーマーキングに最適なカーボンブラックであっても、それがレーザー溶着にも最適であるとは限らないこと(【0029】)、カーボンブラックの一次粒子径を20〜40nmとすることで、レーザー光照射による昇華、脱色を生じさせて、レーザーマーキング部の視認性を確保すること(【0030】)、カーボンブラックのDBP吸油量を100〜600cm3/100gとすることでレーザー光照射による発熱を確保し、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性を担保すること(【0031】)、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対してカーボンブラックを0.1〜0.4質量部とすることで、レーザーマーキングにおいてレーザー光照射部と非照射部における輝度比を確保してレーザーマーキング性、レーザー溶着に優れること(【0033】)が記載され、実施例において、PBT樹脂100質量部に、上述の一次粒子径、DBP吸油量を満たすカーボンブラックを0.17質量部、0.25質量部用いることで、レーザー溶着性、レーザーマーキング性に優れることが示されている。
これら記載によれば、PBT樹脂、PAS樹脂などの熱可塑性芳香族樹脂とカーボンブラックを含む樹脂組成物からなる成形品であって、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が110〜600cm3/100gであるカーボンブラックを0.1〜0.4質量部を含むことで、すなわち、本件特許発明1に係る発明特定事項を満たすことにより、本件特許発明の課題を解決することが理解できる。

(5)申立人1の主張について
申立人1は、異議申立書(第20頁第25行〜第22頁第5行)において、概略すると、本件特許発明1は、熱可塑性芳香族樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリアリーレンスルフィド樹脂の例が具体的に説明されているが、実施例では、ポリブチレンテレフタレート樹脂についてのみレーザーマーキング性及びレーザー溶着性の評価が行われているだけであること、一方、甲第6号証(当審注:上記第3 1 1−8の「甲1−6」に相当)には、レーザー光を透過する樹脂成形部材からなる透過材と、レーザー光を吸収する樹脂成形部材からなる吸収材とをレーザー光で溶着してなる成形樹脂部品に関し、透過材として重量平均分子量が40000〜80000のポリフェニレンスルフィドからなるものであって、「ポリフェニレンスルフィドとフィラー(ガラス繊維)との間には屈折率に大きな差があり、レーザー透過性の向上を望むことは困難である」こと([0003])、「その結果、2つの樹脂の接合界面までレーザー光を効率よく透過させることが困難となり、適切な溶着条件の範囲が狭くなるという問題が生ずる。即ち、上記接合界面において吸収材を十分に溶融させて充分な接合強度を確保しようとすると、透過材の透過率が低い場合には特にレーザー出力を大きくする必要が生ずる。ところが、レーザー出力を大きくすると、透過材の温度が上昇しすぎて、接合界面付近以外において透過材が溶融してしまい、外観意匠性を低下させるおそれがある。特に、透過材の透過率が低いと、より溶融しやすい」こと([0004])が記載されていることから、本件特許明細書の実施例において、ポリブチレンテレフタレート樹脂において、特定の粒子径、DBP吸油量のカーボンブラックを所定量配合した成形品が、レーザー溶着及びレーザーマーキング性に優れることが確認されたからと言って、甲第6号証によれば、適切な溶着条件の範囲が狭いとされるポリフェニレンスルフィドを含むポリアリーレンスルフィド樹脂や、その他の熱可塑性芳香族樹脂においても、ポリブチレンテレフタレートと同様の粒子径、DBP吸油量のカーボンブラックを所定量配合した成形品が、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性に優れるとは一概に言えないものであること、をあげ、本件特許発明1は本件特許の課題を解決できない範囲を包含するものと言えることを主張している。
しかしながら、甲1−6には、レーザー溶着に用いられる透過材が、ポリアリーレンスルフィド樹脂とフィラー(ガラス繊維)とを含むことにより、両者の屈折率の差が大きいため、レーザー光を接合界面まで効率よく透過させることができず、適切な溶着条件の範囲が狭くなることが記載されているだけであって、甲1−6の記載により、本件特許発明1におけるレーザーマーキング性及びレーザー溶着性を両立させる、光吸収側に用いられる成形品が、上記課題を解決しえないことが示されていない。
なお、本件特許明細書の実施例では、レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形体の熱可塑性芳香族樹脂としてPBT樹脂を用いたときには、本件特許発明の課題を解決することが示されているものの、熱可塑性芳香族樹脂としてPAS樹脂を用いたときであっても、PBT樹脂を用いたときと同様に本件特許発明の課題を解決するのか否か判然とせず、本件特許発明1は、上記課題を解決しない態様をも含むものという意味であるということであれば、以下のとおりである。
上述のとおり、本件特許発明1に係る発明特定事項を満たすことにより、本件特許発明の課題を解決することが理解できるところ、光吸収側に用いられる成形品を構成する樹脂として、PAS樹脂を用いると、本件特許発明の課題が解決されないとの疑義を生じるような具体的根拠を、申立人1は示していない。そうすると、本件特許発明1が、本件特許発明の課題を解決できない範囲を含んでいるとまでいうことはできない。
したがって、本件特許発明1〜4は、発明の詳細な説明に記載したものといえる。

(6)申立理由1−7についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1〜4の記載は、本件特許発明1〜4について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1−7によっては同請求項に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立て2について
申立理由2(甲2−1を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲2−1の記載事項
甲2−1は、上記甲1−1と同じ文献であることから、上記1 1−1 (1)アに記載したとおりである。

イ 甲2−2の記載事項
甲2−2には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、耐熱性、冷熱性、成形品表面外観、寸法安定性、レーザ溶着性が均衡して優れたレーザ溶着用樹脂組成物およびそれを用いた複合成形体に関し、さらには他の物品にレーザ溶着して得られる複合成形体などに適したポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物およびそれを用いた複合成形体に関するものである。」

「【0066】
(12)溶着強度
溶着強度測定には引張試験器(AG−500B)を用い、試験片の両端を固定し、溶着部位に引張剪断応力が発生するように引張試験を行った。強度測定時の引張速度は1mm/min、スパンは40mmであり、測定回数は5回であり、その平均値を溶着強度とした。溶着強度は溶着部位が破断したときの応力とした。図5(a)には上記方法でレーザ溶着したレーザ溶着強度測定用試験片の概略平面図、(b)は側面図を示した。レーザ溶着強度測定用試験片15はレーザ光線透過側試料13とレーザ光線吸収側試料14とを、重ね合わせ長さL4が30mm、溶着距離Yが20mmとなるように重ね合わせてレーザー溶着部16で溶着したものである。なお、レーザ光線透過試料へは本発明のレーザ溶着用着色樹脂組成物を用い、レーザ光線吸収側試料へは、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、ガラス繊維を43重量部添加し、さらにはカーボンブラックを0.4部添加した材料を用いた。レーザ光線吸収側試料は実施例と同様の製造法を用いて製造した。」

ウ 甲2−3の記載事項
甲2−3には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、耐熱性、冷熱性、成形品表面外観、寸法安定性、レーザー溶着性が均衡して優れるだけでなく、自動車の燃料系部品に適用可能なレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた複合成形体に関し、更には他の物品にレーザー溶着して得られる複合成形体などに適したポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた複合成形体に関するものである。」

「【0053】
図5(a)は上記方法でレーザー溶着したレーザー溶着強度測定用試験片の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。レーザー溶着強度測定用試験片15は図3に示したレーザー溶着試験片であるレーザー光線透過側試料9とレーザー光線吸収側試料14とが、重ね合わせ長さLを30mmとし、溶着距離Yは20mmとして、重ね合わせて溶着部16で溶着したものである。溶着強度測定には一般的な引張試験器(AG−500B)を用い、該試験片の両端を固定し、溶着部位には引張剪断応力が発生するように引張試験を行った。強度測定時の引張速度は1mm/min、スパンは40mmである。溶着強度は溶着部位が破断したときの応力とした。なお、レーザー光線透過試料へは本発明のレーザー溶着用ポリエステル樹脂を用い、レーザー光線吸収側試料へは、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、ガラス繊維を43重量部添加し、更にはカーボンブラックを0.4部添加した材料を用いた。」

「【図5】



エ 甲2−4の記載事項
甲2−4には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、レーザー溶着用樹脂材料、レーザー溶着用部材、レーザー溶着体及びレーザー溶着体の製造方法に関し、詳しくはレーザー溶着性に優れ、硬度と耐衝撃性のバランスに優れるレーザー溶着用樹脂材料、これを用いたレーザー溶着用部材、これをレーザー溶着されてなるレーザー溶着体及びレーザー溶着体の製造方法に関する。」

「【0066】
レーザー溶着する部材(I)及び(II)の組み合わせとしては、上記の中でも、レーザー光透過性の部材(I)としてレーザー光吸収剤を含有しない本発明のレーザー溶着用樹脂材料からなる部材を用い、レーザー光吸収性の部材(II)としてレーザー光吸収剤を含有する本発明のレーザー溶着用樹脂材料からなる部材を使用することが好ましい。このような組み合わせでレーザー溶着することで、特に強い溶着強度を達成することが可能となる。」

「【0098】
さらに、以下の安定剤、酸化防止剤及び離型剤を使用した。
[安定剤]
・リン系安定剤:
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト
ADEKA社製、商品名「アデカスタブ2112(AS2112)」
[酸化防止剤]
・ヒンダートフェノール系酸化防止剤:
ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
BASF社製、商品名「イルガノックス1010(Irg1010)」
[離型剤]
・ペンタエリスリトールテトラステアレート
コグニスジャパン社製、商品名「ロキシオールVPG861(VPG861)」
・ステアリルステアリレート
日油社製、商品名「ユニスターM9676(M9676)」
[レーザー光吸収剤]
・カーボンブラック−ポリスチレンマスターバッチ
越谷化成工業社製、商品名「RB904G」
カーボンブラック:40質量%、ポリスチレン:60質量%
【0099】
(実施例1〜8、比較例1)
<ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの製造>
上記した各樹脂及び添加剤を後記表1に示す組成(質量部)で配合混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30XCT」)により、バレル温度280℃で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレット(PC1−N〜PC3−N及びPC1−B〜PC3−B)を製造した。」

「【0102】
【表1】



「【0105】
【表2】



オ 甲2−5の記載事項
甲2−5には、次の記載がある。

「【0001】
(発明の分野)
本発明は、特定のアントラキノン染料を有する熱可塑性樹脂組成物に関する。特に、本発明は、改善されたレーザー溶接性を有する、かかる組成物に関する。」

「【0132】
実施例ABおよび比較例AC〜AE
ガラス繊維強化ポリエステル(Nippon Electric Glass社製のチョップドストランドガラス繊維187Hをポリエステル樹脂組成物の全重量に対して30重量%含有し、重量比1/1を有するフェノールとジクロロベンゼンとの混合溶液中の1%溶液として、テレフタル酸と、25℃で測定した場合にその固有粘度が0.85であるエチレングリコールとから調製し、実施例Gに記載のように乾燥させた)と染料を表13に示す量でブレンドした。ブレンドした材料を2種類の試験片に成形した。一方の試験片は、機械的性質のために使用し、他方は、レーザー溶接のために使用した。シリンダー温度が290℃に設定され、型温が60℃に設定されたToshiba IS 170FIII射出成形機で、ISO3167に従って機械的性質用の試験片を成形した。シリンダー温度が280℃に設定され、型温が60℃に設定されたSumitomo juki 75T射出成形機で、図3に図示する寸法を有するレーザー溶接用試験片を成形した。
【0133】
引張り強さおよび伸びをISO527に従って測定し、ノッチ付シャルピー衝撃強さをISO179に従って測定した。上述の試験片2つを用いて、レーザー溶接を行い、図4に図示するように合わせた。実施例ABおよび比較例AC〜ADを上部試験片として用いて、比較例AEを下部試験片として用いた。ダイオードレーザー(波長940nm、Rofin−Sinar Laser GmbH製)をレーザー出力50Wおよび定速にて、直径3mmで照射した。溶接した試験片の引張り強さを、5mm/分で引き離すことによって、オートグラフ(島津製作所製)で測定し、その最大負荷を記録した。
【0134】
【表12】



「【図4】



カ 甲2−6の記載事項
甲2−6には、次の記載がある。
「【請求項1】
可視光領域で光を透過せず、近赤外領域の光の透過率が25%以上であることを特徴とするレーザー溶着用レーザー光透過性着色樹脂組成物。
・・・
【請求項3】
樹脂が、ポリアセタールまたはポリブチレンテレフタレートである請求項1または2に記載のレーザー溶着用レーザー光透過性着色樹脂組成物。」

「【0001】
本発明はレーザーによる樹脂部材の溶着に使用するレーザー光透過性の着色樹脂組成物に関する。」

「【0008】
次に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で使用される樹脂は、例えば、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、プロピレン−エチレン共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS・PCアロイ、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂などのレーザー光を透過させる熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのなかでは、とくにポリアセタールおよびポリブチレンテレフタレートが好ましい。」

「【0012】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、以下の文中の部および%は全て質量基準である。
なお、光の透過率測定は、日立製作所製分光光度計U3400を用い、可視光領域およびレーザー波長領域での光線透過率測定を行った。また、レーザー溶着におけるレーザー光非透過性樹脂部材として、ポリアセタール100部にカーボンブラック0.2部を配合した樹脂組成物を使用し、射出成形により形成した2mm厚のプレートを用いた。」

(2)甲2−1に記載された発明
甲2−1に記載された発明は、上記1 1−1 (1)イに記載のとおりのものである(以下、「甲2−1発明」という。)。

(3)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2−1発明とを対比すると、上記1 1−1 (2−1−1)に記載のとおりであり、下記<相違点1>で相違する以外は、両者は一致する。
そこで、相違点1について検討する。

<相違点1>(再掲)
本件特許発明1は、「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる」のに対して、甲2−1発明は、そのような特定がない点

上記相違点1について検討する。
甲2−1には、「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であ」ることはもとより、レーザー溶着に関する事項が記載されていない。
一方、甲2−2の段落【0066】及び甲2−3の段落【0053】には、レーザー溶着用樹脂組成物およびそれを用いた複合成形体に関するものであって、レーザー光線吸収側試料へは、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、ガラス繊維を43重量部添加し、さらにはカーボンブラックを0.4部添加した材料を用いたこと、甲2−4の表1には、レーザー用着用樹脂材料、レーザー溶着用部材、レーザー溶着体及びレーザー溶着体の製造方法に関するものであって、レーザー光吸収側樹脂材料にはポリカーボネート樹脂100質量部に対し、カーボンブラック0.2質量部を含むこと、甲2−5の表12には、レーザー溶接性を有する組成物に関するものであって、レーザー光吸収側に用いられる下部試験片はポリエステル樹脂100質量部に対してカーボンブラック0.29質量部を含むこと、甲2−6の段落【0012】には、レーザー光透過性着色樹脂組成物に関するものであって、レーザー溶着におけるレーザー光非透過性樹脂部材としてポリアセタール100部にカーボンブラック0.2部を配合した樹脂組成物を使用し、射出成形により形成した2mm厚のプレートを得たこと、該ポリアセタールとポリブチレンテレフタレート樹脂とが同列に挙げられていることがそれぞれ記載されており、甲2−2〜甲2−6には、レーザ溶着に用いられるレーザー光吸収側に用いられる部材であって熱可塑性芳香族樹脂100重量部にカーボンブラックを0.2〜0.4重量部程度で添加したものは記載されているといえるが、カーボンブラックの物性とその配合割合が、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性を両立させるときに影響を与えることは記載されていない。
そして、甲2−1には、レーザー溶着に関する事項が記載されていないから、レーザー溶着に関する甲2−2〜甲2−6に記載された事項を適用する動機付けが存在しないし、甲2−2〜甲2−6には、本件特許発明1に係るカーボンブラックを用いることについては何も示されていない。
してみると、甲2−1発明と甲2−2〜甲2−6に記載された事項とから、本件特許発明1は当業者が容易に想到しうるものではない。
また、上記1 1−1(2−1−1)における、本件特許発明1の効果について述べたのと同様に、特定物性を有するカーボンブラックを特定の配合割合で含む組成物とすることによって、レーザーマーキング性はもちろんのこと、レーザー溶着性にも優れて、それらを両立しうるという効果を奏することは、甲2−2〜甲2−6には記載されていないため、上記効果は予測し得ないものである。
したがって、本件特許発明1は、甲2−1発明と甲2−2〜甲2−6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立人2の主張について
申立人2は、異議申立書(第23頁第4行〜第26頁第15行)において、概略すると、上記要件(A)「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品」に関し、甲第1号証(当審注:甲2−1)には「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる」という用途について記載されていないが、該要件(A)を有する本件特許発明は、審査基準第III部第2章第4節における「(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」には相当しないから、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証〜甲第6号証(当審注:甲2−2〜甲2−6)に見られる、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対し、0.2〜0.4質量部程度のカーボンブラックを配合した樹脂組成物をレーザー溶着においてレーザー光吸収側に用いられた成形品として用いるという技術常識を適用して、本件特許発明1のように構成することは当業者が容易に想到しうることである旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、「成形品」に係る発明であり、「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であり、かつ、レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品であ」ることが特定されているのだから、用途としては、レーザー溶着とレーザーマーキングの不可分な2つに関するものであって、申立人2が主張するように「レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品」だけを捉えて、用途による特定の是非を論じるのは妥当でない。
また、上記(3)に示したとおり、該相違点は、上述のとおり甲2−1発明及び甲2−2〜甲2−6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものではないため、上記主張の如何に関わらず、本件特許発明1は当業者が容易に想到しえないものである。
よって、当該主張は妥当でない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし4は、甲2−1発明及び甲2−2〜2−6に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえたものではない。

(4)申立理由2についてのまとめ
本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、申立人1が申し立てた特許異議の申立ての理由及び証拠、並びに、申立人2が申し立てた特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
ほかに本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-01-05 
出願番号 P2017-237437
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 藤代 亮
藤井 勲
登録日 2022-04-13 
登録番号 7058114
権利者 ポリプラスチックス株式会社
発明の名称 レーザー溶着及びレーザーマーキングが可能な成形品  
代理人 三好 秀和  
代理人 高橋 俊一  
代理人 伊藤 正和  
代理人 高松 俊雄  

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