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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1395240 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-09-14 |
確定日 | 2023-02-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7034535号発明「高吸水性樹脂およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7034535号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7034535号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)11月7日(優先権主張外国庁受理 2018年(平成30年)12月11日、2019年(令和1年)11月4日 大韓民国(KR))を国際出願日とする特許出願であって、令和4年3月4日にその特許権の設定登録(請求項の数 11)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月14日に特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」といい、これらを総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定された次のとおりのものである。 「【請求項1】 a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階; b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階; c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階; d)前記細かくした含水ゲル状重合体にフラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階; e)前記混合物を細かくする段階; f)前記混合物を乾燥する段階;および g)前記混合物を粉砕する段階を含み、 前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体100重量部に対して1〜20重量部の水をさらに添加する、高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項2】 前記繊維は、含水ゲル状重合体100重量部に対して1〜18重量部で含まれる、請求項1に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項3】 前記繊維の長さは、1〜20mmである、請求項1または2に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項4】 前記繊維の幅は、1〜100μmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項5】 前記モノマー組成物は、発泡剤をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項6】 前記モノマー組成物は、アルキルスルファート塩(alkyl sulfate salt)、アルキルスルホネート塩(alkyl sulfonate salt)、アルキルホスフェート塩(alkyl phosphate salt)、アルキルカーボネート塩(alkyl carbonate salt)、ポリエチレングリコールアルキルエステル(polyethylene glycol alkyl ester)、ポリプロピレングリコールアルキルエステル(polypropylene glycol alkyl ester)、グルコシドアルキルエステル(glucoside alkyl ester)、グリセロールアルキルエステル(glycerol alkyl ester)、およびポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロック−共重合体(block−copolymers of polyethylene glycol and polypropylene glycol)からなる群より選ばれる1種以上の発泡安定剤をさらに含む、請求項5に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項7】 前記g)段階以後、 h)前記g)段階で得られた混合物に表面架橋剤を添加する段階;および i)表面架橋反応を行う段階をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項8】 前記表面架橋剤は、多価アルコール化合物;エポキシ化合物;ポリアミン化合物;ハロエポキシ化合物;ハロエポキシ化合物の縮合生成物;オキサゾリン化合物;モノ−、ジ−またはポリオキサゾリジノン化合物;環状ウレア化合物;多価金属塩;およびアルキレンカーボネート化合物からなる群からなる群より選ばれる1種以上である、請求項7に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項9】 前記表面架橋剤は、前記混合物100重量部に対して0.001〜5重量部で添加される、請求項7または8に記載の高吸水性樹脂の製造方法。 【請求項10】 水溶性エチレン系不飽和単量体が内部架橋剤の存在下に架橋重合された架橋重合体、ならびにフラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含むベース樹脂粒子;および 前記ベース樹脂粒子の表面に形成されており、前記架橋重合体が表面架橋剤を媒介に追加架橋された表面架橋層を含む高吸水性樹脂であって、 前記繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されており、 EDANA法WSP 241.3に従い測定した遠心分離保持能(CRC)が30〜35g/gであり、 EDANA法WSP 242.3に従い測定した0.3psiの加圧吸収能(AUL)が25〜30g/gであり、 吸収速度(vortex time)が20秒〜50秒である、高吸水性樹脂。 【請求項11】 請求項10に記載の高吸水性樹脂粒子;および フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含み、 前記繊維の少なくとも一部は、前記高吸水性樹脂粒子の内部を貫いて混入されている、高吸水性樹脂組成物。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年9月14日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第10号証に基づく新規性) 本件特許の請求項10及び11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項10及び11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2−1(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にこの発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由2−2(甲第12号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第12号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由2−3(甲第6号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 5 申立理由2−4(甲第10号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項10及び11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項10及び11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 6 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・繊維の含有量、高吸水性樹脂の粒子径および繊維の長さについて、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。 7 申立理由4(実施可能要件) 本件特許の請求項10及び11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・遠心分離保持能の測定方法および加圧下吸収能の測定方法は、請求項10および11に記載の発明をいわゆる当業者がその実施をできる程度に明確にかつ十分に記載されていない。 ・高吸水性樹脂の粒子径および繊維の長さの関係について、実施例においても「繊維の少なくとも一部がベース樹脂粒子の内部を貫いている」ことが確認されていない。 8 申立理由5(明確性要件) 本件特許の請求項4、10及び11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・請求項4の「繊維の幅」をどのように特定するかわからず明確でない。 ・請求項10の「ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されており」が、実施例で確かめられていない。 ・請求項11の「請求項10に記載の高吸水性樹脂粒子」とあるが、引用する請求項10には、「高吸水性樹脂粒子」がなく、明確でない。 9 証拠方法 甲第1号証:特開昭63−63723号公報 甲第2号証:特開2004−339502号公報 甲第3号証:国際公開第2011/126079号 甲第4号証:国際公開第2015/030129号 甲第5号証:国際公開第2016/204302号 甲第6号証:国際公開第2016/158975号 甲第7号証:特表2016−516877号公報 甲第8号証:特表2007−514833号公報 甲第9号証:特開2015−199958号公報 甲第10号証:特開2013−34942号公報 甲第11号証:Modern Superabsorbent Polymer Technology(1998)(Fredric L. Buchholz(Editor),Andrew T. Graham(Editor))、3章(Commercial Process for the manufacture of superabsorbent polymers)p69-103、5章(The Structure and Properties of Superabsorbent Polyacrylates)p212-215 甲第12号証:特開昭61−62463号公報 甲第13号証:特表平6−507564号公報 なお、証拠の表記は、申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 以下に述べるように、申立人の特許異議の申立て理由には、いずれも理由がないと判断する。 1 申立理由1及び申立理由2−4について(甲10に基づく新規性・進歩性) (1)甲10に記載された発明 甲10の特許請求の範囲の請求項1、請求項4、請求項7、段落【0007】、【0032】、【0043】、【0051】、【0054】、【0087】、【0088】、【0109】〜【0111】、【0114】〜【0124】、【0138】の記載から、実施例10として記載されている粒子状吸水剤(10)として、以下の発明が記載されていると認める。 <甲10実施例10発明> 「容量1Lのポリプロピレン製容器(内径80mm)に、アクリル酸215.2g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)1.78g(0.095モル%)及び1.0重量%のジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム水溶液1.58gを投入して、混合溶液(I)を作成し、別途、容量500mLのポリプロピレン製容器(内径80mm)に、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液215.2g及び32℃に調温したイオン交換水209.9gを投入して、混合溶液(II)を作成して、次に、上記容量1Lのポリプロピレン製容器中で混合溶液(I)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、混合溶液(II)を開放系で素早く加えて混合し、単量体水溶液(1)を得、続いて、上記単量体水溶液(1)をそのまま静置させ、液温が95℃まで低下するのを待って、3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液14.30gを加え、溶液(1)とし、その後、当該溶液(1)を数秒間攪拌し、表面温度が100℃に加熱されたステンレス製バット型重合容器中に開放系で注ぎ、この溶液(1)がバット型重合容器に注がれて間もなく、重合が開始され、この重合(膨張・収縮)は約1分間で終了してこの重合終了後、4分間重合容器中で保持させ、含水ゲル状架橋重合体(1)として得、次に、上記操作で得られた含水ゲル状架橋重合体(1)を、ミートチョッパー(ROYAL MEAT CHOPPER VR400K/飯塚工業(株);ダイス径9.5mm)を用いて解砕し、細分化された粒子状含水ゲル状架橋重合体(1)を得、当該操作における含水ゲル状架橋重合体(1)の投入量は約340[g/min]であり、含水ゲル状架橋重合体(1)の投入と同時に別ラインから脱イオン水を48[g/min]で添加し、続いて、上記粒子状含水ゲル状架橋重合体(1)を、目開き300μm(50メッシュ)の金網上に広げ、180℃で35分間熱風乾燥を行い、次いで、ロールミルを用いて粉砕を行い、その後、目開き850μmのJIS標準篩を用いて分級し、不定形破砕状の吸水性樹脂粉末(A)を得、得られた吸水性樹脂粉末(A)について、更に目開き150μmのJIS標準篩を用いて分級し、粒子径が150μm以上850μm未満の吸水性樹脂粉末(A1)と、粒子径が150μm未満の吸水性樹脂粉末(A2)をそれぞれ得、得られた吸水性樹脂粉末(A2)210gと結晶性セルロース(製品名セオラスTG−101/旭化成製)90gとの混合物を、容量5Lのモルタルミキサー(西日本試験機製作所製)に投入した後、当該モルタルミキサーの攪拌羽根を高速回転(60Hz/100V)させながら、90℃に加熱した熱水300gを一気に添加し、熱水の添加後、高速攪拌を3分間継続して、粒子径が1〜5mmであるゲル状の粒子状凝集物(10)を得、続いて、得られた粒子状凝集物(10)を目開き300μm(50メッシュ)の金網上に拡げて載せ、熱風循環式乾燥機を用いて、150℃で30分間乾燥を行い、吸水性樹脂造粒物(10)を得、得られた吸水性樹脂造粒物(10)について、粉砕、分級操作を行うことで、粒子径が150μm以上850μm未満であって、CRC21.2g/g、AAP18.3g/g、吸水速度(a)12秒、吸水速度(b)98秒の粒子状吸水剤(10)。」 (2)本件特許発明10について 本件特許発明10と甲10実施例10発明とを対比する。 甲10実施例10発明の「アクリル酸」、「ポリエチレングリコールジアクリレート」、「含水ゲル状架橋重合体(1)」は、それぞれ、本件特許発明10の「水溶性エチレン系不飽和単量体」、「内部架橋剤」、「架橋重合体」に相当する。 また、甲10実施例10発明の「粒子状吸水剤(10)」は、本件特許発明10の「ベース樹脂粒子」及び「高吸水性樹脂」に相当する。 そうすると、本件特許発明10と甲10実施例10発明は、次の点で一致する。 <一致点> 「水溶性エチレン系不飽和単量体が内部架橋剤の存在下に架橋重合された架橋重合体、ならびにベース樹脂粒子からなる高吸水性樹脂。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点10−1> ベース樹脂粒子に関し、本件特許発明10は、「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含む」と特定するのに対し、甲10実施例10発明は、粒子状吸収剤(10)(ベース樹脂粒子)は「結晶性セルロース(製品名セオラスTG−101/旭化成製)」を配合するものである点 <相違点10−2> 高吸水性樹脂に関し、本件特許発明10は、「前記ベース樹脂粒子の表面に形成されており、前記架橋重合体が表面架橋剤を媒介に追加架橋された表面架橋層」を有すると特定するのに対し、甲10実施例10発明はそのような特定はない点 <相違点10−3> 高吸水性樹脂に関し、本件特許発明10は、「EDANA法WSP 241.3に従い測定した遠心分離保持能(CRC)が30〜35g/gであり、EDANA法WSP 242.3に従い測定した0.3psiの加圧吸収能(AUL)が25〜30g/gであり、吸収速度(vortex time)が20秒〜50秒である」と特定するのに対し、甲10実施例10発明は、「CRC21.2g/g、AAP18.3g/g、吸水速度(a)12秒、吸水速度(b)98秒」である点 相違点10−1について検討する。 まず、新規性について検討する。 甲10実施例10発明において用いられている「結晶性セルロース(製品名セオラスTG−101/旭化成製)」は、甲10の段落【0046】ないし【0055】の記載からみて、カルボキシル基と反応しうる官能基を有する、高分子粉末又は無機粉末から選ばれる、室温において微粒子状の化合物である反応性粒子として用いられているものであり、本件特許発明10の「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」とは異なるものであるから、相違点10−1は実質的な相違点である。 そうすると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲10実施例10発明、すなわち、甲10に記載された発明ということはできない。 次いで、進歩性について検討する。 甲10実施例10発明において用いられている「結晶性セルロース(製品名セオラスTG−101/旭化成製)」は、上述のように反応性粒子として用いられているものであるから、これを、フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維とする動機はないし、申立人の提示したその他の証拠を見ても、甲10実施例10発明に、「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」を配合する積極的な動機付けとなるものはない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲10実施例10発明、すなわち、甲10に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明11について 本件特許発明11は、請求項10を直接引用して特定するものであって、請求項10に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明10と同様に、甲10に記載された発明でないし、甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由1及び申立理由2−4は、理由がない。 2 申立理由2−1(甲1に基づく進歩性)について (1)甲1に記載された発明 甲1の特許請求の範囲の請求項1、請求項3、請求項4、2ページ左上欄7行〜15行、同右上欄5〜14行、同左下欄5〜11行、同右下欄12〜18行、同右下欄19行〜3ページ左上欄2行、同左上欄4行〜11行、同左上欄19行〜右上欄4行、同右上欄7行〜左下欄6行、同左下欄13〜15行、同左下欄16行〜右下欄6行、同右下欄13行〜20行、4ページ右下欄9行〜5ページ左上欄8行、同左上欄9行〜17行、7ページ表1及び第1図の記載から、実施例3として記載されている吸液性複合体の製造方法(以下、「甲1実施例3製法発明」)及びその吸液性複合体(以下、「甲1実施例3発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1実施例3製法発明> 「フラスコにアクリル酸30gを入れ、モノマー水溶液中のモノマー濃度は45重量%となるように、水39gに苛性ソーダ13.4gを溶解した水溶液で中和し、次いで、過硫酸ナトリウム150mgとメチレンビスアクリルアミド50mgを加え均一に溶解させ、このモノマー水溶液をステンレス製バットに仕込み、窒素雰囲気下において、80℃、30分重合し、含水した吸液性ポリマー(B)を得、含水した吸液性ポリマー(B)66.6g(吸液性ポリマー重量30g)と水200g及び粉砕パルプ10gとをスクリュー回転式混合機を用い約1時間混練後、100℃、8時間減圧乾燥機にて乾燥し、更に回転羽根式粉砕機にて粉砕することにより、パルプ繊維の約40%が吸液性ポリマーを貫通し、且つポリマーから繊維が外に出ている形状の吸液性複合体であって、複合体組成が吸液性ポリマー75wt%対パルプ繊維25wt%となるものである、吸液性複合体の製造方法。」 <甲1実施例3発明> 「フラスコにアクリル酸30gを入れ、モノマー水溶液中のモノマー濃度は45重量%となるように、水39gに苛性ソーダ13.4gを溶解した水溶液で中和し、次いで、過硫酸ナトリウム150mgとメチレンビスアクリルアミド50mgを加え均一に溶解させ、このモノマー水溶液をステンレス製バットに仕込み、窒素雰囲気下において、80℃、30分重合し、含水した吸液性ポリマー(B)を得、含水した吸液性ポリマー(B)66.6g(吸液性ポリマー重量30g)と水200g及び粉砕パルプ10gとをスクリュー回転式混合機を用い約1時間混練後、100℃、8時間減圧乾燥機にて乾燥し、更に回転羽根式粉砕機にて粉砕することにより、パルプ繊維の約40%が吸液性ポリマーを貫通し、且つポリマーから繊維が外に出ている形状の吸液性複合体であって、複合体組成が吸液性ポリマー75wt%対パルプ繊維25wt%となるものである、吸液性複合体。」 (2)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1実施例3製法発明とを対比する。 甲1実施例3製法発明の「アクリル酸」、「過硫酸ナトリウム」、「メチレンビスアクリルアミド」、「吸液性複合体」は、それぞれ、本件特許発明1の「水溶性エチレン系不飽和単量体」、「重合開始剤」、「内部架橋剤」、「高吸水性樹脂」に相当するから、甲1実施例3製法発明の「フラスコにアクリル酸30gを入れ、モノマー水溶液中のモノマー濃度は45重量%となるように、水39gに苛性ソーダ13.4gを溶解した水溶液で中和し、次いで、過硫酸ナトリウム150mgとメチレンビスアクリルアミド50mgを加え均一に溶解させ」ている段階は、本件特許発明1における「a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階」に相当する。 甲1実施例3製法発明の「含水した吸液性ポリマー(B)」は、本件特許発明1の「含水ゲル状重合体」に相当するから、甲1実施例3製法発明の「このモノマー水溶液をステンレス製バットに仕込み、窒素雰囲気下において、80℃、30分重合し、含水した吸液性ポリマー(B)を得」る段階は、本件特許発明1の「b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階」に相当する。 甲1実施例3製法発明の「粉砕パルプ」は、本件特許発明1の「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」における「パルプの繊維」の限りで相当するから、甲1実施例3製法発明の「含水した吸液性ポリマー(B)66.6g(吸液性ポリマー重量30g)と水200g及び粉砕パルプ10gとをスクリュー回転式混合機を用い約1時間混練」する段階は、本件特許発明1の「d)含水ゲル状重合体にパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階」の限りで相当するとともに、「e)前記混合物を細かくする段階」にも相当する。 甲1実施例3製法発明において上記の混練した後の「100℃、8時間減圧乾燥機にて乾燥」する段階は、本件特許発明1の「f)前記混合物を乾燥する段階」に相当する。 また、その後の甲1実施例3製法発明の「更に回転羽根式粉砕機にて粉砕する」段階は、本件特許発明1の「g)前記混合物を粉砕する段階」に相当する。 さらに、甲1実施例3製法発明における「含水した吸液性ポリマー(B)66.6g(吸液性ポリマー重量30g)と水200g及び粉砕パルプ10gとをスクリュー回転式混合機を用い約1時間混練」する段階は、本件特許発明1の「d)」の段階に相当しているから、甲1実施例3製法発明においても、本件特許発明1と同様に「前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体に対して水をさらに添加」しているといえる。 そうすると、本件特許発明1と甲1実施例3製法発明は次の点で一致する。 <一致点> 「a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階; b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階; d)前記含水ゲル状重合体にパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階; e)前記混合物を細かくする段階; f)前記混合物を乾燥する段階;および g)前記混合物を粉砕する段階を含み、 前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体に水をさらに添加する、 高吸水性樹脂の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−1> 製造工程において、本件特許発明1は、「c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階」を有するのに対し、甲1実施例3製法発明は、この点を特定しない点 <相違点1−2> 前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体に水をさらに添加する水の量に関し、本件特許発明1は、「含水ゲル状重合体100重量部に対して1〜20重量部」と特定するのに対し、甲1実施例3製法発明は、含水した吸液性ポリマー(B)66.6g(吸液性ポリマー重量30g)に水200gである点 <相違点1−3> 添加する繊維に関して、本件発明1は、「フラップパルプ」と特定するのに対し、甲1実施例3製法発明は「粉砕パルプ」である点 相違点1−1について検討する。 甲1実施例3製法発明において、繊維を混練する前に「c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階」を有するものとする動機はなく、そのことを提示する証拠もない。 そして、当該工程を有することにより、本件特許発明1は、「表面に吸収能に優れた繊維が吸着しており、従来の高吸水性樹脂と比較して改善した吸収速度を示す」という格別の効果を奏するものである。 そうすると、甲1実施例3製法発明において、相違点1−1に係る発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例3製法発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし9について 本件特許発明2ないし9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1実施例3製法発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (4)本件特許発明10について 本件特許発明10と甲1実施例3発明とを対比する。 上記(2)で検討したとおりの相当関係が成り立つ。 甲1実施例3発明の「吸液性複合体」は、本件特許発明10の「ベース樹脂粒子」であって、「高吸水性樹脂」に相当している。 また、甲1実施例3発明の「吸液性複合体」は、甲1の図1からみて、本件特許発明10の「繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されている」といえる。 そうすると、本件特許発明10と甲1実施例3発明は、次の点で一致する。 <一致点> 「水溶性エチレン系不飽和単量体が内部架橋剤の存在下に架橋重合された架橋重合体、ならびにパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含むベース樹脂粒子 を含む高吸水性樹脂であって、 前記繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されている、 高吸水性樹脂。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−4> 添加する繊維に関して、本件発明10は、「フラップパルプ」と特定するのに対し、甲1実施例3発明は「粉砕パルプ」である点 <相違点1−5> 高吸水性樹脂に関し、本件特許発明10は、「前記ベース樹脂粒子の表面に形成されており、前記架橋重合体が表面架橋剤を媒介に追加架橋された表面架橋層」を有すると共に、「EDANA法WSP 241.3に従い測定した遠心分離保持能(CRC)が30〜35g/gであり、EDANA法WSP 242.3に従い測定した0.3psiの加圧吸収能(AUL)が25〜30g/gであり、吸収速度(vortex time)が20秒〜50秒である」と特定するのに対し、甲1実施例3発明はそのような特定はない点 事案に鑑み、相違点1−5について検討する。 ベースとなる樹脂粒子に表面架橋を行うことは周知技術であって容易になし得るといえるとしても、表面架橋によって吸水性樹脂のCRCは向上するが逆にAULは低下する傾向にあるものであり、吸収速度(vortex time)がどのように変化するかも不明で、具体的な表面処理により、それぞれの特性がどのように変化をするか明らかではないものである。 そうすると、たとえ、CRC及びAULの好適範囲としてそれぞれの数値範囲を包含する範囲が知られていたとしても、甲1実施例3発明において、表面架橋を行ってこの特定の範囲とすることを当業者が容易になし得たということはできない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲1実施例3発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件特許発明11について 本件特許発明11は、請求項10を直接引用して特定するものであって、請求項10に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明10と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (6)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由2−1は、理由がない。 3 申立理由2−2(甲12に基づく進歩性)について (1)甲12に記載された発明 甲12の特許請求の範囲、2ページ左上欄7〜16行、同左上欄17行〜右上欄1行、同右上欄8〜17行、同左下欄13行〜19行、同左下欄20行〜右下欄5行、同右下欄8〜14行、3ページ左上欄6行〜右上欄9行、同右上欄16〜19行、同右下欄9行〜4ページ左上欄17行、同右上欄10行〜左下欄6行、同左下欄15〜18行の記載から、実施例1として記載されている吸収材[A]の製造方法として記載されている発明(以下、「甲12実施例1製法発明」という。)及び当該吸収材[A]として記載されている発明(以下、「甲12実施例1発明」という。)として、以下の発明が記載されていると認める。 <甲12実施例1製法発明> 「40部のトウモロコシデンプンおよび600部の水を、攪拌棒、窒素吹き込み管および温度計を備え付けた反応容器に仕込み、80℃で1時間攪拌後30℃に冷却し、更に60部のアクリル酸、架橋剤として0.1部のメチレンビスアクリルアミドおよび重合触媒として0.2部の30%過酸化水素水、0.1部のL−アスコルビン酸を添加して3時間重合せしめた反応液に30%苛性ソーダ水溶液70部を添加して中和することにより水ゲル状物を得、この水ゲル状物(吸水性樹脂含量14.5重量%)100gとポリエステルウェブ(繊維長50mm,繊維径4デニール)2.5gとをスクリュー回転式混合機を用いて混練後、ドラムドライ乾燥し、さらに回転羽根式粉砕機で粉砕することにより、ポリエステル繊維の約75%が吸水性樹脂に埋め込まれた吸収材〔A〕を製造する製造方法。」 <甲12実施例1発明> 「40部のトウモロコシデンプンおよび600部の水を、攪拌棒、窒素吹き込み管および温度計を備え付けた反応容器に仕込み、80℃で1時間攪拌後30℃に冷却し、更に60部のアクリル酸、架橋剤として0.1部のメチレンビスアクリルアミドおよび重合触媒として0.2部の30%過酸化水素水、0.1部のL−アスコルビン酸を添加して3時間重合せしめた反応液に30%苛性ソーダ水溶液70部を添加して中和することにより水ゲル状物を得、この水ゲル状物(吸水性樹脂含量14.5重量%)100gとポリエステルウェブ(繊維長50mm,繊維径4デニール)2.5gとをスクリュー回転式混合機を用いて混練後、ドラムドライ乾燥し、さらに回転羽根式粉砕機で粉砕することにより、ポリエステル繊維の約75%が吸水性樹脂に埋め込まれた吸収材〔A〕。」 (2)本件特許発明1について 甲12実施例1製法発明との対比・判断 本件特許発明1と甲12実施例1製法発明とを対比する。 甲12実施例1製法発明の「アクリル酸」、「30%過酸化水素水」、「メチレンビスアクリルアミド」、「吸収材〔A〕」は、それぞれ、本件特許発明1の「水溶性エチレン系不飽和単量体」、「重合開始剤」、「内部架橋剤」、「高吸水性樹脂」に相当するから、甲12実施例1製法発明の「40部のトウモロコシデンプンおよび600部の水を、攪拌棒、窒素吹き込み管および温度計を備え付けた反応容器に仕込み、80℃で1時間攪拌後30℃に冷却し、更に60部のアクリル酸、架橋剤として0.1部のメチレンビスアクリルアミドおよび重合触媒として0.2部の30%過酸化水素水、0.1部のL−アスコルビン酸を添加して」いる段階は、本件特許発明1における「a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階」に相当する。 甲12実施例1製法発明の「水ゲル状物」は、本件特許発明1の「含水ゲル状重合体」に相当するから、甲12実施例1製法発明の「3時間重合せしめた反応液に30%苛性ソーダ水溶液70部を添加して中和することにより水ゲル状物を得」る段階は、本件特許発明1の「b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階」に相当する。 甲12実施例1製法発明の「ポリエステルウェブ(繊維長50mm,繊維径4デニール)」は、本件特許発明1の「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」における「合成高分子繊維」に相当するから、甲12実施例1製法発明の「この水ゲル状物(吸水性樹脂含量14.5重量%)100gとポリエステルウェブ(繊維長50mm,繊維径4デニール)2.5gとをスクリュー回転式混合機を用いて混練」する段階は、本件特許発明1の「d)含水ゲル状重合体にフラップパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階」に相当するとともに、「e)前記混合物を細かくする段階」にも相当する。 甲12実施例1製法発明において上記の混練した後の「ドラムドライ乾燥」する段階は、本件特許発明1の「f)前記混合物を乾燥する段階」に相当する。 また、その後の甲12実施例1製法発明の「回転羽根式粉砕機で粉砕する」段階は、本件特許発明1の「g)前記混合物を粉砕する段階」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲12実施例1製法発明は次の点で一致する。 <一致点> 「a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階; b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階; d)前記含水ゲル状重合体にパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階; e)前記混合物を細かくする段階; f)前記混合物を乾燥する段階;および g)前記混合物を粉砕する段階を含む、 高吸水性樹脂の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点12−1> 製造工程において、本件特許発明1は、「c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階」を有するのに対し、甲12実施例1製法発明は、この点を特定しない点 <相違点12−2> 製造工程において、本件特許発明1は、「前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体100重量部に対して水をさらに1〜20重量部添加する」と特定するのに対し、甲12実施例1製法発明は、この点を特定しない点 相違点12−1について検討する。 甲12実施例1製法発明は、甲1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例として記載されている発明であり、「水を吸収して膨潤した水不溶性吸収性樹脂と疎水性繊維ウェブとの混合物を混練」(特許請求の範囲の6.)するものである。 そうすると、甲12実施例1製法発明における膨潤した「水ゲル状物」(本件特許発明1の「含水ゲル状重合体」)を細かくする段階を有するものとする動機はなく、そのことを提示する証拠もない。 そして、当該工程を有することにより、本件特許発明1は、「表面に吸収能に優れた繊維が吸着しており、従来の高吸水性樹脂と比較して改善した吸収速度を示す」という格別の効果を奏するものである。 以上のことから、甲12実施例1製法発明において、相違点12−1である当該水ゲル状物を粉砕することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲12実施例1製法発明、すなわち、甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし9について 本件特許発明2ないし9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (4)本件特許発明10について 本件特許発明10と甲12実施例1発明とを対比する。 上記(2)で検討したとおりの相当関係が成り立つ。 甲12実施例1発明の「吸収剤〔A〕」は、本件特許発明1の「ベース樹脂粒子」であって、「高吸水性樹脂」に相当している。 また、甲12実施例1発明の「吸収剤〔A〕」は、甲1の特許請求の範囲の記載からみて、本件特許発明10の「繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されている」といえる。 そうすると、本件特許発明10と甲12実施例1発明は、次の点で一致する。 <一致点> 「水溶性エチレン系不飽和単量体が内部架橋剤の存在下に架橋重合された架橋重合体、ならびにフラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含むベース樹脂粒子 を含む高吸水性樹脂であって、 前記繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されている、 高吸水性樹脂。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点12−3> 高吸水性樹脂に関し、本件特許発明10は、「前記ベース樹脂粒子の表面に形成されており、前記架橋重合体が表面架橋剤を媒介に追加架橋された表面架橋層」を有すると共に「EDANA法WSP 241.3に従い測定した遠心分離保持能(CRC)が30〜35g/gであり、EDANA法WSP 242.3に従い測定した0.3psiの加圧吸収能(AUL)が25〜30g/gであり、吸収速度(vortex time)が20秒〜50秒である」と特定するのに対し、甲12実施例1発明はそのような特定はない点 相違点12−3について検討する。 上記2(4)における相違点1−4の判断と同様であって、甲12実施例1発明において、相違点12−3の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得たということはできない。 よって、本件特許発明10は、甲12実施例1発明、すなわち、甲1に記載された発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件特許発明11について 本件特許発明11は、請求項10を直接引用して特定するものであって、請求項10に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明10と同様に、甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (6)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由2−2は、理由がない。 4 取消理由2−3(甲6に基づく進歩性)について (1)甲6に記載された発明 甲6の[0346]〜[0362]の記載から、実施例1として記載されている吸収性樹脂粉末(1)の製造方法として記載されている発明(以下、「甲6実施例1製法発明」という。)及び当該吸収性樹脂粉末(1)として記載されている発明(以下、「甲6実施例1発明」という。)として、以下の発明が記載されていると認める。 <甲6実施例1製法発明> 「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂粉末の製造装置として、重合工程、ゲル粉砕工程、乾燥工程、粉砕工程、分級工程、表面架橋工程、冷却工程、整粒工程、及び各工程間を連結する輸送工程から構成される連続製造装置を用意し、先ず、アクリル酸193.3重量部、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液64.4重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数:9)1.26重量部、0.1重量%のエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液52重量部及び脱イオン水134重量部からなる単量体水溶液(a)を調製し、次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(a)を定量ポンプで送液しながら、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液97.1重量部を連続的に供給し、ラインミキシングで混合し、混合液(a)とし、更に、4重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.05重量部を連続的に上記混合液(a)にラインミキシングで混合した後、両端に堰を備えた平面状の重合ベルトを有する連続重合装置に、厚さが約7.5mmとなるように連続的に供給し、その後、重合(重合時間:3分間)が連続的に行われ、帯状の含水ゲル状架橋重合体(a)を得、引き続いて、帯状の含水ゲル状架橋重合体(a)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が約300mmとなるように等間隔に連続して切断し、切断された含水ゲル状架橋重合体(以下、「切断含水ゲル」と称する)(a)を得、この切断含水ゲル(a)を、先端部に直径100mm、孔径8mm、孔数54個及び厚さ10mmの多孔板が備えられたゲル粉砕装置(国際公開第2015/030129号に記載されたスクリューNo.S86−445及びバレルNo.B88−478を組み合わせた装置)に供給し、ゲル粉砕を行い、また、同時に、90℃のシリカ分散溶液を1.23g/秒で上記ゲル粉砕装置に投入し、粒子状含水ゲル(1)を得、この粒子状含水ゲル(1)を、ゲル粉砕の終了後1分以内に、乾燥機に配置された通気板上に散布し、その後、185℃の熱風を30分間通気させることで粒子状含水ゲル(1)を乾燥させ、乾燥重合体(1)を得、次に、温度が約60℃の上記乾燥重合体(1)全量を、ロールミルを用いて粉砕(粉砕工程)し、続いて、目開き710μmと175μmのJIS標準篩(JIS Z8801−1(2000))を用いて分級(分級工程)することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粉末(B1)を得、次に、炭酸エチレン0.3重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる共有結合性表面架橋剤溶液3.9重量部を、上記吸水性樹脂粉末(B1)100重量部に添加して、均一となるまで混合し、加湿物(1)とし、この加湿物(1)を208℃で約40分間、加熱処理し、吸水性樹脂粉末(P1)を得、その後、上記吸水性樹脂粉末(P1)を冷却し、27.5重量%の硫酸アルミニウム水溶液(酸化アルミニウム換算で8重量%)1.17重量部、60重量%の乳酸ナトリウム水溶液0.196重量部及びプロピレングリコール0.029重量部からなるイオン結合性表面架橋剤溶液を該吸水性樹脂粉末(P1)に添加して、均一となるまで混合し、結果物(1)とし、その後、上記結果物(1)を、目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕(整粒工程)して得られた、CRC27.1g/g、AAP23.9g/g、SFC146、Vortex28秒の吸水性樹脂粉末(1)の製造方法。」 <甲6実施例1発明> 「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂粉末の製造装置として、重合工程、ゲル粉砕工程、乾燥工程、粉砕工程、分級工程、表面架橋工程、冷却工程、整粒工程、及び各工程間を連結する輸送工程から構成される連続製造装置を用意し、先ず、アクリル酸193.3重量部、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液64.4重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数:9)1.26重量部、0.1重量%のエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液52重量部及び脱イオン水134重量部からなる単量体水溶液(a)を調製し、次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(a)を定量ポンプで送液しながら、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液97.1重量部を連続的に供給し、ラインミキシングで混合し、混合液(a)とし、更に、4重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.05重量部を連続的に上記混合液(a)にラインミキシングで混合した後、両端に堰を備えた平面状の重合ベルトを有する連続重合装置に、厚さが約7.5mmとなるように連続的に供給し、その後、重合(重合時間:3分間)が連続的に行われ、帯状の含水ゲル状架橋重合体(a)を得、引き続いて、帯状の含水ゲル状架橋重合体(a)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が約300mmとなるように等間隔に連続して切断し、切断された含水ゲル状架橋重合体(以下、「切断含水ゲル」と称する)(a)を得、この切断含水ゲル(a)を、先端部に直径100mm、孔径8mm、孔数54個及び厚さ10mmの多孔板が備えられたゲル粉砕装置(国際公開第2015/030129号に記載されたスクリューNo.S86−445及びバレルNo.B88−478を組み合わせた装置)に供給し、ゲル粉砕を行い、また、同時に、90℃のシリカ分散溶液を1.23g/秒で上記ゲル粉砕装置に投入し、粒子状含水ゲル(1)を得、この粒子状含水ゲル(1)を、ゲル粉砕の終了後1分以内に、乾燥機に配置された通気板上に散布し、その後、185℃の熱風を30分間通気させることで粒子状含水ゲル(1)を乾燥させ、乾燥重合体(1)を得、次に、温度が約60℃の上記乾燥重合体(1)全量を、ロールミルを用いて粉砕(粉砕工程)し、続いて、目開き710μmと175μmのJIS標準篩(JIS Z8801−1(2000))を用いて分級(分級工程)することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粉末(B1)を得、次に、炭酸エチレン0.3重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる共有結合性表面架橋剤溶液3.9重量部を、上記吸水性樹脂粉末(B1)100重量部に添加して、均一となるまで混合し、加湿物(1)とし、この加湿物(1)を208℃で約40分間、加熱処理し、吸水性樹脂粉末(P1)を得、その後、上記吸水性樹脂粉末(P1)を冷却し、27.5重量%の硫酸アルミニウム水溶液(酸化アルミニウム換算で8重量%)1.17重量部、60重量%の乳酸ナトリウム水溶液0.196重量部及びプロピレングリコール0.029重量部からなるイオン結合性表面架橋剤溶液を該吸水性樹脂粉末(P1)に添加して、均一となるまで混合し、結果物(1)とし、その後、上記結果物(1)を、目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕(整粒工程)して得られた、CRC27.1g/g、AAP23.9g/g、SFC146、Vortex28秒の吸水性樹脂粉末(1)。」 (2)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲6実施例1製法発明とを対比する。 甲6実施例1製法発明の「アクリル酸」、「過硫酸ナトリウム」、「ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数:9)」、「吸水性樹脂粉末(1)」は、それぞれ、本件特許発明1の「水溶性エチレン系不飽和単量体」、「重合開始剤」、「内部架橋剤」、「高吸水性樹脂」に相当するから、甲6実施例1製法発明の「アクリル酸193.3重量部、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液64.4重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数:9)1.26重量部、0.1重量%のエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液52重量部及び脱イオン水134重量部からなる単量体水溶液(a)を調製し、次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(a)を定量ポンプで送液しながら、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液97.1重量部を連続的に供給し、ラインミキシングで混合し、混合液(a)とし、更に、4重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.05重量部を連続的に上記混合液(a)にラインミキシングで混合し」ている段階は、本件特許発明1における「a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階」に相当する。 甲6実施例1製法発明の「含水ゲル状架橋重合体(a)」は、本件特許発明1の「含水ゲル状重合体」に相当するから、甲6実施例1製法発明の「その後、重合(重合時間:3分間)が連続的に行われ、帯状の含水ゲル状架橋重合体(a)を得」る段階は、本件特許発明1の「b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階」に相当する。 甲6実施例1製法発明の「引き続いて、帯状の含水ゲル状架橋重合体(a)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が約300mmとなるように等間隔に連続して切断し、切断された含水ゲル状架橋重合体(以下、「切断含水ゲル」と称する)(a)を得、この切断含水ゲル(a)を、先端部に直径100mm、孔径8mm、孔数54個及び厚さ10mmの多孔板が備えられたゲル粉砕装置(国際公開第2015/030129号に記載されたスクリューNo.S86−445及びバレルNo.B88−478を組み合わせた装置)に供給し、ゲル粉砕を行」う段階は、本件特許発明1の「c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階」に相当する。 甲6実施例1製法発明の「粒子状含水ゲル(1)」は、本件特許発明1の「混合物」に相当するので、甲6実施例1製法発明の「この粒子状含水ゲル(1)を、ゲル粉砕の終了後1分以内に、乾燥機に配置された通気板上に散布し、その後、185℃の熱風を30分間通気させることで粒子状含水ゲル(1)を乾燥させ、乾燥重合体(1)を得、次に、温度が約60℃の上記乾燥重合体(1)全量を、ロールミルを用いて粉砕(粉砕工程)し、続いて、目開き710μmと175μmのJIS標準篩(JIS Z8801−1(2000))を用いて分級(分級工程)することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粉末(B1)を得」る段階は、本件特許発明1の「e)前記混合物を細かくする段階」、「f)前記混合物を乾燥する段階」及び「g)前記混合物を粉砕する段階」に相当する。 さらに、甲6実施例1製法発明における「また、同時に、90℃のシリカ分散溶液を1.23g/秒で上記ゲル粉砕装置に投入」する段階は、本件特許発明1の「c)」の段階に相当しているから、甲6実施例1製法発明においても、本件特許発明1と同様に「前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体に対して水をさらに添加」しているといえる。 そうすると、本件特許発明1と甲6実施例1製法発明は次の点で一致する。 <一致点> 「a)水溶性エチレン系不飽和単量体、内部架橋剤、および重合開始剤を混合してモノマー組成物を製造する段階; b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階; c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階; d)混合物を形成する段階; e)前記混合物を細かくする段階; f)前記混合物を乾燥する段階;および g)前記混合物を粉砕する段階を含み、 前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体に水をさらに添加する、 高吸水性樹脂の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点6−1> 製造工程において、本件特許発明1は、「d)前記細かくした含水ゲル状重合体にフラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階」を有するのに対し、甲6実施例1製法発明は、この点を特定しない点 <相違点6−2> 前記c)ないしe)段階のうち1以上の段階で、含水ゲル状重合体に水をさらに添加する水の量に関し、本件特許発明1は、「含水ゲル状重合体100重量部に対して1〜20重量部」と特定するのに対し、甲6実施例1製法発明は、「90℃のシリカ分散溶液を1.23g/秒で上記ゲル粉砕装置に投入」するものである点 相違点6−1について検討する。 甲6実施例1製法発明において、含水ゲル状架橋重合体をゲル粉砕した後に加えられている「シリカ分散液」は、甲6の[0102]ないし[0116]の記載から、無機微粒子としての「シリカ」を分散させた水溶液であり、当該無機微粒子は、「粒子内部に無機微粒子が含まれることにより、吸水性樹脂粉末の膨潤時のゲルの崩壊による微粒ゲルの発生を抑制する」(段落[0102])ためのものであり、具体例として「鉱産物、多価金属塩、多価金属酸化物、多価金属水酸化物、酸化物複合体、ハイドロタルサイト様化合物、またはこれらの2種以上の組み合わせをあげることができる」(段落[0108])とされているものである。 そうすると、当該「シリカ」を「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」とする動機はない。 また、甲6実施例1製法発明において、甲6には「(添加剤の使用)上述したように、含水ゲル状架橋重合体に水を添加してゲル粉砕するのが好ましいが、水以外に他の添加剤、中和剤等含水ゲル状橋重合体に添加・混練してゲル粉砕することもでき」(段落[0174])と記載されているが、「パルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」については記載されておらず、その他の工程として記載されている「(造粒工程等)」の説明において加えることができる添加剤の一例として「目的に応じて、酸化剤、酸化防止剤、水、多価金属化合物、シリカや金属石鹸等の水不溶性無機又は有機粉末、消臭剤、抗菌剤、高分子ポリアミン、パルプや熱可塑性繊維等を吸水性樹脂中に3重量%以下、好ましくは1重量%以下、添加してもよい。」(段落[0219])]との記載があるのみであり、甲6実施例1製法発明の細かくされた含水ゲル状架橋重合体に「パルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」を配合する動機がない。 甲1及び甲6には、含水ゲル状架橋重合体に「パルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」を混合する点についての記載はあるが、当該甲1及び甲5の含水ゲル状架橋重合体は粉砕されたもの、すなわち、細かくした含水ゲル状架橋重合体と繊維を混合するものではない。 そして、当該工程を有することにより、本件特許発明1は、「表面に吸収能に優れた繊維が吸着しており、従来の高吸水性樹脂と比較して改善した吸収速度を示す」という格別の効果を奏するものである。 そうすると、甲6実施例1製法発明において、相違点6−1に係る発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6実施例1製法発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし9について 本件特許発明2ないし9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (4)本件特許発明10について 本件特許発明10と甲6実施例1発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係がなりたつ。 甲6実施例1発明の「吸水性樹脂粉末(B1)」、「吸水性樹脂粉末(1)」は、それぞれ、本件特許発明10の「ベース樹脂粒子」、「高吸水性樹脂」に相当する。 甲6実施例1発明は、「吸水性樹脂粉末(B1)」に「炭酸エチレン0.3重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる共有結合性表面架橋剤溶液3.9重量部を、上記吸水性樹脂粉末(B1)100重量部に添加して、均一となるまで混合し、加湿物(1)とし、この加湿物(1)を208℃で約40分間、加熱処理し」ていることから、本件特許発明10の「前記ベース樹脂粒子の表面に形成されており、前記架橋重合体が表面架橋剤を媒介に追加架橋された表面架橋層」を有しているといえる。 そうすると、本件特許発明10と甲6実施例1発明は、次の点で一致する。 <一致点> 「水溶性エチレン系不飽和単量体が内部架橋剤の存在下に架橋重合された架橋重合体、ならびにベース樹脂粒子;および、前記ベース樹脂粒子の表面に形成されており、前記架橋重合体が表面架橋剤を媒介に追加架橋された表面架橋層を含む、 高吸水性樹脂。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点6−3> ベース樹脂粒子に関し、本件特許発明10は「フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含む」と特定するとともに「前記繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されており」と特定されているのに対し、甲6実施例1発明は、この点を特定しない点 <相違点6−4> 高吸水性樹脂に関し、本件特許発明10は、「EDANA法WSP 241.3に従い測定した遠心分離保持能(CRC)が30〜35g/gであり、EDANA法WSP 242.3に従い測定した0.3psiの加圧吸収能(AUL)が25〜30g/gであり、吸収速度(vortex time)が20秒〜50秒である」と特定されているのに対し、甲6実施例1発明は、「CRC27.1g/g、AAP23.9g/g、Vortex28秒」である点 相違点6−3について検討する。 甲6実施例1発明において用いられている「シリカ」は、上記(2)の相違点6−1において検討したように、粒子内部に無機微粒子が含まれることにより、吸水性樹脂粉末の膨潤時のゲルの崩壊による微粒ゲルの発生を抑制するために用いられているものであるから、これを、フラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維とする動機はない。 また、甲6実施例1発明の「吸水性樹脂粉末(B1)」(ベース樹脂粒子)において、甲6には「(添加剤の使用)上述したように、含水ゲル状架橋重合体に水を添加してゲル粉砕するのが好ましいが、水以外に他の添加剤、中和剤等含水ゲル状橋重合体に添加・混練してゲル粉砕することもでき」(段落[0174])と記載されているが、「パルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」については記載されておらず、その他の工程として記載されている「(造粒工程等)」の説明において加えることができる添加剤の一例として「目的に応じて、酸化剤、酸化防止剤、水、多価金属化合物、シリカや金属石鹸等の水不溶性無機又は有機粉末、消臭剤、抗菌剤、高分子ポリアミン、パルプや熱可塑性繊維等を吸水性樹脂中に3重量%以下、好ましくは1重量%以下、添加してもよい。」(段落[0219])]との記載があるのみであり、甲6実施例1発明の「吸水性樹脂粉末(B1)」(ベース樹脂粒子)に「パルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維」を配合する動機がない。 そうすると、甲6実施例1発明において、相違点6−3に係る発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲6実施例1発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件特許発明11について 本件特許発明11は、請求項10を直接引用して特定するものであって、請求項10に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明10と同様に、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。 (6)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由2−3は、理由がない。 5 申立理由2(サポート要件)について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)の【0006】の記載からみて、本件特許発明は、「保持能(CRC)のような基本的な吸収性能に優れ、かつ改善した初期吸収速度を示す高吸水性樹脂」及びその高吸水性樹脂の「製造方法を提供」を発明の課題とするものである。そして、詳細な説明の【0007】、【0020】、【0027】ないし【0028】及び実施例の記載からは、高吸水性樹脂の製造方法において、「b)前記モノマー組成物を重合して含水ゲル状重合体を製造する段階;c)前記含水ゲル状重合体を細かくする段階;d)前記細かくした含水ゲル状重合体にフラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を添加して混合して混合物を製造する段階」を含む製造方法とすることで、あるいは、「高吸水性樹脂粒子;およびフラッフパルプおよび合成高分子繊維のうち1種以上の繊維を含み、前記繊維の少なくとも一部は、前記高吸水性樹脂粒子の内部を貫いて混入されている、高吸水性樹脂組成物」であることで、従来の遠心分離保持能など基本的な吸収性能に優れながらも改善した吸収速度を示す高品質の高吸水性樹脂を提供できることが理解できる。 そして、本件特許発明1及び本件特許発明10は、上記の特定事項を満たすものであるから、本件特許発明1ないし11は、発明の課題を解決するものであるといえる。 申立人が主張する「繊維量」と「繊維長」の特定がない点、及び、高吸水性樹脂の粒子径の特定がないことは、上記の課題解決手段とは関係がないから、当該主張は採用できない。 よって、申立理由2は、その理由がない。 6 申立理由3(実施可能要件)について 本件特許発明10及び11について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、当業者は過度の試行錯誤を要することなく実施できる。 申立人は、遠心分離保持能(CRC)及び加圧下吸収能(AUL)について、本件特許発明10及び11において、粒度が規定されていないから、例えば、#50のふるいを通過するものばかりであれば、CRC及びAULの測定は不可能であり実施できない旨、また、高吸水性樹脂の粒子径と繊維の長さについて、実施例のものしか実施できない旨、主張する。 しかしながら、CRC及びAULは、高吸水性樹脂自体の特性を示す指標であって、樹脂そのものに依存する数値であり、その粒度の粒子がなければ、粉砕するか造粒して作ってから測定すればいいだけであり、また、本件特許発明10及び11は、「繊維の少なくとも一部は、前記ベース樹脂粒子の内部を貫いて」いるものであるから、申立人の主張は失当であって採用できない。(下線は当審において付与した。) よって、申立理由3は、理由がない。 7 申立理由4(明確性)について 本件特許の特許請求の範囲の請求項4、10及び11の記載は明確である。 申立人は、請求項4の「繊維の幅」をどのように特定するかわからず明確でない旨主張するが、当業者は、技術常識から理解できるから、当該主張は採用できない。 また、申立人は、請求項10の「ベース樹脂粒子の内部を貫いて混入されており」が、実施例で確かめられていない旨主張するが、図1の実施例1のSEM写真で確認されているから、当該主張も採用できない。 さらに、申立人は、請求項11の「請求項10に記載の高吸水性樹脂粒子」とあるが、引用する請求項10には、高吸水性樹脂粒子がなく、明確でない旨主張するが、請求項11の「高吸水性樹脂」が、粒子形状であることは明らかであるから、第3者に不当な不利益を与えるというまでに不明確とはいえないので、当該主張も採用できない。 よって、申立理由4は、理由がない。 第6 結語 上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-01-27 |
出願番号 | P2020-539707 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J) P 1 651・ 537- Y (C08J) P 1 651・ 113- Y (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
磯貝 香苗 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 平塚 政宏 |
登録日 | 2022-03-04 |
登録番号 | 7034535 |
権利者 | エルジー・ケム・リミテッド |
発明の名称 | 高吸水性樹脂およびその製造方法 |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 八田国際特許業務法人 |