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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1395178 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-27 |
確定日 | 2022-12-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6820081号発明「反射防止フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6820081号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜14について訂正することを認める。 特許第6820081号の請求項1〜3、7〜8及び10〜14に係る特許を維持する。 特許第6820081号の請求項4〜6及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6820081号(請求項の数14。以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年7月6日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年7月14日及び平成29年4月21日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月6日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月27日に特許掲載公報が発行されたものである。 本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和3年7月27日に、特許異議申立人 高石 恵子(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。 その後になされた手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和3年11月29日付け:取消理由通知書 令和4年5月31日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和4年7月21日:特許異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和4年5月31日付け訂正請求書でなされた訂正を、以下「本件訂正」といい、その内容は以下のとおりである。 なお、本件訂正は、一群の請求項である、請求項1〜請求項14についてなされたものである。 (1)訂正事項1 請求項1において、「前記中空粒子の平均粒径に対する前記ソリッド粒子」との記載を「前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子」に訂正するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 請求項1において、「前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面から前記第1層および第2層が順次に積層され、」との記載を、「前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し、」と訂正するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 請求項1において、前記訂正事項2の後に続けて、「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し、」との記載を追加するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 請求項1において、前記訂正事項3の後に続けて、「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し、」との記載を追加するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 請求項1において、前記訂正事項4の後に続けて、「前記ソリッド状無機ナノ粒子は1nm〜30nmの粒径を有し、前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し、」との記載を追加するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 請求項1において、前記訂正事項5の後に続けて、「前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、」との記載を追加するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7 請求項1において、前記訂正事項6の後に続けて、「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み、」との記載を追加するものである(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜14も同様に訂正する)。 (8)訂正事項8 請求項3において、「前記中空粒子」との記載を「前記中空状無機ナノ粒子」に訂正するものである。 (9)訂正事項9 請求項4を削除する。 (10)訂正事項10 請求項5を削除する。 (11)訂正事項11 請求項6を削除する。 (12)訂正事項12 請求項9を削除する。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「前記中空粒子の平均粒径に対する前記ソリッド粒子」と記載されており、「中空粒子」、「ソリッド粒子」は前記されていないため請求項1の記載は不明瞭であったものを、「前記中空粒子」の記載を「前記中空状無機ナノ粒子」と訂正し、「前記ソリッド粒子」の記載を「前記ソリッド状無機ナノ粒子」と訂正することにより、請求項1の記載を明瞭にするものである。 そうすると、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「前記中空粒子の平均粒径に対する前記ソリッド粒子」と記載されていたものを、当該記載の直前に記載されている、「中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子」の記載に基づいて、「前記中空粒子」の記載を「前記中空状無機ナノ粒子」と訂正し、「前記ソリッド粒子」の記載を「前記ソリッド状無機ナノ粒子」と訂正するものである。 そうすると、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正前の請求項1において、「前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面から前記第1層および第2層が順次に積層され、」と記載され、これにより、第1層と第2層が別々に形成され順次に積層される態様を含み得る記載となっていたところ、当該態様を含まないことを明確にし、かつ、第1層と第2層が相分離されており、第1層はハードコート層および低屈折率層の間の界面に存在し、第2層はハードコート層から遠い側に存在するものに減縮するものである。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、及び、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0212】には、「図1〜6に示されているように、実施例1〜4の反射防止フィルムの低屈折層では、中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子が相分離されており、前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記反射防止フィルムのハードコート層および前記低屈折層の間の界面側に大部分存在して集中しており、前記中空状無機ナノ粒子はハードコート層から遠い側に大部分存在して集中している点が確認される。」と記載されている。 また、本件明細書の【0047】には、「前記実現例の反射防止フィルムにおいて、前記低屈折層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含むことができ、前記第1層が、第2層に比べて、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面により近く位置し得る。」とも記載されている。 本件明細書のこれらの記載からすると、同【0212】において、「前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記反射防止フィルムのハードコート層および前記低屈折層の間の界面側に大部分存在して集中している」領域は「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層」に対応し、「前記中空状無機ナノ粒子はハードコート層から遠い側に大部分存在して集中している」領域は「前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層」に対応することを理解することができる。 そして、同【0212】に記載されている反射防止フィルムの低屈折層(低屈折率層)中の上記の2つの領域、つまり、第1層と第2層は、相分離していることを理解することができる。 そうすると、訂正事項2は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は、請求項1において、「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し、」との記載を追加することで、低屈折率層中において第1層が存在する領域に関して明確に規定するものである。 そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、及び、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 本件明細書の【0049】には、「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層は、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面から前記低屈折層全体厚さの50%以内に位置し得る。」と記載されている。 そうすると、訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的 訂正事項4は、請求項1において、「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し、」との記載を追加するものである。 そうすると、訂正事項4は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 本件明細書の【0137】には、「前記ソリッド状無機ナノ粒子が、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有することができ」と記載されている。 そうすると、訂正事項4は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5について ア 訂正の目的 訂正事項5は、請求項1において、「前記ソリッド状無機ナノ粒子は1nm〜30nmの粒径を有し、前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し、」との記載を追加することで、ソリッド状無機ナノ粒子と中空状無機ナノ粒子の夫々の粒径を規定するものである。 そうすると、訂正事項5は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 訂正事項5は、訂正前の請求項4及び5等の記載に基づくものであることから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項6について ア 訂正の目的 訂正事項6は、請求項1において、「前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、」との記載を追加することで、低屈折率層に含まれるバインダー樹脂の種類を規定するものである。 そうすると、訂正事項6は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 訂正事項6は、本件明細書の【0063】の「前記低屈折層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体・・・を含むことができる。」の記載に基づくものである。 そうすると、訂正事項6は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (7)訂正事項7について ア 訂正の目的 訂正事項7は、請求項1において、「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み、」との記載を追加することで、低屈折率層に含まれる中空状無機ナノ粒子及びソリッド状無機ナノ粒子の含有量を規定するものである。 そうすると、訂正事項7は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 訂正事項7は、請求項1において、訂正前の請求項9の記載及び本件明細書の【0090】の「前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子10〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含むことができる。」の記載に基づいて、訂正前の請求項9の記載を取り込むとともに、中空状無機ナノ粒子の含有量の下限値について、実施例4の記載(トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)100重量部に対して、中空状無機ナノ粒子を264重量部含有する)に基づいて、「264重量部」と規定するものである。 そうすると、訂正事項7は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (8)訂正事項8について ア 訂正の目的 訂正事項8は、訂正前の請求項3において、「前記中空粒子」と記載されていたところ、これを従属先の請求項1の記載に合わせて「前記中空状無機ナノ粒子」に訂正することにより、請求項3の記載を明瞭にするものである。 そうすると、訂正事項8は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 訂正事項8は、訂正前の請求項3において、「前記中空粒子」と記載されていたところ、従属先の請求項1等に記載されている「前記中空状無機ナノ粒子」の記載に基づいて、「前記中空粒子」の記載を「前記中空状無機ナノ粒子」と訂正するものである。 そうすると、訂正事項8は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (9)訂正事項9〜12について 訂正事項9〜12による訂正は、請求項4〜6及び9を削除する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 これらの訂正が、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合することは明らかである。 また、これらの訂正が、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合することも明らかである。 (10)訂正の適否の小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、訂正要件を満たす。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜14について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1〜3、7〜8及び10〜14に係る発明(以下、「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明3」、「本件訂正発明7」〜「本件訂正発明8」及び「本件訂正発明10」〜「本件訂正発明14」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜3、7〜8及び10〜14に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 [本件訂正発明1] 「 バインダー樹脂および該バインダー樹脂に分散した有機または無機微粒子を含むハードコート層;およびバインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層;を含み、 前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率が0.26〜0.55であり、 前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み、 前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し、 前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し、 前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し、 前記ソリッド状無機ナノ粒子は1nm〜30nmの粒径を有し、前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し、 前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、 前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み、 380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.7%以下の平均反射率を示す、反射防止フィルム。」 [本件訂正発明2] 「 前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面から前記低屈折率層全体厚さの50%を超える前記低屈折率層の領域に、前記中空状無機ナノ粒子全体中の30体積%以上が存在する、請求項1に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明3] 「 前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径が40nm〜100nmの範囲以内である、請求項1に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明7] 「 前記ソリッド状無機ナノ粒子および前記中空状無機ナノ粒子それぞれは、表面にヒドロキシ基、(メタ)アクリレート基、エポキシド基、ビニル基(Vinyl)、およびチオール基(Thiol)からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を含有する、請求項1に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明8] 「 前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体および光反応性官能基を含む含フッ素化合物の間の架橋(共)重合体を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明10] 「 前記低屈折率層は、ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物をさらに含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明11] 「 前記ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物は、下記化学式11〜14の化合物のうちのいずれか1つである、請求項10に記載の反射防止フィルム: 【化1】 【化2】 前記化学式14において、R1は、 【化3】 であり、 前記Xは、水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基、炭素数1〜6のアルコキシ基、および炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基のうちのいずれか1つであり、 前記Yは、単一結合、−CO−、または−COO−であり、 R2は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素由来の2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の水素がヒドロキシ基、カルボキシル基、またはエポキシ基で置換された2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の−CH2−が酸素原子が直接連結されないように−O−、−CO−O−、−O−CO−、または−O−CO−O−に代替された2価の残基であり、 Aは、水素および炭素数1〜6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、Bは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、nは、0〜2の整数である。」 [本件訂正発明12] 「 前記ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物は、前記反応性官能基を100〜1,000g/mol当量で含有する、請求項10に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明13] 「 前記ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物は、100〜5,000の重量平均分子量を有する、請求項10に記載の反射防止フィルム。」 [本件訂正発明14] 「 前記有機微粒子は、1〜10μmの粒径を有し、 前記無機微粒子は、1nm〜500nmの粒径を有する、請求項11に記載の反射防止フィルム。」 第4 取消理由及び証拠 1 取消理由 令和3年11月29日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由は、概略、次のとおりのものである。 理由1:(サポート要件)本件特許は、請求項1〜14に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由2:(明確性要件)本件特許は、請求項1〜14に係る発明が、明確であるということができないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由3:(進歩性)本件特許の請求項1〜請求項14に係る発明は、本件特許の出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲1:国際公開第2012/147527号 甲5:国際公開第2012/157682号 甲7:特開2009−244382号公報 甲8:特開2011−88787号公報 甲10:特開2013−228741号公報 甲11:特開2013−178534号公報 引用文献1:特開2009−217258号公報 (当合議体注:甲1、甲8は、主引用例である。甲5、7、10〜11及び引用文献1は、周知技術を示す文献である。) 2 その他の証拠について (1)特許異議申立人による証拠 特許異議申立人は、上記の他、特許異議申立書に添付して、以下の証拠を提出した。 甲2:「日産化学株式会社のホームページ」,日産化学株式会社,[2019年7月1日検索],インターネット<URL:https://www.nissanchem.co.jp/products/materials/inorganic/products/02/> 甲3:「ナノマテリアル情報提供シート、材料名:非晶質コロイダルシリカ、事業者名:日産化学工業株式会社」,平成27年7月,経済産業省 甲4:「ナノマテリアル情報提供シート、材料名:火炎加水分解法、または燃焼加水分解法と呼ばれる乾式法によって製造されたシリカ、事業者名:日本アエロジル株式会社」,平成27年7月,経済産業省 甲6:特表2014−529762号公報 甲9:特開2007−272132号公報 (2)特許権者による証拠 特許権者は、令和4年5月31日提出の意見書に添付して、以下の証拠を提出した。 乙1:甲1の実施例の再現実験結果 第5 当審の判断 1 サポート要件について (1)本件訂正発明1が解決しようとする課題 本件訂正発明1は、「従来は、反射防止フィルムの耐スクラッチ性を高めるために無機粒子を過剰添加したが、反射防止フィルムの耐スクラッチ性を高めるのに限界があり、むしろ反射率と防汚性が低下する問題点があった。」(【0035】)という従来技術の有する問題点に鑑みなされた発明であって、その解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0009】に記載のとおり、「低い反射率および高い透光率を有しかつ、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる反射防止フィルムを提供する。」ことにあると認められる。 (2)発明の詳細な説明により当業者が本件訂正発明1の課題を解決できると認識できる範囲について ア 本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の課題解決に関連する記載として、以下の記載がある。 (ア)中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子が主に分布する領域に関し 【0037】 「具体的には、前記反射防止フィルムの低屈折層のうち、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面近くにソリッド状無機ナノ粒子を主に分布させ、前記界面の反対面側には中空状無機ナノ粒子を主に分布させる場合、従来無機粒子を用いて得られていた実際の反射率に比べてより低い反射率を達成することができ、また、前記低屈折層が大きく向上した耐スクラッチ性および防汚性を共に実現することができる。」 (イ)第1層及び第2層の組成及び位置に関し 【0029】 「例えば、前記反射防止フィルムがより低い反射率および高い透光率を有しかつ、より向上し高い耐スクラッチ性および防汚性を実現するために、前記中空粒子の平均粒径が40nm〜100nmの範囲以内であってもよいし、また、前記ソリッド粒子の平均粒径が1nm〜30nmの範囲以内であってもよい。」 【0045】 「前記低屈折層における前記ソリッド状無機ナノ粒子および中空状無機ナノ粒子の特異的分布は、後述の特定の製造方法において、前記ソリッド状無機ナノ粒子および中空状無機ナノ粒子の間の平均粒径の比率を調節し、前記2種のナノ粒子を含む低屈折層形成用光硬化性樹脂組成物を乾燥温度を調節することにより得られる。」 【0047】 「前記低屈折層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含むことができ、前記第1層が、第2層に比べて、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面により近く位置し得る。」 (ウ)相分離に関し 【0021】 「本発明者らは、前記2種類の粒子間の平均粒径の差を上述した比率に調節する場合、最終的に製造される反射防止フィルムでより低い反射率を確保しかつ、向上した耐スクラッチ性と防汚性を実現できる点を確認した。」 【0022】 「より具体的には、前記低屈折層において、前記中空粒子の平均粒径に対する前記ソリッド粒子の平均粒径の比率が・・・中略・・・0.26〜0.55・・・中略・・・であることによって、前記低屈折層内で前記中空粒子およびソリッド粒子が互いに異なる偏在および分布様相を示すことができ、例えば、前記中空粒子およびソリッド粒子それぞれが主に分布する位置が前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面を基準として互いに異なる距離であってもよい。」 【0136】 「前記低屈折層の製造過程で前記中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子の間の相分離が十分に起こらずに混在して、前記低屈折層の耐スクラッチ性および防汚性が低下するだけでなく、反射率も非常に高くなり得る。」 【0137】 「前記ハードコート層上に塗布された低屈折層形成用樹脂組成物を乾燥する過程で、前記乾燥温度と共に前記ソリッド状無機ナノ粒子および中空状無機ナノ粒子の間の密度の差を調節することによって、上述した特性を有する低屈折層を形成することができる。前記ソリッド状無機ナノ粒子が、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有することができ、このような密度の差によって、前記ハードコート層上に形成される低屈折層で前記ソリッド状無機ナノ粒子がハードコート層側により近い側に位置し得る。」 (エ)実施例 【0210】 【表2】 「 」 【0211】 「前記表2に示されているように、実施例1〜6の反射防止フィルムの低屈折層に含まれる中空粒子の粒径に対するソリッド粒子の粒径の比率が0.55以下であり、これによって、可視光線領域で0.70%以下の低い反射率を示しかつ、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現できる点が確認される。」 【0212】 「また、図1〜6に示されているように、実施例1〜4の反射防止フィルムの低屈折層では、中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子が相分離されており、前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記反射防止フィルムのハードコート層および前記低屈折層の間の界面側に大部分存在して集中しており、前記中空状無機ナノ粒子はハードコート層から遠い側に大部分存在して集中している点が確認される。」 【0213】 「前記表2に記載されているように、比較例1および2の反射防止フィルムの低屈折層では、中空粒子の粒径に対するソリッド粒子の粒径の比率が0.55を超え、また、図7および8に示されているように、中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子が相分離されずに混在している点が確認される。」 【0214】 「そして、前記表2に示されているように、それぞれ相対的に高い反射率と共に、低い耐スクラッチ性および防汚性を示す点が確認された。」 イ 課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲 上記アで摘記したとおり、本件訂正発明1は、反射防止フィルムの耐スクラッチ性を高めるために無機粒子を過剰添加した場合には、反射防止フィルムの耐スクラッチ性を高めるのに限界があり、むしろ反射率と防汚性が低下する問題点があったという従来技術の有する課題を解決すべくなされた発明であって、本件明細書等の発明の詳細な説明には、低屈折率層に含まれる、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の、粒径、平均粒径の比率、及び密度をそれぞれ所定の範囲に制御することにより(【0021】、【0022】、【0029】、【0137】)、中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子の間の相分離を起こし(【0136】)、ハードコート層および低屈折層の間の界面近くにソリッド状無機ナノ粒子を主に分布させ、界面の反対面側には中空状無機ナノ粒子を主に分布させた(【0037】)ものについて、低反射率、耐スクラッチ性及び防汚性を実現できることが、実施例のデータの裏付けをもって説明されている。 他方、比較例には、中空粒子の粒径に対するソリッド粒子の粒径の比率が0.55を超え、また、中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子が相分離されずに存在している場合(【0213】)には、相対的に高い反射率であって、かつ、低い対スクラッチ性および防汚性を示す点が確認されたこと(【0214】、【表2】)が示されている。 そうすると、発明の詳細な説明には、低屈折率層に含まれる、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の、粒径、平均粒径の比率、及び密度をそれぞれ所定の範囲に調整し、「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含」み、「前記第1層が、第2層に比べて、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面により近く位置」し、かつ、前記第1層と前記第2層が相分離されている構成を備えることにより、低反射率、耐スクラッチ性及び防汚性を実現できることが、実施例と比較例の対比をもって示されているといえる。 (3)サポート要件の適合性 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。 これを本件についてみると、上記(2)に示したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載から、低屈折率層に含まれる、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の、粒径、平均粒径の比率、及び密度をそれぞれ所定の範囲に調整し、ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み、第1層が、第2層に比べて、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面により近く位置し、かつ、前記第1層と前記第2層が相分離されている構成を備えることにより、(1)に示した課題を解決できると当業者であれば認識し得る。 したがって、本件特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件訂正発明1の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではない。 (4)特許異議申立人の主張について ア 密度の差 特許異議申立人は、令和4年7月21日提出の意見書の第5〜6頁「3−2−1」において、「本件特許の実施例2のソリッド状シリカナノ粒子の密度が、汎用的な密度の2.2g/cm3よりも遥かに大きい2.65g/cm3であるということはできない。」と述べたうえで、「本件特許明細書では、密度差が0.50g/cm3以上の実施例が記載されているとはいえない。」と主張する。 しかしながら、本件訂正発明1は、上述のとおり、低屈折率層に含まれる、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の、粒径、平均粒径の比率、及び密度をそれぞれ所定の範囲に制御することによりソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層に相分離された構造を備えることに技術的意義を有するものであって、発明の詳細な説明の【0137】には、ハードコート層上に塗布された低屈折率層形成用樹脂組成物を乾燥する過程で、乾燥温度と共に、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子粒径の間の密度の差を調節することによって、相分離を形成することができることが説明されている。そして、中空状無機ナノ粒子の空隙率、及び、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の素材をそれぞれ調整すれば、両者の密度差を制御し得ることも、当業者の技術常識に照らし明らかである。 してみれば、たとえ実施例に、粒子径及び平均粒径の比率のみが記載されて、密度差が0.50g/cm3以上であるとの明示の記載がなくとも、本件明細書及び図面の記載、及び技術常識に照らせば、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明の記載から把握される、当業者が本件訂正発明1の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではないことは明らかである。よって、特許異議申立人の上記主張に理由はない。 イ 粒径の比率 特許異議申立人は、令和4年7月21日提出の意見書の第6頁「3−2−2」において、「「0.36より大きく0.55以下の比率範囲」は、2種類の粒子の大きさの差がより小さくなる比率範囲であるから、「発明者の説明」を考慮した際には、当該範囲において相分離が生じるとはいうことはできない。」と主張する。 特許異議申立人の主張は、要するに、本件訂正発明1が、実際に効果が確かめられた実施例以外の態様を包含するから、サポート要件違反に該当するというものであるが、本件訂正発明1は、たとえ実施例以外の態様であっても、前述したとおり、当業者が本件訂正発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許異議申立人の上記主張に理由はない。 ウ 中空状無機ナノ粒子 特許異議申立人は、令和4年7月21日提出の意見書の第7〜8頁「3−2−3」において、「1)」として「低屈折率層の表面に位置する中空状ナノ粒子は、バインダー樹脂に含浸/結合されないものも少なからず存在するといえ、そのような粒子は耐スクラッチ性が低下するといえるから、特許権者の主張は妥当ではない。」、「2)」として「訂正発明1では、「中空状粒子が低屈折層内によくパッキングされている」ことを何ら特定されていない。」、「3)」として「中空状ナノ粒子を使用すれば表面強度が高くなる点は周知技術」という特許権者の主張には、全く根拠がなく、妥当ではない。」とそれぞれ主張する。 しかしながら、本件訂正発明1は、上述のとおり、低屈折率層に含まれる、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の、粒径、平均粒径の比率、及び密度をそれぞれ所定の範囲に制御することによりソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層に相分離された構造を備えることに技術的意義を有するものであって、中空状無機ナノ粒子に関する上記主張は、当該構造を備えることで本件訂正発明1の課題を解決できると当業者が認識できるという見解を左右しないから、特許異議申立人の上記主張に理由はない。 (5)小括 本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2〜3、7〜8及び10〜14についても同様である。 2 明確性要件について (1)第1層及び第2層について 特許請求の範囲の請求項1には、「バインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層」について、「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み」、「前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し」、「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在」することが記載されている。 「前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し」、「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在」する点は、本件訂正により、追加された記載であるが、これにより、本件訂正発明1において、「前記第1層と前記第2層は相分離されて」いることが文言上明らかとなった。 そして、「前記第1層と前記第2層は相分離」しているという前提において、「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在」という記載は、「相分離」された「第1層」が、ハードコート層と低屈折率層との界面から低屈折率層全体厚さの50%以内に位置することを具体的に特定するものであるから、当該記載は、特許請求の範囲を何ら不明確とするものではない。 (2)粒子の体積割合について 特許請求の範囲の請求項1には、「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含」むことが記載されている。 2種類の粒子の体積割合を具体的にどのように特定するのか特許請求の範囲に定義がないため、発明の詳細な説明の記載を参照すると、【0039】には、「「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が特定領域に存在する」とは、前記低屈折層の断面において、前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記特定領域に大部分存在するとの意味で定義され、具体的には、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体の体積を測定して確認可能であり、また、透過電子顕微鏡(TEM)等の写真などによっても確認可能である。」と記載されており、請求項1における体積割合は、低屈折率層を構成し、相分離により形成される第1層と第2層とを、それぞれ定義するための記載であると、当業者は理解できる。 そして、粒子の占める体積割合は、【0039】に示されるように、ソリッド状無機ナノ粒子全体の体積を測定するか、あるいは透過電子顕微鏡(TEM)等の断面写真を用いて、サンプルに含まれる粒子の輪郭は読み取り、当該輪郭の大きさからサンプルに含まれる粒子の部分の体積を算出できることは、当業者の技術常識である。 そうすると、「前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含」むとの記載は、相分離により形成される第1層と第2層に、大部分存在する粒子が、それぞれ、ソリッド状無機ナノ粒子、及び、中空状無機ナノ粒子であることを定義するものであると当業者であれば明確に把握できる。したがって、かかる記載が、特許請求の範囲を不明確とするものではない。 (3)してみれば、本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足する。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和4年7月21日提出の意見書の第1〜5頁「3−1−1」において、「1)」として「下記の図Aは、本件特許の基礎出願である、韓国特許出願番号10−2017−0051842の韓国公開公報(10−2018−0008261)の図6である。本件特許の図6は不鮮明であるため、対応する基礎出願の図6を参酌して意見を述べる。・・・中略・・・図A(本件特許の図6に相当)は、「実施例6の反射防止フィルムの断面TEM写真を示すもの」である。図A(本件特許の図6に相当)では、低屈折率層中において、ソリッド状無機ナノ粒子が低屈折積層の厚み方向の全領域に渡ってほぼ均等に存在していることが確認できる。言い換えると、図A(本件特許の図6に相当)からは、第1層と第2層とがどのように相分離しているのかを確認することができない。このように、本件特許の実施例6は、第1層と第2層とが相分離したものであるにも関わらず、図A(本件特許の図6に相当)からは、第1層と第2層とがどのように相分離しているのかを確認することができない。したがって、訂正発明1の「前記第1層と前記第2層は相分離されており」は、その状態が不明確であるといえる。」、「2)」として「特許権者が主張する「低屈折率層の厚さ」を示す「界面の境界線から最表面層までの距離」は、前記距離を算出する際に用いる断面写真の領域の大きさの違い、あるいは、前記距離を算出する際に用いる断面写真の撮像箇所(サンプル内のどの箇所を撮像したかによって最表面層の位置は異なるといえる)、によって変動する、変動要因を有している。」とそれぞれ主張する。 異議申立人の主張は、いずれも、実施例に係る断面写真において、第1層と第2層の境界が不明瞭であるという趣旨のものであるが、本件において、透過電子顕微鏡(TEM)等の断面写真は、本件明細書等の【0039】に記載されるとおり、あくまで、低屈折層の断面において、ソリッド状無機ナノ粒子が特定領域に大部分存在するという第1層を特定すべく撮像されるものである。そして、本件訂正発明1においては、第1層及び第2層が相分離により形成されることが明確に特定され、第1層及び第2層が、それぞれ、ソリッド状無機ナノ粒子、及び、中空状無機ナノ粒子が大部分存在するものであることが、特定されているのであるから、実施例の断面写真の撮像箇所によって第1層と第2層の界面が変動し得るとしても、これにより、「相分離」により形成される第1層及び第2層を備える本件訂正発明1の構成が不明確となることはない。したがって、特許異議申立人の上記主張に理由はない。 (5)小括 本件訂正発明1は明確である。本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2〜3、7〜8、10〜14についても同様である。 3 進歩性について (1)甲号証の記載及び引用発明 ア 甲1の記載 甲1には、以下の事項が記載されている。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 (ア)「技術分野 [0001]本発明は、反射防止フィルム、偏光板及び画像表示装置に関する。 ・・・中略・・・ 発明が解決しようとする課題 [0007]本発明は、上記現状に鑑みて、充分な防汚性能と表面硬度と均一な表面とを有するとともに、低屈折率層の屈折率が充分に低い低屈折率層を備え、優れた反射防止性能を有する反射防止フィルム、該反射防止フィルムを用いてなる偏光板及び画像表示装置を提供することを目的とするものである。」 (イ)「課題を解決するための手段 [0008]本発明は、光透過性基材の上にハードコート層が形成され、上記ハードコート層の上に低屈折率層が形成された反射防止フィルムであって、上記低屈折率層は、(メタ)アクリル樹脂、中空状シリカ微粒子、反応性シリカ微粒子及び防汚剤を含有し、かつ、上記低屈折率層中の反応性シリカ微粒子は、上記ハードコート層側の界面近傍及び/又は前記ハードコート層と反対側の界面近傍に偏在していることを特徴とする反射防止フィルムである。 ・・・中略・・・ [0018]上記中空状シリカ微粒子の平均粒子径としては、10〜100nmであることが好ましい。中空状シリカ微粒子の平均粒子径がこの範囲内にあることにより、低屈折率層に優れた透明性を付与することができる。より好ましい下限は40nm、より好ましい上限は80nm、更に好ましい下限は45nm、更に好ましい上限は75nm、最も好ましい下限は50nm、最も好ましい上限は70nmである。 なお、上記中空状シリカ微粒子の平均粒子径は、該中空状シリカ微粒子単独の場合、動的光散乱法により測定された値を意味する。一方、上記低屈折率層中の中空状シリカ微粒子の平均粒子径は、低屈折率層の断面をSTEM等で観察し、任意の中空状シリカ微粒子30個を選択してその断面の粒子径を測定し、その平均値として算出される値である。 ・・・中略・・・ [0024]上記反応性シリカ微粒子が上記低屈折率層中でハードコート層側界面近傍及び/又はハードコート層と反対側界面近傍に偏在している理由は明確ではない。しかしながら、例えば、後述するハードコート層が反応性シリカ微粒子を含有する場合、該ハードコート層中の反応性シリカ微粒子の添加量を調整することで、上記低屈折率層中の反応性シリカ微粒子の偏在を制御することが可能である。 すなわち、上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を含有しない場合、該ハードコート層上に低屈折率層を形成すると、低屈折率層の反応性シリカ微粒子をハードコート層側界面近傍に偏在させることができる。一方、上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を、ハードコート層を構成する樹脂成分100質量部に対して25質量部を超え、60質量部以下の範囲で含有する場合、該ハードコート層上に低屈折率層を形成すると、低屈折率層の反応性シリカ微粒子をハードコート層と反対側界面近傍に偏在させることができる。更に、上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を、ハードコート層を構成する樹脂成分100質量部に対して、15〜25質量部の範囲で含有する場合、上記低屈折率層の反応性シリカ微粒子を上記低屈折率層のハードコート層側界面近傍及びハードコート層と反対側界面近傍に偏在させることができる。 [0025]上記反応性シリカ微粒子としては、市販品を用いることもでき、例えば、MIBK−SDL、MIBK−SDMS、MIBK−SD(以上、いずれも日産化学工業社製)、DP1021SIV、DP1039SIV、DP1117SIV(以上、いずれも日揮触媒化成社製)等が挙げられる。 [0026]上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径としては、1〜25nmであることが好ましい。1nm未満であると、凝集しやすく、充填度が低くなって得られる低屈折率層に充分な強度が得られないことがある。一方、25nmを超えると、低屈折率層に表面凹凸が形成され、充分な強度が得られないことがある。また、反射率の上昇を引き起こし、後述する防汚剤を含有することによる充分な防汚性を発現しにくくなる。 上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径のより好ましい下限は5nm、より好ましい上限は20nmである。この範囲にあることで、本発明の反射防止フィルムの低反射率・高硬度を維持できる。 なお、本明細書において、上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径は、BET法やSTEMなどの断面観察(30個の平均値)により測定した値を意味する。 ・・・中略・・・ [0028]上記(メタ)アクリル樹脂は、上記低屈折率層において、上述した中空状シリカ微粒子や反応性シリカ微粒子のバインダー成分として機能するものである。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。 上記(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリルモノマーの重合体又は共重合体が挙げられ、上記(メタ)アクリルモノマーとしては特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が好適に挙げられる。」 (ウ)「発明を実施するための形態 [0079]本発明の内容を下記の実施例により説明するが、本発明の内容はこれらの実施態様に限定して解釈されるものではない。特別に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。更に、特に断りの無い限り、各成分量は固形分量である。 ・・・(中略)・・・ [0081](ハードコート層用組成物(2)の調製) 下記に示す各成分を混合してハードコート層用組成物(2)を調製した。 ポリエステルアクリレート(アロニックスM−9050、東亞合成社製、3官能) 5質量部 ウレタンアクリレート(UV1700B、日本合成社製、10官能) 11質量部 重合開始剤(イルガキュア184;BASF社製) 0.5質量部 メチルエチルケトン 10質量部 なお、ハードコート層用組成物(2)中のレベリング剤の固形分質量比は0.10%であった。 ・・・(中略)・・・ [0084](低屈折率層用組成物(2)の調製) 下記に示す成分を混合して低屈折率層用組成物(2)を調製した。 中空状シリカ微粒子(該中空状シリカ微粒子の固形分:20質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:60nm、平均空隙率:29.6%) 0.8質量部 ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 0.1質量部 反応性シリカ微粒子(該反応性シリカ微粒子の固形分:30質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:12nm) 0.1質量部 防汚剤(RS−74、DIC社製、20質量%溶液;メチルエチルケトン) 0.01質量部 防汚剤(TU2225、JSR社製、15質量%溶液;メチルイソブチルチルケトン) 0.01質量部 重合開始剤(イルガキュア127;BASF社製) 0.01質量部 MIBK 3質量部 PGME 2質量部 ・・・(中略)・・・ [0094](実施例1) セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm)の片面に、ハードコート層用組成物(1)を湿潤重量30g/m2(乾燥重量15g/m2)塗布した。50℃にて30秒乾燥し、紫外線50mJ/cm2を照射してハードコート層を形成した。 次に、形成したハードコート層の上に、低屈折率層用組成物(1)を、乾燥(25℃×30秒−70℃×30秒)後の膜厚が0.1μmとなるように塗布した。そして、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、照射線量192mJ/m2で紫外線照射を行って硬化させて、反射防止フィルムを得た。膜厚は、反射率の極小値が波長550nm付近になるように調整して行った。 得られた反射防止フィルムの低屈折率層において、中空状シリカ微粒子の(メタ)アクリル樹脂に対する配合比(中空状シリカ微粒子の含有量/(メタ)アクリル樹脂の含有量)は1.60であった。 ・・・(中略)・・・ [0096](実施例3) セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm)の片面に、ハードコート層用組成物(2)を湿潤重量30g/m2(乾燥重量15g/m2)塗布してハードコート層を形成し、次いで、形成したハードコート層の上に、低屈折率層用組成物(2)を用いて低屈折率層を形成した以外は、実施例1と同様にして反射防止フィルムを得た。 ・・・(中略)・・・ [0109](評価) 実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムについて、以下に示す各評価を行った。結果を表1に示した。 [0110](反射率の測定) 得られた各反射防止フィルムの裏面反射を防止するための黒色テープを貼り、低屈折率層の面から、島津製作所製、分光反射率測定機「MCP3100」を用い、波長域380〜780nmでの5°正反射Y値を測定した。結果を下記の基準にて評価した。5°正反射Y値は、5°正反射率を380〜780nmまでの波長範囲で測定し、その後、人間が目で感じる明度として換算するソフト(MCP3100に内蔵)で算出される、視感反射率で示す値である。 評価基準 ○:5°正反射Y値が、1.5%未満 ×:5°正反射Y値が、1.5%以上 ・・・中略・・・ [0113] [表1] ・・・中略・・・ [0115]図1、2より、実施例1に係る反射防止フィルムは、低屈折率層のハードコート層と反対側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、また、実施例7に係る反射防止フィルムは、低屈折率層のハードコート層側の界面近傍及び該ハードコート層と反対側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、いずれも中空状シリカ微粒子が密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態であった。 また、図示しないが、実施例3に係る反射防止フィルムは、低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、中空状シリカ微粒子も密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態にあった。また、図示しないが、実施例2、4〜6、8に係る反射防止フィルムは、いずれも、低屈折率層のハードコート層と反対側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、中空状シリカ微粒子も密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態であった。 また、表1より、実施例に係る反射防止フィルムは、いずれも充分な防汚性、反射防止性能及び耐擦傷性を有していた。 実施例の結果より、耐擦傷性は、以下の場合に最も良好となることが分かった。 反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層と反対側に偏在しており、かつ、偏在している反応性シリカ微粒子量が最適((メタ)アクリル樹脂100質量部に対して30質量部以上)である場合。 ハードコート層にも反応性シリカ微粒子が含有されていることで、低屈折率層の下地となる層(光透過性基材及びハードコート層)全体の硬度が高い場合。 また、防汚性については、反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層側に偏在している場合に最も良好となることが分かった。これは、低屈折率層の最表面に反応性シリカ微粒子がない分、防汚剤自身が低屈折率層の表面に出てきやすく、低屈折率層の最表面全体に防汚剤が存在しているためと推測される。」 イ 甲1発明 甲1の実施例3では「低屈折率層用組成物(2)」が用いられているところ、当該「低屈折率層用組成物(2)」の「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」は、甲1の[0028]によると、「低屈折率層において」、「中空状シリカ微粒子や反応性シリカ微粒子のバインダー成分として機能するものである」。 そうしてみると、甲1には、実施例3に係る発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm)の片面に、ハードコート層用組成物(2)を湿潤重量30g/m2(乾燥重量15g/m2)塗布し、50℃にて30秒乾燥し、紫外線50mJ/cm2を照射してハードコート層を形成し、 次いで、形成したハードコート層の上に、低屈折率層用組成物(2)を、乾燥(25℃×30秒−70℃×30秒)後の膜厚が0.1μmとなるように塗布し、そして、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、照射線量192mJ/m2で紫外線照射を行って硬化させて、低屈折率層を形成し、 前記ハードコート層用組成物(2)は、 ポリエステルアクリレート(アロニックスM−9050、東亞合成社製、3官能) 5質量部 ウレタンアクリレート(UV1700B、日本合成社製、10官能) 11質量部 重合開始剤(イルガキュア184;BASF社製) 0.5質量部 メチルエチルケトン 10質量部 ハードコート層用組成物(2)中のレベリング剤の固形分質量比は0.10%、 を混合して調製され、 前記低屈折率層用組成物(2)は、 中空状シリカ微粒子(該中空状シリカ微粒子の固形分:20質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:60nm、平均空隙率:29.6%) 0.8質量部 ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 0.1質量部 反応性シリカ微粒子(該反応性シリカ微粒子の固形分:30質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:12nm) 0.1質量部 防汚剤(RS−74、DIC社製、20質量%溶液;メチルエチルケトン) 0.01質量部 防汚剤(TU2225、JSR社製、15質量%溶液;メチルイソブチルチルケトン) 0.01質量部 重合開始剤(イルガキュア127;BASF社製) 0.01質量部 MIBK 3質量部 PGME 2質量部 を混合して調製され、 上記ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)は、上記低屈折率層において、上述した中空状シリカ微粒子や反応性シリカ微粒子のバインダー成分として機能するものであり、 波長域380〜780nmでの5°正反射Y値が1.5%未満であり、 低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認された、 反射防止フィルム。」 ウ 甲8の記載 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 低屈折率層が得られる反射防止膜用組成物であって、 シリカ粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、 オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、 を含むことを特徴とする反射防止膜用組成物。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、反射防止膜用組成物等に関し、より詳しくは、無機・有機ハイブリッド材料を用いる反射防止膜用組成物等に関する。 ・・・中略・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、反射防止膜の反射防止能は、光学部品が使用される可視光波長の全域(例えば、380nm〜780nm)において必要とされる。このような広い波長領域の反射防止能は、単層の反射防止膜では十分な効果が得られない。そのため、通常、膜厚や屈折率が異なる複数の層を積層した多層反射防止膜が使用されている。 多層反射防止膜の場合、例えば、基板の屈折率に応じて各層の膜厚を調製する。また、基板の種類に応じ、それぞれ異なる条件で多層膜を形成する。 【0006】 本発明の目的は、単層膜により光学部品の表面に反射防止能を付与する反射防止膜用組成物等を提供することにある。」 (ウ)「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明によれば、低屈折率層が得られる反射防止膜用組成物であって、シリカ粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、を含むことを特徴とする反射防止膜用組成物が提供される。 【0008】 ここで、本発明が適用される反射防止膜用組成物において、シリカ粒子は、シリカ粒子の表面に反応性官能基を有することが好ましい。 また、シリカ粒子は、中実シリカ粒子と中空シリカ粒子を含むことが好ましい。 オルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子と結合する少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。 オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子と結合する少なくとも2個の水素原子を有することが好ましい。 【0009】 次に、本発明によれば、無機・有機ハイブリッド材料を含む反射防止膜であって、シリカ粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、無機・有機ハイブリッド材料が分散し、硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させてなる薄膜と、を有することを特徴とする反射防止膜が提供される。 【0010】 ここで、本発明が適用される反射防止膜において、薄膜の表面から深さ方向に屈折率が変化し、可視光領域における平均反射率が40%以上減少することが好ましい。 また、本発明が適用される反射防止膜の薄膜において、薄膜中の無機・有機ハイブリッド材料の含有量が、薄膜の表面から深さ方向に変化する成分傾斜構造を有することが好ましい。 ・・・中略・・・ 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、単層膜により光学部品の表面に反射防止能が付与される。 本発明の反射防止膜によれば、シリカ粒子の含有量が変化する成分傾斜構造により、屈折率が連続的に変化し、光の反射が抑制される。 本発明によれば、静置により無機・有機ハイブリッド材料を相分離させ、シリカ粒子の含有量が変化する成分傾斜構造が得られる。 【図面の簡単な説明】 【0015】 【図1】本実施の形態が適用される反射防止膜の構造の一例を説明する図である。 【図2】反射防止膜の製造方法における工程を説明するフローチャートである。 【図3】無機・有機ハイブリッド材料が均一に分散した単一薄膜に基づき、光学シミュレーションにより算出した反射率スペクトルである。」 (エ)「【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。 【0017】 (反射防止膜用組成物) 本実施の形態が適用される反射防止膜用組成物は、シリカ粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、を少なくとも含み、これらの成分を共通溶媒中に溶解した溶液として調製されることが好ましい。このように調製した溶液は、後述する反射防止膜の製造方法において、基材の表面に塗膜を成膜する際の塗膜溶液として使用される。 【0018】 (シリカ粒子) 本実施の形態で使用するシリカ粒子としては、中実シリカ粒子、中空シリカ粒子が挙げられる。これらは単独または併用することができる。シリカ粒子は、公知のものを使用することができる。その形状は、球状に限定されず、不定形の粒子であってもよい。シリカ粒子の粒子径は、通常、数平均粒子径1nm〜100nm、好ましくは5nm〜80nmの範囲で選択される。シリカ粒子の形態は、粉体状、分散液が挙げられる。 シリカ粒子の分散液を調製する際の分散媒は、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル等が挙げられる。これら有機溶剤は、単独又は2種以上混合して使用することができる。 【0019】 中実シリカ粒子の市販品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業株式会社製スノーテックスOXS、スノーテックスS、スノーテックスOS、スノーテックスO・スノーテックスN、スノーテックス20が挙げられる。また、不定形粒子としては、日産化学工業株式会社製:スノーテックスOUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−S、芙蓉化学工業株式会社製:PL−1,PL−2,PL−3等が挙げられる。 また、中空シリカ粒子としては、例えば、触媒化成工業株式会社製の中空シリカゾルが挙げられる。 ・・・中略・・・ 【0036】 (反射防止膜) 次に、反射防止膜について説明する。 図1は、本実施の形態が適用される反射防止膜10の構造の一例を説明する図である。図1(a)は、シリカ粒子として中実シリカ粒子11と中空シリカ粒子12とを併用した場合の層構造を示している。図1(a)に示すように、基材20上に形成された反射防止膜10は、中実シリカ粒子11とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、中空シリカ粒子12とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料とが、マトリックス(薄膜)13中に分散した層構造を有している。 ここで、中実シリカ粒子11に対し相対的に軽量な中空シリカ粒子12が反射防止膜10の表面側に偏在し、相対的に重量が大きい中実シリカ粒子11が基材20側に偏在した構造を有している。その結果、マトリックス13中に、無機・有機ハイブリッド材料の含有量が、反射防止膜10の表面から深さ方向に変化する成分傾斜構造が形成されている。 また、反射防止膜10の表面側には、シリカ粒子とハイブリッド化されないオルガノポリシロキサンまたはその重合体、未反応シランカップリング剤等が偏在している。 尚、本実施の形態では、基材20の屈折率nは1.6である。 【0037】 図1(a)に示す反射防止膜10の層構造は、シリカ粒子がオルガノポリシロキサンとの化学結合により固定化されている。そのため、シリカ粒子同士が凝集せず、上述したように、層内で濃度勾配が生じ、含有量の偏りが生じる。 このような構造の場合、反射防止膜10の表面から入射する光は、空気→(中空シリカ−オルガノポリシロキサンハイブリッド材料)→(中実シリカ−オルガノポリシロキサンハイブリッド材料)→基板へと入射する。その結果、反射防止膜10の屈折率は傾斜的に変化し、光の反射を抑制することが可能となる。」 (オ)「【実施例】 【0057】 以下に、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。尚、本実施の形態は以下の実施例に限定されない。 ・・・中略・・・ 【0060】 (実施例1) 平均粒径20nmのシリカ微粒子(製品名:扶桑化学工業株式会社製PL−1−IPA)160g(シリカ分重量20g)と、ビニルトリエトキシシラン(シランカップリング剤:VTES)5gとを、テトラヒドロフラン(THF)/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(90/10重量%)混合溶媒200g中にて反応させ、反応性官能基が導入されたシリカ微粒子(修飾シリカ微粒子)を調製した(操作1)。 次に、操作1で調製した修飾シリカ微粒子を含む(THF/DMF)混合溶液365g中に、下記式(3)に示すビニル基変性オルガノポリシロキサン(分子量12,000)25gと、白金化合物(化合物:P1atinum(0)−1,3−vinyl−disiloxane comp1ex)10ppmを添加し、溶解した(操作2)。 【0061】 【化3】 【0062】 式(3)中、l:m:n=2:5:3である。 【0063】 続いて、操作2で調製した(THF/DMF)混合溶液390g中に、下記式(4)に示すオルガノハイドロジェンポリシロキサン(化合物:phenyltris(dimethylsiloxy)silane)1gを加え、撹拌し、成膜用塗布液を調製した(操作3)。 【0064】 【化4】 ・・・中略・・・ 【0068】 (実施例2) 平均粒径15nmのシリカ微粒子(製品名:扶桑化学工業株式会社製PL−1−IPA)80g(シリカ分重量10g)と、平均粒径30nmの中空シリカ微粒子イソプロパノール分散液(触媒化成工業株式会社製)80g(シリカ分量10g)と、ビニルトリエトキシシラン(シランカップリング剤:VTES)30gとを、テトラヒドロフラン(THF)/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(90/10重量%)混合溶媒200g中にて反応させ、反応性官能基が導入されたシリカ微粒子(修飾シリカ微粒子)を調製した(操作1)。 次に、操作1で調製した修飾シリカ微粒子を含む(THF/DMF)混合溶液365g中に、前述した式(3)で示されるビニル基変性オルガノポリシロキサン(分子量12,000)25gと、白金化合物(化合物:P1atinum(0)−1,3−vinyl−disiloxane comp1ex)10ppmを添加し、溶解した(操作2)。 続いて、操作2で調製した(THF/DMF)混合溶液390g中に、式(4)で示したオルガノハイドロジェンポリシロキサン(化合物:phenyltris(dimethylsiloxy)silane)1gを加え、撹拌し、成膜用塗布液を調製した(操作3)。 次に、操作3で調製した成膜用塗布液を、幅3cm×長さ3cm×厚さ2mmのガラス基板上に、スピンコート法により、厚さ約100nmで塗布した(操作4)。 その後、成膜用塗布液を塗布したガラス基板を、温度80℃で24時間以上、水平な状態で静置し、ガラス基板上に反射防止膜を形成した(操作5,6)。 【0069】 続いて、ガラス基板上に形成した反射防止膜の反射率を測定し、波長550nmにおける反射率が0.4%である結果を得た。これは、光学シミュレーションにおける反射率の最小値(0.8%)を、実施例1の結果よりさらに下回る結果であった。 このことから、実施例1と同様に、上述の操作により形成した反射防止膜の層には、複数の構成要素の濃度が連続的に変化する傾斜構造が形成され、その結果、反射が抑制されることが分かる。 ・・・中略・・・ 【0073】 以上、詳述したように、本実施の形態が適用される反射防止膜によれば、例えば、光が入射する際、空気(屈折率n=1.0)→反射防止膜(屈折率n=1.2〜1.4)→基板(n>1.5)のように、屈折率が連続的に変化する。このため、屈折率の段差による反射が抑制され、従来の単層反射防止膜では困難である低反射率が可能となる。 【符号の説明】 【0074】 10…反射防止膜、11…中実シリカ粒子、12…中空シリカ粒子、13…マトリックス、10a…単一薄膜、20…基材」 (カ)「【図1】 」 エ 甲8発明 甲8には、実施例2として、反射防止膜が記載されている。 甲8の実施例2では、「製品名:扶桑化学工業株式会社製PL−1−IPA」である「シリカ微粒子」が用いられているところ、当該「製品名:扶桑化学工業株式会社製PL−1−IPA」は、甲8の【0019】を参照すると、「中実」である。よって、甲8の実施例2における「シリカ微粒子」は「中実」「シリカ微粒子」である。 また、甲8の【0036】には、「シリカ粒子として中実シリカ粒子11と中空シリカ粒子12とを併用した場合の層構造」として、「基材20上に形成された反射防止膜10は、中実シリカ粒子11とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、中空シリカ粒子12とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料とが、マトリックス(薄膜)13中に分散した層構造を有している」ことが記載されている。甲8の実施例2の反射防止膜は、シリカ粒子として中実シリカ微粒子と中空シリカ微粒子とを併用しているので、反射防止膜は、中実シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、中空シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料とが、マトリックス(薄膜)中に分散した層構造を有しているといえる。 さらに、甲8の実施例2では、「式(3)で示されるビニル基変性オルガノポリシロキサン(分子量12,000)」が用いられているところ、当該「式(3)」は、甲8の【0060】〜【0062】に記載されたとおりである。 加えて、甲8の実施例2では、「式(4)で示したオルガノハイドロジェンポリシロキサン(化合物:phenyltris(dimethylsiloxy)silane)」が用いられているところ、当該「式(4)」は、甲8の【0063】〜【0064】に記載されたとおりである。 そうしてみると、甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。 「平均粒径15nmのシリカ微粒子(製品名:扶桑化学工業株式会社製PL−1−IPA)80g(シリカ分重量10g)と、平均粒径30nmの中空シリカ微粒子イソプロパノール分散液(触媒化成工業株式会社製)80g(シリカ分量10g)と、ビニルトリエトキシシラン(シランカップリング剤:VTES)30gとを、テトラヒドロフラン(THF)/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(90/10重量%)混合溶媒200g中にて反応させ、反応性官能基が導入されたシリカ微粒子(修飾シリカ微粒子)を調製し(操作1)、 次に、操作1で調製した修飾シリカ微粒子を含む(THF/DMF)混合溶液365g中に、下記式(3)で示されるビニル基変性オルガノポリシロキサン(分子量12,000)25gと、白金化合物(化合物:P1atinum(0)−1,3−vinyl−disiloxane comp1ex)10ppmを添加し、溶解し(操作2)、 続いて、操作2で調製した(THF/DMF)混合溶液390g中に、下記式(4)で示したオルガノハイドロジェンポリシロキサン(化合物:phenyltris(dimethylsiloxy)silane)1gを加え、撹拌し、成膜用塗布液を調製し(操作3)、 次に、操作3で調製した成膜用塗布液を、幅3cm×長さ3cm×厚さ2mmのガラス基板上に、スピンコート法により、厚さ約100nmで塗布し(操作4)、 その後、成膜用塗布液を塗布したガラス基板を、温度80℃で24時間以上、水平な状態で静置し、ガラス基板上に反射防止膜を形成し(操作5,6)、 続いて、ガラス基板上に形成した反射防止膜の反射率を測定し、波長550nmにおける反射率が0.4%である結果を得た、 複数の構成要素の濃度が連続的に変化する傾斜構造が形成され、その結果、反射が抑制された反射防止膜であって、 前記シリカ微粒子は、中実シリカ微粒子であり、 基材上に形成された反射防止膜は、中実シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、中空シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料とが、マトリックス(薄膜)中に分散した層構造を有している、 反射防止膜。 【化3】 式(3)中、l:m:n=2:5:3である。 【化4】 」 (2)甲1を主引用文献とした場合 ア 対比 本件訂正発明1と甲1発明を対比する。 (ア)ハードコート層 甲1発明は、「ハードコート層用組成物(2)」を「塗布」し、「乾燥」し、「紫外線」を「照射してハードコート層を形成」したものである。 「ハードコート層用組成物(2)」に含まれる「ポリエステルアクリレート(アロニックスM−9050、東亞合成社製、3官能)」と「ウレタンアクリレート(UV1700B、日本合成社製、10官能)」は、技術的にみて、紫外線の照射により光重合し、「ハードコート層」のバインダーとなる。 そうすると、甲1発明の「ハードコート層」は、本件訂正発明1の「バインダー樹脂」を含む「ハードコート層」である点で共通する。 (イ)中空状無機ナノ粒子 甲1発明の「中空状シリカ微粒子」は、平均粒子径が60nmであるから、無機ナノ粒子である。 そうすると、甲1発明の「中空状シリカ微粒子」は、本件訂正発明1の「中空状無機ナノ粒子」に相当する。 (ウ)ソリッド状無機ナノ粒子 甲1発明の「反応性シリカ微粒子」は、平均粒子径が12nmであるから、無機ナノ粒子である。また、反応性シリカ微粒子は通常は中実状であることが技術常識であって、かつ、甲1発明において「反応性シリカ微粒子」が「中空状シリカ微粒子」と区別されていることに鑑みると、甲1発明の「反応性シリカ微粒子」は、ソリッド状(中実状)であるといえる。 そうすると、甲1発明の「反応性シリカ微粒子」は、本件訂正発明1の「ソリッド状無機ナノ粒子」に相当する。 (エ)低屈折率層 甲1発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」は、「低屈折率層において、上述した中空状シリカ微粒子や反応性シリカ微粒子のバインダー成分として機能するものである」から、甲1発明の「中空状シリカ微粒子や反応性シリカ微粒子」が「バインダー成分」に分散したものであることは技術的にみて明らかである。 そうすると、甲1発明の「低屈折率層」は、本件訂正発明1の「バインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層」に相当する。 (オ)粒径 甲1発明の「反応性シリカ微粒子」は、平均粒子径が12nmであるから、本件訂正発明1の「前記ソリッド状無機ナノ粒子は1〜30nmの粒径を有し」という条件を満たす。 また、甲1発明の「中空状シリカ微粒子」は、平均粒子径が60nmであるから、本件訂正発明1の「前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し」という条件を満たす。 (カ)光重合性化合物の(共)重合体 甲1発明の「低屈折率層」は、「低屈折率層用組成物(2)」を紫外線照射により硬化させて形成されている。 「低屈折率層用組成物(2)」に含まれる「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」は、上記(エ)のとおり、「低屈折率層」のバインダーとして機能している。 そして、技術的にみて、「低屈折率層用組成物(2)」を紫外線照射により硬化させると、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」は、「重合開始剤(イルガキュア127;BASF社製)」の作用により重合する。 そうすると、甲1発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」は本件訂正発明1の「光重合性化合物」に相当する。また、甲1発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」紫外線照射により重合したものは、本件訂正発明1の「光重合性化合物の(共)重合体」に相当する。 よって、甲1発明の「低屈折率層」は、本件訂正発明1の「前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み」という条件を満たす。 (キ)低屈折率層の組成比 甲1発明の「低屈折率層用組成物(2)」は、「中空状シリカ微粒子(該中空状シリカ微粒子の固形分:20質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:60nm、平均空隙率:29.6%) 0.8質量部」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 0.1質量部」、「反応性シリカ微粒子(該反応性シリカ微粒子の固形分:30質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:12nm) 0.1質量部」を含んでいる。 そうすると、甲1発明の「低屈折率層」は、光重合性化合物である「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」の重合体100重量部対比、「中空状シリカ微粒子」を固形分で160質量部、「反応性シリカ微粒子」を固形分で30重量部を含んでいる。 よって、甲1発明の「低屈折率層」は、「中空状無機ナノ粒子」に相当する「中空状シリカ微粒子」の含有量が異なるので、本件訂正発明1の「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み」という条件は満足しない。 (ク)反射防止フィルム 甲1発明の「反射防止フィルム」は、本件訂正発明1の「反射防止フィルム」に相当する。 イ 一致点及び相違点 本件訂正発明1と甲1発明は、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「バインダー樹脂を含むハードコート層;およびバインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層;を含み、 前記ソリッド状無機ナノ粒子は1nm〜30nmの粒径を有し、前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し、 前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含む、 反射防止フィルム。」 (イ)相違点 相違点1 「バインダー樹脂を含むハードコート層」が、本件訂正発明1においては、「該バインダー樹脂に分散した有機または無機微粒子」も含むのに対し、甲1発明においては、「バインダー樹脂に分散した有機または無機微粒子」を含んでいない点。 相違点2 本件訂正発明1においては、 「前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率が0.26〜0.55であり」、 「前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み」、 「前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し」、 「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し」、 「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し」、 「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み」、 「380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.7%以下の平均反射率を示す」のに対し、 甲1発明においては、 「前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率」が0.2であり、 低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認されているものの、「前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み」との構成を有するか否か明らかでなく、 「前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し」との構成を有するか否か明らかでなく、 「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し」との構成を有するか否か明らかでなく、 「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し」との構成を有するか否か明らかでなく、 「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子」が160重量部、「前記ソリッド状無機ナノ粒子」が30重量部を含むものであり、 「380nm〜780nmの可視光線波長帯領域」での「平均反射率」が不明である点。 ウ 判断 (ア)相違点2について 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 本件訂正発明1は、反射防止フィルムの耐スクラッチ性を高めるために無機粒子を過剰添加した場合には、反射防止フィルムの耐スクラッチ性を高めるのに限界があり、むしろ反射率と防汚性が低下する問題点があったという従来技術の有する課題を解決すべくなされた発明であって、低反射性、耐スクラッチ性及び防汚性を向上させるべく、低屈折率層に含まれる、中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子の、粒径、平均粒径の比率、及び密度をそれぞれ所定の範囲に制御することにより(【0021】、【0022】、【0029】、【0137】)、中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子の間の相分離を起こし(【0136】)、ハードコート層および低屈折層の間の界面近くにソリッド状無機ナノ粒子を主に分布させ、界面の反対面側には中空状無機ナノ粒子を主に分布させた点に技術的意義を有するものである。 他方、甲1には、シリカ微粒子として、反応性シリカ微粒子と、中空状シリカ微粒子を併用できることが記載されているものの、その粒子径としては、「上記中空状シリカ微粒子の平均粒子径としては、10〜100nmであることが好ましい。中空状シリカ微粒子の平均粒子径がこの範囲内にあることにより、低屈折率層に優れた透明性を付与することができる。」([0018])、及び、「上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径としては、1〜25nmであることが好ましい。1nm未満であると、凝集しやすく、充填度が低くなって得られる低屈折率層に充分な強度が得られないことがある。一方、25nmを超えると、低屈折率層に表面凹凸が形成され、充分な強度が得られないことがある。また、反射率の上昇を引き起こし、後述する防汚剤を含有することによる充分な防汚性を発現しにくくなる。」([0026])と記載されるにとどまり、そもそも、反応性シリカ微粒子と、中空状シリカ微粒子の、それぞれの粒径や平均粒径比を調整することにより、両者を「相分離」しようとする技術思想が開示されていない。 そして、「前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率が0.26〜0.55であり」、 「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有」する構成が記載も示唆もされておらず、これにより、「前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み」、「前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在」するものを備えるものなく、その結果、「380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.7%以下の平均反射率を示す」ものでもない。 よって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (イ)相違点1について 次に、相違点1について検討する。 甲1発明は、「低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認された」発明であるところ、甲1の[0024]には、「上記反応性シリカ微粒子が上記低屈折率層中でハードコート層側界面近傍及び/又はハードコート層と反対側界面近傍に偏在している理由は明確ではない。しかしながら、・・・中略・・・上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を含有しない場合、該ハードコート層上に低屈折率層を形成すると、低屈折率層の反応性シリカ微粒子をハードコート層側界面近傍に偏在させることができる。」と記載されている。 そうすると、甲1発明においては、ハードコート層に反応性シリカ微粒子を含有させないことによってはじめて、低屈折率層の反応性シリカ微粒子をハードコート層側界面近傍に偏在させることを達成しているのであるから、「低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認された」甲1発明において、ハードコート層に、わざわざ、反応性シリカをはじめとする無機または有機の微粒子を添加するはずがなく、かえって、これらの粒子を含有させるに阻害事由があるといわざるを得ない。 よって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 そして、本件訂正発明は、相違点1及び相違点2に係る構成により、低反射率であり、耐スクラッチ性及び防汚性が改善された反射防止フィルムが得られるという格別な効果を奏するものである。 (ウ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和4年7月21日提出の意見書における第9〜12頁の「3−3」において、本件訂正発明1の「相分離」に係る構成は不明確である点を述べるとともに、上記イ(イ)における相違点2の構成について、個々の相違点に分けて議論し、本件訂正発明1は甲1発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に想到し得ると主張する。 しかしながら、上記2(1)のとおり、本件訂正発明1の「相分離」に係る構成は明確である。 また、相違点を検討するに当たっては、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として検討するべきであるところ、相違点2を総合的に検討すると、上記ウ(ア)に記載のとおり、相違点2に係る本件訂正発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことではない。 したがって、特許異議申立人の上記主張に理由はない。 エ 小括 本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜3、7〜8及び10〜14は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件訂正発明2〜3、7〜8及び10〜14は、本件訂正発明1の構成を全て具備する。そうすると、本件訂正発明2〜3、7〜8及び10〜14も、同様に、甲1に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)甲8を主引用文献とした場合 ア 対比 本件訂正発明1と甲8発明を対比する。 (ア)中空状無機ナノ粒子 甲8発明の「中空シリカ微粒子」は、平均粒子径が30nmであるから、無機ナノ粒子である。 そうすると、甲8発明の「中空シリカ微粒子」は、本件訂正発明1の「中空状無機ナノ粒子」に相当する。 (イ)ソリッド状無機ナノ粒子 甲8発明の「中実シリカ微粒子」は、平均粒子径が15nmであるから、無機ナノ粒子である。また、甲8発明の「中実シリカ微粒子」は、「中実」であるから、ソリッド状(中実状)である。 そうすると、甲8発明の「中実シリカ微粒子」は、本件訂正発明1の「ソリッド状無機ナノ粒子」に相当する。 (ウ)低屈折率層 甲8発明の「反射防止膜」は、「中実シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、中空シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料とが、マトリックス(薄膜)中に分散した層構造を有している」。 甲8発明の「オルガノポリシロキサン」は、技術的にみて、本件訂正発明1の「バインダー樹脂」に相当する。 また、甲8発明は「中実シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料と、中空シリカ微粒子とオルガノポリシロキサンとの反応物からなる無機・有機ハイブリッド材料とが、マトリックス(薄膜)中に分散した層構造」であるから、甲8発明の「中実シリカ微粒子」と「中空シリカ微粒子」が「バインダー成分」に分散したものであることは技術的にみて明らかである。 そうすると、甲8発明の「反射防止膜」は、本件訂正発明1の「バインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層」に相当する。 (エ)粒径の比率 甲8発明の「中実シリカ微粒子」と「中空シリカ微粒子」の平均粒子径は、それぞれ、15nmと30nmである。そうすると、甲8発明の「中空シリカ微粒子」に対する「中実シリカ微粒子」の平均粒径の比率は0.5である。 よって、甲8発明は、本件訂正発明1の「前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率が0.26〜0.55」という条件を満たす。 (オ)粒径 甲8発明の「中実シリカ微粒子」は、平均粒子径が15nmであるから、本件訂正発明1の「前記ソリッド状無機ナノ粒子は1〜30nmの粒径を有し」という条件を満たす。 また、甲8発明の「中空シリカ微粒子」は、平均粒子径が30nmであるから、本件訂正発明1の「前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し」という条件を満たす。 (カ)反射防止フィルム 甲8発明の「反射防止膜」は、本件訂正発明1の「反射防止フィルム」に相当する。 イ 一致点及び相違点 本件訂正発明1と甲8発明は、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「バインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層;を含み、 前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率が0.26〜0.55であり、 前記ソリッド状無機ナノ粒子は1nm〜30nmの粒径を有し、前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有する、 反射防止フィルム。」 (イ)相違点 相違点3 本件訂正発明1は、「バインダー樹脂および該バインダー樹脂に分散した有機または無機微粒子を含むハードコート層」を含むのに対し、甲8発明は、当該ハードコート層を有しない点。 相違点4 本件訂正発明1は、 「前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み」、 「前記第1層と前記第2層は相分離されており」、 「前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し」、 「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し」、 「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し」、 「前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み」、 「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み」、 「380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.7%以下の平均反射率を示す」のに対し、 甲8発明は、 「前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み」との構成を有するか否か明らかでなく、 「前記第1層と前記第2層は相分離されており」との構成を有するか否か明らかでなく、 「ハードコート層」を有さないので、「前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し」との構成を有さず、 同じく、「ハードコート層」を有しないので、「前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し」との構成を有さず、 「前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し」との構成を有するか否か明らかでなく、 「前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂」は、「光重合性化合物の(共)重合体」を含まず、 「光重合性化合物の(共)重合体」を含まないので、「前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み」との構成を有さず、 「380nm〜780nmの可視光線波長帯領域」での「平均反射率」が不明である点。 ウ 判断 (ア)相違点4 事案に鑑み、相違点4について検討する。 本件訂正発明1は、「低屈折率層に含まれるバインダー樹脂」が「光重合性化合物の(共)重合体」を含むものである。 他方、甲8には、「低屈折率層に含まれるバインダー樹脂」を「光重合性化合物の(共)重合体」とすることが記載も示唆もされていない。 しかも、甲8の【0037】によると、甲8発明は、「反射防止膜10の層構造は、シリカ粒子がオルガノポリシロキサンとの化学結合により固定化されている。そのため、シリカ粒子同士が凝集せず、上述したように、層内で濃度勾配が生じ、含有量の偏りが生じる。」「このような構造の場合、反射防止膜10の表面から入射する光は、空気→(中空シリカ−オルガノポリシロキサンハイブリッド材料)→(中実シリカ−オルガノポリシロキサンハイブリッド材料)→基板へと入射する。その結果、反射防止膜10の屈折率は傾斜的に変化し、光の反射を抑制することが可能となる。」というものである。 そうすると、甲8発明は、「層内で濃度勾配」を生じさせるために、「シリカ粒子がオルガノポリシロキサンとの化学結合により固定化されている」ことを前提とした発明であるといえ、かかる必須の構成に不可欠な「オルガノポリシロキサン」に代えて、バインダーとして、シリカ粒子との結合性の異なる「光重合化合物の(共)重合体」を採用する動機付けはないといわざるを得ない。 (イ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和4年7月21日提出の意見書における第13〜14頁の「3−4−2」において、「甲8発明のバインダー樹脂を「光重合性化合物の(共)重合体」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。」と主張する。 しかし、上記(ア)のとおり、「層内で濃度勾配」を生ぜしめるべべく、バインダー樹脂して、シリカ粒子と化学結合し得るオルガノポリシロキサンを用いることを前提とした甲8発明において、バインダー樹脂を「光重合性化合物の(共)重合体」に代える動機付けはないので、特許異議申立人の上記主張に理由はない。 エ 小括 本件訂正発明1は、甲8に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜3、7〜8及び10〜14は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件訂正発明2〜3、7〜8及び10〜14は、本件訂正発明1の構成を全て具備する。そうすると、本件訂正発明2〜3、7〜8及び10〜14も、同様に、甲8に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第6 むすび 以上によれば、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立書に係る特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1〜3、7〜8及び10〜14についての特許を取り消すことはできない。また、本件訂正発明1〜3、7〜8及び10〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項4〜6及び9は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てのうち、本件特許の請求項4〜6及び9に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 バインダー樹脂および該バインダー樹脂に分散した有機または無機微粒子を含むハードコート層;およびバインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折率層;を含み、 前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径に対する前記ソリッド状無機ナノ粒子の平均粒径の比率が0.26〜0.55であり、 前記低屈折率層は、前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み、 前記第1層と前記第2層は相分離されており、前記第1層は前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面側に存在し、前記第2層は前記ハードコート層から遠い側に存在し、 前記ハードコート層と前記低屈折率層との界面から前記低屈折率層全体厚さの50%以内に前記第1層が存在し、 前記ソリッド状無機ナノ粒子は、前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3以上高い密度を有し、 前記ソリッド状無機ナノ粒子は1nm〜30nmの粒径を有し、前記中空状無機ナノ粒子は10〜200nmの粒径を有し、 前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、 前記低屈折率層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記中空状無機ナノ粒子264〜400重量部および前記ソリッド状無機ナノ粒子10〜400重量部を含み、 380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.7%以下の平均反射率を示す、反射防止フィルム。 【請求項2】 前記ハードコート層および前記低屈折率層の間の界面から前記低屈折率層全体厚さの50%を超える前記低屈折率層の領域に、前記中空状無機ナノ粒子全体中の30体積%以上が存在する、請求項1に記載の反射防止フィルム。 【請求項3】 前記中空状無機ナノ粒子の平均粒径が40nm〜100nmの範囲以内である、請求項1に記載の反射防止フィルム。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 前記ソリッド状無機ナノ粒子および前記中空状無機ナノ粒子それぞれは、表面にヒドロキシ基、(メタ)アクリレート基、エポキシド基、ビニル基(Vinyl)、およびチオール基(Thiol)からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を含有する、請求項1に記載の反射防止フィルム。 【請求項8】 前記低屈折率層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体および光反応性官能基を含む含フッ素化合物の間の架橋(共)重合体を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 前記低屈折率層は、ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物をさらに含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。 【請求項11】 前記ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物は、下記化学式11〜14の化合物のうちのいずれか1つである、請求項10に記載の反射防止フィルム: 【化1】 【化2】 前記化学式14において、R1は、 【化3】 であり、 前記Xは、水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基、炭素数1〜6のアルコキシ基、および炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基のうちのいずれか1つであり、 前記Yは、単一結合、−CO−、または−COO−であり、 R2は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素由来の2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の水素がヒドロキシ基、カルボキシル基、またはエポキシ基で置換された2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の−CH2−が酸素原子が直接連結されないように−O−、−CO−O−、−O−CO−、または−O−CO−O−に代替された2価の残基であり、 Aは、水素および炭素数1〜6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、Bは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、nは、0〜2の整数である。 【請求項12】 前記ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物は、前記反応性官能基を100〜1,000g/mol当量で含有する、請求項10に記載の反射防止フィルム。 【請求項13】 前記ビニル基および(メタ)アクリレート基からなる群より選択された1種以上の反応性官能基を1以上含むシラン系化合物は、100〜5,000の重量平均分子量を有する、請求項10に記載の反射防止フィルム。 【請求項14】 前記有機微粒子は、1〜10μmの粒径を有し、 前記無機微粒子は、1nm〜500nmの粒径を有する、請求項11に記載の反射防止フィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-12-05 |
出願番号 | P2018-554302 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
松波 由美子 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 石附 直弥 |
登録日 | 2021-01-06 |
登録番号 | 6820081 |
権利者 | エルジー・ケム・リミテッド |
発明の名称 | 反射防止フィルム |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 実広 信哉 |