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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E03C
審判 全部申し立て 特174条1項  E03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03C
管理番号 1394035
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-11-07 
確定日 2023-01-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第7066149号発明「弁部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7066149号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7066149号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年2月28日に出願され、令和4年5月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし5に係る発明の特許に対し、同年11月7日に特許異議申立人平賀 博(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第7066149号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下それぞれをその請求項番号により「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」と総称する。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
槽体の排水口を閉塞する弁部材であって、
略板状の弁体部と、
前記弁体部の下方に備えられた、側面方向に開口した収納部と、
前記収納部内に収納される、前記排水口周縁に当接して前記弁体部と前記排水口の間を水密に接続する環状パッキンと、
前記収納部側面に、環状に設けられた溝部と、からなり、
前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有すると共に、
前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、
前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しないことを特徴とする弁部材。
【請求項2】
前記弁部材において、前記弁部材の前記収納部側面、及び前記収納部側面に対応する前記環状パッキンの内側側面を、前記環状パッキンの環状の軸に平行な面としたことを特徴とする請求項1に記載の弁部材。
【請求項3】
前記弁部材の前記溝部は、弁本体の前記収納部上面又は前記収納部下面に連続して設けられてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弁部材。
【請求項4】
前記収納部上面又は前記収納部下面のいずれか一方、又は両方の面を、前記弁部材の外周端部まで段差なく設けてなることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の弁部材。
【請求項5】
前記弁部材を、前記排水口上を上下に昇降することで前記排水口を開閉する遠隔操作式の排水栓装置を採用した排水口に用いると共に、
前記溝部は前記収納部下面に連続して設け、且つ前記溝部の下面から内径側の側面に断面円弧部分を形成したことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の弁部材。」

第3 特許異議申立理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、申立書に添付して、以下の2に示す各甲号証(以下、各甲号証をそれぞれ「甲1」等ということがある。)を証拠として提出している。
(1)特許法第17条の2項第3項
令和3年12月2日に提出された手続補正書により請求項1に追加された構成は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件当初明細書等」という。)に記載されていない新たな技術的事項が追加されたものであって、この補正は新規事項を追加するものであるから、本件発明1ないし5についての特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)特許法第29条第2項
本件発明1ないし5は、甲第7号証または甲第8号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができないものである。
したがって、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定に該当するものであり、取り消されるべきものである。

(3)特許法第36条第6項第1号
本件発明1ないし5は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。
したがって、本件特許は、特許法第113条第1項第4号の規定に該当するものであり、取り消されるべきものである。

2 申立書に添付して提出された証拠
甲1 :実願平4−1501号(実開平5−59059号)
のCD−ROM
甲2 :特開2015−214813号公報
甲3 :特開平6−213326号公報
甲4 :特開2001−254832号公報
甲5 :意匠登録第1579361号公報
甲6 :意匠登録第1569934号公報
甲7 :特開2017−210804号公報
甲8 :特開2002−88853号公報
甲9 :特開2009−244392号公報
甲10:特開2007−225669号公報
甲11:実願平1−35056号(実開平2−126371号)
のマイクロフィルム
甲12:特開2014−66309号公報
甲13:特開2004−238980号公報
甲14:特開2014−34782号公報

第4 当審の判断
事案に鑑み、まず、特許法第17条の2第3項(新規事項)について検討し、次に特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について検討し、最後に特許法第29条第2項進歩性)について検討する。
1 特許法第17条の2第3項(新規事項)
(1)申立人の主張の概要
申立人は、概略以下の主張をしている。
令和3年12月2日提出の手続補正書により本件発明1に追加された「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」との構成について、補正の根拠とされた明細書段落【0020】には、「環状パッキン4は、リング形状を成す、弾性を有したゴム素材からなる部材であって、弁部材1の溝部3dを除く収納部3と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた断面略四角形状を成す本体部4aと、該本体部4aの周縁に設けた、その下面が排水口5aの周縁上面と水密的に当接する断面略逆三角形状を成すヒレ部4bとを備えてなる。」と記載されている。
本件発明1の「前記収納部と形状が合致する部分を有する」は、その文言から、上面のみが収納部と合致する部分を有していたり、下面のみが収納部と形状が合致する部分を有していたりすることを含むものと解釈することもできる。しかし、明細書や図面に記載された事項は、環状パッキンが、「収納部と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた部分を有する」ことであるから、上記補正は、上面のみが収納部と合致する部分を有していたり、下面のみが収納部と形状が合致する部分を有していたりすることを含んでおり、当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を追加するものである。(申立書7頁下から8行〜8頁21行)

(2)当審の判断
ア 本件当初明細書等の記載
本件当初明細書等には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、槽体に備えられた排水口を閉塞する弁部材において、止水の信頼性を高めることを目的とした弁部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流し台や洗面台、浴室など、使用により排水を生じる機器(以下、「排水機器」と記載)において、生じた排水を下水側に処理するため、排水機器の排水を処理する排水配管が広く知られている。
これら排水機器には、通常、流し台であればシンク、洗面台であれば洗面ボウル、浴室であれば浴槽など、排水機器の吐水又は排水を受ける槽体を備えてなり、この槽体の底面に排水口を設け、排水口に連通させた排水配管を介して、吐水又は排水を下水側に排出させるように構成してなる。
ところで、例えば浴槽や洗面ボウル等は、使用時に単に槽体内の吐水又は排水を下水側に排出するだけでなく、槽体内部に貯水したい場合がある。このため槽体底面に設けた排水口を、弁部材によって水密的に閉塞し、その内部に吐水又は排水を貯水する方法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、このような槽体の排水口を閉塞する弁部材について記載されている。
特許文献1に記載の、弁部材は、以下のように構成されてなる。
弁部材は、略円盤形状の弁体部、該弁体部下面中央に設けられた嵌合部、弁体部の下面であって、嵌合部の周囲に環状に設けられた収納部、からなる弁本体と、該収納部内に収納される、排水口周縁に当接して弁本体と排水口の間を水密に接続する、ゴム等の弾性素材からなる環状パッキンと、から構成される。
・・・
【0007】
上記浴槽と弁部材において、弁部材の降下時、弁部材は次のようにして水密的に排水口を閉口する。
弁部材において、弁部材の収納部に環状パッキンが収納されて収納されていることで、弁部材の収納部表面と環状パッキンの収納されている部分の表面とは水密的に当接してなる。これにより、弁部材と環状パッキンの間は水密的に接続されている。
排水口の閉口時では、上記のように構成された弁部材が降下し、環状パッキンの外周部分の下面が、排水口周縁の上面と当接する。弁部材は自重や溜められた槽体内の吐水乃至排水の水圧の他、操作部に組み込まれたスプリング等の弾性体等の作用により、下方に向かって強く付勢され、環状パッキンの外周部分の下面が排水口周縁上面に強く当接する。これにより、排水口周縁上面と環状パッキンの間は、閉口時水密的に接続される。
このように、環状パッキンが、弁本体の収納部と排水口周縁上面の両方に水密的に当接することで、弁部材が排水口を水密的に閉口することができる。
【0008】
上記のように、環状パッキンは弁部材の収納部や排水口周縁上面などに水密的に当接する必要がある。このため、環状パッキンの、収納部や排水口周縁上面に当接する部分は、それぞれ当接する部材に高い精度で合致する形状とすると共に、その表面が凹凸を有さない、極めて滑らかな面とする必要がある。
弁本体や環状パッキンの形状を高精度且つ極めて滑らかな面を備えるようにするため、通常環状パッキンは、成形したい成形品の形状を加工した金属製の板、いわゆる金型を利用して製造される。
・・・
【0011】
環状パッキンの構成の内、排水口周縁上面に当接する部分に対してパーティングラインの部分が生じないようにすることは比較的容易で、パーティングラインを環状パッキンの外側面方向に設け、当接部分を環状パッキンの下面部分に設けることで、排水口周縁上面に当接する部分にパーティングラインを生じないようにすることができる。
しかし、環状パッキンの構成の内、収納部に当接する部分に対してパーティングラインの部分が生じないようにすることは困難であった。金型の構成上、パーティングラインは、環状パッキンの内側面上を内径側に向かって形成するか、又は、内側面の軸方向端部に、軸方向に向かって形成する必要があり、いずれもパーティングライン及びバリが、弁部材の収納部内面に当接する形となってしまう。図12に示したように、パーティングラインまたバリが弁部材の収納部内面に当接すると、その部分の環状パッキン表面が収納部と離れてしまい、水密性が失われる可能性が生じる。また、環状パッキンを収納部に収納しても、パーティングラインやバリによって、環状パッキンが全体に歪んで配置されることで、収納部と環状パッキンの間の水密的な接続だけでは無く、排水口周縁上面と環状パッキンとの水密的な当接も失われる可能性も生じる。
【0012】
・・・
本発明は上記問題点に鑑み発明されたものであって、成形の際に内側面にパーティングラインやバリを生じた環状パッキンを採用しても特に漏水などの問題を生じない弁部材、及び収納部の破損を防止しつつ環状パッキンに汎用性を持たせることができる弁部材を提案するものである。」

(イ)「【0020】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。
尚、以下の説明では、説明を容易にするため、前述したバリは、パーティングラインに含まれるものとして特に明記しない。
また、図5乃至図12においては、各図の要部Aを拡大した図面を、同図面の右側の円弧内に拡大図として図示する。
図1乃至図6に示した、本発明の第一実施例の弁部材1は、以下に記載した、弁本体2と環状パッキン4とから構成され、浴槽Bの排水口5aに施工される。
弁本体2は平面視正円形状を成す、略円盤状の弁体部2aと、該弁体部2aの下面中央に設けられた嵌合部2bと、弁体部2aの下面であって嵌合部2bの周囲に設けられた収納部3と、から構成される。また、本実施例の弁本体2の弁体部2a上面は、金属製の薄板で覆われてなり、意匠性を向上させてなる。
収納部3について詳述すると、収納部3は、弁本体2の周縁に沿って連続して設けられた、外周方向に開放した断面略コの字形状を成す溝構造であって、収納部上面3aまた収納部下面3bは、弁部材1の軸に対して垂直な平面によって構成されてなり、また、収納部側面3cは収納部上面3a及び収納部下面3bに対して垂直な円筒形状からなる面によって形成されてなる。平面視、この円筒状を成す収納部側面3cは、弁本体2の外周と同心円を成す。
また、収納部上面3a、及び収納部下面3bの外周側端部は、弁部材1の外縁まで連続している。
更に本実施例の弁部材1の収納部3は、図3等に示したように、Uの字を横に倒したような形状の溝部3dを、収納部側面3cに備えてなる。また、溝部3dの下方の面は、収納部下面3bと連続して設けられてなる。溝部3dの内径側の端部は半円形状を成してなり、このため、溝部3dは、溝部3dの下面から溝部3dの内径側側面にかけて、円弧部分を形成してなる。
環状パッキン4は、リング形状を成す、弾性を有したゴム素材からなる部材であって、弁部材1の溝部3dを除く収納部3と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた断面略四角形状を成す本体部4aと、該本体部4aの周縁に設けた、その下面が排水口5aの周縁上面と水密的に当接する断面略逆三角形状を成すヒレ部4bとを備えてなる。
本実施例の環状パッキン4は、前述したコンプレッション成形法によって成形される。金型形状によって、環状パッキン4のパーティングラインPLは、内径側は本体部4aの内側側面の下端部分に、内径側に突出するようにして、外径側はヒレ部4bの最外縁の外側端部部分(略逆三角形の頂点部分)に、外径側に突出して発生するように構成されてなる。
弁部材1は、弁本体2の収納部3に、環状パッキン4を収納させることで構成される。本実施例の弁部材1の場合、収納部3に環状パッキン4を収納すると、環状パッキン4の本体部4a分の上面、下面、及び内側側面が、収納部3の、収納部上面3a、収納部下面3b、及び溝部3dを除く収納部側面3cに当接することで、環状パッキン4と弁本体2が水密的に接続される。また、本実施例では、環状パッキン4の内径側のパーティングラインPL及び収納部3の溝部3dは、いずれも収納部3の下端部分に設けられてなる。このため、環状パッキン4の内径側のパーティングラインPLの取り残しは、全て収納部3の溝部3d内に収納され、パーティングラインPLが弁体の収納部3内面に当接することは無い。このようにすることで、パーティングラインPLによって環状パッキン4表面が収納部3と離れてしまい、水密性が失われる、という問題の発生を防止することができる。」

(ウ)図12は以下のとおり。


イ 本件発明1の「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」との構成について、本件当初明細書の段落【0020】には、「環状パッキン4は、リング形状を成す、弾性を有したゴム素材からなる部材であって、弁部材1の溝部3dを除く収納部3と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた断面略四角形状を成す本体部4aと、該本体部4aの周縁に設けた、その下面が排水口5aの周縁上面と水密的に当接する断面略逆三角形状を成すヒレ部4bとを備えてなる。」と記載されており、本件当初明細書等に記載されているから、新たな技術的事項を導入したものではない。

ウ 申立人は、補正の根拠となった本件当初明細書の段落【0020】において、環状パッキンが「収納部と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた」ものとされていることから、明細書や図面に記載された事項は、環状パッキンが、「収納部と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた部分を有する」ことであり、上記補正は、本件発明1が、上面のみが収納部と合致する部分を有していたり、下面のみが収納部と形状が合致する部分を有していたりすることを含む、本件当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を追加するものである旨主張する。しかし、上記ア(ア)の記載から、環状パッキンの形状は、環状パッキン表面が収納部と離れてしまい、水密性が失われる可能性がない程度に合致していればよいことは明らかであり、実施例に記載された環状パッキンが上面、下面、及び内側側面を備えることをもって、当該構成を本件発明1の発明特定事項としないことによって新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
よって、上記補正は、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(1)申立人の主張の概要
申立人は、概略以下の主張をしている。
ア 本件発明1の「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」との構成は、本件明細書及び図面の全記載、並びに、本件出願時の技術常識及び令和3年12月2日付け意見書の記載を考慮すると、「収納部に対する環状パッキンの上下方向に沿った位置にばらつきが生じること」の解決を課題としていると思量されるが、「前記収納部と形状が合致する部分」がどこに配置されるのかについて何ら規定されておらず、収納部以外に配置されることを含んでおり、その場合には、課題を解決することはできない。

イ 本件発明1の「前記収納部と形状が合致する部分を有する」という文言は、収納部のどこか一部と形状が合致する部分を有するという意味を含むと解釈することもできる。しかし、例えば、上面のみが収納部と形状が合致するだけでは、収納部に対する環状パッキンの位置にばらつきが生じるから、このような一部合致する部分を有しているだけでは、前記課題を解決することができない。よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2ないし5は、発明の詳細な説明に記載した発明ではない。(申立書8頁22行〜9頁24行)

(2)当審の判断
ア 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0020】には、上記1(2)ア(イ)の本件当初明細書と同様の事項が記載されている。
そして、本件明細書には「環状パッキン4は、リング形状を成す、弾性を有したゴム素材からなる部材であって、弁部材1の溝部3dを除く収納部3と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた断面略四角形状を成す本体部4aと、該本体部4aの周縁に設けた、その下面が排水口5aの周縁上面と水密的に当接する断面略逆三角形状を成すヒレ部4bとを備えてなる。」と記載されているから、本件発明1の「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」との構成は、本件明細書等に記載されている。

イ 申立人の主張について、本件発明1の「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」との構成は、「環状パッキンと収納部の形状が合致することで、収納部に対する環状パッキンの位置が決定」し、これにより環状パッキンのパーティングラインが溝部に案内されるようになる効果を奏するものである。
そして、「収納部」との「形状」の「合致」を「環状パッキン」の「収納部」内における位置の決定ができる程度とし、「環状パッキン」の「前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分」を収納部内に配置すれば、環状パッキンのパーティングラインが溝部に収納されるものとなり、パーティングラインPLによって環状パッキン4表面が収納部3と離れてしまい、水密性が失われる、という問題の発生を防止することができることは当業者に明らかである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
本件発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

3 特許法第29条第2項進歩性
(1)証拠の記載
ア 甲1
甲1には以下の記載がある。
(ア)「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、各種の水栓金具や洗浄水を使用する衛生設備等の給水配管中に組み込む止水栓に係り、特にパッキンによる密着性を向上させるようにした弁構造に関する。」

(イ)「 【0009】
【考案が解決しようとする課題】
パッキン20はゴムや軟質の合成樹脂を素材とし、たとえば射出成形法によって製造される。この場合、図5に示すようにパッキン20の表面には、外に突き出るバリが生じることが多い。このようなバリは、たとえば外周縁であって保持具21の保持座21bの中に入り込む部分のバリ20c,取付け孔20aの内周縁のバリ20d,20e等が最も生じやすい。」

イ 甲2
甲2には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、槽体の排水口に設けられる排水栓装置に関する。」

(イ)「【0051】
栓蓋6は、POM等の樹脂からなる蓋部61と、弾性変形可能な素材(例えば、樹脂やゴム等)からなる環状のパッキン62とを備えている。蓋部61は、表面がなだらかに湾曲する円板状の傘状部61Aと、当該傘状部61Aの背面から下方に向けて延びる筒状の突状部61Bとを備えている。そして、前記突状部61Bの外周に設けられた凹部分に前記パッキン62が嵌合されている。加えて、前記パッキン62は、排水口101の閉時に、その外周部分の全周が排水口部材2に対して接触するように構成されている。」

ウ 甲3
甲3には以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、小型携帯機器のりゅうず、ボタン等の外部操作部や裏蓋部等に用いられる加流工程を有しコンプレッション成形されるNBR、IIR等の合成ゴムパッキンの断面形状に関するものであり、防水時計や防水カメラ等の信頼性の高いケースに適用される。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】従来、小型携帯機器のりゅうず、ボタン等の外部装作部や裏蓋部等に用いられる加流工程を有しコンプレッション成形されるNBR、IIR等の合成ゴムパッキンは、図5のように断面が円形のOリング、あるいはD形のDリングが主である。これらのパッキンのパーティングラインは、成形性、型加工性を考慮し、最内径?最外径を結ぶ線上に設けられ、バリや段差が最内径?最外径に生じる構成となっている。」

エ 甲4
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂管または金属管を接続するための管継手用ゴムパッキン及びそれを用いた管継手に関するものである。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】従来、図7に示すように、継手本体内にパッキンAを装着して接続管とシールする管継手がある。パッキンAは図のように一旦側に凹部を有す断面が略横V字形の環状パッキンである。このパッキンAは、管内の流体圧力によって流体がパッキンAの凹部の横V形内に進入し、流体圧力がパッキンの横V形断面を外径側と内径側に拡げる方向に作用し、パッキンAの継手内周面とと管外周面とのシール性能を発揮するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら通常、このようなパッキンAの成形は、パッキンAを成形型内から取り出し易いよう、図9で示すに成形型D,Eの割面を最大外径と最小内径部分に設けた成形型で成型される。このため成形型内にゴムを射出成型する際、割面部分にバリB,Cが張り出して成形される。バリB,Cは通常成形した後、手作業等で取り除かれるが、完全に無くすことは出来ず、図8のごとく成形されたパッキンAにバリB,Cが残る。しかもこのバリB,Cの大きさが均一ではない。」

オ 甲5
甲5には以下の記載がある。
(ア)「【意匠に係る物品の説明】本物品は、浴槽や洗面器等の槽体に設けられた排水口を開閉するために用いられる栓蓋である。」

(イ)「【意匠の説明】正面図及び底面図にて実線で表した部分、及び、参考斜視図にて薄墨を付した部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。すなわち、参考切断部端面図に示すように、栓蓋の背後には、中央に位置し中心軸方向に延びる筒状部と、平坦面状の平坦部と、外周側に位置する外周側突部とが内側から外側に向けてこの順序で形成されているところ、前記筒状部の外周面から、前記平坦部を経て、前記外周側突部の内周面にかけての、底部が平坦部からなる窪み状の環状領域部分(参考切断部端面図にて太線を付した部分)が、部分意匠として登録を受けようとする部分である。前記筒状部の外周面における前記平坦部に連接する面、及び、前記外周側突部の内周面における前記平坦部に連接する面は、それぞれ前記平坦部に対し滑らかに連続する湾曲面状をなす。さらに、筒状部の外周面の下端は、外周側突部の下端よりも下方に位置する。尚、本願意匠において、背面図、右側面図及び左側面図はそれぞれ正面図と同一であるため、背面図、右側面図及び左側面図を省略した。」

(ウ)正面図、参考切断部端面図は以下のとおり。
正面図




参考切断部端面図




カ 甲6
甲6には以下の記載がある。
(ア)「【意匠に係る物品の説明】本物品は、槽体(例えば、浴槽や洗面器等)の排水口を閉鎖するための栓蓋に取付けられ、排水口を水密にシールするために用いられるものである。」

(イ)「【意匠の説明】本物品は、凹みのない平滑な表面を有するとともに、表裏同一形状に構成される。また、本物品は、参考断面図及び参考斜視図に示すように、内周側に位置する比較的厚肉の厚肉部と、外周側に向けて徐々に薄くなる遷移部と、外周側に位置する比較的薄肉の薄肉部とが、内周側から外周側に向けてこの順序で形成されてなる。厚肉部は、栓蓋へと取付けられる部分であり、薄肉部は、その全周が槽体等に接触することで排水口を水密にシールする部分である。薄肉部は、最外周に向けて徐々に薄くなるように外側に突出する凸部と、当該凸部及び遷移部間に位置し、一定の厚さを有する定厚部とを備える。尚、本願意匠において、背面図、右側面図及び左側面図はそれぞれ正面図と同一であり、底面図は平面図と同一であるため、背面図、右側面図、左側面図及び底面図を省略した。

(ウ)正面図、参考断面図は以下のとおり。
正面図



参考断面図



キ 甲7
(ア)甲7の記載事項
甲7には以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下同様)。
a「【技術分野】
【0001】
本発明は、槽体の排水口を開閉するための栓蓋を備えた排水栓装置に関する。
・・・
【0007】
ところで、上記技術では、栓蓋側機構部を配設するために、前記取付管を設ける必要がある。そのため、前記管体(オーバーフロー管やガイド管など)を別途設ける場合には、構造が複雑になってしまい、製造コストの増大を招いてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造コストの増大抑制を図りつつ、管体における通水能力を十分に確保することができる排水栓装置を提供することにある。」
b「【0047】
以下に、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔第1実施形態〕
図1及び図2に示すように、排水栓装置1は、操作装置2、伝達部材3及び排水側装置4を備えている。尚、排水栓装置1は、槽体としての洗面器100に取付けられており、洗面器100は、排水口102の形成された底壁部101と、当該底壁部101の外周に立設された側壁部103とを備えている。また、側壁部103には、孔部としてのオーバーフロー口104が貫通形成されている。」
c「【0060】
次に、排水側装置4について説明する。排水側装置4は、図1に示すように、排水口部材41と、取付部材42と、配管43と、排水口装置44と、栓蓋側機構部45とを備えている。
【0061】
排水口部材41は、筒状に形成されており、自身の中心軸と前記排水口102の中心軸とがほぼ一致した状態で排水口102に挿設されている。また、排水口部材41は、その上端部に径方向外側に突出形成された鍔部41Aを有し、当該鍔部41Aよりも下方側の外周に雄ねじ部41Bを備えている。さらに、排水口部材41の下部外周面には、排水口部材41の周方向に沿って延びる環状をなす凹状の被係止部41Cが形成されている。
・・・
【0064】
排水管431は、排水口102を通過した(排水口部材41の内周に流れ込んだ)排水が流れることとなる排水流路を構成する部位である。また、排水管431の上端部には、取付孔431Aが貫通形成されており、排水管431の外周における前記取付孔431Aに対応する位置には、Cリング47が嵌め込まれている。」
d「【0071】
排水口装置44は、図1に示すように、通水部材441、ヘアキャッチャー442及び栓蓋443を備えている。
・・・
【0076】
栓蓋443は、樹脂等からなる円板状の栓蓋本体部443Aと、当該栓蓋本体部443Aに取付けられたパッキン部443Bとを備えている。
【0077】
栓蓋本体部443Aは、排水口部材41と略同軸に設けられており、その背面の外周側に前記パッキン部443Bが嵌め込まれている。
【0078】
パッキン部443Bは、弾性変形可能な材料(例えば、ゴムや樹脂等)によって環状に形成されている。そして、後述する支持部454が下動した際に、通水部材441とともに栓蓋443が下動し、パッキン部443Bの外周部分全域が排水口部材41に接触することで、排水口102が閉鎖されるようになっている。一方で、支持部454が上動した際には、通水部材441とともに栓蓋443が上動し、パッキン部443Bが排水口部材41から離間することで、排水口102が開放されるようになっている。」
e 図1は以下のとおり。



上記dの記載を踏まえると、上記図1より、栓蓋443は、パッキン部443Bが嵌め込まれている、栓蓋本体部443Aの下方に備えられた、側面方向に開口した収納部を有すること、パッキン部443Bは、収納部と形状が合致する部分を有することが看取される。

(イ)甲7発明
上記(ア)からみて、甲7には、次の発明(以下「甲7発明」という、)が記載されていると認められる。
(甲7発明)
「槽体としての洗面器100に取付けられている排水栓装置1の備えている排水側装置4の備える排水口装置44の備える栓蓋443であって、
栓蓋443は、樹脂等からなる円板状の栓蓋本体部443Aと、当該栓蓋本体部443Aに取付けられたパッキン部443Bとを備えており、
栓蓋本体部443Aは、その背面の外周側にパッキン部443Bが嵌め込まれており、
パッキン部443Bは、ゴムや樹脂等の弾性変形可能な材料によって環状に形成され、栓蓋443が下動し、パッキン部443Bの外周部分全域が排水口部材41に接触することで、排水口102が閉鎖され、栓蓋443が上動し、パッキン部443Bが排水口部材41から離間することで、排水口102が開放されるようになっており、
パッキン部443Bが嵌め込まれている、栓蓋本体部443Aの下方に備えられた、側面方向に開口した収納部を有し、
パッキン部443Bは、収納部と形状が合致する部分を有する、
栓蓋443。」

ク 甲8
甲8には以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は浴槽や洗面台などの底部に装設された排水栓装置に関し、更に詳しくは、遠隔操作により排水栓の開閉を行う遠隔操作式排水栓装置の改良に関する。」

(イ)「【0022】
【発明の実施の形態】以下に本発明の第一実施例を、図面を参照しつつ説明する。図1乃至図3に図示した本発明の第一実施例による遠隔操作式排水栓装置は、以下に記載した排水栓(1)、止水弁(3)、弁支持部材(14)、レリースワイヤ(5)、操作スイッチ(15)、その他の各部材より構成されて成る。排水栓(1)は、内部に排水口(2)を形成する略円筒形状であって、その外周面に雄螺子を設け、また排水口(2)内周面に、水平に沿って凸部(16)を突設している。弁支持部材(14)は、排水栓(1)の排水口(2)に設けた凸部(16)と係合する係合爪(17a)を下部に設けた円筒状のリング部(17)と、該リング部(17)からその中心に向かって延出されたアーム部(18)と、アーム部(18)の中心部にアーム部(18)と一体的に設けた、レリースワイヤ(5)のアウターチューブ(5a)の端部を接続する接続部(6)を備えてなる。止水弁(3)は、上下することで上記排水口(2)を開閉する弁部(4)と、止水弁(3)の上下動作を安定させる安定機構として、弁部(4)下面から垂下して設けられ、接続部(6)の外周面に摺接して上下方向に自在に動作する安定壁(7)を備えてなる。・・・
【0023】上記のように構成した遠隔操作式排水栓装置は、以下のようにして浴槽等に設けられた取着孔に取着される。

(ウ)図1ないし図3は以下の通り。
図1



図2



図3




ケ 甲9
甲9には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、防水機能を有するレンズ組立体、およびそのレンズ組立体を備えた撮像装置に関する。」

(イ)「【背景技術】
【0002】
最近、自動車にカメラが配備されるようになってきている。このようなカメラの多くは、ナビゲーションシステムが普及し運転席に表示画面が設けられていることを利用して、ドライバの死角になる場所の状態をその表示画面上に表示するものである。
【0003】
この様な車載用のカメラにあっては、最も対物側に位置するレンズが車体表面に露出して配備されることになるために厳しい防水性能が要求される。このため、その車載用のカメラに搭載されるレンズ組立体にあっては、最も対物側に位置するレンズの外周面とレンズ枠の内周面との間にOリングが挿入されて水の侵入等が防止されているものが多い(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ところで、防水用のOリングは、半割の型内に樹脂が注入されて成型され成型された後にその半割の型が割られて型の中のOリングが取り出されることにより製造されるものが多い。
【0005】
このため、Oリングの外周面と内周面との少なくとも一方には金型のパーティングラインに沿ってOリングを一周するバリが形成されてしまうことがある。このことにより場合によってはOリングがレンズ外周面とレンズ枠内壁面との間にうまく配置されたとしてもそのバリによってレンズ外周面とレンズ枠内壁面との間の密閉状態が崩されて隙間が生じ防水性能に悪影響が及ぼされてしまうことがある。」

(ウ)「【0024】
本実施形態においては、図2に示すOリング15が図1のレンズ枠10に装着されたときに図2のOリング15のバリ150,151がレンズ外周面とレンズ枠内壁面との間に位置して隙間を生じさせるということがないようにするために、レンズ枠内壁面100に、図2に示すOリング15の外周面のバリ150を収容するための、レンズ枠内壁面100を一周する溝1000を設けるとともに、レンズの外周面141に、Oリング15の内周面のバリ151を収容するための、そのレンズ14の外周面141を一周する溝1410を設けている。
【0025】
こうすると、Oリング15の外周面にバリ150があるときにはそのバリ150がレンズ枠内壁面100の溝1000に落とし込まれ、Oリング15の内周面にバリ151があるときにはそのバリ151がレンズ14の外周面141の溝1410に落とし込まれて、バリのないOリング15が装着されたのと同じ様にレンズ枠内壁面100とレンズ外周面141との間にバリ150,151のあるOリング15が装着されることになる。つまり、Oリングにバリがあったとしてもそれらのバリがレンズ外壁面とレンズ枠内壁面との間に位置して隙間を生じさせるということがなくなって所望の防水性能が得られる。」

(エ)図3は以下のとおり。
図3




コ 甲10
甲10には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、防水が必要な部材を、例えばカメラやオーディオプレーヤー等の電子機器の内部に水密に収納するための電子機器用防水構造に関するものである。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の電子機器用防止構造では、防水が必要な部材を収納するために本体部に設けた開口部とそれを閉じる蓋体との間の合わせ目全周に形成された隙間部に、断面が中空もしくは疑似中空になっている弾性自在なパッキンを配したものである。これによれば、蓋体を閉めたときにパッキンの内部に流体が送り込まれてパッキンの内部が加圧されて隙間部が密封される。また、蓋体を開いたときには、流体がパッキンの内部から吸い出されてパッキンの内部が減圧される。
【0009】
パッキンは、隙間部全周に収まるように環状に形成されており、内部に流体が出し入れされる中空部を有している。流体の出し入れとしては、パッキンの一部、例えば膨張部の反対側に接続され、パッキンの内部に流体を送り込んで内部を加圧、又は内部から流体を吸い出して内部を減圧する加減圧手段を備える。加減圧手段としては、外部操作により加圧と減圧とのいずれか一方が行えるようにして構成する。・・・
【0011】
パッキンとしては、内部に中空部が形成されているもの、例えばチューブ状のものを用いればよい。この場合、その中空部に流体を送り込むようにする。また、パッキンとしては、隙間部の一部との間で内部が疑似中空になる形状、例えばスカート部を両端に有する断面略コ字状のものを用いてもよい。この場合、パッキンの内面と隙間部の一部とで作られる中空部に流体を送り込むようにすればよい。
【0012】
パッキンは、シリコーンゴムなどのゴム材料を用いて押し出し成形で長尺状に作り、その後に環状に作ってもよいし、また、シリコーンゴム、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などのゴムや樹脂材料を用いて中空射出成形などで環状に作ることもできる。射出成形の場合には、金型を使用するため外周にバリが生じるおそれがある。バリが隙間部から突出して合わせ目に噛み込んだりすると、合わせ目に隙間ができて防水性が低下する。そこで、バリを逃がすための溝を、隙間部、例えば凹溝を構成するうちの対向する一対の壁に形成しておくのが望ましい。」

(ウ)「【発明の効果】
【0013】
本発明の電子機構用防止構造によれば、開口部と蓋体との間の合わせ目全周に形成された隙間部にパッキンを配し、蓋体を閉めたときにパッキンの内部に流体を送り込んでパッキンの内部を加圧して隙間部を密封し、また、蓋体を開いたときには流体を内部から吸い出してパッキンの内部を減圧するので、隙間部の形状に係わらず隙間部を均一にシールすることができるとともに、蓋体の開閉が簡便に行える。
【0014】
また、固定解除手段の操作に連動してパッキンの内部を加圧又は減圧する発明では、一々加圧又は減圧させる操作を必要としないので、蓋体の開閉操作が簡便に行える。さらに、隙間部にパッキンに形成されたバリを逃がすための溝を設けた発明では、隙間部でバリを逃がすことができるので、例えばバリが合わせ目に噛み込んで防水性が低下することを確実に防止することができる。」

サ 甲11
甲11には以下の記載がある。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
この考案は、回路基板の表裏面に形成された回路にリード端子を形成するリードフレームに関する。」(明細書1頁12〜15行)

(イ)「〔実施例〕
第1図は、この考案のリードフレームの一実施例を示す。
第1図の(A)及び(B)に示すように、このリードフレームには、外部端子となるリード2が設けられているとともに、このリード2と回路基板との電気的な接続と同時に機械的な結合を図るため、基板装着部4が形成され、この基板装着部4には回路基板を挟み込んで回路基板に固定するためにリード2の付け根を二股に分岐してリード2とほぼ同一の幅を成す2つのリード片6、8が形成されている。
一方のリード片6は、リード2の延長上に直線状を成して形成され、その回路基板に対する固定を容易にするため、その先端部が外側方向に折り曲げられている。
また、他方のリード片8は、その付け根から鋭角θLを成して折り曲げられ、その湾曲部分によって回路基板に対する当接部81が形成されている。この当接部81からリード片8は、リード2側に傾斜面を成して後退し、その中間部から固定すべき回路基板の厚さに対応してリード片6側に折り返され、その湾曲部によってバリ収容部83が形成されている。(明細書6頁6行〜7頁9行)

(ウ)「そして、リード片8の付け根にある当接部81が回路基板10の側面に当たるとともに、バリ収容部83が設定された角度θLとともにその湾曲状態によって後方にずれ、バリ収容部83の内部に回路基板10の側面に生じているバリ16が収容される。このため、バリI6によってリードフレームの取付状態が影響を受けることなく、バリ16に無関係に回路基板10上にリードフレームが固定され、安定した固定状態が得られる。」

(エ)第2図(A)及び(B)は以下のとおり
第2図(A)



第2図(B)




シ 甲12
甲12には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に装備されるウインドウォッシャ装置において、ウォッシャ液(洗浄液)の流路の切り換えなどに用いられる電磁弁、あるいはその他の流体の流路を切換える電磁弁に関する。」

(イ)「【0015】
図1及び図2は、本発明に係る電磁弁の一実施の形態を示している。この電磁弁1は、車両に搭載され、洗浄液等の液体やその他の流体の流路を切換えるもので、入口ポート41a及び第1の出口ポート42aの各々に連通する弁室45を有する弁本体40と、弁室45内に配置される弁体64と、弁体64を保持する弁ホルダ60と、弁ホルダ60を第1の出口ポート42aの方向に付勢する付勢部材としてのコイルばね66と、弁室45に連通する第2の出口ポート10aを有し、弁室45から上方に延設されるパイプ部材10と、パイプ部材10を囲繞する吸引子50と、吸引子50を囲繞する電磁コイル21と、電磁コイル21を巻回するためのコイルボビン20と、コイルボビン20の全体を囲繞するモールドカバー30等を備える。
・・・
【0018】
樹脂製のコイルボビン20は、電磁コイル21を巻回する胴体22と、その胴体22の両端に連成され、電磁コイル21の巻線をばらつき規制する一対の鍔壁23、24とを有する。下方鍔壁24の外周面には円板状溶着突起部24aが形成され、下方鍔壁24の外面には胴体22の延長上に位置する環状溶着突起部25が一体に形成される。また、下方鍔壁24の外面には、下方へ延びる1又は複数の脚部24bが一体に設けられる。
・・・
【0020】
モールドカバー30は、樹脂製で、その下端壁31の内面には、コイルボビン20の環状溶着突起部25が溶着され、モールドカバー30の内周面には、コイルボビン20の円板状溶着突起部24aが溶着される。これにより、モールドカバー30は、コイルボビン20を覆うようにパイプ部材10に同軸上に一体的に成形される。モールドカバー30の下端壁31の外面には、環状溶着壁33が形成される。なお、環状溶着壁33は、レーザー光線の照射によって加熱溶融されるように、例えば黒色に形成される。
・・・
【0031】
コイルボビン20の環状溶着突起部25の先端側内周面には、図2に明示するように、環状溶着突起部25の先端から根元へ向かってテーパ面27が形成され、当該テーパ面27と弁ホルダ60の外周面との間にはバリ収容空間28が形成される。
【0032】
モールドカバー30の樹脂成形の際には、環状溶着突起部25の先端部は下端壁31の内面に対して平面状に形成されているため、環状溶着突起部25の平面状の先端部と下端壁31の内面との合わせ面(接合面)にバリ46が発生する。しかし、このバリ46をバリ収容空間28に収容して逃がすことにより、バリ46と弁ホルダ60の外周面との接触を回避することができる。そのため、電磁弁1の製造途中において発生するバリ46を取り除く手間を省け、製造工程をより簡素化でき、電磁弁1の製品不良の発生を防止できる。」

(ウ)図2は以下のとおり。
図2




(2)甲7発明を主引例とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲7発明とを対比する。
a 甲7発明の「槽体としての洗面器100に取付けられている排水栓装置1の備えている排水側装置4の備える排水口装置44の備える栓蓋443」であって、「下動し」て「排水口102が閉鎖され」る「栓蓋443」は、本件発明1の「槽体の排水口を閉塞する弁部材」に相当する。
b 甲7発明の「円板状の栓蓋本体部443A」は、本件発明1の「略板状の弁体部」に相当する。
c 甲7発明の「栓蓋本体部443Aの下方に備えられた、側面方向に開口した収納部」は、本件発明1の「前記弁体部の下方に備えられた、側面方向に開口した収納部」に相当する。
d 甲7発明は「パッキン部443Bの外周部分全域が排水口部材41に接触することで、排水口102が閉鎖され」るものであるところ、「パッキン部443Bの外周部分全域が排水口部材41に接触」し「排水口102が閉鎖され」ることによって「栓蓋443」と「排水口部材41」とを「水密に接続する」ことは自明である。そうすると、甲7発明の、「円板状の栓蓋本体部443A」の「下方に備えられた、側面方向に開口した収納部」に「嵌め込まれ」る「環状」の「パッキン部443B」であって、「パッキン部443Bの外周部分全域が排水口部材41に接触することで、排水口102が閉鎖され」る「パッキン部443B」は、本件発明1の「前記収納部内に収納される、前記排水口周縁に当接して前記弁体部と前記排水口の間を水密に接続する環状パッキン」に相当する。
e 本件発明1の「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」ことと、甲7発明の「パッキン部443Bは、収納部と形状が合致する部分を有する」こととは、「前記環状パッキンは、前記収納部と形状が合致する部分を有する」ことで共通する。
f 上記aないしeより、本件発明1と甲7発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
槽体の排水口を閉塞する弁部材であって、
略板状の弁体部と、
前記弁体部の下方に備えられた、側面方向に開口した収納部と、
前記収納部内に収納される、前記排水口周縁に当接して前記弁体部と前記排水口の間を水密に接続する環状パッキンと、
を有し、
前記環状パッキンは、前記収納部と形状が合致する部分を有する弁部材。

(相違点1)
本件発明1は、「前記収納部側面に、環状に設けられた溝部」を有し、「前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、
前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しない」ものであるのに対し、甲7発明は、そのようなものか不明である点。
(相違点2)
本件発明は、「前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有する」のに対し、甲7発明は、弁部材に溝部があるか不明であり、「収納部と形状が合致する部分」が「前記弁部材の前記溝部を除いた」部分で合致するものか不明である点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
槽体の排水栓を閉塞する弁部材の環状パッキンが収納される収納部において、
「収納部側面に、環状に設けられた溝部」を「前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しない」ように設けることは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されておらず、当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、甲5に栓蓋のパッキン収納部の側面における上下方向に沿った中央部に環状の溝部が設けられている点が記載され、そして、甲3、甲4に示される、パーティングラインは環状パッキンにおける最内径―最外径を結ぶ線上に設けられることが一般的であるとの技術常識を踏まえると、甲6に記載の上下対称形状をなすとともに、上下方向に沿った中心部が最大外形部分となっている栓蓋用パッキンにはパーティングラインが、栓蓋用パッキンの内周面における上下方向に沿った中心部に設けられているに等しいことから、甲7発明は、甲5と同様にパッキン収納部の側面における上下方向に沿った中央部に環状に設けられた溝状部を備え、溝状部を甲6と同様にパーティングラインの位置にあわせて形成していると主張している。(申立書10頁6行〜13頁最下行、15頁4〜6行、16〜18行、16頁4〜6行、16行〜17頁3行)
しかし、甲5、甲6の記載および技術常識を考慮しても、「溝状部」が形成されているか、パッキンが上下対称形状か等不明であり、甲7発明に本件発明1の「前記収納部側面に、環状に設けられた溝部」を有し、「前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成」することに相当する構成が開示されているとはいえない。
b 申立人は、「前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しない」構成は、甲9、甲10にそれぞれ記載のように周知技術であり、本件発明は甲7発明及び周知技術からも容易に想到可能であると主張する。(申立書26頁下から4行〜27頁20行)
しかし、甲9及び甲10は、それぞれ、レンズ組立体及びカメラやオーディオプレイヤー等の電子機器の水密に関する特許の公開公報であり、「前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しない」ことが槽体に備えられた排水口を閉塞する弁部材の技術分野において周知であることを示すものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(エ)小括
相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様の構成を有するから、甲7発明とは、少なくとも上記相違点1で相違する。
そして、上記相違点1に関しては、上記ア(イ)において検討したとおりである。
よって、本件発明2ないし5は、甲7発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲8発明を主引例とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲8発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の点で相違する。
(相違点1’)
本件発明1は、「前記収納部側面に、環状に設けられた溝部」を有し、「前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、
前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しない」ものであるのに対し、甲8発明は、そのようなものか不明である点。

(イ)判断
上記相違点1’について検討する。
上記(2)アにおいて検討したように、「前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しない」ことは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されておらず、甲8発明において上記相違点1’に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)小括
本件発明1は、甲8発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様の構成を有するから、甲8発明とは、少なくとも上記相違点1’で相違する。
そして、上記相違点1に関しては、上記ア(イ)において検討したとおりである。
よって、本件発明2ないし5は、甲8発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2023-01-20 
出願番号 P2018-036015
審決分類 P 1 651・ 537- Y (E03C)
P 1 651・ 55- Y (E03C)
P 1 651・ 121- Y (E03C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 土屋 真理子
佐藤 美紗子
登録日 2022-05-02 
登録番号 7066149
権利者 丸一株式会社
発明の名称 弁部材  

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